勇者「この城の魔物は倒し尽くしたかな」
僧侶「事前に確認した情報では、倒し尽くしたかと」
戦士「……と、いうことは」
魔法使い「この扉の向こうには最後の戦いが待っているのね」
勇者「魔王、か……」
戦士「長かったな」
魔法使い「旅立つ頃に荒れ果てていた王国は、今頃どうなっているのかしら」
僧侶「私たちの国土を奪い、王国を疲弊させた魔物たちは許せません!」
勇者「ああ、今こそこの戦いの決着をつける時だ」
勇者「みんな用意はいいか? 行こう!!」ギイッ
??「ゆっくり霊夢です」
???「ゆっくり魔理沙だぜ」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1645969782
勇者「……は?」
魔法使い「何なの、このフワフワ浮いてる饅頭みたいな存在は?」
僧侶「こんな存在、事前に教会から入手した情報にありませんでした……」
戦士「霊とか魔とか言ってるから敵なんじゃねえのか?」
戦士「しかしあれだな、なんだ『魔理沙だぜ』のふざけたアクセントは。馬鹿にしてるのか?」
僧侶「キタカントーの民を悪し様に言うような発言は控えてください!」
戦士「そんな具体的に言ってねえよ! 国外から来た客に棒読みで応対するってどうなんだと思っただけだ」
魔法使い「何言ってるの、私たちは相手に問答無用で刃を突き付けてるのよ。客じゃないのだから問題ないわ」
戦士「おおそうか。じゃ、続けてくれや」
僧侶「魔法使いさん、あなたどっちサイドなんですか? 戦士さんも簡単に納得しないでください!」
勇者「いや僧侶も、問題はそこじゃなくてさ……」
魔理沙「ふぅ~、みかんおいしいぜ」
霊夢「相変わらず昼間から怠惰な生活を送ってるのね」
魔理沙「おっと、お茶お茶」ズズズ
霊夢「ちょっと魔理沙、お客さんが来てるのよ」
魔理沙「そんなこと言っても、冬はこたつに入ってみかんを食べながらあったかいお茶を飲むのが至福だろ」
魔理沙「おっと、今日の魔国ニュースは……」ポチポチ
魔理沙「は? 魔王城壊滅的被害? 何やってんだよ近衛兵たちは」ガンガン
霊夢「うるさいわよ!」
魔理沙「うるさいのは霊夢のほうだぜ。こたつに入ってみかんやお茶を嗜みながら野次を飛ばすのは冬の風物詩だろ」
霊夢「変な要素を追加してある国の文化に悪印象植え付けるのやめて!」
戦士「なに勝手に変な前説始めてんだ!」
勇者「戦士が『続けてくれや』とか言ったからだろ!」
戦士「いやだって、いきなり小芝居を始める魔物とか見たことねえし」
魔法使い「ちょっと、相手が何者かわからないんだから、内輪で言い合っていないで慎重に対処すべきよ」
僧侶「そうですよ。聞く力が大切ってどこかの国の宰相さんが言ってましたよ」
戦士「そいつは聞くだけで何も決断しねえ!」
勇者「何の話だよ!? 目の前の敵に集中しろよ!」
魔法使い「手を出すのは相手がその姿勢を見せてからでも遅くはないわ。まずは状況を把握するのよ」
戦士「それじゃ相手のペースに乗せられちまうだろうが」
勇者「相手の出方を見ない方が、相手の術中に嵌る危険があるんだよ」
僧侶「そうですよ。ここは一歩引いて話を聞きましょう」
魔理沙「それにしても、みかんとかお茶って、この魔国では不思議な存在だな」
霊夢「ここには食べ物も飲み物も普通に存在するわよ」
魔理沙「いや、ここではみんな自分たちの種族が食べる物や飲む物は自分たちの種族で調達するのが常識だろ」
霊夢「生活スタイルが違いすぎるから種族単位で自給自足するしかないのよ」
魔理沙「でも、このお茶とみかんだけは魔国のどこでも手に入るんだぜ?」
霊夢「ああ、そういうことね」
