ザンネンな一夏「俺は織斑一夏。趣味は――――――」 (254)


前作:一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」
一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1374845588/)

前作とは正反対の『低俗で良識的な小心者(ヘタレ)』な織斑一夏で話を通します。
ただし、ちょっと適当な表現の仕方が見つからなくて、
言葉通りのイメージとはなりませんかもしれませんが、
そこはご容赦ください。。

物語の流れはアニメ基準に進めます。
前作ほどの設定の変更はありませんが、
改変された織斑一夏の影響で性格や動向が変わってくる方も多いです。

また本編に登場していないキャラもちらほら……



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1377262583


前回の投稿は連続スクリプト対策に引っかかってばかりだったので、
歯切れの悪いところで中断になってばかりでした。

なので今回は、対策として1話丸ごと一挙に5分おきを目処に投稿するつもりなので、
途中で投稿されなくなったら、連続スクリプト対策に引っかかったものとみなしてください。
そして、申し訳ありませんが、規制が解除されるのを待つのでその日の投稿は中断いたします。

投稿スケジュールの穴を埋めるために半日以上経った時間帯に残りを投稿して、
時間調整させていただきます。

なにとぞご容赦お願いします。
失言が多かった拙者ですが、謹んで投稿させていただきます。


第1話 クラス代表決定戦
Persona non grata

――――――IS学園始業日


ザンネンな一夏「趣味は――――――」

周囲「ナニカナニカナ」ドキドキワクワク

一夏「…………ポーカーと能面です」

周囲「」ポカーン

山田「そ、それはまた、とても斬新な趣味の組み合わせですね」

一夏「はは……自分でもそう思います」

一夏「(くそ、何言ってんだよ、俺!? いろいろ考えたのに結局これかよ……)」

山田「では、次――――――」

一夏「(整備科から転科できたってだけでも千載一遇のチャンスなのに、)」

一夏「(せっかくここで女の子に囲まれたウハウハ生活ができるんだから、)」

一夏「(周囲を熱狂させるようなカッコイイ台詞をどうして言えなかった……!?)」

周囲「ウーム」

一夏「(逆に、近寄りがたい印象を与えてしまった……!)」

一夏「(奇跡なんて不合理なものでしかなかったか……)」ハア

一夏「(女性にしか扱えないISを男の俺が扱えたという奇跡も――――――)」

箒「………………」


一夏「何の用だ――――――というより、6年ぶりだね」

一夏「久しぶり、箒」

一夏「話したいことがあるんだろう? あれ以来音信不通だったもんな」

箒「………………」

一夏「ああ、そうか(あの自己紹介のせいか。だったら、こちらから――――――)」

一夏「えっと、今更かもしれないけど……」

一夏「中体連剣道、優勝おめでとう……」

一夏「音信不通だった幼馴染の名前が出て嬉しかったぞ?」ニコー

一夏「(何引き攣ってんだ、俺? せっかく千冬姉以外に顔見知りが居たのに、これはいかんだろ……)」

箒「………………」テレテレ

一夏「(あ、あれ? 会話が続かない……!?)」アセアセ

一夏「(ちょっ、な、何か反応してくれ!)」

一夏「(俺がまるでここにいちゃいけないような気がしてきたから、頼む!!)」

一夏「(き、切り口を変えよう――――!)」

一夏「えっとな、箒? 俺、元々は整備科で入っていたんだけど、」

一夏「試験会場にあったISを動かしたから、無理やりここに転入させられてすっごく戸惑っているんだ」

一夏「だから、箒の顔を見た時、千冬姉以外にも頼れる人が居てすっごく安心した」

一夏「ええと、そうだ」

一夏「―目でわかったぞ。昔から変わらない髪型だし……」ニコー

一夏「(すごく変わったニーハイだったから目が行っただなんて言えない)」

箒「そ、そうか」テレテレ

一夏「あ、あの…………(これでも続かないよー!)」

箒「(ど、どうしよう…………言葉が出ない…………)」

箒「(い、一夏のやつ…………こ、こんなにもかっこよくなりおって……!)」

箒「(――――――迂闊だった。見ない間にこんなにも変わったなんて…………)」ウツムク

一夏「モシモーシ(応えてくれえええええええ!)」


山田「IS 〈インフィニット・ストラトス〉は、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます」

山田「ISには意識に似たようなものがあって、お互いの対話――――――」

山田「つまり、一緒に過ごした時間でわかりあえるというか、」

山田「操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

山田「ISは道具ではなく、あくまで“パートナー”として認識してください」

山田「ここまでで、質問のある人は?」

女子「質問! “パートナー”って“カレシカノジョ”のような感じですか?」

山田「――――――!? そ、それはその…………どうでしょう」

山田「私には経験がないのでわかりませんが、えっとえっと…………」

周囲「アハハハハハ」

一夏「(――――――ついていけない。これがみんなが言っていた、女子校のノリってやつなのか?)」

一夏「(本当に別世界だ。男と女って別の生き物だったんだな…………)」

一夏「(ねえ、そこ笑うとこ? 喪女の僻みってのは怖いんだぜ?)」

一夏「(でも、山田先生はそんなことは気にしないのか?)」

一夏「(まあ、どうでもいいけど、――――――ナイスボイン!)」



一夏「(――――――結局、あれから進展がなく、互いに何とも言えない空気のまま、予鈴が鳴り響いた)」

一夏「(これから全世界の半分が経験し得ない世界でやっていけるのかを頭を悩ませながら、授業に取り組んだ)」

一夏「(幸い、転科が決定する以前に整備科の予習はし尽くしていたので授業は、まあ余裕だった)」


山田「織斑くん、何か質問はありませんか?」

一夏「問題はないです。予習はしていたので」

一夏「逆に、問題を解くようにと言われましたら、全部答えてみせますよ」

一夏「国語も数学も科学も歴史も情報も、――――――座学ならISもね」

周囲「おおおおお!」

一夏「ああ……とりあえず座学に関しては任せておいてください」

山田「さすがですね、織斑くん! 整備科の入試試験を首席で合格しただけのことはありますね」

箒「(――――――入試首席!? 本当に変わったな、一夏)」

一夏「…………ただ、ですね?」ハア

山田「はい、何ですか?」

一夏「男子用トイレが一箇所しかないとか…………」

一夏「お嬢様学校で異端な俺の立居振舞のことでこれから先の私生活がちょっと不安で……」

一夏「座学は問題ありませんから、この肩身の狭さをどうにかしていただきたいんですけど…………」

千冬「そのことに関してだが、織斑」

一夏「はい、ちふ……織斑先生」

千冬「男としての甲斐性と沽券があるなら、自分でどうにかしろ」

一夏「そんな……!?」

千冬「!」ギロッ

一夏「」ゾクッ


――――――あ、ありがとうございます!(恍惚)


一同「――――――!?」

箒「い、一夏!?」

周囲「ネエ、イマノッテ――――」ヒソヒソ

周囲「サスガチフユサマノオトウト!」ヒソヒソ

周囲「チフユサマノオソバデイツモイツモ――――」ヒソヒソ

周囲「イイナー」ヒソヒソ

周囲「ヨシ、ワタシ、オリムラクンモチフユサマモ――――」ヒソヒソ

一夏「……あ、久々のご指導痛み入ります(ヤメテエエエエエエエエエエエ!)」

山田「…………そ、そうなんですか。よかったですねー」ニコー

一夏「あ、ああ…………(苦笑いされた……!)」

一夏「(やっぱり、生は見ていて気持ち悪いよな…………)」

一夏「(俺のウハウハ学園生活 終了のお知らせ………………)」ハア

山田「それでは授業を続けますね」

千冬「…………」ハア

セシリア「(あれが、“世界で唯一ISを扱える男性”ですか……)」


一夏「(ともかく、今日の予定は学校の間取りと配置を把握して、一刻も早く適応することだ)」マドリズヲミテニラメッコ

周囲「ネエ、オリムラクンッテー」クスクス

周囲「ウン、マチガイナイヨー」クスクス

一夏「――――――っ!(あああああああああ!)」

一夏「挽回するんだ挽回するんだ挽回するんだ挽回するんだ…………」ブツブツ

一夏「(間違いなく、ザンネンなガリ勉にしか見られてないぃ……!)」

セシリア「ちょっとよろしくて?」

一夏「(だめだ、いつまでも引き摺るな。閑話休題、閑話休題……)」

一夏「(でもいくら何でも、用務員のトイレしか使えるトイレがないってどうよ?)」

一夏「(アリーナのトイレにしても控え室のものが使えないとか……)」

一夏「(ギャラリーにある来客用のトイレなんていくらなんでも遠すぎだ)」

一夏「(これは思った以上に、アレを使わざるを得ない状況になっているな)」

セシリア「あの?」

一夏「(IS実技の時だけにしたかったが、これは思ったよりも頼ることになってしまうのか……?)」

セシリア「――――――あの!」

一夏「え? あ、はい?!」

セシリア「もう! 私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、次はきちんと応じてくださる?」

一夏「それは申し訳ないです。これからの予定を思案していたので…………あ」ジー

セシリア「……どうなさいました?」

一夏「(――――――イエス、ナイスビューティー!)」グッ

セシリア「あなた、何か失礼なことを考えませんでしたか?」

一夏「失礼なんかじゃありませんよ!」ガッ

セシリア「なっ!?(て、手が――――大きくて逞しい手が!)」

周囲「――――――っ!?」

一夏「麗しい貴婦人だな、と見蕩れていただけです」

一夏「それ以外には何も」

セシリア「な、はっ?!」


一夏「えっとそれで、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんは俺に何か?」ニコー

一夏「(確か、入試主席の専用機持ちなんだっけか)」

一夏「(代表候補生ってのが、代表操縦者への登竜門だったか)」

一夏「(入試首席で、装着試験で唯一試験官を倒したって話だし、)」

一夏「(ということは、ISの操縦技術は少なくとも1年では最強ってことか)」

一夏「(この人は間違いなく、文字通り“この年の入学生を代表する”存在となるだろう)」

セシリア「」プシュー

一夏「あ、あれ?(この人とは仲良く――――――って、は?)」

一夏「せ、セシリアさん?(な、何で何も言ってこないの? 何も言ってこないほうが怖いから、何か言って!!)」

一夏「(――――――だ、誰か!!)」キョロキョロ

一同「」カオヲミアワセル

箒「」カオヲソラス

一夏「ま、また会話が続かない…………」

一夏「(この沈黙から誰か、お助けえええええええええええ!)」


一夏「(何やってんだ何やってんだ何やってんだ何やってんだ)」

一夏「(授業もISが総合学習的な立ち位置になっているだけで普通。それどころか余裕すぎる内容だってのに……)」

一夏「(――――――クラスの雰囲気が最悪だ!)」

一夏「(険悪ではないにしろ、俺のやることなすことが裏目に出ている…………!?)」

一夏「(お、俺は確かに“そういう目的”でIS学園を希望したところもあるけど!)」

一夏「(俺が望んでいたのは『プレイボーイ』であって、断じて『KY』じゃない!!)」

一夏「(ああ、どうすればいいんだ……)」

一夏「(セシリアさんも箒も距離を感じているし……)」

一夏「(ど、どうにかしてセシリアさんとは仲良くしておかないと……)」

一夏「(代表候補生という肩書きといい、黙っていても滲み出ているエレガントな雰囲気といい――――――)」

一夏「(クラスの中心人物になるのは間違いない)」

一夏「(俺がIS学園というヒミツの花園での日々を謳歌するためには、彼女との適切な距離感が必要だ)」

一夏「(なら、どうする? どうする? どうする?)」


箒「ここが私の部屋か」ガチャ

箒「おや、すでにルームメイトが部屋に入っていたか」

箒「ずいぶん荷物があるのだな」

箒「え、これはずいぶんと――――――あ」ガチャリ

一夏「どうする、俺…………え」

箒「………………」

一夏「………………」ハンラ バスタオル オムツソウビ

箒「いやあああああああああああああ!!」

一夏「何でええええええええええ!?」

ガチャ、バタン

一夏「何で俺の部屋に女が入り込んで――――――」ハアハア

バキバキバキバキ

一夏「うわあああああああ! イダイイダイ! グハァ!?」ドスドス

女子「え、何か大きな音が……」

一夏「うえ!?(マズイマズイマズイマズイ)」

一夏「箒! 箒さん! 入れてください! 火急迅速に! 早く!」

一夏「そうじゃないと、恥の上塗りで俺がこの学園に居られなくなるぅううう!」

女子「なになに?」

女子「あ、織斑くん…………え」

女子「お、織斑くんのえ、エッチぃいいいいい」

女子「ねえ、あれってパンツじゃなくて――――――」

一夏「ひいいいいいいい!」ガチャ

一夏「――――――うわ!?」ヒキズリコマレル

女子「あ」

女子「お、織斑くんの写真、撮っちゃった……」

女子「エー、イイナーミセテミセテー」ワイワイガヤガヤ




箒「……わかった。私がお前と相部屋だというのは理解した」ムスッ

箒「(…………やってしまった。暴力を振るってしまった……最低だ 私……)」

一夏「もうイヤ! 何で今日はこんなにも理不尽な目に――――――って!」

箒「な、何だ?(お、怒ったのか!? そ、そうだよな、怒って当然のことを――――――)」

一夏「せっかく時間をとって幼馴染との親交を温めようとした時、何で何も喋らなかったんだよ?」

一夏「――――――不安で不安でしかたなかったんだぞ!」

一夏「俺、箒にまで嫌われているのかと思って……」ジンワリ

箒「あ、あの時は――――――!(そ、そっち――――――!?)」

一夏「箒……」ナミダメ

箒「…………すまなかった、一夏」

箒「あの時は、言葉が、見つからなかったんだ……」

箒「(ダメだ、何をやっているんだ私は!)」

箒「(鈍感だった一夏でも、女子しかいない環境に戸惑って、私に助けを求めているのだぞ?)」

箒「(幼馴染として、ここで率先して助けてあげなくてどうする!)」

一夏「ああ、でもよかった……」ホッ

一夏「こうして、箒ともしっかりと話すこともできたし、」

一夏「不幸中の幸いなのか、箒には不本意だろうけど、」

一夏「ルームメイトが箒で良かった。本当に……」ニー

箒「………………むぅ(ひ、卑怯だぞ、一夏! そ、そんなこと言われたらわ、私は…………)」ヒッシニウツムク

箒「い、一夏!(ダメだ! ダメだ! そんなこと!)」

一夏「はい?」クタクタ

箒「お、同じ部屋で寝泊まりする以上、線引きはきっちりとしておかないとな」

一夏「ああ、そのことか」

一夏「よし、決めよう」ニコー

箒「お、おう(……どうしよう。私の方も冷静ではなかったようだ)」


オムツとは...





一夏「この寮には個室のトイレがないんだよな……」

箒「だ、だからそのために、お、おむつを…………?」

一夏「あ、ああ(本当は“それ以外の用途”のために用意してたんだけど……)」

箒「そ、それはなかなか…………不便なものだな」

箒「ところで、一夏?」

一夏「何だ、箒?」

箒「どうして、」

――――――生理用品まであるのだ?

一夏「ああ、それは千冬姉への差し入れのつもりで用意したんだけど、」

一夏「使いたいっていうなら、少し分けてやっても――――――ブハッ!?」

箒「み、見損なったぞ、一夏! 変態趣味に走っていたなんて!」

箒「ここで成敗してやる!」

一夏「な、何で!? (く、くそっ! 全国一と肩を並べて稽古していた頃が懐かしい!)」

一夏「(……ダメだ! 鍛え続けたやつと鍛えるのを止めたやつとでは差が…………!)」

一夏「ぐあっ!」バキーン






一夏「わからないな……」

一夏「素人が食事制限したら逆に太るのに、何で女子はみんな小食に拘っているんだか……」

一夏「そのくせ、消火が早くてカロリーの高いパン食を好む」

一夏「それどころか、お菓子で補うとかまじめに言っているし…………」

一夏「あれは誰に見せているブラフなんだ?」

一夏「ISドライバーという競技者ならば、きっちりとした食事をとらなくちゃいけないのにな」

一夏「ましてや、この成長期に…………」

一夏「チキンレースでも流行っているのかな…………」

一夏「IS学園に入って『プレイボーイ』になる千載一遇のチャンスを得たのに、これじゃあな…………」ハア

一夏「やっぱり、奇跡はどこまでいっても不合理だ。万が一叶っても、幸福感なんてそんなに…………」

一夏「まあ、あの時から投げやりになった俺が掴むものなんて、みんな中途半端なものばっかりだったからな……」

一夏「――――――予定調和、ってやつなのかな」

一夏「朝一番勝負もよくない展開だったしな……」

一夏「さて、今日の株価は――――――」ピッ


千冬「クラス代表を決める。自薦他薦は問わない。誰かいないか」

女子「はい。織斑くんを推薦します」

女子「私もそれがいいと思います」

一夏「………………」ハア

千冬「……他には居ないのか? 居ないなら、無投票当選だぞ」

一夏「(こうして俺を推薦してくれる人が居るだけありがたいんだけど、)」

一夏「(俺自身が俺を信用しきれていないんだ。悪いけどここは――――――)」ゴソッ

セシリア「納得がいきませんわ」バン

セシリア「男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ」

――――――(中略)――――――

セシリア「だいたい、文化としても後進的な国に暮らさなくてはいけないこと自体、私にとっては耐え難い苦痛――――」

セシリア「ちょっと、織斑一夏!」

一夏「(能面はいつ見ても心が落ち着く。能面に込められた深い意味を読み取れば、幽玄の世界へと誘ってくれる。そして、己の素顔を能面――――つまり、直面(ヒタメン)とすることで多種多様のポーカーフェイスが誕生……!)」フキフキ

一夏「(ああ、早く18歳になって“ワールドシリーズオブポーカー”に出たいな)」フキフキ

一夏「(俺の取り柄は知力とポーカーの腕だけだし、だったら己の英知を尽くして何か大きなことをしたい)」フキフキ

セシリア「ちょっと話を聞いてくださる!」

一夏「あっ」スッ

千冬「まったく、関係のないものは持ってくるなと規則にあるはずだがな」

一夏「ああ、ごめんなさい」

一夏「極度の上がり症でして、どうしても能面を手にしていないと心が落ち着かないんです」

千冬「…………そうか。なら、しかたない。授業中は控えろよ」

千冬「それより、クラス代表の座をどうするかオルコットと相談しろ」ニヤリ

一夏《??》「はい、そうします」フリカエル


セシリア「もう! いいですか、織斑一夏――――――え!?」ゾクッ

一夏《般若》「どうかしましたか?」ニター

一同「………………!?」ゾクッ

セシリア「(な、何ですの……!? ど、どうしてこ、こんなにも鳥肌が…………)」ゾクゾク

セシリア「け、け、けけけ――――――」

セシリア「(け、けけけ、けだ、けだも――――――)」

一夏《般若》「“け”?」ニター

セシリア「――――――け、決闘ですわ!」(震え声)

一夏《般若》「え? 何ですか、唐突に?」ニター

セシリア「な、何でも! と、ともかく、承知なさい……!」アセタラー

セシリア「クラス代表の座を勝敗で……!」ユビブルブル

セシリア「(こ、言葉を振り絞るだけでもこれほどのプレッシャー! た、只者ではありませんわね……!)」ゾクゾク

一夏《般若》「よくはわかりませんが、それで納得するのならやるしかないですね」ニター

セシリア「(こ、怖い……! 作り笑顔をしているのに、どうしてこんなにも空気が凍りつくのかしら……!?)」ゾクゾク

箒「(い、一夏……お前は、いったいどうなってしまったというのだ!?)」ゾクゾク

千冬「よし、話はまとまったな」

一同「(そして、織斑先生は平然と話を進めていく)」ブルブル

千冬「それでは勝負は、次の月曜、第三アリーナで行う」

千冬「織斑とオルコットはそれぞれ準備をしておくように」

セシリア「はい……!」

一夏《般若》「わかりました、織斑先生」ニター

セシリア「と、ところで、織斑一夏……?」ブルブル

一夏《般若》「はい」ニター

セシリア「そ、そのお面はいったい何ですか?」ブルブル

一夏《般若》「ああ、これですか」ニター

箒「あ、あれは――――――」ブルブル

一夏《般若》「“般若面”と言って、嫉妬や恨みの篭った鬼女の相を表した能面です」ニター

一同「(そ、そっくりだ。今の織斑くんと……)」ガタガタ

セシリア「そ、そうですの……」ガタガタ

一夏《般若》「素晴らしいデザインですよね」ニター

一夏《般若》「これを見ていると自分の中のやましさや苦しさがすっと消えていくようです」ニター

一同(――――――え!?)ガタガタ

一夏《般若》「どうですか、セシリアさん。お近づきの印に飾ってみませんか?」ニター

セシリア「お、お気持ちは感謝いたしますが、わ、私はこ、これにて――――――!」ダッ

一夏《般若》「ああ、行っちゃったか」

一夏《般若》「せっかく能面に興味を持ってくれたっていうのに、……残念だな」ハア

箒(一夏、今のお前のほうがザンネンだぞ。私でもドン引きするぐらいに……)ゾクゾク

千冬「フッ(ガキどもにはいい薬だな)」クスッ

千冬「(そして、織斑一夏。お前にとってもな)」


――――――休日


一夏「基本的にISの個人所有ができるのは代表候補生や代表操縦者だけであり、」

一夏「俺に扱える機体は、格闘用の『打鉄』と射撃用の『ラファール・リヴァイヴ』だけ」

一夏「どちらも第2世代型だが、性能は標準的で扱いやすいとのことだ」

一夏「聞けば、セシリアさんの機体は遠距離射撃型――――狙撃機らしいな」

一夏「とりあえず、相手が狙撃機であることを念頭に置いて乗ってみるか」

一夏「まずは、『打鉄』で行ってみるか」

一夏「チーフ! とりあえず『打鉄』に乗って、『ラファール』行きます」

技師「了解した。データの比較はこっちに任せておいてくれ」



一夏「………………一長一短だったな」ハア

技師「そうだな」

一夏「『打鉄』で慣らし運転してみたが、あまりにも機動性が鈍い……!」

一夏「ISは空中戦がメインなのに、空戦能力が低いとか……この機体じゃ狙撃機に手も足も出ないぞ」

一夏「訓練機としては安定しているんだがな……」

一夏「『ラファール』はさすが12カ国で制式採用されているだけの汎用性といったところだが……」

一夏「学園で使える武装が中途半端過ぎ……」

一夏「ライフルで遠距離で撃ち合いをするのもいいかもしれないが、」

一夏「初心者の俺なんかじゃ専用機持ちのセシリアさんの技量に敵わないだろうな……」

一夏「ああ……なんてこった」

一夏「狙撃機に打撃を与えられる性能がどっちにも無いんだもんな……」ウーン

技師「そう落胆することはない。短時間で『打鉄』と『ラファール』の基本操作をこなし、」

技師「その性能差を認識できているのだから、その時点で大したもんだ」

技師「IS適性はCランクだったが、きみが持つISの知識と情熱、そして親近感ですぐに頭角を現すことだろう」

一夏「チーフ。それでも、――――――俺は勝ちたいです」

一夏「…………『打鉄』は機動力が低くても装甲や安定性はあるから、対空砲があればいい勝負になるかもしれない」

一夏「…………『ラファール』にもうちょっとスピードがあれば、何とかなるかもしれない」

技師「………………」

一夏「――――――勝てないんじゃないか、これ? 最初から」

技師「そんなことは考えるまでもなかっただろう?」


技師「きみが目指すべきなのは勝利ではなく、いかにISドライバーとしての素質を見せつけられるかどうかだ」

一夏「なるほど……だったら、パイロットの癖を見抜くしかないか……?」

一夏「初心者の俺としては単純なコンセプトによる勝ち筋を掴みたいが、」

一夏「ISがいくら脳波コントロールで直感的に操作できるとはいえ、機械制御だもんな……」

一夏「スピードで翻弄するか、圧倒的な火力で捻じ伏せるかができればな……」ハア

技師「そうだな。おそらく両機とも、きみの特性を活かしきれないだろう……」

技師「(私が思うに、“ブリュンヒルデ”同様に織斑一夏と相性がいいのは前者――――――ならば!)」

一夏「…………『ラファール』かな」

技師「そうか。それで、具合はどうだね?」

一夏「そうですね……」サワサワ

一夏「うん、今のところはスピードやGに耐えているな……」ドクドク

技師「初めての本格運用で一通りのアクションを行なってそこまでなら、今は十分だな」

一夏「“万が一のこと”なんて、起こらないでくれよ……」


技師「では、整備科の面々に挨拶にいこうか」

一夏「整備科の授業の参加や通常授業の免除の申請で便宜を図っていただきありがとうございました」

技師「いや、きみが本心からISエンジニアの道を選んでいた以上、この強制的な転科には整備科にも不満があったのだ」

技師「しかし、きみの方からそういった申請をしてもらえたことで、整備科のみなが喜んでいる」

技師「堂々としていたまえ」

技師「世間的には“世界で唯一ISを扱える男性”であったしても、我々は一人の技術者の卵として厳しく指導してやろう」

一夏「本当に何から何まで――――――感謝の言葉が尽きません」

一夏「たぶん俺はドライバーとしては、…………千冬姉のようにはいかないと思っていますから」

一夏「だから俺は、剣は置いてカードを手にした」

一夏「俺は、――――――弱いから」

技師「だが、きみには為すべきことが誰よりも見えている。そのために動くことができる」

技師「――――――力が無かったことを悔やむ必要はない」

技師「何よりあの選択を一番に後悔していないのが“ブリュンヒルデ”なのだからな」

技師「時を待つことをおいおい覚えていくといい」

一夏「はい。かつての外宇宙開発機構の創始者からこうして激励していただけるなんて光栄です」スッ

技師「よしてくれ。私は名誉職に天下りさせられただけの、今は何の力を持たないただの技術者だ」

一夏「謙遜しないでください。この道を選ぶきっかけになったのはあなたですから」

技師「そういうきみも謙遜しないでくれると、もっと伸びるぞ」

両者「はははははは!」

一夏《延命冠者》「そうそう、この“延命冠者”のようににこやかにいかないと」ニコニコ

一夏《延命冠者》「ああ、疲れたー」ニコニコ

一夏《延命冠者》「挨拶回りする身分になるとは思わなかった」ニコニコ

技師「時間を取らせないように訓練後にスケジュールを組んだのだ。我慢してくれ」

技師「ともかく今は時間に任せることだ」

技師「きみの学園生活は課外授業といい、授業免除といい、普通の学生のものではない」

技師「しっかりと、自己管理してそれを定着させていくのだぞ」

一夏《延命冠者》「はい!」ニッコリ

一夏《延命冠者》「あ、流れ星――――――」

技師「そうか、きみにも見えたか!」

一夏《延命冠者》「はい!」ニッコリ


――――――クラス代表決定戦、当日


箒「準備はいいか、一夏? 一日だけしかISの訓練に付き合えなくてすまなかった」

一夏「(クラス代表の座なんてどうだっていい)」

一夏「(ここでやるべきことは、セシリアさんにイイトコロを見せることだ)」

一夏「(勝てるだなんて思っていない)」

一夏「(俺なんかよりもよっぽどうまくクラスを率いてくれるさ)」

一夏「気にしないで、箒。どんな結果になろうとも俺は気にしないから」

一夏「それに、ISの訓練はできなかったけど、基礎訓練には付き合ってもらっているからね」

一夏「これからもよろしく、箒」ニコー

箒「……一夏」

一夏「(それに今朝のゲーム――――――)」

一夏「(コミュニティが全部「ハート」になる吉事もあったし、それでストレートフラッシュ――――――)」

一夏「(今日の俺はツイている、はずだ!)」グッ

一夏「だけど、俺は『ラファール』を選択したはずなんだが、何で用意されていないんだ?」

箒「そうだな」

山田「織斑くん、織斑くん! 来ました!」

一夏「お、ようやくか?」

山田「織斑くん専用のISが!」

箒「何!?」

一夏「ど、どういうことですか! 俺は『ラファール』を――――――」

一夏「“世界で唯一ISを扱える男性”――――俺って代表候補生の扱いなの?」

山田「それがですね……」

千冬「お前がどんな人間で、何故ここに転科させられたかを考えろ」

一夏「え?(俺がどんな人間だって――――――あ!?)」

一夏「ああ、そういうことなのか……」

箒「え、どういうことだ、一夏」

一夏「俺が“世界で唯一ISを扱える男性”だから、そのデータが欲しいって――――――」

千冬「そういうことになるな」

一夏「――――――何だよそれ」

箒「……一夏」

あなた様か………!
前のは良かったし続編を期待するけど
こっちも面白そうだな


箒「それでこの白い機体は?」

山田「コードネーム『白式』」

山田「織斑くんの適性に合わせた近接格闘型ISです」

一夏「は!? 格闘機!?」

一夏「ちょっと待ってください! 相手は狙撃機なのに格闘機が勝てるんですか!?」

一夏「いや、勝ち負けなんてどうでもいいけどさ……」

千冬「つべこべ言わず、装着しろ! 時間は限られているんだ」

一夏「理不尽だ…………」

箒「(すまない、一夏……私はただ見ていることしかできない……)」

一夏「あ、そうだ、箒!」

箒「な、何だ!?」

一夏「ちょっとそこにある袋から能面を選んで持ってきてくれよ」

一夏「――――――気を静めたい」

箒「わ、わかった」

山田「お、織斑先生? 大丈夫なんでしょうか?」

千冬「こればかりは成り行きを見守る他ない。だが――――――」

箒「(しかし、いろいろあるな)」ガサゴソ

箒「(一夏は私が選んだものを持って来いと言った。つまり、私のセンスが試されているということ……!)」

箒「(だが、時間がないし、どれも同じにしか見えない……!)」

箒「えっと、これだ!」ヒョイ

一夏「へえ、“俊寛”か。今の俺にそっくりだな」ジー

一夏《俊寛》「………………」ジー

箒「(な、何だ!? 一夏があのお面とそっくりの表情になったと思ったら、)」

箒「(こちらも何だか胸を締め付けられるような感じがし始めたぞ!?)」

一夏「よし」

一夏「――――――やるぞ、『白式』!」スッキリ

箒「ほ――――――って、一夏ぁ!」

箒「武運を祈っているぞおおおおお!」

千冬「さて、どうなるか楽しみだな」

山田「そ、そうですね」

千冬「(あれはチーフがお前のために用意したIS……)」

千冬「(しかし、それを告げてはお前は余計に気負ってしまう。だから、ただ理不尽とだけ感じてくれればいい)」

千冬「(初めての機体だが、どこまでやれるか見せてもらうぞ)」


セシリア「あら、てっきり『ラファール』で来るかと思いましたが、」

セシリア「――――――私からの決闘の申し出をお受けしていただき、感謝しますわ」

セシリア「クラス代表の座を賭けて正々堂々と、」

セシリア「勝負ですわ――――――え」ビクッ

一夏《俊寛》「………………」(絶望感と憔悴した表情で一点を見つめている)

セシリア「ど、どうして戦う前からそんなに追い詰められた表情をしているのですか!?」オロオロ

一夏《俊寛》「」グダー

セシリア「えと、本当に辛そうですわ(見ているこちらも胸が…………)」

セシリア「(あまりの緊張感で胸が張り裂けそうになったとか?)」

セシリア「(で、でも、あれだけの威圧感を出せる人が完全な初心者のはずが…………)」

セシリア「……今日の決闘は中止にしませんか? 万全でない相手を打ち倒したところで、私の勝利とは――――――」

千冬「アリーナを使用できる時間は限られている」

千冬「よって、中止は認められない。試合は予定通り行う」

千冬「覚悟を決めろ。では、始めるぞ」


アナウンス「試合開始」


セシリア「……気が乗りませんが、これは私があなたに仕掛けた決闘! 容赦なくいかせてもらいますわ」

セシリア「(さっきので戦いの高揚感が削がれてしまいましたわ。しかし――――――)」

セシリア「すぐに楽にしてさしあげますわ。この私の『ブルー・ティアーズ』の奏でるワルツで!」

セシリア「(これは嘘偽りない気持ちですわ。私の方も少し……)」ドックンドックン

一夏《俊寛》「」ヒュンヒュン

観衆「おおおお!」

セシリア「――――――っ!?」

セシリア「初見でこうも回避できるだなんて、やはり只者ではなかったですわ!」

セシリア「(あんなに苦しそうにしていてこうも的確に避けるだなんて、平静の時の実力はもっと――――)」ジンワリ

セシリア「(油断していたら負ける――――気を引き締めなくては!)」

箒「す、凄いぞ、一夏!」

箒「やはり、千冬さんの弟にふさわしい才覚はあったか」

箒「ん? しかし――――――」

セシリア「(そういえば、挙動がどうもおかしいですわね)」

セシリア「(見たことのない機体ですし、乗って間もないのでしょうけど、)」

セシリア「(何というか回避していると言うよりは、機体に振り回されているような…………)」

セシリア「(だとしたら――――いえ、そんなはずが…………!)」

セシリア「(なら、どうして『ブルー・ティアーズ』を混じえた十字砲火を躱せていられるのかしら…………)」

セシリア「(この人は、――――――間違いなく強い!)」

セシリア「(織斑一夏! 倒し甲斐がありますわね!)」ドキドキ





山田「……織斑先生。この状況をどう判断しますか?」

千冬「フッ、ビギナーズラックだな」

山田「え、でも、あれだけの攻撃を見事に掻い潜って――――」

千冬「山田先生もまだまだということだな」

山田「と、言うと?」

千冬「いいか。織斑は実戦前に我が学園の訓練機に試し乗りして研究してからこの試合に臨んでいた」

千冬「しかし、唐突にあの出所の怪しいISに乗せられた」

千冬「単純にその性能差に驚いて慌てふためいているだけにすぎん」

千冬「それを相手のほうが勝手に過大評価して、織斑の自分でもどうしようもないペースに乗せられた」

千冬「今の状況は、当事者たちが意図しない要因に振り回されている滑稽な場面ということだ」

千冬「入試首席だろうと“世界で唯一ISを扱える男性”だろうと、ひよっこはひよっこというわけだ」

千冬「(だが、さすがにこれは予想以上だったがな…………)」



一夏《俊寛》「くぅうううう」グダー

一夏《俊寛》「(声に出すな声に出すな声に出すな)」ヒュンヒュン

一夏《俊寛》「(何だよコレ!? とんでもない加速性能じゃないか!)」

一夏《俊寛》「(このスピードなら一矢報えると意気込んだけど、俺のほうが保たない……!!)」


――――――モレソウ!


一夏《俊寛》「(こうなることを覚悟して、恥を忍んでおむつまでしたけど、)」

一夏《俊寛》「(やっぱり漏らしたくないよおおおおお!!)」

一夏《俊寛》「(くそう、剣1つでもこの加速性能ならやれると思ったのに、情けねえ…………)」

一夏《俊寛》「(だが、このままだとジリ貧だぁ……)」

一夏《俊寛》「(一か八かやるしか――――――しまった、直撃!?)」

一夏《俊寛》「ぐぅうう! (――――――あ!)」

一夏《俊寛》「(ああああああああああああああ!)」


セシリア「よ、ようやく直撃させることができましたわ……」

セシリア「て、敵ながら見事なIS操縦――――さすがは“ブリュンヒルデ”織斑千冬の弟ですわね」ハアハア

セシリア「(よく考えたら、本当に整備科から転科してきただけなら、専用機がすぐに用意されるはずが…………)」

セシリア「(私から決闘を持ちかけられた時のあの余裕の表情はやっぱり――――――!)」

観衆「あ!」

観衆「織斑くんの機体の形が変わってく!」

箒「ファーストシフト(第一形態移行)!」

セシリア「――――――ま、まさか、未調整の機体であれだけの機動性を!?」アセタラー

セシリア「はっ、しまった!(今まで回避に徹していたのはファーストシフトするための慣らし運転と――――――)」

セシリア「(第3世代型ISの弱点である燃費の悪さを狙った持久戦に持ち込むため!?)」

セシリア「(ま、まんまと術中に嵌ってしまいましたわ!)」ゴクリ

セシリア「ここは相手の出方を見守る他ありませんわ。しかし、油断は禁物!」




千冬「動きが止まったところをさっさと仕留めない辺り、未熟者だな」

山田「それはそうでしょうけど、私でも未調整の機体であれだけのことをして、対戦中に形態移行したら警戒しますよ」

千冬「形態移行して「最適化」しても基本武装が増えることはない」

千冬「つまり、依然としてこの状況、オルコットが優位であることに変わりがない」

千冬「まあ、偶然に偶然が重なってまともな状態でも状況でもないから、しかたがないといえばしかたがないが……」

千冬「(もはや何も言うまい…………)」


一夏《俊寛》「………………ぅう!(早速コレかよ! もうイヤあああ!)」

一夏《俊寛》「(せめて、面に出すな面に出すな……)」

一夏《俊寛》「ん?」

一夏《俊寛》「(何故だか知らないけど、攻撃が止んでいる)」

一夏《俊寛》「(もういい! 俺はもうここには居られん!)」

一夏「(――――――立つ鳥 後を濁さず!)」

一夏「(やっちまえええええええええ!)」

一夏「うわあああああああああああああ!」


セシリア「……き、来ましたわね!(『ブルー・ティアーズ』よ、敵を撃て!)」

セシリア「――――って、速い!?(『ブルー・ティアーズ』が追いつかない!?)」

セシリア「い、いけない! 抜けられた……(早く迎撃しないと――――――はっ!?)」

一夏「俺はあああ!」

セシリア「っ!?(ま、間に合わない――――――!?)」

一夏「あなたが好きだああああああああ!」(好きか嫌いかで言えば)

セシリア「へっ!?(ミサイル発射――――――)」ドキン


チュドーン!


箒「い、一夏あああああ!」

観衆「イッタイドウナッタドウナッタ」ガヤガヤ

山田「お、織斑先生! これは――――――!」

千冬「…………まったくおもしろい試合だったよ」ヤレヤレ

観衆「ハレテキタヨー」


アナウンス「勝者、織斑一夏――――――」



アナウンス「――――――の棄権により、勝者、セシリア・オルコット」


箒「き、棄権だと!?」

観衆「ド、ドウイウコト」ザワザワ


山田「お、織斑くんのこ、告白はい、いったい……?」

千冬「そのことは胸の奥に閉まっておいてくれないか、山田先生?」

千冬「あの子はしっかりしているで脆い子だからさ」

山田「は、はい。わかりました……」ドキドキ

千冬「後で二人を労ってやってくれ(さて、ここから私の仕事か)」


セシリア「ど、どうして私は勝って――――――え!?」

一夏「俺は何てことをおおおおおおおお!」ワタワタ

セシリア「あ、あの落ち着いてください」

セシリア「何故この状況で棄権を選択できたのですか!」

セシリア「悔しいですが、あなたの勝ちは見えていたんですよ!」

一夏「俺は、そんな1回の勝負なんかよりも人としての大事な一線を守れなかったんだよぉ……」

セシリア「え!?(そ、それって――――――)」ドキッ

一夏「俺はこの学園から出て行きますから、お達者でえええええええ!」

セシリア「そ、そんな! ま、待ってください、織斑一夏!」ヒュウウウン

セシリア「行かないでください! 行かないでええええ!」


――――――同日、夕方


千冬「やはりここに居たか、一夏」

一夏「やっぱり、千冬姉にはお見通しか……」

一夏「俺、千冬姉みたいにかっこよく戦いたかったのに、」

一夏「あんなみっともない戦いをしちゃって、」

一夏「ごめんなさい、ごめんなさい……」シクシク

千冬「いいんだ。少なくともお前以外の誰もが今日の戦いを見て大したものだと褒めているぞ」

千冬「偶然の積み重なりとはいえ、――――――初日でファーストシフト、そして早速イグニッションブーストで代表候補生を追い詰めたのだ。みな口を揃えて、お前は私の弟に恥じないと言っているぞ」

千冬「それに、お前の告白も、私と山田先生、オルコットしか聞いていない」

千冬「だから、大丈夫だ」

一夏「でも、千冬姉の真似をしようとして無理だってことが、嫌でもわかった。わかりきってたことなのに……」

一夏「俺は、いっつも中途半端で、こういった生の戦いではいつも気後れしてて……」


千冬「――――――やればできる」


一夏「?」

千冬「お前には私には及ばないが非凡な才能がある」

千冬「お前はお前だ。自分の持つ大切なモノを大事に育てていきなさい」

千冬「……それにお前が退学する場合は、罰金が私から支払われるからな」

一夏「そ、そんなぁ!?」

千冬「――――――と言うのは、嘘だ」

一夏「ええ!?」

千冬「ただそれに近いものが課せられたということは覚えておけ」

一夏「俺が、ISを動かしたばかりに……」

千冬「だが、お前はISエンジニアを目指した以上、遅かれ早かれこういう事態になったのだ」

千冬「泣けるだけ今は泣いておけ。いずれお前は自分の素顔すら飾りになるのだから」

千冬「それが嫌なら、自分を受け容れろ。そして、自分を信じろ」

一夏「…………うん」

千冬「何をすればいいのかわからないなら、自分の弱点を克服することに目を向けて真剣に悩め」

千冬「そして、挑め。私は応援している」

千冬「ではな。いつまでもトイレに篭っているなよ」


一夏「………………」フゥ

一夏「もう少し付き合ってくれるか、こんな俺に……『白式』」

一夏「ここに来たのも“いかがわしい目的”というのもあったからなんだけれどもさ、」

一夏「そんなことよりも一番の理由が、」

一夏「――――――千冬姉の近くに胸を張って居られるようになろうって思ったからなんだ」

一夏「お前が『白騎士』と『暮桜』の因子を受け継ぐ機体だと言うのなら、」

一夏「俺のことも導いてくれ……」

一夏「あの日からずっと逃げ続けてきた俺を…………」ポロポロ

漏らしたのだろうか

授業中に漏らしたことあるけど 快感だよ!

支援






一夏『失礼なんかじゃありませんよ!』ガッ

一夏『麗しい貴婦人だな、と見蕩れていただけです』


セシリア「あの時、私が感じていたものは――――――」ドクンドクン


一夏『俺はあああ!』

一夏『あなたが好きだああああああああ!』

一夏『俺は、そんな1回の勝負なんかよりも人としての大事な一線を守れなかったんだよぉ……』


セシリア「そう、あの人は私に――――――」

セシリア「そして、あの時の私もまた――――――」

セシリア「織斑一夏…………」ポー

見ているよ


これで、第1話が終了です。
まさか、あと一歩のところで規制されるとは…………

今作は前作の1.5倍ほどの文章量となっているので、
開幕からこの調子だとかなりの長丁場となってしまいそうです。
毎日投稿しても今月中に完結するかどうか…………
気長なお付き合いをお願いします。

ともかく、歯切れ良く投稿するために、環境を探しておきます。

なので、10分経っても更新されなかったら、張り付くことなど他のことに目を向けてください。


次からもっと読み切りにならず、途切れ途切れになると思いますので、何卒ご容赦ください。


第2話 クラス対抗戦
Under Siege 

――――――IS実習、飛行訓練


千冬「では、試しに専用機持ちの二人、実践してみせろ」

セシリア「了解しました。――――――展開」

一夏「…………」スウハア

一夏「来い、『白式』!」

セシリア「では、行きます」

一夏「俺も続く!」

周囲「おおおおお!」

箒「おお、もうすっかり『白式』をモノにしているな」

山田「すごいです、織斑くん!」

千冬「うむ。ここまでは順調だな(さて、問題はここからだな)」

千冬「(すでに弟はISの運用面と技術面の基本をすでに知識の上では理解しきっている)」

千冬「(問題は、弟にとって知っていることと体験することの差がどれほどのものかだ)」


セシリア「お上手ですこと」

一夏「そうですか。ありがとうございます」

セシリア「……あの、私とは専用機持ち同士、親しくお付き合いしていただけませんか」モジモジ

一夏「本当に?!」グッ

セシリア「ええ。ですから――――――」

千冬「では、急降下と完全停止をやってみせろ」

両者「――――――了解!」

セシリア「……では、私から――――――」

一夏「いや、3カウントで同時に行こう」

セシリア「わかりましたわ、一夏さん」

一夏「よし、3,2.1!」

ヒュウウウウウウン

一夏「(………………あ)」

周囲「おおおおおお!」

セシリア「やりましたわ、一夏さん!」

一夏「そ、そうだね」ニコー

山田「素晴らしいです。よくできましたね」

箒「さすがだな一夏。最初であれだけの機動ができたのだから、当然か」

周囲「オリムラクン、カッコイイー」

一夏「…………はは」メガウツロ

千冬「…………(いかん)」


――――――また、モラシタ。



一夏「……あ」グラッ

セシリア「一夏さん!?」

箒「一夏!」

山田「織斑くん!」

千冬「…………よくやった」ガシッ

一夏「すみません(言う順番が逆だよ、千冬姉)」

千冬「馬鹿者。急降下にイグニッションブーストはやり過ぎだ」

千冬「基礎は十分に理解できているようだから、今は余裕を持って数をこなしていけばいい」

一夏「でも、こんな程度じゃクラス代表として申し訳ない――――――」

千冬「(なるほど、妙に高等技術に拘り始めた理由はそれか)」

周囲「キニシナイデーオリムラクン」

セシリア「そうですわ! 無茶をして身体を壊したら身も蓋もありませんわ!」ダキッ

箒「そうだぞ、一夏。クラス代表というのは強いだけじゃ務まらないものなのだから」

箒「(セシリアの猫被りめ! クラス代表決定戦を境に急に態度を…………!)」イラッ

セシリア「(一夏さんとはお付き合いが長いようですが、鬼の皮を被っているあなたには負けられませんわ!)」ドヤガオ

一夏「…………ありがとう、みんな」

一夏「(これまで逃げ続けていた自分が情けない…………)」

一夏「(こうやって、何か始めようとして満足いく結果がすぐに出ないと、焦っちまうんだよ)」

一夏「(身も心も情けない……)」

一夏「(最近のゲームも微妙な展開が多いし、今は地道に努力するしかないか……)」


――――――同日、夕食にて


女子「それでは、いっせいのせっ!」

――――――織斑くん、クラス代表決定、おめでとう!

周囲「オメデトー」パチパチパチパチ

一夏「こういう催しで多くの人に祝ってもらえるなんて、行きつけの――――――久々だな」フキフキ

箒「相変わらず、能面を手放せない男だな」

一夏《延命冠者》「“延命冠者”だよ。見ているだけ心がウキウキしてきますよね」ニコニコ

セシリア「い、一夏さんの笑顔が眩しい……」ポー

周囲「ウンウン」ニコニコ

箒「…………人気者だな、一夏」ニコニコー

一夏《延命冠者》「男はつらいよ」ニコニコ

箒「ふん。その表情で言われてもちっともそうは思えないぞ」ニコニコー

一夏《延命冠者》「ああ、はは…………」ニコニコ

一夏《延命冠者》「でも、クラス代表の座の委譲をわざわざこんな形で見せつけなくても……」ニコニコ

セシリア「それは決闘を申し込んだ者の礼儀ですわ」

セシリア「あなたの実力はここにいる誰もが認めておりますわ」

セシリア「私自身もあれだけの実力差を見せつけられておきながら、」

セシリア「棄権で勝っただなんて認めたくありませんもの」

セシリア「それに、私自身があなたの戦いをもっと見ていたいと思いまして……」モジモジ

一夏《延命冠者》「……そうなんだ(――――――どういうことなの?)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(おかしい。何かがおかしい。周りと俺との認識の間に大きな隔たりがある……!?)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(というかセシリアさん? すっかり態度変わってない? 俺の知っているセシリア・オルコットはそちらのお国の独身女王のような気高さと愛嬌のある人物だったはず……! これまでの毅然とした態度はどこに……?)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(む、胸が、当たって――――――)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(ふははは! 男の浪漫、キタアアアアア!)」ニコニコ

女子「新聞部です! 専用機持ちのツーショットお願いします!」

セシリア「では、一夏さん」パシッ

一夏《延命冠者》「うん、セシリア(ひい、女の子の方から手を握られた……!)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(しかも、こんな別嬪さんから? 嘘、マジで!? 夢じゃないよね――――――!?)」ニコニコ

セシリア「(私に近寄ってきた男たちはみな下心を覗かせておりましたが、)」

セシリア「(この方は今まで見てきた人たちはまるで違う……)」

セシリア「(――――――この方ですわ! 私の運命の人は!)」

一夏《延命冠者》「(いかんぞ、俺。ど、どうやら俺は千冬姉が言うように、まだ『ちょっと抜けているけどそこが可愛くてカッコイイ イケメン』らしいから、期待を裏切らないように平静を装わねば、装わねば、装わねば…………)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(俺は『プレイボーイ』にはなれない。だったら、少なくとも今の体裁を保つだけで十分だ)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(そう、十分すぎる。十分すぎるんだ……)」ニコニコ

パシャ

セシリア「ああもう! 何でみんな入ってくるんですか!」

一夏《延命冠者》「そんなに俺とのツーショットが欲しいんだったら、それぐらい付き合ってあげるから、ね?」ニコニコ

セシリア「い、一夏さん……」デレデレ

箒「むむむ……!(一夏め…………!)」イライラ


――――――同日、夜


一夏「はあ、いいなー、箒の踏み心地」

注意:一夏が箒に踏まれている。

箒「そ、そうか」フミフミ

一夏「本当にね。足ならばしっかりと力が伝わって身体が解れていくよ」

箒「わ、私なんかで一夏が、その、気持よくなってくれれば、幸いだ」

一夏「(ぐへへへ、本当は蒸れた足で踏んでもらいたかったけど、贅沢なことは言ってられない)」

一夏「(猫やウサギの前足が乗せられた時の幸福感に似たものを感じる……!)」

一夏「(顔に出すな顔に出すな顔に出すな。顔に出した瞬間に、立ち消えてしまうから)」

一夏「(このぐらいは別に、バチは当たらないよな~?)」

一夏「(男の身体に馬乗りになるのには抵抗はあるだろうけど、こうやってフミフミする体勢なら恥ずかしいはずがないもんね~? よって、不純異性交遊には該当しない――――――)」

一夏「(って、よく考えなくても、男女が同じ部屋で寝泊まりするこの状況の時点でアウトじゃねえか)」

一夏「(まあ、そう長くは続かないはずだけど…………)」

一夏「(だったら――――、ぐひひひ、目一杯堪能させてもらうぞ、箒!)」

一夏「ふふふ…………」ニコニコ

箒「(一夏が凄く安らいだ表情をしている。私も凄く心が安らいできたぞ)」

箒「(この時間がずっと続けば――――――)」

箒「(ば、馬鹿を言うな! それではセシリアとまったく同じ――――――)」

箒「(で、でも、私は――――――)」

箒「(ああ、どうしたらいいのだ…………)」

一夏「(ぐへへへへ…………)」


女子「もうすぐクラス対抗戦だね」

一夏「とりあえず、専用機持ちっていうのは俺だけになったってことなんだよね?」ガサゴソ

女子「うん。4組の子の専用機がまだできあがってないんだって」

女子「それじゃ、唯一専用機持ちの織斑くんの一人勝ちだね」

鈴「その情報、古いよ」

一同「――――――!?」

鈴「2組もクラス代表が専用機持ちになったの。そう簡単には優勝できないから!」

一夏「へえ、それじゃ、俺は優勝は諦めて堅実に2位になれるように、『打鉄』と『ラファール』の対策でもするとしよっかなっと」ガサゴソ

セシリア「そんな、一夏さん! まだ相手が強いとは決まってませんわ!」

女子「そうだよ、織斑くん。まだ諦めるのは早いよ」

箒「そうだぞ、一夏! 弛んでるぞ!」

一夏「そんなこと言われても――――――」ヒョイ

鈴「って、一夏あああああああああ!」

一夏「ん?」

一夏「……鈴。お前、鈴じゃないか(げ…………)」

鈴「そ、そうよ。中国代表候補生 凰鈴音!」

鈴「今日は宣戦布告に来たってわけ!」

一夏「(どういうことだ……!? あの鈴が代表候補生になってここに来ただと……?!)」

一夏「(マズイマズイマズイマズイ)」

一夏「(あいつは俺の過去を知っている! 暴露されたら、暴露されたら、暴露されたら…………!)」

一夏「(せっかくイメチェンして強くてカッコイイ『イケメン』の俺を演じていられるのに、全てが水泡に帰す…………!)」

一夏「(は、早く何とかしないと…………)」


――――――同日、昼休み


一夏《延命冠者》「まさか鈴が代表候補生になって帰ってくるだなんて思いもしなかったよ。ちょうど1年ぶりになるのか」ニコニコ

鈴「あんた、相変わらず表情が堅いわね。千冬さんも心配してるわよ」

一夏《延命冠者》「ははは、俺は笑顔が似合うように頑張ってきたから、もう止められないよ」ニコニコ

鈴「たまにはみっともなく泣いてみせなさいよ」

一夏《延命冠者》「どういう希望だよ、そりゃ」ニコニコ

箒「………………」イライラ

セシリア「………………」ムス

一夏《延命冠者》「(ヤバイ! こんな調子じゃ俺の過去なんてあっさり暴露されてしまう!)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(どうにかしないと、どうにか…………!)」ニコニコ

鈴「でも、驚いたわ。まさかIS学園の整備科に入った男子がISを起動させて、そのまま転科しちゃったなんて」

一夏《延命冠者》「それはもう何度も言われたことだよ」ニコニコ

一夏《延命冠者》「それで成り行きで専用機まで与えられて、クラス代表になって……」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(――――しまった! IS関係のことは俺の黒歴史に触れる可能性が高い!)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(くぅ、考えるんだ! 見通すんだ! そして、俺の今を守るんだ!)」ニコニコ

箒「一夏! そろそろ説明して欲しいのだが」

セシリア「そうですわ、一夏さん!」

一夏《延命冠者》「おや……(ナイスタイミング! って、何でセシリアがそこに出てくる?)」ニコニコ

セシリア「ま、まままま、まさか、こ、こちらの方と付き合って――――――!?」

鈴「べべ、別に私は…………」

一夏《延命冠者》「(――――――は? 何でセシリアがそんなことを訊くの!?)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(ま、まさか――――――!?)」


一夏『俺はあああ!』

一夏『あなたが好きだああああああああ!』


一夏《延命冠者》「(あ、あれを、性的な意味でまじめに受け止めてしまったのか……?!)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(だとしたら、やっぱりあの時の俺をブチ殺したい…………!!)」ニコニコ


箒「一夏、どうなのだ!?」

セシリア「一夏さん、答えてください!」

一夏《延命冠者》「(俺は――――――ってそんなこと言っている場合じゃない! とにかく、今後は鈴の口封じとセシリアの態度の急変の真意を確かめておかないと――――――!)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「そうだな。言うなれば、セカンド幼馴染、かな?」ニコニコ

鈴「一夏……」ガッカリ

一夏《延命冠者》「そして、こちらの篠ノ之箒がファースト幼馴染、だよ」ニコニコ

箒「ファースト……フフ」

鈴「へえ、初めまして」ゴゴゴゴゴ

箒「ああ、こちらこそ」ゴゴゴゴゴ

セシリア「私を無視しないでくださる!」

鈴「ごめん、興味ないから」

セシリア「言ってくれますわね……」

3人娘「ギャーギャーワーワー」

一夏《延命冠者》「(女三人寄らば姦しいってか? 俺を置いてけぼりにして何か話を進めているけど、)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(とりあえず一人ずつ懐柔していくない……)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(とにかく、『プレイボーイ』は諦めて『イケメン』になろうとしているんだ、俺は!)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(何としてもこの苦境を捌いてみせる……!)」ニコニコ

箒「一夏!」

セシリア「一夏さん!」

鈴「一夏ぁ!」

一夏《延命冠者》「(そして、無事に卒業してやるううううううう!)」ニコニコ


――――――同日、夕方


セシリア「今日はこのあたりで終わることにしましょう」

一夏「(何で箒とセシリアの2対1の模擬戦になっているんだ……)」ハアハア

一夏「(しかも、綺麗に近距離と遠距離に分かれて俺の動きを抑えて滅多打ちにするとかよぉ……)」ハアハア

一夏「(だ、だけど、そんな状況でもお、俺は…………)」

一夏「(一度ずつ『零落白夜』を直撃させることができたから、少なくとも期待には応えられたはず……)」ハアハア

一夏「(――――――あ)」


――――――また、モラシタ。いや、モラシタのに気づいていなかった。


一夏「(――――――死にたい)」ハアハア

一夏「(何度経験しても慣れないな……)」

一夏「(それを悟られていないのが唯一の救いか……)」

一夏「(あ、でも、俺がおむつ履いているのはもう学園では周知の事実……)」

一夏「(あんまり大差が無え…………)」

箒「一夏、お前は叩けば叩くほど伸びる。次も頑張れよ」

セシリア「一夏さん。また明日」

一夏「箒も先に帰っていてくれ。それで、シャワーと着替えを済ませておいてくれ」ハアハア

箒「ああ、そうさせてもらうよ。身体を冷やすなよ」

一夏「………………」ハア

一夏「やっぱ、箒も強い」

一夏「ISは直接的に人が動かすパワードスーツだから、『打鉄』のような初心者から上級者まで扱える機体になると、IS適性関係無しにパイロットの身体能力が反映される」

一夏「逆に言えば、どんなに強いISでもパイロットが弱ければ性能を発揮しきれない」

一夏「……なあ、『白式』?」

一夏「お前、俺なんかでいいのか? あんなにあっさり「最適化」なんてしてさ……」


――――――ISのコアには意識のようなものがある。


一夏「開発者である篠ノ之束にしかわからないブラックボックスがどんなオーバーテクノロジーの結晶なのかは知らない」

一夏「でも俺は、クラス代表決定戦の時に初めて会ったお前のことを知っているような気がする」

一夏「お前もそうなのか、『白式』?」

一夏「見てくれよ、『白式』……今日は星空が綺麗だぞ……」


――――――だから、いつかね?


