嫉妬深い強欲デブでスケベで怒りに燃える怠け者の男「俺こそが唯一絶対の存在だ」 (17)


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 その男は、強欲であった。
 
 欲しい物は、何でも手に入れた。男の本棚には、ありとあらゆるジャンルの漫画や小説が納められ。ショーケースの中には、精巧に作られたフィギュアが立ち並び。キッチンには世界中のありとあらゆる酒が揃えられていた。

 だが、それらを手にするにあたって男が金を払ったことは一度もない。そもそも、これだけのコレクションを揃えられるような財力は男には無かった。では、如何にして男はその強欲を満たしたのか。答えは簡単だ、それらは全て盗品であったのだ。

 男の仕事は、墓守であった。男は、一切の罪悪感を抱くことなく欲しいものは何でも盗ってくるような外道ではあるが、決してそれが男の仕事であるというわけではない。むしろ、男にとって盗むという行為はコレクター欲を満たすための手段に過ぎないのだ。であるから、男が墓守であるという一文は何の比喩的表現でもなく、事実のみを記したものなのである。

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 男は、とある墓園の管理を行政から任されていた。墓園を綺麗に保ち、新しい入居者があれば快く迎え入れる、それが男に託された唯一の責務であった。しかし、男にとってその仕事は至極退屈なものであった。園内の清掃は、一時間もあれば終わってしまい残った時間は小さい管理室で何をするでもなく過ごすしかない。いつしか時間を持て余した男は、自ら仕事を探すようになった。

 無縁仏の受入れ営業は、男が思いついた仕事のなかでも特に有意義なものであった。広大な墓園には、まだまだ未入居の土地が大量にあったため、男はそこを積極的に売り出すことにしたのだ。だが、たいていの亡骸は、その親族によって所縁ある墓へと埋葬されている。だから男は、営業のターゲットを孤独な者たちへと絞った。目論見は見事的中し、男は膨大な数の入居者を獲得し、それら入居者を墓園へ迎え入れ、埋葬し弔うという、永遠にも等しい時間のかかる新たな仕事を手に入れた。それは、男の本来の仕事とは大きくかけ離れたものであったが、誰も男を咎めることはなかった。


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 その男は、貪食の限りを尽くした。

 若かりし頃の男は、整った顔立ちにスリムなシルエットで世の女性を惹きつける魅力を持っていた。しかし、現在のその男はと言えば見るも無残な肉袋と化している。だが、それも無理からぬこと。男は、自身の食欲にひたすらに従順であったからだ。それがいつ何時であろうと、腹が減れば食べる。深夜であろうが早朝であろうが、分け隔てなく食欲を解き放つ。いつからか、それが男の日常となっていた。

 男は、特にあんこをこよなく愛していた。その力強く頭を穿つような甘さはもちろんのこと、舌に馴染む柔らかさ、黒く艶やかな色彩、その全てをただひたすらに慈しみながら日毎食した。時に、自身であんこを作ってみたりもした。しかし、あまりに大量に作ってしまったが故に一人では消費しきれず、残されたあんこは男の管理する墓園に在する全ての墓に供されることとなった。

 もちろん、男はあんこだけを口にして生きていたわけでは無い。しかし、そのほとんどは冷凍食品や缶詰、乾きもの、漬物といった保存食ばかりでとてもバランスの良い食生活とは言えないものであった。当然、男の内臓は既にずたぼろとなっており、時折襲い掛かる苦痛に声も出せず、地面をのたうち回ることとなった。だが、それでも男は貪食を止めなかった。 


 ある朝、男は墓園の中にある実家の墓に向かった。墓石には、祖父母と両親、それと若くして亡くなった兄の名が刻まれている。男は、手を合わせながら、いつか自身もこの墓に入るであろうということに思いを馳せた。決して、仲の良い家族とは言えなかったが、それでも在りし日の思い出は男に幸せを与えてくれる。再び、死んだ家族と相まみえ食卓に並ぶことが男の夢であった。

