約束の結末 (22)

オリジナルの短編です、14レス程

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六年後の今日、またここで会おうね

その言うが早いか、少女は少年と口付けを交わし

その時は恋人にして下さい!

そんな言葉を最後に、少女は少年の前から走り去っていった

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ピピピッピピピッ! っと室内に音が響く

その音に呼応する様に、寝惚け眼の青年は布団から手を出し目覚まし時計のスイッチを叩く

「……また、あの夢か」

目覚まし時計のスイッチに手を置いたまま、青年は一人呟く

夢、そう、青年はここ数日、毎夜夢を見る
見る夢は、何時も同じ

六年前に起きた、幼馴染との別離のシーンを

青年には幼馴染がいた
子供の頃、それこそ生後数ヶ月から付き合いの在る幼馴染が

双方の親が友人関係に在り、そのうえ家が近かった為、乳児期の頃から頻繁に顔を合わせていた
それは乳児期が終わり、幼稚園に通園する様になっても変わらず、寧ろ共に登園し
共に幼稚園を過ごしていた為、以前より付き合う時間は長くなった程に

そしてそれは小学校に通う様になっても変わる事が無く
登校、下校は勿論、クラスも同じクラスだった為、教室でも一緒
放課後も外で遊ぶ時も家で遊ぶ時も、常に時間を共にしていた

そう、もしかしたら、青年と幼馴染は共に居ない時間の方が少なかったのかもしれない程に
そして少年も、何時迄もこの時間が続く事を、何時迄も幼馴染と一緒にいられる事を、何一つ疑わなかった

だが、そんな時間は呆気無く幕を閉じる

二人が小学六年の時、幼馴染の父親が海外転勤となり、幼馴染とその家族は引っ越しを余儀無くされたのだ

勿論、少年も幼馴染も転勤の取り止めを懇願はした、泣いて声を上げて
とは言え、それは子供が縋りついた処で変えられる類いの事案ではなく
結局二人には別離の道を歩く他無になる

だが、それでも、せめてと、二人は別離の直前、二人の遊び場の一つでもある川原にて、とある約束を交わす

六年後の今日、またここで会おうね



そして約束以外にも、口付けを交わした
青年にとっての、少女にとって初めての口付けを

「今日か……」

と、青年は呟く
そう、今日の日付は六月六日、約束となっている"六年後の今日"は正にこの日なのである

「どうすっか……」

青年は悩んでいた、行くか、否かを
確かに仲の良かった者との約束とは言え、所詮は子供の頃の、六年も前の約束だ
普通ならとっくに忘却の彼方に在るだろう、よしんば忘れずにいたとしても、律儀にそれを守るとは考えられない

だが、自分は忘れなかった
いや、違う、忘れられなかっただけだ、女々しくもあの約束を

ーーだって、好きだったから

好きだったから、女々しくもあの約束を忘れられず、縋っていた
もしかしたら、万が一と、無いも等しい可能性だが、また会えるかもしれないと、その一心で

本当に滑稽だと、青年は自嘲する

幼き日の、子供染みた約束を、後生大事に抱えて、六年も過ごしてきたなどと
誰かに話したら、笑われる様な約束を

「っとと、ネガり過ぎだ俺」

そう言って青年は自身の頬をペチペチと叩きながら立ち上がり、シャワーを浴びに風呂場へ向かった

あの場所へ行く為に

青年は行く行かないで悩んではいるが、実際の処、行かないという選択肢は存在しない
万が一に賭ける気持ちもゼロではないが、それ以上に、今日行かなければ、自身の初恋が何時迄も終らないと
心の奥底では理解しているからだ

その証拠に、今日の大学の講義は既に友人に代返を頼んでいたりするのだから

愛車であるGPZ900Rを駆って約一時間、青年は故郷、そして件の川原にたどり着いた

そして青年はフルフェイスのメット取って、川原を見渡す

昂る心を押さえ付け、ゆっくりと、ゆっくりと

そこには

誰もいなかった

一瞬の落胆、しかし青年は頭を振り気持ちを切り替える

そして青年はもう一度見渡す
そこである事に気が付く

ここが昔と然程変わっていない事に

それに気が付いた青年は喜び、安堵する
もう何年も訪れてない場所だが、最後に見た景色とそう変化が無く、それが青年にとっては嬉しく思えた
だが、それによりもう一つ、自身の心情について再発見をした

「やっぱまだ、期待してんのかね……?」

そう青年は零す
変わらない景色を喜ぶ心は、約束も変わっていない事を期待する心の表れなんじゃないかと

我が事ながら女々しいっーか、必死過ぎんだろ

と、青年は俯き内心愚痴る

だが、青年は直ぐに前を向き、近くにある岩を椅子代わりに座り

「まぁ、いっか」

そう、明るい声を出す

自分がゼロ同然の可能性に期待していたからといって、誰に迷惑が掛かるワケでもない
誰にも言った事も無いのだから笑われる事もない
大学も、1日休んだ処で問題が起きるワケでもない

そんな考えに至った青年は、フッと気持が楽になり

持参した文庫本を鞄から取り出し読み出した

川のせせらぎを聞きながら本を読む、なんか贅沢だなぁ

そんな事を思いながら、青年は小説を読み進めるのだった

青年が本を読み始めて約二時間、未だ来訪者の数はゼロ
当の青年は道すがらに買っておいた弁当を食べている

晴天の中、川のせせらぎを聞きつつ昼飯を食う、これはこれで贅沢だよなぁ

そんな事を思いながら、青年は飯を食う

青年が昼飯を済ませてから、三時間、未だ来訪者の数はゼロ
当の青年は道すがら買っておいたおやつのポテロングを食べている

じゃがりこより美味いと思うんだが、何故ポテロングは二番手扱いなのか

そんな事を思いながら、青年はポテロングを口に運ぶ

青年がおやつを済ませて三時間、未だ来訪者はゼロ

青年は沈む夕日を眺め

「まぁ、当たり前か」

と、静かに呟く

六年前の、子供が交わした約束
覚えてる方が、守ろうとする方がどうかしてる

青年も元より、約束云々より、区切りを、別れを、何より、終わらせる為、ここに来た

ずっと心に居座り続けていた初恋を、終わらせる為

青年は目をつむり、深く息を吸い

「漸く…… 終わった……」

身体の中に溜まっていた何かを吐き出す様に、青年はそう声を出した
そしてその言葉と共に、青年の瞳から涙が流れ始める

それは
長い長い呪縛から解かれたからなのか
待ち望んだ何かが、何も起こらなかったからなのか

青年にも分からなかった

ただ、もう少し、涙を流そう
この川原には誰も居らず、誰も来ない、それだけは分かったのだから

だから、もう少し、涙を流しててもいいだろう
もう少し、この嬉しくも悲しい、終りの時間に身を委ねていてもいいだろう

青年はそんな想いを胸に、声も無く、涙を流した

「ふぅ……」

と、青年は大きく深呼吸
そして開いた目にはもう、涙は無かった

そう、確かに、青年にとって今日は終わりの日なのだろう
だが、同時に始まりの日でもあると、それを青年は知っている
だから、もう、涙を流す事はない

六年間バカ正直に約束を信じ、縋り、そして守り通して来た
結局、得る物は何も無く、失った物、手に出来なかった物は余りにも多い

それでも、まだ間に合う、まだ取り返せる
まだ自分は二十歳にも成っていない
手に出来なかった何かを、手にする機会はまだ在る筈と

だから、青年は

「帰るか」

振り切る様に呟き、川原で顔を洗い鞄を拾いバイクの元に歩く

フルフェイスのメットを被り、バイクに跨がり
イグニッションキーを回す

日常に帰る為
本来手にする筈だった日常を手にする為に
青年はイグニッションキーを回す

何時もと変わらないGPZ900Rのエンジンサウンド
だが青年には、門出を祝ってくれている様な、そんな気がした

そして最後に青年は、川原に顔を向け

「さよなら」

と、小さく小さく呟き走り出す

もう、来る事も無いであろう川原に向かって
来る事も無かった初恋の幼馴染に向かって

青年は一人、別れを告げ、愛車と共に走り出した

以上です。それじゃhtml化の依頼に行ってきます ≡┏( ^o^)┛

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