ミカサ「カメリア」(117)


カルラ『——ミカサの髪は、本当にきれいね』サラサラ

ミカサ『そう?』

カルラ『ええ。こうやって朝晩にあなたの髪を梳いてあげるのが、楽しみなの』

ミカサ『……』

ミカサ『お母さんも、こうやって私の髪を整えてくれてた』

ミカサ『カルラおばさんにほめてもらえて、うれしい…』ニコ

カルラ『…そう。大事にしましょうね。あなたのお母さんがくれた宝物よ』

ミカサ『うん!』


ミカサ「…………」ハッ

ミカサ(……夢?)

ミカサ(なつかしい夢だ)

ミカサ(あの家に迎えてもらったばかりの頃の)

ミカサ(カルラおばさん……)ジワ


ミカサ(……弱気になっちゃ、だめ)

ミカサ(私は今度こそ家族を——エレンを守るんだから)

ミカサ(やさしくてあたたかい夢に、いつまでも甘えてはいられない)グス

ミカサ(今日は訓練兵団の入団式もある。しっかりしなくちゃ…)ゴシゴシ


〜入団式後・夕食時〜

エレン「調査兵団に入って…この世から巨人を駆逐してやる!」

ミカサ(エレン…初日から強気な発言が多い…)ハラハラ

ミカサ(時にはそうした言動が敵を作ることもあると、何度も忠告しているのに)

ミカサ(もう一度、言って聞かせないと)スッ

ジャン「な…なぁ、アンタ…!」

ミカサ「? (さっきエレンと口論になりかけた人?)」

ジャン「あ…あぁ、えっと…見慣れない顔立ちだと思ってな…つい…」

ミカサ「……(まさか、東洋人だから、珍しがられているの?)」ジッ

ジャン「すまない…とても綺麗な黒髪だ…」カァ…

ミカサ「…どうも(好奇の目というわけではなさそう。なら、気にする必要はないか)」フイッ


ミカサ(髪をほめられたのは…久しぶり)

ミカサ(どうしても、おばさんのことを思い出してしまいそう…)ズキズキ

ミカサ「…エレン!」タタッ

エレン「ああ、ミカサか」

ミカサ「さっき、また喧嘩になりそうだった。発言にはもう少し気をつけた方がいい」

エレン「いや? 喧嘩になんかなってねぇよ」

ミカサ「少し目を離すと、すぐこうなる…」


エレン「またそれか…そんなことよりお前…」

エレン「この髪、長すぎはしねぇか? 立体機動の訓練で事故になるかもしれんぞ」バサッ

ミカサ「うん…わかった。切ろう。でも…どの辺りまで切るべきだと思う?」

エレン「そうだな。肩につかないようにと、目にかからないようにすればいいんじゃないか?」

ミカサ(——そうだ。髪なんて切ってしまえばいい。そうすれば、思いださずに済む…)


〜翌朝・食堂〜

ミカサ「おはよう、エレン、アルミン」

エレン「おう、おはよう」

アルミン「おはよう…って、ミカサ! どうしたのその髪?」

ミカサ「訓練の邪魔になるかもしれないので、昨夜のうちに切った」

アルミン「でも、ずいぶんばっさり…伸ばしていたんじゃないの?」

エレン「俺が切れって言ったんだよ。長いと危ないだろ?」

アルミン「エレン…ミカサは女の子なんだよ? いきなりそんな…」


ミカサ「アルミン。いいの、私なら大丈夫」フルフル

ミカサ「エレンが気付いて忠告してくれて、とても助かった」

ミカサ「ささいなことが事故につながるかもしれない。髪は短いほうが安全」

アルミン「ミカサがそう言うならいいんだけど……短いのも、似合ってるし」

ミカサ「…ありがとう、アルミン」ニコ

エレン「それより早く朝メシ食っちまおうぜ。今日から訓練開始だろ!」

ミカサ「ええ。頑張ろう」

アルミン「う、うん……」

こういう話だったのかって思うと切ねぇぜ グスン

期待!!

俺も短いほうがいいと思うよ!

1です。少しずつですが本日も投下します。


〜数ヵ月後・女子浴室〜

ミカサ(…髪が伸びてきた)

ミカサ(さっさと切ってしまおう。ハサミは…)

クリスタ「ミカサ、髪を切るの?」

ミカサ「ええ。そろそろ邪魔になりそうだから」

クリスタ「あの…もしかして自分で切るつもりなの?」

ミカサ「? そのつもり」

クリスタ「前髪ならいいけど、後ろ髪は難しいでしょう?」

クリスタ「散切りになっちゃったらもったいないよ。よかったら、私にやらせて」

ミカサ「…ありがとう。お願いする」

クリスタ「まかせて!」ニコッ


クリスタ「…………」チョキチョキ

クリスタ「……実はね、」

ミカサ「?」

クリスタ「前からミカサの髪ってきれいだなぁって、思ってたの」

クリスタ「鴉の濡れ羽色…ってきっとこういうことを言うのね」

クリスタ「しっとりして艶やかで。あこがれちゃうな」

ミカサ「…クリスタの髪の方が、きれい」

ミカサ「きらきらしていて、明るい。おひさまみたいな色だと、思う」

クリスタ「ありがとう。でも、私の髪って猫っ毛なの。すぐからまっちゃって」フフッ

クリスタ「ミカサの髪は、癖もなくてまっすぐだね。すごくミカサらしいよ」チョキチョキ

ミカサ(私らしい……?)


サシャ「んっ。散髪ですか?」

クリスタ「うん。ミカサの髪が伸びてきたから、整えてたの」

クリスタ「そういえば、サシャの髪もきれいよね」

クリスタ「しなやかで軽やかで。ポニーテール、よく似合ってるよ」

サシャ「あはは。神様にほめられちゃうなんて恐縮ですね」テレテレ

サシャ「私の場合、お父…いえ、父の言いつけで伸ばしてるんですが」

クリスタ「お父様の?」キョトン

サシャ「はい。『性格がガサツなら外見ぐらいは女らしくしろ!』って」

サシャ「そうすればいずれ中身も伴ってくるだろうって…余計なお世話ですよね! まったく!」

ミカサ「でもその言いつけをちゃんと守ってる。サシャはなんだかんだ言ってもお父さんのことが、好き」クス

サシャ「う…ミカサ、からかわないでくださいよ///」


ミカサ「からかってなんていない。それはとても良いこと」

ミカサ(そう。ほめてくれる人、気にかけてくれる人がいるのは、良いことだ)

ミカサ(私にそうしてくれた人たちは、もういなくなってしまった…)

クリスタ「…ミカサ? 終わったよ?」ポンポン

ミカサ「…あ…ごめんなさい。ちょっとぼうっとしていたみたい」

クリスタ「いいよ、気にしないで。はい、手鏡。後ろ髪、確認してみて?」

クリスタ「肩の辺りで揃えて、中の方だけは少し梳いて軽くしてみたの。どうかな?」

サシャ「いいですね! すっきりシャープでミカサらしいです」

ミカサ「うん、ありがとう。クリスタは手先が器用」

ミカサ「余計なものを切り捨てたら…心がとても、軽くなったような気がする」ニコリ

クリスタ(……余計なもの?)