 祖母のサバずしは絶品だった、母の作るカレーは謎の苦みを有していた。父が連れて行ってくれた、こってりが売りのラーメン屋。祖父が買ってくれたソフトクリーム。兄と奪い合った、自生のアケビの種。思い出すだけで、男の腹はぐううと音をあげる。だが、どれも今の男には再現しようのないものばかりだ。だから男は、思い出の料理に思いを馳せ、せめてもの慰みに今日もお気に入りのあんこに手を付けるのだった。


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 その男は、怠惰であった。

 男は、ある日突然仕事に行きたくなくなった。職場に電話の一本も入れずに、日が天辺に上ってもなお布団の中に潜り続けた。そして、布団にもぐり続けるのに飽きたら、今度はテレビゲームに取り組んだ。それすらも飽きたら、次はレンタルDVDショップへと走り、古今東西名作と呼ばれる数多の映画を借りてきた。

 とある映画を見ているときだ。突然、男にある欲求が沸き上がった。それはアメリカのロードムービーでひげを生やした壮年のライダーが荒野をバイクで延々と走る映画だった。髪をなびかせ、全身に風を感じるその気持ちよさそうなライダーの姿に、男は自身の姿を重ねた。

 そこからの男は俊敏であった。車庫で埃を被っていた愛車、あずき色のセロー225を引っ張り出し、その美しい姿にニヤリと厭らしい笑みをこぼした。だが、長らく走らせていないバイクだ。当然のように、いくらセルを回そうともエンジンはかからない。


 男は、バイク屋へと押し入り使えそうなパーツを片っ端から盗んだ。そして時間をかけて、一つ一つの部品を丁寧に交換し、再びセルを回す。深夜の住宅街に、ギュンギュンとセルモーターの金切り声が轟く。ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュン……ドルンドルンドルンドドドドドド。息を吹き返した愛車に、男は狂喜乱舞し、まるでステップを刻むかのようにリズミカルにアクセルをひねり続けた。

 その2日後、男は北海道にいた。その広大な大地を、俺の愛車で踏破してやる、そう息巻いた。しかし、美しい景色に心振るわせるのも初めのうちだけで、男はしばらくするとバイクを走らせることにすら飽いてしまったのだ。更に2日後には、男は自宅へと戻り、更にその翌日には何事もなかったかのように職場へと向かうのであった。

 そうした、男の衝動的なサボタージュは、半年に数回程度の割合でその後も続いた。



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 その男は、色欲に溺れた。

 男は、年をいくら経ようと劣ることのない猛きリビドーを持て余していた。だが、どうして、ふくよかで、怠惰で、手癖の悪い墓守に女が寄ってこようか。男には、彼女などできようはずもなかった。しかし、男は自身に原因があるとは微塵も考えなかった。必然、男の性処理はアダルトビデオによって為されることとなる。仕事終わりにDVDのレンタルショップへと通うことが男の日課となっていた。

 男の通うDVDレンタルショップは、全国チェーンの割に品ぞろえの悪い店であったが、男はそこを気に入っていた。男の住むアパートから近かったということもあるが、それだけが理由ではない。その店は、男にとって思い出の店でもあったのだ。男が子供のころ、その店はビデオのレンタルショップで全国チェーンでもなかった。店の一角には、当時はやっていたストリートファイター2の筐体がおかれ、男は毎日のように通いどこのだれとも知らぬ少年たちの対戦を横目に眺めていた。

 いつしか、店の主とともに内装も明るくきれいな物へと変えられ、ゲームコーナーも撤去された。しかし、変わったといっても元の建屋をそのまま利用しているためか、ふと気づくと以前のかび臭い佇まいが思い起こされるのだ。全国チェーン店となって、棚の配置が変えられたとしても、それは同じだった。店の入り口の位置はもちろん、店の北側にあるトイレ、フロアの中央に立つ明らかに邪魔な柱、その柱が死角となることを防ぐための防犯カメラ、そしていつの時代も店の最奥に設えられたアダルトコーナー。何が起ころうと、何十年経とうと変わらないその店の持つ安心感が、男を優しく包み込むのだ。


 だが、かつての思い出も男の無限に沸き上がる猛りを抑え込むことはできなかった。その日も、男はアダルトコーナーへと赴き今晩の供となる円盤を物色していた。棚の前に、仁王立ちで陣取り、棚に並べられたDVDのタイトルをじっくりと眺める。しかし、長年通い続けてきたせいか、DVDのタイトルを見るだけで、男はその内容を完全に脳内で再生することができた。男は、まだ出会っていないDVDを求めて別の棚へと移る。だが、どういうことだろうか。男がいくら探そうと、男が見たことのないAVは見つからなかった。

 それもそのはず。男は、既にその店に存在するすべてのAVを鑑賞しつくしてしまっていたのだ。男は、人目をはばからずにアダルトコーナーで声をあげて泣いた。本物の女だけでなく、AVまで俺を裏切って逝ってしまうのかと。男は、悲しみのあまり、他の店にAVを漁りに行くという通常の思考すらできなくなっていた。男の性欲は、AVの枯渇をきっかけに完全に決壊し、その全てが開け放たれた。男は、「俺だって本当は、AVなんかじゃなくて本物の女を抱きたいんだ」と店内に響き渡る声で泣き叫んだ。しかし、それに答える女性など居はしなかった。それどころか、老若男女を問わず泣きわめく男に寄り添うものは誰一人としていないであろう。

 なぜなら、この世界はたった一つの病原菌のせいで、その男を残して、全て滅んでしまっていたのだから。

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 その男は、嫉妬深かった。

 最初の感染者は、南米の聞いたこともない国で見つかった。その感染者は、つい前日まで普段と変わらぬ生活を送っていたにもかかわらず、翌朝に自宅のベッドの中で冷たくなっているのを発見された。はじめは、単なる病死と思われていたが、その感染者に一切の病歴が無かったこと、また同時多発的に同様の死者が発見されたことで、その病気は世間に認知されることとなった。

 その病原菌は、長い潜伏期間を持ち、その間宿主に何の苦しみも症状も与えず、ある日、突然牙をむく。感染者が眠っている間に、全身の血管を収縮させ、安らかな死を迎えさせるのだ。発見された死者の姿は、一様にまるでただ眠っているだけのように見えたため、その病気は「眠り病」と呼ばれた。

 世界保健機構や、各国の最先端医療研究チームがタッグを組み全力でワクチンの作成に取り組んだが、時すでに遅く。ワクチンの研究が開始された時点で、全世界の人間が既にその病原菌に感染していることが判明した。日に日に、仲間の研究者たちが安らかな表情で永遠の眠りについていく中で、研究者たちも遂に匙を投げた。しかし、誰がそれを責められようか。いまや、世界はその担い手の多くを失ったせいで、食料も乏しく、電力も安定せず、インフラを維持するのでやっとであったのだから。


 やがて、人々も研究者と同様に無駄なあがきをやめ、残された時間をより質の高いものにしようと考え、世界に人類史上初めて一切の争いのない穏やかな時間が流れることとなった。辛うじて機能していた各国政府は、ワクチン研究に託された膨大な予算を引き上げ、それらを広大な墓園の造成にまわし始めた。亡くなった感染者を放置することで、新たな病気が蔓延することを防ぐためだ。どうせ死ぬのなら、苦痛なく逝ける「眠り病」で。いつしか、人々は「眠り病」を救いとして受け入れるようになっていた。男の就職先も、そうやって作られた墓園の一つであった。

 男は、隣人が死に、友と連絡がとれなくなり、家族をみとっていく中で、先に逝くことができた全ての人々をひどく羨むようになっていた。大事な人たちを失う度に襲い来る悲しみが、そうさせたのだ。どうして、俺はまだ生きているのだ。どうして「眠り」の救いは、俺の下にやって来ないのかと。後に残されるほど、男は仲間を失う悲しみに苦しみ、それに呼応するかのように死者達への嫉妬に狂っていくのだった。

