長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」(再・改)1(ネギま!×とある禁書) (114)

ネギま!サーガ終幕予定?記念リバイバル上映です。

元スレ
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368805523/)
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」2(ネギま!×とある禁書)
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」2(ネギま!×とある禁書) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384882889/)

その他
見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!)
見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491067306/)

詰まり、昔私が投下した作品なのですが、本音の所を言いますと、
その時ペース配分を間違えて
最後の最後にアホほど解説入れ込んで致命的にグダつかせると言う大失敗をやらかしまして、
この際と言いますかこの期に乗じてと言いますか、すっきり投下し直したいと。
更にそこに便乗して、基本はそのまんま部分的な修正改訂加筆訂正もしれっとやってしまいましょうと。

それで支度をして見たら想像以上の物量とこちらの個人的事情で、
まあ、タイミング的には名目の割には中途半端なものになりそうな最後まで締まらない話ですが。
二週間前カウントダウンにこじつけて、ぼちぼち投下を始めます。

思えば、元スレの連載中に「UQ HOLDER!」の連載が始まって、
おおー、ネギま!の続きかよ、なんて事もありました。

そんなこんなで、基本、既に出来てる作品のドカスカ投下と言う感じになります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1643129332


改めまして作品の前書き

「魔法先生ネギま!」と映画「エンデュミオンの奇蹟」(とある魔術の禁書目録)
のクロスオーバー作品です。

ネギま!の終盤からのサザエさん時空が映画の時期にリンクしています。
ネギま!側がメインの進行になります。
ネギま!一通りと禁書の映画(と前提になる禁書)観てないと厳しいと思います。

正直言って、自分の禁書の知識、地雷あるかも(汗)、
ご都合独自解釈もありますが、爆炎上げて吹っ飛んでる様でしたら、お手柔らかに

原作映画よりも日数が多いのでは、と感じられたならばそれは気のせい、
ではないです只の御都合です。

それでは本作の投下、スタートです。


 ×     ×

一見すると、ちょっと変わった姉弟、と言った所だろうか。
姉の方は、日本人の目線で言えば白人ハーフの日本人を普通に連想させる
流れる様なロングの金髪も美しいすらりとした美少女。

弟の方は、その意味ではこの辺では珍しくないだろう赤毛の白人少年。
年齢は精々が十代前半かそれよりも下だが、
きちんとスーツを着こなしているのが変わっていると言えば変わっている。

それでは姉の方はと言えば、
見る人が見れば結構な金額になる装いをセンス良く着こなしている。
丁度お茶の時刻、ロンドン市内のオープンカフェで落ち合ったそんな二人は、
実際の所は姉弟と言う訳ではない。

「いかがでしたか、ネギ先生?」

金髪の美少女が尋ねた。

「有意義なお話しが出来ました」

ネギ先生と呼ばれた男の子がそう言ってにこっと微笑む。
金髪の美少女雪広あやかならずとも天使の微笑みと言う表現に躊躇は要らない。
回りくどい表現をしたが種も仕掛けも無い、正真正銘ネギ・スプリングフィールド先生である。
スコーンでミルクティーを楽しみながら、話を続ける。

「夕食の席で改めてお話ししたいと。
先方への取り次ぎに就いても色よい返事を頂きました」

「まあっ」

あやかが目を輝かせた。

「でも、よろしかったのですか?」

あやかが話を続けた。


「色々と事情があると伺いましたが。
やはり、わたくしのカードを使うのが確実だったのでは…」

「いえ、カードを使えば発覚してそれに対抗される、
最悪、それだけで宣戦布告とみなされてしまう。そう思った方がいい相手です。
それに、この先、どれだけ困難でも誠意をもって向き合わなければならない相手ですから」

ぐっ、と前を見るその表情を、あやかは優しく、そして惚れ惚れと眺めていた。

「それでいいんちょさん」

「はい、ネギ先生」

「お願いがあるんですけど」

「なんなりと」

「はい。それでは、僕も勉強はしたんですが、
改めて少し、日本の古文を教えていただけないでしょうか?」

「え?あの、ネギ先生?」

「はい」

「あの、確か、イギリス紳士であるネギ先生が
こちらの方と面談なされたのですよね?」

「ええ、そうなんですが」

 ×     ×

「メイゴ、アリサ、ですか?」

「知らんな」

長谷川千雨にとって、想定された通りの反応が返って来た。
場所は麻帆良大学工学部、葉加瀬聡美の研究室。
返答したのは桜咲刹那に犬上小太郎。
葉加瀬聡美は千雨、刹那と同じ女子校麻帆良学園中等部三年A組の生徒であるが、
大学にも研究室を許された天才科学者の一面も持ち合わせている。


「歌手のARISAの本名、って言っても余計分からなくなりそうだな」

そう言いながら、千雨が自分のノーパソを操作してアリサのサイトを映し出す。
そこに映し出されたのは、自身のキーボード演奏と共に歌うアリサの路上ライブの映像だ。
歳は千雨の一つ二つ上か、容姿は可愛いと言っていいだろう。

「…いいですね…」

刹那が言った。

「こういう歌は余り聴かないのですが、何と言いますか、いいです」
「あー、俺もそうや。そういうテレビとか見ぃへんけどなぁ。いいなこれ」

「ああ、歌手って言ってもマイナーだからな。今ん所路上やネットがほとんどだ。
実際いい歌だよ。何て言うか心が洗われると言うか、
例えば、アクセスランキングなんて詰まらないものに囚われて、
アリサのサイトにウィルス送り込んでやろうとか掲示板荒らしてやろうとか、
そんな邪な心を抱いたとしてもこれを聞いたらすっきり洗い流されるってぐらいいい歌だ」

「確かに、何かがありますね」

刹那が続ける。

「魔力的なものではありませんが、質のいい御詠歌を聞いた後の様でもある、
歌そのものの力なのでしょうか」

「そうですね、確かに脳科学的な音波、周波数のパターンの見地からも、
この歌に関するある程度の見解は出せるのですが、
やはり、そうした科学の領域を留保した感覚的なものがあるのではと」

刹那と聡美がそれぞれの見解を述べた。

「で、ひょんな事からこのアリサと知り合いになったんだ」

「千雨姉ちゃんがか?」

「ああ」

少々退屈の虫がうずき始めた犬耳ワンパク小僧犬上小太郎の問いに千雨が応じる。
千雨が「ちう」の名前で運営しているウェブサイトでARISAを紹介した所、
「ちう」の愛読者だったと言うアリサ本人からのアクセスがあり、
非公開のやり取りをしている間柄だった。


「未来のステージ衣装の事とか色々話している中で、
アリサの部屋撮り写真を何度かもらったんだが」

そう言って、千雨はプリントアウトした写真を何枚か取り出して刹那、小太郎に渡す。
当初は何と言う事も無く目を通していた二人が、眉をぴりりと動かし始めた。

「いるな」

「ええ、いますね」

写真に目を通す二人の呟きを聞きながら、聡美が室内の大型モニターを操作する。
そこに映し出されたのは千雨が受け取ったアリサの部屋の画像だったが、
モニターの中でその部屋の窓が徐々に拡大される。
その作業が、別の部屋撮り画像で幾度か繰り返される。

「なあ、何に見える?」

「魔法使い」

千雨の問いに、刹那がぽつっと応じた。
既に、刹那からは珍しい友人からの招きに寛いだ雰囲気は消え失せ、
その眼差しは頼もしい仕事モードだ。

「だよなぁ」

はあっと嘆息した千雨は、バリバリと後頭部を掻く。

「確定的な結論を出すには元の画像の質が不足していましたが、
分析結果として現時点で確実に言えるのは、対象は人間、判明している限り三人です」

聡美が説明した。

「変態コスプレストーカーにしちゃあ気合いが入り過ぎてる」

「只のコスプレやなかったら西洋魔術師やな」

千雨の言葉に、小太郎はややウキウキとした口調で言った。
只、刹那の周辺に洋の東西と外見とのマッチングに少々問題があるケースが無いではないのが引っ掛かる。


「場所は、どこですか?」

「科学の学園都市だ」

千雨の言葉に、刹那と小太郎が顔を見合わせた。

「おかしい」

刹那が呟く。

「科学の学園都市がどういう場所だか、長谷川さんはご存じですよね?」

「まあ、表に出てる程度の事はな。
街ぐるみで最先端科学を研究してる実質的な独立国家」

「科学覇権主義、と言ってもいいですね。
今や、世界の科学技術そのものがあの都市のお下がりも同然。
それでいて、物理的にも法的にも厳重に閉ざされたブラックボックス」

聡美が言った。

「インターネットも、少なくとも科学の学園都市側からの発信は
何重にも検閲されています、想像を絶する技術で。
簡単に言えば、向こう側の人間でも害の無い限り支障はありません。
しかし、単純な単語検索を初めとして、
把握される流出情報の質や悪意のレベルに合わせて、エラーを偽装した差し止めから逆探知まで
直ちに対応出来るシステムになっている、と、
これが当たらずとも遠からじな実情であると私は把握しています。
加えて、そもそもソフトもハードも何世代も先に行っていますから、
基本的なものはとにかく、サブ的なものは、
向こうではそれが普通でもそんなものをうっかりこちら側に送られたら」

「ああ、まるっきり解読不能、下手すりゃ開いた途端に冷凍庫、何回か引っ掛かったよ」

聡美の言葉に千雨が応じた。


「より閉鎖的なのは魔法との関係です」

刹那が言った。

「端的に言います。科学の学園都市に魔法使いは立ち入れません。西洋東洋問わずです」
「そうなのか?」

「そうです。余りにも進みすぎた科学の学園都市の科学技術と魔法の技術。
それが交わる事で生ずる現実的、政治的な影響は未だ計り知れないと言う事で、
現時点では、少なくとも外交関係が成立している魔法の勢力は
科学の学園都市には関わりを持たない。その旨の協定を結んでいます」

「一時期はあったみたいなんですけどね」

聡美がデコを光らせながらくいっと眼鏡を直す。

「人間の能力に関して、彼らの科学は魔法を受け容れない。
どうも現時点ではそういう結論に達しているらしいんです」

「この辺じゃロボがうろうろしてるってのに、違うモンだな」

「ええ。こちらはそれこそ魔法を科学するのが流儀ですから、
その流れで色々と話を聞く事もあるんですけど。
一時期向こうでもそのギャップを埋める研究も進められていたらしいんですが、
事は人間の能力と魔術に関わる事です。
研究者のアングラ情報では何かイギリスで凄惨な犠牲が出て立ち消えになったと言う話も聞いています」

「人体実験で人体爆発もやらかしたのかよ」

「恐らくその線だと思います」

「取り敢えず、魔法関係でアリサさんが何か付きまとわれている可能性がある、と」

「そういう事になるな」

刹那の言葉に千雨が同意する。


「分かりました。少し心当たりを当たってみます」
「ああ、そうしてくれると助かる」

千雨が感謝を示し、刹那が頷いた。
一般人でいたい筈の長谷川千雨だが、今やネギ・パーティーと言うべき魔法勢力にどっぷり浸って
ついこの間夏休みがてら世界一つ救出して来た所だ。