カルラ『ミカサ、ちょっとこっちへいらっしゃい』

ミカサ『はぁーい』タタタ…

カルラ『これをつけてあげるわ。ミカサは女の子だから、特別よ』

ミカサ『きれいなガラス壜…。なあに?』キョトン

カルラ『これはね…女の子をきれいにしてくれる、魔法よ』

カルラ『エレンには内緒にしておくといいわ。そのうち気付いてびっくりするでしょうけど』クスクス

ミカサ『うん! 内緒にする///』

ミカサ『おばさんと私だけの、秘密に——……』



ミカサ「…………」

ミカサ(また、夢……)ハァ

ミカサ(髪は切ったのに、どうして思いだしてしまうの)

ミカサ(……あのガラス壜。中身は何だったっけ)

ミカサ(思い出したいような、思い出したくないような。変な気持ち)

ミカサ(大切な思い出だったはずなのに。今は、すごく苦しい…)

短いけど今日はここまで。

いいね

椿油かーいいね

期待

支援

支援ありがとうございます!
短いですが投下していきます。


〜朝・食堂〜

ミカサ「おはよう。エレン、アルミン」

アルミン「おはよう、ミカサ」

エレン「おお…おはよう…」フアー

エレン「うー…まだ眠い…」ネグセボサボサ

アルミン「もう。昨夜ジャンと遅くまで喧嘩なんかするからだよ」

エレン「しつこく突っかかってくるのはジャンの方だろ。俺が悪いのかよ」モグモグ

ミカサ「…………」モソモソ

アルミン(あれ? いつもならこの辺でミカサがエレンをいさめるのに)

アルミン(今日はどうしたんだろう? なんだか元気がないような…)ジッ


ミカサ「……? アルミン? 私の顔に、何かついてる?」

アルミン「えっ? あ、ううん、そうじゃないよ。ええと…」

アルミン「気のせいだったらごめん。ミカサ、元気がないような気がするんだけど…何かあったの?」

ミカサ「……、いいえ。特に何も」フルフル

エレン「本当に大丈夫か? 無理はすんなよ」

ミカサ「心配をさせてしまったようでごめんなさい。私は、大丈夫」

アルミン「ううん。ミカサが元気ならいいんだ」ニコッ


エレン「…ん? ミカサ、また髪切ったのか?」モグモグ

ミカサ「昨夜、クリスタに切ってもらった」

アルミン「そうなんだ。うん、すっきりしてていいね」

アルミン(さらっとこういうのに気付くのがエレンの凄いところだよなぁ…)

エレン「やっぱり短い方が良いだろ。立体機動訓練の時なんか、いつどこにひっかかるかわかったもんじゃないしな」

ミカサ「うん。エレンのおかげで、怪我をせず訓練できてる。…ありがとう」

アルミン(うーん…髪を切ったこととミカサの元気がないことと、何か関係があるのか…?)


エレン「そういえば、明日は休暇日だったよな」

アルミン「うん。久しぶりのお休みだね。二人は何か予定あるの?」

ミカサ「私は特に。でも、二人と一緒に過ごせたら嬉しい」

エレン「俺も特には。休めって言われてもな…訓練がないと、何していいかわかんねぇよ」

アルミン「それじゃあ、久々に街に出かけてみようよ!」ズイッ

エレン「お、おお…? 構わねぇが、急にどうしたんだよアルミン…」ビックリ

ミカサ「そんなに行きたいところがあったの?」パチクリ

アルミン「ま、まあね…(エレンと二人で出掛けたら、少しはミカサも元気になるかも)」

アルミン(急用を思い出した…とか理由をつけて途中で抜けて、二人きりにしてあげようっと)


ミカサ「——ごちそうさま。食器、片付けよう」

エレン「朝メシ食ったらちょっとは目もさめてきたな。俺はコップ運ぶよ」

アルミン「じゃあ、僕はテーブル拭いておくね」

アルミン(結局、ミカサが沈んでる原因はわからなかったなぁ)フキフキ

アルミン(どうしたんだろう。何かあったのなら、助けになりたいんだけど)

アルミン(ミカサは自分の感情を抑えがちだから、ストレートに訊いても答えてはくれないかもしれない)

アルミン(ミカサと同室の人だったら、何かわかるかな…)


クリスタ「……アルミン。ちょっといいかな」コソッ

アルミン「クリスタ? どうしたの?」

クリスタ「ミカサ、今日はどうしてるかなって。元気にしてるならいいんだけど」

アルミン「……それがね、なんだかちょっと落ち込んでるような気がするんだ」

アルミン「もしかしてクリスタ、何か知ってるの?」

クリスタ「…昨夜ミカサの髪を切ってあげてたとき、少し様子がおかしかったの」

クリスタ「ミカサは『心が軽くなった』って笑ってくれたけど…」

クリスタ「もしかして本当は、髪を切りたくなかったのかも。私、悪いことしちゃった…」シュン

アルミン「そっか…教えてくれてありがとう。でも、まだそうと決まったわけじゃないよ」

アルミン「僕も、ミカサが落ち込んでる原因、探ってみるから」ニコッ

クリスタ「うん…何かお手伝いできることがあったら、教えてね」ホッ



〜立体機動訓練・林〜

キース「——各自、装置の点検と整備は完了しているな?」

訓練兵一同「ハッ!」

キース「では、これより演習に移る!」

キース「巨人の討伐において最も重要となるのは、連携である」

キース「一人の力には限界がある…それがどんなに優秀な兵士であっても、だ」

キース「自身の力を過信する者は必ず自滅する。死にたくなければ肝に銘じろ」


キース「本日の演習では、班ごとの連携を確認する」

キース「林の中に設置された標的を討伐しつつ、目標地点へ到達せよ」

キース「評価基準は個人ではなく班全体での討伐数と、到達までの時間だ」

キース「ただし、到達時点で一人でも班員を欠いていた場合、その班は失格とみなす」

キース「また、班の中から棄権者が出た場合も同様に失格となる」


ミカサ(…………)ズキズキ

ミカサ(——…今朝の夢が頭を離れてくれない…)

ミカサ(あたたかい声と笑顔が、脳裏にちらつく)

ミカサ(こんなことでは駄目…)

ミカサ(いつまでも思い出になんて頼れない。縋れない。ちゃんと、わかってる)

