――おしゃれなカフェ――
高森藍子「ただいま、加蓮ちゃん。店員さんにお話しをしてきました」
北条加蓮「お帰り、藍子。店員はなんて?」
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レンアイカフェテラスシリーズ第82話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「ひまわり畑のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「7月24日の23時にて」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で ろっかいめ」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「夏休みのカフェで」
前回のあらすじ:いつものカフェの店員さんには、何やら探している方がいるようです。
藍子「やっぱり、喜んではもらえませんでした……」
加蓮「まーね……。さすがに特定のファンの居場所を探すのって難しいし。っていうか、肩入れしすぎるのもアイドルとして良くないでしょ」
藍子「はい。そこも含めて、説明してきましたよ」
加蓮「ちゃんとアイドルの自覚あるんだー。偉い偉い♪」
藍子「もうっ。そうさせたのは加蓮ちゃんでしょっ」
加蓮「あははっ」
藍子「店員さん、がっかりされていましたけれど……。分かりました、って納得してくれました」
藍子「あと、今日もゆっくりしていってくださいね、とも♪」
加蓮「相変わらず藍子が大好きだねー、あの店員は」
藍子「私にだけじゃありませんよ? 加蓮ちゃんにもです、きっと」
加蓮「どーだか」
藍子「店員さんの要望に応えてあげられないのは、残念ですけれど……」
藍子「でも、私がアイドルを続けていて、ステージに上がったり、握手会をした時に、あの子にもきっとまた会えますよね」
加蓮「だね。問題は、その時どうやって伝えるか……」
藍子「そうなんです……。あんまりみんなの前で言うのは……」
加蓮「他のファンが嫉妬しちゃうかもね?」
藍子「……アイドルになりたての頃は、1人1人、応援してくださる皆さんのお話を聞くことができました。今も、みなさんの顔は、ちゃんと見るようにしています」
藍子「でも――」
加蓮「藍子。そこはしょうがないことだよ」
藍子「……。そうですね。私、なんとか考えてみます。どうにかして、あの子にここのことを伝える方法……」
加蓮「こういう時だけ独りで考えるの? 私も考えてあげるから」
藍子「ありがとう、加蓮ちゃんっ」
……。
…………。
<からんころーん
加蓮「…………」
藍子「~~~♪」ズズ
藍子「……加蓮ちゃん?」
加蓮「あ、ううん。風鈴、なくなったな……って」
藍子「夏の間は、ドアを開ける度にずっと音がしていたから……ちょっぴり、寂しくなっちゃいました」
加蓮「誰か来る度にちりんちりんって言ってたもんね。夏の間」
藍子「ふふ。加蓮ちゃん、ここにお客さんが来るたびに、入り口の方を見ていたよ♪」
加蓮「藍子だってそうでしょー」
藍子「加蓮ちゃん、夏の間だけここの店員さんだったみたいですねっ」
加蓮「それこそ藍子でしょー」
藍子「まだまだ暑いですけれど、なんだかどんどん秋がこっちに来ているような……」
藍子「ううん。夏が、終わりに向かっている気がします」
加蓮「ん」
藍子「雑誌のあと数ページを、ぱらぱらってめくっちゃうような、そんな感じがして……。なんだか、少しだけ寂しいな……」
加蓮「……珍しいね。藍子がそんな風に考えるなんて。ひょっとしてまだダウナーな感じ?」
藍子「あはは……。ちょっとだけ?」
加蓮「珍しー。そういう時こそ前向きな話をするんでしょ」
藍子「前向きなお話」
加蓮「秋になったらやりたいこととか、行きたいとことかないの?」
