モバマスSSです。
嘘です。
そこは346プロダクションの事務所の一室で、アイドルたちがレッスンや打ち合わせの合間、空いてしまった時間を他のアイドルと雑談をして過ごす。あるいは、特に予定はなくともおしゃべりを目的として入り浸ることもある、たまり場のような部屋だった。
その部屋に、ひとりのアイドルが足を踏み入れた。佐久間まゆだ。
時刻は午後の6時半、まゆはこの日予定されたレッスンを終え、シャワーで汗を流したあと、半ば習慣となっている足取りでこの部屋にやってきた。
さっと室内を見回し、小さくため息をつく。
もしも誰かがいるようなら少し世間話でもしていこうと思ったが、あてが外れたらしい。
なお、彼女の担当プロデューサーは52キロメートルほど離れたイベント会場へ打ち合わせに出向いており、今日は事務所には戻らずに直帰することをまゆは知っている。
であれば、もう事務所に用はないのだが、まゆは「うふふ」と小さく声を漏らし、そっと目を閉じた。
その脳内では、現実と比較しても遜色ない鮮明さで、めくるめく純愛ラブストーリーが展開されている。
大まかな内容は、まゆがプロデューサーに思いを告げ、恋人関係になる。ふたりは人目を忍んで逢瀬を重ねるが、プロデューサーは互いの立場を考え、一線を踏み越えることはしない。しかしやがて、つのる想いに我慢ができなくなり――といったものだった。
こういった空想にふけることは、まゆにとっては珍しいことではない。誤算があったとすれば、その部屋にはもうひとり、鷺沢文香がいたことだ。まゆがやってくるよりも、遥かに以前から。
まゆは入室した際、たしかに部屋の中を見回した。その上で無人であると判断し、安心して白昼夢へと飛び立った。しかし人間の目は、動くものを優先して認識するようにできている。ソファに身を沈め文庫本に目を落とす文香は、さながら彫像のように微動だにせず、室内の家具・調度品と同種の物質であると区別された。つまり、気付かれなかった。
文香も、読書に集中するあまり、周囲の変化には気付かないことが多い。
そのとき、文香が手にした本の残りのページ数は全体のおよそ6分の1程だった。物語はまさにここからクライマックスに入る。この地点で一度集中を解き、ひと息入れる。文香はこの瞬間が好きだった。文字しか映っていなかった視界に景色が戻り、少し埃っぽい匂いが鼻腔をくすぐる。耳にも音が入ってきて――まゆの存在に気付いた。
まゆは両頬に手を当て、困ったように首を振りながら、なにやら声を発している。
妄想にのめり込むあまり、独りごとをこぼしているだけなのだが、文香にはそれはわからない。もしや、自分はまゆから話しかけられていて、それを無視してしまっていたのでは? 文香はそう考えた。
まゆはどこか困っているような様子だ。自分はなにか相談を受けているのかもしれない。文香はじっとまゆの声に耳をかたむけた。
無意識にこぼれ出しているひとりごとである。他人に聞かせる前提ではない。その独白は理路整然とは言い難く、話の主旨をつかむことは極めて困難だった。
それでも、文香はぽつぽつと発せられる言葉の断片を必死に繋ぎ合わせ、足りない情報を推測で補い、理解しようと努めた。そして、次のようなストーリーが紡ぎ出された。
『まゆは彼女のプロデューサーと恋仲であり、すでに深い関係にもなっている。まゆは子供を欲しがっているが、最近のプロデューサーは多忙のためかストレス性のEDに悩まされており、夜の営みをおこなうことが難しい』
――なるほど、と文香は心の中でうなずいた。
そんなことを私に聞かされても、という思いは正直ある。しかしこれが他人には話しづらい悩みであることは、朴念人を自覚する自分でもわかる。まゆが恥を忍んで相談している以上、ここはなにかしらの助言を返すべきだろう。
なぜ自分に相談したか、それは日頃から息を吸うように文字を追っていることによる、蓄積された知識をあてにしたに違いない。
文香は頭の中にある書物の山を漁り、まゆの悩みを解決できる回答を探した。
そして、見つけた。
まゆの独白がひと段落ついたところで、文香は、「まゆさん」と静かに話しかけた。
まゆがびくりと身を震わせて文香に目を向ける。
文香は小さくうなずき、まゆに微笑みかけた。
「……スタンロッドを肛門に突っ込み、電撃を流すとよいそうです」
*
文香がぺこりとお辞儀をして、部屋から去っていく。その背中をぽかんと見送り、姿が見えなくなったところで、まゆははっと我に返った。
え、文香さんいつからいたんですか? 私、もしかして声に出してました? どうしよう、すっごい恥ずかしい……
顔を真っ赤に染め、頭を抱えてうずくまる。いやんいやんと首を振りながらひとしきり恥じらったところで、まゆは文香の残していった謎の言葉を思い出し、首をかしげた。
「……すたんろっどって、なんでしょう?」
スマートフォンを取り出し、検索する。
“スタンロッドとは、電撃を発する棒状の武器である。スタンは気絶という意味で、殺傷力は低く、主に護身用とされる。キャトル・プロッドとも呼ばれる”
……ああ、スタンガンのスタンですね。
それが棒の形状をしてるからロッドと、文香さんは博識ですねぇ。
なるほど、これをお尻に突っ込んで……お尻に!?