ミカサ(私は自分を完璧に支配できる、はず。…私は立てる……一人でも…)グッ


キース「——では、以上をもって演習内容の説明を終了する! 各班、目標地点への移動を開始せよ!」

本日はここまで。進行遅くてすみません。

おつ

はよ

前回から間が空いてしまいすみません。
投下していきます。


エレン「俺とアルミンは同じ班か」

アルミン「ミカサとは別の班になっちゃったね」

ユミル「同じ金髪のちびならクリスタと組みたかった…おまけにもう一人は死に急ぎ野郎だしよ」ハァ

エレン「お前なぁ、相変わらず口悪すぎるだろ……」ムスッ

アルミン「ははは…演習が終わるまでの間だから我慢してよ、ユミル」

エレン「…にしても、いつもの訓練みたいにミカサと競い合えないのは残念だな」

エレン「けど、この演習でも負けるつもりはない。頑張ろうぜ」バシュッ

アルミン「うん! 僕も二人に遅れを取らないように頑張るよ」バシュッ

ユミル「しょうがねぇな。さっさと終わらせてクリスタと合流するか」バシュッ


ミカサ「…………」

ミカサ(エレンたちと、班が分かれてしまった…)ションボリ

ジャン(やったあああああああミカサと同じ班だぜよっしゃああああああ!)ガッツポーズ

クリスタ(立体機動の1位2位と同じ班…! 足ひっぱらないようにしなきゃ!)キンチョー

ミカサ「……行こう」バシュッ

ジャン「おう!!」バシュッ

クリスタ「う、うんっ」バシュッ

ミカサ(…同じ班になれなくても、せめてなるべくエレンたちから目を離さないように移動しよう…)


……ザンッ!!

エレン「よしっ! 討伐数5!」シューッ

アルミン「好調だね、エレン! このペースなら上位を狙えるよ」シューッ

エレン「ははっ。アルミンが最適ルートを考えてくれるおかげだって」バシュッ

ユミル「おーおー、仲が宜しいことで」シューッ

アルミン「じゃあ次は前方の大樹を迂回するようにルートをとって——」

エレン「あぁ、わか……っ」グラッ

エレン(……ッまずい! アンカーの刺さりが浅い…!)

アルミン・ユミル「!!」

アルミン「エレン! あぶない……ッ」バッ


〈ミカサside〉

ミカサ(エレンたちは順調みたい。よかった)シューッ

ミカサ(できればこのまま、つかずはなれず一定の距離を保ちたいけど…)

ジャン「な、なぁミカサ! ペース上げるかルートを変更しねぇか?」シューッ

ジャン「今のままじゃ、エレンたちの後手に回るだけだろ。討伐数でもあいつらに劣ってる」

クリスタ「…そうだね。ペースはともかく、討伐数が少ないからルートは変えた方がいいかも…」シューッ

クリスタ(正直、二人についていくのでやっとだけど。足手まといにはなりたくないし…)ゼエゼエ

ジャン「…クリスタ? 大丈夫かよお前…」



エレン! アブナイ!

「!!」

ミカサ「今のはアルミンの声…!」

ミカサ「エレンに何か……!?」バシュッ シューーーッ

クリスタ「あっ、待ってミカサ…っ」

ジャン「ありゃ聞こえてねぇな。すげえ勢いで旋回、加速しやがった」チッ

ジャン「クリスタ! ミカサを追うぞ!」バシュッ

クリスタ「わかった!」バシュッ

ミカサ(お母さん…カルラおばさん…)

ミカサ(エレンまでいなくなってしまったら、私はどうすればいい?)ズキッ

ミカサ(嫌、嫌だ……私を、一人にしないで……)ズキズキ



ユミル「何やってんだこの馬鹿ども!」ガミガミ

エレアル「ごめん…」ボロッ

ユミル「あのまま落ちて死んでてもおかしくねーんだぞ、ヒヤヒヤさせやがって」ガミガミ

ユミル「しっかしまあ…支えきれずに一緒に落ちてはいたが、」

ユミル「とっさの行動にしちゃやるじゃねーか、アルミン」

アルミン「多少は減速できたから、まっすぐ落下するよりは衝撃も和らげられた、かな…」イテテ

アルミン「エレン、大丈夫? 手加減できなくて思いっきりぶつかっちゃってごめん…」

エレン「…俺の方こそ悪かった。アルミンがいなかったら擦り傷どころじゃ済まなかったな」イテテ

ユミル「二人とも、演習は続行できるんだろうな? 私まで失格にしてくれるなよ」

エレン「ああ、時間とらせちまって悪かった。これなら何とか——」


ミカサ「エレン!! アルミン!!」バシューッ

エレン「ミカサ!? お前、なんでここに」

アルミン「そうだよ、自分の班は……?」

ミカサ「そんなことより二人とも大きな傷はない…!? 落ちたときに頭を打ったりは…」

ユミル「落ち着けよ、筋肉女」

ユミル「お前、自分の班員はどうした? クリスタと馬面が一緒だったよな…ほったらかしか?」

ミカサ「…あなたには関係ない。今、確認すべきなのは二人の状況」

ユミル「おー、怖い怖い。過保護だねぇ」

エレン「俺たちは大丈夫だ。…ミカサ。お前の方こそ、本当に大丈夫なのか?」

ミカサ「…エレン……?」


ジャン「ミカサ!」シューッ

クリスタ「やっと追いついた…速すぎるよ…!」ハアハア

ユミル「まさか本当にほったらかしとはね。さすが成績1位サマは、やることが違うな」

ミカサ「…………」

ユミル「何だ、言いたいことがあるなら言い返してみろよ」

ミカサ「私…私は、そんな、」

ジャン「…………」

ジャン「——クリスタ。どうやら俺たちの班は失格だ。教官に、リタイアの報告しに行くぞ」

クリスタ「え…ジャン? どうして…」

ジャン「あの勢いでガスを噴かしてたんだ。ミカサのガスの残量はたかが知れてる。目標地点への到達は難しい」

ジャン「今回の演習は班員が一人でも欠けた時点で失格だ。…教官が言ってたのは覚えてるよな、ミカサ」

ミカサ「……っ」


ジャン「勘違いするなよ。俺は、お前が死に急ぎ野郎を心配したことに腹を立ててるわけじゃねぇ」

ジャン「今は演習中だ。だから俺たちはたんなる『失格』で済むが…」

ジャン「もしこれが実戦なら、ガス切れを起こしたお前は、今頃巨人の餌だろうな」

ジャン「お前だけじゃない。進行を乱された俺とクリスタも、だ」

クリスタ「ジャン、言い過ぎだよ……」

ジャン「だが、事実だ。クリスタが消耗してることにも、気付いてなかっただろ」

ジャン「悪いが俺は、人の命を無駄に浪費するような奴とは組めねえ」


キース「——貴様ら。ここで何をしている?」

アルミン「! 教官…っ」ギクッ

キース「私は貴様らに立ち話をしろと命じた覚えはないのだが」

キース「説明してもらおうか。貴様らは、ここで何をしている?」

ミカサ「…………」スッ

ミカサ「先程、私の専横で同班のキルシュタイン、レンズ両名の演習に支障をきたしました」

ミカサ「…加えて、私はイェーガー班の進行をも妨害しました」

クリスタ「そ、そんな! 教官、違います、彼女は…」

キース「アッカーマン訓練兵。貴様の言葉は事実か?」

ミカサ「……事実です」

キース「そうか。では、貴様の班は失格とする。立体機動装置は使わず、徒歩で林の入口まで引き返すように」

キース「イェーガー班は速やかに演習に戻れ。いいな」

キルシュタイン・・・なんかすげえな。

まぁ別にジャンはミカサを盲信してるわけじゃないしなぁ

リアリストだからね


エレン「…行くぞ。演習再開だ」

アルミン「でもエレン、ミカサが…」

エレン「今は演習中だ、それはミカサもわかってるはずだ」

エレン「……わかってたはずなのに…」ボソッ

アルミン「え?」

ユミル「おらっ、お前らまで仲間割れして失格になるつもりか? とっとと再開するぞ」ペシッ

アルミン「あいたっ」

ユミル「今のでだいぶ遅れをとっちまった。急げよ二人とも」バシュッ

エレン「ああ。行くぞ、アルミン」バシュッ

アルミン「待ってよ、二人とも…!」バシュッ チラッ

ミカサ「…………」


ミカサ「——ジャン、クリスタ…ごめんなさい」

ミカサ「謝っても謝りきれることではないと、わかってるけど…本当に、ごめんなさい」バッ

クリスタ「ミカサ…いいよ、そんな、頭を下げたりしないで」アセアセ

ジャン「…………」

ジャン「悪い。俺は先に戻らせてもらう」ザッ

クリスタ「ジャン…少しくらいミカサの話も聞いてあげようよ」

ジャン(…何を聞いても今の俺じゃ、責める言葉しか出てきそうにねーんだよ…)




〜訓練後・兵舎〜

クリスタ「みんな、お疲れ様…!」タタッ

ユミル「迎えに来てくれたのか。やっぱり優しいなぁ私のクリスタは!」ナデナデ

クリスタ「ユミルったら! 茶化さないで!」

アルミン「クリスタ! ミカサはどうしてる?」タタッ

クリスタ「それが…単に失格になっただけじゃなく、他の班を妨害した、って申告しちゃったでしょ」

クリスタ「ミカサは謹慎を命じられちゃって…今は宿舎の部屋にこもりっきりなの」

アルミン「さすがに、営倉行きにまではならなかったんだね。ひとまずよかった、けど…」


クリスタ「ジャンはミカサと一言も口をきこうとしないまま、宿舎に戻っちゃったし」

ユミル「あいつの言ったことは間違ってないんだが…言い方がまずい。お互い反省が必要だろ」

ユミル「とりあえず、ほっといてやれよ。あいつら二人とも、ちょっとは頭冷やした方がいいんだよ」

クリスタ「でも、ミカサの様子はおかしかったし…何か事情があるのかもしれないじゃない」

ユミル「どんな事情があろうと、私のクリスタを蔑ろにしたのは気に入らねぇ」ケッ

エレン「…………」

アルミン「? エレン、どうかした?」

エレン「ん…ああ、いや、なんでもない。ひとまず俺たちも、宿舎に戻ろうぜ」

アルミン「うん……?」


〜翌朝・女子宿舎〜

クリスタ「ミカサ。食堂に行こう? 朝食の時間だよ」

ミカサ「…ごめんなさい。私は遠慮させてもらう」

クリスタ「でも…昨日の夕食も食べてなかったじゃない。体壊しちゃうよ」

ユミル「ほっとけ、クリスタ。ガキじゃねぇんだから体調管理くらいテメーで出来るだろ」

クリスタ「だけど、ユミル」

ミカサ「クリスタ。声をかけてくれてありがとう。私なら、大丈夫だから」

ミカサ「…ユミルも、気をつかわせてごめんなさい」

ユミル「悪いと思うなら、とっととメシぐらい食えるようになりやがれ」

クリスタ「ユミルったら素直じゃないんだから…! じゃあミカサ、私たち行くね」

ガチャッ パタン…

ミカサ「…………」ハァ


〜同時刻・男子宿舎〜

アルミン「エレン、朝食の時間だよ。行こう」

エレン「俺、今日は朝メシいいや。ちょっと街に出てくる」

アルミン「え…でも、ミカサは今日一日、謹慎を命じられてるんだよ?」

アルミン「ミカサを動揺させて演習に支障をきたしてしまった、責任の一端は僕たちにもある」

アルミン「教官の命令こそないけど、僕たちも今日は外出を控えようよ」

エレン「俺もそう考えたけど…でも、やっぱりどうしても必要なんだ。ごめん、アルミン」タッ

アルミン「エレン!?」


〜食堂〜

クリスタ「……」フゥ…

ユミル「おいクリスタ。お前までミカサにつられて落ち込むことないだろ」

クリスタ「だって。前から元気がないのわかってたのに、何にもしてあげられなかった…」

ユミル「あのなあ…お前が心配してやるのはいいが」

ユミル「ミカサにそれを受け入れるつもりがなけりゃ、何もしてやれることはねーよ」

クリスタ「そうかもしれないけど、仲間が悩んでるなら……、って、あれ、アルミン?」

アルミン「あ、クリスタとユミル。おはよう」ドヨン

ユミル「よう。今日はエレンの奴、いないのかよ」

アルミン「……街に行くんだって」ボソッ

ユミル「は?」


アルミン「さんざん心配してくれたミカサのことほったらかして街に行くんだってさ! エレンは!」プンスカ

クリスタ「ア、アルミン、ちょっと、落ち着いて…」オロオロ

アルミン「家族同然の幼馴染の様子がいつもと違うのに、街だって! 薄情にも程があるよ!」プンプン

ユミル「ははは、何だお前、怒ると意外と声デケーんだな」ケラケラ

アルミン「笑いごとじゃないよまったくもう!」クワッ

アルミン「…………」

ユミル「お、どうした。静かになったな」

アルミン「…二人ともごめん。今の、完全にやつあたりだ…」ドヨーン

ユミクリ(ちょっと面白かった、とは言わない方がよさそう)


アルミン「本当は、わかってるんだ…エレンがミカサをほっとくはずないって」

アルミン「でも、今回は僕も、二人がそれぞれ何を考えてるのかわからなくてさ」

アルミン「いつも訳知り顔でアドバイスなんかしてるくせに、僕って肝心なところで駄目だなあ…」シュン

クリスタ「そんなことないよ。現に、アルミンは今もちゃんと二人のこと考えてるじゃない」

ユミル「とりあえず、待っててやれよ。あいつらが相談してきた時に応えてやれるようにな」

アルミン「うん…そうだね。エレンとミカサのこと、信じるよ」

アルミン「二人とも、ありがとう」ニコッ

ユミル「じゃ、いったん落ち着いたトコで、メシ食っちまおうぜ。チンタラしてっとサシャに食われんぞ」


サシャ「人を『妖怪パン食い』みたいに言うのやめてくださいよユミル!」ニュッ

ユミル「うおっ! どっから湧いて出たんだよ、妖怪パン食い」

サシャ「ひどいですよ! ユミルやクリスタからパンをとったことなんてないのに!」

アルミン「それじゃ、他の人からはとってるって認めてるようなものじゃないか」

サシャ「一種の生存競争というやつですよ! 食事とは生きるか死ぬかの戦いなんです!」フンス

クリスタ「もっと穏やかに食べようよ…」

続ききてた!


アルミン「ところで、サシャ。急にどうかしたの?」

サシャ「あ、そうでした、本題を忘れるところでした…ええと、ミカサは今朝も食事しないつもりなんでしょうか?」

クリスタ「一応誘ってみたんだけど、断られちゃって」シュン

サシャ「それはよくありませんね…。食べられる時に食べておかないと、体力がもちませんよ」

サシャ「ミカサの分のパンをとっておいて、部屋に戻ったら渡してあげましょう」

サシャ「本当はスープも持っていってあげたいですが、ここのスープは冷めてしまうと飲めたものじゃありませんし」

ユミル「なんだ、芋食いパン食い女にしちゃ、気がきいてんな?」

サシャ「だからその妖怪っぽいネーミングやめてくださいよ…」

サシャ「私は、ただ…」

わっふーい!!
期待だなぁ!!たのしみだなぁ!!
はよ!!はよ!!楽しみ!!
焦らすなぁもうっ!!        何だろう自分ww

うん、ちょっと黙っとけ

くちゃい


サシャ「私は、ミカサに『お返し』したいだけなんです」

サシャ「この前、クリスタがミカサの髪を切ってあげていた時」

サシャ「ミカサは私のこと、肯定してくれました…私は、それがとてもうれしかったんです」

サシャ「でも、その時のミカサの顔は、なんだか寂しそうで、つらそうで」

クリスタ「うん…サシャも、気付いてたんだね」

サシャ「はい。だから私、ミカサがくれた言葉に、何か返せるものがないかと思ったんです」

サシャ「ミカサが何を悩んでるのかはわかりませんが…ごはんを食べると、元気が出てくるものでしょう?」

ユミル「元気が出るっつっても、お前ほどじゃねーと思うがな」

サシャ「う…っ、人間に限らず、生き物は飢えると気が荒むんですよ! 満腹に越したことはないんです!」

サシャいい奴やぁ・・・グスン


アルミン「…………」ウーン

ユミル「なんだアルミン。小難しい顔して何考えてる?」

アルミン「ああ、うん…サシャの言葉は、的を射ているのかもしれないなと思ってさ」

サシャ「そうですよ! ミカサは空腹なんですよ!」

クリスタ「いや、そういうことじゃないと思うよ…」

アルミン「きっと今のミカサには、何かが足りないんだと思う。だから気持ちが荒んで、不安定になった」

アルミン「エレンには、それが何なのかわかってるんだよ。今日街に行ったのは、足りない何かを探すためなんだ、きっと」

サシャ「ん? つまりエレンは街に食べ物を買いに行ってるってことですか!?」

ユミル「お前ちょっと黙ってろ芋パン」

良いよ 見てるよ



〜市街地〜

エレン「……うーん」キョロキョロ

エレン(どこに何があるんだかさっぱりわかんねえ!)

エレン(開拓地から出て訓練兵になって以来、めったに街に来てないしな…)グヌヌ…

エレン(来たとしてもアルミンに付き合って本屋行ってメシ食って帰る、決まったルートばっかりだ)

エレン(日用品もほとんどは支給されるから、わざわざ街で買う必要がねーし)

アニ「——ねえ、」

エレン(俺って実はかなりの世間知らずだったりするんじゃねえか!?)ガーン

アニ「ねえってば」ゲシッ

エレン「いッッてええ!?」ビクッ

エレン「って、何だ、アニか」


アニ「何だ、とはご挨拶だね」

エレン「そっちこそ、出会い頭に人を蹴りつけるのが挨拶かよ」イテテ

アニ「フン。往来の真ん中で百面相してるから、迷子にでもなったかと思って声かけてあげたのに」

アニ「その様子なら私の手助けは必要なさそうだね…それじゃ」ヒラッ

エレン「あっちょっ待て! 待ってくれアニ!」

アニ「何? やっぱり帰り道がわからないっていうの?」

エレン「いや、そうじゃなくて…買いたいものがあるんだが、どこに売ってるか場所がわからねえんだよな」

アニ「…男が行くような店なら、私が知ってるとは思えないけど…一応聞いてあげるよ」

エレン「えーっと…——」セツメイチュウ


アニ「…わかった。それなら心当たりがあるからついてきてよ」スタスタ

エレン「本当か! アニが通りかかってくれて助かったぜ…」ホッ

アニ「……あのさ」

エレン「ん?」

アニ「今から買いに行く物…ミカサにあげるの?」

エレン「あ、あー…まあ、そうだな」

アニ「…そっか。よかった」

エレン「よかったって何がだ?」

アニ「ミカサ、様子がおかしかったから。あんたからのプレゼントなら元気になるんじゃないの」


エレン「アニも知ってたのか。…よく見てるんだな、仲間のこと」

アニ「よく見てるっていうか、成績上位者が調子悪いとこっちもペース狂うし」

アニ「アンタの手綱握れる奴がいなくなると、喧嘩とか増えてうるさそうだし」

アニ「…私は自分の安定を望んでるんだ。それだけだよ」フイッ

エレン「素直じゃねえな。ミカサが心配だったって言えばいいのに」

アニ「…………」ゲシッ

エレン「いッ、おま、歩きながら無言で蹴ってくんなよ! 器用だな!」

アニ「…………」ガッガッ

エレン「踏むな! 抉るように踏みにじろうとすんな!」イテエエエエ


〜店内〜

エレン「へー。ここか。確かに置いてありそうだな」

アニ「今度からは、事前に場所くらい調べときなよ。あとキョロキョロしないで。恥ずかしい」

エレン「俺もうろ覚えで探してるんだ、大目に見てくれ。内地に売ってるって聞いてたんだが…」

アニ「…内地?」

エレン「ああ…ここだって、ウォール・マリアが落ちるまでは『内地』だっただろ。昔の話だ」

アニ「……そう、だね。そうだったね…」

エレン「ん? あ…っ」

アニ「! 見つけたの?」

エレン「ああ。たしかにこれだ。思い出した…!」



アニ「——きれいな壜だね。良かったじゃないか、無事に買えて」

エレン「この壜が特徴的だったから覚えてたんだよなぁ、俺」

エレン「でもアニがいなきゃどこに売ってるかもわからなかったぜ…助かったよ、ありがとな」

アニ「…礼なんていいけど……ひとつ、言ってもいい?」

エレン「なんだよ、あらたまって」


アニ「アンタたちはさ…親と、故郷…いっぺんになくしてるんでしょ?」

アニ「ミカサには、アンタが唯一の家族で、帰る場所なんだ」

アニ「家族と故郷を失いたくなくて、なりふりかまわず必死になる気持ちは……わかるような気がする、私にも」

アニ「だからさ…あんまり心配させないでやりなよ」

エレン「ああ。わかってる。…この忠告にも、礼言わせてくれ」

アニ「——わかってるなら、それでいい。さっさと帰るよ」

今日はここまでで。次回の投下で完結予定です。
レス下さった方ありがとう。

おつおつ

乙乙!!
早く続きがみたいけど体調管理には気を付けてね


〜男子宿舎〜

ジャン「……」ゴロゴロ

マルコ「……(みんな出かけちゃっててヒマだな。次の座学の範囲を予習しておこう)」

ジャン「…………」ゴロンゴロン

マルコ(えーと…あ、あったあった。82ページからだったな)ペラペラ

ジャン「…アアアアアアアア!!」ジタバタジタバタ

マルコ「!?」ビックゥ!!

