側近「え……魔王さまって童貞なんですか?」(85)

側近「えー……引くわー……ぶっちゃけ引くわー」

魔王「そんなコト言われても。生誕して14年、魔王を継ぐための修行ばかりしてたしね」

側近「童貞で許されるのはガイコツ騎士までですよ?」

魔王「その表現はよく分からないけど。ところでさっきから無礼じゃない?」

側近「コホン。これは大変失礼致しました。あまりに衝撃だったもので」

魔王「そんな大事かなぁ? 魔王としての力は先代を上回ってる自信があるんだけど」

側近「まだ年若き身でありながらさすがでございます」
側近「しかし魔王たる者、力だけでは務まりませぬ。やはり相応の威厳というものが―――」

魔王「威厳か……」

側近「ヒマな時は、むちむちの美女を侍らせてフハハと笑っているくらいでありませんと」

魔王「それ威厳っていうか、人間界のゲスな成金親父みたいなイメージの気がするけど」

側近「ともあれ―――そうと分かれば戦を起こす前に、女体修行と参りましょう」
側近「早速魔女や淫魔などを呼び寄せハーレムでも作らせますので、存分に女を味わい尽くし下さい」

魔王「ええっ!? そこまでするの? ちょっと一人選んで経験だけ済ませれば……」

側近「いえ。魔王には魔王に相応しき女遊びというものがありますゆえ」
側近「美女魔族の奉仕を一身に受け、人や神に許されぬ快楽を貪り、ID腹筋で腹を鍛えるのです」


魔王「そうですがなにか」

側近「いや、意外でした。女型の魔族達をはべらかしているものかと」

魔王「お前、馬鹿か。なんでそんな簡単に童貞を捨てなきゃいけないんだよ」

側近「え?」

魔王「そりゃな、童貞を捨てるのは簡単かもしれん。仮にも魔王だからな。命ずれば酒池肉林、欲望を満たす事など余裕だろう」

側近「はあ」

魔王「だがな、童貞だけは捨てられん。無理、絶対無理」

側近「何故ですか? 童貞など、あっても良いことなどありませんよ?」

魔王「理想の女にささげたいんだよ俺は」


魔王「お前達の方がおかしいんだよ。なんなの? 簡単にエッチして。プライド無いのか?」

側近「いえ、プライドがどうとか考えた事もありません」

魔王「あのさ、なんなの? 気持ちよくなりたきゃオナニーでもすればいいじゃん」

側近「それは……いえ、セックスの方が気持ちいいですし」

魔王「いやいやいやー馬鹿か。殺すぞ。なんなの? お前、生涯をささげる女に迷惑だと思わないの?」

側近「は?」

魔王「いつか家庭を持つだろ? そしたらさ、その女に童貞捧げたいだろ」

側近「はあ?」

魔王「そのまま一緒に暮らしたいだろ? そのまま子供作りたいだろ? そのまま一緒に同じ墓に入りたいだろ? つまり、お前等はおかしいんだよ」

側近「あー……はいはいはい、そういうタイプですか魔王様は」


魔王「はあ? なんかムカつくなお前。ここ最近で一番ムカついた。殺すぞ」

側近「も、申し訳ありません。そこまで感情を高ぶらせるとは思っていませんでした」

魔王「いや、そこまで怯えるなよ。ちょっと俺やり過ぎた感出ちゃうじゃん」

側近「申し訳ありません」

魔王「とにかく……じゃあ決めた。アレだ、お前等もうエッチすんな」

側近「え」

魔王「おっしゃ、決めた。そうしよう。性の乱れは魔族の乱れだ」

側近「ま、魔王様! い、いくらなんでもそれは――」

魔王「あ、でもそれじゃあ俺もエッチ出来ねえな。理想の女に出会ったら捧げたいし……うん、じゃあアレな。理想の女とだけ交われだ」

側近「ほ、本気ですか」

