――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「…………」
高森藍子「…………」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第61話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ある意味でヤバイカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェの奥の席で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「今日までのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「似ているカフェと、黄昏色の帰り道で」
<ぴろん♪
加蓮「ん」
藍子「……」
加蓮「……見てあげたら?」
藍子「じゃあ、失礼しますね……」ポチポチ
加蓮「……」
藍子「……」
藍子「……」ポチポチ
加蓮(あぁそうだ、ついでに私も見とこ。……凛からなんか来てる。次のLIVEのレッスンの日程……ふうん)
加蓮(分かった、奈緒にも伝えてあげて、っと)ポチポチ
加蓮「よし。……連絡、終わったの?」
藍子「……はい」コクン
加蓮「そ」
藍子「……」
加蓮「……」ズズ
藍子「……」ズズ
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮(……オフの日だったから、なんとなくいつもの流れで藍子を呼んで、なんとなくいつも通りにコーヒーとココアを頼んで)
加蓮(それから10分くらい、ずっとこうしている)
加蓮(気まずいか気まずくないか――正直に言えば、それほど気まずくはない)
加蓮(カフェで2人で、ほとんど喋らないまま時間を過ごす……っていうのは、前にもあったことだし)
加蓮(っていうか結構あるし。私達は何も、いつも喋っている訳じゃない)
加蓮(喋らないと相手を認識できない関係じゃないんだし。だからこれは、いつもの時間。よくあること)
加蓮(の、筈なんだけどね……)
加蓮(ひどく深い溝ができた)
加蓮(あの日、夕焼けの中で私が歌った時から)
加蓮(ケンカをした訳でも、泣いた訳でもない。藍子が俯いている訳でもないし、私が余計なことを言った訳でもない。……筈)
加蓮(ただ、私と藍子の間で、断崖ができあがった)
加蓮(そのせいで、ちっとも暖かくない)
加蓮(風邪の時にいくら着込んでも寒気はなくならないように、藍子の顔を見ていても何も面白くない)
<ぴろりん♪
加蓮「……ん、私だね。見ていい?」ガサゴソ
藍子「どうぞ」
加蓮「あれ、凛からじゃない……。グループの……うん? 茜から??」
『ボンバー!!!』
加蓮「……………………何が?」ポチポチ
加蓮「うわ、返信早っ」
『ボンバー!!!!!』
加蓮「だから何が!?」ポチポチ
加蓮「……」ピロリン
『ボンバー!!!!!!!』
加蓮「……ほっとこ」ポイ
藍子「……」ポチポチ
加蓮「……」
藍子「……」ピッ、コト
加蓮「……」
藍子「……」
<ぴろりん♪
<ぴろりん♪
加蓮「……あーもう面倒くさい」ポチポチ
『無視しないでください加蓮ちゃん!!!!』
『あかねちん、それじゃかれんも分かんないと思うよ』
『(やれやれ顔のスタンプ)』
『伝わります! 気合です!!! って奏ちゃんが言っていました!』
『はやみーがそんなこと言ってたの!? マジで!?』
『(ガビーン! のスタンプ)』
加蓮「……何の話? っと」ポチポチ
加蓮「……」チラ
藍子「……」ズズ
加蓮「……」ポチポチ
『あっ奏ちゃ』
『どうしたあかねちん!? 応答せよ! 応答せよーっ!!』
加蓮「結局何だったの……」コト
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
加蓮(前にドラマの台本で……あれはカフェじゃなくてファミレスだったけど、こうして女子高生がつるんでて、でもやってることはスマフォいじりっていう、そーいうシーンを演じたことがある)
加蓮(その時は、へーそんな薄っぺらい関係なんだ、馬鹿みたーい、って程度にしか思わなかったけど)
加蓮「……」ズズ
藍子「……」パラパラ
加蓮「……なんか新しいメニューある?」
藍子「……」チラ
藍子「……特にないみたいです」
加蓮「そ……」
藍子「……」
加蓮「……」
<ぴろりん♪
加蓮「……ん」ポチポチ
加蓮「今度は奈緒からか。次のLIVEが楽しみ? はいはい楽しみ楽しみっと」
加蓮「……」
藍子「……私も」
加蓮「ん?」
藍子「絶対見に行きますね。……、LIVE」
加蓮「ん……」
藍子「私が行ったら、邪魔ですか?」
加蓮「邪魔って……。……何言ってんの。最初から「うん、邪魔」って言われないって知ってて言ってるでしょ?」
藍子「……そうです、よね。なんだか、不安になっちゃって」
加蓮「ってか同じアイドルでしょー? そこは、行く、だけじゃなくて、乱入する、くらい言わないとー?」
加蓮「それならむしろ邪魔するくらいがちょうどいいんじゃないのー? あははっ」
藍子「あ、あははは……」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……」
藍子「……」ズズ
<ぴろりん♪
加蓮「ん……」ポチ
『お邪魔するわよ』(茜のアカウントより)
『誰!?』
『(ガビーンのスタンプ)』
『奏よ。ちょっと茜のスマホを借りてるわよ。もうすぐ充電が終わるの』
『あ、あかねちんは無事なの!? 声を聞かせてよ!!』
『加蓮、いるんでしょ?』
『あかねちんを出せーっ!』
『未央はちょっと黙っていてくれるかしら』
『ハイ』
『あと気合で伝わるなんて私は言っていないから。誤解しないでね』
『ワカッテマス』
加蓮「いるけど? っと……。っていうか、何やってんの奏」ポチポチ
『茜、こう見えて結構怒ってるみたいよ』
『私に?』
『あなたに』
『私、なんかしたっけ』
『加蓮が直接何かしたってことはないでしょうね。ただ、結果そうなっただけよ。あなたは悪くないと思うわ』
『で?』
『あら。もしかして機嫌を損ねちゃっているのかしら』
『別に』
『茜が言っているわよ。藍子ちゃんとレッスンができなくなってしまった、それは加蓮のせいだ、って』『何か一言くらい言ってあげれば?』
加蓮「…………」
『……既読無視とは酷いわね』
『そーだ! かれんはいい加減に元気なあーちゃんを返しなさい!』
『未央はちょっと黙っていてくれるかしら』
『ハイ』
加蓮「……」チラ
藍子「……?」
加蓮「!」サッ
加蓮(って、なんで目逸らしてんだ私……)
加蓮「……」ポチポチ
加蓮「……」
加蓮「……」
『かれんめ、これは逃げたな』
『意外と臆病なところは変わっていないのね、加蓮』
『あのー、ところでそろそろあかねちんにスマホ返してあげない? そのアイコンでその喋り方って変だし』
『変わりました! 茜です!!!』
『おかえりーあかねちん! 無事でよかった!』
『あら。もしかしたらこれを、私(奏)が打っているかもしれないわよ?』
『やめてはやみー! 混乱する!!!』
『(目がぐるぐるのスタンプ)』
『あ、でもはやみーがボンバーって言ってるの想像したら……』
『(噴き出す顔のスタンプ@やや煽り気味のヤツ)』
『いい度胸ね』
……。
…………。
藍子「連絡、もういいんですか?」
加蓮「うん。うるさいだけだし」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「相手、茜だし。あと未央と、たぶん奏」
藍子「あぁ……。そういえば奏さん、茜ちゃんと――」
加蓮「うん。また一緒にやってたね」
藍子「バトルする世界のお話でしたよね。2人とも、迫力がすごかったです」
加蓮「知ってるんだ」
藍子「見学していましたから。未央ちゃんに誘われて」
加蓮「ふーん」
藍子「未央ちゃんも、ずっとはしゃいでて……」
藍子「……」
加蓮「……どしたの?」
藍子「…………未央ちゃんと茜ちゃん……何か言っていましたか?」
加蓮「ん」
藍子「私のこと」
加蓮「うん。言ってた。一緒にレッスンできなかったから怒られた」
加蓮「あぁ……端折りすぎちゃった。茜が藍子と一緒にレッスンできなかったらしくて、それで、私が怒られた」
藍子「……そうですか」
加蓮「……おかしいんだよ。茜さ、最初は『ボンバー!!』しか送ってこないの。意味不明だよね」
藍子「茜ちゃんらしいですね」
加蓮「たまたま奏が一緒にいたから通訳してくれたけど」
藍子「そうだったんですか」
加蓮「あのままじゃ私、一生茜からボンバーって言い続けられてたよ」
藍子「あはは……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……、」
加蓮「ん?」
藍子「……迷惑かけちゃったな、って。未央ちゃんにも茜ちゃんにも」
加蓮「ん」
藍子「……、あなたにも」
加蓮「私は別に……。何もされてないよ」
藍子「レッスン、ぜんぜんうまくできなかったんです」
加蓮「うん」
藍子「あと、この前のコラムも……。なんだか、ちっとも書けなくて」
加蓮「ふうん」
藍子「書こうとしても、何を書けばいいのか分からないし……。書けても、面白くない、ただの日記みたいになっちゃうんです」
加蓮「それでいいでしょ。いっそ日記っぽくしちゃおうって決めたじゃん。あの時」
藍子「そう、ですよね」
加蓮「……」
藍子「でも……」
藍子「……だって、私なんかの日記、誰も読みたがりませんよ」
加蓮「そんなことないよ」
藍子「そんなことあります」
加蓮「そんなことないって」
藍子「あります」
加蓮「ない」
藍子「あります!」
加蓮「しつこいな。ないってば」
藍子「あなたみたいなっ――!」
藍子「……あなたみたいな、すごい人じゃないですもん、私っ……」
加蓮「……」
藍子「……」ズズ
加蓮「……」ズズ
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……ごめんなさい」
加蓮「別に」
藍子「……」
加蓮「……すみませーん。コーヒーお代わりお願いしまーす。藍子は……って、まだココア残ってるか」
藍子「……」
加蓮「ん、私の分だけお願いね」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……まぁ気遣われるよね。仕方ないっか……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「ん、早いね店員さん。ありがと」スッ
藍子「……」
加蓮「……」ズズ
藍子「……」ズズ
加蓮「……」
藍子「……ごちそうさまでした」パン
加蓮「うん。……ん、藍子。ほっぺたのとこついてるよ。ココア」
藍子「え? どこですか?」
加蓮「あぁいいよ、拭いてあげ――」(身を乗り出そうとする)
――"うたって"
加蓮「っ……」
藍子「……?」
加蓮「いや……。……はい。自撮りモードなら見えるでしょ?」スッ
藍子「ありがとうございます」フキフキ
藍子「……取れましたか?」
加蓮「うん」
藍子「よかった」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
<ぴろりん♪
加蓮「……」ポチポチ
『たすけてまどにはやみか』
加蓮「……」
<ぴろりん♪
加蓮「……」ポチポチ
『ボンバー!!!』
加蓮「…………………………………………」ポイ
藍子「……いいんですか?」
加蓮「異星の言葉で書いてるから地球人の私には無理だった」
藍子「そうなんですか」
加蓮「その程度なんだよ、私だって」
藍子「……そんなことないですよ」
加蓮「……」
藍子「……」
<ぴろぴろぴろ、ぴろぴろぴろ
藍子「!」
藍子「……お母さんから電話。ちょっと、失礼しますね」
加蓮「んー」
<てくてく
加蓮「……」チラ
<あ、もしもしお母さん? ……うん、今、……、
加蓮「……」
加蓮「……」ポチ
『ボンバー!!!!!』
『それで加蓮に伝わるかしら?』
『気合と根性があれば伝わります!!!』
『そう。茜ならできると思うわ。頑張ってね』
<――ん、今日――も通り、……、ううん、――はかけてない――、うん――
『ひどい目にあった……』
『(ボロボロ姿のスタンプ)』
『さすがの未央ちゃんも今日こそはダメだと思ったね』
『そのまま駄目になっていればよかったのに』
『今日のはやみーなんか辛辣すぎない!?』
<――ん。大丈――、うん
加蓮「…………」ポチポチ
『アンタら楽しそうね』『人の気も知らないで』
『あら、加蓮らしくもない』『加蓮も楽しめばいいじゃない』
『そうだそうだー! 我らがあーちゃんを奪っておいて楽しくないなんてバチあたりだぞー!』
『ボンバー!!!!』
『未央はちょっと黙りなさい』
『なんで!?』
『ボンバー!!!!!!!』
『あかねちんはいいの!?』
『あら。それが茜でしょう?』
『ぐぬぬ、反論できない……!』
加蓮「……ハァ」
加蓮「ん……電話は終わったの?」
藍子「……はい」スタッ
加蓮「そ」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「私、邪魔していますよね」
加蓮「急にどしたの」
藍子「さっきお母さんから、……、邪魔をしないように、迷惑をかけないように、って言われて」
加蓮「そんなの社交辞令っていうか口癖みたいなモンでしょ」
藍子「……」
加蓮「私のお母さんだって、私がどっか行く度に迷惑にならないようにとかしつこく言うし」
藍子「……」
加蓮「だから気にしなくていいんじゃない?」
藍子「……でも」
加蓮「でも?」
藍子「……、時間、奪っちゃってるから」
加蓮「時間を奪うも何も、そんなの今更――」
藍子「……」
加蓮「……そもそも今日は私が誘ったんだし、藍子がどうこう思うことじゃないでしょ? それ」
藍子「でも……」
加蓮「まだ何かある?」
藍子「……あの時に、……、あなたが見せてくれた姿は……もっと、多くの人に見せるべきなんです」
藍子「だって、……、あなたは、すごいアイドルなんだから」
加蓮「…………」
加蓮「……無駄に時間を過ごしてないでレッスンでもやってこい、と?」
藍子「は――」
藍子「……」
藍子「……っ」
加蓮「……」
加蓮(はい、と頷きかけたところで、1度藍子の動きが止まった)
加蓮(それから、首を縦に振ることもなく横に振ることもなく、変な位置で動きが止まり)
加蓮(最終的に、歯噛みしながら俯く)
加蓮(……ちょっとホッとしている自分がいる)
加蓮(もしノータイムで肯定されていたら、低体温の身体に氷水を山ほど浴びせられるくらいの勢いで心が冷たくなって)
加蓮(ひょっとしたら、冗談抜きで私は死んでいたかもしれない。……想像するだけでゾッとするほどなのだから)
加蓮「ねえ」
藍子「……はい」
加蓮「あのさ……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
<ぴろりん♪
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮(スマフォの向こうではいつもの日常が広がっていた。今の私はそれを、"牢屋"の窓から見ている気分だった)
加蓮(……藍子はたぶん、)藍子「あの」
加蓮「っ。……何?」
藍子「あの、……、私、今日は帰りますね」
加蓮「!」
藍子「ここにいても……邪魔しか、できそうにないから……。今日は、家に帰って……。何しよっかな……」
藍子「ううん、それは帰ってから決めることにします」
藍子「……えへへ。お散歩している時も、そうなんですよ。たまに、帰ってからは何しよう? って考えたり……。でも、そう思いつつ色んなところを、」
藍子「あ、ううん……。ごめんなさい」
藍子「あの――……、お邪魔しました」
加蓮(そう言って藍子は席を立つ)
藍子「……、頑張ってくださいね」エヘヘ
――"うたって"
加蓮(か細く聞こえたあの声と、寂しげに首を横に振る姿が、重なる)
加蓮「待ちなさいよ」ガシ
藍子「っ……!」
加蓮(手が勝手に動いて、藍子の腕を掴んでいた)
加蓮(……ごめんなさい? お邪魔しました? 頑張ってください?)
加蓮(冗談じゃない!)
加蓮「座って」
藍子「……」
加蓮「座れ」
藍子「…………」コクン
加蓮「ん」
藍子「……」
加蓮「あのさ……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
加蓮「……確かにあの時、私の見てる藍子と藍子の見てる私が違うんだって、ぜんぜん違うんだって分かって」
加蓮「私、ショックは受けたよ?」
加蓮「私は……私が言うのもだけど、自分のこと、アイドルっぽいアイドルだって思ってるし」
加蓮「藍子が自分の、藍子のことを、アイドルらしくないっていつも気にしてるのは知ってる」
加蓮「だからあの時、藍子だって何か思ったんだろうね」
加蓮「確かに藍子は藍子だよ。私とは違う人だ」
加蓮「同じ高さの目線で、違う世界を見るのって、すごく心地いいの。それは藍子が私ではない、私とは違う人だからできることだよね」
加蓮「違う人と違う世界を見て、それを共有できるのが、とても楽しいの」
加蓮「だけど、それと同じくらいに」
加蓮「一緒に隣に並んで同じ世界を見ることも、とてもとても楽しいの」
加蓮「カフェ巡りをしててずっと思ってた。藍子と同じ場所にいることが、どんなに幸せなことなんだろうって」
加蓮「だから……このままで終わりなんて、絶対に嫌!」
加蓮「見ている物が違うから、考え方が違うから、私はアンタじゃないから――」
加蓮「そんな理由で、はいそうですか、で終わりたくなんてない」
加蓮「ズレてるなら変えてやる」
加蓮「ずっと前、誰のことも信じなかった私に、藍子は向かい合ってくれたよね」
加蓮「だから今度は私の番だ」
加蓮「今度は絶対に負けない」
加蓮「私と同じになれ、って言ってるんじゃない」
加蓮「私好みにしてやる」
加蓮「だって私は、ずっと前から藍子のことが大好きなんだからっ!!」
藍子「――――――――!」
加蓮「はーっ、はーっ……」
藍子「っ…………」
加蓮「……それでも拒絶するならちょっとは言い返しなさいよ」
藍子「……、」ボロ
加蓮「自分だけ心が痛いなんて贅沢思うな! 私だって痛いのよ!! さっきからずっと!!」
藍子「――勝手なことばっかり……!!」
加蓮「あ?」
藍子「勝手なことばっかり! いつもいつもいつもいつも、いつも勝手なっ、自分のっ、自分勝手なことばっかり!」
藍子「あの時のっ、……、あの時のあなたの!」
藍子「あなたの姿を見て――隣に並ぶなんて、無理に決まってるでしょ!」
藍子「あの時っ……! あなたの……!」
藍子「あの時の加蓮ちゃんがどれほど美しかったか! 知らないからそんなことが言えるんですよっ!!」
加蓮「アタシの名前呼べてるでしょうが!! できないことできてんでしょうが!!!」
藍子「あっ……」
加蓮「…………」
藍子「……っ……、いつも、勝手なことばっかりっ……」
加蓮「何を今更言ってんの? 私なんていつも勝手なことしか言わないよ。自分勝手なことしか言わない」
藍子「誰でもあなたのようになれる訳じゃないんですよ!!」
加蓮「誰にでも言ってないわよ! 藍子だから言ってんのよ!!」
藍子「私に何を期待しているんですか!? なんでっ……私なんかに勝手に期待なんてしないで!」
加蓮「期待させてるのはアンタの方でしょ!」
藍子「はあ!?」
加蓮「アンタが一昨日会ったばかりの人ならこんなこと言わない、もしアンタが私より遥かにすごい人で血を吐いても勝てない化物アイドルだったとしても絶対に言うもんか」
加蓮「アンタが」
加蓮「藍子がっ」
加蓮「藍子が、私のことを好きでいてくれるから!」
加蓮「私のこと、好きって何回も言ってくれたから!」
加蓮「誰も信じられなかった私を信じさせて!」
加蓮「約束だって叶うんだって叩きつけて!」
加蓮「だからこっち来いって引きずり込んでんのよ!」
加蓮「人の心を散々踏み荒らしておいて! 自分の番になったからって逃げるな!!」
藍子「……っ」
加蓮「さっきみたいな――昔の頃に戻ったみたいな時間なんてもう嫌だ。だから変えてやる」
加蓮「アンタの価値観も考えも態度も言葉も、冷たくなる原因も理由も、邪魔になることも気に入らないところも全部ひん曲げてやる」
加蓮「何年だって何十年だって、死ぬまで、死んだって、ずっと向かい合って、叩きつけてやる」
加蓮「アンタ昔の私に何って言ったっけ? あぁ思い出した。根比べだっけ?」
加蓮「根比べよ! 今度は私の番!」
加蓮「文句なら言いたいだけ言え!」
加蓮「文句でも怨みでも何でもいい。逃げたいなら逃げればいい。でも私は絶対に諦めない。絶対捕まえて離さないわよ」
