長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」 (979)

「魔法先生ネギま!」と映画「エンデュミオンの奇蹟」(とある魔術の禁書目録)
のクロスオーバー作品です。

ネギま!の終盤からのサザエさん時空が映画の時期にリンクしています。

自分でも先が計り切れませんが、当面の予測として
多分、ネギま!側がメインの進行になります。
ネギま!一通りと禁書の映画(と前提になる禁書)観てないと厳しいと思います。

正直言って、自分の禁書の知識、地雷あるかも(汗)、
ご都合独自解釈もありますが、爆炎上げて吹っ飛んでる様でしたら、お手柔らかに

それでは投下、スタートです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1368805523

ネギま!は最低何巻読んでおけばいい?
長すぎて読む気がなかったし、打ち切りだった記憶が……

>>2
早速にどうも。
ごめん、最終盤からのリンクです(汗)
只、そこまで読まないと理解出来ない話になるか…
網羅的に参照してそうで正直把握しきれてません。

>>1

 ×     ×

一見すると、ちょっと変わった姉弟、と言った所だろうか。
姉の方は、日本人の目線で言えば白人ハーフの日本人を普通に連想させる
流れる様なロングの金髪も美しいすらりとした美少女。

弟の方は、その意味ではこの辺では珍しくないだろう赤毛の白人少年。
年齢は精々が十代前半かそれよりも下だが、
きちんとスーツを着こなしているのが変わっていると言えば変わっている。

それでは姉の方はと言えば、
見る人が見れば結構な金額になる装いをセンス良く着こなしている。
丁度お茶の時刻、ロンドン市内のオープンカフェで落ち合ったそんな二人は、
実際の所は姉弟と言う訳ではない。

「いかがでしたか、ネギ先生?」

金髪の美少女が尋ねた。

「有意義なお話しが出来ました」

ネギ先生と呼ばれた男の子がそう言ってにこっと微笑む。
金髪の美少女雪広あやかならずとも天使の微笑みと言う表現に躊躇は要らない。
回りくどい表現をしたが種も仕掛けも無い、正真正銘ネギ・スプリングフィールド先生である。
スコーンでミルクティーを楽しみながら、話を続ける。

「夕食の席で改めてお話ししたいと。
先方への取り次ぎに就いても色よい返事を頂きました」
「まあっ」

あやかが目を輝かせた。

「でも、よろしかったのですか?」

あやかが話を続けた。

>>3

「色々と事情があると伺いましたが。
やはり、わたくしのカードを使うのが確実だったのでは…」
「いえ、カードを使えば発覚してそれに対抗される、
最悪、それだけで宣戦布告とみなされてしまう。そう思った方がいい相手です。
それに、この先、どれだけ困難でも誠意をもって向き合わなければならない相手ですから」

ぐっ、と前を見るその表情を、あやかは優しく、そして惚れ惚れと眺めていた。

「それでいいんちょさん」
「はい、ネギ先生」
「お願いがあるんですけど」
「なんなりと」

「はい。それでは、僕も勉強はしたんですが、
改めて少し、日本の古文を教えていただけないでしょうか?」

「え?あの、ネギ先生?」
「はい」
「あの、確か、イギリス紳士であるネギ先生が
こちらの方と面談なされたのですよね?」
「ええ、そうなんですが」

 ×     ×

「メイゴ、アリサ、ですか?」
「知らんな」

長谷川千雨にとって、想定された通りの反応が返って来た。
場所は麻帆良大学工学部、葉加瀬聡美の研究室。
返答したのは桜咲刹那に犬上小太郎。
葉加瀬聡美は千雨、刹那と同じ女子校麻帆良学園中等部三年A組の生徒であるが、
大学にも研究室を許された天才科学者の一面も持ち合わせている。

「歌手のARISAの本名、って言っても余計分からなくなりそうだな」

そう言いながら、千雨が自分のノーパソを操作してアリサのサイトを映し出す。
そこに映し出されたのは、自身のキーボード演奏と共に歌うアリサの路上ライブの映像だ。
歳は千雨の一つ二つ上か、容姿は可愛いと言っていいだろう。

>>4

「…いいですね…」

刹那が言った。

「こういう歌は余り聴かないのですが、何と言いますか、いいです」
「あー、俺もそうや。そういうテレビとか見ぃへんけどなぁ。いいなこれ」

「ああ、歌手って言ってもマイナーだからな。今ん所路上やネットがほとんどだ。
実際いい歌だよ。何て言うか心が洗われると言うか、
例えば、アクセスランキングなんて詰まらないものに囚われて、
アリサのサイトにウィルス送り込んでやろうとか掲示板荒らしてやろうとか、
そんな邪な心を抱いたとしてもこれを聞いたらすっきり洗い流されるってぐらいいい歌だ」

「確かに、何かがありますね」

刹那が続ける。

「魔力的なものではありませんが、質のいい御詠歌を聞いた後の様でもある、
歌そのものの力なのでしょうか」
「そうですね、確かに脳科学的な音波、周波数のパターンの見地からも、
この歌に関するある程度の見解は出せるのですが、
やはり、そうした科学の領域を留保した感覚的なものがあるのではと」

刹那と聡美がそれぞれの見解を述べた。

「で、ひょんな事からこのアリサと知り合いになったんだ」
「千雨姉ちゃんがか?」
「ああ」

少々退屈の虫がうずき始めた犬耳ワンパク小僧犬上小太郎の問いに千雨が応じる。
千雨が「ちう」の名前で運営しているウェブサイトでARISAを紹介した所、
「ちう」の愛読者だったと言うアリサ本人からのアクセスがあり、
非公開のやり取りをしている間柄だった。

「未来のステージ衣装の事とか色々話している中で、
アリサの部屋撮り写真を何度かもらったんだが」

そう言って、千雨はプリントアウトした写真を何枚か取り出して刹那、小太郎に渡す。
当初は何と言う事も無く目を通していた二人が、眉をぴりりと動かし始めた。

>>5

「いるな」
「ええ、いますね」

写真に目を通す二人の呟きを聞きながら、聡美が室内の大型モニターを操作する。
そこに映し出されたのは千雨が受け取ったアリサの部屋の画像だったが、
モニターの中でその部屋の窓が徐々に拡大される。
その作業が、別の部屋撮り画像で幾度か繰り返される。

「なあ、何に見える?」
「魔法使い」

千雨の問いに、刹那がぽつっと応じた。
既に、刹那からは珍しい友人からの招きに寛いだ雰囲気は消え失せ、
その眼差しは頼もしい仕事モードだ。

「だよなぁ」

はあっと嘆息した千雨は、バリバリと後頭部を掻く。

「確定的な結論を出すには元の画像の質が不足していましたが、
分析結果として現時点で確実に言えるのは、対象は人間、判明している限り三人です」

聡美が説明した。

「変態コスプレストーカーにしちゃあ気合いが入り過ぎてる」
「只のコスプレやなかったら西洋魔術師やな」

千雨の言葉に、小太郎はややウキウキとした口調で言った。
只、刹那の周辺に洋の東西と外見とのマッチングに少々問題があるケースが無いではないのが引っ掛かる。

「場所は、どこですか?」
「科学の学園都市です」

千雨の言葉に、刹那と小太郎が顔を見合わせた。

「おかしい」

刹那が呟く。

>>6

「科学の学園都市がどういう場所だか、長谷川さんはご存じですよね?」
「まあ、表に出てる程度の事はな。
街ぐるみで最先端科学を研究してる実質的な独立国家」
「科学覇権主義、と言ってもいいですね。
今や、世界の科学技術そのものがあの都市のお下がりも同然。
それでいて、物理的にも法的にも厳重に閉ざされたブラックボックス」

聡美が言った。

「インターネットも、少なくとも科学の学園都市側からの発信は
何重にも検閲されています、想像を絶する技術で。

簡単に言えば、向こう側の人間でも害の無い限り支障はありません。
しかし、単純な単語検索を初めとして、
把握される流出情報の質や悪意のレベルに合わせて、エラーを偽装した差し止めから逆探知まで
直ちに対応出来るシステムになっている、と、
これが当たらずとも遠からじな実情であると私は把握しています。

加えて、そもそもソフトもハードも何世代も先に行っていますから、
基本的なものはとにかく、サブ的なものは、
向こうではそれが普通でもそんなものをうっかりこちら側に送られたら」

「ああ、まるっきり解読不能、下手すりゃ開いた途端に冷凍庫、何回か引っ掛かったよ」

聡美の言葉に千雨が応じた。

「より閉鎖的なのは魔法との関係です」

刹那が言った。

「端的に言います。科学の学園都市に魔法使いは立ち入れません。西洋東洋問わずです」
「そうなのか?」

「そうです。余りにも進みすぎた科学の学園都市の科学技術と魔法の技術。
それが交わる事で生ずる現実的、政治的な影響は未だ計り知れないと言う事で、
現時点では、少なくとも外交関係が成立している魔法の勢力は
科学の学園都市には関わりを持たない。その旨の協定を結んでいます」

「一時期はあったみたいなんですけどね」

聡美がデコを光らせながらくいっと眼鏡を直す。

>>7

「人間の能力に関して、彼らの科学は魔法を受け容れない。
どうも現時点ではそういう結論に達しているらしいんです」
「この辺じゃロボがうろうろしてるってのに、違うモンだな」

「ええ。こちらはそれこそ魔法を科学するのが流儀ですから、
その流れで色々と話を聞く事もあるんですけど。
一時期向こうでもそのギャップを埋める研究も進められていたらしいんですが、
事は人間の能力と魔術に関わる事です。
研究者のアングラ情報では何かイギリスで凄惨な犠牲が出て立ち消えになったと言う話も聞いています」

「人体実験で人体爆発もやらかしたのかよ」
「恐らくその線だと思います」
「取り敢えず、魔法関係でアリサさんが何か付きまとわれている可能性がある、と」
「そういう事になるな」

刹那の言葉に千雨が同意する。

「分かりました。少し心当たりを当たってみます」
「ああ、そうしてくれると助かる」

千雨が感謝を示し、刹那が頷いた。
一般人でいたい筈の長谷川千雨だが、今やネギ・パーティーと言うべき魔法勢力にどっぷり浸って
ついこの間夏休みがてら世界一つ救出して来た所だ。

そのネギ・パーティーの誰よりも頼りなく誰よりも頼もしいリーダーである
ネギ・スプリングフィールドは、十歳の少年にして飛び級卒業の千雨の担任教師であるにも関わらず、
ここ暫く、夏休み明けからずっとろくに学校にも来ておらず接触する機会が乏しい。

マイナーでも歌手が相手でもある。
千雨の周囲に事欠かない、火力はあってもやかましい面々は余り巻き込みたくない。
だからと言って、現在の実質的な担任とか色黒ノッポな巫女とか恐怖心が先に立つのもあれだ。

等と考えている内に、当面の相談相手としてこの人選に至ったと言う事だ。
人間としては誠実そのものである刹那はもちろん、元はいっぱしの悪ガキをやっていた小太郎も、
喋っていい事と悪い事の区別ぐらいは付くだろう。
見た所、裏側の知恵もある。何よりも半端なく強い。

>>8

 ×     ×

「よう」
「いらっしゃい」

麻帆良大学工学部を後にした千雨は、夕食後に女子寮の665号室を訪れ、
住人である村上夏美と挨拶を交わしていた。

「よっ」
「ああ」

リビングで、つい先ほど顔を合わせていた小太郎とも挨拶を交わす。
本来この部屋は村上夏美、那波千鶴、雪広あやかが住人であり
小太郎が暫定的に居候している状態であるが、
最近、夏美以外の元々の住人、特にあやかの外出は頻繁なものだった。

「いらっしゃい」
「ああ」

にこっと微笑む那波千鶴に千雨が挨拶を返す。
ゆったりした部屋着の上からも、やはり圧倒的な胸のボリューム、
だけではない、年齢さしょ…とにかく緩やかでいながら圧倒的に大人びた何かがある。

「どうぞ」
「ああ、ありがとう」

途中で思考を強制的な切り替えた千雨が、ウーロン茶を用意した千鶴に頭を下げる。

「珍しいな、そっちから呼び出しって」
「それはお互い様やけどな」
「まあ、確かに。さっきの件か?」
「ああ」

小太郎の表情は真面目なものだった。

「ちぃと、まずいかも知れんな」
「と、言うと?」
「問題は、刹那の姉ちゃんが言うてた心当たり、や」

「知ってるのか?」
「多分な。千草の姉ちゃん所で小耳に挟んだ。
だとすると、逆の目に出るかも知れん」

>>9

「何何だよ一体?」

珍しい奥歯に物が挟まった様な小太郎の言葉に、千雨が苛立ちを覗かせる。

「科学の学園都市で魔法使いがもう動き出してるって事になるとな、
その刹那の姉ちゃんの心当たりが当たりかも知れん。
まあ、簡単に言うとそういう事なんやけど、簡単に言えないから困るんやこの辺の関係は」

「つまり、そっちの業界の話か?」
「まあ、そういう事やな」
「つまり、桜咲が連絡入れる相手が実はストーカー連中と繋がってる、そういう事か?」
「ああ、正直あり得る状況や」
「じゃあなんで止めなかった?」

「そこや。特に刹那の姉ちゃんの場合、元々の人間関係なんかもあって、
あの話の流れだとそっちに話を持っていかなあかん、そういう関係もあるさかいな。
それが当たりやったら、ちぃとまずい事になるかもなぁ」
「何なんだよ、一体…
あいつ、アリサ、一体何に巻き込まれてやがるんだ」
「自分らで確かめるしかないなぁ」

バリバリと頭を掻く千雨に、小太郎が言った。

今回はここまでです。

作りながらこの辺でスタートしないと思考が迷宮突入しそうで
踏ん切りに始めたみたいな所がありますが、始めたからにはぼちぼち頑張ります。

続きは折を見て。

ほォ…ネギま×禁書とは珍しい!
ありそうで無かったクロスSSだから嬉しい!
両方共好きな作品だから期待!

禁書の「魔術」とネギまの「魔法」をいかに上手に使い分けてくれるかに期待

感想どうもです。

>>11
実際、難しいですよ。
大きく違う二つよりも似ている上にどっちもやたら凝ってるってなると、
齟齬があると小さくても硬い、ここは譲れないと言う定義、世界観の摺り合わせなんかが。

>>12
まあ、考えが無いではないですが…

汗ダラッダラで>>12 のレスを読んでいたと
サクシャは内心の動揺を押し隠し何食わぬ顔で着々と投下の準備をしています。

…と、言う事で、もしもの時は、
ちょっとばかし察してくれると嬉しい…

ついでに、細かい事ですが
>>6で間違えて千雨が敬語喋ってますね。

「場所はどこですか?」
「科学の学園都市だ」

これが本来の記述になります。。

では、今回の投下、入ります。

>>10
>>13

 ×     ×

科学の学園都市内境界周辺特別招待所。
日本に帰国したネギとあやかは、その高級ホテルでも十分通用する招待所の一室で待機していた。
ここ科学の学園都市は、国際法及び日本国の立法、公式見解の下に於いては日本国内であるにも関わらず、
独立国家に近い実質を有し外部の人間の出入りは厳重に制限されている。

ネギが交渉した英国の関係及び、
あやかの関わる科学の学園都市の外部協力企業のルートから当面の「入国」許可を得た二人は、
アンチスキルと読み警備員と漢字を当てる科学の学園都市の警察職員から
都市への入国手続きと共にここで待機する様に案内されていた。

部屋のドアがノックされる。
あやかがインターホンで応対し、ドアを開く。
現れたのは、取り敢えず部屋まで案内した、
十分なホテル的挙動を訓練されたここの職員だった。

「ネギ・スプリングフィールドさん」
「はい」
「お電話です」

ネギが立ち上がり、職員の案内を受けて部屋を出る。
ネギが戻って来る前に、ドアがノックされた。
あやかがインターホンで応対し、ドアが開かれる。
相手は、「合い言葉」を知っていた。

ドアを開けて中に入った結標淡希は、何の気無しにあやかを上から下まで一瞥した。
一言で言えば贅沢至極。

クォーターだと言う事だが、そっち系の美少女そのままの容姿、流れる長い金髪。
すらりと背が高く出る所引っ込む所のメリハリが半端じゃない。
服装のセンスもお上品でさり気なく金がかかっていながら成金的な下品さが無い。

そんな圧倒的な相手が自分よりも年下の中学生。
渡された資料がそうだと言うだけではなく、同年代の女子の勘、
特に中学とその上の違いは、事、同性の間に於いては察知出来るものだ。

>>14

一方のあやかの方は、特に悪い印象は持っていない。
ばっさりとしたショートカットで上半身はサラシの様なピンクの布を胸に巻いて
ジャケットを羽織っているだけ、下はミニスカート。
露出過多とも言えるが、元々あやかは色々な意味で変人は見慣れている。

結標の方は少々剣呑、鼻白んだ様な雰囲気をあやかに示しているが、
それも又、特にネギの「事業」に関わり始めてからは雪広あやかの宿命として
初対面で一々気にする程の事ではない。

「あー、どうも、雪広あやかさんでいいんですね?」
「はい」
「そちらを担当する統括理事から連絡役として派遣された結標淡希です」

そう言って結標は一通の書面を差し出し、あやかの差し出した書面と照合される。

「ここ、学園都市は初めてですね。
まあ、聞いてるスケジュールだと、
こっちの理事会からの代表と事業に関わる企業関係者、
その辺の挨拶回りで滞在予定はオーバーって所だね。

ここは外とは違って色々と面倒な所だから、
あんまりうろうろしないで予定通りさくっと用事済ませて貰いましょう。
外の人間が余計な事したら色々と保障できない場所柄なもんで」

鼻で笑ってツカツカと歩み寄る結標は、あやか余裕のクイーン・スマイルが何とも言えず勘に障る。
いっそ、スキルアウト御用達の廃ビル辺りにご案内してやろうかと頭をよぎった辺りで、
学園都市謹製スーパー医療技術で病み上がりに引っ張り戻されて早々に
こき使われても文句の言えない現状を辛うじて思い出す。

そんな、微妙な雰囲気を物音が破壊する。

「お待たせしました、少し補足連絡がありまして。
もう案内の人がついてるって伺ったんですが」

結標が開いて閉ざされたドアに目を向け、改めて資料を確認する。
そして、現れたネギの前に片膝をつき、
白い両手を自らの両手で包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。

>>15

「初めまして、ネギ・スプリングフィールド先生。
わたくし、この学園都市におきましてネギ先生の露払いという
大役を仰せつかり恐悦至極に存じ奉りまする栄誉に預かりました結標淡希と申す者にございます。
今後はわたくしにご用命あらば例え火の中水の中、
湖の水を飲み干してでも身命を賭してお助け致しまする所存にて
それではさっそくホテルにご案内いたしまして最も重要なバス・ベッドの使用方法を実地にて…」

あやかは近くにあった巨大な模造紙を山折り、谷折りして、
腰を入れて結標の顔面目がけてフルスイングする。

「あ、あの、大丈夫ですか?」
「HAHAHAちょっとはしゃぎ過ぎてしまった様ですな」

心配そうに覗き込んだネギの前で、
結標は半ば埋もれた壁からボコッと復活して、むくっと立ち上がり後頭部を撫でながら高笑いする。

「まあ、そういう訳で、学園都市のご案内は淡希お姉さんにお任せして
大船に乗ったつもりでどーんと安心しちゃって頂戴って事でHAHAHA」
「はい、有り難うございます」

ダクダクと鼻血を垂れ流しながら高笑いする結標にネギは礼儀正しくぺこりと頭を下げ、
ニコッと天使の笑顔を向ける。
一際激しく鮮血を噴射しながら天を仰いだ結標は、
そっと鼻にハンケチを当てると改めてその天然女殺しな笑顔を目から脳味噌に煙が出るまで焼き付ける。
そして、その隣で慈母の微笑みを浮かべているあやかを見据える。
あやかと結標は共に不敵な笑みを浮かべ、そしてガシッと熱い握手を交わした。

「それじゃあ少し具体的な話をさせてもらうね。
この学園都市は、街自体が外からうん十年進んだ巨大な最先端科学研究機関。
そのために、研究上の便宜、何よりも秘密漏洩防止のために国から様々な特例が認められている。
ざっくり言ってここは日本であって日本ではない、実質的な独立国家、OK?」

人懐っこくも不敵な笑みを浮かべる結標に、ネギとあやかは頷いた。

「あなた達が今持っているのは、ここを含むゲートエリアだけで通用する入国専用ID 。
これが滞在用ID、それからマネーカードにレンタルの携帯電話、PDA。諸々の説明書。
端っから言っておけば、学園都市は最先端科学の街、言い換えれば効率的なデジタル管理の街。

その学園都市内に於いて、
様々な意味での重要人物であるあなた達の滞在中の電子的記録は監視され集約され管理されている。
ここでのあなた達のプライベートは、あるとするなら精々トイレの中までと思った方がいい」

>>16

そこまで言って、結標はすたっとネギの前に片膝をつき、
両手で両手を包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。

「但し、ネギ先生が一言仰せ付けられましたらこの結標淡希、
すぐさまあらゆる治安組織統括理事会暗部組織から完全に隠匿された
絶対秘密厳守のセーフハウスをダース単位で用意して
静寂の寝室に於いてネギ先生との熱く親密な秘密の一時を」

その時には、目をぎゅぴーんと輝かせたあやかが鶴の体勢で飛翔していた。

「わー」パチパチ

雪広流vs裏社会実戦組手演武を一通り観賞したネギがパチパチ手を叩いたのを潮に、
あやかと結標の二人はガシッと熱い握手を交わして結標が説明を続ける。

「と、まあ、そういう事なので。
あなた達の申請予定も入力済みのこのレンタル端末使えば
学園都市でも表の事は大概分かるし、
わざわざ私みたいのが付きまとってガイドしてると却って邪魔でしょう。

そっちにはそっちの都合があるでしょうし、どうせこの街にいる限り
監視は電子的にやられてるんだから、この上ガイド兼監視役なんてのもね。
と言う訳で、一応ホテルまでは案内するけど後は自由行動って事で。

許可が出てるぐらいだから大丈夫だと思うけど、
端末にも入れといた通り、危ない所には近づかない、
いや、ホントこれだけはお願い。最先端科学の街だからこそ裏通りは本気で危ないから。

私のケー番とメアドも入れてあるけど、私もすぐ出られるか分からないし、
あんたらのVIPなIDならホテルとか公共機関に頼れば
大概なんとかなるからその辺は私の事あんまり当てにしないで」

>>17

そこまで言って、結標はすたっとネギの前に片膝をつき、
両手で両手を包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。

「但し、ネギ先生が夜の相談室に大人の階段を上りたいとこっそりお電話いただけるのでしたら
この結標淡希五秒でベッドメイキングの上不肖わたくし自ら懇切丁寧熱意溢れる肉体言語…」

その時には、鋭い角度で跳躍したあやかの膝が結標の顔面に肉薄していた。

「わー」パチパチ

雪広流vs裏社会実戦組手演武を一通り観賞したネギがパチパチ手を叩いたのを潮に、
あやかと結標二人はガシッと熱い握手を交わして結標が話を続ける。

「それではこれよりホテルまでご案内しまーす」

 ×     ×

「夏の大事件を解決して今も精力的に駈けずり回っている正に英雄」
「その英雄の学園都市訪問許可。協定違反なんてレベルじゃないな」

「彼のプランを大方針として支持する事に就いては、
学園都市を含む各勢力で合意が成立している。
宇宙エレベーターは既に先んじて出来上がってしまっている」
「なぜか、な」

「彼のプランに不可欠なものである以上、
それは既に了承された範囲内の事だろう」
「その理屈で根回しか。もっとも、大方の所は向こうさんで済ませた後だ、なかなか抜かりの無い」
「大上段の人道主義と突拍子もないプランを掲げる、丸で子どもだ」

「その子どものプランは既に基本合意以上のコンセンサスが成立している。
向こうの火力がデカ過ぎるってだけじゃない。
そのデカ過ぎる火力の威嚇を絶妙に鞘の内にしながら、
人道主義と現実的な利権。科学と魔術が角突き合わせてる宇宙の覇権にとんでもない所から唾付けて、
ヨダレを見せた連中を上手く転がしてやがる。無邪気な顔してなかなかの腹芸だぜあいつら」

>>18

 ×     ×

「着いたんか?」
「で、ござるな」

科学の学園都市内のとある廃ビル。
長瀬楓のアーティファクト「天狗之隠蓑」から姿を現したのは、
犬神小太郎、長谷川千雨、村上夏美と言う面々だった。
色々考えた末、一応まとめ役となるネギがいない現状、
そして科学の学園都市と言う越境作業の都合上、思慮深い面子による少数精鋭と言う結論に達した。

まず、言い出しっぺの千雨、そして、総合力の高い「忍術」を使う楓と小太郎。
楓は多人数を異次元空間に収納運搬出来る「天狗之隠蓑」を使う点でも何としても欲しい人材だった。

夏美に関しては小太郎の実質的なパートナーであり、
それでいて本来一般人であるべき立ち位置なのだが、
まず、彼女の使うアーティファクトが隠密行動の上で侮れない。

先の会合の都合上、話を聞いた夏美に一応振ってみたら、
それでも何でも夏休みの苦楽を共にした友人の友人の魔法的な危機であり
自分の能力が頼られると言う事は満更でもない、そんな感じで同行が決定していた。

「ここ、科学の学園都市か?」

小太郎が尋ねる。

「で、ござるな」
「まあ、越境時の一時的な電子的監視システムのごまかし、
それに、いるだけで逮捕されない程度には葉加瀬がやってくれてるって事だが」

千雨が周囲を一瞥して言う。
とにかく、科学の学園都市に於ける電子的な監視網は半端なものではない。

衛星の目による常時監視を初めとした様々な監視網は、
密入国者が都市内を文字通り出歩く事自体を困難ならしめる。
無論、「国境線」の越境も決して簡単な事ではない。

麻帆良学園都市から、「外(科学の学園都市の外)」の科学相手であれば
大概の事が出来そうな葉加瀬でも、科学の学園都市相手では相当に勝手が違う話だった。

>>19

「何せ相手は科学の学園都市だ。
とにかくアリサの状況を把握するまでは可能な限りトラブルを回避して
くれぐれも余計な揉め事等を起こさない様に…」

そう言いながらくるりと振り返った千雨の前には、
いかにも頭の悪そうな風体の見るからにチンピラ集団が死屍累々の巷を形成し、
最新情報を更新するならば、その巨大な槍の如き脚の一撃でコンクリ柱を蹴り砕いた巨漢が、
そのバカ破壊力な脚槍の上をひらりと舞う小太郎の跳び蹴りを顔面に叩き込まれた今その時だった。
そして、そんな二人の背景では、千雨がコオオと更にその背景に炎を燃え上がらせて拳を握っていた。

今回はここまでです。続きは折を見て。

>>54

「や、やるやんけ」

とにかく、一瞬でも気を抜いたらブチ抜かれる、その恐怖と闘いながら屋上を踊り、
ようやく大きな動きで間合いを取った小太郎は強がってはいるが、冗談ではない。

まず、絶対交わしたと思った脚の薙ぎが鋭く顎をかすめ脳を揺らされた。
それ以外にも、クリーンヒットは確実に避けている筈なのに、
神裂の見事な脚線美が閃く度に吐き気がする程にダメージが蓄積している。
それを、蹴り技だけでやってのけた上に実力の何分の一にもなっていない筈。

「その歳にしては筋がいい、相当な鍛錬と実戦をくぐり抜けた動きです。
だからこそもういいのでは?」
「何?」

歯牙にも掛けない余裕綽々、むかっ腹の一つも立てたくなるがそれを当然とする力量。
小太郎の肉体と感情がぐるぐる回る。

「例え、その帽子を不要にした所で私には指一本触れられない、とうに理解している筈」
「言うなぁ、ああ、いたなそういう事言われたわ、ついこないだの事の筈やけどなぁ」

小太郎の表情に、神裂は一瞬こぼれそうになる笑みを呑み込む。
いい目だ、違う場面であれば存分に稽古を付けてやりたいものだと。

「なかなかおもろい手品やったけど、そのデカブツ只の手品ちゃうやろ。
紐付きやなくてもそんなん使うのあんただけちゃうからなぁ。
目配り足運び、みんなよう分かる。
抜いてみぃやオバ――――――」

今回はここまでです。続きは折を見て。

感想有り難うございます。
その辺のバランスは難しい所ですが。

それでは今回の投下、入ります。

>>55

 ×     ×

ステイルが、ばっと周囲を見回した。
周囲は、甲虫と鴉をミックスした様なデザインの黒い機械に囲まれていた。

「我々は統括理事会より認可を受けた………」
「マジかよ…」

長谷川千雨は、麻帆良学園都市の住人である。
科学の学園都市とは系統が違うが麻帆良学園都市も先端科学の街であり、
目の前でアナウンスしている機械が、一人乗りの有人多機能メカであろう、と言う大体の見当は付いた。

加えて、千雨は嗜みとしてフィクションにもそれなりの造詣がある。
更に、丸でフィクションみたいな変な世界にも実体験としてそれなり以上の知識を持っている。
科学の学園都市に就いても、ネット上で可能な限りの下準備はして来た。

科学の学園都市は実質独立国家であり、独自の治安システムを持っている。
その一環として、言わば民営にして公に近いタイプの警備部隊が存在する。
情報の欠片は持っていたし、そう考えるとしっくり来る。

「………「黒鴉部隊」である。これより特別介入を開始する」
「千雨殿、皆をっ!」
「分かった!アリサっ!!」
「は、はいっ!」

楓に促され、千雨がアリサの手を引いて逃げる。
その楓の目の前では、「黒鴉部隊」の機動メカが一台、楓を捕らえようとして
身を交わした楓の放った鎖を食い込ませ不快音を立てて軋んでいた。

>>59

「メイ、ナツメグッ!」
「はいっ!」

高音が踵を返し、後の二人を連れて逃走を開始した。

「ええいっ!」

思い切り跳躍した愛衣が、強力な火炎魔法を帯びた箒を力一杯振り下ろす。
丸で漫画かゲームの巨大ハンマーでも食らった様な一撃に、
その目の前を跳躍していた機動メカが一台ふらふらと着地して停止する。

 ×     ×

神裂が瞬時に飛び退き、小太郎に背を向けた、
次の瞬間には、ビルの外から神裂の目の前の空中に「黒鴉部隊」のメカが現れ、
神裂とメカの間で爆発が巻き起こる。

「………やりますね………」

呟いた神裂は、そのまま下のステイルに撤退を指示する。
こんな連中まで関わって来たとなると、
これ以上引き延ばせばここの正式な警察機関である警備員の介入を招く。
そもそも正規の許可を受けての出入りですらない、
ここでは存在自体が御法度の魔術サイドとしては論外の事態だ。

「あなたも、背中を狙わなかったのですね」
「アホ抜かせ」

ぼそっと言った小太郎は、
ほんの一瞬とてつもない気が神裂から噴き上がったあの時、
少なくとも10万3千通りは展開された自分のサイコロステーキの妄想を汗と共に拭い去る。
すれ違い駆け抜ける神裂を、小太郎はやる気なさげに手を振って見送った。

>>60

 ×     ×

「鳴護アリサに関わるな、死ぬぞ」

その少女は、黒いライダースーツの様な強化服がよく似合っていた。
歳は余り自分と変わらないのだろう、セミロングの黒髪でキリッとした雰囲気。
見た目は美人の部類に入れてもいいだろう。

だからと言って、機動メカから出て来た少女に告げられた言葉に納得した上条当麻ではない。
だから、懸命に追走し、通りの真ん中で停止したメカから現れた黒い少女に散々に食い下がり、
その結果がこの最後通告だ。

そして、少女は警告した先からオートマチックの拳銃を抜いている。
いやいやいやいや、言ってる事とやってる事が違う、
右手以外は一般人である筈の上条さんとしてはあんだけ言っといて今殺す気ですかあんた、
と、内心の突っ込みが口から出る前に、少女は無造作に発砲する。

「よう」

着弾した建物の陰からメカの機体に跳び乗った小太郎が不敵な笑みを見せた時には、
拳銃は右手から左手に移り、ナイフが突き、退いていた。

「ナイフと拳法をいっぺんに使う、あっちの軍隊の流儀やな」
「貴様も素人ではないな」

既に拳銃をしまい、女性にはごついナイフを片手に構えを取る少女と、
急所こそ外した一撃を交わした小太郎が向き合う。
少女もコクピットを完全に離れ、機体上での攻防が開始された。

鋭い刃を交わす小太郎の動きには、まだ余裕があった。
しまいに、小太郎はナイフを手掴みにしてへし折って見せる。
だが、少女は表情に驚きを見せながらも即座にナイフを捨て、
小太郎の脇腹目指して右脚を跳ね上げていた。

「いい判断や」

小太郎は回転しながら大きく後ろに跳び、通りに着地する。

>>61

「!?さっきのかっ!」

先ほど、屋上での片脚ジーパン姉ちゃん神裂火織との攻防は見ていた。
正確に把握した訳ではないが、とにかくワイヤーに繋がった爆弾、
実際にはレアアースペレットが幾つも放たれ小太郎の上で展開しているのは確か。

「おいっ!」

離れた所で事態を見守るしかなかった上条当麻の叫びも虚しく、
レアアースペレットはオレンジ色の光を放ち爆発する。
その跡には、肉片一つ残っていなかった。

「逃げたか」

 ×     ×

「な、なんなのよ、こいつ」

夏美が震えながら呟く。
高音チーム、ステイルチームはそれぞれに逃走。
ステイルが工業レベルの高温火炎で、メアリエが消火栓の水を暴走させ、
マリーベイトが土の筒を絡めてメカを文字通り足止めしながら逃走するのを、
上条当麻も追走して姿を消した。

長瀬楓も別の機動メカに追われて姿を消し、残ったのは火力最低少女四人組。
夏美と千雨、アリサにシスターが手を繋いで公園に残っているのだが、
その理由はひとえに動けないから。
黒い機動メカが一台、夏美達の周囲をうろうろして離れようとしない。

「センサーだ」

千雨が言った。

「このアーティファクトは存在感を消すだけ…」
「アーティファクト?」

シスターの呟きが聞こえるが、千雨は少し失敗を自覚しつつ言葉を続ける。

>>62

「多分、センサーで機械的にここに人間の反応がある事を察知してる。
だけど、パイロットの脳が私達を認知出来ないんでうろうろしてるって状態に見える」
「そしたらどうするのよ?」
「あれが諦めて出て行くか、あれを潰せるのが来るまで、
オートマチックの無差別砲撃でも始めない事を祈るしかないな」

言ってる先から、機動メカに上からすごいあつりょくが叩き付けられ、
メカが煙を上げる。

「こ、この…」
「あらよっ!」

コクピットが開き、中の男性隊員が拳銃を抜こうとしたが、
小太郎が頭突きでKOするのが先だった。

「小太郎君っ!」
「助かった」

夏美が叫び、実際は腰が抜けそうだった千雨もふうっと嘆息した。

「いるでござるか?もうこの辺りは大丈夫でござる」

しゅたっと着地した楓が言い、一端隠れ身を解いて合流した。

「さて、こっからどうするかだ」

とにかくぐっちゃぐちゃの状況を千雨が整理しようと周囲を見回す。

「アディウトル・ソリタリウス」

荘厳に澄んだ発音を聞き、千雨がそちらを見た。

「日本語だと孤独な黒子。
日本語だと皮膚の黒い点とか学園都市産のグドンのエサも同じ漢字を当てるみたいだけど、
同じ意味の漢字で言うなら、お芝居で黒い服を着て、そこにはいない事になっている人だね。
言い伝えられているだけでも280年前より後の記録が無い魔法具。
生きている間に伝説通りの効果を身をもって知る事が出来るとは思わなかったんだよ」

そう言いながら、シスターは、きょとんとしている夏美から視線を移す。

>>63

「パクティオーカードと言う事は君がマスターなのかな?
日本でも西の方の魔術師は西洋の魔術を使うのを嫌う人が多いって聞いていたけど」

ちょっと聞く分には子どもっぽい口調でもあるが、穏やかな威厳すら感じられる。
そんなシスターの声に夏美が息を呑み、小太郎が身構えた。

「君の術式は陰陽術、基礎を覚えて、後は使う所を我流で摘む使い方だね。
体術の補助に、「血の制御」にも使っているんだね」

小太郎の眉がぴりりと上がった。

「あなたの後ろに隠れているのは雷の精霊、
電気を媒介に急速に発展した科学に介入するために進化した変種だね。
直接知らなくてもコンセプトから理屈は分かるんだよ。
いとめののっぽさんは甲賀流の忍者さんだね」

「何の事でござるかな?」

ごくりと息を呑む千雨の側で楓が飄々と応じる。

「甲賀忍術の発祥は諏訪明神、そこに地理的な条件が加わって
薬草使い、陰陽道、密教、修験道、各種の山岳信仰の魔術と科学が実用的に進化したのが忍術。
日本の戦国時代には軍師と呪術師の明確な境界線は無かったんだよ」
「な、何なんだよ、こいつ…」
「それで、どうするの?」

焦りを見せる千雨に、シスターは静かに尋ねる。

「さっきの黒いサラマンダーも知り合いなんだね。
サラマンダーが使っていた箒はオソウジダイスキ。
いわゆる魔女の箒を定形化した、「学校」の魔術師を中心に使われているもの。

基本から体系的なラテンの詠唱魔術を使う統率のとれた集団。
日本、それも関東であの歳であれだけの実力でそういう魔術集団は一つしか考えられないんだよ。

あなた達は別行動だったみたいだけど、
そういう繋がりがあってこれだけの魔術を使う集団がここに、学園都市にいていいのかな?」

>>64

「ヤバイぞ」
「で、ござるな」

チラと周囲を伺った小太郎と楓が、揃って硬い口調で言う。

「これ、いよいよ警察か何かか?」
「その様でござるな」
「アンチスキルが来たのかな?
だったらこれ以上いられない、あなた達はもっとだよね。
行こう、アリサ」
「え?」

元々通じない話を千雨達に向いて喋っていたシスターに
不意に声を掛けられてアリサも戸惑いを見せる。

「頼んでいいんだな」
「アリサは私の、私とととうまの、大切な友達なんだよ」
「頼んだ」
「夏美姉ちゃん」
「分かったっ!」

間一髪、千雨とシスターの間で合意が成立し、
アリサ達が姿を消して夏美に始まる人のチェーンが繋がるのと、
アンチスキルが本格投入されるのは辛うじて入れ違った。

>>65

 ×     ×

「転移ポイントはっ!?」
「もうすぐですっ!」
「ん?」

上条当麻は、本日も不幸であった。
ここまでの騒ぎとなると、流石にアンチスキルも動き出す。
そもそも、「学園」と「都市」が同義語に近いこの学園都市では、
学園的秩序、発想に直結して学生の夜間外出自体が厳しく制限されている。

と言う訳で、上条当麻は今日も走る、走る走る走る、
目の合った職務熱心な警備員ボランティア先生を振り切るべく全力でダッシュする事幾度か、
薄氷を踏む思いをしながら、目の合わない内に建物から建物へと駆け抜けた事が幾度か、
近くに聞こえるサイレンと逆方向に駆け出した事もしばしば。

そうこうしている内に、既に大方の営業が終わったビル街で、
上条の視界を見覚えのある人影がよぎった。

「おいっ!」

ビル街の中の空き地で、
高音・D・グッドマン率いる魔女見習い三人娘は呼びかけに振り向いた。

「あの人…」

全三人のチームの内の一人、佐倉愛衣が呟く。
視線の先で両手を腿に当てて息を切らしているのは、
先ほどなし崩し的に共闘する事となったウニ頭の少年だった。

「ハァハァ一体ゼェどういうハァ事なんだゼェゼェっ!?
どういうハァハァ事なんだ?
ゼェハァお前達もゼェ魔術のゼェ人間なんだろ?ハァハァ
魔術の人間がどうしゼェゼェてアリサをゼェゼェ襲う?アリサに何がハァハァあるって言うんだ?」」
「お姉様、時間が。それにこれ以上は…」

同行した夏目萌に促され、
元来の誠実な性格でウニ人間のブツ切り言語を解読しようとしていた高音が頷いて歩き出す。

>>66

「待てよっ!」

力強い怒声が、三人の歩みを止めた。
そして、振り返った三人の美少女は、叫びの主、上条当麻と正面から向き合う事となる。

「お前ゼェゼェら魔術ハァハァ師ハァハァアリサハァ、ハァ」

既に相手の事すら半ば見えない状態で、只、逃がしてたまるかと言う一念だった。
駆け出した上条当麻だったが、体力は限界。
言葉もほとんど繋がらず、吐き気を抑え込むのがやっとの有様。
それでも、歩みを止めた三人にようやく向き合う事が出来る、
と言う客観的状況下で、上条の脚が限界を迎えた。

「お前ハァハァらハァハァアリサハァハァにハァハァ」

もつれた足が大きめの石ころを踏みつける。
完全に限界を迎えた脚の均衡が崩壊する。
三人の美少女は一歩、二歩と、上条当麻に正面から向かい合う形で後退していたが、

「ハァハァ一体ハァハァ何ハァハァをハァハァハァハァ」

何とか痛い転倒は回避しようとした上条当麻は、
ゴシック調の揃いの黒衣姿で自分の方を向いて横並びに立っている
目の前の三人の中でも真ん中で一際背の高い、
金髪のロングヘアがよく似合う美少女の肩を、空中を泳がせていた
右手で、ガシッ、と掴んでいた。

今回はここまでです。続きは折を見て。

感想ありがとうございます。
それでは今回の投下、入ります。

>>67

 ×     ×

「爆弾でも使ったんですかねこれ?」
「…いや…」

科学の学園都市内、とあるビル街の空き地で、
アンチスキルの女性隊員黄泉川愛穂と鉄装綴里が言葉を交わす。
周囲の建物への被害こそ少ないが、一見すると爆発的な惨状である。
だが、先輩であり上司に当たる黄泉川は鉄装の推測に疑問を呈する。

「丸で、暴風雨と火炎竜巻がいっぺんに来たみたいじゃん」
「少なくとも発火能力ですか」

破片を放り出した黄泉川に鉄装が言う。
「能力」、外部で言う「超能力」を持つ学生相手の捕り物も通常業務であるアンチスキル。
そちらに勘が働くのも職業柄。

「物理的な道具を使ったか、能力者だとすると相当な威力じゃん。
明らかに性質の違う破壊が入り交じってる」
「だとすると、犯人は複数、それも相当強力な能力者。
まずはバンクから該当する能力者の検索ですね」

打ち合わせをしながら、黄泉川は予感を覚えていた。
恐らく、この捜査はどこかで尻切れ蜻蛉になる。
最初からこれではまずいのだが、勘は働くものだ。

人一人が余りにもちっぽけな「科学」を我が者にせんとする学園都市。
科学的、理論的、その言葉を操る者は余りにも人間臭い。
その学園都市の正規の警察組織に属する黄泉川だからこそ底が知れない何かがある。
それを感じる事が、最近特に多い気がする。

>>71

「あー」

書庫と書いてバンクと呼ばれるデータベース検索に考えを向ける鉄装をちょっと離れ、
黄泉川は別の男性隊員を呼び止める。

「黒鴉の方は?」
「先鋒の法務部が出て来て」
「分かった」

尋ねた黄泉川もさして期待はしていない。
流石にごまかし切れない規模の目撃情報があったから先方にも照会を出したのだが、
有益な回答は半分も当てにならない。早速予感的中だ。
アンチスキルが正規の警察ならば、「黒鴉部隊」の様な認可警備部隊は言わば新撰組の様なものだ。

軍事力こそ「能力者」相手の捕り物からイザとなったら「戦争」をこなすだけの軍備を誇るとは言え、
建前上はあくまでも「学園」として、
教師ボランティアの「警備員」アンチスキルをメインとする正規の警察機能。
その一方で、巨大な利権に直結する最先端研究をその存在意義としているのも学園都市。

安全面に於いてその最優先命題をクリアするためには、利益を得る者に負担を任せる。
学園都市の最高権力である統括理事会は、
高レベルの民間警備部隊に武器使用を含む部分的な民営警察の権限を認可していた。
「黒鴉部隊」の母体が宇宙関連企業オービット・ポータル社である様に、
そうした部隊はそもそもが民間の警備部隊であり、民間の研究の保護を主目的とした認可制度なのだから、
大企業や先端研究所の私兵が活動の便宜上認可を受けているケースが大半である。

アンチスキルとして統括理事会から認可を受けた様な部隊と迂闊に揉めたら、
学園都市と利害関係の深い部隊の経営母体や認可責任者である統括理事会の面子も絡んで来る。
何かが浮上しても、上での書類上の決着を押し付けられる事もしばしばだ。

「こりゃあ、明日の授業の準備に専念するのが賢明じゃん」

独り言であり、冗談である。
最初から諦める、そこまで自分が利口だと思っていない。

>>72

 ×     ×

「参ったな」

途中で楓の「天狗之隠蓑」に隠れ、
葉加瀬のサポートを受けながらようやく戻って来た麻帆良学園都市内で、
千雨は自分の携帯電話を手にして呟いた。

「あいつら…高音さんらの連絡先って誰か知ってるか?早めに話しとかないと」

その言葉に、一緒だった面々が顔を見合わせる。

「ああ」

思い出した様に小太郎が自分の携帯を取り出す。

「何だ?あいつらとメルアドなんて交換してたのか?」

意外な展開に千雨が言った。

「ああ、前に練習約束した時に急用で行き違ったさかいな」
「むー…」

あっさりと説明する小太郎であるが、
そうやって実際口に出したらあっさり応諾されたその申し出に至る迄に
主に脳内で展開されたラノベ上中下巻が埋まる分量の葛藤とか、
そんな小太郎をむーっと見ている夏美の広辞苑一冊が優に埋まる心中とかはこの際おいておく。
それから程なくして、千雨チームは高音チームとダビデ広場で落ち合う事が出来た。

「すいませんね」
「いえ、こちらも話がありましたから」

詫びる千雨に高音が言う。

「ん?」
「?」
「あ、ポニーテール珍しいなあって、似合ってるよ」

夏美に言われて、愛衣がぺこりと頭を下げる。
普段は後ろ髪を巻きツインテールにしている愛衣だが、
この時は何故か後ろで一つに束ね、
丈の短いVカットのタンクトップにミニスカでそのままチアでも出来そうな格好だった。

>>73

「ああ」

ひょいと小太郎がそちらに声を掛ける。

「動きやすそうやなぁ」

小太郎にそう言われて、しかも、ぴこぴこした子馬の尻尾をひょいと指ですくわれたりして、
顔が見えないぐらい深々と頭を下げる愛衣を、
側で夏美がむーっと見守っている。

千雨が、自分が呼び出した面々を見てみると、
高音はジャージ姿、夏目萌は体操着の白いTシャツにショートパンツと、
人と会うには些かラフな格好をしている。

そんな格好で動くラインがやけにやわやわたゆたゆしている辺り、
気楽な女子校暮らしを鑑みるにもしかしたら帰宅して寛いでいる所を無理に呼び出してしまったかと
千雨もちょっと悪い気がしないでもない。

「一体何がどうなってあの様な事になったか、ご説明いただけますね?」

高音の真面目な口調に、千雨も真面目に大凡の経緯を説明する。

「それで、高音さんは?麻帆良の学園警備が
それこそどうして魔法使い御法度の科学の学園都市に?」
「正直に言います、よく分かりません」
「はあ?」

「上からの指示です。つい最近、鳴護アリサを調査する様に指示が出ました。
調査の上、緊急時の保護の判断は任せると言う非常に曖昧な内容です。
上もハッキリとは把握していない様です」
「何だそりゃ?」

高音の曖昧な返答に、千雨がバリッと頭を掻く。

「確かに、鳴護アリサの周辺に魔術師の影が伺えましたので、我々も警戒していました。
元々科学の学園都市での魔術の行動は魔術サイドの協定でも禁止されていますから」

愛衣が付け加えた。

>>74

「調査の過程で、おぼろげながら見えて来た事はあります」
「何でござるかな?」

高音の言葉に楓が尋ねる。

「鳴護アリサ、歌手ARISAに関する噂をご存じですか?」
「…それって、もしかしていい事があるとかそういうの?」

愛衣の質問に夏美が応じ、愛衣は頷いた。

「どうも、只のジンクスでは済まない節があります。
そもそも、ジンクスと言う言葉自体、本来は魔術的な意味に基づくものでもあるのですが」

高音が言う。

「おいおい、まさかアリサの歌を聴いたらマジでご利益がある、
………とか言い出すのか?」

今更非常識が非常識だと驚く筋合いでもない。
千雨の質問に高音も真面目な表情で応じる。

「直接回答出来るだけの根拠は乏しい、只、調査に於ける魔法使いの勘、と言いましょうか。
問題は、彼女がいる場所が科学の学園都市だと言う事です。
学園都市の学生であると言う事は、直接的な研究材料である事をも意味する。

我々と違って、科学の学園都市の科学と魔法との接触は危険、
それが魔法協会を含む魔術の世界の共通認識です。
彼らが介入に打って出たのもそれ故でしょう」

「彼ら…あの赤毛ノッポとチビ魔女共か。魔法使いかありゃ?」
「ステイル=マグヌス。イギリス清教所属の魔術師です」

千雨の質問に愛衣が答えた。

>>75

「イギリス清教?十字教か」
「はい。十字教三大勢力の中でも魔術担当、そう思ってもらって結構です」

記憶を辿っている千雨に、愛衣が簡単に説明した。

「十字教の中でも魔術に関わる秩序を司る、おおよそその役割である彼らです。
魔術的な何かが関わると踏んで動き出したと推測されます」

高音が続けて説明した。

「どういう奴なんだ、ステイルってのは?」
「いけ好かないジョン・ブルですよ」
「知り合いか?」
「留学中に少々」
「まあ、知り合いと言えば知り合いですね」

千雨の問いに、愛衣が珍しく不機嫌な応答をする。
その後に夏目萌が続いた。

「留学中に術式の優劣を巡って
グラウンド一杯のイノケンティウスの鎮圧実験とか
校舎を一つ溶鉱炉にするぐらいには白熱した激論を交わした相手ですから」

千雨チームの視線が愛衣に集中する。

「ひゃうううっ!!!」

わたわた手を振り出す愛衣の前で、小太郎が噴き出した。

「お、おいおい愛衣姉ちゃん、大人し顔しといて随分やんちゃしてるやないけ!!」
「む、昔の話ですっ!お腹を抱えないで下さいっ!!」
「認めたくないものだな、若さ故の過ちと言うものは」
「長谷川さァンっ!」

「全く、先方は元気があってよろしいと言う事でお掃除三ヶ月で済ませてくれましたが、
送り出したこちらは先生方が平謝りで大変だったんですよ」
「お姉様ひゃうぅぅ…」

>>76

「しかし、それならステイルってのも大概だな。
留学先であんたと一緒だったって、教師にしちゃあ若い感じだったけど」
「え?」

千雨の言葉に、愛衣はきょとんとした。

「ステイルですか?
年齢的には愛衣とそう変わらないと聞いていますが」
「何?」

高音の答えに、千雨以下数人がきょとんとした。

「あー、おほん。黒歴史はおいといて現在の話をしようか」

一部を除き場が和んだ辺りで千雨が話を戻した。

「どう見てもアリサは大丈夫、って状況には見えなかったんだがな。
イギリス清教じゃあダブルオーの指令でも出してるのか?」

「否定は出来ません。あちらの実質トップは名うての雌狐、
何を企んでいるのか読み間違えたら足をすくわれる。
元々、その雌狐率いるイギリス清教と科学の学園都市の上層部の間に
非公式のパイプがあるのは裏の人間の間では公然の秘密となっています」

「それであんな連中が出入りしてるってのか」
「そうでしょうね」

千雨の言葉を、高音は否定しなかった。

「じゃあ、本人に聞くかぁ」

上を向いた小太郎が言った。

「そのステイル、結局は強いんか?魔法使いなら愛衣姉ちゃんが相手したら…」
「まず私が負けます、と言うか死にます。灰も残さず」
「即答やな」

大真面目に返答する愛衣に、小太郎の目も興味を示すものとなった。

>>77

「同系統の魔術ですから優劣がハッキリしています。
彼はルーンの天才、操る火炎魔術の威力は桁違いです」
「ルーン?ネギなんかが時々使こてるごにょごにょ文字か?」
「そうです。北欧を起源に私達のものを含めて魔術の大きな基礎となっているルーン、
彼はその究極に辿り着き尚かつ自らの至高を求め手にした天才です」
「うーん、愛衣姉ちゃんは真面目な秀才タイプやからなぁ」

「その意味でステイルは魔術において頭一つ抜けています。
あの術式であの威力と発動速度はキレてるとしか言い様がありません。
真面目と言いました、私も今も留学中もあるべき魔法使いたろうと、
自分で言うのは恥ずかしいですが目標に恥じない事はしてきたつもりです。
しかし彼は、そこに辿り着くまで、
何か決して譲れない想いがあってその姿勢は尋常なものではなかった」

あの小さく大きな存在を思い出させるその言葉に、千雨は斜め下を見る。

「そうやって肉体も魂も削る様にして究みに立ったルーンの魔術です。
しかも、所属がネセサリウス、今の私の学校魔法でどうこう出来る相手じゃない」
「ネセサリウス?」
「イギリス清教の魔女狩り部隊です」
「おいおい」
「もちろん、今はやたらとそんな事をしている訳ではありませんけどね」

愛衣と千雨のやり取りの後に、高音が続いた。

「十字教の教義においては、あくまでも魔術は穢れ。
しかし現実問題として魔術は存在する。
故に、十字教のために穢れた魔術に対抗するために魔術を行使する。
だからネセサリウス、日本語に訳すると必要悪の教会」
「ご都合主義だな」

愛衣の説明に、千雨が感想を漏らす。

「それでも、今では魔法協会との間でも不可侵と言う事になっていて、
現実的に魔術を使うだけに、十字教の中では話が分かると言ってもいいでしょう。
一応の秩序を乱す魔術のトラブルを解決する、事によっては討伐する。
それが今の彼らの仕事です。

そこに抵触した団体をその手で幾つも壊滅させているのが
ステイル=マグヌスですから実力、実戦経験も確かです」

>>78

「聞いてるだけでやばいのが出て来たなぁ」

高音の説明に千雨が嘆息する。

「魔術師としても実力者、その上、私達が彼らと、
それも科学の学園都市でぶつかれば、
それは魔法協会とイギリス清教と言う組織と組織の問題になりかねない」

夏目萌が厳しい表情で言った。

「その意味では長谷川さん、あなた達にも自重していただかないと困ります。
登録上は、麻帆良学園教師であるネギ先生の従者のカードを持っている身、
まして、能力の助け無しに何か出来ると言う状況ではない。
私の言っている意味が分かりますね?」
「やっぱり、俺が連中シメて聞き出すっちゅうんは?」

高音の真剣な口調に千雨が言葉に詰まり、そこに小太郎が割って入った。

「一応麻帆良の生徒で仕事もしてるけど、仕事に関してはあくまで契約やからな。
ドジッたら俺の責任でそっちは指名手配でもなんでもしてくれれば」
「コタロー君」
「小太郎さん」

夏美と愛衣の反応は、千雨が中指を頭と逆側に両手を上げたくなるものだった。

>>79

「出来ますか?」
「…いや…」

高音に真面目に問われ、少し考えて小太郎が苦い声を出す。

「あの赤毛ノッポとチビ連中なら、生きてる内に勘が掴めたら何とかなると思う。
けど、問題はもう一人や」
「ですね」

小太郎の答えを、愛衣が肯定する。

「こちらが聞いている通りだとすると、難しいですね。
ネギ先生なら何とかなるかも知れませんけど…」
「愛衣姉ちゃん、つまりそれは俺がネギより下、ちゅう事か?」

「い、いえ、決してその様な、
小太郎さんがネギ先生より下とか噛ませとか中国式のティータイムとか
そんな事は決して一言たりとも申し上げておりませんから」
「オーケー分かった、
ちぃとひとっ走りドーバー海峡泳いで寺院と大聖堂と宮殿更地にして来るわ!」

「小ォォォォォ太郎ォォォォォォォさァァァァァァンっっっっっ!!」
「コタロー君っっっ!!!」
「お話し、進めてもよろしいですか?」
「お、おう」

ドカカッと地面に突き刺さる黒い触手に足を止め、
高音が彩る素晴らしい陰影の刻まれた笑顔を見ない様にしながら小太郎が返答する。

>>80

 ×     ×

後に、佐天涙子は語る。
とある高校男子寮を徘徊する落ち武者の都市伝説を。
その都市伝説が発祥した夜、微かな目撃証言の原形となった男子寮住人が、
現在の自宅である男子寮居室へと落ち延びる事に成功していた。

「……ただ……今……」
「お帰りなんだよ、とうま!」
「……ああ……今……帰……った……」

「あのスリムブロンドは操影術者、
魔術で実体化した影を操る術式の、それも若手ではかなり高位の術者だね。
影の鎧は、そうやって作られた影の防護具を身に着ける術式なんだよ。
一度に複数用意して、チームメイトも一緒に防護する事も出来るんだよ。

影の鎧は、通常であれば三倍、素肌に直接装着する事で七倍の防御力を発揮するんだよ。
だから、高い防御力を求める時は、影を魔力で実体化させた鎧だけを身に着ける事で、
魔術的に表裏一体とされている影と本体の肉体、
それだけを不純物無く交わらせて最大の効果を得るんだよ。

影はあくまで本体に従うもの、だから、術者の術が解けた時には、
その影の術は発生していたものが全て解除されるんだよ。

ずぶ濡れでこんがりローストだけど、術者の影響を離れて
独立した物理現象として反射したものによる影響だね。
あのチームの実力を考えると、直接攻撃を受けたら
そのまま中まで黒こげハンバーグになってると思うから。

それに、打撃力をアップする影の触手が消えても、
パンチそのものが消える訳じゃないんだよ」キラーン

今回はここまでです。
続きは折を見て。

>>116

「ああ、ま、調べててちょっと興味があったって事で。
流石に今更ドンパチは夏休みで十分だ」
「まあ、長谷川だからね」

美空が、ヒラヒラ手を振って教室に入る。

「どうするの?」

夏美に聞かれ、千雨は目を閉じて天を仰ぐ。

「…っきゃねぇか…」

千雨の一人言に、夏美はしっかりと頷いていた。

「………」

背筋に入る冷気は、振り返る事を躊躇させる。
それでも、千雨はチラッとそちらに視線を向ける。

(既に床から十センチほど浮かんでるってかよ)

「副担任として、時計の見方から教えるべきなのかな?」

ここで、主に肉体言語で、等と言われたら、
滅びようとしていた「世界」に比較してとてつもなく脆弱な自分の肉体の事など、
想像以前の問題だった。

今回はここまでです。続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>117

 ×     ×

「ってか、水中から女の子が飛び出して来るってなんだ!?
お前達の好みのタイプはネイビーシールズ所属なのか!?」

放課後のとある路上、補習を共にした悪友共の毎度の馬鹿話に、
上条当麻は叫び声を上げていた。
実際つい最近水の中から飛び出して来た女の子に割と痛い目を見せられた訳だが、
多分関係無い事の筈だ。

「はっ、何甘っちょろい事言うんてんねカミやんは」

それに対して示された途方もない包容力の全貌について、
ここで詳述を避けた事に就いてはひとえに作者の根性の問題とご理解いただきたい。

「一個明らかに女性じゃねーのが混じってんだろ」
「えぇーっかっ!カミやんっ!!」

通常ならそれで終わる筈のだるそうな突っ込みに対して、
とてつもない包容力の持ち主はその場に片膝をついて、
ビッ、と反対側の歩道を指差して熱弁を振るう。

「あっちの金髪のオネーチャンもすぅぅぅぅぅぅっごくいい線行ってるけどなぁ、
その隣の子、そう、あの子、あの子がや、
髪の毛をセミロングに伸ばしてセーラー服姿でもじもじしてる姿を想像してみぃっ!!」

「………」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっかああああっ!
カミやんっっっっっ!!!」

ふと、言葉を止めた上条を追い打ちで一挙に攻め落とすべく、
バッと反対方向の歩道へと右腕を振って力説した。

「そっからメタモルフォーゼや、
あの子が腿まで白いセクシー浴衣でキツネの耳と尻尾を装着して
両手をくいっと曲げてウインクしてる所を思い浮かべてみぃやっ!!」

>>119

「………」

「ほな行ってきまあっすっっっっっ!!!」

上条が上を向いてふと思考に沈んでいる間に、
青髪ピアスの大柄な不審人物が全速力で車道を突っ切っていた。

「雪!月!花!!
春!夏!秋!冬!!
豪!華!絢!爛!!
天!!罰!!覿!!面!!!」

「ごうぅぅぅぅぅぅぅぅほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
ううぅぅぅぅぅぅぅぅぅびいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!」

その後、地面にぶっ刺さって林立した鉄骨の檻の中から発見された
コルク抜きのオブジェから察するに、
愛と言うものはやはり何かを凌駕するものであるらしい。

「んじゃ、カミやん後でにゃー」
「ああ」

 ×     ×

「当麻君?」
「何をしているのかなとうま?」
「………」

寮の居室で、帰るなりその場で膝立ちとなり、
両手の指を組んで目を閉じて頭を垂れるこの部屋の主に、
居候二名が怪訝な表情と言葉を向ける。

「うん、とうま、私はシスターだからね、懺悔なら聞いてあげるんだよ」

そう言って、猫の様な笑顔と共にドンと胸を叩く。

「だから、正直に告白して欲しいんだよ、
今度は一体誰の着替えを見たのかな?」キラーン

>>120

 ×     ×

そこは、丸で巨大な図書館だった。
麻帆良学園には図書館島と言う桁違いの大規模図書館が存在するが、
この、しんと静まった図書館も、
長谷川千雨が「図書館」として立ち入った限りでは引けを取る様には見えない。

その長谷川千雨の格好は、図書館の利用者と言うには相当奇矯な、
アニメキャラクタービブリオン・ルーランルージュをそのまま模した姿をしている。
かくして、長谷川千雨は、その奇矯な姿で途方もなく巨大な書庫の中を、
案内板や冊子状の蔵書リストを一つ一つ確認して四苦八苦していた。

今日び、市立図書館に行っても蔵書案内ぐらい機械的な検索、ネットワークで行う事が出来る。
ここでもやろうと思えば出来るのだが、
今の千雨の立場でそれをやればそのままの意味で身の危険がある。

只でさえ、小型UFOやら虫型、タコ型の小型ロボットやらが
サーチライトを光らせて辺りを巡回している。
千雨はそれをかいくぐり、必要な資料を探し出し、手作業でコピーを取る。
察知の危険がある検索や一斉コピーの機能は迂闊に使えない。
この膨大な書庫の中での手作業は気が遠くなりそうだ。

「ちう様、ちう様っ!?」
「ん?」

そんな千雨の元に、警戒に出していた電子精霊達が泡を食って戻って来る。

「!?なんだあっ!?」

危険な行為であるがすーっと空中に浮遊した千雨が、そこから見える光景に絶叫する。
遠くからこちらに向けて、林立する本棚が猛スピードで花びらに化けて次々と粉砕していた。
一端着地した千雨が、バッとジャンプする。
地面から赤い花の咲いた蔓がしゅるしゅると千雨を追う様に伸びてくる。

「ちう様あっ!」
「ちいっ!」

電子精霊た゛いこが蔓に捕獲される。千雨がミニステッキからの電撃でその蔓を焼き切る。
空中を浮遊する千雨に向けて、蔓が下から次々と伸びてくる。
千雨は電撃を帯びたステッキで懸命に其れを振り払う。

>>121

「!?」

更に前方に、とんでもないものを発見した。
それは、丸で巨大な薔薇の木の塊だった。
その塊の真ん中から、ボコンと巨大なトカゲ、肉食恐竜を思わせる首が飛び出す。
その口がガパッと開いた時、千雨にはイメージが目に見えた。

「だああああっ!!」

大トカゲ、ハッキリ言って怪獣の口から放射された青白い光を、千雨は必死に交わす。

「ちう・パケットフィルタリィーングッ!!!」

怪獣の二撃目、回避が間に合わないと踏んだ千雨が攻撃魔法で対応する。
出力がお話しにならない。バリバリバリと今にも食い破られそうな脆弱な魔力で
相手の攻撃の直撃を避けながら、辛うじて攻撃を回避する時間を稼ぐ。
その間に、薔薇の塊からは、やはり爬虫類と思しき腕が、
脚が、ボコン、ボコンと伸び出して動き始めていた。

「ちう様あっ!」
「撤収撤収撤収ううううっっっっっ!!!」

 ×     ×

科学の学園都市内のホテルの一室。
長谷川千雨は、魔法陣の描かれた床に四つん這いになる形で
ぜぇぜぇと荒い息を吐き腕で額を拭っていた。

「大丈夫でござるか?」
「なんとかな」

長瀬楓に問われ、ふらり立ち上がった千雨はどさっと座椅子に座り込む。

>>122

「バンク、どうだった?」
「どうもこうも、葉加瀬とこいつ、「力の王笏」の力を借りて、
それでこの様だ。さすがは科学の学園都市だ」

夏美の質問に千雨が応じる。科学の学園都市に再度潜入した千雨は、
科学者として何れ科学の学園都市との対決も視野に入れていた葉加瀬聡美から借りた機器と
電子精霊を使役する千雨のアーティファクト「力の王笏」の力を借りて、
バンクと呼んで書庫と書く、科学の学園都市の総合データベースへの侵入を試みてこの結果となっていた。

電子精霊の力で、丸で電脳世界をイメージ映像化した世界を自分の肉体が直接体験している様な
感覚変換が行われていたのだが、
そんな状態での猛烈な追撃に、それは文字通り命からがらの脱出だった。

「なんとか追っ手は撒いた筈だが、そもそもおかしいんだ」

一息つきながら千雨が言った。

「アリサは三年より前の記憶が無い、事故で救出されて施設に入っていた、
自分の本名すら分からない。そう言ってた、嘘を言っている様には聞こえなかった。
その設定自体、科学の学園都市と根本的に矛盾する。

ネットや葉加瀬の伝手でなるべく精度の高い情報をかき集めた所では、
科学の学園都市は能力開発とやらのために学園都市の外から所定の手続きを経て学生を集めてる。
そして、書庫は最先端のデータベース、そこで学生のデータを生体認証付きで詳細に管理している。

そんな所に、なんで名無しの権兵衛が存在出来るんだ?」

「それを確認するためにアクセスしたんだよね」
「答えを見付ける前にこっちの存在がヤバくなったけどな」

夏美の言葉に千雨が言う。まだ、気分がハイになっているらしい。

「どうだ、葉加瀬?」
「駄目ですねー」

葉加瀬謹製多機能PDA越しに、千雨と聡美が言葉を交わす。

>>123

「馬鹿みたいに高度な暗号化技術が使われています。
しかも、一つ一つのデータに対してです。

これを解析して元の状態手に復元出来るとしても、最低でもスパコン使い放題で
十字教の神の子が生まれてから今までの時間を何度か繰り返すレベルの時間が…」

「あー、分かった、悪かったな」
「いえ、こちらこそ力不足で」

ああなったらむしろ大丈夫だろうと言う事で
一応、あの本棚の跡地からかき集めて来た
「花びら」のデータ解析を依頼した結果がこれだった。
暗号と言っても麻帆良学園、葉加瀬聡美の手腕をもってすれば大概のものは何とかなる。
やはり科学の学園都市の技術は桁が違っていた。

 ×     ×

ホテルの部屋では、千雨の「帰還」を受けた打ち合わせで再開される。
面子は、千雨が何となくリーダーで長瀬楓、犬上小太郎、村上夏美、
それに、朝倉和美と相坂さよが加わっていた。

なぜ朝倉和美と、現状では人形に封じられて交信している
幽霊生徒相坂さよがここにいるのかと言えば、
要は不審な行動を和美に気取られたからであり、
無理に隠すよりは情報戦の凄腕である和美を引き込んだ方が話が早いと言う判断でもあった。

「科学の学園都市で行動出来る様に葉加瀬には色々やってもらったけど、
それでもバンクへのアクセスが出来る程じゃないからな。
無い物ねだりをすれば、せめて基本情報だけでも閲覧したい状況なんだが」

千雨が、PDAを覗きながらバリッと頭を掻く。

「やっぱり、ここの、科学の学園都市の人間じゃないと無理?」
「まあ、そういう事だな。それも、当然個人情報、
それも能力開発とやらに直結してるからここの人間なら誰でもって訳でもない」

和美の問いに、千雨が応じる。

>>124

「ってなると、そのアクセス出来る人間を味方に付ける、って線か?」

小太郎が口を挟む。

「私もそれを考えた。
この科学の学園都市にはジャッジメントとアンチスキルって二つの警察がある。
アンチスキルは教師、ジャッジメントは学生で組織されていて、
こいつらにはある程度のアクセス権限があるらしい。
アンチスキルは本格的に危ないらしいが…」

「ジャッジメント、風紀委員だっけ?所詮学生は学生」

和美が悪い笑みを浮かべた。この手の話が最も得手なタイプだ。

「バンクで集めるだけ集めた情報から絞り込んで見た」

そう言って、千雨はPDAの画面を示す。

「とても全データには追い付かないが、
一年で見た目もちびっこくていかにもってツインテール、お嬢様学校、
しかも、特記事項として負傷休職の情報まで入ってる」
「悪いけど狙い目、だね」

千雨の紹介に和美が言った。

「まずは探りを入れてもらいたい所だが…」

千雨が、妙に役に立ちそうな面々に視線を順送りした。

今回はここまでです。続きは折を見て。

>>177

「鉄矢を囮、体一つの瞬間移動で間合いを詰めて、
肉体的負担の少ない合気道で一発勝負。見事でござった。
その様子では…」
「黒子おっ!?」

楓の右目が見開かれ、美琴が絶叫した。
その楓の側で、黒子がゆらりと立ち上がっていた。

「ジャッジメントですの…」

こめかみに汗を浮かべた楓の足が、じりっと後退していた。

「やめなさい黒子っ!後は私は…」
「お姉様は、一般人。大丈夫、ジャッジメントですの」
「な、なんだよ」
「止まりませんよ」

大体、さっきまで車椅子に乗っていた時、演技と見るべき要素は皆無だった。
今、脚の震えと言い汗と言い、黒子の様子は素人目に見ても尋常ではない。
それでも、その事を決して声に出そうとはしない。
戦慄した千雨に、初春が言った。

「止まりませんよ、白井さんは。止まる理由が無いんですから」

地が甘い声だからこそ響く凄みに、千雨は改めて戦慄した。

今回はここまでです。続きは折を見て。

感想ありがとうございます。

それでは今回の投下、入ります。

>>178

 ×     ×

「あんたら」

呻く様に低く言う美琴は、既にバチバチ帯電している。

「黒子に後遺症でも残ってみなさいよ、消し炭なんかじゃ済まないからね」

本格的にまずい、バトルモードの過熱がヤバ過ぎる。
ここはどう考えても後方担当が、と、千雨達が動きを見せようとしても、
目の前の佐天が同じぐらい熱くなっている。

佐天が凶器持ちだとしても刃物ではない。恐らく荒事は専門外同士で三対二。
仮にもあの夏を乗り切ったメンバーだ、そこはどうにかなるか、
まずは相坂さよとコンタクトを、等と、千雨は思案する。

「絶対に、許さない」

佐天がぼそっと言う。

「絶対に、許さない」

それに、美琴が続いた。

「今はそうでもないけど、ジャッジメントになりたての頃は
あんたらみたいなのがちょくちょく来てたって。
笑って話してくれたけど、本当は嫌な思いしてた筈。
そんなの、私達が二度と許さない。まずはあんたから」
「おいっ」

>>185

美琴が摘んだコインを持ち上げ、小太郎が千雨に視線を向ける。
千雨が深呼吸をする。
小太郎が言いたい事は分かっている。
いくらなんでも、世界一つどうこうと言うレベルではないだろう。

だが、今の状況を例えるならば、こちらの手持ちが日本刀と核爆弾で
サブマシンガンの一団とやり合っている様なものだ。
核爆弾と言ってもこちらにリスクは無い。
ここで切実に問題になるのは、ここでそれを使う大義があるのか、と言う事だ。

自分達が何者で、何者と闘っているのか?
何を学んで帰って来たのか、大切なものはなんなのか?

千雨が、一歩踏み出した。
小さく両手を上げて、歩みを進める。
気圧された佐天、初春の横を通り過ぎる。
大体の中心地に立った千雨は、深々と頭を下げた。

「私が悪かった」

その千雨の姿を、超電磁砲四人組がじっと見ている。

「ちょっと千雨ちゃん、あれやったの私…」
「私の力不足でみんなに協力を頼んだ。
それでいて、知っていて止めなかった。弁解の余地はない。
私が悪かった、申し訳ない」

「ちょっ」
「ごめんなさいっ!」

叫ぶ佐天の横を走り抜け、千雨の横に立った和美が頭を下げた。

「ごめんなさい」
「すまんかった」
「申し訳ないでござる」

>>186

 ×     ×

はあっと息を吐いた美琴が、バリバリと頭を掻いた。

「話、聞かせてくれる?理由がありそうだってのは分かったけど、
正直意味分からないし、ここまでやっといてろくな理由も無いって言うなら、
謝って済む話じゃないから本当に消し炭にするけど」

そう言った美琴を、楓が一旦手で制して姿を消す。
美琴と佐天、初春がすわっとなる中、楓は黒子の側にいた。

「拙者で構わぬでござるか?」

無念ながら座り込んでいた黒子は、
楓が差し伸べた手を取った。

「んっ、くっ」
「真に申し訳ないでござる」
「承りましたの。先ほどは合気道に合気道でお相手いただき、見事な手並みでしたの」
「光栄にござる」

お姫様抱っこされた黒子の元に、美琴が車椅子を押して来る。
楓が美琴に黒子を引き渡す。

「大丈夫、黒子?」
「あぁああぁー、お姉様あぁー、黒子は、黒子はもおうぅー…」

これまででも一際大きな雷鳴が轟いたところで、改めて本題に入った。

「まず、私達は外の人間、いわゆる密入国者だ」
「オーケージャッジメントですの、
動くと刺す逃げたら刺す武器を出しても刺すですの」
「話、続けて」
「鳴護アリサ、って知ってるか?」
「アリサ…アリサって、もしかして歌手のARISA?」

佐天の答えに千雨が頷く。

>>187

「まさか、アリサのストーキングのために密入国してこんな騒ぎ起こした、
とか言わないわよね?」

実にいい笑顔を見せた学園都市レベル5第三位常盤台の超電磁砲御坂美琴の全身からは
バチバチと白い火花が散り始めていた。

「逆だ」

そう言って、千雨は写真を取り出す。

「私とアリサは元々知り合いだ、ネット上のな。
で、部屋の写真を送ってもらった訳だが…」

そこから先は、
魔法使いの事は伏せて不審人物が写り込んでいると言う話を続けた。

「麻帆良学園ですか」

初春が言った。

「知ってるの?」
「知ってると言いますか、言わばもう一つの学園都市です。
科学技術ではこちらの方が上ですが、それでも先端技術開発に関しては相当な水準と聞いています。
この写真技術に関しても頷けます」

佐天の質問に初春が答える。

「ここはこういう街だ、超能力に関しては私達の所にもある程度の噂が聞こえてる。
このストーカー共もちょっと普通じゃない。
そんなこんなで考えた末にあんたらに非常に迷惑を掛ける事になった、本当に悪かった」

改めて深く頭を下げる千雨の前で、美琴以下は少々考えあぐねていた。

「…ここ、ちょっと電波が良くないですね。
御坂さん、すいませんがこの人たちの見張りをお願いします」
「う、うん、分かった」

資材の上でミニノートを操作していた初春が表通りに向けてスタスタと歩き出し、
そちらに佐天が同行する。

>>188

 ×     ×

「あの人の言ってる事、信用出来ます」

表通りから近くの物陰に入り、初春が佐天に言った。

「そうなの?」

佐天の問いに、初春は真面目な顔で頷いた。

「ちょっと、持っててくれます?」
「うん」

かくして、佐天を支えに初春はミニノートを操作する。

「コスプレ?アイドルのホームページ?」
「メジャーではないですけどね」

そう言いながら、初春が操作を続ける。
画面が二分割され、左側が今まで通り、
右側に隠し撮りした長谷川千雨の写真が映し出される。

「ん?…ちょっと待って。これって…いや、でも…」

初春が操作を続けると、
左側に映し出されたウェブサイトの人物画像が徐々に変化していく。

「これって、同じ人?」
「そうです。写真に施された修正を復元しました」

そう言って、初春は改めて左側に元のウェブサイトを映し出す。
初春の操作に連れて、画面には目や耳、唇を拡大した小窓が映し出され、
それぞれの小窓の下に98%を超えるパーセンテージが表示される。

「通常同一人物と判定されるレベルです」
「このサイトって」
「ネットアイドル「ちう」のホームページです」
「その「ちう」とあの「長谷川千雨」が?」
「同一人物です」

>>189

「化けるモンだね、ちょっと見だと分からないんだけど」
「修正技術に関してはかなりの使い手ですね。
もっとも、本人の自覚がマイナスなだけで素材の良さも十分なんですけど。
だから、さり気なくナチュラルなレベルで盛るだけでもぐっと見栄えがしてる」

「それはそう思う、結構いい線行ってる」
「最初に彼女を見た時から引っ掛かっていたんです。
それで、情報収集用のウィルスの詰め合わせをこのサイトにごっそり送信しておきました」
「ちょいと初春…」

「それぐらいやってもバチは当たりません。
正式な手続きをするなら令状が出るレベルの容疑者なんですし」
「うん、まあ、それは」

「それから、そこを取っかかりに私が解除ツールを使って、
サイトの管理者メニューから彼女の個人PCまで丸ごと把握しました。
現状において彼女が使っているPCのデータに関しては、
公式サイトと言う店先からその裏のバックヤード、事務所、分離されている筈の自宅スペース。

机の引き出しのガソリン袋付きの二重底の向こうの裏帳簿から
額縁の裏のへそくりからベッドの下の秘匿書籍から床下の隠し金庫に至るまで、
全てを把握出来る地図と通行許可証と合鍵を手に入れた状態です」

この友人だけは絶対に敵に回してはいけない。佐天涙子は改めて痛感する。

「只、単にアイドルとしてサイトを作るのに長けていると言うだけじゃない。
長谷川千雨のネット、PCに関するセキュリティーを含む技術は極めて高い水準です。
正規の手続きを取ったとしても、学園都市の大概の専門家でも容易には突破出来ないかも知れない」
「それって、凄くない?」

「凄いです。得られたデータから見て、彼女が直接手がけているみたいですね。
学園都市の水準でも市販のセキュリティーソフトならスルーして丸裸にして中身を送信してくれる筈の、
私が開発、改良を重ねてきたウィルスの大半が独自のセキュリティーソフトで粗方駆除されていました。

麻帆良で開発したんでしょうか?非常にユニークと言うか独特のプログラムを色々使っていて、
先ほどの修羅場の真っ最中の作業なのを差し引いても想像以上に手間が掛かりました。
ハッキングによる直接の攻防戦でも…彼女とそうなったとしても厳しい」

「で、そこまでして分かった事は?」
「彼女の言う事は信頼出来ます。彼女がARISAと友人であると言う裏付けも取れましたし、
断片的ですが今回の越境計画に就いても形跡が残されています」
「それじゃあ早速…」

>>190

そこで、佐天は、どこか浮かない顔をしている友人の様子に気付く。

「どうしたの、初春?」
「このちう、長谷川千雨と言う人は、クレバーでいて人恋しい、そういう人です」
「はあ?」

「セミプロとしておちゃらけて内心斜に構えてそう思いながらもそれに徹する事が出来ない、
心のどこかで真っ直ぐな事をしたい、そう思っている人です」
「ちょっと、どうしちゃったの初春?」

「悪く言えば、少し頭が良すぎるネット弁慶、だから容易に他人の事を信頼しない。
信頼出来ないと言う理解が先に立って、まず防衛を優先させる。
自分が強くない事も理解しているからです」
「…それを読んだら、それが分かるの?…」
「セミプロの作りに乗せられているだけかも知れませんが」

初春の答えに、佐天は小さく首を横に振る。

「プライベートも読んだんでしょ?」

佐天の問いに、初春は頷く。

「全部ではありません。鍵を開いて見つけ出した日記やメモの中には、
理解出来ない記述が少なからずありましたから」
「理解できないって?アラビア語か何かで書かれてたの?」

「いえ、間違いなく日本語です。
そして、厳重に隠されて鍵が掛けられた金庫から見つけ出したものですが、
使われている符丁が本人に聞かないと理解出来ないタイプの暗号日記です。