一夏「おむつ、定期購入決定だな……」ハア

鈴「おつかれ、一夏。はい、これ」

一夏「……あ、鈴。ありがとう。待っていてくれたのか」

一夏「(聞かれたか…………いや、どっちみち噂になっている以上は知られることか)」

一夏「(それよりも、――――――まさかのチャンス到来!?)」

鈴「えへへ、まあね」

鈴「あのね…………」

一夏「何だ、鈴?」

鈴「やっと、二人っきりだね」モジモジ

一夏「そうだな(ああ、そうだとも! 何としてでも口封じさせてもらうぞ、鈴!)」

鈴「一夏さ、やっぱ私が居ないと寂しかった?」

一夏「俺はそうは思わなかったぞ?」

鈴「え?」


一夏「だって、今こうしてここに居るじゃない(過去に目を向けさせはしない!)」


鈴「い、一夏……」

一夏「あれっきり連絡が取れなくなっていたけどさ、俺は俺で、俺の夢のために必死に努力していたんだ」

一夏「だから、寂しいだなんて思わなかった」

一夏「鈴だって、俺と別れてからたった1年で代表候補生にまでなっただろ?」

一夏「それで、すぐにまた会えて、その上で同じ道を歩む同志になったんだから、他に言うことなんてないだろう?」

一夏「だからあの1年間は、俺たちがこうしてここに居るために必要なものだったんだよ」

一夏「これで満足かな?」ニコー

鈴「一夏……ううん、それもそうね!」

一夏「(ふふふふふ! 見たか、俺の巧みな交渉術!)」

一夏「(反応も予想通り! ここで、最後の楔を打ち込む――――――!)」

一夏「だから、俺にとっては今も昔もお前との関係は変わっていない」

一夏「だけど、そこに今度はクラス代表という対等のライバル関係が追加された」

一夏「だから俺、――――――本気で行くから」キリッ

鈴「……やっぱり、一夏は一夏だったわ」ハア

一夏「(…………た、溜め息? 何故だ!? 俺の記憶の中の鈴だったらこんな反応は――――)」

鈴「うん。やっぱり、一夏に会いに来てよかった」ニコッ

鈴「身体冷えてきたでしょうし、それじゃまたね、一夏! 今度は私と訓練しましょうね!」

一夏「ああ、よろしく頼む!」

鈴「あと、クラス対抗戦、負けた方が勝った方の言うことを何でも聞くってことにしよー!」

一夏「ああ、負けないぞ!(ふふふ、相手の方から好条件を出してくるとはな…………あれ?)」


一夏「………………」シーン

一夏「ええええええええええ!?」

一夏「(――――――今、何て言った?)」

一夏「(『俺に会いに来た』って言ったのか?)」

一夏「はああああああああああああ?!」

一夏「(ヤバイヤバイヤバイヤバイ)」

一夏「(アレ、オカシイナ? 俺ノ知ラナイ所デフラグガ立ッテイタ、だと……!?)」

一夏「(ああ、何てことだ…………)」

一夏「(じゃあ、やっぱりセシリアもそうなのか……?!)」

一夏「(――――――あいつら、チョロくね?! 勘違いしすぎじゃね!?)」

一夏「(だ、大丈夫なのか、あいつら!? 悪い男に将来捕まりそうで怖いんだけど…………)」

一夏「(それとも、男に餓えていたのか? それはそれで怖い……!)」

一夏「(ダメだ! ここで手を出したらきっと俺は人間ではない何か別な物になってしまう……)」

一夏「(耐えるんだ……! 俺は『イケメン』なんだぞ! 『イケメン』に相応しくあらねば…………)」

一夏「(――――――俺は『プレイボーイ』にはなれない!)」

一夏「(だからせめて、みんなが好意を寄せている『イケメン』で在り続ける他ないのだから…………!)」



番外編1 一夏の特訓その1

――――――“夢の港湾”にて


一夏「ひやあああああああ!」

一夏「(耐えろ! 耐えるんだ!)」

一夏「あ、ああ、やったやったよ……」ハアハア

一夏「これで最後の――――6戦目から数えて5回目」

一夏「俺はこの『“夢の港湾”史上最恐』を制したんだ……」ガッツポーズ

係員「(ああ、あの人、ようやく何かを掴めたのか……良かった)」



織斑一夏はクラス対抗戦前の休日を利用して、“夢の国”に訪れていた。

しかし、クラス対抗戦を前にして遊び呆けていた訳ではなかった。

彼は脇目も振らずに、何度も何度も『“夢の港湾”史上最恐』のアトラクションに乗り続けていた。

そう、ただひたすらに朝夕――――開演時間から閉園時間ギリギリまで、一人でフリーフォールし続けていたのである。

アトラクションの係員に顔を覚えられて心配で声を掛けられるほどに、

見ていて哀れに思える孤独で酔狂な遊園地のプレイスタイル…………


――――――それこそが、織斑一夏が考案した合宿の在り方であった。



一夏『鈴とあんな約束したけど、正直『白式』でやれることが少ないから、対策なんて簡単に取られるんだよな』

一夏『織斑先生、俺、勝ちたいんです』

千冬『なら、お前はまず自信を付けろ』

一夏『自信を、ですか』

千冬『お前は一度決めたことに対して弛まぬ努力と情熱を注げる、とてもいい素質を持っている』

千冬『だが、それとは裏腹にお前の精神は非常に脆い』

千冬『少なくとも、間違いなくお前はやればできる子なのだから、もっと強気な姿勢で臨んでいいのだぞ?』

一夏『だけど、俺には理論を実践するだけの勇気と実力がない……』

千冬『まあ、すぐに克服できれば私などに相談などしないだろうな』

千冬『じゃあ、課題をやろう』

一夏『――――――課題?』

千冬『そうだ』

千冬『――――――スピードの感覚に慣れろ。あるいは、もっとISを信頼しろ』

千冬『そうすれば、お前の“アレ”は無くなる』

千冬『それが出来る場所を探しだして、特訓してこい』

千冬『安心しろ。強化合宿という名目で平日を公欠にしてやり通していい』

千冬『現在のお前の授業の理解度を鑑みても1週間程度授業をサボっていても成績トップは揺るぎないだろうからな』

一夏『――――――スピードの感覚に慣れる』

千冬『正確には、身体にかかるGの感覚に慣れろ、と言ったところだが』

一夏『わかりました。なるべく公欠にならない方向で計画してみます』

千冬『よし。熱意ある生徒の相談は大歓迎だからな』

一夏『ありがとうございました! では!』

一夏『(俺は対しては相当甘いんだけどさ……)』

一夏『(――――――感謝しているよ、千冬姉)』



――――――ホテル


一夏「よし、“夢の港湾”での用事は完了っと」

一夏「明日は、“夢の国”の“雷轟山脈”、“瀑布山脈”、“暗黒山脈”の3大マウンテンをハシゴするぞ!」

一夏「うん。おむつの残量もちゃんとある。思ったよりも消耗が少なかったな」

一夏「毎日 ISの特訓していたからある程度は慣れてきたってことかな?」

一夏「ともかく、開園と同時に全速力で“暗黒山脈”に挑戦して、それから“雷轟山脈”と“瀑布山脈”を往復しよう」

一夏「ファストパスを取りまくるぞ!」

一夏「大丈夫かな――――――いや、信じるんだ!」

一夏「俺は『“夢の港湾”最恐』を制覇したんだ!」

一夏「俺ならやれる! 勝って揺るぎないものを手にしてやるんだ!」



はあはあ…………!


キュイイイイン!

アスファルトを荒く削るブレーキ音。

いつも通りの今日を送っていた少年。だが今夜は、少年にとって特別な日であった。

ある競技の世界大会のテレビ観戦に胸を弾ませて帰宅しようとしていたのだ。

突如として、行く手を遮るように道路脇に寄せられたクルマから現れた黒尽くめの男たち。

少年は本能的に何かが危ないことを悟り、踵を返して回り道しようとする。

しかし、迫り来る非情なる大人の腕、腕、腕――――――!

必死に抵抗するが、大人の腕力と数に捻じ伏せられ、更に容赦無い暴力を振るわれ、身体が動かなくなった。

そして、身動きの取れない少年の身体は箱に詰められてただの荷物のように粗雑に扱われた。

猛スピードでドリフトする真っ暗なクルマの中で箱が転げ回り、あちこちぶつけた。

それは終わることのないトルネードの渦中に放り込まれたことのような出来事だった。

更に、陸路が終われば今度は悪天候の中を箱詰めされて海運で運ばれた。

それがどんなに地獄だったかは筆舌に尽くしがたい。

その果てに、少年は気づくと廃工場の中に閉じ込められていた。

目隠しはすでに取れていたことがかえって災いし、自分の知らない世界へと連れ去られたことを痛感してしまうのであった。

ここまでに少年は、身体から出せる体液という体液を出し尽くしており、見るも無残な状態であった…………。



はあはあ…………!


一夏「うわあああああああああ!」ガバッ

一夏「はあはあ……」ゼエゼエ

一夏「また、あの日の夢…………」ハアハア

一夏「忘れたくても忘れられない……怖さ……無力さ……暴力……理不尽さ……」ブルブル

一夏「――――――大丈夫。ダイジョウブだったからあとは『白式』を信じるんだ……『白式』は俺の導いてくれる……」ハアハア

一夏「信じるんだ。あの日、俺を助け出してくれた織斑千冬の言葉を、勇姿を――――――!」



――――――翌日、“夢の国”にて


一夏「やったぞ! “暗黒山脈”攻略完了だ……!」

一夏「これで、後は“雷轟山脈”と“瀑布山脈”の間をハシゴすればいいだけになった」

一夏「しかし、やっぱり怖かったなー(だけど、昨日さんざんおむつを使って克服しただけあって1回も漏らさなかった!)」

一夏「(――――――いける! 段々俺はものにできている! 強くなっている、俺は!)」グッ

一夏「えっと、PDAのバッテリーもそろそろ危ないし、ここは一旦引き上げるか」

一夏「次いでに、千冬姉やみんなにおみやげ、先に買っておくか」

五反田「あれ、お前、一夏じゃないか!」

一夏「うん? ああ、弾じゃないか!」

五反田「奇遇だな。でも、珍しいな お前が一人だなんて」

一夏「そっちこそ、蘭はどうしたんだよ?」

五反田「えっと、本当は蘭と一緒がよかったんだけど、蘭のやつ、脚を挫いて、ホテルにな……」

一夏「そうなのか。俺は一旦ホテルで休憩する前に、先におみやげを買おうと思っていたんだけど」

五反田「俺もだ。家族旅行で来たんだけどさ――――って、今回のお前の連れは?」

一夏「いや、俺は一人で合宿に来ているんだ」

五反田「合宿? 一人で? “夢の国”で?」

一夏「ああ、そうだぞ。俺はどういう因果か千冬姉と同じ道に入ることになった。だから――――――」

五反田「わかったわかった。みなまで言うな、みなまで」

一夏「弾?」


五反田「お前って何て言うか、太陽みたいに自分で輝いているように見えるんだけど、」

五反田「何故か月のようにひっそりと振る舞うんだよな」

一夏「なんだよ、詩人にでもなったのか」

五反田「いや、正直な感想なんだよな」

五反田「何だかお前って『能ある鷹は爪を隠す』を地で行くって感じでさ」

五反田「前々から思ってたぜ?」

五反田「もっと自信を持てばさ、一夏は一度決めたことにひたむきになるから、俺とかなんかよりもずっと凄いのに――――お前は自分で自分の良さを否定してばっかりで、そのくせ人を立てることにも長けていたからずっと歯痒く思ってた」

一夏「………………」

五反田「だから、IS学園に入るって聞いた時は、『ああ、ようやく自分の良さを認められるようになったんだ』と思ったよ」

五反田「変わったな、一夏」

五反田「前はいっつも俺とかと一緒じゃないとこんなふうに出かけることなんてしない明るいようで内気なやつだったからさ――――」

五反田「だから俺は、一夏が転科して女選び放題のウハウハハーレム状態になってうらやまけしからんと思っている以上に、」

五反田「――――――お前が自分のことで熱心になっている姿が見られて本当に嬉しいぞ」

一夏「……ありがとう、弾」

五反田「いいってことよ。俺も蘭もお前のお世話になってきたことだしな」

五反田「そういえば、合宿ってことはホテルに泊まっているんだろう? どこのホテルだ?」

一夏「あっちの方のだ」

五反田「あちゃー、じゃあ俺たち家族のホテルとは正反対の場所にあるのか……」

五反田「なあ、一夏。蘭のために今のお前の写真 撮らせてくれないか?」

一夏「いいぜ、そういうことなら」

五反田「恩に着るぜ。この“夢の国”でどういう特訓をしているのかは知らないけど、」

五反田「一夏のことだ。特訓がうまくいくことを祈ってやるぜ」

一夏「そっちもな。蘭によろしく伝えておいてくれよ」

五反田「じゃあ、俺はこれで。また遊びに来いよ」

一夏「ああ! 鈴も帰ってきたことだし、またみんなでな」

一夏「………………」

一夏「弾も千冬姉と同じ事を感じていたんだな」

一夏「…………自信か。俺に足りないのはそれだな」

一夏「よし、頑張らなくちゃ!」



織斑一夏の基本的な特訓の流れ

1,アトラクションに全速力で駆け込む

2,ファストパスをとる

3,待ち時間はひたすら『モンド・グロッソ』優勝時の織斑千冬のビデオを鑑賞し続ける

4,アトラクションに挑む

5,チェック

6,次のアトラクションにハシゴする

7,全てのアトラクションを制覇した後、最後にもう一度アトラクションを突破し、成果を再確認する


たった独りで、呆れるほど長い待ち時間を耐え続けて、頭がオカシイと思われるぐらい往復して…………

気分転換に、ポップコーン全種類コンプのために園内を全速力で駆けまわるぐらいはした。


――――――クラス対抗戦、当日


一夏「さて、今回はどの能面を…………」ガサゴソ

一夏「よし、こいつだ!(見せてやるぜ、合宿の成果を!)」スッ

一夏「(朝一のゲームも俺の馬鹿勝ちだったしな)」

一夏「(株価の上がり具合も上々)」

一夏「(やれる! 今の俺なら――――――やれる!)」グッ

箒「ここのところ、すこぶる調子がいいな、一夏」

セシリア「そうですわね。基本操作に無駄がなくなって、より堅実かつ的確な動きになりましたわ」

箒「(だが、私とセシリアが何かをしたからああなったわけじゃないという事実が心苦しい…………私では一夏のモチベーションをあそこまで上げることはできなかった…………)」

セシリア「(そういえば一夏さんは、この前の休日はどちらに行ってしまわれていたのでしょうか? お話したいことがたくさんありましたのに…………その婚約の話とか…………)」

山田「織斑くん、頑張ってください」

千冬「………………」

一夏「よし、行きます!」

箒「行ってこい、一夏!」

セシリア「頑張ってください、一夏さん!」



鈴「来たわね、一夏」

一夏「代表候補生になったお前と戦うために修行してきたぜ!」

鈴「『私のため』だなんて、嬉しいこと言ってくれるじゃない! だけど、勝つのはわた――――――」

一夏《怪士》「――――――俺だ!!」ギラッ

鈴「っ!?」

鈴「(この凄み、やっぱり一夏は…………けど、だからこそ――――――!)」

鈴「言うじゃない! だけど、他はどうだか知らないけど、私にはそのポーカーフェイスは通用しないわよ!」

一夏《怪士》「行くぞ!」ギラギラ

鈴「来なさい! その面の皮を剥いであげるわ!」


アナウンス「試合開始」


一夏《怪士》「(『白式』と同じ、近接格闘型 第3世代型IS『甲龍』……)」ギラギラ

一夏《怪士》「(見るからに『白式』よりも重量がありそうだし、後ろの2基のユニットが怪しい……誘導兵器か?)」ギラギラ

一夏《怪士》「(だけど、スペック上の『白式』の機動性は他の機体を追随を許さない!)」

鈴「一夏ああああ!」ブン

一夏《怪士》「(それを活かせるかが勝負の分かれ目だ!)」クルリン

鈴「な、何よこれ!?」スカ

一夏「(秘技“ローアングラースライディング”!)」ギラギラ

観衆「おおおおお!」


箒「上手い! 仰向けになって横薙ぎを躱したと同時に、滑りこんで斬りつけた!」

箒「あんな曲芸みたいな機体制御は一夏だけにしかできないな」

セシリア「あんな変幻自在な攻め方をされたら、さすがの私でも対処しきれませんわ!」

セシリア「素人から見れば、機体に振り回されているような感もしますが、あれが一夏さんの自然体ですわ!」

千冬「……ほう(機体制御の精密さに磨きがかかったな)」

千冬「(それにいつにない強気な攻めといい、合宿は成功したというところか)」

千冬「(本当は調子に乗らせないほうがあいつの持ち味を活かせるが、『白式』を運用するにあたっては細かいことを考えさせないほうがいい。いやむしろ、織斑一夏とは――――――)」





一夏《怪士》「そこだ!(いいぞ、俺! 落ちていく感覚やスピードに縛り付けられる感覚が全然怖くない)」ギラギラ

一夏《怪士》「――――――いける! いけるのがわかるぞ、俺!(そういえば、『白式』は俺の適性に合わせた格闘機だって言われてたけど、今ならその意味がよく分かる!)」ガキーン

鈴「くっ、何て挙動よ! 斬り結ぶことすらできないなんて…………」

一夏《怪士》「(相手が悪かったな、鈴。お前の思考や癖はどうやら覚えているようだぞ)」ギラギラ

一夏《怪士》「(これなら、イグニッションブーストを使うまでもないか)」ギラギラ

鈴「なら、これでどうよ!」

一夏《怪士》「距離をとった!?(後ろのユニットが! 何だかわからないが間違いなく射撃武器だ)」ギラギラ

一夏《怪士》「――――――な!? ぬうううう!?」

鈴「さすがに初見で回避するのは無理なようね」

鈴「さあ、今度はこっちが追い詰める番よ! 地べたに平伏しなさい! そして、泣きなさい!」

一夏《怪士》「くっ(見えなかった!? 『攻撃が』じゃない! 『砲身が』見えなかった!)」ギラギラ

一夏《怪士》「データを!(何もないところから撃ちだすなんて、どういう原理の兵器なんだ?)」ギラギラ

一夏《怪士》「ん?(発射前に大気圧に変化が……?)」ギラギラ

一夏《怪士》「(そうか、わかったぞ! ISの量子化構造を利用した空気砲――――衝撃砲の類か!)」ギラギラ

一夏《怪士》「(これは厄介だぞ! 見えない上に圧力の掛け方次第で射角が無限になるから、照準の追尾性も半端じゃない。なるほど、これが中国の第3世代型ISの特殊兵装ってわけか)」ギラギラ

一夏《怪士》「(それでもな――――――!)」ギラッ


鈴の『甲龍』の衝撃砲『龍咆』は大地を疾駆する一夏の『白式』を追尾し、見えない砲弾の雨を浴びせるものの、

一夏の『白式』は縦横無尽に平面を駆け回り、それに釣られて虚しく衝撃砲が一定間隔に大地を叩き、砂塵を舞い上がらせる。


鈴「よく躱すじゃない。この『龍咆』は砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに」

一夏《怪士》「(鈴、お前は調子に乗ると自らの優位を驕る癖があったよな)」ギラギラ

一夏《怪士》「(それが決定的な弱点を晒したぞ、――――――今のでな!)」ギラギラ



箒「砲身も砲弾も見えない……」

セシリア「射角が無限で、死角がない機体をどう対処すれば……」

山田「織斑くんの表情に変化はありません。完璧なまでに表情を崩しません」

千冬「まったく、どうして代表候補生というのは最初から全力で相手を叩きのめそうとしないのか……」ハア

セシリア「」ギクッ

セシリア「あ、あの織斑先生、それはいったい……」

千冬「私が織斑の立場なら、すでに勝機を見出している」

箒「本当ですか、織斑先生!?」

千冬「整備科に所属していた織斑なら衝撃砲の原理もはっきりと理解しているだろうし、大体にして誘導兵器ならまだしも、撃たれてからでは回避が困難なのだから、砲弾が見えていようが見えていなかろうが関係なかろう」

箒「あ、確かに……。そうなると、見えない砲身が一番の問題に――――――」

千冬「射角が無限だと言っても、織斑の接近戦の技量ならば正々堂々と正面から相手を手玉に取ればいいだけのことだしな」

セシリア「あ、確かにその通りでしたわ」

セシリア「『甲龍』は接近格闘型IS。それが前提ならば、あの衝撃砲は至近距離では扱えないはずですわ」

千冬「決して織斑の格闘戦の実力が数段上というわけではない」

千冬「ただ、織斑の想像力や認識力はISを運用する上では圧倒的な優位性を与えている」

千冬「ISは二次元平面の上でしか動けない人間とは違う」

千冬「ISは三次元空間を自在に位置させることができるパワードスーツだ」

千冬「織斑はそれを十二分に理解して、重力から解放された戦術ができているというわけだ」

セシリア「しかし、衝撃砲の死角が至近距離しかないとしたら、どうやって懐に飛び込むのですか?」

箒「そもそも一夏は衝撃砲の性能まで把握できるのでしょうか?」

千冬「……まったくお前たちはスタンドプレーしか頭にないのだな」

千冬「あの衝撃砲の性能――――威力・連射速度・照準精度は相手の方から開示されていたぞ」

箒「え、そんなまさか…………」

セシリア「そんなことが、本当に……?」

山田「ああ! わかりました、織斑先生!」

千冬「教えるな、山田先生」

山田「ははは、ごめんなさいね」

千冬「フッ、どうやら織斑は私と同じやり方でこの勝負に終止符を打つつもりだぞ」

千冬「そろそろだ。よく見ていろ、ひよっこ共」

箒「はい……(いつの間にか一夏が遠くに行ってしまったような気がする)」

セシリア「はあ……(対等の立場になれていただなんて思い上がっていた自分が情けなく思いますわ)」


一夏《怪士》「(何の考えもなしに、地面に向かって衝撃砲をドカドカ撃ちまくったのが運の尽きだ)」ギラギラ

一夏《怪士》「(実際の性能を確実に計測する最上の手段とは、)」

一夏《怪士》「(――――――実際に使ってみることだもんな!)」ニター

一夏《怪士》「(威力・連射速度・照準精度――――――この程度なら!)」ギラッ

一夏《怪士》「……勝たせてもらうぞ、鈴!」ギラギラ

一夏《怪士》「――――――『零落白夜』起動!」ギラギラ

鈴「来る!?」ビクッ

一夏《怪士》「そして――――――(見せてやる、これが受け継がれた“ブリュンヒルデ”織斑千冬の至高の戦術!)」ゴクリ

一夏《怪士》「イグニッションブーストだああああああ!」

鈴「な、何てスピードなのよ!」

鈴「げ、迎撃が追いつかない!?」

一夏《怪士》「ぐぬううう……(さすがにこの加速には身体が長く保たない!)」ギラギラ

一夏《怪士》「(だけど、――――――もう怖くない!)」ギラギラ

観衆「オリムラクンガハイゴヲトッター」ガヤガヤ

一夏《怪士》「うおおおおおおおおおおおおお!」ギラギラ

鈴「――――――そんな!(こんなにも圧倒されるだなんて!)」ゾクッ


――――――その時であった。


一夏「――――――!?」

鈴「――――――え!?」

二人のISのすぐ側を貫いた巨大な光の奔流がアリーナのグラウンドを火の海に変えたのである。


千冬「試合中止! 織斑、凰、直ちに退避しろ!」

鈴「シャッターが!」

一夏「…………っと、『零落白夜』解除!」

一夏「いったい何が起きたっていうんです! 詳細を!」

一夏「戦略級レーザーがアリーナの天井を貫いて来たんですよ!」

山田「織斑くん、落ち着いてください!」

鈴「一夏、試合中止よ! 早くピットに戻って!」

一夏「鎮圧部隊に任せる他ないな。シールドエネルギーが半分しかない」ピーピーピー

一夏「――――アラート!? ロックされている……ん?!」

一夏「どういう……ことだ……?」

一夏「『所属不明のIS』だと……?!」

一夏「(全てのIS 467機はリアルタイムでその行方が監視されていて、『所属不明のIS』などというものは存在しないはずだ!)」

一夏「(『存在しないIS』――――違う、管理下に置かれていない『未確認のIS』…………まさか!?)」

一夏「(そのまさか、――――――『新しいISのコア』がどこかで生産されているということなのか?)」

一夏「(だとしたら、世界の均衡が間もなく崩される……?!)」

一夏「なら、狙いは俺か?! “世界で唯一ISを扱える男性”である俺か!?」

鈴「一夏! 早くピットに! 急いで!」

一夏「……思い当たるフシが多すぎる」

一夏「鈴! やつの狙いは間違いなく俺だ!」

一夏「俺が逃げたらたちまちアリーナにいるみんなが戦略級レーザーで塵すら残らず燃やされてしまうぞ!」

一夏「くそ、早く何とかしてくださいよ――――――っは!?」

その時、黒煙の向こうから一夏のすぐ隣を通り抜けていく戦略級レーザーが放たれた。


一夏「………………は?」ゾクリ


そして、通り過ぎたレーザーはアリーナのシールドバリアーを完全に粉砕し、アリーナ上層部に大きな風穴を開けたのだった。

周囲「キャアアアアアアアア」

崩落する天井が観客席を震撼させた。


一瞬の不覚だった。完全に血の気が引いた。


もし、相手が外してくれなかったら塵すら残らず燃やされていたのは自分だったのだから…………。



一夏「あ、ああ…………」ゾクゾク

一夏「うわああああああああああ!」ブワッ

鈴「い、一夏!?」

一夏「…………!」クチヲテデオサエル

一夏「(こ、こここ、殺される!)」ブルブル

一夏「(殺される、殺される、殺される…………)」ガクガク

一夏「(嫌だ、死にたくない! 死にたくなーい!)」ビクビク

一夏「(――――――あっ)」


――――――また、モラシタ。こんな時でさえも情けなくモラシタのだ。


一夏「は、ははは……アハハハハハハ!」

鈴「い、一夏、正気に戻って! 私が時間を稼ぐから早く!」

一夏《  》「(…………もういい)」

一夏《虚無》「(――――――いい死に場所じゃないか)」

一夏《虚無》「(――――――死ね! 俺の潔白を守るために!)」

鈴「一夏! 返事をして!」

一夏《虚無》「……すまない、鈴。それは聞けないよ」

鈴「でも、今の一夏は――――――」

一夏《虚無》「……強がりを言わせてくれ」

一夏《虚無》「――――――俺はきみを守る!」(己の死に様の見届け人・潔白の証人として)

鈴「い、一夏……わかったわ! 戦力に数えていいのね?」

一夏《虚無》「ああ、俺は大丈夫だ」

一夏《虚無》「それよりも織斑先生! あの所属不明機から何かありませんでしたか?」

千冬「こちらからの呼びかけには応じなかった」

一夏《虚無》「じゃあ、先生?」


――――――あれを倒してしまってもかまわないんですよね?


千冬「………………」

箒「正気か、一夏! シールドエネルギーは半分しか無いのだろう!?」

セシリア「そうですわ、一夏さん! ここは鎮圧部隊が来るまで粘って――――」

山田「言い辛いことなんですが、アリーナ全体があのISのものからと思われるジャミングで…………」

箒「そ、そんな!? それじゃ、消耗しきった二人だけであれを倒せと……!?」

セシリア「一夏さん! 私はあなたに伝えたいことが――――――」

千冬「…………わかった。学園側の依頼として遂行して欲しい」

箒「何てことだ……(専用機持ちではない私の不甲斐なさが恨めしい……!)」

千冬「ただ、無茶だけはするなよ」

一夏《虚無》「了解!(ごめん、千冬姉。俺は――――――)」

セシリア「一夏さあああん!(何故かしら、これが今生の別れのような気がして――――!)」


※《虚無》=《目が死んでいる》と読んでください


鈴「終わった? それでどうするの、整備科入試満点主席の一夏?」

一夏《虚無》「基本的に、攻めは俺に任せて、鈴は牽制に徹してくれ」

一夏《虚無》「そして、アリーナの被害が拡がらないように隙を見て、アリーナ上空の空中戦に持ち込む!」

一夏《虚無》「頼んだぞ! 俺だけじゃ何もできない」

鈴「任せなさい、一夏! 中国代表候補生の名に賭けて協力するわ!」

一夏《虚無》「行くぞ! 無理はしないでくれよ」

鈴「そっちもね(何だろう? さっきから一夏から何ていうのか生気っていうのを感じない?)」


一夏《虚無》「(フルスキンフェイスのISか)」

一夏《虚無》「(別段珍しい装備じゃないが、この場合は単純に素性を隠すためのものだろう)」

一夏《虚無》「(だが、何か違和感を覚える)」

鈴「そっち行ったわよ、一夏!」

一夏《虚無》「ふん。図体がでかいだけじゃないか」ヒュン

一夏《虚無》「ほらよ!(秘技“ローアングラー”!)」ガキーン

謎のIS「――――――!」

一夏《虚無》「……あ、しまった(『零落白夜』を使っていれば、これで終わっていたのに……!)」

一夏《虚無》「(……待てよ? いくら現状として学園を制圧したからって、ここは世界最大のIS保有数を誇る、地球最強の戦力を有するNGO:IS学園だぞ? 俺たちを倒してもいずれはエネルギー切れするなり、数の前に平伏すことになるはずだ)」

一夏《虚無》「(それじゃ、――――――こいつは捨て駒なのか?)」

一夏《虚無》「(だが、捕まれば口を割られるのは避けようがないし、IS適性が高いパイロットはどの組織でも貴重な資源だ)」

一夏《虚無》「(だったら、使い捨てが容易な――――――無人機?)」

一夏《虚無》「(しかし、ISは有人であることが大前提だが…………)」


――――――ISのコアには意識のようがある。


一夏《虚無》「(…………あり得ない話じゃない)」

一夏《虚無》「(ISの普及によって広まった量子化技術だが、それによって得られた恩恵はコンピュータ開発にも利用されている。量子コンピュータという超超高速演算機器の実現も近年になって果たされている)」

一夏《虚無》「(それによって、従来では処理しきれなかった膨大な計算ができるようになり、様々な分野の研究が進んだ)」

一夏《虚無》「(量子コンピュータで擬似人格プログラムを開発して、)」

一夏《虚無》「(それをISのコアに反応させることができれば、)」

一夏《虚無》「(――――――無人機の運用は不可能じゃない!)

一夏《虚無》「(むしろ、こんな俺でも思いつけるくらいなんだから、すでに理論化されている……?!)」

一夏《虚無》「(――――――それがこいつなのか!?)」


鈴「空中戦が不利と見て、地表から高出力レーザーで対空砲火だなんて、」

鈴「…………なかなかしぶといじゃない」ハアハア

一夏《虚無》「無理なら離脱していい。下がるんだ!」

鈴「それはできない相談よ。あんたも言ったでしょ?」

鈴「――――――強がりを言わせなさいよ!」

一夏《虚無》「頼もしいな!(ここまでついてきてくれるってことは、やっぱり鈴は…………)」

鈴「(何だか刺し違えても相手を倒してやるっていう感じがして、放っておけないのよ!)」

鈴「(一夏! あんたは私が守るから、死なないで!)」


一夏《虚無》「(その完成形が、ここにあるとは――――――いや、それ以上に!)」

一夏《虚無》「(『新しいISのコア』を開発し、かつ『無人機』を実用化し、『戦略級レーザー』を搭載させて、天下の『IS学園を襲撃』するようなトンデモ組織が世界に存在するってことだ!)」

一夏《虚無》「くぅ……(俺一人の力なんかで、俺を『イケメン』と褒めてくれたみんなの日常を守りきれるのか?)」

一夏《虚無》「(いや、ここでやつと刺し違えても意味はあるのか?)」

一夏「(………………あれ?)」

一夏「(じゃあ、俺は何を思って死のうと考えていたんだ?)」

一夏「(……馬鹿馬鹿しい、俺は俺だ! ずっと後悔し続けてきた恥だらけの人生だったんだ!)」

一夏「(衝動的なものに突き動かされて後悔するなら、今芽生えた新しい衝動に身を委ねてから後悔してやる!)」


一夏「鈴! 全力で砲撃してくれ! 手加減なんてしなくていい!」

一夏「俺の手で決着を付ける!」

鈴「一夏!? わかったわ!」

鈴「――――――って、一夏あああああ?!」

一夏「『白式』、保ってくれよ!」

一夏「ぬうううう!(衝撃砲は純粋なエネルギーの塊!)」

一夏「うううううう!(そして、ISには外部からの運動エネルギーを取り入れて燃費を抑える機能がある!)」

一夏「行けよおおおお!(なら、そのエネルギーを全部取り込んでしまうことも理論上可能なはず!)」

一夏「でやあああああああ!(ISは脳波制御で動く未来兵器なんだ! 強い意思と共鳴して無限の進化をする兵器なんだ!)」

一夏「不可能なんかなあああああああい!」

鈴「一夏ああああああああ!」

謎のIS「――――――!!」


織斑一夏の渾身の一撃が炸裂した。

見事に謎のISの右肩を斬り落としたのである。

一夏「もらったあああああ!」

続いて、振り向いたと同時にフルスキンを真っ二つにしようとする。

だが、振りかぶった長大な光の剣は間もなく力なく消え失せた。

一夏「エネルギーが!?(しまった! 出力を上げすぎた……! 肝腎な時に!?)」

謎のIS「――――――」ストレートパンチ

一夏「うわああああ!」ドガーン

一夏「ぐはっ(――――――ISが解除された!? マズイマズイマズイマズイ)」

謎のIS「――――――」ジャキ

鈴「一夏あああああああああ!」

一夏「………………あ、ああ」

一夏「(ほ、本日二度目――――――もう死んでもいいよね?)」

一夏「(結局俺は、いつもいつも肝腎なところで失敗をする――――――中途半端なちっぽけ何もできない存在だったよ)」

一夏「(ごめん、千冬姉。初志貫徹できずにこんなみっともなく死んじまって……)」

一夏「(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……)」

全速力で一夏の許に駆けつけようとする鈴の必死の想いも虚しく、

今まさに織斑一夏という世界で唯一の存在が消滅しようとした瞬間であった。


謎のIS「――――――!?」ドガーン

鈴「――――――あ、あれは!」

セシリア「ギリギリのタイミングでしたわね」

一夏「せ、セシリアか……助かった、のか?」ハアハア

謎のIS「――――――!」

一夏「いや、まだ生きている!(今度こそ死ぬううううう!)」

鈴「一夏あああああああああ!」ダキッ

鈴「くうううう!(シールドエネルギーが!?)」

鈴「きゃああ!」ゴロゴロ

一夏「うわ!?」ゴロゴロ

セシリア「一夏さん! ――――――よ、良かった、本当に……」

セシリア「――――――よくも一夏さんを!」

謎のIS「――――――」

セシリア「えええええええい!」



セシリア「敵ISの沈黙を確認しました」

山田「アリーナのジャミングも解除されました。すぐに鎮圧部隊が来ます」

箒「それよりも、一夏は!?」

千冬「………………」アセダラダラ

セシリア「間一髪でしたが、救出した直後にISが解除されて二人共勢い余って怪我を負っています!」

セシリア「すぐに救護を――――――!」

山田「わかりました! 救護班、すぐに出動してください!」

千冬「………………(これは大変なことになった)」


――――――数日後。


鈴「…………一夏」

セシリア「…………一夏さん」

箒「くぅ、一夏……!」

一夏《虚無》「――――――」

鈴「一夏、何か言ってよ?」ポタポタ

セシリア「一夏さん! みなさんが待っておいでですよ!」ポロポロ

箒「私は、一夏の何の力にも…………」シクシク

一夏《虚無》「――――――あ」



医師「現在のところ、命に別状はありません。極めて順調な回復を見せています」

医師「しかし、精神の方は完全に――――――」

医師「いえ、語弊がありましたね。反応が極めて鈍くなっているだけで、思考はしっかりとできてます」

医師「失声症になってしまって意思疎通に不自由していますがね」

医師「しかし、あのような鮮烈な経験をしてしまったことが原因で、」

医師「これから意識や思考はしっかりと回復していくでしょうが、」

医師「――――――後遺症は残るでしょうね」

医師「どういったものになるかは予測がつきませんが典型的な例としては、パニック障害、通称:PDに陥って、例えばISを装着したり、あるいは見たりするだけで何らかの発作が起こるようになるかもしれません」

医師「どうしますか、織斑先生? 私としては精神病棟で静養させることをおすすめしますが」

千冬「いえ、“ここ”に居させておきます」

千冬「おそらく織斑は――――いえ、弟のストレスの原因のほとんどがISに集中しています」

医師「だったら、なおさら遠ざけた方が良いのでは?」

千冬「それはやるだけ無駄です。何故なら――――――」

医師「ああ、なるほど。“世界で唯一ISを扱える男性”だからですか」

医師「確かにそれは不治の病ですな。どこへ行っても彼はそういう風にしか見られない」

医師「それに、学園が管理しないとなると、一夏くんを欲しがる数多くの機関に何をされるかわかりませんからね」

千冬「そうです。少なくともこの学園に居られる間はずっと平和でいられる」

医師「しかし、そう思えなくなったからこそ、こうなったんですよね」

医師「彼が硬直した意識の中で必死になって作成したレポートをご覧になりましたか?」

医師「あれが決め手となって思考は正常だと判断できたのですが、」

医師「読んでいるだけで“賢いからこそ脆い”というのが伝わってきます」

千冬「はい。整備科出身とは言え、あの一戦だけでこれだけのことを考えられるとは立派になったものです」

千冬「あの子は私とは違ってIS技術者としての才能も見せ始めました」

千冬「ISドライバーとしての道が閉ざされたとしても、技術者としてやっていけるでしょう」

医師「しかし今回の件で、ISの新造が現実のものとなっていたことが発覚してしまいました」

医師「おそらく彼の予見はこれからどんどん現実のものとなることでしょう」

医師「これからあなたはIS学園の教員の一人としてどう導くつもりですか?」

千冬「――――――すでに覚悟はできていたこと」

千冬「しかし、私も人間です。私も弟と苦楽を共にする準備がまだ…………」

医師「“ブリュンヒルデ”も人の子ってことですね」

千冬「………………」

医師「ですが、わかりました」

医師「一夏くんが隔離されないように診断書を出しておきますので、お大事にしてください」

千冬「いつもすまない」

医師「年来の友人のために、こういう形で世界の命運を担う重責を私にも背負わせてください」

医師「それでは、何か進展があればまた」

千冬「ああ」



何が競技用だ 

何がアラスカ条約だ

何が軍事利用を危ぶむ、だ

現に軍事転用しているのはお前たちじゃないか

あんなふうな兵器を開発させて実戦投入している奴らの言葉のどこに真実がある

ISの技術を独占していた日本への情報開示とその共有――――だなんて、

どこから見てもお子ちゃまの戯言ではないか

なあ、『白式』?

世界は『白騎士事件』を境にして変わり始めた

今度は俺から毟ろうっていうんだぜ、世界は

これからもっと倫理観の荒んだ時代になっていくだろうよ

俺はISの絶対防御という機能についても気に食わない

まるでゲームだ。痛みと感動を伴わない、紛い物だ

レールガンだのアンチマテリアルライフルだの衝撃砲だの、

かつて人に向けるにはやり過ぎるものを、

パワードスーツを着たから平然と撃つようになった

生身の人間など一瞬でミンチよりもひどい状態にするようなものを、だ

それとも、俺が旧い時代の人間だから、こんな弱音を吐くのかな?

なあ、『白式』?

俺はお前にも人殺しをさせたくない

たとえ、お前が初期化されて他の誰かのところへいく運命にあったとしても、だ

そして、巡り巡っていつかは宇宙を目指そう

かつての開発理念がそうであったように

その名に込められた無限の可能性を信じて、な

俺はずっと星空の彼方を夢見てきたんだから

そのためなら――――――

お前は俺の夢だから


これにて、第2話終了。
無事に投稿しきれて一安心。

次の話から、このSS独自の展開が多く盛り込まれていくので、長くなります。
途切れ途切れになる可能性を重ね重ね申し上げ、ご容赦ください。

では、明日か明後日にまた投稿いたします。
おやすみなさい。

乙乙

次も楽しみにしてるよ

お休み~

乙です


第3話 学年別個人トーナメント
Bal Masque


――――――金曜日の夜


鈴「まだ起きてる?」

箒「私が部屋を移ってから寂しくはなかったか?」

セシリア「一夏さん! 先日の“夢の国”のおみやげのお礼に参りましたわ」

一夏《白式尉》「…………よく来てくれたね」ニコッ

鈴「一夏、何だかもっと年寄り臭くなってない?」

箒「ああ、それはきっとあの能面と同化したからなのだろう」

セシリア「ですが、今までの笑顔と趣が異なる安らぎがありますわね」

鈴「でも、一夏? 一夏は“自分の顔”を覚えているの?」

一夏《白式尉》「はてな? どういうことだろう?」ニコー

箒「それは私も前々から思っていた。昔の一夏はもっと表情が豊かだったぞ?」

箒「そうしていることが一夏にとっての心の安定剤だとしても、表情の変化が一切ないのは少し気味悪く感じる」

一夏《白式尉》「それはごめんなさい。でも、こういう顔にしたかったから変えたくないんです」ニコー

セシリア「あの、一夏さん? 誰かの前で自分の本音を吐露したことはありますか?」

一夏《白式尉》「そりゃ、ありますよ。それで後悔することはありましたけど」ニコー

セシリア「私なんかが言うのも難ですけれど、私もここに来る前までは常に相手を小馬鹿にしたような態度ばかりでした」

セシリア「しかし、そうでもしないと家を継いだばかり私は周囲から甘く見られてしまうので、それがいつしか当たり前になっていました」

一夏《白式尉》「必要だったんだからしかたないじゃない」ニコニコ

セシリア「確かにそうでしたけど、心苦しいと感じることもありましたわ」

セシリア「でも、“ここ”に来て一夏さんと知り合ってから、」

セシリア「私は心の底から楽しいと思ったことに笑えるようになりましたわ」

セシリア「学園での生活が本当に楽しいですわ」ニッコリ

一夏《白式尉》「……そう」ニコー

セシリア「ですから、いつかいろんなしがらみを全て忘れて、楽しく笑ってくださいね」ニッコリ

鈴「私の前だったら泣いてもいいんだからね」

箒「そうだぞ、一夏。我慢は体に良くない」

一夏《白式尉》「そうですね」ニコー

3人娘「(説得は失敗した……?)」

待っていたぞ~


一夏《白式尉》「じゃあ、相手になってくれないかな?」ニコー

一夏《白式尉》「テキサスホールデム」ニコー

3人娘「――――――!」

箒「い、一夏!」

箒「よし、いいぞ! お前の頼みならな!」

鈴「えっとこれってトランプ?」

鈴「それにカジノテーブルじゃない」

セシリア「そういえば、一夏さんはポーカーが趣味だと言っておりましたわね」

セシリア「(しかし、箒さんが引っ越してからは、能面が飾られるようになって、その中にカジノテーブルがあるというのもこれまた珍妙な光景ですわね…………いえ、これが理解できるようになった時、私は一夏さんと同じ視線の先を…………!)」

一夏《白式尉》「はい」ニコー

箒「ポーカーってことは、あれだろ?」

箒「5枚の手札から1回交換して手役の強さを競う――――――」

一夏《白式尉》「いいえ、テキサスホールデムはドローポーカーとは違うんです」ニコー

一夏《白式尉》「カジノの本場 ラスベガスやポーカーの世界大会“WSOP”で採用されているのがテキサスホールデム」ニコー

一夏《白式尉》「まあ、とりあえずゲームを流れを実践しましょうか」ニコー

鈴「ねえ、一夏」

一夏《白式尉》「はい」ニコー

鈴「一夏ってあんまりポーカーしてたイメージないんだけど、どれくらい強いの?」

一夏《白式尉》「そうですね、これ」ニコー

一夏《白式尉》「このオンラインゲームのポーカーのメインアカウントなら、」ニコー

一夏《白式尉》「――――――“One Summer”現在20位ですね」ニコー

鈴「嘘!? ローカルやマイナーじゃなくて世界各国共通のやつで20位!?」

セシリア「素晴らしいですわ、一夏さん!」

一夏《白式尉》「でも、レートが高くなりすぎて対戦相手がマンネリ化してきたので、」ニコー

一夏《白式尉》「最近は新しいアカウントで気楽にやってますけどね」ニコー

箒「そういえば、一夏は毎朝それをやっていたな」

箒「それで『ゲームの展開が面白くない』とか言って溜め息を吐いていたな」

一夏《白式尉》「本格的にプレイするのはやめて、今日の運勢占いとしてやっているだけです」ニコー


一夏「でも――――――」

箒「“でも”?(あ、表情が……)」


――――――オンラインじゃ興奮しない。やるんだったらリアルでやりたい…………!


3人娘「――――――!」

セシリア「わかりましたわ、一夏さん!(真剣な素顔を早速見せてくださいましたわ!)」

セシリア「このセシリア・オルコット! 一夏さんを満足させて差し上げますわ!」

鈴「一夏! ルール覚えたら勝負よ!(これよ、これ! 久しぶりに見た)」

鈴「一夏の得意なことでギャフンと言わせてあげるんだから!(失声症になっていた頃は本当にどうなるかと思ったけどよかった)」

箒「なるほど、一夏の思考戦闘の強さはここから来ていたのか」

箒「ならば、私も戦術眼を磨くために付き合ってやろう!(よし! これで一夏の世界へ大きく前進した!)」グッ

一夏《白式尉》「ふふふ、お願いしてよかった」ニッコリ

3人娘「――――――!」

鈴「(さっきの笑顔、)」

セシリア「(どうとは言えませんが、)」

箒「(最初に見せた笑顔よりもずっと心が篭っていた!)」

一夏《白式尉》「では、チップを導入する前にゲームの勝ち負け、それから用語の説明をしましょうか」ニコー

3人娘「はい!」



――――――週明け


セシリア「学業といい、ポーカーといい、ISといい、一夏さんには敵いませんわね」


学業……整備科入試満点主席。
現在でもテストで満点以外をとったことがない。
予習もすでに今学期のものは終えており、授業を受けなくてもいい授業免除を認められている。
その上で整備科の課外授業も受けている。

ポーカー……世界規模のポーカーのオンラインゲームの上位ランカー
先日の3人娘との対戦結果は言うまでもなく、一夏の一人勝ち。
どんなに序盤で追い込まれても最後には必ず勝つ、不敗の勝負師。

IS……実質的な試合内容は、専用機持ち2人に快勝していた
ただし、セシリアに対しては勝利寸前に棄権してセシリアの勝利
鈴に対しては最終的に追い詰めるものの、乱入者の登場で試合無効


セシリア「昨日のポーカーも勝てそうで勝てませんでしたわ」

箒「まったくだ。さすが上位ランカーなだけはある。完全にこちらの手の内を読んでいる」

セシリア「それだけではありませんわ」

セシリア「どうして一夏さんの中で能面とポーカーが並び立つのかがようやくわかりましたわ」

箒「そうだな。まさか能面をポーカーフェイスに利用するだなんて思いもしなかった」

箒「聞けば、能において素顔で演じる際は直面(ヒタメン)という、表情1つ動かさずに能面に成りきる技法があるとか」

箒「だから、一夏はあんなにも能面を大事にしていたのだな」

セシリア「一夏さんのポーカーフェイスはまさしく最強の武器ですわ」

セシリア「“般若面”になったらもう誰も勝てませんわ…………」ブルッ

箒「今まではああいうのはただのお遊戯と馬鹿にしていたが……、」

セシリア「そうですわね。私も嗜みとして腕を磨いていかなければ…………!」

箒「ところで……」

セシリア「はい」


女子「ねえ、聞いた? 今月の学年別個人トーナメントで勝つと、織斑くんと付き合えるんだって!」

女子「え? 織斑くんよりも1つでも成績がいい科目を出せば、それで織斑くんと付き合えるって聞いたけど?」

女子「違う違う! 織斑くんとのストリップポーカーに勝つと付き合えるんだよ!」


箒「いったい誰があんな変な噂を流したと言うのだああああ!」

セシリア「このことを一夏さんはご存知なのでしょうか……?」

一夏「おはよう」

周囲「オハヨーオリムラクン」

一夏「みんな聴いてくれよ」ハア

一夏「何故だか今朝になってポーカーしようって5人くらいから誘われてちょっと戸惑っているんだ」

一夏「何か知らない?」

周囲「ナ、ナンデモナイヨ!」

一夏「そうか」

千冬「席に着け。ホームルームを始める」

箒「(……やっぱり一夏本人は知らないのか)」

セシリア「(織斑先生がこの噂を知ったらどんな風に思うのか……)」


山田「今日はなんと転校生を紹介します」

周囲「エーホントー」

シャル「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」

シャル「みなさん、よろしくお願いします」ニコッ

一夏「(何だって、――――――男だって!?)」スッ

一夏《延命冠者》「(…………何という行幸! 宿命! 数奇!)」ニコニコ

シャル「こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて、本国より転入を――――――」

周囲「キャーーーーー!」

一夏《延命冠者》「………………(うおおおおおおおおおおお!)」ニコニコ

シャル「え!?」ビクッ

一夏《延命冠者》「(しかも、美男子――――否、男の娘だと!?)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(ふひひ! ということは、新しい同居人になるな、こりゃ)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(最高だね! さすがに同性の相棒が欲しかったところだし、)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(ヒミツの花園の色彩を乱すことなく馴染む花卉は!)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(これを悦ばずにはいられない!)」ニコニコ

千冬「騒ぐな、静かにしろ!」

千冬「おい、織斑!」

一夏《延命冠者》「あ、はい!」ニコニコ

千冬「デュノアの面倒を見てやれ」

一夏《延命冠者》「わかりました!(はい、キタアアアアアア!)」ニコニコ

シャル「よろしくね」

千冬「では、早速でデュノアには悪いが、これから2組と合同でIS実習を行う」

千冬「各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合」

千冬「では、解散!」


一夏「さて、ここで着替えるわけだが、急げよ!(もう少し手を繋いでいたかったな)」

一夏「あ、そうだ。俺は織斑一夏だ。よろしく、シャルル・デュノア」

シャル「うん、よろしく、一夏。じゃあ、僕のことはシャルルでいいよ」

一夏「それじゃ、シャルル。グラウンドでまた会おう!」

シャル「ああ、うん(あれ、男の人ってシャワールームで着替えるかな、普通?)」


一夏「…………やっぱ、不可解だな」オムツ

一夏「昨日今日のデュノア社の株価は動いてないぞ?」ピッピピピッ

一夏「俺が“世界で唯一ISを扱える男性”になったニュースが世界を走った時には、一気に円高になったぐらいなんだからさ――――――フェイクの可能性は高いな(いや、だけど、希望は捨てられない)」

一夏「デュノア社は斜陽企業だもんな(インターセックスの可能性もあるからな)」

一夏「『ラファール・リヴァイヴ』という傑作機を最後に生んだはいいが、第3世代型ISが造れなくてコアの割り当てが間もなく取り下げられるって話だし、あんなにいい売り子を今 祖国で使わなくてどうするよ?(そうでなかったら、どうしよう?)」

一夏「学園はちゃんと調べたのか? 隅の隅まで(身体が女の子だった時のためにさり気なく言っておくか)」

一夏「まあ、今ここで考えていてもしかたない(だけど、これで性自認が女だったら完全にハズレなんだがな……)」

一夏「………………(男の娘は貴重なステータスだ。そうであって欲しいがな…………)」ブルブル

一夏「俺、まだ頑張れるかな?」ブルブル

一夏「みんながあんなにも必死にISのことを話題にしようとしなかったけど、」

一夏「このまま引退できれば、それはそれで理想的なんじゃないかな……」


千冬「本日から実習を開始する」

一同「はい!」

千冬「……そうだな。まずは、簡易的な戦闘を実演してもらおう」

千冬「では、凰」

鈴「はい!」

千冬「次に、オルコット」

セシリア「はい!」

千冬「専用機持ちならすぐに始められるだろう。前に出ろ」

鈴「メンドイな~(でも、これって一夏に後遺症があるかを見るためよね?)」

セシリア「見世物のような感じがして気が進みませんわね(ずっと見学していた一夏さんが復帰となるのか――――)」

千冬「お前たち、少しはやる気を出せ(――――――この時間で判明する)」

千冬「聞いたことはあるか、ある3つの噂」

鈴「え、噂?」

セシリア「え、まさか、文武両道の一夏さんをも唸らせる結果を出したら、つ、付き合える、あ、あれですか!?」


――――――噂を流したのは私だ。


小娘共「――――――!?」

千冬「言っている意味がわかるな? 私が噂を流したという意味が」

セシリア「やはりここはイギリス代表候補生、私 セシリア・オルコットの出番ですわね!」

鈴「実力の違いを見せるいい機会よね! 専用機持ちの!」

周囲「ガンバッテー!」

シャル「今、先生 何て言ったの、一夏?」

一夏「わからないな(とりあえず今のところ、話に聞いたような発作は見られないな)」


一夏「織斑先生! 対戦形式はどのようなものでしょう!」

一夏「(でも、よく考えたら俺はいつも一過性の衝動に身を委ねてきたからな……)」

一夏「(杞憂だろうね。うん、きっと…………)」

一夏「(それよりも、シャルルの歓迎会の内容を考えておかないとな。ふひひひ)」

千冬「対戦内容は――――――」ヒュウウウウウウン

山田「うわああああああああああ」

箒「山田先生!? でも、あの急降下は――――――!」

千冬「いかん、退避しろ!」

山田「どいてくださああああああい!」

一夏「(そう、今日の昼食はみんなに作ってもらうようにしておいたっけか)」

一夏「(棚から牡丹餅とはこのこと――――――だけど、それじゃ物足りないな)」

シャル「何をしてるの、一夏あああああ!?」

一夏「ん?(あれ、山田先生が空から――――――)」

山田「織斑くううううん!」

ドッカーン!

箒「い、一夏!」

女子「」カオヲミアワセル

千冬「………………む」

一夏「……な、何で山田先生が空から降ってくるんですか…………」

山田「ごめんなさい、織斑くん」

一夏「死ぬかと思いましたよ!」(身体の下半分が地面にめり込んでる)

シャル「一瞬で部分展開して絶対防御で事故を回避した!?」

セシリア「ご無事でしたか、一夏さん!(あ、よかった! ISが起動しておりますわ!)」

鈴「まったく、山田先生も大丈夫ですか?(でも、咄嗟に展開できたのが胸部と脚部だけって変ね)」

山田「あの、織斑くん」

山田「受け止めてくれたのは嬉しいんですけど、」

山田「そのですね、もうそろそろ……放してくれませんか?」テレテレ

山田「でも、このまま行けば織斑先生が義姉さんに――――――」テレテレ

一夏「え?」ボイーン

一夏「(うっひょおおおおおお! 男の浪漫、ゲットだぜえええええ!)」ゴクリ

箒「…………一夏」ゴゴゴゴゴ

セシリア「おや、一夏さん?」ゴゴゴゴゴ

鈴「どうしたの、ねえ一夏?」ゴゴゴゴゴ

一夏「(って違う違う! この人にまで毒牙をかけたら教室に戻れなくなるぅううう!)」

一夏「だったら、早く浮かんでくださいよ! こっちだって辛いんですよ!」

山田「あ、はい!」フワアア

一夏「よいっしょっと」ハア

シャル「災難だったね」

一夏「まったくだ(でも、発作はないし、勢いで部分展開までできたぞ)」


一夏「それで、山田先生と代表候補生2人が戦うってわけなんですか?」

千冬「そういうことだ(ふむ、重度の後遺症ではないようだな)」

千冬「凰、オルコット」

千冬「1分だ。お前たちは2人で山田先生と1分間だけ戦ってもらう」

千冬「山田先生は元代表候補だ。甘く見ていると痛い目を見るぞ?」

山田「昔のことですよ……それに候補生止まりでしたし……」

セシリア「え、本当に2対1で…………?」

鈴「いや、さすがにそれは、ねえ…………?」

一夏「何を言っているんだ、二人共!?」

セシリア「あ、一夏さん?」

一夏「この『ラファール・リヴァイヴ』は第2世代型ISの傑作機なんだぞ!?」

一夏「乗り手の力量次第でどんな距離や状況にも対応できるマルチロール機で、かつ豊富な拡張領域で信頼性の高い造りだ」

一夏「そういう意味では、実験機でしかない第3世代型よりもずっと『厄介』なんだぞ」

一夏「何しろ、選択肢の幅が広いからどんな戦術を使ってくるかわからないし、」

一夏「それに、この対戦で一番の脅威は敵ドライバーの山田先生の狙撃能力じゃない」

山田「よくご存知ですね、織斑くん」テレテレ

一夏「それぐらい教員名簿にある実績の欄に載ってましたよ」

鈴「え、そうなの?」

一夏「二人共、山田先生のことを何だと思っていたんだ?」

セシリア「あははは……」

一夏「それでな、俺が思うに、この勝負、」


――――――2人掛かりだからこそ、あっさり負ける。


鈴「ちょっと、いくら何でもそれは聞き捨てならないわよ」

セシリア「そうですわ。私は厳しい訓練を積んで選ばれた代表候補生ですわよ」

一夏「じゃあ、二人はいざ戦ってみて、互いが山田先生に対してどう動くか分かり合っているのか?」

一夏「絶対に鈴は近寄れないから衝撃砲で――――――」

千冬「そこまでにしろ。時間が無くなる」

千冬「オルコット、凰。織斑の老婆心からの助言、少し意識して戦ってみろ」

千冬「さもないと、織斑の言う通り1分保たずして負けるぞ?」

セシリア「」ムスッ

鈴「」ムカッ

千冬「では、始め!」



一夏「始まったか……」

シャル「ねえ、一夏? どうして、二人が負けるだなんて予想できたの?」

箒「それは私もそれは聞きたい。単純に考えて数が多い方が有利だろう?」

一夏「忘れていないか? ISを動かしているのは得手不得手が違う人間だ」

一夏「それにあの2機は射程が噛み合わない組み合わせだから、山田先生の『ラファール』相手だと相性は最悪だ」

箒「そうだったのか?」

千冬「織斑、今はそこまでにしておけ」

千冬「答え合わせする前に、デュノア」

シャル「はい」

千冬「山田先生の機体について解説してみろ。織斑が説明した分は省いていい」

シャル「えっと、山田先生のISはデュノア社製『ラファール・リヴァイブ』です」

シャル「第2世代最後期の機体でありながら、初期第3世代型に匹敵するスペックです」

シャル「現在配備されている量産ISの中では最後発でありながら、世界第3位のシェアを誇っています」

千冬「よろしい。どうやら勝負が付きそうだが、織斑」

一夏「はい」

千冬「今回の小娘共の敗因を分析しろ」

一夏「先程も言ったように、『ラファール』は万能型の機体ですが射撃寄りの機体なので、まず近接格闘型の『甲龍』では得意の接近戦に持ち込むのは難しいです。けれど、『甲龍』が『白式』のように接近戦しかできない仕様だったらまだいいんです」

一夏「――――それがですね。『甲龍』には衝撃砲があるんですよね」

一夏「接近戦を試みて接近して諦めて衝撃砲を撃とうとする――――別にシングルなら何ら問題ない行動なんですけど、――――――しかし、今回はダブルス」

一夏「このどっちつかずの中途半端な僚機の動きが後方支援機からは目障りでしかたがないんです。味方を誤射したくないと思うのは普通でしょう? こうなると、僚機を誤射しないように攻撃を躊躇う上にヤキモキしてしまうんですよ」

一夏「2対1なんだから僚機を信頼まではしていなくてもそれなりに役目を果たすだろうという期待は実戦において驚愕と失望に変わり、言い知れぬ動揺と隙を作り出す――――互いの思考を把握しきっていない即席チームのよくある失敗ですね」

一夏「それと、『ブルー・ティアーズ』は基本的に狙撃に特化した機体で、狙撃するのに足を止め、同名の誘導兵器を扱う際にも動きが止まるという、攻撃するのにいちいち足が止まる隙だらけの機体なんですよ」

一夏「こういう2対1の戦術では、きっちりと近距離と遠距離に分かれて相手の動きを封じるか、同じ距離を保って数の利を活かして滅多打ちにするのがセオリーとなってくるわけですが、」

一夏「この場合だと『ブルー・ティアーズ』は完全に遠距離しか対応できないので、『甲龍』が相手に取り付く他ないのですが、ああいう立ち回りしかしないなら、いっそ引っ込んでいた方がいい」

一夏「だから、味方が重荷になって敗ける――――――そういうことです」

一夏「あ、もちろん今回は、『ラファール』が相手だったからセオリー通りにならなかっただけで、『打鉄』相手だったら圧勝でしょうね。機体性能云々よりも敵味方の相性が戦場を支配するって話でした」

一夏「――――――あ」

小娘共「キャアアアアアアア」ドゴーン

千冬「十分だ」

周囲「おおおおおお!」パチパチパチパチ

シャル「凄いよ、一夏! フランスでも一夏の英才ぶりは評判だよ」

一夏「俺はポーカーの世界一を目指す男だからな」

一夏「賭けに競り勝つ先見の明は備えている(それよりも俺はシャルルとの熱い友情が欲しいな)」

箒「そうか、敵と味方に対応した内容にしないと逆に足手まといになるのか」

箒「(なら私の専用機の形は、一夏の『白式』に合わせた接近戦主体で、あと中距離用の飛び道具があれば完璧だな)」

箒「(って、IS適性も低い私なんかに専用機はありえないか……)」ハア

箒「(姉さんに頼めば――――――いかん、何を言っているんだ、私は!?)」

千冬「これで教員の実力を理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」

周囲「ハーイ」


――――――同日、昼休み


箒「(今日の昼は私の作ったものが食べたいと言っていたのに……)」

セシリア「(私の手料理が食べてみたいと呟いておりましたのに……)」

鈴「(珍しく酢豚が食べたいって言うから作ってきたら……)」

3人娘「(どうして、みんな用意している?)」

箒「……どういうことだ、一夏」

セシリア「そうですわ! 今日のお昼は私とご一緒する予定では……!」

鈴「あんた、また――――――」

シャル「……ええと、本当に僕が同席してよかったのかな?」

一夏「みんなを呼んだのは、シャルルに俺の仲間を紹介しておきたかったのと、」

一夏「――――――将来のことについて確認しようと思っていたからなんだ」

箒「え、こ、ここでか……?(い、いったい何を確認しようと言うのだ、一夏!?)」ドキッ

セシリア「い、一夏さん(やはり、一夏さんは私とのけけけ、結婚を視野にいれて――――)」ポー

鈴「そうなんだー(セシリア、この朴念仁が気の利いたことを言うわけないじゃない)」

一夏「シャルル。早速で悪いけど、この鍵を渡しておくな」

シャル「え、これって……?」

一夏「俺の部屋の合鍵だよ。“ここ”の寮は全部二人部屋だから、シャルルは俺の部屋で寝泊まりすることになっているんだ」

一夏「ISの実力なんて大したもんじゃないけど、」

一夏「この学園で唯一同性の先輩として“ここ”でのいろはを教えてあげられるから、」

一夏「――――――頼ってくれると嬉しいな」ニッコリ

シャル「…………あ、うん!」アセアセ

シャル「ありがとう。一夏って優しいね」ニッコリ

一夏「ああ、これからペアになることが多いだろうけど、今後ともよろしくな」ニッコリ

一夏「(イイヤッタアアアアアアアアアア!)」ニッコリ

一夏「(男の娘の笑顔、いただきましたああああああ!)」ニッコリ

セシリア「(ああ、一夏さんの笑顔が眩しい)」ウットリ

箒「(……一夏め! 私たちと接している時よりもよっぽどいい笑顔ではないか)」ギリギリ

鈴「(やっぱり、同性が相手だと気楽なことも多いからね。こればかりはしかたないか……)」ハア

鈴「(だけど、これって逆に“アブナイ関係”に発展しそうで怖いわね……)」ジー

鈴「(女の私から見ても、このシャルルって子は可愛いぐらいだから……)」ジー

一夏「どうしたんだ、鈴?」

鈴「いや、一夏って、その――――――何でもない」

一夏「……? まあいいや、それじゃ、メシにしようぜ」

箒「そうだな。そうすることにしよう」





一夏「美味しくいただかせていただきました!」

一夏「ごちそうさま!」ニッコリ

箒「よかった……(まさか、一夏に食べさせてもらえるだなんて…………)」ホッ

セシリア「一夏さんに美味しく食べていただけて、一安心ですわ」

シャル「こっちも、ごちそうさま、一夏!」

シャル「みんなと一緒にこんなに美味しいおスシを食べられて、僕は満足だよ」

鈴「それで、一夏。――――――あの話は?」

箒「――――――!(そうだ、最初に『将来のことについて』言っていたな)」

セシリア「そ、そのどうなんですか?(すっかり忘れていましたわ。私の馬鹿!)」

一夏「……そ、そうだね(男っていうのはどんなにメシがまずくても食べきってみせるのが甲斐性ってもんだ……)」

一夏「シャルル(だがここで、セシリアのメシマズを修正してやる糸口を! 次はないからな!)」

シャル「何、一夏?」

一夏「先に帰っていいよ。ここからは4人で放課後の利用の計画なんかもしておきたい」

一夏「シャルルも居てもいいけど、今日はまだ初日だし、ISのこと以外に今日中に教えておきたいことがあるから、俺の方でも段取りを考えておきたいんだ」

シャル「そういうことなら、わかったよ、一夏」

シャル「本当に一夏って気配り上手だよね」ニッコリ

一夏「それじゃ、またな」ニッコリ

シャル「うん。じゃあ、みんな、またね」





一夏「さて、『将来のことについて』なんだけど……」

一夏「みんなはどうするんだ? 俺はIS技術者で食っていくつもりだけど」

箒「まあ、『将来のことについて』と言うんだから、気が早い内容だが、」

箒「少なくとも私は政府の支援でここに在籍しているから、IS関係だろうな」

セシリア「私は代表操縦者を目指しますわ!」

鈴「代表候補生はみんな代表操縦者を目指すもんよ」

一夏「そうか。そうだよな」

鈴「でも、何で一夏は思い切ってISドライバーを目指そうとしないの?」

鈴「あんたの実力は代表候補生に匹敵しているじゃない」

箒「そうだぞ、一夏。シャルルに対して『自分は大したことはない』なんて言い放ったが、」

箒「一夏のISの強さはすでに周知の事実なんだぞ?」

セシリア「そうですわ。それにシャルルさんも一夏さんの実力についてはご存知のようですし」

一夏「今はさ、学生だから勉強に訓練にいろいろまじめに取り組んでいるんだけど、」

箒「まあ、それは当然だな(やはり、一夏は私なんかよりも遠くを見通している)」

一夏「だから今のところ、誰かと付き合おうとかなんて思ってないけど、」

セシリア「そ、そうなんですの……(そ、そんな~!?)」

一夏「でもいつかは、俺も人の子だから普通に恋愛をして、誰かと結婚するのかもしれないけれど、」

鈴「結婚かぁ……(あの約束、まだ有効だよね?)」

一夏「――――――ダメだな、何でこう回りくどい……」

一夏「……えっと、単刀直入に言う!」

3人娘「――――――?」

一夏「その、なんだ。見ていて歯痒く思っていたんだ!」

箒「な、何がだ!?」

一夏「いろんなことが、だよ」

セシリア「えっと、……え?」

一夏「俺ずっと、余計なお世話っていうか干渉っていうか、ケチを付けるというか……」

一夏「今日の鈴とセシリアの簡易戦闘のように、俺がもっと意識させてやればなぁ……てね」

鈴「あ、あれはその…………」

一夏「最近、そう思うようになってきたんだ」

一夏「ケチな批評家のように批判的に物事を見ては、一人で内心いろんなことに呆れていた」

箒「い、一夏……」

一夏「訊きたいのは、――――――もっと助言っていうか、こう口出ししていいのかってことだ」

一夏「これから付き合っていく上で大切なことだからさ。助言を仰がれたらそりゃ応えるけど、求められてもいないことを勝手にベラベラと言われ続けたら耳障りで迷惑だろうからさ…………」

一夏「みんなはどう振舞ったらいいと思う? どう振る舞って欲しい?」


一夏「…………これが確認したかったことなんだ」

箒「(これって先週の金曜日の私たちの説得に端を発しているのだろうか?)」チラッ

セシリア「(だとしたら、この心境の変化を受け止めてあげる必要――――いえ、義務が私たちにはありますわ)」チラッ

鈴「(やっぱり、仮面の下には普通の人間の素顔が隠されていたのね)」チラッ

3人娘「(――――――答えは決まっている!)」

箒「一夏、我慢はよくないと私は言ったな」

セシリア「そうですわ、一夏さん。今日のことはその、否定することができない私の未熟さが招いたことですし……」

鈴「私たちは一夏の力になりたいと思っていると同時に、一夏に頼られたいとも思っているから、」

鈴「これからは遠慮しないでいいのよ」

鈴「むしろ、あんなこと聞かされたら『イヤだ』なんて言えるわけないじゃない」

一夏「……そうか、よかった」フゥ

箒「あ、今の安堵には真実味があるな」

セシリア「こちらも何だか安心してきましたわ」

鈴「これで本当の一夏の心の奥底に一歩近づいたって感じね」

一夏「それじゃ、時間もいい頃合いだし、(――――――ふふ、言質は取ったぞ?)」

一夏「教室に帰ろう(これで軽く調教――――俺好みに修正することができるようになったぞ?)」

一夏「今日は本当にごちそうさま(これでメシマズを矯正して完璧な淑女に仕立て上げることも容易になったな)」

3人娘「お粗末様でした!」

一夏「(シャルルも俺に対して好印象のようだし、)」

一夏「(ぐへへへ、これからが楽しみでならないな~)」

一夏「(そう、今はこの程度にしておくが、卒業してからは…………)」

一夏「(卒業してからは、ねえ…………)」ハア


――――――ある日の放課後、技師の研究室にて


技師「私も聞いたぞ。シャルル・デュノアについて」

技師「気をつけたまえ。産業スパイの可能性が高い。ハニートラップに引っかからないようにな」

一夏「…………やっぱりおかしいですよね」ハア

一夏「あまりにも女性的な体格だったから、インターセックスじゃないかって思ってましたけど」

技師「…………インターセックス。きみがISを扱えるのはその可能性もあるな」

一夏「そうであればどれだけ気が楽だったか…………」

技師「今更嘆いてもしかたあるまい。きみはすでに“ブリュンヒルデの弟”でもあったのだから」

一夏「そうでしたね。――――――あの日」ハア

一夏「しかし、『白式』の拡張領域が何で剣1つで埋まっているんでしょうね」

一夏「これじゃ、俺だけ戦法を変えられなくて理不尽だ……」

技師「考えられるのは、この機体が『暮桜』の戦法を再現しようとしているからではないか?」

一夏「でも、『暮桜』のコアは今も千冬姉が持っているって聞いているし…………」

技師「私も正直わからない。外観や武器なんていうものは自由にデザインできるからな」

技師「だが、元々この機体は欠陥機として放置されていたものだった」

技師「解体する前に改めて検査したところ、何者かによって手を加えられて大幅に能力が向上しており、気味悪がられて引き取り手を探していたところ、――――――きみというイレギュラーが見つかった」

一夏「だから、こんな機体の専属パイロットにさせられたんですか」

技師「だが、よく馴染むだろう?」

一夏「そうですね。一撃必殺を主眼としたわかりやすい性能で、本当に使いやすいです」

一夏「――――――身体が保ちませんが」

技師「こうやって解析を進めてはいるが、手を加えた何者かの手によって放置以前の詳しいデータが抹消されていてな。元々拡張領域を全て雪片弐型に使っていたのが仕様だったのかがわからん」

技師「しかし、それが事実だったとしても、今度は雪片弐型というオーパーツの謎が残る」

技師「『零落白夜』――――人類最初の第1世代型IS『暮桜』と同じ単一仕様能力を再現しようとした代償なのか」

技師「はたまた、シールドエネルギーを互いに無効にするという規格外の能力故の必然なのか」

技師「ともかくだ。発想の転換が必要かもしれん」

一夏「――――――発想の転換」

技師「そうだ。設計者の設計思想を推測し、適切な仮定を立てることで真実に辿り着く手間を抑えるのだ」

技師「拡張領域を全て使うほどの理由があったから、後付装備ができないのか」

技師「それとも、『暮桜』のリファインを目指したからこうなったのか」

技師「…………ダメだな。もっと根本的な何かを見落としているのかもしれん」ウーム

一夏「なら、拡張領域と全く同じ容量の後付装備と考えるならどうだ――――――あ」ゴン

技師「何か閃いたのかね!」

一夏「すみません。テーブルのカードが散らばって――――――あ、これだ!」


解析が終わるまで技師と軽くポーカーで競った時のハンドがテーブルから何枚か落ちて、

それを拾って次いでに片付けようとカードを重ねた時だった。



技師「――――――なるほど! 確かめてみる価値はありそうだな」

技師「大した洞察力だ。道理で私でも惨敗するわけだ」

技師「やはり、きみは当代一のISエンジニアで名を上げるべきだな」

技師「“ブリュンヒルデ”と由来を同じくして“ヴィーラント”と呼ぶべきか」

一夏「肩書きなんてどうでもいいですから、――――――もし俺の仮説が正しかったら、この装備を造ってもらえませんか?」

技師「うん? これは武器ではないようだが、なるほど企業がテストを求めているのか」

技師「わかった。きみの趣味が丸出しだが、何とか製作させてみよう」

一夏「ありがとうございます、チーフ」

一夏「俺、ISがつか――――――」

技師「たとえISドライバーの道が閉ざされようとも、私はきみの味方で在り続けよう」

技師「だが、これだけは告げておくぞ、織斑一夏」

一夏「はい?」


――――――仮面の下の涙を拭え。


技師「きみが周囲に多くを期待されているのはわかっているつもりだ」

技師「そして、私はきみの才能を惜しんで手を貸している」

技師「だが、私にできるのは、ここまでだ。それ以上は踏み込めない」

技師「ここまでこれたのは偶然の積み重なりであったが、いずれも結果的に必然だった」

技師「…………良くも悪くもな」

一夏「チーフ……」

技師「十分に自分の可能性を感じられただろう?」

技師「なら、あとはきみ次第だ。状況に潰されるな」

一夏「……はい!」

技師「(ドクターが言うように、あの襲撃事件を機に世界が混迷の時代へと移り変わろうとも、)」

技師「(絶望を退ける勇気を持て! 己の宿命に従い、自らの生き様を全うせよ!)」

一夏「――――――俺、次第か」ボソッ



――――――シャルル・デュノアの転校から1週間経たず


山田「えっと……、今日も嬉しいお知らせがあります」

山田「また一人、クラスにお友達が増えました」

山田「ドイツから来た転校生の、ラウラ・ボーデヴィッヒさんです」

ラウラ「………………」

周囲「ドウイウコトー?」

箒「(シャルルの転入からほとんど間を置かずにまた転校生……)」

セシリア「(しかし、今度の転校生は近寄りがたい印象ですわね)」

シャル「(あれ、一夏のことをジッと見ているような…………)」

山田「みなさん、お静かに! まだ自己紹介が終わっていませんから」

千冬「自己紹介をしろ、ラウラ」

ラウラ「はい、教官」

一夏「(ドイツ……教官……)」

一夏「(――――――な、何だ? …………クラクラする?)」ハアハア

ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

山田「あ、あの……、以上ですか?」

ラウラ「以上だ」

女子「……あれ、どうしたの、織斑くん?」

山田「へ? あ、どうしました、織斑くん?」

一夏「………………」

ラウラ「貴様が、織斑教官の…………」スタスタ

山田「あ、ボーデヴィッヒさん!?」

一夏「………………」

シャル「ま、まさか――――!?」

ラウラ「――――――!!」スッ

バチーン!

一夏「――――――ありがとうございます!」(恍惚)

ラウラ「――――――何?!」

箒「一夏?!」ガッ

周囲「」アゼーン

一夏「――――ん? 俺、何で立ってるんだ? あれ、いつ目の前に来たの?」

箒「(一瞬前のことを覚えていない!?)」

山田「お、織斑くん……?」

千冬「………………」

周囲「オリムラクン、ドウシタンダロウ」ガヤガヤ


セシリア「(な、何ですの、この割り込めない雰囲気は?)」

一夏「それでどうしたいんだ?」

一夏「あの時の千冬姉の選択を、それまで他人だった、えっと……」

女子「ラウラ・ボーデヴィッヒ、だよ」

一夏「そう、他人だったラウラが否定するっていうのか?」

ラウラ「貴様、そうさせた自分の弱さから目を逸らすつもりか!?」

一夏「それもそうだな…………」

ラウラ「………………」

千冬「そこまでにして、さっさと席に着け」

ラウラ「はい。わかりました、教官」

一夏「………………」

箒「――――――あ」



箒「(その時、覗かせた一夏の横顔には今まで見せたことのない悲痛なものがあった)」

セシリア「あの織斑先生、一夏さんは?」

千冬「今のところは断定はできないが、例の後遺症だろうな」

鈴「そ、そんな! ISのことで発作が起きたことなんてなかったのに……」

千冬「見立てだと、ISに限らない原初的で広範な要因に反応する、非常に厄介なPDらしい」

鈴「じゃあ、やっぱりあの襲撃で死にかけたことが――――――」

鈴「私がもっと上手く助けることができていれば――――――」ポロポロ

箒「鈴だけが責任を感じる必要はないぞ!」

箒「私はただ貪欲に一夏の側に居ようとしながら、これまで一夏の大きな助けになったことがないのだから……」

セシリア「私ももっと早く救援することができれば――――とばかり今でも思っていますわ」

セシリア「しかし、過ぎたことを悔いてばかりではいけないように思いますわ」

鈴「…………そうね。つい最近『将来のことについて』話し合ったばかりだもんね」

千冬「……とにかく今は、ドクターに任せて我々は我々の日常をやるぞ」

3人娘「はい!」


医師「なるほど、一夏くんはそのことでずっと思い悩んでいた」

一夏「はい。ドイツからの転校生を見てあの日のことを思い出した時に、意識が遠のいていく感じがしました」

一夏「あの日が、――――全ての始まりの時」

一夏「今の俺にとって――――いや、千冬姉の輝かしい選手生命を奪った、始まりの時」

医師「なるほどね。私も彼女とは年来の友人だから、『モンド・グロッソ』連覇直前に試合放棄したことには心底驚いたが、」

医師「――――――あの時の決断は正しかった」

医師「私も――――いや、彼女をよく知る者ならみなそう思っているよ」

一夏「わかっているつもり、です」

一夏「家族が誘拐された時、力があるなら、自分の手で助け出そうとするなんて、」

一夏「――――――人として最高の望みですから」

医師「やっぱりきみは賢い子だね。だが、それ故により多くの刺激を感じてしまって脆い」

一夏「………………」

医師「ここに缶コーヒーがある。一杯どうかね? 無糖、微糖、果てはMAXコーヒーやカフェオレなんかもある」

一夏「それじゃ、これいただきます」

医師「うむ。たいていの問題はコーヒー一杯飲んでいる間に心の中で解決しているものだ」

一夏「そうですね。――――――あとはそれを実行できるかどうか、ですね」

医師「原因ははっきりとわかった。――――――きみの姉に対する罪悪感だな」

医師「これはPDとPTSDの混合型と判定すべきか」

医師「元々一夏くんは姉に対する罪悪感で日常的に強い負い目――――ストレスを感じながら生きてきた」

医師「PDとは精神障害ではなく脳機能障害に分類されていてね、日常として定着化した歪な条件反射のことだと思ってくれ」

医師「心的外傷後ストレス障害:PTSDっていうのは簡単にいえば、トラウマによるストレス障害のことだ」

医師「PDと似ているが、こちらは厳密に『死の瀬戸際や忘れ難い痛みを経験したか』で判定される精神障害だ」

医師「つまり、あの襲撃事件での強烈な死の予感がトラウマとなり、PTSDを患ってしまった」

医師「しかし、きみはトラウマの原因を“ISドライバーになったから”――――――ではない何かと捉えているために、ISに対する拒否反応が起きなかった」

医師「しかし、無意識的にPTSDを患ったことで潜在的なストレスとなり、PDを悪化させることになった」

医師「それが、今回のナルコレプシーの自動症に繋がった」

医師「――――――と、私は勝手に推測してみた」

一夏「………………」ゴクゴク

医師「まあ、私はきみではないし、本人でも理解していないことを正しく把握できるわけがないから、今のは参考程度に記憶に留めておいて欲しい」

医師「今回のケースは、きみの触れられたくない暗い過去と複雑な想いが一挙に噴出したものだが、」

医師「――――――もっと自分に自信を持っていいのではないか?」


医師「ISと人間の関係については専門分野ではないから偉そうに語れないが、きみほどの英明な子なら、どんどん自分の感情を吐き出していくべきだと思う。もちろん、きみの良心が許す範囲で、だが」

一夏「それがISとどう関係してくるんですか?」

医師「話を聞く限りだと、織斑先生が襲撃事件以来初めて一夏くんをIS実習に参加させた時に、頭上に降ってきた山田先生のISを受け止めたそうだね」

一夏「ああ、あの時のことですか。そうですけど?」

医師「その時、きみは脚部と胸部だけ部分展開して大惨事を回避したようだね」

医師「――――――不思議だとは思わないか?」

一夏「何がです?」

医師「咄嗟に山田先生を受け止めたはずなら、腕部に意識を集中するはずだ」

医師「それなのに、腕部ではなく脚部が展開された」

医師「そして、地面に埋もれたようだ。最低限の絶対防御を展開した構図だな」

一夏「別におかしいとは思いませんが? あの時の俺が咄嗟にどう動いたかは憶えていませんけど」

医師「正直、私が思っていることの全てを言ってしまうのは難だが、言わせてもらうと、」

医師「きみは姉に対する罪悪感のあまりに、自分の存在価値をなおざりにしてはいないか?」

一夏「そ、そんなことは…………」

医師「ISの運用法も合理的といえば合理的だが、」

医師「自分に合わせて機体を動かしているのではなく、」

医師「機体に合わせて自分を動かしている感じがしてならない」

一夏「ああ…………」

医師「だからな、結論から言わせてもらえば――――――」

医師「私的な目的のためにISを動かせなくなる場合が考えられるのだ」

一夏「そ、そんなことがあるわけ…………」アセタラー

医師「ISとは起動から基本操作まで、パイロットの明確な意思に反応して動くものだ」

医師「一夏くんが消極的な態度で居続けていると、いずれはそうなる可能性がある」

医師「そのことを忘れないでいて欲しい」

一夏「………………ごちそうさまでした」

医師「発想を変えてごらん」

一夏「――――――また、発想の転換」

医師「みんなが信じる自分でもなく、自分が信じるみんなでもなく、」

医師「自分が愛せる自分――――――なりたい自分を演じてごらん」

医師「私も織斑先生も、きみが苦悩の末に選んだ選択を受け容れるよ」

一夏「はい、心に留めておきます」

一夏「……ありがとうございました」ガチャ、バタン

医師「また、おいで」



医師「…………重傷だな」

医師「私の半分にも満たない歳で、大人を演じようとし、道化を演じようとし、」

医師「どれにもなることができない“みにくいアヒルの子”」

医師「あの歳で自己完結しているということが何よりの問題だ」

医師「なまじ良識があるだけに、ますます悪循環に陥るな」

医師「いや、おそらくそれだけではあるまい」

医師「あの子は英明だが、やはり心はまだまだ普通の少年だ」

医師「思春期特有の性意識もあることだろうし、」

医師「――――――ああ、それもあったか」

医師「だが、このまま手をこまねいているわけにはいかないか」ピッ

医師「私だが、一夏くんが発注したあのデバイスに例の機能を――――――」



――――――同日、深夜のアリーナ


一夏「――――――頼む、『白式』! 動いてくれ!」

一夏「千冬姉の前だったら、問題なくちゃんと動いてくれただろう!?」

一夏「千冬姉の前だったら…………ああ!?」

一夏「あ、ああ…………」ポロポロ

一夏「動けよ! 動いてくれよ! そんなんだから、俺はいつまでも千冬姉を苦しめてばっかりで…………」

一夏「俺は、俺はあああああああ!」

一夏「うわああああああああん!」


千冬「………………」ジー

千冬「む、ここは関係者以外立入禁止だが? しかもこんな夜中に」

医師「いや、すまない。至急これをあなたにお渡ししておきたくて」

千冬「何だこれは? IS用の簡易ディスプレイか? しかも、」

千冬「――――――能面の形をした特注品か」

千冬「調節次第で変形可能な代物か」

医師「ええ。これは一夏くんがチーフを通じて企業のサンプルに手を加えたものですが、」

医師「私の一存でとある機能を加えさせてもらいました」

千冬「何だと? 私に内緒でこんなものを造らせていただと?」

千冬「それで、追加した機能と言うのは?」


――――――劇薬です。これを渡すのは熟慮の末にお願いします。


千冬「わかった。これがその仕様か…………そうか」パラパラ

医師「しかし、一夏くん。予想通り、自分の意思でのISの使用を拒絶してしまいましたね」

千冬「……だから、劇薬なのか?」

医師「はい。一夏くんは体裁を気にするので、このまま織斑先生の前以外でISを自由に展開できなくなれば――――」

千冬「わかった。依存させないように、自主練の際には立ち会おう」

医師「それがいいと思います」

医師「しかし、最終的に彼自身が自分の存在価値を認めない限りは、廃人になることは明白です」

医師「チーフもそのことをわかっていて、ここまで手を回したんです」

千冬「…………わかっている。わかっているさ」

千冬「――――――そう、私はわかっている」


一夏「動け、動け、動け、動け、動け、動けよおおおおおおおお!」



――――――ある放課後のアリーナ


一夏「珍しいですね、織斑先生が来るなんて」

千冬「たまたまだ。いつまでもお前のお守りばかりしていられるわけではない」

一夏「ははは、そうですよね」


千冬「――――――織斑一夏!」キッ


一夏「――――――っ!?」ガキーン


シャル「え、突然どうしたんですか、織斑先生!」

箒「い、一夏!(い、今のは居合術!? まったく剣閃が見えなかった……)」

鈴「何あれ!? お互い最低限の部分展開しかしてないじゃない!」

セシリア「あ、あれが“ブリュンヒルデ”織斑千冬の実力……」

セシリア「しかし、一夏さんもそれを見事に受け止めましたわ!」

シャル「二人共、凄い実力なんだね……」

千冬「腕を上げたな。私には及ばないが、雪片弐型と腕部だけを部分展開するとは……」

千冬「いずれは雪片だけを展開できるようになるだろうな」

一夏「ははは、やっぱり千冬ね……織斑先生は強いなぁ。これで手加減しているんだからさ……」ガクガク

千冬「まだまだやれるだろ? 訓練、頑張れよ」

一夏「はい!」

一夏「よし、来い! 『白式』!」

一夏「…………(で、できた。できたよ、千冬姉!)」グッ

千冬「(やはり、引き金は私か。しかし、弟はそれを意識的にか、それとも無意識的にか、私を理由にして、ISの展開を拒んでいる。それを私が教えるべきか、教えないべきか、そこが悩みどころだな……)」

シャル「大丈夫かな、一夏? 僕、一夏と模擬戦がしたかったんだけど」

一夏「よし、やるか」

周囲「おおおおお!」

セシリア「シャルルさんの機体は『ラファール』ですのね」

鈴「でも、所々学園のものとはいろいろ違うカスタム機のようね」

箒「あの一夏が『厄介』だと公言した、『ラファール・リヴァイヴ』か」

箒「これは苦戦する予感が…………」



一夏「『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』――――これが正式名称か」

一夏「勝てそうにないな」

シャル「そうかな? これまでこの機体よりも高性能な『ブルー・ティアーズ』や『甲龍』に勝ってきたじゃない」

一夏「性能の問題じゃない――――もっと根本的な、相性の問題だよ」

一夏「この『白式』は空戦能力以外は大した性能じゃないからさ、相手の不意を突く奇襲戦しか使えない……」

一夏「『ブルー・ティアーズ』や『甲龍』が第3世代型ISの次世代機だといっても所詮は実験機だから、実験装備の使用を重視した調整でパイロットや基本性能に穴があるから、やれた」

一夏「それに比べて『ラファール』は第2世代型の傑作機で、数多くの修正が加えられて非常に兵器としての完成度と信頼性が高い。格闘対策の武装だっていろいろ持ってるんだろう?」

一夏「それに、万能型の『ラファール』に特化した訓練を受けている以上は、はっきり言って、セシリアや鈴よりも柔軟性のある手強い敵だ。だから、奇襲戦法しか使えない『白式』じゃ敵わない」

一夏「――――――そういうことだ」ハア

シャル「凄いんだね、一夏。いったいどれくらい先まで予習しているの?」

一夏「こんなのは俺が『白式』の専属になった時に考え尽くした結論だ」

一夏「『白式』の絶対の弱点は、“それしか使えない”戦術の幅の狭さだからな」

一夏「いやでも、わかっちゃうんだよ」

一夏「でも、いいぜ? やろう」

一夏「俺もどこまでやれるのか試してみたい」

シャル「わかった。それじゃ、行くよ!」

一夏「最弱の欠陥機『白式』! 下剋上狙って、推して参る!」

一夏「(ここでカッコイイとこ見せてやるぞ!)」



鈴「始まったわね」

セシリア「ら、『ラファール』が接近戦を!?」

箒「それぐらいで驚くな、セシリア」

箒「一夏が言っていたように、あれは万能機なんだから格闘ぐらいできて当然だ」

鈴「でも、見て!」

シャル「はあああああああ!」

一夏「甘い!(秘技“ローアングラー”!)」

シャル「き、消えた!? うわあ」ガキーン

セシリア「鮮やかな先制点ですわ!」

箒「あれは『格闘戦が』というより、『接近戦が』得意と言うべきなんだろうな」

箒「もう完全にあの技は一夏の十八番だな」

一夏「(ああ、もう! 『零落白夜』を何で、接近戦になった時点で発動させておかないんだ!)」

一夏「(これで何度目だよ!?)」

一夏「(短期決戦しか狙えないのに、何ケチってんだ、俺!?)」

一夏「(やっぱり、どこかで噛み合ってない…………)」

一夏「(何でこう中途半端なんだ……)」

シャル「くっ! なら、これで!」

セシリア「そんな!? 瞬時に武器が!?」

一夏「な、何!?(瞬時に二丁のショットガンに切り替えた!?)」

箒「い、一夏!」

一夏「間に合えええええ!(『ラファール』乗り十八番の『高速切替』じゃないか! うわ、男の娘強ええ!)」

鈴「あ、危なかったわね……ゼロコンマ遅れていたらダブルショットガンの餌食だったわ……」

一夏「ぐぅうううう!(ギリギリ間に合ったが、これでもう迂闊に近寄れない……!)」

一夏「……あ(よかった、久々のイグニッションブーストだったけど、大丈夫だった))」

シャル「凄いね、一夏。こんなにも早く対応したのはきみが初めてだよ」

シャル「ここからは、僕の番だよ」ジャキ

一夏「ぬぅ!(止めてええええええ! マシンガン撃たないでええええ!)」

一夏「(衝撃砲だとかBT兵器だとか、果ては戦略級レーザーとかもいろいろあったけど、やっぱりマシンガンこそが戦場の主役だよぉ…………! うげえ、回避しきれん…………!)」

一夏「(――――――普通の装備の方がよっぽど脅威だよ!)」

一夏「(それに、秘密兵器の性能に慢心するってこともないからこそ、普通に強いってことは安定して強いってことなんだよ……!)」

一夏「(うわ、これ、隙がない! 本当に『白式』の天敵じゃないか!)」

一夏「(ウホッ、男の娘強ええ!)」

一夏「(顔に出てないよな? とにかく今は回避に徹して――――――)」

シャル「そこ……!」

一夏「――――――何!?(今、新しいライフル取り出したよな?)」

一夏「(まさか、シャルルの『カスタムⅡ』って拡張領域が通常機の2倍近くはあるのか!?)」

一夏「(うはあ、持久戦に持ち込んでもジリ貧じゃないか…………)」

一夏「(だったら、華々しく散ってやらああ! オール・インだあああ!)」


箒「――――――突撃しただと!? どうしたというんだ、一夏!?」

鈴「突破口が見出だせずにヤケクソになったの!?」

セシリア「いえ、そんなはずがありませんわ! 織斑一夏という御人は私たちの想像を遥かに超えていますから」

箒「それはそうだろうが…………」

鈴「でも、どう見ても無謀にしか見えないわよ!」

シャル「この状況で突撃してくる?(自分で戦力差は歴然としていると言ってたのに?)」

一夏《童子》「………………」ニヤリ

シャル「なら、ここはショットガンで……(あの顔、何か狙っている!?)」

シャル「いや、距離を取って……(セオリー通りでいったら迎撃されるだけで終わるのを十二分に理解しているはずだ)」

一夏《童子》「………………」ニヤリ

シャル「(それなら、ヤケになってカミカゼしてくるはずがない! 必ず何か奇策を用意しているに違いない!)」

シャル「なら、こうするよ!(マシンガンとショットガンで、揺さぶりを掛ける!)」

一夏《童子》「………………」クルッ

シャル「――――――へ?」


一同「――――――!?」


セシリア「な、どうしてそこで急停止して背後を見せるんですか!?」

箒「…………わからない。わからないぞ、一夏!」

鈴「これじゃ撃ってくださいと言っているようなものじゃない!」

シャル「???(明らかに隙だらけのはずなのに、)」

シャル「(どうしてだろう、引き金が引けない…………)」ゾクゾク

シャル「ど、どういうことなの、一夏?(な、何!? この雰囲気……? と、鳥肌が立ってきたよ……?)」ゾクゾク

一夏《??》「………………」ユックリトフリカエル

シャル「(え? どういうこと? 何か返事をしてよ、ねえ一夏……?)」ゾクゾク

箒「ど、どうしてシャルルは撃とうとしないんだ!?」

鈴「ま、まさかそのまま堂々と奇襲する気なの、一夏?」

セシリア「で、ですが、そんなことをしても攻撃が通るはずが…………」

シャル「えっと、一夏? ――――――ひえ!?」ビクゥ


一夏《般若》「(バアーーーーーーー!)」ニター


一夏《般若》「(『零落白夜』起動! もらったあああああああああああああああ!)」ゴゴゴゴゴ

シャル「――――――あ(し、しまったああああああ!)」


箒「はあ!? 普通に奇襲が成功してしまったぞ!?」

鈴「ど、どうしてシャルルは何もせず突っ立ってたのよ!」

セシリア「ま、まさか――――――」


ガコン、バーン!

ラウラ「フッ」

鈴「へ!?」


ドッガーン!


周囲「オ、オリムラクーン! デュノアクーン!」

箒「い、一夏!? シャルル!?」

セシリア「だ、誰ですの!? 二人の試合に横槍を入れたのは!?」

鈴「あ、あそこよ!」

箒「ドイツの第3世代型IS……!? ラウラ・ボーデヴィッヒか!」

セシリア「何をしておりますの! あなた、自分が何をしたのかわかっているのですか!」

ラウラ「ふん。黙って見ていれば、弱くて醜い小男が策を弄して相手を貶める、見るに耐えない茶番劇だったから、正当なる評価としてブーイングを浴びせてやっただけに過ぎん……」

ラウラ「やはり、織斑一夏! 貴様のような虫ケラを生かしておくなど……!」

セシリア「あなた、今 何て……?! 許しませんわ!」

鈴「言うじゃない!」

ラウラ「ほう、イギリスと中国の第3世代型か?」

ラウラ「データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

ラウラ「貴様たちのようなものが私と同じ第3世代型ISに搭乗しているとはな……」

ラウラ「よほど、人材不足と見える」

鈴「この人! スクラップがお望みのようね!」

セシリア「そのようですわね!」

箒「くっ、私にも専用機があれば…………!」

ラウラ「くだらん種馬を取り合うような雌犬に私が敗けるものか」

鈴「あんたねぇ!! あんたが一夏の何をわかっているって言うのよ!!」

鈴「あんたが卑怯にも不意討ちで倒した一夏の代わりに、成敗してやるわ!!」

セシリア「一夏さんのような紳士をそこまで侮辱するとは…………」

セシリア「その軽口、二度と叩けなくなるようにして差し上げますわ!!」

ラウラ「とっとこい、雌犬」クイクイ


――――――その必要はない!



ラウラ「何?! くっ、まだ生きていたか!?」

箒「受け止めた!? あれは、『AIC』か」

鈴「一夏!」

セシリア「一夏さん!」

一夏「1対4――――いや、1対100と4だから止めておけ!」ジャキ

シャル「どうする、ラウラ・ボーデヴィッヒ!(初めての射撃武器でこの命中精度……)」ジャキ

ラウラ「1対104だと? 何を言って――――――織斑教官!?」

千冬「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

千冬「模擬戦をするのは構わん。だが、どんな時にもルールとマナーがある」

千冬「対戦中に断りもなく乱入するのは厳禁のはずだぞ」

千冬「そういう無作法な行為をやらせるために、個人所有が許されているわけではない」

千冬「もっと大人になれ! 愚か者!」

ラウラ「…………何故織斑教官はやつの肩を持つのですか?」

ラウラ「どうして…………くっ!」

一夏「………………(終わった、か)」フゥ

一夏「………………あ(結局、これかよおおおおおおおあああああああああ!)」


――――――またまた、モラシタ。安心したらモラシタ。


シャル「い、一夏?!」ガシッ

一夏「………………」グデー

シャル「先生! 一夏が!」

千冬「慌てるな! ――――――救護班、大至急!」

千冬「まったく、とんだ訓練内容になってしまったな」

千冬「………………」

箒「千冬さん……」

セシリア「一夏さんの選手生命が危ないですわ!」

鈴「もうこれ以上、一夏を苦しめるようなことが起きないでよおお!」

ブレード、グレンラガン、エヴァ

……………スパロボ好き?