魔王「当たり前だろ。殺すぞ。いいや、多分2カ月以内に殺す」

側近「魔王様勘弁して下さい!」


側近「そ、それは魔族全体の士気にも関わります!」

魔王「お前等全員性欲だけで動いてたのかよ。流石に俺泣くぞ」

側近「いや、そういう訳ではありませんが……」

魔王「あーじゃあもういいよ。勝手にズッコンバッコンしてろよ。もういい、俺魔王やめて旅出る」

側近「何故そうなるのですか!」

魔王「理想の女見付けてくる。そしたら帰ってくるから。それまでお前魔王役やってろ。いいな、全力で魔王役やれよ」

側近「わ、私では荷が重すぎます!」


魔王「大丈夫だよ。周りが支えてくれるから。いいな、やれよ。やんなきゃ拷問するからな」

側近「ちょっと魔王様!」

魔王「あ、でも勇者とかが近付いてきてるとかいってたな。それ片付けてから行くか」

側近「勇者ですか? ……ああ、そういえばそういう輩が魔王城近くに野営してるとか」

魔王「俺それ出来る限り残虐な方法で片づけるから、後片付けよろしく。あ、その残骸を人間の王に送れ。俺達がどれだけ危ないか見せ付けろ」

側近「え、魔王様直々に?」

魔王「旅に出る準備運動だよ」ビュン!


 ~魔王城周辺~


魔王「さて、人間共の気配はこの辺りからだが……」



勇者「魔王城は目の前だ……皆、気合いを入れて行こう!」

魔法使い「はい!」

女戦士「おう、任せとけ。特攻は得意分野だ!」

僧侶「女神の加護がある限り、私達は決して屈しません!」


魔王「……」

魔王「……ふ……成程な……」

魔王「成程、ほうほうほう。ほーう。いいね、ちょっと、あ、これはやばい」

魔王「恋した。これが恋か。うわ、やべーよ、ちょっと待って下さい。コレは無理だ。殺せない」ビュン!


魔王「争いがあるから世界は平和にならないんだよ。わかったか側近」ビュン!

側近「え、もう片付けたんですか?」

魔王「いいか、勇者一行を招き入れろ。絶対手を出すな。出したら貴様の金玉潰す」

側近「ど、どうしたんですか魔王様」

魔王「いいから、黙って言う事きけ。頼むからきけ。おら、とっとと勇者一行連れて来い」

側近「こ、ここにですか!?」

魔王「そうだ。うん、丁重にな。頼むから従ってくれ。後で何かあげるから」

側近「か、かしこまりました」テクテク

魔王「走れよ!」

側近「は、はい!」タッタッタ!


側近「……あ、あの。ちょっと頼みごとがありまして……」ゼェゼェ

勇者「え」


魔王「ふ、吹けば消し飛ぶようなか弱き人間共よ。貴様らが勇者一行ですね」

女戦士「最初の方噛んだよな」

僧侶「ダメですよそういう事言っては」

魔法使い「多分アレですよ。鼻で笑った感じなんですよ。よくある見下し方じゃないですか」

勇者「最後敬語口調になってたよね」

魔王「……」ドキドキ

女戦士「斬り掛ったら多分殺せるぞ。やるか?」

勇者「待って。魔王にも何かしらの策がある筈だよ。ここは様子を見よう。でも決して油断はしないでね」

僧侶「はい!」


魔王「側近! ちょっと来てくれ!」

側近「はっ、いかがなされました魔王様」シュン!

魔王「――」ゴニョゴニョ

側近「……は、あの……はあ……え、いや……わかりました」

女戦士(ま、まずい。今の奴の動き、見えなかった)

勇者(こ、これが魔王の右腕の実力……さっきのは演技だったんだ)ゴクリ

側近「えーっと……好きです」

僧侶「!?」

魔法使い「!?」


女戦士(……なんだ? なんだって? 隙です? 隙だらけってか?)

