まほ「まほみほ大作戦だと?」 沙織「はい!」 (76)

まほ「みほが公式試合で私が好きだと言ったらしいのだが・・・」

のハッピーエンドverにするつもりです。
流れがほとんどちがうので、↑のssを見た方は別の話として見てください。

見てない方は気にしないでください。





いつだったか、対戦した相手高の隊長に言われたことがある。


『あなたにとって、仲間や私たち対戦相手は、勝つための手段でしかないのね』


間違いではない。

私にとって仲間とは、目標を駆逐するためのもの。一つの目的を成すための手段。
そこに友情というものは存在しないだろう。そうあるように、小さい頃から仕込まれてきた。

私が仲間に説くべきは勝つための戦術だ。物心着いた時から、そう教えられてきたし、
それこそ鉄と油の匂いのようにこの体に染み付いている。


それを受け入れることができなかったのが妹だ。優しい妹。


戦車長であるみほの作戦は、黒森峰で副隊長だった時から他の生徒とは一線を駕していた。
ただし、何よりも仲間を無事に帰還させることに重きを置く。西住流と相反する。
けれど、様々な弱さがあるからこそ、油断のない作戦が練られる。

性能と物量による王道的な黒森峰高校は、妹の力を引き出すには良くない環境だったと言えるだろう。
そして、そこに我々が大洗に負けた原因がある。

悔しさはもちろんある。大洗に負け、優勝を逃したのだ。
これまで戦車道との関わりを一切絶っていた大洗高校にとって、みほは希望に等しい存在だっただろう。

私は、そんな妹を持てたことを誇りに思う。


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―――5m程後方、Ⅳ号戦車D型が一台。戦車長はみほだ。

こちらのⅢ突の走行速度に合わせて、一定の車間距離を保っている。
この機体は古い型だが、西住流に実戦を想定して作られており、本来なら開閉できていたキューポラとハッチのいくつかが塞がれている。
みほにとってとても思い入れのある機体だった。

小さい頃は、二人で隠れんぼに使っていた時もあったし、みほはぐずるとよくあの中に隠れていた。
あの頃の私たちは、母の言う『実戦』をまだ理解できていなかった。私たちがまだ本当の厳しさを知らなかった頃のことだ。

Ⅳ号車のハッチが動いたのが見えた。

みほが私の視線に気がついて、唯一開閉できるハッチから顔を出して小さく手を振っていた。
砂利道にも関わらず、しっかりと体幹を固定している所、さすがと言うべきか。
まるで、戦車と一心同体である。すぐに、みほの友人である秋山さんが身を乗り出して、右手で敬礼していた。

みほは困ったような顔で笑っていた。私も目を細める。やや斜めえ上に視線を向け、咽喉マイクに指を添える。

「雨が降りそうだ。少し急ぐぞ、みほ」

返事は早かった。

「分かったよ、お姉ちゃん」

こちらもⅢ突内のエリカらに指示を出す。

こんな話がある―――。

大洗と黒森峰の試合が終わった後、みほへのインタビューで私の話題になった時のこと。


『お姉さんのことはどう思っていますか?』


という質問に対して、


『え、え、あ、好きです』


生中継の全国放送。会場がどっと沸いた。私は、その試合会場にいた。矛先が今度は私に向けられた。


『お姉さんはどうですか?』


明らかに面白がっている記者。切られるシャッター。今でも思う。みほ、どうしてそんなポイントのずれた返答をしたんだ。
そう言えば、エリカがなぜか鼻息を荒くして、みほの方を睨みつけていたっけ。後輩が必死にエリカを抑えつけていた。


『ありがとう。私も……好きだよ』


―――他になんと答えればよかったのだろう。


「はあ……」

「隊長?」

エリカかが下から心配そうに声をかけてくる。

「ああ、なんでもない」

問題はこの話に尾ひれがついて、『西住姉妹はできている!』等と言った
くだらない内容の記事がスポーツ誌や週刊誌に書かれたということだ。
もちろん、すぐに母の圧力がかかったが。

メディアでは一部の地方紙を覗いて取り上げられなくなったが、学校の生徒に母の圧力は効かない。

『あの、西住さんって』

『違う』

『あのぉ、まほさん!?』

『NO』

『で、できてるの?!』

『……やめてくれ』

『隊長!』 

『……エリカ』

頭の痛い生活がいまだに続いている―――。

エリカと西住の門下生を見送ってから、家の門をくぐる頃には午後7時を回っていた。

「お姉ちゃん」

壁際に寄り添うように立っていた影が揺り動く。みほだった。

妹は走って来て、私の腰に手を回して抱きしめようとして、

「他の人は?」

ふと我に返ったようだ。私の隣にいたエリカが片腕を私の前に伸ばしていた。

「あっと……」

みほが後方を振り返る。玄関付近に武部さんと秋山さんが立っている。

「みほは小さい頃から、たまに人目を気にしない所があるな」

「ほんと、こっちは気苦労が絶えませんよね」

みほが頭を垂れる。

「ご、ごめんなさい……」

「いや、気にするな。待たせてすまない。夕飯にしよう」

「でもいいの?」

みほは遠慮がちに言葉尻をすぼめていった。

「ん? 何がだ」

「お母さんに会ったら私また……」

「みほ、お母様は今日から1週間、陸軍の士官学校の合宿に、教導官として呼ばれている」

「え?」

「だから、今日は私たちとあと菊代さんだけだ」

「そ、そうなんだ」

みほは軽く2度頷いた。私は少し笑った。

「それに、私がみほと話したかったから呼んだんだ。お母様に知られてもみほに責はない」

「お姉ちゃん……」

「だから、お互い今日はゆっくりしていこう」

「うん、ありがとう」

先の噂の件もあり、さらに母子の関係が悪化した。もちろん、母が一方的にみほを煙に巻きたがっているだけだが。
それを、みほに伝えるのは止めておこう。どうせ、それも今日で終わりなのだから。

夕飯は菊代さんがかなり奮発したらしく、今までにないくらい豪勢なものだった。
当の菊代さんは水を差すと思ったのか、自己紹介だけ済まして奥に下がってしまった。

「西住殿! おいしすぎて舌がとろけそうであります!」

「う、うん。ゆっくり食べないと喉つまらせちゃうよ」

「ゆかりんってば、もう……でも、さすがみぽりんの実家だよね。こ、この戦車みたいな……どこからも手を付けがたい鉄壁の鯛の刺し盛りに驚愕よ」

「あなたたち、もっと節度ある振る舞いはできないのかしら」

エリカがまるでお母様のような物言いをするものだから、私は少しおかしくて噴き出してしまった。

「ほら、隊長が困ってるでしょ」

「ご、ごめんねお姉ちゃん」

「いやいや、西住殿が謝ることではないですよ」

「それ、あなたの台詞じゃないでしょ」

「うるさい人ですねえ」

「何ですってぇ……?」

エリカが秋山さんと火花を散らせていた。みほがそれを慌てて止めようと、間に入っていく。あの二人を隣にしたのは失敗だったか。

「というか、逸見さんて普段も隊長呼びなんですか?」

武部さんが私に質問する。

「ああ、そうだ」

「まほさんは逸見さんの事なんて呼んでるんですか?」

「エリカ」

「はい、隊長!」

呼んでもないのに、エリカがこちらを振り返って笑顔で返事をしていた。

「日常的にも上下関係が?」

秋山さんはなぜ少し嬉しそうな顔をしているんだろう。

「黒森峰だから?」

「戦車道だからだよ」

みほが言った。二人の口からなるほど、と言う声が上がる。

「元副隊長に言われてもねえ……」

エリカがぼそりと言うものだから、秋山さんがまた突っかかっていく。

「二人とも落ち着いてよー……ご飯食べようよー……」

みほがおろおろとまた仲裁に入っていた。

「犬猿の仲……いや、どっちも犬っぽい?」

「エリカ……」

「あの、まほさん……」

武部さんが、いつの間にか隣に座っていた。かなり真剣な面持ちで。

「何だ?」

「その、今日は一緒に来ちゃってすいません」

「いや、みほから聞いていたことだ。わたしこそ、エリカが来るのを止めなかった」

「それは、やっぱりエリカさんにも誤解を解いてもらうためにですよね……?」

「ああ、そうだ。みほもあなたたちもそのつもりできたのだろう?」

「そうです」

「みほも、学校で大変だろう」

「そうですね、やっぱり公衆の面前であんなことを言い放ってしまっているので、特にみぽ……みほさん大好きな人達の阿鼻叫喚と言ったらないです。そこの秋山犬も初めの方は……」

「みほは車上では突発的な事態への対処がずば抜けているんだが……」

「普段は天然ですからね……」

「どうか、妹をよろしく頼む」

「……まほさんから言われると、とても重いものを感じます」

「そうか?」

「でも、これから大変なのはまほさんの方じゃないですか」

「……どういう?」

武部さんが、口の端を少しだけ上げる。

「だって、みほと付き合いだしたら色々と障害が」

「……は?」

「え?」

「うん?」

「今日、あなたたちを呼んだのは、その誤解を解くためだが……?」

私は、耳がおかしくなっただけだと思いたかった。

「き、今日私たちが来たのは、みほとまほさんのお祝いをしに……あ、これプレゼントです……じゃなくて、え、え!? うぐ!?」

私は武部さんの口を素早く閉じて、

「みほ、ちょっと武部さんが食べすぎてしんどいそうだ。トイレに案内してくるから」

「え? 沙織さん大丈夫? 私も」

心配そうに、みほが片足を立てる。私は武部さんに耳打ちした。

「だ、ダイジョウブヨミポリン」

「どうして片言なの?」

不思議そうに首を傾げるみほ。私は内心焦りながら、引きずるように武部さんを廊下へと連れ出した。

「どういうことだ? なぜそんな話に?」

「そ、それはこっちが聞きたいことですよ。みほと付き合うんじゃないんですか?」

お互いに小声で話す。私は無言で首を振った。
「そ、そんなみほは、今日嬉し涙まで流してたんですよ!?」

「そんなことを言われても……そもそも、あのインタビューは……」

「あれ、本気だったんですよ。気が付かなかったんですか」

武部さんは少し怒ったような口調だった。気が付けるわけがない。なにせ私たちは、

「私たちは姉妹で、女同士なんだ……そういった感情を向けられるなんて思ったことすらない」

私は頭を抑えた。

「鈍いにも程があります……」

「鈍いでけっこう。仕方がないな……」

「え、どうするんですか」

「誤解を解くしかないだろ。まあ、そもそも今流れている噂を断つためにここに呼んだのだが……」

「みほの気持ちは……」

武部さんと秋山さんが来た理由は、みほを見守りに来たということか。
どうして、こうなる前に私は気づくことができなかったのだろうか。何か前兆はあったか。

「どうするんですか?」

記憶を辿ろうとして、はっとなり、私は武部さんを見た。

「それは……」

「今、事情が分かったまほさんに酷なことを言ってるっていうのは分かってます。でも、みほ今幸せの絶頂期なんですよ……? それを、お姉さんは地獄に突き落とすことができますか?」

できる、わけがない。だが、やらなければ誤解をますます招く。

「さっき、お母さんが1週間いないって言ってましたよね」

「ああ、まあ」

「なら、せめて1週間だけでも……猶予をください」

「猶予?」

「必ず、みほを好きにしてみせます……! 名付けてまほみほ大作戦!」

これが仲間――。私の脳裏にふとそんな単語が浮かんだ。


武部さんの『まほみほ大作戦』は今日の夜からさっそく開始された。私に拒否権はないとばかりに。
わたしとみほを同室にして、エリカと武部さん秋山さんを同じ部屋にする。
そうすることで、私たちの仲を深めようということだった。

そもそも、一緒の部屋で寝ることは子どもの頃に経験済み。さして、驚くことはない。

ただ――、

「え? どうして、寝るならみんなでお布団敷いて寝ようよ」

「んもう!」

その作戦は当の妹によって打ち砕かれるが。




菊代さんと共に大部屋に5人分の布団を敷いて、さあ寝ようとなった時、

「まくら投げしましょう!」

「はあ?! 人様の家でなにぶをぉ!?」

闘志に燃える秋山さんがエリカに電撃戦を繰り広げ始める。
その横で、武部さんが一騎打ちのジャッジをしている。いつの間に仲良くなったのか。

「お姉ちゃん……」

そうだ、忘れていた。

「お風呂行こうよ」

どっちにしろ、追加投入された、武部さんの『お風呂は家族水入らず作戦』とやらが待っているのだった。

今日はここまでです。のろのろ続きます。

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