医師「まさか、こんなすぐにまた呼ばれるとは思いもしませんでしたよ」

千冬「すまない、いつもいつも」

医師「やれやれ、IS学園に来るのは4月の定期健診とかそういうのだけだったのに、今年は賑やかだな……」

技師「それで、彼の容態は?」

医師「外傷はない。ISですからね」

医師「それと、どうも彼の治癒能力は異常な速さを見せている」

技師「『白式』のコアはやはり――――――」

千冬「その可能性は高いですね。私も経験したことがあるものです」

技師「では、篠ノ之博士が開発に携わっていたという噂も――――――」

千冬「事実でしょうね」

技師「そうか」

技師「――――――因果なものだ。10年前に歴史の表舞台に彗星のように現れたIS」

技師「それに運命を翻弄された者たちが、こうして一堂に会するとはな…………」

医師「『白式』の異常性といい、“運命の申し子”ですな、一夏くんは」

千冬「…………あの子が望んでいた“普通の生活”はもう手に入らないんですね」

医師「そう悲観することはない」

医師「あの子にとっての“日常”とは、」

医師「――――――あなたのことなのだから」

技師「かつての『白騎士』や『暮桜』と同じように、家族の強い絆を再確認すればいい」

技師「織斑一夏が一番に欲しがっているのは、あなたからの愛情だけなのだから」

千冬「それが一番の問題でもあるんだがな…………なまじ良識があるばかりに…………」

医師「ええ、世知辛い世の中です」

技師「…………彼のために準備させた例のアレは?」

千冬「まだ渡していません。やはり弟は私をキーにしてISの使用を可否を決めているようなので…………」

技師「――――――仮面の下の涙を拭え」

千冬「?」

技師「織斑一夏は“器”だ。どんなものでも溜め込んでしまうような――――――」

技師「願わくば、それを満たす血潮が清らかであることを祈りたい」

千冬「………………」

医師「………………」

技師「彼のことをよく理解している我々の配慮よりも、」

技師「彼と直に交わる彼女たちとのふれあいの方が注がれるものは多い」

技師「だが、事情を教えては濁ってしまう」

技師「我々の配慮ですら自責の念を覚えてしまうような繊細な彼だからこそ、」

技師「――――――祈る他ない。二人の転校生の件についても、だ」

一応シャルロット・デュノアだよ


――――――同日、病室


一夏「はい、フルハウス」

鈴「また、負けたああ!」ウガー

一夏「うん! 序盤の負け分は取り返して2位に返り咲いたぞ」

箒「むぅ! 修行の一環としてやり続けていたが、ここまで負け続けると――――」

セシリア「一度ぐらい勝ってみたいですわ!」

シャル「あわわわ、こういうのって運否天賦だと思っていたけど、」

シャル「ここまで連勝し続けているのを実際に見ると、持つ人は持っているんだね」

鈴「あんた、インチキしてないでしょうね!?」

鈴「1つの勝負を“降りる”ことはあっても、最終的に“負けた”ことはないじゃない!」

一夏「そりゃそうだよ。勝ち続けるためのコツってのは負ける要因を減らすこと、」

一夏「――――――すなわち、勝利を確信できた時だけ戦う」

一夏「これぞ、喧嘩の必勝法だ!」

シャル「でも、それだけじゃないよね?」

シャル「そろそろ教えてくれないかな、一夏?」

シャル「戦って勝てない場合でも勝たないといけない時ってどうするの?」

箒「そうだな。私にもシャルルとの模擬戦で打った最後の奇策のことを教えてくれ」

セシリア「私も気になりますわ」

鈴「そうよね。普通に蜂の巣にされてオシマイって場面だったじゃない」

一夏「あまり教えたくはなかったんだけど、まあ衆目に晒した以上は、ね」

一夏「――――――こういうことだ」

一夏《童子》「オール・イン!」ニヤリ

鈴「え?!」

箒「直面(ヒタメン)になっただと!?」

セシリア「ど、どうしてこの場面でそのようなアクションを!?」

シャル「そう、この顔だよ。この顔で近づいて来たんだよ!」ヒヤアセタラー


一夏《童子》「さあ、みんな? コールしてオール・インするか?」ニヤニヤ

一夏《童子》「フォールドせずに挑んで俺に勝てば、チップにばらつきがないから、首位確定!」ニヤニヤ

一夏《童子》「そして、俺は全財産を全てかほとんど失うから敗者となる!」ニヤニヤ

一夏《童子》「だが、1位のシャルル以外がこの勝負で負ければ――――――」ニヤニヤ

一夏《童子》「挑む度胸があるやつはいないか」ニヤニヤ

一夏《童子》「敗者となったら罰ゲーム! 忘れてないよね?」ニヤニヤ

シャル「……そうか! これが本場のポーカーフェイスってやつだったのか!」

シャル「まんまと騙されちゃったよ!(と言うことは、あの時の一夏も今の一夏も本当に何もないってこと?)」

一夏《童子》「そういうこと(またまたしてやりました~ん!)」ニヤリ

シャル「なら、コールだよ!(ハンド2枚も悪くないし、フロップ3枚ですでにフルハウス!)」

鈴「え!? 止めときなさいよ! 本当に一夏が無策なわけないじゃない!」

箒「一夏はほとんどブラフを使わないんだぞ! 勝つべくして勝つ男だ!」

セシリア「そうですわ! これはシャルルさんから1位の座を奪うために仕掛けた罠ですわよ!」

セシリア「…………フォールドですわ」

鈴「フォールドしかないわよ(さよなら、シャルル。今夜の犠牲者はあんたよ)」

箒「フォールドだ(引き際を弁えることも実力のうちだからな)」

一夏《童子》「よし、2位の俺と1位のシャルルの一騎討ちだな」ニヤニヤ

一夏《童子》「ターンもリバーもオープンだ!」ニヤニヤ

シャル「一夏、模擬戦の時は騙されたけど、この勝負 もらったよ!」

シャル「――――――フルハウスだよ!」

シャル「最初のフロップの時点で僕は勝ちを確信していたよ!」

3人娘「………………」ゴクリ

一夏《童子》「奇遇だな。俺も最初のハンドとフロップで勝利を確信していた」ニヤリ

シャル「え…………嘘でしょ!?」

一夏《童子》「フォー・オブ・ア・カインド!」

一夏《童子》「また、してやられましたね」ニヤリ

シャル「ああああああ! 僕の馬鹿、僕の馬鹿、僕の馬鹿…………!」

3人娘「(ああ、やっぱり――――――)」

一夏「オール・インのルールで勝者は賭けた分だけしか貰えないから、シャルルはまだ生き残る。だが――――――」

箒「あ、次のビッグ・ブラインドは…………!」

一夏「そう、次のビッグ・ブラインドにはシャルルがなるから、必要額500点を支払ってもらう!」

シャル「うわああああああああ!」(今日の敗者確定)

鈴「最初にやった時に味わったわ、そのデスコンボ。“泣きっ面に蜂”ね」

鈴「そして、こっちは相変わらず“機を見て敏”よね」


セシリア「それで、一夏さん? どういうことでしたの?」

箒「そうだぞ、一夏? 私たちにはまるで意味がわからないぞ?」

一夏「そういうことだよ?」

箒「どういうことだ?」

一夏「つまり、シャルルに使った奇策っていうのは、これと似たようなもので、相手に揺さぶりを掛けて深読みさせて判断ミスを誘うっていう、ただ単なる心理戦を仕掛けたってだけ」

一夏「種も仕掛けもない。あるのは相手の偶然の自滅か、自分の当然の撃滅か、――――――そのどちらかだけ」

箒「ああ……何とかなくだが、一夏の凄さははっきりわかった」

一夏「だけど、こんなのは仕掛ける方が圧倒的に不利なんだ」

一夏「だからあれは、本当に苦肉の策だったんだよ」

セシリア「じゃあ、今のシャルルさんの惨敗は?」

一夏「状況はだいぶ違うけど、シャルルは一番にあのトリックの答えを欲しがっていた」

一夏「だから、俺はシャルルにブラフを仕掛けた」

一夏「それによって、シャルルはあの時のブラフの内容と、このブラフの内容を同種のものと錯覚したんだ」

シャル「そこまで考えが読まれていただなんて…………」

一夏「だけど、ブラフはブラフでも、あの時のはまさしく苦肉の策であって、この時のは一網打尽の策だった」

一夏「助かりたいがためにするものと、陥れたいがためにするもの、――――――その2つがあったってことさ」

一夏「わかったかな、シャルル・デュノア――――――今日の敗者?」

シャル「あははは、高い授業料だったね…………」

シャル「お手柔らかに、ね?」

鈴「はあ、改めて上位ランカー、勝負師の業というのを感じたわ…………」

セシリア「本当ですわね。私は対戦した時から知っておりましたけれど……(そう、初めて会った時から……)」ポー

箒「何故そこで赤くなるのだ」


一夏「それじゃ、いいかな?」

シャル「は、はい! お、お願いします……!」

鈴「ねえ? これって実質、ずっと勝ち続ける一夏のワガママを聞くだけになってない?」

セシリア「で、ですが、織斑先生もポーカーで勝てたら認めてくださるって言ってましたし……」

箒「い、一夏と肩を並べるためにはこれぐらいの苦労は必要だということだ!」キリッ

シャル「え? て、手を…………?」ドキドキ

一夏「俺とシャルルは世界でたった二人だけの男性ISドライバーだから、」

一夏「ずっと側に――――いや、卒業するまで末永く仲良くしてくれないかな?」ニッコリ

一夏「シャルルと一緒に居る時間が憩いとなっているから、」

シャル「ふえ!?」

一夏「俺のために、今はどこにも行かないでくれ」ニッコリ

一夏「苦楽を共にすることができるパートナーっていうのは貴重なものだからさ」

一夏「…………それが勝者から敗者へのお願い」

一夏「聞き入れてくれるかな?(――――――決まったな)」ニッコリ

シャル「は、はい! こんな僕でよろしければどうぞ!」プシュー

一夏「よかった、本当に……!(――――――完璧だ!)」ニッコリ

一夏「(イイヤッタアアアアアアアアアア! 男の娘のハートを奪ってやったぜエエエ!)」グッ

セシリア「き、聞いているこちらまでドキドキするようなお願いでしたわね」ムスッ

鈴「セシリア、あんた、少し眉が吊り上がってるよ? 男相手に嫉妬してどうすんのよ」

箒「だが何だ、あの二人の間に流れたものは…………!」イライラ

箒「シャルルが男じゃなかったら、ま、まるで、あ、愛の告白ではないか……!?」

鈴「た、確かにそうね。だけど、一夏が男に走るわけ――――――あるかもね」ムカムカ

箒「お、おい!? も、もし、そうなったら――――――」

鈴《虚無》「よし、殺そう!」

セシリア《虚無》「そうですわね。殺しましょう!」

シャル「あは、あははははは…………」プシュープシュー

一夏「(ふひひひひ。これで少しは気が楽になったわー)」

一夏「(………………)」


ラウラ『貴様、そうさせた自分の弱さから目を逸らすつもりか!?』


一夏「(…………だけど、まだあの子が居る)」

一夏「(どうにかしないとな……)」


番外編2 一夏の調教その1

――――――とある日曜日


一夏「さて、セシリア」

一夏「料理を作ろう!」

セシリア「はい、ですわ!」

セシリア「(ま、まさか昨日のポーカーで箒さんと鈴さんが同時落ちして、私と二人っきりの一日をご所望だなんて……!)」

セシリア「私、頑張りますわ!」

一夏「気合入っているな(ふふふふ、ついにこの時が――――セシリアのメシマズを克服させる時が来た!)」

一夏「(ここでメシマズを克服させて、完全無欠な淑女に仕立ててやろう!)」

一夏「だけどその前に、味覚が正常なのかを試させてもらうよ」

セシリア「まあ、美味しそうなサンドイッチですこと」

一夏「今日の目標は俺が作ったサンドイッチの味を再現することだ」

一夏「BLTサンド、フルーツサンド、ピーナッツバター&ジェリーサンド…………」

一夏「全部に挑戦する必要はない。ただ、手本に従って忠実に再現して欲しい」

一夏「では、朝食としよう。召し上がれ」

セシリア「はい! いただきますわ!」

セシリア「美味しいですわ、一夏さん」

一夏「うん」ニッコリ


この時、一夏は「同じ物を作れ」と言っておけば、メシマズは解決するだろうと甘く見ていた。

これから一夏は、世の言うメシマズ嫁の実態を痛感することとなった。


一夏「(はあああああああああああああ!?)」

一夏「(テーブルマナーしか知らないのかあああああああ!?)」

一夏「(このレディはあああああああああ!)」


一夏「(何で普通の食器を使わない!?)」

一夏「(迷ったら、レシピを読めよ!)」

一夏「(砂糖と塩の見分けがついていないのか?!)」

一夏「(多少味付けしたっていいけど味見しろよ、味見! ピーナッツバターがどんどん塩味になっていくぞ!)」

一夏「(要領が悪い人だな……直接台の上にベタベタのバターナイフを置くな!)」

セシリア「きゃああああ!」ドタバタ

一夏「…………見てらんない!」イライラ


セシリア「あ、一夏さん…………」

一夏「セシリア、料理の経験は数えるぐらいなのか……!?」

セシリア「は、はい」

一夏「ISのショートブレードなんて持ち出すんじゃない」

一夏「(くそ、甘く見ていた!)」

一夏「(ピーナッツバター&ジュリーサンドなんて塗るだけなのに…………!)」

一夏「(それすら、こなすことができないだなんて……)」

一夏「(いっその事、止めさせようなかな…………)」

一夏「(ここまで家事スキルというか家事知識がないなら、野菜や果物を切ることや、クリームを立てることなんてできないだろう)」

一夏「(こういうのはすぐに実践できるものじゃない)」

一夏「(俺がそうだったんだから、お嬢様にすぐ伝授させられるわけがない!)」

一夏「(――――――嫁は熱いうちに打て、だな)」ハア

一夏「あの、セシリアさん……?」

セシリア「は、はい!」ナミダメ

一夏「チェルシーさん……だったかな?」

一夏「――――――お雇いの方に全て任せたらどうですか?」ハア

セシリア「も、申し訳ありませんわ……」ポロポロ

一夏「……セシリアはどうして知識もないのに手料理なんか?」

一夏「そのためのお雇いなんて居るんでしょ?」ナデナデ

一夏「(まあ、好きな人に何かしてあげたいからそうしたいってとこなんだろうけど……安直というかチョロいというか……)」

セシリア「だって私、一夏さんが箒さんの唐揚げをお食べになった時の笑顔を自分の手で見たくて…………」グスン

一夏「…………え(……違ってた? 違いを感じ取っていたのか?)」

セシリア「そ、それに私、生まれてくる子におふくろの味というものを味わせてあげたいと思ったから…………」グスン

一夏「…………おふくろの味?(俺とは無縁のものだったけど、そういうものもあるのか)」

一夏「(――――――聞けば、セシリアの両親はすでになく、セシリアはこの歳で両親の遺産を守りぬくために、熾烈な相続争いに身を投じ、その血が滲むような努力の成果が代表候補生なのだろう)」

一夏「(俺には物心ついた時にはもう居なかったけど、やっぱり親っていうのは大事なんだろうな…………)」

一夏「(――――――似ているな)」

一夏「(俺も親代わりだった千冬姉のために己の知を鍛えてあげてきた)」

一夏「(磨いてきた知恵と知識は誰かのために使いたいと思って求めてきたものだ)」

一夏「(なら、セシリアのささやかな夢のために協力することだってできるはずだ)」


一夏「セシリア」

セシリア「ごめんなさい、こんなにも未熟で…………」グスン

一夏「――――――俺と一緒に料理を作ろう」ナミダヲヌグウ

セシリア「え、いいの、ですか…………?」

一夏「ただ、料理をするっていうのはこんなふうにね……」

一夏「――――――手を痛めるってことなんだ」

一夏「肌荒れとかもするし、指を切るかもしれない、これまで感じたことのないような感覚に襲われるかもしれない」

一夏「そうやってこの手が傷だらけになることを受け容れる覚悟が必要なんだ。言うなれば、」

一夏「――――――燃えたぎる炎を素手で掴むような覚悟が」

セシリア「………………」

一夏「だけど、安心して欲しい!」

一夏「俺が手取り足取り懇切丁寧に教えてあげるから」

一夏「ISと同じように、きちんと知識を深めてから実習をする。同じ事だよ」

一夏「だから、入試首席のエリートの、セシリア・オルコットならできるさ」

セシリア「一夏さん……」

一夏「この傷だらけの手を思いっきり掴んでくれ。それで契約の儀式は成立する」

セシリア「はい」ギュッ

一夏「(改めて握られると、思ったよりもか弱いんだな…………握手自体は俺の方からやってたけどね! 何やってんだ、あの時の俺!?)」

一夏「……契約は今ここに結ばれました。卒業するまでに人に振る舞える程度のレベルを目指します」

一夏「では、今日は初日ということで、どんなふうにサンドができるのかを見ていてください」

一夏「雰囲気や流れを掴むことも立派な勉強です」

セシリア「はい。わかりました、先生!」

一夏「では、最初にBLTサンドからいきますね」

一夏「(やれやれ、調教するつもりが、こんなことに…………)」

一夏「(調教してその時が来るまでキープしておこうとかヤラシイこと考えてたけど、)」

一夏「(何やっても中途半端だな、俺…………)」

一夏「(こんなにも純粋なセシリア・オルコットと向き合うなんて、)」

一夏「(――――――俺にはできない。見つめ続けていたら、顔が割れてしまいそうだから)」

セシリア「(一夏さんの手、最初の時よりもずっと大きく、温かく感じられました)」

セシリア「(そして、学業もISも賭け事――――全てにおいて私よりも完璧でありながら、それに驕ることもなく、安易な道に走ることなく、苦しみや痛みに真正面から耐え続けるあの方の背姿を見つめていると、)」

セシリア「(私も何か大きなことを追いかけないといけないと思うのです)」

セシリア「(代表操縦者になるとか、そういう地位や名誉といったものではない、目には見えないもっと大切な何かを…………)」

セシリア「(…………こうして見ていると、)」

セシリア「(何故だか、母の顔色ばかり窺っていた情けない父のことを少しだけ許してあげたくなりましたわ)」

セシリア「(いつか墓前に花を供えにいきますね。一夏さんと一緒に)」


一夏「包丁を握る時はこう――――(俺なんかのことは忘れて立派に巣立っていってくれ……)」

セシリア「はい。こう、ですね?(たとえ一夏さんと結ばれない未来であっても、私は――――――)」ニッコリ



――――――調教結果


晩のポーカーの席で、セシリアが具を挟んだ、

ピーナッツバター&ジュリーサンド、フルーツサンド、BLTサンド

以上が間食として運ばれた。まともな味付けに箒と鈴が心底驚いていたが、

セシリアは顔を赤らめながら、『ただ具を挟んだだけ』とだけ答えた。

そして、『今度は美味しい具を作りたい』と俯きながら言うのだった。


――――――生まれてくる我が子におふくろの味を食べさせてあげたい


改めて俺は、そのささやかな願いのために、力を尽くすことを決意したのだった。

放課後には、学年別個人トーナメントという高体連みたいなイベントもあって、

優勝目指して訓練に励むことになってはいるが、それが落ち着いてからは本格的に始めることを計画した。

男性らしさや女性らしさがあやふやになり、父性や母性も失われつつある現代において、

良き父や良き母になろうと、まじめに考えている人を俺は全力で応援したい。

男には男の、女には女の、道があると信じて…………



――――――早朝でのこと


シャル「ふぁああ……まだ4時半か」ウトウト

シャル「って、あれ、一夏? 箒との朝練の時間じゃないし、どうしたんだろう?」

シャル「ああ、そうか。個室にトイレないから出て行ったのか……」

シャル「でも、一夏も授業免除を受けているとはいえ、整備科の勉強もこなしているから大変だよね」

シャル「そ、それにき、昨日のこともあるし…………」テレテレ

シャル「ぼ、僕は一夏の癒しとなれる『唯一無二のパートナー』なんだから、」

シャル「い、一夏のために…………えへへへ」

シャル「さっきの夢の続き、夢の続き…………」ムニャムニャ

シャル「赤ちゃんの一夏を僕が………………」スヤー



――――――とあるバーにて、遡ること数時間前


一夏「お久しぶりです、マスター」カランカラン

店主「GOOD!」

一夏「例のブツは用意できてますか?」

店主「YES」

一夏「では、代金です」

店主「GOOD! 確かに受け取りましたよ、ワンサマー」

一夏「では、これで――――――」

店主「待ちなさい、ワンサマー。久々にここに来たのですから、どうです?」

店主「IS学園に入学してからISドライバーとISエンジニア――――両方の勉強で大変でしょうが、」

店主「あなたはポーカーの頂点に立つことを目的に全てを始めたはずです」

店主「そして、“WSOP”に出場してその賞金で恩返しするのでしょう?」

店主「始めは私のバーのアルバイトとして私に近づき、」

店主「そして、恐るべき吸収力で私から勝負師としての業の全てを奪い取った」

店主「私から奪った業で幅広い分野で活躍しているのは、師として心躍るものがありますが、」

店主「だが、ISなどという絶対防御によって安全を保証されたゲーム機にかまけて、」

店主「私から奪い取った業をそんなもののために錆びつかせることを絶対に許しません!」

一夏「そんなことは――――――」

店主「ワンサマー。あなたは私と未来を賭け金にして壮絶な騙し合いの末に私を下した、」

店主「この私が認める勝負師人生最大の強敵であり、尊敬すべき好敵手でもあります」

店主「たとえ、ワンサマーが命を賭した勝負に身をおいていようとも、」

店主「極限まで研ぎ澄ませるようなものでなければ、」

店主「いずれは本当の勝負など知らない生娘しかいないIS学園の生温さに感化されて全てを失うことでしょう」

一夏「――――――全てを失う?」


店主「勝負師は勝つために手段を選んではいけません」

店主「イカサマを見抜けなかったのは見抜けない人間の敗北なのです」


――――――勝負師にとっての人間関係とは?


一夏「……騙し合いの関係」

店主「GOOD! そう、泣いた人間の敗北なのですよ」

店主「ですから、勝負師は何事においても束縛されてはいけないのです」

店主「でなければ、負けられない勝負に負けてしまうのです」

一夏「………………」

店主「忘れないでください、ワンサマー」

店主「ワンサマーはISドライバーになる前からISエンジニアである前に、」

店主「ワンサマーは勝負師であったことを――――――!」

一夏「――――――!」

一夏「……そうだった。俺はあの日、剣を置いてカードを手にした」スッ

一夏「だから今の俺が、ここにいる!」

一夏《童子》「――――――コール!」ニヤリ

店主「GOOD!」ニヤリ



――――――そして、


一夏「さて、ブツは手に入れたことだし、アリーナに向かうとするか……」

一夏「うん! 綺麗な星空…………」ウットリ

千冬「よもや、学外に無断外出していたとはな…………」

一夏「いっ、ちふ……織斑先生!?」ビクッ

千冬「今ぐらいの時間にアリーナに侵入して、秘密の特訓をしていることは知っていた」

千冬「だが、その袋の中身は何だ?」

一夏「ええと、これは…………あ」スッ

千冬「なるほど、薬局で何かを買ってきたようだが、これはいったい何だ?」

千冬「答えろ」

一夏「り、利尿剤、です……」

千冬「ついに薬物にまで手を出したか……」

一夏「や、薬物なんかじゃないですよ!」

一夏「そ、それに! 俺は昨日、シャルルとの模擬戦中にラウラに砲撃されても漏らさなかったのに、安心したら漏らしちゃったんだよ! 漏らしたことに気づいてなかった時もあったし、何だか、段々と身体の生理が崩れていっている気がして……」

千冬「(なるほど、弟のPDはマゾの他にこんな形で現れていたのか……)」

千冬「(…………私にもわからなかったわけだ)」ハア

千冬「…………利尿剤はボクシングなんかでドーピング剤として使用禁止になっている」

千冬「ISでの使用における是非は私も把握していないが、治療以外の目的で使うのは看過できん」

千冬「――――――没収だ」

一夏「そ、そんな…………」

一夏「そ、それじゃ、秘密特訓も…………」

千冬「今まではトイレの都合を考えて黙認してやったが、無断外出でこんなものを調達してきた以上、もう許すことはできない。とっとと帰って寝ろ。これは警告だ。指導でも注意でもなく、次はないものだ」

千冬「次に何かあったら、お前から『白式』を剥奪しなくてはならなくなる」

一夏「そんなのはイヤだ! 『白式』は俺と――――――」

千冬「なら、『白式』との繋がりを守るために帰るんだ」

一夏「くぅうううううううう…………!」

千冬「…………だが、あと30分もすれば5時になる」

千冬「さっさと行け」

一夏「――――――!? ありがとうございます……」

千冬「次はないぞ?」

一夏「はい!」タッタッタッタッタ

千冬「(…………私が見ていないところでは『白式』は使えないから問題はない)」

千冬「(――――――だがしかし!)」キッ

千冬「このままだと本当に一夏は……弟が……私の家族が…………」

千冬「渡しておくべきなのだろうか、利尿剤以上の“劇薬”を…………」」

ワンサマ徐々に壊れてきてるね しかもその原因の大元が………


一夏「ふう、検証のために先に水筒に混ぜておいてよかった……」

一夏「使わずにはいられなかったからな……」

一夏「それにしても、」

一夏「結構出るんだな、あれ…………」

一夏「スポーツドリンクに希釈してアレなんだから、原液のままだったら凄いことに…………」


朝陽を待ち侘びる夜明け前のアリーナは、日中 学年別個人トーナメントに向けて数多くの少女たちの汗と熱意が注がれていたのが嘘のように空虚でひんやりとしていた。

着替えた一夏はその中で『白式』を起動させようとする。

一夏「来い、『白式』!」

一夏「………………」シーン

だが、反応はない。その原因は冷静に自分で分析できていた。


――――――もう自分の意思ではどうすることもできないことも。


しかし、それでも唯一の肉親の前だけなら使えるので、

落ち着いてここで起きた数々の戦闘での体験を思い出す。

そして、感覚を忘れないように1つ1つの鮮烈な体験の軌跡を静まり返った空間に再現していく。

その果てに、ラウラに砲撃されたことや、シャルルとの模擬戦よりも、もっと強烈な出来事を思い起こす。

そう――――――、

千冬『――――――織斑一夏!』キッ

一夏「はあああああああ!」

姉弟で実演した、生身でのIS用ブレードによる居合斬りの場面を!

一夏「で、できた――――――来い、『白式』!」

一夏「やった!」

一夏「よし、もう一度!」

千冬『――――――織斑一夏!』キッ

一夏「はあああああああ!」

一夏「って、今度は不発か。――――――来い、『白式』! って無理か」

一夏「もう一度だ!」

千冬『――――――織斑一夏!』キッ

一夏「はあああああああ!」


――――――これが織斑一夏が考えたPTSDの克服法。

“織斑千冬が目の前で見ている”と思い込み、勢いのまま『白式』を展開することであった。

幸いにも、一夏がこの方法を思いついたのは、

知ってか知らずか他でもない千冬が斬りかかったからであり、

一夏にとって、あの一瞬は大きな助けとなった。


織斑一夏はかつて剣道の実力では、全国一となった篠ノ之箒とは小学生時代において凌駕していた。

本格的な成長を迎える前に男子が成長が早い女子に力で勝っていた時点で、相当な素養の持ち主である。

しかし誘拐事件以来、体を鍛えることは止めて、知を鍛えることに傾倒したことで、非凡な身体能力は錆びついていくことになる。

だが、知を鍛えていく過程で彼はポーカーと出会い、能面との融和を果たした。

身体能力は全体的に落ちてはいるが、ポーカーで培った勝負師としての能力、

――――――機微を見逃さない反射神経、広い視野、危機予測によって、

知能指数は極めて高く、脳波制御のISを意のままに操れる驚異的な意思伝達力を身に着けたのである。

そして、体を鍛えることを捨てたことで磨きぬかれた知の力と勝負師としての力量が融合し、

これまでの試合で代表候補生相手に善戦してこられたのである。たとえ、偶然であろうとも、それは結果として認められている。

そして、今のように己に課せられた障害を克服する方法を自力ですぐ見つけられたあたり、

織斑一夏の発想力と実行力は英才としてふさわしいものがあった。


――――――己の精根を燃料にして。


今、織斑一夏がやろうとしていることは、「自分」とは別に存在する『自分』との戦いであった。

身体が悲鳴を上げていた。理性も金切り声を上げていた。だが、泣き声を上げることは許されない。

『イケメン』を演じることが自分に課せられた使命と自負している限り…………!


一夏「はあはあ…………」

一夏「20回やって6回ぐらいか…………」

一夏「3割の確率で成功するか……十分だな…………」

一夏は十分な成果を確認して今回はこれぐらいにして引き揚げることにし、

アリーナの隅に置いておいた2つの水筒に手を伸ばそうとした。

すると、エントランスの闇の向こうから――――――、

ラウラ「ふん。アリーナのロッカールームに監視カメラを設置してみれば、」

ラウラ「まさか噂通り、殊勝にもこうして秘密の特訓をしていたとはな」

ラウラ「残念だ。もう上がってしまうのか?」

一夏「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

一夏「それで、どうするつもりだ……」

ラウラ「ふん」スッ

一夏「――――――って、それは俺のだ!」

一夏「げ……(薄暗くてわからんが、あいつの持っている水筒はどっちだ!? 赤か、青か!?)」

一夏「人のものを勝手に許可無く飲むな!(な、何言ってんだ、俺?! こんなこと言ったら、逆に――――――)」

ラウラ「私は貴様が憎い…………!」ギラギラ

ラウラ「織斑教官の栄光に泥を塗った貴様がな……」ゴクゴク

一夏「あ、ああああああああ!(な、何という事だああああああ!)」ガクガク

ラウラ「どうした? 私が怖いのか? 無様だな、情けなく縮み上がって……」

ラウラ「――――――この駄犬!」

一夏「(あ、ありがとうございます!)」ブルブル

一夏「(――――――ってそんなんじゃねえよ!)」

一夏「(赤は利尿剤入ってんだぞ! 何で、青を選ばなかった……?!)」

一夏「(利尿剤は責任持って処分するつもりだったのに…………!)」

一夏「(マズイマズイマズイマズイ)」

一夏「(確かあれは即効性を重視したやつだから、5分は保たないぞ!)」

一夏「(漏らしたら――――――え、ええ?! いろいろマズイ…………!)」

一夏「ラウラ、俺は今――――――」

ラウラ「さあ、織斑一夏。――――――私と戦え!」

一夏「止めるんだ、ラウラ! お前は――――――」

ラウラ「問答無用! 塵になれ!」

一夏「うわ!?」

一瞬で展開され、容赦なく放たれたレールガン。しかし、狙った標的には当たることはなかった。

一夏「あ、動いた!? ありがとう、『白式』!(やはり、心の底から必要だと思った時にしか…………)」


ラウラ「誰も見ていないこの場所で息の根を止めてやる…………」

一夏「正気か! それが代表候補生のやることか!」

一夏「くっ(こいつ、――――――ガキか!?)」

一夏「(先日 自分が教官と仰ぐ人物から警告を受けたのに、自分のやりたいことしか眼中にない……)」

一夏「(ドイツ軍IS配備特殊部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”隊長、階級:少佐、身長:148cm)」

一夏「(この歳で少佐ってことは、物心付いた時から軍人だったってことか……)」

一夏「(『力があれば何をしてもいい』って考えが滲み出ている辺り、ろくな社会教育を受けてないらしい)」

一夏「悪の枢軸の軍人に見えるぞ、まったく(――――――やっぱりこいつ、正真正銘のガキだな)」

一夏「だけど……(中距離両用型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』!)」

一夏「(IS業界で注目の的だったウルトラハイスペック機とやり合うことになるとはな……)」

一夏「(正直、勝てる気がしない……)」

一夏「『AIC』なんかよりも、このワイヤーブレードの方が一番厄介だ!」ズバズバ

一夏「(アリーナの外はもう陽の光が差しているだろうけど、まだアリーナに光は差し込んでいない)」

一夏「(実質的に夜間戦闘だから、ポーカーフェイスによる心理戦も使えない……)」

一夏「(それ以上に視認しづらいんだよ、ワイヤーブレード!)」

ラウラ「ほう、ここまでやるとは思いもしなかったぞ? 褒めてやろう」

ラウラ「どうやら、あの雌犬共よりはやれるらしいな」

一夏「…………これだからのガキの相手は疲れる」ハア

一夏「(どうする? 隠し球を使うか? 今ここで?)」


――――――あ、そうだ!


一夏「(そろそろ揺さぶりを掛けることができるはずだ!)」

一夏「(セコい手と言わざるを得ないが、仕掛けてきたそっちが悪いんだからな!)」


一夏「ラウラ! もう止めよう!(ぐへへへ、応じるわけがない! レイズだ!)」

ラウラ「私は言ったはずだがな、この駄犬! 貴様はここで息の根を止めるとな!」

一夏「わかった! そこまで言うのなら、(う~ん、距離が遠いからせっかくの罵倒が……)」

一夏「――――――織斑千冬 直伝の『零落白夜』の光の剣で受けて立つ!」

ラウラ「き、貴様ぁあ! 貴様ごときがあの人の名を口にするな!」

ラウラ「そう、貴様ごときが織斑教官の弟であるなど私は認めない! 認めるものか!」

一夏「口では何とでも言えるけど、何もしてこないなんて、」

一夏「――――――怖いのか? 織斑千冬の弟である俺が!(ガキは挑発に乗りやすい。お前はコールする)」

ラウラ「――――――この!! 貴様はこの手で八つ裂きにしてやる……八つ裂きに…………はうっ!?」

一夏「でやあああああああああ!(ISの基本を忘れたものに勝ち目はないぞ、ガキぃ?)」

ラウラ「(な、何だ!? きゅ、急に…………)」ムズムズ

一夏「縮こまっているんじゃない!(錯覚させろ! 悟らせるな!)」

一夏「怖いのか、俺があああああ!(さあ、使ってこい! オール・インだ!)」

ラウラ「――――――は、いつの間に!? だが、詰めが甘かったな!」アセダラダラ

一夏「……な、何だ?! う、動かない!?(はいはい、『AIC』『AIC』)」

ラウラ「惜しかったな(ま、まさか私がこんな致命的なミスを犯すとは……)」アセダラダラ

ラウラ「だ、だが、この『停止結界』を持つ『シュヴァルツェア・レーゲン』の前では赤子同然……はぅ!?」ビクッ

一夏「――――――動いた!(ああ、俺は本当に運がいい)」

一夏「行け、潰せ、斬り裂けえええええええ!」ズバリーン

ラウラ「ば、馬鹿な! こ、この私が……!?(こ、こんなことは今まで一度も……!?)」

一夏「よし!(戦果は上々! 右肩のレールガンとワイヤーブレードを使用不能にできた!)」

一夏「じゃあな!(まさかこんな形でドイツの第3世代型に一矢報いることができたとは…………!)」グッ

ラウラ「あ、待て、お、織斑一夏! こ、この屈辱は必ず晴らしてやる!」ドタドタモジモジ

ラウラ「う、うわあああああ!」ヒュウウウウウン

一夏「ははは、凄い勢いで行っちゃった(本当は、長引かせて失禁したところを――(自主規制)――したかったが、)」

一夏「(このことが表沙汰になったら、俺が『白式』の専属じゃなくなるからな……)」

一夏「(心残りだけどこれ以上は千冬姉に見つかって警告を受けたことを踏まえて自重せねば……)」ハア

一夏「(ああ、でも、スッキリした~)」ニコニコ


最終的な勝因は、やはり第3世代兵器への絶対の信頼を利用して突破口を開いたことにあった。

利尿剤の影響で集中しづらくなっていたのもあったが、

ラウラが『停止結界』と呼んだ『AIC』は強力ではあるが、力場を生成するために集中力を大きく割く必要がある兵装であり、

このように実用化した段階でもラウラのような屈強な戦士でなければ扱いきれない代物であった。

第3世代兵器は『ブルー・ティアーズ』に然り、『龍咆』に然り、『AIC』に然り、

いずれもイメージ・インターフェイスを用いてこれまでにない自由度と戦術性の高い内容となったが、

ISの制御そのものが脳波コントロールであることが災いして、

○と△を同時に書くような、同時に非同質な2つ以上のことを――――――

それも高級言語として理路整然とした思考を並行して確立させられない限りは、

集中力を割いてしっかり認識しないと第3世代兵器が機能してくれないし、それによってISの制御が失われる、

――――――程度に差はあるが共通の欠点があった。


単純であればあるほど物事はスムーズにいくが、複雑化していくと効率は下がる。

自由とはシンプルなようでいて、実は複雑化の究極とも言える状態でもあり、それ故にこのような欠点を生み出すのである。

――――――自由であることが逆に効率を鈍らせ、隙を作らせるわけである。


整備科出身で現在も着々と知識を深める英才であり、負けない勝負はしない勝負師ならではの、


――――――偶然をモノとした必然の一点突破であった。


一夏「――――――証拠隠滅っと(せっかくだし、ラウラが口付けしたやつを……)」グイッ

それ故に一夏は、兵器として完成している『ラファール』だけを『厄介』と言い放ったわけである。

これまで第3世代型の専用機に対しては『(機体だけ見れば普通)勝てない』と言ってはいるが、

『(全くもって)厄介』だと評したのは第二世代型の『ラファール・リヴァイヴ』だけである。

くどくなるようだが、一夏と『白式』の勝ち筋とは奇襲による一撃必殺であり、

『白式』の性能なら一瞬だけ相手の意識を逸らしてしまえば、その瞬間に懐に飛び込んで、ほぼ勝利をものにすることができる強みがある。

それ故に一夏と『白式』にとって、機体性能を抜きに相性や特性だけで判定するなら、

第3世代兵器という集中力を多く割く兵器を、各国が威信をかけて搭載させた第3世代型ISこそが、

実は、この勝利の方程式に当てはまりやすいカモなのだ。

逆に、技術力は低くとも人類の戦いの伝統を受け継いだ堅実な武器を使う第2世代型ISの方が、

単純でわかりやすく普通なので、どうやっても普通の戦いになってしまい、

普通に弱い『白式』は手も足も出ないことになる。


一般的には、世代を経るごとにISは高性能化していき、勝敗というものもどちらがより高性能なのかで決まるのだが、

これに関して一夏と『白式』は、単一仕様能力『零落白夜』による一撃必殺、イグニッションブーストによる高速戦闘、織斑一夏の智謀によって、

他のIS以外では全く得られない圧倒的な戦術価値と「何をしてきてもおかしくない」という不気味さを持つことにより、

織斑一夏と『白式』は最新鋭の第3世代機相手に圧倒できたのである。

だが、もっとはっきり言ってしまえば、一夏と『白式』はどんな相手だろうと警戒させられるだけの能力を備えているので、

運と勢いさえあれば、極論誰が相手であろうと勝ち取れる可能性が必ずあり、そこが一番恐ろしいところである。


そういうことで、整備科出身の英才であり、勝負師である織斑一夏と『白式』は、その特異的な存在をアピールするかのように、

番狂わせのダークホースとして、IS業界に衝撃を二度も三度も走らせていたのである。



これにて、ようやく第3話、終了です。

……………おのれ、イーモバイル!

場所を変えての投稿ですが、今後とも長々とお付き合いよろしくお願いします。

昼間の投稿は、第4話終了までいってみたいと思います。


第4話 学年別ツーマンセルトーナメント
White Knight on DARK HORSE

――――――学年別ツーマンセルトーナメントまで残り数日


一夏「さて、どういうわけか、トーナメントの内容がタッグマッチになったようだな…………」

一夏「(だが、普通に戦ったら最弱の『白式』ではもう誰にも勝てないだろうな……)」

一夏「(俺がイグニッションブーストやハッタリしか使えないのをみんなに知られたことだし……)」

一夏「やーめた。俺は不参加だ」

一夏「それよりも、トーナメントにまでに用意させておいたアレを貰いに行こう」

千冬「ここに居たのか、織斑」

一夏「あ、織斑先生……」

千冬「お前に届け物があるぞ」

一夏「あ、あの……(げ! 黙って整備科のコネで造らせたことがバレた?!)」

千冬「さて聞くが、これは何だ? 正直に答えろ」

一夏「IS用の簡易ディスプレイです…………」

千冬「用途は? なぜ覆面なのだ?」

一夏「えっと用途は、開発中の新型ディスプレイのサンプルの運用テストと雪片弐型の解析のため」

一夏「能面型なのは、発注者の趣味とイメージ・インターフェイスによる色彩変化を試験するためです」

千冬「なるほど、業社との取引でそういうことなら没収することもできんか」

千冬「だが、お前は国家や企業との契約で専用機持ちになったわけではないのだぞ」

千冬「異例のことだが、『白式』もそのドライバーも所属は“ここ”だ」

千冬「『白式』やドライバーに関する事案は所有者である学園の審査を経てから行うのが筋だ」

千冬「多方面で努力をしていることは認めるが、やり過ぎだ」

千冬「――――――警告しておくぞ。次はない」

一夏「…………はい」

千冬「さて、」

一夏「え、まだあるんですか?」

千冬「先程お前は『雪片弐型の解析に使う』と言ったが、どういうことだ?」

一夏「ああ、それは全くの偶然なんですけど――――――」






一夏「――――――というわけで、『白式』の可能性を追究するためにこの装備を発注したわけです」

千冬「なるほど。私はただのドライバーだからな。動かすことはできても、解析するまではできん」

千冬「さすが、二足のわらじを履く英才だな」

千冬「時期尚早と考えていたが、テストパイロットに選出されたのは間違いではなかったな」

一夏「俺は、織斑千冬にはなれない――――――。だから、違う面で支えていこうとした結果ですよ」

一夏「俺はあの襲撃事件以来、弱くなったような気がして…………」

一夏「いえ、元からでした。初めて『白式』に乗った時もそう――――――」

千冬「…………そろそろ、良いのではないか?」

一夏「は?」

千冬「もう十分にお前は認められた。だから、これからは気楽にいったらどうだ?」

千冬「お前は、織斑一夏に成りきればいい」

千冬「お前は誰とも違うことを理解できている。そして、誰にもなれないことを思い知ったはずだ」

千冬「もう無理に素顔を隠す必要はないんじゃないか?」


――――――私はお前の素顔が見たい。そのためならば私は……!


一夏「でも、それは――――――」

千冬「こういうことを言うのは公共の人間としては不適切だろうが、」

千冬「私も家族の安寧を願うただの一人の人間だ。そう買い被るな」

千冬「楽しめない人生ほど虚しいものはない」


他人の意見で自分の本当の心の声を消してはならない。

自分の直感を信じる勇気を持ちなさい。


千冬「一世を風靡した発明家の言葉だったか……」

一夏「…………似たようなことを俺が尊敬している大人みんなに言われましたよ」

千冬「だろうな」

千冬「答えはすでに決まっているはずだ。それを実行してみせろ」

千冬「そうすれば、お前は今の自分を超えられる」

千冬「ではな。そんなものに頼らないことを期待する」

一夏「………………(そう、答えはすでに――――――)」


セシリア「それで、私と組んでくださいませんか、一夏さん!」

鈴「ダメよ、私と組むんだから! 幼馴染でしょ」

箒「一夏、私と組むべきだと思うんだが……(だが、私ではベストにはなれない……)」

周囲「オリムラクン! ワタシト! ワタシト!」

一夏「正直に言えば、参加したくないんだがな…………」フキフキ

箒「な、何故だ、一夏!? 別に、生徒会長や3年の精鋭と戦うわけではないんだぞ?」

一夏「俺は勝ちたいってわけじゃないからな……」フキフキ

一夏「それに……(優勝なんてしたらますます“世界で唯一ISを扱える男性”に注目が……)」チラッ

ラウラ「………………」ジロッ

一夏「(そんな栄光よりは、磨き上げた知の力で頂点を目指したいんだが……)」ハア

シャル「最近何だかおとなしくなったね、ラウラ」ヒソヒソ

鈴「確かにね。織斑先生の警告が効いたんじゃない?」ヒソヒソ

一夏「(そう、俺やあいつにとっては、織斑千冬から奪い取った栄光のようなもんだからな…………織斑千冬の選手生命を奪ってドライバーとして栄達すること自体が気に喰わない)」

一夏「(それに、『白式』を優劣を付けるための道具にはしたくないんだ……)」

セシリア「……残念ですわ(でも、料理を一緒に作ってもらってますし、これ以上の贅沢……)」


鈴「それじゃ、シャルルはどうするの? 誰かと組む宛てはあるの?」

シャル「え、僕?」

箒「そうだぞ。一夏が出ないならシャルルの動向次第で大会の機運が変わるぞ?」

周囲「デュノアクン、ワタシトクモウヨー!」ワイワイガヤガヤ

シャル「えと、そ、そうだね……(あれ、この状況ってマズくない?)」

シャル「僕は、えっと……(た、助けて、い、一夏! あ、そうだ!)」

シャル「僕は、一夏の『唯一無二のパートナー』になったから――――――、その、ね?」

周囲「エーーーーーー」

鈴《虚無》「ああ、そういえばそんなこともあったわね」ゴゴゴゴゴ

セシリア《虚無》「そうでしたわね…………」ゴゴゴゴゴ

箒「い、一夏めぇ…………」ゴゴゴゴゴ

周囲「オリムラクンー!」ワーワーギャーギャー

一夏「――――――あ、へ、はい?」キョロキョロ

一夏「え、ちょっ!?(な、何この空気!? ヤリタクネー)」

一夏「…………シャルルは参加したかった?(仕方ないか……)」

シャル「うん! 一夏と、一緒にね」キラキラ

一夏「わかったよ……(うひゃああああああ、男の娘の笑顔サイコーーーー!)」

一夏「あてにはしないでくれよ(やります、やらせてください!)」

シャル「ほ、本当に!?(よ、よかった。い、一夏になら…………)」フゥ

一夏「うん(ああ、結局こうなるのね……)」

周囲「おおおおおおおお!!」

周囲「ユウジョウッテスバラシイナー」

箒「次こそ、ポーカーで勝ってやる……!」ギリギリ

セシリア《虚無》「――――――取引しません?」

鈴《虚無》「そうね。そうしましょう。あははは…………」

ラウラ「ふん」

一夏「…………ラウラ」チラッ

一夏「(――――――『お前が言うな』って言われればそこまでだけど、やってやる!)」



ラウラ「…………話があるそうだな」

一夏「ISの修理は終わったのか?」

ラウラ「貴様に心配される言われはない。あの時は不覚を取ったが、次はこうはいかないぞ」

一夏「……なあ、ラウラ? お前は何でここに居るんだ?」

ラウラ「知れたこと! 貴様を排除した上で、織斑教官にもう一度 我がドイツ軍でご指導を――――!」

一夏「やっぱり、――――――ガキだな、お前」ハア


――――――やれやれ、これだからガキの相手は疲れる。


ラウラ「な! 教官の真似をするな!」

一夏「そうやって、自分のワガママしか通そうとしない!」

一夏「ゲルマンの野蛮人が! いいか、よく聞け!」

一夏「織斑千冬は、お前だけの教官じゃないんだぞ!」

一夏「そもそも俺が誘拐されなかったら知り合うこともなかったような他人が、」

一夏「織斑千冬の何がわかる! 織斑千冬の“強さ”だけしか興味がないくせに!」

ラウラ「貴っ様あああああああ!」マワシゲリ

一夏「ぐふぅ! ぁあ……いいぜ! 俺は言葉でお前を殴りつけてやる……!」

一夏「(ああ、いい痛みだぁああ! 苦しくても生きてるって感じがするぅうう!)」

一夏「(絶対防御に守られて久しく感じることのなかったリアルの痛みだ)」

一夏「(『白式』の生体再生能力があるから、ある程度は大丈夫……なはず)」

ラウラ「そんな軟弱な貴様を、何故織斑教官は――――――!」

一夏「なあラウラぁ……どうしてそこまで織斑千冬にこだわる……?」

一夏「お前が“ブリュンヒルデ”とタメを張れる程の実力者だったからかぁ!?」

一夏「――――――あの程度で?」ププッ

ラウラ「黙れ!」グーパンチ

一夏「あべし」

ラウラ「私は戦うために造られた最高の兵士だった!」バキッドカッ

ラウラ「だが、IS適性が低く、適性強化にも失敗して、」

ラウラ「最高の兵士から一転して、“出来損ない”の烙印を押された!」

一夏「ひでぶ」

ラウラ「しかし、そんな私を織斑教官は部隊最強の座にまで導いてくださったのだ!」ガンガンガンガン

ラウラ「私は織斑教官の無類の“強さ”に憧れた。何人足りとも寄せ付けないあの“強さ”に……」

ラウラ「だが、世界最強と謳われたその高貴な“強さ”に貴様は泥を塗ったのだ!」

ラウラ「これが万死に値しないはずがない!」

一夏「お、お前には……、一生辿り着けない“強さ”だよ、それは……」グフッ


ラウラ「何だと!」グリグリグリグリ

一夏「(ああ、いい見下しだ……蔑まれているのって最高!)」ゾクゾク

一夏「(あと、その靴先を―――(自主規制)―――に動かしてグリグリしてー!)」ウキウキ

一夏「(――――――じゃ、ねえよ!)」ガバッ

ラウラ「――――――!?(上体を起こしたと思ったら、掴まれた!?)」

一夏「いいかよく聞けぇ!」ギラギラ

一夏「織斑千冬がお前と同種の、“強さ”だけで区別する人間だったら、」

一夏「“出来損ない”だったお前に目を掛けるだなんてありえないだろう!」

ラウラ「――――――っ!? な、何を言っている!?」

一夏「だから、無理なんだよ!」


――――――お前は織斑千冬にはなれない!


一夏「織斑千冬は“強さ”を絶対としていない」

一夏「お前や俺のように“弱い”やつを助けようとするところに織斑千冬の“強さ”の秘密があるんだよ!」

一夏「織斑千冬はあの時の選択を後悔していない! 俺の不甲斐なさを責めたことは一度もない!」

一夏「何故だかわからないだろう!? ええ!?」ゴゴゴゴゴ

ラウラ「くっ(な、何だこいつの気迫は!? こんなにも傷めつけたのにまだ減らず口を…………)」

一夏「それはお前が一人だからだ!」

一夏「“強さ”でしか物事を測れない世間知らずに俺は負けない!」

一夏「そして、俺は織斑千冬の“強さ”は目指さない! それを超えるものを手にするんだああ!」

ラウラ「教官の“強さ”以外に何があると言うんだああああああ!」グッ

千冬「――――――そこまでだ」ガシッ


一夏「…………織斑先生(見つかっちまった。両者、試合出場停止か……)」ハアハア

ラウラ「放してください! 私はこいつを――――――!」

千冬「そこまでだ、と言っている」ゴゴゴゴゴ

ラウラ「……くっ! 何故織斑教官はこんな極東の地で一教員に甘んじているのですか!」

千冬「何度も言わせるな。それが今の私の役目だとな」

ラウラ「お願いです、教官! 我がドイツで再びご指導を!」

ラウラ「ここには教官が教えるに足らない、平和ボケした連中しかいない!」

ラウラ「織斑教官ならもっと相応しい舞台で活躍することが――――!」

千冬「…………そこまでにしておけよ、小娘」

千冬「少し見ない間に偉くなったな」

千冬「15歳ですでに“選ばれた人間”気取りとは恐れ入る」

ラウラ「わ、私は――――――!」

千冬「そんなことよりも、……これは何だ?」ゴゴゴゴゴ

ラウラ「!?」ビクッ

千冬「何故この生徒はこんなにも傷だらけなのだ?」

千冬「一方的に暴力を振るったとあれば、お前は本国に強制送還させなければならないな」ゴゴゴゴゴ

ラウラ「こ、これは――――――!?(み、見捨てられる? 教官に!?)」ゾクッ

千冬「さあ、答えてもらうぞ、小娘?」ゴゴゴゴゴ

ラウラ「あ………………」ブルブル

一夏「…………違うんだ、織斑先生」

千冬「む?」


――――――俺が頼んだんだ。


ラウラ「!?」


千冬「何だ、言ってみろ」

一夏「俺、実はマゾなんです」

千冬「………………………………そうだな」ボソッ

ラウラ「???」

一夏「だから、彼女に頼んでいろいろ蹴っ飛ばしてもらいました」

一夏「気持ちよかったです。ISに乗っていると忘れてしまいそうな生の痛みを感じられて……」

千冬「………………」

一夏「合意の上です」

一夏「衆目に晒したことは謝ります」

一夏「ですが、俺とラウラはトーナメントで雌雄を決するという約束をしていたんです」

一夏「どうか俺とラウラの処分は、大会が終わるまで見逃してもらえないでしょうか?」ドゲザ

一夏「お願いします! 俺が頼み込んだばかりに無辜のラウラを停止処分させたくはないです!」

一夏「重ねて、お願いします! 非を受けるべきは俺だけですから!」

一夏「どうか、どうか――――――!」

千冬「………………もういい」ハア

千冬「そういうことはTPOを弁えてやれ」

一夏「あ、ありがとうございます!」

ラウラ「わ、私は…………」

千冬「ラウラ、お前はとっとと寮に帰れ」

千冬「織斑はこう言っているが、誰がどう見てもお前が一方的に虐げたようにしか見えないからな」

千冬「後始末は私がしておく」

千冬「そして、トーナメントで正々堂々と勝負しろ」

ラウラ「は、はい……(……織斑一夏、何故憎いはずの私を助けた?)」タッタッタッタッタ




千冬「さて、行ったか……」

一夏「………………」オコサレル

千冬「………………」パチーン

一夏「………………効くな~。やっぱり、千冬姉の一発は身に沁みる」ヒリヒリ

千冬「自分に正直になれとはいったが、自分の身を犠牲にするなど言語道断だ」プルプル

一夏「初等教育の時点で人間になり損なったガキにはこうするしかないじゃないですか」

千冬「…………だとしてもだ」

一夏「明日は公欠にしてもらえますか?」

千冬「……お前はいつから私の前でも仮面を外そうとしなくなったのだ」

一夏「俺はもう『イケメン』の仮面を外す気はありませんよ」

一夏「みんながくれたものを捨てることはできない…………」

千冬「その優しさが自分を追い込んでいるとしてもか?」

一夏「俺はずっと逃げ続けてきたんだ。何も続かず、何やっても中途半端……」

一夏「だったら、せめて1つぐらい『イケメン』を3年間演じ続けたという実績が欲しい!」

千冬「それも『逃げ』なのに、か?」

一夏「いい加減、何もできないままでいる自分が嫌なんだ」

一夏「ゼロベクトルの自分は止めて、負のベクトルになってもいいから、」

一夏「過去に囚われたままの自分とオサラバしたいんだよ…………!」ポロポロ

千冬「そうか…………いつか私のところに甘えにこい」

一夏「いつか、そうするよ…………いつか、ね」



技師「――――――それで、傷を隠すために私のところで隠れる、と」

一夏「今のうちにできることをしておきたいんです」

技師「これは、武装強化案かね」

一夏「あれは俺の仮説通り、――――――とんでもないオーパーツでしたね」

技師「ああ、あれには心底驚いた」

技師「まさかあれ自体が拡張領域――――量子化構造を活かした多機能兵装の試作品だったとはな…………」

一夏「だから、次の「最適化」で狙う武装のリストを書いたんです」

技師「なるほど、ここにあるのは『零落白夜』を応用した兵装となるのか」

技師「それとイグニッションブーストに関する「最適化」への運用計画もちゃんとあるな」

技師「だが、これはますます『白式』の燃費の悪さを増長させることになるな」

技師「機体が「最適化」しても“鉄の城”のように実弾兵器を自動生成するわけではないからな」

技師「雪片弐型を真似て機体が武器を創りだすとしたら、必然的にエネルギー兵器になるわけだ」

一夏「はい。ですから、根本的な『白式』の戦術の幅の狭さは解消されますが、より慎重な運用が求められるようになり、」

一夏「ハイリスク・ハイリターンを超えた、ウルトラリスク・ウルトラリターンの機体となるでしょうね」

一夏「正直に言えば、こんな機体は兵器としては欠陥機でしかないけど、」

一夏「それでいいんです。俺は『白式』を兵器として扱いたくないですから」

一夏「本来の用途であった“宇宙開発用のパートナー”であって欲しいから……」

技師「そうだな。むしろそうした方が外宇宙でのミッションに適している」

技師「で、織斑一夏? “ヴィーラント”としては雪片弐型の拡張領域に何を仕込む気だ?」

一夏「―――(中略)―――の他にマシンガンぐらいは仕込んでおきたいと思いますが、極力使わないようにしておきます」

一夏「もし雪片弐型の真の性能が露見したら――――――」

技師「第3世代兵器の開発に躍起になっている世界の現状を悪い意味で打破してしまうな」

技師「BT兵器や『AIC』といった信頼性のないものを高いコストを投じて量産するよりは、拡張領域と武器の機能を兼ね備えた雪片弐型のようなものを優先して量産すれば、拡張性と信頼性に秀でた第2世代型の方が圧倒的に有利となるからな」

技師「つまり、時代逆行を引き起こすわけだ」

技師「現在、第3世代型への移行に四苦八苦している企業が多い中、この技術が明るみに出れば、」

技師「この技術の獲得、あるいは技術の抹消を巡って、紛争の火種となる……!」

技師「――――――まるで同じだ。アラスカ条約締結までの流れと」

技師「ISとはつくづく罪作りだ……」

技師「『白騎士事件』といい、軍事転用といい、世代移行といい――――――」

技師「IS産業型経済モデルなんていう概念も創られるぐらいだからな…………」


IS産業型経済モデル――――――それは、ISのコアが全世界でわずか467しかないもので成立している、

需要と供給のバランスから外れた非市場主義的な計画経済とも言えない何かであった。

そこには従来の経済感覚から大きく逸脱した商業形態が確立されており、

その原因は言うまでもなくISのコアの圧倒的な不足であり、なおかつ生産する手段がないことに起因していた。

それ故に、その数少ないISのコアを所有し続けるためには、

アラスカ条約で設置された国際機関:国際IS委員会の定期的な厳しい審査を経て、

刻々とハードルが上がり続ける成果を出し続ける必要があったのだ。

簡単に言えば、技術革新を無謀なまでに毎年のようにしなければならないということである。


何故第3世代兵器という効率の悪いものを世界が一から作り始めているのかと言えば、

まさしくISの研究を維持するためにはひたすら技術革新していくしかないからである。

そうする必要があったから意図的にそうなったわけだが、

これまでの研究成果が次の段階に持ち越せないという、これまでの産業の在り方を否定するような歪な伝統となりつつあったのだ。


売れてさえいればずっと安泰という次元を超えた、血を吐きながら続ける悲しいマラソンのようなものなのだ。

あくまでもISのコアの所有権は販売業績ではなく研究成果に対してのみ決められるので、

デュノア社のように『ラファール・リヴァイヴ』のように売れている製品があろうと、

次世代型への移行ができなければ、容赦なく没収である。

ISのコアが無ければ、当然新製品の開発もままならず、株価も一気に暴落して倒産することだろう。

そして、新技術開発による特許料で得た収入など、更なる技術開発のためのあっという間に溶けてなくなる。

そういうわけで、あまりに供給と投資の回収が追いつかないので、IS関連の価格帯はとにかく高い!

それ故に、IS産業に関わるあらゆる職種は収入に差があれ、一種のステータスとなった。

それが、女尊男卑の風潮に拍車を掛ける要因となっていた。


更に、旧来の軍需産業を駆逐して成り立った経済構造なので、とにかく失業者が多い!

『白騎士事件』によって、ISの圧倒的な軍事能力に世界が魅了されたと同時に、

これまで世界の中心であった旧来の軍需産業への信頼と権威の失墜により、

人々の心は世界的な軍縮へと突き進み、多くの軍需産業に勤めていた人間の雇用は失われていった。

それに反発した大規模なデモも盛んに行われたが、最終的には跡形も無く消滅した。

これだけでどれだけの人間の人生が狂わされたことだろう?

やがて、IS産業は高収入を望める安定した次世代産業になると思われたが、

ISの生みの親である篠ノ之博士がコアの生産を止めてブラックボックスを開示することなく失踪したことで、

歴史的なハイパーインフレを引き起こすことになったのである。

これを収拾するために国際IS委員会による無慈悲な鉄槌が平等に振り下ろされ、

IS産業に従事する人間はどんどん篩いにかけられて失業していった。


現在でこそ、『白騎士事件』からの熱狂と混乱は落ち着き、、

一人の発明家の匙加減一つで世界が震撼させられたことへの反省として、

技術革新に対して慎重に議論することを覚えた一方で、

流れに乗った者たちはひたすら技術革新をしていかなければ生き残れないという、

内外で大きな矛盾と苦しみを孕んだ特異的な経済構造を指して、


――――――IS産業型経済モデルという概念は生まれた。




だが、殊更 技術革新を追究していながらIS技術者に慎重さを求められていたのは、

ISが軍事利用され、ミリタリーバランスに直接結びついていたからに他ならず、

ダイナマイトを発明したノーベルが莫大な利益を狙われて、
シャフナーと名乗る軍人に執拗なまでに迫られて、軍事的な使用権を譲渡させられた

というような話の二の舞を演じることを恐れたからであった。

表向きはアラスカ条約によって軍事利用を禁止されているにも関わらず、である。


だが、全ての元凶である篠ノ之博士をよく知る彼らはただ溜め息しか吐けなかった。





――――――忘れるなかれ。

ある天才の発明が世間に浸透したのは、人々が誰に強制されたわけでもなくそれを求めたからであり、

人々の飽くなき欲望こそが革命に伴う多くの犠牲をもたらしたのだ。

買わないこと・減らすこと・捨てることを決めたのは他でもない人民の意思に他ならない。

開発者である篠ノ之博士だけにその責任を押し付けるのはただの無知者の思い上がりである。

ISの導入によって数多の失業者が生まれることは明らかに予測できたことであり、

それを断行し、それに対抗し、それに見倣い、それに続いた人々の業の深さこそが全ての元凶なのである。


発明を神の恵みとして平和利用するか、それとも悪魔の力として悪用するかは、人類に課せられた永遠の課題である。


番外編3 一夏の特訓その2

――――――学年別ツーマンセルトーナメント前々日


箒「ま、まさか私が負けて、二人っきりになれるとは塞翁が馬だな……」ドキドキ

箒「しかし――――――」


――――――二人っきりで真剣を振るわせてくれ。


それが勝者から敗者へ要求だった。

卓を囲んでのポーカーはトーナメントを前にして控えるようになっていたが、

こうして実質的に大会前最後となったポーカーの席では、

セシリアと鈴がグルになって一夏を最下位に転落させようと目論んだが、

一夏は自信過剰な相手に強い質だったので、一夏も逆にイカサマを使って、箒が最下位になるように工作したのであった。

一夏が箒を最下位にして要求を行ったのは、大会に出る前に自分自身の手で確認しておきたいことがあったからだ。


一夏「もうちょっと重かったかな……」グッ

箒「大会まで2日というこの時期に、何故私を選んだのだ?」

一夏「それは、勝者の都合だよ。俺を信頼してくれているなら、ISの方に専念していていいよ」ピッピッ

箒「そういうつもりではないのだが…………」

箒「その映像は――――――!」

一夏「そう、第1回『モンド・グロッソ』の“ブリュンヒルデ”の試合だ」

箒「そうか、一夏は…………」

一夏「剣を振るうぞ」

一夏《無表情》「こう、こういうふうに雪片の光の剣で薙いで…………」ヒュン、ヒュン

一夏《無表情》「……納刀」

箒「……剣を鞘に収めた! 居合術か!」

一夏《無表情》「(――――――抜刀!)」バーン

一夏《無表情》「………………残心」

箒「…………凄い踏み込みだ。剣道の踏み込みとは全く違う、間合いを詰めるまでの一撃の速さを追求したものだ」


――――――いいか、一夏?

――――――刀は振るうものだ。振られるようでは剣術とは言えない。

――――――重いだろ? それが人の命を断つ武器の重さだ。


一夏「わかっているさ、千冬姉…………」

一夏「今なら、こんなにも錆び付いた身体でもね」

一夏「俺はあなたにはなれないけど、この重さは身に沁みている」


一夏「さて、ここからだな……」

箒「…………一夏? 今度は何をする気だ?」

一夏《無表情》「(想像しろ! 織斑千冬が刃を抜こうとしている様を!)」

一夏《無表情》「(そして、イメージの中でもいい! それを俺の手で――――――!)」

一夏《無表情》「……………」ジー

箒「何が見えているんだ、一夏には……?」ジンワリ

箒「だが、まさしくこれは真剣勝負だ! 見守る他ない!」









一夏《無表情》「――――――!」ブンッ

箒「け、結果は!?(一瞬、何が起きたのか理解できなかったぞ……)」






一夏「…………ぐはっ」ガクッ

箒「い、一夏!?」

一夏「だ、大丈夫だ、箒……!」ハアハア

箒「し、しかし――――――」

一夏「負けた……記憶の中にある織斑千冬の幻影に負けた…………」

一夏「全身全霊で挑んで負けた……やっぱり、勝てないんだ……」 orz

箒「大会前にそんな気落ちさせるな! どうして、こんなことをこの時期に…………」

一夏「でも、これではっきりしたことがある……」ニコー

一夏「――――――俺は俺なんだ」

箒「???」

箒「……それは、そうだろう?」


箒「――――――って、一夏! 足から血が!」

一夏「やっぱりね。俺は弱い」

一夏「こんな無茶をしてもまるで千冬姉には及ばなかった……」

箒「今、止血してやるからな(な、何を考えているのか全然わからないぞ、一夏……)」

一夏「だから、もういい。これでいいんだ」

一夏「俺は俺だ。俺の智謀と勝負師としての業で、これまで通り戦ってみせるさ!」

一夏「ごめん。もう一回やる!」

箒「ま、待て、一夏! 刀は!?」

一夏「次のは、要らない」


千冬『――――――織斑一夏!』キッ


一夏「はあああああああ!」


箒「――――――部分展開!? これってあの時の!?」

一夏「来い、『白式』!」

一夏「――――――っと、こんな感じか」

一夏「ありがとう、これで戦いに臨める」ニコー

箒「あ、ああ…………(やはり一夏は、私たちの理解の及ばないところにいる)」

箒「(一夏にとって私は助けになったらしいが、まったくその実感が私には湧いてこない……)」

箒「(私はそれが悔しくて悔しくてたまらないのだ…………)」

箒「(私はいったいどうすれば、お前と同じ目線に立てるのだ…………)」

箒「(やはり、専用機を――――――)」


――――――学年別ツーマンセルトーナメント、当日


シャル「とうとうこの日がやってきたね」

一夏「ああ。遠隔展開の方は任せたぜ」

シャル「うん。でも、本当に大丈夫? 『白式』には照準器は入ってないんでしょ?」

シャル「まあ、マニュアル射撃で命中させられたんだから、十分か」

一夏「基本的に俺が囮になる。シャルルは容赦なく『高速切替』の弾幕で各個撃破を」

シャル「わかったよ――――――あ、ちょっと本国の人と用事が……」

一夏「ああ、行っておいで(あれはデュノア社の人間か。けっ、いけ好かない面だ)」

一夏「(鼻の下が伸びているぞ。大丈夫か、あれ?)」

一夏「さて、今日のはタッグマッチだが、急な予定変更で急拵えのタッグばっかだな……」

一夏「ああ、またセシリアと鈴が組むことになったか……」

一夏「でも、相手は1年生だもんな。そろそろ始まる頃だけど、これはあっさり勝つだろう」

一夏「さて、その次――――――まさか初戦で当たるとはな、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

一夏「そして、その相方が箒か……」

一夏「宣言した手前、何が何でも勝たせてもらうぞ!」

一夏「お…………」ムズムズ

一夏「ごめん、千冬姉。使わずにはいられなかった」タッタッタッタッタ

一夏「さて、と…………」カチャピピピ


シャル『これが『白式』のデータです』

社員『よくやったな、シャルル。いや、シャルロット・デュノア?』

シャル『ここでその名は呼ばないでください。バレたらどうするんです?』

社員『ああん? その時はお前は本国で第3世代型の開発のために尽力してもらうぞ?』

社員『あるいは、俺のムスコの相手でも……げひゃひゃひゃひゃ……』

シャル『何でこんな人が連絡役なんかに…………』ボソッ

社員『まあ、あとは“世界で唯一ISを扱える男性”の精子を取ってくるとかさ~』

社員『頑張って、これからも成果を出してちょうだい、シャルロットちゃ~ん』

シャル『…………失礼します』


一夏「ふぅ~ん」

一夏「最近の盗聴器って凄いよね。発信機の機能も付いているからさ。あと、ラウラが残してくれたカメラも役に立って良かったよ」

一夏「これでデュノア社は終わりだな……」

一夏「――――――シャルルはいただく」

一夏「男の娘じゃなかったのが残念極まりないが、俺を慕ってくれている以上は切り捨てるつもりはない」バタン

一夏「お、やっぱ早いな。セシリアと鈴、もう勝負を決めたか」ゴクゴク

シャル「あ、一夏。セシリアと鈴はもう勝ったんだ」

シャル「それじゃ、急ごう……」タッタッタッタッタ

一夏「ああ(顔を合わせようともしないか。相当良心の呵責に苛まれているんだろうな)」

一夏「――――――展開」

一夏【???】「さ、誰も彼もが滑稽でしかない仮面舞踏会の始まりだ」


シャル「………………」

一夏「シャルル、集中してくれ。俺のパートナー」ニッコリ

シャル「あ、うん! 頑張るからね、一夏!」

ラウラ「…………怪我の方は大丈夫か?」

箒「――――――怪我?(ラウラが一夏を気遣っただと!? な、何が起こった……!?)」

一夏「心配される言われはない――――――けど、嬉しいぞ、ラウラ」ニッコリ

ラウラ「……私は貴様を許さない。私の存在を脅かす貴様を」

一夏「大丈夫だ。ガキのワガママを適度に許容するのが大人だからな」

一夏「そして、ガキの減らず口を封じるのも大人の務めだから」

一夏「どんどん怒ってくれ。“弱さ”と“優しさ”の区別ができない野蛮人」

ラウラ「…………その言葉をそっくり返してやろう。弱いやつの虚言妄言、その減らず口を叩けなくしてやる」

箒「(珍しい。一夏が直面(ヒタメン)じゃない)」

箒「(ラウラに合わせた……いや、タッグマッチだから使わないってことなのか?)」

一夏「(あの時はラウラがモヨオシタおかげで一矢報いることができたが、)」

一夏「(ラウラが言ったように前のようには絶対にならない。だから――――――)」

一夏「ラウラ! 俺はシャルルを頼りにしている!」

一夏「――――――倒せるかな、シャルルを!?」

シャル「え、僕!?(どういうこと? 僕に注意を向けさせてどうするの?)」

ラウラ「ふん、接近戦しか能がない『白式』と第2世代型の『ラファール』など、『シュヴァルツェア・レーゲン』の敵ではない!」

一夏「箒も行くぞ! 手加減なしだ!」

箒「……あ、ああ、覚悟していろ!(蚊帳の外かと思ったが、やはり一夏は私をちゃんと…………)」

箒「(だが何にせよ、最悪の組み合わせだが武士として勝利を得る! そのためには一夏の動きを封じる!)」キッ

シャル「………………」

ラウラ「………………」

箒「………………」

一夏「(悪いな、ラウラ……シャル……箒……)」

一夏「(勝負師の勝負っていうのは、場につく前から始まっているんだ)」

一夏「(俺がトーナメントに参加するって決めた時点で、)」

一夏「(この試合、負ける要素は1つもないな……)」




アナウンス「試合開始」


一夏「見せてやるよ、俺のゲームメイク!」ヒュウウウウウン

ラウラ「潰す――――――っといきなりの先制攻撃か。それぐらいわかっていたぞ」

一夏「動け! あの時みたいに――――――!(はいはい、『AIC』『AIC』)」

ラウラ「あの時は――――――そう何度も通じると思うな!」

シャル「隙だらけだよ、ラウラ!」ジャキ

ラウラ「な、いつの間に接近していた!?」

ラウラ「くぅうううう!」

シャル「逃がさない!」

箒「足元がガラ空きだぞ、シャルル!」

シャル「――――――あ!?」

一夏「っと、そうはさせない!(――――――来た!)」ガキーン

箒「読まれていたか……(だが、これは好都合だ! 動きを封じられる!)」

一夏「ちぃいいい!」

箒「えええええい!(……何だ? 何というか力が篭っていないぞ、一夏)」ガキーン

一夏「(やっべえ! 機体の重量差を考慮しても、箒の剣捌きは俺なんかよりも数段上手で重みがある!)」

一夏「(これで不調なんだから、末恐ろしい! さすがは全国一……!)」

一夏「(箒のやつ、やっぱり訓練の時なんかは俺に無意識的に手加減していたか……)」

一夏「(やっぱ小細工なしじゃ、俺なんかに勝ち目がなかったな……)」

一夏「(だけどな――――――!)」

シャル「一夏!(――――――予想通りだね!)」

一夏「悪いな、箒! そっちの相方はどうやら援護には不向きな機体だぞ!」

箒「しまった!(これは、足止め!? 何かおかしいと思ったら……!)」

箒「(そうか、一夏は最初から囮になって攻撃をシャルルに――――――!?)」

シャル「(なるほど、だから僕に注意を引き付けるようにしたのか)」

シャル「(あからさま過ぎた方が、逆に相手は疑いだすもんね)」

箒「くぅううう!(シールドエネルギーが!)」

シャル「一夏! ラウラが――――――!」

一夏「ワイヤーブレードか!?(だが、味方に隠れてこう密着していては――――――)」

箒「な、何をする!」

シャル「み、味方を投げ飛ばした!?」

ラウラ「邪魔だ!」カコン、パーン

一夏「――――――イグニッションブースト!」

ラウラ「ちぃ」

一夏「(投げ飛ばしたと同時に、レールガンか。なかなかの集中力だが……)」

一夏「(同時操作はせいぜい2つ程度が限界のようだな。なら――――――!)」


箒「く、最悪の組み合わせだがベストは尽くすぞ!」

シャル「ごめんね、一夏が相手じゃなくて!」

箒「なっ!? ――――――馬鹿にするな!」

ラウラ「織斑一夏、八つ裂きになれ!(次いでに後ろの第2世代型を捕らえる!)」

一夏「来た!(見せてやれ、『白式』!)」フワッ

一夏「――――――『零落白夜』!」ズバリーン

ラウラ「な、何! レールガンとワイヤーブレードが、また…………」

一夏「――――――解除っと!そして、(秘技“ローアングラー”――――でもないスライディングキック!)」

ラウラ「ぐわっ! け、蹴りを入れられただと!? 舐めた真似を……!」

観衆「おおおおおおおお!」


山田「い、今のはいったい……?!」

千冬「ワイヤーブレードが発射されたと同時に、」

千冬「イグニッションブーストで一瞬だけ飛び上がり、身体を捻りながらプラズマブレードを回避しつつ、」

千冬「射出されたワイヤーブレードを即座に回転斬りで斬り落として、味方への攻撃を防ぎ、」

千冬「そして、右肩のレールガンをも斬り落とし、敵の戦闘能力の大半を奪った」

千冬「一瞬でこれだけの戦術効果を持った行動を咄嗟にできるとはな」

山田「本当に素晴らしいですね」

千冬「ああ」

千冬「(しかも、『零落白夜』のオン・オフが異常な速さだった)」

千冬「(反射神経や伝達能力は全盛期の私以上だな)」

千冬「(惜しむらくは体力の無さだが、これ以上望むまい)」

千冬「(元々『白式』は一撃必殺を主眼とした機体――――――)」

千冬「(戦況が膠着すると剣1つしかないこともあって圧倒的に不利)」

千冬「(それ故に、持久力のある『ラファール』による的確な援護を活かす立ち回りをしている)」

千冬「(つまり一夏と『白式』にとって、タッグマッチでの最高のパートナーとはシャルルと『ラファール』の他にない)」

千冬「(あるいは、……火力と燃費を考慮して、ラウラと『シュヴァルツェア・レーゲン』のタッグもありだがな)」

千冬「(1対1で輝く機体と、2対2で輝く機体――――――)」

千冬「(万能最強の機体が存在しないのは、機体の数を変えただけで、)」

千冬「(こんなふうに求められる能力が変わってくるからなのだ)」

千冬「(タッグマッチになって割りを食ったな、ラウラ)」

千冬「さて、試合はもうそろそろ終わりそうだな」

山田「はい」




箒「ええい!」

シャル「甘いよ!」ジャキ

箒「――――――はっ!?(いつの間にショットガンを!? 一夏はこんなのと戦っていたのか!?)」

バキュンバキュン

箒「…………ここまでか」(戦闘続行不能)

シャル「一夏! 今、助ける!」

一夏「さあ、どうする? ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

一夏「前みたいに主力のレールガンは斬り裂いてやったぜ!」

ラウラ「な、何をおおお!」

一夏「もう、サレンダーしな。残っているのは第3世代兵器ばっかだし……」

一夏「使う度に足が止まるってこんな欠点、第2世代型ISだったらありえないのにねー」ププッ

ラウラ「それでも私はあああああ!」

一夏「チェックメイトだ(ふはははは、集中力をガリガリ削いでやったからな。ワイヤーブレードの機動が鈍いぜ!)」

一夏「――――――『零落白夜』!(そんな単調でノロノロなもの!)」ズバズバ

一夏「――――――解除(またつまらぬものを斬ってしまった、なんてね)」

ラウラ「な、何故だ……!? 何故、私がここまで――――――!?」

ラウラ「だが、甘いぞ!」

一夏「――――――あ!!(有利に驕ったか…………)」

シャル「させないよ!」ドカッ

ラウラ「よくも! よくもよくもよくも…………!」

一夏「…………助かった(でも、プラズマブレードを受けても余裕だったんだけど)」

一夏「(やっぱり、ISに乗っていると理性と感覚が麻痺してくるな……)」

シャル「まだ、終わりじゃないよ!」

ラウラ「イグニッションブーストだと!?」

ラウラ「だが、『停止結界』なら無力――――――ぐあっ!?(背後から撃たれただと!?)」

一夏「――――――ナイスタイミング! さすが俺のパートナー!」

一夏「動きの止まったでかい的なんてマニュアルでも十分当てられるよ」

一夏「『停止結界』――――――自分を停止させる結界ねぇ」ニヤニヤ

ラウラ「またしてもやつに――――――!」

シャル「どこ見ているの? この距離なら外さない!」

ラウラ「盾殺し(シールド・ピアース)だと!?」

一夏「ああ、やっぱ『ラファール』って厄介だな(そして、男の娘強ええ! ――――――もう違うけど)」

ラウラ「ぐあああああああ!」

観衆「おおおおおおおおおお!」

一夏「凄い勢いで吹っ飛んだな……」

一夏「よし、突撃しろ!」パン、パン、パン

シャル「ううおおおおおおおおおおおお!」

ラウラ「ぐわあああああああああ!」




――――――ゲームセットだ。


一夏「ラウラ、お前の敗因は『一人だった』ことだよ」

一夏「“強さ”だけで何でもできると思い込んで、その“強さ”を正しく発揮するための努力を怠った当然の敗北だ」

一夏「(人間っていうのは様々な顔を使い分けて生きていて、)」

一夏「(学生としての自分、ISドライバーとしての自分、家族としての自分――――――)」

一夏「(いろんな顔を持ち合わせているのが人間というもの)」

一夏「(千冬姉にだって、――――――鬼のように怖い顔、――――――母親のように優しい顔、いろいろあるのにさ)」

一夏「(――――――お前は脳筋だったんだよ。“強さ”だけでしか物事を判断できずに、弱いやつの足掻きや努力を知らなかった)」

一夏「(そして、負け方を知らなかった。千冬姉の手で最強になってから、それを考慮する努力を怠ったんだ)」

一夏「(だから俺は、お前が精神的に幼稚であることに目を付けて、)」

一夏「(利用できるものは全て利用し、今まで体験したことのない状態に陥らせ、)」

一夏「(――――――精神的に追い込んだ!)」

一夏「(ISは極めてパイロットの精神状態が反映しやすい脳波制御で動く)」

一夏「(人の精神なんてこんなにも簡単に揺らぐのだから、)」

一夏「(何で世界は第3世代兵器とかいう、安定性のない兵器の開発に力を入れているんだか…………)」

一夏「(思考が乱れても銃爪で引くという確実な動作で機能するライフルを持たせていれば、もっと強かったろうに…………)」

一夏「(――――――ああ、夢があるからか…………血を吐きながら続ける悲しいマラソンの産物だけど)」

一夏「(その辺が旧い時代との違いか…………理性的なようで狂っているけどな!)」



シャル「応答して、一夏!」

一夏「――――――!? どうした、シャルル?」

ラウラ「うわあああああああああああああああ!」

箒「い、一夏! ラウラの様子がおかしいぞ!」

一夏「――――――!? な、何が起きた!?(試合は終わったんじゃないのか!?)」

一夏「離脱しろ、シャルル!(シールドエネルギーはまだ残っているようだな)」

シャル「う、うん!」

一夏「何だか知らないけど、シールドエネルギーが無くなれば、機能は停止する!」パン、パン

一夏「――――――弾が止まった!? 『AIC』の力場が一様に発生しているのか!?」

一夏「突っ込んでも無駄か…………くぅ、黙って見ているしかないのか?」

シャル「い、一夏…………」

一夏「心配するな、パートナー。何があってもきみは見捨てない」

シャル「う、うん…………」


アナウンス「非常事態発生! トーナメントの全試合は中止!」

アナウンス「状況はレベルDと認定! 教師部隊を送り、鎮圧を図ります!」

アナウンス「来賓、生徒はすぐに避難してください!」


一夏「また公式での勝利は立ち消えたか…………」

一夏「無冠の帝王の名が付きそうだな…………」

シャル「一夏! あれ!」

一夏「――――――IS用の太刀!? って、あれは雪片じゃないか!?」

一夏「しかも、原寸大じゃないけどあの輪郭は――――――!」

一夏「シャルル! 攻撃は待て!(…………ただの変形じゃない!)」

一夏「俺の考えが正しければ、(…………パイロットや機体を呑み込んでの変態だ)」

一夏「あれは第1回『モンド・グロッソ』総合優勝者“ブリュンヒルデ”織斑千冬のコピーだ!」

一夏「――――――“ブリュンヒルデ”なんだよ!」

シャル「え!?」

箒「な、何だと!?」

一夏「ん? 覚えがある気が…………(『モンド・グロッソ』の優勝者……機体とパイロットを再現……変態……)」

一夏「まさか――――――!?」

箒「どうした、一夏!」

一夏「――――――こいつがアラスカ条約で禁止されている“VTシステム”なのか!?」

シャル「VTシステム?」

箒「初めて聞く名だ」

一夏「ヴァルキリー・トレース・システム!」

一夏「『モンド・グロッソ』部門優勝者“ヴァルキリー”の機体とパイロットを再現する禁断の技術だ!」

一夏「アラスカ条約で禁止された理由は、見ての通りパイロットすら呑み込んで機体とパイロットを再現する点だ!」

一夏「基本的な輪郭や性能を再現するために、強制的にISの輪郭を歪め、性能を書き換え、」

一夏「パイロットは質量を“効率よく”再現するために機体の中に取り込まれる!」

一夏「だが、それは純粋な質量として再現するために石ころを腹に詰め仕込んだのと同じ感覚で、」

一夏「あのまま閉じ込められていたら、ラウラが酸欠でただの物体になってしまうぞ!」

箒「何だと!?」

シャル「そ、そんな技術が存在していただなんて……」


一夏「シャルル、最後に確認できた相手のエネルギー残量はわかるか?」

シャル「レッドゾーンには入っていたはずだよ、一夏」

一夏「それなら、問題はないか」ギリッ

一夏「あの時の織斑千冬は俺の『白式』と同じように、相手の行動に合わせて攻撃態勢に移るから、敵対意思を見せなければ大丈夫なはずだ。あとは、教師部隊の数の利で捻じ伏せることができる」イラッ

シャル「一夏?(言葉と裏腹に凄く忌々しそうに睨んでいるよ…………)」

一夏「…………俺たちは後退だ。箒は俺の手に。シャル、相手を刺激しない程度に低速で離脱だ」ギリギリ

箒「あ、ああ…………(お、お姫様抱っこ……だが、あまり喜べない状況だ……)」

シャル「わかったよ、一夏(やっぱり、苛立ちを募らせている……)」

一夏「(くっそー! 『AIC』が使えれば“ブリュンヒルデ”でも簡単に倒せるのに!)ギリギリ

一夏「(教師部隊は何ノロノロやっているんだ! 早く助け出さないと中のラウラが死ぬぞ!)」ギリギリ


千冬「……VTシステムか(ラウラ、お前はそこまで私になりたかったのか)」

山田「教師部隊が配置につきました」

千冬「事は一刻を争う。対象のシールド残量も残り少ない」

千冬「一気に鎮圧せよ!」


セシリア「一夏さん!」

鈴「一夏!」

一夏「よく来てくれた! セシリアたちも来てくれ!」

一夏「教師部隊に万が一のことがあった場合の備えとして、」

一夏「シャルルも再出撃を頼む!」

一同「了解!」

箒「くっ(またしても、私だけ…………)」

一夏「箒、力が今ないことを悔やまないでくれ!」

箒「一夏……そうだな、すまない。救護班に酸素マスクを用意させてくる」

一夏「そうしてくれ!」

一夏「行くぞ! 再出撃だ!」






セシリア「――――――教師部隊8機が壊滅しているじゃありませんか!」

鈴「そんな……1分も経っていないじゃない!」

一夏「やっぱり、手に負えないか……(そんな気はしていた。だが、あれを持っていいのは――――――!)」ギリギリ

一夏「(だが、最悪の状況だ。これを鎮圧するための手段はただ1つ――――――)」

一夏「セシリアは『ブルー・ティアーズ』を戦闘不能になった隊員の周囲に浮かばせてくれ!」

一夏「絶対に撃つなよ! あくまでも保険だ」

一夏「シャルルと鈴は教師部隊の避難を手伝ってくれ!」

一夏「刺激はするな。低速で離脱するんだ」

一夏「――――――俺が斬りこむ! だから、後は頼んだぞ!」

シャル「そんな! 一夏はあの“ブリュンヒルデ”と真正面から戦う気なの!?」

一夏「……そうだ、遠隔展開はしないでくれ」

一夏「たぶん、全神経を研ぎ澄ませた戦いになるだろうから命取りになる」

一夏「いいか、決して撃つな! 戦闘レベルの行動は一斉行うな!」

鈴「そんな、一夏!」

セシリア「しかし、イグニッションブーストを使う相手となると、私たちでは歯が立たないのは事実ですわ」

シャル「く、足手まといにならないようにするのも、パートナーの務め……だね」


一夏「そこのIS! 俺と勝負しろ!」

ラウラ「――――――」

一夏「来た!(イグニッションブースト同士の高速戦闘……!)」

一夏「行くぞおおおおお!(機体性能はどうなんだ?)」

一夏「(『白式』は欠陥機として放置されていたけど、第1世代型最初の『暮桜』よりさすがに性能は高いはずだ!)」

ラウラ「――――――!」

一夏「危なっ!(秘技“ローアングラー”!)」

一夏「(…………危なかった! こんな俺が“ブリュンヒルデ”に優っている点は、技術進歩による恩恵と、“ブリュンヒルデ”の太刀筋がわかっていることだ。だが、わかっていても俺の体力が保たない…………)」

一夏「(中のラウラにちゃんと絶対防御が働いているのか、心配だ……!)」

一夏「(まだ生きているよな? 死ぬなあああああああああ!)」

ラウラ「――――――」ガキーン

一夏「…………このぉ!(――――――偽物め、ぶっ倒してやる! それは――――――!)」ガキーン

一夏「(空中戦から地上戦に持ち込まないと、勝ち目が――――――)」




箒「イグニッションブースト同士の高速戦闘…………」

箒「――――――あ、一夏の動きが!? 限界なんだ!(勝ってくれ、一夏…………!)」

ラウラ「――――――」 ガキーン

一夏「――――――っか(あ、息が…………)」ガキーン

セシリア「い、一夏さん!(今すぐにでも銃爪を引きたいですけど、)」

鈴「一夏!(ここで誰か一人でもあいつの強がりを無視したら、)」

シャル「一夏!(一挙に崩れてしまう! 耐えるんだ!)」

一夏「――――――あ(…………血が?)」

ラウラ「――――――」ガキーン

箒「一夏ああああああああああ!」

一夏「(………………もう、アレを使わざるを得ない!)」ヒュウウウン

一夏「ゴホゴホ…………て……かい…………(悪い子でごめん、千冬姉)」ドゴーン


千冬「一夏ああああああああああ!」ガタッ

山田「織斑先生!」


織斑一夏の『白式』はまだ機能停止をしてはいなかった。まだ戦えた。

しかし、イグニッションブースト同士の壮絶な戦いの中で、パイロットの方に明らかな不調が出始めていたことから、

誰もがこのまま地表に叩きつけられて、再び起き上がることはないと予想してしまった。


――――――だが!


シャル「え、今 何か展開して……」

鈴「い、一夏!(口から血を吐いた! もう耐えられない! あんたの強がりなんて――――――は!)」

一夏【???】「――――――」スクッ

セシリア「一夏さん! 無事で何よりですわ、本当に……(墜落してからの急停止で持ち直しましたわ!)」ホッ

箒「だが、様子がおかしい……」

箒「――――――って、な、何だあれは!?」

シャル「能面――――――“黒い般若”!?」ビクッ

鈴「い、一夏……?(白い機体に黒いパイロットのモノトーンが印象的……)」

セシリア「一夏さん、大丈夫ですか! ……一夏さん?」

シャル「一夏、僕の声が聞こえる? 返事をして! ねえ!」

箒「な、何が起きたのかわからないが、あのVTシステム機が来たぞ!」

ラウラ「――――――」

一夏【黒般若】「――――――」

箒「空中戦は止めて、今度は居合で勝負する気か?!」

箒「だが、一夏は全身全霊を賭けた一戦で敗北し、勝てないと言った!」

箒「止めろ、一夏! 止めるんだああああ!」

鈴「箒!? 生身のあんたが出しゃばったって邪魔になるだけよ!」ガシッ

箒「だが、一夏は! 一夏は――――――!」ポロポロ

シャル「僕らが一夏に許されたことは見守ることだけなんだ…………」




















ラウラ「――――――!」

一夏【黒般若】「――――――」フワッ

箒「一夏――――――!?」

千冬「――――――こ、これは!?」

一夏【黒般若】「――――――!」ズバッ



箒「……勝った、勝ったのか! あの“ブリュンヒルデ”に!?」

鈴「一夏ぁ!」

シャル「一夏!」

セシリア「遠くから見ていただけでしたけど、本当に、よかったですわ……」ポロポロ


勝敗はそこに居た誰もが抱いていた予想を裏切るやり方で決した。

“ブリュンヒルデ”のVTシステム機が居合を放ち、それに対して一夏も同じく居合で対処するものだと誰もが思っていた。

しかし、一夏の『白式』はとんでもない機動を見せた。


一瞬で空中に横たわったかと思うと、更に雪片弐型の光の剣と黒般若の面を残して装備が解除され、

解除した瞬間に自由落下し始めた横たわった生身の身体の下スレスレをコピーの雪片が通り過ぎ、

一瞬後れてから、『零落白夜』を発動させた雪片弐型でそのまま斬りつけたのだ!



それは試合中に見せた、『シュヴァルツェア・レーゲン』のワイヤーブレードとレールガンを、

一振りでまとめて斬り裂いてみせた、あの回転斬りを発展させた奥義であった。



だが、それがいかにとんでもない反撃の仕方だったかは容易に想像付くであろう。

ISを解除――――絶対防御やPICを切って自然落下の勢いに任せて無心で斬り捨てたという、

1秒でもタイミングがずれれば、あるいは座標の調整をミスしていれば、

水平に一夏の身体が真っ二つにされていただろうし、取り込まれたラウラを逆に真っ二つにする可能性すらあった、

凄そうなことをやっているように見えて、どちらかが必ず死にかねない、とんでもなく効率の悪い魅せ技であったのだ。

だが、織斑一夏はやってみせた。それが事実である。



――――――仮面舞踏会は意外な幕引きを迎えた。

しかし、見事に使命を果たした勇者が仮面を投げ捨てて囚われの姫君を抱きとめたシーンは、

そこに居た誰にとっても感動をもたらす名場面にとなった。


一夏『俺は俺だ。俺の智謀と勝負師としての業で、これまで通り戦ってみせるさ!』


箒「……そうか! 一夏にとっての最大の武器は、直接的な“強さ”じゃない!」

箒「最初から最後まで一貫して、自分の“強さ”を限界以上まで活かしきる、」

箒「智謀と勝負師としての業、――――――不可能を信じない芯の強さだったんだ!」



一夏『そして、俺は織斑千冬の“強さ”は目指さない! それを超えるものを手にするんだああ!』


千冬「まさか、本当にお前のやり方で私を超えてしまうとはな…………」ポロポロ

山田「織斑先生……」

千冬「よくぞ、よくぞ、やってのけた…………!」

千冬「あんなにも頼りなかった一夏が、一夏が…………」

千冬「(――――――だが、アレを使ってしまった以上は、更に過酷な状態に陥ってしまっただろう)」

千冬「(そして、それ以前におそらく一夏はもう――――――)」

千冬「(私も次に備えて覚悟を決めていくか……)」


一夏「オキロ、オキルンダ! メヲサマシテクレ、ラウラ!」ゲッソリ

ラウラ「」

一夏「ハアハア……ガァハ…………!(脈動確認、気道確保、口内損傷無し)」

一夏「スゥーーー」

一夏「フゥ・・・フゥ・・・フゥ・・・」

一夏「ハアハア・・・・・・! (呼吸の反応なし……!)」

一夏「スゥーーー」

一夏「フゥ・・・フゥ・・・フゥ・・・」

一夏「ハアハアハアハアア・・・! (呼吸の反応なし……! 心臓マッサージ……!)」クラクラ

一夏「ハアハア・・・カハッ・・・ア・・・(こいつ、15歳で148cmだっけ?)」

一夏「ハア・・・ア・・・(小児と扱うべきなんだろうか?)」

一夏「ア・・・(いや、軍人だし、ここは大人として扱う!)」

一夏「ハフ・・・ハア・・・ハア・・・ア・・・(手の位置はここでぇ……!)」

一夏「アア・・・クア・・・フン・・・ア・・・」

ラウラ「・・・ガハッ・・・ゴフッゴフッ・・・」

一夏「アア・・・アアア・・・(対象の呼吸を確認――――――)」ドサッ

一夏「――――――(ヤッタヨ・・・チフユネエ・・・・・・)」

シャル「一夏! しっかりして! ねえ!」

鈴「何やってんのよ! 心肺蘇生して逆に酸欠で倒れたら世話ないじゃない!」

鈴「こうなったら、私が――――――」

箒「そんなことよりも二人をストレッチャーに!」

セシリア「一夏さん!? そ、そんな、どうしてこうも選手生命に傷をつけるような災難が!?」



箒「(私はこの時、一夏のファーストキスがラウラに捧げられたことに対する苛立ちよりも、)」

箒「(こんなあまりにも理不尽な目に遭ってなお、最期に人を救えたという、)」

箒「(顔面蒼白のあまりの痛ましさに直視できないが、妙に安堵させる、)」

箒「(一夏の死人のように安らかに眠るあまりの美しい表情に、)」

箒「(一瞬でも『良かった』と思ってしまった自分に言い知れない怒りを覚えた)」



――――――数日後


医師「もはやここまで来ると、十分に悲劇の主人公と認定してもいいぐらいだ」

シャル「先生! 一夏は……一夏は大丈夫なんですか!?」

セシリア「そうですわ! 早く一夏さんに一目会わせてください!」

鈴「私たちだけじゃなく、学園中が心配してるわ! だから、早く!」

箒「………………」

医師「病室では騒がないことだ。それに騒ぐと唾液のバイ菌が飛び散る」

シャル「…………すみません」

セシリア「あ、それはそうですけれど……」

医師「まず結論から言えば――――――、」

一同「ゴクリ」

医師「少なくとも、天国には行ってないよ」

シャル「よ、良かった…………」ホッ

セシリア「そ、そうでしたか……」

鈴「そ、そうよね。あの程度でくたばるわけないじゃない!」ジワッ

箒「良かった。もう二度と目を覚まさないものだと…………」ブルブル

医師「話を進める前に、缶コーヒーでも飲んでリラックスして欲しい」

医師「正直、私でもどう話したもんか困っている…………」

医師「さあ、遠慮なく選ぶといい。そっちのお嬢さんはカフェオレでいいかな?」

セシリア「あ、お気遣い感謝します」

シャル「じゃあ、僕はこれにします」

鈴「苦いのにしておこ……」

医師「さて、話を進めようか」

箒「ちょっと待ってください! ――――――『少なくとも』とは?」

医師「そのことについてなんだが、」

鈴「――――――あ!? まさか、また後遺症が?」

医師「…………そのまさかだ」

セシリア「そ、そんな! 一夏さんはこれで二度目の死を経験しておりますわ!」

箒「だ、だが、その時は後遺症なんて――――――」

医師「…………(もう話してもいいだろう。もう隠し通すことはできないからな)」

医師「残念だが、一夏くんは最初のやつでPTSDになって、」

医師「ISを私的な目的のために展開できなくなっていた」

一同「――――――!?」

医師「織斑先生の前や絶体絶命の状況なら使えたようだがね」

箒「そ、そんな! そんな素振り、全然……」

鈴「それを知っていたなら、どうして教えてくれなかったんですか!」

医師「それは一夏くんのためを思ってだ」


医師「一夏くんは非常に体裁を気にする子でね……」

医師「みんなが想像している『イケメン』であろうと必死に感情を押し殺して、『イケメン』を演じてきた難儀な子なんだ」

医師「それになまじ良識や考えが行き届くせいで、」

医師「ISが使えなくなれば、学園での自分の立場が無くなることを危惧して、」

医師「それをみんなに悟られないように、必死に努力をしていたからね…………」

医師「織斑先生も極力一夏くんが『白式』を展開する際に立ち会うようにしてたのさ」

セシリア「ぜ、全然そんなこと知りませんでしたわ……」

医師「例えば、朝4時か深夜1時頃にアリーナに侵入して、」

医師「そこで『白式』を展開する特訓をしたり、そこでの過去の戦いを振り返って感覚を忘れないようにしたり……」

シャル「え!? そ、それじゃ、あの日の朝に一夏が居なかったのって…………!?」

箒「そ、そんな!? 一夏はあの日からそんな状態で私との朝稽古に付き合っていたのか?!」

鈴「というか、いつ寝ているのよ! ポーカーだって夜に結構やってたじゃない!」

医師「(重度のナルコレプシーにもなっていたことは伏せておくか)」

医師「最終的には、ある程度克服する手立てを自力で見つけられたようだがね」

医師「それだけでも実に賞賛に値するよ、彼」

箒「あの時の、居合――――――!」

セシリア「え、それは何ですの?」

シャル「あ、確かにそんなこと試合前にやってたような気がする!」

シャル「剣と腕部を部分展開してから、全体を展開する奇妙な展開の仕方だったからよく覚えてる!」

箒「間違いない! それだ!」

医師「だが、ここに来て新たな後遺症が確認された……」

医師「原因は言うまでもなく、酸欠によるものだ」

医師「イグニッションブースト同士の限界を超えた空中戦による内臓器官の圧迫及び破裂」

医師「居合対決による緊張、疲労状態での強行、呼吸回数の低下、」

医師「最後に、自身の身を顧みない人工呼吸の断行と、積もり積もった呼吸不足……」

シャル「聞いているだけであの光景が蘇ってくるよ……」ジンワリ

鈴「私もよ」ジンワリ

医師「以上の数々の致命的な原因が積み重なり、一夏くんは常人では再起不能なほどのダメージを受けてしまった」

セシリア「最初の内臓器官の圧迫や破裂の時点で、重傷じゃありませんか!」

医師「そう。だから、本来なら緊急の外科手術を行う必要があったのだが…………」

医師「奇跡的な回復力でそれはほとんど治ってしまった」

鈴「へ? それ、どういうことですか?」

医師「私にも何が起きているのかわからない」

医師「とにかく、放っておけば後2,3日で快復するんじゃないかと踏んでいる」

箒「え、それじゃ、特に問題はないのでは…………」

医師「それがただの内臓だけの被害だったら、奇跡の生還として諸手を挙げて祝うところだが、」

医師「酸欠で一番怖い後遺症は、脳組織へのダメージなんだよ」

鈴「それってどういう――――――」


医師「脳組織の酸素消費量は全身の4分の1にも及んでいる」

医師「つまり、呼吸しないと脳活動が低下し、やがては生命活動が止まる危険性がある」

医師「これだけで一夏くんの脳活動がいかに打撃を受けたか想像ができるだろう……」

医師「そもそも一夏くんは酸欠に気合で耐え続けて、あの機体を撃破するまでに3分程度戦い続けた」

医師「ISという脳波制御の兵器を使っていたのだから、脳組織の仕事量は常人の比ではなかっただろう」

医師「そして、ストレッチャーに乗せられて人工呼吸器に繋がれるまでで7分程度」

医師「これは致命的だ。普通の人間なら脳組織が完全に死んで、脳死に至ったであろう」

医師「いや、――――――ISドライバーとしても、――――――織斑一夏としても、完全に終わったかもしれん」

一同「」

医師「そう、彼は記憶喪失や痴呆にはならなかったが――――――、」

医師「これを見て欲しい。以前に後遺症の検査で原稿用紙に好きなことを書かせた結果なのだが、」

医師「この前 特別病棟に送られた際のものは、きめ細かく丁寧にかつ理路整然と書き込んでいるのがわかるだろう」

医師「だが、今回の検査で書いたものは、一見すると一般人が書いたような、所々誤字が見られるレベルにまでなっている」

医師「よって、以上のことを踏まえると、」

医師「――――――性格異常と知能低下の可能性があります」

医師「また、本格的にカウンセリングをしたわけではありませんが、」

医師「その他にも、身体の一部が慢性的な麻痺を引き起こしているようにも見受けられました」

医師「ですが、この程度で済んだのは奇跡としか言いようが無いレベルだったということを、」

医師「――――――医者として告知しなければなりません」

医師「酷ければ、脳死、痴呆、記憶喪失、四肢麻痺などに陥り、人間としての尊厳など微塵も感じられない惨状になっていたことでしょう」


箒「ああ、一夏、一夏、一夏…………」ガクッ

シャル「僕のことを置いていかないで、『パートナー』だっていったよね! 一夏、一夏ああああああ!」

鈴「あはははは、やりたいことなくなっちゃった……」

セシリア「私に料理を手取り足取り指導してくださる約束は…………」

一同「ウワアアアアアアアアアアアアン!」

医師「…………すまない。私は失礼させてもらうよ」

医師「そろそろ検診の時間だからね」

医師「だが、その原稿は最後まで読んでいって欲しい」

医師「彼の優しさは失われていない。ではな」



――――――ラウラは攻めないであげてください。オレがノゾんでしたことですから。







いったい誰が予測することができたであろう、このような仮面舞踏会のフィナーレ。

果たして、織斑一夏自身はここまでの展開を予測することができたのであろうか?

そして、その結末を一夏は後悔しているだろうか?

それはもう誰にもわからない。あの一夏はもう過去の人物になってしまったのだから…………



千冬「…………一夏」ギュウ

一夏《???》「………………いい、凄くいい」

千冬「最初からこうしてあげればよかった…………」

千冬「私が仮面を脱ぎ捨ててさえいれば…………」




では、これにて第4話は終了です。

次からは本作における設定をまた挟んで、本編の続きといきます。

ネットカフェってすごいところですなぁ。

では、また今夜か明日か明後日か…………

乙です

乙です


今回は、前作ほどの変化がないので、作品のコンセプト周りの解説を。



織斑一夏

着想:前作の織斑一夏の特徴を反転させたらどうなるのか「立派」←→「惨め」
結果:宮沢賢治『よだかの星』の「よだか」のような存在に
特技:戦闘前に敵味方問わず戦意を大幅に削ぐこと=グダグダにする能力

原作との違いは「もしも誘拐事件以来性格が後ろ向きになっていたら」であり、
もっと言えば「織斑千冬の負担になっていることにトラウマを抱えている」状態、
あるいは「誘拐事件によって重度のPDを患ったら」である。
外面は装えているが、内面は壊滅的で、全体的に見て性根はヘタレている。
他人のために自分の全てを偽れる真性のキチガイ。


前作の一夏は、パイロットの直接の挙動や表情で相手の動きを見切り、人外の身体能力と熟練した実戦戦闘で他を圧倒しているが、

こちらの一夏は、整備科出身という背景の下に、自身の知に絶対的な自信を持ち、勝負師としての業も備えた知能派。

思考速度や柔軟性はずば抜けて高いこともあって、
ISの知識や運用論、相手の意表をつく機転に裏付けされた、
小さな工夫の積み重ねと無理で実力差を埋めるスタイルとなっている。

しかし、彼の学園生活全体が『白式』の生体再生能力の恩恵によって支えられており、
『白式』の専属でなければおそらくすぐに再起不能になっていたと思われるぐらいに貧弱。

自分に合わせて機体を調整するのではなく、機体に合わせて自分を調整しているという歪な運用法だが、
それを徹底しているおかげで、理論上可能なパイロットの安全性や操縦性を無視した、重力から解放された合理的で奇抜な運用を可能としている。


鈴と対戦していた時が一番輝いていた。個人の強さとしてもピークを迎えていた。


しかし、その直後の無人IS:ゴーレムとの戦闘によって、ISの危険性やそれに対する欺瞞を痛感してしまい、重度のPDとPTSDに陥ってしまう。
それから数々の事故が重なって、一夏個人の強さは完全に下降傾向にある。

総じて心身ともにヘタレた結果、最終的には『自分』というものを失う結果になってしまう。
こう考えてみると、原作の一夏はどう考えても超人である。あれで「本来の強さを取り戻しつつ」あるのだから。
さすがは「可能性の獣」ワンサマー…………。


自分の弱さや卑小さを受け止め、様々な知識を深めているので、常識的ではあるが卑屈。
常識的になったので多少は「朴念仁」ではなくなったが、恋愛フラグが立っていたことに気づくのが鈍く、
結局のところ、いつ好意を抱かれたのかさえわからない「唐変木」なのに変わりない。
いや、今作の一夏の心の拠り所は――――――。
更に、自身を卑下し、自分の欲望より保身を選ぶ小心者なので、やっぱり報われない。

しかし、一方で弱さや卑小さを誤魔化すために道化になろうとして、HENTAI趣味に走って『プレイボーイ』を演じてみようとするが、
なまじ良識があるばかりにそれを表に出すことができず、真正面から自分の弱さや卑小さを受け止めることになり、
結局、聖人にも不良にもなりきれない“中途半端”な存在だと卑下し続ける悪循環に陥っている。


前作の一夏が、「いざとなったら一人だけでも生きていける」絶対的な“強さ”のせいで、
他人との一線が引かれているのに対して、

今作の一夏は、「過去のトラウマによって自己肯定できない」絶対的な“弱さ”のせいで、
他人との一線が引かれている。

それに伴い、肉親である織斑千冬の態度が優しくなっており、
前者は助ける必要が全くないから――――むしろ、逆に支えられているから、
後者は助けを大いに必要とするから、かなり甘い態度になっている。

3人の大人
今作の一夏は大人に頼ることで自身の弱さを補強しており、師事した大人の影響を受けて少しずつ成長していく。
しかし、当人たちが言っているように「自分たちの領分以上のことはできない」=「対等の関係にはなれない」関係なので、
最終的に一夏の人生の支えとなれるのは、公私や領分を超えて“織斑一夏”を愛せる『家族』の織斑千冬や『同年代の異性』であるヒロインたちしかありえない。


技師・・・チーフ。CV:鈴置洋孝
一夏がISエンジニアを志すきっかけとなった人物。

医師・・・ドクター。CV:中博史
外部の人間だが、学園の人間から信頼を寄せられている好人物。

店主・・・マスター。CV:岸祐二
事の元凶。良くも悪くも一夏の人格形成の中心となった人物。


Rewrite IFストーリーのシリーズ構想

・初期ISランク
原作……B 徐々に本来の強さを取り戻しつつ、驚異的な吸収力で台頭していく真性の超人

前作……S ISどころか心身共に鍛えあげられており、真の“強さ”に辿り着いている『人間』
今作……C 身体能力を犠牲に知略と勝負師の業を手に入れ、運と勢いを一番の味方とする真性のキチガイ
次作……A (コンセプトはすでに完成済み)


・ストーリーの脚色の仕方
初期ISランクで良し悪しを決めている。
原作ではBランクだったので、Basicらしく基準にして試合内容や被害規模を上下するように脚色している。
ただし、戦闘においては結果は同じくとも、戦法が変わってくるようには腐心している。
それに伴い、今作はかなりの被害を出しており、一方で前作ではいずれも速攻で勝負が付いているので『白式』のダメージ以外被害が一切無いというぐらい差がある。

なお、対人関係に関してはIFストーリーのコンセプトに沿うように脚色している。
その中で初期ISランクが関係してくるのは、ヒロインとヒロインの――――――。
ヒロインの一人である「凰 鈴音」はその経歴からコンセプトの影響を一番に受けるので、改変された一夏のバロメーターとなっている。


第4.5話 静かなる日々
Fresh Start

――――――織斑一夏 退院前の数日。


一夏《???》「………………」ソウット

シャル「…………がんばって(あともう少しで完成だ)」ボソッ

一夏《???》「………………あ」パラパラパラパラ

一夏《???》「………………ああ」プルプル

一夏《???》「トランプピラミッド完成直前の麻痺による失敗がこれで18回か…………」プルプル

一夏《???》「…………中途半端な俺にはお似合いな結果だな」

シャル「(どうしよう? どうやって中に入ろう…………)」ジー

シャル「(でも、一夏は身体を張ってラウラやみんなの命を守ったんだ)」

シャル「(そんな人を前にして僕はこれ以上自分に失望させたくない…………)」

シャル「だから――――――あ」ポンッ

技師「」シー

シャル「チーフ……」

技師「用があるのだろう。私も一緒に入ろう」

シャル「あ、ありがとうございます」

技師「照明も点けないで何をやっているんだ、織斑一夏?」

一夏《???》「あ、チーフ……それにシャルルか……」

一夏《???》「あ――――――」グラッ

シャル「一夏!」ダキッ

一夏《???》「……ありがとう、シャルル」ベッドニヨコタワル

技師「…………人格変化は杞憂に終わったが、やはり機能障害は深刻だな」

技師「手や足だけではなく、」

技師「――――――表情筋そのものが硬直している」

技師「本当にきみは素顔を失ってしまったな…………」

一夏《無表情》「ははは、俺はちょっと前のことを思い出しただけですよ」

一夏《無表情》「俺はISドライバーになる前から、ISエンジニアである前に、」

一夏《無表情》「勝負師として賞金稼ぎを目指していた――――ただそれだけのことです」

技師「表情筋は顔全体の運動機能も司っている」

技師「眼や鼻の開閉や、食べることや飲むこと、喋ること、息を吸い吐くことなどにも関係している」

技師「それ故に、印象が大きく変わってしまった…………」

技師「声の調子も大きく変わったように感じられたことだろう」


一夏《無表情》「でも、それを補うためにこれがあるんです」スッ

シャル「それって…………」

技師「きみも見たことがあるだろう? これはIS用の簡易デバイスだ」

技師「このデバイスの特性は――――――」

一夏【延命冠者】「」ニコニコ

技師「ISを通じてイメージ・インターフェイスでスキンの模様を変えるものだ」

技師「元々はイメージ・インターフェイスを利用した新しい迷彩技術の試作品だったものを、織斑一夏の趣味で可変能面にしたものだ」

技師「戦闘では何の役にも立たない代物だが、意外な場面で役に立ったな」

技師「だが、このデバイスはスキンの固定機能もあるから、ますます本当の顔がわからなくなるわけだ」

技師「とりあえず、これまで通りのハッタリには利用できるがな……」

一夏【延命冠者】「それで、シャルルはどうしたの。そろそろ帰らないとまずいぞ」ニコニコ

シャル「一夏……それとチーフにも、この際 聴いていただきたいことがあるんです」

技師「それは代表候補生 シャルル・デュノアとしての案件かな?」

シャル「……はい」

技師「わかった。このことは我々だけの秘密にしよう」ピポパ

技師「――――――ドクターか? 織斑一夏の部屋にロックを頼む」

シャル「ありがとうございます……」

一夏《無表情》「ここにみんなからの見舞い品がたくさんあるから、それでリラックスしながら話してね」・・・

シャル「ありがとう、一夏。それじゃ、ドクターからの缶コーヒーを」

技師「私はこちらのアイリッシュ・ウィスキーでもいただこう」

一夏《無表情》「マスターはそんなものを贈ってきていたのか…………」

シャル「それじゃ、話すね」











技師「なるほど、きみは真性の女性で普通の代表候補生でしかなかった、と」

技師「そして、経営危機のデュノア社が起死回生の策としてきみを男性として織斑一夏に近づけた、と」

技師「――――――やはり、産業スパイだったな」

シャル「…………はい」チラッ

一夏《無表情》「………………」

シャル「(やっぱり、感情表現がなくなったせいで怖い!)」

技師「残念だったな、一夏」


――――――身も心も女の子で。


シャル「え!?」

技師「冗談だ。だが、半分は事実だ」

シャル「…………ああ、ははは、そうですね」

シャル「僕は一夏の気持ちを弄んで裏切り続けた…………」

シャル「だから、僕はデュノア社と心中します」

一夏《無表情》「待ってくれ、シャルル」

シャル「いいんだ、一夏」

シャル「あの日、自分の命を賭けてラウラやみんなを守った織斑一夏という偉大な人物の、」

シャル「――――――『パートナー』でいることに僕が耐えられないんだ、もう」

シャル「こんなにも誰かのために必死になれる人の善意を踏み躙ることがもう嫌なんだ……」ポロポロ

シャル「僕なんかじゃ釣り合わないよ…………」

一夏《無表情》「知ってたよ。そんなこと」ナデナデ

シャル「え?」

一夏《無表情》「――――――シャルロット・デュノア」ナデナデ

シャル「あ、まさか…………」

一夏《無表情》「聞いてた」

シャル「そ、そうなんだ…………」

一夏《無表情》「だけど、俺はシャルロットの心の声も感じ取れた」

一夏《無表情》「もう、そんなことはどうでもいいんだ」

一夏《無表情》「どうせ、俺や『白式』のデータなんて見ても誰もわかりっこないし」


一夏《無表情》「それよりも、ちゃんと言ったよな、俺」


一夏『俺のために、今はどこにも行かないでくれ』ニッコリ

一夏『心配するな、パートナー。何があってもきみは見捨てない』


シャル「あ…………」ポー

一夏《無表情》「表情筋どころか涙すら溢れなくなった、」

一夏《無表情》「こんなのっぺら坊みたいな顔になってしまったけれど……」

一夏《無表情》「きみのために笑顔を見せることができなくなってしまったけれど……」

一夏《無表情》「俺を見捨てないでくれ…………」

技師「…………仮面の下の涙を拭ってやってくれ」

シャル「…………うん! こんな僕で良ければ」ポロポロ

シャル「(一夏の顔、すっごく大きくて温かい……)」サワサワ

一夏《無表情》「(いいねえ、いいご褒美だ…………)」

一夏《無表情》「(もう表情を覆い隠す努力をする必要がなくなったのが何とも言えないが、)」

一夏《無表情》「(今はただ、また誰かのためになったことを喜ぶべきか…………)」

一夏《無表情》「(だが、俺は『イケメン』で在り続けることもできなかった…………)」

一夏《無表情》「(俺は帰ってきていいのだろうか…………)」

一夏《無表情》「(もうアレ無しでは『白式』を使えない俺は…………)」



――――――ホント、ザンネンだよ、俺。




番外編4 一夏の特訓その3


一夏《無表情》「…………」ペラペラ

一夏《無表情》「――――――195ページ」

一夏《無表情》「…………」ペラペラ

一夏《無表情》「――――――あった。『IS学園特記事項 序文』」


シャル「ドクター、あれってどういう訓練なんですか?」

医師「ああ、あれは常日頃からの記憶力と感覚を鍛える、勝負師としての訓練らしい」

医師「どんな些細なことでも見逃さず、感じ落とさない鋭敏さが重要なんだとか…………」

医師「たぶん、あのやり方を徹底したら分厚い本の内容を一言一句間違いなく思い出せるんじゃないかな」

医師「だから、暗記系の科目を猛勉強しないでいられるのはあの記憶力によるものだろう」

シャル「勉強を教えてもらおうだなんて思ってたけれど、ついていけない…………」

シャル「次元が違いすぎるよ…………」



シャル「あ、今度はスクリーンに何か放送しだした……」

医師「うむ」


一夏《無表情》「………………」ジー

――――――1994
――――――10787
――――――4789
――――――103
――――――FF

――――――ANSWER?