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 その男は、怒りに燃えていた。

 世界は、その男一人を残して滅んでしまった。どういうわけだか、その男にだけ「眠り病」の救いは訪れなかったのだ。幸いなことに、急激な人口減少のせいもあり、ソーラーパーネルによって半永久的に稼働し続ける政府の冷凍庫にはありとあらゆる物資が、今なお大量に残っており、生きていくうえで男が困ることはなかった。しかし、男は世界でたった一人の生き残りとして余生を過ごすことになってしまった。

 男は、自分にだけ救いを与えてくれなかった病原菌に強い憤りを感じた。しかし、世界が滅んだ今、その怒りの矛先を向ける相手が見つからなかった。手近なものに、それは道路標識であったり、郵便ポストといった、いまや世界において何の意味もなさなくなった無機物に対して当たり散らしてみるものも、残るのは虚しさと、赤く腫れあがた拳ぐらいなものであった。

 カラオケだ。男は、ある日唐突に思いついた。かつて世界が繁栄を極めていた時代、男はたまったストレスをカラオケで発散するのが好きだった。誰に気兼ねもなく、のどを痛めることを恐れず、ビールとから揚げとポテトを片手に、懐かしのアニメソングや、最新のロックンロールをあらんかぎりの声で歌いあげるのだ。世界が滅びようと、ビールも、から揚げもポテトだって手に入る。ならば、カラオケボックスに向かうしかないではないか。


 残念なことに、男の目論見は大きく外れてしまった。カラオケボックスに設置されていた通信カラオケは、たとえ発電機から電気を回しても正常に稼働させることができなかったのだ。男は、店に残されたカラオケ機器の説明書を斜め読みにしてみたがよく理解することができなかった。わかったことと言えば、電気を通すだけでは通信カラオケは使えないということ程度だ。しかし、男は諦めなかった。男には、既に予備のプランがあったのだ。通信カラオケがダメなら、LDカラオケだ。

 男の父は、とにかく新しいものが好きだった。まだパソコンが一般家庭に普及していないころに、何の用途も考えずパソコンを買って母に怒られたり、ベータや3DOといったメーカー戦争の敗北者たちも軒並み家の棚に揃えられていた。LDカラオケデッキも、そんな父の最新機器収集癖の遺産のひとつであった。近所の迷惑になると、当時はあまり使わなかったものだが、世界が滅びた今、誰に気兼ねすることない。問題があるとすれば、実家に置いてあるLDの収録曲は父の趣味の演歌ばかりであったということぐらいだった。

 男の歌声には、あらんかぎりの怒りが籠っていた。だが、その歌に乗せられた感情がうまく演歌とマッチしたのか、もしオーディエンスがいたならば、彼らをあまねく感動させるだけの力があっただろう。だが、この世界にはもう鐘をならしてくれる公共放送
も沸き上がる観衆もいない。男のたった一人の演歌フェスは、男の喉がつぶれるまで続けられた。


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 その男は、ひどく傲慢であった。

 男は、三日三晩に及び続いた独演会を終え、ひとり仰向けになり空を眺めていた。

 真っ青な空には、大きな入道雲がぷかぷかと浮かんでいる。人間が滅んだというのに、男の頭上に広がる青空はその事をまるで気にもとめずに変わらぬ景色を見せてくれる。男は、人の世の儚さに少しだけ寂しさを覚えると同時に、かつて学び舎で習った平家物語を思い出していた。

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛きものも遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。

 あまり勉学は得意なほうではなかったが、なぜかこの冒頭だけはスラスラと思い出せる。この琵琶法師たちが歌い上げた物語は、その名の通り平家の栄華とその没落を描いたものだ。しかし、その書き出しは、真に世界が滅びた今にこそふさわしいと男は思うのであった。

 男の中に一つの邪悪な考えが浮かんだのは、そんな時であった。男は、いまこの世界で、唯一知性に溢れる生物は自分自身に他ならないということに気づいてしまったのだ。男は不遜な表情を浮かべ、その枯れた声で大きく笑った。俺より上には何者もいない、俺こそが唯一無二の人類そのものなのであると。


 そして、男は考えた。俺は、この地球上の唯一絶対の存在として何をすべきかと。だが、答えがでるまで、そう時間はかからなかった。平家が滅んだ後の琵琶法師達の活躍をヒントに、男は、人類栄枯盛衰の伝道師となることを決意した。この先、誰に伝えることになるかはわからない。それでもなお男はそうせざるにはいられなかった。

 男は次に、如何にして人類のあり様を伝えようかと悩んだ。何らかのメッセージ性が籠ったモニュメントの作成や、人類史の編纂、もしくは平家物語に倣って歌を歌いあげるか。様々な手法を考えては見るものの、世界で最も賢い男の知力をもってしても、それらを為すには困難であるように思われた。そうして、最終的に辿り着いた答えは、らしくしていこうというものであった。

 翌朝、男は自身の職場へと向かった。政府から管理業務を委託された、あの墓園にだ。男は、自分こそが唯一の『人類』なのであるから、自身のもつ価値観が、僅かに持ちうる知性が、溢れ出る性欲が、やることの全てが『人類』そのものを表していると。俺の生きざまこそが、何千年の歴史を積み上げてきた人類の集大成なのである。そう考えるに至ったのだ。そして、人として凡庸の域を出ない男にできることと言えば、世界が滅びる前と変わらぬ生活を送るぐらいのことであった。

 出勤して、初めにやることは墓園の清掃であった。木々から零れ落ちた枝葉を、竹ぼうきで集め焼却炉に突っ込む。それが終われば、墓園の外での営業活動だ。住宅地を訪問してまわり、放置された遺体を見つければ、墓園まで運び、弔い、見つからなければ日が暮れる前に帰宅する。休日は、ガソリンや保存食といった生活物資を集めたり、ふと思い立って玩具屋へ突撃し、好きだったアニメキャラのフィギュアを掻っ攫ってきたりした。そして、時には休日が終わってもなお出勤を拒否し、何処へとも知れず旅に出るのだ。

 そうして、男は世界で一番罪深い男となったのだ。

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 その日、男は定年を迎えるに至った。
 
 男は、墓園に残されていた最後の墓に、名も知らぬ誰かの骨を納め、丁重に弔った。男の管理する墓園に、もはや空き室はなくなったのだ。男は、あまりの達成感にしばらく墓の前にうずくまり、声も出せずに静かに泣いた。

  随分、不摂生な生活をしていたというのに、男は随分と長い時間生きていた。何十年もの長き時間が、男の体を老いさせた。男の顔は、深い皺に覆われており、またあちこちに黒いシミが浮き上がっている。本来であれば、このまま墓園を維持管理するのが男の務めだ。だが、既に男は自らの死期を悟っていた。ならば、手前勝手ではあるが定年とさせてもらおうという魂胆だった。


 男は、最後の力を振り絞り穴を掘った。墓園の片隅にある男の姓が刻まれた墓、そう男の家族たちが眠るの墓の前にだ。男は、息をぜえぜえと吐きながら、普通の大人であれば2,3人は収まるであろうだけの広さを掘り上げた。そう、その穴は、男の暴食の産物である巨躯を納めるに足る墓穴であったのだ。

 男は、穴の中に布団やクッションを敷き詰め、周りには長年愛でてきたコレクションを添え、遂には床についた。なに、万が一、目覚めれば、また仕事をすればいいさ、もし寝坊しても通勤時間を考慮しなくていいから楽だ。そんな不遜なことを考えているうちに、男はうとうとと睡魔に襲われ、いつのまにか眠りに落ちていた。

 その日、世界で一番罪深い男は、静かに息を引き取った。

 男の死に顔は、その罪深さとは裏腹に穏やかで優しいものであった。
 


おわり 


なんか分からんが少し切なくなった

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