そのネギ・パーティーの誰よりも頼りなく誰よりも頼もしいリーダーである
ネギ・スプリングフィールドは、十歳の少年にして飛び級卒業の千雨の担任教師であるにも関わらず、
ここ暫く、夏休み明けからずっとろくに学校にも来ておらず接触する機会が乏しい。

マイナーでも歌手が相手でもある。
千雨の周囲に事欠かない、火力はあってもやかましい面々は余り巻き込みたくない。
だからと言って、現在の実質的な担任とか色黒ノッポな巫女とか恐怖心が先に立つのもあれだ。

等と考えている内に、当面の相談相手としてこの人選に至ったと言う事だ。
人間としては誠実そのものである刹那はもちろん、元はいっぱしの悪ガキをやっていた小太郎も、
喋っていい事と悪い事の区別ぐらいは付くだろう。
見た所、裏側の知恵もある。何よりも半端なく強い。

 ×     ×

「よう」

「いらっしゃい」

麻帆良大学工学部を後にした千雨は、夕食後に女子寮の665号室を訪れ、
住人である村上夏美と挨拶を交わしていた。

「よっ」

「ああ」

リビングで、つい先ほど顔を合わせていた小太郎とも挨拶を交わす。
本来この部屋は村上夏美、那波千鶴、雪広あやかが住人であり
小太郎が暫定的に居候している状態であるが、
最近、夏美以外の元々の住人、特にあやかの外出は頻繁なものだった。


「いらっしゃい」

「ああ」

にこっと微笑む那波千鶴に千雨が挨拶を返す。
ゆったりした部屋着の上からも、やはり圧倒的な胸のボリューム、
だけではない、年齢さしょ…とにかく緩やかでいながら圧倒的に大人びた何かがある。

「どうぞ」

「ああ、ありがとう」

途中で思考を強制的な切り替えた千雨が、ウーロン茶を用意した千鶴に頭を下げる。

「珍しいな、そっちから呼び出しって」

「それはお互い様やけどな」

「まあ、確かに。さっきの件か?」

「ああ」

小太郎の表情は真面目なものだった。

「ちぃと、まずいかも知れんな」

「と、言うと?」

「問題は、刹那の姉ちゃんが言うてた心当たり、や」

「知ってるのか?」

「多分な。千草の姉ちゃん所で小耳に挟んだ。
だとすると、逆の目に出るかも知れん」

「何何だよ一体?」

珍しい奥歯に物が挟まった様な小太郎の言葉に、千雨が苛立ちを覗かせる。


「科学の学園都市で魔法使いがもう動き出してるって事になるとな、
その刹那の姉ちゃんの心当たりが当たりかも知れん。
まあ、簡単に言うとそういう事なんやけど、簡単に言えないから困るんやこの辺の関係は」

「つまり、そっちの業界の話か?」

「まあ、そういう事やな」

「つまり、桜咲が連絡入れる相手が実はストーカー連中と繋がってる、そういう事か?」

「ああ、正直あり得る状況や」

「じゃあなんで止めなかった?」

「そこや。特に刹那の姉ちゃんの場合、元々の人間関係なんかもあって、
あの話の流れだとそっちに話を持っていかなあかん、そういう関係もあるさかいな。
それが当たりやったら、ちぃとまずい事になるかもなぁ」

「何なんだよ、一体…
あいつ、アリサ、一体何に巻き込まれてやがるんだ」

「自分らで確かめるしかないなぁ」

バリバリと頭を掻く千雨に、小太郎が言った。


 ×     ×

科学の学園都市内境界周辺特別招待所。
日本に帰国したネギとあやかは、その高級ホテルでも十分通用する招待所の一室で待機していた。
ここ科学の学園都市は、国際法及び日本国の立法、公式見解の下に於いては日本国内であるにも関わらず、
独立国家に近い実質を有し外部の人間の出入りは厳重に制限されている。

ネギが交渉した英国の関係及び、
あやかの関わる科学の学園都市の外部協力企業のルートから当面の「入国」許可を得た二人は、
アンチスキルと読み警備員と漢字を当てる科学の学園都市の警察職員から
都市への入国手続きと共にここで待機する様に案内されていた。

部屋のドアがノックされる。
あやかがインターホンで応対し、ドアを開く。
現れたのは、取り敢えず部屋まで案内した、
十分なホテル的挙動を訓練されたここの職員だった。

「ネギ・スプリングフィールドさん」

「はい」

「お電話です」

ネギが立ち上がり、職員の案内を受けて部屋を出る。
ネギが戻って来る前に、ドアがノックされた。
あやかがインターホンで応対し、ドアが開かれる。
相手は、「合い言葉」を知っていた。

ドアを開けて中に入った結標淡希は、何の気無しにあやかを上から下まで一瞥した。
一言で言えば贅沢至極。

クォーターだと言う事だが、そっち系の美少女そのままの容姿、流れる長い金髪。
すらりと背が高く出る所引っ込む所のメリハリが半端じゃない。
服装のセンスもお上品でさり気なく金がかかっていながら成金的な下品さが無い。

そんな圧倒的な相手が自分よりも年下の中学生。
渡された資料がそうだと言うだけではなく、同年代の女子の勘、
特に中学とその上の違いは、事、同性の間に於いては察知出来るものだ。


一方のあやかの方は、特に悪い印象は持っていない。
ばっさりとしたショートカットで上半身はサラシの様なピンクの布を胸に巻いて
ジャケットを羽織っているだけ、下はミニスカート。
露出過多とも言えるが、元々あやかは色々な意味で変人は見慣れている。

結標の方は少々剣呑、鼻白んだ様な雰囲気をあやかに示しているが、
それも又、特にネギの「事業」に関わり始めてからは雪広あやかの宿命として
初対面で一々気にする程の事ではない。

「あー、どうも、雪広あやかさんでいいんですね?」

「はい」

「そちらを担当する統括理事から連絡役として派遣された結標淡希です」

そう言って結標は一通の書面を差し出し、あやかの差し出した書面と照合される。

「ここ、学園都市は初めてですね。
まあ、聞いてるスケジュールだと、
こっちの理事会からの代表と事業に関わる企業関係者、
その辺の挨拶回りで滞在予定はオーバーって所だね。
ここは外とは違って色々と面倒な所だから、
あんまりうろうろしないで予定通りさくっと用事済ませて貰いましょう。
外の人間が余計な事したら色々と保障できない場所柄なもんで」

鼻で笑ってツカツカと歩み寄る結標は、あやか余裕のクイーン・スマイルが何とも言えず勘に障る。
いっそ、スキルアウト御用達の廃ビル辺りにご案内してやろうかと頭をよぎった辺りで、
学園都市謹製スーパー医療技術で病み上がりに引っ張り戻されて早々に
こき使われても文句の言えない現状を辛うじて思い出す。
そんな、微妙な雰囲気を物音が破壊する。

「お待たせしました、少し補足連絡がありまして。
もう案内の人がついてるって伺ったんですが」

結標が開いて閉ざされたドアに目を向け、改めて資料を確認する。
そして、現れたネギの前に片膝をつき、
白い両手を自らの両手で包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。


「初めまして、ネギ・スプリングフィールド先生。
わたくし、この学園都市におきましてネギ先生の露払いという
大役を仰せつかり恐悦至極に存じ奉りまする栄誉に預かりました結標淡希と申す者にございます。
今後はわたくしにご用命あらば例え火の中水の中、
湖の水を飲み干してでも身命を賭してお助け致しまする所存にて
それではさっそくホテルにご案内いたしまして最も重要なバス・ベッドの使用方法を実地にて…」

あやかは近くにあった巨大な模造紙を山折り、谷折りして、
腰を入れて結標の顔面目がけてフルスイングする。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「HAHAHAちょっとはしゃぎ過ぎてしまった様ですな」

心配そうに覗き込んだネギの前で、
結標は半ば埋もれた壁からボコッと復活して、むくっと立ち上がり後頭部を撫でながら高笑いする。

「まあ、そういう訳で、学園都市のご案内は淡希お姉さんにお任せして
大船に乗ったつもりでどーんと安心しちゃって頂戴って事でHAHAHA」

「はい、有り難うございます」

ダクダクと鼻血を垂れ流しながら高笑いする結標にネギは礼儀正しくぺこりと頭を下げ、
ニコッと天使の笑顔を向ける。
一際激しく鮮血を噴射しながら天を仰いだ結標は、
そっと鼻にハンケチを当てると改めてその天然女殺しな笑顔を目から脳味噌に煙が出るまで焼き付ける。
そして、その隣で慈母の微笑みを浮かべているあやかを見据える。
あやかと結標は共に不敵な笑みを浮かべ、そしてガシッと熱い握手を交わした。

「それじゃあ少し具体的な話をさせてもらうね。
この学園都市は、街自体が外からうん十年進んだ巨大な最先端科学研究機関。
そのために、研究上の便宜、何よりも秘密漏洩防止のために国から様々な特例が認められている。
ざっくり言ってここは日本であって日本ではない、実質的な独立国家、OK?」

人懐っこくも不敵な笑みを浮かべる結標に、ネギとあやかは頷いた。


「あなた達が今持っているのは、ここを含むゲートエリアだけで通用する入国専用ID 。
これが滞在用ID、それからマネーカードにレンタルの携帯電話、PDA。諸々の説明書。
端っから言っておけば、学園都市は最先端科学の街、言い換えれば効率的なデジタル管理の街。
その学園都市内に於いて、
様々な意味での重要人物であるあなた達の滞在中の電子的記録は監視され集約され管理されている。
ここでのあなた達のプライベートは、あるとするなら精々トイレの中までと思った方がいい」

そこまで言って、結標はすたっとネギの前に片膝をつき、
両手で両手を包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。

「但し、ネギ先生が一言仰せ付けられましたらこの結標淡希、
すぐさまあらゆる治安組織統括理事会暗部組織から完全に隠匿された
絶対秘密厳守のセーフハウスをダース単位で用意して
静寂の寝室に於いてネギ先生との熱く親密な秘密の一時を」

その時には、目をぎゅぴーんと輝かせたあやかが鶴の体勢で飛翔していた。

「わー」パチパチ

雪広流vs裏社会実戦組手演武を一通り観賞したネギがパチパチ手を叩いたのを潮に、
あやかと結標の二人はガシッと熱い握手を交わして結標が説明を続ける。

「と、まあ、そういう事なので。
あなた達の申請予定も入力済みのこのレンタル端末使えば
学園都市でも表の事は大概分かるし、
わざわざ私みたいのが付きまとってガイドしてると却って邪魔でしょう。
そっちにはそっちの都合があるでしょうし、どうせこの街にいる限り
監視は電子的にやられてるんだから、この上ガイド兼監視役なんてのもね。
と言う訳で、一応ホテルまでは案内するけど後は自由行動って事で。
許可が出てるぐらいだから大丈夫だと思うけど、
端末にも入れといた通り、危ない所には近づかない、
いや、ホントこれだけはお願い。最先端科学の街だからこそ裏通りは本気で危ないから。
私のケー番とメアドも入れてあるけど、私もすぐ出られるか分からないし、
あんたらのVIPなIDならホテルとか公共機関に頼れば
大概なんとかなるからその辺は私の事あんまり当てにしないで」

