少女「何か悲しいことでもあったの?」
うわん「お前、俺が怖くないのか?」
少女「びっくりはしたけど、怖くはないよ」
うわん「……そうか、ならいいんだ」
少女「ねぇ、何で泣いてるの?」
うわん「趣味でやってることだ、気にするな」
少女「変な趣味」クスクスッ
うわん「何でこんな時間にお前みたいな子供がこんな山にいるんだ」
少女「…家出してきたの」
うわん「そうか、もう夜も遅い、もしよかったら俺の家に来るか?」
少女「喜んで」
うわんの家
少女「埃っぽい家だね」
うわん「男独り暮らしだと掃除もろくにしないからな」
少女「それじゃあこれからは私がやるよ」
うわん「いつのまに共同生活が始まったのですか?」
少女「ふむ、よく嗅ぐと悪くない埃っぽさだね」
うわん「はぐらかすな」
少女「住まわせてもらう代わりに掃除をする、ご飯を分けてもらうかわり洗濯をするよ」
うわん「悪くない条件だな」
少女「今なら楽しいお話相手も付いてくるよ」
うわん「それじゃあ契約成立ってことで」
少女「早速ご飯にしようか」
うわん「お前結構図々しいな」
少女「生きてく為に必要なことなのですよ」
翌日
うわん「釣りに行ってくる」
少女「私も行きます」
うわん「そうですか」
少女「釣りは得意なんだ」
うわん「竿を持って待つだけだからな」
少女「それがなかなか難しかったりするでしょう?」
うわん「ごもっとも」
少女「私の特技は待つことなの」
うわん「奇遇だな、俺の趣味も人を待ち伏せることだ」
川
少女「そっちはどう?釣れてる?」
うわん「まあまあだな」
少女「私はもう四匹釣ったよ、凄いでしょう?」
うわん「俺は五匹釣ったもんね」
少女「本当?」
うわん「本当」
少女「ふーん」
少女「おじさんはさ…」
うわん「なんだ?」
少女「働かないの?」
うわん「働いてると思うか?」
少女「働いてないんだ」
うわん「つまり俺の家の食卓に米や海産物は並ばないと言うことだ」
少女「魚があれば十分だよ」
うわんの家
うわん「魚釣りすぎたな」
少女「私とおじさんとで合計17匹も釣ったからね」
うわん「とりあえず干物にするか」
少女「干物屋でも開いたら?」
うわん「駄目だな、俺、この魚の名前分からないから」
少女「よく分からない魚を客人に食わせていたのか」
うわん「美味しいければどうでもいいだろ?」
少女「そうだね」
数日後
少女「最近空気が冷たくなってきたね」
うわん「もう秋だからな」
少女「食卓が豊かになることを期待しているよ」
うわん「この山じゃ柿や栗は採れないぞ」
少女「本当?」
うわん「茸はやたらと生えてるけどな」
少女「ならいいや」
更に数日後
少女「ふぅ…掃除終了」
うわん「だんだん慣れてきたな」
少女「毎日やってるからね、相変わらず埃っぽい匂いはとれないけど」
うわん「まさか自信満々に引き受けたのに掃除が全くできないとは思わなかったぞ」
少女「生まれつき苦手なんだ」
うわん「そうですか」
更に更に数日後
うわん「いつまで家出しているつもりなんだ?」
少女「うーん…おじさんが働き始めるまで…かな?」
うわん「それじゃあやっぱり働くわけにはいかないな」
少女「無職万歳」
ある日
うわん「ちょっと出かけてくる」
少女「何しに行くの?」
うわん「知り合いと世間話」
少女「おじさん私以外に話相手がいたんだね」
うわん「お前とそいつくらいだけどな、いってきます」
少女「いってらっしゃい」
山の奥地
うわん「よお」
天狗「…何か用か?」
うわん「頼みがある」
天狗「なんで私がお前なんか頼みを聞かなきゃならないんだ?」
うわん「冷たいねぇ、俺たち友達だったろ?」
天狗「今は違うだろう」
うわん「まあ、そうだけどさ」
天狗「……そういえばお前、最近人間を襲わなくなったそうだな」
うわん「人間と同居してるからな、そんな気なんて起きなくなっちまった」
天狗「死ぬぞ」
うわん「構わんさ」
天狗「……頼みとは何だ」
うわん「俺が消えたら俺の同居人の面倒を見てやってくれ、お前なら上手くやれるだろ?」
天狗「……引き受けよう」
うわん「すまん、恩に着る」
うわんの家への道
うわん(あいつにどう説明しようかな……)
うわん(良い子だからなぁ、悲しませたくないんだけどなぁ……)
うわん(……思いつかないな)
うわん(そうこうしているうちに家に着いちまった…)
うわん「ただいまー」ガラッ
うわん「!」
山道
山賊A「しっかしボロい小屋でしたね、金目の物も無かったし」
山賊B「こんなガキさらってどうするんですか?」
山賊親分「人買いに売るに決まってんだろ、こんなんでも少しは銭になるだろ」
少女「ッンー!ッンー!」
山賊A「この山を根城にするんですか?」
山賊親分「ああ、寂れた山だが人目につかない場所でもあるからな」
山賊A「この山神社も寺もありませんからね」
山賊B「そういえばこの山……化け物が出るらしいぞ?」
山賊親分「化け物ねぇ、どうせ山に捨てられた気違いとかのことだろ」
山賊A「まあ大体そんなも……」ザグゥッ コロッ
山賊A「あれ?…俺の体がなんで俺の上にあるんだ……?」
山賊親分「」
うわん「化け物ならいるぞ?」
・
・
・
・
うわん「さあ、もう大丈夫だ」シュルッ
少女「おじさん……!」ギュッ
うわん「怖かったか?怪我はないか?」
少女「おじさんこそ大丈夫なの?怪我してない?」
うわん「……なあ、今から大事な話をするから聞いてくれるか?」
うわん「俺は人間じゃない、妖怪だ」
うわん「人を怖がらせて魂を盗む鬼なんだ……最初にお前にやったようにな」
うわん「元は人間だったんだが……山の呪いだかなんだか知れないがいつの間にかこんな姿になっちまっていた」
うわん「お前と暮らし始めてからもう人は殺さないと決めていたんだが……駄目だったみたいだな」
うわん「どうやら魂を盗まないと俺は消滅するらしい、お前のことは知り合いに任せてあるから安心しろ」
うわん「お前と暮らしている間はまた人間に戻れた気分だったよ…ありがとな」
少女「私知ってたよ、おじさんがお化けだって」
少女「目は見えないけど……抱きつくと異常に毛深いし、体は大人の二倍はあるし」
うわん「怖くなかったのか?」
少女「だっておじさん良い人だし、それに……帰る場所も無いし」
うわん「そうか…」
少女「おじさん……どっか行っちゃうの?」
うわん「どこにも行かないさ、最期まで一緒にいるよ」
少女「……」
うわん「さあ、家に帰ろう」
・
・
・
少女『ねぇ、どうしてあなたは泣いていたの?』
うわん『独りぼっち寂しかったから』
少女『どうして泣いていたの?』
うわん『ある日いきなり理不尽な運命を押しつけられて悔しくて』
少女『どうして泣いていたの?』
うわん『本当の自分に気付いてくれる人がいて嬉しくて』
少女「今は笑っていられるの?」
完
乙。
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