マルコ「何!? 急にどうしたんだ、ジャン!?」

ジャン「おおおお…俺は…俺はミカサになんであんなことを…!」

マルコ「ああ、昨日のことで悩んでたのか。急に雄叫びあげるからびっくりしたよ」ドキドキ

ジャン「俺だってわかってんだ、言い過ぎだってことはよぉ! けど、けどよ…!」ウオオオ


マルコ「まあまあ、気持ちはわかるよ。君とクリスタはミカサ同様、失格になってしまったわけだし…」

ジャン「…それだけじゃねぇよ」

ジャン「死に急ぎ野郎を最優先するのだけが、問題なんじゃねえ」

ジャン「あの時のミカサは俺たちだけでなく、自分自身のことさえどうでもいいと思ってるように見えたんでな」

マルコ「君は、それが許せなかったのか」

ジャン「そりゃそうだろ。惚れた女が自分を粗末にしてるの、呑気に見てられるかよ」

マルコ「……君っていつも器用に物事をこなす割に、こういう時は本当に不器用だね」

ジャン「…う、うるせえ」

マルコ「もっとミカサ自身を大事にしてほしいんだってことを、ちゃんと伝えたらどうだい」


ジャン「…さんざんきつい言葉浴びせといて、今更、俺の言葉が受け入れられると思うか?」

マルコ「受け入れられないのを恐れるなんて、君らしくもないね。なさけないな」

ジャン「…んだよ、喧嘩売ってんのか? 何が言いたい?」

マルコ「ジャンは、自分をごまかしたり装ったりしないだろう?」

マルコ「エレンの演説が効いたせいか、104期には調査兵団志望が多くなったけど」

マルコ「君みたいに正面きって、内地に行きたいから憲兵団に入るって宣言する人は、そうはいないよ」

ジャン「自分の希望を曲げて綺麗事を言うなんてのは、臆病者のすることだろ」ケッ


マルコ「僕はジャンのそういう強さが時々羨ましいよ。励まされたりもする。…だからさ、」

マルコ「ミカサにも、思ったことを曲げずに伝えてみたらどうかな…今度はきつい言葉じゃなく、ね」

ジャン「くそ…ずいぶん簡単に言ってくれるな…」ハァ…

マルコ「僕の信頼する友人なら、この程度の事でへこたれたりしないってわかってるからね」ニコ

ジャン「ああ、そうかよ」

ジャン「……お前って奴は本当に指揮官向きだな、マルコ」

ジャン「お前の言葉を聞いてると、ヘタレてるわけにはいかねぇと思わされちまう」

マルコ「奮起できたなら良かったよ。がんばって」

ジャン「ああ。ありがとよ、指揮官殿」ニッ


〜女子宿舎〜

ミカサ「……」

ミカサ(思い出を切り捨てられずに、いつまでも引きずって)

ミカサ(一人でも立てるつもりでいて、結局私は、エレンに依存していた)

ミカサ(たくさんの人に、迷惑をかけてしまった…どうしたら、謝れる?)

ミカサ(どうしたら私は、一人で立てるようになる?)


コンコン


ミカサ「? 窓に、何か…」

エレン(窓の外で手ヒラヒラ)

ミカサ「エレン!? 待って、今、開ける…」ガタッ


エレン「窓越しで悪いな。さすがに女子寮の中には入れねぇからさ」

ミカサ「…う、うん…(どんな顔で何を話せばいいの…?)」ギクシャク

エレン「…あの、な。ミカサに渡したいもんがあるんだ」ガサガサ

ミカサ「渡したいもの?」

エレン「ほら、これ」スッ

ミカサ「……! エレン、どうして」

ミカサ(夢に出てきた、カルラおばさんの持ってたガラス壜…きれいな花の模様も、同じ…)

エレン「ミカサも見覚えあるだろ? 親父から母さんヘのプレゼント」

ミカサ「おじさんからの? 知らなかった…」

エレン「何だ、そうなのか? 母さんが大事にしてたから俺も覚えてたんだが」


エレン「親父ってさ、よく家空けてただろ。内地まで往診に行った時なんか、一週間は帰ってこなくてさ」

ミカサ「おじさんがいない間、おばさんは寂しそうだった。私たちには笑って見せていても、どこか沈んでいて…」

エレン「けど、いつだったか内地から帰った親父が、これを母さんに渡してたんだ。椿油って言うんだと」

エレン「その時からかな…親父が往診で帰れない日でも、母さんが少し明るくなったんだ」

エレン「『これをつけてると、離れていても一緒にいられるような気がする』…って笑ってさ」

ミカサ「…そうだったの」

ミカサ「おばさん…懐かしい……」


エレン「…お前の髪、短くはなったけど、これならつけられるだろ?」

エレン「髪飾りなんかと違って、訓練中に邪魔になって事故に遭ったりしないだろうし…」

エレン「受け取ってくれるか? ミカサ」

ミカサ「うん…でも、エレン、どうして…?」

ミカサ「どうして私に、これをくれるの?」

エレン「…………」

エレン「お前さ、ここんとこ、変だっただろ」

ミカサ「え……」

エレン「親父が帰ってこない日の母さんと、なんか似てて……その、心配してたんだよ」


ミカサ(一人で立てる、どころか、エレンに心配させてしまったなんて…)

ミカサ「ごめんなさい、エレン…」シュン

エレン「あのなぁ…別に謝る必要はねぇよ。家族なんだから」

ミカサ「で、でも」

エレン「何だよ、俺もお前に心配されるたびにそうやってしょげて謝った方がいいか?」

ミカサ「う……そういう意味では、なくて…」シドロモドロ

エレン「いいんだよ。お前もたまには心配されとけ」

エレン「それに、どうせなら謝るより礼を言ってみたらどうだ?」

ミカサ「お礼……」

エレン「少なくとも俺は、その方が嬉しい」


ミカサ(切り捨てたつもりの思い出)

ミカサ(そのうちのひとつが、ここにある)

