響 「寄生獣?」 (166)

寄生獣読んだので。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1379431159


―それはある暑い日の夜に起きた―

―空から飛来した[それ]は毛の生えたテニスボールの様な形をしていた―

―そして[それ]は地に落ち、そこから蛭とも蚯蚓ともとれない奇っ怪な[生き物]が出てきた―

―奇っ怪な生き物は鎌首を構えた蛇の様な動きをした後、自ずと、誰かに導かれるわけでもなく、移動を始めた―

とある民家にて奇妙な動きをしながらその生き物は寝ている男の顔に近寄った。

素早く耳に入り込み、たちまち頭から上を[入れ替えた]。


謎の生き物が飛来して数刻後…

響は自分の家で床に寝っ転がって音楽を聴いていた。

響は音楽を聴きつつ、考え事に耽っていた。
(最近、自分の仕事が無くなってきてるさー…どうすれば仕事増やせるだろ…?)

その時、謎の生き物は着実に響の家に近付いていた。

「…それにしても暑いさー。窓でも開けて換気でもしてみるぞ…」

響がそう独りごちながら窓を開けた瞬間!!

[そいつ]は獲物を見付けた蛇の如く響に躍りかかった!!

「うっ、うわわ!なんだこれ…うぎゃっ!!」

何とか顔につくのを防いだがしつこく[そいつ]は襲ってくる。

「うっ、うぎゃーーー!!!!」

遂に左腕に取り付かれてしまった。
しかも[そいつ]はそのまま体を腕に潜らせていく。

(このままじゃまずい!)

響は咄嗟にイヤホンを掴み自分の左腕をキツく縛った。

中にいるであろう[生き物]がくねくねと蠢く。

「ふんぬぬぬぬっ!!」

自分の腕を此れでもかとばかりに強く締め上げる。

腕が白くなり、中に入っている生き物の蠢きもだんだん小さくなってくる。

完全に腕の中の動きがなくなり、安堵感から響はベッドに倒れ込んだ。

「ふーっ、危なかったさー。」

そしてそのままどっと疲れが出て響は眠ってしまった。

(しまった!何て事だ…乗っ取り失敗か…)

眠りにつく寸前にそんな声が聞こえた気がしたが気のせいだと思い、そのまま睡魔のなすがままになってしまった…。

とりあえず今どんな状態よ…

響の皮膚の中に寄生獣が入ったって事?
で、皮膚の中で寄生獣がダメージうけて弱る

これでOK?

アタマまでたどりつけなかった残念だ
響の皮膚?
喰っちまったよ

「ん…はっ!!」

どうやら昨日はあのまま寝入ってしまったらしい。

「そ、そうだ!腕は、腕が!!…なんくるないぞ?」

慌ててベッドから起き上がって左腕を確認するが何も起きていない。

「夢だったのかなぁ?」

自分の腕をまじまじと見つめそう呟く。
しかし、腕に残ったイヤホンで締め付けた跡が昨日の事が夢ではない事を語っている。

「う~ん…悩んでも仕方ないさー!!」

元来、彼女は物事を深く考えない性質である。
もし、この時彼女が用心深く自分の左腕を調べていたら間違いなくパニックを起こしただろう。

「いぬ美ー朝の散歩だぞー」
しかし響が自分の家族に向かって動いた時変化が表れた。

人間ならなかなか気付かない変貌でも他の生き物には多少は「なにがいるか」分かるようだ。

あぁ、目に見えるほどの寄生獣が皮膚を貫いて腕→頭に行こうとしたところを止められたのか

それでちょっとした運動でなぜか響が力尽きて皮膚の中に寄生獣が入ったまま寝るって事かね?

>>4
そんな感じ

「い、いぬ美?どうしたんだ?」

いぬ美は低く唸りながら後ずさった。
臨戦の印だ。

「い、いぬ美!自分だぞ!分からないのか、いぬ―」

言いかけた所で言葉を切った。

何故ならいぬ美の視線は我那覇響本人ではなく、我那覇響の左腕に向いていたからだ。

(やっぱり…昨日のは夢じゃない!自分の腕には何かがいる!!)

ここまで考えた瞬間だった。
突如いぬ美が体勢を低くして吠えながら飛びかかってきた。


やべ、学校忘れてた
すまん、寝る。
帰ってきたらまた続き書くわ

すまん

乙!
質問だけど寄生獣の大きさはどれ位?
響の腕の細さでミミズ位の大きさならすぐ気づくだろって思ったからさ

前にハリウッドで映画化するとか言ってたが、あれどうなったん
だろうな。確かハリウッド版寄生獣は左腕だったな。

>>9
寄生獣達には基本的に大きさは関係無かった気がする。

まあ取り敢えずミギーと同じ位の大きさだと脳内補完してほしいです。
!щ(゜▽゜щ)


跳びかかってきたいぬ美に驚き、咄嗟に響は両手を掲げて身を守ろうとした。
次の瞬間、ぱぁんというビンタの様な音が聞こえいぬ美は部屋の奥の方に弾かれた。

「…へ?」
自分は今手を掲げただけの筈…そう思って顔を上げるとゴムのように伸びた左腕が見えた。

「ええっ!?」

見間違いではなく確かに左腕が伸びている。
と、確認した目の前で左腕はするすると縮んでいった。
「…こ、こんな…そ、そう、コレは夢!夢に決まっているさー!!」

無理矢理自分に言い聞かせて響は自分の頬を思い切りつねった。

「うぎゃー!!!!痛いぞー!!!」



学校ついた。
また後で。

「うぎゃー!!!!痛いぞー!!!」

どうやら夢ではなさそうだ。
自分の左腕を繁々と眺めながら恐る恐る触ってみるが、別に腕がゴムのような触感になっている、ということはないようだ。

「はっ、いぬ美!?大丈夫か!?」

いぬ美はただ、気絶しているようだ。

「良かった…あ、もうこんな時間!?プロデューサーに連絡しないと!」

響は電話機を手に取り電話をかけようとして、少し考えた。

(左腕が気になる…左腕に何が起きているか調べてから事務所に行ってもいいか。今日も自分、仕事なかったし。)
そう考えて響は電話機を取り直した。
Prrrr…
「はい、どうした?響?」

「あ、自分今日ちょっと気分悪いから遅れていくさー。」

「分かった。小鳥さんに伝えておく。無理しなくてもいいんだぞ。体は大切にしなくちゃな。」

「うん、ありがとう。プロデューサー。じゃあまた後で。」

「おう、御大事に。」

ピッ
電話を切り電話機を机に置く。

「さ~て。腕を調べるさー。」

そう独りごちて響は左腕を調べ始めた。

手を握ったり、広げたり、振り回したり、ストレッチ等もある程度やってみた…

だが一向に変化は起きない。
「う~ん、やっぱり気のせいかなあ…」

ここまでして響は唐突にさっきの事を思い出した。

(そう言えば…さっきいぬ美は左腕に向かって攻撃をしようとしていた。でもいぬ美が跳びかかった瞬間いぬ美が弾き飛ばされていた…もしかして左腕はいぬ美から身を守るために動いた?)

視界の隅に果物ナイフが映る。

「…やってみるぞ。」

響は左腕をまな板の上に置き、ナイフを持った。

大丈夫。左手ギリギリの所を刺すだけだから。
当たっても大したことはない。大丈夫、大丈夫。

そう言い聞かせて響は深呼吸をした。

「…えいやっ!!」

ナイフは左手に吸い込まれるように向かい―

ドスッと―
刺さらなかった。

左手にナイフは突き立てられている様に見えるがそうではない。

[表面]で[止まっている]のだ。

「へ…?」

そして[左手]はぐにゅぐにゅと本人の意思とは関係無く動き始めた。

人差し指と中指の先が丸くなって膨らみ、眼球になった。

親指からは小さな手の様な物が生え、その小さな手の先からはまた更に小さな手が生えてきた。

手のひらに違和感が出来、ナイフを少し上げ恐る恐る手を裏返す。

そこには人間に似た見事な口が形成されていた。

そしてその口は覚束無いたどたどしい日本語を喋りだした。

「ふ うむ… ざ ん ね ん…わた し ひ だり て しっぱ い か…」

響は目の前で起きていることが自分の常識を越えすぎている為、言葉をなくしていた。

その状態の中やっとの思いで口を突いて出てきた言葉はテンパったあまりの支離滅裂な言葉ではなく、自分でも驚くほどの冷静さを添えかねた[質問]だった。

「じ、自分のて、左手は…?」

指先の目玉がきょろり、と動き此方を見る。
無機質な光のない目に思わず体がすくむ。

「オ マ エ の 手なら 喰 っ ち まった よ」

そう言い終えるとソイツは指先から伸びる腕を器用に使い、ナイフの先をぽきりと折った。

イヌ美が部屋中に飛び散らなくって安堵した

Prrrr
電話がなる。
「はい、此方は765プロ…響?どうした?うん、そうか、今日は出られないか…分かった。体を大事にな~」
ピッ
電話を切り電話機を戻す。
「?響ちゃん、やっぱり今日は無理ですか?」

「はい、さっき電話した時も気分悪そうだったし…でも珍しいですよね。響が休むなんて。風邪とかひかなそうなのに。」

「本当ですよね。響ちゃんにしては珍しい…」

帰りがけに御見舞いにでも行こう、そう考えてプロデューサーはホワイトボードを眺めた。

場所は変わって響の家―

響は[左手になってしまった奇妙な生き物]と話をしていた。

(其れにしても驚いたさー…まさかこんなに早く言葉を喋れるようになるなんて…)

[左手になってしまった奇妙な生き物]が露出して一時間。その間にソイツの言葉は喋れば喋るほど上達していった。


やべ、学校ついた。
また後で

「今の世界がどうなっているか教えてほしい。」

「ど…どうすればいいんだ?」
小一時間程会話して分かったこと。
まず1つ。
コイツは元々脳味噌を奪う予定だったのこと。首から上を乗っ取るのが本来の[正しい姿]らしい。
もっともコイツはその[正しい姿]を見ているわけではないみたいだけど…

「そうだな…」
そう言うと左手は触指を伸ばし、テレビのリモコンを取った。

『アメリカはシリアへの攻撃を念頭に置いており…』

「ふむ…ふむ」

2つ目。
頭が良い。喋ってからまだ一時間程度しかたっていないのにもうつっかえずに喋れる。
更に先っぽから別れて、別れた方は本を読み続けている。
凄いぞ…
こういうの何て言うんだっけ…うがー!自分よく分からないぞ!

「なあ、響。このアメリカと言う国は随分と可笑しな事を言っているんだな。」

「え、ええ?」

「このニュースを見る限りだと『シリアと言う国が化学兵器を使った。だから攻撃を下す。』と言っているのだろう?アメリカは何もされてないのに何故攻撃をするんだ?」

「じ、自分そんなに頭良くないから答えられないぞ…と言うかなんで、お前?は今の世の中を知りたいんだ?」

「知識はどんどん吸収していった方が役に立つからさ。」

と、世間話をしていた時だった。
いぬ美が起きてきた。

「あ、いぬ美!起きたのか、良かったさー!」

だがいぬ美は近寄ってこない。さっきの経験から響の左手を警戒しているからだ。
それを見た左手がぼそりと呟いた。

「犬というのは[痛がり屋]だな…」

「え、何か言ったか?」

「いや、何でもないさ。」

其れにしても[お前]は何か会話しにくいな…
「そうだ!名前をつけてあげるさー!!」

「名前か…あてがあるのか?」

「それを今から考えるさー!」
そう言って響は腕組みを始めて考え出した。
一、二分程たってから響は[左腕]の名前を告げた。

「お前の名前はサノスケさー!」

「…成る程、[左]だから佐之助か。」

「これから宜しくな、サノスケ!」
(随分と明るい、嫌、楽観的と言うべきか?順応が早い人間か?それともただの馬鹿か?どちらかというと後者に近い気がするな…)

[寄生]している身分にしては随分と失礼な事を考えている、サノスケだった。

場所変わり、ある民家にて…
「ただいまー」
子供の声がする。
[父親の形をしたそれ]は獲物が来たことを察知して、玄関に向かった。

「あれー?今日はお父さん早いんだねー。どう…し…たの…?」

そこには頭が見たこともない形に別れた父親らしきものが居た。

「ちょっとーお父さん?悪ふざけはやめてよ~」
娘は無用心に近付き…
[父親に擬態したそれ]は迎え入れるかのように口を広げてかぶりついた。

響の左手がサノスケになった翌日―

「んん…むにゃ…」

「お早う、響。」

「ああ…おはよーサノスケ…今何時?」

「10時だが?」
がばっと響は布団をはね除けて飛び起きた。
「え、ええええ!な、何で目覚ましがならないん…」

そこには丁寧に分解されて並べられた目覚まし時計の成れの果てがあった。

「サノスケー!!」

「何だ、朝から騒々しい。」
さも、自分がやったのではないような口振りでサノスケは返答する。
「お前、目覚まし壊したなー!!」

「ああ、その事か…朝から中々五月蝿かったからどのような仕組みか気になってな。」

悪びれもなく淡々と喋る左手に響は怒りを覚えた。
そんな響の様子を見てか、サノスケは態度を変えた。
「大丈夫だ。後でちゃんと直す。」

「ホントか!?サノスケは良い奴だな!」

(…度を越えたお人好しなんだな。やはり馬鹿か…?)

「あ、そんなことより今日はレッスンがあるけどサノスケはどうしてるんだ?」
不安感を顔に滲ませながら響は聞いた。

「その事なら問題ない。私が眠っている時は君の腕はただの腕そのものだ。」

「なんだ…心配して損したさー。」
ほっ、と安堵の息をつき、響は仕事の準備を始めた。

数十分後、人通りの少ない道を通りながら、響とサノスケは会話をしていた。

「…と言うわけで事務所の中では静かにしていて欲しいんだぞ。」

「分かった。…?」

路地裏に差し掛かった時だった。嫌な空気が辺りを支配する。
サノスケが動きを止めた。

「どうしたさ、サノスケ?」

サノスケは少し興奮したような動きをして答えた。

「初めてだぞ、この感覚は…この脳波?…響。落ち着いて聞け。[仲間]がいる。」

「へ?」

「[仲間]だ。[仲間]がいる。しかもここからそう遠くない。」
サノスケは辺りを探るような奇妙な動きをしながら言った。

突然の事態に響は面喰らった。
「ええっ!?そ、それって危ないのか!?」

「分からないぞ…む、此方に気付いたみたいだな。良し、響。見学といこうか。」

「じ、自分危ないのは嫌だぞ…」
不安そうな響とは対称的にサノスケは興味津々だった。
そして足音が後ろから近付いてきた。

「響、後ろだ。」
「ひいいっ!?」

後ろを振り返った響が目にしたのは上半身を返り血で染めた猫だった。
何で猫が?と思う間もなく、猫は喋り始めた。

「ほう…お仲間か!お前も[失敗]したみたいだな。俺は取り付いた生物…御前は取り付いた場所に不満がある…」

地の底から出されるような声を絞り出しつつ、猫は口を開いた。

「ふうむ…やる気だな。走れ、響![人間のまま]の御前を非常に警戒している!」

「えっあ、うん!」

背を向けて走ってその場を去る瞬間、響は後ろをちらり、と見てしまった。
そして、響は後ろを振り返ってしまった事を後悔した。
そこには頭が縦に伸びている途中の自分の知っている猫とは違う生き物がいた。

そして猫は頭を伸ばしきり、今度は伸びた頭を広げた。

伸びた頭が広がり[翼]のような形をとる。
そして[猫]は翼をはためかせ、空中に飛び上がった。

「はあっ、はあっ…」

もうすぐで人通りの多い場所に行ける、響がそう思ったその時。

真上に何かの気配を感じた。
顔をあげると6m位の上空にさっきの[猫]が居た。
思わず息をのみ、足が止まる。

「仕方がない、[ピーーー]か。」

「え」

次の瞬間。
サノスケは一瞬で左手をを鋭利な刄状にし―
そのまま物凄い速さで腕を[伸ばした]。

伸ばした腕は一瞬で[猫]に近付き―

そのまま体を貫いた。

この間、僅か二秒。
響は何が起きたかも分からなかった。

腕が変な形になったと思ったら次の瞬間には猫が落下している、という所だったからだ。

「サ、サノスケ…?」

「まあこんなものだ。首から上を[借りている]以上胴体から下は弱点になる。…こんな風にな。」
そう言うとサノスケは掴み取った心臓を掲げて握り潰した。
「うわ…」

「空を飛ぶ事に精一杯で攻撃まで頭が回らなかったみたいだな。…ま、こんなものか。」

軽く言い放つとサノスケはまた触手を伸ばし、[猫だったもの]を探り始めた。
「な、何をしてるさー?」

「ふうむ…大したことはない。只の観察だ。成る程、これは面白い。響。」

「何さー?」

「私達は何を食べて生きているかが分かったぞ。」
少し興奮したような動きをしてサノスケは言葉を続けた。

「同族だ。」

「どう…ぞく?」
予想外の答えに響は驚きの余り、おうむ返しをした。

「ああ、こいつは私達と出会った時上半身に血を浴びていただろ。今調べた所、返り血が猫と同じだった。」

「じゃあ、つまりサノスケ達はくっついたやつの同族を食べるわけなのか?」

「そう言うことになるな…だが、私は食欲がわかない。恐らく、頭を乗っ取ってないのもあるのだろう。」
冷静なサノスケに響はどこか恐怖感を覚えた。
「…さて、大体この猫については分かったぞ。それじゃあ響が言っていたアイドル事務所に行ってくれ。響の言っていた[アイドル活動]とやらにも興味があるからな。」

「分かったぞ…でもサノスケは出てきちゃダメだぞ。」

「承知の上だ。」
人通りの多い場所に出た。正午に近い時間だからか人も疎らだ。
事務所が見えた時だった。
突然サノスケが話しかけた。
「響。」
先程の余裕が見えない切羽詰まった感じに響は動揺した。
それは先程の[興味]が感じられず、代わりに[戸惑い]が含まれた気がしたからだ。
ただ事出はない様子に動揺を隠せないまま響は応えた。
「どうかしたさー?」
緊張の糸を途切れさせなままサノスケは喋った。

「響。君が言っていた事務所とは彼処に見える建物の事か?」

嫌な予感を感じたが、響は応えた。

「そう…だけど…サノスケ?」

「さっきから微弱な信号を感じていた。自分からは近付いて来てないから問題ない、と考えていた。」

何かを遠回しに言おうとしているサノスケ。

「も、勿体ぶらずに早く言うさー!」

サノスケは驚愕の事実を伝えた。

「分かった。結論から言おう。事務所に[仲間]がいる。それも複数だ。」

それは俺泣きそうになる

「事務…所に?わ、悪い冗談は止めるさー。サノスケ…」
冗談ではないことをサノスケの態度が物語っていた。

「ただ、反応が非常に微弱だ。眠っているのかもしれん。逃げた方が得策だな。」
ところが響は恐怖を顔に滲ませながらも、事務所に向かって歩き出した。

「な、何故だ!?事務所に向かってどうする!?」

「サノスケ。事務所からは[殺意]は感じられる?」

「別に感じないが…」
まるで答えになってない事を何故響が言ったのか、サノスケは疑問を感じながらも響に応えた。

「そうか、なら安心さー。」

響は階段を登りドアに手をかけた。
深呼吸をして呼吸を整え、ドアを開ける。

「はいさい!!プロデューサー!!」

そこには一面に拡がる血溜まりが、なんてことはなかった。

いつものように小鳥がパソコンに向かい、プロデューサーはスケジュール表をチェックしていた。

「おっ響。今日は随分と遅いな。やっぱり昨日の病気か?」
響は、[自分が考えた最悪の有り様]が広がっていないことに安堵した。
それと同時にこの事務所にサノスケの仲間がいると言うことに改めて恐怖を覚えた。
「う、うん。自分昨日は色々大変だったぞ。ところでプロデューサー、今日ここに誰か来てるさー?」

然り気無く、響は本題に迫った。

「んーそうだな。今は真美と雪歩がいたかな。雪歩はお茶を取りに行っているよ。真美は…まあよく分からんな。」

「真美と雪歩?」
(さっきサノスケは複数いるって言ってたぞ…まさかピヨ子も入れて3人が!?それともプロデューサーも!?)

「ああ、あと貴音がいたな。」

「貴音が…?」
ちょうどその時だった。
別のドアを開けて貴音が入ってきた。

「おや、随分と本日は遅めなのですね。響。」

「あ、あはは!ちょっと自分昨日から風邪っぽくって…」

いつも通りの貴音に安心をした瞬間だった。服の中から小さな声でサノスケが声をかけた。
(トイレに移動しろ。響。)
(分かったぞ…)

「あ、自分ちょっとトイレに行ってくるさー!貴音、話の途中でごめんね!」

「いえいえ、別に気にしていませんよ。響。」

トイレにて―

「随分と焦ってたみたいだけどどうしたさー?」

「響。今の女はいつもあんな感じか?」

「そうだけど…何か?」
戸惑う響にサノスケは恐ろしい事を告げた。

「あの[貴音]という女から信号が出ていた。信号こそ弱いもの確実に4つは[仲間]が寄生している。信じられん。」

「そんな…でも貴音はいつ
も通りだったぞ!確かに変な所はあるけど…それはいつも通りだし…」

「変な所とは聞き捨てなりませんね。」

いつの間にか貴音がトイレのドア付近に立っていた。

「事務…所に?わ、悪い冗談は止めるさー。サノスケ…」
冗談ではないことをサノスケの態度が物語っていた。

「ただ、反応が非常に微弱だ。眠っているのかもしれん。逃げた方が得策だな。」
ところが響は恐怖を顔に滲ませながらも、事務所に向かって歩き出した。

「な、何故だ!?事務所に向かってどうする!?」

「サノスケ。事務所からは[殺意]は感じられる?」

「別に感じないが…」
まるで答えになってない事を何故響が言ったのか、サノスケは疑問を感じながらも響に応えた。

「そうか、なら安心さー。」

響は階段を登りドアに手をかけた。
深呼吸をして呼吸を整え、ドアを開ける。

「はいさい!!プロデューサー!!」

そこには一面に拡がる血溜まりが、なんてことはなかった。

いつものように小鳥がパソコンに向かい、プロデューサーはスケジュール表をチェックしていた。

「おっ響。今日は随分と遅いな。やっぱり昨日の病気か?」
響は、[自分が考えた最悪の有り様]が広がっていないことに安堵した。
それと同時にこの事務所にサノスケの仲間がいると言うことに改めて恐怖を覚えた。
「う、うん。自分昨日は色々大変だったぞ。ところでプロデューサー、今日ここに誰か来てるさー?」

然り気無く、響は本題に迫った。

「んーそうだな。今は真美と雪歩がいたかな。雪歩はお茶を取りに行っているよ。真美は…まあよく分からんな。」

「真美と雪歩?」
(さっきサノスケは複数いるって言ってたぞ…まさかピヨ子も入れて3人が!?それともプロデューサーも!?)

「ああ、あと貴音がいたな。」

「貴音が…?」
ちょうどその時だった。
別のドアを開けて貴音が入ってきた。

「おや、随分と本日は遅めなのですね。響。」

「あ、あはは!ちょっと自分昨日から風邪っぽくって…」

いつも通りの貴音に安心をした瞬間だった。服の中から小さな声でサノスケが声をかけた。
(トイレに移動しろ。響。)
(分かったぞ…)

「あ、自分ちょっとトイレに行ってくるさー!貴音、話の途中でごめんね!」

「いえいえ、別に気にしていませんよ。響。」

トイレにて―

「随分と焦ってたみたいだけどどうしたさー?」

「響。今の女はいつもあんな感じか?」

「そうだけど…何か?」
戸惑う響にサノスケは恐ろしい事を告げた。

「あの[貴音]という女から信号が出ていた。信号こそ弱いもの確実に4つは[仲間]が寄生している。信じられん。」

「そんな…でも貴音はいつ
も通りだったぞ!確かに変な所はあるけど…それはいつも通りだし…」

「変な所とは聞き捨てなりませんね。」

いつの間にか貴音がトイレのドア付近に立っていた。

「変な所とは…浮世離れしている、と言って欲しいものです。」

「あ、あわわ…た、貴音…なのか?」
響はさっきまで話していた人物が、急にとてつもない化物に見えた。

「正真正銘の四条貴音ですよ?どうかしましたか?響。…と左手様?」

!!!!?
「た、貴音なんでそれを…」
サノスケは臨戦態勢をとった。
「[おまえ]…なんだ?」

「そう構える必要は御座いませんよ、…御名前は?」

「名前なd」
「サノスケっていうんだぞ!人に左の佐!」
響は元気に、否、開き直って応えた。

「ほお…なかなかいい名前をつけましたね。響。取り敢えずここで話すのもなにかと問題なので、後で喫茶店にでも行きませんか。」

「わ、分かったぞ。」
響は提案を飲んだ。
何が起きるかわからない恐怖が響をそうさせた。
「それでは。」
そう言うと貴音は静かにトイレを出ていった。

寄生獣はよくわからんけどこのssがつまらんことはわかった。
もう書かなくていいよ(^^;)

そういや新一君も初期はボッチ系ヘタレみたいな感じ……だったっけ?

>>27
ええっそんな殺生な(・・;)))

>>28
そんな感じでしたね。でも響はぼっちじゃないですよ!

期待

レッスンが終わり―
響達はとある喫茶店の前に立っていた。
「ここか…」
響は意を決して喫茶店に入った。
中には客が全くいない。
(貴音はまだ来てないのか?)
そう思ったその時奥の席から貴音が手招きをするのが見えた。
「響、遅いですよ。」

「ご、ごめんなさい貴音…」

畏怖の余り、つい敬語を使ってしまう。

「そんなに畏まる必要はありませんよ。」

いつもと変わらない笑顔を携えながら、貴音は喋った。

「わ、分かったぞ…」

「では、如何なる事から噺ましょうか…」
サノスケが堰を切ったかのごとく質問を始めた。
「聞きたい事がいくつかある。まず一つだが四条貴音。お前は何者だ?いつから生きている?」

「…質問は一つずつするものですよ。そうですね、まず最初の質問に応じましょう。私は[人間]です。」

「ならなぜ微弱ながらも反応が出ているんだ?」

「それは私の身体に4匹の[パラサイト]がついているからです。」

「パラサイト?」
聞いたことのない単語に響は眉をひそめた。

「ええ。今から20年前に彼等はそう名付けられました。」

「20年前…?前にもサノスケ達は来ていたのか?」
サノスケに問い掛けるがサノスケの態度からしてそんなことは知らない、ということを響は悟った。

「私からお噺しましょう…今から20年程前に彼等は生まれました。はっきりとは分かりえませんが。
そして、彼等が生まれてから各地でみんち殺人が起こるようになりました。そして月日と共に犠牲者が増えていくなか、ある町で彼等に対して大粛清が行われました。
此れを期に彼等は人間社会に完全に隠れて派手な動きをしなくなった―そう私は聞いています。」
衝撃の事実を伝えられて響は言葉を失った。
サノスケが口を開いた。
「ふうむ…成る程。我々の“先輩”にあたる者達の教訓、と言うわけか。するとお前はその時―」

「それ以上は“とっぷしいくれっと”ですよ。」
貴音はサノスケの言葉を遮った。
そして響に対して優しい顔を向けた。
「響。何か他に聞くことはありますか?」
響は聞くべきかどうか迷いつつも響にとっての[本題]を問い掛けた。

「貴音は…本当に貴音なのか?」
まるでその質問がくることが分かっていたかのような顔をして貴音は応えた。

「勿論の事ですよ。今まで響が見てきた私。此れからも見ていくであろう私。全部響の知っている[四条貴音]ですよ。」
それを聞いて響の顔にぱあっ、と笑顔が戻った。
「それが聞けたなら満足さー!貴音と自分はこれからも友達だぞ!」

「ふふふ、私も同じですよ。響。
ところでサノスケさん。」

「何だ?」
怪訝な態度を取りつつサノスケは応えた。

「貴方が響の頭を奪わなかった事には感謝します。しかしもし奪っていたのなら私は貴方を容赦なく殺していたでしょう。」
そう言うと貴音はティースプーンを握り締め―
次に手を開くとアルミを丸めたようなゴミに似たティースプーンが現れた。
(成る程…これが恐怖か!!)
サノスケは生まれて始めて恐怖を感じた。

美希に寄生したのが前にあったな

>>32
えっマジでの介?
そんなんあったんだ…

喫茶店で貴音と別れて―

帰路を辿りつつ響はサノスケに語りかけた。
「結局、貴音に4匹ついているのは分かったけど貴音が人間かどうかは分からなかったなー。」

「…彼女は人間だ。少なくとも身体そのものと頭はな。最も幾分か“混じっている”みたいだが…
だが四肢は総て[仲間]だ。」

「つまりどういう事?」

「4匹の[仲間]はそれぞれの足と腕に寄生している、と言うことさ。何故そうなったのかは20年前について調べなければ分からないだろうな。」

「ふーん…」

マンションに戻り、自分の号室に入る。
「ただいまー…あれ?」

響は首をかしげた。
いつもなら帰ってきたら自分の家族が向かってくる筈が誰も来ないからだ。

ヘビ香は耳がないから仕方がないが、いぬ美まで来ないことに響は違和感を覚えた。

「いぬ美ー?あ、いたいた、どうしたさー?」

部屋の隅にいぬ美はいた。しかし様子がおかしい。どうも響を怖がっているようだ。

「どうやら私が原因みたいだな。哺乳類は基本的に痛がり屋のようだからな。」
聞き慣れない単語に響は返答をした。

「痛がり屋?」

「哺乳類の持つ[本能による恐怖]さ。例えば、生まれたての猿にヘビを見せると大抵怖がる…“本能の怯え”を持つ者の事だ。」

「あ、それ聞いたことがあるぞ。」

「と、まあ雑談はここまでにしようか。」

「うん、早く風呂に入って…はっ!!」
響は大変なことに気付いた。風呂の問題だ。
「サノスケ…見るなよ?」

「なにをだ?君の身体か?別に心配することはないんじゃないか?ペットの様なものだと思えば…」

「ん、ん…分かっていたぞ!自分、完璧だからな!!」





こうして夜は更けていった―

響の左手がサノスケに代わってから3週間―

3週間がたち、響はこの生活が苦ではなくなってきたと思っていた。
少しずつだが響の家族達もサノスケに慣れていった。

そして貴音が言っていた通り、世界中でミンチ殺人が数件起きた。
しかし、すぐにミンチ殺人の数は減り、2週間もすると完全に事件は起きなくなった…

そんなある日。学校の帰り道の出来事だった。

少々長めの通学路を歩いている時だった。
突然、サノスケが話し掛けてきた。

「響。」

響は携帯を取りだし、耳に当てた。
道行く人に変人と思われないためだ。
「何さー?」

「後方20mに人に寄生した奴がいる。」

「え…」

「離れた方が良さそうだ。猫の時みたいにまた殺し合いになるぞ!」

「は、早く帰るさー!」
慌てて家に戻ろうとした響をサノスケは急いで止めた。

「家に帰ってどうするんだ!家を知られたら終わりだぞ、落ち着け!」

「あ…」

「取り敢えず、一旦遠くまで離れてからだ。行くぞ。」
そう言うとサノスケは普通の左手に戻り―
響は家とは逆方向に駆け出した。

数分程走っただろうか、辺りに人影が全く見えない場所に響は着いた。
辺りを見回した響は、サノスケに話し掛けた。

「もう大丈夫かな、サノスケ…?」

「いや、まだ分からない…!追い掛けてきてるぞ!」
緊迫した空気が辺りを包む。
「そ、そんな!?」

「近いぞ、響!構えろ!」

そして空き地の奥から男が姿を表した。
タンクトップにズボン、と普通の格好に見える。
だが全身から漂う殺気が普通の人間ではない事を物語っていた。

「成る程…俺から逃げた理由はそういう理由か。確かに脳味噌が丸々残っていやがる…コイツは危険だな!」
喋り方まで人間そのものだ。
響は気分が悪くなった。

男が一歩足を踏み出す。

警戒心を剥き出しにしてサノスケは左手を凶器に変えた。

「来るな!次に一歩でも動けばお前を殺す!」

決定された事項だな

敵意を剥き出しにしたサノスケに対し、男を歩みを止めた。

「まあ待て、左手君の言いたいことは分かった。
だが俺が言いたいのはその体から此方の体に引っ越しをしないか?と言うことだ。」
立ち止まった男は“サノスケに”提案をしてきた。

「引っ越し…?」
聞き慣れない単語にサノスケは疑問を掲げた。

「なんだ、知らないのか…おまえ、勉強不足だぞ。俺達は頭から頭への移動は無理だが…」

そう言うと、男の顔に縦に亀裂が幾つか入った。
そして巻いた薄い紙を解くかのように亀裂の入った顔は動き出した。
人間の顔が半分ほど薄い刃を持った触腕に変わり果てた。
響はたまらず声を漏らした。
「うわ…」

そして既に人とは言えない姿に変貌を遂げた男は伸びた触腕で自らの左腕を切断した。

「[同じ場所]への移動なら問題はない!」

切断した左腕から噴水の如く血が吹き出す。

「さあ、来い!一つの体に他の[仲間]が宿れば更に強くなれるのだ!!早くその人間を殺してこの身体に来い!」
恐るべき提案に響は息をのみ、そしてサノスケを見た。
サノスケは何かを考えている模様だ。
男が続ける。
「ええい、血が勿体無い!その人間の首を飛ばせば否応なしの筈だ!!」

そう言うと男は一瞬で触腕を引き戻し―
目にも写らぬ速さで斬りかかってきた。
ヒュンッと風を切る音がした。
(え…)

だが刃が首元に届く瞬間!!
サノスケが一瞬で触腕を切断し―

そのままの勢いで男の首を切断した。
浮いた頭に間を挟まず、槍状になった腕を突き刺し地面に叩き付ける。
ヒュッ
ドスッ―

完全に不意を突かれた事に驚きを隠せないまま男は叩き伏せられた。
男にできたのは、首のない身体がゆっくりと倒れていくのをなすすべもなく見詰めるだけだった。

「ば、馬鹿な…何故…」

「言っただろう。それ以上動けばお前を殺すと。抑で話し合いから提案をする時に臨戦体型をとるべきではない。…ってもう聞いてないか。」

そこには木乃伊のようにしわくちゃに成り果てた男の顔が残っていた。

「まだ色々聞いておきたかったが残念だ…。響?大丈夫か?」
若干放心してしまっている響にサノスケは声をかけた。
響は我に帰った。
「う、うん…大丈夫だぞ。
…なんで自分を助けたんだ?」

「何だ、殺して欲しかったのか?」
嫌な返答に若干背筋を凍らせる。
「そうじゃなくて!」

「冗談だ…。ただ、コイツの言うことに信用性がなかったからだ。此方の言ったことを破ったからな、信用に値しない、と判断した。」

「言ったこと?」

「動くな、と言ったのに動いた。見てみろ、足が前に出ている。」

「あ…!!」
確かに男の身体は攻撃するために一歩分動いていた。
安堵のため息をつくと同時に、もしこの男がその場から動いていなかったら自分はどうなっていたのかを想像し、響は戦慄した。

そして(嫌、そんなことはしない筈)と思い直し自分に言い聞かせた。
「疲れた…私は少し寝る。」
サノスケはそう言うと普通の左手に戻った。
響は自分の腕にいる生き物は何なのか益々分からなくなったまま、帰路に着いた。

ベッドに横たわりながら響はふと、考えた。
自分はサノスケと仲良くしていきたいがそれはサノスケからしたら迷惑なのかもしれないと…
しかし難しい事を考え続けるのは彼女には合ってないため、響は暫くすると、こてん、と眠りについてしまった。


お姫ちんの話からすると寄生獣本編より20年位後と思っていいのか
でもそんなこと知ってるお姫ちんって

これ以上いけない

響が男と出会っていた時―

別の場所でもう一つの事件が起きていた。
突然現れた非日常に人々は困惑した。

「え、ええ…?」

「なにあれ?TVの撮影?」

動物園からクマが逃げ出したのだ。
生まれつき好奇心の強いクマは自分の回りにいた人間に興味を抱き、“調べて”みた。

「グワオッ」

近くにいた女の顔を[軽く
]触る。
一瞬で頭が半回転し、ぼきり、と嫌な音がした。
動かなくなった玩具のようになった人間の匂いを嗅ぎ、死んでしまったことを確認して、クマは“遊び”だした。

更に、暢気さにかけては世界で有数の日本人が相手だったのも被害を大きくする原因となった。
二人が肉塊となすまで何人かは本気で撮影と思っていたようだ。

クマが一頻り遊び終わったときに、異変は起きた。

一見した所、どう見ても普通の男子高校生にしか見えない人物がクマに向かって歩いてきたのだ。

「ええと…これ何だっけ?…そうそう、グリズリーだったね、確か。何でこんなとこに…ああ、そうか。動物園から逃げ出したのか。」

まるで誰かと喋っているかのような独り言を発しながら男子は近付き―
手をサッと掲げた。

クマは目の前にいる人らしきものが人ではない事を瞬時に悟った。

「ふうん…いい反応だ。流石は哺乳類とでも言ったところだね。」

男子はそう言うと背中を向けて歩き出した。

クマは野生の本能に従って忽ちどこか遠くまで逃げよう、と思い走り出した。

突如、轟音が鳴り響き、クマの足が止まる。

ハンター達が到着したのだ。
そしてあっという間にクマは撃ち殺された。

消えつつある意識の中でクマは最後に会った“人ならざるもの”に恐怖を抱いたまま息絶えた。

おきろ…おい、おきろ…

微睡みの中、響は夢で誰かに起こされた気がした。
「起きろ、響!!」
否、実際に起こされた。

目をしょぼしょぼさせながらベッドから起き上がり、愚痴を溢す。

「朝からなにさ…サノスケ。自分まだ眠いぞ…」

「TVを見てみろ。面白いニュースをやっているぞ。」

勝手にTVを点けて…、と文句を言いながらTVを見てみるとそこでは昨日クマが脱走した、というニュースをやっていた。
「…これがどうかしたさー?」

「…聞いてみな。」

ニュースの概要はクマが逃げ出し暴れていた所、男の子が現れてクマを退散させた、という内容だった。

「…クマを退散させた?」
響は不審に思って声をあげた。

「恐らく[仲間]だ。」

「仲間…!?」

響はサノスケの淡々とした答えに驚愕した。
そして町中に普通に[パラサイト]がいることに恐怖を覚えた。
「意外と我々の[仲間]は居るものだな。」
サノスケは感慨深そうに感想を呟いた。
「ご飯食べるさー…」


乙でした

―アイドル事務所にて―

「はいさい!お早うだぞ!」
響は元気良く事務所に飛び込んだ。
「あ、お早う、響ちゃん!」
事務所には春香がいた。
「お早う!春香は今日は早いんだな!どうしたの?」

「うん、実はクッキー作ってきていて…
張り切り過ぎちゃったんだ。
よかったら食べる?」

春香ははにかみながら応えた。

「もちろんいただくぞ!」

「じゃあ紅茶持ってくるからちょっと待っててね。」

春香はそう言うといそいそと紅茶を取りに行った。

春香が見えなくなった瞬間、サノスケが出てきた。

「響、アイドルというのはこんなに緩い職業なのか?」
痛いところを突かれ、響は言葉を詰まらせた。
「ここは厳しくしすぎずがモットーなのさー…」
言い訳にしか聞こえない。
「ふうん…ところで響、」

「お茶が入りましたよー!!」

春香が部屋に戻ってきた。

「…響ちゃん、今誰かと話していた?」

「ま、まさかあ!!自分そんなに変じゃないぞ!?」

危なく会話を聞かれるところだったようだ…

「変な響ちゃん…ま、いいや。はい紅茶ですよ~」

春香が紅茶を渡そうとしたその時。

足下を黒い悪魔が走り去った。

「う、うわぎゃー!!!ゴ、ゴキブリー!!!!!!」

驚いて紅茶の乗ったお盆を落としてしまい、紅茶が辺りに飛び散る。

そして飛び散った紅茶が響にかかった。

響は反射的に手で顔にかかるのをガードした。

「熱いー!?」

左手に紅茶がかかった瞬間、叫んだのは響ではなく、サノスケだった。

異常事態に驚きサノスケの形が安定しなくなり2、3秒間ばたばたと捕まれた蛇のように動いた。

「!?ひ、響ちゃん、それ…」

最後まで言い終える事無く、春香は紅茶で滑って転んでしまった。

どんがらがっしゃん、と音が鳴り響き、響は顔をしかめた。

「は、春香…?大丈夫か…?」

春香は気絶してしまっていた。

「ふー、危なかったさー…取り敢えず春香を介抱しないと…」

響は横たわった春香を抱き抱えた。

「よっこいしょっと。」

わた春香に見えた

―数十分後―



「ううん…」
春香はうめき声をあげて目を覚ました。
「あ、春香!大丈夫か?自分、凄く心配したぞ!」

周りを見渡すと事務所の仲間達が皆、心配顔で春香を見ていた。

「大丈夫?春香?」

「ありがとう、千早ちゃん…」

「うあうあ~死んじゃうかと思ったよ~!」

「真、無事の様で何よりです…」

「春香、大丈夫だったか?今日の仕事は休みにしておいたからゆっくり休んでくれ。」

次々とくる介抱と安堵の声に春香は面食らった。

一頻り騒がれた後、春香は気になった事を聞いてきた。
「ねえ、響ちゃん。何か転ぶ前に響ちゃんの左手が何か凄かった気がしたんだけど…」

注目の視線が春香から響に移った。
慌てて響は誤魔化した。

「な、何もないぞ!?春香頭打ったから何か間違えてるんじゃないか?」

「うーん響ちゃんの左手紅茶がかかってから、なんかぐにゃぐにゃしてた気がするんだけどな…」

そう言うと春香は響の左手を手に取り、まじまじと見詰めた。

左腕には何も変な所は見えなかった。

「春香、大丈夫?」

さっきの「大丈夫?」とは違うニュアンスを込めて千早が聞く。

「だ、大丈夫だよ!千早ちゃん!頭がおかしいなんて事はないよう!!」

二人のコントが行われている中、響は一難去った事に安心して溜め息を吐いた。

しかし貴音を除いた中で、ただ一人だけが響の左手の異常に気付いていた事に響は勿論、貴音すら気付いていなかった。

数時間後、TV収録にて―


「じゃあ、今回の響チャレンジ候補はこれです!」

企画から渡された企画書を見た響は絶句した。

[SASUKEにチャレンジ!?]

「え…と…ハードすぎない?…ですか?
他に案はない?…ですか?」

うっかり敬語を忘れてしまう程の衝撃だった。
最近自分はついていないな、と響は思った。

「そうか…じゃあ他の企画でコレならどうかな!?」

そう言うと企画の人はもう一つ企画書を出してきた。

[槍投げにチャレンジ!?]

「まあこの位なら…」

響は不服ながらも企画を引き受けた。



―数時間後―

響は運動着を着てグラウンドに立っていた。
最初から槍投げの用意がされていた為、SASUKEはフェイクで本命はこっちの方だ、と響は気付いたが後の祭だった。

「自分、若干人間不信になりそうだぞ…」

「前言撤回だ。アイドルは案外大変な仕事なんだな。それはそうとまあ、いいじゃないか。貴重な体験が出来るし。」

「サノスケは黙っているさー。」
響は怒気を含んだ返答をしたが、効果は薄かったようだ。

「まあ精々頑張ることだ。」
そう言うとサノスケはただの左手に戻った。

「じゃあ、練習行ってみよー!!」

企画の耳障りな甲高い声が響く。
響はこの持っている槍を企画の人にブッ刺したらどうなるんだろうな、と危ない考えを一瞬持ち出した。

マスゴミが喜ぶだけだね

「うがー!!」

助走をつけて手にした槍をこれでもか、とばかりに投げつける。

投げる度に若干のストレスが解消される気がするが、溜まり続けるストレスの前には焼け石に水の状態だった。

(せめてプロデューサーがいればまだ楽なのに…)

汗をかいて朦朧とする頭でプロデューサーに汗を拭いてもらう妄想を繰り広げ、響は一瞬恍惚状態に陥った。

「えへ、えへへへ、プロデューサー…ハッ!?」

いつの間に左手に目玉が出現していた。
目と目が合い、左手の目玉が引っ込む。

「ぬ、ぬぐぐ…」

妄想をして楽しんでいた所を見られた響は一瞬前の自分を殴りたくなった。

「どうしたのー、響ちゃん!次の投げてー!」
企画の人間の声が不快感を助長する。

響は槍を手に取り力と苛立ちを込めて左手で投げつけた。

「あ」

槍は右手で投げた時よりも遥かに遠くに刺さった。

企画の人間は絶句した。

響は自分がやらかしてしまった事の重大性に気付いたが後の祭だった。

(やっちゃったぞ…しかもこれ本番…)


「す、凄いよ、響ちゃん!?今の選手並みに飛んでたよ!?」

「フ、ファール!ファールだぞ!」

何とかその場を取り繕うが、誤魔化せたかどうかは響には分からないままでその日の収録は終わった。

作者です。
読んで下さっている方々、申し訳ありません。
携帯が壊れてしまい、暫く更新できません。
今家のPCから書き込んでいますが、受験生であるためPCを使えるときは限られています。
携帯の時の用に更新できないこの愚図をお許しください。



まぁ、なんだ
受験勉強も頑張れ

収録が終わり帰路につく中、響はサノスケに迫った。
「なんで左手に力入れるとあんなことがおきるって言わないんだ!!」

「言おうとは思っていたが言いそびれていてな、おまけに邪魔が入った。」

全く悪びれない様子で響の怒りを受け流すサノスケに響は頭を抱えた。

「うああ…これじゃあ今度から怪力アイドルみたいになっちゃうぞ…。」

「まあいいじゃないか。あんな企画やらされる辺りそういうキャラクターが染み付いているのだろう?」

女心をこれっぽちも理解しようとしないサノスケに響は怒りを覚えた。
今更ながらこの左腕についている生き物は性格が悪い、ということを理解した響だった。

「でもあんな風に目立ったら今後なにか影響でもありそうだぞ…。」

だが響の心配は予想もしない形で杞憂に終わることになった。

生っすか?!の収録が始まる数刻程前にその事件は起きた―

とある警察署内にて、二人の男性が会話をしながら歩いていた。

「それにしてもこんな量の書類何に使うんですかねぇ。」

溜息をもらしながら若い警察官が呟く。
その両腕には大きめの段ボールがあった。
中には大量の紙やレポートらしきものが見える。
少し年配の警察官がそんな若輩者に溜息をつく。

「何でも聞かないで少しは自分で考えたらどうだ…。大方、会議にでも使うんだろ。」

これだから最近の若い奴は…と、老人お決まりの文句を呟きながら、警察官は会議室に向かおうとした。
その時、前振りもなく角から警官が現れた。
突然の事に驚き、若い警察官は持っているダンボール箱を落とした。

「うわぁっ、やってしまったァ!!すいません!」

若い警察官は慌てて、散った紙やレポートを拾い集め始めた。
年配の方も溜息をつきながら紙を拾い集める。

「全く…。うん?あんた何してんだ?」

拾いもせず、謝りもしないで突っ立ったままの警官に年配の方は違和感を覚えた。
警官の顔がこの警察署で見たこともない顔をしていたからだ。
そしてその警官の行動は実に奇妙な動きをしていた。
体こそ動いていないものの、目が下を向いて頻りにきょろきょろと、せわしなく動いているのだ。
おまけに年を取っているのか取っていないのかもよく分からない顔つきをしている。
だがそれよりも奇妙なことが一つあった。
目が人間の目をしていないのだ。
形こそ人間の目だがその目には自分たちが移っておらず、唯単に資料を追いかけるだけのものと化しているのだ。
余りの不気味さに若者は手を止め、何かがおかしい、と思った年配はさり気無く声をかけた。

「…気分が悪いのかね。あと私は君の顔を初めて見たな。新人かな?」

警官は応えない。
相変わらず棒立ちしたまま資料を眺めるだけだ。

「おい、勝手に資料を…」

「いえ、もう大丈夫です。‘分かりましたので’。」
無口だった警官が突然喋った。
もう用はない、と言わんばかりの空気を体に携えながら。

「おい、何言って…」

若い警察官は不思議そうな顔をして警官に手を伸ばした。
警官の顔に亀裂が走った。

「あぶねぇ!!」
年配の警官が叫ぶと同時に警官の顔が[開いた]。



窓ガラスが割れる音が廊下に響いた。

携帯が直りました。
更新再開します。
…と、言いたい所ですが今から学校に行かなくてはならないので読者様、暫し御待ちを御願いします。

窓が割れる音が響いた―

すわ、一大事とばかりに集まってきた他の警官達が見たものは、血溜まりの中に座り込む若い警官の姿だった。

「大丈夫か!?何があった!?」

「うう、ああ…」

話ができる状態ではない様子の若い警官に手をかけた所で老警官の姿が見えない事に気付く。
嫌な予感がして辺りを見回すと通路の影に足が見えた。

「ちょっと見てこい。」

「は、はい!」

近くにいた警官を呼びつけ見に行かせた。

「大丈夫で…ひいぃ!」

「きゃー!!!!」

「う、うわあああ!」

悲鳴が相次ぐ。
其所には老警官の下半身だけが落ちており、近くにはかろうじて上半身に見えなくもない物体が残っているだけだった。

「刃物を持った人物が…」

突然若い警官が喋りだした。
行きも絶え絶えの状態の様なので状況を整理するため、初老の警官は近くの別の警官に救急車を呼ぶように手配した。

「取り敢えず外に連れていってやれ。」

「はい。」

警官は倒れている若い警官を肩に担ぎ上げ、歩き出した。

随分と冷静な奴だな、と初老の警官は思った。

玄関付近まで来て警官は呟いた。

「2階級特進だな。」

なんと若い警官がなにもなかったのかの様に応えた。

「ああ、そうだな。取り敢えずこの顔の持ち主には感謝をしないとな。」

「感謝なんてしてないだろう。」

「バレたか。」

いつの間にか二人とも最初の時と顔が変わり果てていた。

「顔の持ち主の死体は他の仲間が処理しておいた。外に血痕が残っているが、“刃物を持った人物”が後を残した、という事にしておこう。」

「任せたぞ…。資料を持った奴は今頃ボスの下にいる筈だ。…じゃあ最後の処理だ。成るべく捜査を攪乱してくれよ。」

そう言うと若い警官だった者は顔に螺旋状の亀裂を走らせた。

「ああ、まかせな…。」

ミキにミギーとかあったなそういや

救急車が着いたときにに隊員達が目にしたのは背中を切り裂かれた警官一人だけだった―

「大きな事件が起きたものだな。」

TVを見たサノスケが呟く。
日本でそれも警察署の中でこんな恐るべき事件が起きたことに響は唖然としていた。

「まあ、これのお陰で我々の事は目立たないですみそうだな。」

TVに釘付けになっている響を尻目にサノスケは呟く。

「あ、ああ、うん…」

煮え切らない返事をする響にこれ以上は響チャレンジの事を話しても無駄だな、とサノスケは判断した。

(しかしこの事件、おかしな所がかなりあるな。刃物を振り回した、と言うが警察署に入ってまでやることか?資料を奪い去ったと言うのも気になるな…)

翌日(キートン山田)

>>59
やめれw

翌日、事務所内は昨日の事件の話で持ちきりだった。

「あれヤバイな。日本であんな事件が起きるなんて…」

プロデューサーが若干興奮のかかった口調で話す。

「あれってそんなに遠いわけではない場所で起きたんですよね…。犯人はまだ捕まっていないなんて…。恐ろしいですね。」

不安そうな顔をしながら千早が言葉をもらす。

「だ、大丈夫だよ!千早ちゃん!どうせその内犯人捕まるに決まってるんだから!」

春香が事務所内に立ち込めた嫌な空気を吹き飛ばすかの様な勢いで喋る。

「分からないわよ、あれって警察の中にも仲間がいたみたいじゃない。」

伊織が反論をし、事務所内はまた騒がしくなった。
どうやら昨日の自分の異常について覚えている人はいなさそうだ、と響が安堵した時だった。

「お早うなの~」

美希が寝ぼけ眼のまま事務所に入ってきた。
形式化しつつある挨拶をしながら美希は真っ直ぐ響の方に歩いてきた。

「お早うなの、響。」

目に隠る異様な雰囲気に呑まれそうになりながら響は挨拶を返した。

「お、お早うだぞ…美希…」

「響。ちょっとミキ聞きたいことがあるの。いい?」

「え、ええ?別にいいけど…?」
唐突な話題に驚きつつも響は返事をした。

「わかったの…ハニー!!ちょっと空き部屋をつかうの~!」

「ああ、別にいいけど何をするんだ?」

プロデューサーの質問に美希は小悪魔の様な笑顔を返しながらおどけるように言った。

「ひ・み・つ♪なの♪…じゃあ響、来るの!」

一体何なんだろう、と響は考えながら美希に引っ張られながら空き部屋に向かった。

「響、皆に何か隠していない?」

応接室に入るなり開口一番、単刀直入に美希は気になっていた事の本題を聞いてきた。
予想外の自体に虚を突かれた響は動揺を隠しきれず、返答がおかしくなった。

「ええ!?そ、そんな事は何もないぞ!?自分は何も隠していないぞ!?」

「わ、分かったの…そんなに慌てなくてもいいと思うの。」

まるで何かを隠しているかの様な反応をする響を見て美希は自分の抱いた疑念は間違っていないかもしれないと思い二発目、と連続して質問に見せ掛けてカマをかけた。

「何も隠していないのは分かったの。でもその左手はどうしたの?」

「え、ええええ!?まさか自分の……あっ!?うそうそ今のなし!!」

かかった!
こんな簡単な子供を引っ掛けるようなやり方に物の見事にはまった響に多少の呆れを感じながらも、美希は心の中でガッツポーズを決めた。

はめられた!!

響は子供騙しの様なカマかけに見事にはまってしまった事を自覚したが後の祭りだった。
そして美希が何に興味を持っているのか、何故今日ここに呼ばれたのかを曖昧な形だが理解してきた。

美希は不敵な笑みを浮かべながら、質問を続ける。

「その反応は何かがあると言うことなの!言い逃れは出来ないの!」

「そ、そんなのこじつけだぞ…じ、自分別に左手が変になったとかそんなことないんだからな!」

たじたじと反論をするがそれが自分の首をしめていることに響は気付いていなかった。

一方の美希は響の壊滅的な嘘から左手に何かがある事、自分の勘が当たっていると確信を得た。

これはバレたな。さてどうしようか…?

サノスケは響の壊滅的な嘘に心底呆れ返り、打開策を考え始めた。

「響、それは自分の左手に異変が起きている、て言っているのと同じなの…。」

そう言うと美希はどうしてそう思ったのか、それに行き着くまでの考えや行動を述べ始めた。

「最初はほんの些細なものだったの。
いつからかは忘れたけど響がペットを連れて来なくなったの。
あれ?って思ったけどその時はペットにも気分があるから、と思って気にしなかったの。でも連れてこなくなってから今まで響はペットを連れて来てないの。」

「あ、ああ、ああ!実はハム蔵とケンカしちゃって!」

その場を取り繕おうとするが美希の勢いは止まらない。
やる気を出した時の美希は自分が満足するまで物事を止めない。
今の状態その状態に少し似ていた。

「続けるの。」

響の言論を遮り美希が言う。

「次に最近の響はなにかおかしかったの。ハム蔵もいないのにやたらと独り言が多かったし…でもここまでなら響が単に頭がおかしくなったか、自分の考えすぎに過ぎないと思ってたの。」

「そ、そうだぞ!美希は考えすぎだぞ!あと自分はおかしくなんかないぞ!!」

響の反論を受け流し、美希の主張は止まることを知らない勢いで進み続ける。

「でも極めつけになったのはは春香が紅茶を引っくり返した時だったの。」

「紅茶?別になにか変な事なんか…」

「響は紅茶がかかったはずなのにどうして左腕は何もなかったの?」

ハッ、と響は息を飲んだ。
紅茶がかかった後サノスケは自分の腕を治していた。
しかしその時にミスがあった。

それは美希を除いた全員が気付かなかったこと。

治しすぎていたのだ。

「今までの疑惑に過ぎなかったものが何かになったの。その何かは分からない。でも響の左手に異変が起きている事が分かったの。」

響は喋る事も出来ず俯いた。
どうすればいいのか分からなくなったのだ。

「そして録画してあった生っすかを見て響の左手が以前と全く違う物だと確信したの。これでミキの話しは終わりなの。
響。
響の左手は…“何”なの?」

語り終えた美希はじっと響を見詰めた。
響は目を逸らした。

「…どうやら完全にバレているようだな。」

黙り込んだ響の左側から声が聞こえた。
美希は面食らいながらも何が来るか分からないまま無意識のうちに警戒をした。

「寝てばかりの人間だと思っていたが、中々洞察力が高いものだな。」

「サ、サノスケ!?出てきたら…」

「いやいい、響。ここまでバレたらもう隠せない。」

響が左手と会話をしている異様な風景に美希は息を飲みつつ、状況を見守った。

「えっと…何だったっけ?そうだ、星井美希だったかな…」

次第に響の左手が変わっていく様子に美希は肝を潰した。

人指し指と中指の先端は眼球に変化し、他の指はくっついて固まり、そこから蝕腕が生えてきた。

そしてその肉の固まりから染み出るように口が現れた。

「初めまして…と言うのかな?
私の名前はサノスケ。
響の今の左手さ。」

そしてその口からは流暢な日本語が流れ出した。

「何か聞きたいことでもあるかな?」

サノスケは美希から繰るであろう質問に身構えた。

過疎り過ぎじゃね?なんか見てるの俺だけっぽいな…

「えっと…サノスケ?は“何”なの?」

「それについては私も分からないな。人間という種類の生き物ではないのは確かだが。」

「自分も良く分からないぞ…何週間か前に腕についてきて…」

「ふーん…じゃあ何か目的があるの?」

「今のところは特にないな。しかし…いや、言わなくて良いか。」

サノスケは少し考える素振りを見せて口を継ぐんだ。

「…何か怪しいの…本当は何がしたいの?」

美希は怪訝な表情を顔に浮かべた。

「…本当の話、私達という種の目的は良く分からない。
だが本来なら響の首から上が私になっていた筈だから考えも今と違っているだろうし、目的も分かっていたかもしれないな。」

首から上が私になっていた筈。
美希はこの言葉に戦慄した。

美希には響とこの左手が案外仲が良さげに見えていたが、その関係は突然恐ろしい物に見えた。

「本来なら…?」

「ああ…」

そう言うとサノスケはパラサイトについて自分の知っている事を話し始めた。
勿論、危険な内容は伏せて…

なんか大分オリジナル要素あるな期待

乙でした


サノスケはミギーよりだいぶ大らかだな
お姫ちんが目を利かせてるってこともあるのだろうか

パラサイトも時間がたつと性格が出てくるからな
ミギーや田村は好奇心が強い
サノスケは響といっしょにいる影響かパラサイトの中では割と能天気っぽい雰囲気だな

「…とまあ以上が私の知りうる範囲の出来事その他諸々だ。」

「ふーん、じゃあサノスケは他の仲間とは違って人を襲う事はないの?」

「ああ、別にそんな気は起きないな。」

美希は暫く黙り込み考え込んだ。

(ど、どうなるのさ…)

暫しの沈黙の後、美希が顔を上げた。

「…信用するの。別に響が特段変わった、てわけじゃなさそうだし。」

「美希…!」

響は歓喜の表情を顔に浮かべた。

「ミキの気になっていた事も解決したし、これでもういいの。」

「じゃあ自分、皆の所に戻るぞ!」

「あ、ちょっと待つの。」

そう言うと美希は響の左手を掴んで自分の口元に近付け何かをぼそぼそと呟いた。

「な、なにさー?」

「ううん、何でもないの。」

美希はそう言うとドアを開けて部屋を後にした。

美希の姿が見えなくなり足音が遠ざかってから響はさっき美希が何をしたのか気になってサノスケに問いかけた。

「…なにがあったさー、サノスケ?」

サノスケは少しの間沈黙して、口を開いた。

「いや、特に何もなかったな…」

「うがー、サノスケまで!自分凄い気になるぞー!!」

騒がしい響を無視しつつサノスケは先程美希に言われたことを思い出していた。

「ここには他の仲間が居るの?」

(…惚けた顔をしているわりに中々鋭い奴だな…)

おおおおなんか面白くなってきた。支援。

あの女には要注意だな…

何故そんな考えに至ったのかは自分でも分からないが、サノスケは本能的にそう考えた。


―レッスンが終わって―

響は帰路についていた。
何時もの用に携帯を用意しながらサノスケと気儘に会話をする。

「いや~今日はホントにビックリしたさー。」

「ああ、全くだ…まあ今日の事はかなり勉強になったがな。」

「勉強?」

「ああ、人は見た目で判断できないということだ。」

サノスケはさも感慨深そうに呟いた。

「完全に私のミスだ。気付く奴は気付くのだな。これからはもっと気をつけていかないと…
?
響。」

そこまで言いかけたその時、サノスケの様子が先程のおおらかな様子とはうってかわった。

「なに、サノスケ?」

サノスケは訝しげな態度をとりながら応えた。

「人混みの中だからよく分かりにくいが恐らく“仲間”がいる。」

戦慄。
その言葉が頭の中を駆け巡る。
響はこの前会った“仲間”の事を思い出し、身震いした。

「ど、どうすればいいんだ!?」

「落ち着け。
人混みの中だ。特定しづらいし、相手もここで暴れることのリスクが分かっている筈だ。
つまり、反応が大きくなっても焦ったりして進路を変えたりしなければ大丈夫だ。」

慌てる響をサノスケは冷静に諭した。
響は首をこくこくと、上下に振った。

「…あの信号機の先だな。気を付けろよ。」

あの信号の先に“仲間”がいる。
そう考えると響は恐怖でいっぱいになった。

またキリのいいところで…

信号が青に変わり、人混みが波のように動き出した。

(来てるぞ…後20m。)
サノスケが蚊の鳴くような小さな声で囁く。
雑踏の中にはまだ変な行動をしている者は見えない。

(あと10m…)
サノスケは相変わらず小さな声で対象の距離を告げる。

(9…8…7…6…)

その時人混みの中に異変が生じた。
さっきまで歩いていた人混みの中、突然一人が立ち止まったのだ。


(多分、彼奴だ。響、あくまで普通の人として振る舞え。
動揺を見せるな。)

立ち止まった人物を響はちらり、と眺めた。

身長は170cm位だろうか。髪は長めで目鼻立ちははっきりした整った顔立ちをしている。
着用している学生服から恐らくこの近くの学校の男子生徒だと判別できる。
耳にはイヤホンをつけていて今風の若者そのものだ。

少年は何かに気付いたらしく辺りをきょろきょろし始めた。
回りを通り過ぎる群衆が迷惑そうな目で彼の事を眺めているが少年は気付いていないようだ。

(あと3m…)

突然、少年が自分の方に首をぐるり、と回して来た。

(!!)

響は思わず声を上げそうになったがどうにかこらえた。

響は動揺を隠しながら人混みに紛れてそのまま信号を渡り切った。

響は後ろを振り向くことが出来なかった。

後ろを振り返れば目が合いそうで怖くなったからだ。

(響、もう大丈夫だ。奴は信号を渡ったぞ。けど油断するなよ。)

どっと疲れが襲い掛かり、響は玉のような汗を額に浮かべた。
時間にして二分も経ってなかったが響には二時間にも経ったように感じられた。

一安心した響は大きな溜め息をついた。

また携帯が壊れてしまいました。
暫くPCからになります。
元から遅いペースなのにさらに遅くなってしまうことを心からお詫びします。

申し訳ありません。

家に着き、シャワーを浴びた後響はベッドに倒れこんだ。
そして左手を光に翳すかのように掲げて響は寝ぼけ眼をこすりつつ、呟いた。

「自分もサノスケもまだまだお互いのことを分かり合えてないと思うんだ…。だからサノスケ、明日は一日お休みだからゆっくり話し合いたいぞ…。いいかな?」

サノスケは左手の形を保ったまま動かない。
恐らく寝ているんだろう。
響はそう判断し自分も眠りに着いた。


「う…ん?」

響は目をしょぼしょぼさせながら、起床した。

「うう…ね、眠い…」

ほとんど無意識下の状況で独りごちながら枕元にある目覚ましを手繰り寄せる。
時計の針は5時を指していた。
何故こんな早くに目が覚めたんだ、とぼやけた頭でさりげなく自分の左腕のほうを響は眺めた。

肘から先が無くなっていた。

…うん?

もう一度左手の方を見る。

確かに無い。

響の眠気は何処かに吹っ飛んだ。

「え、ええっ!!う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

目にした現実を受け入れられず、響は大声で叫んだ。

天も割れよ、地も裂けよ、とばかりの余りの大声に、

「なんだ、騒々しい。」

サノスケがさも煩そうに本棚の方からのこのこと歩いて来た。

「早朝から騒ぐなよ…近所に迷惑になるだろう。」

随分と迷惑そうな真似してサノスケが言う。
誰のせいでこうなって、と叫びたい気持ちをぐっと堪えて青筋を浮かべながら響はサノスケに何故こんな事をしたのか問いかけた。

「なに、ちょっとした実験だ。」

けんもほろろに言い返すサノスケに響はいつかこの借りは返す、と硬く心の中で誓った。

そら無くなってたら絶叫するわ

「まあ何の実験かは置いておいて…昨日響は何を言っていたんだ?」

相変わらずの飄々とした態度をとりながらサノスケは話を逸らした。

「あ、うん。自分は明日ゆっくりとサノスケと話したい、って言っていたんだ。」

案の定サノスケの思惑通りに響は話の逸れに乗っかった。

簡単なものだな。

サノスケはそう思いながら話を続けた。

「へえ…そうだったのか。で、何を話したいんだい?」

「お互いについてだぞ。
自分はまだサノスケについてもよく分かってないし、サノスケも自分のことを理解しているわけじゃない…。
だからこそ今日一日使ってゆっくり話し合いたいんだ。」

響にしては案外考えがまとまっているな。
馬鹿っぽいが実は頭がいいのかもしれない。
…成る程。確かにまだ私も響のことを分かっていないな…。

サノスケは響に言われたことを考え直してその言われた事は間違っていないことを確認した。

模試などがありましてここ最近更新できませんでした。
明日から再開します。

がんばれー


「だが[お互い]について話し合うと言ったがどうするつもりなんだ?」

サノスケは素朴な疑問を口にした。
もしかしたらただの思い付きではないか、という考えが頭を掠めたからである。
ところが響からは予想に反した返答が返ってきた。

「自分の家族とか、この人間社会のこととか、いっぱいあるぞ。自分はサノスケが分かっている[仲間]についても聞きたいし。」

ほう…案外考えているじゃないか。
随分と見くびっていたが過小評価だったみたいだな。

まだ「案外」って所だが。

サノスケは内心、多少小馬鹿にしていた響の意外な一面に舌を巻いた。

「分かった。まあ私が知っていることや分かっていることといっても、まだ多くはないがな。」

「それでもいいさー。すぐにお互いが分かり合えるとは思っていないし、それがとても難しいことも自分は知ってるから!」



今度は文化祭かよ…
この時期は忙しくてなかなか更新ができません…

何卒お目をかけてお許しください。

乙でした

「じゃあ自分から話すぞ!取り敢えず自分の将来の夢について話すぞ!」

聞きなれない単語に興味を持ったサノスケはすかさず質問を繰り出した。

「将来の夢とはどういうものだ?」

いきなり調子を狂わされてしまった響はずっこけた。

「うーんと、はっきりとした意味は決まってないけどたぶん自分が未来になりたいものだと思うぞ。」

曖昧な答えにサノスケはもやもやした気持ちを抱いた。
しかしこのまま話が進まないのも本位ではないためサノスケは分かった振りをして話を進めた。

「まあなんとなく分かった。じゃあその[夢]とやらはどんな内容なんだい?」

「自分は獣医になりたいさー。」

迷いのないきっぱりとした答えが返ってきたことをサノスケは不思議に思った。

「アイドルとやらは違うのか?」

響は現にアイドルの筈。それは違ったのか?

「自分はトップアイドルになるまでは続けるって約束なんだ。」

「約束?」

「地元のみんなとの約束さー…」

暫くの間自分の故郷のことやなぜアイドルになったかを響はサノスケに話した。
サノスケに自分の思いが伝わったかどうかは響には分かりえないが、少なくとも考えは伝わっていた。

「…というわけなのさー。」

「へえ…。だから響からは父親の話がそれほどなかったのか。」

サノスケは響の家族の話を聞いて感慨深そうに言葉を紡いだ。

「他にサノスケは何か聞きたいことはあるのか?」

サノスケは少し考えてから言った。

「いや、特に今はないな。」

「分かったぞ!じゃあ今度は自分から何か聞いていい?」

「分かる範囲でな。」

響は少し考え込む素振りを見せた後何かを思いついたかのような顔をして聞いてきた。

「サノスケ達は何をしにきたの?」

「何?」

予想のしていない範囲からの質問にサノスケは一瞬戸惑ったが、すぐに落ち着きを取り戻し響の問いに応えた。

「そんな物は特に考えたこともなかったが…恐らくは……」

ここまで言いサノスケは言葉を切り響の様子を確かめた。もし響が嫌そうな顔をしていたらこの続きは言わないつもりだったからだ。
しかしサノスケの予想に反して響の表情にはどこか固い覚悟があるように見えた。
サノスケは言うべきか、言わぬべきか困惑した。

「どうしたの、サノスケ?続きは?」

無神経なように聞こえるこの声だが実はおおよその予想がついていて敢えて聞いているのではないのか?という考えがサノスケの頭の中に浮かんだ。

「聞きたいか?…まさかとは思うが私の言おうとしていることがなんとなく分かっているのか?」

「いや、全然?というか焦らさないで欲しいぞ!」

取り越し苦労か…サノスケは安心したのと同時に少しだけ落胆もした。
もしかしたらこの我那覇響という人間は実は頭がいいのではないか、と多少の期待を持ったからだ。

「仕方がない、そこまで言うならな…。恐らくだが我々が来た理由は[この種を食い殺す事]。…かな?」

「つまりどういう事?」

怪訝な顔を向ける響にサノスケは粛々と説明した。

「これは憶測の域を出ないが……分かりやすく言うと、人間を食べる為に生まれてきたのではないか?ということだ。」

「へ」

響の唖然とした顔が映った。
時間が凍てつき、空間は沈黙に支配され、先程までの明るい雰囲気は風に吹き飛ばされたかのように消え去った。
サノスケは話を続けた。

「この推測に至った理由はこの前の[仲間]との遭遇だ。」

「あの[猫]についていた血は量からして人間のものではない。せいぜい同サイズって所の量だった。そして[猫]は[失敗した]と言っていた。ここからある仮説が浮かび上がったのさ。…まだ聞くか?」

サノスケは響に問い掛けた。
響は困ったような表情と恐怖が入り混じった表情をしながら暫し考え込んだ。



「聞く…じ、自分は聞くぞ!」

勇気を振り絞るかのように、響は声を大きくしつつもそれに答えた。

一方、自分の予想が外れたことにサノスケは驚愕した。
恐らくこの後の話は何と無く理解は出来ている筈。それが分かっているだろうから敢えて[聞かない]という選択肢を作り出した。
そしてこの様な血生臭い話は普通の人なら好んで聞かない、と言う事もサノスケはメディア等を介して学習していた。
聞きたがる人間といえば研究職についている人間等の、この人間社会では[変人]といわれる類の人だと考えていたのだ。
だからこそ 何故 ここで響が この後の話を[聞く]という選択肢を敢えて選んだのかサノスケはまだ理解できなかった。

(私もまだまだ人間について分からないことが多いな…。今日の話し合いは案外収穫があったな。)

サノスケは自分の見解はまだまだ狭く、もっと多くの物を見て、もっと多くの知識を吸収する必要があるな、と何かに命じられることなく考えた。

「…サノスケ?」

黙ったままのサノスケを不思議に思い響が声をかけてきた。

「ん、ああ。そうだったな。じゃあ続きを話すか。」

「私が最初に響に侵入して最初に目指そうとしていたのは間違いなく響の[頭部]だった。」

「そして[私]という人間で言う人格に当たるものが形成される中、最初に感じたのはなにか大きなミスをした、という口惜しさだった。」

「何故口惜しいのかは最初は分からなかった。だが、あの猫型との遭遇の後、人型に遭遇した事で私はある考えに行き着いた。」

そこまで言ってサノスケは口を噤んだ。
何かを考えているような様子を見せた後、サノスケは突然話題の転換をしてきた。

「そこでだ、響。少し話が変わるが何故トンボは教わりもしないのに空を飛び回ることができるのか、何故蝉はあれほど大きな声で鳴くのか、考えたことはあるか?」

響はサノスケが突然話題を変えたことに疑問を得て、それから少しサノスケの言われたことについて考えて少し自信なさげに結論を出した。

「自分、虫はあんまり得意じゃないけど…多分本能ってやつじゃないのかと思うぞ。」

サノスケは何かに納得したかのようなそぶりを見せた後、話を続けた。

「そう、それなのだ。本能なんだよ。生き物は全て本能に従って生きている!」

「そう、それは我々も同じなのだ!!我々にある本能の命令―それは[ある人間の頭を奪い、別の人間を喰らう事]だ!」

今までに見せたことのない[興奮]というものを見せながらサノスケは熱く語った。
それはサノスケにとっても初めての事であり、響からは奇妙な物かつどこかで見たことの有るような者にも見えた。

「ん、ああ。そうだったな。じゃあ続きを話すか。」

「私が最初に響に侵入して最初に目指そうとしていたのは間違いなく響の[頭部]だった。」

「そして[私]という人間で言う人格に当たるものが形成される中、最初に感じたのはなにか大きなミスをした、という口惜しさだった。」

「何故口惜しいのかは最初は分からなかった。だが、あの猫型との遭遇の後、人型に遭遇した事で私はある考えに行き着いた。」

そこまで言ってサノスケは口を噤んだ。
何かを考えているような様子を見せた後、サノスケは突然話題の転換をしてきた。

「そこでだ、響。少し話が変わるが何故トンボは教わりもしないのに空を飛び回ることができるのか、何故蝉はあれほど大きな声で鳴くのか、考えたことはあるか?」

響はサノスケが突然話題を変えたことに疑問を得て、それから少しサノスケの言われたことについて考えて少し自信なさげに結論を出した。

「自分、虫はあんまり得意じゃないけど…多分本能ってやつじゃないのかと思うぞ。」

サノスケは何かに納得したかのようなそぶりを見せた後、話を続けた。

「そう、それなのだ。本能なんだよ。生き物は全て本能に従って生きている!」

「そう、それは我々も同じなのだ!!我々にある本能の命令―それは[ある人間の頭を奪い、別の人間を喰らう事]だ!」

今までに見せたことのない[興奮]というものを見せながらサノスケは熱く語った。
それはサノスケにとっても初めての事であり、そして響には[奇妙な物]かつ[どこかで見たことの有るような者]にも見えた。

うおおお、またまた連投やらせていただきましたぁン!!

申し訳ない!!

乙でした

なんであんなにエイリアン4糞糞言われてんのん?

ミスった、スレ違い

「と、言うのが結論だ。すまない、驚かせたかな?」

時間的には一瞬だがサノスケは興奮に似た激情をもっと長いように感じていた。
響は何かを言いたそうに口を開きかけたが、何かを考え直してか、口を噤んだ。

暫く沈黙が続き、響が沈黙を破った。

声が小さくなりつつも響は言葉を紡ぐ。

「サノスケの…サノスケの本能は何て言ってる?」

少女が自分の左手に神妙な顔つきで言葉を迫る、という奇妙な構図の中、左手は少し時間を置き、そして静かに応えた。

「私の中の本能は…良く分からない。だが…」

そこまで言いサノスケは言葉を切った。
そして何かを考えるかのような態度を取った後、言葉を続けた。

「この宿主と…共に生きるという事…ではないか?」


数秒間の間、響とサノスケは見詰め合った。
お互いが何も喋らなかった。
無表情を無理やり表したようなサノスケの眼球に映った自分の姿が映るのを見た響は、
見た目こそ遥かにかけ離れているがこの左手になっている生き物が人間の様に少しだけ思えた。

今度はサノスケが沈黙を破った。

「と、まあここまでが私からの話だ。もういいかな?」

考え事をしていた響は虚を突かれたかのような反応を返した。

「えっ?!あ、ああもういいぞ!じゃなくて!!」

「なんだ、まだあるのか?」

怪訝そうな態度を取りながらサノスケ響に聞き返した。

「あ、うん!話変わっちゃうし、これは自分が気づいたことなんだけど…」

なんだ?私の推測以外に響は響で気づいていることがあるのか?
と、サノスケは考えたが飛んできたのはサノスケの考えとは全く方向性が違う言葉だった。

「サノスケって他の動物に嫌われてない?自分なんか心配で…」

シリアスな話をした後の能天気な話を出してくる辺りやはり響は響なのだな、とサノスケは考えた………


ほぼ同時刻、サノスケと響がお互いの[対話]をしていたその時、
四条貴音はとある人物から電話を受けていた―

「…はい、前にてれびで報道していたのを目にしました。かのような事がおきるとは…。はい、はい。心得ております。
ここらの事はお任せくださいませ…では、体に気をつけてください、平間殿。」

電話を切り、机の上に電話を転がす。
窓から外の様子を眺めて貴音は溜息をついた。

「随分と面妖なことが…」

昼間の明るさとは対照的に貴音の心情は懸かるであろう暗雲のことを考えて、暗くなっていた。

あ、間違えた…orzすいませんm(__)m

サノスケと対話をしてから数日がたった―
響の[家族]にもだんだんと慣れられてきて、響はサノスケの隠遁生活が上手くいっていることに喜んでいた。
一方サノスケは響との生活が悪くない、と評しながらもこのままでいいのだろうか、という疑念を振り払えずにいた。
自らの本能がどう生きるべきかを告げてくれない今、サノスケは唯、自分が感じるままに生きることが出来なくなってきていた。
そして少しずつだったが響の周りの世界に暗雲が立ち込めてきていた。
そんなある日―
だんだんと生っすか以外のテレビ番組への出演や仕事も増えてきて、アイドル業として軌道に乗ったと手ごたえを感じかけていたときだった。
気分が高揚して注意散漫していた為か、響は自主的に避けていた前に[何か]とすれ違った信号がある道を進んでいた。
気付いたときには既に目の前に信号があった。

「…あ!!」

見覚えのある信号を目にし、響がつい声を上げる。
周りの群集が何事か、と目を傾ける。

地震やべえwwwwww

自分でなるべく来ないようにしよう、と決めていたにも関わらずこの場所に来てしまったことを響は激しく後悔した。

「響。ここは…」
サノスケも状況を理解したのか黙りこんだ。
まずい…もしかしたら[あの人物]がいるかもしれない!!
鼓動が早くなり心臓が早鐘を打つ。
いつの間にか響は冷や汗を流していた。
前はあの信号の向かい側にいた筈。今なら引き返せば…
そう考えてくるり、と踵を返して別の道に行こうとした瞬間、

「ちょっといいかな?」

馴れ馴れしく後ろから肩を叩かれた。

「ごめんなさい、自分ちょっといそ…が…しい」

絶句する響の目の前には以前にすれ違った少年がいた。

「言いたい事は分かっているよな?取り敢えず立ち話もなんだからそこのマックにでも入ろうか。驕るよ。」

響はどうにか逃げられないか、周りを見渡したが周りの群集が邪魔で退路が見出せなかった。
覚悟した響はその提案をしぶしぶ呑むことにした。

「わ、分かったぞ。だからここでは…」

「別にとって食おうなんて話じゃないさ。まあついて来てくれ給え。…おーい!!ギャル!来い!お目当ては見つかったぞ!」

少年は人ごみの中から「ギャル」と呼ばれる何かを呼びつけた。

「…うるさいなぁ。」

「目立っちゃうじゃん。あとギャルっていうのやめてよ。」

そう言いながら人ごみの中から一人の女子高生が出てきた。
背は高めで髪は茶色見がすこしかかった黒のロング。着ている服は学校の制服だろうか。すらっと伸びた足が目を奪う。

「ふーん、あんたが…」

そう言うとギャルっぽいのはじろじろとこちらの方を見てきた。
そして興味がなくなったのか視線をそらし、ポケットからチャッパチャップスを取り出し口に入れた。

「まあアイツの言う通り立ち話もなんだし場所を移そう。席取っとくよー。」

そう言うとギャルっぽいのは踵を返しマクドナルドの方向にすたすたと歩いて行ってしまった。

「え…な、何なんだ…?」

「いやーごめんね?アイツなんか気難しい奴でさ…」

そう表情を笑顔にしながら少年が後ろに回った。
だがその目は笑っていなかった。

マックに到着し、店内に入ると奥の方の席で少女が手招きをした。

「席取っといたんだからアンタ買ってきてね。」

「げ、マジかよ。」

「いいから行く。」

少年がレジの方に姿を消すなり少女は堰を切ったかのようにしゃべり始めた。

「で、あんたは何?尾先が言うから探しに出たんだけど…その不完全な左手は何なの?」

響が質問をさばききれずに戸惑っていると、サノスケがもういいだろう、とばかりに姿を現した。

「相手に対して詮索をする前にまずは自分から名乗るくらいするべきじゃないか?」

虚を突かれたかのような驚いたかのような表情を少女はした。
どうやら随分としっかりとした自我が左手如きに芽生えていることに面喰らったようだ。

「…まあ名前くらいなら。アイツみたいにギャルってよばれんのも嫌だしね。アタシの名前は凛。渋谷凛って言うんだ。あんたは?」

「じ、自分は」

「おまたせー❤」

声を遮って少年が席に来た。

「…ッチ。」

渋谷凛は聞こえるように大きく舌打ちをした。

「勝手に話進めんなよ。ギャル。」

挑発をしつつも、警告に似たようなものを挟めながら少年もぎらぎらとした瞳で凛の事を見下ろした。

「ま、まあ席に座って…」

「お、君気が利くねー。」

少年は相変わらずの作り笑いを顔に浮かべながら席に座った。
険悪な雰囲気がここのテーブルにだけ生じていた。
テーブルの上に鉈があったらどちらか先に奪ったほうが相手を殺すのでは、というくらい緊縛していた。

「まあまずは自己紹介からしておこうか。俺は尾先っていうんだ。よろしく。」

「おざき…?盗んだバイクの?」

「漢字違うから!で、隣のコイツが…ってもう聞いてるか。」

飄々とした態度を取りつつ、尾先と名乗る少年の視線は響ではなく響の左手に注がれていた。

「…で、君の名前は?」

響は言葉を詰まらせた。
ここで名前を言うべきかどうか答え倦ねていた。
もしここで名前を明かせば今後どうなるかの保証はない。
しかし名前を言わなかった場合この二人がどんな行動をとるのか、そしてその時自分の命が残っているのかの保証もない。
考えた挙句、響は偽名を使う、ということを思いついた。

「じ、自分は―」

「ああ、君じゃない。左手君に聞いているんだ。ごめんね。」

出鼻をくじかれた響は黙り込んだ。
一方サノスケはこの二人の違いを目にして何か違和感を得ているようだった。
サノスケは会話が中断してはいけないな、と考えながら名を名乗った。

「佐之助という名前だ…。」

「…へえ、左の手からサノスケか。まあ普通だな。」

傲岸不遜な奴だな…サノスケは素直な感想を抱いた。
ふと、響のほうを見ると響は響で何か考え事をしているようだった。
今度こそは、と言わんばかりの勢いで響が考え付いた偽名を名乗ろうとした。

「じ、自分は」

だが。

「いや、我那覇響っしょ?TVで見たことあるし。」

またもや出鼻をくじかれた響は今度こそ喋るのをやめた…

尾先?しっぽとか?

ネタバレかよ消えろ

黙り込んだ響を余所に、サノスケは喋り出した。

「まずは一ついいかな?」

「ん、何でもどうぞ。」

余裕の笑みを顔に浮かべながら尾先は対応した。

「君は[何]だ?」

一瞬、尾先の表情が強張ったように見えた。
ぎょっとした響は思わず椅子から立ち上がりそうになった。
が、次の瞬間には先ほどと変わらぬ余裕の笑みが彼の顔に浮かんでいた。

見間違いだったのかな、と響は考え直した。

「…いきなりどういう意味合いの質問かな?」

「そのままだよ。渋谷凛と違って、君は頭を我々に盗られていないのだろう?では何なのか?という問いさ。」

そ う か !!
響はさっきからあった違和感の正体を暴いた様な気分になった。

さっきからあった違和感。

それは[パラサイト]がついている筈なのに表情がころころ変わったり笑顔を浮かべている事だったのだ。

「ふッ、ふふふふッ!」

突然尾先が含み笑いをしだした。

ぎょっとした響は今度こそ椅子から立ち上がった。

「正解だ。俺は君たちと同類さ。ギャルみたいな完成体とは違う!そう、敢えて言うなら―」

そこで一端尾先は言葉を切りこちらを見つめた後、こう言った。

「人間にも成り切れない…いわば半端者と言った所かな?」

「「[半端者]?」」

聞きなれない単語に響とサノスケは同時に同じ言葉を発した。

「そうだ、半端者だ。完全な寄生体でもなく、かといって人間でもない半端な存在。正に半端者という言葉がピッタリじゃないか?!」

そう自嘲気味に尾先は言い放った。

「…だが私達は君とは違う。」

サノスケがぼそっと聞こえるか聞こえないか位の小さな声で呟いた。
むっとした表情を浮かべて尾先がサノスケに目を向けた。
渋谷は腕組みをして黙ったまま経緯を傍観していた。

「違う?どこがだ?唯、寄生されている位置が違うだけで人間としての知能はしっかり残っているだろ?同じじゃないか!」

尾先は何故かムキになって言い返した。
その目つきからは、何処か人から離れているかのような印象を響は感じ取った。
そしてふてぶてしい態度でサノスケも言い返した。

「大体、君の言う寄生体とやらはさっきから一度も姿を見せていないじゃないか。本当にいるかどうか怪しいものだ。」

あれっ?サノスケは前に尾先と遭遇したときに、何か仲間の存在を感じていて…あっ!
響は何と無くサノスケの嘘の理由を理解した。

「俺に付いている奴は寝ぼすけでね…しかたない。人目につくのは嫌だが…おい、起きろ。」

そう尾先が言い少しだけ時の空白ができた後、するするとまるで蛇の様に彼の服の中から[仲間]が出てきた

「んな…」

「…成る程、腰の位置か。」

呆気にとられる響とは対照的にサノスケは冷静な分析をした。

「テールと名付けた。まあ、名前なんて唯の記号にしか過ぎないんだがな。」

「そうだ。名前なんて物は記号にしか過ぎない。」

挑発的な笑みを浮かべた尾先とは対照的に、機械じみた冷徹な感じの声で、テールと名乗るパラサイトは喋った。
身体を共にしている割にはこの二人?の中は随分と冷え切っているように響は感じた。

「まあ長い自己紹介はここまでにしておこうか。本題に入ろう…あ、てめ俺のビッグマック全部食ったな。」

いつの間にか尾先の前にあったビッグマックは包み紙だけ残して消え去っていた。

「お腹すいたんだもん」

つん、とした感じで渋谷凛は顔をそむけた。

「ふん、人間の真似をするなんて随分と痴がましい真似をする奴だ。」

尾先は苦々しげに毒づいた。

「じゃ、本題に入ろう。我那覇響、君はこのギャルみたいに完成された寄生体を見たことあるかい?」

「…あるぞ。」

一体なんでこんな事を聞くんだろう、と響は不思議に思った。

「へえ、会ったことがあるのか。じゃあ殺した?」

「ッ!……」

尾先の目が厭らしく光り、顔がおぞましく歪む。
思わず響は目をそむけた。

「そうだろうな、まあ会ってたとしたらそうしなきゃここにいないもんな。」

分かってて敢えて聞いたのか…!
響は怒りが込み上げて来るのを確かに感じた。
だが響の様子など何所吹く風で尾先は話を続行した。

「俺も何体かと会ってね。コイツ以外の奴は困惑しつつも襲ってきたよ。」

「まあ全員殺してやったがね。」

ぞっとするような冷たい声で尾先はその体験談を語った。
響はあまりの話の陰湿さに途中から耳をふさいだ。

渋谷は興味がない、と言いたげにフーセンガムを膨らませていた。


しぶりんwwww変わらねえwwww

尾先って言うから、てっきりこの都市伝説↓と同じ場所に寄生してるのかと思ったぞ
https://www.youtube.com/watch?v=PTNq4aIXsqI

なにこれ?

「そしてコイツに会った…と言うわけさ。」

そう言うと尾先は渋谷の事を指差した。
サノスケは何かを考えるかのように黙り、響は渋谷の方を見た。

「…ちょっと、じろじろ見ないでよ…」

嫌悪感に似たようなものを顔に滲ませる渋谷に響は先ほど尾先に感じた違和感と同じようなものを得た。

「コイツは他の個体と一線を画していてね、随分と理性的な性格をしている。サノスケ君みたいにね。」

「そしてコイツが話せば分かるタイプだったおかげで、ある考えが生まれた。それは組織と言うほどの物ではないが、ある程度の集団を作り、寄生体の生き方を模索していくやり方だ。」

「ほう…」

サノスケが感慨深げに溜息をついた。

「そこで俺たちは今、仲間を求めている。理性的で、話しが出来て、個性がある寄生体をな。」

「そしてその集団に入れ…て事を言いに来たのか?」

響が口を開いた。

「察しがいいな。その通りだ。という訳で俺達と組まないか?」

響はサノスケを見つめた。
若しかしたらサノスケはこの得体の知れない人物についていくかもしれない、と思ったからだ。
だが響の心配は杞憂に終わる事となった。

「確かに面白い申し出だな…組むことでメリットも生まれるやも知れない。だが断る。」

「なっ…」

尾先は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をした。
まるで、「こんな答えが返ってくるとは予想していなかった」という心の声が聞こえて来そうだ、と響は思った。

「確かにそれはいい提案だと思う。だが私の宿主はそれを良しとしないだろう。それに…」

ここでサノスケは言葉を切り、響のほうをちらり、と見た。
目が合った響は何が言いたいのだろう、と思い小首をかしげた。

「私は―、いや、私達は自分の生き方は自分達で決めて生きたい、と思っているんだ。だから君の提案には乗れない。」

響は何故かは分からないが嬉しくなり、表情を綻ばせた。
不満げな表情をして尾先は当てが外れた、とばかりに暫く黙り込んだ。

更新されてないようだし、html化だしとく?

書込みされてるし余計なお世話だ 消えろ

一時の沈黙が流れ、お互いの視線が交錯した。

「……」

響はこれからどうなるのだろう、と不安に駆られた。

「……」

サノスケは目の前にいる人物が、少しずつだが既に人間とは言い難い別の[何か]に変貌しているのではないか、と思った。

「……」

それと同時に尾先も響の目に人とは違う[何か]を感じた。

「……」

渋谷はガムを膨らませて興味がない振りをしながら、この状況を観察した。

誰も喋らないこの時間が永遠に続くのでは、と思われたが暫くして尾先が沈黙を破った。

「君たちの言い分は分かった。まあ俺たちも無理強いはしないさ。」

響は何も起こらなかったことに安心してほっ、と溜息をついた。

「ああ、あと二つ言うことがある。一つは警告でもう一つは忠告だ。」

さっきとは違う不安が舞い戻り、警告という言葉に響は身を固くした。

寄生獣実写化(とアニメ化)みたいだしSS増えるといいな

実写化アレルギーになりかけている私からすればこの話は恐怖にしか過ぎない…

アニメは期待
でも服どうすんだろ?

「俺たちがそうであるように、集団行動をしている奴等がいる可能性がある。そういった奴等は何をするか分からないから用心しておけ。これが忠告。」

尾先の顔つきが狂気じみた表情に歪む。

「そしてここからは警告だ。俺達の行動の邪魔になるようならその時は、」

そこで尾先は言葉を切り、服の内ポケットに手を伸ばした。
何をしているのかと、響が訝しむと同時に何かが尾先の手から放たれた。

「容赦なく殺してやるよ…」

響の持っていたハンバーガーに刺さった小さなナイフを見て響は恐怖に駆られた。

(二番煎じじみているな。)

サノスケは尾先の行動にどこか貴音と似たようなものを感じた。

「代金は払っておいた。行くぞ。」

「…」

そう言うと尾先は渋谷を引き連れて去っていった。
二人の姿が見えなくなって、最初に喋ったのはサノスケだった。

「…やられたな。ここまで響に危機感を持たせるとは…響、大丈夫か?」

響はサノスケの問いには答えぬまま、黙って携帯を取り出した。

(ああ、そういえば携帯を使って話をする予定だったな。)

ところが響のとった行動はサノスケの予想に反したものだった。

「もしもし貴音?ちょっと話したいことがあるんだけど、明日いい?」

響の切羽詰った様子に貴音は何か良くないことがおきたと感じた。

「…なにかあったのですね、響。分かりました、明日時間をとっておきます。」



「ありがとう、貴音。じゃあ切るぞ。」

電話を切り、すんなりと話が通ったことに、響は安堵の溜息をついた。

「ふー。疲れた…。」

サノスケは響の判断に感心した。

翌日―

「そうでしたか。その様な事が…」

時事の顛末を聞いた貴音は表情を曇らせた。

「うん、あと自分もそのグループに誘われたんだけど断わってきたさー。…これで良かったのかなぁ?」

小首を傾げて尋ねる響に対して。

「正しい判断です、響。」

貴音は表情を険しげに豹変させ、厳しく言い切った。

「彼等の行動理念に謎な部分が見受けられる以上、彼等のぐるぅぷについていかなかったのは正解です。
大体人間としての意識が強く残っているといふのにぱらさいと達に味方する理由が分かりません。」

「ほう、では貴女はどうなのかな?」

突如サノスケが貴音の話を遮って言った。

「私は頭脳は人間なので人間として生きています。」

話の腰を折られた事に少しむっ、として刺のある言い方で貴音は言い返した。

「身体に四体も入っていて人間の意識が保てるのか?本当に?」

対するサノスケも少し攻撃的な言い方をした。

サノスケと貴音の刺さるような視線が交錯し、刺々しい空気が二人の間に流れた。


「そもそもで四条貴音。
お前は私達に対して隠している事がかなりある筈だ。
従って、私にとってお前は信用し難い危険な存在になりうるのだ。」

「ちょっと、サノスケ!?」

食って掛かるサノスケの態度に響は軽い怒りを覚えた。

「だから隠している事について教えてくれないか?そうでなければ信用出来ない。」

サノスケは憤慨する響を無視して貴音に問い掛けた。
貴音は目を瞑り、頭を垂れた。
少しの間が空いた後、貴音はゆっくりと溜め息を吐き、サノスケの問いに答える姿勢を見せた。

「答えられないものもありますが、出来る限りの事には答えましょう。」

「…有り難い。それでは幾つか質問をさせていただく。
…二十年前と前に言っていたな。あれはなんの事だ?」

貴音は腕を組んで考える姿勢を見せた。
言うべきか言わぬべきか、貴音の苦悩が響にも伝わってきた。
やがて、貴音は意を決したかのように顔をあげ、二十年前の出来事について話し始めた。

それは響の想像を遥かに上回る域の噺だった…

四条さんじゅうはっさい…

寄生獣といい進撃といい
アニメはまだいいが実写は不安だ…
最近うまく行ったのってるろうに剣心位なもんだ

るろ剣はなかなかだった
ガッチャマンェ…
でもあの伝説とまで言われたデビルマンの二倍の評価なんだぜ!!やったね!!

どこから噺ましょうか…

そう言って貴音は二十年前の事象について話し始めた。

「…全ては二十年前にある生物が生まれた事により始まりました。

そう、巷にぱらさいと、と呼ばれる者逹です。

彼等は人の頭を乗っ取り人を喰いながら生きる摩訶不思議な生物でした。

ここまでは響逹も承知の上でしょう。

しかし彼等には喰らった後の残飯等の問題がありました。

そこで彼等は狡猾さを身に付け、亡骸等の証拠が見つからないように群集になりました。

そしてある所の市長を中心とした大規模な群集が出来ました。」

そこで貴音は言葉を切った。

「しかし、その群集は二十年前に大粛清を受けて全滅しました。

幸いにもその群集の中に居合わせなかったぱらさいと逹はあちこちにばらばらに散り、息を潜めました。

かいつまんで話しましたが、二十年前に日本で起きた事件は大体このような内容です。」

話し終えた貴音は、ふう、と溜め息をついた。

「奴の言っていた事はあながち間違いではなかったようだな。」

サノスケがぽつり、と洩らした。

「え、どういう事?」

響は何を言っているのか分からず聞き返した。

「尾先が言っていた事だ。」

尾先が言っていた事…?

響の脳裏に尾先の台詞が蘇ってきた。

俺たちがそうであるように、集団行動をしている奴等がいる可能性がある…

「ああっ、そう言えば確かに!」

「な。
奴の考察は間違っていない、という事になるな。

…奴が理性的で良かったな。」

もしあの場であの二人が暴れていたら…

響は恐ろしい想像をしてゾッとした。

「何か問いはありますか?」

響は暫し腕組みをして考えた。

「うーん、自分よく分からないけど結局自分達はどうすればいいのさー?

サノスケは?」


「私はまだ聞きたい事があるが、今日はこの位にしておく。

後は響と同じだな。」

貴音は二人の意見を聞くと自信満々で満足そうな表情を浮かべた。

「承知致しました。ではそれを今から考えましょう。」


響とサノスケは拍子抜けした。

「さて、どうしたものでしょうか?」

悪戯じみた笑顔を顔に浮かべながら、貴音は問いを投げ掛けた。

「うーん。」

響は頬杖をついて考え出した。

「ふん…そんなことを言っても当てが全く無いわけではないだろう、四条貴音?」

サノスケは貴音に反駁した。

「質問に質問で返すとてすとでは零点になりますよ、さのすけ。

…まあ無いわけではございませんが。」

「むっ…」

行動理念の間違いを指摘され、サノスケは一言洩らして黙り込んだ。

「分かった!自分思い付いたぞ!」

突如、響が結論が出た、と言わんばかりに声をあげた。

「もう考えが出ましたか。」

「うん、自分完璧だからな!」

些か完璧のニュアンスが違うようにとらわれているのでは、とサノスケは思った。

「サノスケの探敵能力を活かして出来る限り会わないようにすればいいさー。

簡単じゃない?」

自信満々のドヤ顔をする響にサノスケは内心溜め息をついた。

貴音の方は少し困った様な顔をしていた。

「あれ、駄目かな?」

周囲の反応が如何わしくない事に気付いた響が不安げに声を出した。

間違えました。

如何わしくない→如何わしくない

脳内補完お願いします。

すいません、また間違えました。

如何わしくない→芳しくない

に脳内補完お願いします。

「別に其れが悪い、といふ訳ではないのですよ、響。

しかしながら、敵なる者から逃げ回り続ける事など到底不可能に近いのです。

私の今までの彼等への対処法は、やむを得ませんが近付いてきた者を殺す、といった方法でした。」

響は貴音の手段と自分の知り得ない一面を聞かされ、驚愕した。

そして、響には一瞬、貴音の両手が血に染まって見えた。

響は慌てて首を横に振り、頭にかかった幻を振り払った。

「どうかしましたか?響?」

貴音が不思議そうな顔で覗き込み、響は慌てて誤魔化した。

響は前に貴音を信じる、と言いながら今のような想像をしてしまった自分に嫌気がさした…

「じゃあどうすればいいのさー。」

剥れた顔で響は貴音に言い返した。

「今までのように近付いて来た者に消えてもらう…というやり方ですね。」

ふん、とサノスケがない鼻をならした。

どうやって今の音出したんだ…
と訝しむ響を置きざりにしてサノスケは口を開いた。

「そんな適当なやり方でよく今まで生き残ってきたな。

20年前の一味は瓦解したが、今また、我々の仲間は集団行動をしているんだぞ。

もし―
万が一に過ぎないが―
討ち損じた場合はどうするつもりなんだ?」

あっという顔をして響は貴音を見た。

貴音も盲点をつかれたかのような表情をしていた。

「…そうでしたね。さのすけの言う通りです。
今、また彼等が組織化していることを懸念していませんでした。」

貴音は俯き溜め息をつき、頭を抱えた。

しかし、どうしたものか、と悩む一同の沈黙は突如、破られた。

「おーい、響、貴音!そろそろ時間だぞー!」

いつの間にかかなりの時間がたっている事に響は気付き、驚いた。

貴音は席を立ち、苦渋に満ちた顔をして言った。

「…この話は保留として、後日考え直す事にしましょう。
響、身の回りに気を付けるように。」

貴音は何事もなかったかのように颯爽と部屋を後にした。

響は慌てて後を追った。

「今日は何の仕事だっけ?プロデューサー。」

車に乗り込んだ響はプロデューサーに尋ねた。

「今日はラジオの収録だな。」

運転席に座りながらプロデューサーが答える。

「(ラジオか…)ふーん、貴音は?」

「私はぐるめ番組のらあめんのりぽおとに成ります。」

目をキラキラさせながら貴音は答えた。
随分と今日の収録を楽しみにしていたようだ。

「じゃ、行くぞー。」

そう言うと、プロデューサーは車を動かした。


―貴音をテレビ局に送ってから―


仕事場に向かう中、二人だけになった車内で響は
プロデューサーに話しかけた。

「ねえねえ、プロデューサー。ちょっといい?」

「んー、何だ?」

プロデューサーは前を見たまま答えた。

「自分さ、最近やっと仕事が入ってきたよね?」

「うんうん。」

「でさ、何か自分、皆と比べてやっぱりまだまだ仕事少ないよね。」

「……」

サノスケは響の言っている事を理解しようと、考え出した。

「何が悪いんだろ…

やっぱりこんなキャラが駄目なのかな…

プロデューサーは分かる?」

信号が赤になった。

プロデューサーは厳しい顔をしながら後ろを振り返った。

「響、それだけは言っちゃいけない。

今時の芸能界なんて可愛いだけじゃ、やっていけない。
何か個性がないと、中々覚えてもらえすらしない。

響は最初から個性があるし、それが素だからキャラとしても特徴的だ。

個性がないから、と言って無理矢理な痛々しいキャラを作ってしまったら将来的には黒歴史になりかねないんだ。

分かるだろ?」

響の脳裏にこ○ん星人と名乗る某タレントが浮かび上がった。

「…うん。」

どこか遠い目をして響は答えた。

「だから自分のキャラが悪い、みたいな事言わないでくれ…
何故だか悲しくなる。

あと、仕事がないのは響が努力してない訳じゃないのは俺が一番知っている。仕事が中々無いのは俺の努力がまだ至らないだけだ。

響は自分の思う通りに努力してればいい。

それ以降は俺に任せろ。

…もっと自分に自信を持て。」

信号が青になった。

プロデューサーはそれだけ言うと前に振り向き、
アクセルを踏んだ。

おう、奈々さんじゅうなな歳の悪口やめろや

まさかゆうこり…いや何でもない

個性がないとか言って春香さんの事馬鹿にすんのやめろよ!!!

マダー?

「…ごめんなさい、プロデューサー…」

「別に謝らなくていい。それより後少しで着くから準備しておけよ。」

「うん…」

響は無意識に左手を眺めた。
この出来たばかりの友人に相談したくなったがそれはこの空間の中では憚られた。


「ほら、着いたぞ。」

プロデューサーがブレーキを踏み車が止まる。

「ほら、頑張ってこいよ。ああ、あと…」

不自然にプロデューサーは言葉を濁した。

「?」

「俺は響の個性的な所は好きだし、響自身のキャラは特徴的で魅力的だと思う。
だから、そんなに気を病む必要はないさ。
焦らずに、自信を持って頑張っていけばいい。」

車の窓から体を少し出しながらプロデューサーは言った。

心臓が早鐘を打ち、頭の中を「好き」と言う単語が
駆け回り、頭の中をぐちゃぐちゃにしていく。

(ん…?何だ、この感情は…?)

同じくサノスケも響の発する“経験のない感情”に戸惑い、混乱した。

「え…あ、う…」

思いもよらない言葉に響は返答が出来なくなった。

そんな響を見たプロデューサーは、笑いながら言葉を繋いだ。

「おいおい、響らしくないな。いつもみたいに“あれ”言ってくれよ。」

“あれ”…?ああそうか!

響は何を言うべきか思い出した。

「大丈夫さー!だって自分…完璧だから!」

プロデューサーは満足そうに笑うと手を振り車の窓を閉めて車を走らせた。


車を見送った後、響は拳を握りしめ、収録に向かった。


収録が終わり―

響は何時もより少し、浮わついた感じで帰路に着いていた。

サノスケはそんな響の事を不思議に思わずにはいられなかった。

「随分と御機嫌な様子だな、響。」

響は、によによした笑顔を顔に浮かべながら答えた。

「え~そんなことないぞ!」

何でばれることが分かるような嘘をつくんだ?
サノスケは響の態度に困惑した。

「あのプロデューサーの事か?」

響の体がびくん、と少し反応を示した。

「ど、どうしてそれを…」

「私は体を同じくしてるんだ。響の感情の変化なんて読み取るなんて、わけはない。
で、響はあの男にはどんな思いを抱いているんだ?」

気のせいか、響の顔が少し赤くなるように見えた。

なんだ…?
響の“異状”をサノスケは訝しげずにはいられなかった。

「…自分でもよく分からないさー。」

響は下を向き、俯きながら、ぼそり、と答えた。

…宿主にも分からない感情の変化が寄生生物の私には分かる筈ないな…

サノスケはそう結論付けた。

シンイチの逆ポジションだな。

ヒロインがP…?

響達が帰路に着いた時と、同時刻。
響達の家とは遠く離れたある場所でそれは起きていた。



「くそっ…」

肩で息をしながらその子供は子供らしくなく毒づいた。

「あいつらめ…一体何が目的で…」

ぶつぶつと何かに対しての怨みを募らせるような独り言を呟く子供は気味悪く見えた。
その小さな体にはあちこちに痛ましい傷痕があり、ただ事ではない事は誰の目に見ても明らかだった。
しかし、奇妙な事に、その痛々しい見た目に反して子供の顔は苦痛に歪んでいなかった。
おまけに薄汚れたシャツにべったりと付着した大量の赤い染みがその子供の不気味さを加速させる。

「ふっ…はっ…」

だが、肉体を損傷させている事は確実であり、その歩みは徐々に遅くなっていた。

「何処かに…何処かに隠れないと…」

譫言のように呟きながら、何かから逃げるように子供は近くの階段を登った。


何階に来たのだろうか。
子供は確実に衰弱しており、何階まで登ったのかも覚えてなかった。

足が動かない。

喉も乾く。

そろそろ限界か…

その時、辺りを見回すと、何か紙らしき光沢物が見えた。

触腕を伸ばし、それを掴み取る。

随分と、古い写真の様だ。
写真の持ち主の大切な人だろうか。
年端も行かない幼い子供がにこにこと、笑っている。

(写真か…何故こんな物が…?)

まあ、誰かがうっかり落としたのだろう。
子供はそう結論付けた。

(この顔は人に見られ過ぎたな…写真も古い事だし、此れを元に顔を変えておくか。)

突然、子供の顔が不気味にぐにゃり、と歪んだ。

そして、粘土細工を練るかの様に、顔が変化していった。
暫くすると、その写真に映っている人物の様な顔が現れた。

「これで、何とかなるな。」

写真の顔はぱしぱしと、瞬きをした。

次の瞬間、彼を猛烈な眠気が襲った。

「まず…い…眠…い」

パラサイトはマンション内の壁に寄りかかり、そのままずりずりと、崩れ落ちた。

sswikiってあるけどどーすんの?

「あれ?」

場所は変わり事務所。
千早は鞄の中を探り有るものが欠けている事に気付いた。

「どうしたの、千早ちゃん。」

千早にしては珍しく少しパニクった様子を不思議に思った春香は何が起きたのか聞いた。

「写真がないの。」

「写真?」

なんの写真だろう、と春香は少し考え込み、やがてその写真が何が写っているかのおおよその見当を付けた。

「もしかして…千早ちゃんの弟の?」

千早は深刻な面持ちで頷いた。

「そう、優の写真が…」

(あ、泣きそう)
春香は千早の様子を案じて、写真を一緒に探し始めた。

数時間後…

「うーん、やっぱり見つからないよ、千早ちゃん。」

困った顔で春香は千早に告げた。

千早は憂い顔ではあ、と溜め息をついた。

「ごめんなさいね、春香。私個人の事情に巻き込ませてしまって。」

春香はそんなことないよ、と取り繕った。

「大丈夫、大丈夫!
でも此だけ探して見付からない、て事はここにないんじゃないかなあ?
案外家にあったりして。」

「肌身放さず持っているからそんな筈はない筈なんだけど…
でも春香の言う通りかもしれないわね。
もう一度探してみるわ。
ありがとう。」

「いえいえ、どういたしまして!」

春香は邪気のないにこにこした笑顔で返した。

春香の屈託のない笑顔を見ていると何故だか不思議と笑みが零れた…


数時刻後…

春香と別れて千早は帰路に着いていた。

夜遅くだからか、回りに人は殆どいない。

この路地裏から変質者やお化けが出てきたとしても誰も気付かないだろうな。

閑散とした住宅街を通りながら千早はふと、そう考え身震いをした。
少し歩くと見覚えのあるマンションが見えて来て、千原はほっ、と溜め息をついた。

ところがマンションの前にはマンションに入る事を躊躇わせそうな不気味な人物達がうろうろしていた。

思いがけないアクシデントに千早の足は止まった。

(なに?やくざかしら…)

なるべく目を合わせないように歩調を早め、足早にマンションの中に入る。

一瞬、その中の一人と目があった気がしたが千早は気のせいだ、と言い聞かせた。

エレベーターに乗り7階のボタンを押す。
終始離れない何とも言えない不安が千早の中に渦巻いていた。

(写真…家にあるのかしら…)

エレベーターが止まり、千早が自分の号室に入ろうとしたその時、千早はある事に気付いた。

「あら?」

まだ年端もいかないような子供が7階の奥に倒れていた。

「ちょっと…どうしたの?」

千早は声をかけながら近寄った。

返答はない。

更に近付くにつれ、体のあちこちにある傷痕が目立つ様になってきた。

酷い傷…虐待を受けていて、逃げ出してきたのかも…

千早は身動き一つしない子供を見てそう考えた。

取り敢えず、腕を取り脈を確認する。

脈がある事を確認し、千早はほっとした。

「大丈夫!?」

声をかけて意識を確認する。

その時、千早は少年の手に何か見覚えのある物が握られている事に気付いた。

「これは…」

それは千早が無くしたと思っていた写真だった。

どうしてこの子が…?

混乱する頭を整理し、写真を手から取ろうとした時、少年が呻き声を上げた。

「う、うう…」

「だ、大丈夫?」

「も、問題ない…」

千早の問いに曖昧な返事をしながらゆっくりと少年は立ち上がり、二、三歩歩いたが直ぐに転んでしまった。

「あ!ちょっと…」

再び動かなくなってしまった少年を見た千早は意を決して看病をすることにした。

「くっ」

少年をおぶり自分の号室に向かう。

意外と重いのね。

少年をおぶった千早はそんな事を考えた。

そう言えば誰かをおんぶするのなんて久し振りね…
最後におんぶしたのは優…

……ふふ、まるで優をおんぶしてるみたい。

幸せだった頃を思い出し、顔が綻ぶ。

背中から少年の寝息が聞こえてきた。

少年をベッドに下ろし、千早は一息ついた。
鼾もたてずすやすやと眠る少年の様子を見て、千早は少し懐かしく感じた。

そう言えば顔が髪で隠れてよく見えなかったな、と千早は思い出し少し伸びた少年の前髪を優しく掻き分けた。

表れた顔を見た千早は息をのみ、思わず声が洩らした。

「優…?」

そこにはよく知っている―いや、よく知っていたと言う方が正しい―顔がそこにあった。

二度と見ることが出来ない筈の顔を見たことは、千早の頭に大きな混乱を生み出した。

おい

おい

「む…」

パラサイトは呻き声を上げ起き上がった。

「ここは…」

朦朧とする頭を抱え、辺りを見回す。

(そうか…さっきの女に…)
自分の置かれてる状況を理解し、彼はもう一度辺りを詳しく見回した。

「おや…?」

テーブルの上に紙が乗っている…

何気無く、頭を伸ばそうとして、ハッと思い止まった。

(見られたら不味いな…)

ベッドから降りた彼は紙を手に取り内容に目を通した。

どうやら倒れているのを見つけたから取り敢えず応急処置をし、栄養補給の為に買い物に行った事が読み取れた。

「…態々助けるとは随分と物好きがいるものだな。」

その時、彼は自分が猛烈な空腹に襲われている事を実感した。

思えば暫く“まともな”食事をしていないな…

彼は鳴る腹を押さえてちょっと考えた。

ガチャリ。

鍵の開く音がした。

(取り敢えずは…体力を回復させるか。)

やめろおおおおおお

翌日

響は何時も通り事務所に向かっていた。

「今日は何があるんだ、響?」

「えっと、ボイストレーニングがある筈だぞ。」

響は携帯を耳に当てながらサノスケと会話をしていた。

「ふむ、それでは私が特に気を付けるべき事はないな。
…ん?」

「サノスケ?どうしたの?」

突如、先程とはうって変わったサノスケの雰囲気に響は気付いた。

「仲間だ。」

「えっ…もしかして自分達、気付かれてる?」

不安気な顔をして響は聞き返した。

「分からない。だが、相手は動いてないな。もう1つ反応があるが、これは四条貴音だな。」

「ぐぬぬ、何か不味い気がするぞ。」

「ちょっと待て、四条貴音が立ち止まった。

…?何で動かないんだ?
それにもう1つの反応はまさか…」

ぶつぶつと呟きながらサノスケは状況がどうなっているのか考察しだした。

「と、取り敢えず貴音じゃないほうには気付かれてないんだな!よかった!」

そう自分に言い聞かせて響は事務所に向かった。

うわあああ千早ああああ

(一体全体何が起きているんだ…奴の反応が出ている場所は紛れもなく―
…これは言うべきか?)

「あれ?貴音?」

事務所の前に佇む貴音を見付けて響はすっとんきょうな声を上げた。

「おや、響でしたか。」

貴音は此方の方を振り向いた。
その顔を見て響は何か悪い事が起きたに違いない、と直感した。

「ど、どうしたさー貴音…」

貴音は眉間を押さえて苦悶に満ちた表情をした後、一言で言い切った。

「事務所にぱらさいとが居ます。」

衝撃的な事実に響は絶句した。

(やっぱりな…)

「私が気付く範囲に入った時には既にぱらさいとは事務所に来ていました。
しかしこのぱらさいとは気付かれたことに気付きながらも何も行動を起こしませんでした。
不可解なる事です。」

「だからといってここで議論をしていても仕方がない。奴に直接話を聞いた方が分かる筈だ。そう思うよな、響?」

サノスケはそう言うと響に事務所に入るように催促した。

「う、うん…」

響はぎこちない動きで頷いた。

「分かりました、響がそう判断するのなら私も付いていきましょう。」

はあ、と溜め息を吐きながら貴音は渋々ながらもこの禍々しい雰囲気を醸し出す事務所に足を踏み入れる事を承諾した。

事務所の階段を登りながら響はふと、考えた。

何で何も行動を起こさないんだ?

もしかして…

お互いが気付いた時に敢えて“待つ”という選択をとったとか?

ある1つの疑問点が持ち上がりながら、響はドアノブに手をかけた。

息を整え、深呼吸をする。

どんな光景が広がっていても気圧されない様に。

響はぐっと力を込めて勢いよくドアを開けた。

中には―

一見すると何時もと変わらない光景が広がっている様に見えた。

プロデューサーが書類を見ていて、

少し珍しい事に千早が寛いでいて。

ソファーに見知らぬ“子供に似せた”パラサイトがいる事を除けば。

「お、おう、響。随分とご機嫌斜めみだいだな。どうした?」

プロデューサーは書類から目を離し、驚いた顔で聞いてきた。

響が言い訳に困っていると、貴音が後ろから顔をひょっこり覗かせて代わりに答えた。

「真、不思議な事に響が何か別の者が事務所にいる、と言い始めまして…野生の勘なるものでしょう何かが働いたようです。」

「えっ…そ、そうだぞ!何か別の人が事務所に入ってる気がして…」

響は貴音のフォローに乗っかった。

「ふ、ふ…ん響は色んな特技があるんだな。」

明らかに納得していない様子のプロデューサーの反応だったが、響はこれでいい、と自分に言い聞かせた。

「…で、この子は誰なんだ?」

響の問いにプロデューサーは困っている様子を見せた。

「ええっと…千早の居候?」

「は?」

予想もしていなかった答えに響は開いた口が塞がらなかった。

作者です。

新年明けましておめでとうございます。

さて、受験生の私は本番まであと二ヶ月と迫ってきており、尻に火がつく始末になっております。

そこで受験が終わるまで何方かスレがHTML化されないようにしていただきたいのです。

大変厚かましいのですが何卒よろしくお願いいたします。

申し訳ありません。

終わらせられるならいいけどな

ちかたないなぁ

追いついた乙
受験ならちかたないね

どっちにしろ作者が二ヶ月に一回レスしなかったらhtml化だけどな

おち

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2013年11月13日 (水) 00:39:58   ID: CSwddjNa

これまだ続いてたorz

終わったとばかり…

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