【モバマスSS】肇の憂鬱な一日 (6)

 
 白い息が空へと消えていく。
 灰色の空がつくる冷たい空気は、マフラーと手袋をしていても私を十分に凍えさせた。
 私は昼でも燦々とするイルミネーションを横目に、事務所へ足早に向かった。



 事務所へ入ると、空調が作り出したぬるい温かさに包まれる。
 マフラーと手袋を鞄にしまいこみ、中を見渡した。
 やっぱり今日は人も多いように感じる。
 クリスマスだからか、ほとんどの子がオフを貰っていた。私もその一人だ。
 特に友達と約束していることもないから、私は事務所へと何の目的もなくやってきたことになる。

 そうだ、プロデューサーさんに挨拶はしていこう。
 いや、何かを誘ってみるのはどうだろうか。
 買い物でもいいし、何処か出かけるのもいい。
 私は空想を描きながら、プロデューサーさんを探し始めた。
 道中にその姿はなくて、結局プロデューサーさんの部屋まで辿り着く。
 コンコン、とノックをする。
 すぐに「どうぞ」と返ってきた。

「失礼します」
 
 ドアを開け、机をみる。

「プロデューサーさん、あの――」

「Pくん遊びに行こうよー! 折角のクリスマスなんだよー!」

「みりあも! みりあもー!」

「ちょっ、忙しいって言ってるだろ。今日は外せない仕事があるんだ。ごめんな」

「えー。デートしようよー」

「プロデューサーさん。デートなんて、しませんよね……? うふふ……」

「し、しないって。……だぁーもう莉嘉離れろよー!」

 ……何やら賑やかだった。
 プロデューサーさんはたくさんの他の子に囲まれていた。

「――って、肇じゃないか。どうかしたのか?」

「い、いえ。何でもありません」

「何だ? 具合でも悪くしたか?」

「あ、あの。本当に何でもないんです。……失礼しました」

「あ、ちょっと、肇!」

 プロデューサーさんに呼び止められたけれど、私は部屋を出ていってしまった。
 しばらくして、また部屋からは賑やかな声が聞こえてくる。
 私は逃げるようにして、その場から立ち去った。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1544282301


 ……馬鹿だな、私。
 心からそう思う。
 プロデューサーさんを誘おうだなんて。
 プロデューサーさんは私だけのプロデューサーさんじゃない。仕事だってあるんだし、私のためだけに時間を割いてくれるなんて、傲慢もいいところだった。
 プロデューサーさんはみんなのプロデューサーさんなんだ。
 ……今日はどこかでじっとしていよう。

 窓を眺める。灰色はより濃くなって、いつの間にか白い雪が降り始めていた。



 事務所の玄関へと戻ってきた。

「肇ちゃん」

 声がかかって、振り返る。
 加奈ちゃんと藍子ちゃんがそこにいた。
 厚着をしているところを見ると、これから二人も外へ出るのだろうか。

「これから用事?」

「いえ。少し外を歩きたくなりまして」

「それなら、私達と散歩しませんか? 今日は特別な日ですし、きっと楽しいですよ」

「肇ちゃんがいいなら、一緒に行こうよ!」

「――はい。散歩、私も混ぜてください」

 私はすぐに頷いた。
 少し陰鬱な気分を忘れたかった、というのもあるかもしれない。


 商店街を私達は歩く。
 周りには赤や緑や、色とりどりの装飾に溢れ、見ているだけでも楽しい気分になってくる。
 実際に子供はそんな飾りに目を輝かせて、あちらこちらと動き回っている様子だ。通り過ぎていくカップルも笑顔を見せている。
 藍子ちゃんの言った特別な日とはまさにこのことだと思う。
 ここには幸せが溢れかえっていた。

「わあ、綺麗……」

「はい。……本当に綺麗ですね」

 広場のような空間にそびえる大きいもみの木。LEDが取りつけられていて、人の視線を一挙に集めている。
 綺麗に輝いていて。
 人の目をひいて。

「――私も、ああなれたら」

「え? 何か言いましたか?」

「あ、いえ、気にしないで下さい」

「肇ちゃん元気ないよ? どうかした?」

「そんなこと、ないですよ」

「あ、そうだ!」

 藍子ちゃんが何かを思いついたようだ。

「肇ちゃんにおすすめしたいスポットがあったんです。行ってみませんか?」

「私に、ですか?」

 藍子ちゃんは頷く。
 私も応えるように頷いた。


 裏路地を抜けて、雑踏から遠ざかる所。
 藍子ちゃんのおすすめしたいスポットというのは、どうやらお店のようだ。
 大通りに建ち並ぶ店の雰囲気とはうって変わって、ここのお店は随分と年季を感じる。
 足を踏み入れる。
 私はすぐに目を丸くすることとなった。

「……すごい」

 お店で売られているのは器やお皿だった。
 しかもほとんどが焼き上げられたもののようだ。
 所狭しと並べられたそれらに、私は心踊らずにはいられない。

「肇ちゃんならきっとこのお店を気に入ってくれると思いましたから」

「はい!気に入りました!」

「ふふっ、肇ちゃん。おおはしゃぎだね!」

 私はたくさんの器を手に取り、その感触を確かめる。
 心地いい。
 丁寧で、熱意が直に感じられる。
 私が一番惹かれたのは、少し茶色がかった器だった。
 私が理想とする器はこれなのかもしれない。

「それがいいの?」

「はい。何故かはよく分からないんですけど……でも、何だか惹かれてしまって」

「ほう。珍しいもんだ」

 不意に声が奥から聞こえてくる。
 その内現れたのは白い髭を携えたおじいさんだった。

「若いもんがそれに『惹かれる』なんとな」

「あの……?」

 加奈ちゃんが少し怖がりながら尋ねる。
 もちろん私も彼が誰かはわからない。
 藍子ちゃんがおじいさんの隣に駆け寄り、私たちに紹介する。

「この方はこの店の店主さんです。以前は陶芸をしていて、ここの商品は全て弟子の作品だそうです」

「君かい?若くして陶芸家を志す女の子というのは」

「は、はい」

 藍子ちゃんも合わせて頷く。どうやら、私のことをいつかに話していたようだ。
 おじいさんは顎をさする。

「珍しいものだな。先日も買った若造はいたが……彼は惹かれたわけではなかった。だから君みたいな子は本当に珍しい」
 
 悲しげに呟いた。

「若者はあのような脚光を浴びるような物を好むと思っていたが」

 指差した先で、路地の隙間から先程の商店街が見えた。
 確かにそうだ。
 若い子達はきっと、ああいう派手なものを――。

「君は違うのだね」

 何故だろう。
 そんな意味ではないとわかっているのに。
 違うというその一言は、私を否定する言葉に思えて仕方なかった。

Rにスレたてしてるので
そちらをどうにかしてください

申し訳ありませんが、しばらくの間更新が不可能となりましたので、未完のままとさせていただきます

すいません

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom