幼馴染「お邪魔するよー」男「お邪魔する前に言えないのか」(243)


…ガチャッ

幼馴染「お邪魔するよー」

男「お邪魔する前に言えないのか」

幼馴染「だって男が変なDVDとか観てたらいけないし」

男「だからこそだろ」

幼馴染「観てたら怒らなきゃいけないし」

男「それはそんな物を観るくらいなら、幼馴染が慰めてくれるという意味にとっていいのかな」

幼馴染「付き合ってもないのに?」

男「付き合ってもないから、俺が何を観ようと自由なんじゃないでしょうか」

幼馴染「そんな勝手な理屈は通りません!」


男「はぁ…」

幼馴染「溜息つくと幸せが逃げるよ?」

男「で、何の用?」

幼馴染「私がここに来るのに理由がいるんですか」

男「つまり毎度ながら、暇だったと」

幼馴染「さすが男!私の事は何でも解るんだね!」

男「だいたい週に五日は来てるもんな」

幼馴染「この部屋、適度に散らかってて和むのよねー」

男「お前が来ないならもっと散らかしてるんだけどな」

幼馴染「ほら、私が来た方がいいんじゃない」


男「はいはい…まあ座れよ、茶でも取ってくるから」

幼馴染「お構いなく、さっき下でジュース頂いてから上がったから」

男「部屋だけじゃなく冷蔵庫まで勝手に開けるか」

幼馴染「失礼だなぁ、おばさんが出してくれたんだよ」

男「で、俺のは?」

幼馴染「察しが悪いね、あとコップ2杯分しかなかったから下で飲んだんだよ」

男「2杯分ありゃ俺のもあるだろ」

幼馴染「私とおばさんで美味しく頂きました」

男「…もういいわ」


幼馴染「そのかわり、ね?」

男「そのかわり?」

幼馴染「おばさんがこれを男に渡せって、渡せば解るからって言ってたけど」

男「どれ?」

幼馴染「じゃーん!折り畳みノコギリー」

男「今の旧ドラえもん風だったよね」

幼馴染「鋭い!ノコギリだけに!」

男「まあ、オカンの言わんとする事は解ったわ…」

幼馴染「解るんだ」


男「うーん、夏の間はずっと逃げてたからなー」

幼馴染「何から?」

男「無償の重労働から」

幼馴染「ノコギリを使う重労働ですか」

男「庭木を切れって、ずっと言われてんだよ」

幼馴染「いいじゃん!せっかく暇なんだし、やろうやろう!」

男「なんでノリノリなんだよ。手伝ってくれるのか?」

幼馴染「見ててあげる!」

男「いや、手伝えよ」

幼馴染「応援してあげる!」

男「意地でも手伝わせるからな」




…男の家の庭



幼馴染「ここの庭、広いよねー」

男「田舎だからな」

幼馴染「でもウチ、狭いよ?」

男「お前んちで普通だろ、ウチが広すぎるんだ。元農家だったから」


幼馴染「どれ切るの?」

男「まず一番にって言われてるのは、この桜だな」

幼馴染「大きいねー」

男「脚立だけじゃ無理だな、登らないと」

幼馴染「昔っから桜切る馬鹿って言うよ?」

男「桜は切り口を自己治癒する力が弱いんだ。そこから幹が腐りやすい」

幼馴染「だめじゃん」


男「でも剪定が要らないってわけじゃないし、切り口を殺菌剤で保護してあげれば大丈夫なんだ」

幼馴染「男、詳しいね?」

男「高1から夏冬春の長期休みには、ツレの親父さんがしてる造園屋さんでバイトしてるからな」

幼馴染「そっか、してたねー。でもそれなら家の庭木も早くしてあげればよかったのに」

男「対価の無い労働って、気が進まないもんだよ。対価のある労働で同じ事をしてるから尚更な」

幼馴染「そんなにバイト代いいの?」

男「建設業のバイトって、大変だけど実入りはいいんだぜ」


幼馴染「どうりで。あんまりそれに精を出すから、夏休みも平日は私の事なんか放ったらかしだったもんね」

男「平日に必ずお前を構わなきゃいけない理由もないしな」

幼馴染「…むかっ」

男「さて…まずは脚立で届くところから捌くか」

幼馴染「………」

男「幼馴染、脚立の足下支えててくれよ」

幼馴染「ふーんだ」

男「おーい、応援してくれるんじゃねえのかよ」

幼馴染「落ちろ」


男「拗ねるなよ…まあいいか。とりあえずあちこちに天狗巣病が出てるなー、切り取らないと」

幼馴染(…どーせ、私よりお金なんでしょ)

ギコギコ…

男「下からノコを入れて、そのあと上から…」

幼馴染(いくら付き合ってないって言っても、それは男がハッキリしないからなのに…)

男「殺菌剤のペースト塗って…と」

ペタペタ…

幼馴染(そりゃ、私だってハッキリしてないけど…)


男「こっちにも発症してるし、荒れ放題…そりゃ花咲かないわけだわ」

ギコギコ…バサッ

幼馴染(こないだだって、黙ってクラスの友達とグループで遊びに行くんだもん)

男「いつからこの桜が咲いたの見てないかなー」

ガサガサ…

幼馴染(女の子が一緒だったのだって、知ってるんだから)

男「十年…くらいかな。古い木だもんなー」

ペタペタ

幼馴染(男の、ばーか)


男「剪定したら来年は咲くかな…。おっと…殺菌剤落とすとこだった」

フラッ…

幼馴染「あ…!男、危ない!脚立が…!」

男「うわっ…!?」

幼馴染「男っ!」

???『危ない!』

ガシャーン!カラカラ…


男「痛てて…足打ったな…」

幼馴染「男!大丈夫…!?」

???『大丈夫ですか?』

男「折れたりはしてなさそう…え?」

幼馴染(…誰、この人)

???『ごめんなさい、頭を打たないように支えるので精一杯でした』

男「あ、ありがとう…あの、どちら様でしょうか」

???『…サクラ、と申します』

男「サクラ…さん、えっと…いつの間にこの木の下に」

サクラ『ずっと、いました』


幼馴染「そんなわけ無いよ、誰もいなかった…」

男(だよな…俺も見てない)

サクラ『信じて頂けないかもしれませんが、私はこの桜の精…というのが相応しいかわかりませんが』

男「桜の精…だって?そんな…」

幼馴染(綺麗な人…桜色の絣袴なんて今時着てる人いないし…)

サクラ『驚かせてごめんなさい。本当に久しぶりに枝を切ってもらっていたから、ずっと見ていたんです』

男(…信じられない…けど、信じなきゃ説明がつかないタイミングだった)


幼馴染「と、とにかく!もう男を離していいから!」

サクラ『あら、ごめんなさい…抱えたままでしたね』

男「でも本当に助かったよ、ありがとう。誰かさんが脚立持ってくれないから…」

幼馴染「…むっ」

サクラ『歩けますか?』

男「歩けるけど少し痛くて力が入らない…もう今日は高いところには上がれないな」

幼馴染「…悪かったわよ」

男「サクラさんがいなかったら、まじでアタマ打ってたぜ…」

サクラ『ふふ…サクラと呼び捨てにして頂いて結構ですわ』

男「ああ…なんか照れるけど」


サクラ『照れる必要なんてありません、貴方が産まれた時から知ってますもの』

男「そっか…桜の精だっていうなら、そうだよな…」

幼馴染「………」

男「せっかく現れたんだから、お礼もかねて家に上がってお茶でも出すよ」

サクラ『ありがとうございます。…でも、それはできません。私はこの木からあまり離れられないので』

男「そうなのか…残念だな」

幼馴染「なにナンパしようとしてんのよ、節操のない」

男「そんなつもりじゃねーよ」


幼馴染「…サクラさん、男を助けてくれてありがとう。でももう大丈夫だから」

サクラ『そうですね、では消えます』

男「幼馴染、感じ悪りいぞ」

幼馴染「ふんっ」

男「あの、足が直ったら平日でも少しずつ続き切るから。…また出てきてくれるかな?」

サクラ『はい、せっかく私を知って頂いたんですから』

男「うん、じゃあまた」


サクラ『では…幼馴染さん、お邪魔してごめんなさいね…』

幼馴染「なんで私に言うのよ…って、本当に消えた!」

男「今、スーッと消えたよな…まじで桜の精なんだ…」

幼馴染「信じられない…けど、本当みたいだね…」

男「…綺麗…だったな…」

幼馴染「何よ、やっぱりナンパしようとしてたんじゃないの?」

男「ちち、ちげーし」

幼馴染「もう私、帰る。…すぐにでもサクラさん呼んだら?ばーか」

男「なんだよ、さっきから感じ悪りぃな…」

幼馴染「ばいばーい」




…翌朝



幼馴染「おはよー」

男「おぅ、すぐ行くわ」

幼馴染「いつも用意遅いなー、また遅刻ギリギリになるよ」

男「じゃあ先に行けよ」

幼馴染「いやでーす」

男「なんだよそれ…もう朝メシいいや、行ってきまーす」

ガチャッ、…バタン


幼馴染「…大丈夫?」

男「何が?」

幼馴染「その…足、大丈夫なのかなって」

男「ああ…ちょっと痛むけど」

幼馴染「…ごめん、昨日は」

男「あ?…いいよ、俺が無理な体勢したのが悪いんだ」

幼馴染「でも、脚立支えなかったから」

男「まあ、すぐに治るよ。サクラのおかげで頭は打たなかったしな」

幼馴染「覚えてるんだ、やっぱり夢や幻じゃないんだね…」

男「…みたいだな」


幼馴染「よかったね」

男「何がだよ?」

幼馴染「庭先にあんな綺麗な人がいるんだもん、さぞ嬉しいんでしょ」

男「なんかつっかかるなー、嫉妬してんのか?」

幼馴染「なんで桜の木に嫉妬しなきゃいけないのよ、ばーか」

男「…そんなに機嫌悪いなら無理に一緒に行かなくてもいいのに」

幼馴染「ふんっ」

男「解ったよ…悪かったって」

幼馴染「べっつにー」

男(絶対怒ってんじゃん…無理もないけど)

幼馴染(なんで私、素直に謝れないんだろう…)

男(なんで俺、もっと幼馴染に優しくできないかな…)

男&幼馴染(好き…なんだけどな…)

続けて




…放課後



男(帰るかぁ、幼馴染は…ん?メール?)

幼馴染《機嫌が悪いので、言う通り独りで帰ります。探さないで下さい》

男(…家に帰るんだったら探すも何も無いだろ)

男(にしても、まだ怒ってんのか…どうすればいいのかな)

男(あいつの好きなクレープでも買って、家に寄ってみるかぁ…)




…クレープ屋の前



男(ん?幼馴染…!?)

男(あいつ自分で寄ってやがる…やけ喰いする気だな)

男(しゃーねえな…向かいの店の鯛焼きにするか…)

鯛焼店員「ラッシャイッセーィ」

男「三匹下さい」

鯛焼店員「ァズキサンビキッシャーカァー?」

男「はい(何て言ってんだよ)」

鯛焼店員「サンビャッキュージューエンッスァー」

男「……(390円でいいよな…?)」

鯛焼店員「ァマタセァッシター」

男(なんか腹たつわ…この店)




…自宅前



男(さて、タイミング的にどうすっかなー)

男(わざと少し遠回りしたから、もう幼馴染は帰ってると思うけど…)

男(それでも帰ったばかりだろうし、まあ服くらい着替えてから行ってみるか)


サクラ『おかえりなさい』

男「うわ、びっくりした。…サクラか、ただいま」

サクラ『ごめんなさい、驚かせちゃって』

男「いや、いいよ。ボーッとしてただけだから」

サクラ『足はどうですか?』

男「ああ、だいぶ痛みは無くなってきたよ。今日は体育は見学したけどな」

サクラ『そうですか、よかった』


男「あ、そうだ…こないだお茶も出せなかったし、鯛焼きとか食べない?」

サクラ『わあ、大好きなんです。嬉しい…いつから食べてないだろう』

男「食べた事はあるんだ?」

サクラ『本当に昔…ですけど』

男「そっか…じゃあ、どうぞ。一匹しかあげられないけど」

サクラ『ありがとうございます、一匹で充分ですよ。………美味しいっ』

男「よかった、また買ってくるよ」


???『いいなー』

男「…!?」

???『あ、見つかっちゃった』

男「見つかったって…もしかしてお前も、どれかの庭木の精か」

男(小さな娘だ…人間なら小学生か、せいぜい中学生になりたて位か)

サクラ『そうですね、彼女はカナメちゃんです』

カナメ『そこの紅カナメの化身なんだ。ずっと隠れてたんだけど、サクラが姿を見せたんならもういいかなって』


男「そっか、よろしくな。お前も鯛焼き食うか?」

カナメ『物を食べるなんて、した事ないけど…興味は深々だなぁ。どうしよ…』

男「食ってみればいいじゃん。だめなら俺が食べるから」

男(まあ、幼馴染の分は一匹あるからいいよな)

カナメ『よーし、食べてみる!………うわ、美味ぁい!』

男「そりゃよかった。…なあ、もしかして全部の庭木に精がいるの?」

サクラ『この庭には結構多いですよ、全てではないですけど。彼女の他にもあの赤松と欅(けやき)、それから椛(もみじ)二本にもいますね』


カナメ『古い庭だからね。ボクは割と最近に植えて貰ったけど』

サクラ『ふふ…カナメちゃんはケヤキさんと恋仲なんですよ』

カナメ『もう、サクラそんな事まで言っちゃだめー!』

男「そんな恋愛関係もあるんだ。じゃあケヤキも出てきたらいいのに」

サクラ『彼はけっこう硬派ですから、今も姿は消して自分の枝の下で昼寝してますね』

男「あー、位置関係的にも紅カナメは欅の枝の下だな。なんとなくお似合いな気がするわ」

カナメ『そ、そう!?参っちゃうなー!』

サクラ『あ、ケヤキさんがむせてる。聞いてたみたいですよ、あはは…』


男「ははは…そっか、この庭にぎやかなんだなー」

カナメ『鯛焼き、もう一匹食べたいなー』

男「ん?…ああ、悪い。これはだめなんだ」

サクラ『もしかして幼馴染さんの分ですか?』

男「当たり、あいつちょっと機嫌悪くってさ。貢ぎ物をね…」

カナメ『やっすい貢ぎ物だなー』

男「高校生だからこれくらいでいいんだよ、ほっとけ」


サクラ『もしかして機嫌が悪いのって、私のせいだったりします…?』

男「んー、まあ…でもどっちかというと、俺のせいだよ。ハッキリしないのが悪いんだよな」

カナメ『それはだめだよ、男ならそこは夜這いかけるくらいじゃないと』

男「馬鹿言え、そういうハッキリじゃねえよ。まだ付き合っても無いんだから」

カナメ『幼馴染って事は昔っから一緒にいるんでしょ?なのに付き合ってもないの?』

男「そういう関係だから余計に難しいって面もあるんだって」


サクラ『解りますけど…でもハッキリはした方がいいですね。きっと幼馴染さんも待ってますよ?』

カナメ『そうそう、ボヤッとしてたら他の男に攫われちゃうんだから』

男「怖い事言うなよ、あいつあれで結構モテるから心配なんだ」

サクラ『大丈夫、男さんもなかなか男前です。自信もって』

男「そんなん初めて言われたよ」

カナメ『お世辞って知ってる?』

男「てめえ、鯛焼き返せ」


サクラ『カナメちゃん、ここは男さんをその気にさせないと』

カナメ『あ、そっか。ごめんごめん、男前ー』

男「遅せぇよ。ってか、サクラもひでえ」

サクラ『あはは…ごめんなさい。でも私は男さん、好きですよ』

男「もう何も信じられない」

カナメ『ぎゃはは、いじけたー』




…幼馴染の部屋



幼馴染(どうしよう)

幼馴染(行くなら、そろそろ行かないと)

幼馴染(でも感じの悪いメール送って、勝手に帰っちゃったしなぁ…)

幼馴染(………だめだよね、尻込みしてたら。せっかく男の好きなツナクレープも買ったし)

幼馴染(今度は素直に謝ろう。謝った後に余計な事は言わないように…)

幼馴染(それと…できたら、好きって言おう)

幼馴染(…無理かなー、無理だろうなー)

幼馴染(ええい、とりあえず男の家に行こう!)


幼馴染(…庭先から、声…?)

幼馴染(サクラさん、いるんだ…それに違う娘も。あの娘も木の精なのかな)

幼馴染(楽しそうに笑っちゃって、なによ…)

幼馴染(………だめ、またそんな素直じゃない事を考えて)

幼馴染(『男、クレープ買ってきたよ。サクラさん達には悪いけど、部屋で食べよう』…うん、そのくらい言ってもいいよね)


幼馴染(サクラさん達は木から離れられないんだから、仕方ないよ。この時間に男の部屋に行くのは日課なんだから)

幼馴染(男…怒らないよね、…よしっ)

スタスタ…

幼馴染「お、男…」
サクラ『…私は男さん、好きですよ』

幼馴染「………!」

…ササッ

幼馴染(…なんで隠れちゃったんだろう)

幼馴染(違う、もう一人の娘もいるんだし、まさか告白なんてわけじゃない)

幼馴染(ただの他愛もない会話だよ…ね)


男「…とにかくなー、幼馴染とは本当にこの関係の時間が長過ぎてさ」

幼馴染(私の事、話してるの…?)

男「正直、恋人になるとかってイメージわかないんだよなぁ」

幼馴染(………!!!)

サクラ『そんなものですか』

男「うん…あいつも素直じゃないし、まあ俺もなんだけど」


カナメ『もういっそのこと、好きって言ってくれるサクラと付き合っちゃえばー?』

サクラ『カナメちゃん、変な事言わないの』

幼馴染(…どうやって顔を出せばいいのよ)

男「はは…悪くない話だな」

幼馴染(…私とは恋人になれないって聞いた後で、どんな顔をして話し掛ければいいの)

カナメ『男、真に受けてるー!』

男「ばーか、そんなんじゃねえよ」

幼馴染(もう…いいや…帰ろう)

幼馴染(男…私は…好きなんだよ)

幼馴染(伝える前から、ふられちゃったなぁ…)

支援

1は幼馴染モノが好きなのね
自分もです

何も考えなくともテンプレ的なプロットができるから、使いやすさに甘えてしまう。
そして好きだ。




…15分後



男「…さて、そろそろ行ってみるかなー」

サクラ『頑張って下さい、告白するんですよ?』

男「今日、必ずってわけじゃないよ…」

カナメ『そんな事言ってるからだめなんだよー、思い切らなきゃ』

サクラ『そうです、絶対ふられるわけないですよ』

男「お、おぅ…がんばるわ」

サクラ『はい、その調子です』


ピンポーン…

幼馴染母「あら、男くんいらっしゃい。いつもあの娘がお邪魔ばかりしてごめんなさいね」

男「いいえ、なんかもう部屋にいるのが当たり前みたいだから」

幼馴染母「でも今日は男くんが来てくれたのね。どうぞ上がって、部屋にいると思うわ」

男「お邪魔します」


パタパタパタ…
…トントン

男「幼馴染ー、いるのか…?」

幼馴染《…いない》

男「いるじゃねえか、開けるぞ」

幼馴染《開かない、鍵かけてるから》

男「じゃあ、鍵を開けてくれよ」

幼馴染《…嫌だ》

男「いつまで膨れてんだ…鯛焼き買ったから、食えよ」

幼馴染《いらない、食欲無い…》


男「幼馴染…悪かった。サクラの事、木の精だなんてあんまりびっくりしたから、つい…」

幼馴染《もう、いい…》

男「…幼馴染、話がしたいんだ。開けてくれないか」

幼馴染《話したくない、お願い…今日は帰って》

男(俺の部屋は無断で開けるくせに…勝手な奴だなぁ)

男(でもこんな機嫌の日に告白なんか、そもそもできないか…)

男「鯛焼き、袋のままドアの外に置いとくから…」

幼馴染《………》

男「明日は機嫌、直しといてくれないか。話…したいんだ」

幼馴染《………ごめん》

男「今日は帰るわ…じゃあな」




…幼馴染の部屋



幼馴染(…帰っちゃった)

幼馴染(いいんだ、今日はどうやっても普通になんて話せない)

幼馴染(こんな真っ赤な目で、会えるわけないよ)


『…イメージわかないんだよなぁ』

幼馴染(…私は、ずっとイメージしてたよ)

幼馴染(もし、ちゃんと付き合えるようになったら、あんな事がしたい…どんな所に行きたいって)

幼馴染(男は…違ったんだね)

幼馴染(ただハッキリしてないだけだと思ってた…どっちからでも告白さえすれば、だめなワケは無いって思ってた)

『正直、恋人になるとかって…』

幼馴染(…でも、だめなのかもしれない)


『…サクラと付き合っちゃえばー?』

幼馴染(まさかサクラさんじゃないだろうけど…いつか、男は他の誰かのものになっちゃうのかな)

幼馴染(そんなの、考えた事も無かったのになぁ…)

『いつまで膨れてんだ…』

『明日は機嫌、直しといてくれないか』

『話…したいんだ』

幼馴染(…気持ち、切り替えなきゃ)

あかん、前の作品で『たまには平和なのを』とコメ頂いたからこんなやつ書いてみてるけど、ヤマ場の無いストーリーって余計に難しいわ。
今のところ完全にテンプレ的な展開で糞申し訳ない…
とりあえず、今日はここまで。
ちょっと書き溜めます。

おつ

他の?

釣りとストーカー女から幼馴染を守るやつ以外は何を書いてるの?

レスあざます。
「がらくた処分場」でググってみてやって下さい。
過去作置場が出てくると思います。
よかったら読んでみてやって下さい。




…翌朝



男(おかしいな…幼馴染が迎えに来ない)

男(これは多分、まだ拗ねてんだな)

男(しゃーねぇ、たまには俺が迎えに行くか)


…ピンポーン

幼馴染母「あら…?おはよう、男くん。あの娘、もう出たけど…男くんのところへ行かなかったのかしら」

男「え…そうなんですか」

幼馴染母「それにしても貴方達、ケンカでもした?」

男「いや…まあ…」

幼馴染「今回はあの娘、相当ヘソを曲げてるみたいだわ。ごめんなさいね…」

男「何かあったんですか?」

幼馴染母「うーん…まあ、学校には行っただろうから、会えば解ると思うわ」

男「…はい」




…学校、男と幼馴染のクラス



ガラッ

男「おはよー」

友1「あっ、来たぜ」

友2「おい!男、どういう事だ!?」

男「はぁ?…何が」

友1「てめえ、幼馴染ちゃん泣かしたのかよ!?返事によっちゃブン殴るぞ!」

男「ちょ、何の事だよ。わけ解らねえぞ」

友2「ふざけんな、だってあれ…どう見ても自分で切ってるじゃねーか」


男「切ってるって、何を…」

友2「お前、知らなかったのか?…見りゃ解んだろ」

男(何がだよ…え!?)

男(幼馴染…!髪が…!)

男「…悪りぃ、友1。ちょっとHR遅れるわ、適当に担任に言っといてくれ」

スタスタスタ…

男「幼馴染、ちょっと来い」

幼馴染「あ、男…おはよ。昨日、鯛焼きありがとう」

男「いいから、ちょっと来いよ」

幼馴染「もうHRが始まっちゃうよ」


男「うるせえ、いいから」

グイッ

幼馴染「ちょっと…男…!」

男「屋上、行くぞ」

モブ友「ヒャッホー、チワゲンカダー」

モブ友「ヒューヒュー、オトコーセキニントレー!」




…屋上



幼馴染「強引だなぁ…私、乱暴されちゃうのかな?」

男「ふざけてんじゃねえよ、お前…その髪どうしたんだ」

幼馴染「ん…ちょっと、ね」


男「背中まであったのに…適当な切り方しやがって。肩下しか無えじゃねーか」

男(俺はお前の長い髪、好きだったんだぞ…)

幼馴染「イメチェンです」

男「それなら普通、美容院行くだろうが」

幼馴染「…なんで怒ってるのよ」

男「こないだから怒ってんのはお前だろ!しかもそんな真似しやがって…!」

幼馴染「怒ってないよ、もうスッキリしてる」

男「してねえよ!明らかに空元気じゃねえか…!」


幼馴染「…男が気にする事じゃないでしょ」

男「お前、俺が…!」
幼馴染「…付き合ってるわけでもないのに」

男「………!」

幼馴染「彼氏でもないんだから、私がどう髪型変えても口出しする必要なんて無い…そうじゃない?」

男「………幼馴染」

幼馴染「もう放っといて、男には関係ない話だから」


男「関係なくても、やっぱり髪を切った理由はあるんだな」

幼馴染「…私ね、失恋…したの」

男「え…!?」

幼馴染「だから、気分転換が必要だったんだ。大丈夫…帰りに美容院寄るから、ちゃんとしてもらう」

男「…お前、好きな奴がいたのか」

幼馴染「うん、言ってなかったけど…ずっと前から」

男「そいつに振られたのか」

幼馴染「…そんなとこ」

男「…そうか」


幼馴染「だから、男が気にする事は無いの。それに髪短くしたらけっこう楽なんだよ」

男「…解った。ごめん…変な口出しして」

幼馴染「教室、戻るね。男も行こう」

男「…もう少し、ここにいる」

幼馴染「怒られちゃうよ」

男「いいから、気にするな。…本当、さっきは悪かった」

幼馴染「…早くおいでね?」

男「おう」


男(参ったね、こりゃ…)

男(強引に屋上に連れて来たのが、赤っ恥のレベルだな)

『言ってなかったけど…ずっと前から』

男(何が『部屋にいるのが当たり前』だよ、ただ散らかってて居心地が良かっただけだったんじゃねえか)

男(俺の部屋で他愛もなく話しながら、笑いながら…お前は別の男の事を想ってたんだな)


男「ははっ…俺は馬鹿か…」

男(ただハッキリしてないだけだと思ってた…どっちからでも告白さえすれば、だめなワケが無いと思ってたんだ)

男(なんて図々しい、なんて勝手な思い込みだよ)

…ガンッ!

男「…痛ってぇ」

男(コンクリートで壁ドンしちゃだめだな…血ぃ出た)

男(教室…戻りたくねえなぁ…)




…その日の夕方、男の家の庭先



カナメ『おかえりー、あれ…独り?』

サクラ『お帰りなさい、昨日はどうでした?』

男「うん、だめだった」

サクラ『え…!?』

カナメ『だめだったって、フラれたって事…!?』

男「まあ、そんなとこだな」


サクラ『そんな…そんなはず無い、ただ怒ってるだけなんじゃないですか?』

男「いや、そもそも機嫌が悪かったのも…どうやら俺とは関係無い理由だったみたいだ」

カナメ『なんだよ、その理由って』

男「悪い、今は言いたくない…まだ俺も気持ちが整理できてないんだ」

サクラ『男さん…』

男「まあでも、ちょうどいいよ。たぶんこれから夕方は暇になるから、お前らの剪定もはかどりそうだ」

サクラ『男さん、無理しないで…』

男「はは…大丈夫だよ。着替えてから取り掛かるから、待ってて」




…五日後



ギコギコ…バサッ

男「欅の剪定は難しいなー」

ケヤキ『まあ上出来だろ、自然形の枝ぶりを意識してくれてるだけで御の字だ』

男「そう言ってくれると助かる」

…バサバサ…ストン

ケヤキ『ふう…さっぱりするぜ』

男「ケヤキは本当、硬派な感じだなー。木質も堅いけど」

ケヤキ『そうか?クヌギや栗ほどじゃないんだがな』

男「まあノコの刃を替えたから、大丈夫だけどね。格好よく切らないとカナメに怒られそうだ」


ギコギコ…

ケヤキ『あいつもスッキリしたよな、ありがとよ』

男「惚れ直したかい?」

ケヤキ『オトコってのは、いったん惚れたらそれ以上は無いくらいまで惚れ込まなきゃだめなんだよ』

男「はは…耳が痛てぇな」


パチン、パチン…サッ、サッ

ケヤキ『…アンタ、失恋したってな』

男「まあね…」

ケヤキ『ちゃんと想いは伝えて、それで砕けたのか』

男「………」

ケヤキ『…そうじゃねえんだったら、後悔するぜ』

男「それ以前に、後悔しきりだよ。…チャンスなら十年以上もあったんだから」


…バサバサ

ケヤキ『今からでもいいじゃねえか』

男「そうだな…まだ、チャンスが無いわけでも無いのかな」

ケヤキ『思い切れよ』

男「機会を窺って…な。たぶん今は逆効果なんじゃないかと思う」

ケヤキ『まあ、アンタの気持ちだ。アンタの好きにすりゃあいい…』


…サッ、サッ

男「よし、こんなもんでどうだ?」

ケヤキ『ああ、見違えるぜ。すまねえな』

男「明日は椛二本かなー」

ケヤキ『…なあ、ちっとも礼にはならねえんだが、ひとつお節介を言わせてくれねえか』

男「お節介?」

ケヤキ『アンタ、今はその幼馴染って娘と距離を置いてんだろ。だったらこの件は逆に好都合なんだ』

男「…聞くよ」


ケヤキ『そんなに難しい話じゃねえ。…ただ暫く、サクラに出来るだけ優しくしてやってくれねえか』

男「サクラに…?どうしてまた」

ケヤキ『ここだけの話だ。まだカナメや、精として幼いモミジの双子には言ってねえ』

男「…少し小さい声の方が良さそうだな」

ケヤキ『サクラは…あの桜は、もう長くは無い。たぶんいくら保っても来年の夏は越せないだろう』

男「………!!!」


ケヤキ『それに今年は剪定をしたからな、春には花をつけるかもしれない。いや、もしかしたらじきに秋の狂い咲きをする可能性もある』

男「それがどうしたんだ」

ケヤキ『木にとって花を咲かせるというのは、凄まじい生命力を消費する事だ。多分、花を咲かせたらその後は…』

男「俺が剪定をしたから、サクラは早く死ぬってのか」


ケヤキ『さっき言ったろう、長くても夏までだって。お前が責任を感じる必要は無いさ、むしろ最期の花を咲かせられるなら願ったりだ』

男「でも…なんとかならないのか」

ケヤキ『あの桜は染井吉野だからな、そもそも花は最高に華美だが寿命は短い…仕方が無えよ』

男「…その事と俺が彼女に優しくする事と、関係があるのか」

ケヤキ『そこは赤松のジジイから聞いてくれ、俺より適任だ。とにかく、頭の隅にだけ置いといてくれよ』

男「…ああ、解った」

>>1の作品らしくなってきたな




…男の部屋



男(…ショックだ)

男(庭からサクラがいなくなるなんて、思ってもみなかった)

男(まさか恋をしちゃいないけど…寂しすぎるだろ)

男(幼馴染に話すべきかな…知らない間柄じゃないし)

男(でもここ数日、めっきり話してもないんだよな。近寄り難いというか…気まずくて)

男(ここんとこ、ショック受けてばっかだ)

男(…幼馴染が振られた事に、少し安堵してる自分が嫌だし。なんかもう、胃が辛い)

男(また…この部屋に来てくれねえかな)

男(もう前みたいにぞんざいな事、言わないから)

男(俺…お前がいなきゃ、だめなんだよ…)

男(とてもじゃないけど、今は連絡なんてできねえや…)




…翌日



イロハ『今日は私達の番だよねー』

ノムラ『だよねー』

男「えっと、イロハとノムラ…。悪いけど先に赤松を剪定してもいいかな」

イロハ『楽しみにしてたからだめー』

ノムラ『だめー』

シリアスなとこ?


男「ちょっと赤松に訊きたい事があんだよ、すまねえけどさ…」

イロハ『じゃあ松ジイをこっちに呼べばいいよー』

ノムラ『いいよー』

男「いや、内容的にそういうわけにもいかないんだよ…」

イロハ『男、モミジ嫌いなのー?』ウルウル

ノムラ『なのー?』ウルウル

男「んな事は無い!無いから!」

イロハ『じゃあ私達の番だねー』ニッコリ

ノムラ『だねー』ニッコリ

男「…解ったよ、解りました。切らせて頂きます」


…パチン、パチン

男(ケヤキと同じで自然樹形を保たなきゃいけないから、難しいよなー)

プチプチ…

男(多過ぎるところは手で葉っぱを毟って…)

男「痛ってえ!?…ああ、くそ!イラガがついてるじゃねえか…!」

イロハ『防除しないからだよねー』

ノムラ『だよねー』

男「くっそー、そうだった…モミジはこれが多いんだ…後で手がグローブみたいになるんだろなぁ」

イロハ『柿ほどじゃないけどねー』

ノムラ『けどねー』

支援


サクラ『まあ、イラガに刺されたんですか?』

男「…サクラ。いや…大丈夫、ちょっとだけだよ」

イロハ『イラガに刺されるのにちょっとだけとか関係ないよねー』

ノムラ『ないよねー』

男「大丈夫だから、もう手袋したから」

サクラ『男さん、切りながらでいいです。お話…できますか?』

男「ああ、いいよ」


…パチン、パチン

サクラ『その後、幼馴染さんとは何かお話しました…?』

男「…挨拶くらいだな」

サクラ『彼女の雰囲気は、どうなんですか?』

ギコギコ…

男「やっぱり、なんか落ち込んでる風ではある…かな」

サクラ『幼馴染さん、失恋したって言ったんですよね?』

男「…うん、どこの誰に振られたのかは解らないけど」


プチプチ…

サクラ『…もしかして、ですよ?』

ノムラ『ですよー』

サクラ『男さん、幼馴染さんに何か言いませんでした?』

…パチンッ

男「…どういう事?」

サクラ『私…幼馴染さんが、男さん以外の人を好きになるようには思えないんです』

男「…俺は何も言ってないし、あいつは俺には関係ないって言ったよ」


サクラ『何か理由があって幼馴染さんが男さんに振られたと思い込んでるとしたら…そんな風に強がって当たり前じゃないですか?』

男「…都合が良すぎるよ」

プチプチ…

サクラ『でも他の人が好きだったんだとしたら、男さんに対しては今までと何も変わらないはずなんですよ?』

男「………まあ、そうだな」

サクラ『別に今まで通り男さんの部屋に来ればいいはずじゃないですか、その方が少しでも気が晴れるでしょう?』

男『そんな気分になれないくらい、落ち込んでるんだろ』

ギコギコ…
…パサッ

イロハ『…恋ってめんどくさいねー』

ノムラ『ねー』


サクラ『じゃあ、質問を変えます。…幼馴染さんが本当に誰かに振られたんだとして』

男「うん…」

サクラ『どうして男さんは、この機に幼馴染さんの気を惹こうとしないんですか?』

…パチンッ

男「…どうやって」

サクラ『幼馴染さんを慰めて元気づけるなら、男さんが最適なはずじゃないですか。…それなのに』

男「そんな事…ないよ。俺は関係ないって言われたんだぞ」


サクラ『…幼馴染さんって、随分ひどい人なんですね』

男「………え?」

サクラ『ずっと男さんの部屋に入り浸って、男さんが自分に気があるって思い込むくらい思わせぶりな態度をとって』

男「サクラ…」

サクラ『それで本当は他の人が好きで、振られて、男さんには関係無いなんて冷たい事を言って』

男「サクラ、君に何が解る…」
サクラ『…最低な女ですよね』
男「…違う!あいつはそんなやつじゃないっ!」

イロハ『怒った…男、怒った』

ノムラ『怒った』


男「サクラ、あいつを侮辱するのは君でも許さない」

サクラ『ほら、やっぱり…解ってるんじゃないですか』

男「え?」

サクラ『幼馴染さんはそんな人じゃないでしょう?…だったら、何か理由がありますよ』

男「…ずるいな、サクラは」

サクラ『何とでも、男さんが目を覚ましてくれるなら』


男「これじゃ、ケヤキに怒られちゃいそうだな」

サクラ『はい?』

男「何でもないよ…ありがとう、サクラ」

イロハ『男、手が止まってるー』

ノムラ『止まってるー』

男「ああ、ごめん。…もうすぐだからな」


プチプチ…

男(そうだよな、俺が尻込みする必要は無いんだ)

…パチン、パチン

男(メールでもしてみる…かな)

ギコギコ…
…パサッ

男(あいつが落ち込んでるなら、何か美味いもんでも食いに誘ってみるか)

イロハ『すっきりしたねー』

ノムラ『ねー』

男「俺も少し、すっきりしたよ」

イロハ『何がー?』

ノムラ『何がー?』

男「恋を患う胸の奥…かな?」

イロハ『…臭いねー』

ノムラ『ねー』

(*´・ω・)(・ω・`*)ネー




…その夜、幼馴染の部屋



幼馴染(…まだ8時かぁ、時間経たないな…)

幼馴染(私…男の部屋に行かなくなったら、男と会わなくなったら…何もする事無いんだ)

幼馴染(学校や休日なら友達と過ごす事もできるけど、平日の夕方から夜なんて…本当に何も無い)

幼馴染(今まで思った事も無かったなぁ…)

幼馴染(私、こんなに男に依存してたんだね。男はきっと、それに疲れちゃったんだ)

幼馴染(こんな女を恋人にしたら、もっと疲れちゃうよね…)

幼馴染「でも…」

幼馴染(声に出しちゃ、だめなんだけどな…)

幼馴染「私…男がいなきゃ…だめなんだよ…」

幼馴染(髪も切ったのに、ちっとも諦め切れてないや…)


キラキラリーン…ピコーン

幼馴染(…メール、誰だろ)

幼馴染(男…だったら、いいな)

パカッ

幼馴染(本当に男からだ…!)


件名…どうしてる?
本文…無理もないけど、最近元気が無いな。
よかったら今週末、どこか遊びに行きませんか?
朝、幼馴染の迎えが無いからいつも遅刻しそうになるよ。
元気出せよなー!