奇跡も魔法もあるんだよ、とでも言うんなら話は別ですけど、
そうでなければ、一つ一つの単語の変換が分からなければ意味が通らない。
それでも、読める所からだけでも分かるのは、
長谷川千雨は鳴護アリサの友人です」

「そう」

>>191

「クレバーで、自分の無力を誰よりも自覚している、
他人は他人だと自覚して、むしろ、恐れていると言ってもいい。
写真修正、匿名性の向こうでリスクを冒さず人からの賞賛を求め、
時に真面目な事を言い、どこか共鳴するものがあるから匿名の人達から受けている。

そんな人が、友人のために破滅的なリスクを冒してここに来た。
そして、御坂さんや白井さんを圧倒する能力があるとは言え、
とても打算的には見えない事に協力する仲間がいる。それだけのチームを作ってしまう。
決定的な矛盾を踏み越えてでも自分で行動した結果です」

「初春」
「はい」
「惚れた?」

「え?」
「だーめ」
「佐天さん…」
「だって…ねぇ」
「ですよね…」

「だって…初春は私の嫁になるのじゃあああっ!!!」
「ひゃああっ!だからスカート、っ…」

初春がバッと口を掌で閉じて周囲を伺い、二人で顔を見合わせ、笑い声を上げた。

「あの二人がどう言うかな?」
「そこなんです。白井さんはあくまでもジャッジメントです。
それに、御坂さんは何と言うか、こういう屈折したと言うか、
そういう人の心理を理解してもらうには非常に…」
「ああ、うん」

初春の要領を得ない言葉でも、佐天は納得した様に頷く。

>>192

 ×     ×

「あ、初春さん」
「戻りましたの?」
「ええ、お待たせしました。長谷川さん」
「ああ」

「つまり、友人である鳴護アリサの安全確保、
それがあなた達の目的だと言う事ですね」
「そういう事だ」

「外の人間として、友人の危険に際して
その手がかりを得るきっかけを求めて無謀な情報収集を行ったと」
「三年前だ」

初春の問いに、千雨が言った。

「三年前、大きな事故があって、それで鳴護アリサはそれ以前の記憶を喪っている。
鳴護アリサと言う名前も施設の人間がつけてくれたもので、
自分の身元すら知らない、これは私が直接聞いた話だ。
この時点でどれだけおかしな話か、あんたらなら分かるだろう」

千雨の言葉は、先ほどまで敵対していた四人にも十分説得力のある話だった。

「私は、そこが知りたかった。何か鍵があると思ったからな。
だけど、外の人間に出来る事は限られていると言うか本来何も出来ない。
何にせよ悪かった、申し訳ない」
「分かった」

美琴が口を挟んだ。

「アリサの事は私が引き受けた」
「御坂さん」

請け合う美琴に佐天が声を掛ける。

「元々、アリサとは知らない間柄じゃないし」
「本当か?」

千雨の問いに美琴が頷いた。

>>193

「さっきも話したが、そのストーカー連中、
いっぺんとっ捕まえようとしたけど結構厄介な能力者だ」

こういう時、超能力都市なのは実に助かる、話が作り易い。

「私を誰だと思ってるの?」

美琴と千雨が不敵な笑みを交わした。

「んじゃー、帰ってもらおうか」
「お姉様っ!?この人達は学園都市に不法侵入を…」

「その辺はまぁー、元々表沙汰にすると却って嫌な事もある話だし。
本当に条例で裁判ってなると、私達もここまで色々無茶しちゃったしね、初春さんも。
それに、悔しいけどこっから総力戦って訳にもいかなそうだし」
「お姉様、黒子は…」

言い募ろうとする黒子を美琴が手で制して、
やはり正義と言えるのか分からないものが反対側の正義を
力でねじ伏せる結果になってしまったと、黒子の悔しそうな顔が千雨の心に刺さる。

「そういう事なら、これ以上の悪さもしないでしょう?」
「本当に、悪かった」
「と、言う事なんだけど、手伝ってくれる?」

御坂美琴も又、素晴らしい仲間に恵まれていた。

 ×     ×

「それじゃあ、私は支部で関係する情報を集めて見ます。
御坂さんと白井さんは寮に戻って下さい、これ以上は」
「そうね、寮監が洒落にならないわね」
「ですわね」

「それじゃあ、私達は引き揚げさせてもらう。
本当に恩に着る、申し訳ない」
「分かったから、後は任せて」
「ああ」

めいめい、それぞれの方向に動き出した。

>>194

「朝倉」
「はいはい」

先ほどの現場からしばらく歩いた所で、
千雨に声を掛けられた和美は、アーティファクトの携帯モニターを手にしている。

 ×     ×

「黒子」
「はいな」

途中の屋根の上で、美琴は黒子に声を掛けた。

「先に戻っててくれる?」
「えっ?」

 ×     ×

今回はここまでです。

自分でも分かるぐらいの力業な収拾になりました。正直展開上の都合もあります。
このキャラの思考がおかしいとか、特に、超電磁砲組がブチギレてた理由が理由ですから、
色々畏れ入りますが荒れない程度が有り難いです。

続きは折を見て。

学園側を知らないからだろうけど、流石に根こそぎやられるのはどうかなぁと思った
千雨が戦ってきた相手が軽くなってしまう

感想どうもです。

まあ、初春だしw
まあ、SSだしww

展開上、初春もハッキングした時点ではバーサークドスブラックモード入ってた訳で(汗

と、言う事にしておいて下さい(滝汗

>>199の意味で
千雨が作中で闘った相手って主な所で言えば
学祭の茶々丸とネギ救出時のゲーデルでしたか。

アスナ姫救出作戦は千雨でも外から結界破るのは無理って結論でしたし、
体育祭では茶々丸の衛星をカード状態でハックする離れ業をやってのけたとか。

だからどうしたと言う意味ではありませんが、防御力に就いての描写は直接は無かったかと。
基本、ネギが物理的に突破して発覚して箱詰めで沖縄旅行したりしてた訳ですから。
もちろん、普通に考えたら普通じゃないレベルのセキュリティ張ってると考えるべきですが。

ゴルゴ13でフリーウェアのワクチンソフト開発者が拉致された時、
ゴルゴがハッカー雇って開発者の自宅の調査したら
本人の自宅PCはノーガードで、凄腕技術者でも個人の自宅って案外そんなもの。

張り切って用意したパスワード解除ツール使う迄も無かったぜって話やってたけど。
只、本作の千雨の場合、公表されてるサイトを取っかかりに乗っ取られてるのでちょっと話は別ですが
そこはやっぱり初春だし(土下座

誰か鉄板あっため始める前に本題に入ります。

>>203

それでは今回の投下、入ります。

>>195

 ×     ×

科学の学園都市風紀委員第177支部。

「鳴護アリサ…元々の基本電子データはトラブルにより破損。
統括理事会権限により再発行、根拠となる紙資料は統括理事会扱い…
露骨に怪しいですね。一応探しましたがスキャニングその他で閲覧出来る箇所は無し。
これでは手が出せません」

他に誰もいないオフィスで、聞こえそうな声でぶつぶつ言いながら
初春飾利はパソコンを操作する。

「三年前の大事故、と言うとオリオン号事件、
多分これで合ってますよね。あれ?」

途中で、初春は首を傾げた。

「なんだろう、これ?」

言いながら、初春は手元のメモに「正」の字を書き始める。

「…セクウェンツィア…何これ?
数が、合わない?え、でも…どうして、これこんな簡単な…」

初春は、紙のミニノートに走り書きをしながら急ピッチでパソコンを操作する。

「開いた…これってホロスコープ?…」

初春の頭が不意にカクンと揺れた。
初春が、一転して無機質にキーボードを打鍵し始める。

「やばいっ、あいつを落とせっ!」

千雨が叫び、小太郎が飛び出して初春の首筋に手刀を叩き込む。
少し遅れて、部屋の一角からその他の千雨と愉快な仲間達が姿を現した。
千雨の放った電子精霊がモニターに呑み込まれる。

>>204

「長谷川、これって?」
「藪を突いて、かよ。まさかこんな所に…」

和美の問いに言いかけた千雨が物音に目を向ける。

「初春ー、差し入れ持ってモガモガッ!!」
「オーケー落ち着け、今は誰かに危害を加えるつもりも無いし
これやったのも私達じゃない、その事を理解して騒ぎを起こさないでくれると有り難い」

楓の掌に口を塞がれた佐天に千雨が言い、佐天が小さく頷く。

「初春っ!?」
「なーにしてくれちゃってるのかしらねぇー?」

それでも佐天が叫びながら初春に駆け寄り、
千雨が、ギギギと音を立てそうな首の動きで不意に聞こえた声の方向を見ると、
傍らに白井黒子を従えた御坂美琴が実にいい笑顔でバチバチと白く光り始めていた。

「近くまで来て一応携帯掛けても出ないから来て見たらさぁー」
「分かった、私に責任があるのは確かだけど私がやった訳じゃない、
それを踏まえて初春さんのこれからに就いて話し合いをしたい」

裏声で歌う様に朗らかに発言する美琴を相手に、
十分過ぎる命の危険を感じながら両手を上げた千雨が言葉を選ぶ。

「初春、初春っ!?」
「これはどういう事ですの?」

佐天がぐったりした初春をゆさゆさ揺さぶり、そちらに移動した黒子も千雨に厳しい視線を向ける。

「パソコン?」
「見るなっ!」

元凶に気付いた佐天に千雨が叫んだ。

>>205

「な、何?パソコンが?」
「ああ、まず分かりやすく言う。原因は昔の漫画で言う所の電子ドラッグだ。
パソコンから人間の五感が受信出来る各種の刺激を人為的に調整して有害化する」
「そんな、初春がそんなものに…」
「初春さんだからだ」

佐天の反論に千雨が言った。

「大概の人間なら、手前の意識誘導で
ネット上のミスディレクションに落とし込む所で終わっちまう。
だけど、初春さんはハッカーとして切れ過ぎた。
それで、深入りし過ぎた対抗措置として用意されていた虎の尾を踏んじまった」

「つまり、何か見せたくないものがあって、
それを無理に見ようとするとこうなる、そう言いたいのね」
「そういう事だ」

美琴の理解に千雨が応じた。

「じゃあ、取り敢えずパソコンの電源…」
「駄目よ」

そう言った美琴の表情には苦いものが浮かんでいた。

「まさかと思ったけど、パソコンの電磁波と初春さんの脳波の境界が不明瞭になってる。
この状態で電源落としたら、僅かなリスクだと思うけど…」
「プログラム稼働中のPCのコンセントを引っこ抜く、
そいつを彼女の脳味噌でやる事になる、って事か」

電気使いの意外な視点に舌を巻きながら千雨が言い、美琴が頷いた。

「ちょっと待て、何してる?」

そして、パソコンに手を添えた美琴に千雨が尋ねた。

「パソコンの電磁波と脳波を解析して分離して初春さんを治療する」
「今、そいつを操作したらあんたも巻き込まれるぞ」

>>206

「私の体内電気で直接このパソコンに干渉するわ。
外の人間には信じられないかも知れないけど、体内電気を電気機器の電気信号に接続させて、
とてつもなく細かい単位の電気信号をとてつもなく細かい演算で、
例え高性能コンピューターでも、私の体から私の意思で直接支配して操作する事も
そこからネットワークに接続して操作する事も出来る。
初春さんに取り憑いた不正電磁波を解析して…」

「もっと駄目だっ!」

千雨が叫んだ。

「そんな事したら逆流してあんたの脳が食われるっ!」

「私を誰だと思っているの!?
学園都市のエレクトロマスター電撃使いの頂点に立つ
学園都市レベル5第三位、常盤台の超電磁砲よ。
例えスパコンレベルの高度な電気信号でも自在に出来る」

「これは只の電気信号じゃないっ!」
「電気は電気よ、私には見える」
「いいかよく聞け、これ以上続けるなら私達はあんたに総攻撃を掛ける。
これ以上被害を拡大させる訳にはいかない」

千雨は我ながら情けないと思いながら、構えを取る小太郎と楓を見る。
美琴と黒子の目つきからも退く意思は一片も見えない。

「じゃあ初春はっ!…」
「私が行く」

叫ぶ佐天に押し被せる様に千雨が言った。

「あんた達の超能力とは別の系統のトンデモ能力が絡んでる、
これは私達の領分だ」
「それ、冗談だったら消し炭とか言うレベルじゃないんだけど」

千雨の取り出した「力の王笏」を見て美琴が言った。

>>207

「これは、私の責任だ」

両手持ちにした「力の王笏」を床に水平にパソコンに向けながら、千雨が言った。

「そうだよ、これは私がやらなきゃいけないんだ」
「………」
「私が初春さんを巻き込んだ。だから、絶対に助け出す。
広漠の無、それは零。大いなる霊、それは壱。
電子の霊よ、水面を漂え。
「我こそは電子の王」!!」

 ×     ×

ぐらりと脱力した千雨を楓が支える。
そのまま、床に横たえた。

「な、何よこれ?まさか本当にパソコンの中にダイブした、
とか言わないよね」

佐天が青い顔をして言った。

「今の初春さんの状況を応用して考えるなら、
決してあり得ないとは言えない」

美琴が真面目に言った。

 ×     ×

ルーランルージュ姿の千雨が歩いていたのは、暗い、薄気味の悪い岩場だった。
そこで千雨が見付けたのは、小柄な人の背丈ぐらいで湯気を立てている蛇の塊だった。

「どきやがれっ!」

千雨が「力の王笏」を振ると、蛇の大群が半ば剥がれ落ちて、
その下から大理石製初春飾利1/1フィギュア最低落札価格以下略が姿を現した。

「この野郎っ!」

改めて呪文を唱えて「力の王笏」を石像に向けると、蛇は石像から離れて逃げ出した。

>>208

「良かった…損傷は自己修復出来る範囲内か。
お前ら、プログラム(呪い)を解除しろ、私の相手は…」

電子精霊に指示を出し、嫌な汗を感じながら千雨が視線を向けた先には、
巨大な犬の双頭、そこから光る凶悪な光が隠し様もなかった。

「こっちだっ!」

千雨が走り出した。
それに合わせて、双頭の犬ケルベロスは石像とは別の方向を向く。

「!?」

千雨がとっさに身を交わす。
千雨に猛スピードで突っ込んで来た一抱えほどもある大きな鳥は、
そのまま引き返した所を千雨のパケットフィルタリングで撃ち落とされた。
同じ双頭の人面鳥が二羽、三羽と、千雨の周囲を旋回する。
千雨が「力の王笏」を振るい、必死で追い払いながら逃走する。

「くっ!」

ケルベロスの口が光る。千雨が手近な岩陰に飛び込み、
ケルベロスの吐き出す青白い炎の直撃を避けた。

更に、ケルベロスの足下にも、
今度はやたら現代的と言うか近未来的な人型敵キャラの一団が姿を現す。
全身真っ黒な装甲、ヘルメットに身を固め、
その一部である黒い仮面に目の部分だけが不気味に赤く光っている。

「ちう・パケットフィルタリーングッ!!」

その黒い装甲が抱え持ちの大型機関銃を一斉掃射して来たからたまらない。
千雨はとっさに防壁を張りながら岩陰に飛び込む。

>>209

「遅いんだよバカがっ!」

只、敵兵は頭の方に多少の問題があったらしく、
一斉に弾薬交換を始めたタイミングで千雨はジャンプで岩の上に飛び出し、
そのままパケットフィルタリングで黒装甲どもを一掃した。

見て目通りの多少の硬度はあっても、所詮はプログラムと言う事だ。
だが、ほっとする間も無く双頭鳥が千雨を狙い、
千雨は「力の王笏」で牽制しながら岩陰に逃げ込む。

「うげっ」

見ると、ケルベロスの周囲には、その双頭の人面鳥がふわふわと浮いている、
一羽や二羽ではない群れだ。

「おい、まだかっ!?」
「まだです、ちう様。非常に複雑な術式が使われています」
「何だと?」

「直ちに取り寄せる事が出来るワクチンプログラム(解呪法)では効果がありません。
手がかりは見付かりましたから、
現在まほネットから必要な情報を取り寄せてワクチンプログラムを構築しています。
しかし、それらの材料には禁呪や上位に指定された情報が多数含まれていまして、
そこを突破して手に入れる事自体に困難を極めているのが現状であると…」

双頭鳥が千雨の頭上から急降下して来た。
千雨が横っ飛びに交わし、「力の王笏」からのビームで撃ち落とす。
そのまま別の岩陰に飛び込み、ケルベロスの炎から防御する。
そうしながら、今の状態であればイメージとして直接脳内で操作出来る携帯電話に接続する。

>>210

「葉加瀬かっ、頼まれて欲しい…」

言ってる側から、千雨は飛び込んで来る双頭鳥を叩き落としながら岩陰を駆け出す。

「だからこっちだって…だああっ!!」

千雨は向きを変えようとしたケルベロスにビームを浴びせ、
ギロリとこちらを向いたケルベロスの口が光るのを目にしながら
命からがら岩陰に飛び込む。

「…もしもし…」
「もしもしっ!」
「話は聞きましたです。
とにかく、分かるだけの情報をこちらに送って下さい」

今回はここまでです。

うむ、電子ドラッグと言う用語が微妙に間違ってた気がするのは
雰囲気で流していただこう、スマンカッタ

続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>211

 ×     ×

「と、言う事だ。
情報を共有してアドバイスに従って、一刻も早く、
だけどプログラム化した精神には傷一つ残さずに修復する。
厳しい条件だけどよろしく頼むっ!」

「ラジャーちう様っ!」
「我ら命に替えてっ!」
「どうぞ何々しろと命じて下さいませちう様っ!」
「とっととやりやがれっ!!」
「「「「「「「ラジャーッ!!」」」」」」」

「命に替えて、か」

背中を岩に預け、ずずっ、と千雨は座り込む。
一瞬だけまどろんでから、岩の地面を転がり双頭鳥の頭突きを回避する。

どかん、どかん、どかんと、地面に当たるや爆発する
ケルベロスの青い炎を、地面を転がりながら懸命に交わし続ける。

 ×     ×

じっとしゃがみ込んでいた御坂美琴が、すっと立ち上がる。
腰を浮かせようとした小太郎が、楓の制止に従う。

「正解」

美琴が、ぽつっと言った。

「女は殴れないとか、やっぱりそういうタイプか。
殺す覚悟が無いなら私の前に立たないで」

ぼそぼそと、しかし、圧倒的な雰囲気と共に言いながら、
美琴は歩みを進めた。

>>215

 ×     ×

「っそおっ!だからそっちじゃねぇって言ってるだろっ!!」

一休みしたかった体を叱咤して、千雨は駆け出した。
走りながら、「力の王笏」からの光弾の速射を足下に撃ち込んでケルベロスを牽制する。
走り抜けて、一息ついていた千雨がバッと体勢を立て直した。
初春を背にした千雨が、双頭鳥の体当たりをまともに受けて背中で岩の地面を滑る。

「っ、てぇーっ…」

肋骨がまともに折れた感覚だ。
生身よりはマシなのだろうが、それでも呼吸が苦しい。

「やっ、ろおっ!!」

トドメを刺す様に飛来した鳥を「力の王笏」でぶん殴り、
そしてその杖の底で鳥の体をブッ刺し、抉り殺す。

「うええっ」

嫌な感触に嘔吐している場合では無かった。

「ちう・パケットフィルタリィーングッ!!!」

それは、ケルベロスの大出力の火炎放射との真っ向勝負だった。
流石に巻き込まれたら危ないのか、未だうじゃうじゃ飛び回っている双頭鳥も上空を旋回するばかりだ。
火炎放射が止まった。千雨もそのまま「力の王笏」からのビームを止めて尻餅をつく。

「うざいっ!!」

ここぞとばかりに飛来した双頭鳥を三羽ほど、
立ち上がり様に悲鳴を上げている肉体を酷使してボコボコボコと「力の王笏」で叩き殺す。

「キリがね、えっ?」

ケルベロスの背後から、更なる巨大生物の姿が見えた。
ずるっ、ずるっとその身を引きずって現れたのは、十分に怪獣サイズの大蛇。
但し、胴体の後ろ半分は一本でも、そこから先は幾つもに枝分かれしてそれぞれに蛇の頭がついている。

>>216

「ヤマタノオロチ?いや、ここまでのチョイスって、事は?…」

脚が砕け、座り込みながら千雨は呟く。そこに、更なる新手。
双頭鳥とは比べ物にならない巨大な鳥らしきものがばさっ、ばさっと着地する。
但し、こちらは前半分は巨大な鷲だが、その後は獅子の肉体。
ケルベロス同様、麻帆良の地下でもお見かけした相手だが、

「これもまあ、幻って言えば幻なんだけどダメージは幻じゃすまないしなぁ、
誰かイングラム持って来い…」

千雨は、よいしょと立ち上がる。
しかし、大蛇ヒュドラの多数の首は明後日の方向に伸びて、
伸びた先端が空間に呑み込まれる様に消滅する。
開かれた大鷲のクチバシからも、猛烈な火炎放射がヒドラの方向に噴射され、
その炎も途中で空間に呑み込まれる。

「そう言や、バ○ドンってのも強いよなぁバー○ンってのも…」

千雨は、自分の思考が危険なレベルで取り留めがなくなりつつある事を自覚する。
新手がこちらを向いていないのは助かった、
今一斉に来られたら確実に挽肉の消し炭だ。

だが、事態は丸で改善されていない。
ケルベロスに双頭鳥の群れは丸で衰える気配が無い。
実際、千雨も防御が手一杯で効果的なダメージを与えられていない。
最初から本気で殺り合えばやり様もあったのだが、それが出来ない事情がある。

千雨が、チラッと後方に視線を走らせる。
初春の灰色の全身にピシッ、ピシッとひびが入り始める。

「何とか、なるか…」

何度目になるか、プログラミング補正された動きで、
体ごとひゅんひゅんと「力の王笏」を振り回す。

飛来した三羽の双頭鳥の内、二羽はケルベロスの上空に戻る。

>>217

 ×     ×

「御坂さんっ!?」

ガクン、と体を揺らした美琴を見て、佐天が悲鳴を上げた。

「つーっ、気持ち悪っ、これが…うぐうっ!!」
「ああっ!」

床に座り込んでいた佐天が、どんと床を叩いて顔を伏せた。
美琴は、吐き気を堪えながらも両手でしっかりとパソコンを握る。
千雨ほど鮮明ではないが、
それでも、接続に成功してかなりの所まで感覚的なイメージ化には成功しつつある。

 ×     ×

「ぐあっ!」

感情任せに墜落していた双頭鳥を踏み付けた、その脛を噛み付かれて千雨は悲鳴を上げる。
その隙に、防御した千雨の左腕に噛み付いた別の双頭鳥共々
千雨は「力の王笏」の発する至近距離の高出力ビームで確実に消滅させる。

「パケットフィルタリングっ!!」

ケルベロスの青白い炎を「力の王笏」の力ずくで抑え込み、凌ぎ切る。
千雨が後ろに視線を走らせる。初春の全身に、ビシッ、とギザギザに縦一筋の大きな亀裂が入った。

「いける、間に合う…」

 ×     ×

「ああああっ!!」
「御坂さんっ!!」
「お姉様っ!」

ガクガクと全身を痙攣させる美琴を見て、今度こそ佐天が悲鳴を上げた。
だが、それが収まった時、美琴の口元は綻んでいた。

「くくっ」

その笑みは、ここにいる意識のある全員が退くに十分のものだった。

>>218

「くくっ、くかかっ、くかかかかかかっ、かかかかきくけこォォォォォっっっっっ!!!
なンですかなンなンですかァ!?
別系統の能力ってこの程度なンですかァァァァァァっ!?!?!?」

叫んだ先から、美琴の体が海老反りする。

「くか、くかか、くかかかかかかかか、
だーいじょうぶ大丈夫、あーはははははははっ、ほろ酔い気分だにゃー。
結局、電気信号は電気信号、私に制圧されるために存在してるって訳よ。
こんなので私に勝ったとか思っちゃったのかにゃーん?
ハリーハリーハリーハリーハリーッ!!!おぶうううううううっ!!!」

「御坂さん…」
「お姉様…」

「うふっ、うふ、うふふふふふふっ、うふぅふふふふふふふふ
だぁーいすきっ!!
[sogebu][sogebu][sogebu][sogebu]
だいだいだいだいだーいすきっ大好き大好き愛してるうっ!!
好き好き好き好き好き好き好きあぁぁぁいぃぃぃぃしぃぃぃてぇぇぇぇぇ
好きで好きで好きで好きであぁぁぁぁぁたまらないたまらないのおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
はああぁぁーーーーーんっらめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっ………ふぅーっ………
アハハハハ………あああああっ!!!」

絶叫と共に美琴が荒い息を吐いた時、同室の面々は一斉にそっぽを向いた。

「んっ、ぐっ…」

想像を絶する干渉感覚だ。そんな電圧がある筈が無い等と考えている暇も無い程。
いや、これは法則が違う。村上夏美と対した時もそうだったが、
長谷川千雨の言う「系統の違う」と言うのも満更デタラメでは無い。

こうしてぶつかり合っている以上完全な別物ではないが、電気で御坂美琴の脳を突き破る、
それをストレートにやるにはどう考えても出力が足りな過ぎる。
それ以外の思いもよらぬ要素がある筈だが、今はそれを解く暇は無い。
ギリギリと歯がみしながら意識を演算に集中させる。

>>219

「うぐっ!」
「お姉様!」
「御坂さんっ!」
「何や?いいの貰ったんかっ!?」

ドゴン、と、ボディーブローの様に強烈な刺激が美琴の神経から脳に描き出され、
それに合わせて美琴が体を半ばくの字に折りながらその手を必死にパソコンに繋ぎ止める。
美琴の視線がつと外れる。
床にぐったりと横たわっている長谷川千雨、その目尻を見た時、
御坂美琴の頭の中で、何かがブチッ、といい音を立てた。

 ×     ×

千雨が魔力を込め、「力の王笏」にガジガシと噛み付いていた双頭鳥が煙を上げて剥がれ落ちる。
同時に、「力の王笏」もガランと地面に落ちた。

「くっそおっ!」

「力の王笏」から発せられた電撃に耐え兼ねて手放した千雨が、
岩の地面を転がりながら「力の王笏」を拾う。

「うらあっ!!」

突っ込んで来た双頭鳥が千雨を狙って開いた口に
千雨が「力の王笏」を突っ込み、そのまま後頭部までぶち破る。
足をかけて引っこ抜き、群れで飛来する双頭鳥を帯状のビームで追い払う、が、

(出力が、全然足りてねぇ…ハゲタカかよ…)

双頭鳥が、千雨の上空でぐるぐる旋回を始める。
ケルベロスの口も光り始める。

千雨が音に気付き後ろを向く。
初春の花飾りからぱあんと表面が弾けて、カラフルな色彩が戻って来る。

「何とか、なりそうだな」

「力の王笏」を握った右手諸共両腕がだらんと下がり、
千雨の口元に笑みが浮かぶ。

>>220

「…有り難うな。御坂美琴の性格読んで、上手く乗せてくれたんだよな…」

千雨が、前を向いた。

「これは、私の責任だ。私がやらなきゃ、いけないんだ。
私が、初春さんを戻さなきゃいけない、大丈夫、戻れる。
初春さんは、戻れる…」

呼吸を整えながら、千雨はぶつぶつと頭の中で繰り返した。
両手持ちした「力の王笏」を天に掲げる。
バチバチと放電する「力の王笏」を掲げ、巨大な双頭犬を見据える。

「戻れる…戻して、見せる。
来るなら来い…けど、なるべくなら来るな。
終わるまでは付き合ってやる。人としてやんなきゃなんねぇ、それまではな…
………終わり、かよ………」

耐え切れず、千雨の顔が下を向いた。

「…あの夏にも…戻って来て…なのに…
………すけ………て………ギ………んせい………」

ケルベロスが吠えた。甲高く吠えた。
千雨が、はっと天を仰ぐ。
ヒュドラの首が戻って来た。
戻って来たまま、空中で踊り狂い、全体がばったりと衰弱する。

その隣で、勇ましい大鷲の羽毛と獅子の毛も絶叫と共に炎に包まれる。
双頭鳥の群れが上空で異常な旋回軌道を取り、ケルベロスも不安げに足踏みを始めた。
聞いた気がした。千雨が最も待ち望んでいた、勇ましきその声を。

>>221

 ×     ×

「お姉様っ!?」
「つーっ…最悪の目覚めって感じかなぁ…」
「御坂さんっ」

「ははっ、私の責任、巻き込みたくない、ははっ、はぁーっ。
いたなぁー、そんな事言ってた奴。
うふっ、あはははははっ、ねぇ、何が見えてる?あんたの目には今何が見えてる?

私の目の前でこの人達泣かせるとかさぁ、
あんた、この学園都市レベル5第三位、常盤台の超電磁砲にどんだけ恥掻かせたら気が済む訳?
何一人で格好付けてんのよ。
っざけてんじゃないわよおおおおおっっっっっっっ!!!」

今回はここまでです。続きは折を見て。

色々気にはしてますが、今回はこのまま投下行きます。

それでは、今回の投下、入ります。

>>222

 ×     ×

「っけるな、っざけるな!ふっざけるなあっ!!
あんた分かってんの?
アリサも初春さんも私の友達だっつーのっ!
あんたが二人を助けるために一人で危ない橋を渡るって言うんなら、
まずはその幻想をおおおおっ………」

 ×     ×


「こりゃあ、イメージ的にもやってくれたのって…」

長谷川千雨は苦笑した。
双頭鳥の群れは、爆発する様にして消滅していた。
巨大な落雷を受けてぷすぷすと煙を上げているケルベロスも、
消滅こそ免れたが明らかに弱体化している。

「御坂さんっ!つっ」
「あ…ごめん…」

駆け寄った佐天が、パソコンを手放してぐらりと揺れた御坂美琴の体を支える。
特大の静電気を連想させる感触が佐天に突き刺さる。
美琴の声に、佐天は首を横に振った。

「ここまで、かぁ…大口叩いたんだから、後は…」

佐天にゆっくり座る様に誘導されながら、美琴はまどろむ様に言った。

>>230

 ×     ×

「初春っ!?」

佐天の叫びと共に、
机に突っ伏していた初春がガバッと身を起こした。

「良かったぁ」
「あ、ありがとうございます」

机の側に座り込んでいた美琴も安堵し、頭を下げる初春に笑みを返す。
初春は、少しの間両手で顔を覆っていた。
それから、USBメモリを接続し、猛烈な勢いでパソコンを操作し始めた。

「初春っ!?」
「大丈夫ですの」

叫ぶ佐天に黒子が言った。

「この目は、ジャッジメントですの」

 ×     ×

「っつこいっこのバカ犬っ!!」

ちうはにげだした
しかし、まわりこまれてしまった

只の電気信号ではない、自分の言葉が突き刺さる。
感情があるのだろうか、大ダメージを受けたからこそ思い切り執着されているとしか思えない。

「くあっ!」

蹴躓いた千雨目がけて、ケルベロスの巨大な前足が持ち上げられる。

>>231

(やべぇやべぇやべぇ…)

「ギャインッ!!」

かつての痛覚を伴う幻覚を思い出しかけたその時、絶叫したケルベロスの足の裏には、
地面から突き出してビンと鉄筋の如く硬直した薔薇の蔓が何本も突き刺さっていた。
その隙に千雨は逃走し、薔薇も軟化して引き抜かれる。
体勢を立て直した千雨の目の前では、
ケルベロスが自分の体に絡み付いた大量の薔薇の蔓を悲鳴を上げながら引きちぎる所だった。

「ちう様っ!」
「ああっ、目的は果たした、行くぞっ!!」
「ラジャーッ!!」

千雨が脱兎の如く出口へと駆け出す。
ケルベロスがざっ、ざっと後ろ脚を跳ねて追走を構える。

「あなたの門に帰りなさい」

そのケルベロスに、凛として、それでいてどこか優しい声が聞こえる。

「あなたは、あなたの門に帰りなさい。
ここは学園都市。私は、私の門を守る。決してその先には進ませない」

 ×     ×

「ただ今、でいいのか?」
「お帰り」

横たわっていた床で身を起こし、側頭部を抑えながらの千雨の質問に美琴が応じた。

「初春さんは?」
「お早うございます」
「ああ、お早う」

のんびりとしたやり取りに拍子抜けして、ついでに腰が抜けて千雨はすとんと座り込む。

>>232

「ああ、来て下さったんですね」
「あ?」
「いえ、確認したい事があったので、
帰る前にこちらに来ていただいたんですが、
どういう訳か私が昏倒してしまったらしくて」

「ああー、そう言やそうだったな。で、何が分かった?」
「それなんですが、記憶が曖昧で。ご足労おかけしました」
「いやいや、わざわざ有り難う」

初春と千雨の棒読み一歩手前のやり取りを眺めて、初春の友人の中には肩を竦める者もいた。

「ところで」

美琴がちょっと首を傾げて尋ねる。

「やっぱ電子ドラッグね、思いっ切り思考回路引っかき回された感触あるんだけど、
その間に私、何か言って無かった?」

素直に小首を傾げた者以外は、
黒幕も情報源も吐かなくなる条件を即座に思い出して首を横に振った。

「そう」

何となく納得していなさそうな美琴を前に、
白井黒子は胃袋に転移させるロンギヌスの槍を探す旅立ちを決意し、
佐天涙子は録画した携帯ムービーの用途を脳内で模索する。

「それじゃあ、今度こそ帰らせてもらうわ」
「うん、アリサの事は私達に任せて」
「これ以上黙認し難い事はくれぐれも避けて下さいまし」
「ああ、迷惑かけた」

>>233

 ×     ×

「で、帰るんやなかったんか?」
「一箇所だけ、寄りたい所がある」

歩みを進めながら、千雨は仲間にPDAを回す。

「オリオン号事件、三年前に発生した宇宙旅客機の墜落事件だ。
乗客乗員88人全員が無事救出されて、学園都市じゃあ88の奇蹟って事で知られている」
「先ほど、初春殿が調べていた事でござるな」

「ああ、だからこれはwikiレベルの最低情報だ。
電子精霊総動員で潜在ブラクラチェック掛けながらキーワードからの基礎情報だけ引っ張り出した」
「この事件が鳴護アリサの言う三年前の大事故」

PDAを手にした和美が言う。

「その可能性は高いな。
少なくとも初春さんはそう踏んで探って虎の尾を踏んだ。何かが引っ掛かる」
「何が?」

千雨の呟きに夏美が問うた。

「これは能力なのかなんなのか分からないけど、私は魔法に関する勘が働くらしい。
魔法のごまかしに対して、おかしいものをストレートにおかしいってなんとなくでも思える勘がな。
だから、これは勘だが、多分理論化したら理論とも言えないぐらい
バカみたいな簡単な事がごまかされてる。初春さんの反応を見てもそう思った」

「だけど、その簡単な事に気付かない様に仕掛けがされていて、
気が付いたら、食われる」

和美の言葉に千雨が頷いた。

「奇蹟…88の奇蹟…奇蹟の歌…そろそろだ…」

言いかけた千雨を、小太郎の腕が制した。

「どうした?」
「誰かいる」

>>234

小太郎に促され、一同は物陰に入った。
確かに、目的地の石碑の前にたたずむ人影があった。

「あいつ…」
「知り合いか?」
「こないだの公園で、黒いカブトムシメカに乗ってた」
「なんだと?」

千雨は、自分よりやや年上だろうか、
少女と言ってもいいその黒ずくめの女をじっと観察した。

「…なぁ…何してる様に見える?」
「お墓参り」

千雨の質問に、夏美がぽつっと答えた。
別に線香も何もないが、雰囲気がそれ以外の何物でもない。
黒ずくめの女が無言でその場を立ち去る。
アーティファクトを発動した夏美と手を繋ぎ、
一同は女の後を追っていたが、千雨がそれを制した。

「悪い、先行っててくれ」

離脱したのは千雨と和美だった。
二人が駆け寄ったのは入れ違う様に石碑に現れ、花束を拾った作業服の男だった。

「本当に墓参りか」
「だからだ」

男の握る黒いリボンに気付いた千雨の言葉に、作業服が言った。

「縁起でもない、片付けさせてもらうよ」

作業服が、バッと腕を振り払う。

「に、しても」

千雨が言う。

>>235

「やけに早い片付けですね。たった今までいた筈ですが」
「あー、連絡があるんだよ」
「連絡?」

「ああ、ちょっと頭がアレな女だってな。
実際、こんなモン置いて行かれてるんだ。
本当なら業務妨害で届けを出してもいいぐらいなんだが」

「誰が報せて来るんですか?」
「分からん。同じ人物から管理事務所に匿名の予告電話が掛かって来る。それだけだ」
「分かりました、有り難うございます」

今回はここまでです。
感想ありがとうございます。
続きは折を見て。

急ぎ足ですいませんが今回の投下行きます。

それでは今回の投下、入ります。

>>236

 ×     ×

「シャットアウラ・セクウェンツィア?」

千雨が、夏美と小太郎からその報告を受けたのは、
すっかり夜更けの麻帆良大学工学部の研究室での事だった。

「うん、間違いない。彼女の部屋で色々確認したから」

夏美が言う。
結局の所、絶対条件である夏美と身軽な小太郎のペアで
尾行相手の黒ずくめの女、シャットアウラにぴったり張り付く様にして
彼女の住むマンションとフラットの玄関をくぐり抜ける事に成功。

以後、お疲れの彼女が入浴中にしっかり手を握ったまま
僅かな痕跡も残さぬ様に悪戦苦闘して身元を示す手がかりを室内から見つけ出した。

が、夏美達が脱出する前に予想外の早さで浴室からリビングまでストレート移動して来たために、
そのままリビングで思索に耽る彼女やその他の家具にぶつからぬ様に右往左往しながら、
ようやく出入りが聞こえないタイミングに至ってフラットを脱出。

先に他の面子を脱出させてから
科学の学園都市に戻って来て待機していた楓と合流してようやく今に至っていた。

「これが、彼女の部屋ねぇ」

和美が、夏美の撮影して来た携帯電話の画面を覗いて言う。

「これって、パイロット?写真に、帽子?」
「ぼろい帽子やなぁ」
「ん?」

会話を聞き、千雨も携帯電話に録画された映像を見る。

>>238

「何と言うか、すっごいアホな事が起きてそうな気がするんだが、
マジだったら笑い事じゃ済まない様なな。
だが、それを確認する事は多分出来ない。
普通の調べ方をしたら、催眠誘導でなんとなく忘れるか納得させられる。
そいつを突破しちまったら」

「初春殿の二の舞でござるか」

「多分な。あれ見ると、私がアーティファクトで手こずった所から見ても、
初春さんと同じルートを辿るのはリスクが高過ぎる。
科学の学園都市は電子データの街、
そいつを利用して、辿り着くルートにあの手の地雷が仕掛けられてる、そう見るべきだ。

素直に理論化したら100プラス100イコールゼロってぐらい、
馬鹿馬鹿し過ぎて却っておかしいのが分からなくなるんじゃないかって、私のゴーストは囁いてる。
この辺に生えてるでっかい樹がなぜ世界遺産じゃないのかってぐらい。
だからこそあんな物騒なモンを仕掛けた。そうでもなけりゃあんな事までする意味が無い」

「その、初春さんですか?彼女が引っ掛かったトラップの事なのですか」
「ああ、綾瀬、今回はサンキューな」
「いえ、お役に立てて何よりです」

研究室に待機していた綾瀬夕映と長谷川千雨が言葉を交わす。

「それで、さっきの件だが」
「呪いですね、西洋魔術系の呪いを応用した術式です」
「だったら、やっぱりイギリス清教の連中か?」
「あり得ません」
「何?」

夕映のあっさりとした返答は意外なものだった。

「ネセサリウスですね、あそこには色々な使い手がいるのは確かですが、
おおよそ近代魔術と呼ばれるものを使っています。
全般的な傾向として、現代科学のハイテクノロジーとは非常に相性が悪い。
恐らく、携帯電話の表向きの機能を使うのが精々でしょう。

とてもじゃありませんが、
高度な魔術の術式をインターネット上に組み込むなんて芸当は彼らには出来ません。
下手したらそのまま本来の意味で脳味噌が吹っ飛びます」

>>239

「おいおい…」

「それに、術式の問題があります。
使われていた術式は、古典的なギリシャ語系の術式でした」
「ちょっと待て、確か、ギリシャ語って西洋魔術では」

「はい、ギリシャ語自体は、ランクこそ高いですが西洋魔術の中ではポピュラーな語学です。
魔法学校から始まるこちらの西洋魔術では、
ラテン語に始まってより高位のギリシャ語の呪文詠唱を行います。
ですから、ネセサリウスにもギリシャ語の詠唱魔術を使う術者自体はいてもおかしくありません。
しかし、今回使われたのはそういう次元のギリシャ語術式ではありません」

「どこが違うんだ?」
「古典的、古過ぎます。
千雨さんや弐集院先生、電子精霊を使う術者は麻帆良学園、魔法協会にもそれなりの数がいます。
しかし、それとこんな古典的な術式を組み合わせる人はいません」

「そんなに珍しいのか?」
「魔法そのものが一般には迷信と目されている訳ですが、
その魔法、魔術が進化する過程の中でも非論理的、非合理的として切り捨てられて廃れた筈のもの。
そうしたものが少なからず含まれていたです」
「それで、あれだけの威力があるってのかよ」

「そもそも、千雨さんの電子精霊魔法で電脳空間内の闘いであれば、本来大概の事に対処出来る筈です。
それが容易に出来なかったのは、表現が難しいのですが、
電脳空間だからこそ本来通じるべき共通ロジックがそのままでは通用しなかったからです」

「いや、それは感覚で分かる。
電脳戦じゃ割と修羅場くぐったつもりだが、いくら何でもあれは無い」

>>240

「「王の力笏」による共感は、
あくまで千雨さんの主観としてイメージ出来る様に感覚が変換されているものであって、
高度な電子戦である以上、闘っているのはあくまでロジックとロジックです。

実際に魔術なのですから、電子精霊は魔術として感知して対応しようとする。
しかし、対応するロジックが電子精霊の扱うデータバンクに含まれていない為に、
相手に直接対応する電子的なロジックを直接構築する事が出来ない結果、攻防が上手く噛み合わない。

例えば魔物の中でも物理的に存在するものの何割かは
タンクローリーやトマホークミサイルを直撃させれば退治できます。

話に聞く御坂美琴さんは、あれをあくまで電脳空間の電気信号と言う
それ自体理論上間違ってはいない定義で把握して、
物理的な存在そのものをロジカルに解析して対応した事が、
今回に関しては上手くはまったものと思われます」

「化け物だろうとぶん殴れるものは殴った方が早かったって事か」

「無論、例え科学の学園都市でも
そこらのセキュリティソフトでどうこう出来るレベルの話ではありません。
それで済むならそもそも科学の学園都市に連なる電脳空間に潜伏し得なかった筈です。

その意味では、やはり御坂美琴と言う人はその分野に於ける想像を絶する天才なのでしょう。
デジタルにしてアナログ、自分の能力として自分の意思と直結して電気を使うからこそ、
電気の中の魔術と言う自ら変異する生き物の尻尾を捕まえる事も出来た。

それでも、只でさえ材料が乏しく困難な初春さんの解呪を行っている間、
現在進行形の破壊プログラムで初春さんが破壊されない様に盾になりながら
正体不明の敵が相手なので敵に最適化した攻撃が出来ず対症療法しか出来ない。
この非常にまずい条件下の闘いです。

こちらでモニターした限り、対処したのがどちらか一方であれば、
初春さんを断念して脱出するか自分が廃人になるかが現実的な選択肢となる危機的状況でした」

「紙一重で二重遭難かよ。言いたい事は大体理解出来る。
しかし、魔法自体が科学とどこまで折り合うかって話なのに、
そんな骨董品紛いの魔法が電子戦でそこまで恐ろしいのか」

>>241

「例え話として言いますと、口伝えの伝統と修行して覚えた感覚、
それだけで患者に触れて草と鉱石を調合する。
現代医学から見て、その結果は理論的におよそ三つに分類されます。

迷信として切り捨てられ忘れ去られるもの。
現代医学によっても合理的な説明が出来る範囲のものも少なからずある。
そして、現代医学では説明すら出来ずに、尚かつ現代医学を遥かに凌駕する結果が生ずるケース」

「何と言うか、魔法使いそのものだな」

「迷信が実は迷信では無かった。
当時の最先端の科学が迷信として切り捨てたものに実は大変な価値があった
科学的な分野でも歴史的にしばしば生じている事です。
今回使われたギリシャ語術式はどうもそういう匂いがします。
実際、私の「世界図絵」でも丸っきり駄目でした」

「そう言や、綾瀬の「世界図絵」は自動更新だったか」

夕映が示したパクティオーカードを見て千雨が言う。

「はいです、まほネットによる情報更新システムによって、
容量がオーバーすると使用頻度その他重要度の低い情報から上書き領域に回されてしまいます。
今回の様な考古学に属するレベルのケースでは本来相性が良くないアーティファクトです」

「本当にすまんかった」

「いえ、実に貴重な経験でした。
それでも、巨大図書館レベルの情報量を誇る「世界図絵」です。
無論、ギリシャ語系の魔法研究に関しても、通常を遥かに超えるレベルで網羅している。
それでも、今回のケースでは必要な情報をそのまま検索する事が出来なかった。

千雨さんの電子精霊と協力して、実際使われた呪詛と現存するギリシャ語研究資料の僅かな痕跡を辿って、
既に削除された原形を突き止め、或いは発生している現象に対して現在の魔術を代替品として応用して、
再構築する作業を重ねてようやく初春さんの呪いを解くワクチンプログラムを作り上げました」

「誰がそんな化石を掘り出して来たって言うんだ…」

>>242

「現代のギリシャを含む西洋魔術全体で見ても、
使われた術式のかなりの部分に就いては、そのまま使う所か原形、
断片すらを把握している人すらいないと思われます。

しかも、土に解けた恐竜の心臓を復元する様にこちらで把握した術式自体は極めて高度、
元々は相当に高いレベルのシビル、ギリシャ系の専門術者によるものと推察せざるを得ない。
考えられるとしたら、エヴァンジェリンさん…」

「何だと?」

夕映から出た思わぬ名前に、千雨は腰を浮かせそうになる。

「今回使われた術式は只古いだけではありません。
温故知新、とてつもなく古く進化の過程で葬られた術式をそのまま覚えていて、
しかも、進化の過程も把握し尚かつ最先端科学に組み合わせる離れ業です。
一番手っ取り早いやり方は、その時代から覚えていながら現代に至るまで学習する事です」
「なるほど、千年ロリ婆ぁなら条件に合致するってか」

適当な数字と共に千雨が言った。
多分、本人が聞いていたら次に千雨が発掘されるのは氷河の中であっただろう。

「いえ、エヴァンジェリンさんでは無理です。
エヴァさん本人にそこまでのメカへの適性はありません。

やるとしたら茶々丸さんによる補助が必要ですが、
麻帆良学園で科学の学園都市に関わる事でそんな事をしたら流石に何らかの形で察知されます。
それに、茶々丸さんの魔法科学の基礎は現代魔法ですから
あそこまでストレートに古典を反映させる事も困難です。もう一つ考えたのは、禁書目録」

「その時点で危ないネーミングだな」

「実際危ないのですから仕方がありません。
今回の事件にも関わっていると言うネセサリウスによる術式と言うか存在です。

一度覚えた事を忘れる事が出来ない完全記憶能力者に古今の膨大な魔道書、
それも、特殊な高位の防護術式を何重にも施して、
本来読むだけで命に関わる猛毒の呪いの文献のオリジナルを記憶させる人間図書館。

ネセサリウス、イギリス清教にとっては戦略兵器と言うべき存在。
しかし、先ほども言った通り、それ程までの魔道書の記憶者だからこそ、
インデックスと先端科学との相性は絶望的に悪い。その線も却下です」

>>243

「ちょっと待て、今なんて言った?」
「は?」
「いや、インデックス?」
「ええ、インデックス、禁書目録魔道図書館、どれも同一人物に使われる呼称ですが」
「なるほどなぁ、道理で高音さん達が泡を食う訳だ。物騒過ぎる」

千雨が、大雑把に説明する。

「そうですか…確かに科学の学園都市での事件で禁書目録まで引っ張り出して来たとなると、
この業界の人間であればネセサリウスが尋常ではないと見るのが当然です」

「だが、私の見た所ではちょっと違う。
あいつら、ステイルのチームとインデックスは明らかに別行動で、
インデックスは意図を知らないでむしろ邪魔をしていた。
何よりもアリサ本人を大切に思っていた。
とにかく、これで一つハッキリした事がある」

「はい」
「イギリス清教でも魔法協会でも無い、
しかも、こっちからも正体不明の第三の魔法勢力がこの事件のヤバイ所に噛んでるって事がな」

今回はここまでです。
続きは折を見て。

>>260

「…宇宙エレベーターか…」
「はい」

真面目な顔で応じるネギの前で、エヴァはつと視線を外す。

「…愚かな…」
「バベルの塔、ですか」
「ぼーやはこれから商談か?」
「はい、これから少し」

言いながら、ネギは再びエンデュミオンに視線を走らせる。

「科学の粋を集めたバベルの塔、星の彼方に連なる新世界。
まさに新しい時代未来への道筋、そういう事か」

そこまで言って、エヴァは意味ありげな笑みを浮かべる。

「何事も修行だ、精々頑張ればいい。
まあ、私もぶらっと来てどうこう出来る訳ではないからな、
そろそろ引き揚げるとするが、面白い街だ。
何とはなしに芳醇な香りすら感じられる」
「ごめん、待った?ちょっと変なのに絡まれてさ」
「ううん。大丈夫。今来た所だから」

今回はここまでです。続きは折を見て。

感想有り難うございます。

まず、手痛いミスの報告です。
>>209犬の方は双頭じゃなくて三つ頭だよ、
原作でわざわざのどかがテンパリ説明してくれたのにorz

ふふ。何かレスの期待がヤバイ。
まあ適当にやらせてもらいます。

多分そこまでやらんと思うので(多分ね)冗談話するけど、
前回投下の状態のエヴァだと、一方さん並に時間制限厳しいけど
結界の外でフルパワー行ける状態ですからね。
学園都市第三位以下は瞬間冷凍で終わりでしょう。

あくまで推測だけど、ネギま!原作だとデフォで読心術やってるぐらいだし
それこそのどかもエヴァと目と目で通じ合って簡単に飲まれたぐらいだから
系統違ってもエヴァ相手に迂闊にそんなモン使ったら発狂思念ぐらい逆流されかねないし
麦野がマジギレ自爆したら塵も残さず再生不能って目も無いではないけど、
そこまで行く前に氷塊にされて終わりでしょうね。

どう考えても理由が無いけど、学園都市とガチバトルってなったら
魔術ジャミング機能付きアヘ顔ダブルピース(前六文字削除)爆乳巨人召還して
どうにかなるだろうか(以下略)

魔術サイドの言及は…スマン
雑談はこの辺で。

>>270

それでは今回の投下、入ります。

>>261

 ×     ×

元々、科学の学園都市は学生の街である。
ショッピングモールのファーストフード店と言う事になれば、
時刻になれば放課後の学生で大にぎわいになる。

そんな店内の真ん中辺りで、二人がけのテーブル席にダークスーツの一組の男女が着席していれば、
どちらかと言うと場違いな雰囲気になる。
ネギ・スプリングフィールドは、その二人を見付けて近づき、
声を掛けようとして怪訝な表情を浮かべる。

それでも、目印となる文庫本がテーブルの上にあるので、声を掛けようとする。
すると、ネギが声を掛けようとした女性ががたりと立ち上がり、一礼して席を勧めた。
ネギがぺこりと頭を下げて席に就く。
無駄にイケメンとしか言い様がない対面にいる男も立ち上がり、
入れ替わりに一人の女の子が着席する。

「飲物は何がいいかしら?それとも何か食べる?」

ネギの対面に座った女の子が尋ねる。

「じゃあ、ウーロン茶を」

この店舗内では相当に異様な状況であるが、ネギは臆せず応じる。

「そう。じゃあウーロン茶とグレープジュースを」

この女の子の秘書らしきダークスーツの女が一礼し、カウンターに向かう。
同じくダークスーツの男は、先ほどまで自分達が口を付けていたドリンクを片付ける。

「改めまして、レディリー=タンクルロードよ。
詳しい紹介は必要かしら?」
「いえ、タンクルロード代表。ネギ・スプリングフィールドです」

>>271

唇で笑みを作るレディリーにネギが礼儀正しく応じる。
実質的には雪広グループ中心の政府・企業合同でひっそり起ち上げられた研究会。
プランに関わる事では、ネギは当面この研究会の参与と言う肩書きで活動している。

それは雪広あやかも同じ事であるが、それでも何でもあやかには、
既にして表の政財界にも多少は顔が利く血筋と学生としての実績もある。
対して、ネギの知名度は知っている人の間では絶対でも本当に知っている人しか知らない。
結論を言えば、この二人がプランの中枢近くにいると言う事は、
必要な人間だけに事前に報されて交渉がセットされる、と言う状態になる。

或いは、最初からあやかのアーティファクトで問答無用のセッティングが為されるか。
取り敢えず、そんな感じでも、二人の精力的な働きにより、
各界のトップクラス、本当の実力者の間では、あまり派手に知られても逆に困るが
知られるべき所にはそれなりに顔が売れているのが今のネギとあやか。

それでも、今の所は、表の実力者に近い位置にいるあやかを立てているのがネギの立場。
それは科学の学園都市でも同じ事の筈だったが、
最有力の交渉相手として打診していたオービット・ポータル社から思わぬ連絡が入った。
面会相手はネギ一人を指名して、ここでの会談に担当者を寄越すと。

ネギもあやかも当惑した。余り偉ぶりたくもないが仮にも国家レベルをも超えたプロジェクトである。
当然、オービット・ポータル社にもそれ相応のしかるべき筋を通じて打診している。
研究会の中でも言わば只の天才少年の一種と言う形を取っているネギ一人を指名して、
何よりもこんな場所を指定して来ている時点で、普通に考えるならばガキ一人と侮っている。

しかし、ネギが指名相手であると言う事は、もう一つの可能性もあり得る。
事、科学の学園都市では余り考えられないしまずい事態とも言えるのだが、
こうしてレディリー=タンクルロード直々のお出ましとなると、
もう一つの可能性を考えるのが自然。

かくして、ネギ・スプリングフィールドは、
本日二度目のゴスロリ美少女とのご対面を果たしていた。

「ごめんなさいね、あなた程ではなくても私も少々忙しい身で、
スケジュール上こんな所での会談になったわ」

表で会っていたエヴァのゴスロリが黒を基調としていたのに対し、
今、ネギが相対しているレディリー=タンクルロードの衣服は赤系の色彩だった。
何れにせよ、どこか蠱惑的な西洋人形、そんな形容が似合う事は共通している。
そんなレディリーの背後に、ビシッと黒服スーツの男女の秘書がドリンクを配り終えて控えている。

>>272

「いえ、お時間を頂きありがとうございます」
「ご丁寧に、やはり噂に違わぬイギリス紳士さんね」

レディリーは右手で不躾に頬杖をつき、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「あなたのプロジェクトにエンデュミオンを使いたい、そういう話だったわね」
「はい」

「送っていただいた提案書は読ませて貰ったわ。
雪広や関連企業、関係する政府機関、
夢想的でありながら芯となる計算は確かで企業人として見ても魅力的な内容。
我が社のプレゼンにも十分耐え得る内容だわ」

「有り難うございます」
「ふふっ、その無邪気な笑顔でどれだけの乙女を死地に赴かせたのかしら?」
「感謝しています」

ふふっと小悪魔の笑みで抉って来るレディリーに、
ネギはさらりと、しかし正面から答える。

「実際、今このタイミングで宇宙エレベーターを完成させた以上、
あなたのプランにおいてエンデュミオンの利用は避けて通れない。そういう事ね」
「はい。是非御社の協力を頂きたい」

「そうね、今も言った通り、我が社にとっても魅力的な提案。
現時点で断る理由は見当たらないわね。
あなたのプラン、それはあなたがあなたを慕い信頼する幾人もの乙女達と共に、
その命を懸けて入口を開き、そして一代では済まない年月を掛けて実現に邁進しているもの。
この理解で正しいのかしら?」

「その通りです」

薄く笑みを浮かべて尋ねるレディリーにネギはしっかりと返答する。

「知られている事に毛程の動揺も見せないのね」
「オービット・ポータルの代表が僕を直接指名しての会談です」
「知らないと考える方が間抜けと言う事ね。確かにその通りだわ。
気が付いているんでしょう?
あなたがその気になれば今すぐにでも本物の木偶人形になるのだと」

レディリーは、右手を秘書が控える後ろに払って言った。

>>273

「そうですね」

ネギの答えは、曖昧な微笑と共に発せられた。

「オリオン号事件」

ネギのその言葉にも、レディリーの口元には面白そうな微笑が浮かんだままだ。

「オービット・ポータル社は、あの事件で経営危機に陥りながら、
宇宙エレベーターエンデュミオンの開発主体としてその成功に漕ぎ着けた。
その過程で経営再建のために巨額の出資を行い経営権を獲得したのが
あなたが率いるファンドだった。そういう事ですね」

「特に間違ってはいないわね。一夏で一つの世界を救った英雄と、
少しは肩を並べる事が出来ているかしら?」

「弱冠十歳の天才経営者、尊敬に値します」
「只のお人形かも知れないわよ。天才で通じる学歴ぐらいは本物かも知れないけど。
インターネット上では私は宣伝用のお人形かホログラムなのだそうよ」
「お人形さんみたいに綺麗で可愛らしいですから」

「流石、素で言ってくれるのね。
あれだけの麗しい軍団、ハーレムを率いる雄々しいリーダーだけの事はあるわ。
気を付けなさい。あなたみたいなハンサムが素でその有様じゃあ、
いつ刺されてもおかしくないわ」

レディリーの言葉に、ネギがくすっと笑みを浮かべる。

「…どうやら、私が言う迄も無かったみたいね。
そこまで優しく懸念して裏でメラメラ嫉妬してくれるお姉様にも恵まれたみたい」
「ご明察です。本当に人に恵まれました」

「あなたの場合、せっせと種を蒔いて耕して収穫しているのよ、自分でも知らない内に。
そう、お褒めにあずかって光栄の通り私はお人形だとしましょう。
天才ゴスロリ美少女社長、普通に考えるなら胡散臭さが先に立つ。
最早生物学的なレベルでそんなの良くて専門馬鹿常識的には只のマスコットじゃないかしら?」

「僕は、それは無いと思います」
「そう?どうして?」
「勘です。今こうして目の前にした」

>>274

「実に非論理的ね。
これから学園都市でスーパー宇宙工学レベルのプロジェクトの話をすると言うのに」

会話をしながらネギは、良く似た雰囲気、パターンの相手を知っている、
と言う内心の言葉をさらりとカモフラージュに包み込む。

「だけど、その程度の勘も働かないなら、今頃とっくに終わってるわね。
大体、あなた自身の年齢と実績と言う存在がとうに常識の限界を突き抜けている」
「つまり、あなたが僕を英雄と呼んでくれるのなら、
あなたは本物だと言う事になります」

「有り難う、と、お礼を言うべき所なのかしらね」
「あのエンデュミオンを完成させるためには、
資金力があったとしても、オリオン号事件から今に至るまでの時間をフルに使っても
本来ならばとても足りない。あらゆる意味での超人的な働きがあってこその奇蹟の成果です。
超人的な奇蹟と言う前例は過去に幾つもありますが、それでも時間には絶対量があります」

僕もその辺相当無茶をしました、と言う本音は呑み込む。
そんなネギを、片方の頬杖をついたレディリーは面白そうに眺めている。

「オリオン号事件から今に至るまで、エンデュミオンの開発計画、
一体誰の指示で行われたんですか?」

ネギが尋ねた時、ネギもレディリーも真顔だった。

「あなたは、交渉相手の社史も読めないのかしら?
何なら社史編纂室にでもご案内しましょうか?」

「ハンコを押した人間なら把握出来ます。
それはこちらも同じです。少なくとも表向きのハンコを押した人間の事はですね」
「そう言えばそうだったわね。一応私はポジションを得ているけれども、
お互いお子様経営者と言うのは大変ね。だから、英雄も今の所は黒幕に落ち着いている訳ね」

「元々が裏の仕事ですから。ですけど、エンデュミオンに関しては、
設計図を書き上げ着工させて完成までのあらゆる問題を解決する。
少なくともこの短期間で完成させるためには、
それら諸々の事を一貫して一つの流れとして把握していた人間がいる筈です」
「つまり、この計画にも黒幕がいる、そう言いたい訳かしら?」

「ある要素を抜きにするならば、最も合理的な予測は簡単に出来ます。
結局の所、あなたが三年に渡る絵図面を書いて、
色々とカモフラージュ要素を織り交ぜながらあなたの手元に行き着く様に操作していた」

>>275

「私が三年前から」

言下に、「面白い事を言うわね」と言う表情をレディリーは作っている。

「もちろん、そこが最大のネックになります」

そう言って、ネギがドリンクのストローに口を付ける。

「こうは考えられないかしら?」
「何でしょうか?」
「そもそも、今の私がオービット・ポータル社を代表している、その事が非常識極まりない話。
最初から常識が通用しないのであるならば、別に三年ぐらい遡っても構わないと」
「そうなんですか?」
「どうかしら?」

素直に尋ねるネギに、レディリーは今度こそ面白そうな含み笑いを浮かべた。
紳士と淑女は、完璧なスマイルと共に心の中で剣を鞘に納める。
そして、レディリーは一枚のカードをネギに渡す。

「お土産よ」
「これは、関係者パス?」
「これから、ここのホールでちょっとしたコンサートがあるわ。
奇蹟の歌姫鳴護アリサ、エンデュミオンのキャンペーンガールよ。
これをスタッフに見せたらいい場所に案内してくれる」

「有り難うございます」
「名残惜しいけどそろそろ時間だわ。コンサートも始まる」
「そうですか」

潮時と見て両者が立ち上がり、ネギがテーブルを離れた。

「その手で全てを、世界をもつかみ取れる程の強き英雄。
奇蹟の歌姫の加護をどう見るかしらね?」

>>276

 ×     ×

ショッピングモールの吹き抜けホール。
そこに設営された特設ステージ周辺で、
ネギ・スプリングフィールドは聞き入っていた。

可愛らしいマスコット・ガールズを従えた歌姫、鳴護アリサ。
歳は普段教師としてネギと縁のある女生徒達よりやや年上らしいが、
ステージ上の彼女は実に活き活きとしていた。
そんなアリサの歌は、歳の割りには色々と経験値の高過ぎるネギでも
そうそう体験できない程に素晴らしい。

素晴らし過ぎるからこそ、ネギは熱狂の中ですっ、と、目を細める。
それは、心に響く感触だった。
歌が心に響く。物の例えではなく、本当に響いている様な感触。

魔法使いだからこそ怪しむ。だが、魔術の気配はしない。
例え科学的なものだったとしても、直接的な干渉術であればネギ程の魔法使いが気付かぬものではない。
だとすると、結論は、本当にそんな感覚を覚える程に素晴らしい歌だと言う事。

改めて思う、素晴らし過ぎる。
この鳴護アリサを手に入れたのがレディリー=タンクルロードなのだとしたら、
そこに何かの意図があるのか、そこまで疑いたくなる。

(…あれは…)

ふと、一般観客スペースを見たネギが見知った顔に気を止める。
次の瞬間、彼の歴戦の勘が鋭く働いた。

(この震動?…)

「!?」

地響きに先んじて、ネギはバランスを取っていた。

「ああっ!」

ネギが、とっさに一般観客スペースの吹寄制理に向けて一筋の風を放つ。
風は、吹寄にぶつかるとそのまま彼女を取り巻き、落下して来た破片を弾き飛ばした。

>>277

「わっ!?」

気が付いた時には、吹寄の体は誰かに抱き付かれる感触と共に跳躍していた。

「君っ!?」

一瞬だけ見たのは、先ほど表で出会った白人の坊やだった。
自分がいた辺りから響く嫌な音は聞かなかった事にする。

「失礼っ」
「うぷっ!」

吹寄の視界がぎゅっと押し付けられるネギの胸で埋められた。
やはり外国人、何やら口から漏れるぶつぶつと呟く言葉が吹寄に聞こえる。
そのネギの視線はステージ上に向いていた。
ステージ上では、短髪のマスコットガールが鳴護アリサを庇う様に抱き付いている。

「ラ・ステル・マ・スキル・マギステル…」

パニックに乗じて、ネギはとっさに撃てるだけの光の矢を飛ばす。
それは螺旋を描いてアリサの頭上へと吸い込まれ、落下する照明や鉄骨の破片を人の頭上から回避させる。

「くおおおっ!」

丁度友人である本人から頼まれ、長谷川千雨一派の事は伏せて付き人として同行し、
行きがかりでマスコット・ガールまでやらされて
恥ずかしい事この上無かったがこの状況では本当に良かった。

と言う訳で、同じくマスコットをしていた佐天涙子、初春飾利が
こういう時は本当に頼もしい車椅子で待機していた白井黒子の手で避難したのを見届けた御坂美琴は、
アリサを抱え、頭上から落下する鉄骨を大出力の電磁バリアで回避する。

その鉄骨が弾かれている時、ネギは左腕でぎゅっと吹寄の頭を抱えて目くらましをしながら
右腕でもう一度光の矢群を鉄骨の上からの落下物に飛ばしアリサの周辺へと落下点を散らす。
だが、それでも、数が多すぎる。ネギにしても周囲に人が多すぎて、
まずは目の前の吹寄の目をごまかす都合もあって全力の何分の一も力を使えない。

((全部は無理っ!))

>>278

「もがもがもがっ!」
「あっ!」

ネギは慌てて左腕を緩めると、衝撃に顔が揺れた。

「つーっ、何をしている貴様あっ!」

こちらも、逃れた拍子に硬い感触に襲われたおでこを押さえ、
立ち上がった吹寄制理が相手を忘れたかの様にいつものペースで叫ぶ。

「全く…!?」
「あっ、ごめんな…うぶぶっ!?」

ハッと上を見た吹寄は、
今度は自分が目の前の男の子をぎゅっと抱き寄せて力一杯その場を駆け出す。
自分のいた所に落下する鉄骨を見て、吹寄は目を丸くしながら恐怖に震えた。

「ぶはっ!あ、あのっ…」

両者立ち上がり通常の背丈となった状態のために、
吹寄の両腕で頭を力一杯胸に抱かれる形となったネギが、
緩んだ腕を逃れようやく顔を上げて塞がれていた呼吸を取り戻す。

言いかけてステージに目を向けたネギが呆然と立ち尽くし、
一旦そのネギに視線を向けた吹寄もネギに視線を合わせて目をばちくりさせる。
ステージ上では、御坂美琴が「助かったの?」と言った表情で唖然としていた。

「あっ、大丈夫ですかっ!?」
「う、うん、貴様、君が助けてくれたんだな」

言いかけて吹寄が目を見開く。

「私は大丈夫、友達がっ!」
「えっ!?」

ネギが吹寄のいた辺りに視線を走らせると、
吹寄と同年配のセーラー服姿の少女がばっ、ばっと胸を押さえて狼狽していた。
綺麗な黒髪を伸ばして淡い一重の顔立ちの、ネギから見て丸で日本人形を思わせる少女だった。

しかし、ネギが目を見開いたのはその斜め後方の光景だった。
丸で金色の矢の如く、金髪をなびかせるどころか金色に輝きながら、
この状況をガン無視してその少女に向けて凄まじい勢いで突進して来る存在がネギの目を捕らえる。

>>279

「大体君は…へ?」

吹寄が気付いた時には、側からネギの姿が消えていた。
そして、常人の目には届かない勢いの金色の矢にタックルしていた。

「何をしているんですかっ!?」

この二人でなければこの時点で大ケガをしている
瓦礫だらけの地面で、小声で叫ぶネギとエヴァンジェリンがもつれ合っていた。

「ちょうどいい、ぼーや、私をしっかり抑えて組み伏せていろ!」
「は、はい」

珍しく焦燥するエヴァの様子からして、ただ事ではないと見て取ってネギは従った。

「もうすぐだ、3、2、1で私から手を離せ、
もうすぐ麻帆良への強制召還魔法が発動する」
「はあっ?あの、このままここから消えるつもりなんですかっ!?」
「仕方が無かろう。経験と知識で辛うじて理性は、
だから肉体が、3、2、1!」

エヴァの姿は、ぷつんとかき消す様に消えていた。

「皆さーん、ジャッジメントですのっ!」

ようやく、公的機関の救助が始まった様だ。
腕で汗を拭ったネギが立ち上がり、吹寄の姿を探す。
吹寄はどうやら先ほどのセーラー服の友人と合流したらしい。
吹寄の前で、ようやく見付けた落とし物を足下から拾い上げてほっとしている。

吹寄と合流しようとしていたネギはふと足を止めて向きを変えた。
どっち道、騒ぎに巻き込まれるのはまずい。
ショッピングモールを出たネギは、表通りで見付けた電話ボックスに入った。

「もしもし…はい、確認していただきたい事が…」

今回はここまでです。続きは折を見て。

>>408

 ×     ×

「はわわわっ!!」

飛行モードの杖に跨って空中を吹っ飛んでいたネギが、
目の前に現れた飛行船を回避して急降下する。
防壁をまとったまま何本かの街路樹を突っ切り、
杖飛行中の常識として発動している認識阻害を身にまといながら
風紀委員177支部の窓の向こうを風の様に横切り急上昇する。

「さぁー、今度こそ頑張りますよおぉぉぉぉぉぉ
あぁぁーーーーーーーーうぅぅぅぅーーーーーーーーっ!!!」

飛行モードの箒に跨って空中を吹っ飛んでいた佐倉愛衣が、
目の前に現れた飛行船を回避して急降下する。
防壁をまとったまま何本かの街路樹を突っ切り、
箒飛行中の常識として発動している認識阻害を身にまといながら
風紀委員177支部の窓の向こうを風の様に横切り急上昇する。

今回はここまでです。

はい、
>>403は完全にギャグです。やってみたかっただけと言う。
大体、本作の作戦配置で何のためにどこに配置したらこんな遭遇戦になるんだって言う。
能力の汎用性が凶悪に違いすぎますから、ガチでぶつかったら
ブラックエロモードでカモ製始動キーを連呼しながら
マッパでネギの所にダッシュする未来しか想像出来ない訳で。
まあ、一応真面目に考えると、それで見逃してくれたのは気紛れと言うか、
さすがに今気紛れに喧嘩を売るのはヤバイ相手だと理解したのか。

続きは折を見て。

感想有り難うございます。

はは、ははははは、
まあ、適当に期待してて下さい、
と、サクシャは汗だらっだらで曖昧な回答をしておきます。

正直、この先、作品考証的に更にヤバイ事が起きそうな予感ですし…

刺激になるのは楽しみなれどもしもの時は荒れないぐらいにお手柔らかに、
と言うのは作者の我が儘な性で、

はい、頑張ります。

それでは今回の投下、入ります。

>>409

 ×     ×

「お待たせ」
「おう」

コンサートホールの外で、夏美と小太郎は千雨と合流した。
そして、適当な物陰を探す。

「ほな、戻るで」
「ああ」

そこに寄って来た少々物騒なナンパ集団を片付けてから小太郎が引き返した。
シャットアウラの部屋に侵入した小太郎と夏美は、
片手同士悪戦苦闘しながら64個とまではいかなくても大量の隠しカメラを設置。
その後で隙を見て部屋を脱出、犬狗飛行でここまで飛んで来たと言う訳だ。
この後、小太郎はシャットアウラの自宅マンションの屋上に戻りモニター監視に勤しむ予定である。

「じゃあ、行くぞ」
「うん」

残った二人は手を繋ぎ、「孤独な黒子」を発動して機材搬入口を探し出して中に入る。

「しかし」
「ん?」

>>419

「アリサの奴、これが本番直前イベント。
こないだまでのストリートがいつの間にかこんなホールであの大行列。
で、ふらっと来てそん中に入ってる私達。
村上とか宮崎とか、アーティファクトの神様だか協会だかが、
与える人間間違わなくて良かったってつくづく思うよ」

「んー、そんなに私人畜無害なのかなー。
本屋ちゃんならまだ分からないでもないけど」
「安心しろ、至ってまともだ」
「そう」

そう言って、千雨は携帯電話を取り出す。

「…なんだと…」
「どうしたの?」

それは、先行してここに潜入していた筈の楓からのメールだった。

「つけられている、振り切って戻る」

「嘘…」

夏美が呟き、千雨も顔を顰める。

「ここにいるの私達だけ?」
「そういう事になるな。ここで何かあったら火力が足りない。
まあ、それは無いって前提だからそういう配置にしたんだが…」

千雨が苦い声で言う。
相手がネセサリウスであれば、コンサートのど真ん中で何かを仕掛けて来るとは考えにくい。
だが、現実にショッピングモールで大爆発をやらかした何者かがいる。
出たトコ勝負、こうなったら効能自体は高い夏美の能力で出来る所までやるしかない。

「ごめんなさい」
「おい」

夏美が謝り、千雨が夏美に声を掛ける。
と、言うのも、誰かにぶつかったからなのだが、
コンサートホールの通路でもたもたしていては、それは誰かにぶつかると言うものだ。
それでも、今は「孤独な黒子」で存在感を消しているのだから、本来相手も気にならない筈。

>>420

「おいっ!」
「!?」
「そこにいるのかっ!?」
「!?やべっ!あだだだだだっ!!」

その、結果的には過信により逃走が遅れた。
そして、闇雲に掴み出された右手により、千雨のセミロングの後ろ髪がまともに掴まれていた。

「悪い、だけど今離す訳にはいかないな」
「あんた、上条、当麻?」

千雨の目配せを受けて夏美が離脱した。

「ぶつかった時に右手が掠めたんだな。一瞬だったけど、
それでいたりいなかったりしたからな」
「マジック・キャンセルかよ…」

次の瞬間、上条は千雨の髪の毛から右手を離し、さっと身を交わして右手で掴み掛かった。

「その消える魔術、攻撃する瞬間には途切れるらしいな。
悪いけど、少しは喧嘩慣れしてるんで、女の子にそんな回し蹴りされても、な…」

その通り、上条の目の前では、右手に「孤独な黒子」を掴んだ夏美が、
ついつい素人が派手にやりがちな回し蹴りを交わされ、
危うくずっこける所を上条に体を掴まれ辛うじて踏み止まっていた。

「ん?」

そこで、上条当麻は葛藤する。
敵か味方かはよく分からないが、自分の政治的立場と相手の特性を考えると、
今、もう一度透明化させるのは決して得策ではない。

だからと言って、ようやくその掌の中に違和感と言う程の弾力に気付いた上で、
更に掴みっぱなしにしておくと言うのも別の意味で色々と問題が生ずる。
そのほんの何秒かの葛藤の間に、
夏美の顔が青くなり赤くなり、千雨のイメージ背景がゴォーッと業火に包まれてカーンとゴングが鳴る。

>>421

「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
「わ、わりっ…」

夏美の悲鳴は最早悲鳴にならず、上条が常識的な速度で常識的な判断に至った時には時既に遅く、
魔法世界の新たな英雄にして救世主を宙に舞わせて来た長谷川千雨の拳は今日も快調な滑り出しだった。

「あー、今のは上条さんが悪かった、ごめん」

電灯代わりに突き刺さった天井からボコッと頭を抜いて着地した上条が、
バツ字の腕で体の前を抑えた涙目の夏美と
玩具にしか見えないミニステッキを構えてじりっと後ずさりする千雨に近づく。

「改めて聞くけど、お前ら魔法協会の魔法使いだろ?」

上条が、周囲に聞いてる者がいないのを確かめて小声で尋ねる。

「曖昧で悪いが、違う、とも言い切れないけど完全にそうだって事でもない」
「ああ、何か正式な魔法使いとも違うってな」
「あんたこそ、どうしてそんな事情に詳しいんだ?インデックスと一緒だったからか」
「まあ、そんな所だ」

上条当麻と長谷川千雨、お互いカードの読み合いが始まったと自覚する。

「お前ら、アリサの敵なのか、味方なのか?」
「味方だ」

千雨が即答する。
上条当麻の事を詳しく知っている訳ではない。
だが、鳴護アリサが全幅の信頼をおいている「いい男」。

現に、自分達の間では決して高いとは言えない筈の戦闘能力、
しかも、そういう世界である事を自覚しながらも
拳一つで決して退かなかった「漢」の姿は千雨も見ている。

それも又裏がある、とは考えたくもないが、
二対一とは言え相手は男、喧嘩慣れしていると言うのも嘘ではなさそうだ。
「孤独な黒子」があってもマジック・キャンセル相手では今の様に万が一もある。
今、真正面からやり合うのは得策とは言えない。

>>422

「同じ質問をする」

千雨が上条を見据える。

「あんたを信じていいのか?アリサのナイトとして?」
「俺はそのつもりだ」

上条も正面から応じる。

「分かった。悪いがここまでだ、あんたとは相性が悪い。
こっちで出来る事をやらせてもらう」
「おいっ、待てよっ!!」

目配せと共に夏美と千雨が姿を消し、上条が逃すかとばかりに掴み掛かる。
そこで、上条当麻は葛藤する。
敵か味方かはよく分からないが、自分の政治的立場と相手の特性を考えると、
今ここで透明化させずにしっかりと話し合っておく必要がある筈。

だからと言って、突き出した右手の中に捕らえた違和感と言うにはしっかりとし過ぎた
少なくとも先ほどとは倍掛けの確かな弾力に気付いた上で、
更に掴みっぱなしにしておくと言うのも別の意味で色々と問題が生ずる。

そのほんの何秒かの葛藤の間に、
長谷川千雨のイメージ映像はドゴーンと噴出する火柱に包まれていた。

「わ、わり…」

汗だらっだらで上条が常識的な速度で常識的な判断に至った時には時既に遅く、
魔法世界最強の傭兵にして理屈無用の最強バグキャラチートを一撃した
長谷川千雨の跳び蹴りは今日も快調な滑り出しだった。

「わ、わり、ぃ…」
「おい」

通路の床に這いつくばっていた上条当麻が顔を上げると、
相手の二人は既に姿を消して、妙齢の女性が腕組みをして立っていた。
硬い黒い制服ながら、それでも胸がつかえて顔が半ば見えない。

「警備に駆り出されて誰かと思えば、
コンサートだからってナンパから先のステップスピード違反し過ぎじゃん。
月詠先生が悲しむじゃん」
「あ、あのですね、これにはふかーい訳が…」

>>423

 ×     ×

「俺は内臓潰しの横須がああああっ!!
あいつらを可愛がっでえええええ!!!
れたようだなあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

いかにも数カ国に及ぶ傭兵上がりと言わんばかりのむきむき人間兵器外見な巨漢が、
ゴキゴキ首を鳴らしながらむくりと立ち上がる。
但し、その大木の如き両脚は既に震動を開始している。

「だがしがあぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃっっっ!!
まずい所にぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっ!!!
ここは後がいおおおおおおおおおおっっっっっ!!!
対能力者戦闘のえぎずばあああああっっっっっ!!!
ざばの前にだっぢまっ、だあああああっ!!!」
ぎ、ざ、ま、ば、ご、ご、で…」

巨漢が、朽ちた大木の如くずーんと倒れ込む。
確かに、前回の反省からか口上と突進が同時進行だったのだから
その間に攻撃を受けても文句の言える筋合いではない。

「大丈夫アルか?」
「あ、ええ、有り難うございます」

にっこり無邪気に微笑む少女に手を差し伸べられ、
薄汚い路地裏で腰を抜かしていた原谷矢文は素直にその手を取る。

周辺は既にして死屍累々。
それに対する中学生ぐらいのむしろ小柄な少女の動きは実に軽やかで、
それでいて一撃一撃はとてつもなく重い。

それより何より、これで何度目かの遭遇だろうか、
ここでぶっ倒れた巨大モツ鍋ももこんな所でケチなカツアゲしてないで
世界征服でも企んで下さいよと言いたくなるいいキャラであるが、

こちらの初対面の少女も褐色アジア系にチャイナ服で多分中国拳法で見た目結構可愛くて、
怪し過ぎるアル言葉で拳銃よりも早くスキルアウトの大群を轟沈と、キャラが立ちすぎている。

「うむ。しかし、路地裏のチンピラにしてはまあまあいい根性をしていたアルね。
あれだけヒットして立っていられたとは」

>>424

「ごん、ぢょう」

そのチャイナ娘の言葉に、あの巨漢横須賀がゆらりと立ち上がる。
あー、気持ちは分かる、と言うのが原谷。

「あ゛あ゛ー、確がにー、俺はごんなモンだぁ。
げどなぁ、本物の根性、ってのはこんなモンじゃねぇー。
女ぁ、お、前は、まだ、しら、れぇ…」

巨漢が、朽ちた大木の如くずーんと倒れ込む。

「本物の根性アルか」

 ×     ×

「ニンッ!」

科学の学園都市だからこそ、その方々に造成された緑地帯。
その、とっぷりと陽も沈んだ森の一角で、
長瀬楓がさっと身を交わす。
そして、楓のいた辺りの樹木にピシッ、ピシッと着弾する。

「もう一度だけ聞く、居場所はどこだ?」
「だから、その様な者は知らないでござる」
「甲賀者が学園都市をうろついていながらか?」
「んー、何の事でござるかなー」

楓がタッ、と飛び退き、木の幹に券銃弾が着弾した。
確かに、射撃の腕は悪くないのだろう。
それで、今の所は身を隠して狙っている自分が楓よりも優位である、
そう受け取っている口ぶりだった。

とにもかくにも楓としては大切な私的任務中である。
拳銃をぶっ放す様な相手なら会場を離れて誘い込んだ判断は正解だったが、
こんな所で時間を掛けてはいられない。

今回はここまでです。
続きは折を見て。

誤爆?

取り敢えず私じゃないです

>>439

 ×     ×

「もしもし」
「もしもし、定期連絡です。無事ですね?」
「はい、お姉様」
「何か分かりましたか?」
「いえ、特には」
「そうですか」

「あの、お姉様」
「何ですか?」

「今後の参考までにお伺いしたいのですが、
もし、今回の件で長谷川千雨さん辺りが痺れを切らして
ネギ・パーティーを引き連れて科学の学園都市に侵入して
ネセサリウスと交戦状態に突入した、何て事になったらどうなるでしょうか?」

「ネギ先生がいないとは言え、
ネギ・パーティーはそれ自体があの夏の世界戦争レベルの帰趨を決した、
とてつもない潜在能力レアアイテムを所有する一大勢力です。人数の問題ではありません。
魔法協会も含めて裏同士で探り合い殴り合いをしている程度ならやり様もありますが、
そんなものがよりによって科学の学園都市で真正面からぶつかり合ってそれが表沙汰になった、
なんて事になったら」

「なったら?」

「既に我々が調査に着手していると言う事情もあります。
そんな事になったら、他の魔術勢力への説明と言うものもあります。
私達も上の先生達もまとめてオコジョ、と言う事も十分にあるパターンです」

「そ、そうですよね」

「そうです。ですから、もしその様な徴候を発見したならば直ちに対処しなさい。
いくらあのいけ好かない極道神父その他が相手だと言っても、
間違ってもネギ・パーティーが彼らを襲撃して直接交戦状態に突入する、
等という洒落にならない事態に陥らない様に迅速に対処するのです」

「リ、リョウカイシマシタキモニメイジテオネエサマ」

今回はここまでです。続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>440

 ×     ×

科学の学園都市内、とある男子寮。

「?」

工山規範は、玄関ドアの妙な物音に気付いて首を傾げる。
施錠はしていた筈だが。
腰を浮かせて玄関に向かった工山は、その途中で腰を抜かした。

「よォ」
「ま、ままままま、待ってくれっ!」

腰を抜かし、歯をカタカタ鳴らしながら工山は絶叫していた。

「た、たたたた、頼まれた、知り合いに頼まれただけなんだ、
た、たたた、只、見たいもんがあるからちょっと入口を開けてくれって、
アアアアア一方通行襲撃計画に使われるななななんて事はししししし知らなかった
知らなかった全然知らなかっただだだだから…」
「あァー」

腰を抜かし、右手を突き出して絶叫する工山の言葉を、
一方通行は平常運転でだるそうに聞いている。
そして、一方通行はテーブルの上に襲撃者から取り上げたノーパソを置く。

「これからお前ェがやる事を教える」
「ま、待ってくれっ!」
「あァ?」

「い、今、条件付きの保護観察中なんだ。
だから、パソコンに触る事すら禁止されてる」
「運良く発覚せずに済むか悪くすると檻ン中か
今すぐ鶏ガラな感じの肉塊になるか、五秒で選べ」

>>444

 ×     ×

科学の学園都市風紀委員第177支部。
初春飾利がパソコンのキーボードを離れて携帯電話を手にする。

「はい、幾つかダミーを噛ませてますけど間違いないです。
電波の発信源と何よりも解析した花の形からして彼のものであると。
記録は確保しました。性質上令状は間に合わないかも知れませんが注意だけでもお願いします」

電話を切り、クッキーを摘んだ初春はパソコンに目を向ける。

「又、上書きされてますね。今度はどこから…」

 ×     ×

「ニクマン・ピザマン・フカヒレマン!!」フオオオオオッ
「き、気合い入ってますね」

麻帆良学園内に隠匿されている学園警備オフィスで、
ナツメグこと夏目萌が弐集院に声を掛ける。

「佐倉君、マークされているよ」
「え?」

「科学の学園都市、君達が動ける様に、
あの街の通常の裏セキュリティーから除外される様に仕組んでおいた訳だが、
個別設定で佐倉君の顔面認証データを入力して
街頭カメラが察知したらあちらの学園都市内のどこかに送信するプログラムを組んだ人間がいる」

「なんですって?」

「対処していた電子精霊が手に負えないとマスターの僕に泣き付いてきた。
相当手強い、一流のセキュリティーとしてハッカーと言うものをよく知っている相手だ。
さり気なく改竄しておいたものをすぐ後に正確に察知して地雷まで仕掛けて待ち構える。
僕はその上を行って再度改竄する。この鼬ごっこだ。丸で抗生物質と耐性菌みたいにね。
ここまでお互いに拠点と見せかけたダミーを幾つも潰し合って、それがダミーだと察知して対処してる」

「詳しい事は喋っていないと言っていましたけど、
さすがにあちらのレベル5に接触したのは痛かったですか」

>>445

 ×     ×

「こ、これ以上はマジで無理だ。
本当だ、本当に開かないしこれ以上アクセスを続けたらか、確実に殺られる」
「そォか」

「しかし、なんなんだこれは?
僕には通用しなかったけど追跡回避に並のハッカーじゃ抜けられない規模のサーバー噛ませて、
それで、辿り着いた先も巧妙な偽装に包まれた正体不明カップル、いや、カップルって言うより…」
「深入りすンな」

それだけ言って、一方通行はひらりと窓から飛び降りる。

「おいっ、ここは…」
「おーい、開いてるのかーっ」

玄関から最近聞き慣れた声が聞こえる。

「家庭訪問じゃん真面目にやってるかー」

 ×     ×

「ああ、分かった」
「どう?」

電話を切った千雨に夏美が尋ねる。

「逃げられた、取り敢えずもうちょい周辺捜索するらしい」
「そう」
「だが、ステイルと三人娘には明石が魔法禁止食らわせた。
完全とはいかなくても戦力としては大幅減。幸先は悪くない」

千雨が自分の言葉に納得する様に頷く。

「…待てよ…」
「ん?」
「いや、さっき上条当麻、なんで…」
「何?」

「魔法協会とかの政治的な枠組みを知ってるのは分かる。
だけど、つい最近この世界に関わった私達の事、
正式じゃない魔法使いがいて、それでこっちで動いてる。何でそんな事知ってるんだ?」

>>446

 ×     ×

「間に合ったぁ」
「大丈夫?」

事前に集合場所に決めておいた路地裏で、
最後に現れたマリーベートにメアリエが尋ねる。

「ええ、何とかまいて来たから」
「でも、困りました」

ジェーンが浮かない顔で言う。

「まだ、力が完全には戻りません」
「恐らく、時間制限で魔力を制限する術式だろうね。
時間が経てば元に戻る感触だけど」

ステイルが嘆息して言う。

「でも、このペースだと…」
「作戦時間ぎりぎり、だな」

そう言いかけたステイルが通りに視線を向けた。

「不幸だ…」

幸いと言うべきか、調書を取る前に「被害者」が姿を消した事もあり、
あくまで事故と言う事で謝り倒してお説教で済ませてもらって
コンサート会場を後にしたウニ頭がぶつぶつ言いながら歩いていた。

「上条当麻」
「お前らっ!?」

つい先日も派手に殺し合いをしたばかりの魔術師軍団がずらっと目の前に現れたら、
只でさえ不幸体質を自認し、たった今まで不幸だった上条当麻が警戒するのも当然である。

>>447

「ああ、僕らも忙しいからね。これから奇蹟の歌姫を拉致監禁して
千客万来のギャラリーの前に生まれたままの姿で逆さ吊りにして
何が何でも自白する魔女裁判に掛けてから生贄の祭壇に鎖で大の字に縛り付けて
我がロンギヌスの槍をもってその処女地の奥深くに生命の源を注ぎ込んで
その紅と白の体液を百八回ドクロに塗り込めたしかる後に
牛に引っ張らせて八つ裂きにしてその心臓を捧げる儀式を行う予定だから
君と遊んでいる暇は無いんだよ分かったか馬鹿が」

[sogebu][sogebu][sogebu][sogebu]

テレパシールーンを手にした四人の魔術師が軽快に通りを疾走する。

「ばっちりです、フルパワーいけますっ!」
「でもぉ、女の子の顔をグーで全力殴ります普通!?」

「上条当麻だからな」
「でも、これでは次の作戦が」
「ごまかせ、出力不足よりはましだ」
「はうぅ…」

「それよりも…」
「うん?」
「イギリス清教に対する非常に深刻な誤解が生じた様な気がするのですが…」
「そんなもの、生きていればどうとでも説明出来る」

そこまで会話して、ステイルは別の通信霊装を取り出した。

「あらステイル、随分と愉快なる儀式をプロデュースしたりけるのかしら?」
「………」
「私の知りける限り聖書に左様なる記述はなかりけるのだけれども
取り敢えずは異端審問の準備をしておけと言わんとしているのでありけるのかしら?」

>>448

まだ、ぱたぱたと水滴の音が聞こえる。

「おい」

ウォーミングアップ代わりに
周辺の消火栓全部から総攻撃を受けて引っ繰り返っていた上条当麻が顔を上げると、
妙齢の女性が腕組みをして立っていた。
硬い黒い制服ながら、それでも胸がつかえて顔が半ば見えない。

「ナンパに失敗した腹いせにDQNな水遊びか?
いい加減、月詠センセが泣く前に
涙も出なくなるまで締め上げた方が良さそうじゃん」

 ×     ×

ネギが降り立った所は、これから大型の工事が行われる所らしく、
現在は資材置き場となっている広い空き地だった。
直接的には察知出来ないが、何か嫌な感じがする。

「!?」

ネギが、ハッと向きを変えて防壁を張る。
それでも、地面から伝わって来た強烈な衝撃波を受けて、
ネギの小さな体は軽く吹っ飛ぶ。
ネギは、とっさに出所と目される資材の山に光の矢を撃ち込む。

「?」

光の矢が、物陰に入ってから変な方向に打ち上がった。

「ネェェェェェェェェェギィィィィィィィくゥゥゥゥゥゥン!!!」

>>449

 ×     ×

麻帆良学園都市世界樹前広場。
野太刀夕凪の柄側を正面から左肩に当てる様にして、
桜咲刹那は石段に腰掛け一人静かに待っていた。

「彼なら来ませんよ」

背後からの声に、刹那は目を見張った。

「かの地での縁を過信しましたか。あちらの人にありがちな事です。
大体、正式な学園都市の生徒が簡単に出て来られる筈がない」

刹那の喉がごくりと動く。

「こちらの、「魔法」サイドは鳴護アリサの件に関して
どの程度把握してどの程度の規模で動いているのですか?」

刹那の掌が、鞘から柄にそろそろと動く。

「麻帆良学園、関東魔法協会の性質から考えて、
余り無茶な横紙破りを組織的にやっているとは考えがたい。
その麻帆良の中でも、英雄のパワーと求心力、そして個々の要員の強力な潜在能力によって、
世界を一つ救う程に急激に膨張した一大勢力。

力頼みの急成長故に統率が取り切れず、
或いは協会自体その全容を必ずしも把握していない半ば独立愚連隊。
それ故の暴走と見るのが妥当でしょう」

落ち着いた説明と共に、コッ、コッと足音が近づいて来る。

>>450

「穏便に話を進めましょう。
こちらとしても「魔法」サイドとの摩擦は避けたい。それは「魔法」サイドも同じの筈。
悪い様にはしません、あなたの知っている事を話して下さい。

その歳にして夏の事件の核心近くで奮戦した、
英雄、そして西の姫の信任も事の他厚い素晴らしい手練れである事は聞いています。
であればこそ、今はまだ、無駄な足掻きにしかならない事も理解している筈」

「無駄、そうですね」
「そうです。あなたは聡明で、そして誠実で忠実な人物であると伺っています。
私もその様なあなたを傷付けたいとは思わない」

「二つほど申し上げておきます。確かに私も皆もまだまだ未熟。
しかし、そんな若僧にも譲れない、力一杯ぶつからなければならない信義がある。
私も又、それを譲る事は出来ない。
そして、私一人の無駄な足掻きであればそれはゼロに過ぎない。マイナスにはならない」
「…残念です…」

 ×     ×

科学の学園都市、とある電話ボックスの中。

「はいはいー、それではよろしくお願いしまーす」

月詠小萌は、よいしょと背伸びして受話器をフックに戻す。

「いけませんねー、携帯電話を忘れるなんて。上条ちゃんの事を言えません。
早く取りに戻ってお風呂に行きましょう」

こちんと自分の頭を拳で叩いた小萌は、
くるりと振り返りガラスドアを開く。
そこで待っていたふわふわに白い女の子にぺこりと頭を下げる。

>>451

「ひょおおぉーーーーーーーーーーっっっっっ!!!」
「貴様、何を往来で奇声を発している」
「あれは。小萌先生」

車道の向こうの電話ボックスを目にした青髪ピアスの平常運転の変態振りに、
そこを通りがかった吹寄制理と姫神愛沙も又、普段通りの反応を示す。

「見てみぃ!最っ高のミニロリと甘ロリ、
奇跡のコラボレーションやあぁーーーーーっっっ!!」
「馬鹿者」

小萌先生がボックスを出た後、すれ違いに中に入ったふわふわ白い甘ロリは、
ひょいと受話器を取ってカードを差し込みダイヤルボタンをプッシュする。

「もしもしー、はいー、仰せの通り到着しましたえー。
それで次はどないしたらよろしおすかー?」

今回はここまでです。続きは折を見て。

感想どうもです。
もちろん辻褄合わせるつもりはありますが、説得力に関しては、鋭意努力の上で
以下サクシャは延々常套句での答弁終了をもくろんでいます。

確かにブチギレてはいるんですが、
それでも「ネェギィくゥン」はさすがにちょっと早かったかも知れない(汗

それでは時刻もよろしい頃合ですか、

>>452

 ×     ×

一分間も要しなかった事は言う迄もない。
路地裏で待ち構えていたスキルアウトの集団が、
ネギの突入と共に一山幾らで転がされる。

「ご、の………おおおっ!!………」

それでもほんの僅か当たりが甘く、
拳銃を手にくらくらと立ち上がったチンピラの右腕にコルク抜きが突き刺さり、
そのチンピラの目の前に現れた結標淡希の脛がチンピラの股間にヒットする。

「ったく」
「結標さんっ!場所は…」
「もう移動してる」

セーラー服をその本来の使用先の規定から寸分違わずに着こなし
黒のウィッグで首から上をメ○ほむ化した結標がPDAを見せる。

「有り難うございますっ!」

力強い言葉と共に周辺が突風に包まれ、
イメージアップ用の黒縁伊達眼鏡も防御にはならず
結標がようやく目を開いた時にはネギの姿はそこには無かった。

>>456

 ×     ×

廃ビルの階段を駆け上がったネギは、途中のフロアで足を止める。

「しっ!」

黒いツナギ姿の者が、軍用ナイフを手に
剥き出しの柱の陰から次々と襲いかかってくる。

(特殊部隊レベル)

ネギが、少しだけ本気を出した。
ツナギ集団は、ナイフ、場合によっては拳銃を手にネギを襲撃するが、
そのことごとくが昏倒させられるまでの時間はさ程のものではない。

「分かった」

壁際で、この連中のボスらしいやはりツナギ姿の威厳のある漢が、
用意しておいたポケットの携帯のボタンを一つ押してから、
体の前で一度腕をバツ字に組み呼吸する。

「コマンド・サンボですか」
「やはり、八極拳」

 ×     ×

ネギとボスが一手交えたその時、
その廃ビルにほど近いビルの屋上で、砂皿緻密はポケットに携帯電話の震動を受けて動き出す。
砂皿の手にするライフルのスコープ内を掠めた、
次の瞬間砂皿は、はっと全くあらぬ方向にスコープを向けた。
スコープの中は別のビルのフロア。

(…同業者…レミントンか…)

その同業者は、フード付きの黒いローブを着用して得物をこちらに向けている。

「…嘘、だろ…」

フードの中から覗く黒髪、それを束ねる赤い紐、僅かに見える浅黒い容貌。

>>457

「何やってるんですかっ!?」
「馬鹿っ!」

砂皿の側にいたステファニー=ゴージャスパレスがミサイルランチャーを構え、
屋上に着弾と銃声が響き始める。

「うっし…いっ!?」

着弾確実と目されたミサイルが空中で爆発する。

「!?」
「僕一人ならまだしも、プロでもあれだけ大勢の巻き添えはぞっとしません」

次の瞬間には、ランチャーを捨てて立ち上がったステファニーとネギは
互いに構えを取って対峙していた。

((速いっ!))

一手、二手、技を交わして双方タッと距離を取る。

(この人、多分飛び道具よりもこっちが専門。ベースは警察官系?)
(な、何、この子?能力での強化?
いや、能力開発だけでは説明出来ない本質的な、
天賦の才と厳しい修行だけが作り出せる本物の格闘センス、こんな子どもがっ!?)

多分気付かれている、そう感じながらも、
ステファニーは後ろ腰に横差しにした特殊警棒にそろそろと右手を伸ばす。

「シッ!」

抜き打ちでネギの顔に横に叩き付ける。
その時には、ネギの体は低く沈んで変則回し蹴りがステファニーの脚をすくう。
ネギが迫った、次の瞬間ステファニーの意識はブラックアウトする。

>>458

「武器を置いて下さい。この距離では僕が優位です」
「テレポーター?」

呟きながらも、砂皿はライフルを置く。
元々、どっちかと言うとそういうのが得手なステファニーがこんなガキに見事にKOを取られている。
それ自体は学園都市ならあり得そうだが、テレポーターとセットとなると話は別だ。
ガキにしか見えないが、その身のこなしから見てもどうも嘘は言っていないらしい。
装填済みのライフルでチャンバラしても勝てる気がしない。
そして、ネギは震動した自分の携帯電話を使う。

「ええ、はい、ではメールで」

電話を切ったネギが、スタスタと砂皿に近づく。

「今、プロを相手に自白を求める手間は要らないしかけられない。
邪魔はしないで下さい」

ネギは砂皿を気絶させてからメールで移動先を確認する。
かくして、急行した先の資材置き場で、ネギは学園都市最強と対峙する。

 ×     ×

「神鳴流奥義・極大雷鳴剣!!」

大爆発の上空で、桜咲刹那の野太刀夕凪と神裂火織の令刀七天七刀が激突する。

「神鳴流奥義・斬空掌散!」

着地した刹那が、掌から大量の気弾を放つ。
刹那は届く前にことごとく弾き飛ばされたその手応えを確かめ、神裂は読まれた事を察知する。

「神鳴流奥義・斬鉄閃っ!!」

豪剣に匹敵するワイヤーが、
夕凪の一振りが巻き起こした「気」に呑み込まれ突き破る勢いで抗いバリバリと音を立てている。

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!」

その一瞬で間合いを詰めた刹那の一太刀を、
神裂が掲げた七天七刀の柄近くがガチッと受け取める。
その神裂の表情は涼し気ですらあった。
双方飛び退いて距離を取る。

>>459

「神鳴流秘剣・百花繚乱っ!」

神裂火織に迫る花吹雪をワイヤーが弾き飛ばす。
桜咲刹那と神裂火織が世界樹を背景に交差し、通り抜けてスリップ気味に距離を取る。
その後、幾度となく交差し、刃を交わし、打ち合う。
だが、その度ごとに、刹那は思い知り懸命に気力を奮い立たせる。
強固に動こうとしない、動く見込みが全く見えない「死」と言うジョーカーを手に
ボロボロと凄まじい勢いでカードが消える感覚。

「がはっ!」

その刹那の腹に神裂の蹴りが炸裂し、刹那の背中が広場の壁に叩き付けられた。
その刹那の顔の横で、ワイヤーの一撃を受けた壁がガラガラと音を立てる。

「未熟」

その場にずるずる座り込んだ只でさえ無様な姿勢で、
神裂の長身からの見下ろしは刹那の心に見事に響く。

「それでもあなたの力量であれば、未熟である事が骨身に染みたでしょう。
もう一度だけお願いします。こちらに協力してそちらの動き、
誰がどの様にどの程度の規模で活動しているのかを教えるのです。
悪い様にはしません。我々も魔術の世界の秩序のために働いているもの」
「く、あああっ!」

立ち上がり様の一刀、これでも、並の達人であれば簡単に面を取られる一撃。
その刹那の一撃が空を斬った時には、神裂のボレーシュートが刹那の腹に炸裂していた。
神裂が左手に刀を持ち替える。ガン、と、突き刺さる勢いで、
刹那の左耳のちょっと外側にある壁に鞘の底が叩き付けられる。

「互いに裏で働く人間、覚悟の上の事でしょう。
この上は体に聞く事になります。
その様子では、終わった時には剣を握ることはおろか
二度と立ち上がる事すら保障できない。あなた程の者を実に惜しい。
だから、早めの心変わりを切に願います」

壁の前にずるずる座り込んだ刹那を前に、すーっと右手に握った鞘を天に掲げた神裂は、
ザッと振り返りその鞘を振るう。

>>459

(南京玉簾?)

自分が弾き飛ばしたものを見て、一瞬神裂は怪訝な顔をする。
しかし、そんな暇は無かった。

「やあああっ!!」

神裂の目の前で、神裂が放ったワイヤー七閃が
大型のハリセンチョップでことごとく弾き返されている。
普通、普通の達人でもそうそう抜けられない七閃が突破された。
ガキン、カン、キン、と、鞘とハリセンが激しく打ち合う。
ハリセンがスチール製、と、言うかその道のプロに言わせれば強化されているのはいいとして、
ここまでを可能とする技量は決して侮れるものではない。

(この太刀筋、神鳴流?)

「せっちゃんっ!」

ハリセンを手に飛び込んで来た神楽坂明日菜がザッと距離を取り、
近衛木乃香が刹那に駆け寄ろうとするが、その進路を神裂が横に振り出した白刃が妨げる。

「あんた、何やってるのよ?」

明日菜が爆発寸前の低さで尋ねる。

「退いて下さい」

二人を把握した神裂が言う。

「これは裏側で行う摺り合わせ、姫様が知る必要の無い事です」
「…あんた…」

すーっと、絶対零度に達する声。

「何、寝惚けた事言ってんの?」

低く、重い声。それと共に、明日菜の全身で何かが燃え上がる。

(完全な情報が届いていない、独自情報により姫君に値すると仮称させるプランキーパーソンVIP。
ハリセンが大剣、アーマー、話に聞く魔法のアーティファクト。そしてその素質は…巨大…)

>>461

 ×     ×

ミサイルが突っ込んで来た。
そう思った時には、すぐ側に白い人間の姿があった。
普通であればそのスピード自体で何も見えなくなる所だが、
それが見えているネギにして見れば力は弱く、むしろ素人っぽくすらある。
だからこそ、ネギの勘は異常な危険を察知する。
ダンッ、と、ネギはそのむしろひ弱そうな攻撃を大きく横っ飛びで交わすと、
交わされた一方通行の拳はネギの背後にあった鉄材の山を崩壊させる。

(力が、急速に?)

「くァァァァァァァァァァァァァ」
「風っ!?」

ゴオッと異様に力強く重い風がネギに向けて叩き付けられる。
魔法使いの中でも元々の専門が優秀な風使いであるネギだからこそ、その異常さを実感する。

「ラス・テル マ・スキル…」
「!?」

一瞬で吹き飛ばされるべき所を、小さな練習杖を向けながらそれを回避し、
それどころか一方通行の絶対の支配下にあった風の向きが乱される。
しまいに、二人の中間でゴオッと竜巻が噴き上がり一瞬で消滅する。

「おィおィおィおィィィィィっっっ!!!」
「!?」

一方通行の一撃を受けた、それだけで大量の資材が大爆発した。

「マギステル…風花・風障壁っ!!」
「おっ?」

その資材が上空で自分の頭上に集中していた、その事に気付かないネギではない。
そして、「常識」で考えるならば資材の下で圧縮圧縮圧縮しかあり得ない結果が
その落下物の異常な拡散と共に回避された事が分からない一方通行ではない。
そして一方通行は、自分の頭上で翻るネギを見る。

>>462

「ラス・テル マ・スキル マギステル…」

(物凄く強力な念力?他にも何かある。光の矢の変な感触…
とにかく、分かっているのは物凄く強い。出し惜しみしていい相手じゃないっ)

「…薙ぎ払え雷の斧っ!!………!?」

吹っ飛ばされたネギが、ダンッと着地した。
殺しきれないダメージがくらっと来る。

「風楯っ!」
「ン?」

ぶわっと風楯を抉られながら、ネギは急接近して来た一方通行から飛び退いて距離を取る。

「おィおィおィおィ、何だ何だ何ですかァ?
威力だけでもオリジナルより上じゃねェのかァー?
しかも、全部てめェンとこに戻る筈がさっきから変な反応で拡散されて、
戻って行った分もこれも変な壁でシールドされてるじゃねェかァ。
ごちゃごちゃ小うるさいダミー噛ませててめェの正体も上手く偽装して
裏で糸引ィてたみてェだが、こりゃあやァっと当たりだなァ」

今回はここまでです。続きは折を見て。

>>474

「錬成肉体による位相移動活動テストも兼ねていた訳だけど、成果は上々と言った所だね。
まず、彼女を喪った時点でプランはそのまま空中分解する。
それから、今、彼のメンタルに破局的な打撃を与えるのも又しかり。
もっとも、その程度の事を防ぐ事が出来ずに挫折するのであればそれはそれまで、
一時休戦に応じて時を逸した僕の眼鏡違いと言うだけで誰の責任でもない」

神裂が息を呑み、鞘に納めた刀の柄を握る。

「それでも契約した身だ。契約した上は、雇われ人としての信義を果たさなければならない。
それに、その役割を果たす事で僕は学習しなければならない。
深夜徘徊の不良生徒の捕導、そして保護も又その役割の一つだからね」

満身創痍の不良生徒共の頬に僅かに浮かんだのは、喜色だった。

「言わんとする事は、割とシンプルだ。

僕の生徒に手を出すな


死の淵まで覗いた今、明日菜達の心に安堵が生まれたのは当然だった。
この職務熱心な副担任、敵に回したらどれ程恐ろしい相手であるか、
その事は彼女達が誰よりも骨身に染みて理解している。

「と言う訳で、深夜徘徊の上での破壊活動に関する後程の指導については覚悟しておく様に」

骨身に染みて理解している。

「僕としても慣れない事をしているから色々分からない事もあるのだけど、
取り敢えず、僕の立場におけるこのオバサンに対する通告は
こんなもので良かったのかな?」

天を仰いだ神裂のメロンと化した頭部からは、
二本三本プシューッと細い赤い噴水が噴出していた。

今回はここまでです。続きは折を見て。


上やんの右手と明日菜のマジックキャンセルは割と根本的に違う気がする

マジックキャンセルはおそらくラストのチート「創造主の掟」の不完全版だろう(というか大元?)
だから魔術の消失というよりは魔翌力そのものの絶対支配権というのが正しい

対して上やんの右手は確か世界を強引に基準値に戻す作用って考察が作中でされている
もしその通りなら無効果力としてはおそらく上やんの右手が一番低次元で作用してる事になる

魔法世界はそもそも行けない気がするが、もし行けたらその瞬間から世界が崩壊しだすな


上条さんはよく知らんのだが右手で触れなきゃ問題ないんじゃないの?
それとも作用する範囲とかあるのか?

その範囲が数mとか数十mとかだと転送ゲートが動作しなさそうだから
そもそも魔法世界に行けない気もするが

てか「創造主の掟」とマジックキャンセルの関係については>>1が既に述べてたな

>>479
むしろこちらがネギまの設定をよく知らずに断言してしまって恐縮だが
とりあえず空間的に右手が含まれれば、あるいは「上条当麻」全体が対象になっていれば効果はある
転送ゲートは「転送する」作用そのものが後者のパターンに属するから無効果されると思われ

感想どうもです。
自分で振ったのもあるんでなんですが、考察はちょっと置いておきます。

それでは今回の投下、入ります。

>>475

 ×     ×

神裂火織が、下から突き上げる木の根のみじん切りをまき散らしながら突進して来る。
周辺に薫製用チップの山を築いている豪剣にも匹敵するワイヤーの帯びる衝撃波が、
ヴァイオリンから放たれる超音波の破壊効力を呑み込みかき消す。
七天七刀の柄近くの鞘を握る神裂の左手がすっと前後し、調は体をくの字に折って倒れ込む。
それを終えた神裂火織が、ふと周囲を伺う。

「幻覚?いや、結界の類ですか」

巨大な柱が立ち並ぶだけの無機質な空間で神裂が呟く。

「はい、ご名答です」
「こちらは幻覚ですか」

目の前に現れた環の姿に、神裂が言った。

「出来れば降伏して欲しいのですが、武器を置いて手を上げていただいても
軍隊の十やそこら殲滅出来そうなので正直どうしましょうか。
十日ほど断食していただいたらさすが、に…
ほぎゃあああああっっっ!!!」

這々の体で脱出した環の目の前で、環が座っていた柱が粉砕される。

「どどどどうやって私の居場所をををっっっ!?!?!?」
「気配が多分こちらだろうと」

「は?いえ、あのですね、
私としましてもミニステルとしての意地と言うものがありますから、
私は決してこの結界を解くつもりはありませんので、例えどの様な…
あのー、何を?」

環が、近くの柱の上で居合抜きの構えを取る神裂に質問する。

>>483

「お嬢様っ!」

一瞬だけ膨張する何かを察知した刹那が、木乃香を羽に包み込んだ。
世界樹広場にちょっとした大爆発が巻き起こる。

「…もう、嫌…」

広場では、既に抜いた刀を鞘に納めた神裂の側で環が引っ繰り返っていた。

「つっ!」
「どけっ!」

ワイヤーが暦の手から「時の回廊」を弾き飛ばした次の瞬間には、
七天七刀の柄近くの鞘を握る神裂の左手がすっと前後し、
その前で焔が体をくの字に折って倒れ込む。

「にゃ、にゃんで、獣化、した私の、動き…」
「何かが接近して来たと思えば獣の力を使った狩りのスタイルでの襲撃でしたか。
体に炎を巻いていたみたいですね。確かに少々熱かったですけど。
それで、あなたは?」

「い、いえ、接吻…させてくれませんよね。
出来てもお役に立ちそうにありませんし。それでは」ソソクサ

「ふむ」

千の剣が弾き飛ばされた。

「なるほど」

万の剣が弾き飛ばされた。

「結構」

家を潰す巨大な石柱複数だったサイコロが周辺に降り注ぐ。

「厄介かな」

石像の首が百個ほど転がる。

>>484

「高密度の砂壁ですか、少々厄介ですね」

と言いつつ、神裂の刃は砂壁が爆砕してから再生するまでの一瞬でフェイトの体を捕らえる。

「これも石像」

フェイト・アーウェルンクス。知識ぐらいは神裂にもある。
関西呪術協会の襲撃やゲートポートの破壊。
これらは「魔法」サイドのテリトリーの事であるが、
イギリス清教としても無視出来ない規模の事件になる。
フェイトに関しては名前が出ていながら、その点不可解な形で幕引きとなったのだから尚更だ。

イギリス清教の公式な関与は避けられたが、微妙な所で表から裏から聞こえて来る事はそれなりにある。
ガン、と、神裂が刀を地面に突き立てる。
次の瞬間、神裂の左手はフェイトの拳を掴んでいた。

「いい拳です」
「光栄だね」

パッと手を離した神裂が間合いを詰めて来た。
右のパンチとボディーを狙った右脚の蹴り込みのコンボ。
一瞬の差で顎から脳を揺らされてぶっ倒れていたと、フェイトは神裂の確かな技量を把握する。

「知りたいね」
「?」
「十分に、重い。その拳、知るに値する重さだよ」
「では、その身で存分にっ!」

互いの腕が伸び、腕が反らされ、拳が空を切る。
相変わらず見事に伸びた神裂の脚が空を切った。

「と、言いながら逃げますか?」
「いや、これは思い入れの差かな?」
「?」

タンターンと後方にジャンプするフェイトを見送った神裂は、悪寒を覚えた。

>>485

「僕が留守がちにしていて、元教え子に何か不始末があったのなら、
大人として省みるべきなのだろうね。
まして、互いに政治的な問題が絡んで来るVIPと外部勢力に関わる話」

それは重圧、言葉通り押し潰されそうなプレッシャー。

「だけどね、幼稚な話で申し訳ないが、
僕にもそれ以上の漢の信義と言うものがあるんだ」

七天七刀を鞘に納め、必殺の構えに入ろうとする。

「そうか。

 ア ス ナ く ん を き ざ ん だ の か



 ×     ×

予定が変わったのー
だからお友達に会いに行くのー
もしかしたらいつも行ってるって言うファミリーレストランにいるのかなって思ったのー
だからちょっとそっちに行ってみるのー

 ×     ×

「鳴護アリサがさらわれたっ!!」

朝倉和美からの悲鳴に近い急報に、長谷川千雨がノーパソを操作する。
第一報のメールを一斉送信する。

 ×     ×

「さよちゃんっ!」
「はいっ!」

ファミレスでウェートレスに化けてアリサをさらった三人組。
その素早さの上に認識に関わる何かを仕掛けたらしい。
報道部の鷹の目で注視していた和美ですらその瞬間に注意を反らされた。
既にテーブルを大きく離れた犯人グループに、和美とさよが反撃を開始する。

>>486

「!?」
「この反応、ポルターガイスト?」
「ちいっ!」

人さらいの前にドドドッと滑り込んだ無人の椅子が、
突風に巻き上げられて店内の宙を舞う。

「そっちかっ!」
「くっ!」
「ええいっ!」

風に乗って飛んで来た椅子を、さよが弾き飛ばした。

「待てこの…」
「おいっ」

立ち上がり追い縋ろうとした和美が、肩を掴まれて足を止める。

「んー、ちょっと見この辺とか立派だけど中学生ぐらいじゃん。
さっきのお前の能力じゃん」

さあーっと青ざめながら、和美は振り返ろうとする誘惑に耐える。

「と言う訳で、主に妙に忙しかった一日のシメに相応しい
自分へのご褒美ドーンとステーキセットビールつき、
の上に落下して来た椅子の事とか、アンチスキルの取調室でとっくり聞かせてもらうじゃん」メキメキメキメキ
「あ、UFO!」
「ふざけ…」
「はいチーズ!」

和美が左手に持ったデジカメのストロボが和美の背後に向けられていた。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉらあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
待つじゃんよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」

>>487

「まだなんか…いたっ!」

周囲を伺ったマリーベートが向けられる銃口に悲鳴を上げた。

「伏せてっ!」

察知するや、いの一番にダダダッと飛び出した明石裕奈。
元の席が離れ過ぎてとても追い付けないが、その必要は無い。
裕奈が発砲した魔法弾はしかし一瞬の差で人さらい達の頭上を突き抜ける。

「仕方がないっ!」

裕奈が空きテーブルに跳び乗り、狙いを付ける。

「ええいっ!」
「ちっ!」

メアリエが走りながら手を振り、引き金を引こうという裕奈に向けて水差しが飛んできた。

「おっと…わわっ!」

上からのは囮、もう一つ下から突き上がって来た水差しを交わしながら引き金が引かれた。
その銃弾は裕奈と誘拐団の間で丁度オーダーが届いてウェートレスが去った所だった、
赤茶色っぽいセミロングヘアの見た目一番年増のいい女と
ブランド制服っぽい装いと綺麗な金髪によく似合うベレーを被った小柄な少女と
どこか剣呑なパーカー姿のショートカットの女の子と黒髪寝惚け娘の着席した
テーブルの上を直撃して爆発する。

>>488

 ×     ×

「どうなってる…」

千雨の指が、ノーパソのキーボードの縁をタンタンタンと叩き続ける。

「こちらチームTTBコードネームパル!」
「長げえっ!」
「もうすぐファミレスに到着する!」
「ちょっと待って下さいです」

早乙女ハルナからの電話に綾瀬夕映が横から割り込む。

「何か、様子がおかしいです」
「?」
「小さなシスターが路上で拘束されています」
「小さなシスター?」

「白い修道服に銀色の髪の毛…」
「インデックスだ」
「ですね。あれは、恐らく水の魔術で口を塞がれているです。
そのインデックスを女の子が取り囲んでいます」

「何だと?どんなだ?」
「三人組ですね、一人が扇子を持って…」
「そいつらだっ!」

千雨の叫びに、電話の向こうも驚く気配だ。

「他に誰かいるかっ!?アリサはっ!?
緑マントのノッポとかバカデカイ刀持った背の高い年増痴女とか」
「どちらもいません」
「その三人がネセサリウスの魔女だ、今すぐ抑えろっ!
かなり手強いぞ、先手必勝で一気にやれっ!!」
「りょーかいっ!!」

ハルナが電話を奪還していた。

今回はここまでです。続きは折を見て。

>>503

どうやってすり抜けんの?

>>505

神鳴流 二の太刀シリーズは飛ぶ斬撃みたいのが魔法障壁などを素通りして本体だけに直接ダメージを与える
禁書でいうところの「的確精度」みたいなもん
たぶん普通に反射も抜けんじゃね?ましてや気を使ってるし、抜けるどころかそもそもまともに反射が機能しない可能性もある

>>506
「すり抜ける」って以上、移動はしていてベクトルはある
三次元的制約を無視できるテレポートすら反射する一方には通じないはず(体内に直接移動すら反射する)
ついでに「気」も禁書においては魔翌力と同一視されてる今の一方は反射可能

あっ>>1乙です

最終的にはどっちの能力というか設定を優先させるかによるよね
突き詰めると「幻想殺しの異能を消す力にもベクトルはあるだろうから反射可能」ということにもなりかねないし

一方の能力発動がその時その時での演算速度相応ならレーザーや雷撃どころか不意打ちの狙撃にすら対応できないはずなんだが
木原神拳()のせいでそのあたりが矛盾しちゃったからなぁ

能力の有効範囲は科学サイドだから基本的には物理法則が対象だけど厳密には「自分だけの現実」に内包されている範中
一方さんは作中でちょくちょく支配領域を拡大してるよな

魔術による概念攻撃は結構ポピュラー
「アドリア海の女王」の例を出すまでもなく「物理的に壊せないモノを壊す」みたいな伝承は溢れてるからね
しかし、超能力のようなかつて存在しなかった全く未知の概念に対する術式なんて作れるのだろうか

>>519

「おォ、まだやる気ですかァ?」
(ルーンからの反響、精霊の反射、光の矢の反射、白き雷、雷の斧の反射、
物理的反射と魔法による攪乱反応の落差………正確な理論値を出すには全然足りない。
最後の所はこの体の記憶、感覚に頼るしかない)

尻餅をつきながらも、決して死んではいないネギを見て一方通行が喜色を浮かべる。

「勘違いすンなよ。大技が使い難くなったってだけだからな」
「ラス・テル マ・スキル マギステル…」
(チャンスは一度だけ。僅かでも数値を変更されたら全部が分からなくなる。
それ以上に、これは無理そのもの。
有効な威力で普通に実行したらその場で引き裂かれて破綻する。
この体だからこそ、辛うじて修復が効く。二度目が出来る程の回復時間はもらえない)

ネギがぎゅっと握った手が光を帯びても、今更一方通行は驚かない。

「分かった、掴み取ってやンよ。
この手でな、この手でオマエを掴み取って終わらせてやる!!」
(だから、理論的な成功率は限りなくゼロに近い。それでも…)

今回はここまでです。続きは折を見て。

感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。

>>520

 ×     ×

「ちっ!」

七閃が、一見すると小砂利、正確には主に神裂による破壊活動の痕跡を大量に巻き上げる。
思わず腕で顔を覆った次の瞬間には、
ガンドルフィーニはたった今まで銃口を向けていた神裂の手刀を後ろ首に叩き込まれて昏倒する。
なお、銃口を向けながら発砲しなかったのは、遥か射程距離外にいたからに他ならない。
神裂がタッと飛び退きながら七閃を放ち、何かがバババッと弾き飛ばされる。

(カマイタチ、風の術式…)
「………奥義………斬岩剣っ!!」

大跳躍からの打ち下ろしを、七天七刀がガキッと受け止めた。
葛葉刀子と神裂火織が互いに手にした大太刀がギリギリ押し合う。
ガキンと刃が弾かれ距離が開くと同時に、又、カマイタチの連射が神裂を襲った。

(遠距離の後衛と接近戦の前衛。
オーソドックスな魔法使いの戦闘スタイルですが実力があるだけに厄介)

七閃でカマイタチを凌ぎながら飛び退いた所に、刀子が食らいついて来る。
七閃で刀子を牽制する。

「神鳴流奥義・斬鉄閃!」

だが、刀子はタッと飛び退くや手堅く次の攻撃を仕掛けてくる。
神裂がそれを七天七刀で弾き飛ばしている間に、刀子は間合いを詰めて来ている。
大太刀同士である事などどうでもいい、
物理とか人体とか全くもってどうでもいいと言んばかりの、ガガガガガッと速く鋭い刃の応酬。
勢い余って流されたのは神裂の方だった。

「風花旋風風牢壁!」

その気を逃さず、離れた場所で後衛に当たっていた魔法教師神多羅木が風の魔法を放ち、
神裂は渦巻く強風の中に閉じ込められた。

>>528

「監禁術式、少々厄介ですね」

呟きながら、神裂は刀を鞘に納める。

「…ぬっ…まずいっ!」
「いけないっ!」

確実とは思わなかったが術自体は決まった、
一仕事終えた一服したいぐらいの心地だった神多羅木が伝わる感触に緊迫し、
刀子が大きく跳躍した。
凄まじく強烈な逆回転をぶつけられ、神裂を取り巻いていた風の檻は瞬時に消滅した。
その時には、神多羅木の上空で神裂と刀子の刀が激突していた。
ターンと弾け、両者は神多羅木を挟む形で着地した。

「くっ!」

神多羅木が無詠唱で連射するカマイタチを、神裂は抵抗と言える遅れ一つ見せず
七閃で弾き飛ばしながら見る見る距離を縮める。

「神多羅木さんっ!」

刀子が駆け付けた時には、
刀子は水月に刀の柄を叩き込まれた神多羅木の体をとっさに支える事しか出来なかった。

「ちいっ!」

刀子がさっと神多羅木を地面に横たえ動き出す。
跳躍した刀子と神裂がすれ違い、着地した時、
神裂のTシャツの右袖に出来た裂け目は限りなく内側の小高い隆起のスタートに近づき、
元々長いとは言えない刀子のタイトスカートにベルトに迫ろうかと言うスリットが加わる。

「見事」
「流石ですね」
「長年剣をもって叩き上げて来た経験豊富な古強者」
「長い年月を経て磨き上げて来たまさしく熟練の技」

ピキッ、ピキピキッ、ピキッ、プチィィィィィィィィィンンンンンンンンン

>>529

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁたしはまだじゅうはちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁれが
としまのじゅくじょですかああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」

何かユイセンとかシンメイリュウケッセンオウギとか言う発音が聞こえたのは
多分気のせいだろうそうに違いない

「ねえ、何が起きてるの?」
「うーん、第三次世界大戦にはまだ間ぁがあるんやけどなぁ」スイショウダマノゾク
「起こる事前提ですか」

ガキーンと弾き飛ばされ、
ダメージを流すために敢えてそれに乗った神裂は、振り返り様に七閃を放つ。
バッと切断された大量の触手が舞い散り、
高音・D・グッドマンは次の一撃を「黒衣の夜想曲」の自動防御で回避する。

高音が、自分が動けない程の完全防御を固める。
神裂であれば下手をすれば力業、そうでなくても浸透打撃術で打破する事も可能だったが、
この無意味な行為そのものに就いて一瞬思考し、ざっと飛び退く。

「メイプル・ネイプル・アラモード…」
「ラプ・チャプ・ラ・チャップ・ラグプウル…」

神裂の周囲に、急遽呼び戻された佐倉愛衣と夏目萌の放つ火球と水球が
放物線を描いて次々と落ちて来る。

(やけに命中精度が低い?………!?)

神裂を逸れる遠距離攻撃と亀を決め込む高音にチラと視線を走らせた神裂がザッと大きく飛び退いた。
バランスを調整された火と水の球が空中で激突し、次々と爆発する。

「………小賢しいっ!!」

爆発を避けて跳躍していた神裂が、着地前に七閃を放つ。
魔法の隠れ身札を手に潜伏していた瀬流彦他槍持ちの魔法教師が一蹴された。

「捕縛結界でしたか」

神裂は、駄目押しに地面に刃を突き立て、地面に仕掛けられた魔法陣を粉砕した。

>>530

次の瞬間には、振り返り様に目にも止まらぬ速さで鞘に納めた刀を抜き放つ。
そして、真っ直ぐ突っ込んでいく。

神裂の進路が一本の道となってその両サイドには人が埋まる程のかき氷の山がこんもり積み上がり、
超高速移動から急ブレーキした神裂が納めた刀を鞘走らせ
ガン、と、某ジャンプ漫画の某元新撰組副長助勤警視庁巡査を思わせる突きを繰り出す。

かくして、とてつもない速度でその一挙動を終えた神裂の手にした七天七刀は
エヴァンジェリン・A/K・マクダウェルの胸板をぶち抜いて後ろの壁に突き刺さっていた。

「なるほど、不完全とは言え結界を緩めてまで、
つまらん言葉で私を挑発してここに仕向けただけの事はある。あの爺ぃ」

エヴァンジェリンは神裂に不敵な笑みを向ける。

「光栄ですね。出会い頭から駆け引き無し戦争レベルのフルパワーで一気に仕掛けていなければ、
恐らく私は氷河の中です。そういう訳で」

E/
v/
a/
n/
g/
e/
l/
i/
n/
e/
A/

K/
M/
c/
D/
o/
w/
e/
l/
l/

>>531

「あなたの事は聞いています。終わったら修復してもらって下さい」

神裂が刀を鞘に納め背を向けて歩き出す。

「私達、あんなのと闘ってたの?」
「何か、そのまま宇宙でも闘えそうやなぁ」ゼイチクジャラジャラ
「いや、どこかの塾長じゃないんですから」

ここで、攻撃に転じた高音と妹分の魔女見習い二人、
そして刀子がじりっ、じりっと神裂に近づく。
人数はもちろんだが、ここまでチートをやっておいて何だが、
この四人がチームで来ると言うのは神裂にとっても決して侮る事が出来る状態ではない。

相性の都合で遠距離タイプを最初に潰した神裂だったが、
年月を重ねた熟練の技を使う刀子は、剣士、魔術師として神裂に相対するに十分値する。

高音も魔法使いとして高い能力を持っており、
絶対防壁の使い方次第で神裂を苦しめるぐらいの目はある。
その上、まともな戦闘であればそこそこ使える妹分二人を従えている。

(いざっ!)

各陣営が腰を浮かせた次の瞬間、
ドガーンと巨大な石の拳が麻帆良側の両サイド近くの地面に叩き付けられた。

「何やってんのっ!?」

神裂の側でぼこっと湧き出した土塊の中の目玉が開き、声を伝える。

「情報収集に行って麻帆良の魔法教師と全面戦争とかあんた頭大丈夫っ!?
んな事されたら今度こそバックアップの私まで処刑塔行きだっての!!
そいつら片付けても上の方で見てるんだよ、ユニークな脳天の爺ぃと多分変態のニヤケ面が、
多分だけどそいつら私らがタッグでも瞬殺されるぐらい強いから」

>>532

 ×     ×

「はあっ!?多重能力者!?」
「いや、だから御坂さん、都市伝説じゃなくって、
春上さんが報せてくれたんだけど…」
「それはだから不可能だって」

「でも、一人は間違いなく風と電気を一人で扱ってて、
それから、妙な具現化能力使う奴もいて、
何とか凌いでるみたいだけどかなりヤバイ状況だって」

「分かった、近くにいるからちょっと行ってみる。
どっちにしても、放っておけない」
「気を付けてっ!」

 ×     ×

一方通行がロケットスタートした。

(ほおおっ、渾身の一撃って奴ですかァ。そィつァ命取りになるぜェネェギィくゥン。
それとも、核爆弾十個分のパンチとか怪獣図鑑に載ってるパンチか何かですかァ?
アハ、アハアハッ)
「やって見ろやァ三下あァっっっっっ!!!」

「………桜華崩拳………」
(………ここ………だっ!!!………)
「………退っ!!」
「………ごっがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」

ネギの拳を受けた一方通行の体が吹っ飛ぶ。
資材の山から山へ、ピンボールの様に叩き付けられて跳ね飛ばされ、
その内角度が変わって地面を何度かバウンドして
ようやくの事で大の字にぶっ倒れる。
当然、自動反射でなければとっくに即死だ。

>>533

「くああああああっっっ!!!」

そのネギはネギで、そのまま地面に倒れ込んで悶絶していた。
一通り絶叫して、やはり地面に大の字に倒れ込む。
押せば引く、押すも引くもこの場合方向が違うだけで同義、

そうであれば、引くが押す。
この馬鹿馬鹿しい理屈を、その一瞬、
押すが引かれるそのほんの一瞬だけに全てを懸けて大真面目に実践して、
その馬鹿馬鹿しさの反動で無理やりな方向に引っ張られた体に未だ激痛が走る。
生身の人体であれば引き裂かれた勢いだ。

「あー、もう終わってたかにゃー」
「土御門、元春さん」
「あー、魔法世界の英雄様がご存じとは、光栄の至りだにゃー」

かくして、土御門はひょいひょいと気楽な足取りでネギに近づき、そして、
深々と頭を下げた。

「まず、この不始末を謝罪する」
「今回はどの立場ですか?」
「お前…君を招いた側、学園都市統括理事会、そこに連なる立場、そう思ってもらっていい」
「お前で結構です。お互いここでは表に出ない立場。
歳と立場がアンバランスだとやり難いですから」
「そうか」

真面目な口調で話していた土御門がネギに携帯を渡す。

「もしもし、ネギ先生?ただ今会食を終えました。
ホテルに戻りますのでネギ先生もお戻りの際は連絡下さい」
「いいんちょさん?」
「ネギ先生?聞こえておられますか?」

「え、ええ、大丈夫なんですか?」
「ええ、お陰様で有意義に交渉が進められました。
電話ではなんですので詳細はホテルでゆっくりと」
「わ、分かりました」

ネギが電話を切る。

>>534

「只の行き違い」

土御門が言う。

「連絡が行き違って予定変更に関するちょっとした連絡漏れがあった。
携帯も信用出来る人間が預かっていただけ。
それを持ち出した人間、それを故意にやった人間がいるって事だ。

あっちの学園都市最強一方通行に関してもな。
人の死体の上に犬の死体を埋めておけばそれ以上は詮索されない。
犬の死体にお前達に貸し出されている電子機器を使った奴がいるって事だ」

「じゃあ、あの人も?」

「ああ、あいつの大切なものに手を出した奴、そいつの正体を追跡して行けば、
最初の偽装を突破すると学園からお前に貸し出された機器に行き着く。

もちろん、こっそりとハッキングした結果だが、
何しろお前ら自身お忍びのために名目を色々偽装してるって事もある。
犬の死体に引っ掛かったって事さ。本来敵対する理由は無い」

「そうですか」
「誰がやったのか、聞かないのか?」
「雪広あやかの無事は確認出来ました。そうですね」

「ああ、お前が戻るまで決して手は出させない」
「後は土御門元春さんにお任せするのが最上、この結論は間違っていますか?」
「今回、出だしは抜かったがな。
こっちの事はこっちで始末を付ける。任せてくれて感謝する」

>>535

心当たりはあり過ぎた。
少なくとも、この学園都市の中でもトップクラスが関わらないと今回の仕掛けは無理だ。
ネギ達とて、学園都市内でも簡単に行動を乗っ取られない様にそれ相応の用心はしている。

ざっと想定するだけでも、主導権を握るネギを亡き者にして
エンデュミオンを足がかりに学園都市がプランを総取りするもくろみ、
或いは、ネギの訪問による魔法、或いは魔法を含む魔術と科学の歩み寄りを警戒する立場。
或いは一方通行の方に何か含む所が、科学の最強一方通行と魔法の最強ネギとの闘い、
少なくとも、このどっちかを倒すにはもう一方がいるのは絶好の機会。

ありとあらゆる意味で客観的には愚かな試みなのだが、
今のネギは社会的地位のある愚か者など掃いて捨てる程見ている立場だ。
学園都市の事は学園都市に任せる。今はそれが最善であるとネギは踏んでいた。
善悪は別にして、ネギは学園都市自体の聡明さに就いては相応に信頼していた。
少なくともこれが学園都市最終意思の本意ではなかろうと言うぐらいには。

許可を得た上で訪問している「魔法」の「英雄」、
引いては「魔法」を含む「魔術」サイドの大物に
学園都市の上層部が関わって「科学」の「最強」を差し向けた。
或いは、学園都市内でその科学の最強を魔法の英雄がぶちのめした。

それが知れた時点で、全軍進撃を指示し兼ねない者をネギはダース単位で知っている。
当然、それはネギのプランに取って軽視し難い悪影響となる。そして、その事を望む者も存在する。

それだけのプランのために学園都市を訪問している以上、
土御門元春と言う男に就いてもネギは相応に情報を得ている。

少なくとも、彼に就いてネギ自身が知り尽くしていると勘違いしない程度には確かな情報を得ている。
そして、学園都市に絡む下らない戦争を止めるためには
取り敢えず彼に乗った方がいい事を知っている時点で、そこは流石ネギ先生と言う事だ。

「大丈夫なのか?」
「ええ、何とか」

人間の体に戻り、よいしょと立ち上がるネギと土御門が言葉を交わす。

>>536

「まだ動けるんなら、本業の方も片付けてもらおうかにゃー」
「本業?」
「ああ、ちょーっとオイタが過ぎて困った事になってる
ネギ先生、を、大好きな可愛子ちゃんのお説教タイムぜよ。この学園都市でにゃー」
「ちょっと、待って下さい、この学園都市で、って」

「まぁー、お互いややこしい街に住んでると色々あるモンぜよ。
取り敢えず、少し急いだ方がいい。
今回の件で分かっただろう。見た目可愛子ちゃんで
その実あの夏にお前と戦火をくぐり抜けた強者でも、この街はそう甘くはない」
「分かりました」

ぐっと真面目な顔で返答したネギに、土御門はグラサンで目を隠したまま口元を緩める。

「あー、杖はいらないにゃ。魔法でごまかせるって言っても
ここは科学の学園都市だからにゃー、確実とは保障出来ないぜよ」

右手を挙げるネギに土御門が言い、ついっと視線を脇に向ける。

「ネェェェェェェェェェギせぇぇぇぇぇぇぇんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「あ、結標さん」

「話は伺いました。さ、参りましょうネギ先生。
ええ、私の能力は私自身に極めて密着したもので無ければ移動する事が出来ない能力でして、
ですからそう、こうやってぎゅっと力一杯ぎゅーって、

それで、決して長距離を一度に移動できる訳ではございませんし場所的な制約もありますから
目的地に向けて小刻みにぐるりと移動する事になります。
もーちーろーん、私自身が一緒に移動する事に就いてはぜーんぜんオッケーと言うか
そうしなければならない訳でございましてこの結標淡希地獄の底までネギ先生とご一緒に。

はい、ですからしっかりと力を込めて
埋まる勢いで大丈夫ですよそうめくるめく時を過ごす勢いでネギ先生、

はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ漲るぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
これは全てを乗り越えられるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ

はい、ぎゅぅーっと、さーんにぃーいーち

我が人生一片の悔いなぁーっしいっ!!!」

>>537

「………」

結標淡希ネギ・スプリングフィールドの消失を見届け、
土御門は地面にいまだ大の字になっている一方通行に近づく。

「あ゛ァ?」
「あー、今ん所無関係なお前で悪いんだが、ちょっと仕事を頼みたい。
ま、いっぺんやった事だ」
「ンだァ?」

「なーに、今さっき顔面から赤い噴水まき散らしてぶっ飛んでって
そろそろ絶頂を極めて戻って来るキャラ崩壊を究めたムーブポインターに
肉体言語で原作ってモンを思い出してもらう簡単なお仕事だにゃー」

それだけ言って、土御門は一方通行からも離れる。

「はぁーあ、「魔法」の英雄が「科学」の「最強」をねぇ…
それ抜きにしても凛々しいにゃあ、流石は英雄か、真っ直ぐとまぁ。
あいつが惚れる訳ぜよ。
こっちの収拾に奔走させられたが、あっちの方は…」

取り出した携帯を覗いた土御門は、
イメージ映像で言えばサングラスがピシッと音を立て顔中にだーっと汗が伝い落ちていた。

今回はここまでです。続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。

>>538

 ×     ×

「くっ!」

絹旗最愛の回し蹴りを受けて、
ボクサーガードしたアキラの腕が痺れ足が大きく後退する。

「超もういっちょうっ!」
「つっ!」

窒素装甲が大幅に削減しても絹旗にもそこそこ経験値はある。
絹旗のひらりと身軽な回し蹴りを後退して交わしたアキラの足がスリップし
空きテーブルに背中から倒れ込んだ。

経験値と残りの窒素装甲で今でも格闘家ぐらいシメる勢いの絹旗。
これで絹旗がフルパワーであれば、一撃でもまともに受けたら
防御関係なく骨格、筋肉が無事では済まなかった筈だ。
アキラがそのテーブルを自分の前に倒し、絹旗は危うく拳を止める。

「超肩凝りを治してくれた超お礼をしますか」

絹旗はコキコキ肩を鳴らしながらアキラに背を向けて、
半ば腰を抜かしている亜子の元にツカツカと歩み寄る。

「超外れです」

アキラが放り投げた水差しが放物線を描いて絹旗の前に落下する。

「アデアット!」
「!?」

絹旗は目を見張る。
逃げ遅れた亜子を一撃する予定だった拳が、
両腕を広げたアキラのボディーを一撃していた。

>>544

「アキラっ!」

アキラが、叫ぶ亜子の手を取る。
そして、絹旗の前から二人は姿を消し、倒れた水差しだけが残される。

「あれは、超テレポート?それも余りレベルが高くない」

混乱した店内のあちこちに現れるアキラと亜子を見て絹旗が呟く。
そして、そんなアキラに視線が向いた隙に、
裕奈が店のあちこちの水差しを狙って拳銃を乱射していた。

「くあっ!」
「アキラっ!」

フレンダとの一進一退の末に後ろに跳躍したまき絵が、
アキラの大きな体で空中で抱き留められて叫ぶ。
床に待たせた亜子もすぐに縋り付く。

「結局、逃げられたって訳よ」

フレンダの前から姿を消した運動部三人組が、パッと通路に蹲る様に姿を現す。
むっちり色っぽいおみ脚からそーっと上を見ると、
どこぞのお嬢様が実に素晴らしい笑みを浮かべていた。

「…はーい…」
「こんにちわぁ…」

まき絵と亜子が引きつった笑みで愛想を返す。

「パリィパリィパリィパリィィィィィィィィィッッッッッ!!!」

取り敢えず、自分らの肉体が液体を通り越して蒸発する前に三人は姿を消す。
心得たもので、ささっととあるテーブルの下に隠れていた裕奈は、
早速に通路に水差しをぶちまけていた。

「アッキラッ」

そして、通路に姿を現したアキラの背中に裕奈が勢いよく抱き付く。
ジャッと原子崩しが空を切り、四人揃った運動部の姿は入口近くに存在していた。

>>545

「はいごめんなさいっ!!」
(………犯罪者だ、犯罪者の群れだぁ………)

裕奈、まき絵が次々とテーブルからカウンター前を飛び越えていく。
心中の呟きを余所に、アキラも又、腰の抜けた亜子をお姫様抱っこして現実に従い、

「ホントーにごめんなさいっ!」

申し訳にお会計だけカウンターに放り込み入口にダッシュする。

「テレポーターかよ、ったく…」

呟いて、麦野沈利は携帯を取り出す。

「と言う訳で、事態を穏便に収拾するために修理代その他含めてこっちで負担しといたから。
次の仕事の報酬はその辺考慮されるって事でよろしく」

「はわわわわわわわわわ………」
「超ブチギレてますね」
「大丈夫、私はそんな髪の毛がふわーっと浮かんで
目から赤い光を放ってるむぎのを応援してる」

麦野の手の中で携帯がバキンと嫌な音を立てる。

「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

 ×     ×

「な、なんですのっ!?」

ファミレス近くの路上で
二人の友人共々大型のくらーけんはんどに拘束されて、婚后光子は声を上げた。

「何だか知りませんが無闇にじゃれつくものではありませんわよ」
「はあっ?」

角から覗いていた図書館三人組が唖然とする。
そうやって、婚后に撫で撫でして話しかけている内にくらーけんはんどが力を緩め、
三人とも脱出してしまった。

>>546

「あなたたち、どういうつもりですか?」
「やばっ」
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ…」
(………何か、風が感じられますわね………)

くらーけんはんどを脱出した泡浮万彬がつかつかと曲がり角へと歩き出す。
ハルナが焦りを見せている間にも、綾瀬夕映は着実に手を打つ。

「………戒めの風矢………!?」
「はわわわっ!」
「防壁っ!」

婚后光子の扇子の動きに合わせる様に、突如巻き起こった突風が図書館組を襲う。
風は夕映の放った捕縛魔法を易々と呑み込み、
ハルナが防御用ゴーレム「盾の乙女」を召還しなければまとめて吹き飛ばされていた勢いだ。

「行けっ!」
「これは、少なくとも人間ではありませんわね。能力の物質?」

ハルナが「盾の乙女」をそのまま攻撃に回す。
相手の三人組の先頭に泡浮万彬が立ちはだかった。

「ハルナ、飛ばしたですか?」

夕映の質問にハルナが首を横に振り、「盾の乙女」はデタラメにジャンプして相手を飛び越える。

「こりゃー、千雨ちゃんの言った通り、相当厄介な相手だね」
「ですね」

ハルナと夕映が意見を一致させる。
図書館チームが、隠れるのをやめてさささっと前進して動き出した。

「くっ!」

新たな突風に吹き飛ばされそうになりながら、夕映は練習杖を前に出す。

>>547

「あなたも風の能力者ですの?
しかし、その程度ではどうにもなりませんわよ!」

扇子で笑みを隠して言う婚后光子の言う通りだった。
とっさにそのまま強風をぶつける魔法で対抗した夕映だったが、
風の出力だけなら、間違いなく婚后の方が圧倒していた。
ならば、まずはどうやって上手に負けるかだ。

「………白き雷っ!」
「!?」

上手に転がって身を低くした夕映が、練習杖から雷を放つ。
とっさにそれを交わしながらも婚后はギョッとしていた。

「そんな、まさか………?」

夕映から見て、優位に闘いを進めていた筈の婚后の狼狽は異常な程だった。

「隙ありっ!」

その婚后に気を取られた泡浮万彬にハルナがマッチョゴーレムを差し向ける。

「又っ!?」

だが、ゴーレムは、泡浮の前で投げ飛ばされたと言うのか奇妙な軌道を描いて
泡浮を飛び越えてしまった。

「もう一度…」
「ハルナよけてっ!」

宮崎のどかの声に、ハルナがとっさに地面を転がる。
ハルナがいた辺りを、細長い水の塊がびゅうと通り過ぎる。
素通しになったガラス壁から店内に入っていた残る一人、湾内絹保が路上に戻って来る。
のどかがとっさに湾内に空飛ぶ本を放つが、
それは湾内が混乱する店内で集約して飛ばした水の塊に呑み込まれる。

「(とにかく、これはいけそうです)白き雷、っ!?」

追い打ちを掛けようとした夕映は、ぞわっとしたものを覚える。

>>548

「(風楯ならぬ)雷楯っ!!」

夕映がとっさに応用防壁を張る。
強力な電撃に白き雷が呑み込まれ、更に防壁をも突き破り夕映に一撃を食らわせる。

「ゆえっ!」
「大丈夫!?」
「ええ、何とか」

友人の声に、後方に吹っ飛ばされた夕映は頭を振って応じた。

「ふうん。今の感触、あんた体にも電磁バリア張ってたわね」
(これはっ、生半可な出力じゃないです)
「盾の乙女っ!」

ハルナが「盾の乙女」を上に展開する。
何故なら、破片の様な五月雨電撃が上から降り注いで来たから。
そのハルナに夕映が耳打ちする。
ハルナが前方に展開した「盾の乙女」が激しく帯電する。

「「盾の乙女」が力負けっ!?」
「くっ!」

予測されていたとは言え、「盾の乙女」の消失と共に図書館三人はざっと横に飛び退く。

「跳んだっ!?」

ハルナが叫ぶ。夕映が打ち出した風の塊が、異様なジャンプ力で交わされていた。

>>549

「なぁにしてくれちゃってるのかしらねぇ…」
「ま、さか、風、電気…」
「婚后さんっ!」

もう一度、我が目を疑っていた婚后光子が、割り込んで来た友人の呼びかけに我に返る。

「ここは任せてみんな逃げてっ!」
「し、しかし、この婚后光子…」
「私が抑えておくからいいから早くっ!」
「は、はいっ!!」

それは、押しが強い筈の婚后が圧倒される程の迫力だった。

(………例の事件の関係?だとすると、婚后さん達を巻き込めない………)
(上位の相手だとすると、こちらに聞いた方が早い?でも、何かがおかしいです…)

「とにかく………まずはお礼をさせてもらおうかしら!!!」
「ハルナっ!」
「盾の乙女っ!」

目の前で掌に宿る青い光に、夕映が小さく叫ぶ。
ゴーレムを盾にしながらも予測される攻撃力に図書館組は覚悟を決める。
轟音が響き、一同目を見張る。

「な、に?…」

通常、雷と言うものは上から下に落ちるものである。
その意味では、彼女達の目の前で展開された光景はある意味正しい。
但し、問題なのは、雷と言うには小さすぎる、
しかし、図書館三人組に向かって放たれた電撃を阻止する程の電撃が
上から下に天から放たれたと言う事だった。

>>550

 ×     ×

「らちがあかねぇ」

とある建物の屋上で千雨がノーパソを閉じる。

「前線に行くぞ。ファミレスまでは分かってる」
「分かった」
「何とかタクシーでも捕まえて…」

言いかけて、千雨が夏美を手で制する。
ドアノブの音を聞いた千雨は、即座に夏美の手を握り夏美は「孤独な黒子」を発動する。
次の瞬間、千雨の体は強烈な衝撃波に吹っ飛ばされて屋上の柵に激突していた。

「つ、っ!?」

身を起こそうとした千雨が、ようやくそれが出来ない事に気付く。
右肩に強い圧力が掛かってる。
強い力が押し付けられて背中が床から離れず今にも関節が外れそうな程に。

(や、べぇ…)

「出て来いっ。
もう一人いる事もここからの電波が妙な事件に繋がってる事も分かってんだよ、クソボケ」

今回はここまでです。続きは折を見て。


パリィがむぎのんの鳴き声みたくなってるけど、あれ英語だからな
「回避する」って意味の
あんま意味わからん発言させるなよ

>>556
通りすがりに一言

記憶と勢いで書いた
反省はしている

色々と有り難うございます。まずは御礼申し上げます。
思うところもありますが、このまま行きます。

時刻もよろしい頃合には少々遅くもありますが、

では、今回の投下、入ります。


>>551

 ×     ×

「くそっ!」

小太郎が狗神に乗ってトンネルに突入した途端、視界がオレンジ色に染まった。

「モモモモンスターッ!?」

高速道路とは言え暴走と言うべき速度でかっ飛ばす車の後部座席で、
後続を見たジェーンが叫んだ。

「イヌガミと言ったか。
日本では我々が精霊と呼ぶものも含め、神様の数がやたらと多いとな」

半ば炎に包まれた怪獣に片脚突っ込んだ巨大狼が
辛うじてその前段階のス○○ーサ○ヤ人もどきに収束するのを見てステイルが言った。

「先日の麻帆良者、やはりウェアウルフですか」

自分がアクセルを踏み込みかっ飛ばしているスピードに
半ば硬直しながらハンドルを握るメアリエがバックミラーを見て言う。

「………引き返す?………」

>>558

 ×     ×

「………この気配………」

科学の学園都市上空で、箒に跨った佐倉愛衣が自分の向かう方向からこちらに向かう気配に呟く。
緊急警報による麻帆良学園都市への緊急帰還。
その後、科学の学園都市の通信網に接続していた弐集院からの報せで、
秘かに繋いでおいた転送ポイントを通って科学の学園都市に蜻蛉返り。

かなりきな臭い事件が進行しているとの情報だったが、
目的地に向かう途中、行き先の方からとてつもなく危険な気配が突き刺さって来た。

(…これは機械ではない。魔力、いや、どちらかと言うと…)

果たして、猛スピードですれ違った後で、
愛衣は箒の方向を変え、その金色の光の尾に食らい付く様に猛追した。

「どうしたんですかっ!?」

追い縋りながら愛衣は絶叫する。

(尋常な顔つきじゃない。一体…)
「………が………ぶな………」

>>559

 ×     ×

「………おおお………」
「ネギせんせー?………」

迂闊に前を見る事の出来ない電撃連打の後で、
大きいとは言えない人影が雄叫びと共に
バチバチ白く放電して突っ込んで来ると言う希少現象を前にした場合、
宮崎のどかが一瞬自分の知っている現象と勘違いするのも無理からぬ所もあった。

「ちぇいさぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっっっ!!!」

しかし、現実には、白く輝きながら突っ込んで来たのが御坂美琴で、
上空からスタンと着地したのがネギ・スプリングフィールドだった。
もう少し詳しく説明すると、歌って踊れるハイテンションムーブポインターと共に移動を繰り返し、
窒息寸前の高密着状態のネギが到着したのがこの近くのビルの屋上。

後は、認識阻害を張った杖に乗ってここの上空から白き雷を放ち、
まずは知ってる顔を狙った電撃を阻止していた。

ネギは、とっさに跳び蹴りを交わすと、電気防壁を張った腕で続く回し蹴りを流す。
たんっと後退した美琴がネギを跳び越えた。
双方振り返る。美琴が放った電撃をネギが受け流す。

「………これは………」
「ちょっと、何でネギ君が………って言うか………」

夕映もハルナも目の前の展開に唖然となる。
白く放電しながら攻勢に出ている美琴に対して、
ネギも相手の主力が電気と理解して、
雷天とまではいかなくても通常の魔法防壁の性質を出力増しの雷に切り替えて対処している。

普通の感覚であれば目にも止まらぬ早業と言う事になる美琴の猛攻撃に対して
ネギも決して油断せず小刻みに対処している。

そんな二人、見た目では一般的な中学生女子とこれから思春期に入ろうかと言う男の子が
そんなトンデモ状態でバチバチ白く放電しながら気合いと共にすばしっこく動き回っているのだから、
ちょっと目を離すとどっちがどっちか一瞬見分けが難しくなるぐらいだ。

>>560

「白き雷っ!」

距離を取った美琴の電撃がネギの白き雷に呑み込まれる。

「ちぇいさあっ!!」

その時には、ネギの目の前に着地した美琴の回り蹴りがネギに受け流される。

(さっきの電撃が呑まれた、並の電撃使いじゃない、ってまさかレベル5の私よりっ!?)

ぱぱぱっと美琴の胴体を狙う拳を美琴が受け流す。

(やっぱり、攻撃も防御も常時電磁バリア張ってるし、
しかも拳法使いってどういうスペックしてるのよこいつっ)

ターンと後ろに斜め飛びしながら次にネギを跳び越え、
双方振り返り美琴が放った電撃がネギの腕に跳ねられた。

(速い、多分電気を使った機械的な速さ。
直線的だから難しくはないけど、使い慣れてる分厄介な動き方。)

美琴のスタンガン機能付き体術攻撃を交わしながらネギは考える。
かつて高畑に足を出されて蹴躓きそうになった、美琴の動きはネギから見てそんな動きだ。
只、それでも、電気のこういう使い方には慣れている印象だ。

タッ、とネギが後退する。
ネギがいた辺りの地面が爆発して噴出した土が固定化する。

「風楯っ!!」
「なっ!?」

刺突を掛けて来た砂鉄の剣が、ネギの張った風楯に阻まれて左右に割れる。

(これもさっきの資材置き場の?いや、電気の感触、あくまでそういう術式)
「電気じゃない、風?やっぱり多重能力ってのは…」

跳躍した美琴がその高さから五月雨電撃を撃ち込む。

>>561

「白き雷っ!!」

それが白き雷に一度に呑み込まれた。

「つーっ………」

美琴が、白き雷から自分をガードした両腕を振る。
無論、電磁バリアだが、重要なのは、

(電気の勝負で私が押し負けた…)

考えたくない事だが、レベル5の優秀過ぎる能力は美琴の発想を現実から逃さない。
レベル5第三位、「学園都市最強のエレクトロマスター」の自分よりも上、
それも桁違いに上の電気使いなのかも知れないと言うあってはならない現実。

「そんな事、そんな事をぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」

バチバチイッと青い電撃がネギを襲う。
ネギが白き雷で拮抗している間に美琴が吹っ飛ばされる様に跳躍する。

「そんな事おおおっっっ!!!」

落雷の様な一撃だった。
着地した美琴は、悠然と振り返るネギを見た。

「あああああああっっっっっ!!!」

ネギは、瞬時に詰め寄って来た美琴の右の拳を腕ごとネギ自身の左腕で跳ね上げる。
そして、ネギの右の掌がとん、と、美琴の水月を押す。
次の瞬間、美琴の背中は近くの街灯に激突していた。

>>562

「………か、はっ………」

ネギは、ふうっと一息つく。
余り良くない言葉で言えば、面倒な相手だった。
戦闘力で言えば、圧倒的にネギの方が上になる。

だが、それは、瞬時に塵も残さずにと言う意味だ。
色々な意味でそれが出来ない状態では、
御坂美琴が「そこそこ出来る」と言うのが実に厄介だった。

多分、美琴のあの電磁バリアの状態ならそんなに大きな怪我はしていない筈だが。
その美琴の右手がきゅっと握られる。

「場所が悪すぎる、と、思ったんだけどなぁー………つっ………」
「のどかさん?」

美琴が腕に軽い痛みを覚え、視線だけそちらに向ける。
どうやら石を投げられたらしい。

(………陰険な真似、するじゃない………)

美琴が、ゆらりと立ち上がる。

(これはっ!)

右手を握った美琴がバチバチッと放電し、ネギが踏み出そうとしたその刹那、

「!?」

両腕を広げた宮崎のどかが両者の間に割って入った。

「なっ!?」
「のどかさんっ!?」
「ごめんなさいっ!!」

のどかが、まず、美琴に向けてぱたんと体を折った。

>>563

「人違いでしたっ!」
「はあっ!?」

美琴は知らないが、普段ののどかとはかけ離れた大声に美琴は気を削がれる。

「えっと、近くで盗難事件があって、それでその、
たまたま特徴がお友達の人に似ていてそれで私達の方から捕まえようとして、
お互いに能力者で事が大きくなってホントーにごめんなさいっ!!」

謝りながら、のどかは開いた右手を差し出していた。

「………マジ?………」

美琴の言葉にしっかり頷いたのどかの右掌に張られたメモには、

「長谷川千雨友人
メイゴアリサさらわれた」

と書かれている。

「すいませんでしたっ」
「ごめんなさいっ!」

そこでようやく、夕映とハルナものどかに従い、頭を下げた。

「分かった」

美琴が言った。

「あんた、いい度胸してるじゃない」

美琴の言葉にのどかがほっと胸を撫で下ろす。
御坂美琴の事は事前にある程度聞いてはいたが、本来惚れ惚れする様な気風なのだろう。

「とにかく、こっちでも確認するからそう伝えて」

すれ違い様に美琴がのどかに囁く。

>>564

「あー、知り合い?何か、悪かったわねお互い誤解あったみたいで」
「いえ、こちらこそ。大丈夫ですか?」
「うん、あそこまで見事にやられちゃあね。
じゃ、いいんなら私急ぐんで」
「そうですか」

ネギと言葉を交わし、美琴が走り去りながら携帯電話を操作する。

「それで、どうして皆さんがここに?」

ネギが根本的な疑問を口にする。

「申し訳ありません」

夕映が言った。

「その事に就いてはお話ししますが、それよりも忘れている事があるです」
「え?」
「今言った事件の事です。縛られていた人がいなくなってるです」
「なんですって?」
「縛られた白いシスターです。何かあったら大変ですっ!」

 ×     ×

「むーっ、むーっむーっ!!」

ファミレスからそれ程遠くない路地裏で、インデックスは物音にぎくりとした。
通行人に助けを求めた所魔術師が乱入し魔術と科学の直接戦闘が勃発する超展開を前に、
身の危険を感じたインデックスは尺取り虫の様に逃亡する内に
よりデンジャラスなエリアに辿り着いていた。

「じっとしていて下さい。やはり水の術式でしたか。この術式は…」
「ぶはっ!!」

インデックス口を塞いでいた水の塊に金属棒が差し込まれ、
呪文詠唱が終わるとようやく口が自由になった。

>>565

「有り難うなんだよ。それは「世界図絵」だね」
「その通りです」
「道具もあなたの解除も見事なんだよ」
「有り難うございます。あなたにそう言っていただけるのは光栄です」

その時、トテテと聞こえる足音にインデックスが反応する。

「大丈夫です」

インデックスの口を解放した綾瀬夕映が言う。

「ああ、いた。よかったー。
Index-Librorum-Prohibitorumさんですね」
「………それ………は………」
「すいません、状況の確認、を」
「………あ………あ………だめえええええええええっっっっっっっっっ!!!」
「?…のどか…?」

今回はここまでです。続きは折を見て。

>>627

「24時間だあっ!?」

「正解。ついでに貴様のデータベースから削除しておいた、
過去の作業の過程で貴様が撮影した趣味と実益を兼ね備えたのであろう
実に胸がムカつく画像の数々を見た衝動で
時刻設定を二億四千万年にしなかた私の寛大さに跪いて感謝する事ネ。
但し、コピーはこちらの手の内ネ、貴様以外の顔に穴を空けて、
貴様の名で作たアカウントで貴様の粗末な武勇伝の数々を公表するには何等支障は無いの事ネ」

その時には、このふざけた口調のトーンは丸で笑っていなかった。

「まあ、今回の件は仕事であろうから少々気が引けるのだがネ、
それでも私には譲れない優先順位がある。
だから、相手が貴様の様な外道で、命じる上ではむしろ安心したネ」
「あの女の仲間だ、って言うのか?」

「そういう事にしておこうカネ。だから、要は手を引け、これが貴様への命令ネ。
何度鍵を付け替えても、この程度の事はいつでも出来るの事ネ。
君は余り学習能力が高くないらしいネ、二度目も駄目で三度目で終わり」
「な、何を言ってる…」

「それでも、今の事態を理解しているなら一度目の警告をするネ。
今回はここで24時間震えていればヨロシ。それで終わりヨ。
ただしもし今後私の視界で、私の仲間のまわりで
一瞬でもこのガラクタどもを見かけたら
アナタがどこにいようが必ず見つけ出して潰す」

 ×     ×

西日本のとある地下。
形状記憶合金としか思えない微妙な着崩しが、
そこから上辺のはみ出る豊満な乳房の熟れ切ったラインを際だたせる。
つと指に止まった虫の音に耳を澄ませる。

今回はここまでです。続きは折を見て。


そういえば、コタロー君って逃げるだけなら転移で逃げれんじゃね? スクールにテレポーターなんておらんから追ってこれんだろうし。
というツッコミは野暮なんでしないことにしました。


だいぶ風呂敷広げたけどここからどう巻き返すか気になるね
とはいえここまで事態が悪化するとご都合な解決以外は望めないかな

>>630
………やっべぇ………

私の勘がそれを押しとどめたのだとしたら、
調のヴァイオリンも大概ですが、流石に垣根帝督と比べると色々段違いでしょうから。
垣根の方は正直よく分からない所があるし、
本来ならこの組み合わせだと接待じゃないとネギま側が瞬殺されてもおかしくない気がする相手なんで

状況的に言って、隙を見せた時点で瞬殺、
今回は自分が楯になってすぐ側にいる女を逃がす事を優先せざるを得なかった
と言うか正確な正否は別にしてその場でそう判断したのではないかと
夏美の能力使っても小太郎が目を引いておかないと場所ごと吹っ飛ばされる危険があった訳で

等と、サクシャはさあぁーっと血の気が引いて汗ダラッダラで陳弁にこれ務めております。

>>631
かなりその予感がしてならない

それでは今回の投下、入ります

>>628

 ×     ×

「あー、俺の覚えている限り、ねーちんは情報収集のために麻帆良に行ったんだにゃー」

科学の学園都市の一角で、土御門元春は携帯電話に問いかける。

「…その通りです…」

「で、その交渉がこじれて、近衛の護衛をフルボッコのタコ殴りにした。
そこまではありそうな話だと思うぜぃ。
そこから、あっちの世界の姫様を膾に刻んだと、近衛の姫様の眼前で。

で、その三人は恐らくあの夏の戦場を共にして命に替えて友情を貫くレベルの親友同士。
しまいに完全治癒能力をいい事に近衛の姫様の脚の一本も頂こうと。

そんで、「魔法」サイドの伝説的な英雄クラスの最強野郎に一本勝ち決めて
学園警備の魔法教師魔法生徒の本隊相手に無双を展開したと、麻帆良学園都市の敷地内で。
見たままありのままをまとめて言うとそういう事でおk?」

>>633

「…そうです…」

「いやいや、神裂ねーちんの事だから、
よんどころの無い事情で役割を果たす過程で生じたトラブルだって事は理解してるにゃー。
だからもちろん責めるつもりなんか全然無かですたい。
燕さんがにゃー、どこからともなく季節の最高級至高の鱧松茸鍋パーティーの招待状、
なるものを届けてくれたもんだから、ちょーっと正確な事情だけでも知りたいにゃーってナハハハハー」

 ×     ×

埼玉県内、山中。
大西洋太平洋を泳ぎ渡り尾根から尾根に走破した騎士が二十騎余り。今正に進撃の構えを取っていた。
丸で飾り物の如く全身に装着された西洋甲冑の腕には連合王国を示す記号。端的に所属を現している。

「いつぞやは苦汁をなめさせてくれた神裂火織のこたびの失態」
「こうなっては、麻帆良学園、引いては日本の「魔法」サイドとの戦端が開かれる事は避けられぬ」
「で、あるならば、対処するのみ」
「騎士として、先方に交渉に赴く」

「十字軍遠征時に数多の異教徒を葬った神僕騎士より受け継ぎし御業の数々をもってすれば、
この様な島国の魔術勢力など恐るるに足らず」
「その事を先方が理解したならば、事は直ちに収拾する」
「今後とも、ちっぽけな東洋の辺境に相応しく身の程を弁えた関係と言うものを理解する、
様に我ら直々にその事を目に見える形で教授して差し上げよう。身の程を弁えねば身を滅ぼすとな」

 ×     ×

バッキンガム宮殿、庭園。
女王エリザードは、報告を受けていた。

「と、言う訳で、どこからともなく氷山がここに送りつけられて来たのですが」
「うわー、クリスタルアイスの中に甲冑が反射して輝いてるんだし」
「いかがいたしましょうか?」
「捨ておけ、溶けたら生き返る仕掛けだろう。ナイトリーダーは?」
「この一部部隊の暴挙を知り、事態を収拾すべく現地に向かったのですが…」

>>634

 ×     ×

「婿殿、真に相済まぬ事になった。
こちらで預かっていながら学園内でこの様な事を」

「義父様、その様な。
このかも又、自らこちらの世界に関わる事を決めたもの。
無事であるならば、この世界に関わる以上こういう事がある、
それも又一つの経験です」

「うむ、そう言っていただけるなら有り難い。
そういう事じゃ。問題なのは今後の事。
もちろん、これだけの事件を放置する訳にはいくまい。
「魔法」全体の威信にも大きく関わって来る」

「やむを得ません。こちらが望まずとも、「魔法」が十字教に侮られる事となれば、
その事で又無用の被害が生じるのも事実」
「そういう事じゃ。だが、事はあくまで慎重に運ばねばならぬ。
事、このかの事に就いては、こちらの不手際で父である婿殿に申すは辛い所だが」
「無論、承知しております」

「うむ、決して軽挙妄動に繋がる事の無き様に、慎重に運んでもらいたい。
こちらでも全力で事に当たっている所じゃ」
「はい。こちらもその様に」

関西呪術協会の一室で、近衛詠春はホットラインの電話を切る。
そして、傍らの石の置物を見る。
普段は、鏡の様に磨かれた断面を観賞するものである。

>>635

 ×     ×

「放さんかいダァアホォォォォォッッッッッ!!!」

関西呪術協会地下牢の一角で、大群に押し包まれた真ん中から女の絶叫が響き渡る。

「何やあっ!?自分ら看守やのうて直属の特別術師部隊やないかいっ!?
おどれらこないな所で何ぼやぼやしてる!?さっさと戦支度整えんかいっ!!!」
「黙れっ!受刑中の身で何を騒いでいるかっ!!」
「軽挙妄動は慎むべしとのお達しなるぞっ!!!」

「じゃかぁしぃこんの腰抜け共があっ!!
近衛の姫に刃ぁ向けられたんや、これは西の東のの話やない、
日本の呪術勢力腐れ魔法勢力も含めた日の本全部に唾吐きよった!!
これが宣戦布告やなくて何や、
今こそ我が血書したる檄文をっ、日の本の術者ならば必ず決起する筈やっ!!!」

「やむを得ん」
「意識を落とせっ!」
「やめんかいっ、今こそ、今こそ国を挙げ攘夷のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………」

 ×     ×

石の鏡に映し出されていた映像を消し、近衛詠春はふうっと息を吐く。

「長、青山家、到着しました」
「うむ。これ以上この様な者が出ぬ様に、現時点での情報管理は厳重に。
特に、この事は先に告げた面々のみに限定して」
「承知」

>>636

 ×     ×

「たった今の戦いの上にこちらの事だけでも手一杯の状況で申し訳ないが、
君の方からも接触をして欲しい。
特に西の方で暴発する様な事の無き様に情報収集としかるべき根回しを」
「承知いたしました」

近衛近右衛門学園長の指示を受け、葛葉刀子が一礼して学園長室を出る。

 ×     ×

(あの馬鹿共の居場所は未だ把握出来ない)
(ああ、忙しい忙しい)
(こちらにも譲れない一線はある。
だからと言って、今行うべきではない軽挙妄動と言うものがある)

(私の方から話がつくのはあの人とあの人と…)
(ここのトップは老獪だが無用な争いは好まぬとも聞く)
(学園側の被害状況、それから)
(最悪、味方を売る形となるが、先に先方と胸襟を開き交渉して
今の開戦は本意にあらずと…)

「ったぁー………」

気が付いた時、書類の山を抱えて校舎から校舎へと駆け回っていた葛葉刀子は
弾き飛ばされ尻餅をついていた。

「ごめんなさい」
「これは、失礼した」

刀子は、衝突した男性と共にばらまかれた書類を拾い集める。
既に綴じ込み済みであったため、さ程悲惨な事にはならなかった。

>>637

「ごめんなさい」
「いや、こちらこそ」

互いに礼を交わし、そこで改めて刀子は思考を働かせる。
そもそも、いかに慌ただしい状況とは言え、刀子は仮にも神鳴流の達人剣士。
そうそう隙があって我が身を危うくする事などあるものではない。

そして、目の前の男性。
確かに国際色豊かな麻帆良学園都市であるが、
西洋人の男性が街中でもない場所を夜間にうろついている。
壮年の男性で、目に見えるマッチョではないのがむしろ見事な鍛え方。
刀子の身に残る記憶からも、見せびらかす無駄さとは無縁な鋼の鍛え方をしている筈だ。

ナイトの礼と剣、その双方を十二分に兼ね備えている、
達人葛葉刀子はその事を見て取る事が出来る。

「こ、これは、大変失礼した。何れ又」

刀子が考えをまとめて行動する寸前、男はその場をとてつもない速度で立ち去っていた。
ほんの少し後、彼の姿は途中で通りかかっていた商店街の店先に存在していた。

「夜分遅く誠に失礼する。
この花を一輪、購入したい。それから、出来合でいい。
タキシードを一丁用意できる店を教えて欲しい」

 ×     ×

バッキンガム宮殿庭園

「と、言う訳で、
麻帆良学園都市からシャッターの修理代、
夜間開店手当を含む請求書が送られて来たのですが…」

「だ、駄目だこいつら、早く何とかしないとだし…」
「あー、久々にカーテナの実戦調整でも行わないとなぁー」

>>638

 ×     ×

科学の学園都市レベル5超能力者第七位、削板軍覇は、
とあるコンテナ置き場の地面にどうと大の字に倒れ込み、夜空を仰いで高笑いしていた。

「か弱い幼女を連れ去るチャイニーズ・マフィアの手先にしては
なかなか根性あるなお前」
「ニャハハハハ、やっぱりそういう事になってたアルか」

麻帆良学園中国武術研究会部長古菲は、
とあるコンテナ置き場の地面にどうと大の字に倒れ込み、夜空を仰いで高笑いしていた。

 ×     ×

長瀬楓は、緑地帯の中を一周して元の場所に戻ってきていた。
なぜそれが分かるのかと言えば、目印があるからだ。
木の幹に鎖鎌が突き刺さり、手裏剣やら何やらもバラまかれている。

楓はコメカミに汗を浮かべる。

「そこもとも、伊賀者でござるかな?
この娘ごが尋ねて参った。拙者であれば誰それの居場所を存じておろうと」

楓が、近くで頭にヒヨコを回転させて伸びている少女を一瞥する。
その顔立ちや装いはややケバい方面にきつめとも言えるが、
それでも素の所はあどけないものが見て取れる。

ギャルっぽさを混ぜ込んだ髪色や、浴衣と言う事が迷われる程に改造された、
それでもやけに高価な布地の太股サイズのコスプレ浴衣なども可愛いものであるが、
そのあどけなさとは裏腹のけしからぬサイズがばいーんと半ばこぼれている辺り、
着崩す事をその目的としたデザインのコスプレ浴衣とそれを選んだセンスの面目躍如と言った所だ。

「それを問うて、答えると思うか甲賀者」
「何の事でござるかな?」

ようやく返って来た男の声、楓はその出所を探ろうとするが、
その前に気配が別の場所を感知する。背筋が冷たくなる程に細い気配。
最初の尾行者、こちらもそれなりに歯応えがあったが、
噛み合わない押し問答に相手がじれた結果こうしてぶちのめした後、
僅かに感じた違和感を振り切ろうと緑地帯を堂々巡りして、
ようやく妄想ではなく実在している事を確信出来た。それ程に頼りない気配の相手。

>>639

「いつまで隠れん坊を続けるつもりでござるかな?
そろそろ、拙者の首を刈りに来るものと待っているのでござるが」
「なれば、尚の事それは出来ないな、
お前と正面から殴り合って勝てる自信など全くない」

「つまり、不意打ちであれば首を掻く事が出来る。
本来の在り方でござるな」
「理解しているらしいな」

「あらゆる条件に適応する、言い訳など不要でござるが、
その意味で拙者はこの身が少々不利でござる。
そこもとは見事に害虫となり雑草となり脇役となって、
確かに存在しながら特別な認知を妨げているでござる」

「光栄だ、お前の様な手練れからの最高の褒め言葉だよ」

楓は、全神経を研ぎ澄ませて居場所を探る。
本来、プロ同士の忍びと剣士であれば、
正面から斬り結べば忍びに多少のトリックがあっても剣士が勝つ。
その上で、今、影に潜んでいるのは忍びとしての勝ち方をよく知っている、
何のてらいもなくそれが出来る、正に影の様な気配を楓は感じていた。

楓は忍びとしても優秀である上に、優秀な忍びとして、
並以上の武術では手も足も出ない程の戦闘力を保持している。
だが、今回の相手は、忍びの本質に特化している。

まともな「戦闘」なら楓にそれなりの自信はあるが、
この溶け込み方をされると、そこに行き着くまでが危険過ぎる。
プロとプロが、闇の中で読み合いを続ける。

「害は、なさそうだな。
あれだけ存分に手加減したんだ、命に別状もないのだろう。
そちらにその気が無ければこちらに今どうこうする理由も無い。
失礼させてもらう」
「そうしてもらえるならば有り難いでござる」

楓は、本心ではふうっと安堵の息を漏らす。
そして、これが、か細い気配が消えた理由なのだろう。
バタバタと慌ただしい足音が駆け込んできた。

>>640

「…な…がせ…」
「千雨殿でござるか。すまない………」

一度開いた脚の両膝に掌を置いた千雨が、物も言わず駆け付けてきた。

「長瀬、あれだ、あれ出してくれあれっ!」
「あれ?」
「アーティファクトだよっ!!
早く出してくれ早くあれ出してあの中に私を隠してくれ
頼む早く私を隠して早く早く早くっ!!!」
「千雨殿」

荒い息を吐きながら縋り付く様に絶叫した千雨は、
落ち着いた呼びかけを聞いてそれをやめる。
楓は、相変わらずの糸目で穏やかにそんな千雨を見ていた。

「あ、ああ…」
「よく、頑張ったでござるな」

楓に声を掛けられ、千雨はその場にすとんと座り込んだ。
楓も、恐らく他のみんなも、
千雨が圧倒的に頼もしいヒーロー、そんなリーダーでは無い事ぐらい最初から知っている。
知っていても、それに値する、自分達なら仲間として補う事が出来る、
そう考えて付いて来ている筈だ。

「は、はは…いや悪いちょっと取り乱した。
ああ、そうだよな。先にやる事やらないとな。
情勢を把握だ、正直結構ヤバイ事になってるから見張りを頼む」
「承知した」

機材を確かめる千雨に楓が返答する。

「小太郎が撤収した。無茶苦茶強い超能力者から私達を逃がしてだ。
ああ、取り敢えず無事だったんだな、良かった。
結局の所、メールもまともに返って来てない。
撤収だ。今夜はもうどうにもならない。
長瀬、悪いがメインでやってもらうぞ。こっちで場所を指示するから回収に当たってくれ」

「承知したでござる」

>>641

 ×     ×

「ナメくさりよって!
絵ぇ描いたんは安倍のクソガキか?あいつらが共倒れでも策してる言うんかっ!?
手始めに血祭りに上げて攘夷の魁けとし、呪術社会、復興、の………」
「長、処置を終えました。第一次隔離に移します」

机上の石からの通信を切り、近衛詠春は椅子の背に体重を掛けて嘆息する。

「長、葛葉刀子氏より今後の…」

 ×     ×

「ねーちんもまぁ、久々に派手にやってくれたモンだにゃあ…ん?…」

何やらぶるると震えた土御門が携帯の通話ボタンを押す。

「もしもし…情報提供?…こっちの受け持ちだと思った?…それで…
同じ系列と見られるアンノウンによる事件が頻発?特徴は…

総合的に見てほぼ全員が中学生女子程度の年齢層。
その中には、目算で4以上に該当するスペックの能力使用者が複数。
但し、これまでの能力開発理論では説明が難しい能力を使っている疑いが…

…現状は…

直轄の暗部組織の内、少なくとも三つが直接交戦して、その内二つが実質的に機能停止した。

そう聞こえたんだが…」

「そう伝えた筈だけど」

今回はここまでです。続きは折を見て。

>>765

「このっ!」

食蜂に向けて真っ直ぐ飛んだ血反吐が、美琴の放った電撃球を受けて上に向けて爆ぜる。

「神鳴流奥義斬魔剣っ!」

飛び付いた刹那の一太刀と共に、おぞましい叫び声が確かに聞こえた気がした。

Dが後ろに倒れてとっさに美琴が支え、食蜂もすとんと膝を突いてそのまま突っ伏した。

細かくてすいませんが今回はここまでです。続きは折を見て。

普通に相手してたら気絶しないんじゃね?
まあ食蜂ならなんとか出来そうな気もするけど

………オイチョットマテコラ………

斬魔剣弐の太刀って、そんなに簡単に出せるものだったのか?

素子はあれで青山家直系の正統継承者だし
本作では強引に使わせたけど刹那は使えないって自分で言ってるし
刹那が言う通り宗家クラスなのか未来ではそっちのレシピまでアプリ流出でもしてるのか…

実際使ってるんだから使えるのはまあいいとして、
あの技は本来憑き物退治の技だから物理体に傷を付けずに魔のみを断つ
そのために存在している技であって
不死体は既に魔のカテゴリーに入るのか、
だとするとネギの雷体すらぶった斬るあの技で
刀身に反応しながら斬る事が出来ない宗家クラスの秘技ってそれも又意味が分からんし

こっちの作中で使って読んでが昨日の今日って感じなもんで、
これは我が原作読み二次書きとしての面子にも………

………もちろん冗談です。そんな大層な面子なんてありませんですよはい。
ちょっと話してみたかっただけなモンでして、
見当違いの事を口走ってたらこれもすいません。

感想どうもです。
本作に就いては、およそ>>769が正解です。

では、そろそろ投下行きます。

>>770

それでは今回の投下、入ります。

>>766

 ×     ×

「と、言う訳で、こっちで対処しますから大丈夫と言う事です。
と言うか殺さないで下さいっ」

第七学区常盤台中学学生寮近くのとある建物の屋上で、
桜咲刹那が使役する半自律型式神通称バカせつながぱたぱた手を振りながら言った。

「そうですか。そこまで仰るのなら。
御坂さんに刃を向けた、その時点で四肢寸断でも生ぬるい所ですが。
たまたま自分が見付けていなければどうなっていた事か」
「………」

 ×     ×

ドガシャーンと寮の大窓をぶっ壊して金色に輝きながら飛来する大きな塊を、
土御門元春は路上でがっしと受け止めた。

「土御門元春か」
「これはこれは、この世界でも最強のスナイパーにご記憶いただけるとは光栄だにゃー。
しかも、本来撃ち抜かれるまで気付かないところを、鬼神に迫った勇姿を拝見できるとは」
「たった今その勇姿とやらを永久に忘れさせてやってもいいんだが?」
「いやいやいやいや、ナイスキャッチの恩人に対する態度じゃないぜぃ」

ごりっと顎の下にデザートイーグルの銃口を押し付けられても、土御門のペースは変わらない。
取り敢えず体を鎮めた龍宮真名は、ふんと鼻を鳴らして着地し、携帯を取り出す。

「中の方は片はついた、まあ、無事と言う事らしい」
「そうか」

それを聞いた土御門の返答は小さく、真面目だった。

「………助けたのは桜咲刹那だ………」
「………そうか………」

呟き、土御門はサングラスの真ん中を中指で押す。

>>771

「礼を言っておいてくれ」
「おいっ!」

一言だけ告げて背を向けた土御門に、真名が珍しく荒い声を浴びせる。

「人質に取ろうとした、俺の動きを止めるためにだ」

足を止め、独り言の様に土御門は言った。

「それが何を意味するか、解らせなければならない。
あいつの筋目、待って欲しいと言うつもりはないが、
何としてでも解らせる。それだけは譲れない、絶対にだ」

本職がスナイパーでも、殴り合いで真名に勝てる者など滅多にいるものではない。
土御門も並の人間、プロから見ても弱い方ではないが、その例外に当てはまる程ではない。
力ずくで止めるか、土御門を。
真名に背を向けたままの土御門、その肩の少し上に、土御門の摘む折り鶴がつーっと浮いている。
はったりか、否か?
確実なのは、土御門の覚悟が確実だと言う事。

 ×     ×

「大丈夫ですか?」
「ええ。あなたは「本体」を直接叩く事が出来るのねぇ」

駆け寄った刹那に、食蜂が立ち上がりながら言った。

「正式に、ではありませんが。
今回は他に方法がありませんでしたので少し強引にやらせてもらいました。あなたは?」

「あの娘の脳に送られていた信号の内容とルートを解析して、
嫌いであろう信号を「本体」に逆流させたわぁ。
まあ、ヘタのついた甘くて酸っぱいパイにしても美味しい赤い玉だと言う事は理解できても
それが何であるかはよく分からない、と言うのが実際だったけどねぇ。
御坂さんも。「本体」に直接リンクして追い出したみたいだけどぉ」

「たまたまよ、狙って出来る訳じゃない。
精神と神経回路と電気と幽霊と、厳密に何が違うかなんて
本当は勉強すればする程分からなくなるんじゃないの?」
「ふふっ、その通りよぉ」

>>772

その時、壊された窓にガチッと熊手が引っ掛かり、ぐいっと何度か引っ張ってから、
熊手に結んだ縄を木乃香がするすると上って来た。

「どないしたんこれ?」
「話は後です。こちらの四人をお願いします」

言いながら、刹那は木乃香に囁く。

「完全治癒すると後々の話が面倒ですので、
脳に外傷が残らない様にそれだけお願いします」
「分かった。治れーっ!」

木乃香がひゅんひゅんと白扇を振るうと、確かに四人の顔色が良くなる。

(………再生能力者か何か?………)

美琴が首を傾げている間に、刹那と木乃香はささっと近くで開いたドアに姿を隠す。

「何の騒ぎだっ!?これは…」

ようやくドカドカと姿を現した寮監の前に、食蜂が進み出て一礼した。

「敢えてレベル5第五位、学園最高の精神系能力者の名をもって申し上げます。
御坂さんと共に、一方的な攻撃に対する正当防衛で被害を拡大しないためにやむを得ず制圧しましたが、
何かの弾みによる集団ヒステリーの一種と思われます。

無論、名門常盤台の秩序は重々理解しておりますが、
思春期における高度の能力開発中の一時的に不安定な精神状態によるものとして、
どうかご配慮の程をお願いいたします」

「それにしては、先ほど妙な者が乱入して来たが?」
「こちらの異常を察して窓から飛び込んで来てくれた通りすがりの能力者みたいです」
「分かった。無論無罪放免とはいかないが心に留め置こう」
「お心遣い、感謝致します」
「有り難うございます」

食蜂に並んで美琴が頭を下げる。

「医務室に運んでやれ。話はそれからだ」
「分かりました」

>>773

そして、この場を一旦立ち去る寮監と入れ違う様に、
美琴の電話を受けた白井黒子が姿を現す。

「お姉様っ!?」
「…人の心の弱味に付け込んでカルトに勧誘してる馬鹿野郎がいるわ。至急調べて」
「はいですのっ。彼女達が、なのですね」
「…ギリシャ系の占星術…」

食蜂が、ぽつりと言った。

「人の心を扱うものだから、一応の知識力は持ってるわぁ。
この娘達の頭の中に流れていた特殊なワードはギリシャ占星術に使われているものよぉ。
恐らく、不安定な女の子の占い好きに付け込んだのねぇ」
「とことんゲスね」

美琴がぎりっと歯がみする。
普段は食蜂の事もゲスだと思っている美琴だが、これは許しておけない。

「それも、最近の事の筈よぉ。
御坂さん一人がそうなるなら話は別だけど、
常盤台の中にそんなものが侵入したなら、遅くとも一週間以内には私の耳に届くわぁ。
まして、例え一人でも私の派閥のメンバーに関わるなら、三日と掛からない…」

静かに歩き出した食蜂はぽつりと呟く。

「一日だって許し難い恥」

食蜂が先ほど自分と対峙していた少女の前に片膝を突き、静かに前髪を撫でた。

「…あ…女王…」
「あらぁ、今朝はアレが重くて欠席する、と伺ってたけどぉ」
「あ…そうでした…申し訳ございません女王…」
「いいのよぉ、あちらで、二人でゆっくりお話ししましょう」
「はい…」

その食蜂の口調が普段通りであるからこそ、
美琴は血の凍る様な恐怖を覚えていた。

>>774

 ×     ×

隠れた部屋の窓から木乃香と共に脱出した刹那は、
撮影した部屋の様子を携帯で心当たりに送信する。
すると、すぐに返信が来た。
相手は佐倉愛衣だった。

正規の魔法生徒、学園警備として仕事をしている愛衣と刹那はそれなりに付き合いがある。
癖のない性格の愛衣と生真面目な刹那は互いに悪くないタイプであり、
丁度西洋と東洋で知識的に逆を向いている。
夕映なら最も高い精度の答えを得られそうだったが、
愛衣も西洋魔術の理論に関しては相応以上の実力者だ。

「もしもし」
「もしもし、桜咲さん、今どこにいるんですか?
もしかして科学の学園都市ですかっ!?」
「え、ええ…」

「お尋ねの件ですけど、これはゴエティア系の日本で言う召還魔術を占いグッズに偽装したものですね。
誰がこんなふざけた事をしたんですか?
中身は非常に危険なものです。素人が使っていい内容じゃない、
こんな偽装から推察される客層で扱ったら大変な事になりますっ!」

そう言う愛衣の声は、本気で憤っていた。

「その事も聞きたいのですが、至急こちらに来て下さい。
科学の学園都市内で魔力を感じました。
パターンからして恐らく魔獣、それも非常に危険なものです。

しかも、魔獣で間違いないと思うんですがそれにしては何かがおかしい、
何と言うか感じられる波長に変なパターンが混ざっています。
とにかく、私もそちらに急行していますが、
魔獣狩りで頼りになる桜咲さんがいるなら一刻も早く合流して下さいお願いしますっ!」

「分かりました、場所を教えて下さい」

>>775

 ×     ×

「くっ!」

一人の少女が、横殴りの二刀小太刀を剣で受け取る。
その後も、五月雨の様に月詠の斬撃がその少女、浦上を襲い、
仲間の援護も楽々と牽制されて近寄る事が出来ない。
浦上達天草式十字凄教一般のレベルであれば、
天草式一人が一度に三人も四人も相手にしている様な塩梅だ。

「ざーんがーんけーんっ♪」

ズガァーンッと響く爆発と共に、浦上が近くの資材の山に叩き付けられる。

「浦上っ!」
「まだ、闘えます…」

教皇代理建宮斎字の叫びに、浦上はよろりと立ち上がる。

(…こりゃあ…想像を絶してるのよな…)

建宮のコメカミに嫌な汗が浮かぶ。
偽装霊装で辛うじて致命傷は避けている、と言うより、
月詠の方が明らかに遊んでいるのが悔しいが幸いだとは言え、
天草式の稼働率は既に半減を超えている。
今、無理に体を起こす浦上も、それが分かっているのだろう。

「!?……ひっ!!!…」

浦上が、ずるずると腰を抜かした。
立ち上がろうとした浦上は、その瞬間、目の前に白黒反転した様な歪んだ笑みを見て、
その頭の横を通って背後の資材にドカンと小太刀が突き刺さっていた。

「…あ…あああ…あ…」

建宮は、顔を押さえて嘆息したかった。
それなり以上の修羅場をくぐっている筈の天草式の実戦部隊のかなりの部分が、
これで一時的にでも戦闘不能になっていた。

振り返った月詠が、ガン、キン、ガン、と、突き立てられる槍の柄を弾き飛ばしながら移動する。
月詠がざざざっと場所を変えた時には、
海軍用船上槍を構えた五和が牛深、香焼、野母崎、諫早を従える形で鶴翼に構えを取っていた。

>>776

「ぐふうっ!」

陣が変形し、月詠が取り囲まれる。
斬撃の応酬の果てに、無傷の月詠が牛深を蹴り飛ばす。
それでも攻撃はやまない。

(…ユニット攻撃に徹して…力押しでも破れはします、が…)

この程度の相手の僅かな隙を見付けるのは月詠には容易い事だった。
ダンッと後ろに跳躍して丸で針の穴を抜ける様に囲みを突破すると、
ダンッ、と、爆発的な前進で再突入して見せる。

「くっ!」

ガガガガンと小太刀の連打を浴びせられ、五和が防戦一方で陣から押し出される。
他の面々が慌ててそれを追い掛け、陣を組み直す。

「ロンギヌス」
「!?」

月詠の呟きに五和が反応する。

「結局は耶○、うちらは退治のプロ、大概の対処法は知ってますわ。
○蘇のロンギヌスになぞらえた、あんたさんが陣立ての旗頭」
「くっ!」

ぶうんと振られた槍が空振りし、小柄な月詠の爪先がとん、と、その穂先に乗り着地する。
一度引かれた槍先が月詠の残像を貫く。
五和が振り返ったその瞬間、月詠が放ったスーパーかぱ君が五和の胸元で爆発し、
五和が目を見開いた時には、ざざっと間合いを詰めた月詠が
五和の皮膚に触れる僅か手前の所で一寸刻み五分試しに小太刀を鋭く振るっていた。

「はい神鳴流奥義斬岩けーんっ烈蹴斬ぁーんっ♪」

五和がはっと左右を見たその先で、
香焼、野母崎、諫早が吹き飛びずしゃあっと叩き付けられてがくっと倒れ込む。

>>777

「あ、ああ…」
「ご協力おおきにぃ♪」
「あああぁーーーーーっっっっっ!!!」
「あはっ♪」

端から見ると、猛烈な勢いで突き出され、振り回される槍の先に月詠が現れては消えている。

「そこお、っ!…」

穂先は、月詠の残像を貫き、材木の山に深々と突き刺さる。

「ごふっ!」

そして、月詠の肘が五和の水月を直撃し、五和が吹き飛ばされる。

「あ、はい、はい、はい、はいっ!」

ぱんぱんぱんぱーんと炸裂する月詠の蹴りの中心で五和の体が空中静止する。

「はい、お疲れさん。
ほな隠れ耶○のロンギヌスに相応しく、でもトドメの槍は勘弁して差し上げますわ」

月詠の放った札が爆発し、
三体の一反木綿が五和の全身を当分生存に支障無き程度にギリギリ締め付ける。
後ろ手に縛られてギチギチに締め付けられた胴体をぐいっと反らされ、
両脚が上向く様に浮遊する。

「………う………あああああっ!!」
「ふんっ」

震える全身を叱咤し、斬り込んで来た浦上が同時に動いた対馬と共に
小太刀の一振りに吹き飛ばされる。
その間に、五和の体が爆発に包まれ、どさっと地面に着地する。

「………あ………ぐ………」
「もう無理だ、休んでろ………テメェ、いい加減にするのよな………」

地面で全身を軋ませる五和に上着が投げ付けられる。
ゾクゾクする様な殺気に当てられ、月詠はにいっと笑みを浮かべた。

今回はここまでです。続きは折を見て。

>>809

「こっちこっちぃーっ!!」

フレンダの叫び声に従い、愛衣は吹き抜けの真ん中を通る橋を渡り始めた。
既にフレンダは橋の向こう側、大凡の面々も向こう側に到着したか到着する所だ。

「来たあぁぁ…早く、早くうっ!!!」

通路から吹き抜けのフロアに、
煙を上げながらもずざざざざと怒り狂った勢いでヒュドラが追跡して来る。
対して、愛衣はふらりと足を止める。
実際疲れていたのもあるが、ふと周囲を見る。

「…吹き抜け?…」

橋の鉄柵から下を見ると、橋の下は少なくとも五階建てぐらいの高さはありそうだ。

(…どうして…こんな危険なルート…)
「わああああっ!!!」
「急いで下さいっ!!」

フレンダが悲鳴を上げ、刹那が叫ぶ中、ヒュドラが橋を渡り始めた。

今回はここまでです。続きは折を見て。

神裂さん相手にボロカスに負けるのは、雷天ネギより速く動けて、思考も伴ってる聖人相手だから仕方ないけど、刹那が弱体化し過ぎな印象。
弍の太刀は本家じゃないから使ってないだけだし、白き翼だと2・3番目に強いのに……


麦野が随分と面倒見が良いな
浜面に懐柔される前までは足引っ張る商売敵とかその場で頭吹っ飛ばしてもおかしくないような性格だった気がするんだけど…
明らかに「闇」の匂いなんてしそうも無い刹那を裏稼業だとか断定してるし、何か事情があったりするんかね

感想どうもです。

>>813
強さって言うよりは中途半端に強い、条件が悪いでやり難いって状態ですね。

常盤台では「本体」にコントロールされてる状態で打撃を与えても気絶しない。
元が常盤台生で「本体」にリミッター切られてるから中途半端に強い。
しかも、その無理な出力アップと科学と魔術の拒絶反応で肉体が危ないから決着を急ぐ。
肉体的に損傷するダメージを与える事が道義的に出来ないって言う状態で。

ヒュドラは下手に斬ったら増殖してもっと強くなるって剣使いと相性の悪い相手だし、
屋内戦でアイテムも側にいるから迂闊な爆砕技も使えない。
ミンチにしたら勝てるかも知れないけど、再生とかの勝手もよく分からない。
確実な方法は神話通りの焼く事しか分からないって感じで。

確かに、もう少し上手くやれるかも、とも思うけど、一応理屈としてはこんな所で。

>>814
刹那の場合、仕事に関しては「表」とも言い難いですからね。
ネギま!の「裏」の定義もちょっとなんですけど、自分でも裏って言ってたと思うし。
エヴァも「昔のお前は」とか言ってて、
仕事モードに入ったら小太郎が惚れ惚れするのが刹那だし。
麦野は学園都市の常識でものを考えているから、
あの状況で二人ぐらいで対処に駆け付ける実力部隊って言ったら表とは考えない訳で。

麦野は姐御お嬢とターミネーターと、どんな配合のパーソナリティか
垣根前と垣根後、旧約と新約での変化過程もあると思うけど、
暗部で実力部隊を率いて最終的には生き残ってるだけの標準以上の器量と頭脳はあるでしょう。

この段階で麦野がどれぐらい情が深いかってのもあるけど、
今の段階だと利害が一致してるってのが大きいかと。

麦野から見ても意味不明に近い状況で初対面からヒュドラを斬って拘束するぐらいには強い訳だし、
取り敢えず退去警告は受けても直接敵対してた訳でもない。
途中で多少トチッてもヒュドラと刹那・愛衣の二面攻撃受けるよりはマシと言う事では。
性格的にも悪いサイクルに入らなければ、利害が合う内はそれなりの度量はありそう。

>>815

それでは、時刻もよろしい頃合ですか。
今回の投下、入ります。

>>810

 ×     ×

「メイプル・ネイプル・アラモード…」
「わああああっ!!」

フレンダの悲鳴の中、跳躍した愛衣が、
ヒュドラの胴体から伸びる大蛇の群れに絡む様に大きな火球を投げ付けた。

「あ、あ、あ…」

フレンダが愕然としてそれを見ている。
その間に、愛衣は着地して座り込み、左手で箒を握ってすっと床に右手を差し伸べる。
愛衣が僅かな熱伝導を読み取って小さく頷き、その形のいい唇に薄い笑みが浮かんだ。
ぼっ、ぼっ、と愛衣の周囲に火球が浮かび、それが一斉に飛び上がり放物線を描いて落下する。
次の瞬間、橋は大量のブロックへと変貌し、下の階層の橋を巻き込みながら落下した。

「佐倉さんっ!!」

鉄柵から身を乗り出す様な刹那の叫び声の後、
闇の中の下層のフロアからぼっ、と一度炎が点灯し、刹那ははあっと座り込む。
愛衣は愛衣で、命を繋いだ箒を左手に握ったまま、
壁に背を預けてずるずると座り込んでいた。

>>816

 ×     ×

「マジかよ…」

吹き抜けの最下層で、麦野が舌打ちした。
そこには、下の階を巻き込みながら落下した橋の残骸が積み重なり、
そこで潰された肉の塊もそこここに見える。
それと共に大量の血痕も残されていたのだが、
その血痕はずるずると移動の痕跡を示しており、それが途中で途切れていた。

「あれでまだ生きてるって、超下等生物なのか、それとも…」
「文字通りの化け物か、ってかぁ」

絹旗の言葉に麦野が苦い口調で言う。
そこで、麦野が携帯を手にする。

「もしもし…フレンダ?」
「ば、ば、爆弾っ!」
「あ?」

「爆弾、仕掛けられてるっ!!
全部は見てないけど、多分建物ごと潰す気っ、
結局、私から見たら稚拙極まるけど、
それでも私がやろうとした配置に酷似してる訳だからっ!!」

「クソがあっ!!」
「えーと、分かるかな、今から合図するからその方向に走ってっ!!
結局どこまで仕掛けてるか分からないし撤去し切れないから一直線だけやっといたって訳!」
「分かったっ!!」

その時、通路の一つの奥から爆発音が聞こえた。

「出るぞっ!!」

>>817

 ×     ×

研究所外の荒れた空き地で、一同荒い息を吐いていた。
その直後、ズズ、ン、と研究所が崩壊して見る見る瓦礫の山と化して沈んでいく。
ヒュドラが橋と共に落下した先も地下三階だった。

バッと立ち上がった絹旗が大の字に体を広げ、カカカカンと銃弾が弾ける。
空き地に突っ込んで来て窓から細い煙を上げていたバンが原子崩しを受けて爆発する。
それでも、キキキッと数台の車が突入して来て突撃銃を手にした迷彩服が続々と降車する。

「神鳴流秘剣・百花繚乱っ!!」

麦野が原子崩しを連射している側では、刹那も夕凪から強烈な気の衝撃波を放つ。

「ひゅうっ」

麦野が口笛を吹く。刹那の放った一撃が一直線に断ち割った敵陣のラインを、
刹那と愛衣が突っ走り妨げる者をなぎ倒して出口に向かう。
元々、銃弾ぐらいは何とかするスキルを持ってもいるらしい。

「ふんっ、こっちはそんな器用じゃないんだにゃー。
だ、か、ら、
ブチコロシ確定だあっ!!!」

乱戦の中、更にもう一台のワゴン車がクラクションを鳴らして突っ込んで来た。
それも、防弾車らしい。
クラクションが自分達の符丁の緊急信号であると気付き、
急停車した車にアイテムの面々が乗り込む。

「おらあっ!!」

帰り際、半ば箱乗りした麦野がシリコンバーンで迷彩服を一掃する。

>>818

 ×     ×

「ったくよぉ、小賢しく欲かいて先回りなんてするモンじゃねぇぜ」

幾つか車を乗り換え、研究所からかなり離れた場所で、
麦野は下部組織の運転手と分かれて嘆息した。

「ん?」

その時、麦野がすかっと身を交わす。
本を読みながらトテテと小走りして来た人物が、どてんとその場に転倒した。

「Sorry!」

被っている白いフードが邪魔だが、声や体格からして中学生ぐらいの少女らしい。

「ぺらぺらぺらぺらコンニチワぺらぺらぺらぺらコンバンワぺらぺらぺらぺらオハヨウゴザイマス
ぺらぺらぺらぺらぺらゴキゲンヨウぺらぺらぺらぺらアナタノオナマエナンデスカ
ぺらぺらぺらぺらオバンデスぺらぺらぺらぺらぺらゴメンクダサイぺらぺらぺらぺらシツレイシマス」

ぺらぺらぺらぺらまくし立て、ぺこりと頭を下げてアイテムの面々からトテテと遠ざかる。

そこで、絹旗が自分の携帯を差し出した。

「で、辞世の句でも聞かせてくれるのかにゃー?」
「Sorry あなた方に回収されるなら大丈夫と思ってた」
「私達にあの化け物をどうしろってんだ?」

「That’s
それが分かっているからよ。
前にも言ったわ、少なくともオカルト狂いしたマッドサイエンティストに任せるよりはマシだと。
欲得ずくの現実的な選択肢として、あれを外に放ってどうこうすると言うものは存在しない筈」

>>819

「なんなんだよアレは?」

「Hmm
私自身が直接関わっている訳じゃないから正確なところは分からないわ。
研究所の現場研究と情報を掌握したカルト団体が一歩出し抜いて
目的の物を作り上げて現物を持ち出したみたい」

「カルトだと?」

「ええ。統括理事会、オービット・ポータル、研究所、カルト宗教。
それぞれがそれぞれの思惑と名目で騙し合いながら作り上げた
クローン或いはキメラ或いは生物兵器。結局の所はバイオテクノロジーが作り出したモンスター。
自分が作っている、作らせているものはそれぞれがそう見ていたと言う事。
その中で、最終的にカルトが出し抜いた」

「そんな事が出来るのかよ」
「Probably
だけど、資金の流れその他を考えると、
オービット・ポータルの側、それも上の方とカルト団体が一体である、
そう考えるのが自然だわ」
「で、あの化け物の弱点なんかは分かってるのか?」

「情報は錯綜してる。
Repeat
元々、私が直接関わってた研究ではないわ。
聞こえて来ている情報では、
データから見ても異常な進化を遂げていて、最早元の知識は参考にもならない。
それに、もうあなた達の領域ではないわ」