お尻に!?!?!?!?!?
いやいやいや、いやいやいやいやいや。
それはないでしょう。お尻は出口ですよ、なにかを入れるところじゃありませんよぉ。
『スタンロッドを肛門に突っ込み、電撃を流すとよいそうです』
……なにがどう、『よい』んでしょう?
もしかして――
ここにもうひとつの誤解がある。
文香が導き出した答えは、電気射精法――男性機能の障害に対する療法のひとつで、強制的に射精をさせる方法だ。
文香はまゆから相談を受け、それに答えたつもりでいた。だからそのセリフには不足があった。『誰の』肛門か、という部分だ。
文香としては言うまでもなく、『プロデューサーの』である。自明だから省略した。しかしそれは、二者の間で会話が成立していたらの話だ。
だから、まゆは間違えた。
「――もしかして、気持ちいいんでしょうか……?」
改めて検索した画像を見ても、とてもこれが肛門に入るとは思えない。死んでしまう。
やはり聞き間違いだったのではないか、と思いつつグーグルのトップページに戻り、なにか悪いことをしてしまっているような気持ちで、『肛門 拡張』と検索ワードに打ち込む。
すると、894万件の検索結果が出迎え、世の中の人々はこれほどまでにお尻にものを入れたがっているのか、とまゆを戦慄させた。
最初のほうに出てきたのは、医療関係のウェブサイトのようだった。痔の治療の一環らしい。しかし順に検索結果を追っていくと、たしかになんらかの異物を挿入することを目的とした解説をするサイト、それから、そのための道具の通販をいとなむショップが多数あった。
いくつかのサイトをめぐり、ざっと内容に目を通す。どれも説明は似たようなものだった。特に重要なのは、最初は細い、小さいものから、時間をかけて少しずつ慣らしていくこと。
続けて通販ショップの器具を眺めた。数珠のように球が連なっているものや、丸みを帯びた菱形の形状をしているもの、それに前衛芸術の作品のような、よくわからない形のものもある。
思わず感嘆の息をつく。実は自分が知らなかっただけで、みんな陰ではずっとお尻の穴を広げていたのかもしれない。
まゆは比較的可愛らしいように見えたピンク色の数珠状のものを選び、『カートに入れる』ボタンを押した。それから遷移した画面で「ご一緒にこちらも!」と薦められた潤滑剤もカートに入れ、どきどきと高鳴る胸を押さえながら決済に進んだ。
……これで、いいんですよね? 文香さん。
*
それから、護身用品のネットショップでスタンロッドも購入した。
いくつか形のバリエーションがあったが、用途を考えてなるべく角や凹凸のない、円柱状に近いものを選んだ。
2日後の深夜、寮の自室で配送されたダンボール箱を開封し、ゴクリとつばを飲み込む。
画像と実物では、受ける印象がまるで違う。ロッドは太く、固く、大きかった。先端の部分は更にひと回り太くなっていて、握りの部分の少し上に電撃のスイッチがある。
思わず肛門に力が入り、先に到着していたビーズをきゅっと締め付けた。
このロッドを入れるには、相当な拡張が必要である。
もちろん時間はかける。しかし改めて目標の大きさを目にすると、現在お尻から垂れ下がっているこれだけでは、やや心もとない。
考えたまゆは、新たに『プラグ型』と呼ばれる形状のものと、脱落防止用のバンドを購入した。そして夜の自室だけでなく日中も、常に道具を入れたままで日々を過ごした。学校でも、レッスンでも、アイドルとしての仕事中も。
当然ながら最初は異物感がひどく、動くと痛みがあった。プロデューサーから肩をぽんと叩かれて、思わず払いのけてしまったこともある。
しかしそこは若い体である。まゆの肛門は柔軟に変化を受け入れ、環境に適応した。
「急に動きが悪くなった」とトレーナーたちを訝しませたダンスレッスンも、やがては完璧とお墨付きをもらえるようになった。
最終的に、まゆはおよそ半年間の時を費やした。
慣らしながら少しずつビーズやプラグを大きくしていき、今ではゴルフボールほどの大きさも無理なく飲み込めるようになっている。
決行の日と定めたその日の1週間ほど前から、まゆは固形物の摂取を絶っていた。さらに当日は強力な下剤を飲み、腸の中を空にした。
時刻は深夜の零時、まゆは丹念にシャワーを浴びて、その肢体を磨き込んだ。
髪を乾かし、スキンケアを済ませて、一糸まとわぬ姿のままキャビネットの引き出しを開く。
購入し、動作確認をした日からずっと引き出しの中で眠り続けていたそれは、黒いボディにカーテンの隙間から射し込む月明りを反射して、静かに妖しい光をたたえていた。
ベッドの上で四つん這いのような姿勢を取り、ロッドを持った手を後ろに伸ばす。
先端の、少し太くなっている部分を肛門にあてがう。
「んっ……!」
体を貫く鈍い痛みに手が止まる。
意識的に深く呼吸をし、息を吐くリズムに合わせて、ゆっくりと押し込んでいく。
急ぐ必要はない、ゆっくりでいい。ゆっくりと、少しずつ、少しずつ――
やがて、ロッドがその全長のおよそ六割ほどをまゆの体に沈めた。
出てきてしまわないように、最低限の押し込む力を加えながら取っ手を探り、スイッチに指をかける。
本当は、気付いていた。
最初は確かに思っていた。文香が自分にこのような行為を推奨したと。
だけど、詳しく調べていくうちに、だんだんとわかっていった。
私は、なにか勘違いをしている。
文香が本当に言いたかったのは、決してこういうことではないのだと。
だけど、もう鍵は解いてしまった。その扉に、手をかけるところまで来てしまった。
引き返せる地点はとっくに踏み越えてしまっている。今更、後戻りはできない。
――だから私、やります。
まゆは笑った。
誰もいない自室で、見る者すべてを魅了するような微笑をたたえて、震える指先に力をこめた。
この扉の先に、まだ見たことのない、新しい世界があると信じて。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
*
ある時期から、佐久間まゆの人気が急上昇した。
きっかけらしいきっかけはない。前後に特別大きな仕事があったわけでもなく、それまでと同じような仕事を、それまでと変わらない頻度でおこなっていた。ブレイクの理由は、まゆ自身の変化によるものだった。
具体的になにがどう変わったのかと言われると、説明は難しい。曖昧な言い方をすれば、雰囲気が変わった、表情や立ち振る舞いに蠱惑的な魅力が宿った、といったところだろうか。
16歳、大人と子供の境目のような年齢である。多くの人々はこれを、蝶が蛹から羽化するような、少女から大人の女への変化であると思った。
しかし中には穿った見方をする者もいる。「恋人ができたのではないか」と。
相手については、手掛かりのひとつもない。ただし内部の人間にとっては、まゆが自分の担当プロデューサーに恋愛感情を向け、さまざまなアプローチを繰り返していたことは周知の事実である。
よって、「あいつ、とうとう手を出してしまったのか」と思う者も、少なくはなかった。
これを否定できる人間はふたりいる。まゆと、そのプロデューサーだ。なにしろ身に覚えがないのだから。
だからこそ、プロデューサーは悩んだ。まゆのこの変化はどこから来たのか?
特に理由はない、単純に成長によるものであるならいい。しかしもしも、万が一、巷で言われているように男ができたのだとしたら。
思えば、心当たりはあった。
かつてはボディタッチが多く、距離が近すぎるとプロデューサーを困らせてきたまゆが、一時期極端に接触を避けるようになっていた。手を払いのけられたこともある。直後に丁寧な謝罪をしてくれたが、内心かなりのショックだったことを覚えている。
あれは、まゆの心が自分以外の誰かに向いたという証拠なのではないか?
掻きむしるようにシャツの胸元を握り、プロデューサーは愕然とした。
想像したその瞬間、己の心の内に湧き起こった感情が、アイドルの不祥事を恐れる担当プロデューサーではなく、明らかにひとりの男としての、胸を焦がすような強烈な嫉妬だったからだ。
一度自覚してしまえば、想いは日に日につのる一方だった。「綺麗になった」「色気が増した」と世間でささやかれるまゆの変化に誰よりも魅了されていたのは、他ならぬプロデューサー自身だったのかもしれない。
そして、プロデューサーはまゆに正式に交際を申し込み、まゆは感激のあまり涙を流しながらそれを承諾した。
それから、「恋人なんていたわけがない」と改めてまゆの口から聞いて、プロデューサーは心の底から安堵した。噂は、ただの噂でしかなかったのだと。
年齢的にも立場的にも許されるものではない。ふたりの関係には、この先、幾多もの困難が待ち受けているのだろう。それでもプロデューサーは、寄り添うように隣を歩くまゆを、この世の誰よりも愛おしいと思った。遠慮がちに指を絡ませてくる小さな手を、もう一生放しはしないと誓った。
だから、ふたりが初めて肌を重ねた夜、プロデューサーの男性器を目にしてぽっと頬を赤らめていたまゆが、心の片隅ではそのサイズや形状を、自室の鍵のかかったキャビネットの奥で静かに眠る、太くて固くて大きくて電撃を発する棒状の物体と比較していたなんてことは、きっと彼には永遠に知る必要のないことだ。
~Fin~
何でこんな内容のssを思いついたんだ(誉め言葉)
乙
なんなんだこれは…なんなんだこれは…
腸内に電気系は失敗すると死ぬよ……Du○aの拷問系のAVでも一度見ておこうな
ううん、頭おかしい(賛辞)
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