長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」(再・改)1(ネギま!×とある禁書) (106)

ネギま!サーガ終幕予定?記念リバイバル上映です。

元スレ
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368805523/)
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」2(ネギま!×とある禁書)
長谷川千雨「鳴護アリサ、って知ってるか?」2(ネギま!×とある禁書) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1384882889/)

その他
見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!)
見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491067306/)

詰まり、昔私が投下した作品なのですが、本音の所を言いますと、
その時ペース配分を間違えて
最後の最後にアホほど解説入れ込んで致命的にグダつかせると言う大失敗をやらかしまして、
この際と言いますかこの期に乗じてと言いますか、すっきり投下し直したいと。
更にそこに便乗して、基本はそのまんま部分的な修正改訂加筆訂正もしれっとやってしまいましょうと。

それで支度をして見たら想像以上の物量とこちらの個人的事情で、
まあ、タイミング的には名目の割には中途半端なものになりそうな最後まで締まらない話ですが。
二週間前カウントダウンにこじつけて、ぼちぼち投下を始めます。

思えば、元スレの連載中に「UQ HOLDER!」の連載が始まって、
おおー、ネギま!の続きかよ、なんて事もありました。

そんなこんなで、基本、既に出来てる作品のドカスカ投下と言う感じになります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1643129332


改めまして作品の前書き

「魔法先生ネギま!」と映画「エンデュミオンの奇蹟」(とある魔術の禁書目録)
のクロスオーバー作品です。

ネギま!の終盤からのサザエさん時空が映画の時期にリンクしています。
ネギま!側がメインの進行になります。
ネギま!一通りと禁書の映画(と前提になる禁書)観てないと厳しいと思います。

正直言って、自分の禁書の知識、地雷あるかも(汗)、
ご都合独自解釈もありますが、爆炎上げて吹っ飛んでる様でしたら、お手柔らかに

原作映画よりも日数が多いのでは、と感じられたならばそれは気のせい、
ではないです只の御都合です。

それでは本作の投下、スタートです。


 ×     ×

一見すると、ちょっと変わった姉弟、と言った所だろうか。
姉の方は、日本人の目線で言えば白人ハーフの日本人を普通に連想させる
流れる様なロングの金髪も美しいすらりとした美少女。

弟の方は、その意味ではこの辺では珍しくないだろう赤毛の白人少年。
年齢は精々が十代前半かそれよりも下だが、
きちんとスーツを着こなしているのが変わっていると言えば変わっている。

それでは姉の方はと言えば、
見る人が見れば結構な金額になる装いをセンス良く着こなしている。
丁度お茶の時刻、ロンドン市内のオープンカフェで落ち合ったそんな二人は、
実際の所は姉弟と言う訳ではない。

「いかがでしたか、ネギ先生?」

金髪の美少女が尋ねた。

「有意義なお話しが出来ました」

ネギ先生と呼ばれた男の子がそう言ってにこっと微笑む。
金髪の美少女雪広あやかならずとも天使の微笑みと言う表現に躊躇は要らない。
回りくどい表現をしたが種も仕掛けも無い、正真正銘ネギ・スプリングフィールド先生である。
スコーンでミルクティーを楽しみながら、話を続ける。

「夕食の席で改めてお話ししたいと。
先方への取り次ぎに就いても色よい返事を頂きました」

「まあっ」

あやかが目を輝かせた。

「でも、よろしかったのですか?」

あやかが話を続けた。


「色々と事情があると伺いましたが。
やはり、わたくしのカードを使うのが確実だったのでは…」

「いえ、カードを使えば発覚してそれに対抗される、
最悪、それだけで宣戦布告とみなされてしまう。そう思った方がいい相手です。
それに、この先、どれだけ困難でも誠意をもって向き合わなければならない相手ですから」

ぐっ、と前を見るその表情を、あやかは優しく、そして惚れ惚れと眺めていた。

「それでいいんちょさん」

「はい、ネギ先生」

「お願いがあるんですけど」

「なんなりと」

「はい。それでは、僕も勉強はしたんですが、
改めて少し、日本の古文を教えていただけないでしょうか?」

「え?あの、ネギ先生?」

「はい」

「あの、確か、イギリス紳士であるネギ先生が
こちらの方と面談なされたのですよね?」

「ええ、そうなんですが」

 ×     ×

「メイゴ、アリサ、ですか?」

「知らんな」

長谷川千雨にとって、想定された通りの反応が返って来た。
場所は麻帆良大学工学部、葉加瀬聡美の研究室。
返答したのは桜咲刹那に犬上小太郎。
葉加瀬聡美は千雨、刹那と同じ女子校麻帆良学園中等部三年A組の生徒であるが、
大学にも研究室を許された天才科学者の一面も持ち合わせている。


「歌手のARISAの本名、って言っても余計分からなくなりそうだな」

そう言いながら、千雨が自分のノーパソを操作してアリサのサイトを映し出す。
そこに映し出されたのは、自身のキーボード演奏と共に歌うアリサの路上ライブの映像だ。
歳は千雨の一つ二つ上か、容姿は可愛いと言っていいだろう。

「…いいですね…」

刹那が言った。

「こういう歌は余り聴かないのですが、何と言いますか、いいです」
「あー、俺もそうや。そういうテレビとか見ぃへんけどなぁ。いいなこれ」

「ああ、歌手って言ってもマイナーだからな。今ん所路上やネットがほとんどだ。
実際いい歌だよ。何て言うか心が洗われると言うか、
例えば、アクセスランキングなんて詰まらないものに囚われて、
アリサのサイトにウィルス送り込んでやろうとか掲示板荒らしてやろうとか、
そんな邪な心を抱いたとしてもこれを聞いたらすっきり洗い流されるってぐらいいい歌だ」

「確かに、何かがありますね」

刹那が続ける。

「魔力的なものではありませんが、質のいい御詠歌を聞いた後の様でもある、
歌そのものの力なのでしょうか」

「そうですね、確かに脳科学的な音波、周波数のパターンの見地からも、
この歌に関するある程度の見解は出せるのですが、
やはり、そうした科学の領域を留保した感覚的なものがあるのではと」

刹那と聡美がそれぞれの見解を述べた。

「で、ひょんな事からこのアリサと知り合いになったんだ」

「千雨姉ちゃんがか?」

「ああ」

少々退屈の虫がうずき始めた犬耳ワンパク小僧犬上小太郎の問いに千雨が応じる。
千雨が「ちう」の名前で運営しているウェブサイトでARISAを紹介した所、
「ちう」の愛読者だったと言うアリサ本人からのアクセスがあり、
非公開のやり取りをしている間柄だった。


「未来のステージ衣装の事とか色々話している中で、
アリサの部屋撮り写真を何度かもらったんだが」

そう言って、千雨はプリントアウトした写真を何枚か取り出して刹那、小太郎に渡す。
当初は何と言う事も無く目を通していた二人が、眉をぴりりと動かし始めた。

「いるな」

「ええ、いますね」

写真に目を通す二人の呟きを聞きながら、聡美が室内の大型モニターを操作する。
そこに映し出されたのは千雨が受け取ったアリサの部屋の画像だったが、
モニターの中でその部屋の窓が徐々に拡大される。
その作業が、別の部屋撮り画像で幾度か繰り返される。

「なあ、何に見える?」

「魔法使い」

千雨の問いに、刹那がぽつっと応じた。
既に、刹那からは珍しい友人からの招きに寛いだ雰囲気は消え失せ、
その眼差しは頼もしい仕事モードだ。

「だよなぁ」

はあっと嘆息した千雨は、バリバリと後頭部を掻く。

「確定的な結論を出すには元の画像の質が不足していましたが、
分析結果として現時点で確実に言えるのは、対象は人間、判明している限り三人です」

聡美が説明した。

「変態コスプレストーカーにしちゃあ気合いが入り過ぎてる」

「只のコスプレやなかったら西洋魔術師やな」

千雨の言葉に、小太郎はややウキウキとした口調で言った。
只、刹那の周辺に洋の東西と外見とのマッチングに少々問題があるケースが無いではないのが引っ掛かる。


「場所は、どこですか?」

「科学の学園都市だ」

千雨の言葉に、刹那と小太郎が顔を見合わせた。

「おかしい」

刹那が呟く。

「科学の学園都市がどういう場所だか、長谷川さんはご存じですよね?」

「まあ、表に出てる程度の事はな。
街ぐるみで最先端科学を研究してる実質的な独立国家」

「科学覇権主義、と言ってもいいですね。
今や、世界の科学技術そのものがあの都市のお下がりも同然。
それでいて、物理的にも法的にも厳重に閉ざされたブラックボックス」

聡美が言った。

「インターネットも、少なくとも科学の学園都市側からの発信は
何重にも検閲されています、想像を絶する技術で。
簡単に言えば、向こう側の人間でも害の無い限り支障はありません。
しかし、単純な単語検索を初めとして、
把握される流出情報の質や悪意のレベルに合わせて、エラーを偽装した差し止めから逆探知まで
直ちに対応出来るシステムになっている、と、
これが当たらずとも遠からじな実情であると私は把握しています。
加えて、そもそもソフトもハードも何世代も先に行っていますから、
基本的なものはとにかく、サブ的なものは、
向こうではそれが普通でもそんなものをうっかりこちら側に送られたら」

「ああ、まるっきり解読不能、下手すりゃ開いた途端に冷凍庫、何回か引っ掛かったよ」

聡美の言葉に千雨が応じた。


「より閉鎖的なのは魔法との関係です」

刹那が言った。

「端的に言います。科学の学園都市に魔法使いは立ち入れません。西洋東洋問わずです」
「そうなのか?」

「そうです。余りにも進みすぎた科学の学園都市の科学技術と魔法の技術。
それが交わる事で生ずる現実的、政治的な影響は未だ計り知れないと言う事で、
現時点では、少なくとも外交関係が成立している魔法の勢力は
科学の学園都市には関わりを持たない。その旨の協定を結んでいます」

「一時期はあったみたいなんですけどね」

聡美がデコを光らせながらくいっと眼鏡を直す。

「人間の能力に関して、彼らの科学は魔法を受け容れない。
どうも現時点ではそういう結論に達しているらしいんです」

「この辺じゃロボがうろうろしてるってのに、違うモンだな」

「ええ。こちらはそれこそ魔法を科学するのが流儀ですから、
その流れで色々と話を聞く事もあるんですけど。
一時期向こうでもそのギャップを埋める研究も進められていたらしいんですが、
事は人間の能力と魔術に関わる事です。
研究者のアングラ情報では何かイギリスで凄惨な犠牲が出て立ち消えになったと言う話も聞いています」

「人体実験で人体爆発もやらかしたのかよ」

「恐らくその線だと思います」

「取り敢えず、魔法関係でアリサさんが何か付きまとわれている可能性がある、と」

「そういう事になるな」

刹那の言葉に千雨が同意する。


「分かりました。少し心当たりを当たってみます」
「ああ、そうしてくれると助かる」

千雨が感謝を示し、刹那が頷いた。
一般人でいたい筈の長谷川千雨だが、今やネギ・パーティーと言うべき魔法勢力にどっぷり浸って
ついこの間夏休みがてら世界一つ救出して来た所だ。

そのネギ・パーティーの誰よりも頼りなく誰よりも頼もしいリーダーである
ネギ・スプリングフィールドは、十歳の少年にして飛び級卒業の千雨の担任教師であるにも関わらず、
ここ暫く、夏休み明けからずっとろくに学校にも来ておらず接触する機会が乏しい。

マイナーでも歌手が相手でもある。
千雨の周囲に事欠かない、火力はあってもやかましい面々は余り巻き込みたくない。
だからと言って、現在の実質的な担任とか色黒ノッポな巫女とか恐怖心が先に立つのもあれだ。

等と考えている内に、当面の相談相手としてこの人選に至ったと言う事だ。
人間としては誠実そのものである刹那はもちろん、元はいっぱしの悪ガキをやっていた小太郎も、
喋っていい事と悪い事の区別ぐらいは付くだろう。
見た所、裏側の知恵もある。何よりも半端なく強い。

 ×     ×

「よう」

「いらっしゃい」

麻帆良大学工学部を後にした千雨は、夕食後に女子寮の665号室を訪れ、
住人である村上夏美と挨拶を交わしていた。

「よっ」

「ああ」

リビングで、つい先ほど顔を合わせていた小太郎とも挨拶を交わす。
本来この部屋は村上夏美、那波千鶴、雪広あやかが住人であり
小太郎が暫定的に居候している状態であるが、
最近、夏美以外の元々の住人、特にあやかの外出は頻繁なものだった。


「いらっしゃい」

「ああ」

にこっと微笑む那波千鶴に千雨が挨拶を返す。
ゆったりした部屋着の上からも、やはり圧倒的な胸のボリューム、
だけではない、年齢さしょ…とにかく緩やかでいながら圧倒的に大人びた何かがある。

「どうぞ」

「ああ、ありがとう」

途中で思考を強制的な切り替えた千雨が、ウーロン茶を用意した千鶴に頭を下げる。

「珍しいな、そっちから呼び出しって」

「それはお互い様やけどな」

「まあ、確かに。さっきの件か?」

「ああ」

小太郎の表情は真面目なものだった。

「ちぃと、まずいかも知れんな」

「と、言うと?」

「問題は、刹那の姉ちゃんが言うてた心当たり、や」

「知ってるのか?」

「多分な。千草の姉ちゃん所で小耳に挟んだ。
だとすると、逆の目に出るかも知れん」

「何何だよ一体?」

珍しい奥歯に物が挟まった様な小太郎の言葉に、千雨が苛立ちを覗かせる。


「科学の学園都市で魔法使いがもう動き出してるって事になるとな、
その刹那の姉ちゃんの心当たりが当たりかも知れん。
まあ、簡単に言うとそういう事なんやけど、簡単に言えないから困るんやこの辺の関係は」

「つまり、そっちの業界の話か?」

「まあ、そういう事やな」

「つまり、桜咲が連絡入れる相手が実はストーカー連中と繋がってる、そういう事か?」

「ああ、正直あり得る状況や」

「じゃあなんで止めなかった?」

「そこや。特に刹那の姉ちゃんの場合、元々の人間関係なんかもあって、
あの話の流れだとそっちに話を持っていかなあかん、そういう関係もあるさかいな。
それが当たりやったら、ちぃとまずい事になるかもなぁ」

「何なんだよ、一体…
あいつ、アリサ、一体何に巻き込まれてやがるんだ」

「自分らで確かめるしかないなぁ」

バリバリと頭を掻く千雨に、小太郎が言った。


 ×     ×

科学の学園都市内境界周辺特別招待所。
日本に帰国したネギとあやかは、その高級ホテルでも十分通用する招待所の一室で待機していた。
ここ科学の学園都市は、国際法及び日本国の立法、公式見解の下に於いては日本国内であるにも関わらず、
独立国家に近い実質を有し外部の人間の出入りは厳重に制限されている。

ネギが交渉した英国の関係及び、
あやかの関わる科学の学園都市の外部協力企業のルートから当面の「入国」許可を得た二人は、
アンチスキルと読み警備員と漢字を当てる科学の学園都市の警察職員から
都市への入国手続きと共にここで待機する様に案内されていた。

部屋のドアがノックされる。
あやかがインターホンで応対し、ドアを開く。
現れたのは、取り敢えず部屋まで案内した、
十分なホテル的挙動を訓練されたここの職員だった。

「ネギ・スプリングフィールドさん」

「はい」

「お電話です」

ネギが立ち上がり、職員の案内を受けて部屋を出る。
ネギが戻って来る前に、ドアがノックされた。
あやかがインターホンで応対し、ドアが開かれる。
相手は、「合い言葉」を知っていた。

ドアを開けて中に入った結標淡希は、何の気無しにあやかを上から下まで一瞥した。
一言で言えば贅沢至極。

クォーターだと言う事だが、そっち系の美少女そのままの容姿、流れる長い金髪。
すらりと背が高く出る所引っ込む所のメリハリが半端じゃない。
服装のセンスもお上品でさり気なく金がかかっていながら成金的な下品さが無い。

そんな圧倒的な相手が自分よりも年下の中学生。
渡された資料がそうだと言うだけではなく、同年代の女子の勘、
特に中学とその上の違いは、事、同性の間に於いては察知出来るものだ。


一方のあやかの方は、特に悪い印象は持っていない。
ばっさりとしたショートカットで上半身はサラシの様なピンクの布を胸に巻いて
ジャケットを羽織っているだけ、下はミニスカート。
露出過多とも言えるが、元々あやかは色々な意味で変人は見慣れている。

結標の方は少々剣呑、鼻白んだ様な雰囲気をあやかに示しているが、
それも又、特にネギの「事業」に関わり始めてからは雪広あやかの宿命として
初対面で一々気にする程の事ではない。

「あー、どうも、雪広あやかさんでいいんですね?」

「はい」

「そちらを担当する統括理事から連絡役として派遣された結標淡希です」

そう言って結標は一通の書面を差し出し、あやかの差し出した書面と照合される。

「ここ、学園都市は初めてですね。
まあ、聞いてるスケジュールだと、
こっちの理事会からの代表と事業に関わる企業関係者、
その辺の挨拶回りで滞在予定はオーバーって所だね。
ここは外とは違って色々と面倒な所だから、
あんまりうろうろしないで予定通りさくっと用事済ませて貰いましょう。
外の人間が余計な事したら色々と保障できない場所柄なもんで」

鼻で笑ってツカツカと歩み寄る結標は、あやか余裕のクイーン・スマイルが何とも言えず勘に障る。
いっそ、スキルアウト御用達の廃ビル辺りにご案内してやろうかと頭をよぎった辺りで、
学園都市謹製スーパー医療技術で病み上がりに引っ張り戻されて早々に
こき使われても文句の言えない現状を辛うじて思い出す。
そんな、微妙な雰囲気を物音が破壊する。

「お待たせしました、少し補足連絡がありまして。
もう案内の人がついてるって伺ったんですが」

結標が開いて閉ざされたドアに目を向け、改めて資料を確認する。
そして、現れたネギの前に片膝をつき、
白い両手を自らの両手で包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。


「初めまして、ネギ・スプリングフィールド先生。
わたくし、この学園都市におきましてネギ先生の露払いという
大役を仰せつかり恐悦至極に存じ奉りまする栄誉に預かりました結標淡希と申す者にございます。
今後はわたくしにご用命あらば例え火の中水の中、
湖の水を飲み干してでも身命を賭してお助け致しまする所存にて
それではさっそくホテルにご案内いたしまして最も重要なバス・ベッドの使用方法を実地にて…」

あやかは近くにあった巨大な模造紙を山折り、谷折りして、
腰を入れて結標の顔面目がけてフルスイングする。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「HAHAHAちょっとはしゃぎ過ぎてしまった様ですな」

心配そうに覗き込んだネギの前で、
結標は半ば埋もれた壁からボコッと復活して、むくっと立ち上がり後頭部を撫でながら高笑いする。

「まあ、そういう訳で、学園都市のご案内は淡希お姉さんにお任せして
大船に乗ったつもりでどーんと安心しちゃって頂戴って事でHAHAHA」

「はい、有り難うございます」

ダクダクと鼻血を垂れ流しながら高笑いする結標にネギは礼儀正しくぺこりと頭を下げ、
ニコッと天使の笑顔を向ける。
一際激しく鮮血を噴射しながら天を仰いだ結標は、
そっと鼻にハンケチを当てると改めてその天然女殺しな笑顔を目から脳味噌に煙が出るまで焼き付ける。
そして、その隣で慈母の微笑みを浮かべているあやかを見据える。
あやかと結標は共に不敵な笑みを浮かべ、そしてガシッと熱い握手を交わした。

「それじゃあ少し具体的な話をさせてもらうね。
この学園都市は、街自体が外からうん十年進んだ巨大な最先端科学研究機関。
そのために、研究上の便宜、何よりも秘密漏洩防止のために国から様々な特例が認められている。
ざっくり言ってここは日本であって日本ではない、実質的な独立国家、OK?」

人懐っこくも不敵な笑みを浮かべる結標に、ネギとあやかは頷いた。


「あなた達が今持っているのは、ここを含むゲートエリアだけで通用する入国専用ID 。
これが滞在用ID、それからマネーカードにレンタルの携帯電話、PDA。諸々の説明書。
端っから言っておけば、学園都市は最先端科学の街、言い換えれば効率的なデジタル管理の街。
その学園都市内に於いて、
様々な意味での重要人物であるあなた達の滞在中の電子的記録は監視され集約され管理されている。
ここでのあなた達のプライベートは、あるとするなら精々トイレの中までと思った方がいい」

そこまで言って、結標はすたっとネギの前に片膝をつき、
両手で両手を包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。

「但し、ネギ先生が一言仰せ付けられましたらこの結標淡希、
すぐさまあらゆる治安組織統括理事会暗部組織から完全に隠匿された
絶対秘密厳守のセーフハウスをダース単位で用意して
静寂の寝室に於いてネギ先生との熱く親密な秘密の一時を」

その時には、目をぎゅぴーんと輝かせたあやかが鶴の体勢で飛翔していた。

「わー」パチパチ

雪広流vs裏社会実戦組手演武を一通り観賞したネギがパチパチ手を叩いたのを潮に、
あやかと結標の二人はガシッと熱い握手を交わして結標が説明を続ける。

「と、まあ、そういう事なので。
あなた達の申請予定も入力済みのこのレンタル端末使えば
学園都市でも表の事は大概分かるし、
わざわざ私みたいのが付きまとってガイドしてると却って邪魔でしょう。
そっちにはそっちの都合があるでしょうし、どうせこの街にいる限り
監視は電子的にやられてるんだから、この上ガイド兼監視役なんてのもね。
と言う訳で、一応ホテルまでは案内するけど後は自由行動って事で。
許可が出てるぐらいだから大丈夫だと思うけど、
端末にも入れといた通り、危ない所には近づかない、
いや、ホントこれだけはお願い。最先端科学の街だからこそ裏通りは本気で危ないから。
私のケー番とメアドも入れてあるけど、私もすぐ出られるか分からないし、
あんたらのVIPなIDならホテルとか公共機関に頼れば
大概なんとかなるからその辺は私の事あんまり当てにしないで」

そこまで言って、結標はすたっとネギの前に片膝をつき、
両手で両手を包み込み情熱的に熱く潤んだ眼差しではっしとネギを見据える。


「但し、ネギ先生が夜の相談室に大人の階段を上りたいとこっそりお電話いただけるのでしたら
この結標淡希五秒でベッドメイキングの上不肖わたくし自ら懇切丁寧熱意溢れる肉体言語…」

その時には、鋭い角度で跳躍したあやかの膝が結標の顔面に肉薄していた。

「わー」パチパチ

雪広流vs裏社会実戦組手演武を一通り観賞したネギがパチパチ手を叩いたのを潮に、
あやかと結標二人はガシッと熱い握手を交わして結標が話を続ける。

「それではこれよりホテルまでご案内しまーす」

 ×     ×

「夏の大事件を解決して今も精力的に駈けずり回っている正に英雄」
「その英雄の学園都市訪問許可。協定違反なんてレベルじゃないな」

「彼のプランを大方針として支持する事に就いては、
学園都市を含む各勢力で合意が成立している。
宇宙エレベーターは既に先んじて出来上がってしまっている」

「なぜか、な」

「彼のプランに不可欠なものである以上、
それは既に了承された範囲内の事だろう」

「その理屈で根回しか。もっとも、大方の所は向こうさんで済ませた後だ、なかなか抜かりの無い」

「大上段の人道主義と突拍子もないプランを掲げる、丸で子どもだ」

「その子どものプランは既に基本合意以上のコンセンサスが成立している。
向こうの火力がデカ過ぎるってだけじゃない。
そのデカ過ぎる火力の威嚇を絶妙に鞘の内にしながら、
人道主義と現実的な利権。科学と魔術が角突き合わせてる宇宙の覇権にとんでもない所から唾付けて、
ヨダレを見せた連中を上手く転がしてやがる。無邪気な顔してなかなかの腹芸だぜあいつら」

今回はここまでです。
続きは折を見て。

それでは今回の投下、入ります。


 ×     ×

「着いたんか?」
「で、ござるな」

科学の学園都市内のとある廃ビル。
長瀬楓のアーティファクト「天狗之隠蓑」から姿を現したのは、
犬上小太郎、長谷川千雨、村上夏美と言う面々だった。
色々考えた末、一応まとめ役となるネギがいない現状、
そして科学の学園都市と言う越境作業の都合上、思慮深い面子による少数精鋭と言う結論に達した。

まず、言い出しっぺの千雨、そして、総合力の高い「忍術」を使う楓と小太郎。
楓は多人数を異次元空間に収納運搬出来る「天狗之隠蓑」を使う点でも何としても欲しい人材だった。

夏美に関しては小太郎の実質的なパートナーであり、
それでいて本来一般人であるべき立ち位置なのだが、
まず、彼女の使うアーティファクトが隠密行動の上で侮れない。

先の会合の都合上、話を聞いた夏美に一応振ってみたら、
それでも何でも夏休みの苦楽を共にした友人の友人の魔法的な危機であり
自分の能力が頼られると言う事は満更でもない、そんな感じで同行が決定していた。

「ここ、科学の学園都市か?」

小太郎が尋ねる。

「で、ござるな」

「まあ、越境時の一時的な電子的監視システムのごまかし、
それに、いるだけで逮捕されない程度には葉加瀬がやってくれてるって事だが」

千雨が周囲を一瞥して言う。
とにかく、科学の学園都市に於ける電子的な監視網は半端なものではない。

衛星の目による常時監視を初めとした様々な監視網は、
密入国者が都市内を文字通り出歩く事自体を困難ならしめる。
無論、「国境線」の越境も決して簡単な事ではない。

麻帆良学園都市から、「外(科学の学園都市の外)」の科学相手であれば
大概の事が出来そうな葉加瀬でも、科学の学園都市相手では相当に勝手が違う話だった。


「何せ相手は科学の学園都市だ。
とにかくアリサの状況を把握するまでは可能な限りトラブルを回避して
くれぐれも余計な揉め事等を起こさない様に…」

そう言いながらくるりと振り返った千雨の前には、
いかにも頭の悪そうな風体の見るからにチンピラ集団が死屍累々の巷を形成し、
最新情報を更新するならば、その巨大な槍の如き脚の一撃でコンクリ柱を蹴り砕いた巨漢が、
そのバカ破壊力な脚槍の上をひらりと舞う小太郎の跳び蹴りを顔面に叩き込まれた今その時だった。
そして、そんな二人の背景では、千雨がコオオと更にその背景に炎を燃え上がらせて拳を握っていた。

 ×     ×

千雨は腕組みしていた。
そこは、学園都市地下街の一軒のゲームセンター。

「あのー」

楽をして悪いとは思うのだが、途中まで楓の「天狗之隠蓑」に隠れつつそこまで到着した一行は、
千雨の発案で賑やかなゲームセンターに入っていた。
取り敢えず手分けした後、その一角にある機械の前で、千雨は立ち止まり熟考していた。

(カナミンが出来るのか)

「あのー」

(とは言え、こんな所であいつらに裏の顔を知られる訳にはいかない)

「あのー」

(それに、こんな事をしている暇は無い)

「あのー」

(あくまで、路上シンガーと言うイメージからなんとなくゲーセンに手がかりを求めて入ったに過ぎない)

「あのー」

(に、してもよく出来ている、特にこのカナミン。さすが科学の学園都市)

「あのー」

(一度科学の学園都市を訪れたからには、レイヤーとしてこの機会を)


「あのー」

(だからと言って一人で)

「あのー」

(とは言え、こんな所であいつらに裏の顔を知られる訳にはいかない)

「あのー」

「なんだ、あ?」

「こちら、使うんですか?」

ちょっと驚きながら声の聞こえた横を見て、千雨は目をパチパチさせる。
そちらに現れたちょっと年上らしき少女の姿にほんの少し考えて、納得する。
さすがは科学の学園都市、実にハイスペックな案内用ホログラムだ。
それは、科学的な技術力だけではない。

(茶髪だが如何にもお洒落に興味ありませんなぼさぼさ気味のロング、
絶妙なバランスでちょっと頼りない仕草、
清楚な白い制服姿でありながら一点突破のインパクト。シンプルだが実によく分かってる)

「あー、うん、そうだな。えーと、あんた一緒に撮ってくれるとか?」

「いいんですか?」

「ああ、そうしてくれると助かる」

気が付いたら、千雨は自分でも意外な程に気さくに応じていた。
後腐れが無さそうだと言うのもあるが、千雨にして安心して応じる何かがあった。

「こ、これはっ」

かくして、更衣室の中に入った千雨は、改めて科学の学園都市の技術力に驚嘆する。


(あのボリューム、なんと言ってもあのボリューム、ああ、この手の技術ってなると、
多分もっとアレな用途にも流用されてるんだろうな、科学の学園都市とは言っても脳内は、
何と言っても日本の技術革新はビデオデッキしかりインターネットしかり常にその方面から…
ふむ、そうやってあたかも用意された衣装にチェンジする様に…)

「なん、だと?…」

(…いやいやいや、おまえちょっとそれどっから見ても悪役用ブラック紐ビキニアーマーだと?
そうか、そうかよ。いかにも大人しいオドオドキャラとのギャップ萌えをピンポイントで狙って来たってか。
ふふ、ふふははは、ふふふははははは、
その分野に手を出すと言う事は誰に喧嘩を売っているのか理解しているのかなこのホログラム?
いいだろう。相手が悪かったな。無限にして有限の空間を ネ申 として君臨して来た
女王ちうランルージュがそのちょーっとはっちゃけた幻想を華麗にぶち殺してやるぜこのド素人が)

「」

(………唖然。いや、ちょっと待て。デカイってのもオドオドキャラってのも分かってはいたが、
愕然。これは、凄い、凄すぎる。何の罰ゲームだ?
つまりあれだ、男子に見られて恥ずかしいのなオドオド爆乳眼鏡キャラが
そのまんま悪の秘密結社の女幹部、それも紐、いっちゃったって事ですかァ?
いやいやいやいや間違いなく純度百パー天然本物の恥じらいとダイナマイト過ぎるナイスバディでもって
悪の秘密結社の紐ビキニアーマー、ね。
ねェェェェェェェェェよォォォォォォォォォっっっっっ!!!
ねェよねェって盛り過ぎってレベルじゃねェって、
その、眼鏡の向こうのうるうると、もじもじした腕と紐の向こうから見えるむっちむちのぱつんぱつんのが
真っ裸フルオープンの一京倍凶悪過ぎるだろおいっ、
アハ、アハハハハ、アヒャヒャヒャアヒャハハハ、エラーエラーエラー
天使!これは天使!!
地上に降臨して全てを焼き尽くす破壊力満点の凶悪過ぎるマジ天使っと、って奴だ…)

「ふむ、虚数学区の核心に迫る者が」コ゚ポッ

「はい、チーズ」


 ×     ×

なんとなくちょっと寂しい気もした、それも余りによく出来ていたからなのか。
臨時パートナーが、にこっと微笑んで礼儀正しく頭を下げたかと思うと
気が付いたら早々に姿を消した事もあり、
犬耳小僧が気付いた頃には完璧な証拠隠滅を終えていた千雨は、
結局手がかりの欠片も無かった面々を促して次の行動に移る。

「ここだここ」

次にご一行様が訪れたのは一軒のファミリーレストランだった。

「アリサからも聞いた事あるんだけど、ドリンクバーが豊富で使い易いってさ」

それぞれ適当に食事を注文し飲物を運びながら、千雨がノーパソを取り出す。

「結局の所、ネットしか手がかりが無いからな」

「ARISAってネット中心のシンガーだっけ?」

夏美が言う。

「まあ、今ん所はそうだな。ネットとか学園都市の路上がメイン」

「そんなインディーズでも凄く人気あるんだよね」

夏美が言う。夏美も今の所端役とは言え演劇部員、
しかも、本来が決して主役向きでは無いと自覚しているタイプ。
自分と同年代で、メジャーアイドルならそれはそれで別世界にも見えるのだが、
アリサの様に自ら表に出て切り開こうと言う気概には敬意を覚える。


「なんだよな、歌が清々しいせいか面白い話もあるし」

「面白い?」

「ネット上の都市伝説だな、ARISAの歌を聴いたらいい事がある、って」

「うん、あれから私もネットとか見たけど普通に言われてるね。

それに、あの歌聞いたらなんか、分かる」

千雨の言葉に夏美が反応した。

「さあて、どの辺に出没して、るのかな…」

「な、何!?」

突如、ガタッと立ち上がった千雨に夏美が驚きの声を掛ける。

「リアル遭遇だっ!」

叫んだ千雨が、じろっと周囲を見回す。

「…二人分、食うか?…」

「おうっ」

千雨が、小太郎の肩をガシッと掴んで言った。
言い出しっぺとして、自分が退く訳にはいかない。
店を飛び出した千雨は、心の中で叫んでいた。

(不幸だあぁぁぁぁぁ)

流石に残りの面々もそれなりに急いで注文を平らげ、
窓際のテーブルからどがしゃーんと轟音が響き
ぞろぞろと店内の客が引き揚げるのに合わせる様に店を後にした。


「あっ、いた」

携帯で連絡を取り合いながら、楓と共にとある空中通路に駆け付けた夏美が、
通路の柱の陰で千雨の姿を発見した。

「それで、アリサ殿は?」

楓の問いに、千雨が親指を向ける。

「あれが、アリサさん?」

「ああ。で、あっちは何か、
初見のファンみたいだったけど、馬が合ってるらしいな」

夏美と千雨が言葉を交わす。その視線の先では、鳥撃ち帽を被ったアリサが、
アリサと同年代、高校生ぐらいの少年と談笑している。
黒髪がウニの様なツンツン頭の少年だ。そしてもう一人。

「シスター?」
「コスプレだな」

夏美の言葉に、千雨がすぱっと言った。

「ちょっと近くで見たが、マジモンの修道服にあんな装飾あり得ない、
って言うか装飾以前に何の前衛芸術だよありゃ」

「ふーん」

やたら快活そうに喋っている一見シスターなちびっこを眺めながら、言葉を交わす。

「おう、まだいたか」

不意に後ろからガシッと肩を掴まれ、千雨がギョッとして振り返る。


「コタロー君」

「なんだ、一緒じゃなかったのか」

「ああ、ちぃと近場の見晴らしのいい所にな。
いる、いや、いたで」

「いた、って?」

夏美が尋ね、小太郎の表情を見て夏美もやや不安気な表情を見せる。

「魔法ちゅうのは一つに薬草使いや。それは西も東も変わらへん」

「で、ござるな。それをもう少し科学的即物的にしたのが忍びでござる」

「ああ。微かにやけど微妙に癖の違う同じ系統の匂いが三つ、確かに残ってた」

「魔法使いか」

千雨の口調も真剣なものとなる。

「ああ。それも、基本の調合は最近嗅いだな。
日本でも、魔法世界でもない…」

千雨と夏美の喉がごくりと動いた。

「今は逃げられたけど、諦めたかは分からん。
夏美姉ちゃんと千雨姉ちゃんが手ぇ繋いでそのアリサにはっ付いて、
俺と楓姉ちゃんでちぃと離れて別々に追い掛ける、ちゅう事でどや?」

真面目な眼差しの小太郎の言葉に、一同小さく頷いた。


 ×     ×

村上夏美はつい先ほども訪れたファミリーレストランで目を丸くしていた。

「ブラックホールかよ」

それは、夏美の隣で呆れ返っている長谷川千雨も同じだった。
取り敢えず、席に空きはあるし、あの様子だとこちらが食事を終えても悠々間に合う、
何よりあれを見ながら匂いを嗅ぎながら店の真ん中で突っ立っているのは精神的に厳しい。

と言う訳で、夏美と千雨は一端店の外に出て、
使用していた夏美のアーティファクトを解除してから店に入り、手早そうなスパゲティを注文する。
だが、結論を言えば、その後も暫くドリンクバーで粘る羽目に陥りひたすら呆れる。

「あーあ、泣き入ったよ」

千雨の言葉に、夏美は苦笑した。
二人が見ていた先では、伝票が天高く上り詰める勢いでとぐろを巻き、
とうとうスポンサーらしきウニ頭の少年がオーダーストップを哀願していた。

「あのコスプレシスターも凄いけど、アリサさんも」

「ああ、アリサの歌は歌っても作っても思いっ切りエネルギー燃焼系だってさ」

「自分で作ってるんだ」

「ああ」

目標の三人組が動き出したのを潮に、千雨と夏美も重い腰を上げる。
歩き出した二人に合わせる様に、やはり皿の山を残した別のテーブルからもふらりと動きがある。


「うっぷ。勝った、筈や」

千雨が、額に手を当てて嘆息する。

「うん、後でちづ姉ぇに報告しとくから」

「ち、ちっと待てぇ、ここは男として退けん所でなぁ…」

「いや、その有様の時点で負けてるって」

「げぷっ、お、恐るべし暴食エセシスター」

そこまで聞いて、千雨以下の面々は一斉に他人の振りをする。
当の本人が、足運びだけでスタターッとこちらに向かって来たからだ。

「誰がエセシスターなのかな!?それはイギリス清教に対する…」

「おいっ!………」

入口の方から、例の少年が呼ぶ声が聞こえる。
見た目からして、そのウニ頭の少年が保護者っぽい。
一方、小太郎に詰め寄ったシスターは、ちょっと首を傾げて小太郎が被っていた帽子に視線を向ける。

「行くぞーっ」

「待つんだよーっ!」

シスターがタタターッと立ち去り、一同ほっと胸を撫で下ろす。

「イギリス清教?あいつ、マジでシスターだったのか?

千雨がぽつりと呟く。

今回はここまでです。続きは折を見て。








赤松健先生













本当にありがとうございました










それでは、今回の投下、入ります。










「………助かった………サンキュー」

「はい。只、どちらかと言うと見た目の割にはコケ脅しですねこの爆発」

「コケ脅し?」

ナツメグこと夏目萌と共に魔法防壁で千雨達を守った愛衣に千雨が聞き返す。
断続的な爆発に終われる形で、どうやら全員池の丘から降りた様だ。

「ええ。この炎の加減だと、そうなる様に繊細に計算された爆発の様です」

愛衣の説明を聞きながら、千雨は新手の正体を見定める。
千雨達の周囲は、公園の方々にあるアーチ状建造物の上に配置されたメカ達、
甲虫と鴉をミックスした様なデザインの黒い機械に囲まれていた。

「我々は、学園都市統括理事会に認可を得た、
民事解決用干渉部隊である」

「マジかよ…」

長谷川千雨は、麻帆良学園都市の住人である。
科学の学園都市とは系統が違うが麻帆良学園都市も先端科学の街であり、
目の前でアナウンスしている機械が、一人乗りの有人多機能メカであろう、と言う大体の見当は付いた。

加えて、千雨は嗜みとしてフィクションにもそれなりの造詣がある。
更に、丸でフィクションみたいな変な世界にも実体験としてそれなり以上の知識を持っている。
科学の学園都市に就いても、ネット上で可能な限りの下準備はして来た。

科学の学園都市は実質独立国家であり、独自の治安システムを持っている。
その一環として、言わば民営にして公に近いタイプの警備部隊が存在する。
情報の欠片は持っていたし、そう考えるとしっくり来る。

今回はここまでです。
続きは折を見て。


お久しぶりです。
随分と間が空いてすいません。

早速ですが、訂正です。

>>62
×断続的な爆発に終われる形で、
○断続的な爆発に追われる形で、

それでは今回の投下、入ります。

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>>64

 ×     ×

神裂が瞬時に飛び退き、小太郎に背を向けた、
次の瞬間には、ビルの外から神裂の目の前の空中に「黒鴉部隊」のメカが現れ、
神裂とメカの間で爆発が巻き起こる。

「………やりますね………」

呟いた神裂は、そのまま下のステイルに撤退を指示する。
こんな連中まで関わって来たとなると、
これ以上引き延ばせばここの正式な警察機関である警備員の介入を招く。
そもそも正規の許可を受けての出入りですらない、
ここでは存在自体が御法度の魔術サイドとしては論外の事態だ。

「あなたも、背中を狙わなかったのですね」

「アホ抜かせ」

ぼそっと言った小太郎は、
ほんの一瞬とてつもない気が神裂から噴き上がったあの時、
少なくとも10万3千通りは展開された自分のサイコロステーキの妄想を汗と共に拭い去る。
すれ違い駆け抜ける神裂を、小太郎はやる気なさげに手を振って見送った。

 ×     ×

「鳴護アリサに関わるな、死ぬぞ」

その少女は、黒いライダースーツの様な強化服がよく似合っていた。
歳は余り自分と変わらないのだろう、セミロングの黒髪でキリッとした雰囲気。
見た目は美人の部類に入れてもいいだろう。

だからと言って、機動メカから出て来た少女に告げられた言葉に納得した上条当麻ではない。
だから、懸命に追走し、通りの真ん中で停止したメカから現れた黒い少女に散々に食い下がり、
その結果がこの最後通告だ。

そして、少女は警告した先からオートマチックの拳銃を抜いている。
いやいやいやいや、言ってる事とやってる事が違う、
右手以外は一般人である筈の上条さんとしてはあんだけ言っといて今殺す気ですかあんた、
と、内心の突っ込みが口から出る前に、少女は無造作に発砲する。


「よう」

着弾した建物の陰からメカの機体に跳び乗った小太郎が不敵な笑みを見せた時には、
拳銃は右手から左手に移り、ナイフが突き、退いていた。

「ナイフと拳法をいっぺんに使う、あっちの軍隊の流儀やな」

「貴様も素人ではないな」

既に拳銃をしまい、女性にはごついナイフを片手に構えを取る少女と、
急所こそ外した一撃を交わした小太郎が向き合う。
少女もコクピットを完全に離れ、機体上での攻防が開始された。

鋭い刃を交わす小太郎の動きには、まだ余裕があった。
しまいに、小太郎はナイフを手掴みにしてへし折って見せる。
だが、少女は表情に驚きを見せながらも即座にナイフを捨て、
小太郎の脇腹目指して右脚を跳ね上げていた。

「いい判断や」

小太郎は回転しながら大きく後ろに跳び、通りに着地する。

「!?さっきのかっ!」

先ほど、屋上での片脚ジーパン姉ちゃん神裂火織との攻防は見ていた。
正確に把握した訳ではないが、とにかくワイヤーに繋がった爆弾、
実際にはレアアースペレットが幾つも放たれ小太郎の上で展開しているのは確か。

「おいっ!」

離れた所で事態を見守るしかなかった上条当麻の叫びも虚しく、
レアアースペレットはオレンジ色の光を放ち爆発する。
その跡には、肉片一つ残っていなかった。

「逃げたか」


 ×     ×

「な、なんなのよ、こいつ」

夏美が震えながら呟く。
高音チーム、ステイルチームはそれぞれに逃走。
ステイルが工業レベルの高温火炎で、メアリエが消火栓の水を暴走させ、
マリーベイトが土の筒を絡めてメカを文字通り足止めしながら逃走するのを、
上条当麻も追走して姿を消した。

長瀬楓も別の機動メカに追われて姿を消し、残ったのは火力最低少女四人組。
夏美と千雨、アリサにシスターが手を繋いで公園に残っているのだが、
その理由はひとえに動けないから。
黒い機動メカが一台、夏美達の周囲をうろうろして離れようとしない。

「センサーだ」

千雨が言った。

「このアーティファクトは存在感を消すだけ…」

「アーティファクト?」

シスターの呟きが聞こえるが、千雨は少し失敗を自覚しつつ言葉を続ける。

「多分、センサーで機械的にここに人間の反応がある事を察知してる。
だけど、パイロットの脳が私達を認知出来ないんでうろうろしてるって状態に見える」

「そしたらどうするのよ?」

「あのメカのコンピューターに七部衆が干渉してる、じゃなかったらとっくにやられてる。
それでも、こっちに直撃が来ない様にごまかす時間稼ぎが限度だ。
私が直接干渉したら攻撃判定で村上のアーティファクトが剥がれて
メカを乗っ取る前にこっちの居場所が割れるし
その前に割り込むには防壁が硬過ぎる、流石は科学の学園都市だ」

言ってる先から、機動メカに上からすごいあつりょくが叩き付けられ、
メカが煙を上げる。


「こ、この…」

「あらよっ!」

コクピットが開き、中の男性隊員が拳銃を抜こうとしたが、
小太郎が頭突きでKOするのが先だった。

「小太郎君っ!」

「助かった」

夏美が叫び、実際は腰が抜けそうだった千雨もふうっと嘆息した。

「いるでござるか?もうこの辺りは大丈夫でござる」

しゅたっと着地した楓が言い、一端隠れ身を解いて合流した。

「さて、こっからどうするかだ」

とにかくぐっちゃぐちゃの状況を千雨が整理しようと周囲を見回す。

「アディウトル・ソリタリウス」

荘厳に澄んだ発音を聞き、千雨がそちらを見た。

「日本語だと孤独な黒子。
日本語だと皮膚の黒い点とか学園都市産のグドンのエサも同じ漢字を当てるみたいだけど、
同じ意味の漢字で言うなら、お芝居で黒い服を着て、そこにはいない事になっている人だね。
言い伝えられているだけでも280年前より後の記録が無い魔法具。
生きている間に伝説通りの効果を身をもって知る事が出来るとは思わなかったんだよ」

そう言いながら、シスターは、きょとんとしている夏美から視線を移す。

「パクティオーカードと言う事は君がマスターなのかな?
日本でも西の方の魔術師は西洋の魔術を使うのを嫌う人が多いって聞いていたけど」

ちょっと聞く分には子どもっぽい口調でもあるが、穏やかな威厳すら感じられる。
そんなシスターの声に夏美が息を呑み、小太郎が身構えた。


「君の術式は陰陽術、基礎を覚えて、後は使う所を我流で摘む使い方だね。
体術の補助に、「血の制御」にも使っているんだね」

小太郎の眉がぴりりと上がった。

「あなたの後ろに隠れているのは雷の精霊、
電気を媒介に急速に発展した科学に介入するために進化した変種だね。
直接知らなくてもコンセプトから理屈は分かるんだよ。
いとめののっぽさんは甲賀流の忍者さんだね」

「何の事でござるかな?」

ごくりと息を呑む千雨の側で楓が飄々と応じる。

「甲賀忍術の発祥は諏訪明神、そこに地理的な条件が加わって
薬草使い、陰陽道、密教、修験道、各種の山岳信仰の魔術と科学が実用的に進化したのが忍術。
日本の戦国時代には軍師と呪術師の明確な境界線は無かったんだよ」

「な、何なんだよ、こいつ…」

「それで、どうするの?」

焦りを見せる千雨に、シスターは静かに尋ねる。

「さっきの黒いサラマンダーも知り合いなんだね。
サラマンダーが使っていた箒はオソウジダイスキ。
いわゆる魔女の箒を定形化した、「学校」の魔術師を中心に使われているもの。
基本から体系的なラテンの詠唱魔術を使う統率のとれた集団。
日本、それも関東であの歳であれだけの実力でそういう魔術集団は一つしか考えられないんだよ。
あなた達は別行動だったみたいだけど、
そういう繋がりがあってこれだけの魔術を使う集団がここに、学園都市にいていいのかな?」

「ヤバイぞ」

「で、ござるな」

チラと周囲を伺った小太郎と楓が、揃って硬い口調で言う。


「これ、いよいよ警察か何かか?」

「その様でござるな」

「アンチスキルが来たのかな?
だったらこれ以上いられない、あなた達はもっとだよね。
行こう、アリサ」

「え?」

元々通じない話を千雨達に向いて喋っていたシスターに
不意に声を掛けられてアリサも戸惑いを見せる。

「頼んでいいんだな」

「アリサは私の、私とととうまの、大切な友達なんだよ」

「頼んだ」

「夏美姉ちゃん」

「分かったっ!」

間一髪、千雨とシスターの間で合意が成立し、
アリサ達が姿を消して夏美に始まる人のチェーンが繋がるのと、
アンチスキルが本格投入されるのは辛うじて入れ違った。


 ×     ×

「転移ポイントはっ!?」

「もうすぐですっ!」

「ん?」

上条当麻は、本日も不幸であった。
ここまでの騒ぎとなると、流石にアンチスキルも動き出す。
そもそも、「学園」と「都市」が同義語に近いこの学園都市では、
学園的秩序、発想に直結して学生の夜間外出自体が厳しく制限されている。

と言う訳で、上条当麻は今日も走る、走る走る走る、
目の合った職務熱心な警備員ボランティア先生を振り切るべく全力でダッシュする事幾度か、
薄氷を踏む思いをしながら、目の合わない内に建物から建物へと駆け抜けた事が幾度か、
近くに聞こえるサイレンと逆方向に駆け出した事もしばしば。

そうこうしている内に、既に大方の営業が終わったビル街で、
上条の視界を見覚えのある人影がよぎった。

「おいっ!」

ビル街の中の空き地で、
高音・D・グッドマン率いる魔女見習い三人娘は呼びかけに振り向いた。

「あの人…」

全三人のチームの内の一人、佐倉愛衣が呟く。
視線の先で両手を腿に当てて息を切らしているのは、
先ほどなし崩し的に共闘する事となったウニ頭の少年だった。

「ハァハァ一体ゼェどういうハァ事なんだゼェゼェっ!?
どういうハァハァ事なんだ?
ゼェハァお前達もゼェ魔術のゼェ人間なんだろ?ハァハァ
魔術の人間がどうしゼェゼェてアリサをゼェゼェ襲う?アリサに何がハァハァあるって言うんだ?」」

「お姉様、時間が。それにこれ以上は…」

同行した夏目萌に促され、
元来の誠実な性格でウニ人間のブツ切り言語を解読しようとしていた高音が頷いて歩き出す。


「待てよっ!」

力強い怒声が、三人の歩みを止めた。
そして、振り返った三人の美少女は、叫びの主、上条当麻と正面から向き合う事となる。

「お前ゼェゼェら魔術ハァハァ師ハァハァアリサハァ、ハァ」

既に相手の事すら半ば見えない状態で、只、逃がしてたまるかと言う一念だった。
駆け出した上条当麻だったが、体力は限界。
言葉もほとんど繋がらず、吐き気を抑え込むのがやっとの有様。
それでも、歩みを止めた三人にようやく向き合う事が出来る、
と言う客観的状況下で、上条の脚が限界を迎えた。

「お前ハァハァらハァハァアリサハァハァにハァハァ」

もつれた足が大きめの石ころを踏みつける。
完全に限界を迎えた脚の均衡が崩壊する。
三人の美少女は一歩、二歩と、上条当麻に正面から向かい合う形で後退していたが、

「ハァハァ一体ハァハァ何ハァハァをハァハァハァハァ」

何とか痛い転倒は回避しようとした上条当麻は、
ゴシック調の揃いの黒衣姿で自分の方を向いて横並びに立っている
目の前の三人の中でも真ん中で一際背の高い、
金髪のロングヘアがよく似合う美少女の肩を、空中を泳がせていた
右手で、ガシッ、と掴んでいた。


==============================

>>73

今回はここまでです。

これの元となった過去作を映画の記憶で描いた時とその後に観直したものとで、
規模等にかなりの違いが見られましたので、この公園戦に関しては大幅な書き換えを行いました。

続きは折を見て

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 17:42:20   ID: S:nNN8D1

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