藍子「それはもちろんいっぱいあります! まず、いつもの公園の紅葉を眺めて、咲くまでの間の写真をいっぱい撮って」
藍子「それから……電車を使うことになるんですけれど、気になるカフェがあるんです。前にラジオで紹介されてて、加蓮ちゃんと一緒に行かなきゃ! って思って」
加蓮「あはっ。たまには1人で行っていいんだよ?」
藍子「え~」
加蓮「悪い意味じゃなくて……私が知らなくて藍子が知ってることを話してくれるの、結構楽しいし」
加蓮「なんだろ。知らないものが想像できるっていうか……。藍子って想像させるの得意だもんね」
加蓮「ううん、その場にいさせるのが得意って言うのかな」
加蓮「ラジオとかで私の知らない話を聞いてても、すぐその光景が頭に浮かぶし、そのうち自分が立ってるような気分になって――」
加蓮「……」
加蓮「…………」
藍子「……? 加蓮ちゃん?」
加蓮「……なんか、何もないのに褒め続けてたら身体痒くなってきた」ポリポリ
藍子「あはは……。私は、もうちょっと聞いていたかったな?」
加蓮「それは明日の加蓮ちゃんに言ってよ。今日はもう閉店ー」
藍子「明日の加蓮ちゃんなら、また私のことを教えてくれますか?」
加蓮「悪いところならいっぱい教えてあげるけど。藍子の気づいてなさそうな欠点とか」
藍子「も~っ。……と、ところで、私の気づいていなさそうな、私の悪いところって……?」
加蓮「今から探す」
藍子「探さないでいいですっ」ホッ
加蓮「藍子を叱れるのはもはや私くらいしかいないからね」
藍子「お母さんと、トレーナーさんと、モバP(以下「P」)さんもいますっ」
加蓮「Pさんはダメ。甘すぎだもん」
加蓮「いっそ私がプロデューサー代理になって――。……はいはい。冗談だからそういう寂しそうな顔しないの」
加蓮「それなら叱る担当は私、褒めてくれる担当はPさんってことでいい? 担当が2人もいるなんて贅沢だねー」
藍子「…………♪」ジー
加蓮「見えない尻尾を振るのやめなさい」
加蓮「……」
藍子「……」ズズ
加蓮「そっか。夏が終わるんだよね」
藍子「そして、秋が来ますね」
加蓮「そうだね」
藍子「夏休みも終わってしまって――」
加蓮「あ」
藍子「学校も、2学期が――」
藍子「……加蓮ちゃん? どうしましたか。そんな、電車に乗る前の駅に忘れ物をしたような顔をして」
加蓮「え、何それ実体験? 実体験??」
藍子「にやにやしながらこっちに来ようとしないでくださいっ。違いますよ。実体験ではないです。……私のでは」
加蓮「ほう」
藍子「Pさんのですから! あんまり、ネタにしないであげてくださいっ。あれでも、本気で落ち込んでいたみたいなので……」
加蓮「そっかー。……今度何かねだる時に使お」ボソ
藍子「聞こえてますよ?」
加蓮「~♪」
加蓮「学校の話で思い出したんだよね。夏休みの宿題」
藍子「あ、そういえば……」
加蓮「藍子も全然やってない? よかった。仲間がいたー」
加蓮「いや今日帰ってからやるつもりだったんだけど、夏休みの間はずっとレッスンとかウィンドウショッピングとかで、」
藍子「私も、今日持ってきていたんです。作文の宿題の原稿用紙」スッ
藍子「大切な人について書きなさい、っていう宿題なんですよ。これが終わったら、夏休みの宿題は完成です!」
加蓮「……あっそ」
藍子「……て、手伝いますよ? 加蓮ちゃんの宿題」
加蓮「いーよ。藍子がいたらズルさせてくれなさそうだし」
藍子「ズル?」
加蓮「答え丸写し」
藍子「まだそれやっていたんですか……」
加蓮「それとPさんに頼って分担作戦」
藍子「……もしかして、それでさっき話のネタができたって喜んでいたんですか?」
加蓮「え? ……あ、確かにそれで脅すのもアリだね」
藍子「脅す!?」
加蓮「それは思いつかなかったなぁ。さすが藍子。私と長いこと一緒にいるだけはあるねー」
藍子「褒められている気が……。ううん、嬉しくない褒められ方をしている気がっ」
加蓮「大切な人についての作文……」
藍子「はい。大切な人についての作文です」
加蓮「えーと、もしかして私のことをそれに書くつもりなのかな?」
藍子「そうですよ?」
加蓮「なんでこの子当たり前のことみたいな顔してんの……。普通、そういうのってもっと別の人のこと書かない?」
藍子「別の人……」
加蓮「親とか。藍子がアイドルだってみんな知ってるなら、"プロデューサーさん"のことでもいいし。それこそファンの話だっていいでしょ」
藍子「たぶん、私がアイドルだっていうことはみんな知っていると思います。なので、アイドル仲間の加蓮ちゃんのことを書きますね♪」
加蓮「うわぁお……」
加蓮「いやいや。そりゃアンタが余計な話をしてるだろうから私のことも知られてるかもしれないけどさ。普通そこは未央とか茜とか――」
藍子「……加蓮ちゃんは、私のこと、大切な人だって思ってくれないんですか?」
加蓮「…………そういうこと言うのやめよう?」
藍子「えへ♪」
加蓮「しかも演技。さすが藍子。私と長いこと一緒にいやがっただけはあるね」
藍子「また褒められ……あ、あれっ? なんだか言葉が、鋭かったような……?」
藍子「加蓮ちゃんは、作文の宿題とかってないんですか?」
藍子「せっかくだから、一緒にやっちゃいましょうよ~。ほら、予備のノートもありますから。これ、使っていいですよ?」スッ
加蓮「ありがと。でも作文の宿題……あ、そういえば1つあったっけ。何でも感想文っていうヤツ」
藍子「……何でも感想文? 読書感想文、とかではなくて?」
加蓮「うん。何でもいいから感想文を書けって」
藍子「はあ……。変わった宿題なんですね」
加蓮「でしょー? 読書でもいいしネットの動画でもいいしテレビでもいい、両親の喧嘩でもいいから、とにかく感想文を書いてきなさい、だって」
藍子「お父さんとお母さんの喧嘩の感想……!?」
加蓮「……面白そうではあるけど何を書くのかな。お父さんが怒鳴ってました、お母さんが物投げてました、とか?」
藍子「う~ん……。お母さんが泣いているのを見て、私まで泣きそうになってしまいました――なんていうのはどうでしょうっ」
加蓮「ありそう! あと、実はお父さんが悪いことが分かり、あとでそのお詫びをしてもらう約束を取り付けてました、とか!」
藍子「それもありそうですね」
加蓮「でも私の両親ってそこまで喧嘩しないんだよねー。藍子の両親……もだよね」
藍子「はい。いつも仲良しですよ」
加蓮「じゃこれは使えないっか。他に自由な感想……。うーん」
藍子「本当に変わった宿題なんですね。加蓮ちゃんは、何の感想文を書く予定なんですか? やっぱり、夏のフェスのこと?」
加蓮「うーん……」チラ
藍子「レッスンのことでもいいかもしれませんね。でも、それだとクラスのみなさんには分からないお話が増えちゃうのかな?」
加蓮「んー」キョロキョロ
藍子「ショッピングのお話なんてどうでしょうか。加蓮ちゃんはオシャレだし、いつも流行に乗っているから、きっと女の子はみんな喜びますよっ」
加蓮「……、」チラ
加蓮「!」
藍子「?」チラ
藍子「…………」
藍子「…………加蓮ちゃん。あの……どうしてここのレジの横にある雑誌を見て、目をきらきらさせているんでしょうか……?」
加蓮「いやー。何でもって言われちゃってるし?」
藍子「何でもって言われちゃったみたいですね……」
加蓮「藍子のカフェコラムの感想文でも書いちゃおうかなと」
藍子「やめてください!?」
加蓮「えー」
藍子「それっ……そ、そういうのはその、やめましょ?」
加蓮「別にいいじゃん。藍子が読むことはないんだし」
藍子「そういう問題では……」
加蓮「大丈夫大丈夫。そんなに変なことは書かないから。まず藍子がいかにカフェに熱心であるか――
違うね。そもそも藍子がどんなアイドルであるかを書いて、カフェへの想いとか綴って。
ううん、普段の藍子のカフェでの様子から書いた方が分かりやすいのかな?
そうそう、実際に一緒に行ったカフェを私から見た感想とかもあっていいかも。ついでに藍子にインタビューをした内容とか――」
藍子「お話がどんどん具体的な内容に……!」
加蓮「どうしよ藍子。原稿用紙1000枚とか行っちゃうかも!」
藍子「それだけ書いていたらその間に夏休みが終わってしまいますよ!?」
加蓮「Pさんに分担してもらうから平気平気」
藍子「Pさんまで巻き込むつもりなんですか!?」
加蓮「ついでに未央と茜も巻き込んじゃえ。どうせあの2人も宿題終わってないだろうし」
藍子「~~~~~~~~~!」
加蓮「いっそ藍子のコラムを読んでない人向けに事務所に置いちゃおうかなー」
藍子「加蓮ちゃん……!」フルフル
加蓮「おっ」
藍子「そんなことするなら……」
加蓮「うん」
藍子「そんなことするなら……!」
加蓮「うんうん。なになに?」ニヤニヤ
藍子「……………………、」
加蓮「ふふっ。優しい藍子ちゃんには思いつかないよねー。
ま、1000枚っていうのはさすがに冗談だよ。ちょっと言いすぎちゃったね。
私だってそんなに書ける訳ないし、宿題は3枚以上って言われてるからそれくらいで――」
藍子「……そんなことするなら私これから今後ずっと加蓮ちゃんのことを"加蓮"って呼びます」
加蓮「待ちなさい。それはやめろ」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「……それで、加蓮ちゃんは何について書くつもりでしょうか……??」
加蓮「目が怖いんだけど……。まあ、じゃあ、藍子が最初に言った夏フェスのことで……」
藍子「それがいいと思いますよ……」
□ ■ □ ■ □
加蓮「――よし、書けたっ」
藍子「お疲れ様、加蓮ちゃん♪」
加蓮「うわー、気付いたらすごい熱中してた。もう5時じゃん!」
藍子「ふふっ。今日は、加蓮ちゃんがゆるふわになった番ですね♪」
加蓮「藍子のこと笑えないじゃんー……」
藍子「えへへへ~」
加蓮「ね、私なんか変なこと言ってなかった?」
藍子「大丈夫ですよ。……大丈夫ですけれど、途中から加蓮ちゃん、ものすごく一生懸命でしたね」
加蓮「ぐっ」
藍子「最初は私に、フェスの前の日のことや、当日の舞台のことを聞いてきたのに。途中から、私が話しかけても無反応で……」
加蓮「そ、それはー……」
藍子「でも、私の好きな加蓮ちゃんの真面目な表情が撮――見られて、よかったです♪」
加蓮「……撮った?」
藍子「な、なんのことでしょうか」
加蓮「撮ったわね」
藍子「店員さ~ん」
加蓮「撮ったでしょ! スマフォを出しなさい。出せ!」
藍子「店員さんっ、店員さんっ、注文お願いしま~す! お願いしま~す!!」
……。
…………。
藍子「あうぅ……」(写真は消されました)
加蓮「ったく……」モグモグ
藍子「加蓮ちゃんの意地悪ぅ……」
加蓮「……いいから汚さないよう紙さっさとしまって食べなさい。ほら、ホットケーキ」
藍子「いただきます……」モグモグ
加蓮「藍子は書けたの?」
藍子「あ、はい。おかげさまで、私の夏休みの宿題は完成しましたっ」
加蓮「おめでとー」
藍子「お礼に加蓮ちゃんの宿題を手伝いますね」
加蓮「いやそれはいいって。答え丸写しができなくなるし」
藍子「それをさせないための手伝いでもあるんですからっ」
加蓮「えー」
加蓮「藍子は私についての作文を書いたんだよね」
藍子「はい。そうですね。大切な人についての作文で、加蓮ちゃんのこと――」
藍子「あ、あはは。これ、改めて言うと照れてしまいますね……」
加蓮「……ちょっとそれ読ませてもらっていい?」
藍子「それは……うう、できればやめてっ」
加蓮「気になるー……」
藍子「どうしても……?」
加蓮「……いっか。なんか見たらすごい照れちゃう気がするし……。やめとく。なんでもかんでも知らないといけない、っていう考えは良くないよね」
藍子「ほっ」
加蓮「それに藍子の前で照れたりしたら、また隠し撮りされかねないし?」
藍子「もうしませんってば~っ」
加蓮「私の知らないところで私の写真が勝手にネットに上がってそうで怖いんだよねー」
藍子「それはしたことありませんっ」
加蓮「事務所の何人かが共有してて? みんな私の顔見てニヤニヤ笑ったりして」
藍子「被害妄想ですよ……」
加蓮「凛や奈緒に弱みを見せる訳にはいかない!」
藍子「あはは……」
加蓮「夏休みの宿題、ぜんぶ手つかずって訳でもなくてさ」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「半分くらいは終わってる。……ごめん半分はちょっと盛った。4割くらい?」
藍子「それなら、夏休みが終わるまでにも間に合いそうですね」
加蓮「うん。それに、夏が終わるって話なのに宿題ばっかりやってる訳にもいかないでしょ」
加蓮「もう1回くらいはプールに行って、事務所の花火大会にも参加して、そうそう、秋コーデも揃えて行かなきゃね」
藍子「……加蓮ちゃん、楽しそう♪」
加蓮「夏が終わって、秋が来ちゃうんだねー」
藍子「ううん、その前に」
加蓮「?」
藍子「その前に、加蓮ちゃんの誕生日」
加蓮「あ……」
藍子「そういえば加蓮ちゃん。最近、お仕事やレッスンの時以外に、あんまり事務所に行っていないんじゃないですか?」
加蓮「……そうだけど、それがどうかした?」
藍子「事務所に行く度に、周りから聞かれたり、相談されたりしちゃいますよ。加蓮ちゃんの誕生日プレゼント、何がいいだろうって」
加蓮「…………」
藍子「パーティーは、未央ちゃんと智絵里ちゃんとまゆちゃんが開いてくれるそうですけれど、みんな誕生日プレゼントに迷ってしまっているみたいで――」
藍子「ちなみに、ポテトはPさんが禁止しちゃいました」
加蓮「ポテト? なんでわざわざ」
藍子「Pさん、加蓮ちゃんをびっくりさせたいそうです。だから、最初に思いつくプレゼントは無しにする、って」
藍子「あと、みなさんが加蓮ちゃんのことをどう思っているか、どう見ているか、知りたいなんてお話もしていました」
藍子「あ、加蓮ちゃんの大好きなポテトはパーティー当日にいっぱい買って来る予定なので、そこは安心してくださいねっ」
藍子「普段は加蓮ちゃん、いろんな人から食べすぎないようにって気にかけてもらっていると思いますけれど、当日は何も言わないでおこうって。食べ放題ですよ、加蓮ちゃん♪」
加蓮「……いや、藍子さ」
藍子「でも、プレゼントの相談をされても私もまだ――あ、はい。何ですか? 加蓮ちゃん」
加蓮「それって言ってよかったヤツなの?」
藍子「…………あっ」
加蓮「秘密にすべきことでもないけど、わざわざ言わない方がよかったんじゃない?」
藍子「……………………」
加蓮「特にポテトの下りとか。びっくりさせたいことをネタバレしちゃったら、びっくりしにくくなるんだけど……」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「はいはい」
藍子「忘れてください」
加蓮「それはちょっと難しいかなー」
藍子「それなら、加蓮ちゃん」
加蓮「はいはい?」
藍子「目の前の人の記憶をなくすいい方法を教えてください」
加蓮「……それを知ってたら私がアンタから"私に喋った"って記憶を奪い取るわよ」
藍子「ううぅ……。加蓮ちゃん、なかったことにするのとか得意でしたよね!? 私のお話だって、なかったことにできますよね!!」
加蓮「…………………………………………」ジトー
藍子「目が冷たいっ……!」
加蓮「……。まあ、なんていうか……ごめん」
藍子「私の方こそ、ごめんなさい……」
加蓮「……って冷静に考えたら私悪くないけど。藍子が1人で全部喋ったんだけどさ」
加蓮「ったく。隠し事は、ちゃんと隠してあげなきゃ。藍子を信じてくれた子達がかわいそうだよ?」
藍子「うううぅ……!」
加蓮「なんたってPさんのミスまでべらべら喋っちゃう子だし?」
藍子「そういうこと言わないでぇ……!」
加蓮「あーあ。これじゃ藍子に秘密の話なんてできないなー」
藍子「それはっ……! か、加蓮ちゃんの秘密は、誰にも話してませんから!」
加蓮「ならいいけど……」
加蓮「…………ねえ藍子」
藍子「はい……?」
加蓮「目の前の人の記憶を粉々にするいい方法って知らない?」
藍子「そう言いながらメニューを振りかぶるのやめてください! ……違いますっ、メニューは柔らかいから効果が薄いですよねってことじゃないです!! 違います!!!」
……。
…………。
加蓮「店員さん、いつもありがとねー」
藍子「いつもありがとうございますっ。加蓮ちゃん、今日もメロンソーダなんですね」
加蓮「今年のメロンソーダ納め!」
藍子「あはははっ。なにですか、メロンソーダ納めって~」
加蓮「ごくごく……」
藍子「ずず……」
加蓮「っと」コトン
藍子「ふうっ……」コトン
加蓮「……1つ、愚痴っていうか、いや愚痴なんだけどさ。思い出したことがあって」
加蓮「ちょっとだけ昔話していい? 大丈夫、そんなに重くないから」
藍子「……ずず」
藍子「はい、いいですよ。何ですか?」コトン
加蓮「あはっ。そう姿勢を正されたら逆に喋りにくくなるね……」
藍子「じゃあ……。いつも通りで?」
加蓮「いつも通りで」
加蓮「多分この話ってしてると思うんだけど……ほら、私さ。昔は夏も秋も冬もなーんにもなくて」
加蓮「季節が終わろうが変わろうがどうでもいいや、って。私には関係ないし、私の外の……奴らだけにしか関係なかったし」
加蓮「あ、でも1回だけあったかな……」
加蓮「ロビーの人達の服が、がらっと変わったのを見て」
加蓮「私もいつか、あれをやりたいな、って」
藍子「……衣替え?」
加蓮「あはははっ。確かに衣替えだね。衣替えをやりたかった4歳の女の子だよ」
藍子「そう言われると……うくっ……あははははっ……!」
加蓮「10代なのにおじさん趣味! みたいなの最近よくテレビに出るけど、さすがに衣替えがしたい4歳の子はいないよねー」
藍子「いませんよっ……! もしいても、どう紹介するんですか!?」
加蓮「衣替えがしたい4歳です」
藍子「あはははははっ……!」バンバン
加蓮「……おかしいなー、シリアスが始まったと思ったら1分で終わった。始めたの私だけど」
加蓮「相変わらず沸点低すぎでしょこの子。うん。次から藍子が落ち込んでたらこのネタ使お――」
加蓮「あ、店員さん。ごめんねうるさくしちゃって……待って。良くない? 藍子は笑ってるんだから私を睨まなくても良くない?」
藍子「ご、ごほん。騒がしくしちゃいました……ごめんなさい」
加蓮「大丈夫大丈夫。店員もウケてくれたから?」
藍子「衣替えを……の?」
加蓮「口にするだけでほっぺたがヒクヒクってなるんだね……」
加蓮「えーと、どこまで話したんだっけ。もうっ。藍子が大笑いするから忘れちゃったでしょっ」
藍子「だって面白くて……」
加蓮「確か季節の話だよね。あ、そうそう。私にはそういう楽しさがなーんにもなくて」
加蓮「なのに目の前の藍子ちゃんは、私の気持ちも知らないで毎日のほほんと生きてるし? ムカついちゃうよねー」
藍子「……これって、そういう話だったんですか?」
加蓮「え、違うけど」
藍子「ならどうして言ったんですか……」
加蓮「私だし」
加蓮「だけど最近は……。藍子のせいで、夏が来るなら夏が楽しみになっちゃったし、秋が来るなら秋が楽しみになっちゃうしでさ」
加蓮「あーあ。ホント、いつからこんな毎日を楽しむ加蓮ちゃんになっちゃったんだか。あーあっ」
藍子「きっと、ずっと夢見ていたアイドルになったからですよ。今まで知らなかったことも、いっぱい知って――」
加蓮「アンタのせいだって言ってんだけど!?」ベシ
藍子「痛いっ」
加蓮「……ハァ。そうだよね。藍子に回りくどいこと言っても気付いてくれる訳ないよね」
藍子「あ、あはは……」
加蓮「人の告白に全く気付かないくらいだし」
藍子「その話まだするんですかっ」
加蓮「でも、夏が終わったら誕生日って考えはなかったなぁ」
藍子「……夏の始まりに、私の誕生日が来て」
加蓮「夏の終わりに、私が生まれた日が……か」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……あ」
加蓮「?」
藍子「思い出しました。そういえば、今はまだ私の方がお姉ちゃんなんですよね♪」
加蓮「……アンタさー。この空気でそれ言う? 今言う?」
藍子「加蓮ちゃんっ♪」
加蓮「誕生日プレゼントにはもっとまともな姉がほしいです」
藍子「ひどいっ」
加蓮「いや、こうしよっか。藍子さん」
藍子「はい――さ、さん?」
加蓮「私は誕生日プレゼントに妹がほしいです」
藍子「はあ。それなら、お母さんに言った方が……言っても難しいかもしれませんけれど」
加蓮「7月25日から9月5日の間は私が妹ってことにしてあげていいよ。それ以外は藍子が妹ね」
藍子「……な、なるほど? じゃあ――」
藍子「加蓮お姉ちゃんっ♪」
加蓮「……」
藍子「うふふ。こっちの方が、しっくり来ちゃいますね」
加蓮「……なんだろ。このネタついこの前もした気がする。しかも呼ばれるのもしっくり来るんだけど……」
藍子「でも、やっぱり……。“加蓮ちゃん”」
加蓮「何?」
藍子「私は、これが一番好きです」
加蓮「……」
藍子「1ヶ月半の間だけ、私が年上かもしれません。もしかしたら、身長が1cmくらい伸びて、加蓮ちゃんのことを見下ろしているのかもしれません」
藍子「でも、やっぱり、私はこれが好きっ――」
藍子「待ち遠しいですね。秋が来るのも、加蓮ちゃんの誕生日が来るのも……。ふふっ♪」
加蓮「……。ホント……人の誕生日のこと、その人よりも待ち遠しいとか言っちゃう子と一緒にいたがるとかさ。加蓮ちゃんはどうかしちゃったんだろうね」
藍子「あ、加蓮ちゃんっ。もう6時みたいですよ。今日は加蓮ちゃんの家で、宿題をやらないと!」
加蓮「いやだから別にいいって。アンタが手伝うとサボれなくなるから――ああもうレジまで行ってる! 待ちなさいよ、こらーっ」
【おしまい】
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