一夏《無表情》「――――――17928、かな」ピッピピピ

――――――SUCCESS!

一夏《無表情》「ま、こんなもんは初歩の初歩か……」


シャル「あれは、何です?」

医師「フラッシュ暗算だな。16進数が混じっている引っ掛け問題もあるようだが、あの程度の単純な足し算は朝飯前ということだな」

医師「あれ自体はプログラミング初心者でも簡単に作れるものだ。一夏くんは高速で動く紙芝居機能を利用して、多種多様の問題を高速で認識させることで記憶の定着を図っているようだ」

医師「最長5分、最短1秒だ。速読トレーニングだとかサブリミナル効果とか、そういうものを参考にして導入したらしい」

シャル「一夏って本当に何でもできるんだ…………」

シャル「凄いな、一夏」

医師「――――――使えるものは何でも使う、状況に合わせて自分を改造したがる彼らしいやり方だがな」

シャル「え……」


番外編4 一夏の特訓その3


一夏《無表情》「…………」ペラペラ

一夏《無表情》「――――――195ページ」

一夏《無表情》「…………」ペラペラ

一夏《無表情》「――――――あった。『IS学園特記事項 序文』」


シャル「ドクター、あれってどういう訓練なんですか?」

医師「ああ、あれは常日頃からの記憶力と感覚を鍛える、勝負師としての訓練らしい」

医師「どんな些細なことでも見逃さず、感じ落とさない鋭敏さが重要なんだとか…………」

医師「たぶん、あのやり方を徹底したら分厚い本の内容を一言一句間違いなく思い出せるんじゃないかな」

医師「だから、暗記系の科目を猛勉強しないでいられるのはあの記憶力によるものだろう」

シャル「勉強を教えてもらおうだなんて思ってたけれど、ついていけない…………」

シャル「次元が違いすぎるよ…………」



シャル「あ、今度はスクリーンに何か放送しだした……」

医師「うむ」


一夏《無表情》「………………」ジー

――――――1994
――――――10787
――――――4789
――――――103
――――――FF

――――――ANSWER?

一夏《無表情》「――――――17928、かな」ピッピピピ

――――――SUCCESS!

一夏《無表情》「ま、こんなもんは初歩の初歩か……」


シャル「あれは、何です?」

医師「フラッシュ暗算だな。16進数が混じっている引っ掛け問題もあるようだが、あの程度の単純な足し算は朝飯前ということだな」

医師「あれ自体はプログラミング初心者でも簡単に作れるものだ。一夏くんは高速で動く紙芝居機能を利用して、多種多様の問題を高速で認識させることで記憶の定着を図っているようだ」

医師「最長5分、最短1秒だ。速読トレーニングだとかサブリミナル効果とか、そういうものを参考にして導入したらしい」

シャル「一夏って本当に何でもできるんだ…………」

シャル「凄いな、一夏」

医師「――――――使えるものは何でも使う、状況に合わせて自分を改造したがる彼らしいやり方だがな」

シャル「え……」


医師「彼を見ているとな、彼が社会奉仕ロボットにしか見えなくてな…………」

シャル「そ、それは…………」

医師「……わかっている。それは一夏くんの優しさと行動力がなせる素晴らしいものだと」

医師「しかし、人の世は無情だ。良い人間ほど早く死んでいって、憎まれっ子ほど世に憚るものだ」

医師「彼は能力はあっても自分で使おうとはしない。自分で自分の許可が取れないのだ」

医師「だから、彼は他人に使われるしかなくなる。それが存在意義なのだと言い聞かせてな」

シャル「僕にも経験があります。他の生き方を知らなかったから、シャルル・デュノアを名乗って人を欺き続けた…………」

シャル「でも、僕を僕に帰してくれたのは一夏なんです!」

シャル「僕はそんな一夏のことが好きだから、何とかしてあげたいんです……!」

医師「その気持ちに嘘偽りがないなら、やってみせることだ」

医師「――――――私は医者だ」

医師「医者としてのベストは尽くせるが、それ以外のことはできん」

医師「大切に思うのと、大切にするというのは、似ているようで違う」

医師「どうあるべきか、どうするべきか、きみの立場でできる最善の道を探っていって欲しい」

シャル「はい!」





一夏《無表情》「…………」セッセセッセ

シャル「お昼ごはん、持ってきたよ!」ニコニコ

一夏《無表情》「」ウナズク

一夏【グラサン】「ありがとう、シャルロット」

シャル「それって、リハビリの一環だよね?」

一夏【グラサン】「ああ、こうやって玉こんにゃくを箸で挟んで別の皿に移す作業ね」

一夏【グラサン】「普通は豆を使うんだけど、ヌルヌルとして、しかも軟らかいから結構落とすんだよね……」

一夏【グラサン】「今のところ、たった8往復しかできていないけどね……」

シャル「え?(少なくとも皿に8つはあって往復だから皿写しを最低128回もしたってこと? 相変わらず、見えているものが違う…………)」

一夏【グラサン】「それじゃ、食べようか」

シャル「うん! ――――――あ」

一夏【グラサン】「ん。そういや、シャルロットって箸使えたっけか」

シャル「…………練習はしているんだけどね」

一夏【グラサン】「取りに戻るのも面倒だろうし、しかたないか」

一夏【グラサン】「はい、あーん」

シャル「ふえ!?(こ、これって箒にしてた、アレ!?)」ドキッ

一夏【グラサン】「あ、気持ち悪かったか……すまない」

一夏【グラサン】「……そうだよな。このグラサンで覆い隠しているものは――――――」

シャル「違う違う!(えい、やっちゃえ!)」パク

一夏【グラサン】「あ…………」

シャル「す、凄く美味しいよ! だから――――――」モジモジ


―――――― 一夏が食べさせて。


一夏【グラサン】「………………え(ブ、)」

シャル「…………ダメ?」キラキラ

一夏【グラサン】「(ブヒィイイイイイイイイイイ!)」


一夏【グラサン】「お、おう(あ、危なかった、この破壊力…………!)」プルプル

一夏【グラサン】「そ、それじゃいくぞ、あーん」

シャル「あーん」

一夏【グラサン】「あ、ご飯粒ついているぞ」

シャル「あ、取って」

一夏【グラサン】「しょうがないな(ブヒィイイイイイイイイイイ!)」

一夏【グラサン】「(男の娘じゃなくなって魅力激減がしたかと思ったが、別にそんなことはなかったぜ!)」

一夏【グラサン】「(これからも、あらゆる面で頼りにしたい理想のパートナーだ!)」

一夏【グラサン】「玉こん、美味い」

シャル「僕も1つもらっていいかな?」

一夏【グラサン】「いいぜ。箸っていうのはこんなふうに刺すことだってできるぞ」

一夏【グラサン】「まあ、行儀悪い作法だけれど、串がないからいいよね?」

シャル「…………一夏ので、食べたいな」モジモジ

一夏【グラサン】「……ああ、わかったよ。よーく口を開けよ」

シャル「あーーん」










シャル「ZZZ」スヤスヤ

一夏《無表情》「おや…………もう夜ではないか」

一夏《無表情》「――――――あの日のことはもう夢に見ることはなくなったけど、」

一夏《無表情》「また勝てなかった――――――って、まだ居たのか、シャルル――――いやシャルロット」スッ

一夏【グラサン】「何にもないのにこうしているってことは、そういうことなんだろうな……」ハア

一夏【グラサン】「(だからこそ、俺の許から離れて巣立っていって欲しい…………)」ナデナデ

シャル「一夏…………大好き…………」ムニャムニャ




一夏《無表情》「――――――VTシステム」ボソッ

技師「また、例の夢の話か?」

一夏《無表情》「いえ、あれとは違いますよ」

一夏《無表情》「前に、あの無人ISに関するレポートを提出しましたよね」

技師「ああ、卒論として認めてもいいぐらいのあれか」

一夏《無表情》「ふと、思いついたんですけど、」

一夏《無表情》「――――――VTシステムの発展が無人ISなんじゃないかって」

技師「なるほど、それはなかなか興味深いな。一考の価値がある」

一夏《無表情》「フルスキンといい、特定の命令に従って行動する辺りが似ているなって」

技師「確かにきみが考察したように、量子コンピュータの実現で、人間が知覚し得ないほどの情報処理が可能となった今の最高技術なら、より人間的な自律行動――――――いや、人間の心を再現させることも可能かもしれない」

技師「となると、きみがVTシステムと無人ISを結びつけたということは――――――」

一夏《無表情》「そうです。おそらくVTシステムの開発の足跡を辿っていけば、無人ISを保有する裏組織への手がかりを掴めるはずです」

技師「なるほど。――――――だが、少し遅かったな」

一夏《無表情》「どういうことです」

技師「ラウラ・ボーデヴィッヒの機体にVTシステムを搭載したと思しき研究所が、」

技師「実は、露見したその日に何者かに爆破された」

一夏《無表情》「そんな……」

技師「きみの予測が正しければ、裏組織が警戒してすぐに手を回したとも考えられる」

技師「だが、これまで封印されてきたVTシステムが再び表沙汰になったのだ」

技師「国際IS委員会の監視の目は一層強くなるだろう」

一夏《無表情》「……ラウラはどうしてます」

技師「彼女はきみの全てを捧げた応急処置のおかげで、その日の夕方には目を覚ました」

技師「だが、現在もきみと同じくこの病棟で静養している――――と、思いたい」

一夏《無表情》「歯切れの悪い言い方ですね…………」

技師「こればかりはプライバシーに関わることだ」

技師「ましてや、――――――年頃の女の子のな」

一夏《無表情》「チーフの口からそんな言葉が出るだなんて思いもしませんでしたよ」

技師「定期試験も終わったんだ。臨海学校に向けてリハビリの日々が始まる」

一夏《無表情》「…………満点、取れなかったな」ハア

一夏《無表情》「俺はどこまでも俺だと信じて、他人事のようにしか思えなかったけど、何かしらの形で知能低下の痕跡がはっきり出ると、辛いな…………老人になるというのはこういうことなんだな…………」

技師「たかだか全科目中2つだけの部分点ではないか。障害者を感じさせない成績で何を言うか」

技師「それよりも、人間関係の清算もしっかりと行なっておけよ」

技師「今、あの子の心を救えるのは織斑一夏だけなのだからな」

一夏《無表情》「俺が、ですか」

技師「そうだ。織斑千冬では教えられなかったものを心に植えつけたのだ」

技師「そのことを自覚するといい。シャルロット・デュノアにせよ、な」

一夏《無表情》「…………やります。それが責任の在り方なら」

技師「ああ、やってみせてくれ。そして、また人を救ってみせてくれ」



一夏《無表情》「――――――ここがラウラの部屋か」

一夏《無表情》「……問題なのはどの面で行くべきかだな」

一夏《無表情》「グラサンか、マスクか、この無表情な素面でか……」

一夏《無表情》「何でこんな大事なことを考えてこなかった」

一夏《無表情》「ああ、そっか。今までになかったことだからか……」

一夏《無表情》「くそ、こういうところで後遺症を実感するとは…………」

一夏《無表情》「どどど、どうしよう。面会の時間までもう少しだぞ」

一夏《無表情》「(迷ってどうする!? 誤魔化してどうする!?)」

一夏《無表情》「(学園に復帰した時のことを考えると、――――――グラサンでいいか?)」

一夏《無表情》「よし、グラサンならドクターのおかげで許可されたしな――――――ん」スッ

ラウラ「………………織斑一夏?」

一夏《無表情》「ら、ラウラ……(どうして、外に――――――?!)」

ラウラ「――――――織斑一夏!」

一夏《無表情》「うわ!?(いきなり飛び掛かられた、だと!?)」

一夏《無表情》「(ひゃああ! 148cmの女の子に廊下で押し倒されてるぅううう!)」

ラウラ「………………」ジー

一夏《無表情》「いきなり何をするんだ(れ、冷静に、冷静に話に持ち込むんだ、俺!)」

一夏《無表情》「(あれ、何故だろう? 興奮する状況のはずなのにイマイチ感情がこもらない……)」

ラウラ「………………」ポロポロ

一夏《無表情》「(な、涙を流した? どうして?)」

一夏《無表情》「(これでもあまり驚けない……やっぱり俺の感情は死んでるのか……)」

ラウラ「私が奪ったのだろう、お前の全てを…………」

一夏《無表情》「え……(千冬姉からあまり知らされてなかったけど、険しさがなくなっている……)」

ラウラ「――――――あれから、寝ても覚めてもお前のことばかりしか思い浮かばなくて」

ラウラ「もう一度会って話をしたいと、ずっと思い続けていた」

ラウラ「だけど、怖かった…………」

ラウラ「教官からもドクターからも詳しい経過が聞かされず、」

ラウラ「普通の人間なら再起不能の重傷を私が負わせたことが何故か心苦しかったのだ」

ラウラ「お前を排除することを目的にここに来たのにも関わらず、だ」

ラウラ「ある意味 目的は果たされた。私はそう認識している…………」

ラウラ「だが、そんなことよりも織斑一夏――――お前の顔が見たくてみたくてしかたがなくなったのだ……」

ラウラ「こうして見ると本当に、織斑一夏は死んだのだな…………」

ラウラ「――――――私のせいで」


一夏《無表情》「ラウラ…………」

一夏《無表情》「(みんなが言っていたとおり、ラウラも変わったんだな)」

一夏《無表情》「(――――――俺のせいで)」

一夏《無表情》「よっと……(ラウラに印象付けた数々の俺の策略が今、実を結んだというわけか)」カベニセヲアズケル

一夏《無表情》「なあ、ラウラ。聞いていいか」

一夏《無表情》「もう、俺や千冬姉のことはいいのか(ま、こいつはガキだもんな)」

一夏《無表情》「(俺への復讐も果たせたし、ただ単に千冬姉と一緒に居たかったってだけだもんな)」

ラウラ「それは、その…………」オドオド

一夏《無表情》「可愛いな、もう(やっぱ精神的にはガキそのものだな。欲求が駄々漏れだぞ)」ナデナデ

ラウラ「か、可愛いだと?!」テレテレ

一夏《無表情》「もう1つ質問をする」

一夏《無表情》「ラウラは今この時と最高の兵士であった頃、どっちが楽しい」

ラウラ「………………今」ボソッ

一夏《無表情》「よく答えられました」ギュッ

ラウラ「うわ!?」

一夏《無表情》「聞こえる、俺の心臓の音…………俺はまだ生きているよ」

ラウラ「う、うん……」ドキドキ

一夏《無表情》「俺もラウラの命の鼓動を感じるよ。ドックンドックンって…………」

一夏《無表情》「俺もラウラも、昔にはもう戻れないけれど――――――」

一夏《無表情》「そこで人生は終わりじゃない。現にまだ生きているんだもん…………」

ラウラ「織斑一夏……(あ、あの時の教官と同じ――――――)」

一夏《無表情》「なあ、ラウラ」


――――――俺と一緒に新しい世界を旅してはくれないだろうか。(肩身狭い者同士だから)


ラウラ「い、一夏…………」ポー

一夏《無表情》「一人でいるのは寂しいからな」


一夏《無表情》「俺は俺、ラウラはラウラ、千冬姉は千冬姉…………」

一夏《無表情》「どんな顔を持っていてもそれでいい――――それを許せるようになってくれ…………」

一夏《無表情》「そうすれば、みんな居るから楽しいんだ――――――生きるってことが……」

一夏《無表情》「それを教えてあげたい……(あ、何だか眠たくなってきた……)」

ラウラ「そ、そうか、一夏」テレテレ

一夏《無表情》「すまない、そろそろ何だか眠たくなってきた……」

一夏《無表情》「最後にこれだけは言うよ」

一夏《無表情》「俺も千冬姉も、ラウラのこと、好きだからな…………」

一夏《無表情》「だから、自分の気持ちに素直になってくれ……それが俺の願い、だから……」スヤー

ラウラ「一夏!? 一夏あああああ!」

医師「問題ない。死んではいないよ」

ラウラ「――――――ドクター!?」

医師「上手く和解できるか、緊張していたんだな」

医師「だが、見てご覧? ――――――この安らいだ表情」

医師「これはきみが変わったからだ。きみの心の変化が一夏くんに安らぎを与えたのだ」

ラウラ「私は――――――」

医師「ここは私に任せて、次に一夏くんと何を話し合うのか考えておけばいい」

医師「ではな。今度からは部屋の中で話をするように」

ラウラ「あ、ありがとうございました!」

医師「(…………本当に二人はコインの裏表のような関係だな)」

医師「(はっきり言って、彼がラウラに投げかけた言葉は自分に向けて発したようなものが多かった)」

医師「(彼もより良くなるべく変わろうとしている)」

医師「(しかし、ここから出た後の現実がどうなるのか、そこが問題だな……)」




――――――ラウラと一夏の交流は進んだ。


ラウラ「今日は、私の自慢の副隊長を紹介してやろう」

一夏《無表情》「どんどん教えてくれ、ラウラのこと」


一夏《無表情》「わだかまりは完全になくなったな」

一夏《無表情》「元気でやんちゃな妹ができたみたいだ」

一夏《無表情》「ま、あの背丈であの精神年齢からして、間違いはないんだがな(ロリ――――何でもない)」


ラウラ「さて、回線が繋がったぞ」

ラウラ「聞こえるか、クラリッサ?」

クラリッサ「はい。感度良好、お二人の表情もしっかりと見えております」

クラリッサ「初めまして、織斑一夏。こちらはクラリッサ・ハルフォーフ」

クラリッサ「ドイツ軍 IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ(クロウサギ)』副隊長。階級は大尉であります」

一夏《無表情》「こんにちは、織斑一夏です(へえ、やっぱりラウラと同じく眼帯してるんだ)」

一夏《無表情》「無愛想で申し訳ありませんが、何卒ご容赦ください(あれ、何だろう? 千冬姉と似たものを感じる)」

クラリッサ「気になさらないでください。事情は把握しておりますし、軍人も似たようなものですから」

クラリッサ「それよりも早速ですが、隊長」

ラウラ「何だ、クラリッサ」

クラリッサ「いい表情をしていますね。出発前のあなたと同じ人物だなんて信じられないほどに、」

クラリッサ「――――――可愛くなりましたね」ニコニコ

ラウラ「な、何を言うんだ、クラリッサ!?」

一夏《無表情》「全く以て、その通りです」

ラウラ「い、一夏……!?」

一夏《無表情》「大丈夫だよ。そういう表情を見せられるようになったのをみんなが知れば、」

一夏《無表情》「―――――― 一人じゃなくなるよ」

ラウラ「そ、そうか……一夏がそう言うなら、このままでいよう」


クラリッサ「…………いいですね」

クラリッサ「“世界で唯一ISを扱える男性”が織斑一夏――――あなたでよかったと思います」

一夏《無表情》「そうですか? 正直言ってドライバーとしての腕はからっきしですよ」

一夏《無表情》「“ブリュンヒルデ”織斑千冬には遠く及ばないです」

クラリッサ「いえ、確かに職業柄“強さ”が人を見る上での基準とはなりますが、」

クラリッサ「あなたのように周囲から関心が寄せられる人物としては、」

クラリッサ「“強さ”を抜きにしても非常に好感が持てます」

クラリッサ「経歴を見る限り、将来有望な非常に優秀なエンジニアとしても期待できますし、」

クラリッサ「そして何より、――――――囚われの姫君を救い出し、熱い口付けで眠れる姫君を永遠の眠りから覚ましたプリンス」

クラリッサ「織斑教官とは別の意味で、是非とも我がドイツ軍にお招きしたいぐらいです」

一夏《無表情》「え、そうなんですか。人工呼吸なんて軍人だったら訓練でしているものなんじゃないんですか」チラッ

ラウラ「」ポー

一夏《無表情》「(…………おいおい、マジかよ!?)」

クラリッサ「確かに訓練で人形相手にしたことはありますが、IS乗りが外傷を負うことはほとんどないですから」

クラリッサ「ね、隊長?」

ラウラ「――――――はっ!? そ、そうだぞ、一夏! 一夏は自分の凄さが世間的に知れ渡っていることを少しは知るといい」

一夏《無表情》「ははは、ならその期待を裏切らないように精進します(って、何言ってんだ、俺!?)」

クラリッサ「それは、将来ここに来ることを誓ったものと見做していいですか?」

一夏《無表情》「いえ、選択肢に入れておくという程度です(嘘です! 今のは完全に――――――)」

一夏《無表情》「(でも、悪くないなー。高圧的な軍人に見下されて踏まれるのはイイ!)」

一夏《無表情》「(ラウラでもいいんだけど、幼すぎて何か違うんだよな……)」

一夏《無表情》「(見た感じ、この副隊長が実質的な部隊のまとめ役で体格もいい具合だから、)」

一夏《無表情》「(きっと俺好みにシてくれるだろう。ぐへへへ…………)」

一夏《無表情》「(仮に結婚するなら、この人をもらってラウラは妹分――――――って何考えてんだ!?)」

一夏《無表情》「(できるわけもないのに、何を妄想しているんだか…………)」ハア

ラウラ「?」

クラリッサ「どうかなさいましたか?」

一夏《無表情》「…………それも悪くないかなって思っちゃっただけです」

一夏《無表情》「――――――忘れてください」

クラリッサ「おや……(――――――これは脈あり?)」ニヤリ


ラウラ「クラリッサ?」

クラリッサ「隊長、このクロウサギ部隊は常に隊長とともにあります」

クラリッサ「そして、隊長の御側には織斑一夏という大変素晴らしい御人が居ます」

クラリッサ「そのことをどうかお忘れなく」

ラウラ「ああ、わかっている」

一夏《無表情》「(俺の評価って外部でもそんなに高かったの?)」

一夏《無表情》「(ということは、上手く外面は装えた――――生前はみんなにそう思い込ませることには成功したってことか)」

一夏《無表情》「(ああ、クラリッサさん、素敵だなー。踏んでくれ――――――って、だから何考えてんだ、俺!?)」

クラリッサ「それでは時間が迫っておりますので、これにて」ニコニコ

ラウラ「ああ、また頼む!」ニコニコ

一夏《無表情》「ごきげんよう」・・・

クラリッサ「はい、ごきげんよう」ニコニコ



ラウラ「どうだった、私の副官は!」

一夏《無表情》「いい副官じゃありませんか(ええ、それはもう――――――じゃなくて)」

一夏《無表情》「よく頼るんだよ、ラウラ。クラリッサはラウラが変わったことを本当に喜んでくれるいい人だから」

ラウラ「ああ。わかったぞ、一夏」

一夏《無表情》「さ、シャルロットと3人で、IS学園 再デビューを果たすぞ」

ラウラ「おお!」


この時、織斑一夏は知らなかった。

クラリッサ・ハルフォーフ大尉が間違った方向に自分と同種の人間だったことを。

そして、これから何も知らない少女であるラウラが彼女の純粋な善意でどんどんイロモノに染まっていくことを。

その驚愕は退院後の居るべき日常の再開初日からもたらされたのであった。





――――――週明け 退院後の復学初日


一夏《無表情》「――――――というわけで、この通り表情を作ることができなくなり、」

一夏《無表情》「声も小さくなって、突発的な運動障害も負ってしまいましたが、」スッ

一夏【グラサン】「俺はこの通り生きていますから、どうかこれまで付き合いをお願いします」

周囲「ヨカッターヨカッタヨー」パチパチパチパチ

一夏【グラサン】「ありがとう、みんな」

箒「(よかった、臨海学校前に復帰できて――――いや、一夏が一夏のままで)」ホッ

セシリア「(ドクターに面会謝絶され続けたせいで様子を見ることが叶いませんでしたが、本当によかったですわ)」ホッ

山田「はい、本当によかったです。えっと次は――――――」

箒「まだ何かあるのか?」

セシリア「そう言えば、シャルルさんとラウラさんはまだ来ておりませんでしたわ。どうしたのでしょう?」

山田「みなさんに、もう1つ嬉しいお知らせがあります……」ニコー

箒「山田先生の表情が…………」

山田「では、入ってきてください」

ガラッ

シャル「シャルロット・デュノアです。みなさん改めてよろしくお願いします」

周囲「」ポカーン

山田「えっと、デュノアくんはデュノアさん、ということでした……」

箒「…………は?」

周囲「エエエエエエエエエエエエエエエ!」

セシリア「そ、そんなあああああ!」

鈴「どういうことよ、一夏!?」ガラッ

一夏【グラサン】「知らん。そんなことは俺の管轄外だ」

一夏【グラサン】「俺もそれを告白されたのは入院した時だし、俺は知らなかったんだ」

鈴「本当にそうなの…………?(一夏が気づかないはずないじゃない……まさか、記憶が?)」

シャル「(ごめんね、一夏。最後まで迷惑を掛けて……)」

一夏【グラサン】「そうなの(嘘だがな。ついでに、昨日の日曜日に開放された大浴場で一緒に――――――ブッヒィイイ!)」


一夏【グラサン】「……とにかくだ」コホン

一夏【グラサン】「――――――みんな、聞いて欲しい」ガッ

一夏【グラサン】「あれから3人の人生が大きく変わった。それを優しく受け止めてくれないか」

一夏【グラサン】「これが、俺からみんなへの切実なお願いだ……」

箒「い、一夏……そうだな、止むに止まれぬ事情があったことだろうし、ここは水に流そう」

セシリア「一夏さんからのお願いじゃしかたありませんね」

鈴「そうね。せっかく退院したばっかりだし、今日のところは目いっぱい祝ってあげる!」

周囲「ワカッタヨー、オリムラクン!」

一夏【グラサン】「ありがとう、ありがとう……」

鈴「だけど、3人? じゃあ、あともう一人は――――――」

一夏【グラサン】「よし、入ってきてくれ」パンパン

周囲「???」

ラウラ「ま、待たせたな……」ガラッ

周囲「エエエエエエエエエエエエエエエ!」

一夏【グラサン】「ん、ほわあああああああ!?(何その服!? 予想外過ぎるぅううう!)」

山田「ら、ラウラ・ボーデヴィッヒさん…………!?」

箒「な、ななな、何だとおおおおおおお!?」

セシリア「あ、ああ…………私との結婚…………」クラクラ

鈴「あ、あんた、本当にあのラウラ・ボーデヴィッヒなの!?」

シャル「(可愛い服を着て来るって手筈だったけど、まさかこれを選んでくるなんて!?)」ポカーン

一夏【グラサン】「な、なななな何で――――――」プルプル


――――――ウェディングドレスなんだよ!?


一夏【グラサン】「だ、誰の入れ知恵だ――――――あ」

ラウラ「」チュ

一同「」

ラウラ「――――――お前は私の嫁にする!」

ラウラ「決定事項だ! 異論は認めん!」

周囲「エエエエエエエエエエエエエエエ!」


一夏【グラサン】「………………はあ!?」


千冬「織斑、後で教員室に来い……」ゴゴゴゴゴ

一夏【グラサン】「ち、千冬姉……!? こ、これは、違うんだ……」

一夏【グラサン】「クラスのみんながラウラを受け容れられるようにするために、」

一夏【グラサン】「親近感が湧くように女の子らしい服装をしてくるように――――――ぐはっ!」ボカッ

千冬「ここでは織斑先生と呼べと言ったはずだ……!」ゴゴゴゴゴ

一夏【グラサン】「ああああああああああああ!」


――――――ありがとうございますぅ!(恍惚)



これが新生した織斑一夏の新たな人生の門出であった。


ISドライバーなのに、ISを自分の意思で満足に起動させられない、

下心は人並みにあるくせに、結局手を出す勇気はない、

みんなから尊敬を集める英才を演じていながら、やはりどこか抜けている、


そんなザンネンな織斑一夏の物語はまだまだ始まったばかりである。



――――――どこまでもいってもザンネンだよ、俺!




これにて、接続部は終わりです。

ついに自宅での投稿が困難になってきたので、また環境を替えて登校しております。

本日中に完結させる予定でありますので、大変長らくお待たせしました。

では、続きをどうぞ、


第5話 福音事件
FACE DEATH

――――――深夜のアリーナ


一夏《無表情》「来い、『白式』!」

一夏《無表情》「………………」シーン

技師「………………」

千冬「………………」

医師「………………」

一夏《無表情》「なら、これでどうだ」スウ


千冬『――――――織斑一夏!』キッ


一夏《無表情》「はあ――――――なっ(……足の動きがとんでもなく遅い!?)」

一夏《無表情》「…………うわ(今まで対応できたのに完全に――――――!)」ガクッ

一夏《無表情》「身体が衰えてしまったのか――――いや、ダメになった…………」

一夏《無表情》「くぅ……ISを動かすのに重要な集中力――――俺の唯一の取り柄が…………」

一夏《無表情》「たかだか酸欠になっただけで――――これが不幸中の幸いなのかよ……」

一夏《無表情》「泣きたいと思っても泣けないし、驚いたのに驚けない……」

一夏《無表情》「心と身体が赤の他人のような関係になっている……」スッ

一夏《無表情》「…………この仮面が死ぬ前の俺の忘れ形見」

一夏《無表情》「――――――力を失った俺に力を貸してくれ」

一夏【黒般若】「来い、『白式』!」

一夏【黒般若】「――――――いける。いけたよ、みんな」


技師「本来なら、ただのIS用の簡易デバイスでしかない代物だが、」

医師「私の一存で、結果的にVTシステムに酷似したものを搭載させてもらった」

千冬「………………必要悪なのはわかっております」

医師「原理は非常に単純で、一夏くんのIS運用時の脳波パターンをデバイスを通して出力させているだけに過ぎない」

医師「起動と解除、それから生前というべき頃の思考パターンをキャプチャーしている」

医師「だがもちろんこれは、VTシステムとほとんど大差がない原理だ」

医師「今の一夏くんと生前の一夏くんは似て非なる別人同士だ」

医師「それ故に、どこかで思考や反射に大きな食い違いが起こり、――――――最悪の場合、自我の崩壊やISの致命的誤作動も考えられる」

技師「本来ならばすぐにでもISドライバーなど名誉退職させたいところだが、」

技師「スポンサーからの要求――――――そして何より、一夏くんが辞めたくないという要望があった」

医師「私も『白式』の生体再生能力による回復のために持たせておきたいと思っている」

医師「だが、そのためには――――――」

技師「これ以上の死線が起こらないことが絶対条件だ」

技師「『白式』という機体そのものは戦術的スペックでは時代遅れの産物だが、」

技師「織斑一夏というダークホースが組み合わさった場合は話が別だ」

技師「単一仕様能力『零落白夜』の規格外の攻撃力、イグニッションブーストによる高速戦闘、織斑一夏の智謀――――――」

技師「このように十分すぎるほどの戦術的価値が生まれてくる…………」

技師「それ故に、これからも何かが起きた場合は彼を頼らざるを得なくなってしまうだろう……」

技師「何故なら、どんな難題も“彼ら”ならやってくれると思わせる魅力があるからだ」

千冬「…………それで、あの“劇薬”はどれくらいの作用を?」

医師「これが退院後初めての使用となるだろうから、まだはっきりとしたことはわからない」

技師「だが、見たところ基本を一通りこなせている以上は、ただのIS乗りとしては十分だろう」

千冬「…………そうか」

技師「ところで、織斑先生。生前の織斑一夏がラウラ・ボーデヴィッヒが転校してくる以前に、ある装備を――――――」

千冬「他にもまだあったというのか?」

技師「ここに新装備の仕様書のコピーがあります」

技師「臨海学校での拡張装備稼働試験に彼を参加させる場合、どうするかの判断材料に」

千冬「…………これも弟が?」パラパラ

技師「彼の努力と熱意はどの研究分野にいっても大成するほどのものです」

技師「整備科の教員を代表して、彼の扱いには細心の注意を払っていただきたい」

技師「それがあなたのためでもあります」

千冬「……忠告、感謝する」

医師「さて、どうやら戦闘レベルの行動までは試せなかったようだが、今日のところは満足したようだ」

千冬「ああ――――――ん? あそこに居るのは…………」


箒「やはり、一夏は…………」

箒「許せ、一夏。私はお前のように力を持っていないがために、お前が一人苦しむのはもう嫌なんだ……」

箒「お前が力を持ったことでここまで苦しむのなら、私も同じ苦しみを……」

箒「白に並び立つもの――――――『紅椿』」

箒「それが私のIS…………」


――――――『自分』とは何者なのだろう?


ふと、そんな疑問が俺の心を捉えて放さない。


もし俺にIS適性が無かったとしたら、答えは決まっている。

今頃 俺はヒミツの花園で優雅に踊る貴公子とは程遠い、

整備科において作業つなぎが似合う人間になるために勉学に励んでいることだろう。

そして、普通の中学校の延長線上にある、男も女もいる学園生活をチーフのご指導の許で過ごしていたに違いない。

そうなれば、ドクターと親密になることもなく、今以上に千冬姉との接点は無かった。

だが、それが当たり前だった。それで満足だった。


――――――何よりも、こんなにも『自分』というもののことで思い悩むことも無かったろうに。


俺は憧れていた。

ラウラと同じように、――――――千冬姉の“強さ”に。

しかし、それは俺が男だからどれだけ努力しても到達することができないことを知り、一度諦めた。

そして、――――――あの日、剣を置いてカードを手にするきっかけとなった。

それ以来、俺は知の力を追求し、マスターから勝負師の業を会得し、自分でも驚くぐらいの英才になれた。

そう、だから俺は、ISドライバーにさせられたことに抗議して、本来望んだ道を進むこともできたのだ。


では、何故俺はISドライバーの道を必死になって突き進んでいるのだろう?


何度も死にかけ、女子しか居ない全寮制の生活に緊張し続け、その果てに『自分』を見失った。

そして、俺はもう一度、千冬姉のように慣れないことを痛感した…………

おそらく、これからも俺が予見した通り、数々のアクシデントやハプニングが起こり続けることだろう。

それをわかっていながら、俺は何故今もこうしてIS乗りを続けようとしているのだろう?

俺がIS乗りを辞めればペナルティが発生するようだが、名誉の負傷で辞職しても文句を言われない境遇にまでなった。

それなのに、もう一度手にした剣を置こうとは思わなかった。辞める絶好の機会を得たのに、である。

むしろ、俺は意地でも続けようとしていた。

その果てに、この身体が朽ちようとも、『自分』じゃなくなっても――――――、そう思えてしまうのだ。

理由はわからない。ただ漠然と意固地になっていた。

様々な要因を挙げていけば、ISドライバーを辞めた方が続けるよりもリスクが大きすぎることに行き着く。

あるいは、あの5人に対して愛着と責任を感じているのかもしれない。

しかし、俺にはどうにも納得できなかった。

『自分』のことなのに、何故そう思っているのかがわからない――――――それが悩みの種となっていた。








今日も星空が綺麗である。

――――――あの日以来、俺は星空を眺めることが日課となっていた。

趣味や特技というほどのものではない。俺の天文学知識は星座観測かけだしレベルで止まっている。

ただ、そうしていると何故かこの胸の支えがすっと消えていくようだから…………


さあ、今日のやるべきことは果たした。あとは眠るだけ。

そして、夢の中で『自分』と向き合うのだ。

夢とは、起きてから眠るまでの間の記憶を整理するために起こるものと聞く。

ならば、そこに答えがあるのかと、お告げというものを期待しながら今日も夢の世界へと旅立つのであった。


番外編5 温故知新


鈴「どうして私と一緒に街に出かけたいだなんて…………?」モジモジ

鈴「普段なら『みんなと一緒の方が楽しい』って言うところじゃない」

一夏【グラサン】「ごめんな、鈴。あらかじめ言ったけど、今回のは俺の治療の一環で、楽しくないものだ」

一夏【グラサン】「そんなものに人を巻き込みたくなかった」

一夏【グラサン】「だから、本当は鈴にも声を掛けたくはなかったんだ」

一夏【グラサン】「それなのに付き合ってくれてありがとう」

一夏【グラサン】「これは鈴じゃないと確認できないことなんだ……」

鈴「そ、そうなんだ(やっぱり変わった、けど――――――)」

一夏【グラサン】「それで俺が確認したいのは、――――――昔のことなんだ」

鈴「――――――『昔のこと』?」

一夏【グラサン】「ああ。時々、何かを忘れているような気がしてならないんだ……」

一夏【グラサン】「さて、まずは鈴の店があったところだ」

鈴「じゃあ、行こう、一夏!」

一夏【グラサン】「待ってくれ、身体が鈍ってしまったからもうちょっとゆっくり……」パシッ

鈴「あ、うん(手、握ってくれた……)」


それから二人は、幼少の時の思い出を振り返るために、かつての母校や街並みを散策していった。

ファースト幼馴染である篠ノ之箒が重要人物保護プログラムで一家離散の憂き目に遭っていたことを知らず、

ただ無邪気に普通の少年としての人生を歩んでいたあの頃…………。

しかし、――――――あの日を境にそれは一変した。


――――――な、何だ、お前ら!?

――――――うわあああああ!

――――――助けて! 千冬姉えええええ!


一夏【グラサン】「くぅううううううう…………」ブルブル

鈴「い、一夏……?」

一夏【グラサン】「あ…………すまない(また自動症か)」

一夏【グラサン】「こんなくだらないことに付きあわせて、本当に申し訳ない……」

鈴「いいのよ。こうやって二人っきりで居られるだけでも嬉しいんだから」

一夏【グラサン】「そういうもん、なのかな…………」

鈴「そうなの!」


鈴「それでどうなの? 記憶の方は?」

一夏【グラサン】「あんまり思い出せない…………驚くくらいに…………」

一夏【グラサン】「何というか、俺がIS学園に至るまでに必要だった要素以外、全て忘れてしまったような感じだ……」

一夏【グラサン】「小学校のことなんてまるで憶えてなかった…………」

一夏【グラサン】「中学校の時の記憶でさえもあやふやだ……」

一夏【グラサン】「俺がISエンジニアになるための勉強の内容ぐらいしか思い出せない……」

一夏【グラサン】「(皮肉なもんだ。最初は鈴から俺の過去を暴露されるのを恐れて口封じしたのに、)」

一夏【グラサン】「(それが一転して、鈴から俺の過去を聞き出すようなことになるなんて…………)」

鈴「そ、そうなんだ……(それじゃ、もう一夏は私との約束も完全に――――――)」

一夏【グラサン】「なあ、確認していいか」

鈴「え? 何を?」

一夏【グラサン】「確か鈴はいつだったか俺に、」


一夏【グラサン】「――――――『結婚してくれ』って言ってなかったか」


鈴「え? えええええええええええええ!?」ワタワタ

一夏【グラサン】「やっぱり違うのか…………いかんな、記憶の欠落が思った以上に酷い」ハア

鈴「い、一夏……(ちゃんと覚えていてくれたんだ……こんな状態になっても私との約束……)」

鈴「(――――――嬉しい)」

鈴「(でも、今ここで気持ちを伝えても、一夏が受け容れてくれるとは思えない)」

鈴「(むしろ、一夏にとっては負担にしかならないはず…………)」

鈴「(悔しいけど、ここは待つしかないわね…………)」

鈴「(でも本当に、――――――嬉しかった)」ニコニコ


一夏【グラサン】「どうした、鈴。そろそろ家に着くけれど……」

鈴「ねえ、一夏?」

一夏【グラサン】「ん」

鈴「一夏にとって大切な記憶のほとんどはちゃんとあるんでしょう?」

鈴「だったら、他のことは思い出さなくていいじゃない」

一夏【グラサン】「そうは言うけれど…………」


鈴「だって、今こうしてここに居るじゃない(見えない過去に縛らせるわけにはいかない!)」


一夏【グラサン】「……あ、憶えているぞ、その台詞」

一夏【グラサン】「俺がIS学園に転校してきたばかりの鈴に言ったんだよな」

鈴「そうよ。あの頃の一夏は『未来のこと』を見据えて歩き続けてきたじゃない!」

鈴「だから、いつまでも『昔のこと』を振り返り続けるのは、――――――らしくない」

鈴「もっと自信を持って! 『昔の自分』はベストを尽くしてきたって信じてあげて!」

一夏【グラサン】「…………ははははは」

一夏【グラサン】「――――――鈴がセカンド幼馴染でよかった」

一夏【グラサン】「俺の『昔のこと』を一番わかっているのは、鈴だな」

一夏【グラサン】「今日は一日付き合ってくれてありがとう。おかげで、気分が楽になった」

鈴「私もよ。何だか熟年夫婦の昔めぐりしているみたいで、懐かしくも新鮮だったわ(ふふふ、『一番』だって……)」

一夏【グラサン】「こういうのを温故知新っていうのかな……」

鈴「まさにそれね」

一夏【グラサン】「それじゃ、到着だ。どうする、鈴」

一夏【グラサン】「俺はこれから五反田兄妹のところで夕飯にするけど」

鈴「じゃあ、私もそうしようかな」

一夏【グラサン】「そうか。それじゃ、行こう」

鈴「うん!(またこうやって、手を繋いで、ね?)」





――――――とあるバー


一夏【グラサン】「やあ、マスター」カランカラン

店主「おお、ワンサマー! 怪我の方は大丈夫なのですか?」

一夏【グラサン】「感覚が鈍っていないか、確かめて欲しい」スッ

一夏《無表情》「泣きたいと思っても泣けない、驚いても驚かない、のっぺら坊相手に……」

店主「ふふ、確かに衰えたようにも感じますが、」

店主「だが、私にはわかる! まだワンサマーは死んでいない、と!」

店主「今夜は人が集まっています」

店主「私からの退院祝いです。これを使って勝負してきてください」

一夏《無表情》「感謝する、マスター」

店主「確かに、表情を使い分けて相手を幻惑することはできなくとも、」

店主「ポーカーフェイスと能面を結びつけたワンサマーなら演じきることができるでしょう」

一夏《無表情》「――――――能面、その手があったか」

店主「GOOD!」

店主「どうやらまた新しい発見をしたようですね」

店主「勝負師に常道はない。いついかなる時でも業を磨き続けることが大切なのです」

店主「その目敏さ、その英明さが失われていなければ十分でしょう」

店主「勝負とは最後に勝てばいいのですから、焦らずにただ勝利を見据え続けなさい、ワンサマー」

店主「私もまた、ただの子供でしかなかったあなたに教えられたことがありました」

店主「いずれまた、互いの魂を賭けた勝負を――――――!」

一夏《無表情》「…………受けて立つ」・・・

店主「GOOD!」ニヤリ


一夏《無表情》「…………ん、朝か」

一夏《無表情》「また、【俺】の夢…………」ハア

一夏《無表情》「汗がひどい……寝苦しい夜だったな……」フキフキ

一夏《無表情》「早くシャワー……(あれ、やたら身体が重い?)」

一夏《無表情》「な、下半身が動かない……(まさか、ついに半身不随に――――――!?)」

一夏《無表情》「まずい――――――ナースコール……」アセダラダラ

一夏《無表情》「うん……(あれ、床に見覚えのある制服の脱ぎ散らかしが…………)」

一夏《無表情》「まさか――――――」バサッ

ラウラ「ああなんだ……もう朝か……」ゼンラ

一夏《無表情》「………………」

ラウラ「おはよう、嫁。今日もいい日にしよう」

一夏《無表情》「あはははは…………」

一夏《無表情》「感無量なのに涙が流せないのが残念な限りだがな…………」

一夏《無表情》「クラリッサさん、いろいろザンネンだよ…………」

一夏《無表情》「(こんな夢の様な状況なのに、まるでタタナイ俺の身体…………)」

一夏《無表情》「(俺はオトコとしても死んでいたのか…………そうか、俺、インポになったんだ…………)」

ラウラ「…………? 夫婦とは互いに包み隠さぬものだと聞いたぞ?」

一夏《無表情》「それ全部、クラリッサさんから教わったことだよね……」

ラウラ「違うのか?」

一夏《無表情》「知識としては正しいが、ただやり方が間違っている(うはっ、可愛すぎるぅうう!)」


一夏《無表情》「(ぐへへへ、ここで手取り足取り丁寧に調教してやる!)」

一夏《無表情》「(無垢な子供を自分好みに仕立て上げるのは楽しいからな…………)」

一夏《無表情》「(こういうのって、相手を知らないうちに罠に陥れるのと似たようなものだし!)」

一夏《無表情》「(……あれ、待てよ? クラリッサって間違いなく常識人じゃないか)」

一夏《無表情》「(そんな人がいくら間違った日本知識を鵜呑みにしているからと言っても、自分たちの貞操概念を曲げるか、普通?)」

一夏《無表情》「(あのウェディングドレスといい――――――、何かおかしい)」

一夏《無表情》「(そういえば、俺も千冬姉と同じくドイツ軍の御墨付きをもらったっぽいし、これは――――――)」

一夏《無表情》「(――――――ハニートラップに違いない!)」

一夏《無表情》「(そうだとも! シャルロットにも一応その命令がくだされていたぐらいだし、)」

一夏《無表情》「(基本的に俺の貞操にはプレミアの値打ちがあるんだ……)」

一夏《無表情》「(――――――おのれ クラリッサ!)」

一夏《無表情》「(ラウラが戦いしか知らないことをいいことに、謀略に巻き込もうだなんて……!)」

ラウラ「嫁よ! 大丈夫か!? 戻ってきてくれ!」ウルウル

一夏《無表情》「あ、どうした……そんなに考え込んでいたのか、俺」

ラウラ「まるで銅像のように固まっていたから意識を失ってしまったのかと…………」

一夏《無表情》「すまなかった(そうか、無表情でタタナイ身体だから、黙っているだけでも周囲に不安を与えるのか)」

一夏《無表情》「だけど、ほら」ギュッ

ラウラ「――――――あ」ドクンドクン

一夏《無表情》「俺はまだ生きている。ちゃんと心臓の鼓動は鳴り響いているだろう」

ラウラ「…………うん(嫁の胸板……汗の臭い……)」


―――――― 一夏!


箒「………………」プルプル

一夏《無表情》「――――――あ(死ぬほど驚くような出来事のはずなのに、ピクリともしなかったぞ、俺!)」ハンラ オムツ


箒「な、何故裸同士で抱き合っているのだ…………」ワナワナ

ラウラ「む、無作法なやつだな……夫婦の寝室に」ゼンラ

箒「ふ、夫婦ぅう!?」

箒「(許さない許さない許さない許さない……)」ゴゴゴゴゴ

一夏《無表情》「待て、箒(って無理だろうな。昔から箒は――――――)」

箒「天誅ううううううう!」

一夏《無表情》「ぬあ…………」バキンボキン





箒「はあはあ……(ついカッとなってまた無防備な相手を打ってしまった……何をやっているんだ 私は!?)」

箒「(相手は正真正銘の障害者なのだぞ!? 最悪だ)」ドヨーン

箒「(そ、それにしても、やはり今の一夏は痛みすら感じなくなったのだろうか……)」

一夏《無表情》「(ああ、気持ちよかった……痛みを感じられるだけ生きているって感じがするぅう!)」ヒリヒリ

ラウラ「こ、こういう時は黙って見ていろと嫁は言ったが、何故なんだ!」

ラウラ「あの程度の相手なら私が――――――!」ギラッ

一夏《無表情》「許してやってくれ。死んだように鈍った身体に鞭を入れたほうが良い時がある……心臓マッサージと同じだ」

ラウラ「よ、嫁がそう言うなら私もたまにはしてやろうか……?」

一夏《無表情》「ああ、頼む……(イヤッタアアアアアア! 棚から牡丹餅とはこのことか!?)」

箒「わ、私を咎める気は一切ない…………!?」

箒「(ああ、どうしよう……一夏がどんどん私の手の届かない場所へ行ってしまう…………)」ドヨーン



一夏【グラサン】「えっと、臨海学校の最中に七夕か……」

一夏【グラサン】「セシリアの料理教室は今週はお休みして、箸の使い方を教えてっと……」ピピピ

一夏【グラサン】「いや、ここはマイフォークセットを贈るべきか……」

一夏【グラサン】「ポーカーはどうしようかな……」

シャル「あ、あのさ、どうして僕のことだけ誘ってくれたの?」

一夏【グラサン】「もうすぐ臨海学校だろう?」

一夏【グラサン】「俺はドクターストップで海水浴を禁止させられたから必要なくなったけど、」

一夏【グラサン】「お前 女子用の水着持ってないって言ってたじゃないか」

一夏【グラサン】「俺は外出する時は誰かと同伴じゃないといけないからさ、」

一夏【グラサン】「そういう面を含めて、今回はシャルに頼ったんだ」

一夏【グラサン】「本当は『パートナー』としていろいろ買い物を楽しみたかったけど、――――――ごめんな、シャル」

シャル「まだ僕のことを『パートナー』って言ってくれるんだね、一夏……」

シャル「いいんだよ、一夏。一夏は僕を救ってくれた。だから今度は、僕が一夏を支えてあげるから」

一夏【グラサン】「ありがとう。もうきみのために笑顔は――――――」

シャル「」シー

一夏【グラサン】「……そうだね(――――――天使だ、天使がおる!)」




一夏【グラサン】「何で俺、おむつコーナーに足が行くんだろ」ハア

一夏【グラサン】「もう当たり前のようにおむつを履くようになってしまったけど……(おむつ見て心底安心してる俺…………死にたい)」

一夏【グラサン】「まあいい。定期購入しているし、ここで買う必要なんかない」

一夏【グラサン】「とりあえず、予定したものは買い込んだ、な」

一夏【グラサン】「ちゃんと領収書もあるし、送り先も間違えていない」

一夏【グラサン】「あとはシャルの買い物が済むのを待つだけか」

シャル「―――――― 一夏、ちょっと来て!」パシッ

一夏【グラサン】「え、シャル」

タッタッタッタッタ

一夏【グラサン】「なんだよ、無理やり(どういうことだ? 何故試着室に二人で入らなくてはならないんだ!?)」

シャル「選んだ水着が似合っているか見てもらいたくって……」

一夏【グラサン】「だからって一緒に入らなくても…………(やっぱり、興奮しない。オトコとして死んでるよ、俺……)」

一夏【グラサン】「(俺、酸いも甘いも経験することなく、ジジイになってしまったのか……)」

シャル「」シー

一夏【グラサン】「……外に誰か居るのか」

シャル「だ、誰も居ないよ。いいから、とにかくここに居て! すぐに着替えるから――――――」ヌギ

一夏【グラサン】「…………あ(ドキッともしなかったよ、今)」セヲムケル

一夏【グラサン】「(ハニートラップの耐性は付いたけど、何だか人生の半分を損した気分)」

シャル「(勢いでこんなことしちゃったけど、どうしよう!?)」

シャル「(ええい、もうやっちゃえ!)」シュルシュル

一夏【グラサン】「………………あ」


一夏【グラサン】「(何がしたいんだ、シャルは? 本当に脱ぎ出した……)」

一夏【グラサン】「(――――――ヤルつもりなのか、俺を!?)」

一夏【グラサン】「(いや、シャルにそんなことをする動機はないはず…………)」

一夏【グラサン】「(それに、俺に手を出したら身を滅ぼしかねい。その損得勘定はできているはずだ……)」

一夏【グラサン】「(それとも、――――――若さ故の過ち? 特に考えてない?)」

一夏【グラサン】「(わからん……まったくわからん……)」

一夏【グラサン】「(そして、背後で生着替えが行われているのに、タタナイ俺の身体…………)」

一夏【グラサン】「(仮に誰かと結婚しても、満足させられないよな、うん、きっと…………)」

一夏【グラサン】「(やはり俺は、己の知を磨いて、英知の殿堂に辿り着くしかない……!)」グッ

シャル「もう、いいよ」

一夏【グラサン】「……わかった」クルッ

シャル「へ、変かな……?」モジモジ

一夏【グラサン】「(うはっ、男の娘だったらサイコー! いや、女の子でもサイコー!)」

一夏【グラサン】「(――――――じゃなくて!)」

一夏【グラサン】「(どうする? こう至近距離でハシタナイ姿を拝めて、押し倒したいと思うのが普通だろうが、)」

一夏【グラサン】「(状況が状況だし、この感激を素直に表現できる手段がない)」

一夏【グラサン】「(落ち着け。『もうこの水着でいい』――――――それを静かに伝えるためには――――――!)」

シャル「い、一夏……(ここまでしたのに一夏は何も反応してくれな――――――あ)」

一夏【グラサン】「」ウナズク

一夏【グラサン】「」シー

シャル「――――――ふえ!?(――――――み、耳許に!?)」

一夏【グラサン】「キレイダヨ」

シャル「い、一夏……(ああ、何て甘美な囁き……)」ポー

シャル「そ、それじゃ、これにするね」テレテレ

一夏【グラサン】「」ウナズク

一夏【グラサン】「(さて、難問は1つクリアされた――――――問題はここからだ)」サッ


一夏【グラサン】「(ど、どうやってここから出よう…………)」アセダラダラ


ラウラ「教官はどのような水着を?」

千冬「そうだな――――――」

山田「楽しみですね、織斑先生の水着」


一夏【グラサン】「(千冬姉やラウラまで居るじゃないか……!?)」

一夏【グラサン】「(ど、どうしよう!? 俺、警告済みだから、このままだと『白式』が……!)」ガタガタ

一夏【グラサン】「(ここ、女性用水着のコーナーだから、見つかったら確実に問い詰められる…………!)」

一夏【グラサン】「(ヤバイヤバイヤバイヤバイ)」

一夏【グラサン】「(おのれ、シャルロット・デュノア! まんまとハニートラップに引っかかってしまった……!)」

一夏【グラサン】「(どうする、俺!?)」

一夏【グラサン】「(――――――あ! あれで行こう)」ピポパ


――――――“世界で唯一ISを扱える男性”を題材にした悪質なチェーンメール!


一夏【グラサン】「(こういう時のために通信系も学んでおいてよかった……)」

一夏【グラサン】「(行け! 一瞬でも注意を引くんだ!)」パッ


ラウラ「む?」

千冬「メールか?」

山田「あら偶然ですね。私も受信しました」


一夏【グラサン】「(――――――今だ!)」バサッ

一夏【グラサン】「オイ、シャル。モウイイダロウ」アセダラダラ

シャル「あ、うん! どう、似合う?」

一夏【グラサン】「ウン。コートダジュールノソレイユダネ」バクバクドキドキ

シャル「ありがとう、一夏!(ごめんね。また僕、一夏に迷惑を掛けちゃった……)」

ラウラ「おお、嫁ではないか! それに、シャルロットもか」

ラウラ「こういうのを、――――――似合っている、と言うのだろう」ジー

シャル「ありがとう、ラウラ」

一夏【グラサン】「シャル、ちょっと疲れた。早く昼食にしようぜ……(神経すり減らした……)」ゼエゼエ

千冬「………………下手な芝居を打ったものだな」ボソッ

山田「え、織斑先生……?」

千冬「何でもない(どこにもお前の姿が無かったのに突然更衣室の側に現れたらな……)」

千冬「どうだ、これから私たちと一緒に?(だが今はそれは咎めん。少しでも心労を減らしてあげたいからな)」

一夏【グラサン】「――――――本当に。…………やった」グッ

シャル「よかったね、一夏(明らかに反応に差がある。やっぱり母親代わりって凄いんだね……)」

ラウラ「……むう(織斑教官と嫁の互いを見つめる表情…………私もいつかは…………)」

山田「仲良きことは善き哉善き哉」ニコニコ


番外編6 一夏の調教その2

――――――ある夜


一夏《無表情》「……雲量8ぐらいの曇天な星空」スッ

一夏【黒般若】「――――――『白式』展開」

一夏【黒般若】「問題なし。解除」

一夏《無表情》「…………今の俺が何をすべきかはわかっている」

一夏《無表情》「けれど、漠然とした思いではあるけど、やるべきこととは別にやってみたいことがある…………」

そう言って、腰掛けたロッキングチェアに揺られながら、ふとあの高みへと手を伸ばそうとした。

ラウラ「嫁よ。ずっと空を見上げているが何か見えるのか?」

一夏《無表情》「あ、ラウラか……いや、さして珍しいものはない」

一夏《無表情》「ただ、こうやって夜空を見上げているとあの日のことが思い出されてね……」

ラウラ「――――――あの日?」

一夏《無表情》「――――――第2回『モンド・グロッソ』決勝戦」

ラウラ「あ……す、すまない……」

一夏《無表情》「気にすることはない。気にすることは……」スッ

一夏【白式尉】「ただ、今の状況は何となく、俺を縛り付けたあの暗闇に似ているんだ」ニコー

ラウラ「そんなもので顔を隠すな!」バッ 

一夏《無表情》「あ…………(え? 何で怒ったの?)」

ラウラ「夫婦とは包み隠さないものだろう……!」グスン

ラウラ「…………あれ、何故だろう? 涙が、溢れてくる」ポロポロ

一夏《無表情》「(…………やっぱり、ガキだな。仮面を被ることで拒絶されたように思うとはな)」ナデナデ

ラウラ「ううう、嫁よ…………」シクシク

一夏《無表情》「(――――――え? そういうふうにも感じられるのか)」ナデナデ

一夏《無表情》「悪かった…………だから、泣き止んでくれ」

ラウラ「う、うん……!」


一夏《無表情》「いい子だ。それでな、真っ暗だったんだけどどういうわけか星空だけは見えていてね」

一夏《無表情》「星座だとか天体観測だとか、そんなのはまったく興味はなかったんだけど、あの暗闇の中で唯一姿を見せてくれた星空だけが寂しさを埋めてくれたんだ」

一夏《無表情》「――――――釘付けになった。そして、天に散りばめられた星星を掴もうと必死になった」

一夏《無表情》「――――――手首を縛られてそれができなかったけれど、――――――疲れたけど、――――――何故そんな子供じみた衝動に駆られたのかわからなかったけれど、」

一夏《無表情》「とにかく無限の彼方にあるあの星星を掴みたかった」

一夏《無表情》「似ているんだ。今の状況――――――」

一夏《無表情》「曇天の空にちらちらと見える星星、手を伸ばすことも叶わない我が身、そして――――――」

一夏《無表情》「――――――希望、流れ星のごとき、IS」

ラウラ「…………希望? ISが?」

一夏《無表情》「流れ星が瞬いた時、千冬姉が現れた……」

一夏《無表情》「千冬姉が流れ星に乗って俺を助けに来たように思えた……」

一夏《無表情》「流れ星とはISのことだったんだ……」

一夏《無表情》「――――――ごめん。自分でも何を言っているのかわからない」

ラウラ「いや、嫁のことをもっと知ることができてよかった……」

一夏《無表情》「そうだな……このことを知っているのは俺とラウラに増えたな」

ラウラ「そ、そうか。そうなのか。えへへへ……」ニコニコ

一夏《無表情》「今でも、千冬姉のようになりたいと思ってるの」

ラウラ「当然だ。そして、嫁の強さにも憧れている」

ラウラ「教官と嫁が教えてくださったこと、生涯忘れない」

一夏《無表情》「そうか。やっぱり、生きてみるもんだな」

一夏《無表情》「七転び八起き。山あり谷あり、人生楽ありゃ苦もあるさ――――――」

一夏《無表情》「生きろ、ラウラ。そして、酸いも甘いもものにしてこい。一人の人間、ラウラ・ボーデヴィッヒとしてな」

一夏《無表情》「それが、お前の目指す“強さ”に…………」

ラウラ「……嫁?」

一夏《   》「………………」スゥ

ラウラ「また、眠ってしまったのか。しかたのないやつだな、私の嫁は」

ラウラ「窓を開けたままにしたら、寝冷えするだろう? 布団を掛けてやろう」

ラウラ「さ、明日から臨海学校だ。わ、私の水着姿を見せなければ、な?」

ラウラ「む?! か、考えてきただけで…………ふわああああああ!」

一夏「ZZZZ……」


――――――調教報告


近頃のラウラはクラリッサから間違った日本知識を教えられて、トンチンカンな面も見せているが年頃の女の子らしさを見せている。

いや、常識はなかったが元々そういった意識はちゃんとあったようである。

クラリッサの策略に気づいてからは、俺専用の―――(自主規制)―――に仕立てあげることはやめたが、

ラウラが目指した千冬姉の“強さ”に近づけるように、寝る前に絵本を読んで聞かせたり、こうやって俺や千冬姉の昔話を聞かせたり、

そういうところから始めてみて、ただの戦闘機械からの脱却を図っていた。

その成果は上々であり、油断ならない策士だが面倒見が良いシャルが同室ということもあり、

おそらくそのかいもあって、クラスの人間ともちゃんと打ち解けることができたようである。


生前の俺と今の俺――――――俺はすでに一度死んだ身で、『イケメン』ですらなくなってしまった別人になったが、

これからどう生きていくべきか、ラウラの成長を見守る傍らでしっかりと見据えていきたい。



――――――臨海学校、当日


「い、一夏……に、似合ってるか、私の水着?」

「一夏さん! さあ、私にサンオイルを塗ってください」

「一夏! 一緒にほら、かき氷、かき氷!」

「一夏、こっちこっち! ラウラの水着を見てあげて!」

「ふ、ふわああああああああ!」

「ビーチバレーですか」ボイーン

「小娘共、大人を甘く見るなよ?」

「オリムラクーン!」

「いやっほおおおおおおお!」












――――――というような、キャッキャウフフな展開を期待してたけど、無理だった。


一夏《無表情》「だって、麻痺を起こして見てるだけになったから……」

店主「それは残念でしたね、ワンサマー」

一夏《無表情》「……何でマスターがここに」

店主「たまたまですよ。たまたま……」

一夏《無表情》「酒を卸しに来たんですか」

店主「YES」

店主「“ブリュンヒルデ”は美酒に酔いたいようで……」

一夏《無表情》「気苦労も多いよな……そのほとんどが俺のせいだし……」

店主「こうして一人 夕食にも同席できずに暇そうでしょうから、どうです?」

一夏《無表情》「俺とマスターの関係は千冬姉には内緒のはずじゃ……」

店主「ああ、そうでしたね。あまりにも二人が顔馴染みすぎて混同してしまいましたよ」

店主「では、私はこれにて。ワンサマー、いずれまた魂がぶつかり合う勝負を……」ニヤリ

一夏《無表情》「――――――受けて立つ」

店主「GOOD!」バタン


一夏《無表情》「そして、一人寂しく、ごちそうを頬張る俺……」ハア

一夏《無表情》「せっかくみんな、気合入れて水着を買っただろうに、肝腎の俺がこんな調子じゃ…………」モグモグ

一夏《無表情》「――――――あ」プルプル

一夏《無表情》「……またかよ。練習はしているけど、逆の手はやり辛いな、まったく」

一夏《無表情》「ああ、もう……汁物が上手く食べられん…………」コンコン

一夏《無表情》「ん……誰だろう」






―――――― 一夏さん!






一夏《無表情》「ああ、セシリアか……」

セシリア「よ、ようやく意識が戻ったんですね……」ポロポロ

一夏《無表情》「は――――――(何で泣いてるの?)」

一夏《無表情》「あれ?(俺はみんなと同じ時間に食事を摂っているはずなのに、)」

一夏《無表情》「もうこんな時間…………(――――――時間が飛んだ?)」

一夏《無表情》「もう、夕食から一時間半も経っているじゃないか……(でも、空になった皿もあるし、満腹感もある……)」

一夏《無表情》「あ、ああ……(――――――自動症が悪化した!?)」

セシリア「だ、大丈夫ですか、本当に!?」

一夏《無表情》「…………大丈夫だよ(これ、マズくね? 自動症じゃなくて、これってもう――――――)」


――――――統合失調症じゃないのか?


驚きもしなかった、泣きもしなかった、声を上げることもなかった――――――。

この時、織斑一夏は淡々と事実を受け入れていた。


そして、――――――生温かい人形だった。


技師「一日後れて、織斑一夏の様子を見に来てみれば――――――」

医師「まさか、病状が一気に悪化するとはな…………」

技師「当然きみは、本日 専用機持ちで行われる拡張装備稼働試験には参加できない」

一夏《無表情》「俺はもう何もできないんですか…………」

医師「いや、これは一人で物思いに耽ることで、完全に自分の世界にのめり込んでしまうようだ」

医師「それでいて、黙々と作業を正確に行うから、一種の忘我の境地に陥っているようだ」

医師「つまり、作業させる分には何ら問題ない。独断専行が許される場なら、な」

一夏《無表情》「それ、意味ないじゃないですか……」

技師「これは例の酸欠だけが原因とは思えないが、ドクター?」

医師「ああ。これは“世界で唯一ISを扱える男性”という難病が悪化したものと考えられる」

一夏《無表情》「どういうことです」

医師「いずれきみは積み重なるプレッシャーに耐えられずに心が壊れたということだ」

医師「きみが師と仰ぐ勝負師――――会ったことはないが、きみの為人を見れば何となく想像ができてね」

医師「精密さと用意周到さ――――これだけで几帳面で神経質な性格が窺える」

医師「その人のやり方を真似た結果、きみは型通りにハマった自分じゃないと満足できなくなったというわけだ」

医師「きみはラウラに言ったね」


一夏《無表情》『どんな顔を持っていてもそれでいい――――それを許せるようになってくれ』


一夏《無表情》「聞いていたんですか…………」

医師「公共の場だったから、致し方がない」

医師「で、そういうことを他人に言う割には、」


――――――中途半端な自分が許せない。


一夏《無表情》「――――――! や、やっぱり、原因はそこなんですか……」

医師「………………」コクリ

技師「そうなのか?」

一夏《無表情》「………………ええ、そうですとも」


統合失調症を患ったような俺なんかが…………

“世界で唯一ISを扱える男性”だなんて…………

千冬姉に敵うはずないから、剣を置いてカードを手にした俺…………

ずっと逃げ続けて、何をやっても中途半端…………


――――――ザンネンですよね、俺。



医師「………………」

技師「それはとても過酷な宿命だったな」

技師「逃げ続けた結果、優れた知性の持ち主となってしまうのだからな……」

技師「勝負師として、ついでにISエンジニアとしての人生だけを歩んでいれば、ここまで病むこともなかったろうに……」

技師「だが、運命は残酷にもきみを選んでしまった…………」

医師「…………どうしたものか」

一夏《無表情》「俺はもう『白式』とは――――――」ポロポロ

医師「…………涙」

技師「む、これは……」カオヲミアワセル

一夏《無表情》「一緒に宇宙から地球を見ることなく、知らない誰かのところに行ってしまうのか…………」ポロポロ

医師「一夏くん、まさかきみは――――――」

技師「――――――ISには意識のようなものがある、か」



束「もう何してるの、いっくん~! いっくんは小難しいことなんて考えずに突っ走るのが一番だって!」



一同「――――――!?」

一夏《無表情》「――――――た、束さん」

技師「…………篠ノ之束。やはり今日この日に現れたか」

医師「この人が件の人物か……」

束「あ、チーフだ。そして、こっちのがいっくんもちぃちゃんもお世話になっているドクターだ」

束「お初にお目にかかります。私が天才の篠ノ之束ちゃんだよ! ブイブイ!」

医師「ああ。一夏くんの主治医に晴れて任命された者だ」

技師「珍しいな。お前が自分から挨拶をするなんてな。身内以外には興味が無いお前が」

束「ひっどーい! 私もこれでも人の子なんだよ? 大切な人を大切にしている人への礼儀は心得ているつもりだよ」


一夏《無表情》「……今日は七夕でしたね。箒の誕生日プレゼントでも贈りに来たんですか」

束「そう、そうなのだよ、いっくん!」

束「箒ちゃんからのオーダーで、第4世代型IS『紅椿』をプレゼントしてきたんだから!」

技師「――――――第4世代型だと!?」

束「驚くことないじゃん、チーフ。『白式』もその1つだし」

一夏《無表情》「ま、まさか、――――――雪片弐型」

束「Exactly! いっくん、本当に賢くなったね。でも、いっくんはそういうキャラじゃないと思うんだ、私」

医師「なるほど、やはり『白式』はあなたが手を加えていたわけか……」

医師「『白式』の生体再生能力は察するに――――――」

束「そうだよ、『白式』は『白騎士』の生まれ変わりだよ」

一夏《無表情》「――――――やっぱり、そうだったんだ」

一夏《無表情》「『白式』は『白騎士』と『暮桜』の因子を…………」ブツブツ

技師「だが、束。お前が素直にプレゼントだけを渡して帰るとは思えん」

技師「――――――何が目的だ?」

束「そんなの、決まってるじゃない!」


束「――――――大好きな人のために盛大なプレゼントを!」


山田「た、大変です、チーフ、ドクター、織斑くん!」

技師「………………それで荒療治のつもりか」

医師「また、何かしたのだな……10年前と同じように」

束「さて、何のことでしょう~」ニコニコ

一夏《無表情》「………………そういうことなら、ものにしてやる!」


千冬「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエルの共同開発の第3世代型IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走。監視区域より離脱したとの報があった」

千冬「情報によれば、無人のISだそうだ」

技師「この機体は元々有人機だったそうだが、パイロットの意識が失ってもミッション遂行ができるように、独自開発した無人AI単体による試験飛行の最中だったということだ」

一夏《無表情》「…………へえ」フキフキ

技師「安心してくれ。AIのレベルはあの無人機よりはお粗末だ」

千冬「その後、『銀の福音』はここから2キロ先の空域を通過することがわかった」

千冬「時間にして50分後」

千冬「学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」

千冬「教員は学園の訓練機を使用し、空域及び海域を封鎖を行う」

千冬「よって、本作戦の担当は専用機持ちに担当してもらう」

千冬「それでは、作戦会議を始める。意見がある者は挙手するように」

医師「医者として、一夏くんには参加してもらいたくない」

一同「………………」

一夏【黒般若】「…………まずはブレインストーミングでもしましょうか」カポッ

セシリア「で、では、目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

千冬「ふむ。だが、決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視が付けられる」

一同「」コクリ

ラウラ「…………なるほど、だから無人AIの導入を急いだわけか」

セシリア「広域殲滅を目的とした戦略級特殊射撃型で、オールレンジ攻撃が可能……」

一夏【黒般若】「ま、そんなことだろうとは思ってたよ」

一夏【黒般若】「――――――何が、アラスカ条約だ」

一夏【黒般若】「――――――何が、軍事転用を危ぶむだ」

一夏【黒般若】「自爆装置でも付けてろ……(ま、命よりも重いコアを紛失するわけにはいかないんだろうけど)」

一夏【黒般若】「(IS産業型経済モデルの今の世界にふさわしい歪んだ価値観だな)」

鈴「私の『甲龍』と同じく、航行能力の高さが目を引くわね。さすが戦略級というだけあって自衛能力は高そうじゃない」

シャル「もっと情報は無いんですか? 背中の装備のことがわからないんですが……」

ラウラ「偵察はできないのですか? あるいは更なる情報提供を」

千冬「それは無理だ。超音速飛行をしている。アプローチは1回が限界だ」

千冬「そして、情報提供を得ようにも情報公開の承認を得るまでの時間がない」


山田「となると、攻撃のチャンスは1回だけ」チラッ

鈴「ふざけてるわね。暴走した尻ぬぐいをさせられているのに、そんな扱いだなんて……」チラッ

シャル「だけど、これは大変なことになったね……」チラッ

ラウラ「うむ。アプローチが1回だけ。それだけで撃破できるだけの戦力であり、」チラッ

セシリア「しかも高速戦闘をこなせるだけの熟練したパイロット……」チラッ

医師「………………」

技師「………………」

千冬「………………」

箒「な、なんということだ…………」

一夏【黒般若】「俺しかいない――――のは、わかりきっていたことですけどね……」ペラペラ

一夏【黒般若】「この戦い、俺と箒以外には出番はない……」

千冬「何を見ている?」

一夏【黒般若】「第4世代型IS『紅椿』の特徴となる『展開装甲』について、天才 束さんからのプレゼント」

一夏【黒般若】「居るんでしょう。さっさと、やりましょう」

束「呼ばれて飛び出て、天才 束さん、また参上!」

千冬「どういうことだ、束?」

一夏【黒般若】「返します。半分はわかった。残り半分も暗記した」ピピピ

束「どうもどうも」ボッ

セシリア「ああ、貴重な第4世代に関するレポートが一瞬で灰に…………」

束「つまりね、『紅椿』は拡張領域でどうのこうのしないで、最初から複数の機能を兼ね備えた兵器であらゆる状況に対応できるようにした、スペシャルな機体なのさ!」

ラウラ「それはどういう――――――」

一夏【黒般若】「――――――それを知る必要はない」

鈴「い、一夏……?(な、何だろう。今ものすごい壁を感じた……)」

シャル「(精神を集中しているつもりなんだろうけど、怖い…………)」


技師「で、話を続けてくれ。今回の作戦で、『紅椿』がどう役に立つのかね?」

束「はい、チーフ! つまりねつまりね、『紅椿』をスピード特化にすることで、超音速飛行を実現させて、」

束「いっくんの『白式』を消耗させることなく、『零落白夜』をフルに使えるように作戦を遂行させることができるってことなのだ~」

セシリア「そ、そんな……私の『ストライク・ガンナー』の出番が……」

束「よかったね、箒ちゃん! これでいっくんと肩を並べることができるよ!」

箒「ね、姉さん…………」

一夏【黒般若】「というわけで、いいでしょう」

一夏【黒般若】「箒の『紅椿』で俺を送って、俺が『銀の福音』を撃破する。他のメンバーは待機ってことで……」ピッピピピ

千冬「待て、織斑! まだ結論は――――――」

セシリア「そ、そんな一夏さん!」

一夏【黒般若】「他に代案がないのなら、ここまでだ」

一夏【黒般若】「行こう、箒、束さん。一刻の猶予もない」

箒「一夏! どうしたというのだ!? いつものお前らしくないぞ!?」

鈴「ちょっと一夏! そんな言い方はないんじゃない!」

一夏【黒般若】「……気に障ったなら、後で謝る」

一夏【黒般若】「だがこれは、『白騎士事件』に匹敵する歴史の転換点になる事件だ」

一夏【黒般若】「失敗すれば、お前たちはそれぞれの国家の尖兵として互いを殺しあうことになるぞ」

一同「――――――っ!?」

一夏【黒般若】「嘘と欺瞞に満ちた、今の情勢が大きく変わり得る」

一夏【黒般若】「俺は世界がどうなろうと知ったことではない。アラスカ条約を利用して互いを貪り食おうとする世界なんか、自らのハラワタを食い破って滅びればいい」

シャル「本当にどうしたの、一夏……?(み、見下されている、ように感じる。あの面の傾け方……)」

ラウラ「そ、そうだぞ、嫁!? 嫁はそんな顔はしないし、そんなことを言うなんて――――――」

束「いっくんいっくん! さあ、行こう」

一夏【黒般若】「はい。箒も早く……」

箒「あ、ああ…………」

一同「」ポカーン




山田「ど、ドクター!? 今のは!?」

千冬「………………私のせいなのか」

医師「…………わからない。今の一夏くんは演技なのか、真意なのか」

医師「だが、1つだけ確かなことがある」

医師「――――――仮面をこの場で付けたという事実だ」

セシリア「そ、それはどういうことですか!?」

医師「一夏くんは型にはまった完璧な自分を演じることを心がけていた」

医師「それ故に、中途半端であることを酷く嫌っていた」

医師「極端なことを言えば、――――――カッコイイ自分を演じるために、思春期特有の性愛意識や弱気な想いなどを抱くのは相応しくない――――――だから、そういった役柄に相応しくないものを全て封印しようとしていた」

鈴「え、なにそれ…………」

シャル「それってつまり、ずっと自分の気持ちを押し殺してきたってことなの?」

シャル「じゃあ、僕に見せてくれた笑顔は――――――」

医師「いや、みんなが惹かれた彼の優しさは本物だ。しかし、本来そこにあったはずの下心や悪口が封印されていたという話だ」

医師「彼は『プレイボーイ』を目指すのを辞めて『イケメン』であろうとしていたのだ」

一同「プレイボーイ……?!」

ラウラ「???」

千冬「………………」

医師「本当は年頃の男の子らしくそれぐらいの下心はあったという話だ。話を戻そう」

医師「たぶん、今の言葉は半分は嘘で、半分は真実だと思う。直接的な表現は抑えていたけれどね」

ラウラ「???」

セシリア「半分は嘘で、半分は真実――――――?」

鈴「まどろっこしいわね……」

医師「つまり、人は自分の中にいろんな視点から見た考えを同時に持っていて、」

医師「例えば、ある人の良い面と悪い面の両方を知っていたとしたら、どう振る舞うべきかという話だ」

医師「一夏くんは、それを自分に当てはめて多感な自分を否定し続けてきたのだ」

医師「おそらくさっきのは、“黒般若”として何らかの目的に沿ってさっきのようなことを言い放ったのだと思う」

セシリア「そ、そんなことよりも、障害の方は大丈夫なんですか!?」

ラウラ「作戦中に麻痺するようなことになったら――――――!」

医師「その点は問題ないと思う。あの仮面は生前の彼の意識を命令させる代物だ」

医師「任務は身命を賭して果たしてくれると思う」

シャル「…………そんなのはあんまりですよ」

医師「すまない。――――――私は医者だ。その立場での意見しか許されない」

医師「私は彼の主治医として、無事の帰還と作戦の成功を祈ることしかできない」

一同「………………」

技師「…………む(これは――――――わかった、織斑一夏)」ピッ

技師「――――――織斑先生」ボソッ

千冬「チーフ……」


箒「な、なあ、一夏?」

一夏【黒般若】「どうした、箒。怖いのか、……実戦が。……それとも俺が」

箒「………………どっちもだ」

一夏【黒般若】「素直でよろしい……」ナデナデ

箒「い、一夏…………」

一夏【黒般若】「あの場は無理やり持って行かないとドクターストップを掛けられる心配があった」

一夏【黒般若】「そうなったらこのミッションは遂行不可能になる」

一夏【黒般若】「だから――――――」

箒「――――――だから、あんなことをみんなに言い放ったのか?」

箒「弛んでいるぞ、一夏!」パチーン

一夏【黒般若】「……けっこうやるじゃん」ヒリヒリ

箒「私は『紅椿』があれば一夏と並び立てる思っていた。思っていたんだ……」

箒「それなのに、一夏はどんどん遠い場所に行ってしまったように感じられた……」

箒「結局、私は専用ISを貰っても何も変わらないんじゃないかって…………」グズッ

一夏【黒般若】「…………そんなことはない」ナミダヲヌグウ

箒「い、一夏……」

一夏【黒般若】「孤高のお前が俺以外の誰かと一緒に居る時間を大切にできるようになったじゃないか」

一夏【黒般若】「証人保護プログラム、だったっけか?」

箒「――――――“重要人物”保護プログラムだ」

一夏【黒般若】「ああ、それそれ。お前が背負わされた重みに比べて俺は、ISドライバーにされた当初は、女の子しかいないヒミツの花園で花摘みをする『プレイボーイ』になろうと考えていた」

箒「い、一夏!?」

一夏【黒般若】「でも、俺には女の子の気持ちなんてさっぱりわからなくて『プレイボーイ』になることは辞めたんだ」

一夏【黒般若】「だから俺は、自分にもみんなにもわかりやすい『イケメン』を演じることを決めた」

一夏【黒般若】「だけど、『イケメン』であろうと強く思えば思うほど、結局それに相応しくないことを痛感していってね……」

一夏【黒般若】「その果てに、女の子にチヤホヤされる生活から女の子に介護される生活に落とされてしまった……」

箒「そ、それは…………」

一夏【黒般若】「――――――罰が当たったのさ」

一夏【黒般若】「だから俺は、『白式』と一世一代の大舞台で勝負したくてしたくて、たまらないんだ…………」スッ

一夏《無表情》「俺の命運がどれくらい残っているのか、俺の未来はどうなるのか――――――、」

一夏《無表情》「今 俺は、清々しいぐらいに打ち震えている……」

箒「い、一夏……(表情は全く変わっていないのに、確かに喜びのようなものを感じる一方で、儚さすら……)」

箒「(――――――それが幽玄というもののように感じられた)」

箒「な、何故私なんかにそんな秘密を話す気になったのだ……?」

一夏《無表情》「さて、何故かな……」スッ

一夏【黒般若】「ありのままだった頃の俺を憶えていてくれた人だったから、かな――――――わかんないや」


一夏【黒般若】「さて、この通り、声はあまり出ないし、戦力としては疑問符しか付かない存在だが、」

一夏【黒般若】「張り切って行こうか……」

箒「ああ! 何としても作戦を成功させて、明日を掴み取ろう!」

束「なーんかいい感じじゃん」ニコニコ

箒「そ、それは……」チラッ

一夏【黒般若】「………………」

束「二人共、乗っているのは世界最強の第4世代型なんだから気楽に強気に行こー!」

束「ほら、笑って笑って」ニコニコ

箒「……この顔は生まれつきなので」

一夏【延命冠者】「……そんなことはない。ほら、笑って」ニコニコ

箒「あ、ああ……こう、か?」ニコー

束「うんうん。とりあえず今は大満足なのですよ、いっくん!」

一夏【延命冠者】「(何としてでも成功させなければ…………)」ニコニコ

一夏【延命冠者】「(世界なんてどうでもいい。ただ、身近な人が悶え苦しんでいく地獄絵図を見たくないし、)」ニコニコ

一夏【黒般若】「(ずっと一緒に――――――!)」

一夏【黒般若】「――――――ただそれだけのことだ」

箒「(一夏はおそらく初めて胸の内を明かしてくれた)」

箒「(私はその期待に応えなければ…………)」

箒「一夏、私の装備の確認を――――――」

一夏【黒般若】「……なるほどね、パイロット共に相性がいい機体で助かる」


千冬「………………」

束「何かな、ちぃちゃん?」ピッピピ

千冬「お前はこれから世界をどうしたいのだ……」

束「ちぃちゃんは、今の世界は楽しい?」

千冬「そこそこにな……」

束「そうなんだ……」

束「チーフはどうなんだろうね……この閉ざされた今の世界」

千冬「………………」


一夏【黒般若】「それじゃ、箒。行こう、今まで通りの明日のために……」

箒「ああ。お前と一緒に明日を迎えよう!」

箒「――――――お前の背中は私が守る!」

千冬「織斑、篠ノ之、聞こえるか?」

千冬「今回の作戦の要は一撃必殺――――短期決戦だ」

千冬「討つべきは、――――――『銀の福音』だ」

千冬「両名の奮闘と無事の帰還を期待する」

一夏【黒般若】「……了解」

箒「了解しました! 一夏は私が守り抜きます!」

千冬「よろしい」

鈴「乗りたての時と比べて、緊張感が出ているわね、箒」

ラウラ「どうやら程よい緊張感が初実戦の篠ノ之を冷静にさせているようだな。さすが、私の嫁」

シャル「でも、どちらかと言うと、それは今の一夏が核爆弾以上に危ういからなんじゃ……」

セシリア「そうですわ! パッケージ換装の最終調整を急がされている身ですけど、心配で心配で――――――」

技師「落ち着きたまえ。世紀の大天才に協力させているのだから、万が一に間に合うだろう」

束「ちぃちゃん! チーフがいじめる~!」ピッピッピピピ

千冬「グダグダ言わずに調整を急がせろ!」

山田「それでは、スタンバイどうぞ!」

一同「」ゴクリ

千冬「では、『銀の福音』討伐作戦、――――――始め!」

箒「行くぞ!」

一夏【黒般若】「ああ」ヒュウウウン

医師「おお……始まったな……」

医師「…………これは医者では勧められない荒療治だ」

医師「幸運を祈るよ、一夏くん」ミアゲル





箒「見えたぞ、一夏! あれが『銀の福音』……!」

一夏【黒般若】「『零落白夜』を展開する。思いっきり行ってくれ」

箒「では、10秒後に接触するように加速を開始する!」

一夏【黒般若】「ああ、突っ込んでくれ(このデバイスは完璧だ。俺が考えた瞬間に反応を返してくれる……これなら問題ない!)」

箒「一夏! 行っけええええええ!」

一夏【黒般若】「………………!!(届けえええええええ!!)」

銀の福音「――――――!?」

一夏【黒般若】「箒、このまま押し切る(初撃を回避したか。半端じゃないな、あのAIは……!)」

銀の福音「――――――」

箒「あ、あれは――――――!?」

一夏【黒般若】「……第3世代兵器(あの数で狙いが正確だ! まとまっていては躱しきれない!)」

一夏【黒般若】「分離して、左右からの挟み撃ちを狙う(…………思ったよりもやる!)」

箒「了解した! 私は左から!」

一夏【黒般若】「(だが、確かにあのAIは戦略機用AIだからかは知らないが、明らかに改善の余地が見え隠れしている!)」


――――――これはやれる! 確実に次に繋げられる!


銀の福音「――――――」

箒「はあああああああ!」

一夏【黒般若】「………………(さて、どうする? 隠し球を使うか?)」

一夏【黒般若】「(イグニッションブーストの負担はアップデートしたマスクのおかげでそこそこ克服したが……)」

箒「一夏! 動きは私が止める!」

一夏【黒般若】「おお……(あんなふうに展開装甲の一部が誘導兵器となるのか! これは決まったな!)」

一夏【黒般若】「(あれ、俺が居なくても5人掛かりで勝てるんじゃないか、こんな機体……)」

一夏【黒般若】「だが、チャンスだ(――――今こそ、パッケージの封印を解く! 乾坤一擲! オール・イン!)」

一夏【黒般若】「(――――――保ってくれよ、身体!)」



山田「織斑くんの機体が変わった!?」

セシリア「――――――セカンドシフトですか!?」

鈴「その割りには、ほとんど変わってないような……」

山田「――――――!? 『紅椿』には及びませんが最高速が音速の壁を超えました!」

山田「しかし、その分のエネルギーの消耗が……!」

千冬「織斑は隠し球を解禁したのだ」

セシリア「隠し球ですって!?」

技師「私から説明しよう」

ラウラ「チーフ、そして教官は、知っていたんですね……」

技師「織斑一夏は『白式』の拡張領域が何故無いのか、その疑問に早くから取り組んでいた」

技師「そして、雪片弐型が第4世代型IS『紅椿』に使われている『展開装甲』の原型だったことを突き止めた」

技師「それ故に、雪片弐型に後付装備を導入することを決意し、自ら装備を設計して学年別トーナメントまでには量子化していたのだ」

束「凄いね、いっくん! もしかしたら、私の後継者になれるかもよ!」ウキウキ

シャル「そ、そんなことまでしていたんだ、一夏って……」

鈴「それっていつのことよ! 一夏の身体が保たなかったのはそういう過労のせいじゃないの?!」

セシリア「それでは、あれもパッケージなのですね」

技師「そうだ。安物だが単純にブースターを倍増させた、超音速飛行パッケージ『ダブルイグニッション』だ」

技師「燃費は更に悪化したが、元々『白式』が短期決戦用の機体であり、そして今回のミッションにはうってつけだった」

山田「織斑先生! 織斑くんの『白式』が!」

一同「おおおおおおお!」

技師「これで決まるか……!?(だが、本来なら土壇場になって使うものではない!)」

技師「(少しずつイグニッションブーストの速度を上げながら「最適化」するまでは超音速飛行は封印の取り決めだった。それを――――――!)」

千冬「………………(耐えられるのか、今の一夏に……?)」アセダラダラ




箒「く、被弾したか(リボンが散ってしまった……)」

一夏【黒般若】「ぅううううううううううあああ!(意識が飛びそうだが、これでダウンだああああ!)」

銀の福音「――――――!?」ズバン

箒「やった! ――――――って、まだ!?」

一夏【黒般若】「……まだ、だ(手応えがない……!?)」カラブリ

一夏【黒般若】「あ、くっそおお…………(一世一代の勝負で負けた……エネルギーはもう無い……)」

一夏【黒般若】「(だが、大型スラスターと広域殲滅兵器を組み合わせた翼は完全に斬り落とした)」

一夏【黒般若】「(これで相手はイグニッションブーストは使えず、36連装(?)レーザーは封じられたはずだ……)」

一夏【黒般若】「すまない、箒……作戦の第一段階は失敗だ。第二段階へ……」ビキビキ


パリーン


一夏《無表情》「がはっ(また、内臓が潰れた…………)」フキダスチシブキ

一夏《無表情》「……後は、頼んだ」ヒュウウウウウン

箒「逃すか――――――は!? 一夏ああああ!」



千冬「一夏あああああああああああ!」

山田「織斑くん!」

セシリア「一夏さあああああああああん!」

鈴「一夏!」

シャル「そんな、一夏あああ!」

ラウラ「一夏あああああああ! 嫁ええええええええ!」


――――――何をしている!?


一同「――――――!?」

技師「今、我々の仲間の一人が、己の宿命に従い、自らの生き様を全うしようとしている!」

技師「ならば、我々が仲間として出来る事は何なのか……」

技師「泣くことも叫ぶことも逃げることもしなかったその彼の生き様を無に帰すつもりか?!」

一同「――――――!?」

技師「山田先生! 現在、『銀の福音』は!?」

山田「あ、はい! 織斑くんの一撃によってウイングスラスターを損失した模様です」

山田「そして、大部分の推進力と戦闘力をスラスターに依存していたために、戦闘能力は失われたものと思われます!」

山田「篠ノ之さんの『紅椿』が織斑くんを救助して離脱したのを確認して、その場に停滞――――おそらく自己修復を図っているものと思われます!」

技師「なるほど、離脱するほどの能力も失われたということです、織斑先生!」

千冬「――――――! これより我々は手筈通りに海上封鎖を狭めていき、専用機持ちと連携して『銀の福音』の方位撃滅作戦に移る!」

セシリア「――――――『手筈通り』ですって!?」

シャル「ちょっと待ってください! それじゃ、出撃は――――――」

千冬「当然してもらう! 沖に展開するための船の手配が済むまで待機だ!」ブルブル

ラウラ「待ってください! それではまるで、織斑一夏は――――――」

鈴「そうですよ! いったいこれはどういう――――――」

千冬「返事は全て『了解』だ!!!」

一同「りょ、了解!」

千冬「…………(まさか、本当に弟が用意した展開になるとは……)」チラッ

技師「…………(よく耐えた、織斑千冬。今は作戦に集中してくれ)」

技師「(しかし、あのメールには心底驚いたぞ。――――――事実上の遺言書ではないか!)」


技師『…………む(これは――――――わかった、織斑一夏)』ピッ

技師『――――――織斑先生』ボソッ

千冬『チーフ……』

技師『一先ず、外へ出ましょう」

千冬『ああ、あいつらの様子を見なくてはならないからな』


技師『これは織斑一夏の詳細な作戦内容です。今、転送します』

千冬『――――――何だこれは!?』

千冬『あの数分で、はっきりとした攻略手順、そしてクルーザー数隻を調達していたのか…………』

技師『織斑一夏は万が一撃破に失敗した時のことを考えて、最低限の目標を立てた上で挑むようです』

技師『撃破に失敗した場合でも、特徴的なウイングスラスターを排除して航行能力を奪い、そこから追撃できるようにここまでの作戦指針を提示しています』

技師『それこそ、例の隠し球を使って刺し違えて死ぬ気で――――――』

技師『おそらく今の織斑一夏に『ダブルイグニッション』に耐えるだけの体力も気力もないはず』

技師『――――――覚悟を決めてください』

技師『将来有望なISエンジニアが世界を救った語られない影の英雄として果てることを、私は覚悟しました』

千冬『――――――っ!』

技師『私は外宇宙開発機構の主任として、あの暗黒空間に尊い人命が失われていくのを見送ってきた……』

千冬『――――――覚悟はできている』ブルブル

千冬『弟の死よりも、弟が守ろうとした世界――――弟の意思を私は守る…………』

技師『そうしてください、平和の糧となって摘まれていく迷える魂のために……』


技師『…………む(これは――――――わかった、織斑一夏)』ピッ

技師『――――――織斑先生』ボソッ

千冬『チーフ……』

技師『一先ず、外へ出ましょう」

千冬『ああ、あいつらの様子を見なくてはならないからな』


技師『これは織斑一夏の詳細な作戦内容です。今、転送します』

千冬『――――――何だこれは!?』

千冬『あの数分で、はっきりとした攻略手順、そしてクルーザー数隻を調達していたのか…………』

技師『織斑一夏は万が一撃破に失敗した時のことを考えて、最低限の目標を立てた上で挑むようです』

技師『撃破に失敗した場合でも、特徴的なウイングスラスターを排除して航行能力を奪い、そこから追撃できるようにここまでの作戦指針を提示しています』

技師『それこそ、例の隠し球を使って刺し違えて死ぬ気で――――――』

技師『おそらく今の織斑一夏に『ダブルイグニッション』に耐えるだけの体力も気力もないはず』

技師『――――――覚悟を決めてください』

技師『将来有望なISエンジニアが世界を救った語られない影の英雄として果てることを、私は覚悟しました』

千冬『――――――っ!』

技師『私は外宇宙開発機構の主任として、あの暗黒空間に尊い人命が失われていくのを見送ってきた……』

千冬『――――――覚悟はできている』ブルブル

千冬『弟の死よりも、弟が守ろうとした世界――――弟の意思を私は守る…………』

技師『そうしてください、平和の糧となって摘まれていく迷える魂のために……』


医師「――――――オペを行う! 人を近づけさせるな! いいな」

女子「スーパーアンビュランスだ!」

女子「イッタイナニガアッタンダロー」

箒「…………すまない、一夏」ポロポロ

セシリア「い、一夏さんはいったいどうなってしまったんですか、箒さん!」

箒「ドクターが言うには、機体自体が私の『紅椿』のように超音速飛行に対応していなかったから、絶対防御が働かない体内のほとんどの器官がソニックブームで斬り刻まれてミンチよりひどい状態に…………」

鈴「な、何よそれ! だって、あんなにも何にもなかったように、――――――綺麗な顔してたじゃない!」

シャル「それは傷の深さを探るために綺麗に拭き取ったからだよ…………」

ラウラ「…………仇は取ってやる!」ギラギラ

セシリア「そ、それは本当に生きていると言える状態なんですか!?」

箒「わからない。でも、ドクターは外科手術に踏み切った。それを信じる他…………」

箒「――――――まるで、一夏の心境がそのまま身体に現れたような状態ではないか…………」

箒「外面を装って綺麗に整えていても、内面ではただひたすら傷ついて…………」

箒「私は圧倒的な力を持つ『紅椿』を得てしても、一夏の心も身体も守ることができなかった…………何のために私は…………」

箒「私にあれを持つ資格はもうない…………」ポロポロ

セシリア「箒さん!」

鈴「……箒。――――――決めた!

鈴「――――――箒!」パーン

鈴「このままウジウジしていたって何にもならないじゃない!」

箒「り、鈴…………私はもう…………」ヒリヒリ

鈴「専用機持ちっていうのは、ワガママが許される立場じゃないの!」

鈴「そんなことよりも、ラウラを見なさい!」

ラウラ「………………」メラメラ

鈴「いい? 私たちが『今』考えるべきことは、一夏が教えてくれたことを活かして、一夏の仇をとることよ!」

鈴「一夏がウイングスラスターを破壊してくれたおかげで、『銀の福音』は高速移動はままならなくなった」

鈴「つまり、私たちでもやれるようになったのよ! 教師部隊と一緒にタコ殴りよ、タコ殴り!」

セシリア「……そうですわね。それに負けたままでいるのは我慢なりませんわ!」

セシリア「ここはドクターを信じて、憎き『銀の福音』をどう料理してさしあげるかを考えましょう!」ゴゴゴゴゴ

シャル「そうだね。僕も本気で怒りをぶつけたいからね!」ゴゴゴゴゴ


鈴「さて、問題! このまま私たちが一丸となって『銀の福音』を戦う際に、考えられる障害は何でしょうか?」

箒「それって…………」

セシリア「簡単なことですわ。それぞれの武器の性能や機体の立ち回りが噛み合わなくて味方の足を引っ張ることですわ」

鈴「はい、正解!」

セシリア「えっへん!」

シャル「経験者は語るね」

鈴「あんまり言わないで、シャルロット……」

セシリア「今考えてみてもなんと浅はかだったか、恥ずかしく思いますわ……」

シャル「教師部隊が使っているのは、みんな『ラファール』の中・遠距離装備のものばかりだよ」

箒「つまり、斬りこむのは控えたほうがいいな……」

箒「あるいは、接近戦が得意な機体で追い詰めたところを狙撃してもらうか……」

鈴「そうそう、その調子その調子!」

鈴「で、私たちは今回のパッケージ換装で全体として射撃武器の火力が上がったから、十字砲火で挑む」

ラウラ「……妥当だな。それよりも、間もなく作戦決行に入る頃合いだ」

医師「――――――その前に、少し時間をもらってもいいかな?」

シャル「ドクター!?」

医師「気休めかもしれないが、一夏くんの心に訴えかけることができるのはきみたちだけだからな」




――――――どことも知れない世界


少女「また来たね」

一夏「ここは――――――そうか、今ならはっきり認識できる」

一夏「――――――あの日のことを夢に見ることがなくなった代わりに、俺はそれと入れ替わるように夢を見続けたんだ」


――――――星空が見えるこの場所を。


一夏「最初は臨死体験で三途の川まで来たのかと思った」

一夏「だけど、それは違った」

一夏「俺がISドライバーとしての実績を積んでいくうちに、何度も何度もここの夢を見るようになっていた」

一夏「決定的だったのは、“ブリュンヒルデ”を超えたから――――――!」

一夏「そして、もう1つ――――――!」


ガキーン!


一夏「――――――俺の中で『白式』の次なるイメージが出来上がっていったからだ!」

一夏「今度こそ、俺は【俺】を超えてやる!」

【黒般若】「できるかな…………【俺】は俺、理想の俺だ」

一夏「そんなことはわかってる! それでも、超えてみたいんだ!」


――――――あの少女は俺の夢だ!


【黒般若】「諦めたらどうだ……ここで俺は何度【俺】に討たれたことか……」


【黒般若】「ここでの勝敗はすでに決定されている……俺自身の意思によってな……」

一夏「二刀流だからって! 剣道の公式大会で二刀流が制覇したことはない! もう対策はできている!」

一夏「そこだ! “ローアングラー”!」

【怪士】「――――――変幻自在」ギラッ

【怪士】「この仮面のように、この機体の武器は姿を変える!」ギラギラ

一夏「わかっているよ! 俺がデザインした『白式』の第二形態なんだから!」

【延命冠者】「受け止めても無駄だよ」ニコニコ

一夏「――――――く、イグニッションブースト!」

一夏「危なかった、『零落白夜』のエネルギークローか…………」

一夏「だけど、飛び道具なら――――――」ジャキ

【俊寛】「距離をとっても無駄だ」ジー

一夏「――――――くぅ!?」

一夏「はあはあ…………あの無人機に殺されかけた時のことを思い出した……」

一夏「あれよりは規模は小さいが、戦術レベルじゃないか!」

一夏「そうか、アサルトライフルがあるから並大抵のものは要らなかったな……」

一夏「だが、燃費の悪さを設計したのも俺だ!」パンパン

【童子】「隙を突こうとしても無駄」ニヤリ

一夏「エネルギーシールド……だが、実弾兵器を持っているこちらが有利!」

【黒般若】「…………強がっても無駄でしかない」

一夏「ダブルイグニッションブースト!?」

一夏「そうだ……! 武器だけじゃなく、機体の面でも理想形…………」

一夏「こちらの未完成品では、自滅するだけだ…………」

一夏「あああああもう! こうなれば、乾坤一擲! オール・イン!」

一夏「織斑千冬から受け継がれた光の剣で迎え撃つ!」

一夏「それしかないじゃないかあ!」

一夏「ううおおおおおおおおお!」

【黒般若】「………………フッ」ズバリーン


パリーン


【一夏】「さすがは、【俺】の――――――」


一夏「ど、どういうことだ!? 何であっさり勝てた…………? わざと負けたのか!? ふざけるな!」

【一夏】「本当はわかっているんじゃないのか?」

【一夏】「経験と努力によって俺が強くなったからだよ」

【一夏】「そして、ガントレットから伝わる命の鼓動を憶えていないか」

一夏「わけがわからない! ガントレット? …………あ」


箒「―――――― 一夏」

セシリア「―――――― 一夏さん!」

鈴「―――――― 一夏!」

シャル「―――――― 一夏」

ラウラ「――――――織斑一夏。私の嫁!」


一夏「…………温かい」

【一夏】「ようやく感じることができたな……」

一夏「どういう……ことだ……」

【一夏】「IS学園に入学するまでの俺は力がなかった。ずっとそのことを悔やみ続けていたんだ」

一夏「……嘘だ」

【一夏】「【俺】はISドライバーとなった俺が『白式』と出会ったことで心の中で生まれた理想像」

【一夏】「当然、俺と【俺】とでは当初は力量差は歴然としていた。曲がりなりにも、“ブリュンヒルデ”そのものだったからな」

一夏「……そうだとも」

【一夏】「だが、俺はみんなの声援と協力をもらって努力を重ねて、最終的には目標だった“ブリュンヒルデ”を超える“強さ”を得たんだよ」

【一夏】「だから、もう悪夢を見なくなった。もう無力だった『昔の自分』とは違うから」

【一夏】「けど、問題は他にもあったよね」

【一夏】「強くなっていくうちに、今度は『自分』のことで思い悩むようになったね」

【一夏】「そこからだよ。本格的に【俺】との戦いの日々になったのは…………」

一夏「脈絡がなくてわけがわからないけど、何となくは……」

一夏「自分でも認めざるをえない“強さ”を得ていったから、余裕ができてきたってことなのか」

【一夏】「そして、このままの中途半端な俺じゃ『白式』と一緒に次の段階へと進めないことに気づく」

【一夏】「ISはパイロットの意思に共鳴する」

【一夏】「相手に合わせるだけだった俺は少しずつ自分の考えを口にするようになった」

【一夏】「俺のやり方や考えが受け容れられていくことで、その最後の扉は開かれた」


――――――初めて自分の胸の内を明かしたから。


一夏「…………あ」

一夏「理想の自分に負け続けていたのは――――――、少しずつ変われたのは――――――、そういうことだったのか」

一夏「――――――全部『自分』が望んできたことだったから」

一夏「答えはいつも『自分』の中にあったんだ……」


【一夏】「さあ、次だ」

一夏「あ、あれは――――――!」


騎士「――――――力を欲しますか?」


一夏「お、俺は――――――!?(な、何で!? 身体が動かない!?)」ゾクッ

一夏「(勝ったんだぞ、俺? 何で、答えらない……!?)」

一夏「(受け取る資格は十分に得たじゃないか!?)」

一夏「(それとも、まだ何かあるのか…………)」

【一夏】「――――――案ずるより産むが易し」

一夏「へ……?」

【一夏】「俺を縛り付けている鎖は、俺自身の躊躇い」

【一夏】「それは緩くもなり、固くもなる鎖」

【一夏】「そして、その鎖は仮面でできている」

一夏「な――――――!?」

【一夏】「…………『自分』が誰かを答えられるか?」

一夏「――――――織斑一夏だろ?」

【一夏】「フッ、何だもう大丈夫じゃないか」

一夏「え?」

【一夏】「さ、もう一度」


騎士「――――――力を欲しますか?」


一夏「俺は『白式』と身近で大切な人を守れるだけの力が欲しい!」

一夏「――――――言えた?! こんなにもあっさり!? どうして?」

【一夏】「だって、簡単なことだろう?」


――――――当たり前のことだから。


【一夏】「『自分』が誰であるかなんて、自分が決めるものだろう?」

【一夏】「そして俺は、『自分』の言葉に責任を持てるから堂々と言えたんだ」

【一夏】「わかっていたことじゃないか。『お前が言うな』って心境でラウラに言い続けてきたことなんだから」

一夏「ああ…………そうだったな」

一夏「――――――もう大丈夫だ」

【一夏】「ああ、俺は大丈夫だとも」


騎士「――――――何のために?」


一夏「そんなの決まっているじゃないか!」

一夏「――――――千冬姉のようになりたいからに決まっている!」

【一夏】「フッ」

騎士「フッ」

一夏「(そうだ、――――――あの時、俺が初めて『白式』に触れた時にわかったんだ)」


一夏「(あの日から剣を置いてカードを手にした俺だけれど、俺はまだ千冬姉のようになりたいって思っていたこと!)」

一夏「俺もラウラも、世界中が憧れた、千冬姉の“強さ”に――――――」

少女「だったら、行かなきゃね」

少女「ほら、ね?」

一夏「ああ……小さくてすべすべで柔らかい手だね」

【一夏】「さあ、最後の儀式だ」

一夏「うん」

【一夏】「これで【俺】は俺に戻るわけだ。――――――ただいま」

一夏「ああ、――――――おかえり」スッ

一夏【一夏】「――――――そう、俺は織斑一夏」

一夏【…夏】「勝負師、ISエンジニア、ISドライバーの道を行く英才でもあり、」

一夏【……】「HENTAI趣味や家事全般にも堪能な織斑千冬の自慢の弟でもあり、」

一夏【  】「――――――“世界で唯一ISを扱える男性”だ」

一夏「そして、ポーカーと能面を趣味として挙げるような、他にも聞かれたらドン引きされかねない――――――」


――――――ザンネンな人間だよ。


一夏「………………」フゥ

少女「」ニコニコ

一夏「今度は、光の速さで歩いていこう!」ニッコリ

少女「うん!」ニッコリ

一夏「そして、いつかあの星空の彼方を――――――」





千冬「予想外のセカンドシフトによって陣形は崩壊…………討伐部隊は壊滅か…………」ギリギリ

技師「織斑一夏がその身を賭して繋げてくれたと言うのに…………」

医師「――――――織斑先生!」

技師「ドクター!?」

千冬「作戦中に部外者は入ってくるな!」

医師「それが、一夏くんが――――――」

千冬「――――――!?」

山田「織斑先生、チーフ! レーダーにISの反応が1つ増えました!」

技師「――――――まさか!?」



ラウラ「セカンドシフトによる戦力回復はさすがに読めなかった……」

シャル「すでに教師部隊の半数が撃墜された……」

鈴「何なのよ! 『龍咆』みたいなエネルギー砲を何もないところから撃てるようになるだなんて……!」

セシリア「――――――は、箒さん!」

箒「な、しまっ――――――うわああああああああ!」

ラウラ「他人の心配をしている暇はないぞ!」

ラウラ「『AIC』で動きを止められれば…………く!?」

シャル「く、無事でいてよね、箒!」



箒「うわあああああああ!」



会いたい……会いたい…………一夏に会いたい…………



――――――会いたい!



――――――会いたい、ファースト幼馴染?





箒「――――――は!?」

一夏「久しぶり、箒」ニッコリ

箒「一夏!? ――――――身体は!? ――――――傷は!?」

箒「――――――って、夢や幻じゃないよな、その表情!」サワサワ

一夏「ちょっと痛いかな……? やるなら素手でやってくれ」(お姫様抱っこ中)

箒「……あ、すまない」ポー

箒「でも、本当に良かった…………本当に…………」ポロポロ

一夏「泣かないでよ。これから戦いに行くんだからさ」ニッコリ

一夏「それよりも今日は――――――」


――――――天の川が綺麗だね。


箒「へ!?(『月が綺麗ですね』っていう言い回しなら聞いたことがあるけど、これって――――――)」ドキッ

一夏「箒、これ」

箒「こ、これって…………」

一夏「――――――誕生日おめでとう。本当は静かな夜の下で渡したかったけど、ごめんな」

箒「いや、謝る必要はない! 絶対に!」

箒「――――――ありがとう、一夏」

一夏「うん。見立てた通り、似合っているよ。ISスーツが白いからっていうのもあるのかも」

箒「一夏……そういえば、もう“黒般若”はいいのか?」

一夏「……もう必要なくなったんだ。俺は“俺の仮面”を被り続けることにしたから」

一夏「見たいって言うんだったら、またするけどね」

一夏「それじゃ、行こうか。――――――守ってくれるんだろう?」

箒「――――――ああ! お前の背中は私が守る!」




山田「織斑くんの機体……パッケージによる換装したものではなく、まぎれもない第二形態です!」

山田「か、仮面――――――覆面デバイスをしていません!」

千冬「まさか、セカンドシフトまでこんな短期間に…………」

医師「だが、一命を取り留めてまだ時間が経っていない! あれでは傷口が開いてしまうぞ!」

医師「仮に『白式』の生体再生能力ですぐに治癒したのだとしても、また音速戦闘で内蔵が――――!」

技師「――――――勝ったな」

千冬「チーフ?」

技師「あれは織斑一夏があらかじめデザインした第二形態だ」

技師「そう、『白式』が雪片弐型を学習し、エネルギー兵器を生成するように促したものだ」

技師「まさか、本当に上手くいくとはな……」

技師「――――――『銀の福音』は戦略級ISだ。エネルギー残量は第3世代型の比ではない」

技師「だが、『ダブルイグニッション』の経験も活きたようだ」

技師「見たまえ。音速戦闘を苦にせずにスリルを楽しむ余裕がある、あの表情を!」

技師「今の『白式』なら『銀の福音』と互角に戦えるだろう」

医師「…………ここまで驚かされたのはあれ以来だ。ISとは本当に――――――」

千冬「無限の可能性を秘めた最強兵器――――――いや、次世代を結ぶ“パートナー”――――――」



復活した織斑一夏の智謀は冴え渡っていた。

あっという間に『銀の福音』を捉えると、


一夏「あらよっと! 近づければこちらのものだ!」

銀の福音「――――――!?」

一夏「お前とは一緒に宇宙を目指せないな!」

一夏「AIのくせに発想が二次元止まりだぜ? 下だと思ったかい?」ニヤリ

一夏「――――――残念! “逆さま”ぁあああでしたあああ!」

鈴「上手い! 左腕を薙ぎ払ったわ!」


一瞬で姿勢を反転させて下から上に落ちて撹乱させ、『銀の福音』の左腕を斬り裂いたと同時に蹴り飛ばし、

制御を一瞬失った『銀の福音』へそこから怒涛の集中攻撃を浴びせるのだった。


一夏「セシリア! ラウラ!」

セシリア「わかりましたわ!」

ラウラ「狙いは外さない!」

銀の福音「――――――!」

銀の福音「――――――!!」


一夏の一声でセシリアとラウラが意図を解し、

超射程のレーザーライフルと増設されたレールカノンで前後から挟み込むよう滅多打ちにする。

そして、一夏の『白式』がセカンドシフトによって得た多機能武装腕『雪羅』が荷電粒子砲へと姿を変えた。


一夏「シャル! 鈴!」

シャル「わかったよ、一夏!」

鈴「見せてやりましょう! 私たちの連携!」

一夏「『雪羅』の荷電粒子砲を受けてみろおおおおお!」

銀の福音「――――――!!!」

鈴「何だかあんたのと同じぐらいのレーザーとか何やら食らったところ、悪いんだけど――――――!」

シャル「この距離なら逃さない!」

銀の福音「――――――!!!!」

銀の福音「――――――!!!!!」


再び掛けられた一夏の一声だけで、次の一夏の意図を解したシャルと鈴は、

『白式』の荷電粒子砲によって吹き飛ばされた『銀の福音』への追い討ちを敢行する。

そして、見事にシャルの『ラファール』が正式名称:『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』パイルバンカー、

通称『盾殺し(シールド・ピアース)』で受け止め、増設された衝撃砲によるサンドイッチをご馳走した。


――――――実に、完璧な流れだった。


これが織斑一夏と『白式』の真髄! 圧倒的なまでの戦術的価値である!


――――――決まったな。


一夏「第二世代兵器最強の『盾殺し(シールド・ピアース)』で正面を貫かれ、」

一夏「機能増幅パッケージ『崩山』で4門に増加した衝撃砲を背後から浴びせられる!」

一夏「やっぱり、俺が居なくても勝てたんじゃないのか…………」

一夏「よし、ここで止めの一撃――――――あ、しまった…………」

一夏「荷電粒子砲のエネルギーを把握しきれてなかった…………あれは俺が設計したものじゃない」

一夏「燃費の悪さは元々だったけど、『零落白夜』が使えない!」

一夏「何しているんだ、俺は!? これだから中途半端――――――」ガシッ

箒「慌てるな、一夏。私の言葉を忘れたのか?」


――――――お前の背中は私が守る!


箒「さあ、『紅椿』よ。単一仕様能力を見せてくれ!」

一夏「エネルギーが回復していく!? これは驚いた……」

箒「――――――『絢爛舞踏』。それが私と『紅椿』の単一仕様能力だ」

一夏「なるほど、――――――『白式』に並び立つ『紅椿』か」

一夏「単一仕様能力もまた、『一対零のエネルギー消滅能力』に対する『一対百のエネルギー増幅能力』となっているのか」

一夏「もう十分!」

箒「行って来い、一夏!」


シャル「一夏! もう弾が無い!」

鈴「こっちもよ! ここまで撃ちまくったのは初めてだわ!」

一夏「じゃあ、行ってくる! 『零落白夜』! ダブルイグニッション!」

一夏「うおおおおおおおおおおおおお!」

銀の福音「――――――!」

鈴「あ、しまった!」

一夏「――――――遅かったな(お前は次に上に飛ぶ!)」ホイ

ラウラ「何!? 雪片弐型を投げた!?」

セシリア「ああ! 足を貫いただけですわ!」

箒「一夏?!」

一夏《延命冠者》「これで終わり」ニコニコ

銀の福音「――――――!?」

シャル「『銀の福音』を直に掴んだ!?」

鈴「どうする気なの、一夏!?」


――――――ゲームセット。


銀の福音「!!??…………    」

箒「『銀の福音』が一瞬で細切りに…………!?」

一夏《延命冠者》「(さすがに強いな、『雪羅』。――――――さすが第4世代兵器)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(いや、これは俺と『白式』――――――)」ニコニコ

セシリア「今、一瞬どうなったのですか!?」

ラウラ「右手で『銀の福音』を掴んだ後、左手のプラズマブレードか何かで斬り裂いた……?」

鈴「な、何をしたのかまったくわからなかったわ……」




――――――いったい何が起きたのか?


それは左腕――――多機能武装腕『雪羅』によるもう1つの『零落白夜』による手刀だった。

『雪羅』の指の1つ1つが『零落白夜』を帯びており、それで『銀の福音』の腹を貫き、そこから上下に引き裂いたのである。

雪片弐型による『零落白夜』よりも圧倒的に範囲に劣るがその分だけエネルギー損失が少ないので、豆腐や障子を指で引き裂くがごとくスパスパと斬れた。

この攻撃は対IS戦闘において最強の攻撃力を誇っており、このように勢いを殺して接することでシールドに弾かれずに確実に相手を抹殺できる必殺技であった。

一夏はその気持ち悪さをしっかりと噛み締めて、バラバラになった『銀の福音』のスキンを虚空へと散らせた。


シャル「……呆気無く終わったね。もっとこう苦戦するイメージがあったけどね」ハアハア

一夏「そういうもんだよ、世の中っていうのは」

一夏「百戦錬磨の強者でも一度の敗北で全てを失う…………」

一夏「それに俺が来るまでみんなで袋叩きにしてくれただろう?」

一夏「相手もセカンドシフトで尋常じゃないシールドエネルギーを回復したけど、それでも消耗はしていたんだ」

一夏「これはみんなの勝利だ! 教師部隊もみんな無事なようだし、さあ凱旋しよう!」ニッコリ

一同「おおおおお!」

一夏「任務達成だよ、千冬姉!」ニッコリ


――――――ありがとう、永遠のヒーロー!




束「『白式』には驚くな……」ハア

束「生体再生能力が脳組織の修復にも発揮されるだなんてね」

一夏「束さん……」

束「いっくん、大活躍だったね! もちろん箒ちゃんの『紅椿』も大活躍で大満足だよ!」

一夏「今日のことであなたに『ありがとう』を言うべきか迷っていたんですけど、」

一夏「とりあえず『あ』『り』『が』『と』『う』の五文字をお裾分けしておきます」

束「もっと盛大に感謝してくれてもいいんだよ、いっくん?」

一夏「束さん。これで俺も箒も、あなたと同レベルに追われる身となったんです」

一夏「そのことを自覚してください」

束「何がいけないのかな、それ?」

一夏「………………」

束「実のところ、『白式』がどうして動くのか大天才の束さんの頭脳を以ってしもわからないんだよね~」

束「いっくんがデザインした通りにセカンドシフトが行われたっていう興味深いものも見られたし、」

束「今回は箒ちゃんの誕生日を祝いに来て本当に嬉しい事だらけだったよ」

束「いっくんも元通りになってくれたし、いっくんの周りの良い大人にも会うことができたし、うん!」

一夏「だからって、『白騎士事件』と同じようなことをしなくても…………」

束「ねえ、いっくん? 今の世界は楽しい?」

一夏「正直に言えば、――――――今回の事件、身近な人が苦しむような結末を迎えることがなければ、失敗してもいいと思ってた」

一夏「俺にとって、世界っていうのはそんなものです」

束「………………」

一夏「IS産業型経済モデルを代表するように、ISが登場してからたった10年で世界は大きく変わった…………」

一夏「でも、変わらないんじゃないかな、今も昔も……」

一夏「あなたの発明が受け容れられなかったとしても、人は己の欲望に従って選び続けてきた歴史があるのだから、たまたまISという次世代技術が今 登場したってだけで、それを超える発明だって出てくるだろうし……」

一夏「常識や基準っていうのは刻々と移り変わっていく。ポーカーのハンドのように、良くなる時も悪い時もある」

一夏「だから、『世界が』楽しいかは答えられないけれど、『今の自分が』楽しいかって言えば、はっきり言える」


一夏「――――――楽しい! これからもっと楽しくなるはずだ!」


一夏「そう信じないと勝負師なんてやってられませんよ!」

一夏「勝負師じゃなくても、何が起こるかわからない未知への興奮、スリルへの欲求があるからこそ、癖になる!」

一夏「そして、俺はもう苦しみや哀しみを一人で背負い続ける必要はなくなった……」

一夏「――――――『自分』のこと、愛せるようになったからね」

一夏「もう過去には戻れないから、今を大事にしていきたい」

一夏「そんなわけで――――――」

一夏「ありがとう、束さん。俺にとってもいい誕生日パーティーだったよ」

一夏「生きていることが快感になるぐらいのね……!!」ブルブル

束「ふふふふ、また会おうね、いっくん!」

一夏「またこうやって話せる日を――――――。それも箒や千冬姉、みんなと交えて、ね」

束「いっくん、今度また会ったら――――――何でもない」


一夏「…………行っちゃったか。神出鬼没だな、全く」

一夏「あの人は、――――――人そのものだから。身近な誰かの為に生きている」

一夏「そういう意味では、誰もあの人を責めることはできない」

一夏「ISの導入を決めたのは他でもない人民の意思なのだから…………」

一夏「そして、今回の事件も――――――」

一夏「………………」ザー

一夏「さて、ドクターやみんなに見つからないうちに、海を堪能しておくか…………」

一夏「イイイヤッホオーーーーーー!」

一夏「――――――来い、『白式』!」

一夏「さあ、水浴び水浴び!(あ、縫合の痕ってこうなってるんだ…………)」

一夏「そういや、ISって水中でも使えたっけ? やってみるか!」


ヒュウウウウウウウウン! ザバーン!


一夏「……ああ、圧力に対しては無意味か」

一夏「やっぱり、それ相応の装備がないと水中や宇宙空間は運用不可か…………」

一夏「…………宇宙への道は遠いな、『白式』」

一夏「ふう、着替えも一瞬だから楽だわ~」

箒「…………一夏」

一夏「……箒か。俺を連れ戻しに来たのか?」

一夏「(今年の流行は胸を寄せて上げる水着…………ナイスバディー!)」グッ

箒「…………一夏?(何だ、今の感じは……)」

一夏「あ……(しまった、1ヶ月にも満たない無表情生活の癖で、誤魔化すことを忘れていた……!)」

一夏「(待てよ……別に誤魔化す必要なんてないんじゃないか?)」

一夏「(こういう場所で見せる水着っていうのは“見せる水着”だったはず……)」

一夏「(なら、臆面もなく褒めてしまえ……!)」

一夏「――――――綺麗だな。ISスーツと同じように、白か」ジー

一夏「俺が黒衣の白騎士ならば、箒は白装束の紅武者って感じかな」ニッコリ

箒「…………そ、そんなに見るな!」

一夏「あれ?(それは照れ隠しと受け取っていいのか? ヤバイ、わからん……)」

一夏「やっぱり俺は『プレイボーイ』にはなれないか…………」ハア

箒「な、何!? よくも私の純情を――――――」ゴゴゴゴゴ

一夏「もう『昔のこと』だよ……若気の至りってやつさ……」

一夏「今は、素直に千冬姉のようになりたいと思ってる――――――ISドライバーとしても一流になりたいって」


そう言って、右腕のガントレットを愛おしそうに触れ、眺める一夏の満ち足りた表情に箒は自然と笑みを浮かべていた。

その時、あの清潔に閉じられた空間の中で握った手と手の温かさのことを箒は思い出した。


箒「…………そうか、昔のように私を剣で打ち負かす日が来るといいな」ニッコリ


一夏「…………行っちゃったか。神出鬼没だな、全く」

一夏「あの人は、――――――人そのものだから。身近な誰かの為に生きている」

一夏「そういう意味では、誰もあの人を責めることはできない」

一夏「ISの導入を決めたのは他でもない人民の意思なのだから…………」

一夏「そして、今回の事件も――――――」

一夏「………………」ザー

一夏「さて、ドクターやみんなに見つからないうちに、海を堪能しておくか…………」

一夏「イイイヤッホオーーーーーー!」

一夏「――――――来い、『白式』!」

一夏「さあ、水浴び水浴び!(あ、縫合の痕ってこうなってるんだ…………)」

一夏「そういや、ISって水中でも使えたっけ? やってみるか!」


ヒュウウウウウウウウン! ザバーン!


一夏「……ああ、圧力に対しては無意味か」

一夏「やっぱり、それ相応の装備がないと水中や宇宙空間は運用不可か…………」

一夏「…………宇宙への道は遠いな、『白式』」

一夏「ふう、着替えも一瞬だから楽だわ~」

箒「…………一夏」

一夏「……箒か。俺を連れ戻しに来たのか?」

一夏「(今年の流行は胸を寄せて上げる水着…………ナイスバディー!)」グッ

箒「…………一夏?(何だ、今の感じは……)」

一夏「あ……(しまった、1ヶ月にも満たない無表情生活の癖で、誤魔化すことを忘れていた……!)」

一夏「(待てよ……別に誤魔化す必要なんてないんじゃないか?)」

一夏「(こういう場所で見せる水着っていうのは“見せる水着”だったはず……)」

一夏「(なら、臆面もなく褒めてしまえ……!)」

一夏「――――――綺麗だな。ISスーツと同じように、白か」ジー

一夏「俺が黒衣の白騎士ならば、箒は白装束の紅武者って感じかな」ニッコリ

箒「…………そ、そんなに見るな!」

一夏「あれ?(それは照れ隠しと受け取っていいのか? ヤバイ、わからん……)」

一夏「やっぱり俺は『プレイボーイ』にはなれないか…………」ハア

箒「な、何!? よくも私の純情を――――――」ゴゴゴゴゴ

一夏「もう『昔のこと』だよ……若気の至りってやつさ……」

一夏「今は、素直に千冬姉のようになりたいと思ってる――――――ISドライバーとしても一流になりたいって」


そう言って、右腕のガントレットを愛おしそうに触れ、眺める一夏の満ち足りた表情に箒は自然と笑みを浮かべていた。

その時、あの清潔に閉じられた空間の中で握った手と手の温かさのことを箒は思い出した。


箒「…………そうか、昔のように私を剣で打ち負かす日が来るといいな」ニッコリ


一夏「もう七月七日は過ぎてしまったけれど、綺麗だよ、――――――天の川」

箒「……あ」ポー

一夏「あの夏の大三角形を形成しているベガが織姫、アルタイルが彦星だ」

箒「それって――――――」

一夏「って、…………前にもこんなやりとりをしたような気がする」

一夏「『昔のこと』は勉強以外のことなんてさっぱり忘れ去っていたと思ったのに……」

箒「……一夏」

一夏「――――――ま、まあいい。いやぁ、いい誕生日だったよ」

一夏「苦しいことや哀しいことを乗り越えて、ハッピーバースデーを迎えられて……」

一夏「宣言通り、今まで通りの明日を迎えられたね」ニッコリ

一夏「あとは、箒の髪が治れば――――――」

箒「――――――っ! 私の髪なんて些細な事だ! それよりも、だ!」

一夏「そりゃないでしょう? 女の子にとって髪は命だって――――――」

箒「私は真面目な話をしている、一夏! ―――――本当に治ったのか? あれほどの傷が?」

一夏「まあ、起死回生が俺の持ち味ですから。それに、未来を賭けた勝負は別にこれが初めてじゃないし」

一夏「ああ……でも、手術で体力は落ちたかな……ま、いいけど」

箒「よくない! 結局、一夏に無理をさせる他なかったんだぞ、あの作戦は!」

箒「そして、一夏が命懸けで次に繋いでくれたと言うのに、私はお前を救えなかったばかりに戦意を喪失して――――いや、IS乗りを本気で辞めようとさえ思っていた。武士たらんとしていたこの身で不甲斐ない限りだ……」

一夏「けど、そうなってないじゃないか」

箒「それは、……仲間が居てくれたからだ。本気で叱りつけてくれるような仲間が」

箒「だからその、…………簡単に許されると困るのだ」

一夏「――――――え? いいの? だったら、是非とも罰を与えないとな…………!」ワクワク

箒「え、一夏……!?」ゾクッ

一夏「ようし、オシオキの内容は――――――」

箒「………………!(く、来るなら来い!)」

一夏「……………………止めた」

箒「え?」

一夏「貸しってことにしておくから、今はいいよ。いずれ払ってもらうから」

箒「あ、ああ……(少し残念に思うのは何故だろう……)」


一夏「そんなことよりも、次からどう振る舞っていこう……」

一夏「『プレイボーイ』を目指して破れ、『イケメン』を全うしようとした俺はもう死んで、生温かい人形だった俺も入学前のゼロの『自分』に戻ってしまった…………」

一夏「――――――いや、桁上りを持つ高次元のゼロの『自分』になったのかな?」

一夏「難しいな…………余計なものが多すぎてさ、型通りにはいかない」

箒「それは人間なら誰しもそういうものではないのか?」

箒「私は、その、一夏のことを信じているから、何だっていいんだぞ?」

一夏「本当にそう思っているの?」ハア

一夏「――――――忘れてない?」

箒「な、何故ズボンを下ろす、馬鹿者!?」カァー

一夏「俺、おむつ履いているような小心者なんだぞ? ついでに手術痕も」オムツソウビ

箒「……そういえば、すっかり忘れていた(ああ、あんな感じに縫合の痕が残るのか……)」

一夏「そう、この数ヶ月、自分でも信じられないぐらい変わり続けたよ」ズボンヲアゲル

一夏「いろいろあったな…………“夢の国”でGを克服したり、箒から真剣を借りて“ブリュンヒルデ”を超える算段をつけたり、『白式』の装備をいろいろ設計したり、介護生活や総合失調症になったり…………」

一夏「一生の集大成をたった3ヶ月で出し切った感じがして、いろいろ疲れた……

一夏「でも、気分は晴れ晴れとしている」


――――――俺は“一生のパートナー”を“ここ”で見つけられたのだから。


箒「い、一夏!? ま、まさか、その“パートナー”は――――――」ドキドキ

一夏「さて、帰ろっ――――――は!?(『ブルー・ティアーズ』が目の前に!?)」

セシリア「一夏さん」ニコニコー

シャル「答えてくれないかなー」ニコニコー

鈴「その“パートナー”のことをさ」ニヤリ

ラウラ「当然それは私のことなのだろう、嫁?」ドヤガオ

箒「ま、待て、お前たち! 流れからいって今のは――――――!」

セシリア「一夏さんは私に一目惚れしてたんです! 聞かせてあげますよ、秘密の告白を!」

鈴「一夏のことを一番わかってたのは私よ! やっぱり、『昔のこと』を共有している私しかいないじゃない!」

シャル「一夏は僕が女の子だとわかっても『唯一無二のパートナー』であることを撤回しなかったよ! それに僕は一夏と互いの背中だって流しあった仲だよ!」

ラウラ「貴様ら、いい加減にしろ! 私は作法に従って純白のドレスを纏って互いの純潔を捧げた! 一夏は私の嫁だ!」

一夏「――――――何をしているんだ、お前たち!? 武器なんか出してさ……?」

一夏「(待て待て待て待て! 何か勘違いしてないか、こいつら!?)」アワワワ

一夏「(俺、『付き合いたい』だなんて一言も言わなかったろう……!?)」ガクガク

一夏「待ってくれ……何を言い争っているんだ、お前たちは…………!?」

一同「へ?」

一夏「『へ』じゃなくてさ!(ややややっぱり、こいつら臆面もなく言えるぐらいに俺に惚れてたのか……)」

一夏「(冗談じゃない! ただでさえ粒揃いなのに、俺には重すぎる…………)」

一夏「俺は『仲間として好きだ』とか『パートナー』だとか言ったかもしれないけど――――――!」


―――――― 一言も『恋人になってくれ』だなんて言っていないだろう!?


一同「――――――!?」


一夏「あ――――――ゴホゴホ(ヤバ、胃の中のものが吹き出しそうになった)」キリキリ

一夏「――――――それに、よく聞け!(気持ち悪い……ヤバイ、クラクラしてきた……)」クラクラ



――――――“一生のパートナー”だなんて、何も同じ人間の異性である必要は無いじゃないか!



一夏「……く、苦しい(息が詰まりそうだ……だ、だが、これで――――――!)」

一同「――――――!?」

箒「…………私じゃないのか…………私じゃ…………」

セシリア「………………」プルプル

鈴「同じ人間の異性である必要は無い、ですって?」

シャル「もしかして、一夏が好きな人って…………」

ラウラ「まさか、私より先に誰かとすでに――――――!?」


――――――あれ? 俺、テキサスホールデムじゃなくてドローポーカーやってたのかな?

――――――裏向きのままにしないといけないのにリバースしちゃった?


ラウラ「嫁えええええ! 私以外の女とすでに誓いを交わしていたと言うのかああああああ!?」

シャル「……一夏、それは犯罪だよ。いくらお姉さんが大好きだからってそれはないよ」

鈴《虚無》「ははは、やっぱり一夏ってホモだったんだ……よし、殺そう!」

セシリア《虚無》「ウフフフ…………」

一夏「え、ええええええええ!?」

一夏「ほ、箒!?(助けてくれええええ!)」

箒「そうか、一夏。――――――辞世の句を詠め、介錯してやろう!」ゴゴゴゴゴ

一夏「ひいえええええええええ! ――――――は、うぷ!?(もう死んでもいいかも……)」バタッ

箒「一夏!」


一夏「あ――――――ゴホゴホ(ヤバ、胃の中のものが吹き出しそうになった)」キリキリ

一夏「――――――それに、よく聞け!(気持ち悪い……ヤバイ、クラクラしてきた……)」クラクラ



――――――“一生のパートナー”だなんて、何も同じ人間の異性である必要は無いじゃないか!



一夏「……く、苦しい(息が詰まりそうだ……だ、だが、これで――――――!)」

一同「――――――!?」

箒「…………私じゃないのか…………私じゃ…………」

セシリア「………………」プルプル

鈴「同じ人間の異性である必要は無い、ですって?」

シャル「もしかして、一夏が好きな人って…………」

ラウラ「まさか、私より先に誰かとすでに――――――!?」


――――――あれ? 俺、テキサスホールデムじゃなくてドローポーカーやってたのかな?

――――――裏向きのままにしないといけないのにリバースしちゃった?


ラウラ「嫁えええええ! 私以外の女とすでに誓いを交わしていたと言うのかああああああ!?」

シャル「……一夏、それは犯罪だよ。いくらお姉さんが大好きだからってそれはないよ」

鈴《虚無》「ははは、やっぱり一夏ってホモだったんだ……よし、殺そう!」

セシリア《虚無》「ウフフフ…………」

一夏「え、ええええええええ!?」

一夏「ほ、箒!?(助けてくれええええ!)」

箒「そうか、一夏。――――――辞世の句を詠め、介錯してやろう!」ゴゴゴゴゴ

一夏「ひいえええええええええ! ――――――は、うぷ!?(もう死んでもいいかも……)」バタッ

箒「一夏!」


――――――モラシタ。リバースした。大敗した。


――――――今夜の敗者は俺だった。


――――――もうゴールしてもいいよね?


箒「起きろ、一夏! このまま死んでチャラになると思ったら大違いだぞ!」ゴゴゴゴゴ

セシリア《虚無》「さあ、一夏さん! 是非とも私特製の健康ジュースをお飲みください!」

鈴《虚無》「今夜は寝かせてあげないわよ!」

シャル「さあて、今まで乙女の純情を弄ばれた分の仕返しをしないとね……」

ラウラ「これは餞別だ。とっておけ」パチーン


――――――ありがとうございますぅ!(恍惚)


一夏「へ? あれ!?」

一同「」ニコニコー


アッーーーーーーーーーーーーーーー!


千冬「何をやっているんだ、あいつらは…………」ハア

千冬「――――――だが、元気で何よりだがな」クスッ



――――――俺ってやっぱりザンネンなやつ……!



最終話 いつか見た星空の下で
Return of the Nature


――――――とあるバー


一夏《無表情》「…………レイズ」

一夏《無表情》「――――――オール・イン!」

一夏《無表情》「…………ドロップ」

一夏《無表情》「――――――オール・イン!」

一夏《無表情》「――――――オール・イン!」

一夏《無表情》「……次のビッグ・ブラインドはあなただ」

遊び人「うぎゃあああああ!」

博徒「そんな、馬鹿な…………」

代打ち「この俺が…………」

悪女「ぼうや、いつかこの借りは返させてもらうよ……」

おっさん「無表情なのに惑わされただと……!?」

常連「ああ、またワンサマーのトーナメント一人勝ちか……」

店主「GOOD!」パチ・パチ

店主「さすがワンサマー。それでこそ我が好敵手……」

店主「快気祝い、そしてランキングトップ10入り おめでとう」

一夏「ありがとう、マスター」

店主「まさか、生前の状態にまで回復するなんて思いもしませんでしたが、新しいポーカーフェイスが役に立っていますね」

一夏「ああ、あれは能面の傾け方だけで相反する感情を表現できるってことを思い出して」

一夏「直面(ヒタメン)っていうのも現代の能楽師にとって重要な芸だけど、」

一夏「能面に込められた幽玄の真髄を俺はずっと見落としてきた…………身近な答えを」

一夏「本当にあの一言が助けになりましたよ。――――――これ、あの時のお礼」

店主「そういうのは勝負師の世界では必要ありません、ワンサマー」

一夏「え、でも、マスターは――――――」

店主「あれは、日本では浸透せず止む無くバーを経営することになったポーカーハウスの支配人としての心遣いです」

店主「勝負師である私からのものではありませんよ」

一夏「だったら…………わかった。大人になったら、いい酒を飲ませてくださいね」

店主「GOOD! しかし、大人の世界を甘く見ないほうがいいですよ」

一夏「大人の世界に片足を突っ込んだ青二才がマスターと実力伯仲で渡り合ったんだから、これ以上何かあるんですか?」

店主「それは“WSOP”に出場できる歳になったら、ね?」

店主「おっと、もうこんな時間ですよ。朝のランニングにしては長すぎたかもしれませんよ」ニヤリ

一夏「ヤバイ! もう9時じゃないか! 3時間以上のランニングだなんて千冬姉もさすがに心配する!」

店主「間もなく開店時間ですよ。裏口から出なさい。快気祝いの品も忘れずに」

一夏「ありがとうございます! それじゃ、また!」バタン

店主「ええ、また」ニヤリ



技師「ここか。なるほど、金の臭いがするがなかなかいい雰囲気だな」カランカラン

医師「ほう、ビリヤードもあるか。昔取った杵柄を今試してみるのも悪くないな」

店主「開店早々……お客さん、初めてですよね?」

技師「ああ、ここのラベルが付いていたアイリッシュウィスキーの味が程よくてな」

医師「私はただの付き添いだ」

店主「…………ラベル。おや、どこかで見た顔だと思ったら、IS学園の関係者じゃありませんか?」

技師「その通りだ」

医師「まあ、私は外部の人間だが、最近はかかりつけでね」

店主「ここは“ブリュンヒルデ”もいらっしゃる憩いの場なのですよ」

店主「今後とも、ご贔屓に…………」ニヤリ

技師「ほう……」

医師「お、確かにそのようだな」




一夏「言い訳の内容を考えておかないと…………」ゼエゼエ

一夏「縫合の痕はなくなったけど、やっぱり手術後の体力がキツイ…………」ハアハア

一夏「そうだ、それで行こう!――――――ん!」

一夏「俺の家の前に人影――――――」ゼエゼエ



一夏「すまないな、シャル。客人を待たせるなんてな」ホカホカ

シャル「いいんだよ、一夏。休業中でもまじめに体力造りに取り組んでいたんだね」

シャル「僕は『唯一無二のパートナー』だからわかっているよ」

一夏「……ああ、そうだね(千冬姉がどこかに出掛けていたのが幸いしたが、サプライズゲストだな、本当に)」

一夏「――――――あれ?」

シャル「ど、どうしたの、一夏?」

一夏「(何で風呂あがりのバスタオルを膝の上に掛けているのかな……?)」

一夏「(ダメだ! 触れないでおこう……あの時の悪夢が蘇る……!)」ゾクッ

一夏「(――――――俺は何もしていないのにぃいいいいいいいい!)」ガクブル

シャル「一夏……?」

一夏「……そうだ、日頃から仲良くしてくださっている御方から快気祝いをいただいたんだった。食べる?」

シャル「え? いいの、僕なんかがもらっても?」

一夏「いいんだよ。こういうのはみんなで楽しく分かち合って、次の活力にするもんだからさ」

一夏「さて、何だろう?(マスターが選んでくれたものだから、せめて食べられるものが…………)」

一夏「あれ、紙切れ……領収書?」

一夏「――――――こいつは凄い!」

シャル「え、どうしたの、何が入ってたの!?」

一夏「ラスベガス名物:バフェ10人分相当のメニューの詰め合わせ!」

一夏「え、しかも受取人が“OneSummer”で、送り届けが今日の正午のこの家!?」

一夏「とんでもない快気祝いだよ、マスター!」

シャル「え、それってどういうものなの? とにかくもの凄く大量の料理が送られてくるってことだけはわかったけど」

一夏「バフェっていうのは、元々はカジノホテルが客寄せのために始めた、とてつもない規模のバイキングなんだよ」

一夏「しかもこれ、一流ホテルのそれじゃないか!」

一夏「未だかつてないほどの、贅沢なひとときになりそうだ!」

一夏「よし、テーブルを用意しておかないと!」

シャル「あ、僕も手伝うよ!(一夏と二人っきりで高級料理を分け合うのか……うん!)」




一夏「ふう、リビングがテーブルで埋まったな」

一夏「食べるところはソファにして、台所への道や廊下への道も開けた」

一夏「よし! これで準備万端だ!」

シャル「楽しみだね、一夏!」ピンポーン

一夏「まだちょっと早いけど誤差の範疇かな?」

一夏「はい、ただいま」ガチャ

セシリア「一夏さん! 美味しいと評判のデザート専門店のお菓子を持ってきましたの!」

一夏「せ、セシリア……!(うげ、何てっこったい! シャルとのひとときが……これではシャルの機嫌がぁ……!)」ゾクッ

シャル「うううう…………」ドヨーン

セシリア「シャルロットさん…………抜け駆けですのね」ジロッ

一夏「(あれ、待てよ? このままバフェを受け取ったらマスターの繋がりが千冬姉にバレちゃうじゃないか!)」

一夏「(何やってんだ、マスター! だがしかし、セシリアという逸材がいれば誤魔化せる!)」

一夏「よかった、セシリア! これから俺たちはバフェを楽しむところだったんだけど、参加するよね?」

セシリア「まあ! バフェというのが何なのかはわかりませんが、喜んで参加させていただきますわ!」

シャル「……一夏」ニコニコー

一夏「ごめん、シャル。実は千冬姉には知られたくないことなんだ……セシリアが居るなら誤魔化せるんだけどね」ヒソヒソ

シャル「そういうことなら、しかたないか」ハア



そして――――――


一夏「見るがいい! この豪華絢爛の一品の数々を――――――!」

シャル「す、凄い! 本当にこれ食べていいの?」

セシリア「山ほどあった梱包材から出てきたのは王室料理にも匹敵するほどの豪華なものでしたわ!」

一夏「さすがにトングが足りなかったな……そこは行儀悪いけれど、それぞれフォークで頼みます」

一夏「でも、見栄え良く数々の料理を配置できたぜ!」

一夏「カジノホテルを一日に利用する人の数に比べたら10人分なんてチャチな数だけど、壮観だな」

一夏「それじゃ、シャルとセシリアは好きに食べてていいよ。俺はこっちのやつを解凍させたり、熱を通したりしておくから」

一夏「デザートなんかはそのままの梱包材に入っているから、取り出すから言ってね」

シャル「スゴイスゴイ」

セシリア「あの一夏さん、できるなら私たちと席についてくださりませんか?」

一夏「悪いけど、なるべく早く消費したいんだ。それにこのカニなんか食べたいし」

セシリア「そ、そうですの……」

シャル「――――――そうだ! セシリア」ゴニョゴニョ

セシリア「わかりましたわ、シャルロットさん!」パシッ

セシリア「一夏さん!」

一夏「うん? 手洗いでもしたくなった?」

シャル「あーん」

一夏「あ、あーん……はむ」モグモグ

セシリア「これでしたら、問題ありませんわ!」

一夏「気持ちは嬉しいんだけど、……狭いです危ないです邪魔です(それに胸が当たってますぅうううう!)」

一夏「台所ではしゃがないで……水蒸気が熱いよ……」モクモク

セシリア「そ、それは失礼しました……料理人の言うことには従うべきなんでしょうか」

シャル「ここは交互に行くことにしよう」

セシリア「そうですわね……」ピンポーン

一夏「今日は、やけに来客が多いな……」



箒「………………ああ」

鈴「何であんたたちまでここに居るのよ…………」

ラウラ「ここが織斑教官と嫁の家か。何やら未開封の箱が多いようだが……」

セシリア「みんな、考えることは同じというわけですわね……」ションボリ

シャル「僕なんかじゃ一夏のように流れを握ることはできないか…………」トホホ

一夏「今、バフェを楽しんでいるんだ。昼飯もまだだろう? たらふく食べていけよ」

一夏「だけど、来るなら来るで先に言ってくれよな。誰か一人ぐらい連絡くれよ」

一夏「今日のバフェの準備でシャルとセシリアには手伝わせてしまったんだからさ」

箒「しかたないだろう。一夏に借りを返すためのアレがさっき届いたんだから」スッ

箒「ほら、これが欲しかったんだろ!」

一夏「――――――!? サンキュー、箒! うん、これだ! これだよ!」

鈴「……それが何なのかは聞かないけど、――――――それとも何? いきなり来られると困るわけ?」

鈴「――――――エロいものでも隠すとか」ニヤリ

一夏「それはない(エロいものなんて勝負師を目指した頃に全部処分したから心配ない。だけど――――――)」

ラウラ「私は突然やってきて驚かせてやろうと思ったのだ」

ラウラ「どうだ、嬉しいだろう?」

一夏「ああ、確かに嬉しいよ。こうやって俺の家に――――――人が集まってくれるは嬉しい限りですよ」

一夏「(めったに見られない私服姿、どれもこれもイイモノじゃないか!)」

一夏「これ全部は俺の快気祝いとしてもらったものだ。みんなで分け合って明日の元気をみなぎらせていってくれ」

一同「おー!」

ラウラ「では、食後はポーカーだ。今度こそ、私の嫁を脱がす!」

一夏「――――――はぅ!?(ら、乱暴にする気だろ!? 真夏の夜の臨海学校の時のようにぃ!?)」ガクガク

シャル「そうだね……ポーカー、楽しみだね」ニコー

箒「ああ、全くだ」

一夏「ええ!?(何この変態淑女たち! 怖い! 早く帰ってくれぇええ!)」ブルブル

鈴「そんなことより、早く食べましょうよ」

セシリア「そうですわ。一夏さんも早くこちらで食べましょう!」

ラウラ「どうしたのだ、嫁? 食べていいんだろう?」

一夏「あ、ああ…………メニューはこっちにあるから、出てないものは勝手に調理してくれ」アセダラダラ

鈴「一夏、食べたいものはどれ? 私が調理しておいてあげるから、今は席についてよね」

一夏「そうさせてもらうよ……(あれ、何だか凄く嬉しくない状況ですよ?)」

一夏「(そりゃ、美少女5人に囲まれて美食を浸れるこのひとときは誰が見ても羨ましいものだろうけれど、)」

一夏「(……何でだろう……凄く緊張する……悪寒がする……吐き気が……)」クラクラ

一夏「(胃の調子が臨海学校以来、すごく悪いんですけど…………)」

ガラッ

千冬「ん? 何だ、賑やかだと思ったら、お前たちか」

千冬「うお!? 何だこの目を見張るような料理の数々は!?」

一同「織斑先生!」


一夏「あ、おかえり、千冬姉(――――――セシリア)」チラッ

セシリア「(――――――承知しましたわ、一夏さん)」

一夏「食事がまだなら、食べて行きなよ。これ、セシリアの奢りなんだぜ」

千冬「ほう。これは凄いものだな…………」

セシリア「…………はは、そうなんですの」ニコー

千冬「………………」

千冬「少しだけいただいていこうか。まだ仕事があるんでな。感謝するぞ、オルコット」

一夏「それじゃ、お茶もどうぞ。熱いのと冷たいのどっちがいい?」

千冬「冷たいものをもらおうか」

一夏「わかったよ。狭いから気をつけて」

一同「………………」ジー

シャル「(……何ですの、この雰囲気?)」

セシリア「(まるで夫婦みたいですわ……)」

ラウラ「(自宅での教官はこういう感じなのか……参考にしよう……)」

千冬「なるほど、これは――――――」モグモグ

千冬「ん? すまんな、私はすぐに出る。遠慮せずに食え」

一同「あ、はい」

千冬「お前たちはゆっくりしていけ。――――――泊まりはダメだがな」

千冬「それから、篠ノ之」

箒「あ、はい」

千冬「たまにはおばさんに顔を見せてやれ。長いこと帰ってないんだろう?」

箒「はい」

一夏「はい、お茶」

千冬「ああ」ゴクゴク

千冬「――――――ではな」

一夏「もうちょっと食べていっても……」

千冬「これで十分だ。それよりもちゃんと味わっておけよ。めったに食べられないものなんだろうから」

一夏「それは千冬姉だって…………わかったよ」

一夏「それじゃ、行ってらっしゃい」

千冬「ああ、行ってくる」

一夏「(ああ、行っちゃった……)」バタン


シャル「ねえ、一夏」

一夏「何だ? 飲み物でも欲しいのか?」

シャル「何だか、織斑先生の奥さんみたいだった……」ムスッ

鈴「あんた、相変わらず千冬さんにべったりねぇ……」

一夏「ち、違うんだ! 弁明しただろう、そのことは…………!?」ガクブル

一夏「(ヤメテー! 俺のライフが保たない…………!)」

セシリア「そうでしたわね。結局、何者が一夏さんの“パートナー”になったかはわからずじまいでしたけど……」

ラウラ「そんなことは後でポーカーで聞き出せばいいだけのことだ」

ラウラ「さあ、バフェを楽しもうではないか」

箒「そうだな、とりあえず今は一夏の快気祝いを楽しもう!」

一同「おー!」

一夏「ああ、やっぱりするのね、ポーカー(逃げたい……ここまでしたくない勝負はかつて経験したことがない……)」

一夏「(それにしても、ラウラはいい子だな…………いや、言い出しっぺはコイツだろ!?)」イラッ

一夏「(だが、勝負師として敗けるわけにはいかないな…………!)」ゴゴゴゴゴ

一夏「バフェを楽しもう!(どうせ勝つのは俺だから、お願いに何にしようかな~)」





――――――同日、午後


一夏《無表情》「どうした、お前たち……」

一夏《無表情》「最初のトーナメントの勢いはどうした……」

ラウラ「く、的確な戦術だ。ダメだ、やつの顔を見て戦闘してはいけない!」

シャル「でも、だからと言って表情に惑わされなくても一夏は強い!」

鈴「そんなのはわかりきっていることよ! 何回いいようにされてきたと思ってるの!」

セシリア「鈴さん、それは大きな声で言えることではありませんわよ……」

箒「だが、5人で束になっても勝てないというのはどういうことだ?」

一夏《無表情》「これでこのトーナメントの勝者は俺となったわけだ」

一夏《無表情》「(さっきのは危なかったな……まあ、幸いトーナメントの1位が最下位を好きにしてもいいっていうルールだから、こちらとしては最下位さえならなければ、それでいいんだよ。だから、落ち着いてプレイできる)」

一夏《無表情》「(勝つ気はないが、敗ける気はさらさらないからな……)」

一夏《無表情》「(そのことに気づいていないことがみんなの一番の敗因かな?)」

一夏《無表情》「(それにこいつらイカサマしているのがバレバレだし、俺を最下位にする目的で団結はしてるけど、肝腎の命令権がもらえる1位を得るために互いに出し抜こうとしているから、足並みが揃わないんだよ)」

一夏《無表情》「(まさに、それぞれが俺の貞操を狙って虎視眈々としている今の関係にそっくりだな。自分のことしか見えていないというか…………そんなに“人生のパートナー”になりたいのか?)」

一夏《無表情》「(…………わからない。――――恋人になること、――――夫婦になること、それが男と女の関係とっての一番――――つまり、究極なのか? ――――――俺は違うと思うんだけどな)」

一夏《延命冠者》「次で5回目だな。――――――最後のトーナメント」ニコニコ

一夏《延命冠者》「それじゃ、始めようか」ニコニコ

一同「(今度こそ、勝つ!)」メラメラ

一夏《延命冠者》「(…………不安だな。このまま長引かせておくと、恋敵がただの怨敵になりかねない。ラウラあたりが暴発しそうだから、近々精算するしかないな。そうしなければ――――)」ニコニコ

一夏《般若》「(この“般若”の相のように嫉妬に身を委ねて心を蝕まれることになるぞ!)」ニター

一同「――――――!?」ビクッ

一夏《延命冠者》「さ、――――――オール・イン!」ニコニコ

一同「――――――!!??(ハンドを見ずに開幕いきなりのオール・イン!?)」

ラウラ「ど、どういうことだ、嫁!? 始まったばかりだぞ!?」

シャル「そ、そうだよ。いきなりオール・インはやり過ぎだよ!」

鈴「しかも、ハンドすら見てないじゃない! フロップだってバラバラだし」

セシリア「し、しかし、これはチャンスですわよ……」ブルブル

箒「だ、誰もコールしないのか……!?」

一夏《延命冠者》「どうしたの、みんな? アクションを早く」ニコニコ

一同「」カオヲミアワセル


一夏《延命冠者》「(さて、ここで少し種明かしをしよう――――その意図で仕掛けたんだが、誰も気づかないか)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(ハンドの内容なんて見るまでもない。これまでのデッキの流れは目で追えているし、微かなカードの傷跡だけでそれが何のカードかわかる)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(――――――勝負師ならこれぐらいできて当然だね)」ニコニコ

一夏《延命冠者》「(そして、俺が用意したデッキで何となく戦っている以上は永久に俺の掌の上で踊るってわけさ)」ニコニコ


――――――勝負師の勝負は、場に付く前から始まっている。


一夏《延命冠者》「(更に言えば、律儀にデッキの一番上からカードを順番に配っているから敗けるんだよ……)」

一夏《延命冠者》「それじゃ、オープン!」ニコニコ

一同「」ゴクリ

一夏《延命冠者》「ふふん」ニコニコ

一同「」ビクッ

一夏《延命冠者》「(せめて、こんなふうに枠組みの外側にあるものにも目を向けられるようになるといいな……)」ニコニコ

一同「」アゼーン


――――――フォー・オブ・ア・カインド!


――――――俺の勝ちだな。


――――――勝者のお願いは、みんなで集合写真(私服Ver.)!



――――――とあるバー


山田「――――――『お姉さんとして』は気になりません? 弟さんがガールフレンドたちと居るのは」

千冬「それなんだがな……」

千冬「――――――“一生のパートナー”を“ここ”で見つけた」

千冬「あいつがそう言ったんだよ、臨海学校で」

山田「え、ええ!?」

千冬「それが誰なのかを探りだすために根掘り葉掘り例の女子5人に私も追い掛け回された……」

千冬「だが、少なくとも弟にとっては、あいつらも私たちも等しく大切な存在であることは間違いないのにな……」ハア

山田「姉弟揃ってそっくりですね」クスッ

千冬「何? どこがだ?」

山田「『優しさに境界線がない』ところが」

山田「でも、本当によかったです。本当に……」

千冬「そうだな」

店主「ふふふ、常連客の悩みの種が解決して、聞いているこちらも嬉しいですよ、“ブリュンヒルデ”」フキフキ

医師「まったくだな。主治医を務めている私としても、本当にな」

技師「しかし、さすがに長居し過ぎたか……ここらでお暇させてもらおうか」

医師「――――――あ、そうだ。実は一夏くんに関する重要案件があった。ちょうどいいから見て欲しい」

医師「今度の彼のレポートなのだが…………」スッ

千冬「む? これは織斑が描いたのか?(こっちのワンピースはいい。だが、『白騎士』に酷似したこれは……)」

山田「凄いデッサン力ですね。画家としての才能もありますよ、これ」

千冬「で、これが今回のレポートとどう関係があるのだ?」

医師「彼は数々の死線を越えてから決まって夢を見ていたそうです。夢の内容はレポートを」

千冬「…………」ジー

千冬「――――――何だと!?」

医師「その夢の中で会い続けていたのが、一定の顔を持たない理想の自分とその二人の女性だという」

技師「実は我々二人はあの日に織斑一夏の本音に触れてしまってね」

千冬「ま、まさか――――――!?」

山田「え、ええ!? もしかして――――いえ確かに私は生徒の前で“そういうふうに”扱うように言いましたけど……!」アセアセ

医師「おそらく、一夏くんにとっての“一生のパートナー”というのは――――――」

技師「――――――ISには意識のようなものがある、か」


千冬「そうなのか……これは喜ぶべきことなのだろうか……」プルプル

技師「いろいろ原因は考えられるが、最大の原因であるシスターコンプレックスもここまで来ると…………」

医師「ああ、ますます手放せなくなったな、彼…………」

店主「おや、これは祝ってあげるべきでしょうか、“ブリュンヒルデ”?」ニヤリ

千冬「」ゴクゴク

千冬「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」ドン

山田「――――――嬉しそうですね、織斑先生」ニコニコー

千冬「……真耶、お前は男を見る目がないな」

山田「そうですね」ニコニコー

千冬「くぅ……」

一同「はははははは!」








一夏「そろそろ流星群が見える頃だけど、今日は曇り空だ。星がほとんど見えない」ガララ

一夏「さあて、ちゃんと箒は探してこられたかな?」スッ

一夏「うん、これだ! ――――――このワンピースと帽子!」

一夏「うん! サイズも見立て通り、ぴったりだ!」

一夏「最近のマネキンは凄いや。着せるのも楽だし、こうやってしっかりと手も繋げる」

一夏「よし、完成だ! そして、行こう! あの星空の下へ!」


一夏【黒般若】「――――――来い、『白式』!」ヒュウウウウウウウウン



――――――あの雲を突き抜けて!










子供「みんな、どこぉ?」ドタッ

子供「いたいよぉ」グスン

子供「あ、――――――ながれぼし」


――――――これはとあるザンネンな少年の物語。


仮面の下の涙を拭って生き延びた先には何があるのか…………

←To Be Continued



一夏「そろそろ流星群が見える頃だけど、今日は曇り空だ。星がほとんど見えない」ガララ

一夏「さあて、ちゃんと箒は探してこられたかな?」スッ

一夏「うん、これだ! ――――――このワンピースと帽子!」

一夏「うん! サイズも見立て通り、ぴったりだ!」

一夏「最近のマネキンは凄いや。着せるのも楽だし、こうやってしっかりと手も繋げる」

一夏「よし、完成だ! そして、行こう! あの星空の下へ!」


一夏【黒般若】「――――――来い、『白式』!」ヒュウウウウウウウウン



――――――あの雲を突き抜けて!










子供「みんな、どこぉ?」ドタッ

子供「いたいよぉ」グスン

子供「あ、――――――ながれぼし」


――――――これはとあるザンネンな少年の物語。


仮面の下の涙を拭って生き延びた先には何があるのか…………

←To Be Continued


最後の最後で、ミスしてしまった。

これにて、ザンネンな一夏の運命の物語はひとまずおしまい。

お付き合いしていただきありがとうございました。

すでに、次回作はアンコールの製作に入っており、すぐにでも投稿できるぐらいなんですが、

自宅で投稿できなくなったので、こんな感じに夕食を惜しんで必死にネットカフェで投稿することになるでしょう。

なので、毎日やることやりながら投稿するということはなく、前半と後半の2回にわけて一気に投稿する形となると思います。


ちなみに、次回作の全体的な分量は前作と近作の中間ぐらい。

弱いやつが下克上するための努力と根拠を提示しておく必要があるので、どうしても今作は長丁場となってしまいました。

こういう意味でも、強いって説得力があるってことなんだね。

それでは、また余裕があるときに、またどうぞ!


次の彼は、初期ISランクAだけど…………


最後に、イメージソング


一夏の心情のイメージ
STRAIGHT JET ←前作とは全く趣が異なってくる
http://www.youtube.com/watch?v=ntaMQeUf_us


ヒロインたち(という周りの人たち全員)の心情のイメージ
あなたの風が吹くから
http://www.youtube.com/watch?v=YOqq1IAo2jM

乙です

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月30日 (土) 22:15:26   ID: KFAl0J0S

中二病なのかな?

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom