北条加蓮「藍子と」高森藍子「曇天のカフェテラスで」 (41)

――おしゃれなカフェテラス――

高森藍子「はぁ……」

北条加蓮「やっほー。聞いてよ、店員ってば私の顔を見るなり藍子ならテラス席にいますから――って……」

藍子「……あ。こんにちは、加蓮ちゃん」ニコッ

加蓮「……?」

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レンアイカフェテラスシリーズ第84話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で ろっかいめ」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「夏休みのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「残暑模様のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「雨上がりのカフェで」(+高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「また毎日が始まる日のカフェで」)

前々回のあらすじ:カフェの店員さんには探し人がいるようです。アイドル活動を続けていたら、いつか会えるかも……。


加蓮「……。どうかしたの?」

藍子「あはは~……。ど、どうもしていませんよ? やだなぁ」

加蓮「……」

藍子「……はぁ」

加蓮「……」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「はぁ…………」

加蓮「……。すみませーん。とりあえず……どうしよ。すっごい甘いココアをこの子にと、私にいつものコーヒーお願いー」

……。

…………。

加蓮「……」ズズ

藍子「……」

加蓮「……とりあえず、ココア飲んだら?」

藍子「……」チラ

加蓮「……はい。ココア。飲みなさい」

藍子「……うん」コクコク

加蓮「ずず……ふぅ」

藍子「こく、こく……。はふぅ」

加蓮「で、藍子」

藍子「何ですか……?」

加蓮「そうね……。さすがに目の前で辛気臭い顔をされたら楽しい時間も楽しくなくなるでしょ?」

加蓮「今日の空みたいな顔しないで。さっさと話しなさい」

藍子「……。……加蓮ちゃんは、相変わらず手厳しいんですね」

加蓮「生憎、人を気遣うとか人の為を思ってとかそういう前口上が大っ嫌いなの。例えそれが100%本当のことで、藍子みたいに優しい子が相手のことを思い遣っていたとしても、ね」

加蓮「だから、藍子の為とかじゃなくて。私が楽しい時間を過ごせるように何があったか言いなさい」ズズ

藍子「……、」

藍子「大したことじゃないんですよ? 加蓮ちゃんの悩みに比べたら」

加蓮「アンタが落ち込むことなら、今日の朝ごはんが美味しくなかったことでも大したことだし、落ち込まないならモバP(以下「P」)さんが大怪我したとしても大したことじゃないでしょ」

藍子「……」

藍子「……あははっ」

加蓮「ん」

藍子「ううん。加蓮ちゃんらしいな、って。今の、すっごく♪」

藍子「私なら、そこまで思いきれないなぁ、って……」

加蓮「そっか。安心した」

藍子「安心?」

加蓮「藍子にできないことがあるってことで、藍子の近くにいる建前が作れるからね」

藍子「建前って――」

加蓮「じゃないとうっさいのがいっぱいいるからねー。藍子ちゃん大好きファンクラブの皆さんがね?」

藍子「ふぁ、ファンクラブって……」

加蓮「アンタら一応アイドルとしてライバルでしょって思うけどねー。ま、私が言っても説得力ないか。いやでもさー、やっぱり仲良くしすぎて……ああもうっ、いいからアンタ達、藍子を私に譲りなさいよ!」

藍子「……ふふっ」

加蓮「って、私の話はいいの。ほら、藍子。何があったのか話しなさい」

藍子「……はぁい。笑わないでくださいね?」

藍子「失敗しちゃったことが、2つあるんです」

加蓮「2つ」

藍子「はい。1つ目は、この前の握手会の時――」

藍子「会えたんです。あの子に」

加蓮「あの子……!?」

藍子「え?」

加蓮「えっ」

藍子「……?? どうして、そんなにびっくりするんですか?」

加蓮「え、だって――って、あ、もしかしてあの子って、あの子じゃなくてあの子? カフェコラムを読んでくれてたあの……」

藍子「そうですよ? ……あははっ。あの子じゃなくてあの子、って、すっごくややこしくなっていますね」

加蓮「ごめんごめん。あの子って言うからてっきり小梅ちゃんのあの子かと」

藍子「あ~……」

加蓮「……握手会の時に小梅ちゃんのあの子が実体化して、藍子の列に並ぶ、夏のある日」

藍子「……本当なら、すっごくホラーちっくなお話なのに、どうしてでしょう。ぜんぜん怖くありません」

加蓮「その隣でどうして自分の列に並ばないのかと、ほんのちょっぴり唇を尖らせている小梅ちゃん」

藍子「ふんふん」

加蓮「そして小梅ちゃんの列には、不自然な間隔が空いているのでした――」

藍子「ふんふ――わあっ!? ……き、急に怪談話にするのはやめましょうよ~」

加蓮「あはははっ」

加蓮「小梅ちゃんの話を聞いてる限り可愛い子っぽいし、むしろ会ってみたくなっちゃうよね」

藍子「ふふ。そうですね。いつかお会いできる日が来るのでしょうか……」

加蓮「……次に来た時の私に取り憑いてたらどうする?」

藍子「そ、それはちょっと、その……。あはは……」

藍子「か、加蓮ちゃんならきっと撃退できますよね!」

加蓮「えー、小梅ちゃんの友達なのに? 成仏させちゃうんだ。うわ、藍子ってばひどーい」

藍子「そういう言い方しないで~っ」

加蓮「ま、夏は終わったんだし怪談話はここまで」

加蓮「それより藍子、探してたあの子に会えたんだ。まだ藍子のこと応援してくれてた?」

藍子「はいっ! ただ、握手してあげた瞬間に、また魂が抜けてしまったみたいで……」

加蓮「えー、また?」

藍子「隣の子が、頑張って運んであげていましたっ」

加蓮「藍子相手に何を緊張することがあるんだか……」

藍子「加蓮ちゃん、加蓮ちゃん」

加蓮「んー?」

藍子「私もそれだけ、きらきら輝くアイドルになれた……ううん、なっているってことでしょうかっ」

加蓮「……、」

藍子「♪」キラキラ

加蓮「ふふっ。そうかもね」

藍子「よかった♪ 加蓮ちゃんの言葉を借りるのなら、これで加蓮ちゃんと一緒にいる建前、作れちゃいましたっ」

加蓮「えー? 建前がないと一緒にいてくれない間柄なんて、ちょっと何かあったらすぐ壊れるんだよ?」

藍子「……さ、先に言ったのは加蓮ちゃんです!」

加蓮「ひひっ」

加蓮「で、それで落ち込んでたってことは――」

藍子「…………はい。そういうことです」ズーン

加蓮「そっか」

藍子「上手く伝えられなかったどころか……。列の次の方があの子だって気付いた瞬間、びっくりと、嬉しさが急に流れ込んでしまって……」

加蓮「パニクっちゃった?」

藍子「はい。それに、なんて伝えればいいかまだ決めていなかったから。そのこともあって、うまくお話することもできなくて」

藍子「あの子を……ファンの方を、がっかりさせちゃったのかなって思うと……」

藍子「……うぅ」

加蓮「いや、あのね藍子。あの子、藍子の顔を見て魂が抜けてったんでしょ? それって喜んでくれたってことじゃないの?」

藍子「……そう、なのかな?」

加蓮「そうなの」

加蓮「まぁ……。何も言えなかったのはドンマイだけどさ。どう伝えればいいか決めてなかったのは私も悪いんだし」

藍子「そんな……っ! 加蓮ちゃんは悪くなんて、」

加蓮「私が悪くないなら藍子も悪くない。自分ばっかり責めてどうすんのよ」

藍子「でも、」