幼馴染(男…なんか複雑だよ。まあ私の失恋相手が男だとは伝えてないんだから、当たり前かな)

幼馴染(でも、嬉しい)

幼馴染(もう一回…ただのお友達からやり直してでも、頑張れば私に振り向いてくれる…?)

幼馴染(今までの馴れ合い過ぎた私から変われたら、恋人のイメージ…持って貰えるかな)

幼馴染(返信…どうしよう。男相手のメールに悩むなんて初めてだなぁ)


件名…Re:どうしてる?
本文…ありがとう、楽しみにしてるからね。また前の日に連絡します。
おやすみ、男。

幼馴染(シンプル過ぎるかな…でも、あんまり書き込むと面倒臭い感じになりそうだし)

幼馴染(うう…どうしよ…ええい!送信しちゃえ!)

…ピッ

幼馴染(…送っちゃった、はああ…緊張した…)

幼馴染(よし、がんばろう…!恋人のイメージがわかないとは言ってたけど、嫌いだって言われたわけじゃないんだから)

幼馴染(チャンスはある!…はず!…たぶん!…きっと…)




…男の部屋



…バチコーイ!ピコーン

男「返信きたー!?」

男(やっぱ幼馴染だ!…うおお、あいつのメールでドキドキするなんて初の感覚…)

男(開封するの怖えぇ…!見るの明日にしようかな…)

男(って、アホか!もし『明日からまた迎えに行くからね、はぁと』とか書いてあったらどーすんだ!…いや無いな、うん…無い)

男(ええい、もう届いた内容は変わらねえんだ!…いつ読むの!?)

男「…今でしょ!」

…ピッ


男「………!!!」

男(よっしゃ!とりあえず好感触…!)

男(…はあああぁぁぁ、なんだこの安堵感と疲労感は)

男(まあ焦らずに…とにかく今度の休みは、あいつの傷心を労わって自分のポジションを上げなきゃな)

男(…幼馴染相手に、こんな風に普通に片想いする事になるとは…)

男(でもなんか、新鮮だな…)


男(あいつを慰めるのは当たり前として、何かもうひと押し…武器が欲しいな)

男(やっぱ思いつくのは今までの時間…だよなあ)

男(無為に過ごしてしまったけど、この十数年は俺達にとって大事な記憶には違いない)

男(最近の事はもちろん覚えてるけど…忘れかけたような懐かしい記憶)

男(これは俺以外の男は持ってない武器になるんじゃないか?)

男(…たしか、リビングの書棚にアルバムあったな。二人で写ってる写真もあったはず)

男(よし…夜更かし覚悟で見てみるか)


男母「あらー?珍しいわね、アルバムなんか出して」

男「ああ、ちょっとな」

男(…ええと、これかな?)

…ドサッ
パタッ…パタッ…

男(おお…!中学校の入学式!そっかー、女子はこんな制服だったなー。…可愛いなー、幼馴染)

男(これは…ウチの庭で流し素麺した時のか、ちょっと映りがイマイチ)


パタッ…パタッ…

男(あんまり無いんだなー、これは…そっか二家族揃ってキャンプした時のやつか。…これは結構いいな)

男(まあこの頃はもうデジカメだったもんなー、ほとんどPCの中かぁ)

男(もうちょい古いやつ…小学校くらいの、これかな?)


…ドサッ
パタッ…パタッ…

男(おお!あるある!…運動会のやつ、遠足のやつ…)

男「うおっ!?」

男母「どうしたの変な声出して?」

男「な…なんでもない!」

男(庭先のビニールプール…小学3年くらいか?…二人とも素っ裸じゃん)

男(幼いけど顔は今の幼馴染とそんなに変わらない…これはヤバイ、お宝発見!)

男(後でこっそりスキャンして隠しフォルダ行きだな…。携帯にも保存しとこ)


男(ん…?こっちのアルバムは、えらい古いな…)

…ドサッ
パタッ…パタッ…

男(写真、白黒じゃん。しかも写真館みたいなとこで撮ったのしか無えぞ。よっぽど昔だな…)

パタッ…パタッ…

男(…ん?…んん!?)

男「オカン、これ…誰だ?なんか俺にそっくりなんだけど」

男母「ええ?…あ、これはアンタの曾祖父さんよ。本当にそっくりよねぇ」

男「びっくりだよ…あ、そういえば」

男母「そうそう、アンタの名前も曾祖父さんからとったのよね。字は違うけど」

男「そっか…昔、聞いた事あったなー」

男母「次のページ見てごらんなさいな、美人さんがいるわよー?」

男「まじか、どれどれ…」


…パタッ

男「……!!!」

男母「…ね?それ、アンタの曾祖母さんよ、綺麗な人でしょ」

男「曾祖母…ちゃん…?」

男(これ…サクラだ…!)


男母「名前は片仮名で『サクラ』っていってね。そうそう…アンタが剪定してくれた桜の木は、二人の結婚記念樹なのよ」

男母「その写真の時、曾祖母さんのお腹にはアンタのお祖父さんがいたの。でも、産んですぐに曾祖母さんは亡くなったそうよ。産後の肥立ちが悪かったって…」

男「曾祖父ちゃんは、目が見えなかったよな…」

男母「覚えてるのね。アンタが7歳位の頃に亡くなったけど、戦地で目を負傷してね…。それでも命は助かって帰国したら妻は子供を遺して亡くなってるし、辛い人生を送った人だったわ」

男「俺が7歳…十年前か」

男母「目が見えなくても、庭の桜が咲くとその下で曾祖母さんに語り掛けながらお酒を飲んでたねぇ」

男母「普段は年相応な話し方をする人だったけど、その時だけは結婚当時みたいに若々しく、凛々しく語りかけてたわ…」


男母「曾祖父さんが亡くなったのは三月のはじめだった。…最期の言葉で『桜が咲くのを見たい』って言ってたのが、忘れられなくてねぇ…」

男「曾祖父ちゃん…」

男母「その年の桜は一番綺麗に咲いたわ…でも曾祖父さんは見られなかった。不思議な事に次の年から桜は咲かなくなったのよ」

男(そうか…ケヤキの言った事は、そういう意味か)

男(俺が曾祖父ちゃんにそっくりだから…)

男(サクラは曾祖母ちゃんの幽霊?…よく解らないけど)

男(でもそれならどうして、そう言ってくれないんだろう…)

男(訊かない方がいいのかな?…そうだ明日、赤松のジイさんとやらに訊いてみよう…)

地の文無しのシリアスシーン、なんと難しい事よ…折れそうになるは

頑張ってー
④④④




…翌朝


…ガチャッ

幼馴染(どうしよ…昨日のメールで、迎えに行くって書けば良かった…)

『朝、幼馴染の迎えが無いからいつも遅刻しそうになるよ』

幼馴染(せっかく男がそう書いてくれてたのに、バカだなぁ…私)

幼馴染(行ってもいいかな…行ってみようかな…)

幼馴染(…ダメでは無い…よ…ね?)


ピンポーン…

男母「あら幼馴染ちゃん、おはよう。髪型すっきりしたわねー、可愛いわよ」

幼馴染「あ、お…おはようございます。あの…男は…」

男母「それがねぇ…」

男「オカーン!制服はー!?あああぁぁ、寝ぐせだらけだしいいぃぃぃ!!」

バタバタバタ…!

男母「なんだか昨日やたら夜更かししたみたいで、この通りなのよ。幼馴染ちゃん、今日はいいから先に行きなさいな?」

幼馴染「は、はい…」




…教室、休み時間



モブ女「…キノウノドラマミター?」

モブ女「ミノガシタノヨー、デモロクガシタカラー」

幼馴染(結局、男…大遅刻しちゃってたなぁ)

モブ女「エー、ハナシチャオッカナー」

モブ女「チョ、マテヨ!」

幼馴染(…やっぱりもっと早く、前みたいに私が迎えにいかなきゃダメなんだよ!)


モブ女「エットネー、アノネー」

モブ女「ヤメテヨー!タノシミニシテルノー!」

幼馴染(男にとっても私がいなきゃダメなんだね!)

モブ女「ヒャクバイガエシダ!」

モブ女「ソレ、ニチヨウノジャナイノー!」

幼馴染(男は週末、私を誘ってくれたんだし!やっぱり、望みは充分にある!)

モブ女「ヤレー!オオワダー!」

モブ女「キャハハハ!ニテナーイ!」

幼馴染(絶対、男を振り向かせてやる!見てろー!)

モブ女の会話がかわいいw

男と幼と 折れそうな1がんばれー
支援

アカン、寝オチしてた
ムズイけどがんばる、ありがとー


幼友A「あの…幼馴染ちゃん?」

幼友B「なんで天井に向かって拳突き出してんの?」

幼馴染「え!?あ…いや、ちょっとボーッとしてた!あはは…」

幼友A「いや、ボーッとしてる感じじゃなかったけど」

幼友B「まあいいや…幼馴染ちゃん、お客さん来てるよ」

幼馴染「お客さん?」

幼友A「たぶん隣のクラスの男子、これはアレじゃないのー?」

幼友B「幼馴染ちゃん、本当に男くんとは別れちゃったの?」

幼馴染「え…男とはもともと付き合ってはないし…」

幼友A「はぁ…そういうのはいいから、見え透いてるし」

幼友B「そうそう…ま、どうする?断っとこうか?」

幼馴染「…うーん、まあ…行ってみる」


モブ友「キノウミタオンナノコ、オボエテル?」

モブ友「モチロンヨ!スゲェカワイカッタヨナー」

男(…夜更かししすぎた、眠い)

モブ友「シカモ、チラチラコッチヲミテキテタシ」

モブ友「ソリャオマエガガンミシテタカラダロ」

男(結局、アルバム見るだけで日付変わったし…その後はお宝写真のスキャンと活用に勤しんだし)


モブ友「モシカシテダケドー!」

モブ友「モシカシテダケドー!」

男(本当は今朝、早起きして幼馴染を迎えに行ってみたかったんだけどなー)

モブ友「オイラノズボンノチャックガアイテタンジャナイノー!」

モブ友「ゼンゼンモジスウアッテネーシ!」

『ありがとう、楽しみにしてるからね』

男(まあ週末が勝負だ、それまではこのメールを励みにするさ…)


男友A「なに溜息ついてんだよ、似合わねえな」

男「心配するなら、ひと言多いよ」

男友B「心配してないからな」

男友A「じゃなくて、お前いいのかよ?幼馴染ちゃんの事」

男「どういう意味だよ?」

男友B「お前ら別れたって噂が広まってんぞ?」

男「そもそも付き合っちゃないけど…それは嬉しくはねえな」

男友A「だろ?でも…さっき幼馴染ちゃん、隣のクラスの奴に呼び出されてたぞ」

男友B「ありゃあ噂を信じて告白する気だろうな」

男「まじか…!?」

男友A「行けよ、手遅れになんぞ?」

男友B「向こうの階段の方に行ったから、たぶん屋上だろ」

男「…サンキュ、行ってみるわ!」




…屋上、ドアの内側



男(そーっ…とね…)

…ガチャッ

男(…いた!…何か話してる)

男(あー、見た事あるわ…確かに隣のクラスの奴だ)

男(くそ、結構イケメソじゃねーか)


イケメン「ごめんね、急に」

幼馴染「ううん、いいけど…」

イケメン「日差しのある屋上でも、随分肌寒くなったよね」

男(うるせーよ、何くっちゃべってんだよ)

幼馴染「そうだね、…えっと」

イケメン「うん、ごめん。本題に入るよ…幼馴染さん」

男(当たり前だけど、やっぱ大事な話ってやつか…)

イケメン「ずっと付き合ってた彼氏と別れたって、本当なのかな」

幼馴染「男とは付き合ってたわけじゃ…」

男(…ぐはっ!自分もそう言ったけど、聞くとダメージでかいぜ)


イケメン「そうなの?いつも一緒にいたから…」

幼馴染「男とは『おさななじみ』だから」

イケメン「そうか、じゃあ遠慮はしなくてよかったのかな」

男(しろよ!空気読み続けろよ!)

イケメン「幼馴染さん、俺…君の事が前から好きだったんだ」

幼馴染「…あー、うん…えーと」

イケメン「よかったら、付き合ってはくれないかな…?」

幼馴染「…ごめんなさい」

男(よし!ナイス!さすが幼馴染!あんにゃろ、俺がフラれた場所で告白した罰だ!)


イケメン「どうして?…って訊いてもいいのかな」

幼馴染「イケメンさんの事、全然知らないし…」

イケメン「それはこれから知って欲しいんだけど」

幼馴染「うん…正直に言うと、私…好きな人がいるの」

男(………幼馴染)

幼馴染「フラれたみたいなものなんだけどね、まだ…諦められない」

イケメン「そうなんだ…そいつが憎いなぁ」

男(…戻るか)

幼馴染「だから、ごめんなさい。気持ちは嬉しかったよ」

イケメン「うん、こっちこそごめんね。話…聞いてくれてありがとう」


…ガチャッ
トボトボ…

男(…落ち込んでるだけじゃなく、まだ好きなんだな)

男(さっきのイケメソと俺、似たようなもんか…顔は似てないけど)

男(…やっぱ、無理なのかな)

男(週末、俺…ちゃんと笑えるかなぁ…)




…夕方、男宅の庭先



プチプチ…

松ジイ『まだまだ葉毟りの手つきがおぼつかんのぅ』

男「勘弁してよ、プロじゃないんだから…」

松ジイ『ああ、構わん構わん…ワシは赤松じゃからな、黒松ほどキチッと造り込まんでええぞ』

…パチンッ

男「やっぱ松はムズいわ…手間かかるなぁ、今日じゃ終わらない」

松ジイ『すまんのぅ、じゃが良くなっていっとるぞ』


プチプチ…

男「それで松ジイ…話の続きなんだけど」

松ジイ『おお…サクラがお前さんの曾祖母じゃという事には気付いたんじゃったな』

男「どうしてサクラはその事を俺に言わないんだろう…松ジイは知ってるのか?」

松ジイ『まあハッキリ聞いてはおらんがな…。それはサクラの気持ちだけの話じゃろうて』

男「気持ち…?」

松ジイ『お前と曾祖父が瓜二つじゃというのは解っとるんじゃろう?…ならば自ずと解らんかの?』

男「…解らないから訊いてるんだよ」


プチプチ…

松ジイ『若いのぅ…。サクラもお前が曾孫だという事は当たり前じゃが解っておる。しかしこう似ていては、自らの愛した男の影を重ねずにはおれんじゃろう』

男「曾祖父ちゃんの影…か」

松ジイ『見かけだけの事と知り、ましてお前が他に想う娘がおる事を知ってもなお…夫の姿をしたお前さんの前では、曾祖母ではなく一人の女でありたいのじゃろうなぁ…』

男「…なんか複雑な気分だよ」

…パチッ、パチンッ

松ジイ『無理も無いがの…じゃがサクラの思いもよく解る。しかも、お前さんは目が見えるからのぅ』

男「もしかして、曾祖父ちゃんが見られなかった花を俺に…?」


松ジイ『お前さんが剪定をしたからというだけではなく、今年は害虫のシロヒトリが多かったからのぅ。あの桜は晩秋を待たずしてほとんど葉が無い』

松ジイ『ワシには難しい事は解らんが、桜が花芽を持ちながら春と気候の似た秋に花を咲かせないのは、開花を抑制する物質が葉から供給されるからじゃそうな』

男「じゃあ、葉が無いって事は…」

松ジイ『この秋に狂い咲きをするじゃろうなぁ。気付かんかったか…?既に花芽は膨らみつつあるぞ』

男「でもケヤキが、今度花を咲かせたらあの桜は枯れるって…」

松ジイ『それも生ある者の定めじゃよ。悲しくはあっても、嘆く事では無い…』

男「………」

松ジイ『ケヤキ坊主の言った通りじゃ…最期の花を咲かせ、お前さんに見せられるならサクラも嬉しかろう』

男「うん…でも本当なら、曾祖父ちゃんに見て欲しかったな」


松ジイ『…男よ、実はワシら木の精には二つの種類がある』

男「へえ…?」

松ジイ『ひとつはまさに木の化身、木魂(こだま)と呼ばれておる。ケヤキ坊主やカナメ、モミジの双子がそうじゃな』

男「じゃあサクラは…やっぱり曾祖母ちゃんの幽霊?」

松ジイ『幽霊という言葉には語弊があるのぅ。思い遺す念の強い魂が、生前に自らの心の拠り所としていた木に生命力を借りた姿…それがサクラをはじめとした宿木の精じゃな』

男「宿木の精…」

『私はこの桜の精…というのが相応しいかわかりませんが』

男(確か…そう言ってたっけ)

松ジイ『サクラが思い遺したのは、光を失った夫の支えとなれなかった事…そして宿木の精となってからも、自らの咲かせる花を見せる事ができなかった事…』

男「…悲しいな」


松ジイ『男よ…その気持ちがあるのなら、その時はお前さんがサクラの想いを果たさせてやってくれ。…ワシも力になろう』

男「できるだけの事はするよ。サクラのためなら…」

松ジイ『…うむ。やはり、良く似ておるのぅ』

男「…松ジイは、曾祖父ちゃんを知ってるのか?」

松ジイ『ああ、よく知っておるよ…。ワシもサクラと同じ頃からの、この赤松の宿木の精じゃからのぅ』

男「松ジイも?…松ジイは何を思い遺してたんだ?」

松ジイ『まあまあ…ワシの話は良いじゃろ。ほっほっほ…』

男「なんだよ…じゃあ違う事。松ジイはそんな年寄りの姿だけど、なんでサクラは若いんだ?」

松ジイ『死んで魂だけの存在となったワシらは、見かけの年格好など自由じゃよ。最初から精霊として生まれる木霊はそうはいかんがの…』

松ジイ『お前さんの曾祖父は晩年もサクラに結婚当時のつもりで語りかけておったからな、サクラもその時の姿でおるんじゃろうて』

男「じゃあ逆に、なんで松ジイはわざわざ年寄りの姿でいるんだ?」

松ジイ『ほっ、決まっておるわ…!ワシが若い頃の姿でおったらサクラもカナメもワシに惚れてしまうからのぅ!ほっほっほっ…』

男「はいはい…そういう事にしとくよ」

パチッ、パチンッ…

すっげえ面白い

支援




…次の朝



ガチャッ…

幼馴染「行ってきます」

幼馴染母「はいはい、行ってらっしゃい」

…バタン

幼馴染(…迎えに行きたいけど)

幼馴染(もし見られたら、イケメンさんに悪いよね…)

幼馴染(男とは付き合ってないしフラれたけど、やっぱり好きなのは男なんだ…って、はっきり言うべきだったな)

幼馴染(私、相変わらず煮え切らない…こんなだから男も恋人のイメージ持てないんだよ)

幼馴染「はぁ…」

幼馴染(独りで行こう…迎えに行くとしても、週末に男とデートして…その時の雰囲気次第でその後からにしよう)

幼馴染(せめて前みたいに…なりたいな…)

トボトボ…


ガチャッ…

男「行ってくるわー」

男母「あら?今日は早いじゃないの。行ってらっしゃい」

…バタン

男(よっしゃ、幼馴染を迎えにいくぞー)

カナメ『あ、出てきた!男ー、ちょっと来て!』

男「カナメ、おはよう…どしたんだ?…朝から」

カナメ『見てのお楽しみ!』

男「いや、時間が…まぁ、ちょっとだけだぞ」


イロハ『男、綺麗だよ。見てー』

ノムラ『見てー』

男「何がだよ?…あっ…」

カナメ『桜が狂い咲きしてるんだよ!まだちょっとだけど』

イロハ『私が見つけたのー』

ノムラ『見つけたのー』

男(本当に…咲いちまった…)

カナメ『うそ!ボクだよ!』

イロハ『私だもんねー』

ノムラ『ねー』


男「…サクラは?」

サクラ『いますよ、ここに』

男「ああ…よかった」

カナメ『何がよかったの?』

男「いや、何でも無いよ。…この桜の花を見るのは久しぶりだな」

サクラ『春じゃなくてごめんなさい。まだ数輪だけど、もっと咲くと思うんですが…』

男(そんな無理をしなくていいんだ、サクラ…)

カナメ『何か男、辛そう?』

男「ば…馬鹿言えよ、せっかく綺麗な花が見られるのに」

ケヤキ『カナメ、お前はこっちに来い。双子もだ…』

カナメ『えー、何でー?』

イロハ『なんでー?』

ノムラ『なんでー?』

ケヤキ『…いいから、来い』


サクラ『ケヤキさんに感謝、ですね』

男「サクラ…」

サクラ『聞いてるんでしょう?…桜がこの後どうなるか』

男「…うん、ケヤキと松ジイから」

サクラ『大丈夫、明日枯れるってわけじゃありませんから。たぶんこの花が散って、来春に花や葉を芽吹く事は無いと思いますけど…』

男「サクラ、君は…?」

サクラ『…解りません。宿木が生きていても、私に分ける生命力が足らなくなれば…消えるんだと思います』

男「………」


サクラ『でも、少なくとも花が散らない内は大丈夫だと思いますから』

男(でも、あと数日ってとこか…)

サクラ『男さん、必ず最期の花…その満開の時を見て下さい。若い木のように見事では無いでしょうけど、精一杯咲かせますから』

男「…解った、必ず見るよ」

サクラ『さあ、学校に行かないと。遅れちゃいますよ?』

男「あ、うん…」

男(もう幼馴染は行っただろうな…)

サクラ『行ってらっしゃい…』ニコッ

男「…いいね、サクラの笑顔」

サクラ『ふふ…ありがとうございます』

男「…行ってきます」


《…サクラ、行ってくるよ》

《はい…あなた、必ず生きて…帰ってきて下さいね》

《ああ、俺は君とお腹の子の為に戦いに征くんだ。お国の為は…その次さ》

《う…うぅ…あなた…っ》

《サクラ、笑ってくれ。君の笑顔を焼きつけておきたい。そして俺の姿が見えなくなるまで、万歳と言ってくれないか…》



ザ…ザザッ…

サクラ『行ってらっしゃい…男さん』ザザッ…

味わい深い話しね

支援




…三日後、土曜日の夜



男(結局あれからは幼馴染の所にも行かなかったな…)

男(まあ、今はサクラと過ごしてあげなきゃだし…仕方ない)

男(剪定して枝数が少ない事を思えば、もう桜の花は五分咲きくらいか…)

男(明日…幼馴染を誘ってるけど、どうするかな…)

男(散るまでは大丈夫…って言葉を信じれば、早くとも明日や明後日にサクラが消える事は無いはず)

男(ごめんな、サクラ…。明日だけ、俺に時間をくれよな)

男(曾祖母ちゃんであるサクラも大切な人だけど、俺にとって幼馴染は…)


…バチコーイ!ピコーン

男「うおっ!?」

男(めめめ…メールだ、そういえば前日に連絡するって返信に書いてたっけ)

男(この受信音、変えよう…心臓に悪いわ)

…ピッ

件名…こんばんは
本文…まだ起きてる?それと明日の事は覚えてますか?
最近たしかに落ち込んでたから、とても楽しみにしてます。
どこか行くところは決めてるのかな?私はどこでも構いません。
それと、せっかくこうして改まった形で誘ってくれたんだから、朝はどこかで待ち合わせをしてはどうかと思います。
そうじゃなくてもいいけど、読んだら返信してくれると嬉しいな。

男(…可愛いじゃねえか)


男(さて、返信…だな)

男(………)

男(………)

男(…うおおおぉぉぉ!何て返せば好印象なんだー!?)

男(『俺もどこでもいいよ』だと…たぶん困らせるだけだよな)

男(『映画でも行く?』…今、何を上映してるのかさっぱり解らねえ…)

男(『遊園地行こうか』…落ち込んだ幼馴染がそこまでテンション上げられるだろうか)

男(『身体で慰めてやんよ』…ダメ、ゼッタイ)

男(…くはぁー、悩みすぎてハゲるわ)

男(あんまり返信遅いと感じ悪いよなー)


男(えーと…えーと…)



件名…Re:こんばんは
本文…俺も楽しみにしてるよ。
とりあえず駅前で九時に落ちあって、適当に買い物でもしよう。
街で昼メシ食って、それから荷物を駅のロッカーに預けて電車で海浜公園でも行こうか。
やっぱり気晴らしには海でしょ。
朝、駅まで俺は自転車で行くから幼馴染はバス使いなよ。
待ち合わせるなら同じバスに乗っちゃうと恥ずいぜ。



男(無難…だよな?)

男(…大丈夫、かな?)

男(やっぱ書き直そうかな…イヤイヤ待てまて、良くなる保証は無いぞ)

男(…送ってしまえ!)

…ピッ

男(送ったあああぁぁぁ!)


男(…この待ち時間がキツいんだよなぁ)

男(よし、明日のシミュレーションをしよう。そうだ、それがいい)

男(まず、駅前で会うよな…時間的に挨拶は『おはよう、待った?』だろう…。え、それどっちが言うんだ?)

男(俺は自転車だから、駅に着くのは家を出る時間次第…)

男(九時に余裕をもって着こうと思えば、8時20分頃には出とかなきゃな…)

男(たぶんそうすればさっきの台詞は幼馴染が言う事になるはずだろ…?)

男(それに対しては、やっぱ『いや、今来たところだよ』だろうな…それしか無えだろう)

男(よし、声に出してみよう)

男(せーの…)

…バチコーイ!ピコーン

男「うおあぁぁっ!?」

男(ぜってえ消す!この着信音、消去だ!)


男(はぁ…はぁ…と、とりあえず返信は…)

…ピッ



件名…Re:こんばんは
本文…本当だね、同じバスになっちゃったら台無しだよね。
プラン、とても良いと思います。
でも自転車で疲れない?男なら大丈夫かな?
では明日を楽しみに、おやすみなさい。



男(…イエスッ!手応え充分!自信は半分!)

男(よし…寝よう。まだ九時前だけど、幼馴染の『おやすみなさい』を胸に…寝る!)

男(…たぶん寝付けねえだろうけどな)




《…すまんな、赤松》

《何を言ってやがる。サクラが貴様を選んだんだ、胸を張れよ》

《ああ…必ず俺が幸せにする、約束しよう》

《言ったな?よし…貴様、自分の家の庭先に結婚の記念樹にサクラを植えると言ってたが、その庭の隅でいいからアカマツも一本植えろ》

《それは構わんが…》

《そのアカマツは俺だ。貴様がサクラを泣かせないか、目を光らせておいてやる》

《…はは、気が抜けんな》


.




《…赤松、頼みがある》

《どうした、水臭い言い方だな》

《もし戦地で俺が死んだら、サクラを…そして腹の子を託したいんだ。こんな事、貴様にしか頼めない》

《ふざけるな、貴様は死なせん!俺の命に代えてもな…!貴様の死などどうという事は無いが、サクラに悲しい顔だけはさせんぞ!》


.



《赤松!赤松…!どこにいる、返事をしろ!》

《…ここに…おるわ、貴さ…まの…足元だ…》

《赤松!よかった…生きているのか!》

《戯けた事…を…はらわたを晒して…生きていられるか…息をしているだけ…だ…》

《怪我をしているのか…!?赤松、立てないのか!?》

《貴様…目をやられ…たか…。いいか…生きて…帰れ!…必ず…》

《赤松…!死ぬな!》

《…投降…するんだ…お国のた…めの…自決など…決してするな…》

《もう喋るな!すぐに救護を呼ぶ…!くそ、どっちに本隊が…!?》

《生きろ…サクラの…元へ…》

《赤松!赤松っ!》

《………》

《赤松…逝った…のか…》

.




《…嘘、だろう》

《サクラが…死んだ…だと》

《俺は…何の為に…》

《サクラ…サクラ…何故…お前が逝かねばならんかったのだ…》

《俺には…我が子を見る事すら叶わんのだ…サクラ…》

《これほど悲しいのに…癒着した瞼では涙すら流せんのだ…》

《サクラ…許せ…生きている俺を…許してくれ…》


.




男(…う…ん?…朝か…)

男(何の夢だ…今のは。戦争…失明…?)

男(赤松って…松ジイ…?)

男(もしかして、曾祖父ちゃんの記憶…なのか)

男(どうしてそれを俺が…)

男(…ん?今、何時だ?)

…ピッ

男「もう七時半じゃねーか!やっべ…!」



じいちゃん達インテリっぽい感じだな…学徒出陣かな…せつねい


ガチャッ!

男「行ってきます!」

…バタンッ!

男「ん…?」

イロハ『男!大変ー!』

ノムラ『大変ー!』

男「おはよう、イロハとノムラ。どうしたんだ…?」

カナメ『男…!』

男「ああ…カナメも、おはよう」

カナメ『それより、サクラが…!』

男「サクラ…!?」


カナメ『サクラ!大丈夫…!?』

イロハ『サクラ…起きちゃ、めーよ』

ノムラ『めーよ』

サクラ『カナメちゃん、大丈夫…だから…』

男「サクラ…!ちっとも大丈夫そうじゃないぞ…」

ザ…ザザッ…
サクラ『…男さん、ごめんなさい…心配をかけて…』ザザッ…

男(サクラの姿…輪郭が、時々乱れる…ノイズみたいだ)

男「サクラ…もう、だめなのか…」


サクラ『…まだ、もうしばらくは大丈夫…。少し…木から伝わる生命力が…落ちてる…だけ』

男「…でも」

男(もう花は七部咲き…今夜が満開になるな…)

サクラ『男さん…今日は幼馴染さんと…会うんでしょ…う?…早く…遅れた…ら…』ザ…ザザッ…

男「だめだよ…サクラがこんな時に…!」

サクラ『いけま…せん…男さん、本当に…大丈夫…だから』ザザッ…


カナメ『男…サクラ、どうなっちゃうの…?』

男「それは…」

ケヤキ『カナメ…サクラはもうすぐ、消える』

カナメ『そんな…やだよ…』

ケヤキ『宿木の桜がもう枯れようとしてるんだ、仕方がない…』

カナメ『やだ…やだよぅ…うわああぁぁん』

ケヤキ『カナメ…』ギュッ


男「サクラ…今日は俺、傍にいるから…」

サクラ『絶対に…だめ…そんな…の…許しません…』ザザッ…

松ジイ『男よ…サクラの言う事を聞いてやれ』

男「でも、松ジイ…」

松ジイ『大丈夫じゃ…まだ消えはせん。サクラにとっては苦しい時間かもしれんが、あと二日ほどはもつじゃろう…』

イロハ『サクラ、消えちゃやーよ』

ノムラ『やーよ』

松ジイ『花の満開はおそらく今夜…男よ、今はサクラの願う通りにするのじゃ。その代わり夜は必ず、傍にいてやってくれ…』

サクラ『男…さん…お願い…』

男「…解った。必ず、夕方には帰るから…」

サクラ『男さん…』ザ…ザザッ…

男「…サクラ」

サクラ『…行って…らっしゃい』…ニコッ

既にホロリと来てるんだが……

乙です

あかん、また寝オチしてた
狂い咲きで満開なんて滅多に無いだろ…なんてツッ込みはぐっと飲み込んで欲しい




…駅前、午前8時50分



男(げ、もう幼馴染着いてるじゃねーか)

幼馴染「あ…!男…おはよう」

男「おはよう…待たせたか?」

幼馴染「ううん…今さっき来たばかりだよ」

男「そっか、よかった」

男(幼馴染…服、可愛い…)

幼馴染「…どしたの?」

男「え…!?いや、なんでも…」


幼馴染「朝ゴハン食べた?」

男「いや、オカン起きたばっかだったから」

幼馴染「私も食べてないの。朝マック行こうよ、マフィン食べたい」

男「ああ、いいよ」

幼馴染「………あの」

男「うん…?」

幼馴染「腕、組んで…いい?」

男「え、いい…けど」

幼馴染「…ん」ギュッ

男(…嬉しい、けど…頭の中では誰と腕を組んでるつもりなのかな…)

幼馴染(あんまり焦っちゃ駄目だけど…できるだけ恋人っぽく、男にイメージを持たせるように…)


幼馴染「んー、美味しー。やっぱり私、朝のマフィン好きだな」

男「うん、昼間のメニューよりいいよね」

男(幼馴染って、美味しそうに物を食べるよな…)

幼馴染「…ごめんね、驕らせちゃって」

男「ばっか、これくらい見栄張らせろよ」

幼馴染「うん…ありがと」

男(サクラ…鯛焼き買って帰っても、もう食べられないかな…)


幼馴染「男、あの雑貨屋さん行こう」

男「ああ、いいよ…もう十時だから、開いてるな」

幼馴染「本棚ちょっと大きいやつ買ってもらったから、可愛いブックエンド欲しいんだ」

男「コレとか?」

幼馴染「やだよー、そんなメタリックなのじゃなくて」

男「じゃあコレ」

幼馴染「悪くないけど、黒は地味です」

男「やっぱ女の子の趣味は解んねーわ…」

幼馴染「そうだろうねー」


男「………」

幼馴染「これ、いいかも」

男(…カナメ、泣いてたな)

幼馴染「手前にインデックスが覗くようになってて、書き込みできるんだ」

男(双子には、まだよく解らないんだろうけど)

幼馴染「色、どれにしよう」

男(松ジイ…二日は保つって言ってたけど、なんで判るんだろう)

幼馴染「どう思う?」

男(もしかして前にも木が枯れて、庭の仲間が消えた事あるのかな…)


幼馴染「………男…?」

男「…ん?…ああ、ごめん」

男(いけね、ボーッとしてた)

幼馴染「どの色がいいと思う?」

男「え…と、桜色…じゃなくて、オレンジとか」

幼馴染「だよね!私もパステルオレンジと赤で迷ってたんだ」

男「そっか、色の趣味は悪くなくて良かった」

幼馴染「よし、赤にしよう」

男「おい」


男「服とか、見る?」

幼馴染「あー、服は…いい」

幼馴染(女物の服を見るほどオトコの人にとって退屈なものは無いって、何かで見たもん)

男「そっか、じゃあ…」チラッ

幼馴染「…今、スポーツデポの方チラ見したよね。いいよ?」

男「うげ、バレたか。…ちょっといい自転車欲しいんだよな」

幼馴染「今朝のやつ、お母さんのシティサイクルだもんね」

男「そんじゃ、ちょっとだけ」

幼馴染「うん、別に私の買い物だけじゃなくていいんだからね」

男「まあ、今日は自転車買うわけじゃないけどな」


男「クロスバイク欲しいなー」

幼馴染「違いが判らないよ…」

男「ロードは普段使いにはちょっとな」

幼馴染「これは?可愛いよ?」

男「ミニベロ、悪くないけどね」

幼馴染「高っ!十万円以上するじゃない」

男「それ、まだまだ手頃だよ。高校生には買えないけど」

幼馴染「予算あるの?」

男「バイト代残してるから、五万くらいは出せるけど…」

幼馴染「これは?四万八千円だって」

男「車体だけじゃなくて、あれこれ要るからな…。携帯用の空気入れとか、LEDのライトとか…エンドバーも欲しいし」

幼馴染「色々だねー」


男「予備チューブや修理キットを入れるサドルバッグも要るし、車体にかけられるのは四万を切るだろうな」

幼馴染「修理キットなんか備え付けるんだね」

男「スポーツ車ならツーリングとか行きたいしな、遠出した先で応急処置できないと」

男(………応急処置…か)

幼馴染「健康的ですねー」

男「結局、消去法でジャイアントのエスケープとかになってくるんだよなー」

男(…桜に応急処置…って、今更過ぎるんだろうな…)


幼馴染「これだね、格好いいじゃない」

男「安くて充実装備ですげえ売れてるらしい。ただそのせいで、めちゃくちゃ街で見かけるんだよなー」

男(………だけど…)

幼馴染「予算無いのに贅沢言い過ぎでしょ」

男「…ごめん、ちょっとトイレ行ってくるわ」

幼馴染「うん、この辺にいるよ」



…ピッ

《与作はぁ木ぃーを切るぅぅぅーーー》

男(親方…待ち歌いつもコレだよな…)

親方《ヘイヘイホーーーヘイ…プツッ…もしもし…どうした男くん、珍しいな》

男「あ、親方…すみません休みの日に」

親方《なに、秋はかきいれ時だからね。雨の日以外に休みは無いさ》

男「じゃあ仕事してるんですね。あの…無理を言うんですけど、ウチの桜を看て貰えないでしょうか?」


親方《ああ、また行こうか》

男「いや、その…できれば今日」

親方《………大事な木なんだね?…昼までは動けんが、午後なら何とかしよう》

男「すみません、本当に無理な事を」

親方《何、他ならん男くんの頼みだ。だが今の現場が遠いから、二時前にはなってしまうだろう…いいかね?》

男「…はい、お願いします」


男「ごめん、待たせた」

幼馴染「ううん、大丈夫だよ」

男「じゃあ、どこ行く?」

幼馴染「うーん…特に思いつかない。ちょっと歩こう?…何かあるかも」

男「うん…」

男(今が11時過ぎ…か)


幼馴染「街路樹、少ーしだけ色づいてるね」

男「………」

幼馴染「ね、この木は何の木?」

男「………」

幼馴染「『気になる木』って言ったら怒るよ?」

男「………」

幼馴染「……男…?」

男「…あ、悪い…えっと…ごめん」


幼馴染「………つまんない?」

男「そんなわけ無いだろ、ごめん…ちょっと考えてたんだ」

幼馴染「この木の種類を?」

男「え?…これはナンキンハゼだよ?」

幼馴染「…違う事なんだ。何を考えてたの?」

男「いや、その…何でもないって。ち、ちょっと早いけど何か食う?」


幼馴染「さっき食べたばっかりだよ。…じゃあ、もう海浜公園に行っちゃう?向こうでも何か食べるとこあるでしょ」

男「…あぁ…海…か。そうだな…そう言ってたっけ」

男(やばいな…海に行ったら二時には戻れない)

幼馴染「…忘れてたの?」

男「…幼馴染、ごめん」

幼馴染「何が…?」

男「俺、帰らなくちゃいけない」

幼馴染「え…」

男「全部、話すよ…そこのカフェ、入ろう」




幼馴染「サクラさんは…男の曾祖母さんだったんだ…」

男「うん…」

幼馴染「もう、親方さんには連絡したんだね?」

男「ああ、来てくれるって」

幼馴染「…男、行って」

男「幼馴染…」

幼馴染「自転車、駐輪場でしょ?すぐに行けば一時間もかからないよ。今、まだ12時前だし」

男「本当…ごめん」

幼馴染「いいから、早く。私も後から行く…よ」

男「うん、じゃあ…」ガタッ

幼馴染「………男っ…」

男「……どうした?」

幼馴染「ううん、…気をつけてね」

男「…ありがとう」


幼馴染(…サクラさん、知らない人じゃない)

幼馴染(消えてしまうなんて、私も…寂しい気はするけど)

幼馴染(ごめん、男…今日はたぶん…私、行けないや…)

幼馴染(今日の事…本当に楽しみにしてたんだよ…)

幼馴染(サクラさん、今日消えてしまうんじゃないんだよね)

幼馴染(明日…会えばいいよね)

幼馴染(…私…こんな嫌な女だったんだ…)

>>176が、自分で読み返して男の交通事故死亡フラグに見えたけど、違うから
繰り返す、死亡フラグではない


事故なら事故で良いかなーと思ったんだけど事故じゃないのね

優柔不断 クズ男
NTR一直線だな




男「サクラッ…!」

カナメ『男…帰ってきたの…!?』

男「はぁ…はぁ…サクラ…眠ってるのか」

ケヤキ『ずいぶん急いだみてえだな』

イロハ『汗かいてるねー』

ノムラ『ねー』

松ジイ『…とりあえず今は落ち着いておる。良くなったわけではないが…』


男「みんな…もう少ししたら俺の親方が来る。いい人だけど、姿は隠しておいた方がいいかもしれない」

カナメ『プロの庭師さんって事?…松ジイ、それならサクラ助かる…?』

松ジイ『それは無理じゃろうな…桜の寿命じゃからのぅ…』

男「それでも、やれるだけの事はしたいんだ…」




…一時間後



親方「男くん…一応できる限りの養生はしたが、おそらく効果は薄い…」

男「…はい」

親方「剪定も君がしているだけに、ほとんど切るところは無かったしね…。いくらかは枝を透かしたけれど」


親方「しかし、狂い咲きで満開とは…初めて見たよ。これが最期の花だろうが…」

男「…前に使ってた、幹に直接打つ薬はどうなんですか」

親方「あの活力剤は良く効きはするが…この状態ではその場凌ぎにしかならん」

男「その場凌ぎ…」

親方「言わば死を目前とする老人に脂ののったステーキを食わせるようなものだ。食べてすぐは元気も出るだろうが、数日すれば余計に体調を崩すやもしれん」

男「数日…か。…親方、それでもやってもらえませんか」

親方「結果的には木の寿命を早めるだけかもしれんぞ」

男「お願いします…」

親方「いいだろう、それで気が済むなら。だが打てて2本だな、ほとんど幹に生きた所が無い。中も空洞化してしまっている」

男「もっと早く処置していれば…」

親方「そうだな…十年単位で早く処置をしていれば、少しは長らえたかもしれん。…だが、仕方の無い話だよ」

男「はい」




カナメ『庭師さん、帰った…?』

男「ああ…できるだけの事はしてもらったよ」

ケヤキ『ありゃあ、いい腕だ。剪定にしてもお前とは手つきが違う』

男「うるせえな…年季が違うよ」

カナメ『サクラ…良くなるかな』

ケヤキ『…今のところ木から届く生命力に変わりは無いようだがな』

男「サクラは…?姿は消しているけど」

カナメ『まだ、眠ってるよ』


ケヤキ『ただでさえ俺達みたいな落葉樹は、そろそろ眠くなる時期だからな』

男「そうか…」

ケヤキ『まあ、お前も休んでな。まだ満開には少し早い、夜にサクラの傍にいてやりゃあいいだろう』

男「ああ…そうする」

カナメ『男…幼馴染ちゃんは…?』

男「後で来るって言ってたんだけどな…今日はもう、あわす顔が無い。とりあえずサクラの事だけ考えるよ」

ケヤキ『…お前も不器用な事だな』

男「ケヤキも、そう見えるぜ?…松ジイもな」

ケヤキ『まあ、ちげえねぇな…』




ケヤキ『…ジジイ、聞いてたんだろう』

松ジイ『何をじゃ?』

ケヤキ『とぼけるな、アイツはアンタの正体に気づいてるみたいじゃねえか』

松ジイ『ふむ…かもしれんのぅ』

ケヤキ『いい加減にしろよ。アンタ…昨日の夜、何をした』

松ジイ『ほっほっ…さすが、ケヤキ坊主にはバレておったか』

ケヤキ『当たり前だ、真夜中にアンタの気配が薄らいだからな』


松ジイ『なに…ただの味利きじゃよ』

ケヤキ『…それで、その味はどうだったんだ』

松ジイ『うむ…上手く仕上がりそうじゃ』

ケヤキ『…そうかい』

松ジイ『ケヤキ坊主よ…お前さんも大きくなったのぅ。桜が無くなる事を思えば、もうお前さんがこの庭では一番大きい』

ケヤキ『見かけだけの話だ』

松ジイ『これからはお前さんが守ってゆくのじゃ、カナメだけでなく…双子ものぅ』

ケヤキ『まだ…アンタから教わる事は尽きてない』

松ジイ『ほっほっ…後は長く生きる内に見えてこよう…』

ケヤキ『くそジジイめ…』




…夜8時、幼馴染の部屋



幼馴染(…結局、行かなかった)

幼馴染(私って自分で思う以上に冷たいのかな…)

幼馴染(ごめんね…男、ごめんなさい…サクラさん)

幼馴染(とても明日から迎えになんて…行けないなぁ)


ザザッ…

幼馴染(………?)

ザ…ザザッ…ザッ…

幼馴染「何…?誰か…いる…?」

サクラ『幼…馴染さん…』ザザッ…

幼馴染「サクラさん…!?なんで、身体が透けてる…!」

サクラ『…大丈…夫、まだ…ここなら…桜の力が…届く…』

幼馴染「嘘…!だって男の家に入るのも無理だって…!」


サクラ『…幼馴染さん…ごめん…なさ…い…今日…男さんを…許して…あげ…て…』

幼馴染「違う…!男が帰ったのは当たり前なの…だってサクラさんは…!」

ザザザッ…ザッ…
サクラ『男さん…私の…曾孫…には…貴女が…必要なの…』ザザッ…

幼馴染「だめ…!サクラさん!」

幼馴染(身体がどんどん薄らいでいく…)

サクラ『お願い…男さん…を…支え…て…』




…男の部屋



カナメ『起きて!男…!』

男「う…うん…?今、何時だ…桜の花は…?」

カナメ『しっかりしてよ…!ボクも長くはいられないの!』

男「カナメ…!?なんで…木から離れて…!」

カナメ『ボクの木はまだ若いから、少しだけなら平気!そんな事より、大変なの…!』

男「どうしたんだ…!?」

カナメ『サクラがいないの…!』


男「…まさか、もう消えたのか…!?」

カナメ『そんなはずない…つい30分ほど前に話したもの…。昼の手当てが効いたのか、少し楽そうだったから…』

男「…何を話した?」

カナメ『男が…昼に帰ってきたって、それで庭師さんを呼んだんだって』

男「それだけか」

カナメ『そしたら…幼馴染さんは?…って言うから…』

男「置いてきたって…言ったのか?」

カナメ『う…咄嗟に嘘が…うぅ…出てこなくて…』

男「くそっ…!たぶんサクラは幼馴染の家だ、どこかも解らないくせに…!」




…男の家、庭先



男「ケヤキ!カナメを頼む!俺は幼馴染の家に…!」

幼馴染「男…っ!」

カナメ『幼馴染ちゃん…!』

男「幼馴染…サクラは…!?」

幼馴染「肩に抱えてるよ…!もう見えない位、身体が薄れて…!」

松ジイ『いかん…すぐに桜の木の下へ!』

ケヤキ『手伝おう、男…左肩を抱えろ』

男「わかった…なんて無茶を…」




カナメ『少しだけ、身体が濃くなってきた…』

イロハ『サクラ、しっかりしてー』

ノムラ『しっかりしてー』

幼馴染「ごめんなさい…私が自分でこの庭に来てたら…」

男「幼馴染のせいじゃない…俺がずっとついておけば良かったんだ」

幼馴染「でもサクラさんは私に伝える事があったから、無理をしたの…」

男「そんなの知らなかったんだから、幼馴染が気に病む事じゃない」


幼馴染「ううん…私が男にフラれたって思い込んだから、サクラさんは誤解を解こうと…」

男「はぁ?フラれたのはこっちだろ」

幼馴染「違う…!だって男がサクラさんに、私の事を恋人だなんて思えないって言ってるの聞いたもん!」

男「付き合ってねえんだから、思えなくて当たり前だろ!お前、他に好きな奴がいるんじゃねえのか!?」

幼馴染「それを聞いたから失恋したって言ったの!男以外に好きな人なんていないよ!」

男「馬鹿かよ!俺がどんだけ落ち込んだと思ってんだ!」

幼馴染「私だってその日、どれだけ泣いたと思ってんのよ!」

ケヤキ『うるせえ!お前ら痴話喧嘩する時間なら、これからいくらでもあるだろう!』

男「すみません…」

幼馴染「ごめんなさい…」


サクラ『…良かった…やっぱり誤解だった…』

男「サクラ!無理に喋るな…!」

サクラ『男さん…花、見てくれてますか…?ほら…満開です…よ』

男「ああ…見てるよ!綺麗だ、すごく…」

サクラ『良かった…これで…やっと…』




ケヤキ『おい、モミジの双子…しばらくサクラを看てろ』

イロハ『うん、わかったー』

ノムラ『わかったー』

ケヤキ『男…お前はこっちに来い、松ジイのところだ。…カナメ、お前も知っておかなきゃいけねえ』

カナメ『…え?』

男「解った…何かありそうだな」

幼馴染「…私も行く」




ケヤキ『ジジイ、連れてきたぞ』

赤松『ああ…こっちも用意はできた』

男「え…!だ、誰だよ…まさか」

ケヤキ『ジジイだよ、若い頃のな』

赤松『…驚かせたな、夢で見なかったか』

男「夢…昨夜のか、確か…赤松と呼ばれてた」

赤松『男よ、貴様に無理を言わねばならん』

男「…どんな話だ」

赤松『なに、少しでいい…貴様の寿命を分けろというだけの話だ』

幼馴染「寿命を…」


男「それでどうなる、まさかサクラを救えるのか?」

赤松『そう上手い話は無い。いや…救うと言うなら、最もあいつが求める救いかもしれんがな』

男「………」

赤松『今から貴様の曾祖父を呼び寄せる。俺にある宿木の力の全てを使ってな。…だが奴はアカマツを宿木とする事はできん』

男「そんな事、できるのか…?アンタの力を全て使うって、じゃあアンタは…」

カナメ『松ジイ…消えちゃうの』

赤松『つまらん事を気にするな、サクラを送れば俺がこの世に留まる理由などない』


ケヤキ『だが宿木の無い状態じゃ呼び出した魂は数分ともたねえ、だから男…お前を宿木代わりの依り代とするんだ』

赤松『貴様の中に奴を宿らせたら、依り代の生命力を消耗する事になる。およそ10分で寿命ひと月程度…どうだ?』

幼馴染「男…」

男「構うかよ、一年分でも使いやがれ」

赤松『よく言った…本当に似ているな。だが奴も貴様の曾祖父だ、そう長く使おうとはすまい』

男「…俺に宿らせるって、本当に上手くいくのか」

赤松『昨夜、味は利いた。あらゆる面で奴に瓜二つの、貴様にしかできん事だ』


イロハ『男ー!サクラがまた苦しそうだよー!』

ノムラ『サクラ消えちゃ、やー!』

赤松『もう昨夜から奴の魂はすぐ傍にある。あとはこちら側に寄せるだけだ。…男、目を閉じろ』

男「………」

赤松『声が聞こえてくるはずだ…耳を澄ませ』




《…男、聞こえるか》

《うん…曾祖父ちゃんなの?》

《ああ、この目で見るのは初めてだな…大きくなった》

《会えて嬉しいよ…曾祖父ちゃん》

《お前の命を分けてもらうのは心苦しいが…本当にいいのか》

《いいんだ、僅かな時間だろ?》

《すまん…》

《曾祖父ちゃん、サクラ…曾祖母ちゃんが待ってるよ。…早く!》

《…ああ、頼むぞ…曾孫よ》


.




男『…久しいな、赤松』

赤松『ふん…来たか…死に損ない』

男『…生きろと言ったのは貴様だろう』

赤松『ふは…は…違いな…い』ザザッ…

幼馴染「男…じゃない…」

幼馴染(見た目は変わらないけど、違う…)

男『貴様にはあの時も、今も救われたな…すまん』

赤松『貴さ…まを…救った…つもりなど…無い…わ…』

男『ああ…それでいい、貴様らしいよ』


赤松『さあ…すぐに来…い、俺は先に逝くぞ…貴様の…いたとこ…ろへ』ザザッ…ザッ…

男『…すぐに、逝くさ』

赤松『ふ…貴様と…また…飲めるなぁ…』

ケヤキ『ジジイ…!』

ザザッ…
赤松『情けな…い顔を…するな、坊主…さらば…だ…』ザザッ…ザザザッ…

ザザッ…ザッ…

………

カナメ『…逝っちゃった、松ジイ』

ケヤキ『泣くな、カナメ。…アンタは早く、サクラの元へ!』

男『ああ…』




男『サクラ…』

サクラ『男…さん…』ザザッ…

男『違うよ、サクラ…俺だ』

サクラ『嘘…まさか、あなた…』

イロハ『男じゃないねー』

ノムラ『ねー』

男『手を…俺に触れていれば少し楽だろう?』

サクラ『あなた…あなたなの…』

男『男の身体を借りた、赤松のおかげだ。…ずいぶん待たせたなぁ』

サクラ『嬉しい…あなた…』

男『見事な夜桜だ…本当に』

サクラ『やっと…見て貰えた、あなたに…』

男『すまなかった…』


イロハ『あー、キスしたよー』

ノムラ『キスしたー』

カナメ『…幼馴染ちゃん、これで妬いちゃだめだよ』

幼馴染「…解ってる、曾祖母さん相手だもの」

男『さあ、身体を返そう…サクラは俺から離れるな、共に逝くぞ』

サクラ『…はい』

ザザッ…ザ…ザザザッ…

幼馴染「あ…!」

幼馴染(男が分かれた…!あれが男の曾祖父さん…)


曾祖父『男…すまなかった。立てるか』

男「う…フラフラ…する…」

幼馴染「男っ…!」ギュッ

曾祖父『幼馴染と言ったか』

幼馴染「…はい」

曾祖父『男の身体に宿って、その意識が見えたよ…。そいつの心の中は君の事でいっぱいだ』

男「変な事言うなよ…曾祖父ちゃん」

曾祖父『…どうか男を、我が曾孫を…頼む』ザザッ…


幼馴染「はい…」

サクラ『男さん…あなたの曾祖母だという事、ずっと言わずにいてごめんなさい』ザッ…ザザザッ…

男「途中から、知ってたよ」

サクラ『そう…本当にありがとう…男さん、いえ…男ちゃん…そして幼馴染さん…』

男「曾祖母ちゃん…会えて嬉しかった」

サクラ『ケヤキさん…カナメちゃん、仲良くね…イロハちゃん、ノムラちゃんも元気で…』ザザッ…


イロハ『サクラ、嬉しそうー』

ノムラ『嬉しそうー』

カナメ『サクラぁ…うう…う…』

ケヤキ『…笑って送るんだ、カナメ』

ザッ…ザザザッ…

男「…さよなら、曾祖父ちゃん…曾祖母ちゃん」

ザザッ…
サクラ『さよ…な…ら…』ザッ…

ザザ…ザッ………

…………




…翌春、ある日曜日



男「やあ、ケヤキ…もうすっかり目が覚めたか?」

ケヤキ『ああ…』

男「新緑が綺麗だなー」

ケヤキ『そうか?…自分の葉がこうも小さくて柔らかい時期は、なんとなく不安なんだがな』




男「カナメ、すっかり芽が紅くなってるな」

カナメ『鮮やかでしょ?…ボクの一番良い季節だからね!』

男「そうだな、すごく綺麗だ」

カナメ『冬の間、ケヤキもモミジ達もほとんど寝てるんだもの…すっごい暇だったから、お日様いっぱい浴びといた』


.




イロハ『男ー!緑の葉っぱ綺麗ー!』

ノムラ『男ー!赤の葉っぱ綺麗ー!』

男「どっちも綺麗だと思うよ」

イロハ『今年はイラガ出さないようにねー』

ノムラ『ねー』


.




男「アカマツ…たくさん芽吹いたなー」

男「もう少ししたら、緑摘みしなきゃ」

男「…しかし松ジイ、本当に昔はイケメンだったんだなー」

男「曾祖父ちゃんと、酒…飲んでるんだろうな…」


.




幼馴染「おはよう!」

カナメ『あ、幼馴染ちゃん!おはよー!』

イロハ『おはよー』

ノムラ『おはよー』

男「おー、おはよ…。どうしたんだ?」

幼馴染「私がここに来るのに理由がいるんですか?」

男「つまり毎度ながら、暇だったと」

幼馴染「さすが男!私の事は何でも解るんだね!」

男「だいたい週に五日は来てるもんな」




幼馴染「桜の木…無くなっちゃったね…」

男「うん、こないだ親方に根まで取ってもらった。結局、芽は吹かなかったし…あのままじゃ白蟻を呼んで、他の木にまずいからね」

幼馴染「仕方ない…ね」

男「うん」

幼馴染「でも、寂しいなぁ…」

男「うん…でもさ」

幼馴染「でも?」

男「あの時、親方が養生の剪定をしてくれて…それで親方はその枝の芽を、温室でたくさん挿し木にしてくれてるらしいんだ」


男「染井吉野は挿し木では繁殖出来ない…って言われてたんだけど、最近では不可能じゃなくなってるんだって」

幼馴染「そうなんだ…」

男「しかも念のため、確実性の高い接ぎ木も何本か試みてるとか。…それがしっかりした苗になったら、くれるって」

幼馴染「親方、良い人だねー」

男「本当、頭が上がらないよ」

幼馴染「どのくらいで出来るの?」

男「まあ一年の内にはこっちの手元に来るだろうけど、それから何年もかけて少しずつ大きな鉢に植え替えていかなきゃな」

幼馴染「私も手伝うからね」

男「うん…」

幼馴染「あの桜の子供達かぁ…」

男「そうだな」

幼馴染「良い苗になったらいいね、うん…きっとなるよね」


男「…いつかそれをこの庭に、二人で植えよう」

幼馴染「うん、楽しみだね。………ん?」

男「………」

幼馴染「今のは、どういう意味かな?」

男「…別に」

幼馴染「それは何かの記念樹だったりするのかな?」

男「その辺は察してくれたらいいと思うよ」

幼馴染「はっきり言ったらいいと思うよ?」

男「その時まで言わない」



おしまい

乙!

乙です

赤松さんかっこよかった

乙 よかった

地の文無しでラストを盛り上げるのは俺には無理だった
後半から気づいてたけど、本筋を変える事もできなかったよ…

これも置く予定だけど、過去作が『がらくた処分場』というブログにあります
よかったら覗いてやって下さい


綺麗に纏まってて読みやすかったよ

乙でした

乙!

おつー
面白かったよ

88888888
面白かったー
乙です!

いい話やな
赤松さんええヤツやなー
木ぃ目線の話があるのも面白かった

二人の掛け合いも良かった
おつ


「ケリをつける気なの?」

彼女は俺の背中に問いかけた。

「もう一日だけ考えてみない?…ねえ、それからでも遅くはないわ」

「…もう遅すぎる位さ。全てを失う前にすべき決断だった」

俺の声色が悲しげに聞こえたのだろうか、足元に人懐っこく舌を出した飼い犬がじゃれついてくる。

「…元気でな」

犬に向かって落としたその言葉は、本当は背後に立つ涙化粧の女に向けたものだったかもしれない。

でも、振り返るのはよそう。

死にに征く男からの励ましの言葉など、残される者の枷にしかならないと思ったから。


蒼空を駆けながら、俺は戦友に想いを馳せる。

奴等は皆、先に逝った。

この空の果てで、きっと俺を待っている事だろう。

いっそ奴等のところへ、早く逝けたらと思う。

そもそも俺達の戦いに大きな意味など無かったはずだ。

俺達が命を賭してまで護ろうとしたのは、護られる事が当たり前だと考え、自らの手は決して汚そうとしない卑怯者達だった。

でもそれに気付きながらも、俺達は戦うしかなかった。

そうしなければ明日の己の命すら知れなかったから。

結局、俺達はただの捨て駒だったのだ。

命の鍵を御上に握られた、一介の兵士にすぎない。

そんなちっぽけな俺達の命に真正面からぶつかり、その限りある炎と全霊をかけて対話してくれたのは、むしろ戦友達に引導を渡した宿敵の方だった。

相反し、憎み、傷つけあった存在。

通う物を感じ、理解し、拳を交えて伝えあった存在。

今この時、俺の目の前に立ち塞がる宿敵こそが、俺達が存在する理由だった。


「待たせたな」

「来て…しまったのだな」

「ああ、俺が最初と最後だ」

この際だ、言葉にはせずとも自らの中では認めてしまおう。

戦友を奪い、幾度となく俺を傷つけたこの宿敵を、俺は嫌いではない。

「言い遺す事は?」

「言い遺す相手など、居ないさ」

「ならば俺様が聞こう」

「貴様に語るなら、それは言葉では無い」

「…違いない、すまなかった」

奴が寂しげに笑い、目を伏せた。


そして二秒、迷いを断ち切ってもう一度俺を睨んだその目にはもう迷いは無い。

そうだ、その目だ。

「死ね…!」

ああ…それでいい、お前に悲しみの言葉など似合わない。

なぜならお前自身が悲しみの固まりだから、全てが色褪せてしまう。

人にとって都合の良いものだけを残し、都合の悪いものだけを集めて捨ててきた。

その集合体がお前だ。

残したものと捨てたものに、命としての違いなどありはしないのに。


一撃だけだ。

この一撃に全てを賭けよう。

何度となく繰り出してきた、でも一度もこいつの命を奪う事はできなかった。

それはきっと迷いのせいだった。

だが迷い無き目で俺に迫る宿敵に対し、俺が迷いを持つ事など赦されない。

「…さらばだ」

宿敵(とも)に相対する時。

「砕けろ、我が右の拳よ」

勇気など要らない。

「アーーーン…」

ましてや。

「…パーーーンチ!!!!」

愛…など。


「お前で最後だった」

届いたさ、お前の最後の拳。

「そして…お前が、最初だったな」

俺を殺すつもりで放った、最後のアンパンチ。

「これで俺様の勝ち」

迷いなど感じなかった、嬉しかった。

「は…ひふ…へ…」

ああ、これがお前の全霊の力。俺にしか見せてくれないであろう、お前の全てだと解ったから。

「…うおおおぉぉぉぉぉぉ……あああぁぁぁぁ………」

でも俺は倒れなかった。


俺の反撃を躱す力も残していなかったお前は、確かに笑っていたよな。

俺が機体の拳でお前を叩き潰す時、迷いは無かっただろうか。

いや、無かったはずだ。

だって俺はお前を救いたかった。

何度敗れても、頭を挿げ替えられて戦場に送られるお前をこれ以上見たくなかった。

だけど前までのお前には、迷いが見えたから。

だから俺は、お前の戦友…その中でも最も信頼をおいたであろう二人を殺したんだ。

俺を憎め、俺を殺せ。

俺にお前の全てをぶつけてくれ。

だって俺達はそうしか分かり合えなかったはずだろう。

願わくば散るのが俺であったなら…と、思わずにはいられないけれど。


「さらば、宿敵よ…いや、友よ」

この際だ、認めてしまおう。

言葉にしたところで、聞く者がいないならそれは心の中と変わるまい。

刹那、凶刃は俺様を背後から貫いた。

「…ぐっ!!」
「ごめんなさい、バイキンマン」

ああ、これでいい。

「貴方の事も、愛してたわ。でも」

友を送り、想う女に送られる。

こんな幸せがあるか。

「貴方は、彼の仇になったから」

あの空の果てで、お前は俺を迎えてくれるだろうか。

愛でも、勇気でもなく。

「バイ…バイキ…ン…」

俺を、友と呼んでくれるだろうか。

書いたけどスレ立てるほどのもんじゃなかったから

急に何が始まったかと思ったよ
乙?

なんか無駄にシリアスだと思ったらwwwwwwwwwwwwwwwww

きっと男達が通う学校の学園祭の脚本なんだよ
そうだそうに違いない

突然の出来事に吹いたわ

まさかの予知ssか

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