加蓮「アンタ1人だけ逃げられると思うな。傷つかずに済むと思うな。どんだけ目を背けても首ごとこっちを向かせてやる! かつて藍子が私にそうしてくれたようにねッ!!!」
藍子「…………っ」
加蓮「ぜーっ、ぜーっ……ゲホッ!」
藍子「! …………、……大丈夫……ですか……?」
加蓮「あ?」ギロ
藍子「ひっ」
加蓮「……あぁ、ごめん」オキアガリ
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……で? まだなんか言いたいことある?」
藍子「……ありますよ。いっぱい……!」
加蓮「じゃあ言えば?」
藍子「でもっ……」
加蓮「言いなさいよ。言わないでこの場から逃げれるなんて本気で思ってんの?」
藍子「……」
加蓮「……ねえ、藍子」
加蓮「藍子はさ、いつも私のことを見守ってくれたよね」
加蓮「いつかのクリスマスの時もそう。頑張る私を……何度も崩れかけた私を、後ろから見ててくれたよね」
加蓮「あの時はありがとう。藍子がいてくれたから、やりたいことができたんだ」
加蓮「でもね、もうそれだけじゃ嫌なの」
加蓮「嫌っていうより、足りないの」
加蓮「足りないくらいに藍子が好きなの」
加蓮「私の言葉を覚えてくれる藍子が」
加蓮「私と向かい合ってくれる藍子が」
加蓮「私と一緒にいてくれる藍子が」
加蓮「前よりずっと、ずっとずっと大好きなの」
加蓮「だから」
加蓮「こっちに来てよ」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……っ」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……よくばり」
加蓮「はあ?」
藍子「加蓮ちゃんのよくばり」
加蓮「……いや、それアンタが言う?」
藍子「よくばり。一番叶えたかった夢を叶えたのに、まだ欲しいなんて! よくばり! 人を傷つけてまで欲しがるなんてよくばり!」
加蓮「欲張ってもいいんだって教えてくれたのはアンタ達でしょ」
藍子「私、無理だって言ってるのに!」
加蓮「私が欲張りなら、言うだけ言って自分の番になったらグズグズするアンタはただの子供、ただのワガママだね」
藍子「よくばり」
加蓮「ワガママ」
藍子「よくばり!」
加蓮「ワガママ!」
藍子「ずるいです……」
加蓮「何が?」
藍子「あんなに……」
藍子「あんなに……好きだって、大好きな加蓮ちゃんに言われて……」
藍子「無理です、なんて、言い続けられる訳ないじゃないですか……!」
加蓮「!」
加蓮「……っと」グシグシ
加蓮「だからさ、それ昔のアンタが私に言い続けたことだからね? 何自分だけ虐められてるって顔してんのよ」
藍子「昔は昔で、今は今です。それに、私は私で、あなたはあなたなんです! そんなことも分かんないんですかっ……! 加蓮ちゃんのばか!」
加蓮「はいはい都合のいいことで。藍子のばーか」
藍子「ばかっ。じぶんがって! よくばり! 加蓮ちゃんの……加蓮ちゃんのばか!」
加蓮「もう何言われても曲げないからね私」
藍子「加蓮ちゃんのばーかっ!」
加蓮「あっはははー、何言われても平気ー♪」
藍子「……ちょっと気まずくなったら、すぐ泣きそうな顔するくせに」
加蓮「あァ!?」
藍子「ひうっ!? だ、だってそうじゃないですか。すぐ落ち込んですぐ泣いてばっかりでしょ! 加蓮ちゃんのよわむし! なきむし!」
加蓮「今泣いてる子に言われたくないね! だいたいそれはアンタが私の心にずけずけ入ってくるのが悪いんでしょうが!」
藍子「それこそ今の加蓮ちゃんには言われたくないです! 今の加蓮ちゃんにだけは言われたくないです!!」
加蓮「私が言わないなら誰が言うのよ! この八方美人! 誰にも言わせないように優しいフリばっかりして!」
藍子「加蓮ちゃんみたいに四方八方口悪くしてる方がどうかと思います!!」
加蓮「ハッ、私は誰にでもズバズバ言えるもんねー! 藍子みたいに泣きそうな顔して逃げ帰ろうとしないもんねー!」
藍子「どうせ、ずばずば言われたらすぐ泣きそうになるんでしょ! 加蓮ちゃんのばーかっ!」
加蓮「さっきからびーびー泣いてるクセによく言うわよ藍子のバカ!」
藍子「加蓮ちゃんだって目を拭ってた!」
加蓮「藍子みたいに泣きまくってない!」
藍子「加蓮ちゃんが!」
加蓮「藍子が!」
……。
…………。
――数十分後――
加蓮「……ありがとねー店員さん」