ミカサ(エレンはいつも、私がなくしてしまったものを、くれる…)

ミカサ「……ありがとう。うれしい……」ポロポロ

エレン「なっ!? 何だよ、泣くなよ」

ミカサ「だって、エレンがやさしい…」グス

エレン「だからなんでそれで泣くんだよ。ほら、泣きやめって」ゴシゴシ

ミカサ「む、むり…いまのわたしは、るいせんを、しはいできていない…」ベソベソ


エレン「ああもう…そんな泣いてたら、せっかくプレゼントした意味なくなっちゃうだろ」

エレン「なあ。それ、つけてみたらどうだ? 涙止まるかもしれねぇし…」

ミカサ「う、うん…そうする」キュポン

エレン(かすかだけど、甘い匂いがする。母さんを思い出すな…落ち着く匂いだ)

ミカサ「…………」サラ…

エレン(ああやって椿油を髪になじませるしぐさって、女らしく見えるもんなんだな…)

エレン(いつも一緒にいるミカサなのに、なんかすこし違って見えるっていうか、)

ミカサ「…つけてみた。どう…?」フワッ…

エレン(!?)ドキッ


エレン「あ、ああ、いいんじゃねぇか!? 見た目そんな変わったわけじゃねぇけどな!」ソワソワ

エレン(そうだよ! 見た目はそんなに変わってねぇんだよ! なのに…!)チラッ

ミカサ「エレン?」キョトン

エレン(なのになんで、ミカサのことがこんな可愛く見えてんだよ、俺…!///)カァッ

ミカサ「どうしたの、エレン? なんだか、さっきからおかしい」コテン

エレン「いや、何でもねぇよ…(首かしげるなよ! 可愛いから!)」プイッ

ミカサ「でも、顔が赤い。熱でもあるのかもしれない…」ピトッ

エレン「うわっ! おでこくっつけてくるなよ!」

ミカサ「逃げようとしないで。窓枠越しだと、うまく熱が測れない…」コツン


エレン(近い近い近い! 潤んだ目が…甘い匂いが…!!)ドキドキドキ

エレン(なんだよこれ!? ぜんぜん落ちつく匂いなんかじゃねぇ!)ドキドキドキ

エレン「ミ、ミカサ…、俺……っ」グッ


ミカサ「……? エレン……?」





サシャ「ミッカサー! 朝食のパァン! 持ってきてあげましたよー!」バァン!!

エレミカ「!」ビクッ


サシャ「って、うわあああああ!?(何なん、あの二人!? 窓越しにキスしよん!?)」

エレン「うわああああああああ!?」バッ 

ミカサ「あっ、エレン!?」

ウワアアアアアアアアア…!  ダダダダダダダ…

ミカサ「い、行ってしまった…」ポカーン

サシャ「あ、あは…ええと、今のって私が悪いんでしょうか…」

ミカサ「私にも何がなんだか、わからない…」ポツネン

クリスタ「ミカサ! サシャ! 今の叫び声、どうしたの?」タタタッ

ユミル「ありゃ、エレンの声か? 何か面白いことでもあったのかよ」ヒョイ

ミカサ「クリスタ。ユミルも…」


ミカサ「じつは今、こんなことが…」カクカクシカジカ

クリスタ「へえ…」ニヤッ

ユミル「ほーお…」ニヤッ

サシャ「なるほど…」ニヤッ

ミカサ「エレンはいったいどうしたんだろう。もう一度お礼を言いたかったのに」シュン

クリスタ「大丈夫! 昼食の時間になったらきっとエレンも食堂に来るよ!」ニコニコ

ユミル「そーそー。そしたら今度は私たちがエレンを引きとめてやるからさぁ!」ニマニマ

サシャ「ミカサは思う存分、エレンと話をしたらいいですよ!」ニヨニヨ

ミカサ「…ええ、そうしてみる」フワッ


クリスタ(ああ、これはたしかに…)

ユミル(いつもの、険のある表情…つーか、とげとげしさが消えて)

サシャ(照れたような笑顔が、すごく可愛いですね)

クリスタ「エレンにはちょっと刺激が強かったかもね」クスッ

ユミル「あいつ、結構お子様なんだなぁ」プッ

サシャ「しかたありませんよ。今のミカサは誰が見たって可愛いですから!」フフッ

ミカサ「???」


サシャ「というわけで! お昼は、みんなで一緒に食堂に行きましょう!」

サシャ「それまでおなかがすいてしまうといけないので、これをどうぞ。ミカサの分のパンです」スッ

ミカサ「わざわざ持ってきてくれたなんて…」

サシャ「ミカサが空腹なのは、嫌ですから!」

ミカサ「…ありがたく頂く。サシャから食べ物をもらうなんて、とてもめずらしい」クスッ

サシャ「そんな…ミカサまで私のこと、まるで餓鬼みたいに…」ヨロッ

ユミル「やっぱ妖怪じみてるんだよ、お前の食欲」ケラケラ

クリスタ「そんなこと言わないの! サシャはミカサのこと心配してたんだから!」


ミカサ「サシャも……私のこと、心配してくれていたの?」

サシャ「決まってるじゃないですか! ごはんを食べないなんて絶対だめですよ!」

ユミル「おっと、うちのクリスタも忘れんなよ。お前のためにずーっと気を揉んでたんだからな」

クリスタ「ユミルこそ、興味ないフリしてたくせに色々私たちにアドバイスしてたじゃない」

ユミル「あ、あれはお前らがあんまりオロオロしてたからだろうが…!」

ミカサ「…………」

ミカサ「三人とも。心配してくれてありがとう」

ミカサ「私は、もう、大丈夫」ニコッ



〜男子宿舎〜

アルミン「エレンは…まだ戻って来てないか」キョロキョロ

アルミン「あ、マルコ。エレン見てないよね?」

マルコ「朝早く出かけてたよね…それっきり見てないなぁ」

ジャン(あの野郎…ミカサほったらかしで、何してやがんだ)ギリギリ


ウワアアアアアアア…! ズダダダダダダッ
ボスーン!!!!


アルミン「うわっ、エレン!?」

マルコ「叫びながら帰ってきたと思ったら」

ジャン「ベッドに突っ伏して動かなくなりやがった…死んだのか?」


アルミン「やめてよジャン、縁起でもないなぁ…ほらエレン、どうしたのさ」ユサユサ

エレン「…………」

アルミン「黙ってちゃわからないよ。街ではちゃんと買い物できた? ミカサと仲直りは?」ユサユサ

エレン「! ミ、ミカサとは、その…」カアアアアア

マルコ「うわ、一気に耳まで真っ赤だ」

ジャン「はぁ!? 何があったんだよオイコラこの死に急ぎ野郎! 答えろ!」バッ

エレン「言えねぇよ! 言えるわけねぇだろ!」ガバッ

エレン(ミカサにドキドキしちまったなんて死んでも言えねぇ!)

