まほ「まほみほ大作戦だと?」 沙織「はい!」 (76)

まほ「みほが公式試合で私が好きだと言ったらしいのだが・・・」

のハッピーエンドverにするつもりです。
流れがほとんどちがうので、↑のssを見た方は別の話として見てください。

見てない方は気にしないでください。





いつだったか、対戦した相手高の隊長に言われたことがある。


『あなたにとって、仲間や私たち対戦相手は、勝つための手段でしかないのね』


間違いではない。

私にとって仲間とは、目標を駆逐するためのもの。一つの目的を成すための手段。
そこに友情というものは存在しないだろう。そうあるように、小さい頃から仕込まれてきた。

私が仲間に説くべきは勝つための戦術だ。物心着いた時から、そう教えられてきたし、
それこそ鉄と油の匂いのようにこの体に染み付いている。


それを受け入れることができなかったのが妹だ。優しい妹。


戦車長であるみほの作戦は、黒森峰で副隊長だった時から他の生徒とは一線を駕していた。
ただし、何よりも仲間を無事に帰還させることに重きを置く。西住流と相反する。
けれど、様々な弱さがあるからこそ、油断のない作戦が練られる。

性能と物量による王道的な黒森峰高校は、妹の力を引き出すには良くない環境だったと言えるだろう。
そして、そこに我々が大洗に負けた原因がある。

悔しさはもちろんある。大洗に負け、優勝を逃したのだ。
これまで戦車道との関わりを一切絶っていた大洗高校にとって、みほは希望に等しい存在だっただろう。

私は、そんな妹を持てたことを誇りに思う。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382269463

―――5m程後方、Ⅳ号戦車D型が一台。戦車長はみほだ。

こちらのⅢ突の走行速度に合わせて、一定の車間距離を保っている。
この機体は古い型だが、西住流に実戦を想定して作られており、本来なら開閉できていたキューポラとハッチのいくつかが塞がれている。
みほにとってとても思い入れのある機体だった。

小さい頃は、二人で隠れんぼに使っていた時もあったし、みほはぐずるとよくあの中に隠れていた。
あの頃の私たちは、母の言う『実戦』をまだ理解できていなかった。私たちがまだ本当の厳しさを知らなかった頃のことだ。

Ⅳ号車のハッチが動いたのが見えた。

みほが私の視線に気がついて、唯一開閉できるハッチから顔を出して小さく手を振っていた。
砂利道にも関わらず、しっかりと体幹を固定している所、さすがと言うべきか。
まるで、戦車と一心同体である。すぐに、みほの友人である秋山さんが身を乗り出して、右手で敬礼していた。

みほは困ったような顔で笑っていた。私も目を細める。やや斜めえ上に視線を向け、咽喉マイクに指を添える。

「雨が降りそうだ。少し急ぐぞ、みほ」

返事は早かった。

「分かったよ、お姉ちゃん」

こちらもⅢ突内のエリカらに指示を出す。

こんな話がある―――。

大洗と黒森峰の試合が終わった後、みほへのインタビューで私の話題になった時のこと。


『お姉さんのことはどう思っていますか?』


という質問に対して、


『え、え、あ、好きです』


生中継の全国放送。会場がどっと沸いた。私は、その試合会場にいた。矛先が今度は私に向けられた。


『お姉さんはどうですか?』


明らかに面白がっている記者。切られるシャッター。今でも思う。みほ、どうしてそんなポイントのずれた返答をしたんだ。
そう言えば、エリカがなぜか鼻息を荒くして、みほの方を睨みつけていたっけ。後輩が必死にエリカを抑えつけていた。


『ありがとう。私も……好きだよ』


―――他になんと答えればよかったのだろう。


「はあ……」

「隊長?」

エリカかが下から心配そうに声をかけてくる。

「ああ、なんでもない」

問題はこの話に尾ひれがついて、『西住姉妹はできている!』等と言った
くだらない内容の記事がスポーツ誌や週刊誌に書かれたということだ。
もちろん、すぐに母の圧力がかかったが。

メディアでは一部の地方紙を覗いて取り上げられなくなったが、学校の生徒に母の圧力は効かない。

『あの、西住さんって』

『違う』

『あのぉ、まほさん!?』

『NO』

『で、できてるの?!』

『……やめてくれ』

『隊長!』 

『……エリカ』

頭の痛い生活がいまだに続いている―――。

エリカと西住の門下生を見送ってから、家の門をくぐる頃には午後7時を回っていた。

「お姉ちゃん」

壁際に寄り添うように立っていた影が揺り動く。みほだった。

妹は走って来て、私の腰に手を回して抱きしめようとして、

「他の人は?」

ふと我に返ったようだ。私の隣にいたエリカが片腕を私の前に伸ばしていた。

「あっと……」

みほが後方を振り返る。玄関付近に武部さんと秋山さんが立っている。

「みほは小さい頃から、たまに人目を気にしない所があるな」

「ほんと、こっちは気苦労が絶えませんよね」

みほが頭を垂れる。

「ご、ごめんなさい……」

「いや、気にするな。待たせてすまない。夕飯にしよう」

「でもいいの?」

みほは遠慮がちに言葉尻をすぼめていった。

「ん? 何がだ」

「お母さんに会ったら私また……」

「みほ、お母様は今日から1週間、陸軍の士官学校の合宿に、教導官として呼ばれている」

「え?」

「だから、今日は私たちとあと菊代さんだけだ」

「そ、そうなんだ」

みほは軽く2度頷いた。私は少し笑った。

「それに、私がみほと話したかったから呼んだんだ。お母様に知られてもみほに責はない」

「お姉ちゃん……」

「だから、お互い今日はゆっくりしていこう」

「うん、ありがとう」

先の噂の件もあり、さらに母子の関係が悪化した。もちろん、母が一方的にみほを煙に巻きたがっているだけだが。
それを、みほに伝えるのは止めておこう。どうせ、それも今日で終わりなのだから。

夕飯は菊代さんがかなり奮発したらしく、今までにないくらい豪勢なものだった。
当の菊代さんは水を差すと思ったのか、自己紹介だけ済まして奥に下がってしまった。

「西住殿! おいしすぎて舌がとろけそうであります!」

「う、うん。ゆっくり食べないと喉つまらせちゃうよ」

「ゆかりんってば、もう……でも、さすがみぽりんの実家だよね。こ、この戦車みたいな……どこからも手を付けがたい鉄壁の鯛の刺し盛りに驚愕よ」

「あなたたち、もっと節度ある振る舞いはできないのかしら」

エリカがまるでお母様のような物言いをするものだから、私は少しおかしくて噴き出してしまった。

「ほら、隊長が困ってるでしょ」

「ご、ごめんねお姉ちゃん」

「いやいや、西住殿が謝ることではないですよ」

「それ、あなたの台詞じゃないでしょ」

「うるさい人ですねえ」

「何ですってぇ……?」

エリカが秋山さんと火花を散らせていた。みほがそれを慌てて止めようと、間に入っていく。あの二人を隣にしたのは失敗だったか。

「というか、逸見さんて普段も隊長呼びなんですか?」

武部さんが私に質問する。

「ああ、そうだ」

「まほさんは逸見さんの事なんて呼んでるんですか?」

「エリカ」

「はい、隊長!」

呼んでもないのに、エリカがこちらを振り返って笑顔で返事をしていた。

「日常的にも上下関係が?」

秋山さんはなぜ少し嬉しそうな顔をしているんだろう。

「黒森峰だから?」

「戦車道だからだよ」

みほが言った。二人の口からなるほど、と言う声が上がる。

「元副隊長に言われてもねえ……」

エリカがぼそりと言うものだから、秋山さんがまた突っかかっていく。

「二人とも落ち着いてよー……ご飯食べようよー……」

みほがおろおろとまた仲裁に入っていた。

「犬猿の仲……いや、どっちも犬っぽい?」

「エリカ……」

「あの、まほさん……」

武部さんが、いつの間にか隣に座っていた。かなり真剣な面持ちで。

「何だ?」

「その、今日は一緒に来ちゃってすいません」

「いや、みほから聞いていたことだ。わたしこそ、エリカが来るのを止めなかった」

「それは、やっぱりエリカさんにも誤解を解いてもらうためにですよね……?」

「ああ、そうだ。みほもあなたたちもそのつもりできたのだろう?」

「そうです」

「みほも、学校で大変だろう」

「そうですね、やっぱり公衆の面前であんなことを言い放ってしまっているので、特にみぽ……みほさん大好きな人達の阿鼻叫喚と言ったらないです。そこの秋山犬も初めの方は……」

「みほは車上では突発的な事態への対処がずば抜けているんだが……」

「普段は天然ですからね……」

「どうか、妹をよろしく頼む」

「……まほさんから言われると、とても重いものを感じます」

「そうか?」

「でも、これから大変なのはまほさんの方じゃないですか」

「……どういう?」

武部さんが、口の端を少しだけ上げる。

「だって、みほと付き合いだしたら色々と障害が」

「……は?」

「え?」

「うん?」

「今日、あなたたちを呼んだのは、その誤解を解くためだが……?」

私は、耳がおかしくなっただけだと思いたかった。

「き、今日私たちが来たのは、みほとまほさんのお祝いをしに……あ、これプレゼントです……じゃなくて、え、え!? うぐ!?」

私は武部さんの口を素早く閉じて、

「みほ、ちょっと武部さんが食べすぎてしんどいそうだ。トイレに案内してくるから」

「え? 沙織さん大丈夫? 私も」

心配そうに、みほが片足を立てる。私は武部さんに耳打ちした。

「だ、ダイジョウブヨミポリン」

「どうして片言なの?」

不思議そうに首を傾げるみほ。私は内心焦りながら、引きずるように武部さんを廊下へと連れ出した。

「どういうことだ? なぜそんな話に?」

「そ、それはこっちが聞きたいことですよ。みほと付き合うんじゃないんですか?」

お互いに小声で話す。私は無言で首を振った。
「そ、そんなみほは、今日嬉し涙まで流してたんですよ!?」

「そんなことを言われても……そもそも、あのインタビューは……」

「あれ、本気だったんですよ。気が付かなかったんですか」

武部さんは少し怒ったような口調だった。気が付けるわけがない。なにせ私たちは、

「私たちは姉妹で、女同士なんだ……そういった感情を向けられるなんて思ったことすらない」

私は頭を抑えた。

「鈍いにも程があります……」

「鈍いでけっこう。仕方がないな……」

「え、どうするんですか」

「誤解を解くしかないだろ。まあ、そもそも今流れている噂を断つためにここに呼んだのだが……」

「みほの気持ちは……」

武部さんと秋山さんが来た理由は、みほを見守りに来たということか。
どうして、こうなる前に私は気づくことができなかったのだろうか。何か前兆はあったか。

「どうするんですか?」

記憶を辿ろうとして、はっとなり、私は武部さんを見た。

「それは……」

「今、事情が分かったまほさんに酷なことを言ってるっていうのは分かってます。でも、みほ今幸せの絶頂期なんですよ……? それを、お姉さんは地獄に突き落とすことができますか?」

できる、わけがない。だが、やらなければ誤解をますます招く。

「さっき、お母さんが1週間いないって言ってましたよね」

「ああ、まあ」

「なら、せめて1週間だけでも……猶予をください」

「猶予?」

「必ず、みほを好きにしてみせます……! 名付けてまほみほ大作戦!」

これが仲間――。私の脳裏にふとそんな単語が浮かんだ。


武部さんの『まほみほ大作戦』は今日の夜からさっそく開始された。私に拒否権はないとばかりに。
わたしとみほを同室にして、エリカと武部さん秋山さんを同じ部屋にする。
そうすることで、私たちの仲を深めようということだった。

そもそも、一緒の部屋で寝ることは子どもの頃に経験済み。さして、驚くことはない。

ただ――、

「え? どうして、寝るならみんなでお布団敷いて寝ようよ」

「んもう!」

その作戦は当の妹によって打ち砕かれるが。




菊代さんと共に大部屋に5人分の布団を敷いて、さあ寝ようとなった時、

「まくら投げしましょう!」

「はあ?! 人様の家でなにぶをぉ!?」

闘志に燃える秋山さんがエリカに電撃戦を繰り広げ始める。
その横で、武部さんが一騎打ちのジャッジをしている。いつの間に仲良くなったのか。

「お姉ちゃん……」

そうだ、忘れていた。

「お風呂行こうよ」

どっちにしろ、追加投入された、武部さんの『お風呂は家族水入らず作戦』とやらが待っているのだった。

今日はここまでです。のろのろ続きます。

おお。あれのパラレルなら期待

ハッピーエンド版か
期待してる

「一緒に入るの久しぶりだね」

「中学校くらいまではよく入ってたな」

みほは普段と変わらない態度だった。服を脱ぎ終えて、

「あんまり、見ないでね……」

と恥ずかしそうにしている。中学時代も確かこんなことを言っていた気がする。

「お前は、相変わらず恥ずかしがり屋だな……友達の前でもそうなのか?」

「う、うん」

「そうか」

私は衣類を洗濯機に放り込み、お風呂場の扉を開けた。そう言えば、私にとっても実家でのお風呂は久々だった。どこか狭く感じるのは、だいぶ背丈の伸びた子供たちが二人で一緒に入るからなのだろう。

風呂はくつろぐ所だ。今は余計なことなど考えないようにしよう。私は、もじもじとしていたみほに早く入るように言った。

「背中でも流してやろう。ここに座りなさい」

「え、い、いいよ」

「何を遠慮しているんだ?」

「だって恥ずかしいし……」

「何が……」

「じゃ、じゃあお姉ちゃんあんまり見ないでね」

「……ああ」

私はスポンジを泡立てながら、生返事で答えた。ふと、鏡越しにみほと視線が合う。

「見ないでって……」

みほが逡巡した後、視線を逸らした。どういうことだろう。なぜか、気まずい。
こう、下手に動けない。何をしても勘違いされてしまう気がする。

私は一呼吸おいてから、無言で頷いた。

「シャワーかけるぞ……熱くないか?」

「うん」

小さな背中にブタ鼻のスポンジを押し当てる。

「ぅ……くすぐったい……」

妹は身体を小刻みに震わしている。

「すまない。ここはどうだろうか」

「っ……おねぇちゃ……そこも」

「洗う所が無くなってしまうが……」

「ご、ごめん……我慢するね!」

「ならば、背中だけにしておこうか」

「え……」

「ほら、先に洗ってくれ。私は髪を洗うから」

「あ、うん……ありがとう」

みほの身体が冷えてしまっても悪いので、自分でしてもらうことにした。
本当に小さな頃には、3人でお風呂に入ったこともあった。
もう、みほは覚えてはいないだろうが。その時は、私がみほの髪も身体も
洗ってやっていたっけ。そして、私は母が洗ってくれていた。

あの頃、私たちは何を話し、母に何を感じていたのだろうか。

だんだんと、母も自衛隊からの協力要請が増え、私たちに構わなくなって、みほの世話はほとんど私と菊代さんがしていたっけ。
だから、みほと母との関係性が薄くなってしまっているのかもしれない。

「お姉ちゃん?」

「え?」

「シャンプーしてる手止まってるよ?」

「ああ……ちょっと考え事をしていた」

薄く目を開けると、みほが頬杖をついて、すでに湯船に浸かっていた。
白い頬が上気している。わりと母よりも、亡くなった父の面影がある。
実際に見たわけではない。遺影で確認しただけだ。
ただ、光の中で私を抱く顔のない男の夢を見る。

みほを見ていると、会ったこともない父を思い出す。思い出すらない父を。

考え事をしながら洗ったため、みほよりもかなり遅れてから湯船に浸かった。
私の体積の分だけ水が量を増す。みほと向かい合うようにして座り、私は天井を仰いで
浴槽の壁にもたれかかった。家族と入る風呂は、なんだろう、ほっとする。

「お姉ちゃんて……胸おっきいよね」

みほがタオルを湯船につけ、クラゲを作りながらぽつりと言った。

「そうか……?」

私は、クラゲを人差し指で押しつぶしながら少し笑う。

「そうだよ」

みほが少し怒ったように、私の人差し指を握った。

「気にしたことなかったが。大きくてもあまりメリットがあるようには思えないな。あげられるものならあげたい所だ」

「それはもってるからこそ言える台詞だと思うよ……」

クラゲがまた生成される。私はもう片方の手でそのクラゲをつぶした。

「……もう! お姉ちゃん、ひどいよ!」

「ああ、いやついな」

みほに両手を捕まれて、頭だけを下げる。

「なんだか、お姉ちゃん丸くなったね……」

「どうだろうか……」

「私がお姉ちゃんに嫌われてるんじゃないかなってずっと想ってたからかな」

みほの握る力が少し強められる。

「……今も、ちょっと怖い」

妹の口から、怖いなんて言葉が出るとは思わなかった。

「あ、お姉ちゃん……」

間抜けな顔になっていたのかもしれない。

「私が怖いのか……」

「嫌いだからじゃないんだよ」

「私はみほを嫌ったことなんて一度もない」

「そうだよね……うん、ごめんね。変なこと言って」

私の両腕を解放して、みほは水音を立てながら私の方に背を向けた。

「ごめんね」

みほが何を考えているのかわからない。得体の知れないものに対して、人は恐怖を抱く。
では、妹は私の事を正体不明の何かのように扱っているということだろか。
私は妹にとっての何なのか。

目を瞑る。ただ、湯の温かさを感じる。このお湯を伝って、みほの考えていることが
伝播してこないだろうか、なんてバカなことを考える。

「私、お姉ちゃんに近づきたくて、すぐ隣に行きたくてここまできたんだけど……」

「ああ」

「お姉ちゃんはそうじゃなかったんだね……」

喉を押しつぶしたような声だった。

「……武部さんとの会話聞こえてたのか」

「うん……」

今日はここまでです

乙です。楽しみにしてます。

別バージョンか!
乙続き待ってる


「武部さんは……」

と、私は言葉に詰まる。話す内容しだいで、妹を傷つけることになるだろう。
妹が悲しむ姿を見たいとは思わない。

「優しい人だな」

ただ、妹の欲しい答えを口に出せるかというと、それもまた難しい。
湯船が揺れる。

「そうなの……沙織さんにはいつもお世話になってるんだ」

「普段、どんな人なんだ?」

みほは、ゆっくり身体を半回転させる。泣いてはいなかった。幸せそうでもなかったが。

「え、沙織さんは……えっと、すごく明るくて女の子らしい人なの。料理も上手で、この間お菓子を作ってもらったんだけど
美味しくてね……あと、悩んでたら背中を押してくれたりしてね……」

「戦車道はいつから?」

「……数か月前かな」

「驚いた。そうだったのか」

「大洗高校の人たちはほとんどがそうだよ」

「なるほど……それをあそこまでまとめ上げたのか。すごいな」

「ち、違う違う。私はただみんなより知ってただけで、指示を出してはいたけど、助けてもらってばかりだったし……」

「謙遜するな。お前の実力は、私もお母様も認めている」

ただ、あの試合は母に見られたくはなかった。そもそも、みほが戦車道を再開したこと自体、
母に伝えるべきではなかった。白を切り通せなかった自分が今は憎い。

「お母さんが? そっか……でも、これはやっぱり私だけの力じゃないから……だから、謙遜なんかじゃないの」

あくまで、みんなの力と言う訳か。

「そうか」

ふと、最終戦を思い出していた。最後の一騎打ち。地面をえぐるようなドリフト音。
身体には、回り込まれて打ち込まれた弾の衝撃がシビレのように残っている。

「すごく、気持ちのいい試合だった」

「西住流にあんなに反してたのに?」

「人を西住の亡者みたいに言わないでくれ」

「ご、ごめんね」

みほが慌てて謝る。

「勝っても負けてもいい試合というものがある。前にも経験したことはあるが……みほとの試合ほど高揚しなかった」

「嬉しいな……」

みほの口元が緩む。良かった。漸く笑った。

「私も、色々な学校の色んな人と試合して、どこも本当にタイプの違う所ばかりだったんだけど……一番ヒヤヒヤしたのはお姉ちゃんとの一騎打ちだったよ」

「それは……素直に喜んでいいのか分からないな」

私も少し笑う。きっと、一番焦ったのはうちのエリカかもしれない。あれで、心配性で、気の弱い所があるから。

「お姉ちゃんがいたから、ここまでこれた。ここまで行こうって思えたんだよ。どの試合をしても、常にお姉ちゃんをフラッグ車みたいに感じてた」

「エリカも同じようなことを言っていた」

「え……」

「副隊長が夢にまで出て来るとかなんとか……一体どんな夢だったのか教えてはくれなかったが」

「な、なんだろう……気になるね」

「ああ……今度聞いてみるさ」


ちょっと眠すぎるのでまた明日です。

欺瞞に満ちた会話だった。実のない話で、本題から離れようとしているのがみほにも分かっていたのだろう。

「ちょっとのぼせそうだから先に上がるね」

「そうか」

みほが風呂場から去ったところで、なんの解決にもなっていなかった。
それでも、自嘲のためのため息くらいは吐けた。

いつから、だったのだろう。
戦車道自体が、男っ気のないものだから、女性に触れる機会が多いせいもあるか。
みほの中の父親の存在が希薄なせいもあるだろうし。

みほの中で異質なものとして、理性に排除されなかったということは、そう思うことが
自然なことだったと言えるのだろうか。それとも、そう思い続けることで妹は自分を
保っているのだろうか。