魔王「――」ゴニョゴニュ

側近「あー……余は、惚れた……惚れました」

勇者「……?」

側近「結婚したいです……ましょう。しましょう。結婚しましょう」

僧侶「!?」

魔法使い「ゆ、勇者さん」

勇者「ごめん、流石の僕も意味がちょっと……で、でも油断せず行こう」


魔王「――ああ! もういい、側近邪魔だ!」ドン!

側近「理不尽!」ドテーン

魔王「邪魔、消えろ。どっかいってて」

側近「わ、わかりました」シュン!

魔王「はあ……ったく、もういい。俺が、俺自身の手で道を切り開く。よし、よし、おっけー。緊張して来た」ドキドキ

女戦士「勇者、魔法使い。俺が特攻する。その隙に呪文の詠唱を」ヒソヒソ

勇者「わかった。でも、無茶はしないでよ?」

女戦士「特攻時点で無茶なんだがな……おう、任せておけ!」


女戦士「ハアアアアアア!」ダッ!

魔王「そう、俺は恋をしたんです。心臓がどきどきです」ドキドキ

女戦士「どりゃああああああ!」ザン!

魔王「一目見た時にビビっときました。それはもう、アレです。もうね、きました」ササッ

僧侶(あの一撃を軽々と避けるとは……!)

勇者「ッ! やっぱ僕も加勢する! 魔法使いはそのまま詠唱してて!」ダッ!


勇者「そりゃあああ!」シュバ!

魔王「びっくりです。これが恋、すごいですね。優しい気持ちになれました」パシ

戦士「アアアアアア!」ジュバーン!

魔王「私、優しい魔族の王様になれました。世界平和を望む人格者になりました。感謝します」パシ

僧侶(え、素手で掴むってちょっと……あ)

僧侶「皆さん離れて下さい! 魔法使いさんの特大魔法いきます!」

女戦士「チッ」ダッ!

勇者(け、剣を離さない……! こ、このままじゃ僕も……!)グググ!

魔法使い「――――――イオナズ――――」

魔王「キャンセル。それで、本題はここからなんですが……」

魔法使い「!?」パキーン!


魔王「で、出来れば……私と、その……け、結婚を前提に…………無理だ! やっぱ無理!」ポキ

勇者「うわああああ! 剣が折れた! 伝説の剣が折れたちゃったよねえ!」

女戦士「やべえ、規格外過ぎる。これ無理だろ」

魔法使い「うっそーん。詠唱途中ならまだしも、詠唱完了後に完全に無効化されちゃったよ」

僧侶「私なにも役に立ってませんね」

魔王「側近来いよ! 来るの遅いんだよ! 出てきたら殺すぞ!」

側近(ちょ、出れませんよ)

魔王「あー……ごめんなさい。取り乱しました」

勇者「ちょ、っと……タンマ! 作戦会議! 時間下さい!」

魔王「え? あ、はい」


勇者「まずいまずいまずい。これ無理です」

女戦士「やべえ、捨て身でいけば何とかなると思ってた俺。ごめん、流石に折れた。心が折れた」

魔法使い「すいません。魔法使えません」

僧侶「私は……あの、一応魔法使えますけど……多分効きませんよね」

勇者「どうしよ。僕のメガンテ、命懸けてやってみる?」

僧侶「死んだら生き返らせます。お願いします」


魔王「……」ドキドキ

魔王(どうしよう。きっと、俺の告白が伝わったんだろうな。か、考えてるのかな)ドキドキ

魔王(へ、返事を聞くのが怖い。よ、弱気になるな俺。大丈夫、俺ってイケメンだから)ドキドキ


魔王(でもどうしよう。まず、エッチのやり方俺よくわかんねーんだよな)

女戦士「……なら、俺の命も懸けるぜ」

魔王(ハッ! いやいやいや、なにを思ってるんだ俺! エッチは結婚した後だ! そ、それまではキスとか……キスとか……おおお、ちょっとドキドキが強まってきた)ドキドキ!