藍子「……あはは、ありがとうございます……あとごめんなさい」
加蓮「……」ズズ
藍子「……」ズズ
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……ごめんね?」
藍子「私こそ、ごめんなさい」
加蓮「……」
藍子「……」
<ぴろりん♪
加蓮「ん。……いい?」
藍子「……」コクン
加蓮「どれどれ、っと」ポチポチ
『加蓮のことだから、そろそろ解決したかしら?』
『ひょっとして今ごろ大喧嘩してたり?』
『ケンカの後は、一緒にご飯を食べましょう! それで仲直りです!!』
『それもいいわね』『ほら、未央。盛り上げるのはあなたの得意技でしょ?』
『はやみー……! さっきまで辛辣だったのはこういうことだったんだねっ!』『未央ちゃん腕を奮っちゃうぞ~』
『(腕まくりのスタンプ)』
『大変です未央ちゃん! 奏ちゃんが「これで料理係をせずに済む」と言っています!!』
『速水ィ!!!』
加蓮「……はは」
『どうせだから、お願いしていい?』
『お、かれん!』
『はい。予想通り』『よかったわね、加蓮。愛しの愛しの藍子ちゃんと仲直りができて』
『別に愛しくないけど』『ま、なんかごめんね。心配とか迷惑とかかけて』
『よかったです! そうだ! 今からご飯を作って食べようって話になってたんです! 加蓮ちゃんの分は特盛にしておきますね!! 藍子ちゃんの分も!!!』
『私の分は小盛りでお願い』
『ええっ。私、もう特盛を作る気分になっちゃってるんですけど!!』
『大丈夫よ。未央が任せろって言っているわ』
『!?』
『分かりました! では未央ちゃんに特盛を用意します!!!』
『ちょっと!? ちょっと!?!?』
『(悲鳴をあげている顔のスタンプ)』
加蓮「……くすっ」コト
藍子「茜ちゃん達ですか?」
加蓮「うん。みんなも心配してくれてたみたい……」
加蓮「心配……。いや、どう見ても野次馬だけど……」
藍子「あ、あはは……」
藍子「ねえ、加蓮ちゃん」
加蓮「ん?」
藍子「……私、まだこの前の、"似ているカフェ"のコラム。書けていないんです」
加蓮「うん」
藍子「でも……もしかしたら……。……ひょっとしたら、その、加蓮ちゃんほどじゃなくても、私のコラムを待ってくれている人がいるかもしれないから」
藍子「書くの、手伝ってくれますか?」
加蓮「……」
藍子「……」ドキドキ
加蓮「……しょうがないなー。ここは、大先輩の加蓮ちゃんが手伝ってあげようか!」
藍子「! ありがとう、加蓮ちゃんっ♪」
加蓮「あははっ」
藍子「……すぐには、無理かもしれません。でも――ちょっとずつ、近づいてみますね」
加蓮「大丈夫大丈夫。私が引きずり込んであげるから」
藍子「お、お手柔らかにお願いします」
加蓮「絶対やだ」
藍子「もうっ。やっぱり自分勝手!」
加蓮「まーだそんなこと言う。勝手かもしれないけど、それ藍子にだけは言われたくないよ!」
藍子「私だってわがままかもしれませんけど加蓮ちゃんほどじゃないです!」
加蓮「藍子の方が!」
藍子「加蓮ちゃんの方が!」
加蓮「藍子が!」
藍子「加蓮ちゃんが!」
……。
…………。
藍子(――だいすきな、人の隣に、ずっといられたらいいなぁって)
藍子(でも……あの夕焼けの日に、それは無理なんだって、思い知らされて)
藍子(それでもあなたは、私のことを――)
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
\ えっ…と、糞スレはここかな…、と /
 ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧∧ ∧∧ __._
∩゜Д゜,≡,゜Д゜) |.|
`ヽ |)====
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U U
∧∧ ミ _ ドスッ
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/ つ. 終 了 │
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∪ ∪ ││ _ε3
乙。泣いた
おつです。加蓮がしっかりと想いを伝えられる程成長してることに泣きました。
このSSまとめへのコメント
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