馬鹿らしい考えだ。
自惚れている。

厄介だ。
みほが?
いや、自分自身が。

――私はみほを嫌ったことなんて一度もない。

よくもそんなことが言えたものだ。好きだと言っている相手に対して。
傷を深めるだけだ。妹に嫌われたくないからと、甘い言葉をかけるなんて。

ずっと前から、頭から離れてくれないものがあった。
戦車から這い出て、川の中に沈没した戦車内の仲間を助けに行ったみほの姿。

その記憶に何度懺悔したか。

私が怖いなら、それでいいのに。
どうして、そのままでいてくれなかったんだ。

翌朝、目を開けるとみほの寝顔が至近距離にあった。

「な……」

思わず呻く。寝ぼけた頭で考えれたのは、昨日の作戦の続きということ。体を反転させる。
何か柔らかいものにあたる。隣にいたエリカが腕に引っ付いていた。

(エリカ……)

単純に、寝相の問題かも知れない。
二人を起こさないようにそっと身をよじる。

上半身を起こすと、秋山さんがほとんど同じタイミングで起き上がっていた。

「おはよう。秋山さんは、朝が早いな」

小声で言った。

「ええ、いつもこのくらいなんです。でも、西住殿変ですね。いっつもこの時間ランニングに行かれているのに。ああ、実家だから安心してるんですかね」

「だったら良いんだがな……」

私は視線を転じる。
子供っぽく口元を開いて眠っているみほの表情は、確かに安らかではあった。

「それか、お姉さんの隣だからとか」

そう言ってから、秋山さんは小さく微笑んだ。

「まさか……秋山さんか?」

「何がですか?」

「みほを私の隣まで運んだのは……」

「そうですよ」

「よく運べたな」

「けが人をいかに質量なく運ぶかについて、少々研究したことがありまして」

(何者なんだ……?)

「こういったことは、その……」

「あ、恥ずかしいですよねっ……すいません喜んで頂けると思っていたのですが、配慮にかけておりました!」

右手で敬礼する。軍人か。

「声を下げて」

「わとと……えへへすいません」

櫛も通らなさそうな頭をポリポリと掻く。

「武部さんから聞いていないのか?」

「何をですか?」

「……いや」

何を言えばどう反応するのか。私は戸惑った。
この子はなぜ一緒についてきたのか。思い出せ。
武部さんは、なんと言った?

――秋山犬も最初の頃は……

ああ、そうだ。

「少し……散歩しないか?」

思いついたまま、そう提案していた。



雨上がりの澄んだ空気が胸に染みた。
少し風は出ていたが、それも気持ちの良いものだった。

我が家の朝は、いつも戦車道の説教から始まるが、それは母と暮らしていた時のこと。
今は私もみほもそれぞれの自由な朝を迎えている。

「あの……どうしたんですか?」

秋山さんが恐る恐る尋ねてくる。

先を歩いていた私は、立ち止まって振り返った。

「あなたは、戦車が好きだったな」

「はい! 特に好きなのは第二次世界大戦中にポーランド軍の主力だった7TPでして、何も分かっちゃいない人の中には、八十九式以下だとかほざく輩もおりますが、ドイツ軍とやった時の鬼気迫る逸話を聞けば誰もが、そう納得するであろうことは」

聞いた質問が悪かったようだ。

「すまない。戦車道は好きかな」

「もちろんです! 西住殿……えっと、みほ殿が来て以来、大洗に戦車道が確立されて本当に嬉しく思っています」

「そうか。みほも嬉しいだろうな。あなたと出会えて」

「はい! 私もみほ殿に会えて光栄です」

「あなたは装填手以外にもオールマイティでできるそうだが、最後の試合で見せた装填速度はこちらも舌を巻いた」

「ありがとうございます。あの、西住まほ殿に褒められるなんて、見に余る光栄です!」

「いや、本当の事を言ったまでだ」

私は少し笑って見せた。

「それじゃあ、みほのこともとても好いてくれてるんだな」

「はい!」

素直だ。なんというか、良い意味で犬。

だから散歩に連れていったんですね分かります
せっかくだからごすずんも連れて行こう

「最後の試合もみほのために頑張ってくれたんだろう?」

「ええ、みほ殿をお姉さんに勝たせたい一心で‥…あ、申し訳ありません。配慮に欠けていました……」

「ああ、気にしないで。あなたの事が知りたかったんだ。ありがとう」

私はできるだけ、優しい口調で言った。

「……そうですか。私のことなんて知っても戦車のことしか出てきませんよ」

秋山さんはそう言って、恥ずかしそうに笑った。この子は、みほが黒森峰にいた時の、最後の試合を見ているんだったか。確か、カフェでエリカに腹を立てていたのは、秋山さんだった。

「そんな秋山さんだからこそ、これからもみほの隣にいて欲しい」

「もちろんです!」

「みほもあなたが望めばきっと答えてくれる」

「……い、いえ。私はみほ殿には遠く及ばないので……もちろん好きな気持ちは本物ですがゴニョゴニョ」

もう少し押してみるか。

「あなたは、恋人は?」

「へ? い、いませんが。生まれてこの方、一人も……」

「そうか、みほもそうなんだ。浮いた話を一つも聞いたことがない。姉として、そういうことはもっと経験しておいてもいいと思うんだが。秋山さん、どう思う?」

「え、い、いや、でもみほ殿はまほ殿が……」

私は少し、考える素振りをして、

「それは、誤解なんだ」

彼女は、会話の脈絡に全く気がついていない。
心は人並みに傷んだ。だが、仕方がない。
私は秋山さんとの距離を二歩ほど詰めた。

「私は、みほのことは妹として大切に思っているが、そういったパートナーとして見たことはないんだ」

「え?」

すぐには意味が理解できなかったのか、彼女はもう一度、声を出して驚いた表情をした。

「ええ?!」

「噂に尾ひれがついて、いつの間にかそうなってしまったようなんだ。妹にも昨日話した。だから、あなたが慰めてやってくれないか。私が言えることではないだろうが、みほは落ち込んでいると思う」

「で、でも」

「あなたが一番みほを好いてくれていると思ったから、頼んでいる。ただ、無理にとは言わないが……頼めるような立場ではないことも分かっている」

私は、深く頭を下げた。秋山さんが少し焦ったように両手を上下に動かしながら、

「あ、頭を上げてくださいっ」

「では……」

「私は……私は確かにみほ殿が好きです。でも、それはお姉さんを追いかけて輝いているみほ殿だからなんです。私なんかは……傍にいるだけで大満足というか……」

「それじゃあ、今のみほの背中を支えてあげて欲しいんだ。今のみほに必要なのは傍で支えてくれる人だ」

「う、あ、でも……」


「お願いだ」

私は先程よりもさらに深く頭を下げた。

「だ、ダメです!」

一際大きな声が頭上から降ってきた。私は驚いて、すぐに顔を上げる。

「それは、人からお願いされてするようなものじゃないから……だから、私にはできないであります!」

秋山さんは、肩をいからせて、叫ぶように言った。

「そうか……」

「だって、みほ殿が慕ってるのはまほ殿なんですよ……? 私にはどちらも雲の上の、手の届かないような……」

「そんなことは」

「いいんです。たぶん、分からないと思います……でも、それでもいいから傍にいたいんですっ……っ」

長いまつげが揺れている。彼女が二度ほど瞼を閉じると、ぽろぽろと涙が頬を伝って流れ落ちていった。心臓に爪を突き立てられるような痛みが襲い、漸く私に罰が下った。

「悪かった」

私が間違っていた。

「今の会話は忘れてくれ」

現実は戦車道のようにはいかない。西住流に反して小手先の細工もしてみたが通じない。この秋山という少女は、とても純粋で意思が強い人間だ。それに比べて私は、どうだ? 戦車から降りれば、ただの汚い動物だ。

「あっい……っ」

震えながら泣くのを我慢しようとする秋山さんの肩を、何も言わず抱く。
少しだけ背中を撫でてやると、嗚咽がもっとひどくなった。

「あのっ……まほ殿に慰めていただけるなんてっ……ひっく」

「そんな風にくくらないで欲しい。あなたも私も……何も変わらない」

私は言って、空を見上げる。
どうしたものか。

――足音。砂利が擦れた音。

はっとして振り返る。

「お姉ちゃん……優花里さん?」

みほだった。少し寝ぼけた顔で私たちを見ていた。みほはパジャマのままだった。

「に、西住殿これは!」

秋山さんは私を少し押して、すぐに離れた。みほを背にして瞼をぐいぐいと擦る。
無理に拭ったせいか、そこだけ不自然に赤く腫れている。

「秋山さん、門の方にポストがあるから新聞を取ってきてもらってもいいか」

「え、あ、了解です、まほ殿!」

みほを背にしたまま、彼女は駆け足で門に向かった。

「お姉ちゃん」

冷静な響きだった。朝の柔らかな光に溶け込めるくらいだと思った。
もし、私がみほだった場合、冷静でいれるだろうか。否、嫉妬しているに違いない。
そういった経験があるわけではないが。憶測にしか過ぎない。見当違いだと良いけれど、現実はどうだろうか。

「なんだ」

罵倒される覚悟で返事をした。

「ご飯できたって、菊代さんが言ってたよ」

お腹の虫を従えて、みほはそう言った。




着替えをして、居間へ足を運んだ。
武部さんもエリカも揃っていて、正座して待ってくれていた。
秋山さんは菊代さんに新聞を渡しに行ってくれたので少し遅れて席に着いた。

エリカが、朝はどこに行っていたのかと訪ねてきたが、私は庭先にとだけ答えた。
彼女は腑に落ちないという表情のまま、無理やり納得するように、

「そうですか」

と、それ以上は何も聞いてはこなかった。それから数分後に菊代さんが朝食の席に
同席し、頂きますの合図で合掌した。

菊代さんは何かを察したのか、いつもより饒舌に朝ごはんの大切さを語っていた。
それに便乗して武部さんが話を盛り上げていた。エリカもそれなりに気を遣っているようだった。

食事が終わってから、布団などを片付けていると、菊代さんに声をかけられた。

「あの、まほお嬢様」

「何でしょうか」

「しほ様が、まほお嬢様とみほお嬢様、どちらかが帰ってきた時、お小遣いにと」

紫に金の刺繍の入った風呂敷に封筒が包まれていた。

「お母様が?」

稀有なこともあるものだ。
しかも、このタイミングでか。みほも驚いてこちらを見ていた。

「わ、たしも?」

やや片言だった。

今日はここまでです。読んでくれてる方、ありがとう

>>31

エリカ犬も散歩に連れていかなあかんなあ

おっとまさか話が通じるとは…ってもゆかりいぬの人はどっちでも出没するからなあ

>>39
エリ・ゆか公の影響はご他聞に漏れずだわ

「お母さんが……」

みほは信じられないといった様子だった。私は菊代さんからそれを受け取る。
最新の戦車の備品を買い揃え、整備器具も壊れそうなものがいくつかある。
そんなことを考えながら、みほを見た。

「お姉ちゃんが使ったらいいと思うよ」

母としては、戦車道のために使ってもらいたいはずだろう。
妹もそれが分かっているからこそ、こんなことを言っているのだ。

「みほ……」

「その方が、お母さんも喜ぶだろうし」

私は首を横に振るう。

「エリカ」

「は、はい?!」

急に話を振られたものだから、彼女は咳き込みながらこちらに姿勢を正した。

「ああ、すまない。前に、水族館に行きたいと行っていただろう」

「え、ええまあ」

「行こうか」

「へ?」

エリカが素っ頓狂な声で言った。

「秋山さんも武部さんも良かったら、どうだろうか?」

ごすずんおきろ投稿の時間だ

散歩から帰ってこないだと…?

ごめん道草食ってた。今日はちょっとだけかも。のろのろ投下します


とある水族館――

「だああ?! サメ! サメ!」

「武部殿、落ち着いてください。外に出てくるわけではないのですから」

「この間、久しぶりにジョーズ見たから……自分が食べられる所想像しちゃって……」

「あんたたち……くれぐれも隊長に迷惑をかけるようなことだけはしでかさないでよね!」

2階から武部さんと秋山さんの声と、エリカの怒声がやけに響いて聞こえてきた。

「た、楽しそうだね」

食い入るように見ていた光るクラゲから顔を離して、みほは少し笑っていた。
あの三人がいるのは世界の様々な魚類を集めた水槽ゾーンで、私たちのいるのは深海ゾーン。仄かな青白い光が雰囲気作りのために置かれているだけだ。少し離れると互がどこにいるか分からなくなってしまいそうだった。

「三人とも進むの早いね」

「ああ……」

幸い、土曜だというのに、水族館は人がまばらだった。
ただ、このゾーンの特性もあり、カップルがやけに入り浸っているような気がする。
早くこのゾーンから抜けたい、と思いつつもみほの足取りはやけに緩慢だった。

そもそも、なぜ別行動になってしまったのかというと、朝の一件で他の三人が遠慮してしまっているのが原因だった。
秋山さんはともかく、エリカや武部さんもおかしな所で空気を読んでくれたようだ。
かと言って、あの三人に何をどうしろと言えるわけでもなく、今現在に至る。

これは、二人の問題だと、誰かに言われているような気さえする。

「……お姉ちゃん、アンコウがいる」

「みほのチームの名前と一緒だな」

「うん」

水槽の底に敷かれた砂の上で引きずるように泳ぐその姿は、まるで、

「戦車みたい」

妹が言った。私はアンコウから視線を外さずに、無言で頷いた。この感性はやはり姉妹といったところか。

「ねえ、知ってる? アンコウの雄って雌を見つけ出したら、同化しちゃって脳みそも心臓もなくなって、それから雌の栄養のためだけの袋になっちゃうんだって……」






みほchang怖い;;

「そうなのか……」

「頑張って頑張って暗がりの中で見つけた人に食べられちゃうのって……どんな気持ちなんだろう」

「アンコウに自我はないと思うが」

みほは、こちらを一度振り返る。と、二・三歩ステップを踏んでから、いきなり駆け出した。

「お、おいみほ」

あっという間にみほの姿は暗闇に溶ける。藍色のワンピースは目を凝らしてもどこにも見当たらない。

「走るとこけるぞ……」

そんなことを呟いたら、

「大丈夫だよ。けっこう夜目がきく方なんだ」

どこからともなく声がした。妹の行動の意図が読めない。からかっているのだろうか。

「えへへ、どこにいるでしょう?」

「わからない。馬鹿をやってないで、二階に行くぞ」

「……お姉ちゃん」

「なんだ」

「ちょっとだけ探してくれないかな……お願い」

「そんなこと、お願いされても……まあいいが」

暗闇はそんなに得意な方ではない。かと言って、妹の遊びに付き合ってやらなければここから動けそうにもない。
私はゆっくりと手を伸ばす。足元の照明と、クラゲの発光能力を頼りに進む。

深海で、アンコウが雌を探す時もこんな感じなのだろうか。
けれど、その後食べられるのだからたまったものではない。

みほは小さい頃から、よく隠れていた。また、何かの影に隠れているのかもしれない。

「みほ?」

私は魚ではないし、アンコウでもない。何かを探すスキルに長けているわけでもない。
ただ、みほがどこに隠れているかを当てるのは、昔からなぜか上手かった。

それはなぜか、考えたことがある。
その時はわからなかった。今も、わからないけれど。

ぼんやりと見えた柱に手をついて、その周囲を回る。ふっと、栗毛のショートカット目の前に現れた。

「……アンコウの気持ちは分かったか?」

みほがこちらを向く。

「ちょっとだけ……ごめんね。ワガママに付き合ってくれてありがとう」

この短時間に妹は何を思っていたのだろうか。

「さて、上がるか」

「うん」

そろそろ、上の三人が焦れて降りてきてしまうかもしれない。

「私、アンコウみたいになりたいわけじゃないけど」

私はその言葉にみほを見た。階段の下段側に居たみほは、上階の光に眩しそうに目を細めながら続けて言った。

「でも、少しだけ羨ましい……」

フードコート―――


「エリカ、どうした? 元気ないな」

「あ、いえ……」

「やはり、気が乗らなかったか……すまないな、急に」

「そ、そういうわけではないんです! むしろ、私の言ったことを覚えて下さっていてなおかつ誘って下さってこうしてアイスまで奢って頂いて、すごく嬉しいです。……原因はあのバカ二人でして……」

レジの方を指を指して、唸るようにえりかが言った。

「隊長と一緒に周りたかったのに……余計な手間を……はっ……ごっごほごほ」

「大丈夫か? アイスが詰まったのか?」

「え、ええ。すぐ溶けると思いますので……頂きます」

「そんなに、粘度の高いアイスなのか? 私も買えば良かったかな」

「あ、じゃあこれ味見しますか?」

「ああ、そういうつもりでは……まあ一口だけもらうか」

エリカの持っていたスプーンを手ごと手繰り寄せて、一口味見する。

「美味しいな」

口元をおさえながら、エリカは買ってやったバニラアイスをまた一口頬ぼった。
よっぽど美味しいのか、口元が少し緩んでいる。奢ってやった甲斐があったというもので、
エリカの表情を見ながら、私もふと笑みが溢れていた。平和だ。

「た、隊長そんなに見られたら食べにくいです……」

「あ、すまない」

「ところで、秋山さんと副隊長の姿が見えませんが……」

「え」

確かに、レジカウンターにはチョコアイスを頬張る武部さんしかいなかった。

「武部さん」

「ひゃい?」

「二人は?」

「さっき、ヒョイレ(トイレ)に行きましたよ」

トイレか。

「私も行ってくる」

「はあ」

嫌な予感、があったわけではない。強いて言えば、女の勘。
何事もなければいいが。

今日はここまでです。ありがとうございます

やっぱりお姉…まほさんにはわた…みほさんがお似合いですよね!

訝しげに首をひねる武部さんにエリカとここで待つように伝え、私はトイレに向かった。


私はちらと腕の時計を確認する。時刻は午後13時に差し掛かろうとしていた。
この後は、おみやげでも買って電車に揺られて帰るだけだ。

それから、今夜こそエリカも交えて4人でこの話にケリをつける。
迷いや逃げで事態が好転することはない。
なら、せめてばっさりと切り捨ててやるのが優しさなのだろう。

トイレの寂れた扉を開ける。辺りを見回した。鏡面の前にも、個室にも誰もいない。
行き違ったか。鏡には眉間に皺の寄った自分しかいない。

と、

「西住殿、聞いてくださいって!」

秋山さんの声が廊下から聞こえてきた。
私は反射的にすぐ横の個室へと身を隠した。

(……隠れる必要はなかったな)

入ってそうそうそんなことを思いつつも、

「優花里さん、もういいよ。私、ほんとに気にしてないから」

「嘘です」

出るに出られない。念のため、慎重に鍵をかけた。

「嘘っていうか……お姉ちゃんにも誤解だったこと聞いてるし……その上で、誰とどうこうすることに口を挟めないよ……」

「だからこそ、朝のは自分が無神経だったと思います」

「そんなことは」

「あります!」

「うう……」

みほの声は、まるで叱られた子どものようだった。しかし、朝のことは私に一番責任があると思う。
私が余計な手を入れなければ、彼女たちがこうやって口論することもなかっただろう。

「それに……だって」

秋山さんが言い淀む。

「う、うん」

「私自身が西住殿をお慕いしているのに…‥あんな所を見られるのは心外です」



「ゆ、優花里さん……」

「あ、は!? そ……すいません」

「謝ることでは……」

「私、また無神経に……こうなれば、割腹して」

「わああ?! ちょっと、待って?!」

バタバタと衣の擦れあう音。

「は、離してください! 冗談ですよ……そういう気持ちなのは確かですけど」

「ふう……冗談に聞こえないよ」

「西住殿は優し過ぎです……」

「今のは誰でも、止める所じゃないかな……」

「いえ、なんというかやっぱり自分でも、しばしば周りから浮いた行動をとってしまってる気はしてるんです」

「そ、そうなんだ」

「だからと言って、止めるつもりはさらさらないのですが、西住殿の隣ではそれが顕著になってしまって……分かってくれるし、反応してくれるし嬉しくてつい」

「そっか……でも、優花里さんのそういう所、私好きだから大丈夫だよ」

「また、そうやって……」

「え? あ、ちょ」

無音。個室からは見ることができない。何だ?

「ゆ……んむ……っ」

何回か水の跳ねた音がした。その後、何かが崩れ落ちるような音。

「……申し訳ありません、西住殿。でも、あなたを前にすると、自分で自分が抑えきれないんです」

「えっと……」

「誤解だったと知って、私はとても喜びました……でも、それじゃダメだと応援しないといけないと思ったのです……なのに、西住殿を前にしたらこの様……まほ殿に顔向けできませんね」

「……あ、え、まっ‥…っん……っ」

赤ん坊が哺乳瓶を啄むような音が聞こえた。

「私はいっそ……っく……嫌われた方が……っう……楽だと思いますっ‥…ひっく……」

「……こんなことをしたって嫌いになんかならないよ」

「ひどいですよ……また、そんなこと言って……っ」

「優花里さんは……大事な仲間だから」

「ほら、また……」

「ごめんね」

彼女たちが漸く出て行った後、私は息を吐いた。
ここ一帯の空気が薄まっていたんじゃないかと思うくらい息苦しかった。

(あの子は何をやっているんだ……)

みほはどうも押しに弱いところがあるのかもしれない。
それとも相手を傷つけないための芝居?
似たもの姉妹だな、全く。

その辺は母親譲りか。

だが、驚いた。人を好きになるということは、歯止めの効かない戦車のようなものなのだ。

お土産コーナーでは、エリカが食い入るようにアンコウのキーホルダーを見ていて、

「気に入ったのか?」

と聞くと、

「いえ」

と短調に言葉を返された。すぐ横でその会話を聞いていた武部さんが、妙に顔をニヤニヤさせてエリカに言った。

「もしかして、アンコウお好きなんじゃないですかぁ? 可愛いですよねェ? アンコウ」

「別に」

「好きなんでしょォ? 白状しちゃいなよォ」

「誰が、あ・ん・こ・うなんか好きなもんですか!」

エリカは顔を真っ赤にさせていた。売り言葉に買い言葉。
他にもアンコウの手袋とか帽子とか、色々とアンコウ押しのようだ。

「あ、ねえ優花里さん。これ、買おうよ」

「え、これ」

「仲直りの印」

「……はい!」

他のキーホルダーコーナーから、そんな会話が聞こえてきた。

「なになに、みぽりーん、ゆかりーん……私を差し置いて何を買おうって?」

「沙織さん、あんこうさんでお揃いの買おうよ」

「おー、いいね! 買おう買おう! って、これさっきのか」

「どうしたの?」

武部さんが後ろを振り返ってエリカを見ていた。
エリカはと言うと、まだ向こうのキーホルダーコーナーをうろついている。

「……」

「あれ、沙織さん一つ多くない?」

「あー、いいのいいの」

みほの指摘に武部さんが手を振っていた。

「それより、みぽりんこそ、まほさんとお揃いの買わなくていいの」

「ちょ、聞こえちゃうよ」

もう、聞こえているのだが。

「聞かせてるの」

「え、ええ?」

「せっかく久しぶりに会ったんだもん。それくらいは、ねえ、まほさん」

満面の笑みで私を見ている武部さんと、申し訳なさそうなみほと、少し目元が薄桃色の秋山さんを
前にして、一度喉の奥で小さくため息を吐き、私はみほと色違いペアルックのアンコウキーホルーダーを一つ手にとったのだった。

その夜はやってきた。漸く訪れたというべきか。
居間に円卓を引っ張り出してきて、それを5人で囲む。
事が穏便に済めばいいが。

「では、単刀直入に言おう。私とみほとが付き合うなどと言った噂が流れているようだが、それはあくまで噂であって真実ではない」

「それって、つまり」

「武部さん、発言は手を上げなさい」

エリカが言った。武部さんがしぶしぶ、手を上げ直して、

「はい、つまりみほのことが好きだと公言したのも嘘ですか」

痛いところをついてくる。ちょっとしたニュアンスの違い。

「嘘ではないが、それは姉妹として、家族として好いている、という意味だ」

「はい、お姉ちゃん」

「なんだ、みほ」

「エリカさんから、こんな話を聞いてるの。学校でいつも私の話をしているって」

私はエリカを見る。エリカはこちらを向かない。どういうことだ。

「確かに、私はみほの話をすることもあるが……」

「隊長、よくされているの間違いです……」

「エリカ?」

なぜ、あちらの肩をもつようなことを言う。ますます、誤解が生じてしまう。

「……気がついていらっしゃらないようですが、今日も隊長は副隊長ばかり見ていましたよ」

「?」

「まほさん、エリカさんは今までずっと私たちにある報告をしてくれてたんです」

武部さんが言った。

「みぽりんについて、普段まほさんがどんな事を言っているのか」

「エリカ……?」

「私は隊長に、嘘や隠し事をして欲しくないんです。無意識にしてしまっていることであっても」

「何を言っているんだ」

「……黒森峰から副隊長がいなくなって、隊長は変わりました」

「何が変わったというんだ……?」

「それは、言葉に表しにくいです。ただ、言えることが一つあります」

私は、席を立ち上がろうとした。つまり、逃げようとした。
母が見たら怒るだろう。笑われてもいいなじられてもいい。どうしても、それを聞きたくなかった。

「隊長は、副隊長が好きなんですよ」



左からみほが右から武部さんが私の腕を掴んでいる。

「私、昨日言いましたよね。鈍いにも程がありますって。まほさんは筋金入りです」

笑いながら言った。混乱しているのは私だけではなかった。

「ど、どういうことですか」

秋山さんだ。

「ごめんね。ゆかりん。敵を騙すにはまず味方からって言うし、恋は障害があった方が燃え上がるっていうし……」

「そ、そんな、武部殿ひどいであります……っ」

「あとでいくらでも慰めてあげるから」

「い、いえ。私はみほ殿の駒としてお役に立てるなら本望です!」

「ごめんね、優花里さん。でも、ここで諦めたくなかったの。少しでも希望があったから。……ありがとうエリカさん」

「……おかげで、夢にまであんたが出てきて……寝れなかったけどね」

「ご、ごめんなさい」

円卓はいつの間にか、4対1で話が進んでいた。私だけを取り残して。

「お姉ちゃん。私はお姉ちゃんが好き」

「私は……」

「逃げないで」

逃げる?

胸から全身に行き渡っているのは、西住の血だ。
それが血管を脈打つ。今は、それがひどく痛い。気のせいだ。

「隊長、嬉しい時はもっと喜んでいいんですよ」

私が何にどう反応しているのか、エリカは分かっているとでも言いたげだった。
今、嬉しいことが起こっている、と。

私はみほが好きだ、家族として、姉として好きだ。
妹に慕われて嫌な姉などいない。

大好きな妹が他の人と寄り添っていれば、それなりに嫉妬だってする。
眉間にだって皺はよる。

妹と触れ合えば、それなりに動機だってする。

だが、それがなんだ。
そんなものを愛情の証にしていいのか。

私は言い訳をしているのか。
私の気持ちは逃げていたのか。

逃げているからこんなに苦しいのか。

逃げ。それは母がもっとも嫌いとする行為だ。
負ける。それも母のプライドを傷つける。

私は、今そのどちらともを感じている。
そう、試合中に作戦負けした時のような、そんな悔しさ。

「お姉ちゃんは、普通にやっても勝てないから」

左横でみほが呟く。
悔しさを認めたら、負けを認めたようなもので、それはつまり―――。

―――妹を好きだと言っているようなものだ。

素直に認められるわけがない。
祝福されるわけもない。

私は一度目を瞑る。フラッグを上げるにはまだ、早い。
みほに向き直る。凛として、まるで車上にいる時のようだ。

「少し、二人だけで話をさせてほしい」

私はそうみなに告げた。

夜風に吸い込まれるように、私たちは川べりに沿って歩いていた。

「この辺もなんだか建物増えたね」

「まあ、戦車道をする地域は国からの援助がある。この街もその恩恵を受けているということだ。母と、母の親戚がこの街で大きな顔をできるのもそのおかげだ」

「そうなんだ。お姉ちゃんはいつかお母さんみたいになるの?」

「……ああ、そうだな」

赤みがかった月がこちらをにんまりと見ている。

「みほは、将来は?」

「私?」

「西住に帰ってくるなんて、考えてはいないのだろう」

「うん」

みほはきっぱりと言った。昔、みほには、みほの戦車道を見つけて欲しいと願ったことがある。
私が、西住に腰を据えることで、それが実現できるならそれでいいと思った。

「お母さんも私も、きっともうそんなに啀み合ってないんだろうけど、やっぱり私はここじゃないんだなって思うんだ。でもね、お姉ちゃんの元には戻って来れたらって……そう思ってるよ」

小さな頃は、ただ一緒に遊び学び、母に甘え叱られていれば良かった。

「私ね、戦車道のとある家元に養子に行こうかなって考えてるの」

「え」

「最近お話があってね、迷ってたんだ」

「お母様には伝えたのか?」

「うん」

「なんて?」

「何も言わなかったよ」

「そうか……」








「お姉ちゃんはどう思う? 反対?」

母は止めなかった。ならば、私とて同じこと。
みほの好きなようにさせる。彼女の人生だ。

「反対なんてしないさ」

こうやって、みほは巣立っていくのか。
いや、母と私がまだ地面を這っているだけなのかもしれない。
父のように、西住に縛られることないみほ。

そして、また家族がバラバラになってしまうのだろうか。
一言、行かないでとなぜ言えない。母も私も、何を強がっているのだろう。

「そこはいい所か?」

「うん」

「人は優しいか?」

「うん」

みほがいなくなって、私は以前に比べて笑わなくなったと、薄々は分かっていた。
笑顔のあふれる優しい場所に、みほを行かせてやれるなら、私は笑って送り出してやらなければならない。

家族だから。離れていたって、いつでも会える。そんな短絡的な想いが、言い訳のように浮かんでは消える。

「みほ」

「何、お姉ちゃん」

歯の隙間をくぐり抜けられないのは、行かないでくれ、という言葉だった。
私はそれを噛み砕いては飲み込んでいる。

ほら、また。

「行かないでくれ」

今度は、上手くすり抜けていったようだ。

お姉ちゃん頑張れ!

一瞬放けたのは、私自身だった。

「あ、すまない……そういうことではなく」

言い繕うも、みほはクスクスと笑っている。

「ふふ……かっこわるい……あははっ」

終いには、お腹を押さえながら足をバタつかせている。
と、体勢を崩して、

「あ」

斜め下に突っ込んでいく。コマ送りにそれが目の前で繰り広げられる。
私はとっさにみほの体を掴んだが、重さに耐え切れず一緒に転げ落ちる。
さほど、高いわけではないが、互いに川に落ちていった。

ばしゃーん! と水の跳ねる音が、夜間の住宅街に木霊した。

「みほ! 大丈夫か?」

浅い川だ。頭など打ってないかとヒヤヒヤして、すぐに、先に立って妹を引っ張り起こす。

「う、うん。びっくりした」

濡れ鼠になってしまっている以外は、特に外傷はなさそうだった。

「良かった」

私はほっとして笑みをこぼす。それから、自分とみほの滑稽な姿に笑いがこみ上げてきた。
みほも、こちらを見て口元を緩める。

「……そうやって、自然に笑ってるお姉ちゃんが見たかったんだ」

「みほ……」

私は、濡れたままみほを抱きしめる。

「すまない」

「……謝ることなんてないよ」

「いいや。私は、謝らなくてはいけない。あの試合のことも、みほに気を遣ってきたことも。自分の意地を通してきたことも」

「もういいんだよ」

みほの両腕がそっと私の腰に回される。

「私たちは互いに互いのやり方を貫いたの。それだけのことだよ」

そう言って、妹は堂々と笑っていた。

それから、二人でなめくじみたいに道路に黒いシミをつけながら家へと戻った。

菊代さんが驚いて、私たちを風呂場へ追いやった。
他のみんなも驚いてはいたが、武部さんは盛大に笑っていた。

「っくしゅん」

「早く入りなさい」

「うん」

みほがこちらをじっと見ている。

「?」

「う、うん。お姉ちゃんって水に濡れるとすごく色っぽいなあって」

「……」

私は持っていたタオルを妹の顔にかけた。

「わ、わ! 何するの」

「バカ」

「照れたの?」

「いいや、妹に欲情されて動揺するたまではない」

「ち、違うよ……そんなんじゃ」

「そうか……そういえば、みほ、私のことが怖いんじゃなかったのか」

「あれは……その、ちょっと反応を見たくて」

「反応?」

「え、ま、うん。す、過ぎたことはもう気にしないで! お風呂、お風呂先に入るよ!」

逃げるようにみほは浴室へ入っていった。

どこからが、妹の作戦だったのだろうか。
私はまんまとはめられてしまったというわけか。

武部さんのはおとりだったのか。
してやられた。

「敵わないな」

そう認めざるおえない。

翌日、エリカと秋山さんと武部さんは、用が済んだからと言って、私たちを残して帰ってしまった。
本当に、お世話になったので、せめてもう一泊していけばと伝えたが、三人が同様に首を振っていた。

菊代さんは、今日は休暇。
この広い屋敷に二人だけというのは寂しいものだ。

しかし、何より、そう、何より緊張していた。

「お姉ちゃん」

その言葉にびくりと肩を震わす。

「ど、どうしたの?」

「あ、いや」

「みほ」

「なあに?」

キョトンとした顔。

「私は緊張しているんだ」

「へ?」

「みほを見ているとドキドキする」

「そ、そんな小学生の初恋じゃあるまいし……」

「仕方がないだろう。昨日漸く気持ちにケリをつけたのだから」

「普通にしててよ。私まで緊張しちゃう」

普通。難しいな。

「昼何食べたい?」

「みほが作るのか?」

「うん、まあ」

「作れるのか?」

「失礼だよ……」

「ごめん、ごめん」

寝起きで少し跳ねすぎたくせっ毛を揺らし、頬をふくらませている。
そういったみほを見たことはないので、新鮮だった。

「何でもいいよ」

「何でもいいはダメ」

「そうか、じゃあ無難にオムライスで」

「無難にって一言余計だよ、お姉ちゃん」

「すまない」

「なんてね。食べてもらえるなら、私も何でも作るよ」

みほは小躍りするように廊下を走っていく。

みほのオムライスは美味しかった。
みほ曰く、愛情が効いてたかななどと自分でも照れながら言っていた。

「お母様より、上手かも知れない」

「うーん、というよりお母さんが下手というか……あ、今のは内緒にしててね」

「ああ。私のも秘密にしていてくれ」

「うん……あははっ」

昨日と何かが大きく変わったわけではない。なのに、こんに素直にみほと話せている。
それが、とても気持ちが良い。

「お姉ちゃん笑ってる」

「ああ」

「それならいいの」

みほは、結局養子の件についてはまた考えてみると言っていた。
先方には焦らなくてもいいと言われているようで、この1年はじっくりと自分の将来について考えるようだった。

私達は互いに知らない時間を過ごして、少し大人になった。

「お姉ちゃん、私、お姉ちゃんから好きだった言われてないよ」

唐突に姉をからかってくるのも、その時間のしからしむる所なのだろうか。
私はオムライスを吹き出しそうになって、咳き込んだ。

「あ、真っ赤になった」

「みほ、お前は」

咳き込んだせいと言いたかったが、オムライスを口に収めるので必死で言えなかった。



訂正「お姉ちゃん、私、お姉ちゃんから好きだって言われてないよ」

漸く飲み込んで、

「はい、お茶」

みほに渡された湯呑を口に付けて一息つく。

「そういうことは面と向かって言うものなのか」

「……さあ?」

みほは首をひねる。

「でも、結局お姉ちゃんの気持ち、私分からないよ」

本気で言っているわけではなかった。
それが分かったので、私も言うか言うまいか悩んだ。
しかし、言わねばならない時というのがあるのだろう。

「……好きだよ」

みほはとても嬉しそうに頷いた。

とりあえず今日はここまでです。
このあと、幸せな感じにするかそれともスリルのある感じにするかで悩んでいるのですが、
この流れだとどっちがいいでしょうか? 参考にしたいなと思います。

どっちもはダメなのか…?
展開的にはあまり砂糖吐くような甘々は遠慮しておきたいいきなりちゅっちゅイチャイチャされても困るというか

>>73
ありがと参考にする。甘甘は書けないから安心して

待っている方すいません。ネタにつまったので、
区切りもいいしこのスレいったん閉めます。

近いうちに、また別のまほみほss書けたらと思います。
ご迷惑おかけします。読んでくださってありがとうございます。ではでは。

いったんあげときます

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