霊夢「確かにお茶とみかんは、元から他人に食べてもらうために作られているのよ」
魔理沙「どういうことなんだぜ?」
霊夢「そうね、じゃあ今日はみかんとお茶について話そうかしら」
霊夢「それじゃあ」
霊夢・魔理沙「「ゆっくりしていってね~」」
勇者「いや、玉座を目前にしてゆっくりはしないぞ!」
魔理沙「他人に食べてもらうために作るって、その人たちは自分の食べ物や飲み物をどうしてるんだ?」
霊夢「みかんやお茶を売った対価として、各種族から必要なものを調達してるのよ」
魔理沙「はえ~、なんだか面倒な生き方だな」
霊夢「みかんやお茶はどの種族にとっても必需品ではないからこそなせる業なのよね」
霊夢「必須ではないけどあれば欲しいみたいな、広く浅く受け入れられるものでないと、この手法は成り立たないわ」
魔理沙「なんでそんな面倒な手法にこだわるんだ?」
霊夢「みかんやお茶を育てている人たちにとって、必須な食べ物や飲み物を魔国で手に入れるのは困難を伴うからよ」
魔理沙「そんな種族がなんでここで生きていこうと思ったんだよ」
霊夢「彼らはそもそも、この魔国で生きていこうなんて思っていなかったのよ」
魔理沙「どういうことなんだぜ?」
霊夢「魔理沙、他者のために物を作ったり育てたりしあって生きている存在を知らない?」
魔理沙「いや……? 人間の王国とかならそうやって生きているんだろうけどな」
霊夢「その通りよ。みかんやお茶を育てているのは人間族なのよ」
魔理沙「人間族!? なんだ、敵からの密輸入品なのか、これ?」
霊夢「落ち着いて魔理沙。この魔国内での話よ」
魔理沙「じゃあ、この魔国内に人間族のスパイがいるっていうのか?」
霊夢「ええ、魔国内に人間族がいるのよ」
霊夢「でも、スパイではないわ。魔王様の許可のもとで、みかんやお茶を売って生活しているわ」
霊夢「魔理沙は、みかんとお茶が魔国のどのあたりで作られてるか知ってるかしら?」
魔理沙「東の方の、人間の王国との境界に近いシゾー地区だろ?」
魔理沙「あの辺りは私たちが生きていくのに必要な魔素が少ないから、あまり行きたくないんだぜ」
霊夢「その通りよ魔理沙」
霊夢「そしてあの辺りは、100年ほど前までは人間の王国の土地だったのよ」
魔理沙「えっ、人間の王国の土地!? じゃあそこに住んでいたのは……」
霊夢「ええ、察しがいいわね。人間の土地に人間が住んでいた。単純な話よ」
魔理沙「じゃあ、なんで魔国になっているんだ?」
魔理沙「しかも、そこに暮らす人間族が人間の王国に行かずに留まる意味もないだろ」
霊夢「魔理沙、今、魔国と人間の王国の関係はどうなっているかしら?」
魔理沙「そりゃ戦争だろ。さっきも戦争でここが壊滅的な被害を受けたというニュースを読んだぞ」
霊夢「ええ、100年以上続くこの戦争がすべての始まりだったのよ」
霊夢「今から百数十年前、魔国は増え続ける魔族たちが自給自足を行うには土地が足りなくなっていた」
霊夢「一方、人間たちも王国の誕生により発展が進み、慢性的な物資不足に悩んでいた」
霊夢「足りないものを手っ取り早く手に入れようとするとき、戦争ほど魅力的な手段はない」
魔理沙「待ってくれ。ただの種族間抗争じゃないんだぞ」
魔理沙「土地が足りないからって人間の土地を獲得しても意味がないだろ」
霊夢「確かにその通りよ」
霊夢「人間の土地には私たちが生きていくのに必要な魔素が足りない。一方、この魔国に溢れる魔素は人間にとって毒になる」
霊夢「単純に土地を奪い合ってどうにかなるという話ではないわ」
魔理沙「じゃあ何のための戦争だ?」
霊夢「互いに相手の国を自分たちに忠実な国にしようとしたのよ」
魔理沙「ちょっと言っている意味が分からないんだぜ」
霊夢「魔王様は、人間の国王を自分の意のままになる者に替え、王国の中にある魔族にとって意味のあるものをすべて魔国に移送しようとしたのよ」
霊夢「人間の国王もまた、魔王様を傀儡にして、魔国の中にある人間にとって意味のあるものをすべて王国に移送しようとした」
魔理沙「そんな壮大な戦争が起きるものなのか?」
霊夢「今、目の前にいる人たちを見て。この人たちは何をしようとしているかしら?」
霊夢「魔族を根絶やしにするわけでもなく、土地を奪うわけでもなく、ただ魔王様の命を奪うためにこの城に乗り込んできたのよ。これこそがこの戦争を象徴しているわ」
魔理沙「確かに言われてみればそうだな」
魔理沙「でも、それと魔国に人間族がいる話とどうつながるんだ?」
霊夢「魔族も人間族も、はじめから戦争を効率的に進めたわけではないのよ」
霊夢「自分たちに有利な交易が無理だと分かった時、どちらも最初は大量の軍勢を引き連れて相手の領地に踏み入った」
霊夢「国境付近は当然すさまじい戦場となったわ」
霊夢「そして緒戦は、戦術が洗練されていない国王軍に対して、種族個々の技能や能力で勝る魔王軍が圧倒したわ」
霊夢「結果として約100年前、人間の王国では辺境地域であったシゾー地区を魔国が獲得することとなった」
魔理沙「結局土地を奪ってるじゃないか」
霊夢「まあそうなんだけどね……。結局魔国はシゾー地区の扱いに頭を悩ませることになるわ」
霊夢「魔素の少ないシゾー地区は魔族にとって生活が楽ではないし、みかんやお茶を主食にしている魔族なんかいないし……」
霊夢「しかも完全に自給自足な魔国は人間族が暮らしていけるような社会でもない」
霊夢「魔王様は裏ルートでシゾー地区の人間族を王国側に移住させられないか打診したわ」
魔理沙「じゃあなんで今、シゾー地区に人間族がいるんだ?」
霊夢「王国側が打診に応じなかったのよ」
霊夢「それに、シゾー地区の人間族はずっとみかんやお茶を育てて暮らしてきたの。みかんやお茶を育てられない土地に行っても暮らしていけない。彼らもあの地で王国が救出してくれるのを待つしかなかった」
魔理沙「なんだか人間族が可哀そうに思えてきたな」
霊夢「その後、人間の王国ではさらに人口が増え、物資不足が深刻化していたわ」
魔理沙「みかんやお茶も失っているしな」
霊夢「人間族にとっても、みかんやお茶は生活必需品ではないと思うけど」
霊夢「国王軍は、弱点だった戦術を整え、より国王中心とした軍制を敷き『王国軍』として、再度魔国に侵攻したわ」
魔理沙「ついにシゾー地区の人間族が救われる時が来たんだな」
霊夢「王国はシゾー地区の人間族を移送する案を踏みにじったのよ」
霊夢「王国軍にとって、既に魔国になっていた土地も、そこの民も、もはや仲間ではなかったのよ」
霊夢「でも、王国軍がやってくるという話は、シゾー地区の人間族にとっては朗報だった」
魔理沙「なんか嫌な予感がするんだぜ」
霊夢「『ようやく他の種族に遠慮せず堂々と暮らせるようになる。ようやくみかんとお茶を売って生活の糧を手に入れられる』彼らにとって王国軍は救世主に映ったわ」
霊夢「しかし、諸手を挙げて歓迎の意を表す彼らを、王国軍は敵意むき出しで掃討し、シゾー地区を制圧したわ」
魔理沙「いやぁーー逃げてーーーーー(棒)」
霊夢「結局、同族を根絶やしにしようするというあまりに無慈悲な王国軍の行いは魔王様の逆鱗に触れ、侵攻してきた王国軍は完膚なきまでに叩きのめされた」
霊夢「そして、もはや人間の王国から敵とみなされてしまったシゾー地区の人間族は、魔国が正式に保護するしかなくなったのよ」
霊夢「そうはいっても人間族にとって魔素の多い魔国内を歩き回ることは危険よ」
霊夢「突出した身体能力も魔法も持たない彼らは、他の魔族に襲われたら抵抗する術もない」
霊夢「そこで、魔王様は彼らに対してだけ、人間の王国時代の生活様式を認めたわ」
魔理沙「人間の王国時代の生活様式ってなんだ?」
霊夢「みかんやお茶を商品作物として売り、その対価として彼らが暮らすための食糧や物資を各種族から調達できるようにしたの」
霊夢「しかも、彼ら自身が魔国内で売り歩くことなく、魔王城が一括で買い上げて各種族に分配する仕組みを作った」
魔理沙「うおーー魔王様かっけーーーーー(棒)」
霊夢「魔王様を小馬鹿にしているようなアクセントやめてくれる?」
霊夢「まとめるわ。魔国のみかんやお茶は魔国内にいる人間族が商品作物として育てている」
霊夢「彼らは魔国と王国の戦争の中で、王国に打ち捨てられたところを魔国が保護した」
霊夢「その後、魔国と王国の戦争は互いの王の首のみを狙う戦いに変わったため、彼らの土地は今でも魔国の領地内のままである」
魔理沙「おいおい、もうお茶もみかんも涙なしに口にできないぞ」
魔理沙「もう味方の戦況をぬくぬく罵倒することもできないぞ」
霊夢「それはみかんとか関係なくできないのよ! 目の前の4人組を見なさいよ!」
魔理沙「ああもうさっさと終わらせろよ、この戦争。人間の王国が悪いのなら人間の王国を滅ぼせばいいだろ」
霊夢「戦争はそんな単純なものではないわ」
霊夢「正義と善が争って正義と善のいずれかがこの世から消え去るのが戦争。あるいはゴミとクズが争ってゴミとクズのどちらかが天下をとるのが戦争。勝ち負けで決めてはいけないことに勝ち負けを持ち込むのが戦争なのよ」
魔理沙「じゃあどうすればいいんだよ」
霊夢「私たちにできることは、このみかんやお茶を大切に味わうことね」
霊夢「それではご視聴」
霊夢・魔理沙「「ありがとうございました」」
勇者「……消えた」
僧侶「ということは勇者さん、あの扉の奥には……」
戦士「ああ、魔王がいると思うが……行くのか?」
勇者「……いや」
魔法使い「私たちは、同じ人間が作ったというお茶もみかんも知らない」
勇者「確かに、魔国に入った瞬間、自分たちに似ている種族がいるとは思ったんだ」
魔法使い「でも、私たちは何も確認しないで……」
僧侶「てっきり魔物だとばかり思っていました」
勇者「魔物とか人間とかじゃない。あの希望を失った目や、抵抗も加勢もしない様子を見て、素通りなんてするべきじゃなかったんだ」
戦士「シゾー地区とやらに戻るか?」
勇者「いや、王宮に戻ろうと思う」
勇者「この戦いには、俺たちが知らないことが多いようだ。まず王宮側の話を聞くのが先決だろう」
戦士「しかし、それでは魔王軍の反撃にあわねえか?」
勇者「なに、魔王軍の戦闘部隊は大半を戦闘不能にしたから時間は十分稼げるはずだ」
戦士「そうと決まれば早い方がいいな」
勇者「ああ、正義も善もゴミもクズも一緒暮らしていける世界を見るためにな」
僧侶「それではご精読ありがとうございました」
魔法使い「チャンネル登録と高評価もよろしく頼むぜ」
勇者・戦士「「!!!???」」
【了】
乙
このSSまとめへのコメント
今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl
今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl
今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl
今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl