勇者「魔王を倒しに行く」 (6)


私は勇者。
何の変哲もない村で生まれ育ったが、幼い頃から魔王についての話をよく聞かされ、植え付けられるようにいつも私の心のなかで魔王に対する嫌悪感を抱いていた。魔王は悪いやつなのだ、とか、魔王は倒さなければならないのだ、とか、そんなふうに。食事をするときも、外に出て話をするときも、皆私にする話は魔王のことだったが、それが当たり前だと思っていた私は魔王を倒すこと一筋に考えて生き、気がつけば勇敢に魔物と戦い、村を立派に守れるほどの騎士になっていた。私も立派になったのだな。
ある日、村長は私に言った。「魔王を倒してこい」と。それは突然のことだった。私は拳を握った。やっときたのだな。幼い頃からの努力が実ったようだ、このために生きてきたのだ。

「はい、必ずや。魔王を倒して参ります」

周りから歓声が上がる。村人たちも私を応援してくれているようだった。
「嬢ちゃん、よく言ったぜ!」
「幼い頃から見てきたが、ここまで大きくなったんだなぁ。オラ感激するよ」
「あたい、とびっきりのご馳走用意しとくからね。ガツンと一発かましてきい」
みなさん、ありがとうございます。と私は一礼する。今、私は出発するのだ。


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私は村を出た。
この原っぱも魔物退治でよく通った。私は今から魔王退治に行くぞ。私はそう原っぱに伝えるように笑顔をつくる。どんどん歩いていくと、少しずつ平和な情景はなくなり、枯れた木が茶色くなった葉っぱを散りばめている薄暗い山道を私は登り始めていた。ここから先はまだ正確に登ったことはない。魔物退治のために薄暗い場所で訓練をしたことはあるが、実際に魔王がいる道へと踏み込んだことはなく、山を登った頂上に魔王がいるということを知っているだけだった。この先に魔王がいるんだなぁ。私は足を進める。
やがて奇妙な生物も現れ、私の頭上をある黒い物体が通り過ぎる。それはパタパタと羽ばたき、キィキィと鳴き声を上げながら飛んでいく。コウモリだ、もう随分と奥まで来たのだな。もうそろそろだろうか。あの坂を超えたならば…
私は坂を登りきり、ある広場に出た。
そこは、とても静かで、耳をすませば空気が流れている音が聞こえてきそうだった。ふと、そいつは言った。

「きたか…」


見ると、そいつは黒いマントで身を隠し、座って私を見ていた。顔はよく見えない。背丈は私と同じくらい、いや、私よりも小さいのではないか。その姿はまるで、プリンの上に小さくふんぞり返るように乗せられたさくらんぼのようであった。
「貴様が魔王か」
「…いかにも」
図太い声で返事をする。
私は魔王に向かって剣を振りかざした。
「私は騎士だ。村の意向に従い、貴様を倒しに来た。尋常に私と戦え」「見たところ女だな。かよわい娘がわざわざ戦いを挑んでくるとは、泣かせてくれる」なにぃ。魔王は立ち上がる。
「お前、今俺がプリンの上に小さくふんぞり返るように乗せられたさくらんぼのようだと思っただろう」
「なっ」何で分かった。私は言葉を飲んだ。
「お前の考えていることは手にとるように分かる。それが俺、魔王の持つ力だ」
「なんだと」
「だが俺が持っている力はこれだけだ。俺には戦う力はないので、お前と戦ったならお前が勝つこともまた事実であろう」
はぁぁ?
「だから話し合いをすることをお前に希望する」
何を言ってるんだこいつは。私はギリギリと歯を鳴らした。


「そんなことを言われても困る」私は幼い頃からお前が悪いやつだと聞かされてきた。お前がやった数々の悪行も沢山聞いた。お前は悪いやつなのだろう。そうならば、私はここでお前を叩き切る!━━━━━そういうと、魔王はため息をついて、諦めたように肩を鳴らした。ポキッポキッという小さな音が、なる。今誰かチップスでも食べたか。
ふぅ…と魔王は息を吐く。次の瞬間、魔王は体を構え、私目掛けて走ってきた。来るんだな、魔王!
「小娘が、いきがりやがって。いいだろう、逝け」ふっ!ふっ!と魔王の手から火が放たれる。「オラオラオラオラァ!タァラ!」魔王は私の腹に1発をかました。
だが、何にも痛くない!私は剣を振りおろした。すると、魔王は「ギィエエエエエ!」と叫んで消え失せていった。

私は剣をしまって村へ帰った。
魔王を倒したことを伝えると、村人たちは盛大に喜んで私の勝利を祝った。私の魔王討伐の人生は呆気なく終わりを告げたのだった。
私は空を見上げて思った。私の人生は、今からなのだな。

~完~

4p漫画にするべき

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