安価でSS書き (3)
魔王ルル=オーラオペは勇敢なる戦士に打ち取られた!
これを派遣した南部帝政国家オーエス=メシュタル国は大々的に魔王の市を標榜、一躍世界の表舞台へと躍り出たが、それから六十年がたったある日、世界が長きにわたる太平を謳歌する輝ける時代、ある一人の占い師がこう予言した。
「ルル=オーラオペは二度復活するだろう。次の一年で彼はまだ生まれえぬ嬰児にとりつき、あたかも純粋な子供を演じて世界を支配してゆくであろう。そう、六百年前のオーメンタリア大侵攻のように……」
その予言は妄言と聞き入れられなかった。彼は百年も前誰よりも早く、正確に魔王の襲来を予言した、伝説的な大預言者「エルキュール=エペ」の直系子孫なのである。
過去にそうして魔王の侵略をみすみす見逃した前科がある以上、誰もが穏やかな眠りをえられなかった。
多くの人がもっとも忌々しい記憶を夢見るのだった。
そして、暗雲立ち込める神都ローア、幅を利かせる覇権国家オーエス=メシュタルと距離を置くこの国は、前大戦において中立を選択しており、荒れにあれる大海のような戦乱を超越した目で傍観していたが、その代わりに団結と断絶を深めた他国家間との不和をかっており、これは誰の味方でもなく、敵でもないという微妙な立ち位置で、領土の拡張を求める新興国家と小競り合いがおきていたが、近年まだみぬ戦乱の予感に高まり出した軍需に乗っかって、暴力を頑として認めない宗教国家に相応しくない成長を遂げている。
そんな国、ある幸福な鍛冶業者の一家に、その邪悪なる魂は潜り込んだ!
セネス嬢は神性ローア国一の大家の娘であり、これは太古に魔術を取り敷いた神君ネメスの関係を証明する数少ない実証で、真正の貴種だが、それ故にローア国元老議員からの一途な警戒をかっており、しかし全く反旗を翻す気のなかったルー本家筋は、鍛冶業により成り上がった成金ふぜいとをセネス嬢に冠婚を結ばせ、かくして地に落ちた神性を前に、一家はそこそこの風当たりに晒されている。
父方はワースといい、始めこそ価値観の差異に悩まされていた両者だが、いずれその不満と憎しみは粘着で味わい深い愛に変遷し、十年後、彼らの間には一人の子が設けられた。ミナストリフカである。
魔王ルル=オーラオペは深き混沌の底、おびただしい死者の妄念で穢れた霊的な空間に、一人佇んでいる。彼は七百年前、このジャッター大陸を震撼させた大王である。
彼は長き眠りを経てふと顔を上げる。遥か上空に一筋の光が差したのである。
これまで、この空間は完全な闇に閉ざされていた。
それは永遠に続いてもおかしくはなかった。
しかし魔王がその長い拷問に耐え抜いたのは、一重に彼が元に戻れる算段をつけていたからである。
彼は光を手繰り寄せ、両の手で握り掴んだ。
一縷の糸を元でに、ゆっくりと、しかし確実に上へと登っていく。
彼の視界を光が覆いつくし、何も見えなくなったその時、彼は己を縛める怨念から解放されたことを確信した。
全身が軽くなる。
彼が気付いたとき、そこは生きた暗闇の中だった。
体がもがくことしかできない。
全身を捩じっても、もとに戻される。
巨人に囚われたようだ。
長い思索を経て、彼は自身の転生魔術が完遂されたことを確信した。
……生き返ったのだ! 私は!
いまだか弱い赤子に過ぎない彼は、己を襲った異変の正体に気付くこともなかった。
>>2 ミナストリフカ嬢の生育環境、もしくはトラブル
裕福で恵まれてはいるが、何故か人生何が起こるかわからないとサバイバルな環境
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