エイラ「せ、赤軍大粛清……?」(279)

1945年

 カールスラント崩壊後、リベリオン合衆国へ亡命した研究者、アルバート・アインシュタイン主導による研究成果により『マンハッタン計画』は成功を収めた。

 同年の6月に北アフリカのネウロイの巣攻略戦に複数投入され、人類史上快挙とも言える完全殲滅を成し遂げた。

 8月には同様の爆弾「ファットマン」がヨーロッパ方面でも投入され巨大なネウロイの巣を焦土に変えている。

 なお、余談だがカールスラントが開発した戦略報復兵器V1、V2に搭載されて使用された新型爆弾は後に『世界初のI.C.B.M』と呼ばれることになる。 

 また、戦争末期から戦後にかけて対ネウロイの消耗戦で疲弊した大国オローシャ帝国の王室は倒れ、東ヨーロッパを中心に急速に共産主義が台頭した……

 国土を奪還したカールスラントもこの動きに巻き込まれ資本主義政権と共産主義政権、二つの政府が相次いで樹立。 (なお国土奪還を成し遂げたナチ党は総統の死後、弱体化した)


 翌1946年.....

 首都ベルリンには物々しいチェックポイントが置かれ互いの出入りを厳しく監視していた。

エイラ「戦争が終わったのにオラーシャに入れないってどういうことダヨ!」

ミーナ「エイラさん……」

エイラ「一緒に両親を探すって約束したんダ! サーニャと!」

ミーナ「ええ、でも我慢するしかないわ。 スオムス、オラーシャ国境地帯は今やホットゾーンなのよ」

エイラ「サーニャぁ……」

ミーナ「トゥルーデもエーリカも東カールスラント軍属になったわ、あの子達は大丈夫かしら?」


 ネウロイとの生存競争が一応の集結を見たことで多くのウィッチは除隊の道を選んだが、続けて始まった冷戦の渦中に身を投じたウィッチも少なくなかった。

 故国を失い、物心ついた頃より戦いに身を投じていた少女たちに、戦うこと以外の生き方を教えてやれる余裕のある者など多くはなかったのだから……

 そんな中、迎えた1951年暮れ。

 ひとりのカールスラント元エースが東側の飛行脚を手土産にオーバーザフェンスを図ったとの知らせがSRDF(スオムス国防軍緊急展開部隊)で軍務に服していた、エイラの耳に届く。

 エイラはその名前を聞いて、思わず聞き返した。 

 亡命を図ったのはゲルトルート・バルクホルン……規則にうるさい堅物と評したその人であった。

ベルリン某所。

エイラ「SRDF所属のエイラ・イルマタル・ユーティライネン ダ。 通るゾ……」

リーネ「え、エイラさん? ま、待ってください! 今はMI6が取り調べ中で……」

エイラ「ウルサイ! やっと見つけたサーニャの手掛かりナンダ!」

バーン!

MI6局員「っ! なんだ君は!」

ミーナ「ちょ、エイラさん?」

バルクホルン「……エイラか、変わらないな」

エイラ「バルクホルン……カ?」

 懐かしい同僚を前にして、エイラは一瞬固まってしまった。

 別人のようにやつれた顔、生気のない瞳をした目の前の人間が自分の知るバルクホルンとはあまりにかけ離れていたから……

バルクホルン「相変わらず失礼な奴だな……ほかの誰に見えるんだ?」

エイラ「で、デモ……何があったんダヨ……」

 思わず、そう聞いたエイラにその場にいたエイラと当人以外の全員が顔を晒した。

バルクホルン「……聞きたいか?」

エイラ「オ、オウ」

バルクホルン「私が……」

ミーナ「トゥルーデ、もういいわ。 私が……」

バルクホルン「ハルトマンが死んだよ」

エイラ「!?」

バルクホルン「勤務態度が目に余ると口を滑らした。 オラーシャの赤軍から視察に来ていた軍事顧問の目の前で」

エイラ「だ、だからどうしたって言うんダヨ」

バルクホルン「次の日。 ハルトマンはオラーシャの再教育部隊に転属になった」

ミーナ「……」

バルクホルン「前日、私はアイツとくだらないことで喧嘩をしていたんだ……そして、その時は「しっかり教育を受けてこい」と尻を叩いて送り出した……」

MI6局員「君は……」

バルクホルン「知っていたかと聞きたいのか? 知らなかった! 私は知らなかったんだ!」

エイラ「なぁ、ミーナ。 どういうことダヨ?」ひそひそ

ミーナ「……私も詳しいことはしらないわ。 でも、ここ、ベルリンには多くの亡命者がいて……」ひそひそ

エイラ「そんなことはどうでもイイ、再教育部隊とかなんの話なんダヨ」

ミーナ「……粛清よ。 共産圏で反共産主義的思考を持つ軍属を銃殺、または強制労働させる」ひそひそ

エイラ「それじゃ、中尉は……」ひそひそ

ミーナ「エーリカは……」

バルクホルン「きっと、ハルトマンは知っていたんだ! トラックに連れ込まれる時に泣きながら最後まで私の名前を!」

バルクホルン「私は! 私はエーリカを売ったんだ! 私があんなことを言わなければエーリカは!」

 そう叫ぶと、バルクホルンは机の上に置いてあったライトを力任せに壁に叩きつけ、スチール製の机を滅茶苦茶に叩き始めた。

 まるで、過去の自分を重ねているかのように……

ミーナ「トゥルーデ! 落ち着きなさい!!」

MI6局員「取り押さえろ! 鎮静剤を!」

リーネ「な、何が……」

 そこから先は、もう私が質問できるような雰囲気じゃなかった。

 ウィッチ三人がかりで魔力開放までして暴れるバルクホルンを押さえつけ、医者が無理やり鎮静剤を打つ。

 その間もバルクホルンは中尉に許しをこい続けていた……

 数時間後
 
 取調室前廊下

 

ミーナ「残念だったわね。 サーニャさんの事、結局何も聞けずじまい……」

 遠くからわざわざ来たのに、という言葉をミーナは飲み込んだ。
 

エイラ「ナァ、大佐……」

ミーナ「何かしら?」

エイラ「サーニャは無事だヨナ……」

ミーナ「ええ。 きっと……」

リーネ「あの……」

エイラ「?」

リーネ「バルクホルンさんがエイラさんとお話したいと……」

エイラ「あ、アァ」

 正直、一度出直そうかとも考えた。

 元とはいえ、肩を並べて飛んだ戦友の変わり果てた姿をこれ以上みるのは……辛かった。

 それでも、再び取調室に足を踏み入れたのは、サーニャの事があったからだ。

 ここまで来て何も分からずじまいで帰れるか。 そんな悲愴な決意もあった。

バルクホルン「先程はみっともない姿を見せてすまなかったら」

 拘束服を着せられ、鎮静剤の影響かろれつの回らないバルクホルンから思わず目をそらす。

エイラ「あ、あぁ……イイヨ、ベツニ」

バルクホルン「……サーニャの事ら」

 まさかのビンゴ。
 
 中尉の事を聞かされていなければ小躍りして飛び出していたかもしれない。

バルクホルン「にげらすまえ、わらしは、ハルトマンが生きているとしんひて軍の記録をあさったんら」

 バルクホルン曰く、共産主義圏では軍の情報はトップレベルの機密扱いで、特に「本国」であるオラーシャの情報はほとんどないと言ってもいいらしい。
 
 そんな中、必死で中尉の形跡を追っていたバルクホルンは、とある記録に前戦争のエースの名前を見つけた。

エイラ「それが、サーニャ?」

バルクホルン「そうら、戦時中ならともはふ、今の……共産主義の盟主国としてのオラーシャは英雄なんてひつようとしていなかっら」

エイラ「つ、つまり……なんだって言うんダヨ?」

バルクホルン「サーニャはベルリン開放に立ち会っら陸軍部隊とともに北極へ派遣されら」

エイラ「ほ、北極!? なんでダヨ!」

バルクホルン「わからない、でも、その部隊はそこで……」

エイラ「そ、そこでどうなったんダヨ! 答エロ! 答エロヨ!」

バルクホルン「……同時期に派遣されたブリタニア軍のSASと交戦して全滅しれいる」

エイラ「そ、そんな……そんな馬鹿な話信じるわけないダロ!」

バルクホルン「……」

エイラ「なんで、なんでダヨ! どうしてなんダヨ!」

 もっと早く行動していれば助けられたのかもしれないという自責の念がエイラを蝕む。
 
 それは、もう、ずっと前からエイラの心に巣食っていた不安が改めて形を得た化け物だった。
 

バルクホルン「もし……」

エイラ「聞きたくない!」

バルクホルン「聞け! ユーティライネン中尉!」

エイラ「!?」

バルクホルン「もし、希望があるとするならば、強制労働収容所ら」

エイラ「ど、どういうことナンダ?」

バルクホルン「その部隊に生存者は3名いて、その三人とも名前は伏せてヴォルクタの強制労働収容所に入れられている」

エイラ「……サーニャかもしれないってことカヨ?」

バルクホルン「……航空脚を履いて上空にいたのなら逃げられら可能性が高い」

エイラ「……わかった、ありがとナ」

 エイラはゆっくりと扉を開け廊下へ出る。
 
 そして、思い出したように振り返り……

エイラ「大尉」

バルクホルン「ん?」

エイラ「大尉ダヨ、私の階級」

バルクホルン「昇進したのか……」

エイラ「じゃあナ」

 エイラは後ろ手で扉を閉め、いつの間にか目の前に立っていたリーネに向き直った。

リーネ「行くんですか?」

エイラ「聞いてたノカ?」

 質問を質問で返す。 リーネの背後には先程のMI6の局員も立っており、面会が許されたのは盗聴でもされていたからだろうと当たりをつけた。

リーネ「自殺行為です」

エイラ「ソウカモナ」

MI6局員「SRDFの隊員がオラーシャ国内で確認されたとなれば第二次世界大戦に発展す……」

エイラ「糞くらえダナ」

ミーナ「……どうしても行くの? あなたはもう魔女ではないのよ」

エイラ「なんのことかわからナイナ。 私は国に帰るんダ」

 そう言うと三人を押しのけ、施設の出口へと足を進める。
 
 そこにいる誰もがエイラを止めなければならないと思っていたが、もはやエイラはスイッチの押されたI.C.B.Mと同じで目標に突き進むことしかできなかった。


 そして1953年……

 あの後、すぐに本国に飛んで帰ったエイラはその足で軍を除隊した。

 軍のバックアップを全く受けられない状況ということも相まって、準備にまる一年もかかってしまったが東側ゆきの偽装旅券や、リーネに無理を言ってMI6が利用する東側の貿易会社の社員という偽装身分も手に入れた。
 
 そして、今、エイラはコノシャ・コトラス鉄道に揺られている。 エイラの肩書きは亡命スオムス人の労働者、秘密警察にでも押し通す自信があった。

エイラ「まってろヨ、サーニャ」

 労働者達は皆一様に疲れたような目をしていたが、エイラの目にはギラギラとした光が宿ていた。

 やがて、列車は停止し幾人かの労働者と共にエイラもホームに降りる。
 
 そこは死と石炭の街。 ヴォルクタ。

 他に降りた者達は皆、おのおのの職場へ向かうがエイラの目標は一般の採掘場ではなく、そびえ立つ高い塀の中である。
 
 入口の付近で、あらかじめ、電車の中で金を渡しておいた搬入トラックの運転手が来るのを待つ。
 
トラックの運ちゃん「本当に行くのかい?」

エイラ「アア」

トラックの運ちゃん「……乗りな」

 食料搬入トラックは守衛にほぼノーチェックで入口を抜けた。

エイラ「中尉がよくいってたっけナ……営倉なんかは外から入るのは案外簡単なんだッテ」

 トラックから降り搬入作業を行うフリをしながら、頃合を見て抜け出し採掘現場へ足を踏み入れる。

 地下に潜り込んでからの中の状態は……はっきり言って想像以上だった。

 不衛生で、収容者達は遠目にも衰弱しているものが多く、赤軍の兵士が怒鳴り散らす。

 エイラは必死に若い女性の姿を探したが、女性はかろうじてそれと分かるだけで煤で汚れた顔や、伸ばしたまま、乱れたままにしている髪のせいでまるで老婆のように見える。

エイラ「……クソッ」

 こんな環境でサーニャのようなか弱い少女が生きていけるのか……
 
 そんな不吉な思考が頭をよぎるが必死に否定する。
 
エイラ「まっててくれヨ、サーニャ……」

??「ねぇ……」

 突然、背後から声をかけられる。 と同時に腰に巻いたナイフを抜き取り背後の人間めがけて振り抜く。

エイラ「ガッ!?」

 だが、ナイフの切っ先が、目標に届く前に腕を抑えられ、次の瞬間に宙を待っていたのはエイラの方だった。

??「キミ、外の人だろ……って、嘘……」

 暗くて仰向けに倒れているエイラからでは確認できないが、目の前に立つ人物は少なくとも赤軍の兵士ではないように見えた。

??「エイラ?」

 突然、エイラの首筋にポタポタと水滴が落ちる。

 声は長い炭鉱生活ですり減らしたように枯れて、涙に震えているが……エイラには聞き覚えのある声だった。

エイラ「もしかして……中尉カ?」

??「……うん」

エイラ「何泣いてんダヨ。 らしくないゾ」

 とりあえず立ち上がってから、元同僚の涙をふく。
 
 この辺の方法は部隊が解散になったあとにミヤフジからレクチャーされたノウハウだ。

エーリカ「……ぐすっ、どうしてこんな所にエイラがいるのさ?」

エイラ「そ、そうだ! サーニャ! サーニャはここにはいないノカ!?」

エーリカ「サーニャ? ううん、見てない」

 ハメられた。
 
 その瞬間、エイラはバルクホルンの思惑に気づいた。

 サーニャをチラつかせればエイラは命をとしてここに乗り込むだろうと踏んで、その実、中尉の救助に向かわせたのだ。
 
 堅物の元同僚らしい、回りくどい、だが確実な作戦だった。

??「サーニャ? 同志リトヴャクの事か?」

 そう言いながら暗がりから現れたのは傷だらけの女性。

エーリカ「レズノフ!」

??「初めましてだな、スオムス人。 私はヴィクトリーヤ・レズノフ……」

エイラ「あー、私は……」

レズノフ「君のことは同志エーリカからよく聞いている。 優秀な航空魔女だそうだな」

エイラ「もう、魔女じゃねェヨ」

エーリカ「そんなことより、レズノフ。 サーニャの事を?」

エイラ「そ、そうダヨ! どうなんダ!」

エーリカ「ちょ、馬鹿! あんまりでかい声で話すなって!」

  |┃三     , -.―――--.、
    |┃三    ,イ,,i、リ,,リ,,ノノ,,;;;;;;;;ヽ
    |┃    .i;}'       "ミ;;;;:}

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    |┃    |  ー' | ` -     ト'{
    |┃   .「|   イ_i _ >、     }〉}     _________
    |┃三  `{| _;;iill|||;|||llii;;,>、 .!-'   /

    |┃     |    ='"     |    <   話は全部聞かせて貰ったぞ!
    |┃      i゙ 、_  ゙,,,  ,, ' {     \  >>1はシベリア送りだ!
    |┃    丿\  ̄ ̄  _,,-"ヽ     \
    |┃ ≡'"~ヽ  \、_;;,..-" _ ,i`ー-     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |┃     ヽ、oヽ/ \  /o/  |    ガラッ

レズノフ「彼女なら、今日開放されるはずだ。 いや、ここにいる同志皆が……」

エーリカ「……ここにいるんだ?」

レズノフ「ああ、同士ともよべんゲス共に気に入られている……地上にいるはずだ」

エイラ「な、なんの話をしてるんダヨ」

レズノフ「運が良かったな、スオムス人。 歴史的な瞬間が見れれるぞ」

 その時、一発の銃声が響き……

 続いて大勢の人間の叫び声がとどろき始めた。

レズノフ「自由への一歩目だ」

エーリカ「鍵を手に入れろ……」

 中尉がポケットから取り出した鍵束を受け取るとレズノフは暗がりに消えていく。

レズノフ「自由は君たちのものだ! 同志エーリカ!」

 最後にそう言って完全に見えなくなると、中尉はエイラの手を引きレズノフとは別の方向に歩き出した。

赤軍将校「サーニャたんぺろぺろ」

エイラ「お、おい 私たちもあっちから逃げれるんじゃないカ?」

エーリカ「駄目だよ。 あっちに行った人たちはきっと皆……」

エイラ「じゃ、じゃあ止めないと!」

エーリカ「……」

エイラ「どうしたんだよ中尉!」

エーリカ「もう……私は嫌なんだよ」

エイラ「え?」

エーリカ「エイラはさ……想像したことある? 昼も夜もわからない場所で倒れるまでスコップを振って、倒れたって水もなくそこらへんに転がされるだけで!」

エイラ「ちゅ、中尉……」

エーリカ「……とにかく、サーニャを助けるんでしょ?」

エイラ「そ、そうダ! サーニャはここにいるんだな!?」

エーリカ「多分、レズノフが嘘をつくとは思えない」

エイラ「案内してクレ!」

エーリカ「わかった。 でも、ひとつだけ聞かせて……」

エイラ「ああ?」

エーリカ「サーニャがどんな状態でも、冷静を保てるって約束できる?」

エイラ「……どういう意味ダヨ?」

エーリカ「わたしとサーニャが合わなかったのはきっと作業場が違うから……でも、ここに5年もいたんだ。 だいたいの顔は知ってる」

エイラ「だからどうしたんダヨ?」

エーリカ「……まぁ、いいや。 行こう。」

エイラ「ま、まてヨ!」

 先に立って走り出したエーリカについて走る。

 レズノフのかろうじて聞き取れるオローシャ語や中尉の態度からなんとなく嫌な予感がした。

 ウィッチ時代からエイラはこの感覚を信じて生きのこって来たが、今だけは外れてくれるよう願うしかなかった。

肉便器サーニャンとかまじ勘弁

エーリカ「眩しい、やっぱり眩しいや……」

エイラ「そうか? 雪も降ってるし曇ってるゾ」

エーリカ「……」

エイラ「いいから早く案内してくれヨ!」

エーリカ「……わかったよ」

 エイラはとにかく中尉について走った。

 周囲では激しい銃撃戦が巻き起こり、超兵器としか言いようのない多銃身の機関銃をばら撒くリベリオン人の姿などが見えたが、そんなことを気にしている暇などないくらいに走った。

エーリカ「多分、ここだよ」

 そこは……収容所には不釣合な建物……
 
エーリカ「レズノフは将校に取り入ってなんどか入ってたから知ってたんだと思う」

エイラ「なんダヨ」

エーリカ「……」
 
エイラ「ここは……なんなんダヨ?」

エーリカ「……娯楽室だよ、赤軍将校用のね」

エイラ「そんなことは聞いてねーんダヨ! なんでサーニャが!」

 エイラは思わず中尉の胸ぐらをつかんで声を張り上げていた。
 
エーリカ「私に言われたって知らないよ。 でも、きっとサーニャが労働に回されてたらきっと生きてなかったと思うけど?」

エイラ「でも、でも! こんなのってないダロ!」

 そこまで聞くと中尉はエイラの手を振り払い、突き放す。

エーリカ「言ったよね? どうなってても冷静さを失うなって。 大体、確認してもいないのに悲劇のヒロインぶらないでよ」

ざわ…

 冷めた目で言い放ち、扉を開け放つ中尉。
 
 エイラは思わず扉から目をそらした……

エーリカ『大丈夫! 危害は加えないから! 人を探してるんだ!』

 中から叫び声や泣き叫ぶ声が響き、中尉がオローシャ語で中に叫び返す。

エーリカ「さぁ、エイラ」

 エイラは目を固くつぶったまま中尉に手を引かれ中に入った。

エーリカ『大丈夫だから!』「サーニャ! いるなら、出てくるんだ!」

 中尉がブリタニア語で呼びかけたのは無駄な混乱を避けるためか……

??『……ハルトマンさん?』

 エイラは確かに聞いた。
 
 夢にまで見た美しい声を。

エーリカ「サーニャ……ははっ、久しぶり」

??「ハルトマンさんこそ、外は危ないわ 大暴動だって……」

エーリカ「そうだね。 私たちが起こしたから」

??「そんな……隣にいるのは?」

エーリカ「……ほら」

 エイラは寒さよけにかぶっていた帽子で顔を隠していたが、中尉が無理やりそれを剥ぎ取る。

エイラ「あっ!」

サーニャ「!」

 最後に会ってから8年……月日は愛しい親友をさらに美しく輝かせていたが、こと、エイラが親友を見間違えるはずもなかった。

エイラ「サーニャ……」

サーニャ「エイラ……」

 次の瞬間、パンっと頬をはる 乾いた音が響いた。

サーニャ「エイラの馬鹿」

 エイラは痛む頬を抑えながら、親友を見つめる。

エイラ「ご、ゴメン……」

 昔のようにとりあえず謝ってしまう、自分が情けない。

サーニャ「いつもわたしの為に危ないことばかりして……どうして私の気持ちを考えないの?」

 震える声で言い切ると愛しい親友はエイラの胸に飛び込んだ。

エイラ「ウワァァァァン ゴメン、ゴメンヨサーニャ!」

サーニャ「嫌い、エイラなんて嫌いなんだから……!」

エイラ「サーニャぁ……」


エーリカ「あー……いいかな?」

エイラ「!」

エーリカ「とにかく、ここから逃げないといけないんだけど」

サーニャ「逃げる? 無理よ」

エイラ「無理じゃナイ! 私は絶対にサーニャをここからつれてかえるんダ!」

サーニャ「……できない」

エイラ「どうしてダヨ!」

サーニャ「私が逃げたら、お父様やお母様がどうなるかわからないもの……」


 その言葉にエイラは思わず引きつった声を上げた。

 忘れていたのだ。 完全に。

エーリカ「そのことなんだけど……いいや、後で説明するよ」

エイラ「な、なんダヨ」

エーリカ「いいから、サーニャも早く!」

サーニャ「でも……」

エイラ「今は中尉を信じるしかないダロ! 早く……」

エーリカ「……はぁ、そんな格好じゃいくらオラーシャ人でも風邪ひくに決まってるだろ?」

 中尉が近くの椅子にかけられていた将校用のコートを、下着姿に等しい格好のサーニャにかけてやる。

エイラ「……あー! 中尉! それは私の仕事ダロ!」

エーリカ「いつまでたっても気がきかないから私がやったんだろ……」

サーニャ「エイラ……」

エイラ「う、ウアワァァァン!」

エーリカ「というか、いつまでもやってるわけにはいかないんだよ! 早くしないと列車が来ちゃう!」

サーニャ「列車?」

エーリカ「あと少しで石炭搬送用の列車が近くを通るんだ、それに飛び乗って脱出する計画なんだよ!」

サーニャ「大変……! 」

やっぱりズコバコやられちゃってんのか…


 中尉とサーニャは泣き崩れるエイラを無理やり立たせレズノフとの合流地点へ走り出す。

 目の前にある希望が三人を奮い立たせていた。(若干一名、へたれているが……)

数分後

エーリカ「レズノフ!」

レズノフ「おお、来たか同志エーリカ」

 飛び込んだ三人の前には4台のバイクが並べられていた。

レズノフ「六歩目までは上手くいった。 これが最後の一歩だ」

 倉庫の壁に向かってぴょんぴょん跳ねている謎のリベリオン人がいるがエイラ以外誰も気にしていないようなので、エイラも気にしないことにした。

レズノフ「行きましょう、メイソン」

 謎のリベリオン人が突然猛ダッシュしてヘッドスライディングした挙句にありえない体制からまるで空中を移動するようにバイクに飛び乗る。

エイラ「なんなんだよ、コイツ」

レズノフ「信用できるぞ。命をかけてもいい」

エイラ「そういう次元じゃネーダロ、コイツ」

サーニャ「人をそんなふうに言うのは良くないわ、エイラ」

エイラ「で、でもサーニャ!」

エーリカ「とにかく急がないと、バイクに乗るんだ!」

エイラ「……オイ、バイク足りてネーゾ」

 エイラがまたがると同時にレズノフと謎の男はバイクを発進させていってしまう。

エーリカ「あり、バイクは苦手だっけ? ならサーニャはこっちに……」

エイラ「ふ、ふざけんナヨ! サーニャは私の後ろに乗るンダ!」

エーリカ「ははっ、それでこそエイラだね……急ごう」

 サーニャがしっかり腰に掴まったのを確認してからエイラはスロットルを開け、ギアをつなぐ。

 飛行脚ほど訓練は受けていないし、シャーリーほどうまく運転できないがサーニャを後ろに乗せてみっともないところは見せられない。

エイラ「いくぞサーニャ!」

サーニャ「うん!」

エーリカ『ウーラー!』

 中尉が窓を突き破って走り去っていくのをエイラはただ見送った。

エイラ「エンストした!? 嘘ダロ、ありえねーッテ!」

サーニャ「エイラ?」

サーニャはスタ公のお気に入りだから酷い目にはあってないよ
http://beebee2see.appspot.com/i/azuY9YajBQw.jpg

>>131
このヒゲおやじどもが…!

エイラ「かかった! 今度こそ行くゾ、サーニャ!」

サーニャ「代わる? エイラ」

エイラ「だ、大丈夫ダヨ! 今度こそ!」

 中尉に遅れること数十秒後、二人を載せたバイクは他の三台が開けた穴とは別の窓を突き破り、外に飛び出す。

エイラ「あっ!」

 ガンッ

赤軍将校「ぶべらっ!」

 飛び出した先で先に逃げた中尉を狙っていた将校を轢いたようだが、気にしてはいられない。

 そこから先はなんだかんだで上手くいった。

 というよりも追っ手は先に逃げた三人に集中していて、二人にかかることがなかったのだ。

 二人は無事に目標の列車に飛び移り、はるか前に飛びうつっていたエーリカと合流しオラーシャから東カールスラントへ列車に揺られ。

 西側のチェックポイントで亡命の旨とエイラがMI6の担当官名を述べ、無事に西カールスラントに脱出した。

ムッソリーニ「うじゅじゅ~」

設定は細かいけど細かいことはあんまり気にせずみるといいねー何言ってんのかわかんね

 後日......

エイラ「懲役15年か、受勲歴剥奪の上で不名誉除隊ネェ……」

 エイラはスオムス国防軍中央司令部に出頭を命じられ、まだ辞表を受理していない旨と、今回の処分を聞かされた。

エイラ「どーすっかナァ、明日から何して食べてけばいいか見当もつかないナ」

 公園のベンチに座りぼーっと空を見上げる。
 しばらくそうしていると、遠くからやかましいバイクの音が聞こえた。

エイラ「なんだよモー……公園の中ダゾ?」
??「いやー、探す方の身にもなれって! このクソ寒い中でお前を探して朝からだぞ?」
エイラ「悪かったナ。 サーニャは元気か?」
??「うちに亡命を希望した以上、KGBの好きにはさせないさ~ もっとも、他の奴に取られちまうかどうかまでは責任取れないけどな! あたしとか!?」
エイラ「!」
シャーリー「HAHAHA!! じょーだんだよ、じょーだん。 さっさと乗れよ、飛行機の時間に遅れるぞ?」
エイラ「これからどうなるンダ?」
シャーリー「さぁねぇ……ま、なるようになんだろ」

 なるようになる。
 そう、きっとなるようになるだろう。
 これからはサーニャが一緒なのだから。

シャーリー「しかし、聞いたぞ~? きっと、ついたらすぐに国防総省直行でSOGだな!」
エイラ「不吉なこと言わないでほしいんだケド……」

 この予言が近いうちに当たらずとも遠からずになることを、二人はまだ知らなかった。

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            ,ハ.:::;/,. ィ´ィィ'  ゞィイ仁'''ヽ : V::::ミ} i
            /:ハVハV´.:..:::::}.;  ';´rィェテッ .: i.:::::i:l| | 
             // i.:.:.{ {.:.:.:.:::ノ.:;. :;. ´~゙゙` :: i:::::::i:l|ニニ:〉  お前達の行くヴァルハラはないぞ、イワン共
           〈〈..:::::l.::!`77´ 〈 .::;;;;;、  :.   j::::::」リ::::::」
             `ーくl.:::.:'..〃.:::;;;; `゙゙゙゙´   :;   }.::::::ハi
              { L::::::',′.:;;,. -_-- 、   i  j.:::::ハ:}
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             |    ト、 ..゙゙;."""" .;´ ,' /: : : ハ /l、

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アンナ「呼んだかい」

扶桑

竹井「反共主義か……まいったわね」

坂本「東アジアの欧州列強の植民地では独立機運が高まっているようだな」

竹井「当然ね、ヨーロッパはネウロイとの戦いでとんでもないダメージを負ってるわ。 これ以上植民地を維持できないというのが本音でしょう」

坂本「そこで、工業生産ラインが無傷の扶桑の出番というわけか……」

竹井「ええ、陸軍中野学校や陸奥機関なんかの噂、聞いたことはあるでしょ?」

坂本「ああ、キナくさいな……」

竹井「それより、聞いた? 海軍省が新型爆弾の開発に成功したって話」

坂本「レイテ沖の例の実験か?」

竹井「そう、上層部はふ号と呼んでる」

坂本「中央アジアでオローシャと小競り合いになれば、使うだろうな」

竹井「ええ、でもあれは同じ人に撃っていいモノじゃない」

坂本「どちらにせよ、私はもう一線を引いた身だぞ」

竹井「そういうと思ったわ。 辞令よ、美緒」

坂本「……了解、現場復帰」

太陽爆弾の出番だな!

扶桑某所

宮藤の診療所

芳佳「あれ、坂本さん! どうしたんですか」

坂本「いや、久しぶりに宮藤の顔が見たくなってな」

芳佳「はぁ……? あ、まっててください。 いまお茶を入れますから!」

坂本「いや、構わなくても……」がしっ

リーネ(にこにこ)

坂本「……リーネ。 お前がなぜここにいる?」

リーネ「私はMI6の所属になったんですよ? ちなみに極東支部に配属になりました」にこにこ

坂本「大使館に帰れ」

リーネ「そんなこと言っていいんですか? 国際問題ですよ?」にこにこ

バルクホルン「しょ、少佐!」

坂本「貴様もかバルクホルン!」

バルクホルン「私は扶桑に亡命を希望したんだ! 妹と一緒に!」

坂本「それで?」

バルクホルン「どうせなら知ってる顔の近くがいいだろうと……」

坂本「西カールスラントに強制送還してやる。 こい!」

バルクホルン「ま、待ってくれ少佐!」

坂本「私はもう少佐ではない!」

芳佳「ちょっと! 坂本さん、バルクホルンさんは怪我人なんですよ!」

バルクホルン「よ、よしかぁ……」うるうる

坂本「頭が痛くなってきた……とかく、宮藤!」

芳佳「は、はい?」

坂本「話がある。 二人きりになれるか?」

リーネ「ダメです」

坂本「貴様には聞いとらん!」

バルクホルン「ああ、ダメだな」

坂本「ええい! うるさい! どうなんだ、宮藤!」

芳佳「いいですけど……」

リーネ「芳佳ちゃん!?」

芳佳「り、リーネちゃん?」

坂本「ほら、散れっ! 散るんだ!」

バルクホルン「きゃんっ!」

リーネ「芳佳ちゃん……」

バルクホルン「きゃんっ!」




なにこれ可愛い

数分後、奥の和室

坂本「話というのはな、宮藤」

芳佳「……あ、茶柱」

坂本「……宮藤?」

芳佳「あ、はっ、はいっ!」

坂本「扶桑は対ネウロイで損害を受けた艦隊を呉と佐世保で改修中なのは知っているか」

芳佳「知りませんでした」

坂本「そうか、まぁいい。 現在、我が軍は仮想敵をオローシャに定めて軍備増強を行なっている」

芳佳「あ、そういえば最近兵隊さん増えましたね!」

坂本「リベリオンは南方の植民地から得る、石油の利権で随分と懐を潤わせているが、扶桑はそうもいかないのが現状だ」

芳佳「南の方に国連の信託管理領がありませんでした?」

坂本「石油はでらん」

芳佳「はぁ……」

坂本「本題というのはな、扶桑はリベリオンとの関係悪化の可能性を考慮し、南方へ進出する」

芳佳「……えぇぇぇぇぇ!! リベリオンと戦争になるじゃないですか!」

坂本「落ち着け、そちらではない」

芳佳「?」

坂本「中央アジア、中東と呼ばれる地域だな」

芳佳「そこには何かあるんですか?」

坂本「ネウロイとの戦争の過程で莫大な量の埋蔵油田があると判明した」

芳佳「はぁ、それで戦争ですか?」

坂本「ああ、だが扶桑軍が直接介入するわけにはいかない。 あの辺は利権が複雑なんだ」

芳佳「そ、それで私にお話とは?」

坂本「……現地へ行ってもらいたい」

芳佳「えぇぇ」リーネ「えぇぇぇぇぇぇっ!!」

坂本「やはり聞いていたのか……」

リーネ「ダメです! 絶対ダメです!」

坂本「バルクホルン、お前はどう思う?」

バルクホルン「うっ! エーリカが! エーリカが!」

坂本「バルクホルン……?」

リーネちゃんに一体何をされた

>>194
IDがニパ

バルクホルン「……ゴホンっ、私も反対だ。 大体、芳佳をいかせる理由がわからない」

坂本「元軍属で、医療知識があり、ブリタニア語に堪能だ」

バルクホルン「それでもだ!」

坂本「今回の扶桑からの派遣はあくまで復興支援なのでな、宮藤のような人間の方がいい」

バルクホルン「復興支援!? ふざけるな! おおかた民兵でも訓練して独立させて傀儡国を得ようという腹だろう!」

リーネ「そうです! だいたい魔力のない芳佳ちゃんをそんな危ないところへ一人でいかせられるわけないじゃないですか!」

坂本「一人で行くと入っていないだろ」

リーネ「誰と行くんですか?」

坂本「私だ」

リーネ「却下です」

坂本「他には陸軍からもスタッフが同行する、あの戦争のエースぞろいだ。 むしろここにいるより安全かもしれんぞ?」

リーネ「ぐぬぬ……」

バルクホルン「わかった」

坂本「おお、バルクホルン」

バルクホルン「私も行く」

リーネ「は?」

バルクホルン「私も行くと言っているんだ。 手は多いほうがいいだろう?」

坂本「まぁ、そうだが……」

バルクホルン「それでは急いで……」

リーネ「クリスちゃん」

バルクホルン びくっ

リーネ「また、私を置いていっちゃうの?」

バルクホルン「」ガタガタガタ

芳佳「待ってください、まだ私は……」

バルクホルン「そうだな、芳佳! 二人とも分け隔てなく愛するからな!」

芳佳「!?」

坂本「くだらない妄言はどうでもいいが……宮藤。 お前が決めるんだ」

芳佳「……そこでは、私。 役に立てますか?」

リーネ「芳佳ちゃん?」

芳佳「あの戦争で皆は必死に戦ってるのに私は途中でリタイヤして……」

バルクホルン「あ、あれは仕方がなかった! むしろ賞賛されるべき行為だ!」

芳佳「空を飛ぶだけが人の役に立てるわけじゃない、治癒魔法が使える私だけが必要とされてるわけじゃないって必死に勉強して、医師免状もとって……」
坂本「……」
芳佳「でも、最初から平和だった扶桑には心から私を必要としてくれる人は多くなかった」

バルクホルン・リーネ(静かに挙手)

芳佳「あの戦いで、みんなから頼られて、必要とされて……私は……」

坂本(戦争依存症……なのか……?)

芳佳「そこでは、たくさんの人たちがお医者さんを待ってるんですよね?」

坂本「ああ、だが……」

芳佳「私、行きます」

坂本「宮藤……」

芳佳「御国の都合なんか別に考えても、お医者さんが必要な沢山の人たちを……私は助けたいです」

坂本「そうか……聞いたな、二人とも」

リーネ「……」
バルクホルン「いや、クリスにはクリスにしかない魅力が」

坂本「……まぁいい。 出発は再来週だ」

芳佳「急ですね」

坂本「前回よりはマシだろう?」ニコッ

芳佳「やっぱり! そうやって、笑ってるほうが坂本さんは綺麗ですよ」

坂本「む、そ、そうか? あっはっはっはっ!」

リーネ「あ、芳佳ちゃん。 電話借りれる? 国際電話だけど大丈夫かな?」

バルクホルン「よしかぁ……」

坂本「……いつの間にか、宮藤を名前で呼んでいるんだな。 バルクホルン」

バルクホルン「戦争が終わり、エーリカが無事で、私はもう軍属ではない。 今までのぶんもすべて芳佳と紅莉栖を可愛がると決めたんだ!」

坂本「……そうか、すまんな」

バルクホルン「ふんっ、私は扶桑から応援しているのが似合いだよ」

二週間後……

バルクホルン「ハンカチは持ったな? 忘れ物は……あ、私の写真は持ったか?」

芳佳「と、トゥルーデさん……」

バルクホルン「違うだろ?」

芳佳「トゥルーデお姉ちゃん、行ってくるね」

バルクホルン「ああ、行っておいで。 芳佳」

坂本「はっはっはっ、相変わらずだなバルクホルンも」

智子「なんで私が……なんで私が……なんで私が……」

坂本「陸軍のスタッフというのはお前か、穴吹」

智子「ふんっ!」

ハルカ「じょぶびぃぃぃぃぃ!」滝涙

坂本「あれはお前の見送りか?」

智子「ええ、お恥ずかしい限りだわ」

坂本「元気があっていいじゃないか。 あっはっは……」

圭「ほら、走る!」

真美「すみませーん、遅れました!」

坂本「……これで全員揃ったな? 出発するぞ」

 芳佳の日記
 
 機内では男性のスタッフも含めてお菓子の交換会があったり、
 坂本さんが『同期の桜』を歌ったり、
 乱気流でよろけた智子(なんと穴拭智子さん本人です! 私お人形持ってるのすっかり忘れてました!)さんを坂本さんが抱きとめて赤面(キャー)したりで、
 とっても楽しい職場になりそうです まる

あれ・・・これは・・・

中東某国
カブール国際空港

芳佳「わぁ……暑いですね」

真美「北アフリカと比べればまだまだですよ! 標高も高いですし、涼しい方だと思いますけど……」

坂本「むしろ夜の寒さが心配だな」

智子「スオムスとは比べ物にならない温暖な気候だわ」

芳佳「へー、みなさんいろいろなところへ行ってるんですね……」

智子「行きたくていったわけじゃないわ」

真美「ま、まぁ、悪い思い出ばかりというわけでも……」

智子「……思い出しただけでもぞわっとする! 私の貞操を返して!」

坂本「何か辛いことがあったんだな……」

芳佳「と、とにかく、今日は車で移動ですよ!」

残ってますように私怨

坂本「しかし、すごい荷物だな宮藤」

芳佳「あはは……リーネちゃんとみっちゃん、それにトゥルーデお姉ちゃんがいろいろ持たせてくれて……」

智子「体毛筆? 宮藤さん!」

芳佳「は、はいっ!?」

智子「お互い、頑張りましょうね!」

芳佳「は、はぁ?」

真美「智子さん、やっぱりなにかあったんでしょうか?」ひそひそ

坂本「貞操がどうのといっていたな……男には近づけないほうがいいかもしれん」ひそひそ

真美「でも大半は男性ですよ?」ひそひそ

坂本「むぅ……」

芳佳「ついたー!」

坂本「先発した部隊が診療所を敷設しているはずだ」

智子「しかし、意外と建物は無事なのね」

真美「アフリカでもそうでしたけどこういう土壁のお家って鉄を使ってないんでネウロイの目標になりにくいんですよ」

智子「なるほど……」

芳佳「医療道具はひと揃いあって、あ、そっちの薬の箱チェックしてもらえますかー?」

リーネ「うん、芳佳ちゃん」

一同(!?)

坂本「どうしてここにいるんだ? リーネ」

リーネ「極東支部から中東支部に転属になりました。 扶桑の人道支援キャンプへの協力が任務ですよ?」

坂本「そんな都合のいい話が……」

リーネ「MI6の情報網を甘く見たらダメですよ?」にこにこ

智子「で、こちらはリネット・ビショップさんでいいのね?」

芳佳「はい! 私の大切なおと」

リーネ「芳佳ちゃん?」にこにこ

芳佳「大切な人です!」

真美「はぁ……で、MI6に協力していただけるということは付近にブリタニア軍が?」

リーネ「どうでしょう?」にこにこ

坂本「とにかく! 診療所の開設をぐんだ。 病人もけが人も待ってはくれんぞ!」

芳佳「は、はいっ!」

リーネ「頑張ろうね、芳佳ちゃん」

芳佳「うん、リーネちゃん!」

芳佳「つかれたー」

坂本「久々とはいえ、体がなまってるんじゃないか宮藤?」

芳佳「そうですねー、なんといっても空気が薄いのが……」

智子「シールドなしでストライカーに乗ってるようなものだもの。 慣れるまでは大変よ。 芳佳さん」

真美(一応、優しい心使いも出来る人なんですね)

智子「何か?」

真美「いえ、別に?」

リーネ「でも、初日なのにたくさん人がきましたね」

坂本「付近には難民キャンプは数あっても診療所は数えるほどしかないからな」

芳佳「坂本さん。 私、やっぱりここにきてよかったです!」

坂本「そうか……」

坂本(宮藤……扶桑にいた頃はほとんどただ生きているというような感じだったが……よかったのかもしれんな)

智子「あ、坂本さん」

坂本「ん、どうした?」

智子「その……なんでもないわ」赤面 ぷいっ

リーネ「……芳佳ちゃん、起きてる?」

芳佳「ん? リーネちゃん」ごしごし

リーネ「護衛の部隊と連絡が取れないんだけど、坂本少佐は気づいてるのかな?」

智子「芳佳さん……リネットさんも一緒だったのね。 起きたほうがいいわ」

芳佳「何かあったんですか?」

智子「私たちを快く思わない連中がいるみたいよ。 遠くで銃声が聞こえるって真美さんが」

坂本「宮藤! って、なんだ穴拭もいたのか」

リーネ「私は?」

坂本「お前には大層な護衛部隊が付いてるそうだからな」

リーネ「私じゃありません。 守ってるのは芳佳ちゃんです」

坂本「どっちでも構わん。 リベリオンの目と鼻の先で共産化したキューバにオローシャがミサイル基地を設置するといっている」

芳佳「ええ!?」

坂本「それに伴い、この一体も安全ではなくなったというわけだ。 なにせオローシャの目と鼻の先だからな」

芳佳「結局……戦争ですか?」

坂本「すぐにはそうならないだろうが……どこかの馬鹿がオローシャの監視部隊と衝突したらしい」

リーネ「無線封鎖がとけしだい状況を説明させます」

坂本「そうしろ」

芳佳「真美さんは?」

坂本「外の連中を指揮している。 言い忘れていたがここにいるのは中野学校の出身者や戦後入学者ばかりだ。 頼れるぞ」

芳佳「中野学校?」

智子「説明している時間はないわね。 とにかく、診療所の中に入れば外よりは安全よ」

坂本「穴拭、震えてるのか?」

智子「悪い? 人を殺すつもりで撃つのは初めてなのよ……」

芳佳「智子さん……」

智子「安心しなさい。 芳佳さん。 少なくとも露助の偵察部隊になんか負けない自信があるわ」

リーネ「……通信回復しました」

坂本「なんといってる?」

リーネ「……撃退したが、負傷者が発生したと」

坂本「ふむ……」

芳佳「私が見ます。 ここに連れてきてもらって、リーネちゃん」

リーネ「え、でも……」

芳佳「この近くに病院はないんだよ! 早く!」

リーネ「少佐?」

坂本「好きにしろ、私は魔力を失った民間オブザーバーだ」

智子「私と真美さんはまだ軍属だけどね……」

リーネ「わかりました。 お願い、芳佳ちゃん」

芳佳「うん!」


翌朝


芳佳「はーい、次の人ー」

リーネ「こちらが処方されたお薬になります。 朝と夜の食後に……」

智子「へっ、私? そりゃ、お食事くらいやぶさかじゃないけど……念の為に聞いておくけど、あなた、女の子よね?」

真美「はーい、皆さんー! お昼ご飯ですよー!」




坂本「民意獲得作戦か……上の考えることはよくわからんな」

竹井《そう言わないで美緒。 世界はまた戦争へと転がり始めたわ》

坂本「それがどういう形であれ扶桑も関わらない分けにはいかないというわけか」

竹井《そうよ、扶桑も北大西洋条約機構へ加盟している以上、望む望まざるにかかわらず戦争は避けられないわ》

坂本「琉球と横浜の一部を基地としてリベリオンに提供しているのもその一環か……」

竹井《扶桑もハワイ港とグアムを借用しているわ 持ちつ持たれつよ》

坂本「つまり、太平洋に派遣を伸ばしたいオラーシャにとって扶桑はまさに目の上のたんこぶというわけだ。 たまらんな」

竹井《それでも、あなた達がそこでやっている活動は立派だと思うわ》

坂本「偽善だ」

竹井《御国の思惑なんてどうでもいいじゃない。 私も、立場が許すなら行きたかったわ》

坂本「あっはっはっ!」

竹井《何?》

坂本「いや、お前も宮藤と同じようなことを言うんだな」

竹井《当然じゃない! あの子は私の教え子なのよ?》

坂本「ああ、そうだったな」

竹井《ふふ、あ、宮藤さんに伝えてもらえるかしら?》

坂本「?」

竹井《諏訪さんが宮藤さんのことをえらく気にしているみたいだってね》

坂本「天姫が?」

竹井《そんなわけないじゃない。 妹さんの方よ》

坂本「ああ、なるほど……宮藤も罪な女だな」

竹井《あら、あなたも人のこと言えないわよ?》

坂本「ふんっ、切るぞ」


芳佳の日記
 
 追記

 ネウロイとの戦争が終わっても、世界はいろいろ大変みたいですけど、私は元気です。

ロマーニャの休日編

ロマーニャ兵士A「おーい、彼女、暇なら俺っちと遊ばない?」

ルッキーニ「にひひっ、ばーか」

ロマーニャ兵士B「ははっ、お前は狙う獲物のランクが高すぎるんだよ」

 アタシ、フランチェスカ・ルッキーニだよ!

 にひひー、待った? 待ってたよね?

 アタシのロマーニャはファシスト党が崩壊したり、こーしょくついほーがあったり、

 ネウロイの巣のあった南部と北部で経済格差が広がってたり……まー、いろいろ大変だけどアタシにはあんまり関係ないかな?

 アタシ? アタシはねー……知りたい? どうしよっかなー……うじゅ! 教えたげる!

 体はねーシャーリーほどじゃないけどせーちょーしたんだよ?

 今は元501の中では最後の現役航空脚乗りとしてロマーニャ空軍の戦技教導隊にいるんだ!

 ロマーニャはカラビニエリとか詳しい名前は忘れちゃったけど山岳連隊があってあのころとは比べ物にならないくらい精強になったと思うよ?

 そうそう、こないだガリアとの共同演習でペリーヌを見たなぁ……相変わらず小さいことでグチグチいって……

 「いい大人としてそんな振る舞いはおやめなさい!」だってさ、ふーんだ、アタシはまだ若いもんね!

 マンマも「私の若い頃とそっくりで美人さんね」って言ってくれるし、少なくてもアタシはもう少しこのままでいたいってのが本音かな?

 あ、そういえばそういえば!

 このあいだハンナがロマーニャに遊びに来たんだ!

 ほら、アフリカの星!

 ハンナったら「か、形は私の方が……」っておかしーんだから!

 二人で、いろいろ回って……今度はシャーリーもこれたらいいんだけど……XF-4だっけ?

 とにかく音速を超えるのが楽しくてしょうがないみたい。

 アタシもウィッチとして飛べなくなったら戦闘機乗りになろうかな? とか……
 
 あの頃は飛べなくなる日が来るなんて夢にも思わなかったんだけどなぁ……

 うじゅ、暗くなっちゃったね!

 とにかく、ヘッドアップドディスプイレイも空対空ミサイルも技術はすごい勢いで進化してる。

 シャーリーはアーパネットっていうのがそのうち世界中に普及するって言ってるし、宇宙船の開発競争もすごいみたい。

 うじゅじゅ!

 難しいことはあんまりわかんないけど、とにかくアタシは元気でやってます!

 そんだけ! じゃね!

 ロマーニャより愛をこめて フランチェスカ・ルッキーニ 空軍少佐


ということで501は全員書いたかな?
本当はシャーリーがベトナム戦争に参加して北ベトナム軍の捕虜になる話とかも考えてたけど、誰も望んでないよね!

ネウロイとの戦争が終わるとしたらマンハッタン計画の成功しかないだろ。
で、マンハッタン計画が成功してオラーシャが帝国のままだと核を持ったリベリオンに対抗できる国がなくね?
という発想からこのスレは生まれました。

拙い文だったけど最後まで読んでくれた人は、ありがとう。
あと、途中質問とか答えられなくてごめんね……

ペリーヌ「ガリアはシャルル・ド・ゴール将軍閣下が……ちょ、私の尺はここまでですの!?
 あんまりではなくて!? えぇっと……み、皆様ご機嫌」ぶつっん

扶桑情報部謹製
アフガン派遣隊 人物相関図

真美→あこがれ
↑  ↓
智子→坂本 →番外(37歳)

芳佳←リーネ

番外(お姉ちゃん)

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