そこまで言って、結標はすたっとネギの前に片膝をつき、
両手で両手を包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。


「但し、ネギ先生が夜の相談室に大人の階段を上りたいとこっそりお電話いただけるのでしたら
この結標淡希五秒でベッドメイキングの上不肖わたくし自ら懇切丁寧熱意溢れる肉体言語…」

その時には、鋭い角度で跳躍したあやかの膝が結標の顔面に肉薄していた。

「わー」パチパチ

雪広流vs裏社会実戦組手演武を一通り観賞したネギがパチパチ手を叩いたのを潮に、
あやかと結標二人はガシッと熱い握手を交わして結標が話を続ける。

「それではこれよりホテルまでご案内しまーす」

 ×     ×

「夏の大事件を解決して今も精力的に駈けずり回っている正に英雄」
「その英雄の学園都市訪問許可。協定違反なんてレベルじゃないな」

「彼のプランを大方針として支持する事に就いては、
学園都市を含む各勢力で合意が成立している。
宇宙エレベーターは既に先んじて出来上がってしまっている」

「なぜか、な」

「彼のプランに不可欠なものである以上、
それは既に了承された範囲内の事だろう」

「その理屈で根回しか。もっとも、大方の所は向こうさんで済ませた後だ、なかなか抜かりの無い」

「大上段の人道主義と突拍子もないプランを掲げる、丸で子どもだ」

「その子どものプランは既に基本合意以上のコンセンサスが成立している。
向こうの火力がデカ過ぎるってだけじゃない。
そのデカ過ぎる火力の威嚇を絶妙に鞘の内にしながら、
人道主義と現実的な利権。科学と魔術が角突き合わせてる宇宙の覇権にとんでもない所から唾付けて、
ヨダレを見せた連中を上手く転がしてやがる。無邪気な顔してなかなかの腹芸だぜあいつら」

今回はここまでです。
続きは折を見て。

おつ

コテハン長文の予防線や自分語り遅筆ネタ使い回しとか面白い要素が見つからないにも程があるだろ

それでは今回の投下、入ります。


 ×     ×

「着いたんか?」
「で、ござるな」

科学の学園都市内のとある廃ビル。
長瀬楓のアーティファクト「天狗之隠蓑」から姿を現したのは、
犬上小太郎、長谷川千雨、村上夏美と言う面々だった。
色々考えた末、一応まとめ役となるネギがいない現状、
そして科学の学園都市と言う越境作業の都合上、思慮深い面子による少数精鋭と言う結論に達した。

まず、言い出しっぺの千雨、そして、総合力の高い「忍術」を使う楓と小太郎。
楓は多人数を異次元空間に収納運搬出来る「天狗之隠蓑」を使う点でも何としても欲しい人材だった。

夏美に関しては小太郎の実質的なパートナーであり、
それでいて本来一般人であるべき立ち位置なのだが、
まず、彼女の使うアーティファクトが隠密行動の上で侮れない。

先の会合の都合上、話を聞いた夏美に一応振ってみたら、
それでも何でも夏休みの苦楽を共にした友人の友人の魔法的な危機であり
自分の能力が頼られると言う事は満更でもない、そんな感じで同行が決定していた。

「ここ、科学の学園都市か?」

小太郎が尋ねる。

「で、ござるな」

「まあ、越境時の一時的な電子的監視システムのごまかし、
それに、いるだけで逮捕されない程度には葉加瀬がやってくれてるって事だが」

千雨が周囲を一瞥して言う。
とにかく、科学の学園都市に於ける電子的な監視網は半端なものではない。

衛星の目による常時監視を初めとした様々な監視網は、
密入国者が都市内を文字通り出歩く事自体を困難ならしめる。
無論、「国境線」の越境も決して簡単な事ではない。

麻帆良学園都市から、「外(科学の学園都市の外)」の科学相手であれば
大概の事が出来そうな葉加瀬でも、科学の学園都市相手では相当に勝手が違う話だった。


「何せ相手は科学の学園都市だ。
とにかくアリサの状況を把握するまでは可能な限りトラブルを回避して
くれぐれも余計な揉め事等を起こさない様に…」

そう言いながらくるりと振り返った千雨の前には、
いかにも頭の悪そうな風体の見るからにチンピラ集団が死屍累々の巷を形成し、
最新情報を更新するならば、その巨大な槍の如き脚の一撃でコンクリ柱を蹴り砕いた巨漢が、
そのバカ破壊力な脚槍の上をひらりと舞う小太郎の跳び蹴りを顔面に叩き込まれた今その時だった。
そして、そんな二人の背景では、千雨がコオオと更にその背景に炎を燃え上がらせて拳を握っていた。

 ×     ×

千雨は腕組みしていた。
そこは、学園都市地下街の一軒のゲームセンター。

「あのー」

楽をして悪いとは思うのだが、途中まで楓の「天狗之隠蓑」に隠れつつそこまで到着した一行は、
千雨の発案で賑やかなゲームセンターに入っていた。
取り敢えず手分けした後、その一角にある機械の前で、千雨は立ち止まり熟考していた。

(カナミンが出来るのか)

「あのー」

(とは言え、こんな所であいつらに裏の顔を知られる訳にはいかない)

「あのー」

(それに、こんな事をしている暇は無い)

「あのー」

(あくまで、路上シンガーと言うイメージからなんとなくゲーセンに手がかりを求めて入ったに過ぎない)

「あのー」

(に、してもよく出来ている、特にこのカナミン。さすが科学の学園都市)

「あのー」

(一度科学の学園都市を訪れたからには、レイヤーとしてこの機会を)


「あのー」

(だからと言って一人で)

「あのー」

(とは言え、こんな所であいつらに裏の顔を知られる訳にはいかない)

「あのー」

「なんだ、あ?」

「こちら、使うんですか?」

ちょっと驚きながら声の聞こえた横を見て、千雨は目をパチパチさせる。
そちらに現れたちょっと年上らしき少女の姿にほんの少し考えて、納得する。
さすがは科学の学園都市、実にハイスペックな案内用ホログラムだ。
それは、科学的な技術力だけではない。

(茶髪だが如何にもお洒落に興味ありませんなぼさぼさ気味のロング、
絶妙なバランスでちょっと頼りない仕草、
清楚な白い制服姿でありながら一点突破のインパクト。シンプルだが実によく分かってる)

「あー、うん、そうだな。えーと、あんた一緒に撮ってくれるとか?」

「いいんですか?」

「ああ、そうしてくれると助かる」

気が付いたら、千雨は自分でも意外な程に気さくに応じていた。
後腐れが無さそうだと言うのもあるが、千雨にして安心して応じる何かがあった。

「こ、これはっ」

かくして、更衣室の中に入った千雨は、改めて科学の学園都市の技術力に驚嘆する。


(あのボリューム、なんと言ってもあのボリューム、ああ、この手の技術ってなると、
多分もっとアレな用途にも流用されてるんだろうな、科学の学園都市とは言っても脳内は、
何と言っても日本の技術革新はビデオデッキしかりインターネットしかり常にその方面から…
ふむ、そうやってあたかも用意された衣装にチェンジする様に…)

「なん、だと?…」

(…いやいやいや、おまえちょっとそれどっから見ても悪役用ブラック紐ビキニアーマーだと?
そうか、そうかよ。いかにも大人しいオドオドキャラとのギャップ萌えをピンポイントで狙って来たってか。
ふふ、ふふははは、ふふふははははは、
その分野に手を出すと言う事は誰に喧嘩を売っているのか理解しているのかなこのホログラム?
いいだろう。相手が悪かったな。無限にして有限の空間を ネ申 として君臨して来た
女王ちうランルージュがそのちょーっとはっちゃけた幻想を華麗にぶち殺してやるぜこのド素人が)

「」

(………唖然。いや、ちょっと待て。デカイってのもオドオドキャラってのも分かってはいたが、
愕然。これは、凄い、凄すぎる。何の罰ゲームだ?
つまりあれだ、男子に見られて恥ずかしいのなオドオド爆乳眼鏡キャラが
そのまんま悪の秘密結社の女幹部、それも紐、いっちゃったって事ですかァ?
いやいやいやいや間違いなく純度百パー天然本物の恥じらいとダイナマイト過ぎるナイスバディでもって
悪の秘密結社の紐ビキニアーマー、ね。
ねェェェェェェェェェよォォォォォォォォォっっっっっ!!!
ねェよねェって盛り過ぎってレベルじゃねェって、
その、眼鏡の向こうのうるうると、もじもじした腕と紐の向こうから見えるむっちむちのぱつんぱつんのが
真っ裸フルオープンの一京倍凶悪過ぎるだろおいっ、
アハ、アハハハハ、アヒャヒャヒャアヒャハハハ、エラーエラーエラー
天使!これは天使!!
地上に降臨して全てを焼き尽くす破壊力満点の凶悪過ぎるマジ天使っと、って奴だ…)

「ふむ、虚数学区の核心に迫る者が」コ゚ポッ

「はい、チーズ」


 ×     ×

なんとなくちょっと寂しい気もした、それも余りによく出来ていたからなのか。
臨時パートナーが、にこっと微笑んで礼儀正しく頭を下げたかと思うと
気が付いたら早々に姿を消した事もあり、
犬耳小僧が気付いた頃には完璧な証拠隠滅を終えていた千雨は、
結局手がかりの欠片も無かった面々を促して次の行動に移る。

「ここだここ」

次にご一行様が訪れたのは一軒のファミリーレストランだった。

「アリサからも聞いた事あるんだけど、ドリンクバーが豊富で使い易いってさ」

それぞれ適当に食事を注文し飲物を運びながら、千雨がノーパソを取り出す。

「結局の所、ネットしか手がかりが無いからな」

「ARISAってネット中心のシンガーだっけ?」

夏美が言う。

「まあ、今ん所はそうだな。ネットとか学園都市の路上がメイン」

「そんなインディーズでも凄く人気あるんだよね」

夏美が言う。夏美も今の所端役とは言え演劇部員、
しかも、本来が決して主役向きでは無いと自覚しているタイプ。
自分と同年代で、メジャーアイドルならそれはそれで別世界にも見えるのだが、
アリサの様に自ら表に出て切り開こうと言う気概には敬意を覚える。


「なんだよな、歌が清々しいせいか面白い話もあるし」

「面白い?」

「ネット上の都市伝説だな、ARISAの歌を聴いたらいい事がある、って」

「うん、あれから私もネットとか見たけど普通に言われてるね。

それに、あの歌聞いたらなんか、分かる」

千雨の言葉に夏美が反応した。

「さあて、どの辺に出没して、るのかな…」

「な、何!?」

突如、ガタッと立ち上がった千雨に夏美が驚きの声を掛ける。

「リアル遭遇だっ!」

叫んだ千雨が、じろっと周囲を見回す。

「…二人分、食うか?…」

「おうっ」

千雨が、小太郎の肩をガシッと掴んで言った。
言い出しっぺとして、自分が退く訳にはいかない。
店を飛び出した千雨は、心の中で叫んでいた。

(不幸だあぁぁぁぁぁ)

流石に残りの面々もそれなりに急いで注文を平らげ、
窓際のテーブルからどがしゃーんと轟音が響き
ぞろぞろと店内の客が引き揚げるのに合わせる様に店を後にした。


「あっ、いた」

携帯で連絡を取り合いながら、楓と共にとある空中通路に駆け付けた夏美が、
通路の柱の陰で千雨の姿を発見した。

「それで、アリサ殿は?」

楓の問いに、千雨が親指を向ける。

「あれが、アリサさん?」

「ああ。で、あっちは何か、
初見のファンみたいだったけど、馬が合ってるらしいな」

夏美と千雨が言葉を交わす。その視線の先では、鳥撃ち帽を被ったアリサが、
アリサと同年代、高校生ぐらいの少年と談笑している。
黒髪がウニの様なツンツン頭の少年だ。そしてもう一人。

「シスター?」
「コスプレだな」

夏美の言葉に、千雨がすぱっと言った。

「ちょっと近くで見たが、マジモンの修道服にあんな装飾あり得ない、
って言うか装飾以前に何の前衛芸術だよありゃ」

「ふーん」

やたら快活そうに喋っている一見シスターなちびっこを眺めながら、言葉を交わす。

「おう、まだいたか」

不意に後ろからガシッと肩を掴まれ、千雨がギョッとして振り返る。


「コタロー君」

「なんだ、一緒じゃなかったのか」

「ああ、ちぃと近場の見晴らしのいい所にな。
いる、いや、いたで」

「いた、って?」

夏美が尋ね、小太郎の表情を見て夏美もやや不安気な表情を見せる。

「魔法ちゅうのは一つに薬草使いや。それは西も東も変わらへん」

「で、ござるな。それをもう少し科学的即物的にしたのが忍びでござる」

「ああ。微かにやけど微妙に癖の違う同じ系統の匂いが三つ、確かに残ってた」

「魔法使いか」

千雨の口調も真剣なものとなる。

「ああ。それも、基本の調合は最近嗅いだな。
日本でも、魔法世界でもない…」

千雨と夏美の喉がごくりと動いた。

「今は逃げられたけど、諦めたかは分からん。
夏美姉ちゃんと千雨姉ちゃんが手ぇ繋いでそのアリサにはっ付いて、
俺と楓姉ちゃんでちぃと離れて別々に追い掛ける、ちゅう事でどや?」

真面目な眼差しの小太郎の言葉に、一同小さく頷いた。


 ×     ×

村上夏美はつい先ほども訪れたファミリーレストランで目を丸くしていた。

「ブラックホールかよ」

それは、夏美の隣で呆れ返っている長谷川千雨も同じだった。
取り敢えず、席に空きはあるし、あの様子だとこちらが食事を終えても悠々間に合う、
何よりあれを見ながら匂いを嗅ぎながら店の真ん中で突っ立っているのは精神的に厳しい。

と言う訳で、夏美と千雨は一端店の外に出て、
使用していた夏美のアーティファクトを解除してから店に入り、手早そうなスパゲティを注文する。
だが、結論を言えば、その後も暫くドリンクバーで粘る羽目に陥りひたすら呆れる。

「あーあ、泣き入ったよ」

千雨の言葉に、夏美は苦笑した。
二人が見ていた先では、伝票が天高く上り詰める勢いでとぐろを巻き、
とうとうスポンサーらしきウニ頭の少年がオーダーストップを哀願していた。

「あのコスプレシスターも凄いけど、アリサさんも」

「ああ、アリサの歌は歌っても作っても思いっ切りエネルギー燃焼系だってさ」

「自分で作ってるんだ」

「ああ」

目標の三人組が動き出したのを潮に、千雨と夏美も重い腰を上げる。
歩き出した二人に合わせる様に、やはり皿の山を残した別のテーブルからもふらりと動きがある。


「うっぷ。勝った、筈や」

千雨が、額に手を当てて嘆息する。

「うん、後でちづ姉ぇに報告しとくから」

「ち、ちっと待てぇ、ここは男として退けん所でなぁ…」

「いや、その有様の時点で負けてるって」

「げぷっ、お、恐るべし暴食エセシスター」

そこまで聞いて、千雨以下の面々は一斉に他人の振りをする。
当の本人が、足運びだけでスタターッとこちらに向かって来たからだ。

「誰がエセシスターなのかな!?それはイギリス清教に対する…」

「おいっ!………」

入口の方から、例の少年が呼ぶ声が聞こえる。
見た目からして、そのウニ頭の少年が保護者っぽい。
一方、小太郎に詰め寄ったシスターは、ちょっと首を傾げて小太郎が被っていた帽子に視線を向ける。

「行くぞーっ」

「待つんだよーっ!」

シスターがタタターッと立ち去り、一同ほっと胸を撫で下ろす。

「イギリス清教?あいつ、マジでシスターだったのか?

千雨がぽつりと呟く。

今回はここまでです。続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。


 ×     ×

長谷川千雨は、一般人であり一般人ではない。
その事はとうに自覚している。
非常識な環境を自覚し、その中で一般人でありたいと思い、それを口に出しながら、
自らの意思で魔法の世界に関わりを持った。
今更違う、と言い切るつもりはない。諸々の事は長谷川千雨の意思だった。

世の中、いいトコ取りなんて都合のいい話は無い。
魔法が奇蹟であり希望であるのなら、そこには必ず対価がある。
取り敢えず、その事は暑すぎる夏に何遍か死にかけた辺りで勘弁してくれ、
と、長谷川千雨は言っておく、今の所は。

自分の意思で魔法に関わり、
魔法の世界の大騒動から大切な人達を引っ張り戻して生きて帰って来た。
だからこそ思う。
リアルに姿を現してリアルの住人を魔法を使って襲っている魔法使いを見て、だからこそ思う。

「何やってんだてめぇらあぁぁっっっっっ!!!」


 ×     ×

「うわぁー…」

ほんの少し前、村上夏美は、うっとりと聞き入っていた。
それは、隣で手を繋いでいる千雨も同じ様子だ。
ファミレスを出た後、アリサ以下三人組は夜の公園を訪れていた。

ギリシャ遺跡を思わせるオブジェ付の石造り強めの公園で、
石段のちょっとした丘を上ると池がある。
池の畔で、夏美は美しいメロディーを聴いた。
それは、まだメロディーだけだったが、
紛れもなく人の心を震わせるARISAの歌だった。

に、しても、このメロディーでムードは最高潮だ。
シスターがちょこちょこ一緒にいるのもこうなると可愛らしいぐらいで、
見た目には、アリサとウニ頭が全くもって実にいい雰囲気を醸し出しているとしか言い様がない。

夏美はいつしか天を仰ぎ、その頭の中では、
自分がもうちょっと大雑把なツンツン頭と夜の公園で雰囲気を出している構図が急速に具体化する。
あ、駄目、と言うそのシーンは、後一歩の所で、ぐいっと引っ張られる手の感触にぶち壊される。

「へ?」

踵を返す千雨の必死の形相。
見ると、池が洪水を起こしていた。

「はいっ!?」

夏美は叫んだが、足は勝手に動いていた。伊達にあの夏休みを生き残った訳ではない。
その経験からも言えるのだが、洪水と言うにはちょっとおかしい。
そもそも、あの池が洪水を起こしている時点でおかし過ぎる。

一言で言えば水も竜巻。それも、巨大な水の塊が池の中から噴出し、
そして生き物がのたうって鞭打つ様に襲いかかって来ている。
洪水と言われても近くに高台は無い。そこそこ高いオブジェはあるが上る時間も無い。
とにかく二人は一度オブジェの石柱にしがみつく。


「あ、アリサ…」

轟音が少し落ち着いたのを感じて、夏美が周囲を見回す。
どうやらアリサは無事、あのウニ頭、なかなかのナイト様だ。
そこで、気付いた。千雨の表情に。
千雨の視線の先には、池が見える。その池の中では、突如出来上がった噴水の上に、

「魔女?」

夏美が呟く。噴水の上に「立っている」のは、見た目も行動もまさしく魔女、
絵本の魔女が自分達ぐらいに若くなった様な姿の金髪の魔女がそこには立っていた。

「水のエレメントを操る術式だよ」

「って事は魔術の連中かっ!」

近くの叫びの応酬に、夏美と千雨は改めて顔を見合わせる。

「やっぱりこっちかよ…」

夏美は、隣で呻く千雨の目がつり上がるのを見る。
千雨の右手はポケットの中でぎゅっと握られていた。

「あいつら、どこに…」

「ちょっ!」

千雨が味方を探して周囲を見回す。
ウニ頭が、叫びを漏らした夏美達に気付かぬまま昂然と立ち上がる。

ごうっ、と、風が聞こえた。これも夏美と千雨の経験から言って、只の風ではない。
夏美は石柱に隠れながらそちらを見る。
池の畔に上り、池の魔女に駆け寄ろうとした少年の足下がボコッと盛り上がる。
それは筒となって少年の両脚を拘束する。

池の魔女が、何本のも水の槍を生成する。
離れた所にいる風の魔女がそれを吹き散らし、その猛スピードの軌道を少年に向けた。


「やああっ!」

夏美の叫びは声にならなかった。
相当な威力だったのだろう。土煙が上がり、それが晴れた時、
夏美も千雨も凄惨な光景を覚悟した。

「え?え?」

夏美の経験から言っても、どう見てもほぼ無傷と言う少年の状態はどう見てもおかしい。
少年が何か、例えば夏美も知ってる防御魔法とかそういうのを使った形跡は無い。
そして、長谷川千雨も、その事を理解していた。

「…けるな…」

夏美がうめき声を聞いた、と、思った時には、

「長谷川っ!?」

長谷川千雨は駆け出していた。

 ×     ×

目の前の光景に、水の魔女メアリエは目を丸くしていた。
あり得ない、あの攻撃を受けてほぼ無傷、そんな事はあり得ない。
見た所、普段着の生身の少年、魔術的な防御を使用した形跡も無い。

とにかく、驚いている暇はない。
次の攻撃を、と、水のエレメントたるウンディーネの使役を続けようとした時、
メアリエは新たな怒号に視線を向けた。
その相手、こちらも普段着の眼鏡の少女を視界に捉えたのも一瞬、

「いっ!」

鋭い痛みと不快感がメアリエを襲う。

「これはっ!?」

何匹もの小動物が、宙を浮いてメアリエをつついていた。
つついていたと言うのはメアリエの感触の問題であり、
気絶する程ではないがパチパチと電撃を放って付きまとって来るのだから、
馬鹿にならない痛さだしひたすらにうっとうしい。
しかも、水使いのメアリエでは防御に相性が良くない。簡単な防御ではそのまま貫かれてしまう。


「メアリ、えっ!?」

メアリエよりも幼い風貌体格に隙間の多い蠱惑の黒妖精衣装を身にまとった風の魔女ジェーン、
メアリエを援護すべく近くのビルの上から動こうとして、バッと横を見た。
ジェーンが手にした扇子が巻き起こす超怪力ってレベルではない暴風が、
手裏剣と言うレベルではない鉄の塊を吹き飛ばした。
ゾクッ、と、何かを感じたジェーンは、更に振り向き様にその暴風を巻き起こす。

「くっ!」

前に進もうとしたウニ頭の脚を、再び土が拘束する。
だが、次の瞬間には、それを行った土の魔女、やはりメアリエより年下、似た様な黒妖精衣装だが
モンペチックに膨らんだズボンが可愛らしいマリーベートとは逆方向から強力な衝撃波が地面を揺らす。
衝撃波を受け、ウニ頭の拘束がバカンと破裂した。
衝撃波の出所から、学ランにニット帽の小僧っ子、犬上小太郎が駆け付ける。

「いい漢やな、姉ちゃんらの事頼むわ」

「…?…分かったっ!」

漢と漢が、すれ違った。

 ×     ×

「っとっ!?」

マリーベートへと走る小太郎は、間一髪、
地面から脚を狙って巻き付こうとした土の塊を交わしてひらりと跳び上がる。
そして、糸つき棒手裏剣に繋いだ札を地面に放ちながらもごもごと唱える。

「…ビリチエイ…ソワカ!」

「くっ」

着地した小太郎が走り出し、その先にいるマリーベートは地面にベタッと掌を付いて四つん這いになる。
小太郎が今正にマリーベートを摘み上げようと言う所まで接近したその時、
ドカンと巨大なハンマーで地面をぶん殴ったかの様な衝撃に小太郎が一瞬バランスを崩す。

その間にマリーベートが横に逃げ、
追跡しようとする小太郎の前に人の背ほどもある土柱がズガンと突き上がる。
土柱が瞬時に小太郎の四方を囲み、その中心から更に猛スピードで何メートルもの土柱が突き上がった。


「ははっ、その程度の東洋魔術で私のノームにかなうと思ったかっ!」

「そやなぁ」

「!?」

ほぼ真横にニッと笑う小太郎の姿を見て、マリーベートは恐慌して横に走った。

「俺、こっちの方が得意やさかい」

「あ、あわわわわ…」

二人の間に突き上がる土柱を次々と叩き壊し蹴り砕き
ろくな障害も感じさせずに接近する小太郎を前にして、
マリーベートは確実に震えを自覚する。

「くっ!」

マリーベートはほぼ本能で、両腕を顔の前で組んでいた。
だが冗談ではない、そもそも、エレメントの使役のために肉体的な条件を削っている部分がある。
それであんなものを食らった日には。

「………あーーーーーーーーうーーーーーーーーーーーーー………」

「うっし!」

気が付いた時には、マリーベートは宙を舞っていた。
小太郎の手が下の方で空を切ったかと思うと、そちらから吹き上がった強風に吹き飛ばされていた、
一番妥当な所ではジェーンと同系列の術者と言う事になるのだが、
力ずくでやった、と言う仮説は考えたくない。
とにかく、とっさに土の柱を後方に突き上げ、その上に背中から着地する事に成功した。


「!?」

ほんの一瞬安堵した、ほんの一瞬。
だが、次の瞬間には、マリーベートはいよいよもって顔から血の気が引く心地と言うものを実感する。
マリーベートのいる柱の上に、四方から黒ずくめが殺到していた。

その黒ずくめは黒い外套に白い仮面、何よりかにより、
マリーベートらの立場なればこそ分かる事だが、
一番肝心な事としてこいつら人間、否、生物ですらない。
せめてほんの何秒かでどうにかなったかも知れないのだが、流石に時間が無さ過ぎた。

「ちぃとここ頼むわ」

 ×     ×

「ええいっ!」

メアリエが固形化した水の障害物をふるい、まとわりつく小動物を強引に振り払う。
次の行動に移ろうとした時、突如、足下が頼りなくなった。

「!?」

ウンディーネの使役により臨時の噴水となり、そしてメアリエがその上に乗る事が許されていた、
池の水にもたらされていたそれらの効果が突如として解除され、
只の水と化して崩壊する噴水に自分の体が沈んでいる事をメアリエは理解する。
何とか水から顔を出したメアリエは状況を理解する。

「スペル・インターセプト!?」

ビルの屋上で事態に振り回されていたジェーンも又、
自分の感想について語彙を間違えていない筈だと思い直す。

「空を、跳んでる!?」

突如現れたノッポの妨害者は、ジェーンの扇子から吹き荒れる突風を交わしながら、
丸でそこに足場がある様にジェーンの周囲で空を「跳んで」いた。


「くっ!」

とっさに下から突風に乗ってジェーンも又飛び上がり、
その下でぐるぐるとぐろを巻いている鎖から逃れる。

「ええいっ!」

その途端、目の前ににっくき妨害者の糸の様な目が姿を現した、
かと思ったらその姿は即座に消滅する。
ハッとしたジェーンが振り返りざまに扇子をふるい、
飛来していた手裏剣を遥か彼方に吹き飛ばす。その視界の先には既に手裏剣の元の持ち主の姿は無い。

 ×     ×

何とか術を再開出来そうだ。
スペル・インターセプトの中断を確認したメアリエが池から足場の水柱を突き上げ、
再び柱の力で浮上してブチギレモードの禍々しき凶器を生成しようと力を込める。

だが、イザ放たんとしたその時、ガクンと強い衝撃がそれを阻む。
今度はスペル・インターセプトではない。もっと力ずくの妨害。
メアリエが出所に目を向ける。
そちらでは、池の畔に中学生ぐらいの少女が立ってこちらを睨んでいる。

帽子の下で三つ編みツインテールに結っているのは綺麗な黒髪で、
お似合いの眼鏡も合わせていかにも日本人の女の子。
だが、問題は、そのゴシック調の黒い装束に、
何よりもこちらに向けているステッキ、その先の大きな球体。

「大丈夫かっ!?」

鳴護アリサは、前と横から同時に同じ事を叫ばれて、取り敢えず前を見る。
つい先ほど出会ったファンの男の子、上条当麻が駆け戻って来た所だ。

何だか訳の分からない状況だが、とにかく、文字通り死ぬほど危ない状況でも
自分達のために身を挺して駆け出して、こうして戻って来てくれた。
それは十分過ぎる程に分かる。

そして、横から現れたのはちょっと年下かと言う二人の少女、
赤毛っぽい癖っ毛のショートカットの娘と眼鏡を掛けたセミロングの娘。


「何か心当たりはっ!?」

上条に問われても、アリサは首を横に振る事しか出来ない。
その時、更なる闖入者の登場にアリサは目を丸くした。

「メイちゃん!?」

すぐ近くの石段に、不意にスターンと着地した少女を見て、
叫んだのは村上夏美だった。

「なんだよっ!?」

叫んだのは上条当麻だった。
目の前に突如登場した最新キャストは、一見するとこちらの新規の二人同様御坂ぐらいの歳か、
後ろ髪を巻きツインテールに束ねた、年相応に可愛らしいと言える女の子だったが、
問題は余り普段着とは言い難いゴシック系の黒い衣装にトドメは手にした箒。
この状況でそんな姿の佐倉愛衣に敵意を持つなと言う方が無理がある。

「ここは危険ですっ!急いで…」

「だから…」

石段から池の方を向き、後ろを向きながら告げる佐倉愛衣と苛立ちを露わにしている上条当麻は
明らかに噛み合っていない。
その間に、長谷川千雨と村上夏美は目配せを交わしていた。

「なっ!?」

「近くの人と手を繋いで下さいっ!」

夏美と千雨が直接実行に移した事もあって、どうにかチェーンが繋がる。


「…村上さん、早く一般人を隠して下さいっ!」

「隠れてない?」

「ですからっ」

「やっぱり、なんか上手く発動しないっ!」

「はあっ!?」

愛衣と夏美が焦った口調でしまいに怒鳴り合う内に、夏美の腕がガクンと重くなる。

「存在感をあいさよりも小さくしてそこにいる事を分からなくする術式なんだよ、
術者と繋がってる人に効果が発生するんだよっ!」

夏美がそちらを見ると、シスターが夏美の腕に縋り付いていた。

「…俺達を守ってくれるって事でいいんだなっ!?」
「はいっ!」
「分かったっ!そのまま続けてくれっ」
「分かりました」


 ×     ×

どうやら視界から消えて、ほっと胸を撫で下ろして池に向かおうとした愛衣が、
近づく気配にギクッとする。

「あ、あなた」

「ああ」

「戻って、隠れて下さい」

何か、だるそうなぐらいの気配で近づく、先ほど半ば怒鳴り合ったウニ頭の少年に、
愛衣は押し殺した様な口調で警告する。

「ごめん、それ無理」

「…男だから、ですか?」

「いや、体質的に」

「あなた、素人ではありませんね。
ウンディーネ、シルフ、ノーム、術式から考えても後一人いる筈です」

自分に背を向けたままの愛衣に近づきながら、上条は、
きびきびとした愛衣の声に徐々に信頼を覚える。
事情により自らの過去の多くを知らない上条だが、
その少なくなった過去の中に、こういう声が幾つもある。
大きな力を持って命を左右する仕事に責任と誇りを持っている。
今はそれで十分だと上条は直感していた。

「余り私から離れないで下さい。特に、迂闊にその辺の物陰に入らないで下さい。
私の予想通りだと、死にます。灰も残さず」

「物陰?灰も残さず…おいっ、お前の予測って…」

今回はここまでです。
続きは折を見て

それでは今回の投下、入ります


 ×     ×

「ウンディーネ…」

「ラプ・チャプ・ラ・チャップ・ラグプウル…」

類似系統の魔術、単純な力比べだった。

((出来る…))

互いに池の水を支配し相手を打ち倒さんとする魔術が
ギリギリと押し合いへし合い今にも弾けそうにせめぎ合う。
その意味で、タイミングとは言え水柱を維持したまま挑んだメアリエは少し後悔する。
日本人にして想像以上に出来る相手だ、本来余力を使っていられる状況ではないのだが、
今更足場を緩めたら当然真っ逆さまだ。

かと言って、池の畔からメアリエと一進一退の攻防を展開している夏目萌通称ナツメグとて
コメカミから背中からじっとりと汗を掻いて、決して楽観できるとは思っていない。
相手は相当な実力者、互いに一番よく知る分野だからこそそれがよく分かる。

しまいに、二人の間に当たる池の縁近くで爆発音と共に水柱が上がり、
メアリエは崩壊した水柱に呑まれて沈まない深さの池に浸かり、
ナツメグもその場に尻餅をつく。

顔を上げたメアリエは、ナツメグの背後から現れた増援を見て歯がみをする。
現れたのは、ナツメグよりも二つ三つ年上であろうか、
すらりとした背の高いスタイルにロングの金髪、日本人が言う所のハーフ美少女にぴったりな姿形。

最悪なのはゴシックの黒衣に影法師を何体も従えていると言う事だ。
黒い外套に白い仮面の影法師、一見すると仮装行列だが、
影法師と言うのは例えでもなんでもなく、


(…操影術者…)

メアリエはぐっとそちらを見る。その、やや誇張された人間大に実体化された影法師は四体、
しかも、内一体は黒い触手で拘束されたマリーベートを引っ立てている。
メアリエが感じ取れる様々な事からも、金髪の術者が相当な実力者である事は分かる。
対して、メアリエはせめて少し休めば、
と、思うが、一連の闘いで魔力を使い果たした今の自分は、素人相手でも危ないぐらいだ。

「お姉様」

ナツメグに声を掛けられ、金髪の操影術者高音・D・グッドマンは頷く。

「どこのお馬鹿さんかは知りませんが、
よりにもよって科学の学園都市で一般人を巻き込んでの馬鹿騒ぎ、
こちらの作業に支障が出ます」

高音が凛とした口調で言い、右手を掲げる。

「拘束させていただきます!」

手ぶらの影法師がばばばっと池に走る。

「!?」

メアリエに殺到した影法師達が、到達しようという正にその時、
横殴りの火炎波になぎ倒された。

「来ます!」

愛衣が叫びと共に右足を引いた。

(作者コメント)ごめんミス。
以下の投下最初と重複する前レスの最後の部分は削除って事でよろしく
では続き。
==============================

 ×     ×

「来ます!」

愛衣が叫びと共に右足を引いた。

「紫炎の捕らえ手っ!」

背の高い赤毛の男がマントを膨らませて突っ込んで来る。
赤毛マントの手からごうっと炎の剣が立ち上り、
愛衣の放った捕縛魔法がその炎剣に押し潰された。

愛衣が速攻の無詠唱で幾つもの火炎弾を放つ。
その火炎弾が迎え撃つ火炎波に呑み込まれる。
愛衣は、顔の前で箒を立てて、たっぷり余勢を残した火炎波に対抗して防壁を張る。

素人じゃない。
上条当麻は、その言葉をそっくりそのまま返してやりたい所だった。
赤毛マントのステイル=マグヌスの事は知らない間柄ではない。
従って、今ステイルが振るっている炎剣の事も知っている。

上条の目の前で押され気味の愛衣だが、それでも、
火力そのもので触れたら命に関わる炎剣を箒でさばいて善戦するなど、
技術だけではなく素人に出来る事ではない。
愛衣が、独楽が上手く弾き飛ばされる様にステイルから離れて着地した。

「おいステイル、こいつは一体どういう事なんだよっ!?」

上条当麻が叫ぶ。
ステイルのやや気怠げな視線が、当麻を一瞥しその背後に向かう。

「麻帆良が探りを入れているとは聞いていたが…」

「どういう事ですか?」

相手の呟きはよく聞こえなかったが、とにかく愛衣はぐっと前を見て問いを発する。


「Fortis」

ステイルの呟きを聞き、上条が前に出ようとする。
その更に前に、駆け付けた愛衣が立ちはだかった。

「下がってっ!!」

「931」

上条が愛衣の叫びを聞いた時には、前方にオレンジ色が広がっていた。

「魔法名、本気かよっ」

(魔法名を知ってる?)

ステイルの初撃で防壁ごと半ば飲み込まれていた愛衣が、
次の一撃でまともに弾き飛ばされた。

「大丈夫かっ?」

「下がって」

右手を上に掲げ、胸と左腕で背中からぶつかって来た愛衣を抱き留めた上条に、
愛衣が鋭く言った。

「下がって、すぐに逃げてっ!!」

愛衣が叫びながら近くの空中から放った光の矢を、
ステイルが軽く避ける。
その間に、愛衣が横っ飛びしながら繰り出す光の矢が、
ステイルの魔力を帯びた炎剣で一蹴された。
愛衣が、地面で受け身を取ってからクラウチング・スタートの姿勢で撃ち出した火炎弾を
ステイルはうるさそうに炎剣であしらう。
そのまま伸びた炎剣の横っ面を、立ち上がった愛衣の箒が叩いて辛うじて直撃を反らす。

「魔法名は名乗った筈だが?」

「だったら、一般人は巻き込めない」

「そうかい」

愛衣がその声を聞いた時には、愛衣の縦に持った箒が炎剣にギリギリ押されていた。


(流石、角度が、取れない)

「吸血殺しの紅十字っ!!」

反らせなければ地力の差になる。押し負けて後ろに跳んで逃れた愛衣を、
炎剣を二刀流で振りかざしたステイルが追撃した。

「か、はっ………」

攻めと守り、魔力と魔力のぶつかり合い。
結果、愛衣の体は弾き飛ばされてその背中はアーチの柱にまともに叩き付けられた。

「時間が惜しい。その影の加護がある内に
君が尻尾を撒くのが互いの正解にしか見えないが」

ずるずる尻餅を着いた愛衣に、ステイルは無感動に告げる。
そして、ステイルが一歩踏み出した瞬間、愛衣からステイルの直線上の地面から
ぼっぼっぼっと火炎弾が打ち上がる。

「それが返事か」

すっ、と、一歩引いて交わしていたステイルが右手を掲げた。
ごうっと逆袈裟斬りの炎剣を交わして、愛衣は後ろに跳躍する。

「!?しまっ!…!」

その愛衣の体は、その辺に幾つも並んでいる石造りのアーチの一つにすっぽり飛び込んでいた。

「………」

死すら覚悟していた愛衣が目を開くと、
体ががっちり抱き留められている。


「…あ…」

「迂闊に物陰に入るな、って言ったのはお前だろ?」

「え?」

状況を確認する。
愛衣は、上条当麻の左腕に抱き締められた状態で、アーチを出て地面に転がっていた。
アーチの中を見て、改めて愛衣の顔から血の気が引く。

発動前に間に合ったのか、そんな暇は無かった筈だがそうとしか思えない。
とっさに全魔力を防御に回して、それでも生命維持を最優先、と言う状態だった筈だが。
とにかく、生身の人間が発動後に飛び込んでいたら、死ぬどころか消滅しかねない。
それでもなんでも、飛び込んで助けてくれたのは確かな訳で。

とにかく、愛衣は慌ててその場から半ば蛙の様に後退する。
その後であの少年を、と見返して息を呑む。

「何?」

愛衣は思わず呆然と座り込んでいた。
ステイルの炎剣は、たった今自分も闘ったばかり、
その方面に多少の覚えがある愛衣でも対処は至難の業の生半可な威力ではない。

だが、あのウニ頭の少年上条当麻は、魔法の欠片も見えない丸腰で
ステイルの「魔法名」つまり「殺し名」を相手にして、
原形を保っているどころか生きているどころか取り敢えず大ケガ一つしていない。

「な、何?」

愛衣は、立ち上がろうとして更なる異変に気付く。
脚に力が入らない。そして、両目から止め処なく涙が溢れ落ちる。

「う、嘘、やだっ」


離れた所でアーティファクトで身を隠しながら、
村上夏美の視界に狼狽を見せる愛衣の表情が入る。
恐らく、あの時と同じだ。
あの時、鏡で自分の顔を見た訳ではないが、思い出す迫る石剣舞う帽子。
それを感じながら、夏美は思う。自分とはタイプの違う愛衣が
この感情をどう処理するのだろうか、理屈で言えばその様な事を。
その愛衣は、気付いた事があってすーふーと呼吸を整えていた。

「…メイプル・ネイプル・アラモード…」

愛衣が魔法の始動キーを唱える。
押されているのは上条だが、それでも何とか攻撃を凌いでいる。
愛衣が、ばんっ、と両方の太腿を手で叩く。仕掛けるなら今だ。

「いいぜ、お前ら魔術師が好き勝手やろうって言うんなら…」

「紫炎の捕らえ手っ!」

「!?」

ステイルが発動を察して引きつった顔を愛衣に向けたが、
その時には緩い螺旋の炎がステイルに向かっていた。

「その幻想をぶち殺す!!」

「!?」

「…へっ?」

愛衣は、一瞬の満足の後、ぽかんとそちらを見ていた。
確かに、ジャストタイミングで捕縛魔法がステイルを捕らえた。
筈だったのだが、その次の瞬間には、
手慣れた魔法、十分に練られた筈の炎の戒めが綺麗さっぱり消滅していた。


「…さて、馴れ合うつもりは無いんだが。
君には礼を言うべきなのか、ねっ!」

「ちっ!」

「…あわわわ…」

意味不明の事態に愛衣の脳内処理が急ブレーキしている間に、
勢いを取り戻したステイルの炎剣が上条を追い詰めていく。
対処しようとしても、捕縛魔法を使わずにステイルをどうにかしようとした場合、
その上で上条を巻き込まない職人芸は容易な事ではない。

ステイルに追い込まれ、上条の体が、先ほどとは別の石造りのアーチの中に飛び込む。
二人の距離が開いた、そう見た愛衣が出せるだけの無詠唱の火炎弾をステイルに撃ち込むが、
それはことごとくステイルの炎剣に呑み込まれた。

「イノケンティウスッ!?」

前方で起きている現象に愛衣が悲鳴を上げて駆け寄ろうとするが、
その目の前を炎剣が横切って愛衣は辛うじて箒でそれを反らす。

「無駄な時間はとりたくないんだがね。
あのまま大人しく腰を抜かして漏らしていれば命まではとらないものを」

「漏らしてないからっ!!」

愛衣が叫ぶ間にも、上条がいるアーチは炎の巨人に飲み込まれようとしていて、
愛衣の耳にも、工業レベルの高温によりアーチの軋む嫌な音が届くぐらいだ。
愛衣の知識では、あそこにいる上条が魔力的科学的に特別な防禦も見せずに生きている、
と言うか肉体を維持出来ている事からして理解の埒外だ。
愛衣自身も、ステイルが繰り出す鋭い炎の斬撃を箒で反らし続けているが、
この程度で済んでいるのは、さしものステイルもイノケンティウスと炎剣の両面展開は多少なりとも面倒だから
こちらは牽制で済ませて貰えていると、その辺りの事も愛衣は理解している。
ステイルがちょっとばかりこちらに本気を出すだけで愛衣は即座に命の危機に直面すると。

「メイプル・ネイプル・アラモード…」

詠唱と共に、愛衣は斜めに跳躍した。
愛衣の箒から、強化された炎の帯が発せられる。
それは、ステイルの横を斜めに走り、防護の檻となって上条を取り巻く。
が、取り巻いたと思った途端、檻は雲散霧消した。


「どうして?」

ぺたんと座り込む愛衣をチラッと横目に入れて、ステイルは僅かに嘆息する。

「おいっ!」

アーチが業火に包まれるのを見て、千雨も夏美も青ざめて硬直する。
その千雨の叫びを背に、アリサが隠れ身のチェーンを離れて駆け出していた。

「!?」

愛衣が魔法で身体を強化して駆け出す。
その目の前で、アーチが、一際嫌な音を立てて崩壊する。

(間に合わないっ!)

愛衣が魔力を練る。最大出力の物理的ショック弾で上条を体ごと吹っ飛ばす事を考える。
それだけで大ケガしかねない威力だが完全圧死よりはマシだ。
だが、それ以前に頭の隅に引っ掛かるのが先ほどからの上条の特異現象。
だが、考えている暇は無い。

「やめてえぇぇぇぇぇっっっ!!!」

今回はここまでです。
続きは折を見て、








赤松健先生













本当にありがとうございました










それでは、今回の投下、入ります。










 ×     ×

「!?」

一瞬、石段を上がって立ち尽くし悲鳴を上げたアリサに目を向けた愛衣は、
視線を戻し、目撃した。奇蹟を。

横棒の形で上条の上に降り注ごうとしていたアーチの横棒の石柱が
空中でバカンと真っ二つにへし折れて上条の左右の地面に突き刺さる様に落下した。
そして、ステイルはあからさまに嫌な顔で舌打ちをしていた。

そのステイルが振り向き様に炎剣を振るい、迫っていた触手の束を払いのける。
振り返ったステイルと高音が対峙する。
その間に、解放されたはいいが肝心のアリサを見失い、
つい先程まで高音の足止めに徹していたマリーベートとメアリエが追い付いて四角形となり、
高音の隣にナツメグがついた。

その側に、ジェーンと長瀬楓がスターンと着地した。
涼しい顔の楓の前で、ジェーンは両膝を手で押さえて荒い息を吐く。

「Stale Are you…」

「日本語で結構、君のアメリカ英語とまともな日本語ならね。
もっとも、答えるつもりもないが」

問いかける愛衣に、ステイルはすげなく応ずる。

「この科学の学園都市で魔術のもめ事を起こしておいて、それで通るとでも?」

高音が続いた。


「このタイミングでと言う事は、そちらの狙いも同じと言う事か」

「質問で返さないで下さい」

「だから答えるつもりもない。彼女の事はこちらで扱う、退いてもらおう」

「たまに勘違いしている人がいる様ですが、
魔法協会が十字教の下についたと言う事実は存在しない」

「魔法使いが僕らを妨げると?」

「押し通りますか?」

「ちょっと待てえっ!!」

ズンズン盛り上がるステイルと高音の会話に怒声が割って入った。

「何やってんだてめぇらっ!?
何アリサを魔法使い同士の景品にしてやがるんだてめえらはっ!?」

「ん?全く、困ったものだ」

「!?」

駆け上がって怒号を上げた千雨の目の前で、ステイルの炎剣を愛衣の箒が抑える。

「少しは場数を踏んでいるか」

単に反応出来なかっただけだが、
腰を抜かして漏らさなかったのが上出来だと言うのが千雨の実感だった。

「次は無いでござるよ」

それは、仲間も滅多に聞かないゾッとする様な声だった。
ステイルもこれまで経験した修羅場が無ければ、
腰を抜かして漏らすイメージも決して遠くはないと実感する。
ステイルが鼻で笑って両手を上げ、苦無を手にした楓がステイルの背後から離れる。


 ×     ×

「こないな所で高みの見物か、姉ちゃん」

とあるビルの上、犬上小太郎は不敵に笑った。

「!?」

相手がゆっくり、悠然と振り返るのを見届けた小太郎が一踊りして、着地する。
着地した小太郎が、左腕の裂けた学ランの中をぺろりと舐める。
その小太郎が見据えた相手は、たった今、悠然と小太郎の方に向き直した美女だった。

長い黒髪を後ろで束ね、臍上をばっさりカットした白いTシャツに、
こちらこそ片脚をバッサリ切り落としたジーンズと言うラフなスタイルは、
縦には目を引く背の高さ、それでいてバンとばかりに出る所の出た
抜群のプロポーションに見事にはまってる。

そんな長身美女神裂火織が、それこそ平均男性の背丈を上回る長さの刀、儀式用の令刀を構える。
その姿は、イカレてる様だが野性味溢れるファッションも相まって実に凛々しい。
小太郎が駆け出し、令刀の鯉口が切られた。
ニッと笑った小太郎は、ダンスの様にキレた動きを見せながら神裂に向けて突き進む。

「!?」

小太郎の元いた場所から神裂までの中間点辺り、そこで小太郎が屋上の床に右手を着く。
右手を中心に床に影が広がり、二次元から三次元へと実体化を始める。
影から現れた黒狗の群れが小太郎の露払いの如く神裂に躍りかかり、
そして瞬時に弾かれる様に消滅する。

「狗神ですか」

呟きながら神裂は、タッ、と垂直ジャンプする。
その下で、体のあちこちからたらりと血の筋を溢れさせた小太郎が、
カポエラだが骨法だかを見真似に応用した超低空キックを空振りさせていた。

トン、と、神裂は屋上の縁に丸で危なげなく片足で直地した。
着地した、と、思った時には、神裂の姿は小太郎の目の前にあった。
半ばリンボーダンスをして身を交わした小太郎は、じっとり走る冷や汗をごまかす様に口笛を吹く。

その小太郎の上空を突き抜けた神裂の脚が、
小太郎に向けて突き、薙ぎを浴びせようと吸い付く様に繰り出される。


「や、やるやんけ」

とにかく、一瞬でも気を抜いたらブチ抜かれる、その恐怖と闘いながら屋上を踊り、
ようやく大きな動きで間合いを取った小太郎は強がってはいるが、冗談ではない。

まず、絶対交わしたと思った脚の薙ぎが鋭く顎をかすめ脳を揺らされた。
それ以外にも、クリーンヒットは確実に避けている筈なのに、
神裂の見事な脚線美が閃く度に吐き気がする程にダメージが蓄積している。
それを、蹴り技だけでやってのけた上に実力の何分の一にもなっていない筈。

「その歳にしては筋がいい、相当な鍛錬と実戦をくぐり抜けた動きです。
だからこそもういいのでは?」

「何?」

歯牙にも掛けない余裕綽々、むかっ腹の一つも立てたくなるがそれを当然とする力量。
小太郎の肉体と感情がぐるぐる回る。

「例え、その帽子を不要にした所で私には指一本触れられない、とうに理解している筈」

「言うなぁ、ああ、いたなそういう事言われたわ、ついこないだの事の筈やけどなぁ」

小太郎の表情に、神裂は一瞬こぼれそうになる笑みを呑み込む。
いい目だ、違う場面であれば存分に稽古を付けてやりたいものだと。

「なかなかおもろい手品やったけど、そのデカブツ只の手品ちゃうやろ。
紐付きやなくてもそんなん使うのあんただけちゃうからなぁ。
目配り足運び、みんなよう分かる。
抜いてみぃやオバ――――――」


 ×     ×

「日陰で黙々と人助けをしていると思うから見逃してやっているものを、
表裏の管理もろくに出来ないでは、少し考え直す必要があるのかな」

「魔法協会が十字教の許認可団体だとでも思っているのなら、
まずその幻想をブチ…」

次の瞬間、高音とらちもない言い争いを続けていたステイルは血の凍る心地を味わった。
気付いた時には俊敏に動いた長瀬楓が自分の側を通り過ぎており、
ステイルがそちらを見た時には、楓は力強く二刀流の苦無を奮っていた。

「何だっ?」

ステイルは、その苦無が、宙を飛んでこちらに殺到していた
ワイヤー付きの円錐を弾き飛ばしていた事に気付く。
その楓が巨大な丸鋸を思わせる巨大手裏剣を斜め上の空に向けて放つ横で、
ステイルがその出所、アーチの上に向けて炎剣を飛ばす。
確かに手応えはあった。この業火にも揺るがない何かがそこにある。
面倒な事に、その「何か」は物理的に炎の障壁になりつつ、
それ以上の姿がこちらからは見えない。

「来るでござる」

「くそっ!!」

楓の呟きに、千雨と夏美がアリサの元へと走る。
複数の何かが姿を現す。
よく見えないが、その駆動音から相手はメカと千雨は見当を付ける。
周囲に、フリスビーをずんぐりさせた様な何かが降り注ぐ。
そのフリスビーに、先程の円錐が殺到した。

「交わせっ!!」

「メイ、ナツメグっ!!」

「「はいっ!!」」

ステイルと高音の叫びが交錯し、呼びかけられ二人も動く。
池のある丘一帯が、オレンジ色の爆発に包まれた。


「………助かった………サンキュー」

「はい。只、どちらかと言うと見た目の割にはコケ脅しですねこの爆発」

「コケ脅し?」

ナツメグこと夏目萌と共に魔法防壁で千雨達を守った愛衣に千雨が聞き返す。
断続的な爆発に終われる形で、どうやら全員池の丘から降りた様だ。

「ええ。この炎の加減だと、そうなる様に繊細に計算された爆発の様です」

愛衣の説明を聞きながら、千雨は新手の正体を見定める。
千雨達の周囲は、公園の方々にあるアーチ状建造物の上に配置されたメカ達、
甲虫と鴉をミックスした様なデザインの黒い機械に囲まれていた。

「我々は、学園都市統括理事会に認可を得た、
民事解決用干渉部隊である」

「マジかよ…」

長谷川千雨は、麻帆良学園都市の住人である。
科学の学園都市とは系統が違うが麻帆良学園都市も先端科学の街であり、
目の前でアナウンスしている機械が、一人乗りの有人多機能メカであろう、と言う大体の見当は付いた。

加えて、千雨は嗜みとしてフィクションにもそれなりの造詣がある。
更に、丸でフィクションみたいな変な世界にも実体験としてそれなり以上の知識を持っている。
科学の学園都市に就いても、ネット上で可能な限りの下準備はして来た。

科学の学園都市は実質独立国家であり、独自の治安システムを持っている。
その一環として、言わば民営にして公に近いタイプの警備部隊が存在する。
情報の欠片は持っていたし、そう考えるとしっくり来る。


「これより特別介入を開始する」

「千雨殿、皆をっ!」

「分かった!アリサっ!!」

「は、はいっ!」

楓に促され、千雨がアリサの手を引いて逃げる。
その楓の目の前では、部隊メカが一台、楓を捕らえようとして
身を交わした楓の放った鎖を食い込ませ不快音を立てて軋んでいた。

「メイ、ナツメグッ!」

「はいっ!」

高音が踵を返し、後の二人を連れて逃走を開始した。

「ええいっ!」

思い切り跳躍した愛衣が、強力な火炎魔法を帯びた箒を力一杯振り下ろす。
丸で漫画かゲームの巨大ハンマーでも食らった様な一撃に、
その目の前を跳躍していた機動メカが一台ふらふらと着地して停止する。

今回はここまでです。
続きは折を見て。

SS速報避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/

生存報告しておきます

生存報告です

調整的生存報告です

生存報告です

調整的生存報告です

生存報告です

生存報告です


お久しぶりです。
随分と間が空いてすいません。

早速ですが、訂正です。

>>62
×断続的な爆発に終われる形で、
○断続的な爆発に追われる形で、

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>64

 ×     ×

神裂が瞬時に飛び退き、小太郎に背を向けた、
次の瞬間には、ビルの外から神裂の目の前の空中に「黒鴉部隊」のメカが現れ、
神裂とメカの間で爆発が巻き起こる。

「………やりますね………」

呟いた神裂は、そのまま下のステイルに撤退を指示する。
こんな連中まで関わって来たとなると、
これ以上引き延ばせばここの正式な警察機関である警備員の介入を招く。
そもそも正規の許可を受けての出入りですらない、
ここでは存在自体が御法度の魔術サイドとしては論外の事態だ。

「あなたも、背中を狙わなかったのですね」

「アホ抜かせ」

ぼそっと言った小太郎は、
ほんの一瞬とてつもない気が神裂から噴き上がったあの時、
少なくとも10万3千通りは展開された自分のサイコロステーキの妄想を汗と共に拭い去る。
すれ違い駆け抜ける神裂を、小太郎はやる気なさげに手を振って見送った。

 ×     ×

「鳴護アリサに関わるな、死ぬぞ」

その少女は、黒いライダースーツの様な強化服がよく似合っていた。
歳は余り自分と変わらないのだろう、セミロングの黒髪でキリッとした雰囲気。
見た目は美人の部類に入れてもいいだろう。

だからと言って、機動メカから出て来た少女に告げられた言葉に納得した上条当麻ではない。
だから、懸命に追走し、通りの真ん中で停止したメカから現れた黒い少女に散々に食い下がり、
その結果がこの最後通告だ。

そして、少女は警告した先からオートマチックの拳銃を抜いている。
いやいやいやいや、言ってる事とやってる事が違う、
右手以外は一般人である筈の上条さんとしてはあんだけ言っといて今殺す気ですかあんた、
と、内心の突っ込みが口から出る前に、少女は無造作に発砲する。


「よう」

着弾した建物の陰からメカの機体に跳び乗った小太郎が不敵な笑みを見せた時には、
拳銃は右手から左手に移り、ナイフが突き、退いていた。

「ナイフと拳法をいっぺんに使う、あっちの軍隊の流儀やな」

「貴様も素人ではないな」

既に拳銃をしまい、女性にはごついナイフを片手に構えを取る少女と、
急所こそ外した一撃を交わした小太郎が向き合う。
少女もコクピットを完全に離れ、機体上での攻防が開始された。

鋭い刃を交わす小太郎の動きには、まだ余裕があった。
しまいに、小太郎はナイフを手掴みにしてへし折って見せる。
だが、少女は表情に驚きを見せながらも即座にナイフを捨て、
小太郎の脇腹目指して右脚を跳ね上げていた。

「いい判断や」

小太郎は回転しながら大きく後ろに跳び、通りに着地する。

「!?さっきのかっ!」

先ほど、屋上での片脚ジーパン姉ちゃん神裂火織との攻防は見ていた。
正確に把握した訳ではないが、とにかくワイヤーに繋がった爆弾、
実際にはレアアースペレットが幾つも放たれ小太郎の上で展開しているのは確か。

「おいっ!」

離れた所で事態を見守るしかなかった上条当麻の叫びも虚しく、
レアアースペレットはオレンジ色の光を放ち爆発する。
その跡には、肉片一つ残っていなかった。

「逃げたか」


 ×     ×

「な、なんなのよ、こいつ」

夏美が震えながら呟く。
高音チーム、ステイルチームはそれぞれに逃走。
ステイルが工業レベルの高温火炎で、メアリエが消火栓の水を暴走させ、
マリーベイトが土の筒を絡めてメカを文字通り足止めしながら逃走するのを、
上条当麻も追走して姿を消した。

長瀬楓も別の機動メカに追われて姿を消し、残ったのは火力最低少女四人組。
夏美と千雨、アリサにシスターが手を繋いで公園に残っているのだが、
その理由はひとえに動けないから。
黒い機動メカが一台、夏美達の周囲をうろうろして離れようとしない。

「センサーだ」

千雨が言った。

「このアーティファクトは存在感を消すだけ…」

「アーティファクト?」

シスターの呟きが聞こえるが、千雨は少し失敗を自覚しつつ言葉を続ける。

「多分、センサーで機械的にここに人間の反応がある事を察知してる。
だけど、パイロットの脳が私達を認知出来ないんでうろうろしてるって状態に見える」

「そしたらどうするのよ?」

「あのメカのコンピューターに七部衆が干渉してる、じゃなかったらとっくにやられてる。
それでも、こっちに直撃が来ない様にごまかす時間稼ぎが限度だ。
私が直接干渉したら攻撃判定で村上のアーティファクトが剥がれて
メカを乗っ取る前にこっちの居場所が割れるし
その前に割り込むには防壁が硬過ぎる、流石は科学の学園都市だ」

言ってる先から、機動メカに上からすごいあつりょくが叩き付けられ、
メカが煙を上げる。


「こ、この…」

「あらよっ!」

コクピットが開き、中の男性隊員が拳銃を抜こうとしたが、
小太郎が頭突きでKOするのが先だった。

「小太郎君っ!」

「助かった」

夏美が叫び、実際は腰が抜けそうだった千雨もふうっと嘆息した。

「いるでござるか?もうこの辺りは大丈夫でござる」

しゅたっと着地した楓が言い、一端隠れ身を解いて合流した。

「さて、こっからどうするかだ」

とにかくぐっちゃぐちゃの状況を千雨が整理しようと周囲を見回す。

「アディウトル・ソリタリウス」

荘厳に澄んだ発音を聞き、千雨がそちらを見た。

「日本語だと孤独な黒子。
日本語だと皮膚の黒い点とか学園都市産のグドンのエサも同じ漢字を当てるみたいだけど、
同じ意味の漢字で言うなら、お芝居で黒い服を着て、そこにはいない事になっている人だね。
言い伝えられているだけでも280年前より後の記録が無い魔法具。
生きている間に伝説通りの効果を身をもって知る事が出来るとは思わなかったんだよ」

そう言いながら、シスターは、きょとんとしている夏美から視線を移す。

「パクティオーカードと言う事は君がマスターなのかな?
日本でも西の方の魔術師は西洋の魔術を使うのを嫌う人が多いって聞いていたけど」

ちょっと聞く分には子どもっぽい口調でもあるが、穏やかな威厳すら感じられる。
そんなシスターの声に夏美が息を呑み、小太郎が身構えた。


「君の術式は陰陽術、基礎を覚えて、後は使う所を我流で摘む使い方だね。
体術の補助に、「血の制御」にも使っているんだね」

小太郎の眉がぴりりと上がった。

「あなたの後ろに隠れているのは雷の精霊、
電気を媒介に急速に発展した科学に介入するために進化した変種だね。
直接知らなくてもコンセプトから理屈は分かるんだよ。
いとめののっぽさんは甲賀流の忍者さんだね」

「何の事でござるかな?」

ごくりと息を呑む千雨の側で楓が飄々と応じる。

「甲賀忍術の発祥は諏訪明神、そこに地理的な条件が加わって
薬草使い、陰陽道、密教、修験道、各種の山岳信仰の魔術と科学が実用的に進化したのが忍術。
日本の戦国時代には軍師と呪術師の明確な境界線は無かったんだよ」

「な、何なんだよ、こいつ…」

「それで、どうするの?」

焦りを見せる千雨に、シスターは静かに尋ねる。

「さっきの黒いサラマンダーも知り合いなんだね。
サラマンダーが使っていた箒はオソウジダイスキ。
いわゆる魔女の箒を定形化した、「学校」の魔術師を中心に使われているもの。
基本から体系的なラテンの詠唱魔術を使う統率のとれた集団。
日本、それも関東であの歳であれだけの実力でそういう魔術集団は一つしか考えられないんだよ。
あなた達は別行動だったみたいだけど、
そういう繋がりがあってこれだけの魔術を使う集団がここに、学園都市にいていいのかな?」

「ヤバイぞ」

「で、ござるな」

チラと周囲を伺った小太郎と楓が、揃って硬い口調で言う。


「これ、いよいよ警察か何かか?」

「その様でござるな」

「アンチスキルが来たのかな?
だったらこれ以上いられない、あなた達はもっとだよね。
行こう、アリサ」

「え?」

元々通じない話を千雨達に向いて喋っていたシスターに
不意に声を掛けられてアリサも戸惑いを見せる。

「頼んでいいんだな」

「アリサは私の、私とととうまの、大切な友達なんだよ」

「頼んだ」

「夏美姉ちゃん」

「分かったっ!」

間一髪、千雨とシスターの間で合意が成立し、
アリサ達が姿を消して夏美に始まる人のチェーンが繋がるのと、
アンチスキルが本格投入されるのは辛うじて入れ違った。


 ×     ×

「転移ポイントはっ!?」

「もうすぐですっ!」

「ん?」

上条当麻は、本日も不幸であった。
ここまでの騒ぎとなると、流石にアンチスキルも動き出す。
そもそも、「学園」と「都市」が同義語に近いこの学園都市では、
学園的秩序、発想に直結して学生の夜間外出自体が厳しく制限されている。

と言う訳で、上条当麻は今日も走る、走る走る走る、
目の合った職務熱心な警備員ボランティア先生を振り切るべく全力でダッシュする事幾度か、
薄氷を踏む思いをしながら、目の合わない内に建物から建物へと駆け抜けた事が幾度か、
近くに聞こえるサイレンと逆方向に駆け出した事もしばしば。

そうこうしている内に、既に大方の営業が終わったビル街で、
上条の視界を見覚えのある人影がよぎった。

「おいっ!」

ビル街の中の空き地で、
高音・D・グッドマン率いる魔女見習い三人娘は呼びかけに振り向いた。

「あの人…」

全三人のチームの内の一人、佐倉愛衣が呟く。
視線の先で両手を腿に当てて息を切らしているのは、
先ほどなし崩し的に共闘する事となったウニ頭の少年だった。

「ハァハァ一体ゼェどういうハァ事なんだゼェゼェっ!?
どういうハァハァ事なんだ?
ゼェハァお前達もゼェ魔術のゼェ人間なんだろ?ハァハァ
魔術の人間がどうしゼェゼェてアリサをゼェゼェ襲う?アリサに何がハァハァあるって言うんだ?」」

「お姉様、時間が。それにこれ以上は…」

同行した夏目萌に促され、
元来の誠実な性格でウニ人間のブツ切り言語を解読しようとしていた高音が頷いて歩き出す。


「待てよっ!」

力強い怒声が、三人の歩みを止めた。
そして、振り返った三人の美少女は、叫びの主、上条当麻と正面から向き合う事となる。

「お前ゼェゼェら魔術ハァハァ師ハァハァアリサハァ、ハァ」

既に相手の事すら半ば見えない状態で、只、逃がしてたまるかと言う一念だった。
駆け出した上条当麻だったが、体力は限界。
言葉もほとんど繋がらず、吐き気を抑え込むのがやっとの有様。
それでも、歩みを止めた三人にようやく向き合う事が出来る、
と言う客観的状況下で、上条の脚が限界を迎えた。

「お前ハァハァらハァハァアリサハァハァにハァハァ」

もつれた足が大きめの石ころを踏みつける。
完全に限界を迎えた脚の均衡が崩壊する。
三人の美少女は一歩、二歩と、上条当麻に正面から向かい合う形で後退していたが、

「ハァハァ一体ハァハァ何ハァハァをハァハァハァハァ」

何とか痛い転倒は回避しようとした上条当麻は、
ゴシック調の揃いの黒衣姿で自分の方を向いて横並びに立っている
目の前の三人の中でも真ん中で一際背の高い、
金髪のロングヘアがよく似合う美少女の肩を、空中を泳がせていた
右手で、ガシッ、と掴んでいた。


==============================

>>73

今回はここまでです。

これの元となった過去作を映画の記憶で描いた時とその後に観直したものとで、
規模等にかなりの違いが見られましたので、この公園戦に関しては大幅な書き換えを行いました。

続きは折を見て

生存報告です

生存報告です

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生存報告です

はい

生存報告です

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生存報告しときます

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このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 17:42:20   ID: S:nNN8D1

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