ジャン「口では言えないようなことがあった、ってことか…?」ガーン


ジャン「こ、こうしちゃいられねぇ…! ミカサ…!」ダッ

マルコ(ジャンの考えてるようなことじゃないとは思うけど…まあ、うん。ハッパをかけられたと思えば)

アルミン「エレン…君さ、もう少しジャンの気持ちも察してあげたほうがいいよ…」ハァ…




〜女子宿舎付近〜

ジャン(勢いで飛びだしてきたはいいが、女子の宿舎には入れねぇし…)ウロウロ

ジャン「…ん? あれは…」

ジャン「おーい、アニ!」

アニ「……」

アニ「…………」フイッ

ジャン「いや、明らかに聞こえてんだろ、無視すんな」


アニ「チッ…何の用?」

ジャン「(すげえ舌打ちされた…)いや、あの、ミカサを呼んで来てもらえねーか、と…」

アニ「…噂だと、あんた、昨日ミカサにずいぶんきついこと言ったらしいね」

アニ「失格がむかつくのはわかるけど…まさかまだ文句を言い足りないの?」ジロッ

ジャン「ちっ、違う! むしろ俺はそれを謝ろうとだな…!」

アニ「…………」

アニ「わかった。声はかけてきてあげる。でも、来るかどうかはミカサ次第だからね」クルッ

ジャン「悪いな、恩に着る」ホッ


〜女子宿舎〜

アニ「ミカサ、いる?」

ミカサ「アニ。どうしたの?」

アニ「今、ちょっといい? 話があるんだよ」

ミカサ「ええ。みんな、話の途中で申し訳ないけれど」スッ

サシャ「はい、いってらっしゃーい」ヒラヒラ


アニ「——みんなで話してるところ、悪いね」

ミカサ「いいえ。それで、話とは?」

アニ「ジャンが、宿舎の入口で待ってる。あんたと話がしたいってさ」

ミカサ「ジャンが…」


アニ「別に、無理して会ってやることないと思うけど」

ミカサ「いえ…私も、ジャンに言っておきたいことがあったから。ちょうどいい」

ミカサ「伝言をありがとう、アニ。行ってくる」フワリ

アニ(…かすかに甘い匂い…それになにより、表情がやわらかい。エレンは、ちゃんと渡せたみたいだね)

アニ「ミカサ」

ミカサ「?」クルッ

アニ「……やっぱりなんでもない。じゃあね」スッ


ジャン「…………」ソワソワソワソワ

ミカサ「ジャン」

ジャン「ミカサ…!! 来てくれたのか」

ミカサ「話がある、と聞いたので」

ジャン「ああ、…その…」

ミカサ「……」ジッ

ジャン「昨日は、悪かったな…俺はもっと言葉を選ぶべきだった」

ミカサ「私の方こそ、ジャンとクリスタには申し訳ないことを…」

ジャン「いや、まずは聞いてくれ。…俺はミカサを傷つけたかったわけじゃねぇんだ。むしろ、その逆で…」

ミカサ「逆?」


ジャン「——なぁ、ミカサ。お前はもっと自分を大事にするべきだと、俺は思う」

ジャン「お前がエレンのことを大事にしてるのは知ってるが…」

ジャン「あいつの代わりにお前が傷つくことなんか、あの野郎も望んじゃいないはずだ」

ミカサ「……」

ジャン「…入団式の日、覚えてるか?」

ジャン「あいつがお前に、髪を切れって言った日」

ミカサ「ええ。覚えている。私はその日のうちに髪を切った…」


ジャン「せっかくの綺麗な髪を切れなんて、無神経なこと言いやがる…と、あの時はそう思ってたんだが」

ジャン「エレンはただ、お前が怪我するところを見たくなかったんだろうな」

ジャン「あいつもただの無神経野郎じゃなく、お前のことを心配してたんだと、今ならわかるんだよ」

ミカサ「…………」

ジャン「だからってわけじゃないが…もうちょっと、自分のことにも目を向けてみてくれ」

ジャン「お前のことを気にかけてる人間はたくさんいる。…俺や、エレンも含めてな」


ミカサ「…………」

ジャン(やべえ、ダラダラしゃべりすぎたか!? うっとうしかったか!?)ハラハラ

ミカサ「……ジャン」

ジャン「お、おう。何だよ」

ミカサ「今日は、謝るのではなく、あなたにお礼を言わせてほしい」

ミカサ「——あの時、私を叱ってくれてありがとう」

ミカサ「私は冷静じゃなかった。周りのことも、自分のことさえも、見えてなかった」

ミカサ「あなたの言葉で、頭を殴られたような気がした」

ジャン「殴っ……!?」

ミカサ「今のは、言葉のあや。そのくらい衝撃的だったということ」クスッ…

ジャン(笑った!? ミカサが、俺に!?)ドキドキ


ミカサ「私を見ていてくれたこと…とても、感謝している」

ミカサ「ありがとう、ジャン」フワッ

ジャン「あ、ああ……///」

ミカサ「また明日から、訓練再開。今度はあんな失態を演じたりしない…ので、よろしく」

ジャン「おう! まかせとけ!///」

ミカサ「では、私は部屋に戻る。サシャたちを待たせているから…」スッ

ジャン「…………///」ポーッ

ジャン(ああ…短くなっても、ミカサの黒髪は……やっぱりとても、綺麗だ)



〜昼・食堂〜

エレン「…………」ソワソワチラチラ

ジャン「…………」ドキドキチラチラ

アルミン(うわあ…なにこれ)

アルミン「……ねえ、ミカサ」

ミカサ「何?」

アルミン「さっきからチラチラチラチラと、落ち着きなくミカサの方を見ては、」

アルミン「真っ赤になって目をそらす——という奇行を繰り返してる人が、二名ほどいるんだけど」

アルミン「何が起きたのか、知ってたら教えてくれないかな…?」アタマイタイ



ミカサ「…………」

ミカサ(何かが起きたのだとしたら、それは…)

ミカサ「……たぶんきっと、カルラおばさんが教えてくれた魔法」

アルミン「えっ? 魔法?」キョトン

ミカサ「そう。女の子だけに教えてくれた…とっておきの、カメリアの魔法」フフッ



おしまい

乙乙!
ジャンがイケメン
このミカサとエレンさんは幸せになれそうだな

このエレンはミカサと幸せになるな。


ミカサとエレンの仲直りのやり取りが初々しくて微笑ましかった
後ジャンがジャンらしさを残しつつかっこ良くていいジャン

おつです

この二人は幸せになるしかない
なかなかの良作や!

これは良SS

乙です

面白かったよ
乙!

1です。
お互い大事にしあってるエレミカと、かっこいいジャンを書きたかった。
ので、レスもらえて嬉しい。読んでくれてありがとうございましたー。

乙です
この二人には幸せになってほしい。ジャンも
関係ないかもしれないけど、タイトルで天野月子さんの曲を連想した

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年06月06日 (月) 17:30:40   ID: 7ZCD8EkS

めっちゃいいです

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