「なんだと?」

>>820

「統括理事会が腰を上げたと言う事よ。
主要な部分は逃走した研究者の独断に近い状態だったけど、
関係者からの情報収集、小型核爆弾レヴェルの広範囲高熱爆弾の使用も検討されてる。
Already
事前の回収に失敗した時点で、あなた達のレベルでもう出来る事は無い」

「くっ、くくく」
「Something?」
「人にケツ回しとしてナメてんじゃねぇぞ負け犬。
こっちも鉄砲玉向けられてはいそうですかって話じゃねぇんだ。
この街の闇を巻き込んだんだ。精々首洗って待ってろ」

麦野が携帯を切る。

「で、さっきのガキ、
英語に中国語に日本語のチャンポン、けど、
適当の様でいて無意識の法則性があって
そこから外れた不自然なものが隠せてないってのが所詮二流よ。

サイコメトラー、あれがチャンネルを繋ぐキーワードってとこか。
はぁーい、聞いてるー?原書とか読んでるインテリお嬢様で驚いたかにゃーん?
つー訳で…」

元々近くまで合流していて、
空中から追跡していた愛衣と刹那に携帯で呼び出されていた宮崎のどかが、
物陰で本からそーっと視線を上げてだーっと顔に汗を垂れ流す。
その先では、結構インテリなお嬢様が実にいい笑顔を浮かべて
周囲にぼっぼっと光球を浮かべている。

「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

>>821

 ×     ×

「ああっ、あっ、あっ、あぁーっ!!!」

バッグを抱え、きょろきょろと周囲を伺っていた男が逃走し、
その内に路地裏に追い詰められる。
そこに、ざざざっとどこからともなく特殊部隊もどきの黒ずくめが殺到する。

「ま、待ってくれ、お、俺は関係ない、関係ないんだ、あああーっ!!!」

その側で、携帯電話を使う男が一人。

「書類がテーブルに?ああ、それ今日じゃなくても大丈夫だから。
ついでに…ああ、分かった、急がないなら買って帰るわ。
じゃあ、今日は遅くなるから。帰って来るまで起きてるって?上手く言っといてくれや。
じゃあな」

電話が切られる。

「あーあーあーあー、
班を三つに分ける。
一つは引き続き関係者の捜索、一つはブツっつーかアレの回収
後一つは、押さえるぞ」

ついっと天に視線を走らせ、大雑把な指示が終わる。

>>822

 ×     ×

建物の角に向けて原子崩しを撃ち込んだ麦野がそちらに走る。

「護衛がついてたって事か?
それとも、あのガキにそんだけの腕っ節があったって事か」

アイテムの面々が追い付いた先で麦野が言う。
逃走ルートと思しき路地裏には、
将来の佐天さんのお知り合い候補が1ダースほど転がってるだけだった。

「餌ぶら下げてやりゃあ尻尾でも掴めると思ったんだけどなぁ」
「超すばしっこいですね。もしかしたらさっきの二人組」
「かもな。どうだ滝壺?」

麦野の言葉に、滝壺が首を横に振る。

「昨日からみょーな事ばっかりだ。
低く見ても強能力者レベルの連中が動いてるってのになぁ」

ぶつぶつ言いながら、麦野は路地裏から通りに出る。

「どっちにしろ、ヒュドラじゃねぇが
私らのケツ狙って来るってんなら頭潰してやんねぇとなぁ。

私らが勝手に巻き込まれたって言っても、
あんだけ噛み付いてくれたんだ、飼い主さんにはきっちり挨拶してやるさ。

ヒュドラだけじゃねぇ、ヒュドラは多分尻尾の欠片。
頭はどこにある?あるとすりゃあ。
得体の知れないイレギュラー共もそれが目当てなんだとしたら…
行くぞ」

「どこに?」

尋ねるフレンダの視線の先で、
麦野の視線は天を向いていた。

今回はここまでです。続きは折を見て。

感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。

>>823

 ×     ×

どっちかと言うと、作者自身が忘れそうなので
一度確かめておく。
現時点に於ける千雨チームの面子。

相坂さよ 明石裕奈 朝倉和美 綾瀬夕映
和泉亜子 大河内アキラ 古菲 早乙女ハルナ
佐々木まき絵 長瀬楓 長谷川千雨 村上夏美

では、以下本編。

科学の学園都市工事用地下道。
歩いているのは長瀬楓、長谷川千雨、村上夏美、綾瀬夕映、明石裕奈。
後の面々は「天狗之隠蓑」に潜伏している。

「変わってなきゃいいんだがなぁ」

ノーパソ化した「力の王笏」を手に千雨が言う。

「最新のデータなんでしょ?」

裕奈が言う。

「多分な。集められるだけのデータを真偽も含めて解析して、
なんとかエンデュミオンに潜り込めそうなルートがこのルートって事になるんだけど」

そこで、夕映が携帯を取り出す。
画面を見た夕映が携帯を掛ける。

「もしもし、詳細を千雨さんに回して下さい、可能な限り迅速かつ詳細にです」
「どうした?」
「のどかからの報せです」

尋ねた千雨が自分のノーパソを見る。

>>827

「本屋ちゃん、刹那さん達についてるんだよね」
「想像以上にまずい状況です」

夕映が苦い顔で言う。

「なんだ、こりゃ?」

届いたメールを見て、千雨も息を呑む。

「テロです。科学の学園都市内で、魔術カルトによるテロが続発してるです」
「テロぉ?」

夕映の物騒な言葉を裕奈が聞き返した。

「ええ、そうです。
何かカルト的なグループが魔術を使ったテロを頻発させています。
実行犯は科学の学園都市側の人間。
科学の高みに近づく時、人は往々にして非科学の誘惑を受ける。
過去幾度も繰り返されて来た事です」
「それって、本物の魔術の事なの?」

夏美の問いに夕映が頷く。

「常盤台だけなら催眠術とも解釈できますが、
ヒュドラまで持ち出しているのですから」
「ヒュドラって、ギリシャ神話でヘラクレスと闘ったあの大蛇の事?」
「その通りです」

夏美の言葉を夕映が肯定する。

「なんでそんなモンが科学の学園都市に…」
「召還した者がいると言う事です、こんな所に」

千雨の言葉に、夕映が応じた。

>>828

「術式の特徴からして、カルトの黒幕はレディリー・タングルロード、それ以外に考えられません。
ヒュドラの召還に使われた核となる生物は科学の学園都市のバイオテクノロジーによって生み出されたもの。
そこに、魔獣の召還術式を融合させたハイブリッド・モンスター」
「は、はは、なんかそんな映画あったんじゃない?」

夕映の説明に、裕奈が乾いた笑いを浮かべた。

「ああー、こりゃあその手の映画そのものの筋書きだな」

ノーパソに目を通していた千雨が言った。

「この街の最高権力である統括理事会の承認の下でクローン関係のヤバイ研究やらせてて、
研究所の現場を裏で操っていたカルトがそこに乗じて
もっとヤバイものを創り上げた挙げ句にブツを持ち出した。こういう筋書きだ」

「のどかが読んだ内容やその他の情報から推察するに、大凡そんな所でしょうね。
カルトの黒幕はレディリー・タングルロードで確定。
そして、研究所のスポンサーはオービット・ポータル。
利用するつもりが利用されての堂々巡りです。どうでしょうか?」
「そうですねー」

夕映の問いに、千雨のノーパソを通して葉加瀬聡美の声が答えた。
聡美は麻帆良学園警備の調査を警戒して、
麻帆良にいながら学園祭の陰謀の遺物と言うべき隠れアジトに待機していた。

「オービット・ポータルは、
科学の学園都市の中でも極めて高い水準の技術力を有する企業。
専門である宇宙開発以外にも各分野の研究開発や軍需関係に強い影響力を持っています。
あの街の統括理事会がそこまで抜けているとは考え難い所もありますが…

出し抜かれたとしたならば、今頃あの街の闇が血眼で対処しているでしょうね。
科学の学園都市、その異常とも言える技術力と独立性を維持している、
私達の世界でもそう囁かれている裏の暴力装置の存在を」

「だとすると…これって、科学の学園都市の超能力者か?」

葉加瀬の言葉を聞いて、千雨が言う。

>>829

「ヒュドラの現場に強力なエスパーがいたって話だ。
そもそも、宮崎が持って来た情報もそいつからあの本で引っ張り出してる」
「どんなの?」

裕奈が尋ねる。

「女ばかりの四人のチーム。
ロケット弾を使うお洒落な金髪の女の子、一目で見るからにゆっさゆっさのたゆんたゆんのおかっぱ」

裕奈が顎に指を添えて考え込む。

「小柄な女の子、但し、やたら怪力でやたら頑丈、少なくともまともな人間業じゃない。
リーダーはもしかしたら十代、もしかしたら三十路でその間のどれか。
シーンによって言葉遣いがぶっ飛ぶ、空中からビームを出す、名前はムギノシズリ…」
「間違いないわ」

裕奈が言う。

「昨日、ファミレスで私達とドンパチやった連中。
流れ弾そいつらのテーブルに撃ち込んじゃってさ、
鬼の追い込み掛けられてアキラ怪我させちゃって」

「刹那さんは彼女達に就いて、
言動などから科学の学園都市でも裏側で特殊な任務を行っている人間と推定しているですね。
それでは暗殺を疑われても仕方がない状況です」
「だよね…それでアリサも助けられなかったし…」

「今言っててもしょうがない。
問題は、そんな連中が動いてるって事は、どっかでかち合う事になるかも知れないって事だ。
そいつら強いのか?」
「かなり強い」

裕奈が真面目な表情で言う。

>>830

「でしょうね。刹那さんもそう言っています。
ヒュドラ相手でも引けを取らなかった、
対立した軍隊レベルの武装集団を瞬時に、皆殺しにした。
戦いになったら容易な相手ではないと」

「うん。この面子で戦う事になったら本気で総力戦掛けないと危ないと思う」
「そんなモンとやり合わないのを祈るしか無いな」
「その、ヒュドラってどうなったの?」

夏美が尋ねる。

「行方不明です。刹那さんと佐倉さんが合流して対処しようとしましたが逃げられました」
「ちょっ、じゃあ捕まえないとっ!」

夏美が叫ぶ。

「ヒュドラって、大袈裟に言ってるんじゃなければ正真正銘の怪獣だよっ!
そんなのが街に逃げ出したら大変な事になるっ!!」
「それが狙いです」

夏美の言葉に夕映が続けた。

「レディリーが今、このタイミングで魔術テロを続発させると言う事は、
科学の学園都市と共に魔術サイドの目をそちらに向けるためと見るべきです。
ですから、ヒュドラの件は刹那さん達に任せるです。
ハイブリッドとは言っても相手は魔獣です。刹那さんであれば十分に信用できる。
まして、今の刹那さんのユニットであれば盤石の少数精鋭と言ってもいい」

「ああ、相手が魔物なら、あいつらならどうにでもなるだろ。
私らがそんなモン追い掛けて上の街を動き回ったら、最悪昨日の二の舞だ。
ムギノシズリと言い、超能力者とも散々トラブッた後だしな」

千雨の言葉に、夏美も頷いた。

>>830

「しっ」

楓が唇の前で指を立てる。
「孤独な黒子」の発動中ではあるが、
この科学の学園都市では絶対とは言えない事を千雨達は何度も経験している。
一同は、放置されたロッカーの陰に隠れて前方の十字路を伺う。

「ひっ!?」

誰かが引きつった声を上げる。
十字路を右から左に、一本の胴体から大量の首が伸びた大蛇が
体から煙を上げながらずざざざざっと移動していた。

「ハッハーッ!!おーいおいおい、
実験動物って、こんぐらいここの科学なら軽いってマジかぁーっ!?
これって完全に怪獣退治だよなーアレイスターよぉーっ。
どっか懐かしいテーマパークでヒーローショーでもやれってかぁーっ!?」

その大蛇の後を追って、
白衣に刺青のマッチングがなかなか斬新な男を中心に取り囲む様にしながら、
一見して特殊部隊と言う風体の小銃と火炎放射器を担いだ
黒ずくめの集団がドドドドドドと通り過ぎる。

>>832

 ×     ×

風紀委員第177支部。

「あ、御坂さん」
「何か分かった?アリサの事とか…」

訪れた美琴の問いに、初春が首を横に振った。

「さらわれたのは鳴護アリサ、それは間違いない筈なんですけど」
「アリサの件は、直接事件として認知されてはいないわ。
道路上で結構派手な事件にはなったみたいだけど、
その辺のアンチスキルの捜査も難航してる。

一方の当事者が黒鴉部隊と言う事で、なんのかんのと非協力的みたいね。
表向きは認可部隊と言えど治外法権って訳じゃないけど、
結局はバックとの政治の問題になるって事」

「…オービット・ポータル…」
「に、しても形振り構わな過ぎる。こんなやり方してたら、
遅くなっても無事で済むとは思えないんだけど」

美琴に説明しながら、固法も怪訝な顔をする。

「カルトの方は?」
「ギリシャ系の占い愛好会を偽装したカルトグループ。
厳密には越権になるけど、学生を食い物にしてる。
少しこちらでやらせて貰ったわ」
「有り難うございます」

美琴は頭を下げるが、それに対する固法美偉の表情はどこかうかないものだった。

>>832のアンカは>>831
では続き

>>833

 ×     ×

「………絶好調だな………」
「魔法を学ぶ者として、聞いてはならない名前を聞いた気がするですが…」
「今の、ヒュドラ?」
「見た目はそうですね」

千雨が呆れ返り、夏美の問いに夕映が頷く。
「なんつーか、あんまし心配するの馬鹿らしくなって来たって言うか、
さすがは科学の学園都市か?」

呆れる千雨の横で、夕映が思案している。

「これで済みますか?」
「何?」

「レディリーは形振り構っていません。その必要が皆無だからです。
だから、科学と魔術の混合技術、それも不完全なものを惜しげもなく投入して来ているです。
バレたらどうなるかとか、それによる科学と魔術の紛争など知った事ではない、
むしろ、今であればそれをやってくれる方が有り難い」
「今、そこで科学と魔術が衝突したらそれこそ思う壺か」

「その通りです。最悪、科学サイドが既存の魔術サイドのテロと考える、
その逆も又あり得る、そういう事です。
とにかく、莫大な資産と侮れない情報網、そして数百年の知識。
その全てを今夜一晩、その一瞬のためだけにつぎ込んで来ている相手です。
捨てるものが何もない、何しろ全てを捨てる事それ自体が目的なのですから」

夕映の指摘に、一同は改めてぞおっとした。

>>834

 ×     ×

ヒュドラを追跡した黒ずくめの集団は、地下道の三叉路に辿り着く。
それでも、全く迷う事無く、ヒュドラの逃走した方向へと進路を取る。

「!?」

次の瞬間、先行した黒ずくめ三人が三叉路へと吹っ飛ばされて戻って来た。

「んだぁ?…!?」

次の瞬間、バシーンと巨大な鞭が叩き付けられた様な音が辺りに響いた。

「ひ、ひ、ひっ!?」

黒ずくめが後ずさりするが、無言で立っている上司の姿に何かを取り戻す。
目の前に蠢いているのは、ミミズの化け物だった。
太さからして人の二人や三人縦に飲み込めそうな、
長さもそれに見合った正真正銘の化け物。

だが、化け物だろうが何だろうが、そんな下等生物を相手にした所で、
失敗しても死ぬだけの話だ。
それを思い出した黒ずくめがミミズの化け物に一斉射撃を開始する。

「あーあー、B2、こっちに合流しろ、少し人数が要る」
「了解、これより…はひゃっ?」
「ん?」

「ひゃっ?あひゃっ、ちょ、ちょっなにらめあはあああんっ」
「ちょっ、あんた何やっ、あっ、あっだめ何そこもんでやっ、
あああもまなああっらめらあぁぁぁぁ」
「何をして………ナンシー、ヴェーラ行動不能っ!!………
このぉ、ぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!……………」
「……………」

今回はここまでです。続きは折を見て。

>>925

今回はここまでです。

>>919
まず、確かに時系列は非常にヤバくなっていますが、
気休め程度の言い訳をしますと、
本作の現状は映画のあの当日の早朝から各チームの動きが始まっています。

そして、土御門ですが、
ニュアンスに誤差があるかも知れませんが
多分こんな所かなとそんな話を(だから作者の言う事じゃねーよ)
この際書いてみますかおよその流れでは

麻帆良サイド、特に千雨チームの思惑、行動が本格的にイミフ
ステイルの三弟子が麻帆良方面に喧嘩売りまくって情報収集が困難
その最中に本筋であるアリサに関わる陰謀も進行

ある程度千雨チームの事情にも通じてるらしい?
昔馴染みの刹那と接触してたけど、悠長にやってる余裕は無い。
経験のある退魔師の刹那なら、
流石に聖人様差し向けられて喧嘩する程バカじゃないだろう、諦めて喋ってくれる筈

バカでした
もっとバカが絡んで来ました
更に洒落にならない英雄な保護者まで出て来ました
魔法先生本隊の到着です
学園都市では千雨チームと暗部が武力衝突始めました
結果>>730

と言う訳で、後での二人の電話の内容からしても、別に神裂さんにカチ込み頼んだ訳ではありません。
木乃香への言葉は、まあ土御門は嘘つきでもそれが嘘とまでは言えないし、
土御門としてはあえてああ言う言い方をする必要があった、と、言う事で。

それでは続きは折を見て。

お久しぶりです。
それでは今回の投下、入ります。

>>926

 ×     ×

目を覚ました村上夏美が周囲を見回す。
どこか、よく分からない所に横たわっているらしい。
そして、「現実」を認識した。

割と広い空間に、見覚えのある石像がごろごろと転がっている。
それは、恐ろしく精巧なクラスメイト達の石像だった。
そこで、夏美は事情を把握する。
夢だったのだと。

世界を救って魔法世界から専門用語で言う所の旧世界、
現実世界に戻って来た、等と言うのは都合のいい夢で、
本当はあの時、ゲームオーバーを迎えていたのだ、

いや、自分だけこうしていると言う事は、これからその時を迎えるのだと。
ほら、来た、何故か副担任等と言う非常識な記憶が残っている悪魔の使いが。

「術が解けた様だね」

詰め襟姿の男の子、白髪だが一般的な尺度で言えば美少年と言ってもいいだろう。
村上夏美の知るフェイト・アーウェルンクスがつかつかと近づいてくる。

「わっ、わっわっ、わっ」

夏美はわたわたと逃げだそうとするが、腰が抜けてて上手くいかない。

「ここから外に逃げる事は出来ない。
出来るかも知れないけど、僕の知る生物学的常識に照らせば間違いなく命はないと思うね」

「は?え、えーっと、ちょっと待って、
フェイト、うん、フェイトで間違いないんだよね。
あっちの世界でネギ君とボコボコの殴り合いやってそれでえーっと、
私達の学校の副担任をしてる、で、いいんだったよね?」

>>932

「概ね正しい。である以上、呼び捨ては感心できない。」
「ああ、うん。フェイト君、フェイト先生、
この石像って、作り物、じゃないよね…
…まさか…又、何か悪の使命に目覚めて私達を石にする、とか?」

「僕は契約は誠実に果たす質だ、教師としてあの学校に雇われた上はそれを全うする。
失礼な事は言わないでもらおう」
「じゃあこれは何なのよっ!?」
「個人差だ」
「は?」
「色々やる事があるから時限式の解呪術式を掛けておいたが、
案外大雑把だったらしい」

「ん、んー?」
「はにゃ?」
「あれ?」
「ここは…」

声に気付いて夏美がそちらを見ると、
見慣れた面々が寄り集まって目を覚ましている所だった。

「あ、コタロー君?」
「なんや夏美姉ちゃんもいたんか?」
「どーしたの?」
「ああ、病院抜け出した所で不意打ち喰ろてもうた」
「あー、フェイト…」

言いかけた長谷川千雨臨時リーダーが、
カコーンと額にチョークを受けて後ろ向きにぶっ倒れる。

「あー長谷川、こいつ先生と言う契約を非常に気に入っているみたいだから」

一足先に目覚めた夏美が補足する。

「契約を果たすと言っているだけだ」
「ああそうかい、フェイト先生。
確か、私の記憶の最後は、
科学の学園都市の地下で空中に浮かんでいる大量の石の針だったんだけどな」

>>933

「それを聞く限り、君の脳細胞の機能は至って正常、異常は無いと言う事になる」
「で、ここはどこで、どうしてそんな真似をしたんだ?」
「麻帆良学園の教師として、
この切迫した状況下で生徒の、それも力だけは世界一つ救済した程に大規模な魔法軍団の
身勝手な軽挙妄動を看過できると思っているのかい?」

正論過ぎて一言も無かった。

「と、言う訳で、宇宙に来てもらった」
「は?」

はっと気付いた一同が、だっと広間の壁際に走る。
そして、ガラス壁から外を見ると、そこから見えるのは紛れもなく一面の星々。

「科学の学園都市での失敗の後、
麻帆良学園都市が秘かに改良、開発を続けていた宇宙旅客機だよ。
とにかく、麻帆良学園の立場では、この問題に就いて君達の勝手に動き回られては非常にまずい。

君達の場合、地の果てに飛ばしても無駄だと言う事を一番知っているのは僕だ。
それなら宇宙にでも連れて来るしかないだろう。
臨時の課外授業と言う事で暫く宇宙観察に付き合ってもらう」

色々おかしいが、それでいて辻褄が合いすぎて言葉が無いと言うのが実際だった。

「フェイト様」
「ん?」

そこに、たたたっと調が駆け寄って来る。

「コクピットからの伝言です。
計器にエラーが見られるため近くの宇宙構造物に一時避難の要請を行ったのですが先方からの返答が無いと」
「ちょっと待て、計器のエラーだと?」

調の言葉に千雨が聞き返す。

「はい。今の所運行に支障が生ずる程の事ではないのですが、
何しろ宇宙旅行中ですので万一に備えて一度着陸の上で整備を行うべきであると。
しかし、一番近くの、と、言うより現状において唯一の着陸地点となる宇宙構造物からは
こちらからの要請に対して一切の回答がありません」

>>934

「なるほど」

そう言って、フェイトは調に何やら耳打ちをする。
一度コクピットに向かった調が改めて戻って来てフェイトに何かを渡す。

「長谷川千雨」
「ん?」

フェイトが千雨に渡したのはUSBメモリだった。

「君のアーティファクトを使って、
ここのコクピットとリンクすると共に宇宙構造物の宇宙航空管制システムにもリンクして
当機が侵入する手筈を整えるがよい」
「は?」
「ここは宇宙だ、整備上の僅かな緩みも見逃せない、
間違いが当たりとなったその時は即ち逃れ様の無い死」

フェイトが淡々と言う事に、千雨はごくりと息を呑む。

「と、言う訳で、先方からの回答が無い以上、
こちらから勝手に先方の門を破らせてもらう。
本来違法な行為ではあるが、人命に関わる非常事態である以上はまことにもってやむを得ない」

「…一つ、聞いていいか?」
「何かな?」
「その、私らが不法侵入して着陸を目指す宇宙構造物とやらの名前は?」

「宇宙エレベーター「エンデュミオン」の中継ステーションだが何か?」
「…マジで言ってんのか?」
「課外授業を引率姿勢との安全を最優先とする
教師と言う仕事を至って真面目に遂行しているつもりだけどね」

「もう一度聞く、どういうつもりだ?」

「別にぶれるつもりも馴れ合うつもりもない。
そもそも僕が何のために存在して、
わざわざ僕が勝てる筈の殴り合いを一時停戦して不確かな筈の計画に委ねる事になったのか。
それを考えるなら、今現在における物事の優先順位も自ずと理解出来ると思っていたが。
至って個人的な妄執のダダに付き合わされるつもりはない、とね」

>>935

「元も子もない、か」

へっ、と、笑いながら、千雨はミニステッキをノーパソに変異させメモリを差し込む。

「千雨、さん」
「なんだ?茶々丸?」
「はい、絡操茶々丸、当機のパイロットでもあります」
「マジかよ…」

ノーパソのスピーカーから聞こえる声に千雨が嘆息する。

「こちらからも可能な限りバックアップします。
相手方との電脳戦に備えて、ハカセが百体余りの補助電脳を用意しました」
「分かった」

千雨が言い、ごくりと喉を鳴らす。

「千雨ちゃん?」

しんと静まった空間で明石裕奈が呟く。
千雨は、ノーパソを前に目を閉じ、拳を握っていた。

「今回の事件に関わってから、
千雨ちゃんの電脳戦での勝率はあんまり高くない」

朝倉和美が裕奈に囁く。

「相手は科学の学園都市、そして電脳世界でも未知の術式を使う魔術師。
深入りしたら自分が危なくなる、千雨ちゃんはそれを体験してきた」

和美の説明に、裕奈も小さく頷く。
その時、スペースの照明がふっと消灯した。
そして、中心近くにぼうっと浮かび上がる人影が徐々に鮮明化する。

「な、っ?」

そちらを見た長谷川千雨が、驚愕に目を見開く。

>>936

「これって…」

裕奈が目をぱちくりさせる。

「…鳴護、アリサ…」

夏美が呟く。
その姿は、鳴護アリサその人。
ステージ衣装に身を包み、静かに顔を伏せるその姿からは、
充実した緊張感が伝わって来る。

「エンデュミオンの中でも、比較的防御の甘いイベント系の回線を先に把握しました」

茶々丸の声が説明を始める。

「先方で現在進行形で記録している映像、音声情報をこちら側にも分配させて、
それをこちらで使える最新鋭最大規模のコンピューターと専用プログラムで解析して
限りなくリアルタイムで同一に近い形の視覚、聴覚情報を再現しています」
「…ほえー…」

大体分かった佐々木まき絵が間抜けな声を出して超高性能3D映像に見入る。

「…ったく…無駄に容量使いやがって…」

千雨が鼻で笑い、乾いた声で憎まれ口を呟く。

「行かせねぇよ…」

呟いて、千雨は自分の右手を見る。

「一人じゃ行かせねぇ」

呟いて左手で右手首を握った千雨が、アリサに眼差しを向ける。
千雨が、ぐっと右手を握る。
アリサが顔を上げる。
窓からは一面の星空、ここは空のただ中。

>>937

「…行こうかアリサ。
今行くぜ、光の塔に。私らの戦場に!!」

千雨がピアノの様にキーボードの上で被せた両手を浮かせた。

「Ready go!!」

 ×     ×

科学の学園都市エンデュミオンシティ作業テント内。

「んー」
「どう初春?」

長机の前に着席し、ノーパソを操作していた初春飾利に佐天涙子が尋ねる。

「駄目ですねー、下からの出入りは全部封鎖されています。
多分これ物理的にやられてますよ。
それじゃあハッキングの領分じゃない…」

言いかけた初春が、何かに気付いた様に操作を再開した。

「これって…ハッキング?
場所は、宇宙側…この侵入、プログラミングの癖…
今、どうしてこんな…まさか…」

じっとモニターを注視してキーボードを操作していた初春が、
慌ててUSBメモリを差し込み、マウスクリックする。

「初春?」

その画面をじっと見ていた初春が、
ぐわっと獲物を見付けた様に猛烈な勢いでキーボードの高速打鍵を開始した。

今回はここまでです。続きは折を見て。

>>958

「失礼、お嬢さん」
「はい」

ナツメグが指を止めて問いかけに応じる。

「人を捜しているんだけど、こういう子がどこに行ったか知らないかな?」

ナツメグが、見せられた写真を数秒間じっと注目する。
録画映像からプリントアウトしたものらしいが、
巻きツインテールの髪型のぱっと見て可愛らしい感じの少女が写っている。
もちろん、この写真と同じ顔が少なくとも今朝まで合流して
一緒に行動していた同僚である事を忘れる程ナツメグの記憶力は劣化してはいない。

「いいえ、残念ですけど、見てないですね」
「そうか。ありがとう」
「それでは先を急ぎますので」
「ああそうだ、お嬢さん。言い忘れた事があるけど」

その瞬間、ナツメグはドン、と、突き飛ばされていた。

「たたた………お姉様?」

身を起こしたナツメグの前で、高音がざっ、と、両脚を踏みしめていた。

(…影防壁越しにもこの衝撃…)
「テメェがコイツと一緒にいた事は分かってんだよ、クソボケ」

今回はここまでです。
レス含めたこのペースですと、次スレ建ては980ぐらいですかね。
続きは折を見て。

感想どうもです。
それでは今回の投下、入ります。

>>959

 ×     ×

エンデュミオンに潜入した千雨が、着信に気付いて携帯を取り出す。
ショッピングモール爆破事件を報せて来たアドレスからのメール着信だった。

「私の友人はサクラザキセツナさんを誠実そうな人だと言っています」

この一行に対して、千雨は返信する。

「折り紙に太鼓判を押して保障する」

 ×     ×

「そっちにも出ましたか」
「ああ、出た、って事は?」
「はい、エレベーターを乗り換える通路に。
石にされる前に石にしましたが」
「そうか」

千雨は、階段を駆け上りながら、
朝倉和美のアーティファクト「渡鴉の人見」を通じて綾瀬夕映と言葉を交わす。

「既に術式が動き出していると言う事です」

夕映の声は緊迫したものだった。

「鳴護アリサを核にコンサート会場から発せられるエネルギーが、
エンデュミオンに張り巡らされた回路を通じて
召還魔術の装置に流れ込んでいると見るべきです」
「状況がヤバイ所まで来てるって事かよ」
「楽観視は出来ません。術式が完成する前に手を打つ必要があるです」
「いっぺん会話やめるぞ」

千雨が階段を上り切ると、目の前は行き止まりにドアが設置されている。

>>965

「非常用の貯水槽だ」

ドアを開いたその向こうはちょっとした湖とも言える貯水池が広がっている。
一同は、その中心を横切る橋を進む。

「モンスター、あっちにも出たって?」
「ああ、そうらしいな」

走りながら、夏美の問いに千雨が応じる。

「向こうはあの面子だ。モンスターレベルなら、
ギリシャ神話フルキャストでも一人で瞬殺しちまうだろ」
「だよね」

千雨の言葉に夏美も同意する。

「あれっ!?」

朝倉和美が叫ぶ。
上から見たら池を十字に橋が横切っていて、千雨は真っ直ぐ進む予定。
地図の上では、左右の橋の先にあるのは倉庫の筈だ。
その左右の倉庫の扉が開いていた。

「おいっ!」
「あれって…」

千雨が叫び、夏美が息を呑む。
古菲と長瀬楓が駆け出し、橋の中央から左右に分かれる。
古菲がアーティファクトの巨大如意棒を振るい、
楓が巨大手裏剣を飛ばして池に叩き落としたのは、

「ケンタウロス」

夏美が呟く。
倉庫の中から下半身が馬、上半身が人間の男性のモンスターの群れが
手に手に棍棒を握り橋の中央に向けて駆け出して来る。

「状況は?」

「渡鴉の人見」を通じてフェイトの声が聞こえた。

>>966

「ケンタウロスだ、馬人間。
それが倉庫からうじゃうじゃ出て来やがる」

千雨が返答する。

「村上夏美。
ケンタウロスの群れとはどういう逸話を持っている?」

フェイトからの質問が続いた。

「ええと、中には知的なケンタウロスもいるって言うけど、
確かお酒を飲んで結婚式をぶち壊して退治された、だったかな」

「元々、推定されているレディリー・タングルロードの作戦は、
感情エネルギーの起爆に強く依存したものだ。
鳴護アリサの奇蹟の歌を術式の核として、
それと共に大規模なギャラリーによる歓喜の感情エネルギーを使って術式を発動させる。

そして、感情のエネルギーと言うものは、
希望から絶望に転移する瞬間にこそもっとも強烈な爆発力推進力を発揮するものである、と、
最近も悪魔と神の物語の原典に於いて語られた所である」

「つまりあれか」

千雨が、眉間を揉みながら言う。

「ボルテージ最高潮のコンサートに武装モンスター突入させて
阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出す事でエントロピーを凌駕すると」
「実に論理的だ」

「おい、そこに偽神楽坂いるか?」
「はいはい」
「フェイトの奴、最近妙なもんダウンロードしてねぇだろな?」
「失礼なっ!」

割り込んだのは暦だった。

「旧世界の日本の学校で己の役割を果たすと決めて以来、
日本の文化習俗その他諸々、高度な学術書から市井の俗書の類に至るまで、
日々寝る間も惜しみ…」
「よーく分かった偽神楽坂」
「はい」

>>967

「これ終わったらフェイト私ん所に寄越せ。
高度じゃない方のとある分野に関しては一からレクチャーする」
「妙なものを教えるのではないでしょうね?」

又、暦が割り込む。

「少なくとも絶対領域はいてないからスタートするつもりはないから安心しろ」
「そうですか。それではパルさんがあちらの世界でも広く布教された総受け男の娘の神髄を…」
「うん分かったこれが終わったらあの腐れゴキブリ屋上でゆっくり話付けとく。
一旦やめるぞっ!!」

栞との会話を打ち切り千雨が叫んだのは、大きな羽音を聞いたからだった。

「鳥人間?」

佐々木まき絵が呟く。
開かれた倉庫の扉から、
背中に羽の生えた全裸の女性が何人もと言うか何羽もと言うかバサバサと飛び出す。

「!?」

そして、池の中でばしゃばしゃもがいているケンタウロスに殺到するや、
池が見る見る赤く染まっていった。

「マジ、か?」

千雨がごくりと息を呑む間にも、ぷかーっと白い塊が水に浮かぶ。

「セイレーン?」
「ちょっと待って、セイレーンって人魚の事じゃ」

夏美の呟きにアキラが続いた。

「いや、セイレーンで正しい」

抜け目なく和美が「渡鴉の人見」で撮影していた実況を見て、
フェイトが画面の向こうで言った。
その間にも、セイレーン達は橋の中央近くに辿り着いていた千雨達に殺到する。
古菲が如意棒を、楓が巨大手裏剣を振り回して追い払うが、
ふわふわ交わされてダメージを与えられない。

>>968

「このっ!!」

中央から千雨達から見た出口寄りの場所で、
千雨達のしんがりについた明石裕奈が、
ドドドドドと追い掛けて来るケンタウロスを銃撃する。
一頭、二頭と撃ち倒すが、
馬の大きさのマッチョがそれを乗り越えて突き進んで来るから適わない。

「ハイィーッ!!」

気合い一閃、裕奈の前に回り込んだ古菲が、
橋を塞ぐ様にケンタウロスを池に叩き落としていく。

「助かっ、た…あ…」

片膝の姿勢から脱力した裕奈が、
ふらりと立ち上がり池と隔たる橋の鉄柵に向けてふらふら歩き出す。

「ふん、ふん、ふんっ!!」

そして、橋中央からの声にはっと我に返る。
見ると、古菲が自分の顔面をボコボコにぶん殴った所だった。

「ね、セイレーンでしょ、こんな、綺麗なの…」
「うん…」
「にんっ!!臨兵闘者…」

ダッと駆け寄って夏美とアキラに当て身を入れた楓が、
九字を切り経文を唱えながら脂汗を浮かべる。

「や、べ、え…」

耳を塞ぎ蹲りながら、千雨は池に視線を走らせる。
視線の先では、池にぷかぷか浮かぶ浮島に腰掛け、
生まれたままの姿で羽を休める美女達が、
この世のものとも思えぬ歌声で一同を水面へと誘っている。

「おいっ!」

和美から「渡鴉の人見」をひったくった千雨が叫ぶ。

>>969

「ブリジットバルド………もといブリジットっ!」
「はい」
「ヴァイオリン持ってるな、思いっ切り弾けっ!!但し衝撃波はいらん」
「はい」

その戦慄すべき旋律は、最大音量で貯水槽エリアに届けられた。

「ああ、あの歌声が一段と美しく…」
「身近で聞き直して癒されたい…」
「にんっ!!臨兵闘者…」

目を覚ました夏美とアキラにダッと駆け寄り当て身を入れた楓が、
九字を切り経文を唱えながら脂汗を浮かべる。

「失敗かっ」
「長谷川千雨」

「渡鴉の人見」からは実にクールな声が伝わって来た。

「現在、我々が乗り換えエレベーターに搭乗中だと言う事を念頭に置いた上で
帰宅後の補習授業の沙汰を待つがよい」
「…はい…」
「…でも…聞きたい…」
「…なんて…綺麗な歌…」
「………んだって………いいかも………」

ふらふら柵に近づく面々を見て、千雨の頭の隅でぶちりと何かが切れた。

「っざけんなっ!!!」

叫んだ千雨がノーパソ化した「力の王笏」を猛烈な勢いで操作する。
今にも柵を乗り越えダイブしかねなかった面々が、ぴたりと動きを止めた。

「…繋がった…どうだ化け物、
世界を滅ぼす歌じゃねぇ世界を救う歌だ馬鹿野郎っ!!」

貯水槽用非常放送回線とコンサート会場のイベント用回線を混線させて、
記録様の歌声をそのままこちらに回した千雨が叫ぶ。

>>970

「ここは任せるアル!!」

中央から出口寄りの橋の上で如意棒をぶん回し、殺到するケンタウロスと対峙して古菲が叫んだ。
だが、その古菲に、飛翔したセイレーンがばさばさと蹴撃を仕掛け、
隙を見せるとギラリと噛み付いてくる。
一本橋で数の優劣こそ少ないが、そうしながらケンタウロスと闘わなければならない。

「アデアット!」
「大河内!?」

池に飛び込んだアキラを見て千雨が叫ぶ。

「アキラっ!!」

果たして、セイレーン達は空中からアキラを追跡する。
一旦潜水していたアキラが浮上し、それと共に噴き上がった水柱をセイレーンが辛うじて交わす。
アキラは水中を高速移動し、潜水し、浮上し水を噴射して、
鋭い蹴りや歯で迫られながらも、巧みにセイレーンを翻弄していた。

「ここは任せて先に行ってっ!」
「…分かったっ!!…」
「お願いっ!!」

水中から叫ぶアキラに応じたのは裕奈、まき絵だった。

「頼むっ!」

千雨が叫び、一同は駆け出す。
それでも、駆け出した面々に気付いて何羽かのセイレーンが追い付いて来る。

「このおっ!!」

その内の一羽がリボンでがんじがらめにされて水面に叩き付けられ、
別の一羽は裕奈からの激しい銃撃に這々の体で逃走する。

>>971

 ×     ×

「あのー、もう一度伺いますが、これは?」
「エカテリーナⅢ世号・改、ですわっ!!」

桜咲刹那の問いに、無線越しに自信満々の返答が返って来た。

「この様な事もあろうかと、秘かに準備していただいておりました。
本来は御坂さんに搭乗いただく予定でしたが、
その御坂さんと連絡が取れず困惑しておりました所でしたの。
なんでも既に潜入を遂げたと言う話でもありまして」

「…はあ…」

「以前ご協力いただいたジャッジメント理系チームの皆様の協力を得て、
そちらから伺ったポイントへ到達する手だてを計算させていただきました。
あの件に比べるならば随分楽な計算で済んだと言うお話しでしたの」
「えーと、と、言う事なんですけど、大丈夫ですか?」

別系統に設定した無線から声が聞こえる。

「初春さんでしたね?」

「はい。何故か正体不明の大容量コンピューターの介入による援助もあって
理論上の計算は成功しましたが、
それでも非常識で無茶苦茶な話です。
何より、桜咲さんとは初対面ですらない…」

「初春飾利さんですね?」
「はい」

「そちらには疎い私ではありますが、それでも、
その分野で私が最も信頼する仲間から信ずべき方と聞きました。
ならばそれは信ずべき人であると言う事です」

「最高の褒め言葉、と、お伝え下さい」
「エカテリーナⅢ世号・改かぁ」
「あんまり引いてないですね」

木乃香ののんびりした口調に初春が言う。

>>972

「ん、ああ言うタイプの人、よう知っとるからなぁ。
ええいとはんやな、婚后はん」
「はい、立派なお嬢様で素敵な先輩です」
「ならええわ、始めたって」
「了解ですっ」
「それでは、手筈通りにお願いします」

別に繋いだ携帯から、コクピットの面々に葉加瀬聡美の声が聞こえる。

「桜咲さん」
「はい」
「エンデュミオンの異常事態、この学園都市自体が不穏であるからこそ通した無茶ですが、
御坂さんのお友達をどうぞよろしくお願いします」
「分かりました」
「………どっせぇぇぇーーーーーーーーーいいいいいいっっっっっ!!!!!」

今回はここまでです。続きは折を見て。

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