僧侶「ま、待って下さい! 私の魔力では、蘇らせるのは一人――」

魔王(どうしよう、デートとかどうしよう。側近に訊くか。あ、でもなー、アイツに訊くのは俺のプライドが許さねえ感じだしなー)

女戦士「バカ野郎! あんな化け物を倒すにはそれ位必要なんだよ!」

魔王(……あれ、結婚ってどれくらいで出来るんだろう。付き合って一年とか……いや、短いか。2、3年がベストか?)

魔法使い「……なら、私の命も懸けましょう。ここまできたら私の命、勇者さんに懸けますよ」

魔王(童貞卒業は最低でも2年後か……長いような短いような……いや、童貞何て気にしてはいけないんだ。そう、誰だって、『初めて』なんだから……)

僧侶「魔法使いさん! ……まったく、皆どうかしちゃったんですか……?」

魔王(ふふふ、俺がこれ程穏やかな気持ちになれるなんて……夢みたいだ)

僧侶「……それなら、私の命も勇者さんに懸けます」

魔王(……優しい王様になれたよ……清麿。……なんてな! ガッシュ読み過ぎちった。後でバオウ・ザケルガの練習しよっと)

勇者「みんな……」


魔王(いっけね、ちょっと妄想入り過ぎた。現実逃避しちゃったよ)

勇者「……じゃあ、手を繋ごう。僕に命を、全てを預けてくれッ!」ギュ!

魔王(よし、そろそろ返事を……あー緊張する)ドキドキ

女戦士「ああ……!」ギュ!

魔法使い「私の全てを……!」ギュ!

僧侶「私だけ魔法使いさんと手を繋いでいるんですけど、これちゃんと伝わりますよね。私だけ生きてるとか嫌ですよ」ギュ!

勇者「だ、大丈夫な筈!」

魔王「あ、あの……へ、返事を……いや、やっぱ……ええい、返事を! 返事を下さい!」ドキドキ!

勇者「ああ……わかったよ魔王……!」

魔王「……」ドキドキ



  「これが、僕達の答えだあああああああああああ!」ピカーン!



 ――


 ――


魔王「と、言う事があったのさ。ははは、思い出すと笑えてくる」

娘「えー、なんかロマンチックじゃなーい」

魔王「オイオイ、お父さんがどれだけ勇気を振り絞ったのか伝わらなかったのか? かなしーなー」

娘「それでそれで、どうなったの?」

魔王「ああ、直ぐに生き返らせたよ。城と周辺一帯が消しとんだのは驚いたけど、まあそれ位なら一瞬で元に戻せたからね。でも皆死んじゃうんだもん。慌てたなー」

娘「あはは、おっかしー!」

魔王「まあ、それから話し合ったり、紆余曲折あって色々と大変だったけど、見事! お母さんと結婚したのさ」

娘「ふーん」

魔王「は、反応薄いよ」



  「あなたー! 側近さんがきたわよー!」


魔王「ん? ああ、すぐ行くよー!」

娘「わーい、側近さんがきたー!」タッタッタ!

魔王「あ、ちょっとダメ! アレに近付いちゃダメ! アイツ本当に手を出すのが早いの! お母さん以外アイツに喰われそうになったんだ! まあ全力で止めて殺して蘇らせたけど!」

娘「だってかっこいいんだもーん!」タッタッタ!
  

  「あ、久しぶりじゃない皆! 側近さんと一緒に来たの――」

  「久しぶり――――」

  「あ、魔王様。これ、お土産です――――」

  「死ね――――」


 こうして魔王様は幸せな家庭を築き、人間と魔族はそれを機に仲良くなったとさ。

 童貞も無事卒業できたとさ。
 
 めでたしめでたし


終わり

嫁は巨乳だ。それで誰かわかるだろ

お休み

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