加蓮「それとも、何か上手くいかないことがあって、落ち込むような出来事があって、それを共有させてもくれないの? 私達ってその程度の関係だった?」

藍子「……、…………」フルフル

加蓮「はい、よろしい」

加蓮「っと、コーヒーごちそうさまっ。そっかそっか」

藍子「……」ズズ

加蓮「その後の握手会は上手くできたの?」

藍子「あ、はい。取り返さなきゃ、って思って、その後はなんとか。ファンの方とも、楽しくお喋りできたハズですっ」

藍子「ちょっぴり早口になってしまったかもしれませんけれど――」

加蓮「藍子はそれくらいでいいでしょ」

藍子「うぅ、それ、スタッフさんやPさんにも言われてしまいました。今日の私は、はきはき喋りますねって、褒めてもらったくらいなんです……」

加蓮「はは……。分かってないなー。藍子に時間を奪われる楽しさを知らないとは」

藍子「時間を奪われる楽しさ!?」

加蓮「ほら、私ってよく藍子のことを時間泥棒とか魔女とかって言うじゃん」

藍子「……言いますね」

加蓮「それ、私なりの褒め言葉」

藍子「褒め言葉に聞こえないので、別の言葉にしてくださいっ」

加蓮「へー。例えば?」

藍子「例えば――」

加蓮「例えばー?」ニヤニヤ

藍子「……加蓮ちゃんが考えて、今度教えてくださいっ」

加蓮「ちぇ」

藍子「……楽しみにしちゃいますね♪」

加蓮「うぇ。褒めないとダメー?」

藍子「だめっ」

加蓮「うぇー」

藍子「その時は、私も加蓮ちゃんを褒める言葉を探して来ますから。ねっ?」

加蓮「はいはい。しょうがないなぁー」

藍子「私が、時間を盗んでしまう泥棒さんや、魔女さんだって言うなら……。加蓮ちゃんは!」

加蓮「ほーう? 私は?」

藍子「……」

藍子「…………よ、弱虫で、泣き虫の寂しがり屋さん?」

加蓮「ほー。ほぉー?」グニグニ

藍子「いひゃいいひゃいっ」

加蓮「アンタね、そういうことを直接言うんじゃなくてたとえ話とかにするくらい――」

加蓮「いやそもそもデマなんだけど!? 誰が泣き虫よ。誰が寂しがり屋だって!?」

藍子「え、加蓮ちゃんのことです」

加蓮「え、じゃないわよ! "えっ?"みたいな顔しない!」

藍子「何かに例えればいいんですよね。寂しがり屋だから……。やっぱり、ウサギさん?」

藍子「それから、泣き虫は……。小さい子、とかかな」

藍子「じゃあ、加蓮ちゃんはウサギさんの子ですね!」

加蓮「明らかに私のキャラとかけ離れてるでしょーが!」グニグニグニグニ

藍子「いひゃいでふっ、いひゃいっ!」ペチペチ

加蓮「ぜーっ、ぜーっ……。誰がウサギの子よ……。そんなのうちの事務所に外にいるでしょ。智絵里とか……」

藍子「え~っ。智絵里ちゃん、ああ見えてすごく頑張り屋さんなんですよ?」

加蓮「それは知ってるわよ。知ってるけど――」

藍子「智絵里ちゃんと言えば、この前の演劇の時です」

加蓮「確か藍子と一緒に脇役やったんだっけ」

藍子「はい♪ 智絵里ちゃん、Pさんを待っている間、ずっと1人で台本を読んでいたんです。私もその時、打ち合わせの関係でPさんと一緒にいたんですけれど……」

藍子「楽屋に戻った時の智絵里ちゃん、寂しかったって言っていましたけれど、でも、すごくいつも通りでした」

藍子「私も、智絵里ちゃんのこと、寂しがり屋……ううん。誰かと一緒にいるのが好きな子だっていうのは、知っていましたから、ちょっぴり心配だったんです」

藍子「でも、心配する必要はありませんでした。その後のリハーサルや本番でも、1発OKが出てっ」

藍子「練習のお陰もあるけれど、1人で台本を読んでいた時のイメージトレーニングのお陰だって、智絵里ちゃん、ほっとした顔で……」

藍子「あっ、でも、私のお陰とも言ってくれました」

藍子「私は、大したことはしていないんですけれど……。やっぱり、お礼を言ってもらえて、すごく嬉しかったです♪」

>>17 1行目の藍子のセリフを修正させてください。
誤:藍子「智絵里ちゃんと言えば、この前の演劇の時です」
正:藍子「智絵里ちゃんと言えば、この前の公演の時です」


加蓮「……へー、そう。よかったね」

藍子「はい♪ ……って、加蓮ちゃん? なんだか不満そう……?」

加蓮「べっつにー? 知ってる事実を突きつけられただけだしー。不満なんてないわよー?」

藍子「……? このお話、知っていたんですか? もしかして、Pさんから聞いたとか……?」

加蓮「そうじゃなくて……。まぁいいよ。そういうネチネチした話は好きじゃないし」ボソ

藍子「……???」

加蓮「で、なんだっけ。智絵里がウサギからライオンに進化したって話だっけ?」

藍子「さすがにそうじゃないと思いますよ!?」

加蓮「ライオンにチョップされたら致命傷になるもんね」

藍子「どういうお話ですか!?」

加蓮「ま、智絵里はウサギではなかったってことで」

藍子「はい。なので、加蓮ちゃんがウサギさんの子ですね♪」

加蓮「私も違うんだけど!?」

……。

…………。

加蓮「もー。何の話だったか忘れちゃったよ。一応、藍子のお悩み相談を受けてたんだよね私……?」

藍子「そういえばそうでしたね。すっかり心が軽くなってしまいました」

加蓮「ハァ……」

藍子「ありがとう、加蓮ちゃん♪」

加蓮「……それこそ私は何もしてないわよ」

藍子「ううん、お話を聞いてくれたから」

加蓮「Pさんだって聞いてくれるでしょ」

藍子「今聞いてくれたのは、加蓮ちゃんですよ?」

藍子「それに、もし何もしていなくても、お礼を言われたら嬉しくなりませんか? その気持ちも、共有したいなって♪」

加蓮「ならないから、その相手がほしいなら他をあたりなさい」

藍子「む~……」

加蓮「……ホントに当たる必要はないからね?」

藍子「……?」

加蓮「ほら、もう1個あるんでしょ。なんか落ち込んだ話。さっさと全部吐き出――」

加蓮「……テラス席だけど一応ここカフェか」キョロキョロ

藍子「カフェですね」

加蓮「さっさと全部……。ゲロして楽になっちゃいなさい?」

藍子「どうしてもっと、その、綺麗じゃない言葉にしちゃったんですかっ」

加蓮「どーせ聞き耳立てる人いないからいっかなって」

藍子「もしかしたら加蓮ちゃんがお話していることを知って、こっそり聞いている人がいるかもしれないじゃないですか」

加蓮「いて堪るかっ。何、アンタが普段からやってるから他の人もやるだろうって? 最低の考えだよ、それ!」

藍子「…………、」メソラシ

加蓮「えっ。……ち、ちょっと。そこ否定するとこなんだけど? "そんなことしてませんっ"とか言って」

藍子「え、え~っと……」

加蓮「おい」

藍子「それより何か食べませんか!? ここに来てまだ何も食べてなくてっ、私実はお腹けっこう空いてるんです! ねっ、ねっ!?」

加蓮「……食べたら食べた分だけ吐く量も増えるけど、それでもいいの?」

藍子「も、もうちょっと綺麗な言い方をしましょう……」

加蓮「食欲無くなった? じゃ食べる必要もないね。で、聞き耳を立てるって話だけど――」

藍子「すみませ~んっ、すみませ~んっっ!!」

加蓮「……たはは」


□ ■ □ ■ □


加蓮「分かった分かった。もういじめない。もういじめないから。だから急いで食べなくていいよ、藍子」

藍子「ううう~」

加蓮「ふふっ。ウサギならもうちょっと可愛く鳴こうよ」

藍子「ウサギさんは加蓮ちゃんですもんっ」

加蓮「私もウサギじゃないです」

加蓮「いただきます」パン

藍子「いただきます♪」パン

加蓮「もぐもぐ……」

藍子「もぐ、もぐ……」

加蓮「……んー?」

藍子「……? 加蓮ちゃん? サンドイッチ、好きな具じゃありませんでしたか……?」

加蓮「……なんで作った本人でもない藍子が不安そうな顔をするんだか」

加蓮「ほら、あれだよ。今すっごい曇り空だし。きっとそのせいだよ」

藍子「確かに……。すごく重苦しい空ですよね。テラス席に座ったの、失敗だったかな?」

加蓮「店内から暗い外の光景を見るってのも、なんか重い気持ちにならない?」

藍子「それも分かりますね……」

加蓮「これくらい曇るならいっそ雨が降ってほしいくらいだよー……」

藍子「曇り空のお散歩も、それはそれで楽しいですよ?」

加蓮「うぇ……。これすら楽しめるの? ホント頭が幸せだね」

藍子「幸せは、探すものですからっ」

加蓮「……皮肉なんだけどね。いや、八つ当たりか……」モグモグ

藍子「加蓮ちゃんが嫌な気持ちになるなら、今から店内に移動させてもらいましょうか」

加蓮「そこまでは……。ううん、やっぱ移らせてもらおっか。なんかそーいう気分だし」

藍子「はいっ。すみませ~んっ」

加蓮「お皿くらいは自分で持っていこっと……」


――おしゃれなカフェ――

藍子「店員さん、すごく優しい顔でしたね。加蓮ちゃん」

加蓮「そうだねー」

藍子「ねっ?」

加蓮「そうだね。……どしたの? なんか言いたげ?」

藍子「ううん。加蓮ちゃん、いつも店員さんが、私のことばかり贔屓するって言うけれど、そんなことないと思いますよ?」

加蓮「あー……。あははっ。あれはそのー……」

藍子「その?」

加蓮「……もう。話しづらいことなのに。下から覗き込むそのポーズは反則だよ、藍子」

藍子「……?」

加蓮「無自覚だし」

加蓮「あれはただ目の前で……。そういうことされると、悔しくなるっていうか、……一応私もよく知ってる相手なんだし? ちょっとだけ、寂しくなるっていうか」

藍子「加蓮ちゃん、やっぱりウサギさんの子――」

加蓮「違うの! ……寂しくなるんじゃなくて、対抗心! 藍子はライバルだってこと!」

藍子「ふふ、そういうことにしておきますねっ」

加蓮「ぐぬぬ」

加蓮「……前はさ。みんなに好かれようとか、そういう考えはなかったんだけどね」

加蓮「それどころか、そういう八方美人なのって嫌いな相手だったくらいだし」

藍子「その理由で、前の私のこと、苦手だって言ってましたもんね」

加蓮「今は、みんなに好きになってもらいたいって思ってる。きっとアイドルになったからなんだろうね」

加蓮「アイドルになったから――」

加蓮「……、」

加蓮「……あははっ!」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「あ、ううんっ。藍子の真似して"自分はアイドルだー"って思い込んでみたの。そしたらおかしくなっちゃって」

藍子「えっ、私の真似?」

加蓮「藍子、よく言うじゃん。自分がアイドルになれたってことですね、とか、アイドルやれてますよね、とか。今日も言ったよ!」

藍子「そ、そんなこと言いましたっけ」

加蓮「私のことばっかり覚えてないで、たまには自分のことも覚えなさいよー」

加蓮「それ真似して、心の中で思ってみたら、すごくおかしくなっちゃった。なんか今更すぎてさ」

藍子「きっと、それだけ加蓮ちゃんにとってアイドルという存在が、当たり前になっているってことですね♪」

加蓮「あ、そうだ。それで前さ、ほら、夏休みだっていうのにレッスンばっかりしてたじゃん。私」

藍子「していましたね」

加蓮「そのことPさんに笑い話で言って、遊びに行くって話をしたらさ、Pさんなんて言ったと思う?」

藍子「う~ん……。一生懸命頑張ってすごいね、とか?」

加蓮「そんなこと直接言えるの藍子くらいよ。正解は――」

藍子「正解はっ」

加蓮「アイドルバカだな! だよ。ひどいと思わない!? バカって言われたんだよ!?」

藍子「それは……ひどいですねっ」

加蓮「でしょー!? そりゃ直接褒めてくれるまで期待はしてないけどさ。藍子じゃないんだし。でもアイドルバカって普通言うかな!?」

藍子「でも、それはもしかしたらPさんなりの褒め言葉だったのかも……?」

加蓮「思わず睨んだらさ、すまんすまん、って。でもそれも笑って言うんだよ! 女の子にバカって言って笑いながら謝るってサイテーだよね!?」

藍子「ふふ、そうですね。Pさん、さいてーですねっ」

加蓮「……あのさ、藍子」

藍子「はい、何ですか?」

加蓮「もしかして、私が楽しそうだとか思ってない?」

藍子「思っていますよ?」

加蓮「…………」

藍子「だって加蓮ちゃん、本当に怒っていたり、Pさんのことを嫌だって思ったら、そんなに大げさに言ったり、テンションが高かったり、なんてこと、ありませんよね?」

加蓮「……。藍子が私の何を知ってるのよー」

藍子「加蓮ちゃん。私……ずっと加蓮ちゃんに隠していたんです」

藍子「実は……加蓮ちゃんの心の声が、ぜんぶ聞こえてしまっていたこと!」

加蓮「……、」

加蓮「なっ! 何それ……! ううん、そんなの嘘に決まってる! もし本当に全部聞いてたら、今頃私と一緒にいてくれる筈がない!」

加蓮「だって……!」

藍子「だって……?」

加蓮「私が今まで藍子のこと、何度嫌いって思ったことか! どれだけ悪いことを思って、消えちゃえって思ったか――」

藍子「加蓮ちゃん。そのくらいで自分の側を離れるって思っている加蓮ちゃんのことは、それこそ嫌いですっ」

加蓮「藍子っ……」

藍子「加蓮ちゃん……!」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……毎回思うんだけどさ、アンタお芝居ごっこの中に時々ガチなの混ぜてくるよね」

藍子「えへへ……。加蓮ちゃんに影響されて、私まで嘘が苦手に……。ううん、嫌いになってしまったみたいです」

加蓮「いいの? 公演ってフィクションだよ。つまり全部嘘ってことだよ?」

藍子「楽しんでもらうための作り話なら、大丈夫ですから♪」

加蓮「都合良すぎない?」

藍子「ごちそうさまでした♪」

加蓮「ごちそうさまでした」

藍子「加蓮ちゃんの言う通り、曇り空の下で食べるサンドイッチより、店内で食べるサンドイッチの方が美味しかったですね」

加蓮「そうだねー」

藍子「はいっ」

加蓮「で、藍子。私の分まで食べた言い訳はそれってことでいいのかな?」

藍子「……あ、あはは」

加蓮「全くっ。……げ、ってかもう1時間も経ってる!」

藍子「わ、本当ですねっ。うぅ、またやっちゃいました……」

加蓮「……え、1時間経ったの? サンドイッチだけで?」

加蓮「え……」

加蓮「え……?」

藍子「……言いたいことは分かりますけどそんなに不気味そうに自分をぎゅっと抱きしめなくてもいいじゃないですか!」

加蓮「いや割とマジで……。そこまで藍子に侵食されてんの? 私……ってなって」

藍子「せめて影響って言ってください……」

加蓮「あ、店員さん。お皿回収しに来てくれたんだ。ありがとー」

藍子「ありがとうございます。ごちそうさまでした♪」

加蓮「あ、そうだ。えーっと……」

藍子「? 加蓮ちゃん……?」

加蓮「えーっと――」

藍子「もしかして……。私が伝えられなかったことを――」

藍子「……そうですよね。やっぱり、言った方がいいですよね」

藍子「あのっ。加蓮ちゃん、それなら私が言いますから、」

加蓮「サンドイッチ、美味しかったよ……美味しかったです。あー、具体的に言うのはちょっと照れるけど……。うんっ。卵が美味しかった!」

藍子「へっ?」

加蓮「……おー、店員さんがほくほく顔で帰っていく。たまにはいいね、こういうのも」

藍子「加蓮ちゃん……今、悩んでいたのって、どうやって美味しく頂いたことを伝えようとして?」

加蓮「うん。周りに嫉妬ばっかりしててもしょうがないし、そもそも扱いに差が出るのって私の態度にも問題があるワケだし?」

加蓮「いつまでも藍子ばっかりずるいって言うのも私らしくないっていうか、そういうの嫌いっていうか」

加蓮「だけどやっぱり顔を見て言うのってちょっと恥ずかしいね。食レポとかでカメラの向こうのみんなに伝えるのは簡単だけど……」

加蓮「ふふっ。直接褒めれるのは藍子くらいって言ったの、若干馬鹿にしててごめん。意外と難しいんだよね、こーいうの」

藍子「…………」ポカン

藍子「……ふふっ♪」

加蓮「む。笑ったね? 何よー、藍子ちゃんにはできることでも、加蓮ちゃんには難しいの」

藍子「そういうことじゃないですっ。……でも、そういうことなら、加蓮ちゃん。今度、一緒に練習しましょうね。私が教えてあげますから♪」

加蓮「練習?」

藍子「直接褒めたり、お礼を言ったりすること。私だって、最初はちょっぴり照れたりしていましたけれど――」

藍子「照れたり……」

藍子「……してたかな……?」

加蓮「私が言うのもだけど藍子は多分してないんじゃないかな……」

……。

…………。

加蓮「サンドイッチおかわりー」モグモグ

藍子「今度は違った味なんですね。やっぱり店員さん、すごく気が利く方ですっ」モグモグ

加蓮「しかも見てよ藍子。私の方に置いてくれたヤツ。卵ぎっしり大増量!」

藍子「よかったね、加蓮ちゃん♪」

加蓮「うまー♪」

藍子「~♪」

加蓮「もぐもぐ……。っと。結局、藍子の悩んでたもう1つの出来事って何だったの?」

藍子「もぐ、もぐ……。そういえば、お話していませんでしたね」

藍子「もう1つの落ち込む出来事。それは――」

加蓮「それは?」

藍子「撮った写真を間違えて消してしまったことですっ」

加蓮「はあ。写真を」

藍子「テラス席で加蓮ちゃんを待っている間に……その、先日あの子にお会いした時のことを思い出して、落ち込んじゃって」

藍子「気持ちを切り替えたくて、スマートフォンの中にある写真を見返していたら、面白い風景の写真があって、みんなに見せてあげようと、思っ、て……」

藍子「……ぐすっ」

加蓮「ちょ」

藍子「そしたら、間違えて、消してぇ……!」

加蓮「……よ、よーしよし。そんなにショックだったんだね?」ナデナデ

藍子「ぐすん……」

加蓮「ちなみにそれどんな写真――いや、ごめん、いいよ……。思い出したらもっと泣けてきちゃうもんね……」

藍子「落ち込んでいる時に、さらに落ち込むことがあったから、すごく落ち込んじゃいました……。ず~んって……。心に錘ができたみたいに……」

加蓮「重なるとキツイよね、そーいうの」

藍子「……でも、いいんですっ」ヌグイヌグイ

藍子「写真も、身の回りの幸せも、また見つけますから。みなさんに笑って教えてあげたくなるようなものを!」

加蓮「おぉ、ポジティブー」

藍子「はいっ。なので、加蓮ちゃん。みんなにお話したくなること、一緒に探しましょうね♪」

加蓮「え?」

藍子「えっ?」

加蓮「え、私巻き込まれる流れ? あのね、そういうの探したいならアンタ1人で――」

藍子「……ぐすん」

加蓮「ちょっ! アンタわざとやってない!?」

加蓮「こうされたくて、」ナデナデ

加蓮「わざと、」ナデナデ

加蓮「やってないかなぁ!?」ナデナデ

藍子「……えへ♪」

加蓮「こんのっ!」ワシャワシャ

藍子「きゃ~っ。わざとじゃないです、本当にわざとじゃないですからっ」

加蓮「目に見えて落ち込んでるポーズしてたのもっ、ぜんぶっ、こういうの狙いだったんでしょっ、アンタは!」ワシャワシャワシャワシャ

藍子「ホントにおちこんでたもん! わざとでも、演技でもなくてっ、かっ、髪をぐしゃぐしゃにしないで~っ!」


【おしまい】

お前の作品が好きだったんだよ!

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