【安価】男「異世界転生しちゃった」 (354)



~マンション 屋上


俺の名は男。彼女に浮気され、保証人になってあげた友人に逃げられ、会社をクビにされた俺は生きる事を諦め、マンションの屋上から自殺を図る。

だが落下の最中、目の前に俗に言う異空間の穴が開き、俺はその中へと吸い込まれてしまった。
穴の中は暗闇で、ふわふわと浮いている感覚だ。空を飛ぶってのはこういう物なのかと、呑気な事を考えていた。

暫くすると段々目が開けられないくらいに周りが明るくなり、何かの上に落とされ背中と頭に衝撃が走る。ここは、草むらの上だ。


「いてて……なんだここ」


辺りを見回してみると、昔よくやったゲームの様な世界が広がっている。明らかに現実とは違う場所というのはすぐに理解した。
俺は知っている、この現象を。俺に起きた事を。


「これ、異世界転生じゃね!?マジか!」


ゲームをしなくなった俺はライトノベルをよく読むようになった。
その中でも異世界転生物が好きで、羨ましくて、憧れていた。
だからこそ、今の置かれた状況に困惑する事はなく、むしろ高揚していた。


「定番のアレやってみるか!えーっと……ステータスステータス……あれ?どうやって出すんだ?」


頭の中でステータス表示、ウィンドウオープン、自己解析、メニュー等色々と考えて口に出してみても、何も出ない。


「おかしいな……何も出ない。でも俺って……」


異世界転生の定番とも言える事だが、もしかしたら俺は異世界最強の能力、身体能力、最強魔法等が使えるかもと浮き足立つが、詳細がわからないんじゃどうしようもない。


「う~ん……どうしたもんかな」




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「ちょっと試してみるか」


俺はその場から立ち上がり、軽く準備運動を始める。
最近訛ってたから念入りにな。


「よし!」





行動内容。行動によって起きた事柄。行動によって判明した能力。
安価下2

適当に進むと街道を発見

ゴブリンらしきモンスターを発見。
まだ気付かれてはいないようだ。
しかし見た感じ話が通じそうではないので静かに立ち去る。



何かを始めようとした時、視界の端にゴブリンらしきモンスターを発見する。


「う、うわ…やばっ……!」


俺は出来るだけ声を殺し、音を立てずに背の高い草にうつ伏せになる。どうやらまだ気付かれてはいないようだ。
漫画やゲームではモンスターが喋るのはそう珍しくない。知能が高いモンスターは喋れるという設定もよく見る。

しかし、あいつは見た感じ全く話が通じそうにない。まだ自分の事もよく分かってないのに、あんな得体の知れないやつと戦えるか。
ここは、静かに逃げよう。


「……そーっとな……そーっと……」


動く度に草が揺れ、その度俺の鼓動が早くなる。
頼むから気付かないでくれよ。とりあえず近くの木の後ろまで行ければ。


「ギギ……ッ!!」


「やぁっ!」


女の声がした。俺は少し顔を上げてゴブリンの姿を確認する。ゴブリンは女の前で倒れている。
死んでる?あの女がやったのか?
すると女は腰から短刀を抜き、ゴブリンの前に蹲って何かをしている。素材でも取っているのか。

この世界の事はまだわからないし、迂闊に人も信用出来ない。
話を聞きたいが、どうするか。


安価下

愛想よく話しかけてみよう


(怪しまれないように、自然と、愛想よく話しかけよう)


俺は勢いよく立ち上がったせいか、大きな音を立ててしまう。
流石に女も気付き、こちらを振り向く。


「や、やあ。こんな所で何をしてるの?」


「見ての通りだけど」


「あ、そ、そうだよね!」


やべーミスったか。とりあえず何か言わないと。


「それ、君がやったの?凄いね」


「……」


やべぇ、すげぇ怪しまれてる。


「…ふん。これくらい楽勝よ。何?あんた、冒険者?」


(冒険者!その職業があるって事はギルドがあるかな?)


一般的にギルドとは俺の知っている限り2種類あって、ライセンス登録をし、討伐、採取、護衛…etc。様々な依頼を受けたりしてランクを上げる冒険者ギルド。
もう1つは同じ志を持った仲間が集い、組織を立ちあげるギルド。
冒険者という職業があるなら、前者の可能性が高いな。


「そう、そうなんだよ。ちょっと道に迷っちゃって……」


「ふーん……それにしては変な格好ね。装備も無さそうだし……ホントに冒険者?」


や、やっべぇぇぇ!そういや忘れてたけど上下スウェットだ俺!
そりゃそうだわ、こんな冒険者いるわけねぇわ。やべぇじゃん、俺超怪しいじゃん。


「これには少々事情があってね……」


「……あっそ。で、何か用なの」



安価下

とりあえず近くの町まで案内してくれないかな?



「さっき言った様に、道に迷っちゃって……良かったら近くの町まで案内してくれないかな?」


「いやよ」


ほぼ即答だった。こんな右も左もわからない世界で、モンスターの出るフィールドに居るのはまずい。


「そこを何とか……お願いしますっ!」


両手を合わせて懇願する。


「いやよ。私に何の得もないじゃない」


「そ、そんな……」


取り付く島もないとはこの事か。案内が駄目なら道を聞くか、流石にそれは良いよな?


「じゃあ……近くに町はあるかな?道だけでも教えてくれると助かるんだけど」


「……あっち。しばらく歩くと街道があるわ。右はリネル村、左はメリルの町よ」


「あ、ありがとう!」


「別に。こっちもやる事終わったし、消えるわ」


「あ、うん」


女は素早い動きで指した街道とは逆に走っていく。だが、収穫はあった。


「とりあえずは街道だよな……どっち行くか」



安価下



左のメリルの町に行こう。
村という響きは長閑で親切な人が多いと想像するが、今は情報の多そうな町にしよう。

道中モンスターに出くわすことも無く、暫く歩くと街道を見つけた。
俺は女に言われた通り、街道を左に進んでいく。



~メリルの町



「おお……すっげぇ!」


町に入るや否や、俺は感動する。俺の居た世界程の高さはないが、見たことの無い建物、綺麗な街並み、楽しそうに話す町民、武器を背負う冒険者と思われる者達。
様々な店が立ち並び、何処からか香ばしい匂いが俺の鼻を刺激する。
同時に安心したからか、腹が鳴る。

「あ……そういや死のうとしたから何も食べてなかったんだっけ……どうしよ」



安価下

酒場らしき場所に向かい、店主に相談



やはりここは酒場だろう。トラクエなら仲間を見つけ、ロマサカなら町を動かすアイテムを教えてくれる。とにかく重要な場所だ。

酒場を探しながら町を歩いていて、分かったことが二つある。
まずは俺の服装だ。周りの町民から奇異の目を向けられ、恥ずかしい想いをした事。
そしてもう一つ。文字が全くわからない。看板には何語?ってレベルの文字が描かれ、俺の世界に存在した文字ではない。
でも、言葉は通じたな。よくわからん。

町を練り歩いていると、前の建物から昼間から泥酔した男性が仲間に担がれて出てきた。ここが酒場だな。



~酒場


「へぇ……!」


居酒屋とはまた違う、大衆居酒屋とでも言うのか。仕切りは一切無く、木の丸テーブルと、その周りに木の丸椅子が室内に敷き詰められ、正面には店主と思わしき禿頭のおっさんがグラスを拭いている。
奥には階段があり、あそこは店主の寝床だろう。

俺はとりあえず店主の元へと移動する。その際も周りから変な奴が来たなって感じの目で見られた。


「あのー」


「おう、いらっしゃい。変わった格好してんな兄ちゃん」


「そうですよね、ははは……」


「で、なんにするんだ?」


「あ、いや、実は……」


「ん?」



相談内容
安価下

とりあえず可愛い店員さんにお酌を・・・



「あ、なんでもないです。お酒をひとつ貰えますか」


「だから何にすんだ?」


「えっと……火酒で」


「火酒か、ちょっと待ってな」


たくさんの異世界転生物を読んだ俺に死角はない。よく使われているであろう異世界の飲み物は火酒とエールだ。
まさか本当にあるとは思ってなかったが、言ってみるもんだ。


「ほらよ、代金は後払いだ」


「ありがとうございます。それと……可愛い女の子にお酌とかって……そういうサービスはあります?」


「なんだ兄ちゃん、女に酌させてぇのか」


「まぁ、はい」


「いいぜ。おーい!エルフ!ちょっとこっちきて兄ちゃんに酌してやれ!」


店主が大声で叫ぶもんだから周囲の目が俺に集まる。凄い恥ずかしい、やめてくれ店主よ。
すぐにエルフという可愛い女の子が近付いてきて、席に案内される。
お猪口を持ち、酒を注がれながらエルフという女の子を見る。
肌が黒いから、ダークエルフかな?それに…

「……耳、長いんだな」


「え?」


やばい、口に出していたか。ただでさえ変な目で見られてるんだ、目立たないようにしないと。


「いや、エルフって耳長いなーって」


「……」


沈黙が流れる。気まずい。変な事言ってしまったのか俺は。


「ぷっ…あはは!何言ってんすかお客さん!当たり前じゃないっすかー!」


「そ、そうだよね!あはは!」


「あはは!変なの!それじゃ私はこれで。ごゆっくりー!」


「あ、うん。ありがとう」


エルフが席から離れていき、俺は酒を飲む。うん、これは焼酎だな。
ただ酒を飲むのは良いが、一つ問題がある。
金が無い。



安価下

この酒場に住み込みで働かせてもらう



そうだ、住み込みで働いてしまえば良い。
そうすれば金も貯まるし、この服装ともおさらば出来る。
うんうん良いな、そうしよう。
俺は火酒を飲み終わると席を立ち、店主の元へと向かう。


「あの、ちょっと良いですか」


「ん?どうしたんだ?」


「実はさっきの続きなんですけど……住み込みで、ここで働かせてくれませんか?」


「はぁ?何言ってんだお前」


「実は、お金を持ってなくて……」


「何ぃ?持ってねぇくせに酒飲んでんのか!いい度胸してんな兄ちゃん!」


「は、ははは……」


上手く行きそうな流れだな。正直に話したのが良かったのか?


「でも駄目だな。金がねぇならさっさと出ていけ、火酒の1杯くらいくれてやるよ。だが、二度と来んなよ。てめぇの面は覚えたからな」


「あ……」


「さっさと行け!もし次来たら憲兵にしょっぴかせるからな!!」


「は、はい…!」


俺は逃げる様にして酒場を出る。周りからは笑い声が聞こえた、恥ずかしい。外に出ると陽は落ちて、すっかり夜になっていた。
もう酒場には行けない。


「何か……違うなぁ……」


空を見上げて俺は呟く。
異世界転生ってもっとこう、転生した俺がモンスターをばったばった倒して、自然と仲間が集まって、強大な敵に挑むもんだと思ってたけど、俺の異世界転生はそんなんじゃないのか。

そういえば、あの時は試せなかったけど、俺って何か能力はあるのかな?それとも、本当に無力な存在なのか。駄目だ、悪い方に考えるな。
さて、夜だけど今日の寝泊まりはどうしよう。火酒だけじゃ腹も満たされない。困ったな。



安価下

路地裏で野宿



野宿、かな。人は減ったとはいえ、表で寝るのは些か気が引ける。
路地裏に行こう、ここなら人目につかない。
近くの路地に入っていくと、建物と建物の間に良い感じのすぺーすがあった。


「はぁ……」


溜息が出る。無理もない、こんなはずじゃなかったんだから。
メリルの町は路地裏も綺麗なのか、横になっても問題なさそうだ。
ちょっと硬いけど、これくらいなら寝れるだろう。


「あんた、何してんのよ」


「え!?」


突然声を掛けられ、俺はあらぬ声を上げる。まさかこんな所に人が居るなんて思いもしなかったからだ。
声を掛けたのは昼間の女。
あの時もそうだが、上半身を濃い茶色のフード付き外套に身を包み、下は短パン、顔は良く見えない。


「依頼から帰ってきたらあんたがいたのよ。何するのかと思ったら路地裏に入ってくし、寝ようとするし……何してんの」


「あぁ~……」


見られてたのか、恥ずかしいな。


「お金が無くてね、仕方なく野宿をしてるんだ」


「あんた、やっぱり冒険者じゃなかったのね。何者なの?見たことも無い格好だし」


「……突拍子も無い話だけど、聞いてみる?」


「聞くわ。宿でね」


「え?」


今なんて言った?宿?



「何て顔してんのよ、宿で聞くって言っただけじゃない」


変な顔してたようだが、今はそんな事気にしてられない。


「いいの?宿」


「良いわよ別に。私があんたの事、気になるだけだし」


良かった。この女のおかげで今日は野宿せずに済みそうだ。
俺は宿に歩き出した女の後に付いて行く。



~宿屋


「……あの」


「何よ?」


「え、同じ部屋?良いの?色んな意味で、いいの?」


「別に良いわよ。か二部屋借りるの勿体ないでしょ」


違うわい!同じ部屋に男女が2人、何も起こらないはずもなく。
ドキドキしてきた!


「そっか。そうだね」


「変なの」


そう言うと女は外套を脱ぐ。やっと女の顔が見れるな。


「え」


俺はその姿を見て、また変な声が出る。


「……?何よ」


女は端正な顔立ちで、頭からは兎の耳のような物が垂れていた。
外套の下は緑のチューブトップで、それなりに胸はあるみたいだ。
珍しいな、これはなんて言う種族なんだろう。


「いや、珍しいなって思って」


「そう?ま、何でもいいけど。話聞かせてよ」


俺はベットの脇に座っていて、女は隣に座る。
え、なにこれ?マジ?良い匂いするんですけど!


「ほら、早く」


肘でつつかれる。
俺は事の顛末を女に説明した。自殺しようとした事、転生した事、無能かもしれないと言う事。全てを聞き終えた女は、少し悩む素振りをする。


「どう?信じられそう?」


「……まぁ、無理な話よね。でも……」


「でも?」


「あんたが嘘を言ってるようにも見えなかった。これでも嘘を見抜くのは得意なの。だから多分あんたの話は本当なのね」


まさかこんなにあっさりと信じて貰えるとは思ってなかったぞ。
転生した俺に対するご都合展開かな?


「明日からはどうするの?お金、無いんでしょ?」


「それが今の悩みの種だね、戦えればギルドの依頼とか受けたいけど……」


「採取依頼とかは?時間はかかるけど、あんたでも出来るんじゃない?」


確かに、と声が漏れた。集めるだけなら俺でも出来るだろう。
そうか、採取依頼か。良いかもしれない。


「ありがとう。参考にするよ」


「私も面白い話聞けたしね、別に」


女はベットから離れると持ってきた鞄から櫛を取り出して、桃色の髪を梳かしている。寝る前の習慣かな?
そんな事を思っていると、また腹が大きな音を立てる。


「……そういえば、あんた何も食べてなかったんだっけ?」


「うん……こんな事頼むのもアレなんだけど、食べ物ってある……?」


「ちょっと待ちなさい…………ほら、干し肉だけど」


女は鞄から、紙で包まれた干し肉をくれた。
優しさに涙が出そうになったが、我慢する。
俺は包を剥がし、干し肉食べる。滅茶苦茶美味い。


「ありがとう。ほんとに…」


「良いわよ。私はさきに寝るからね、食べたらあんたも寝なさいよ。あと変な事したら[ピーーー]から」


「怖ァ…」


女は隣のベットに潜ると、就寝する。
俺も干し肉を食べ終わり、満腹になると明日の事を考える。
ちゃんと、生きていけるかな。というか浮かれて忘れてたけど、死のうとしたのに生きようとするなんて変な話だな。

まぁ転生なんてしたら死んだも同然か。切り替え切り替え。
ベットに入り、明日に備えてしっかりと寝よう。
おほ~ベット気持ちいいぃ~。


翌朝、女に冒険者ギルドに案内してもらった。女は用事があるらしく、そこで別れる事に。
いつか恩返ししよう。俺はそう心に刻んだ。
とりあえず、ギルドで手続きをしてしまおう。



~冒険者ギルド


ライセンスの発行は手こずったが、何とか取れた。
文字がわからないから、口頭で受付嬢に伝えて書いてもらったのだ。さぁこれで俺も冒険者だ。ちょっとワクワクすっぞ。

まずは依頼だ、施設内の壁に依頼書が乱雑に、大量に貼ってある。
やりたい依頼があったら依頼書を取り、受付嬢に渡すというシステムだ。
さて、どれをやろう。




安価下

ゴブリンにさらわれた少女の救出


採取依頼を探している時、ある依頼書に目が留まる。
それは、ゴブリンに攫われた少女の救出依頼だ。俺はふと、周りの冒険者を見る。

こんなに居るのに、人命が掛かってるというのに、何故誰も依頼を受けないんだ?
俺は元の世界に居る時の事を思い出す。俺が仕事を終え、帰り道を歩いてる時に、目の前の大通りで事故が起きた。

横たわる女性の傍に男性が2人とガードレールに激突した車。恐らく女性が轢かれたんだろうなってすぐ分かった。
だが、それだけ。可哀想だなって思うだけで、俺も、数十人の野次馬も、可哀想だなって思うだけなんだ。

その時は誰かが助けているし、大丈夫だろうとも思った。仮に誰も女性に近寄って、助けて無かったとしても、俺は見捨てるだろう。
俺はこの依頼書を見て、その時の事を何故か思い出してしまった。

俺に出来るのは採取依頼くらいだろう。だけどだ、見知らぬ少女だろうが人の命が掛かってるんだ。
今度こそ俺は、助けを求める声を、見捨てない。
俺は依頼書を剥がし、受付嬢の元へ行く。


「ありがとうございます。救出依頼ですね。少々お待ちください」


受付嬢は何かを書類に書き終えると、俺にバッチを渡してくる。


「これは?」


「救出依頼中という証です。依頼が完了したらお返し下さい」


了承すると、地図を渡される。


「これは……リンネ村の先の森かな?」


メリルの町と街道で繋がるリンネ村。その先には森があり、誘拐先と思われる所に印がある。


「あまり時間はありません。お願いします、男さん」


後ろから受付嬢の声が聞こえ、振り向くと深々と俺に頭を下げていた。そうか、受付嬢も気にしてたんだ。でも、期待に応えられるかな。安心と不安が同時に来る。

弱気になるな。戦おうと思えば戦えるんだ。気合い入れろよ、俺。
パンパンと頬を叩き、俺はメリルの町を出る。

間違えた、リネル村です


~リネル村


歩く事数時間、特に何も無くリネル村に着いた。
想像通り長閑そうな村で、左には大きな畑が沢山ある。
右には民家が建っている。あまり多くはないが。


「そこな御方……もしや冒険者様ですか?」


「え?はい、そうですけど」


ライセンスが後押ししてるのか、俺は堂々と冒険者だと言い張れる。だが、どうして俺が冒険者ってわかったんだろう?
お爺さんが、杖をついて近付いて来た。


「おおお…貴方様が……ありがとうございます。どうか……どうか少女を……お願い致します……」


「まさか……」


俺はバッチを見た。なるほどな、これのおかげで俺が冒険者ってわかったんだな。


「必ず、助け出してきます。安心して待っていて下さい」


「おおお……冒険者様も、どうかお気を付けて……」


俺は村の奥の、もう1つの入口から森へと入っていく。
まず俺は石を何個か広い、適当な大きさの木の枝に掴まり、体重で折る。


「初期の有者ですらもっと良いもん持ってるよなぁ……」


頼りないが、投石用の石数個と木の棒を手に入れた。
俺は地図を取り出し、現在地を大体把握する。
今の位置から南西、北東、東の3箇所に印がある。
どうしようか。



安価下

3箇所の印について聞いてみる


一旦戻って印の所に心当たりがないか聞いてみよう。
俺は踵を返し、リネル村へと戻る。
戻ると、近くに中年の男性が居る。この人に聞いてみよう。


「すみません、ちょっと聞きたいんですけど」


「ん?なんだい、冒険者さん」


俺は地図を男性に見せる。男性はほうほうと唸ると、すぐに地図を返してくれた。


「冒険者さん、その地図の印は違うねぇ。今奴らの住処はもっと南東にあって、廃村に居るはずだよ」


「え?」


「古かったんじゃないのかい?その辺りは他の冒険者さんが結構前に潰したはずだよ」


「あ、そうだったんですね。情報ありがとうございます」


危なかった。何も知らないでこの3箇所を回ってたら無駄骨も良い所。聞いてみてよかった、今の俺は冴えてるな。

気を取り直して、南東へと向かう。奥へと進んでいくと、なあの男性の言う通りゴブリンらしき足跡があった。
俺は緊張して、何度も深呼吸をする。すると、廃村らしき所が遠目に見えてきた。

草陰に隠れ、廃村が良く見える位置に移動する。
ゴブリン共が荒らしたせいなのか、元々なのか、荒れに荒れている。とてもじゃないが住める様な状態じゃない。ボロボロの家が沢山あるから、それなりに大きい村だったみたいだな。

俺がする事は──



安価、実行出来そうなものは全部実行します
安価下3まで

ステルスミッション(可能な限り戦闘を避けて、現状を把握)

もっとまともな武器がないか屋内を探してみる

少女の様子を最優先する

ゴブリンに見つからないように少女を捜索。ついでに目眩ましに使えそうな物や縄など、役に立ちそうな物を見つけたら確保する。

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なんだこれ、書き直しか

1レスに対して文字量が多すぎるとそうなる(らしい)よ


可能な限り戦闘は避けていこう。今の俺じゃゴブリンの相手は辛過ぎる。
とりあえず草陰から一番近い廃家の裏に着くと、裏口の扉があった。ドアノブを捻ると扉はカンタンに空いた。とりあえず中に潜入完了。

静かに割れた窓から村の中心部を覗き見る。見えるだけでもゴブリンは8匹、他のも考えると是非とも相手にしたくない数だ。

窓から離れ、音を立てずに今居る廃家の中を物色する。ダンボールとエロ本があれば無敵なんだがな。
冗談はさて置き、少女の安否が最優先だが、もしもの時に備えて物色する事に損は無いだろう。

使える物は何でも使わなければ、俺みたいなのは生き残れない。
先ずは冷蔵庫だ、中を開けるが当然腐っていて異臭を放っている。


「ヴォエッ……クッッサ」


あまりの異臭に吐きそうになるが、我慢しろ。我慢だ。
鼻をつまみ、使えそうな物はあるか眺めていると、中身の見えない瓶を発見した。これ、中身なんだろう?

普通に触りたくないが、今はそんな事言っている場合ではない。
瓶を触ると、ネチョッとしていてベタベタだ。
気持ち悪いぃぃ、これも我慢だ。

お次は台所。ここには期待を寄せてしまうよね、台所だし。
異世界転生補正で何かあってくれると良いが。
戸や引き出しを開けるが、何も出てこない。慈悲は無かったようだ。

入っきた裏口から外に出て、廃家に張り付く。
TPSばりの張り付きで覗き込みに挑戦するが、ゲームみたいには行かないね。普通に頭だけで覗いた。

観察していてわかった事が二つ。


まず表のゴブリンで武器を持っているのは3匹。短剣持ち2匹と小弓持ちだ。あいつらから武器を奪えれば俺の戦闘力は跳ね上がるだろうが、奪うのは難しい。というか無理、多すぎる。

そしてもう一つ。
他のゴブリンは焚き火を囲んで座り、何かの動物らしき残骸を貪ったり、寝ていたりする中。小弓のゴブリンだけはここから一番遠い廃家から離れない。

何かを守っているみたいに、な。恐らく少女はあそこの廃家に居る。ただ焦るな、他の所に居る可能性もある。
奥の廃家に行くには間違いなくゴブリン共の注意を逸らす必要がある。

注意を引いてる間に廃家の裏から裏へと回り、あそこまで行くしかない。ただ、どうやって注意を引くか……






安価下


>>35 なるほど、ありがとう

石を投げる


「あ、そうだ」


俺はスウェットのポケットから石を1つ手に取る。当たると痛そうな石、こいつを使おう。
狙うは右の廃家で良いだろう。失敗しないぞ。

「……ふぅ」


石を投げる事はつまり、存在を知らせる事に近い。見つからなければ何事もないが、警戒心が強まってしまう。
俺は何度も、心の中で同じ言葉を反芻する。
俺なら出来る、俺は転生者……と。
自己暗示に近いが、小さいが少しの自信となる。

「……よっ…と」


俺は投げた、投げてやった。さぁもう退けないぞ。やるしかないぞ。
石は派手な音を立て、居眠りしていたゴブリンも起こす。
ゴブリン共は音の出処に注意を払い始め、俺の方を見るゴブリンは居ない。

すかさず俺はゴブリン共との間に廃家を置くように転々と移動していき、目的の廃家に到着する。
先程と同様にこの廃家にも裏口があり、そこから侵入する。


「ギギッ!?」


「ちょ……!」


依頼された少女は居た。ついでにゴブリン1匹。こいつは音に気が付かなかったのか!
仲間に大声で知らされる前にどうにかしなければまずい、まず過ぎる。左手には瓶、右手には木の枝、ポケットには小石が数個。



安価下

一匹なら瞬殺できるやろ
突貫

瓶をゴブリンの顔に投げつけた後、接近して木の枝を喉に突き刺す


落ち着け。たかがゴブリン1匹だ、俺ならやれる。
やるなら一撃必殺だ、下手な攻撃じゃ声を出されてしまう。
俺は木の枝を前に突き出し、ゴブリンの胸を一刺しにする。
俺はそのまま倒れ込み、ゴブリンの上に跨る。

「ギャッ……!」

危ない。油断はしない。断末魔に備えて俺の左腕をゴブリンの口に噛ませる。


「…ってぇ……!」


多少痛みは覚悟していた。初めて生き物を殺傷した。
本心は怖くて、痛くて、今にも泣きそうだ。
でも、隣で気絶している女の子はもっと怖かったはずだ、それなのに俺がここで弱音を吐く訳にはいかない。


「……!!……!!!」


ゴブリンは呻いているが、次第に静かになり絶命した。
噛ませた左手からは血が滲む。クソ痛いけど、我慢できない訳じゃない。
俺は気絶している少女をおんぶして、静かに裏口から逃げる。

ゴブリンがまた定位置に戻ろうとしていたので、また遠くへ小石を投げる。するとまたゴブリン共は音の方へと向かっていった。
こうも扱いが簡単だと逆に拍子抜けだな、腕は痛いけど。

そして俺はリネル村へと帰還した。

息抜きのつもりが結構楽しくなってきました
一旦休憩しますが、良かったまたお付き合いください

おつおつ

前々作【安価】勇者「魔王倒すわ」
【安価】勇者「魔王倒すわ」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1564307071/)
前作【安価】元勇者「復讐するわ」
【安価】元勇者「復讐するわ」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1564588816/)

一応


少女を連れて村に到着すると、住人が気付いたのかお爺さんが駆け寄ってきた。俺はお爺さんに少女をゆっくりと渡す。


「マリア……!よく無事で……!冒険者様も……誠にありがとうございます…!」


「はは……なんとかなりましたよ」


安心したら急に力が抜けてきた。俺は地面に膝から前に倒れ込む。
やべぇ、気ぃ張ってたからかな。


「冒険者様!?……酷い傷だ…誰か!手当を!」


意識が途切れそうだ。でも、依頼は達成したんだ。
ここで寝てても怒られないだろう。お爺さんや住人が何か言ってるけど、聞こえないや。






「……ん」


あれ、ここは何処だ?たしか地面に倒れてた筈だけど。


「あっ!起きた?おじーちゃーーん!冒険者様起きたよー!」


「君は…」


「私?私はマリア!助けてくれてありがと!冒険者様!」


マリアという少女は俺に抱き着いてくる。年はいくつだろうか、俺の居た世界で例えるなら小学2.3年くらいかな?
そして俺は改めてこの子を助けたという実感を得て、ちょっと泣いてしまう。
子供の前で泣くとか、恥ずかしいな。


「冒険者様?泣いてるの?」


「いいや、ちょっと目にゴミが入っただけだよ」


「大丈夫?取ってあげよっか?」


「大丈夫だよ、ありがとう」


そうしている内に、部屋にお爺さんが入ってくる。


「身体の具合はどうですかな?冒険者様」


「大分良いですよ。傷の手当もしてくれてありがとうございます」


俺は軽く左腕を動かして、調子が良い所を見せる。
動かしてもそこまで痛くない、この世界の傷薬かな?


「それは良かった。改めて、冒険者様。本当に孫を助けて頂いてありがとうございました」


「あ、いや、もうお礼は十分ですよ」


深々と頭を下げるお爺さんに俺は困惑する。当然の事をしたまでだ、何度も感謝されるとむず痒い。


「なんと寛大な……冒険者様、ギルドに行けば報酬が貰えるでしょうが、私からも受け取って頂きたい物があります」


「え……それは…」


良いのかな、貰っちゃっても。正直貰えたら嬉しいけど、介抱までして貰ったし。何か悪い気もするけど、やはり貰えるものは貰おう。俺には足りない物が多すぎる。

お爺さんは大きな箱を部屋の脇から引きずって持ってくる。
大きいな、なにが入ってるんだろう。


「……開けても?」


「はい、是非」


「おじーちゃん、これ何が入ってるの?」


「これはな、冒険者様に必要な物が入ってるんだよ」


「……!これは…! 」


有り体に言えば新しい服、剣、瓶に入った赤い液体。
これは嬉しいな、服があれば変な目で見られなくて済む。そして剣。これでやっとまともに戦えるかもしれないな、長さ的にショートソード?なのかな?
赤い瓶は恐らく、いや、間違いなく回復役だな。色で大体相場は決まってるもんだ。


「ありがとうございます。物凄く助かります」


「いえいえ、感謝を形にしただけですよ」


『うわぁぁぁああ!!!』


外から聞こえた男性の叫び声が耳を劈く。


「な、何事か!?」


俺は箱から剣だけを持ち出し、部屋を飛び出る前に2人に警告する。


「絶対にここから出ないで下さいね!良いというまで待っていて下さい!」


そう言い残し、俺は外へと飛び出した。そしてすぐに俺は村に起きた事を理解する。
これは、報復だ。
住人を襲うのはゴブリンだった。恐らくあの部屋に居たゴブリンを見つけて仕返し、と言った所か。
先にやったのはそっちだろうと思うが、考えてもしょうがないので住人を避難させる。


「皆さん!良いと言うまで出てこないで下さい!!戸締りは固く!物を置いたりして、絶対に開けないで!!」


久しぶりに声を張り上げた。だが、これで良い。
ゴブリン共が集まってきた。予想通りとはいえ、やはり緊張する。
格好付けたは良いが、結局はさっきまでの俺にちゃゆとした得物が付いただけだ。普通に足が竦む。


「来いよ。言っとくけど俺はよえーぞ」


言うや否や、ゴブリンは飛びかかってくる。
最初の数匹の短刀はいなせるが、襲いかかってくるやつと二撃目に入るやつを同時に相手に出来ない。
刺されたりは無いが、切り傷が増えていく。

くっそ、このままじゃやられちまう。
ゴブリンの猛攻は止まらず、次第に焦りを感じてくる。
何か、何かをしなければ。


「ぐぁっ……!」


気を抜いた訳ではないが、ゴブリンの一撃が脇腹に刺さる。
熱い熱い熱い!焼けるように痛ぇ!
このままじゃ本当にやばい。


「やるしかない……!」


俺は剣を思いっきり突き立て、叫ぶ。


「俺は転生者だ!何でもいい!技を繰り出せ!術を放て!完全無欠の能力!そろそろ何かあってもいいだろう!」


怒鳴り声にゴブリンが一歩下がる。
これは、チャンスだ。俺は剣を地面から抜いた。
やってやる、やってやるさ。



行動内容。行動によって起きた事柄。行動によって判明した能力。
安価下

右手が黒い籠手に覆われ、右目が赤くなる
身体能力と右目の視力やら動体視力やらが上がる


両足を開き、肘を腰まで落とし、叫ぶ。


「うおおおおおおおおおおおあああああああああ!!!!!」


身体の中身を全部吐き出せ。
魂の叫びを轟かせろ。
俺にはもう、後がないのだから。


「ギギッ!!」


「……!?」


右の死角からゴブリンの声が聞こえ、振り向いた時には短刀の刃が顔に刺さる寸前、俺は思った。まだ死にたくない、と。


「ギギギッ!?」


「なっ……」


本当に驚いた。俺の右手が、いつの間にか刃先を指の腹で止めている。でも、痛くない。指で止めているのに?
何が起きているんだ、俺に。


『我が名を唱えよ』


「!?」


突然頭の中に声が流れてきた。本当に何なんだ。


『この場を制す力が欲しいのだろう』


「だ、誰なんだよ……?」


俺は硬質化?されてる指でゴブリンを押し返すと、とんでも無い速さでゴブリンが気に衝突し、四散する。
他のゴブリン共はその様子に怖気付いたのか、その場から動かない。


「なっ!?何が────」


『我が名を唱えよ』


「だから!なんなんだよさっきから!お前の名前なんて…!!俺は……なぁ?」


あれ、何でだろう。俺は、頭の中にしゃべりかけてくる奴の名前を知っている。会った事も見た事もないのに。
これが異世界転生補正ってやつなのか何なのかはわからない。だが、こんな不可思議な現象は間違いなく俺の能力が引き起こした物だろう。


「はは……マジかよ」


なら、やる事は簡単だ。待ちくたびれたよ、本当に。
やっと、転生者らしくなれるのか。
期待が募る、高翌揚が止まらない。
俺はこの時を待ってたんだ、期待してるからな。



お前の名は────


『唱えよ』







「レヴァンテイン」






唱えた瞬間、俺の右半身が漆黒の炎で燃え上がる。


「っっ!あっっつ!!」


『精約だ。我慢しろ』


また我慢かよ、とか思っていたら炎が消えた。
右手には肘まである、漆黒の歪な篭手が装備されていた。


『精約完了により、我の精霊としての力を貴様に与えた』


「精約……あれ?」


何だか左右の目での視界の映り方が違う。何なら右目は、遠くを見ようと思えば、100m先の木の窪みまで見れるくらいに視界が異常に発達している。
燃やされた右半身だけ、力の加減が違うというのか、恐らく右手右脚にも何かが起きているのは容易だった。


『奴らを見ろ』


奴らといえば、ゴブリン共しかいない。とりあえず今は言う事を聞こう。俺はゴブリン達を見据える。


『右手を握ってみろ』


「……?」


ぐっ、と軽く握ってみる。その瞬間、ゴブリン共は闇に包まれ、爆散する。


「なっ!?なんだこれ!?」


『魔眼の目。貴様に心から恐怖心を抱いた者を視界に入れて右手を握る事により、条件を満たした者は絶命する』


なんつー恐ろしい能力。悪役側みたいな能力だな。


「すっごー……」


『我は再び眠りに就く』


「え?ちょ、待って待って!?」


精霊からの返事はない。マジか、本当に寝やがった。

おお、想定してたよりかっこよくなっておる


いくら呼んでも精霊は起きないので、今は後回しにしよう。


「皆さーん!出てきて大丈夫ですよー!!」


大声で叫んだ。俺は精霊の力を解除して、安堵すると脇腹に激痛が走る。これはまた、看病してもらわないと、ダメかな。


「冒険者様!?大丈夫!?」


マリアが駆け寄ってくる。


「大丈夫だよ…ちょっと……痛いけど……」


俺の意識はそこで途切れた。






「……ん…」


目が覚めると、ゴブリンに刺された脇腹をさする。
傷は手当てされている、ありがたい。


「あっ!冒険者様!おはよおはよ!」


「ああ。おはよう、マリア」


俺は身体を起こし、右手を見つめる。俺は、ついに特殊な力を手に入れたんだな。
口元がニヤけてしまう、ふふふ。


「冒険者様?何で右手見ながらニヤけてるの?」


「あっいや!何でもないよ!」


危ない危ない。まだ使いこなせる訳じゃないんだ、気を抜くな。


「おお、起きましたか…冒険者様」


お爺さんが入って来た。トレイを手に持ち、俺の横に置いた。
飯だ。すっかり忘れていたが、この世界に来てからまともな食事をしていない気がする。
目の前にある、パンに目玉焼きにベーコン、温かそうなスープ。
やばい、超美味そう。


「召し上がれ」


「い、いただきますっ!」


恥も外聞なんぞ、もう気にしてられない。
久々に食べる飯は凄い美味しくて、優しい味で、涙が出てくる。


「ほっほっほ……ゆっくり食べて良いのですよ」


「くぁwせdrftgyふじこlp」


自分で言うのも何だが、行儀が悪かったな今のは。






食事も終わり、俺はお爺さんから貰った服に着替えていた。
白の膝丈まである外套、インナーの黒シャツ、白のチノパン、白のスニーカーに近い何か。派手過ぎる服装だが、スウェットよりかは幾分マシだった。


「では、メリルに戻ります。色々とありがとうございました」


「お礼を言うのはこちらです。どうか、貴方様に精霊の御加護かあらん事を」


精霊の加護は貰ったと言いかけたが、その言葉を呑み込む。
この世界では精霊は神様的な物なのか。俺はその力を借りたって事だよな、結構凄くね。やっとそれらしくなってきたなぁ!


「またね!冒険者様!」


「うん。またね、マリア」


マリアに手を振り、俺はリネル村を出ていった。



~メリルの町


着いたや否や、周りからの視線が恐ろしいくらい刺さる。スウェットの比ではないぞ、これは。
なんだ、やっぱりこの格好がマズイのか。どっちにしろ見られるのか、俺は。
もう、早くギルドに行こう。



~冒険者ギルド


「おかえりなさい。そしてお疲れ様でした。男さん」


受付嬢は俺を見ると立ち上がり、あの時と同じ様に深々と頭を下げる。


「何とかなったよ。はい、バッチ返すね」


「ありがとうございます。では、報酬をお渡ししますね」


受付嬢はカウンターの下に潜ると、報酬であろう金貨の入った袋を取り出していた。


「こちらが今回の報酬になります」


俺はその袋を受け取り、中身を見る。金銀銅のコインが沢山入っていた。俺はそれを1000円、100円、10円に置き換えて計算してみた。
12440円という結果に。この世界の物価はわからないが多分中々の額なのだろう、なんたって金貨は金だからな!

まぁ、それは置いとこう。しばらくは何とかなりそうだしね。
とりあえずは、これからの事を決めねばならない。
俺は、何をしよう。




安価下

美人なお姉さんがいる酒場で豪遊だ

前々作といい前作といいいまだにクズキャラや外道キャラが面白いと思っている幼稚な精神の読者がいるんだなぁ

また主人公糞キャラ化させるなら死なせて終わらせるかな

イッチ息抜きって言ってたしすぐ死ぬならいいんでね(適当)


こんなに金があるんだ、少し自分にご褒美をあげたっていいだろう。


「あ……でも」


俺は思い出す。少し前にメリルの酒場で無銭飲食をし、見逃してくれる代わりに二度と来ない事を約束したのだ。
金を持ったからって約束を破って良いのか?

いや、待てよ。考え方を変えようじゃないか。
俺は前回の事を、謝りに行こう。うん、これなら不自然じゃないし酒も飲める。まさに天才のそれ。

そうと決まれば酒場に行ってみよう。入った途端に店主に怒られないといいけど。




~酒場


俺は酒場の戸を開け、中に入る。相変わらず活気が良い。
戸に取り付けられた鈴が鳴り、店主や店員の女の子から、元気の良い挨拶が飛び交う。
ここへ来ても視線は相変わらず刺さる。だが、特に俺を睨んで居たのは店主だ。そりゃそうだ。
俺は店主の元まで行き、事情を説明する。


「話はわかったけどよ……兄ちゃん、何したんだ?」


「え?」


「その服……」


店主は顎をさすりながら俺を指差し、マジマジと見てくる。周りからも注目を浴びるしで、なんなんだ。


「……精装束だろ、それ」


「精装束……?」


「まさか兄ちゃん…知らないでそれ着てんのか?」



何だそれは、この服はそんな名前が付く程の代物なのか。あのお爺さんは俺にそんな凄い物をくれたのか、ありがたいな。


「教えてくれます?コレの事」


「……ガハハ!この前もそうだが、兄ちゃんいい度胸してるぜほんとによ!仕方ねぇ、教えてやるよ。座りな」


俺は店主の前のカウンター席に座り、話を聞く。
精装束とは、精霊の魔翌力で縫ったとされる装束。これは本来、王家から認められた者しか着れないらしい。

装束は何十種かあり、俺のは『聖光』と呼ばれる装束。
店主は俺の胸に刻まれた刺繍を指差す。これが何よりの証拠らしい。
ただの模様かと思ってたよ俺は。

店主は、この『聖光』の装束は遥か北にある国、ガーランド王国にあるはずだと言う。


「何処で手に入れたんだよ?」


俺はリネル村で起きた事を店主に語った、もちろん精霊の事は伏せてある。


「そりゃあ大変だったな……だが、あんな辺鄙な村で、そんな服があるとは思えねぇなぁ……まさか偽物か?」


そんな御大層な物を複製するとは思えないが、話の通りならこの地域にあるはずはない。
俺と店主はどうなんだろうね、と言った感じで悩んで居ると、店員の女の子がわらわらと寄ってくる。


「ねぇねぇ!お兄さんって凄い人なの!?」


「あたし知ってるよ、この服は精装束っていうんでしょ!なんか凄い人しか着られないとか!」


「マジ!にーさんめちゃくちゃ凄い人って事じゃん!」


うーん、そんなに引っ付くと俺が幸せになっちまうだろう。そんなにベタベタしないで、もっとして。


「も~、おにーさん困ってるっすよ!離れるっす!」


俺から女の子を引き剥がしたのは、この前俺にお酌してくれたダークエルフだ。なんてひどい事を、この所業は許されないぞ。


「大丈夫っすか?おにーさん」


「うん。大丈夫……」


「まぁ何にせよ、だ。兄ちゃんは今日酒を飲みに来たんだろ?なら、飲もうじゃねぇか」


楽しそうに笑う店主の言う通り、俺は酒を飲みに来たんだ。
大分目的から逸れたが、豪勢に飲み食いしてやるぞ!



~宿屋


「うひぃ~……」


やべぇ、吐きそう。普通に飲みすぎた。でも、気分は最高だ。異世界で俺は生きているって感じがする。
モンスターと戦って、酒場で飲んで食って、宿屋で寝て。いやぁー俺生きてるわー。異世界でちゃんとやってんなぁ~。

マジで異世界最高。ラノベの主人公程の無双じゃないけど、俺にも凄い力が手に入ったんだ。
成り上がり系?……なんてな。

さて、バカ言ってないで寝よう。明日は依頼か、旅に出るか、金があるうちは遊ぶか、何をするのも俺の自由だ。
生きるのって、楽しい。


~冒険者ギルド


翌日。俺は聖光を半分に畳んで、腕にかけて町へ出た。こいつの刺繍を見られたら、また視線が飛んできてしまうからな。
功が奏して、昨日俺の顔を見た奴はチラチラと見ているが、ほとんど視線を感じることは無く、安全にギルドへと到着した。

やはり俺は、この世界で生き抜く為に自分を鍛える意味で依頼をする事にした。俺の力は凄いが、まだ未知の事が多く、俺自身が場数を踏んで経験を積む必要があると判断した。
戦闘の依頼は無数にあるが、種類別に分けるとこうなる。

大型モンスター討伐(3~5人)、洞窟探索(3人)
護衛(2人)、魔物討伐(1人)



なんの依頼をやろうかな。



安価下

お嬢様の護衛


「……よっ…と」


俺はその中から、要人警護の依頼を取る。内容は、メリルの町からノース帝国までの護衛だ。
ノース帝国の場所は知らないけど、新しい地域に行くのは心躍るな。
俺はその依頼書を受付嬢に持っていき、護衛依頼中のバッチを貰った。


「では、明朝に西門の前でお待ちください。そこにもう1人の護衛者と依頼人がやってきます」


「わかった、ありがとう」


俺はギルドを出ると、明日に備えて準備に取り掛かる。何日かかるかもわからんしな。
とりあえず鞄を買うとして、他に何がいるかな?

俺の手持ちのアイテムと言えるのは、ショートソード、回復薬5個、濁り過ぎて中身の見えない瓶(洗浄済)だけだ。




買う物
安価下1.2.3

焚き火用の道具

鉢金とか胸当てとか急所を守る類いの防具

奴隷

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野宿する事を考えて、焚き火が出来る準備をしておいた方が良いだろう。異世界といえば焚き火を囲んで野宿だよな!
とりあえず色々なお店を見て回ろう。

俺は数時間見て回り、火バサミ、耐火グローブ、炎焼石を購入。この炎焼石とは、炎焼石を2個用意して、火打ち石の様に使うと数秒後に発炎する魔道具らしい。やはりこの世界では、こういった不思議な道具も売っている。見ていて楽しい。

その他にも胸当てと鉢金を購入した。胸当ては重く、比較的軽くて頑丈なのを選んで貰った。鉢金はバンダナみたいな物で、額に銀プレートが付いている。
フルプレートも着てみたいが、俺の残金じゃ買えないそうだ、残念。

一通り買い物を終えた俺は武具屋の向かいで新しい建物を建てている男達を見て、この町に、いや、この世界に奴隷は居るのだろうかと思った。

メリルの町は一通り見て回ったが、それらしい者は誰一人と居なかった。少なくともこの町には奴隷は居ないだろうが、他の国はわからない。
見えないだけで、裏社会的な何かとコネがあれば、何かわかるかもしれないが、そんなコネは無い。

明日への旅立ちの前に酒場に寄り、残りの有り金で飲み食いした後、宿屋で明日に備えるのだった。



~西門


「……あれ」


早く来すぎてしまったのか、まだ西門には誰も居ない。早朝は肌寒く、聖光を羽織って無い俺は半袖のシャツなので、ちょっと寒い。
暫く西門で座り込み、リュックの中身を確認していると馬車がこちらへ向かってくる。


手綱を握っているのは執事服を着たお爺さん。お爺さんと言ってもそんなに歳がいっている訳では無さそう。
馬車は俺の前で停止すると、お爺さんが降りてきた。


「おはようございます。そのバッチ…御依頼をお受けになった冒険者様ですね?」


「あ、はい。男です、よろしくお願いします」


俺は立ち上がり、軽く会釈する。


「ありがとうございます。どうか、宜しくお願い致します」


お爺さんは深々とお辞儀をする。執事服のせいか、何処と無く品がある気がする。するだけ。
俺は馬車の客席をチラ見する。この中に俺が守らないといけない要人がいるのか、どんな人なんだろう。


「して……もう1人の御方は、何処に?」


そうだよ、もう1人はどうしたんだ。寝坊か?依頼人より後に来るとか常識ないな。俺もこの世界の常識知らないけど。


「あ、多分……もうすぐ…」






護衛者安価
容姿、服装、得物、性格…etc
ひとつだけでも可、足りない部分は補います

安価下

かなり気弱でオドオドした性格
容姿は小柄で目を前髪で隠している


「あ、あの……!」


門近くの木から女の声がした。もしかしてもう1人の奴か?


「誰だ?」


「あの…冒険者……です……」


木から出てきたのは小柄な赤髪の女の子。目は前髪でがっつり隠れていて、足元が隠れる茶色のローブ、手には杖を持っている。見るからに魔法使いだ。胸にはバッチが見える。
こんな小さい子が冒険者?


「君が、護衛の冒険者なのかな?」


「は、はい…!そうです」


「そっか。遅かったね」


「ず、ずっと居ました……知らない人に話し掛けるのが怖くて……ごめんなさい」


なんだって?ずっと居たの?全然気付かなかったぞ。女の子はトコトコとお爺さんに近寄り、お辞儀をする。


「お、お力になれるかわかりませんが、宜しくお願いしみゃ…!……あっ!します!」


「はっはっは。頼りにしていますよ、小さなお嬢さん」


お爺さんも女の子にお辞儀をし、客席のドアへと手を掛ける。


「遅ればせながら、ご紹介致します」


お爺さんがドアを開けると、中にはいかにもお嬢様という感じの服を、お召し物を?着た女性が足を組んで悪態をついていた。
綺麗な金髪に端整な顔立ちをしていて、街ですれ違ったら目で追ってしまいそうだ。


「我が主、クレア・グランフォード・メリルお嬢様で御座います」


「ふんっ……遅いわよ!何日待ったと思ってるの!」


開口一番に怒鳴られた。そんな理不尽な。
隣の女の子は今の一喝で萎縮しちゃってるじゃないか。


「お嬢様、それは彼等には詮無き事。ご配慮下さい」


「何よ!私に口答えするの!?」


「滅相も御座いません。このゲルム、お嬢様に口答えなど毛程も考えておりませぬ。ただ、これからの旅をより良くする為に提案した次第でございます」


「ふん……爺がそう言うならわかったわ。悪かったわね、冒険者。改めて、私はクレア・グランフォード・メリル。クレア様って呼ぶ事を許可するわ」


な、な、何だこいつ!俺は心の中で叫んだ。
お嬢様ってこんなんなのか?すっげぇ偉そうだな!あ、偉いのか!


「わ、私は…ジャスミン・リ・ラスティア……です。宜しくお願いします、クレア様」


「あ、自分は男って言います。どうぞ宜しくお願い致します」


俺とジャスミンは軽く会釈すると、何故かクレアはジャスミンを睨む。おいおい、そんな怖い目で見てやるなよ。


「ラスティア……ですって?」


「あ……はい…何か?」


「…………。いえ、何でもないわ」


「…では挨拶も済んだ事ですので、そろそろ旅立ちましょうか」


「ええ、そうね。冒険者、ちゃんと報酬分は仕事しなさいよ」


「はい、任せて下さい」


このクソあm……ふぅ~落ち着け。クールになれ男。滅茶苦茶鍛錬の為に我慢だ。


「が、頑張ります……」



~馬車


俺達はメリルの町から出て、1時間くらいが経った。手綱を握るお爺さんの隣にジャスミンが座っていて、俺は後ろの腰掛けるスペースくらいしかない板に座り、景色を眺めていた。真後ろにはお嬢様が居るが話し掛けはしてない。

護衛任務ってこんなので良いのかな?と思いながら、呑気に欠伸をする。それにしたって暇だな。
誰かに話しかけてみるか?






話しかける人物と内容
安価下

ジャスミン

ジャスミン
とりあえず互いにどういう経歴なのかを含めて自己紹介


やはりここは、背中を預けるであろうジャスミンに話しかけよう。連携的な意味でも、友好関係を築ければ大きなアドバンテージになる。
俺は後ろから降りてジャスミンのすぐ後ろにある客席の、屋根についた装飾を掴み、下の出っ張りに足を引っ掛けて近くに寄る。
自分で言うのもなんだが、粋な乗り方だと思う。多分。


「ねぇ、ジャスミン」


「うぇっ!?あ、は、はい!ななな……何ですか?」


突然話しかけたからか、ジャスミンは吃驚して取り乱す。気付いたお爺さんは気を付けてねと一言。


「あ、ごめんごめん。ほら、俺達は協力して魔物と戦う訳だし、少しお互いの事を知っておこうと思ってね」


「あ…な、なるほどです…」


俺は嘘と真実を織り交ぜて、ジャスミンに今までの経緯を語る。記憶喪失になり、この世界の事を何も思い出せず放浪していた事。名も知らぬ女の世話になり、酒場での出来事やリネル村での救出劇を、多少話を盛って面白可笑しく話した。でも精霊の事は教えていない。
ジャスミンは顔の半分は髪で隠れてしまって表情が分かりにくいが、笑っていた。好感触だ!


「……こんなので感じかな、俺の話は」


「記憶喪失なのに、そんな……凄いです。私だったら怖くて…動ける気がしません…」


まぁそうだろう。モンスターの出る世界に記憶喪失で放り出されたら、そりゃ怖いわ。異世界転生に興奮してたから、とは言えないな。

最初からだけど、誤字脱字が酷すぎた
補完でお願いします

はいな


「ジャスミンはどこから来たの?メリルの人?」


話しやすいように話題を振ってあげる。


「えと……私はベルベット村から来ました」


「ほう。ベルベット村ですか……それはまた、珍しい所から来ましたな」


無言で話を聞いていたお爺さんは、ベルベット村に興味を示したみたいに食いつく。


「珍しい村なんですか?」


「それはもう。魔術に秀でた方が多く、王都にて魔術指導をされているとか。ベルベット村の人材は、門外不出の財産とまで言われています」


「ただ、村の所在は王都の者しか知らなく、未開拓の地域にあるのだとか」


「へぇ~……そんな珍しい村から来たんだ。じゃあジャスミンも凄い魔法使いとか?」


「…………」


「ジャスミン?」


ジャスミンは黙り込んでしまう。この沈黙はもしかして、魔法使いとしての才能が無いとかそっち系?これは、触れない方が良いか。


「あ、まぁ…それはそのうち分かるよね!うんうん!」


「……ごめんなさい」


「いやいや!……あ、じゃあ、ジャスミンはどうしてメリルの町に居たのかな?」


「あ……えっと…」


ジャスミンは少し考え込んでしまう。もしかしてこれも言えない感じのやつか?



「私には……2人の姉が居て、私は末っ子なんです。お姉ちゃん達は凄い優秀な魔法使いで……その…私は平凡で……周りや家族からも白い目で見られてて……」


なるほどな。あるあるだな。


「でも、そんな私に……お姉ちゃん達は優しくしてくれて…ですね。嬉しかったんですけど…お姉ちゃん達に追いつけない自分が嫌になって……村を飛び出したんです」


ああ、あるある。俺はひたすらに頷く。


「それで、私は……お姉ちゃん達の姉妹として恥ずかしくない魔法使いになりたくて……船を渡ってメリルの町まで来ました」


「……なるほど」


お爺さんが顎をさすって呟く。


「ジャスミンさん……貴女の目的は、『烈風』の精装束ですね?」


「……!」


ジャスミンの反応が、正解だと示している。そうか、それを手に入れて村の皆を見返そうって訳か。


「……はい。そうです…」


「そうでしたか。ですが、あれは……」


お爺さんは言葉を濁らせる。何?知りたいんですけど。


「手に入れるのが難しいとかですか?その烈風って精装束は」


「はい。手に入れるならば、困難を極めるでしょう」


あれ?でも精装束って王家に認められた人が~って事じゃないっけ。それが難しいのか。いや、難しいわ。


「……それでも…私は…」


「……意志は固いのですね。ならば私は、貴女の成功に祈りを捧げましょう」


待って待って。なんか話が重くない?なんか命懸けみたいな雰囲気なんですけど。



「ちょ、ちょっと質問。精装束って王家から貰うんですよね……?」


「如何にも。男さんは精装束をご存知の様ですが、精装束を縫う為の精霊の魔翌力とは何処から手に入れるか…知っていますかな?」


知ってるも何も持ってるしね。でも、精霊の魔翌力ってのは溢れている訳ではないのか。


「いえ…知りません」


「では、是非知っておくと良いでしょう。この世界には精霊の魔翌力を有した魔物…魔獣という個体が存在するのです。並の冒険者では歯が立たず、王家に仕える戦士……神代(ヴァーダ)でないと倒せないと言われております」


「ヴァーダ…?」


王家お抱えの精鋭部隊みたいなもんか?名前からして超強そうだな。


「はい。人の身でありながら、強大な力を持ち、魔獣と唯一対等に戦える者。これは噂になりますが、降霊の儀を終えたヴァーダは、精霊の加護を授かると言われております」


「……!」


まさか、俺と同じ力を持った奴がいるのか。


「逸れてしまいましたね。魔獣を討伐した後、魔翌力を吸収します。吸収した魔翌力を魔縫士に渡し、そこで初めて精装束が完成します」


「へぇ~!なるほど!……え、じゃあ…さっきの困難を極めるってのは…?」


「先程、魔獣は精霊の魔翌力を保有している事は話しましたね?精装束というのは、完成後に名付けるのでは無く、魔獣の特性で名付けるのです」


「……ん?つまり危ないってのは…」


「お察しの通りで御座います。まだ、烈風はメリル国内にて生きております」


なんて事だ、ジャスミンはそんな危険な魔獣を相手にしようとしていたのか。


「ヴァーダってので、やっと倒せるくらいの相手…なんだよな?ジャスミン……大丈夫なのか?」


「あ、は、はい……自信は無いですけど…」


暫く黙り込んでいたジャスミンを見て、ふと疑問が浮かぶ。何故護衛任務をやっているんだ?考えれば生きる為だのなんだの理由は思い付くが、護衛で遠出する必要性がない気がする。


「ジャスミンは何で護衛任務を?」


「えと……それは……」


ジャスミンはお爺さんをチラ見する。話していいのか迷っている感じだった。お爺さんは目敏いのか、その反応も見逃さない。


「構いませんよ」


「あ、はい……私は……メリルのヴァーダを襲名したくて……」


メリルの町にもヴァーダがあるって事は、王族や王家の奴が居るって事か。でも、護衛とヴァーダに関係性が見えない。


「つまりどういう──」


俺が言いかけた所で背後から窓をノックする音が鳴る。何かの合図なのか、お爺さんは街道から外れて停止する。
何故止まったのか困惑していたら、お嬢様は客席から降りてきて伸びをしていた。
お爺さんは客席に置かれた荷物から何かを出している。


「何だぁ…?」


「さ、さぁ……」


俺とジャスミンは訳もわからずその様子を眺める。お爺さんは折り畳みの椅子、簡易テーブルを出し、水筒?らしき物から熱々の何かをティーカップに淹れている。
お爺さんは注いだ後、お嬢様の脇の少し後ろに立つ。呆然と見ていた俺達を、お嬢様は一瞥する。


「何してるの貴方達。ちゃんと護衛として働きなさいよ」


休憩か、こんな所で。


「す、すみません…!」


ジャスミンは馬車を降りるでもなく、客席の屋根上によじ乗る。意外と大胆な事するんだな。
俺も見張りをしようと馬車から飛び降りて、広範囲の見える位置に陣取る。丁度お嬢様達が見ている方向の反対側だ。


「爺。ノース帝国までは、あとどのくらいかかるの?」


「何も無ければ明日の夕方までには。ですが、野盗や魔物の襲撃も考慮しますと、明後日になります」


「…長いわね」


その後に何か小さく呟いていたが、聞こえなかった。


「あ、あの!……ま、魔物です!」


ジャスミンが叫ぶ。俺は周囲を見回すが魔物らしき生物は見当たらない。


「ジャスミン!どこにも居ないぞ!」


「わ、私の領域に入って来ました…!近くの森から来ますが…一体です!」


森か。俺はお嬢様達の近くへ移動し、剣を抜き、森へと身構える。お爺さんとお嬢様は微動だにしない、肝が据わっているのか、ティーカップを揺らして眺めている。


「怖くないんですか?」


俺は思わず聞いてしまう。


「怖くないわよ、別に。それより、貴方達の力量を見させてもらうわよ」


「男さん、ジャスミンさん、期待していますよ」


言ってくれる。


「……来ます!」


ジャスミンが叫ぶと、森の茂みから大きい魔物が出てくる。


「な、なんだこいつ…!」


巨大なゴブリンとでも言うのか、筋骨隆々な巨大な身体。手には大きい棍棒、胸には弓道で着けるような胸当てをしている。
長い耳はいくつもピアスをしていて、如何にも猛者感が溢れている。


「ハイゴブリンね」


お嬢様は、この魔物を前にしても顔色一つ変えない。マジか。


「…穿て」


馬車の上から声が聞こえた。振り向こうとしたその時、尖った風の塊がハイゴブリンを襲う。すげぇ、魔法とか初めて見た。それに、アイツの腕を負傷させてる。ジャスミンすげぇ!


「ほほぅ……平凡とは、よく言ったものですな」


お爺さんはどこか、楽しそうにジャスミンを見ている。俺も同感だ、これで平凡とか嘘だろ。
俺も負けてられないな、やるぞ。



俺は剣を、ぎゅっと握りしめた。






行動安価
安価下

レヴァンテインの力をほんのちょっぴりだけお借りして斬撃飛ばし



ジャスミンが一定間隔で風の槍を撃ち続ける。
俺は剣を後ろに引き、構える。俺は『レヴァンテイン 』の能力を少し引き出せるかどうか、試してみる。
完全に発現させると面倒な事になる予感がするからだ。

神経を研ぎ澄ませる。ゆっくりと、中から力が溢れるイメージ。
ハイゴブリンは吼えると、こちらに突進してくる。ジャスミンの風の槍が止まった。何かを呟いているか、あまり余裕は無さそうだ。

……来た。身体の変化がわかる。イメージするのは真空刃。何故だかは知らないが出来る気がする。俺は体重を乗せて、全力で振り抜く。


「グガァァァァッ!!!!」


「よっ……しゃぁ!」


イメージ通りだ。真空の刃がハイゴブリンを襲い、横一文字に血飛沫をあげる。ハイゴブリンは勢いに押されたのか、後ろに倒れ込む。


「…切り刻め」


ジャスミンはその隙を逃さない。目に見える程の、いくつもある円形の風の刃がハイゴブリンの周囲を不規則に飛び回り、切り刻む。
それが決定打となり、切り刻まれたハイゴブリンは息絶えた。


「すげぇな…」


思わず呟く。


「お、男さんも……凄いですっ!」


聞こえていたか。ジャスミンは屋根から飛び降りて、俺のそばに寄ってきてお辞儀をされた。


「ありがとう、ジャスミン」


俺はその瞬間、頭に一筋の閃光が走る。待てよ、ここでジャスミンの頭を撫でたら、何か漫画の主人公っぽくね!?やるか、やってみるか!?
俺は頭を下げているジャスミンに手を伸ばす。


「貴方達、少しはやるじゃないの」


「想像以上の方々ですね。頼もしい限りです」


お爺さんとお嬢様が、席から立ってこっちに歩いてくる。ジャスミンも頭を上げ、俺の手は引っ込んだ。
すると、お嬢様は俺の顔を覗き込み、訝しげな顔をする。


「貴方……その眼は何?」


「え?」


目?もしかして魔眼が出ているのか?


「あぁ~えっとこれは……体質みたいな物で……」


少々無理のある言い訳だが、これで乗り切るしかない。


「体質?こんなに眼が赤いのが?」


お嬢様は更に怪しんできた。ですよねー!


「クレアお嬢様。男さんが困っています、そこまでに」


「何で?気になるじゃない」


「冒険者の能力は、その数だけあります。多少特異な体質があっても不思議は無いでしょう」


「ふーん……たしかに、アレスも不思議な力を持ってたわね」


何とかなった…?ありがとうお爺さん。


「あ、あの……!クレア様…」


ジャスミンがお嬢様に詰め寄る。


「な、何…?近いわよ」


「やはり…アレス様とお知り合いなのですか……?」


俺もその名前は気になった。不思議な力とは何だろう。


「ああ、その事ね……爺、説明してあげなさい」


「わかりました。アレス様とは、旦那様に仕えるヴァーダです」


「…!ってとこは、アレスって人がメリルのヴァーダ?」


「左様で。そして旦那様とはクレアお嬢様の父君であり、メリルの主権を握る御方です」


「なんと!?」


実は薄々そうなんじゃないかとは思っていた。お嬢様の名前はクレアなんとかメリルだったからな。もしかしたらとは思っていたが、やっぱりなのか。


「アレス様は精装束…『雷雨』を所持しています。ですが、未だ烈風には手を焼いているのが現状です」


精装束を手に入れてる奴でさえ手こずる魔獣……って事か。ますますジャスミンが、どれほどの危険を犯そうとしているのか理解出来た。
ジャスミンはヴァーダを襲名すると言っていた。つまり、アレスからヴァーダの地位を貰い、烈風を倒すと言っているのだ。


「アレス様は、孤高を貫くお嬢様に優しく接してくれたのです。ご友人をお作りにならないお嬢様が、唯一心を許した相手でしょう。ご友人の居ないクレアお嬢様を、私は────」


「……爺?余計な事は言わなくて良いのよ?」


話の途中で、お嬢様は満面の笑みでお爺さんを睨む。これは失礼致しましたと頭を下げ、お爺さんは一歩後ろに下がった。


「そういう事よ。私はこの広大な土地を所有するメリル王家の娘、クレア様なの。改めて身分の違いがわかったかしら?」


「あ、はい……まぁ」


友達作らないんじゃなくて、作れないんじゃね?ムカつくけど、身分の違いはわかった。この女を怒らせるのは得策ではない。


「わかったなら休憩はお終い。先を急ぐわよ」


お嬢様は馬車へと踵を返し、さっさと乗ってしまう。


「……俺達も行こうか」


「あ…はい…」


「男さん、少しお話が」


「え?」


俺はお爺さんに呼び止められ、ジャスミンと顔を見合わせる。先に行くよう促し、俺はお爺さんの元へと移動する。


「どうかしましたか?」


「申し訳ありません。ただ、確認したい事が……」


お爺さんは顎をさすって、俺を見据えてきた。


「……魔王の眼を模した深紅の目…またの名を魔眼の目…」


俺は心臓が飛び出るかと思うくらいに吃驚した。


「何で……」


「この歳になると、見聞を広めるのが唯一の楽しみなのですよ」


お爺さんは馬車へと歩きだし、すれ違い様に俺の肩を叩く。


「くれぐれも力の使い方を間違わぬよう、気を付けて下さい」


そう言い残し、お爺さんは御者席へと戻っていく。あのお爺さん、何者なんだ…?
俺はモヤモヤした気持ちを抑えながら、馬車へと戻った。






陽は落ち、辺りは暗闇へと変化していく。夜空には星が光り、月は2個あった。この世界では普通らしい。
メリルの町とノース帝国の間にある大湖、メルヴィス湖の前で俺達は野宿をする事にした。

俺は適当な木を切って木材を集めようとしたらお爺さんに止められた。どうやら焚き火に使う木は何でも言い訳では無いらしい。
お爺さんの審美眼ならぬ審木眼を頼りに、ジャスミンは太い木を魔法で薙ぎ倒す。魔法ってすげぇ。

焚き火の準備を始めたので、すかさず俺はメリルの町で買った道具を出し、この場は俺に任せろと言ってみた。


「わぁ……男さん…用意が良いですね、凄いです」


「いやいや、それほどでも…」


あるんだな。買って正解だった。


「…では、準備は男さんに任せましょうか。ジャスミンさん、お嬢様と御一緒に湖で汗を流しては?」


え?なんだって?


「えっ!?…あぅ……クレア様と…ですか?」


「はい。女性水入らずでの会話もあるでしょう?」


「あっ……!は、はい…じゃあ、行ってきます」


ジャスミンは客席のお嬢様に声を掛けると、案外すんなりとお嬢様は従ってついて行った。
ふーん…水浴びね。そっかそっか…ふーん。


「では、私は簡易的な天幕を張ってきます。火傷に気を付けて下さいね」


「わっかりましたァー!」


お爺さんはにっこり笑うと、馬車へ向かい中から荷物を取り出して、いそいそと準備に取り掛かる。俺も炎焼石を2つ取り出し、石を打ち付けて、くべられた木材へ投げ込む。すると炎焼石が発炎しだし、すぐに引火して徐々に燃え上がる。

火の勢いが増して来たので、俺は耐火グローブと火バサミで木を動かす。正直動かす意味はわからんが、それっぽいだろう。
よし、これで焚き火は問題無いだろう。




行動案外
安価下

今日知ったことを地面に書き出したりして整理する

あ、いかんミスったかも


天幕を張るお爺さんを横目に、俺は適当な木の枝を拾った。地面を木の枝でなぞってみる。程よい柔らかさで、書きやすい。
とりあえず今日知った事を書き起こしてみる。

まず、今居る大陸にメリルという領土があり、メリルの町は領土内の一部。
クレアは王族の娘で父親がメリルの領主。
アレスというヴァーダがクレア父に仕えている。
クレアむかつく。
アレスは精装束『雷雨』所持、その他にも力がある?
この事から国ひとつに精装束1つではなく、複数ある事がわかる。

お爺さんが魔眼を知っていた。
クレア友達居ない。
ジャスミンは魔法使い、ベルベット村出身、姉が2人。
クレア偉そう。
精装束は魔獣から作られる。
『レヴァンテイン』は出力を調整出来る、もう少し練習が必要。
俺強すぎ……っと。


「……よし」


大体は書き起こした。こうやって見ると中々濃い1日だったな。
文字を眺めているとお爺さんが俺の方へ歩いてきたので、俺は文字を消した。天幕は張り終わった様だ。


「つきましたね。男さん、ありがとうございます」


「これくらいお安い御用ですよ」


「ははは…どれ、飲み物でも作りましょうか。水浴びのお二人もそろそろ戻って来るでしょう」


はっ!!……いや、別に覗きたかった訳じゃないし。そんなんじゃないし。魔物出たら危ないし?ちょっと気になっただけだし。
俺がブツブツ言っていたら、目の前にコップが差し出される。


「…どうぞ。少し苦いかもしれませんが」


「あ、ありがとうございます」


俺はコップを受け取り、匂いを嗅ぐ。これは珈琲の匂いだ。大丈夫だお爺さん、俺はブラックは好きだぞ。


「いただきます……はぁ~美味しい…」


「はっはっは…お口に合って良かった」



珈琲の味を堪能していると、背後から足音。クレアが帰ってきた、寝巻きで。そんな物まで持ってきたのか。なんだっけこの服。
ああそうだ、ネグリジェだ。下ろしていた金髪は、ポニテになっていた。


「夜は冷えるわねー…」


クレアは自分専用の椅子へ座り、焚き火の前で温まる。ちょっと格好と髪型が違うから、中々悪くないなとか思ってしまった。
そして俺はある事に気付く。


「あれ?ジャスミンはどうしたんですか?」


「ああ……あそこよ」


ティーカップを手に取り、顎で俺の背後の大きめな木を指す。なるほど、隠れているのか。


「あの子、私程じゃないけど。中々よ」


「……え?何がですか?」


今の発言の意味がわからなかった。追及するでもなく、か待っていればそのうち来るだろうと思い、俺はまた珈琲を啜る。
俺はその間悔しいがチラチラとクレアを見てしまう。くそ、喋らなければ可愛いなこいつ!


「おや、これはこれは……」


向かいで座っていたお爺さんが俺の背後を見ながら呟く。
ジャスミンか?俺は振り向いた。


「……んなっ!」


そこに居たのは見知らぬ美少女。顔半分を隠して居た赤い前髪は、片目だけ出していて、髪を花のピンで留めていた。
ぶかぶかのローブで体型がわからなかったが、クレア同様のネグリジェを着用している為、ジャスミンの身体がよく分かる。
小柄だが決して小さくはない胸に、すらっとした身体。肌が綺麗なのか脚は美脚と言える。


「え、だ、誰…?」


これは不可抗力だ、咄嗟に出た言葉だ。


「あ…ぅ……や、やっぱり…へ、変ですよね……」


「い、いや!か、かかか…可愛いよ!?!?」


やべぇ!声が裏返った!


「ふぁっ!?……や、あの……その……!」


「とても可愛らしいですよ。ジャスミンさん」


これぞ大人の余裕、と言わんばかりに自然と褒められるお爺さんに俺は敬意を表した。


「あ、あああ、ありがとうございますっ! 」


ジャスミンは駆け足でクレアと向かいの椅子にちょこんと座り、顔を隠す。やべぇ、これが所謂ギャップ萌えというやつでは?
今俺の目にはジャスミンがとても可愛く見える。好きになっちゃいそう!


「ジャスミンさん、どうぞ」


「あ、あ、ありがとう…ございます…」


お爺さんはジャスミンにもカップを渡す。珈琲を啜ったジャスミンは舌を出して苦い顔をする。


「ぅあ~…に、苦いです…」


そんな顔も可愛いなとか思っていたら、お爺さんは角砂糖とティースプーンを既に用意していた。デキるお爺さんだなぁ!?


「はっはっは…どうぞ。ジャスミンさんには2つくらいが丁度良いでしょう」


角砂糖を入れてもらい、少し混ぜた後にジャスミンはもう一度口を付ける。今度は美味しい!って見てわかる顔だ。


「こ、これ…!美味しく…なりました!凄い、凄いですっ!」


「はっはっは…また飲む時は、砂糖を入れてから差し上げましょう」


めちゃくちゃ優しいやないか!お爺さんこれ若い時は中々のたらしだったのでは??
ジャスミンに少し惹かれつつも、俺は今のこの時間を楽しんだ。






あれからクレアの自慢話を散々聞き、そろそろ寝ようかという雰囲気に。俺はその前に、質問があった。





質問する相手
安価下
質問内容
安価下2

ジャスミン

スリーサイズは?

草ァ!

この任務が終わったらジャスミンはどうする?…とか聞きたかった


「ジャスミン…ちょっと良い?」


「えつ…あ、はい…?」


ジャスミンは俺の傍にトコトコと駆け寄ってくる。もう何でも可愛く見えてきた。クレアとお爺さんも何かを話しているが、内容はわからない。
俺は寄ってきたジャスミンに耳打ちする様に小さな声である事を聞く。


「ジャスミンのスリーサイズ教えて」


「……えっ?」


聞こえなかったか、仕方ないもう一度。


「ジャスミンのぉ──」


「き、聞こえてましたよっ!……そうじゃなくて…その、あの…あぅ……」


顔を真っ赤にして、手をモジモジとさせている。おいおい、抱き締めたくなるじゃねぇか。


「わ、私……その…は、測った事……なくて……」


もう目を閉じて絞り出すように喋っている、恥ずかしさの限界か。測った事ないと来たか……ならば仕方ない、俺の目測で測るしかないな!


「測った事ないんだね、じゃあちょっと失礼して……」


「ふぇっ…」


俺は顎に手を当て、舐め回すようにジャスミンの肢体を凝視する。俺は元の世界での元カノを参考にする。


「ぁ…あゎゎ……そ、そんなに……見ないで…」


「あ、ごめんごめん。もう大丈夫だよ」


俺の目測結果、83-54-75と見た、良い身体してんねぇ!合ってるかわかんないけど!


「付き合わせてごめんね、じゃあ俺達も寝ようか」


「あ、はい…」


俺とジャスミンは天幕へと、就寝に向かった。






翌朝。俺達は野宿の道具を片し、再びノース帝国への道へと戻る。湖沿いに進み、反対側に行かなければならない様だ。
俺は大湖を眺めている。間にこんな湖があったら交通の便が悪いだろう、橋でも作らないのかな、とか考えていた。


「大きいでしょう、このメルヴィス湖は。この中には巨大な魔物が潜んでいるとも言われているんですよ」


後ろからお爺さんの声が聞こえる。俺は相変わらず後ろに座ってるので前の状況がわからないが、おそらくジャスミンに話しているのだろう。それにしても巨大な魔物か、たしかに居てもおかしくないな。


「そして満月が1つになる日……『ヒトツキの夜』にこの湖に訪れると、セイレーンの歌が聞けるそうですよ」


へぇ、月が1つになる日があるのか。ジャスミンが何か言っているが聞き取れなかった。お爺さんの声はよく通るな。




~国境


一度休憩を取り、しばらく経った頃。巨大な城壁の前で俺達は一度止まる。門番らしき兵士が2人、恐らくここは国境なのだろう。
お爺さんが馬車から降りて、門番に何かを見せている。通行手形的なやつかな?

様子を見る際、クレアの様子もついでに見る。退屈そうなのか、悩み事なのか、前を通る俺を見る事も無く、ただひたすらに遠くを見ている様だった。

通行許可が出たのか、お爺さんは馬車に戻って再び手綱を取る。俺も後ろに戻り、国境を後にする。
今更だけど、クレアは何しに行くんだろう。俺が知る事では無いのだが、クレアの様子から恐らくノース帝国で何かあるのだろう。




~街道


「あまり風景は変わりませんが、ここはダーウィンの領土であり、領主のエルサム・ダーウィン様が統治しておられるのです」


風景は確かに変わらないが、何というか草むらに大きな岩が多い感じがする。遠くには牛を連れて歩く人物も見え、この国も平和なんだなと思った。



腹のすき具合からして恐らくもう昼だろう。夕方には着くと言ってたし、もう少しの辛抱だ。頼むから何も起きてくれるなよ。

俺は欠伸をして呆けていると、遠くから何かがこちらに向かって来るのが見える。いや、追いかけられてる?
目を凝らしてもよく見えないので、レヴァンテインの力を使って右目の視力を上げる。
見えたのは馬に乗った如何にもな山賊が3人。


「山賊らしき奴らがつけてきてます!数は3人!」


フラグ回収早すぎだろとか思いながら、前に居る2人に大声で知らせる。このままだと、追いつかれるのは時間の問題だ。


「ここで野盗にで遭遇するとは……馬車を止める事は出来ませんぞ」


お爺さんの言う通り、ここでクレアに被害が及ぶのは絶対に駄目だ。







行動安価

安価下

レヴァンテインの真空刃やジャスミンの遠距離攻撃できる魔法で盗賊か馬を攻撃
合ってるかどうかは自信がない


そうだ…あれなら。俺は馬車の屋根によじ登り、上から真空刃を飛ばす事にした。だが、思ったより走行する馬車でバランスを保つのが難しい。

フラフラとしながら何とか安定させ、剣を抜き、構える。敵は直線上、横薙に斬るのが最善だな。腹の底から右手に力が流れるイメージ、部分的にレヴァンテインの能力を発現させる。


「……!」


まさに今、振り抜こうとした際に、俺は気付いてしまった。
今俺は、人を殺そうとした、躊躇もせずに。相手は人間で、モンスターとは訳が違う。

いくら相手が悪党で、人の命を平気で奪う奴らだとしても、俺自身は人を殺した事なんて無いし、 モンスターと同じ感覚で倒せるはずもない。

なのに……俺は、殺せる。モンスターを殺すように、人が虫を潰す時のように……殺せる。


「お、男さん!大丈夫です………か…?」


「あ…ジャスミン…?」


どうやらジャスミンも屋根に上がって来たようだ。一瞬ジャスミンが固まった気がするが、何か顔についてたか?流石に2人では狭いので、ジャスミンに促されお爺さんの隣に降りて座る。


「私が……足止めします!」


申し訳ないが、ここはジャスミンに任せよう。今の俺は少し、おかしい。俺は少し前のリネル村の救出任務を思い出す。廃家に居たゴブリンを俺は殺した。初めて生き物を殺したという実感で泣きそうだったはずなのに。


今でもあのゴブリンを刺した感触は覚えてる、気持ち悪かった。
でも、報復しにきたゴブリンの時には殺せるかもって思ってた…何でだ?
もしかして、この力のせいなのか。


「…あっ!!」


ジャスミンの声が聞こえたと思ったら、何かが落ちる音がした。まさかと思い屋根上を見たらジャスミンが居ない、落ちたのか!?


「ゲルムさん!ジャスミンが落ちた!止めてください!」


「…………すみません」


「!!」


無理もない。このお爺さんにとってはクレアの安全が第一だ。俺達はただの雇われ冒険者、優先順位なんて考えるまでも無かった。





行動安価
安価下

ジャスミンを助けるために馬車から飛び降りる


「……あとは頼みます!ゲルムさん!」


お爺さんの返事も待たず、俺は馬車を飛び降りる。その時に見えたクレアは、野盗に追われていて、ジャスミンが落ちたのにも関わらず、涼しい顔で景色を眺めていた。

地面を転がり落ち、すぐに立ち上がる。野盗は2人に減っていた、1人は何とかしたようだ。
駆け足でジャスミンの元へ向かう。街道から外れた所に横たわって動かない、気絶しているかも。

俺がジャスミンの傍に来たと同時に野盗2人も馬から降り、こちらに近づいてくる。手には武器…話し合いは出来なさそうだ。


「てめぇら!よくも兄貴に怪我させてくれたなぁ!覚悟出来てんだろうなぁ!!」


兄貴…ジャスミンが何とかした奴か。キレてる奴が剣を振り上げるが、もう1人の髭面が止めてくれた。もしかしたら案外まともな奴かもしれない。


「落ち着け。いきなりぶっ殺しちゃぁ可哀想だろ?それに女は殺しちゃぁ勿体ねぇ……お仕置きしねぇとな。男の方も、たっぷりと可愛がってやろうぜ」


全然まともじゃなかったわ。ヤバイ奴だったわ。このままでは俺もジャスミンも危険だ、何か対策をしなければ。






安価下

おいおいこんなところで野盗かよ、どこから流れてきたんだとか適当言って煽りつつ装備やらの観察、様子見
襲ってきたら仕方がないので鞘付き剣ぶん回し~レヴァンテインを添えて~でおねんねさせる


俺はあれこれ考え、実行する。


「…はぁ~~っ…ついてねぇな……馬車から投げ出されて、挙句野盗に襲われるとか……俺の運も尽きたか」


俺は両手を上げ、抵抗しないよとアピールしてみる。


「ヒャハハハ!見ろよ!こいつ抵抗すらしないぜ!?」


「…素直だな。何か企んでねぇか?」


髭面は俺の行動を怪しむが、馬鹿には通じそうだ。


「こっちは1人気絶してるしな。守りながら抵抗するにしても圧倒的に不利だ、俺も馬鹿じゃないさ」


「随分と落ち着いてんじゃねぇか。肝が据わってるのか、ただの馬鹿なのか…」


髭面は長い髭をさすり、俺の様子を窺う。


「変な詮索しなくても、ただの馬鹿だよ俺は」


そう言いながら奴らの装備を確認する。馬鹿の得物は剣、特に硬そうな装備はしてなくて、布で出来た服だけ。
髭面は布の服の上から胴当てと、頭に角が左右に生えた兜、両手には篭手を装備している。得物は斧だが、まだ背中に差したままだ。
やるならこの馬鹿からだな。


「ダンテ!このビビり野郎をアジトに連れていこうぜ!」


「…まぁ良いだろう。お前、変な気起こしたらぶっ殺してやるからな」


髭面は俺を指差し、目で威圧してくる。安心しろよ、すぐに変な気起こしてやるから。


「わかったよ。俺のツレ…気絶してるし、抱えてもいいか?」


「ったりめぇだろ!さっさと持て!!」


「ああ…ありがとう」


馬鹿が。
ジャスミンに振り向く勢いのまま、ショートソードを鞘ごと抜き、そのまま振り向いて、後ろに居る馬鹿の顔面に鞘を叩きつけた。
馬鹿は勢いよく転げ回り、ピクリとも動かなくなる。やべぇ、やりすぎたか。


「ちっ…油断しやがって。やってくれるじゃねえか兄ちゃん…大した馬鹿力だが、俺はそう簡単にはいかねぇぞ」


髭面は斧を抜き、構えをとる。マジか、今の見て反応それだけか。


まぁ、確かに魔法のある世界だし、怪力くらいじゃ驚かないか。俺も鞘を構える。
剣術なんぞ皆無の俺だが、ゲーム漫画アニメで培った知識がある。アテになるかわからんが、当たれば良い。この力に頼って振れば勝てるだろう。


「抜かねぇのか?」


「……抜くまでもないって事だよ」


「けっ…舐めやがって」


髭面は唾を吐き捨てると、回転して斧を投げてきた。
馬鹿かこいつ、得物を投げやがった。難なく交わして体勢を変えた時、右肩に激痛と衝撃が走る。
俺は衝撃にぶっ飛んでしまい、草原に倒れ込む。


「いっ…てぇ!!」


何が起きた?殴られたのか?俺の居た場所には、髭面が立っていた。いつの間に距離を詰めた…?


「軽いなぁ兄ちゃん……どうだ?効くだろ、俺の『魔撃』はよ」


髭面は俺を見下し、鼻で笑う。見るのとやられるのじゃ訳が違う。
今のは喧嘩慣れした奴が、服で目眩ましをして死角から殴るアレと同じだ。
俺は立ち上がり、構える。


「おいおい、大人しくしてりゃあ骨の数本で勘弁してやっても良いんだぜ?女は貰ってくけどなぁ」


髭面は髭をさすり、ニヤケ面でジャスミンを見ている。この野郎…絶対にそれは許さねぇ。


「ふざけんな……ジャスミンに手を出したら、許さねぇからな」


「ガハハ!威勢がいいのは結構だけどよ」


髭面が低く構える。


「そういうのは、強くなってから言えや」


「…!」


髭面が消えた。くそ、どこに行きやがった!
俺は適当に鞘を振る。当たればいい、当たれば俺の勝ちなんだ。


「俺ぁこっちだぜ?」


「なっ…────ぐあっ!!」


左頬を殴られた。今度は何とか踏ん張り、倒れずには済んだ。血の味がする、口の中が切れたか。
それにしてもこいつ…どこから出てきやがったんだ。


「…力量差がありすぎだな、兄ちゃんに最後のチャンスやるよ。諦めろ」


「う、うるせぇ……俺はまだ本気出してねぇだけだ……」


「……ガーーーッハッハ!やっぱりただの馬鹿だったか!気に入った!次で殺してやるよ!」


「やれるもんならな…!」


馬鹿にしやがって、お前なんか当たればなんて事ねぇんだ。当たればな。
ただ、あいつの動きが速すぎて見えねぇ。何か…何か策は…。








男ステータス
右手の筋力増強のみ



行動安価

地面を殴って砂煙で覆う
物理的なダメージがあるなら、攻撃が飛んできた時にその場所だけ何か変化があるはず

目の強化とかはできないか
てかこいつホンマに盗賊かよ

全力で強化して地面をブン殴り叩き割る

あ…適応されるか分からないけど、砂煙で覆った後に魔眼も使ってください
反応速度を上げておかないと辛そう

安価下とか入れ忘れました
上記3つ参考にして頑張ります

ここってある程度定まったルートがあるわけじゃなくて、安価を参考にしてイッチが舵をとる感じ?

ちょっと先までの展開はあって、余程今の流れに逆らう安価でない限りは、その動線に乗せて話を進めてますね。


「…ふぅぅ~……」


落ち着け男よ、クールになれ。まずはジャスミンを避難させよう、ここでは巻き込んでしまう。
俺は鞘を腰に戻し、ジャスミンに近付いて抱き上げる。小柄だからか、思ったより全然軽い。


「…何してんだ?」


「…ここじゃジャスミンを巻き込んじまう、少し遠くに運ばせてくれ」


「馬鹿かお前…俺がそれを許すとでも思ってんのか?」


まぁ、そうだな。俺は左肩にジャスミンを担ぎあげ、空いた右手で鞘を抜いて、大きく振り上げ不敵に笑ってみせた。


「なら、無理矢理運ぶさ」


地面に向かって鞘を振り下ろす。爆音と共に一瞬で視界が砂埃に覆われた。俺は右脚を強化して、その力で大きく後ろに跳ぶ。正直どのくらい跳ぶかわかんなかったけど凄いな、この力。
砂埃を抜け、大きな岩の近くまで来たのでジャスミンを裏に隠して、飛び出た方を見ると、中から髭面が埃を割って出てきた。


「兄ちゃんよぉ……悪足掻きはよせ。萎えちまうだろ」


俺はジャスミンと髭面が遠くなる方向へ走り、後ろを振り返ると髭面は俺を見るだけで追って来ていない。
俺は走るのを止め、髭面に向き直す。


「どうした!かかってこいよ!」


安い挑発だ。髭面は何故か装備を外し始め、身軽になると肩を回して低く構えた。
もしかして更に早くなるとかそういうやつ?勘弁してくれ。俺は鞘を振り上げる。


「またそんな事しても意味無いぜ!死ぬ準備しろよ!兄ちゃん!」


髭面が消えた。これでいい、俺はまた鞘を叩きつけて地面から砂埃を発生させる。魔眼も発現させ、些細な砂埃の些細な変化に神経を尖らせる。

高速で向かってくる人影が見える、良く見える……来る!
顔を狙った一撃を側面に交わす。よく見えるよ、お前の動きが!


「何だと!?」


「俺の……価勝ちだ!!」


振り上げた鞘を、髭面の首裏に叩きつける。力が強すぎたのか、髭面は地面から派手な音を上げた。


暫くすると砂埃は消え、視界が鮮明になってくる。勝ったんだな、俺は。改めて、この力と魔眼の凄さに気付かされた。
まだ謎が多いが、もっと使いこなせれば更に強くなれる気がする。

髭面は倒したし、とりあえずジャスミンの様子を見なきゃ。
俺はジャスミンの元へと向かおうとした時────。


「待てよ……兄ちゃん」


「!?」


吃驚した。殺してないとはいえ、意識があるとは思わなかった。俺は再び鞘を抜き、倒れたままの髭面に向かって構える。


「そう構えんな……もう戦う気力もねぇ。俺の負けだ」


「……」


油断するつもりは無いが、たしかに先程までの雰囲気とは違う気がする。俺も鞘を戻し、気になっていた事を聞こうと思った。


「たしか……ダンテだっけ?お前、ただの野盗じゃないだろ」


「なんだ……俺はただの野盗だぜ。そんな事聞いてどうすんだよ…?」


「少し気になったんだ、強いから」


ファンタジーの盗賊や山賊…色々あれど、手強いというイメージが無かったからか、髭面の強さに疑問を持っていた。この力が無ければ間違いなく負けていたしな。


「…そうかい。で、俺を殺さないのか?」


「え?」


何言ってんだこいつ、殺す訳ないだろう。


「おいおい……わかるだろ。俺は野盗だぜ?このまま生かしといて良いのかよ?」


「あぁ…」


そうか、こいつ等を生かしたらまた別の人が被害に遭う。でも、こいつらには兄貴ってのが居るはずだ。こいつを殺しても野盗を根絶出来るわけじゃない。それに俺は人を殺したい訳じゃない、感覚はおかしくなっているが理性はある。

とあるゲームの主人公は人を初めて殺した時にかなり取り乱していたが、それは人を殺したという業を背負う覚悟がないからだ。画面越しの俺はゲームだからと理解しているから、こいつ取り乱しすぎだろとか思っていた。今なら少しは気持ちがわかる。

殺らなければ殺られる、正当防衛、言い方はあれど結局は人殺しだ。背負わなくて良いなら俺だって業を背負いたくはない。ただ、野放しにする事によって被害者が増えるのも好ましくはない。ジャスミンの容態も気になるし、何とかしたいが。








行動安価
安価下

武装解除と称して武器を取り上げて拘束し、ジャスミンの手当てをする。
ジャスミンの容態が落ち着いたら
依頼人を放ってしまったことに頭を抱えてジャスミンと相談する。(助けたこと自体に後悔はしていないと伝えて)
ダンテに捕まえた後の賊の処遇を尋ね、ここら辺(世界)の司法関連について聞いてみる。
可能ならば戦闘中に使った技術を聞いたり、賊から使えそうなものをぶんどる。


こいつの処遇は後だ、一先ずはジャスミンを確認してこよう。俺は髭面に近付いて、服を脱がし始める。


「おいおい何してんだ…まさかお前──」


「勘違いすんな!ちょっと拘束するだけだ」


脱がせた服を細長く折り畳み、手足を固く縛る。その際、他に何か武器は無いか漁るが特には見つからなかった。今のこいつなら解く力もないだろう。俺は髭面を置いて、ジャスミンの元へと向かう。





あれから少し経ったが、まだジャスミンの意識は戻らない。馬車から落ちた時に怪我をしていないか確認したが、素人目には擦り傷と打撲くらいしか分からなかった。

外傷はそれだけで、死んではいないはず。ノース帝国で医者に診せてやりたいが、まだまだ距離はある。俺はジャスミンの傍で座り込み、この後の事を考えながら時折髭面を見ていた。あれ、あいつ寝てね?まぁいいけど。


「……ん…」


「おっ……ジャスミン?」


良かった、生きてる。


「……?」


「起きた?」


「え……えっ!?」


目を開けたので声を掛けたらめちゃくちゃ驚かれた。ジャスミンは半身を起こして前髪を整えて俺に上半身だけ向ける。


「あれ…あの……私、馬車から落ちて……」


「そう、気絶してたよ」


「気絶……」


そう言うとジャスミンは辺りを見回す。遠くで拘束されているダンテを見つけたのか、一瞬顔が止まり俺とダンテを交互に見やる。多分俺が野盗を倒したと理解してくれた。


「…あの……クレア様達は…?」


「先にノース帝国に行ったよ、俺はジャスミンを助けに馬車を降りたんだ」


「えっ……何…どうして……私なんか…」


俺の頭に稲妻走る。さながらロマサカでいう技習得時の電球がピコーンと音を鳴らすアレが俺の中で起きた。これは言うしかない、言うしかないだろう。まさか俺が言える日が来るとは思わなかった。


「誰かを助けるのに理由がいるの?」


「……」


言えたああああ!選んだ自分で言うのも何だけどこのセリフ最高だな!流石スクエ〇だなぁ!
ジャスミンは少し驚いた後、俯いてしまう。あれ、怒った?ミスった?


「……ありがとう…ございます、男さん」


「…!……ジャスミンが無事で良かった」


顔を上げたジャスミンの口角が上がっていた、顔全体を見なくても嬉しそうにしているのがわかる。俺も嬉しくなる。


「あ、怪我してると思うんだけど大丈夫?痛くない?」


「えっと…左腕が……ちょっと痛いですけど……大丈夫です」


「そっか…無理しないでね」


俺は立ち上がり、ジャスミンに手を差し伸べる。一瞬迷っていたが、ジャスミンは俺の手をとって立ち上がる。俺はそこら辺のヘタレ主人公共とは違って、手を握るくらいじゃ動揺しないぞ。


「これって依頼失敗……かな?」


「…そう……なるんですかね…」


野盗も倒し、ジャスミンも助けたまでは良い。だが、この後の対応がまだ思い付いていない。


「あの……そこで寝てる人は……どうするんですか…?」


「あ……」


たしかに。ノース帝国までの交通手段は後回しにして、あの髭面…ダンテから少し話を聞こう。







俺はいびきを立てて寝ているダンテに跨り、頬をペチペチと往復ビンタする。


「ぐご……んん………なんだぁ?」


「おい、起きろ」


「何だよ兄ちゃんか……やっと殺す気になったか?」


「え……こ、殺す…?」


殺すという単語にジャスミンが反応する。おい、勘違いされるだろ。


「殺さないよ。ちょっと聞きたい事があるんだ、教えてくれよ」


「何だつまらねぇ……教えるのは良いが…退いてくれ、重い」


「そんな重くないだろ!」


俺はダンテから離れ、傍に座り込むとジャスミンも隣に座った。



「で?……聞きたい事って何だよ?」


「ああ…お前をノース帝国に連行したとして、賊の処遇はどうなってるんだ?」


「なるほどな、そう来たか……捕まった賊はアジトの場所を吐くまで拷問されんだよ、それがえらいキツイらしくてなぁ……吐く奴も居れば耐えられずに自害する奴も居るぜ。過剰な拷問で殺しちまう事も良くある」


「拷問……穏やかじゃないな」


賊に対する処遇はとしては妥当かもしれないが、殺してしまう程の拷問とは酷いな。民の為に賊を根絶やしにする……拷問は仕方の無い事かもしれない。


「んで、聞きたい事ってのはそれだけかよ?」


「いや、まだある。この国の法とかはどうなってるんだ?」


「はぁ…?俺に聞くかよそれを」


まぁ、そう言われちゃあそうなんだけど。この国での法があって、俺がいつ侵すかもわからんしな。聞いておいて損はないだろう。


「法も何も、普通に生きてりゃ大丈夫だろ。領主や王族の奴らに歯向かうとかしなけりゃ、普通に生きていける」


「犯罪を犯した奴や賊を取り締まるのは国か?それともそういった機関があるのか?」


「他所者にてめぇの国の問題を任せる訳ねぇだろ。問題が起きれば領主や国王、帝王の私兵が動く。民の支持を得られるからな」


なるほどな、俺の世界で言う警察機関は無いらしい。例えるなら都道府県各県に王様が居て、王様が責任を持って自分の国の犯罪者を私兵で取り締まり、県民から支持を得ていく感じだな。

法に触れるラインも、あまり人道的ではない事をしなければ問題はなさそうだ。偉い奴には頭下げる、そこは現実と変わらんな。



「わかった。じゃあもう1つ質問」


「まだあるのか…お次は何だ?」


「お前の技……あれは何だ?俺にも出来るのか?」


これが一番気になっていた。仮にアレが俺にも出来るなら大いな成長が望める。


「ああ…『魔走』の事か。自分で言うのも何だが……俺の魔走は中々のモンだったろ。魔翌力のある奴なら誰でも出来るが…簡単じゃねぇぜ」


「誰でも……」


俺はジャスミンを見る。魔翌力があるならジャスミンにも可能なのか?俺の視線に気付いたのか、ジャスミンは首を横に振る。


「わ、私には出来ません……」


「そうなんだ?……そうなのか?」


再びダンテに視線を戻して聞く。


「嬢ちゃんは『ノーナ』だからな、出来ねぇのも当然だ」


「ノーナ…?」


「まさか…知らねぇのか?」


「ちょっと世間に疎くて……」


「どんな僻地で育ったんだよ……まぁいい。ノーナってのは魔翌力を放出する事を得意とする奴の総称だ。俺みたいに魔翌力を内に留めるのを得意とするのが『レクタ』って言うんだ」


「へぇ~……」


ノーナとヘクタね…まだまだ知らない事が沢山あるな。


「で、俺にはその魔走は出来るのか?」


「…兄ちゃんには無理だ、魔力がねぇからな」


たしかに凄い力は持っているが、元はただの人間だしな。魔力とかってのは生まれた時からの才能的なやつだろう。俺の力は魔力とかそういう次元ではないと分かっただけでも収穫か。


「そうか……そりゃあ残念だ」


「何言ってんだ、俺の魔走を見切ったんだぞ。魔力なんて無くても兄ちゃんなら問題ねぇだろ」


魔眼のおかげだけどね。俺は何となく周囲を見回した時に、街道に野盗が乗ってきた馬が2匹まだ居るのが見えた。これは使えるぞ。


「……あそこの馬一頭貰ってくぞ」


「馬?……ああ、好きにしろよ」


これでノース帝国までの足を手に入れた。後はこいつの処遇だ。






殺す、解放、連行する、その他


安価下

もうひとりいた下っ端っぽいやつってどうなりましたか?
安価下

キレてた野盗は生存。まだ意識は戻らない。
という感じで
安価下

キルしましょう

解放

放置

ここで殺してもなぁ、解放で

なんか[ピーーー]ことに葛藤してたのに[ピーーー]んかい
つーか毎回毎回クズキャラにする奴沸いてくるな

連取り自重して静観していた結果がこれだよ!


俺は悩んだ挙句、答えを出す。やはり、こいつをここで生かしてはいけない。俺は立ち上がる。


「お、男さん……?」


「なぁダンテ、お前達はこの世界じゃあ有名なのか?」


「ああ?……国に居る賊なんて他国からすりゃゴミみてぇな問題だ。隣国だって俺達の事は知らねぇよ」


「…なるほどな。ジャスミン、ここから一番近い別の大陸ってある?」


「えっ……た、多分…ノース帝国から北西にある港町から…西の大陸に……行けます」


「そっか、ありがとう」


俺は今度は鞘ではなく、剣を抜いた。


「あ…?なんだよ兄ちゃん、やっと[ピーーー]気になったかよ」


「ああ……お前を[ピーーー]よ」


「お、男さん!?な、何を…!」


ジャスミンは止めるでもなく、怖いのか俺から少し離れる。人を殺そうとする奴が近くに居たらそりゃ怖い。


「お前達はここに居ちゃいけないんだ、わかるよな」


「けっ…やるならさっさと殺れよ」


「ああ。そうさせてもらうよ」


俺は剣を逆手に持ち、思いっきり突き刺す。

レヴァンテインの意思(安価)に引っ張られてるんだ!


「……おい、なんの真似だよ」


俺は突き刺した。剣をダンテの顔の真横に。


「ダンテは今ここで俺が殺した。お前は今日からゲールだ」


俺は剣を地面から抜き、鞘にしまう。


「は……?何言っ────」


「ダンテは今、ここで、俺が殺した。お前の名前は今からゲールだ。わかったらあそこのもう1人担いで、さっさと港町に行って西の大陸に行けよ。あ、ぶっ倒れてる奴の名前はお前が考えろよ」


「…おいおい……とんだ甘ちゃんだな、兄ちゃん」


「うっせ、俺達はもう行くからな」


「…またここで野盗してるかもしれねぇぞ?」


「そん時はホントに殺してやるよ」


「……ガーハッハッハ!こいつぁ怖えーな!解いたらさっさと西の大陸に逃げねぇとな!」


「そうだろう。じゃあな、ゲール」


俺は怖がるジャスミンに弁解しまくり、何とか誤解は解けた。クレア達がノース帝国に着くのは夕方、俺達は今から行ったら夜の良い時間になりそうだな。
後ろにジャスミンを乗せ、俺達はノース帝国を目指す。

綺麗に捌くな

*ブラボー!*


~街道



「……お、あれかな?」


夕暮れが暗闇に変わりかける頃、とても遠くに大きな街……要塞?が見えた。何かメリルとは全然違うな。


「あ……見えましたね」


「ノース帝国はどんな所なんだろうなぁ…ちょっと楽しみ」


「ここはダーウィン様の領土ですけど…ノース帝国は独立国家なんですよね」


「え?そうなんだ?」


メリルの領土にあるリネル村みたく、領主に統治される訳じゃないのか。独立国家か、領主が怒りそうなもんだけど平気なんだな。


「えと…世界に3つある闘技場の1つがノース帝国にあって……領土が小さくても国としての武力は高い…らしいです」


「へぇ~…」


要は戦闘に長けた猛者が多く滞在してる感じかな。国としての武力って、戦争でもあったりすんのかな。


「あ、ジャスミン疲れたら言ってね。まだまだ距離はあるみたいだし、疲れたら休憩するよ」


「あ……だ、大丈夫です……ありがとうございます、男さん…」


「そっか。なら、飛ばすよー」


言ったは良いが馬の扱いなんて知らんな。困惑していた俺に、ジャスミンが教えてくれた。夕日は沈み、月が2つ。



~ノース帝国


「うわぁ……なにこれぇ……」


俺じゃ形容出来ない程の……なんかもう凄い。FF〇で見た街に似てる気がする。なんだっけ、ミッドガル?
明らかにメリルの町とは使ってる素材が違うと一目でわかる建造物群。お店も入口から沢山見え、まだ営業している様だ。

決して綺麗とは言えない街並みだが、迫力が凄い。中央には巨大な円形の建物、恐らくこれが闘技場だろう。夜だというのに人がまだまだ沢山出歩いている。ここでは普通なのかな。

闘技場の上から…奥にそびえ立つ城みたいなのが見える。帝国というくらいだ、あそこに帝王が居るのは間違いないだろう。
クレアも恐らくは…。


「初めて来ましたけど……凄い、ですね」


「だねぇ……さて……」







☆ノース帝国参考
宿屋、武器屋、防具屋、占い屋、闘技場、王宮、貴族街、貧民街



行動安価
安価下

利用しそうな施設の場所確認しながら先に宿取るか


「とりあえず…宿を探しながら街を見て回ろうか」


「え……クレア達達は…良いんですか?」


「ああ、それなら大丈夫だと思うよ」


俺は入口すぐの厩舎を指差す。


「馬を預ける時にクレア達の馬が居たんだ。だから多分、奥に見える城に居るんじゃないかな」


「あ……そうなんですね…良かったぁ…」


「クレア達は逃げないし、今日はとりあえず休もう。あまり長旅に慣れてないから、疲れちゃったんだよね」


疲れたとか言わないジャスミンの前で言うのは少し恥ずかしくて、照れ隠し代わりに頬を指で掻く。


「あ、はい……そうしましょうか」


「じゃ、行こうか」


俺は街へと向き直し、歩こうとしたら袖が後ろに引っ張られた。振り返るとジャスミンが俺の袖を摘んでいる。俯いていて、モジモジしている姿はとても可愛らしく見えた。

漫画とかでよくある別れを告げて背を向ける男の服を女が掴んで本音を漏らす的なそういうシーンが次々に頭を過ぎる。


「あ、あの…その……私…」


俺は察した。なるほど、俺を壁代わりにしたいんだな。メリルの町でも木の影に隠れているくらいだ、人混みを歩くのは苦手なのだろう。


「いいよ、後ろに隠れてても」


「えぁ……あ、ありがとうございます…!」


これくらいならどうってことないしな。ジャスミンは袖からシャツを掴み、壁から覗き込む様に隠れる。思ったより密着していて、俺は歓喜する。






「ここは武器屋か」


俺の武器はショートソードだ。この剣も使い勝手は悪くないが、ここで新しく新調して何を使うか決めてもいいな。


「お、こっちは防具か」


今の軽装も悪くは無いが、ゲームの騎士達が着ているような鎧も良いな。機動力は落ちそうだけど防御に関しては信頼出来る。護衛の金が入るなら考えてみよう。


「ん?ここは何だろう」


「占い屋さん……ですね」


この世界にも占いはあるのか。占いってやった事ないし、信じたことも無いけど異世界の占いはどんなものかは気になるな。


「あ、閉まってるけど…ここはギルドかな?」


看板の文字は読めないが、メリルの町にあるギルドと似たような文字と装飾があった。
暫く歩いていると、目的の宿屋を発見する。なんというか想像と違って……海外でいうモーテルみたいな感じだ。


「ん………あ、そうか!」


俺は大事な事を思い出す。所持品の入ったリュックは馬車の中だ、お金が無くちゃ宿にすら泊まれないぞ。


「やっべー…どうしよ」


「あ、私……あります…」


ジャスミンは袋を俺の横腹から差し出してくる。袋は軽く、どうやらジャスミンも依頼の報酬がないとキツそうだ。


「た、多分……一泊は出来ると……」


くぅ~情けない、不可抗力とはいえお金を出して貰うなんて。ふかふかのベットで寝る為だ、背に腹は代えられん。


「ありがとうジャスミン、必ず返すから…」


「い、いえいえ!」


ジャスミンは大丈夫と言うがそうはいかない、絶対返す。泊まれると安心した俺達は、宿屋へと入る。



~宿屋


「ん……いらっしゃい」


宿屋に入ると、受付の内側で座って雑誌?みたいな本を読んでいて、眼鏡を掛けたおじさんが立ち上がる。


「一泊?連泊?」


「あ、一泊で」


「はいよ。部屋は何部屋借りるんだい?……二つ?一つ?」


「えーと…」





安価下

2つ

一つ


「二部屋で……いいよね?」


俺はジャスミンを見ると、頷いていた。流石に同部屋は色々とまずい。この前うさ耳女と同じ部屋に泊まったが、ジャスミンはあいつと同じタイプではない。二部屋借りたら金が嵩むが、明日依頼で返せばいいのだ。


「二つね……はい、これが鍵ね」


カウンターにタグの付いた鍵が出され、俺は一つをジャスミンに渡す。タグに書かれた数字が連番になっていたので、隣の部屋になるみたいだ。

俺達は受付を出て宿舎へと向かう。やっと休めると思うとどっと疲れが押し寄せてきた。早く寝よう、今日は。
俺達はそれぞれのドアの前に立ち、おやすみ、と挨拶をして中へと入る。

見た目より内装は綺麗で、胸当てや鉢金を外してベットにダイブする。寝心地は最高だ、もう寝れるぞこれ。
大の字で伸びをして、欠伸をするとドアからノックの音が聞こえた。

俺に来客なんて居ないだろうし、ジャスミンかな?と思いベットから立ち上がりドアを開ける。やはりそこに居たのはジャスミンだった。

外套は脱いでおり、湖の時はネグリジェだったがこの服は何ていうんだ?恐らくこの村娘みたいな格好が外套の下に着ている普段着なのだろう。
スカートも足首まであり、露出は少なく、パンを入れたバスケットを持たせたら似合いそうだ。


「…どうしたの?」


「あ…えと……」


「…?とりあえず中…入る?」


一瞬言中へ入れと言うか迷ったが、ジャスミンが頷いてくれたので中へと入れる。俺は近くの椅子へと座り、ジャスミンはベットに腰掛ける。


「それて、どうしたの?」


「あ、あの……私、助けて貰ったのに……お礼とかちゃんとしてなくて……その…」


ああ、なるほど。そんな事は気にしていなかった。


「ああね……でも宿屋に泊まれたのはジャスミンのおかげだし、大丈夫だよ」


「それじゃ……ダメです…何か……ちゃんとかお礼したくて…」


「うーん……そう言われてもな…」


「な、何でも…!良いです……何か…ありませんか?お願いとか……」


とあるネタに反応しそうになるが押し留める。特にこれと言ってお願いはないけど……どうせなら……。








安価下

風呂で背中を流してくれ

今回の依頼が終わった後も自分と一緒に行動して欲しいかな


「じゃあ……風呂に入るから、背中流してくれる?」


なーんて、とか冗談っぽく言って軽く笑った。


「えぁ……お、お風呂……背中…」


「…ん?」


あれ?何か予想と違う反応だ、もしかして本気にしてる?


「あ、ジャスミン…冗談──」


「や、やります!お背中…!……流します!」


ジャスミンはバッと立ち上がる。マジか、正直やってくれるのならやってほしいけど……良心と邪な考えがぶつかり合って俺の判断を鈍らせてくる。結果、脳内戦争は邪な考えが勝利し、俺は背中を流してもらう事を決意する。


「じゃあ……お願いしようかな」


「は、はい……!」


俺も椅子から立ち上がり、浴室に向かう。やべぇ、ドキドキしてきた、元カノとも一緒には……いや、あいつとはそれ以前の問題か。
扉を開けると脱衣所になっていて、奥にもう1つ扉がある。奥の方も開けてみると、3mくらいの縦長スペースと、そこまで広くはないが浴槽が隣にあり、シャワーは無さそうだ。

これはあれか、浴槽から湯を掬ってかけるやつか。ならばまずは湯を張らないとな。浴槽の脇に取り付けられた蛇口の左右に赤と青のバルブがある。

これ懐かしいな、ばあちゃんの家がこんなだったな。俺は赤を捻って熱々のお湯を出し、青捻って温度を調整していく。たまにある、外から薪で湯を沸かすやつじゃなくて良かった。
俺はジャスミンに声を掛け、風呂が沸くまで何か話をしようと思って再び部屋の椅子に座る。






安価
雑談内容、或いは質問内容。

安価下2まで

今回の依頼が終了した後、ジャスミンはどうするのか

昼間の盗賊の件
彼らはちゃんと更生するだろうか、自分の行動はあれでよかったのだろうか


「ジャスミンはさ、これからの予定とかって決まってるの?」


「えっと……えと…王都セインガルドに行こうかと…思ってます」


「セインガルド?」


「あ、王都はですね…」


この世界の事をまだ知らない俺に、ジャスミンは王都の事を教えくれる。記憶喪失設定だからね、仕方ないよね。

聞いた話では、王都とはアースガンド大陸の中央部に位置する巨大な王国で、アースガンド大陸は今俺達が居る大陸の名前らしく、1番大きな大陸でもあるらしい。


「ジャスミンは王都で何をしに?」


たしかジャスミンはメリルのヴァーダを襲名すると言っていたはずだ。


「今回の護衛中に…改めて力不足と感じてしまって……王都の魔術協会に入会しようかと……」


「へぇ、魔術協会!なんか凄そう」


「そこで…改めて魔術を学んで……もっと…強くなりたいです…」


「そっか…応援するよ」


「あ、あり…ありがとうございますっ」


魔術協会か、たしかジャスミンの村から指導者が派遣されているとか何とかゲルムさんが言ってたよな。同郷のよしみがあるかは分からないけど、きっとジャスミンなら良い方向に転がるはずだ。

会話が途切れ、気まずくなってきたので俺は話題を探す。何か話せる事は……。あ、昼間の事を話そう。


「ねぇ、昼間の…ゲールの事なんだけど…」


「は、はい…?」


「いやさ…ジャスミンは、ゲール達が西の大陸に行って更生すると思う?」


「あ……えっ…と…うーん…」


ジャスミンは煮え切らない様子だ、無理もない。奴らは野盗で、全てを奪い、命までも刈り取る悪党だ。あれくらいで更生するかと聞かれれば、するとは言い難い。


「ジャスミンは、あの時の俺の行動は……良かったと思った?」


「………」


返事は無い。たしかに、これは正解とかがあるような話ではない。個人の価値観によるモノだし、多くの人々を救う為に人を殺せって言われて、はいって簡単に頷ける話でもない。

恥ずかしい話だが、俺はああいう展開を漫画で見た事があるからこそ、あの方法を思い付けた。正解かどうかはわからないが、少なくとも俺の中で一番納得の行く方法だった。


「私は……男さんが剣を抜いた時…本当に怖かったです。後からすれば、考えがあっての事なんですけど……あの時の男さんの顔が…」


ジャスミンはそこで黙ってしまう。そんなに怖い顔していたのか俺は…逆に気になるな。


「男さんの行動の…善し悪しは……私にはわかりません。でも…あの選択は……とても良かったと…私は思います」


「お…そ、そっか…ありがとう」


誰かに自分の行動を肯定してもらうだけで、こんなにも胸のモヤが取れるのか。俺を気遣ってかは置いといて、そう言ってくれるのは嬉しい。

俺は壁の時計を見る。もうそろそろ張ってても良い時間だな。数字と思われる記号は分からなくとも、記号の位置や針の動きは同じなので問題は無い。


「えーっと……じゃあそろそろ、お風呂に…」


「……!は、はははいっ!」


俺は脱衣所で服を脱ぎ、中へと入る。風呂場によくあるバスチェアに腰掛け、浴槽から湯を汲み身体や頭にぶっかけてジャスミンを待つ。
や、やべぇ…超緊張してきた……浴室に男女が2人、ToL〇VEるが起こらないはずもなく…。


「む……!」


アホな事を言っていたら脱衣所から音がした。ジャスミンが脱ぎ始めたのか……振り向きたいが、振り向いたら終わりな気がする。くそ…落ち着け、クールになれ、平静を保て。


「お、おじゃ………うぅ~……お、お邪魔します…」


ぎゃあああ来てしまったあああ!!どんな格好してるの!?ねぇねぇねぇ!!


「うんうんうんうん…い、いいいらっしゃい」


駄目だ!緊張し過ぎて震えが止まらん!平静なんぞ装えるか!振り向いていいのか!?良いよね!?


「う、後ろ……見ちゃ、駄目…ですよ」


「は、はいっ!」


ああああああああああああああああ!!!でも可愛いからもう何でもいいやあああああああああ!!!


「それじゃ……や、やりますね…」


「どうぞ!?」


上ずった声を出してしまった、恥ずかし!そうするとすぐに、背中に浴室にある付属品のボディブラシが当たる。


「痛かったら……言ってくださいね」


「お願いします!!」


ブラシが擦られ始めた。普通に気持ちいい、人にやってもらうのと自分でやるので、ここまで差がある物なのか。背中を流すって考えた奴天才かよ。



ゴシゴシと、ジャスミンは丁寧に洗ってくれる。いやぁ~最高の気分ですなぁ!たまに肌に当たるジャスミンの手や指先に反応しては、邪な考えがギュンギュンとフル稼働する。

悶々としているとブラシが背中から離れ、丁度いい温度の湯が泡を流していく。ああ……これで終わってしまうのか…悲しいなあ。


「終わり…ました」


「う、うん!ありがとう!」


「じゃ、じゃあ私は…これで…」









自由安価
行動、起きた事柄、会話……etc


安価下

滑ってジャスミンを押し倒してしまう


ジャスミンが立ち上がり、脱衣所への扉を開ける音がした。


「きゃっ!」


ジャスミンが変な声を上げる。なんだ!不審者か!?俺は振り向いてはいけない掟を破り、振り向きざまに立ち上がる。ジャスミンはバスタオル1枚の姿だった。ただ残念なのはそこで俺の足が滑ってしまった事だ。


「おわっ!?」


「えっ……きゃぁ!」


何とか体勢を整えようとするが……駄目!滑った勢いのままジャスミンを押し倒してしまう。


「いてて…………ん?」


何だ?この柔らかい物は。顔に伝わる心地良い感触は。


「あ……ああ…」


「んはっ!?」


ジャスミンの震えた声で我に返り、すぐに顔を上げる。ジャスミンは前髪を上げていて、今は顔全体がわかる。超真っ赤な顔してる、可愛いけどこれはまずい。

おいおいマジかよ、リト君かよ。俺は顔を上げる際に手を突くが、突いた場所がまた最悪だった。かぁ~っ!これはァー!
バスタオルが肌けるアクシデントは回避したものの、この手に伝わる感触は……。


「うっ……うぅ…」


「ご、ごめん!!ジャスミン!わざとじゃないんだ!」


ジャスミンは限界なのか、両手で顔を隠して震えている。俺は飛び退いて、すぐに目を逸らす。本当にToL〇VEるしちゃったよ、何だよマジかよありがとう。


「ご、ごめんね……大丈夫…?ジャスミン?」


振り返らずに聞く。事故とはいえやってしまったのは事実。


「ごめん…なさい……ごめん…なさい……」


「いや!謝るのは俺の方だし!ジャスミンは悪く……ないよ」


俺は違和感に最後、言葉が濁る。ジャスミンは俺が喋っている最中でもずっと謝っていた。これは俺に言っているものでは無い…?
過去に何かあったと推測するのは容易だった。でも、それは触れちゃいけない物なんだろう。

俺は立ち上がり、ジャスミンを見る。まだ、手で顔を隠したまま謝っている。あまりの異様な光景に、今までの取り乱しが嘘のように、俺は落ち着き払っていた。

本来ならこの姿を見るだけでも大分興奮していたんだろうな、とか思いながらジャスミンをベットへと運ぶ。今日は色々ありすぎた、もう寝よう。ベットに寝かせると、服に着替えてジャスミンの部屋に行って寝た。





翌朝、ジャスミンは昨日の出来事は覚えてないらしい。俺とぶつかって気を失ったと思っているようだ。めちゃくちゃ頭を下げられたが、俺はアレに触れる事は無くジャスミンを宥め続けた。

とりあえず俺達は朝食を済ますべく、まずは王宮に居るであろうクレアからリュックを返してもらわなくては。ついでに依頼の成否も気になるしな。外へ出ると、昨日の夜とは打って変わってどうやら朝は人が少ないみたいだ。


「これくらいなら大丈夫?」


「が、頑張ります…!」


意気込むジャスミンを微笑ましく思い、王宮を目指す。



~王宮 正門


「ご要件は?」


「多分ここにクレア様が来ていると思うんですけど…居ますか?メリルからここまで護衛した者なんですが」


「少しお待ちください」


門番の兵士は、もう1人の兵士に耳打ちすると門の奥へと走っていく。にしてもでっけぇ城だなぁ…クレアはここに何しに来たんだろう。


しばらく待っていると、先程の兵士が戻ってきた。


「お待たせしました。御案内します」


そう言うと中へと歩き出したので、俺達は後を追う。


「やっぱりここに居たね」


「そう、ですね…」


こそこそ話していたら兵士が立ち止まり、俺達に向かって敬礼する。正門から王宮までは距離があり、敷地内には色々と家らしきものが大小と点々と存在している。俺達はそのうちの一つの前で止められたという事は、ここにクレアが居るのだろう。


「クレア様は此方においでになります。それでは、失礼します」


「ありがとうございます」


俺は兵士に頭を下げると、ジャスミンも続いた。兵士が遠くなっていき、俺達は段差を上がって扉をノックする。


「入りなさい」


この声は間違いない、クレアだ。こちとら苦労したってのに…まぁ言ってても仕方ないな。許可が出たので扉を開けると、そこには執事のゲルムが深々と頭を下げて待っていた。クレアは奥の窓近くのテーブルに腰掛け、ティーカップを口に運びながら俺達を見ている。


「男さん、ジャスミンさん…先日の非道なる判断……大変申し訳ありませんでした」


「い、いやいや!頭を上げてくださいよ…別にあれは仕方ない事ですし」


「は、はい……私が不甲斐ないばかりに……ごめんなさい…」

依頼人から離れたから怒られるかと思ってたわ


俺達を含め、お爺さんからすればクレアの身の安全が第一だ。飛び降りたのは俺の勝手な判断だしな。仮に止まっていたとしても、あのゲールが相手だ、クレア達が居たらただでは済まなかっただろう。


「なんと寛容な…改めて心から感謝致します」


「全く…馬車から落ちたり勝手に助けに行ったり……護衛としてどうなのかしらね」


「あぅ……」


ぐうの音も出ない。確かに頼りないうえに勝手過ぎた、怒られても仕方ない。こっちの苦労も知らないで、と思うのはお門違いだ。


「安心して下さい。お嬢様はああ見えてちゃんと心配なさっていたんですよ。昨日も──」


「ちょっと!余計な事は言わなくて良いのよ!」


お爺さんは笑って、ベットの脇に移動すると俺の荷物を持ってきてくれた。


「どうぞ、男さん」


「あ、ありがとうございます」


「報酬の方も、ギルドに話せば受け取れます。この度は誠にありがとうございました」


お爺さんはまた、深々とお辞儀をする。良かった、ちゃんと報酬も貰えるのか。


「感謝しなさい。ほんとはあげなくても良いんだから」


「はい、ありがとうございます」


俺達はクレア達の元を後にして、とりあえずはギルドへと向かう事にした。道中、俺は気になる事があり、ジャスミンに聞いてみた。


「クレアはさ……俺達を心配してたって言うけど、何か引っかかるんだよね」


「…?…どういう事ですか?」


「ジャスミンが馬車から落ちた時……クレアはそれを気にする素振りもなかったんだよ。落ちる時に一瞬見えただけだけど…興味がないというか…そんな感じの顔」


俺の気のせいかもしれないし、考え過ぎかもしれない。ジャスミンは考え込んでいるのか、黙ってしまう。


「まぁ……考えても仕方ないよね。ごめんごめん、忘れて」


「あ、はい……」


話しているうちにギルドへ着き、俺達は受付嬢から報酬を受け取る。中々の額で、財布袋が潤う。とりあえずは朝食を食べようと、食事の出来るお店に入る。

見た目は普通の一軒家みたいだが、使ってる素材が鉄?みたいなもので、見た感じではとてもお店には見えなかった。中は小綺麗で、洋風テイストな良い雰囲気の店内。案の定文字は読めないのでジャスミンにあれこれ聞いて注文する。


「じゃ、依頼達成を祝して…かんぱーい」


「か、かんぱい…」


俺達はジュースで達成祝いをする。流石にこんな時間から酒を飲むのは、異世界とはいえ気が引ける。


「ジャスミンはこの後…王都に?」


「そう…ですね。準備したらすぐにでも……」


「そっかそっか…」


俺はどうしようか。今更だが、生きる、という事以外に明確な目的がない。強いて言うならば……この力の事を調べるとか?ん~…とは言っても手掛かりがなぁ~…あ、ゲルムさんがこの力の事知ってたか。

まぁ急ぎ過ぎって訳でもないし、未知の事が多すぎるこの世界では、当面は依頼でもいいかもしれない。



「お、男さんは……これからは…?」


「うーん…」








次の目的
安価下

昨日宿屋の代金を立て替えてもらったことを思い出して、その代金を返すとともに、せっかくだしジャスミンに何かしてほしいことがないか聞いてみる


「あ、そうだった」


「…?」


俺は袋から宿屋を立て替えてもらった分を少し色を付けて、銅貨をジャスミンの前に置く。


「宿代…まだだったよね、ありがとう」


「え……でも…多くないですか…?」


「そう?まぁ取っといてよ。ほら、ジャスミン居なかったらお店で注文出来なかったしね」


「で、でも…」


しばらくこんなやり取りが続いて、料理が運ばれてくる。俺は銅貨が邪魔でしょ、と促して何とか受け取ってもらえた。


「お待たせしました。ワイルドボアの燻製塩焼きセット、お二つになります」


目の前に置かれたのは、俺の世界で言う所のベーコンだ。パンが1枚と目玉焼きにミニサラダ。リネル村でも同様のを食べたし、料理というのは異世界でも、あまり変わらないのかな?

使う素材は作品によって様々だが、味の問題はない。たまに稀ではあるが、異世界の食事に舌が合わないという作品もある。なんなら言語すら通じないやつも。俺はそのタイプではないから何とかなってるとはいえ、想像したら大変そうだ。


「いただきまーす」


「い、いただきます…」


食事は始めながら、俺は先程の問の答えを考えるが思い付かない。気になる事はあれど、やりたい事は無いのだ。
ふと、もぐもぐと食べるジャスミンを見る。


「ねぇ、ジャスミン」


「んっ……ん…は、はい?」


「何かしてほしい事とか……ない?」


「え……え?」


考えも無しに言ってしまった。流石にこれは唐突過ぎたか。


「あ、いやさ…さっきの続きなんだけど、このあと特にやる事も決めてなくて……ジャスミンから何か無いかなー…なんて」


「あ…な、なるほど…」


ジャスミンは手を止めて考えてくれる。言っといて何だが無茶振りだったな。


「じゃあ……その…クレア様の様子を伺ってくれますか…?」


「えっ…クレアの?」


予想外の内容だった。


「え…ど、どうして…?」


「その……クレア様の様子…変なの……気付いてましたよね…?」


「まぁうん…」


国境や野盗に襲われた時のクレアを思い出す。たしかに普通ではないと思ったけど…。


「えと…私がクレア様の様子を見ても良いんですけど……やっぱり私には…そんな時間が……」


「これは、もしかしたら私の気のせい……かも…しれないんですけど…ちょっと心配で…」


なるほど。ジャスミン自身も気にはなっているが、目的と天秤に掛けた時に目的が優先されたんだな。
確かに暫くは滞在出来る資金もあるし、かと言ってやることも無い。クレア達なら顔も知れて居るし、様子を見るのも良いかもしれない。


「ど…どうですか……?」










ジャスミンの頼みを受ける、受けない
安価下



安価下で受けない場合、別のやりたい事
安価下2

うけない

しばらくこの町を拠点に依頼をこなす


問題のない頼みとはいえ、俺自身はクレアが苦手だ。出来ればあまり関わりたく無いのが本音である。ここはジャスミンから受けるという体裁を保ったまま、俺は別の事をしよう。
特に帰る場所がある訳でもないし、拠点はノース帝国で大丈夫だろう。


「わかった。任せといて」


「あ、ありがとうございますっ」


心は痛むが、承諾したフリをする。いくら可愛い可愛いジャスミンの頼みとはいえ、嫌なものは嫌だ。
俺達は食事を終えると、広場らしき所で別れる事にした。


「男さん…短い間でしたが……ありがとうございました」


「俺の方こそ。ジャスミンと会えて良かったよ」


「私もです……またいつか…会えたら良いですね」


「そうだね。会えるのを楽しみにしてるよ」


「はいっ!……それでは…失礼します。後はお願いしますね……」


「任せといて。またね、ジャスミン」


俺は手を振ってジャスミンを見送ると、ぶらりと街中を歩く。さぁさぁ、本来の主旨に戻るとするか。元々俺は生きる為に、経験を積む意味で依頼を受けたんだしな。

金はたんまりある。店を回ってみるのも良いが、ギルドへ行って早速依頼を受けてもいい。闘技場の見学も面白そうだな。





行動安価
安価下

占い屋に行ってみる

とりあえず装備新調するべ

ジャスミンとお別れか
最後くらい彼女の依頼を受けたかった

うーん相変わらずのフラグへし折りっぷり

安価取れない奴が悪い

常に張り付いてる暇人ニートには言われたくない

嫌がらせ安価しか思い浮かばない奴ってどれだけ精神が腐りきってるんだろうか

ここまでに結構専用単語出して来たんですけど、単語のまとめって要ります?

できればまとめ欲しいです

要る


●用語まとめ


~大陸

ガーランド大陸…中央大陸、1番大きい
北の大陸
西の大陸


~国・地域

メリル…ガーランド大陸南東部に位置する国
メリルの町…メリル領土内中心部に位置する町
リネル村…メリル領土内南東に位置する村
ダーウィン…ガーランド大陸南西部に位置する国
ノース帝国…ダーウィン領土内南西に位置する独立国
王都セインガルド…ガーランド大陸の中心部に位置する王国
ガーランド王国…北の大陸の最北端にある王国
ベルベット村…未開拓地域にあるとされる村
メルヴィス湖…メリルとノース帝国の間にある大湖


~能力・精霊物・その他

レヴァンテイン…男が精霊『レヴァンテイン』から授かった力。右脚右手の筋力強化、右目の視力向上。魔眼の目、漆黒の篭手。

精装束…精霊の純魔力を有した『魔獣』から作られる服。魔縫士に頼まないと作れない。現在確認済『聖光』『雷雨』『烈風』

神代(ヴァーダ)…国に仕える戦士。個人で『魔獣』を倒せる程の力を所有する。

魔縫士…魔力を縫う事が出来る魔法使い

ヒトツキの夜…満月が一つになる日。セイレーンの歌が聴けるとか。


~主要人物

うさ耳女…転生直後お世話になった女
ジャスミン・リ・ラスティア…ベルベット村出身の魔法使い
マリア…リネル村にて救出した少女
リネル村のお爺さん…救出依頼を出した人
クレア・グランフォード・メリル…メリル領主の娘
ゲルム…クレアの執事
アレス…メリル領主に仕えるヴァーダ
エルサム・ダーウィン…ダーウィンの領主
ゲール(ダンテ)…ダーウィン領に居た野盗、改名して西の大陸へ逃がす



大体書いたと思うけど抜けてたら教えて下さい

地図とかって作ってたりします?
あれば見たいです

即興で書きました。領地とか適当過ぎたので、あくまで参考程度に。下手過ぎわろた。
https://imgur.com/gallery/ChHYkNN


そうだ、占い屋ってのがあったよな。異世界の占い…気になるな。俺は占い屋を思い出しながら街を練り歩く。
たしかわかりやすい目印が…ってあったわ。怪しげな建物に水晶玉が入口に沢山飾ってあり、如何にもって感じの雰囲気だ。


「すみませーん、やってますかー?」


「あら…いらっしゃい…」


中で出迎えてくれたのは、魔女みたいな格好のお婆さん。中は暗く、お婆さんの目の前には大きな水晶玉が置いてある。


「お座り下さい…」


「あ、はい」


俺は床に置いてあるカーペットに腰を下ろす。


「それで……本日は何を占うのですか…?」


「そうですね……」






安価下

位置関係がしっかりわかるので十分です。ありがとうございます

この先の吉兆

日本語間違えてるぅ

吉兆じゃなくて吉凶

いや、吉兆でいいのか?わからん
すみません安価下でお願いします


「じゃあ…この先、俺に吉兆はありますか?」


「わかりました。それでは…見てみましょう…」


お婆さんはゆらゆらと、手を水晶玉の回りで動かしている。ああ、何かそれっぽい動きだなぁ。


「……おや?」


「何か見えました?」


「……ふむ」


お婆さんは手を止めると、俺を疑うかの様な目で睨んでくる。凄みがあるというか、少しゾッとする。


「貴方は……人、なのですか?いえ…存在しているのですか?」


「え…?」


お婆さんの言っている意味がわからない、そんなのは見ればわかるだろうに。いや待てよ…転生の事が関係してる?でも……どういう意味かわからんな。


「貴方は……誰ですか?」


「俺は……男って言うんですけど…」


「……ふむ」


その時、嫌な音がした。何かにヒビが入る音。この場にある物でヒビが入るなど、目の前の水晶玉以外にない。


「……これは…」


水晶玉にヒビが入ってもお婆さんは動じない。何処か分かっていたかのような雰囲気で、悲しげに水晶玉を見ている。


「申し訳ありません…私には貴方を占う事が出来ません……」


「そ、そうですか……」


吉兆を聞いた矢先にこんな出来事とか…どうなっちまうんだよ俺。一応銀貨を1枚置いて俺は占い屋を出る。あまり気分は良くないが、何となくこの世界の占いは当たりそうな気がする。
あーやだやだ、気分転換に別の事をしようそうしよう。







行動安価
安価下

なんかそれっぽくなったからセフセフ!
安価下

ギルドで仕事を探す

>>174

すまん、ありがとう
移動時間から考えてアースガンド大陸ってあまり大きくなさそうですが、さっきの地図って世界地図ですか?
それとも五大陸の人類が行ける範囲の地図って感じですか?

安価は下

移動距離は書いてて思いましたね、見切り発車が仇になった。地図はまた描き直しするかも、描けなかったら想像で補完にしてもらおうかな。
地図自体は異海の先がある設定ですね、設定だけは無駄に抱えてます。


気持ちの切り替えなら、ギルドで依頼が良いな。依頼内容に集中すればさっきの出来事も忘れられるだろう。
俺はギルドまで行くと、戸を開けて壁に貼られた依頼書を見る。

やるならやっぱり戦闘か?それとも安全に採取か?壁に貼られている依頼を分けると……




大型モンスター討伐(3~5人)、洞窟探索(3人) 、魔物討伐(1人)
、採取(1人)










(魔物名)討伐
(収集物)採取
(洞窟名)探索



安価下

薬草採取


ゲールとの戦闘は激戦だったからな、ここで軽い依頼をやるのも良いだろう。俺は駆け出し冒険者がやる様な薬草採取の依頼書を摂取る。受付嬢に持っていき、採取依頼中のバッチを貰って外へと出た。

とある漫画では木の精霊に生やしてもらったり、何十日分の薬草を持ってきたりとあるが、俺の異世界転生はそうはいかない。地道に、適量を集めるのだ。依頼内容も小袋が詰まるくらいと書いてある、漫画のような事はしないし起こらない……起こっても良いけど。

目的地はノース帝国を出て北東の森だ。サンプルも貰っているので多分間違えたりはしないだろう。諸々の準備確認も簡単終わり、ノース帝国の北門に向かおうとした時──。


「うおおおおぉ!アレス様だああああ!!」


「アレス様あああああああ!」


俺達が最初に来た東門の方からいくつもの声が響く。俺は叫ばれる名前に聞き覚えがあった。アレス様ってあのアレス?クレアの?何でここに?

まぁ……うーん…色々と気にはなるが、俺には関係ない事だよな。薬草取りに行くぞ薬草。小袋を握りしめ、北門へと向かう。



~北東の森


森についてから数時間、依頼は順調だ。サクサク取れる訳でもないが、たまにはこういうのも良いなとしみじみ思う。薬草を取るだけで金が貰えるのだ、元の世界に比べたら採取も楽しく感じる。

あと1.2時間くらい集めれば一杯になりそうな小袋、森に入ればモンスターとの遭遇も考えられたが、平和そのもの。気軽に薬草集めが出来るってもんだ。


「よいしょ…………お?」


薬草を抜き取った時、奥の方に足跡が見えた。興味本位でまじまじと見ると、魔物と人間の足跡が左へ続いていた。
誰かここで魔物とやり合っているのか。俺は一切遭遇しなかったというのに運の悪い奴だ。


『オオオオオォォォッ!!!』


「な、なんだ!?」


突然、耳を塞いでしまいたくなる程の雄叫びが鼓膜を刺激する。今のは一体…?この先に居る魔物によるものか?









行く、行かない
安価下

行く


どれくらい先から聞こえたかはわからないが、近くに居るはずの人間はただでは済まないぞ。俺は小袋をリュックに入れ、駆け足で足跡を辿っていった。






お、開けた空間が見えるぞ。物音も聞こえてきた、どうやら無事のようだ。俺は近くまで来ると茂みに隠れて覗き見る。

広間にはハイゴブリンとは種族の違うガタイの良い、角が生えた人型の魔物。手には鉈を持ち、あの筋肉質な腕で鉈を振られたら一溜りもないな。

対峙するのは──








安価下 性別
安価下2 容姿、服装、名前、得物、性格…etc (1つでも可)

栗色のショートヘアで小柄な体格の少年
服装は動きやすい軽装
名前エメク
獲物短刀
性格は寡黙で必要最小限のことしか喋らない


あれは…少年か?栗色の短い髪、小柄な身体には短刀を持っている。パッと見た感じや軽装な格好から、シーフを思わせる。だが、魔物を捉える目付きが子供のそれではない。怯えた様子は一切無く、相手の出方を窺っているのが分かる。

あんな少年も冒険者なのか?苦戦しているようだし、加勢しなきゃ…!俺は茂みを飛び出し、剣を抜く。


「おいこら!俺が相手だ!」


大声で挑発すると、魔物は俺の方へ顔だけ向ける。少年も一瞬驚くが、すぐに魔物に視線が戻る。


「どうした!かかってこいよ!」


手を大きく使ってこっちに来いとひたすら挑発すると、魔物は俺に身体を向け、歯ぎしりをした口からは涎が垂れている。こっっわ、何こいつ。

俺はレヴァンテインの力を発現させる。準備は出来た、どこからでもかかってこいや。


「グルルルル…!」


魔物が俺に向かって歩きだそうとした時、少年が斬りかかる。その動きは速く、思わず口から言葉が漏れた。
魔物の身体を刻むが、短刀では致命傷となる程の攻撃は難しい様だ。魔物が鉈を振り、少年は簡単に交わすと凄い速度で俺の傍にやって来る。


「……耳」


「え?」


少年から出た言葉に一瞬困惑するが、魔物を見て理解する。魔物が息を大きく吸う動作をしていたのだ。直後、恐ろしい声量の叫び声と声の圧力というのか、身体が少しぐらっと後ろに下がる。

耳塞いでもこれって……塞いでなかったらマジでやばいやつじゃん。
その際少年は耳を塞いでおらず、俺は疑問符が見えるくらいに意味が分からなかった。鼓膜破れてんのかな?


雄叫びが終わると少年は電光石火の如く飛び出し、また魔物を翻弄する。苦戦している様に見えたけど、じわじわと倒しているのか。自分の体躯や得物を理解しての戦い方というのか、俺は少年に関心した。


「負けてらんないな…」


俺も距離を詰め、少し離れた所で剣を構える。真空刃を繰り出すと少年に当たる恐れがあるが、俺は何処か平気だろうという確信を持っていた。


「当たるなよ!少年!」


俺は袈裟斬りに剣を振る。少年は俺の声に反応したのか、すぐに距離を空けて退避する。数秒後、魔物の身体が斜めに血飛沫を上げる。


「ガアアアアッ!!!」


当たったが、ハイゴブリンの様には行かない。ダメージを与えたのは間違いないが、まだまだ動けるといった感じだ。真空刃がダメなら……。

強化した右脚で思い切り地を蹴ると、滑走するように一気に距離を詰める。それに合わせて魔物が鉈を振り下ろすが、右目と右腕の強化を使っているので受け止められるが、気を抜いたら押し込まれるな。


「少年!やっち…おお?」


鍔迫り合いの隙にトドメを少年に託そうとしたら、既に何かの構えを取っている。少年の足元には電気が走っていて、逆手に持った短刀は電気を帯びている。

瞬間、少年が電気音と共に疾走。目の強化のおかげで動きが見えるが、これはゲールの魔走に引けを取らない速さだ。
刃身を肩から腰にかけて短刀を振り抜き、地を削りながら勢いを殺している。
するとすぐに鉈を押し込んでくる力が弱くなり、魔物はその場に崩れ落ちた。


「すげぇ…」


思わず声が漏れた。俺は剣を鞘に戻し、少年へと歩み寄る。既に電気は帯びておらず、短刀から魔物の血を払って別のナイフを取り出していた。


「凄いね、少年」


俺は手を差し出し、握手を求める。


「…………」


少年は喋らないが、握手はしてくれた。さっきもそうだけど…あんまり喋らない子なのかな。握手を終えると少年は魔物に近付き、剥ぎ取りを始める。討伐依頼はやったことはないが、何かを持ち帰らないといけないみたいだな。


「…この魔物、なんて奴か知ってる?」


「………オーガ」


少年は角をナイフで削りながら答えてくれた。なるほど、こいつはオーガだったのか。そういえばオークやらオーガやら居るが、何で区別するかとか知らないな。


「オーガか、強かったね」


「……別に。1人でも勝てた」


角が切れたのか、立ち上がって角を袋にしまう。共闘した仲なのにそんな言い方する?まぁ勝手に手伝っただけだし、別にお礼を求めてた訳じゃないけどさ。


「あ、はは…そっかそっか」


「……」


少年はナイフをしまい、俺を一瞥した後にノースで待ってる、と一言だけ告げてその場を去る。俺も少年が見えなくなると、もうすぐで一杯になる小袋を取り出して薬草を探し始めた。

そういえば名前とか聞いてなかったな。ノース帝国で待ってるらしいし、改めて聞こう。



~ノース帝国 冒険者ギルド


薬草取り終えた俺はギルドの戸を開けて中に入り、受付嬢に小袋を渡して報酬を受け取る。時間と労力の割には少額だが、まぁ採取だしなと納得する。

ここのギルドの中は簡易的な酒場になっており、置かれたテーブルで酒を飲む輩が数十人程居る。 そのガヤガヤとうるさい中、隅っこに座る少年が居た。


少年は待ってると言っていたし、俺は少年の隣が空いていたのでそこに座る事にした。人混みを抜けて少年の肩を軽く叩き隣に座る。


「来たよ。それで、待ってるって言ってたけど」


「……これ」


少年は俺の前に金貨1枚と銀銅貨を数枚置いた。


「え……何これ?」


突然差し出された貨幣に俺は困惑する。


「…………報酬」


「報酬…?…………ああ!」


なるほど、オーガを倒すのを手伝ったからか。おいおい何だよ、無愛想な子だと思ったけどしっかりしてんな。でも、これは受け取れないな。俺は貨幣を手の平でスライドさせて少年に押し戻す。


「俺が勝手に手伝っただけだから、これは貰えない」


「…………」


「それに報酬なら、別の物が良いな」


「…………?」


「少年の名前、教えてよ」


何かカッコイイ事言ったんじゃねなんて思っていたら、少年は怪訝そうな顔で見てきた。悲しいなぁ。


「…………エメク」


「お、ありがとう…エメクか。俺は男、宜しくな」


俺はふたたび握手を求めるが、今度は手に取ってはくれなかった。渋々手を引っ込め、俺も近くの給仕に声を掛けてエールを注文する際に少年のドリンクも頼もうとしたが既に何か飲んでいた。


「お待たせしました~」


俺のエールが届いた。せっかくだしエメクと乾杯をしよう。俺は樽ジョッキを持ち、俺達の間くらいに掲げる。


「エメク、乾杯しようぜ」


「…………」


また無視されると思ったが、エメクはグラスを持って乾杯してくれた。エメクはいくつくらい何だろう、子供にしては落ち着いているし大人びた雰囲気もある。まぁ冒険者やるくらいだし、この歳の子はそういうもんなのかな。
横目に見ていたら、ドリンクを飲むエメクの顔が歪む。


「ん?……お前それ…もしかして酒か?」


「…………そうだけど」


何ぃ?異世界とはいえ子供が酒を飲むのはいかんのではないか?ギルドの奴等は何故出した?


「まだエメクには酒は早いんじゃないか?」


「…………別に」


「ほら、駄目だって」


俺はエメクからグラスを取り上げ、自分の元に持ってくる。いつから飲んでいるかは知らないが嵩が全然減っていない。


「…………」


「そう睨むな、ジュース頼んでやるから」


通りかかった給仕に甘いジュースと、ついでに適当なツマミを注文する。


「飲めないのに…どうして酒なんか頼んだんだ?」


「…………」


エメクは肘を突き、手に顎を乗せてそっぽを向いてしまう。


「……別にいいでしょ」


「良くない、子供が飲むと身体に悪いんだぞ」


「…………」


エメクは流し目で俺を見る。


「…………子供扱いしないでくれるかな」


「だって子供じゃん」


「…………ちっ」


再びエメクはそっぽを向いてしまう。正論を言ったら怒ってしまったぞ。そうこうしているうちにジュースが届き、俺はエメクの前にジュースを置いてあげた。


「ほら、来たぞ」


「…………」


エメクは無言で受け取り、グイグイと飲み始める。このお年頃は扱いが難しい、子を持つ世間のお父さんも悩んでるのかな。
このままではアレなので、何か世間話でも振ってみよう。










話題安価
安価下

無口な年下と何を話せばいいんだ…

とりあえず先程の戦闘について
最後のあれは魔走ってやつ?みたいな

オーガと戦いで出した電気を使った戦い方について

エメクの一人称僕か俺で悩む、どっちがいいかな

子供に見られたくないようなので俺かなあ

普段は俺、ふと素が出ると僕、とか?

個人的には僕だけど、成人みたいだし俺のほうが合ってるのかな

僕に一票


とはいえ…こんな無口でかつ歳も一回りは違いそうな子に振る話題ってなんだ?…駄目だ、思い付かねぇ。
俺は唸っていると、テーブルに置かれたエメクの得物、短刀が目に留まる。そういや…あの技の事とか聞いてみるか。


「なぁなぁ、オーガの時に使ったあの技ってさ、魔走とは違うのか?」


「…………」


ダメか、怒ってるからか答えてくれなさそうだ。


「…………迅雷」


「え?」


「迅雷…………俺の技」


「へぇ…迅雷…」


あの速度から連想されるのは疾風迅雷。なるほど、見た目も名前もピッタリだな。


「……男こそ、その馬鹿力は何なの。オーガの一撃ってかなり重いんだけど」


「こら。歳上なんだから、さん付けしなさい」


「だから…………はぁ、もういい」


異世界に来て数日では元の世界の感じは抜けない、多分言葉使いなんて冒険者の間では気にしないのだろう。つい諭してしまったから、また拗ねてしまった。冒険者の子供は対等に扱わないと駄目な感じかな。


「あ、悪い悪い。さっきの質問だけど、俺はこう見えて強いからな」


俺はここぞとばかりに胸を張って言う。


「…………全然そんな風には見えないけどね」


「でも、俺の真空刃見ただろ?」


「…………」


返事は無い。やはりエメクと話すのは難しいなと痛感する。


「お待たせしました~」


「お」


頼んだツマミが来た。これは何だろう…見た目は長芋の醤油漬けっぽいが。


「ほら、エメクも食えよ」


「…………」


返事はなくとも、視線がツマミを向いている。


「遠慮しなくて良いぞ…………ん!美味いぞこれ!」


「…ふーん」


興味ありませんけど、みたいな態度をしていてもツマミに手が伸びている。難しいお年頃だしな、素直になれないのだろう。いや、俺が怒らせたからか。もしかしてウザ絡みしてくるオヤジみたいな感じなってる?俺。


「…………」


無言で食べるエメクだが、思いの外美味しかったのか手が止まらずに食べ終わっては次を取っている。


「エメクは明日────」


「ビックニュースだああああああ!!」


突然入口から大声が聞こえた。


「な、なんだ?」


声の出処に目をやると、冒険者と思われる男が勢いよく入ってテーブル側に近付いてくる。周囲に居た冒険者も皆視線を入ってきた男に集めた。
一体何事だ?只事ではない雰囲気だが。受付嬢が入ってきた男に近付いて事情を聴き始めた。


「何ですか突然…どうしたんですか?」


「ああ!前らに良い知らせを持ってきたぜ!隣国のメリルとノース帝国が!戦争するってよ!」


「え…?それは本当ですか?」


は?今なんと?聞き間違いか?


「本当だよ!メリルとノースが戦争するんだって!おめぇら!稼ぎ時だぜ!!」


戦争だと…?クレアは一体何しにここへ来たんだ。それにアレスも此処に来ていた筈だ、一体何が起きている?


「…………戦争だってさ」


後ろからエメクの声がした。戦争に巻き込まれるなんて冗談ではない、でもな…。


「稼ぎ時ってのはどういう事だ?」


入ってきた男はガヤガヤ騒いでいるが、俺は座り直してエメクに聞いてみる。


「…………わかるでしょ、国が冒険者を金で徴兵して使うんだよ。勝っても負けても金は払われるし、冒険者には美味しい話だよ」


「なるほど……」


だが、命の危険も伴う。冒険者は命知らずみたいなのが多そうだが、そんなに喜ぶべき事かは悩み所だな。


「…………やるの?」


「いや、今ちょっと整理中……」


何故戦争が起きた?クレアの様子を見ておかなかったのが仇になったか…いや、どっちにしろ起きていたのか?今更考えても、後悔してもしょうがない。


「お前ら参加しとけよ!なんせノース帝国には二等級様が居るんだからよ!」


俺は聞き慣れない単語に反応した、二等級とは何だ?


「なぁエメク…二等級ってなんだ?」


「……知らないの?」


「あ、ああ……俺って辺境に居たから世間に疎くてさ…」


すっかり自分の設定を忘れていた。だが、エメクの反応的に常識的な物らしいな。


「…………へぇ、まぁいいけどさ。等級ってのは王都が定めたヴァーダのランク付けだよ」


「ランク付けか……ちなみにメリルのアレスの等級って知ってるか?」


「三等だよ………でも定めたのは結構前だし、今はわかんないよ」


「そうか……」


ヴァーダにも格付けがあるのか。ノース帝国のヴァーダが二等級だとしたらアレスでは対抗が難しいな。というか、そもそも戦争の原因は何なんだ?


「……で、男はやるの?」


「…………」


無関係とはいえ、見知った者が戦争の核に居るのは何とも気持ちの悪い感覚だ。選択肢は沢山ある…俺は…












自由安価
安価下

積極的な参加はしないが、情報を手に入れるために渦中に入る

会えるならクレアに会う

すまん連取りだ

じゃあ221で行きますね


原因が気になる。本当に今更だがクレアの様子を見に行こう。まだあそこに居てくれれば良いが。


「…俺は人に会ってくる。エメクはどうする?」


「…………早く行けば」


「……ああ。またなエメク」


俺はギルドを飛び出し、王宮へと急いだ。





俺は遠目に見える王宮を見て目を疑う。明らかに何かに破壊されたとわかる程に、一部が崩壊していた。今の状況からして、クレアを連れてアレスが暴れたのか?王宮には居ない可能性が出てきた……でも、とりあえずは行かなければ。

そこの角を曲がれば王宮までは直進だ…!結構な速さで走る俺は、角から来る人影に衝突してしまう。






衝突した人物
安価下
性別

安価下2(名前がある場合フルネーム)
容姿、服装、名前、得物……etc. 設定以外は何でもOK(1つだけでも可)

性別不明

黒マントで全身を覆い、真っ白の仮面を被っている

容姿:黒髪に琥珀の目をした、飄々とした印象を持つ中性的な印象。髪はセミロング。
名前:ノワール
服装:黒い装束にフード付きのマント。額にはゴーグルのような物をつけており、ブーツを着用。
腰には折りたたまれたクロスボウと矢筒が見える。
得物:クロスボウ及び毒薬
その他:この辺り一帯を縄張りとしている情報屋兼盗賊。飄々とした性格で胡散臭い笑みを貼り付けている。
しかし、彼(彼女?)の持つ情報はどれも正確であり、それなりに人望も高い。


「あっ!すみません!大丈夫です…か?」


俺は今の出来事に違和感を持つ。勢い良く衝突した筈なのに跳ね返ったのは俺だ。普通なら相手が倒れてもおかしくない勢いの筈なのに…。


「……気を付けて」


その人物からの第一声は高く、全身を黒いマントで覆い白い釣り目状に片目だけ空いた仮面を着けていた。一瞬女性かと思わせるが、格好や違和感から男性という可能性もある。声が中性的な人間はたまにいるからな。


「あっ…ほんとごめんなさい!それじゃ!」


呆気に取られている場合ではない、今は王宮に急がなくては。俺は仮面の人を通り抜け、王宮へと走った。



~王宮前


王宮に到着すると何やら忙しなく動いている兵士が沢山居た。そのうちの1人に、朝正門の前に居た兵士が見える。とりあえずあの兵士に話を聞こう。


「あの」


「!……君は…」


「朝はどうも。えっと…クレア様は居ますか?」


「…もう居ない。メリルのヴァーダ…アレスによって連れて行かれた」


「そうですか…やっぱり…」


予想は的中した、となると帰国している最中か。これが漫画やアニメなら俺は二国の間に入って戦争を止める事が出来るんだろう。だが、そんなら大それた事を言うつもりは無い。

ただ、ジャスミンとの約束を破ってしまった事が俺の後を引くのだ。戦争を止められなくても、何かをしないといけない気がする。


「ありがとうございます」


「ああ。君は参加しないのかい?」


「わかりません。でも、その前にちょっとやる事があるんで…それじゃ!」


俺は王宮を離れるが、やる事なんてまだ思い付かない。追うか?情報を集めるか?それとも他に何か……




安価下

情報を集める

安価外ですが227が凄く丁度良いので使わせてもらいます!

undefined

何行以上でこれ出るんやろな

85行までだったかな

結構多く思えるけど改行も入れるとそうでもない感じか


いや、今は情報を集めよう。王にしたって追いつける保証はないからな。でも誰に聞けば…………あっ、ギルドに入ってきた男が居た!あいつなら何か……ん?

待てよ。何であの男は戦争が始まるのを知っていた?見た所まだ王宮は準備を始めたばかりだし、ここまで走ってきたが街の雰囲気はこれから戦争が始まるという感じではない。

恐らく近々知らせがあるんだろうが、今の様子からまだ街の人々は知らないはず。それをただの冒険者が知っているのは……怪しいな。まだ居てくれよと願いながら、俺はギルドを目指す。



~冒険者ギルド


「…居た」


例の男が居た。他の冒険者と一緒に酒を飲んでいるが、戦争に参加するってのに呑気なもんだ。エメクは……居ないか。俺は男の居る卓の空いた席に座った。


「なぁ、あんた」


「ああ?……何でぇ、ギルドから飛び出してった兄ちゃんじゃねぇかよ。ビビって逃げ出したかと思ってたぜ」


茶化され、周りの冒険者も同調して笑う。笑いたきゃ笑え、今はどうでもいい。


「あんたさ、何で戦争が始まるのを知っていたんだ?」


「あ?なんだよ…そんな事か。ノワールから聞いたんだよ」


「ノワール?」


「何だよ兄ちゃん、外部の人間か?」


「あ、ああ……辺境から来たもんで…そのノワールってのは有名なのか?」


「おうよ!情報屋ノワールって言ったら、ここいらで知らねぇ奴はいねぇさ」


情報屋ね…。情報は鮮度が命と言うが、仕入れの速さから相当な奴だとわかる。ならば、そのノワールから有益な情報を更に聞き出すしかないな。


「そのノワールってのはどこに?」


「ノワールに会いてぇのか?なら貧民街のBARに行きな」


ノース帝国にある貧民街か……治安的な意味で不安になるな。


「見た目はどんな感じ?」


「言う必要はねぇな。行けばわかるぜ」


「なに、そうなのか…」


余程目立つ格好なのか人物なのか?


「わかった、ありがとう。貧民街に行ってみるよ」


「おう!ただちょっと変わってる奴だから驚くかもな!」


ガハハと笑う男達から離れ、俺は貧民街にあるというBARを探しに飛び出した。



~貧民街


貧民街に入るのは容易だった。一般街と貧民街を分け隔てる鉄柵がたり、門もあるが鍵は掛かっていないので出入り自体は自由。俺は情勢に詳しい訳ではないけど、ここ貧民街の雰囲気は一般街と比べたら大分逸脱している。

野放しで良いのかな、国は何もしないのかな。いち冒険者が考えた所で仕方はないだろうが、考える事は別に良いよな。
一般街の家は鉄?みたいな造りの家が多く、貧民街はレンガや木材で出来た家が多い。建物と建物の屋根に板やら天幕が張っており、街灯も少なく、夜にここに来たことを後悔するくらいに暗い。恐らく朝昼でも薄暗いだろう。

BARを探す道中ガラの悪そうな男達に睨まれたり、座り込む服がボロボロの子供が物欲しそうな目で見てきたり、娼婦らしき女と冒険者が金のやり取りをしたり、治安は最高だよホント。

貧民街は西区に当たる位置で、そんなに広くない筈なんだが……入り組んでいるからか全然見当たらないな。


途方に暮れて時間を無駄にするくらいなら、少し気が引けるが貧民街の人にBARの場所を聞く方が早いな。
近くに丁度ガラの悪い男がレンガの壁に寄りかかって居たので話を聞く事にする。


「あのー」


「……あ?」


「この辺りにBARがあるって聞いたんですけど、知ってますか?」


「ああ、BARなら知ってるよ」


そう言うとガラの悪い男は俺に手を差し出してくる。ああこれは、アレだよね。俺は小袋から銀貨を一枚取り出して男に渡す。足りるのかな。


「ここの3階」


男は寄りかかっていた壁を軽く叩く。目の前だったのか、外からじゃ全くわからないぞこれは、だって普通の家だし。俺はドアノブに手を掛けると普通に開いた。三階建てのレンガの家、内装は至って普通でとてもBARがあるとは思えない。階段を上り、3階まで上がるとすぐ目の前に扉があった。


「いらっしゃいませ」


扉がの先はたしかにBARだった。渋いおじさんがカウンターの中から出迎えてくれる。BARという事にも驚いたが何より広い、3階全体を改装しているんだな、客もそれなりに居る。


店内を見回すと、ある人物に目が留まる。その人物がノワールという確信も無いのに、俺は何故か分かってしまった。

黒装束に身を包み、セミロングくらいの黒い髪、額にはゴーグルをしている。そして何より気になるのはあの笑みだ。表現で聞く貼り付けた様な笑みとはああいうのを言うんだろう。
俺はノワールと思われる男に近付き、向かいの席に座る。


「やあやあ、お兄さん。こんばんは、僕はノワール。宜しくね」


「な……」


席に座るや否や挨拶してくるので呆気に取られてしまう。名前や遠目から見た限り女だと思っていたが、中性的な声や端正な顔立ちから男性と言われても納得出来る。


「顔見れば分かるよ、僕を探してんたんでしょ?」


「そう…なんだ。顔見て分かるって凄いね」


「そうでしょ?それで、ボクに何の用かな?コンスタン一味を倒したお兄さん」


「ん…?コンスタン一味?」


「ダンテ」


「!!……なんでそれを?」


「あれ?知ってるでしょ?僕は情報屋なんだよ」


いやいやそうは言うが、そんな情報まで仕入れられるのか。だが情報屋としては信頼出来そうだ。


「コンスタンには手を焼いてたからね、お兄さんが倒してくれて助かったよ。主力のダンテが消えれば暫くは大人しくするだろうしね。お兄さんにはお礼も兼ねて、何か答えてあげるよ」


何かしら対価を払うとは思っていたが、無償で教えて貰えるなら大いに助かる。


「それなら、これから起こる戦争の発端を教えてくれないか?」


「お?あはは、お兄さんも聞いたんだそれ。まぁ気になるよね、クレア様の護衛してたもんね」


俺は驚かない、当然見抜かれていると思ったからだ。


「よくある話だよ、政略結婚」


「政略結婚?クレアと誰が?」


「ノース帝国皇帝の息子、ブレイク・ノース殿下だね」


「なるほど……」


「本題に戻ろうか。メリル国王ガイウス・グランフォード・メリルは密輸をしていてね、そこでノース帝国皇帝ジェラルド・ノースの耳に入ったのが発端なの」


「密輸…?一体何を?」


「本来物資の輸出入管理は王都を通さないといけないんだけど、ガイウスは内緒で盗賊達から青聖水(ラグーン)を仕入れていたんだ」


「ラグーン……それは危険なものなのか?」


「強烈な中毒性があるお酒でね、当時は人気だったんだけど飲み過ぎると副作用で死に至る事がわかって製造中止になったんだ。でも盗賊達は製造法を知っていてね、金を持った連中に売り付けては金を稼いでいるのさ」


「……つまりは…ノース帝国はその事を知って、黙ってやるから結婚しろって言っているのか?」


「大体は合ってるけど、正確にはノース帝国は領土拡大を常に狙っていて、クレア様と結婚させた後は密輸を盾にメリルを吸収するつもりだったんだ」


「んじゃ…それが破棄になって戦争に?」


「せいか~い。ま、僕は稼げるなら何でも良いけどね♪」


「…………」



「でも……メリルがそんな悪事を働いているなら、周りの国が黙ってないだろ?特に王都とかさ」


「普通はそうだよね、普通はね~」


「何か…含みがある言い方だな?」


「…あはは!サービスは終わり!今日はもう店仕舞いだよ」


「なっ…まだ聞きたい事はあるんだ!」


「やーだよ、もう終わり!どうせ暇してたんでしょ?一緒に飲もうよ」


「今はそれどころじゃない!」


「つれないねぇ……しょうがないなぁ…」


ノワールは手帳を取り出して、パラパラと捲る。ふんふんと唸ると、パンッと手帳を閉じた。


「メルヴィス湖に行きな」


「え?」


「戦場はそこになるから」


そう言うとノワールは立ち上がる。戦場まで把握しているとは凄い情報網だ。逆にどうやって仕入れてるのか……情報屋って凄いな。


「あ、ありがとう…」


「大サービスだからね。バイバイ、お兄さん」


ノワールはマスターにお金を渡して店を出て行った。メルヴィス湖が戦場になるのか……場所としては悪地だし、軍を二手に分けての戦闘になりそうだな。
情報は得た。そうと分かったらメルヴィス湖に向かうか、何が出来るかは分からないけど。俺は酒を一杯ひっかけてから店を出る事にした。



~ 一般街 大通り



「さて……」


早速厩舎から馬に乗って向かうか、時間も遅いし明日から向かうか。店も戸締まりを始めているので、行けるとしたら宿くらいしかなさそうだ。他にやれる事があるならやっておきたいが……





行動安価

安価下

宿に泊まる


いや、今日はとりあえず休もう。急いでも好転する訳じゃないしな。俺は宿へと向かい、身体を休める事にした。



~宿屋


手続きを済ませ、店主から鍵を貰う。


「なぁあんた…」


「え?」


「いや……何でもない」


んん?どうしたのだろうか。俺なんか変だったのかな。気にはなるが今はとにかく休みたいし、別に良いか。俺は軽く会釈をして宿舎へと向かった。

俺は階段を上がりながら明日の事を考える。戦争の準備やら進軍までに、どれほど時間が掛かるのだろうか。この世界の常識がわからない以上、明日進軍となってもおかしくはないしな。

数日掛かるとしてメルヴィス湖で待機するなら野宿の準備も必要か、テントやら食料を買っといた方が良いな。俺はあれこれ考えながらドアノブを回す。


「……ん?」


「ちょ……」


扉の先には女が居た、裸の。まさに風呂上がりといった感じだ。それよりもこの女……。


「お前…」


「早く出ていきなさいよ!馬鹿!」


「おわっ!?」


手当たり次第に物を投げてくるので俺は扉を閉めて外に退散する。間違いない、あのうさ耳はあの女だ。少し扉を開け、声が通りやすい様にする。


「お前、ここに来てたんだな」


「あんたこそ!こんなとこで何やってんのよ!開けたら殺すわよ!」


「俺はちょっと……つか、何で鍵閉めてないんだよ……」


「う、うるっさい!てゆーか見た!?見たよね!?」


「まぁ……」


「あーっ!もう最悪!」


「いやこれは事故で……確かに俺が部屋間違えたのが悪い」


「ほら!あんたが悪いんじゃないの!」


「でも身体見られたのはお前の不注意からだし……」


「はぁ!?そもそもはあんたが部屋を間違えるからじゃない!」


無限ループだこれ。これ以上は不毛だ、やめておこう。良いもの見れたしな。


「そうだよね。じゃあ…俺は寝るから、おやすみ」


俺は知人に会えた事よりも就寝を優先する。


「ちょっと!待ちなさい!」


「俺が悪かったよ、許してくれって」


「そうじゃなくて!」


「え?なに?」


「ちょっと中に入りなさい」


「えぇ…」


「えぇじゃない!早く!」


女の子から部屋に呼ばれるシチュエーションなのに、こんなに嬉しくないとは一体…。俺は扉を開けると既に着替え終わっている女がベットに腰掛けて俺を見ていた。

あの時の短パンにチューブトップの服装ではなく、今はキャミソールにジーンズを着用していた。今更だが、あの垂れたうさ耳はロップイヤーっていう兎の耳に似てるな。

俺は近くの椅子に腰掛け、欠伸をしながら女を見る。一体何だってんだ。


「で、どうしたんだ」


「さっきの続きよ、あんたここで何してんのよ」


「…寝に来たんだけど……」


「殴るわよ」


「こっっわ」


冗談のつもりだったが、凄い形相で睨まれた。


「あれだよ、ちょっと依頼で寄っただけ。明日にはここを発つかも」


「…ふーん」


女は怪しむ様な目で俺の顔を覗き込んでくる。


「…何か隠してるでしょ、わかるわよ」


「あー…そういや嘘を見抜くの得意だったんだっけ…」


「そうよ。それで、何を隠してるの?」


「(安価下)」

こっちに来て初めてできた友達と言える人から頼まれごとをされてて、そのことでちょっとね


「こっちに来て初めてできた友達と言える人から頼まれごとをされてて、そのことでちょっとね」


「頼まれ事って?」


「それは…言わなきゃ駄目か?」


「……ふん、別にいいわ」


女は諦めたのか、ベットに倒れ込んでしまう。戦争の渦中に行くなんて言えないよな。


「お前こそ、ノース帝国で何してたんだ?」


「私は…………人探しよ」


「ふーん…人探しねぇ」


「ここもハズレだったけどね。あーあー…次は何処に行こうかしら」


「誰を探してるんだ?」


「…………」


女はベットから身体を起こし、窓を見やる。


「私が探してるのは……父よ」


「お父さん?居なくなったのか?」


「そうね……居なくなっちゃったわ」


その表情は悲しそうで、これ以上は聞かない方が良さそうだった。


「あー…そういえば、お前…名前はなんていうんだ?」


「え…?急に何よ」


「いや、名前知らないなって思ってさ」


「…そういえば教えて無かったわね。私は……アザミよ」


「アザミね。俺は──」


「男でしょ、知ってるわよ」


「あれ?行ったっけ?」


「忘れたの?あんたの身の上話聞いた時に言ってたわよ」


「あ、そうだったか。まぁ改めてよろしくな、アザミ」


「何をよろしくするってのよ」


「そう言われるとな…ほら、またどっかで会うかもしれないだろ?そん時にまたこうやって近況話したり……とか」


「近況ね……ふん。まぁ…それは別に良いけど…」


アザミはそっぽを向いて、今度はベットに潜った。俺はその様子を見て、椅子から立ち上がり挨拶をして部屋から出る。アザミとまた会えるとは思っていなかったが、旅をする以上またどこかで会えそうな気がするな。

俺は自分の部屋に入り、用意された寝巻きに着替える。ベットに飛び込み、これまでに知り合った人達や出来事を思い浮かべる。
ふり返ればふり返る程、異世界転生の主人公らしくはないなと笑ってしまう。

実は賢者に育てられた孫とか、魔王の生まれ変わりとか、何度か転生してたり……そういう設定が秘められたりしてれば良かったんだけどな。

贅沢を言っても仕方ないと分かっていても、もう自分にはそういう事に縁がないとしても、少しは期待してしまう。きっとレヴァンテインを手に入れたせいで、その欲は更に強まっているんだろうな。


「はぁ……寝よ寝よ」



~ 一般街


翌日。昼まで寝てしまった俺はチェックアウトを済ました俺は店のある街並へと向かう。数日野宿の出来る準備をしないとならない。
俺が寝ている間に知らせがあったのか、恐らく戦争の知らせを聞いたんだなと分かるくらいに住民達はざわついてた。

俺は数日の食料と簡易テントを購入。ノース帝国にはトライポッドがあるが、これはまたの機会にしよう。他には炎焼石や小さい折り畳み椅子やランプを買った。

結構な大荷物になってしまったので、更に大きいリュックサックを購入した。漫画の商人とかが持ってるやつに似ている、あれほど詰まってはないが。


「さてと……」


キャンプの用意は出来た。そろそろ向かうか、他の店に寄るか。









安価下

武器や防具の店を見て必要なら購入する


武器や防具を新調するか。ここは武器と防具の店は別れているからまずは武器を見よう。


~武器屋


店内は広く、壁には様々な大型の武器が飾ってあり、中央の棚には子型の武器がずらりと置いてある。ここでならちゃんとした得物を選べるなり。

飾ってある武器を触ってもいいかと店主に尋ねたら許可が出たので、色々と触って手に持ってみる。予想通りというか、筋力強化をしていなければ大剣や大斧を持つのは無理だった、生身の俺には重すぎる。

数十分程色々な武器を触り、俺は────






安価下
購入する 購入しない


安価下2 購入の場合
武器種

購入する

二刀短剣

弓とかの遠距離攻撃系


二刀短剣を手に取る。リーチは短いが素の状態でも持ちやすく、何より手に馴染む。正直利き手じゃない左手で扱えるかは分からないが、手が多い方が良いだろう。
某アニメの黒剣士君みたく長剣の二刀流にも憧れるが、俺にはコレが適している。得物を決め、短剣を店主に持っていき会計をする。


「お客さん、その腰の剣はどうする?これからこいつを使うってんなら、その剣買い取っても良いが」


「んー…念の為にとっときます」


「そうかい。じゃあ銀貨8枚ね」


俺は袋から最後の金貨を渡した。やはり物が良いのか高いな、防具も同じくらいだとお金が無くなってしまうかもな。
剣を腰からリュックと背の間に移し、短剣を両腰に装備した。武器屋を出て、次は防具屋へと向かう。


~防具屋


中に入ると女性の店員が居た。俺の培ったイメージからこういった所には男性しか居ないと思っていた。


「いらっしゃいませ~!」


元気よく挨拶され、軽く会釈をして防具を見て回る。現在俺の装備は鉢金と胴当て、まだ軽めなので機動力はある。
素人目から見ても、質の良さそうな防具がずらりと並ぶ。先程の武器屋を参考にすれば買えるとしても1つだな。

一式は買えないとして、肩当て、篭手、グリーブ、盾、ベルト、ヘルム……一式の一部も買おうと思えば買えそうだ。
さて、どれが良いだろうか……




安価下
購入する 購入しない

安価下2
購入する防具

購入する

小手

二刀短剣なら両手を使えるほうが良いかと思った。


俺は素人だし、二刀短剣を使うなら手を守るか。篭手を取ろうと思った時、別の物が目に入る。それは剣道で使われるような小手だ。
剣道の小手とは違い、上面にはこの街でよく見る鉄?がある。硬度ももありそうで、敵からの攻撃もこれなら防げる。

何よりこれは軽い、篭手は西洋鎧などに付いてるガチめな装甲だが重い。短剣を生かすなら軽い小手の方が良いだろう。
俺は小手を手に取り、女性の店員に会計を頼んだ。


「はーい、こちら一点で銀貨4枚と銅貨6枚ですね~」


俺は残り少ない硬貨で会計を済ました。残りは銀貨1枚と銅貨2枚、戦争が終わった後、食事宿を含めても数日は行けるな。
俺は早速小手装備し店を出て、準備が整ったので厩舎へと向かった。



~街道


メルヴィス湖まで街道は続いているので、俺は迷うこと無く進む。ただ長時間1人で馬を走らせるというのは寂しい。ノース帝国を出た直後は1人で冒険だーみたいに喜んでいたが時間の問題だった。

この前はメルヴィス湖を朝に出て夕方にクレアは到着したから……約12時間か。てことは、このまま走らせても日を跨いでしまうか。夜に走らせるのは危険だからな、いい所で野宿にしよう。





辺りはすっかり暗くなり、ランプを点けながら馬を走らせ、道中誰かとすれ違う事もなくここまで来た。陽が落ちてから多分数時間は走っていたので、そろそろ野宿をしても良いだろう。

俺は街道から逸れて大きい岩の近くに移動し、厩舎の飼育員から貰った馬留めを打ち込み馬を停める。
この辺りは木が無く、岩が点在している広い草原な為焚き火には向かない。

メルヴィス湖でなんか出る日があるってどこで聞いたんだっけ


俺はテントを張り、中にランプを置いてリュックを漁る。街で買った指で開けられる缶詰めとパンを取り出して腹を満たし、明日に備えてさっさと寝る。

野盗に襲われる、モンスターに見つかる、そういった可能性は考えなくはないが、そん時はそん時だ。リュックを枕代わりにして、ランプを消し、野宿も悪くはないなと思いながら就寝した。





気象した後後片付けをして、朝早くから移動したおかげで昼過ぎにはメルヴィス湖に到着した。メルヴィス湖は森に囲まれていて、前に来た時もここの木々を使って焚き火をしたのだ。

湖に沿って馬を連れて歩いていると、メリル側の森の奥に開けた空間があったのでそこで待ち伏せする事にした。
後は来るのを待つだけだが、いつ来るかも分からないし時間を潰す方法を考えておかないと。





安価下
ここで何をして待つか

メルヴィス湖野宿後にゲルムから、ですね
安価下

武器の手入れ


そういえば剣が汚れたままだったよな、武器の手入れでもやってみるか。折り畳みの椅子に座り、背中から抜いて剣身を見る。
直接斬ったりはしていないので目立った汚れは無いが、艶が無くなっている。たしか手入れには専用の道具がいるってとあるゲームで言ってたな。

手入れをしたい所だが道具が無いので断念して剣を戻す。次に短剣を取り出し、眺めて見ると先程の剣とは違って研ぎ上がったばかりの状態だとよくわかる。

今度街に寄った時に手入れの道具を買っておくか。短剣を十分に眺めた後、鞘に戻した。





あれから2日が経過し、俺はその間短剣を使った素振りをしていた。二刀短剣なら逆手持ちをしたい所だが存外難しく、小手を利用するなら普通に持つ方が良いと判断した。

特に技や指南がある訳でも無いので、俺の中に残るサブカル知識を駆使して取り入れ、大分我流な感じに仕上がった気がする。
いざ実戦で出来るかは分からないが、何も無いよりはマシだろう。


「……ん?」


既に時刻は夕方であるにも関わらず湖の方が騒がしい。もしかしてこんな時間に来たのかと思い、湖に向かって走り出した。





俺は息を潜めて草陰から湖の様子を見る。というか俺草陰やら茂みやらに隠れる機会多すぎだな。
そんな事を考えながら右を見るとノース帝国の軍、見た感じ冒険者が多いな。
左にはメリルの軍、こちらは正規兵なのかしっかりとした騎士団という感じの兵士が並ぶ。


「うわぁ……ほんとに戦争すんのか…」


俺はもっとよく見る為に右目の視力を強化する。メリルの軍隊の前に西洋風な鎧に身を包んだ金髪の青年、俺は直感でそれがアレスだと分かった。

大剣を地に刺し、ノース帝国の軍勢を涼しき顔で眺めている。随分と余裕そうだな、自信があるのか。
次にノース帝国を見やるとわらわらと居る冒険者の前に居た人物に俺は目を丸くする。


「あの時の奴だ……」


忘れもしない、ノース帝国の街角でぶつかった奴だ。相変わらず黒装束に白い仮面を着けていて、あの時とは違い腰に差している得物は長剣のようだ。

まさかあいつが二等級ヴァーダだったとはな。ヴァーダは規格外の強さみたいだし、俺が跳ね返されたのも多少は頷ける、多少な。

俺は何度か2人を交互に見た後、アレスの隣に見知った女が出てきた……あれは間違いなくクレアだ。
今にも始まりそうな雰囲気の中、俺は森からメリル側へと移動する。

定石だけど、恐らく要人は後方待機だからな。俺は軍勢の中に引っ込むクレアを見ながら軍隊の最後尾を目指す。


「皆の者!!」


これは…恐らくアレスの声だろう。


「メリル王ガイウスに仕えるヴァーダ!アレス・ニル・ラスティアの名にかけて誓う!我が軍に勝利を齎すと!!」


俺は今の言葉に引っかかったが、何に引っかかったかが分からない。今は後にしよう、とりあえずはクレアの元に急ぐんだ。


「己が誇りに誓え!我らは勝つ!その武を持って……敵を殲滅せよ!!」


「全軍!進軍開始!!」


アレスの鼓舞に兵士達は大声で応える。兵士達は一斉に走り出すと、ノース帝国側の冒険者達も両面に展開を開始していた。
ついに始まってしまった、戦争が。


結構奥まで走ったので俺は森から飛び出すと、数名の兵士に護衛されるクレアと、ゲルムの爺さんが居た。
街道のど真ん中にテーブル、椅子、長松明が大量に置かれて、作戦を練る拠点になっていた。


「クレア!」


飛び出して声を掛けるや否や、護衛の兵士に取り押さえられる。


「貴様何者だ!ノース帝国の者か!」


「いや!違うって!」


「これはこれは…男さんではありませんか。離してあげなさい、私の知人です」


「はっ!そうとは知らず失礼しました!」


お爺さんのおかげで解放され、兵士達は俺に敬礼をする。


「あら、久しぶりね」


「あ、ああ…久しぶり」


「どうされました、こんな所に来るとは…」


「あ、えっとですね…ジャスミンに頼まれてクレアの様子を見に来たんです」


「あの子が?…………ふーん…」


「それはそれは…ご心配をお掛けしましたね、大変申し訳ございませんでした」


「いえ、そんな…」


「で?何しに来たのよ」


「えっ」


「え?じゃないでしょ。様子を見に来たのは分かったけれど、それだけなの?」


「あ……うーん…」


確か俺はジャスミンとの約束を果たす為にここに来た、それは良いだろう。でも何をする?


「もしかして何も考えてなかったの?呆れたわね……」


「お嬢様。こうして様子を見に来てくれただけでも良いではありませんか。この件に関係ない方が心配して来て下さってるのです、もう少しお考えを」


「わ、分かったわよ……悪かったわね」


「お、おお…」


意外と素直だな。でも本題は変わらない、俺はここで何をしよう。




安価下

まずは状況を把握
クレアと爺さんに事の成り行きを聞く
できれば人払いしてもらって
無理なら声が聞こえないあたりまで散歩する感じで


「ちょっと色々と確認がしたいんだけど…」


俺は兵士達をチラチラと見る。ノワールから仕入れた情報を、国に仕えている兵士に聞かれるのは良くない。
お爺さんは気付いたのか、兵士に指示を出して人払いをしてくれた。


「ありがとうございます。この戦争はそもそも、クレアの結婚破棄から始まった物なんだよな?」


「……よく知ってるわね、一部の者しか知らない筈だけど」


「情報屋ですね。ノース帝国には秀抜な情報屋が居ると聞き及んでおります。確か…名をノワールと言いましたか、情報の正確さや質の良さから冒険者からの人望は高いですね」


流石お爺さん、詳しいな。


「俺も多少は事情を知ってる訳だけど、何で結婚破棄したんだ?」


「…………」


クレアは一瞬動きが止まるが、手に持ったティーカップを運ぶのをやめてテーブルに戻した。


「お嬢様…お話しても?」


「……ふん」


「では……お嬢様が結婚を破棄なされたのは、アレス様の為です」


「アレスの…」


予想の範疇というか、やっぱりというか。政略結婚の定番とも言える事だが、当人にはちゃんとした想い人が居て、様々な事情から他国のお偉いさんと結婚するという話はよく見る。稀に全体を見て結婚するやつもあるけど。

そしてそれを阻止するのは想い人だったり、第三者の主人公だったりと戦争に発展する物は多くはないが、無い話ではない。クレアにとっての想い人がアレスだったのだ。


「前にもお話ししたと思いますが、お嬢様にとってアレス様は唯一友人として接してくれ、誰にも心を開かなかったお嬢様も次第に変わられました」


「お二人の仲はメリルの民なら皆知っています。いずれは婚約するだろうとも言われていました。ですが…」


「…ラグーンの密輸」


「その通りでございます」


「罪を隠蔽しようとする旦那様は、お嬢様とブレイク様の婚約というノース帝国の案を受け入れました。ですがアレス様の説得により盗賊達から旦那様は縁を切ると約束され、利用されると分かっているお嬢様を連れ戻しました。身勝手ですが、旦那様は罪滅ぼしの為に、お嬢様を守る為に、戦争に臨んでいます」


「なんというか……やりたい放題ですね」


「返す言葉もございません。この事は公表がされていない為、兵には迎撃戦と認識されています」


「……愚かな父を許してくれとは言わないわ。非が私達にあるのも分かってる。でも……嫌なものは嫌なの」


「んー…どっちが正しいとか正しくないとか、俺には判断出来ないし、個人的な意見だけど…俺はそれで良いと思うよ」


本心だった。たしかにメリル側に義があるとは思えないが、このまま黙っていたら結局は吸収されてしまう。
好きでもない奴と結婚して、挙句土地を奪われるのだ、そんなの俺だって抵抗する。
クレアは俺の返答に驚いた表情をして、すぐに顔を背けてしまう。


「そ、そう……ありがと…」


「男さん、関係の無い貴方にこんなお願いをするのは間違っています。ですがどうか…お力を貸して頂けませんか。貴方の力があれば、戦況は大きく変わります」


「……」





安価下

力を貸す、貸さない

力を貸す


「……どこまでやれるかわかりませんけど」


「おお…!ありがとうございます、男さん」


お爺さんは深々と頭を下げ、何処と無くクレアも嬉しそうだった。


「話は終わったかい?」


「え?」


突然、この場にいない誰かの声がした。辺りを見回すと近くの森から金髪の青年が出てくる。


「アレス!…前線は良いの?」


「良くはないよ。もうすぐ夕日も落ちるから、これから視界は悪くなるし。ところで…そっちの彼は?」


「あ、どうも~」


「お嬢様を護衛して頂いた冒険者の方で、我等のお力になって下さいます」


「おお、そうか君が!その節はありがとう。僕はアレス、えーと」


「俺は男。君の噂はちょいちょい聞いてるよ」


「はは、良い噂だと嬉しいね」


俺は握手を求めるとアレスは握り返してくれる。いざ近くで見ると超美青年だなこいつ、クレアじゃなくても惚れるわこんなん。イケメンで強いとかずるいぞ、性格も良さそうだし。


「それでアレス、戦況は?俺はどうしたらいい?」


「もうすぐ結界が完成するんだ、そうすれば森からの不意打ちは防げるようになる。男はどれくらい戦えるのかな?」


アレスがお爺さんを見る。


「男さんならば、ご期待に応えてくれますよ」


「ゲルムさんのお墨付きか、これは期待出来そうだね」


おいおいおい、子供の喧嘩とは訳が違う。戦争なんてした事ないしハードルを上げないでくれ。



「それなら男さんには右面の足止めをしてほしい。僕はその間に左面を押し上げる、そうすれば向こうのヴァーダも出てくるだろうしね」


「わ、わかった!」


全然分かってない、そんな簡単そうに言われても出来るのか俺は。


「それじゃ行こうか男さん。では、行ってきますゲルムさん。クレアも、また後でね」


「はい。お二人のご健闘を、お祈り致します」


「…怪我しないでね、アレス」


「それはどうかな、相手はヴァーダだしね」


そらそうだ、戦争で怪我しない方が難しいだろう。ん?というか戦争の終わりってどうやって決めるんだ?


「なぁ、この戦争の勝利条件は?」


「ヴァーダの戦闘不能だね。僕達ヴァーダはチャトランガで言うキングだからね、倒されたら終わりだよ」


チャトランガってなんだ、口振りからしてチェスっぽいが。まぁでも勝利条件は把握した、白仮面の戦闘不能だな。


「分かった、足止めだっけ?やってみるよ」


「うん、頼りにしてるよ。それじゃ、行こうか」





俺達は湖に向かって伸びる道を走る。アレスの足が早すぎて追いつけない俺に、アレスはスピードを合わせてくれた。


「ねぇ男さん、質問なんだけど」


「ん?なんだ?」


「男さんって…何者?ただの冒険者じゃないよね」


「え?……どういう意味だ?」


「そのままの意味だよ。僕には分かるんだ、ちょっと変わってるからね」


「お、おう……」


見抜かれた?アレスくらい強いと何か見えてる系なのか?


「あはは、気分を悪くしたらごめん。お詫びに男さんからも何か質問して良いよ」


「質問ねぇ……」





聞きたい事
無しも可
安価下

魔獣「烈風」について


「じゃあ…『烈風』について教えてくれ」


俺の言葉にアレスは目を見開くが、直ぐにいつもの涼しい顔に戻る。


「…分かった。烈風とは風精霊の純魔力を操る魔獣なんだ。正確にはドラゴンなんだけどね」


「え、ドラゴンなのか?」


「そう、ドラゴン。別名リンドヴルム。絶対風壁の前では立つことすらままならないよ。でも穏やかな性格だからね、街を襲ったりはしないよ。男さんは魔獣についてはどこまで知ってる?」


「いや、全然知らない」


「そっか、じゃあ魔獣についてはまた後で話そうか。烈風はとにかく波長に敏感なんだ、絶対に敵意を向けてはダメだよ」


「波長…?そういえばアレスも苦戦してるってゲルムさんから聞いたけど…」


「……そうだね、僕も烈風には手こずってる。だから絶対に手を出してはいけないよ」


今までとの雰囲気と違い語気が強く、見られているだけなのに胃が締まる感覚に陥る。本当に手を出してはいけないのだろう。


「気を付けるよ、ありがとう」


「うん。あ、そろそろだね。じゃあ男さん、そっちは任せたよ」


「ああ、頑張るよ」





湖の前で二手に分かれ、右面への援護に回る。俺の仕事は足止めだが……あの数を足止めするのか?
やり方によるだろうが、味方へ多少の巻き込みは仕方ない。







足止めの手段
安価下

聖光のなんちゃらの男と名乗りあげて大将との一騎打ちを申し出る


そうだ…俺にはあるじゃないか、足止めする物が。俺はリュックから『聖光』を取り出す。俺はそれを羽織り、リュックを脇に投げ捨てる。


「ふぅー…」


呼吸を整える。相手をビビらすなら登場は派手に、だ。
準備が整い、俺は1番近くの座り込んで弓を直している兵士の背に目掛けて全速力で走る。


「悪ぃ!ちょっと痛いかも!」


「え──うわっ!?」


有無を言わさず、右足を兵士の背中に乗せて、筋力強化した足で高く跳躍する。力加減も完璧、ど真ん中だ。


「どけえええええええっ!!!」


人生で出したことの無いくらい声を張り上げ、怒号の如く叫ぶ。金属のぶつかり合う音や幾人にもよる喧騒に勝ったのか、打ち合っている奴らは俺の声に驚いた顔をして蜘蛛の子散らす様に離れていく。

パフォーマンスとして着地時に強化した右足で地を踏むと、周囲に地割れが起きた。


「お、おい!聞いてねぇぞ!メリルに2人もヴァーダが居るなんてよ!!」


ヴァーダじゃないけど、勘違いしてくれるのは好都合だ。俺はノースの軍勢にゆっくりと近付いて、足元に剣を刺す。


「これは境界線だ。この線を越えてみろ、俺が相手してやる」


決まったわ~。俺は脅しを効かせ、短剣を抜いて構える。効果は覿面、ノース側の冒険者達は誰一人として前には出てこない。
むしろ何人かは後ろに下がって逃げている奴もいる、でもそれは仕方ない事だ。

ヴァーダ相手に冒険者が敵うはずもない、挑んだところでみすみす命を差し出すだけだからな。まさかこんな所で聖光が役に立つとは思わなかったけど。


「もしかして貴方は……数日前メリルの町に現れた方では…?」


「間違いない!俺はあの服を町中で見たぞ!」


後ろの方でメリルの兵士達が騒めき始める。たしかにあの時は堂々と着て歩いていたからな、見られていてもおかしくはない。

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俺は騒めき始める兵士達を宥め、少し調子に乗ってしまう。冒険者達の方へと向き返り、ニヤついた表情で──。


「いいか、俺を倒したかったらヴァーダを連れてきな」


ここぞとばかりに見栄を張る。本当に来てしまったら殺されるのは明白。だが、俺には確信がある。
向こう岸で戦うアレスの方へあの白仮面が行くからだ。ならばこそ、大見栄切ってつけあがる。


「そこのお前、伝えておけ。この俺が一騎打ちを所望していると……な」


「このっ…!」


もうやりたい放題だ。


「なんだ?文句があるなら俺とやるか?」


「ちっ…!」


俺が指名した冒険者は人集りを割って走っていく。無駄な事を、報告したところで白仮面は居ないぞ。
俺は自分に任された仕事に成功し、満足して空を見上げる。

もう既に辺りは暗くなっており、満天の星に月がひとつ。ん……?月がひとつ?
確かこの世界は月がふたつでは無かったか?


『満月が1つになる日……『ヒトツキの夜』にこの湖に訪れると、セイレーンの歌が聞けるそうですよ』


ふと、俺はゲルムさんから聞いた話を思い出した。これが噂のヒトツキの夜なのか、すごい偶然だな。
俺は湖を見て、セイレーンが出てくる事に期待する。御伽噺や迷信かもしれないけど、やっぱり期待はしてしまう。

湖を眺めていると、メリルの兵士達に囲まれてあれこれ質問され始めた。改めてヴァーダってすげぇ人気だな。
冒険者達もやってられねぇといった雰囲気で、徐々に後退していった。






足止めをしてから1時間くらいが経過した。兵士達を反対側に居るアレスの増援に行かせ、この場には俺だけが残る。
多勢に無勢も良い所だが、ヴァーダという肩書きが群れた冒険者達を抑制している。

俺は先程投げ捨てたリュックを取りに行き、中から食料を漁る。こんな状況とはいえ腹は減る、腹が減っては戦は出来ぬとも言うしな。
食事の内容を何にしようかと漁っていると───。


「私はそれが良いな」


「!?」


背後から女性の声、驚いてその場から飛び退いた。短剣を抜き身構えると、そこには敵の大将…白仮面が居た。


「ふふ、驚かせたかな?そんなに退かれるとは思わなかったよ」


「お前……いつの間に…」


気配とか足音とかが全くなかった。


「おや?この前私にぶつかった人じゃないか」


「そん時はどうも…」


「へぇ、まさか君が……全く、奇妙な巡り合わせもあったものだな」


白仮面は楽しそうに笑う。女性のような雰囲気だが、黒い外套の中の黒装束は男物だ。こいつもノワールと同じで性別がわかりにくいな。


「それにしても…どうしてここに『聖光』があるのかな。そして何故君が持っている?」


「別に…教える必要は無いだろ」


「…そうか。まぁ今はこの件は置いておく。たしか…私と一騎打ちをしたいんだろ?」


「……」


1ミリもしたくないよ。なんでアレスの所に行ってないんだこいつ。


「ふふ、いいよ」


白仮面は腰に差した長剣を抜くと、普通の剣とは違った赤い剣身だ。俺は固唾を飲み込み、今までの相手とは格が違う為レヴァンテインをフル稼働させた筈だが、あの漆黒の篭手は発現しなかった。


「じゃあ…やろうか」


「!?」


突如、白仮面から尋常ではない圧が放たれた。本能でわかる、こいつには勝てないと。
奴は長剣を下に垂らして構えているだけなのに胃が縮む、足が竦む、手が震える。


あかんシヌゥ


「…?もしかして…怖気付いたのか?ははは、この程度で…嘘だろう?君はヴァーダじゃないのか?」


「俺がヴァーダなんて一言も言ってないだろ…」


「なるほど……ますます不思議な男だな、君は」


舐めやがって…真空刃を喰らわせてやる!短剣を交差して振り抜き、真空刃を起こす。
だが、その刃が届く事は無かった。白仮面は剣を真空刃に向かって置いただけで真空刃は霧散する。


「今のが君の技か?全力かどうかは知らないけど、私と戦うのはやめておいた方が良いんじゃないかな」


内心、実は通用するんじゃないかという期待はあった。だが、そんな妄想は音を立てて崩れ落ちる。
立ち向かう?いや、逃げるか…?でも…逃げていいのか?せっかく皆こら任されたのに…俺は逃げていいのか?





行動安価
安価下

そもそもなんでお前がこっちにいるんだよ!と聞いてみる


「そもそもなんでお前がこっちに居るんだよ!反対側にはアレスが居るんだぞ!」


「何でって…新しいヴァーダが現れたと聞いたから、見に来た」


「え、それだけ…?戦況とか、そういうのは無いのかよ」


「戦況?馬鹿馬鹿しい…そもそもやり方間違っているんだ。私達の首を取って終わりなら私達でやり合うだけでいい、兵なんていらない。君もそう思わないか?」


「……まぁ」


それは俺も考えた。恐らく優勢に立った側が物量でヴァーダを倒すという流れなのだろう。だが、これでは多くの血が流れてしまう。
戦争とはそういうものかもしれないが、武の代表と言っていいヴァーダだけで争いを収められるのならそれが一番だ。


「だろう?金に群がる冒険者がいくら死のうが私の知ったことじゃない。私だけ居れば良い、劣勢になろうが関係ないさ。だからこそ私の興味を引い君を見に来たんだ、円卓に居なかった君をね」


「円卓…?」


「知らないのか、やはり君はヴァーダではないな。その聖光は君には過ぎた代物だ、私が貰っておくよ。なに、抵抗しなければ死にはしないさ」


「くっ…!」






交差安価
安価下

過ぎた代物? それを決めるのはお前じゃないんだよ。おいレヴァンテイン、いいからよこせお前の全部
とヤケクソで言ってみる

ミカァ!


たしかにこいつに俺は勝てないだろう。だが、言われっぱなしも腹が立つ!


「過ぎた代物? それを決めるのはお前じゃないんだよ。おいレヴァンテイン、いいからよこせお前の全部 !」


「レヴァンテイン…?何故闇の大精霊の名を…世迷言か?」


『…呼んだか、主よ』


「やっぱりおきてんじゃねぇか。分かってるだろ、力を貸してくれ!」


「君……1人で何を言ってる?壊れたのか?」


「こっちの話だ、今からお前をぶっ飛ばす」


『フハハ!この我に令するか!……だがな、主よ…』


「…ぶっ飛ばす?私を?」


「そうだよ!いいからちょっと待ってろ!」


『我の力を全て与えるのは不可能だ』


「何でだよ!」


「……待てと言われて待つ奴は居ないが……だが、君が何をするのか楽しみになってきたよ。待ってみようじゃないか、このつまらない戦争にひとつくらい楽しみが無くてはね」


『主の身体が持たぬ、何より…弱すぎる。我ら精霊は契約者の力量に応じて力を分け与えられるのだ。今の主に、我の力を微量でも与えたら精神が崩壊してしまうぞ』


「そんな……!何か、何か出来ないのかよ!」


『ふぅ~む……ひとつ、ある。だが、これは激痛が伴うぞ』


「それでいい!やってくれ!」


『…後悔するなよ、主よ』


「…!?ぐっ!?ぅあああああああああっ!!」


「おいおい……今度は何だ?自害でもするつもりか?」






発現する能力、起きた事象、変化…etc.
安価下

右腕からグロテスクな触手的な物が伸びる
もちろん全てレヴァンテインの加護付き

人格をレヴァンティンと共有することでどうにか理性を保っているが、激痛の反面あらゆる能力や技術は大幅に上がっている
今の主人公では持っても100秒ほどしか使えない


「あああああああああっ!!」


嫌な音がした。


「君…何だそれは…?」


「はぁっ!……はぁっ!」


痛みが引いていくのを感じながら自分の右腕を見る。そこにはグロくて、黒くて、触手の様な何かが生えていた。


「何だ……これ…」


「まさか君は……いや、有り得ないか」


白仮面は構え、今度こそ俺を殺すつもりだ。だが、先程までの圧は感じ無くなっている。


「…リヒトール」


白仮面が呟くと辺りが一気に明るくなり、発光する玉が周囲に幾つも浮遊する。


「なんだ…?光の玉…?」


「全く…君とは美的感覚が合わないな、見れば見る程趣味が悪い」


「別に、俺だってこんな──」


「……っ!」


何だ…?意識が…薄れていく…?


「はぁ…もう良いだろう?終わらせてやる」


白仮面は手を開き──


「リヒトレリヤ」


その手を握ると、光の玉が一斉に俺に向かって飛んでくる。


「やば……」


ここで俺の意識は、途切れた。


~???


「……ん…」


「ん…?ここは……どこだ…?たしか俺は…」


白仮面と対峙して…グロい触手が生えて…。


「城……?いや…廃城?」


ボロボロの城の内部に俺は倒れていた。だが、ここは何処だ?
起き上がって身体を確認すると、先程の触手は無くなっていた。


「おや、お目覚めかい?」


「うおっ!?だ、誰すか!?」


周囲を見回すが、声の主は居ない。


「ああ、これは失礼」


「!?」


近くの柱の影から黒い物が蠢き、人の形を形成する。影から出てきたのは布の黒装束に身を包んだ黒髪の青年。


「初めまして。俺の名はシェイド…レヴァンテイン様の眷属だ。お見知り置きを、男君」


「え?レヴァンテインの…?てか何で俺の名前を…?」


「言っただろ?レヴァンテイン様の眷属だって」


「いやそれは説明に……」


今はそんな質問は後にしよう。とりあえずこの場所の事を聞かないと。


「ここは……どこなんだ?」


「良い質問だ。ここはレヴァンテイン様の居城であり、男君の精神世界でもある」


「俺の……精神?」


精神世界ってやつか。現実の俺は気を失って……いや、死んでここに来たって事?え、俺死んだの?


「ちょっと待って……俺って死んだの?」


「何を言ってるんだ、生きてるに決まっているだろ?現にこうして居るじゃないか」


「いやまぁそうなんだけど……」


そういう意味じゃないんだけど。


「じゃあ俺は何でこの…城というか、精神世界に居るんだ?」


「レヴァンテイン様を表に出すの痛かっただろ?本来なら男君が神衣出来れば良かったんだけど、今回はどうしてもというから特別」


「え?レヴァンテインを表にってどういう……」


「そのままの意味だけど。レヴァンテイン様の力…少しは見えたんじゃない?」


「んん……?」


もしかしてあの触手?あれがレヴァンテインって事?


「レヴァンテインってさ……化け物なの?」


「レヴァンテイン様はレヴァンテイン様であって、君が何を見たかは知らないけど…人間如きが知ろうなんて癡がましいよ」


人間如きって…口悪いなこいつ。


「じゃあ……今俺の身体はレヴァンテインが操ってるって事か。状況は分からないのか?」


「レヴァンテイン様の力を借りるだけじゃ飽き足らずに様子を見たい?万が一にもレヴァンテイン様が遅れをとるとでも?図々しいにも程があるよ」


「別にそんな事は言ってないだろ。一応俺の身体だし…お前らがどれ程の存在か知らないけど、見る権利はあるだろ?」



「…なんてね。冗談だよ」


「は…?」


「仮にも男君はレヴァンテイン様の契約者であり、主だからね。眷属の僕がどうこう出来る訳じゃない」


なら今までのは何なんだよ、と苛立ちを覚える。


「なら早くしてくれよ。向こうの様子が心配だ」


「ここじゃ駄目だ。急がなくても大丈夫だよ、暫くここを見ていくと良い。俺は玉座に居るから、終わったらおいで」


シェイドはそう言うと全身が闇に呑まれて地面に溶けて消える。分かってはいるがやはりこいつも人間ではないな。

ここは城でいうエントランス。奥の左右に別れた階段の正面に大扉、恐らくあそこが玉座のある部屋だろう。
1階には扉が4つ、2階も周囲を取り囲む様に続いている。でけぇ城だな、全部回るとなると相当な時間が必要になりそうだ。




行動安価
安価下

まずは一階にある大扉以外の扉を順々に調べる

どうこうのくだりで間違えて僕って書いちゃった、アレス書いてる時と雰囲気かぶって間違えちゃう


急ぐ必要は無いというなら見て回ってみるか。ひとまずは1階から見て回ろう。状況は似つかないがクラ〇カ理論で右から回るとしよう。

瓦礫が落ちていたり、穴が空いた床が多くあり足場は良くない。まずは玄関から右手前の扉を開ける。


「これは…武器庫?展示所?」


中は薄暗く、エントランス同様ボロボロ。細長い通路になっていて先が見えない。左右の壁に武器が並び、どの武器も変わった形をしている。


「すげぇ……こんな武器があるのか…」


純粋に武器を見るのは好きだ。刀剣博物館に行ったり、ゲームの設定資料などにある武器を見たりと、知識はそれなりにあるつもりだ。
だが、似ているような武器はあっても名前が分からない。


「む……と、取れない…」


展示された武器を持とうとしたが、ガチガチに固まっていて取れない。持って帰るつもりは無いが、ちょっと持ちたかったな。
道半ばで引き返し、次の扉へと行く。

広い空間の中央に置かれた超がつくほどの長いテーブル。テーブルの上に置かれた三又の蝋燭台や白いテーブルクロス、恐らくここは食堂だな。


「シェイドとレヴァンテインも飯食うのかな……いや食うか?そういえばあまり精霊の事って知らないな」


食堂奥の扉は厨房になっていて、シェフが何十人も入れるくらいの広さだ。レヴァンテインって王様か何かか?
俺は食堂を退出し、反対側の扉へと入る。

そこは通路になっていて、また幾つも扉があった。手前の部屋を開けてみると、よくある屋敷の一室になっていて、要人の部屋と言われたら納得する装飾や家具が置いてある。

他の部屋も同じような造りから、もしかしたら使用人とかの部屋かもと推察する。やっぱこんな広い城だと部屋ひとつもすげぇ豪華なんだな。

次に1階の最後の扉に向かう。室内は何も置かれていないだだっ広い居間。壁に無数の写真が飾られていて、その中にはシェイドが写ったのもある。


「いつの物か知らないけど、全然変わってないな」


もしかしたらレヴァンテインが写ってるのではないか?と思い探してみるが、どんな容姿かも分からないから見つかるはずもない。写真のほとんどは、色んな人、いわゆる亜人と呼ぶ種族が戯れている物が多い。

適当に見て回っていると、ふと目に留まる写真があった。3人の冒険者らしき人が写っていて、左の人は魔導士が着るローブに身を包み本を持っている男、真ん中の人は神官の様な格好に杖を持った女性。

俺が気になったのは右の男。軽装の鎧に長剣を腰に差しているこの男の顔に、俺は見覚えがある気がする。
でも誰だかはハッキリとわからない、見た事あるかもという感じだ。


「誰だったっけな…この人…」


暫く顔を見るが、やはりわからない。俺は諦めて他の写真を見て回った後に部屋を出る。


「1階はこんなもんか…」





行動安価
安価下

二階も探索


「お次は…2階だな」


俺は奥の階段を上がり大扉の前でどっちに行くか考えていると──。


「あ、そうそう。2階は開かない部屋が多いのと、玄関上の部屋は開けないでね」


「…お前、出てくるなら合図してくれよ。ビビるだろうが」


「あはは!これは失礼したね」


そう言うとシェイドは再び闇に包まれて壁に埋まって消えていく。


「もっと普通に移動してくれよ……」


ため息をついて、俺は2階へと上がる。通路にある扉を触ってみるが、ほとんどの扉は開かず、開いたとしても1階にあった使用人の部屋と同様の通路があるだけだった。


「特に何もないのか……」


次の扉を開けると、大量の本棚がある。ここは図書室だ。


「すげぇな……街の図書館並にあるぞ」


タイトルは読めない物ばかり。こういう時に文字が分かれば良かったんだけどな。
適当に本を取って捲ってみると、大量に綴られた文字の横に魔法陣が描いてあった。


「魔導書…かな?」


図式と文章が果てしなく続き、読めていたとしても読み切る自身は無いな。俺は本を棚に戻し、図書室を出た。


「残るは……大扉と開けちゃいけない部屋か」


開けてはいけないと言うからには鍵が掛かっている可能性がある。もう玉座にいくか?







行動安価
安価下

玉座にいく

開けてはいけない扉に耳を当ててみる


ここはシェイドの言う事を聞いておこう。開けてはいけないのなら開けなくていい。俺は階段を降りて玉座への大扉を押す。


「うおぉ…」


いかにもな玉座の間。左右には玉座へと続く柱が並び、正面にある階段の上に玉座がある。玉座の横にはシェイドが立っていた。


「本当に全部見て回ったんだ。どうだった?」


「どうだった……うーん…」


「あはは、何かあれば聞くよ。もし無いなら何処から見たいか教えて。男君が気を失った所からでも良いし、今現在からの状況でも良いし」








安価下

写真の中に見たことのある気がする顔があった


「1階の写真が飾られてる部屋にさ……見知った顔があったんだけど」


「へぇ、どれかな?」


俺は3人の冒険者らしき者が写ったやつと説明する。


「ああ、三英雄か。懐かしいね」


「三英雄?」


「君は知らないよね。特別に教えてあげようじゃないか」


シェイドは得意気に語り出す。


「本を持っていたのは賢者アポロン。卓越した知識と魔法は、難解な術式も解き明かし、如何なる障害も吹き飛ばす」


「次に杖を持った女性。彼女は聖女とも呼ばれ、名をケイアと言う。
如何なる傷も癒し、聖光なる力は魔の軍勢を浄化へと導いた」


「そして最後は最強の剣士と謳われた男。剣聖ゲルム」


「なっ!?」


「彼の剣に斬れぬ物は無く、まさに斬鉄剣。大精霊レムの極光の力を駆使し、魔王の首を刎ねる事に成功した」


「え、ま、マジ…?」


「男君はゲルムと会ってるよね。昔のゲルムは強かったよ、ほんとに。でもねー…」


「でも?」


「ゲルムはね、魔王に呪われているんだよ。そのせいで今は戦えないんだ」


「戦えないって……どんな呪いなんだ?」


「不戦の誓いっていう呪いでね。戦う意思を持つと身体が脱力して、手足がに重りが付いたかのように地に吸い付いてしまうんだ」


「不戦の……それは解けないのか?」


「賢者を持ってしても解呪不可能の強力な呪いだ。方法はあるかもしれないが、まだ解明はされていないよ」


「……そうか。ゲルムさんは剣聖だったのか…」


「あはは、驚くのも無理ないさ。今はただの執事だからね。どうかな、他に無いならそろそろ見るかい?見るなら何処から見るか教えてくれ」






安価下

気を失ったところから


「気を失った所から頼む」


「了解。じゃあここの玉座に座って、目を瞑って」


俺は窺わしくシェイドを睨みながら玉座まで歩いていき、言われた通りにする。


「何があっても目を開けちゃ駄目だよ。暗闇から映像が見えてくるから」


「…わかったよ」


「じゃあ行くよ」


シェイドから聞き取れない言語が放たれる。


「(何だ…?詠唱か…?)」


「……誘幻の二、イリュジオン」


暗闇が、フラッシュした。



~メルヴィス湖


「……おや?」


着弾し発生した爆煙の中には、触手の塊があった。塊は蠢き、次第に中に居る本体を露わにしていく。


「…随分なご挨拶だな、人間」


「………」


白仮面は剣を振ると、男の身体は無数に切り刻まれ血が吹き出す。


「無駄だ。人間如きが我を傷付けるなど不可能」


「…君、さっきの奴じゃないね。何者?」


「フハハハハ!……頭が高いぞ、人間」


男が手を前に出し、下を指差す。


「なっ──がはっ!?」


白仮面は勢い良く地面に叩きつけられ、押し付けられたかのように地が凹む。


「あまり長い時間は居れぬでな…手短に終わらせるぞ」


触手が蠢き、禍々しい剣へと形状を変化させる。惨憺たるその様は、見ている者の心を打ち砕くには十分だ。


「な、何なんだ…!君は、一体…!!」


地に這いつくばり、身体を起こそうとする白仮面の抵抗は虚しく、張り付けられた如く微動だに出来ない。


「貴様が知る必要は無い。絶望を味わい、堕ちて逝け」


「くっ…!」


振り下ろされる禍々しい剣。だが、それは白仮面に届く事は無く、もう一つの剣によって受け止められた。


「ア、アレス……!」


「男さん!一体何があったんだ!?」


「貴様……何故邪魔をする。そいつは敵であろう」


「くっ…!お、重いっ…!」


「理解に苦しむな。何故敵を庇う」


「そんなに…くっ!知りたいなら…!周りをよく見てみる事だね…!」


「なに…?」


男は辺りを見渡し、顔を顰める。


「これはどういう事だ、倒れている死体は貴様の同胞ばかりではないか」


男の言う通り、辺りに倒れている死体はメリルの者ばかり。ノース帝国に属する死体は一人たりとも居ない。


「言っただろう…!僕達の勝利条件はヴァーダの戦闘不能…!殺すとは一言も言っていない!」


「愚かな……自を犠牲にして他を傷付けぬだと?生温いにも程が有る。その甘さはいつしか命取りになるぞ」


「それが僕達だ!戦争なんて望んでいないし、人を傷付けたい訳じゃない!甘くてもいい!馬鹿と言われてもいい!これが僕達…メリルに生きる者の意志だ!」


「愚かだ、愚かすぎるぞ。大将がこんな愚か者では散って逝った者達は無念極まりないであろうな」


「お前に何が分かる!そんなでも僕に付いてきてくれた!僕の意志に同調してくれた皆の意志を!」


「お前が勝手に決めるな!」


「なにっ!」


アレスは男の剣を押し返し、男はよろめいて後方へと下がる。


「はぁ…はぁ…!」


「…気に入らぬな……不快だ。貴様、不快であるぞ」


「ア、アレス…!逃げるんだ…!こいつは……私達ヴァーダでさえも…!」


「……こんな事を君に言うのは変だけど安心して、レオーネ」


「ア、アレス……」


「…ふぅー……」


アレスは身体の前で剣先を上に向けて構え、呼吸を整えながら目を閉じる。


「貴様、何をしている」


「貴方は男さんであって男さんではないよね。身体から溢れる霊力が男さんとは別物…強大過ぎる。誰だか知らないけど、手加減は出来ないよ」


「戯言を……立場を弁えよ、頭が高いぞ」


男はまた手を出して指を下に指す。だが、アレスに何も変化は起き無かった。


「……なに?」


「魔翌力結合解放……精装束『雷雨』…展開…」


アレスの周囲に小さい魔法陣が幾つも展開する。


「これは…!貴様!」


男が剣を突き出すと、グロテスクな剣身が伸びてアレス目掛けて加速する。アレスは微動だにせず、ものの数秒で突き刺さってしまう瞬間──その剣は弾かれた。


「ちぃ!死に損ないが!」


男の禍々しい剣を弾くのは、赤き剣。


「気を抜いたのが運の尽きだ!」


「邪魔だ!退けい!」


伸びた剣を縦横無尽に振り回すが、レオーネに尽く弾かれてしまう。


「ふん、剣に至っては素人だな。それではこの私には届かないぞ」


「人間風情がっ!」


男は手を横に薙ぎ払って何かをした様だが、レオーネには何も起き無かった。


「っ!!トールの加護か!」


「人が悪いなアレス、君のどこが三等級だ!」



「吹荒ぶ豪雨、猛り狂う嵐、大地を砕く雷轟……ウロボロスの名において……纏雷せよ」


目を見開いたアレスの身体から激しい雷が解き放たれる。大地が揺れ、暴風が木々を揺らし、雷が轟き、雨を降らせ、メルヴィス湖全体に広がる雷雨を発生させる。


「これが、ヴァーダがヴァーダたる所以…天衣だよ」


「紛い物の分際で…何処までも我を虚仮にするか」


「これが天衣…特等級のヴァーダが使えるという…!」


「……行くよ。誰かさん」


アレスが前に剣を構えると、落雷が、暴風が、降り注ぐ雨が、アレスの剣へと収束する。


「なんと凄まじい…!くっ!剣を突かねば吸い込まれてしまう…!」


「……ククク…フハハハハ!!」


「……何が可笑しいのかな?」


「ククク…全く……くだらぬ。言った筈だ、紛い物だと。トールの一部に過ぎぬ魔獣の加護なんぞ、我に効くと思うたか」


「……貴方は一体、何者なんだ…?」


「ふん……時間切れだ。これ以上は主が持たぬ、今日の所は見逃してやろう」


「…………」


男は片膝を立て座り込み、顔を伏せてしまう。それを見たアレスは構えを解き、収束させた力を霧散させた。


「何をしているアレス!奴を仕留めないのか!?」


「あの強大な霊力が……消えた。今、そこに居るのは男さんだ」


「何だと…?」


「男さん……君は一体…何者なんだい…?」


『~♪~~♪』


「え…?」


「……アレス…今のは君の鼻歌か?」


「いや、違うよ……これは……」



~???


今の鼻歌は何だ?


「いっで!?」


突然顔を叩かれておもわず目を開けてしまう。どうやらシェイドが俺の頬をぶっ叩いた様だ、起こし方他にもあるだろ。


「はい、おしまい。さて、すぐにでも意識取り戻して貰うけど……どうだった?見た感想は」


「いや……どうって言われても…」


何がなんだか……整理がつかない。







感想、聞きたい事、行動安価
安価下
安価下2

すっげーファンタジー
いつか俺もあれくらいできるようになるの?

何故自分が選ばれたのか


「なんつーか……すっげーファンタジー……だよな。いつか俺もあれくらい出来るようになるのかな?」


「天衣の事?……あはは!君が強くなれば天衣どころじゃない、もっと凄い力を手に入れられるよ」


「もっと凄い……あっ!さっき言ってた神衣の事か?」


「おっ、良く聞いてたね。その通りだよ…神衣は、天衣の上位展開術式だ」


「上位展開術式……」


さっきからだがこれまた新しい単語の怒涛攻めだ。


「天衣ってのは精装束を媒介に展開する術式の事でね。分かりやすく言うと、精装束に魔糸で封じ込まれた力を解き放つ事なんだ」


「う、うん…なるほど…?」


「そして神衣……これは精霊、或いは大精霊と契約した者のみに与えられる力。特に大精霊の神衣は比類無き強さを誇り、天衣なんて可愛い物だよ」


「あれで可愛い!?」


おいおい、神衣って相当やばいんじゃないか…?


「君にもその片鱗はあるよ。ほら、漆黒の篭手だよ」


「あ……マジで?」


「男君じゃまだ到底無理だけどね。いつかは……いや、生きてたらそのうち出来るんじゃない?」


「おいおい……嫌な言い方するなよ……」


俺は自分の手を見て、神衣に期待を寄せてしまう。いつか…俺も。


「ん?待てよ?」


「どうしたのかな?男君」


そもそも何故俺はレヴァンテインと契約出来たんだ?あのヴァーダでさえ契約等はしていない。異世界転生補正?きっとそうなんだろうけど、理由がある筈だ。

そもそも俺は何で転生した?良く考えろ…あの時俺はまだ死んでいなかったはずだ。じゃあ何故?馬鹿な神様が間違えて俺を選んだのか?
でもそんなのには会ってないし……。


「なぁシェイド。俺は何で……レヴァンテインに選ばれたんだ?」


「……それは──」


「シェイド」


「…!お帰りなさいませ、レヴァンテイン様…」


シェイドが跪いた先に俺も顔を向けると、レヴァンテインと呼ばれる人物が居た。セミロングの黒髪に、後ろの丈が長い黒いタキシードを着用した強面の大男が居た。


「お前が……レヴァンテイン…なのか?」


「如何にも。我こそは大精霊レヴァンテイン。闇を司る神である」


「なんつーか……おっさんだな」


「ばっ!男君!レヴァンテイン様に失礼だぞ!」


「良い。男は我の主であるからな、どう思おうと構わぬ。お前の前に姿を現す為の我が力で作り上げた肉体だからな」


これがお前の趣味なんだ、とは言わずにそうなんだと納得してあげた。


「して……主よ、何故我に選ばれたかを知りたいのだりう?」


「ああ…そうだけど…」


「残念だが主よ、それは我々精霊の禁忌に触れる事になるのだ。何故主が我に選ばれ、何故この世界に来たのか……それは主自身で知らねばならぬ」


「お前……俺がこの世界の人間じゃないって知ってるのか…?」


「無論、承知している」


「……そうなのか…」


「時間だ。そろそろ戻れ、主よ」


「えっ」


「…そういう事だ、男君。君が強くなるのを期待してるよ」


「ちょ、待っ──」






「はっ!?」


ここは…メルヴィス湖か。


「…っ!アレス!レオーネ!」


「君…」


「男さん!大丈夫かい?」


「何か色々ごめん!この埋め合わせはする!」


「はは、それは有難いけど…ここから生きて帰れたらね」


「え……それはどういう意味──」


『~♪』


「あっ!」


「気付いたか?この歌は…」


「セイレーンの歌…!」


「男さんも知ってたんだね。なら話は早い……来るよ」


「来るって…?」


「太湖のヌシ…キュレウス!」


『オオオオオオオオオッ!!!!』


湖の中から巨大な蛇が出てくる。所々に小さな翼が生えていて、その巨体を湖の上に浮かばせる。


「おいおい……ははは…マジで言ってんの…?」


圧倒的な存在を前に、薄ら笑いが出てしまう。


「噂には聞いてたけどね…これは……魔獣クラスかな」


アレスもいつも通りの涼しい顔だが、目は鋭く巨大な蛇を睨む。


「お喋りはそこまでにしておけ!気を抜いたら共倒れだぞ!」


もう戦争なんてしている場合ではない。奥に居た冒険者は既に居なくなっていて、恐らく反対側に居る兵士も冒険者も退避しているだろう。逃げたいところだが、そうはいかない。

汚名返上ではないが、力を持っているのにここで手を貸さないのは男が廃るってもんだ。


「アレス!この巨大蛇を倒したら埋め合わせはチャラな!」


「ははは!良いね!じゃあそれでチャラにしようか!」


「呑気か君達……」


レオーネはやれやれといった感じで頭を振る。そうは言っても軽口を叩いてないと圧に呑み込まれてしまう。


「まずは奴の特性を見極める。僕が注意を惹くから、2人は左右で待機していてほしい」


「あいわかったぁ!」


「気を付けろよ、アレス」



「僕の技が発動したら作戦開始…行くよ!」


アレスは剣を掲げ──


「アグラヴァティオン!!」


アレスの持つ剣が光り輝く。キュレウスはその光に反応したのか、絶叫と共にアレスに突進する。


「ガアアアアアアアアアア!!!」


「行って!二人共!」


「ああ!」


レオーネと俺は反対方向へと走り、突進の範囲から逃れる。全力で走った後、後ろを振り向くと信じられない光景が目に入った。
アレスが突進してくるキュレウスの顎を下から剣でかち上げ、軌道を逸らしていた。


「嘘だろおい…お前1人で良いんじゃねぇの」


さっき見たアレスもそうだが、やはりヴァーダというのは規格外過ぎると痛感する。


『~♪~~♪』


この間にもセイレーンの歌は聞こえ、湖を見やるがその姿は見えない。このキュレウスと関係があるのか?


「レオーネ!危ないぞ!」


アレスの声に振り向くと、キュレウスの胴体にレオーネが乗っていた。


「私とて二等級ヴァーダだ!下手は打たない!」


レオーネは剣を胴体に突き刺すと、その剣身が燃え上がり、そのまま尻尾へと向かって切り裂いていく。


「ギュオアアアアアアアアアアアア!!!」


「すっげぇ…あれがレオーネの技か…」


アレスも受け流した胴体を切り裂き、キュレウスの白い巨体が段々と真っ赤に染め上がっていく。
突進した頭が転回し、再び襲うがアレスはそれをまた受け流して切り刻む。


「負けてらんねぇ…!俺もやってやる!」


アレスの受け流した頭は俺の近くに来たので、巨大な蛇の顔に一瞬ビビるが強化した足で跳躍して額に飛び乗った。


「男さん!?危険だ!まだ奴の特性が分からない!」


「分かってるって!おい蛇野郎!ここは効くだろ!!」


俺は短剣をキュレウスの片目に突き立てる。肉を抉る気持ち悪い感触が手に伝わって来るが、怖くはなかった。



「ギィアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「うお!?うおおおお!?」


キュレウスは頭部を振り回すので、俺はキュレウスの鱗に引っ付かまって何とか振り落とされ無いようにするのに必死になる。


「き、気持ち悪い!止まれ!止まれ蛇野郎!」


「ガアアアアアアアアアア!!!」


「ちょ!うおおおあああ!?」


あまりに激しい為、ついには振り落とされてしまう。


「世話が焼けるね」


「ぶわっ!?」


隕石の如く突進してきたレオーネに激突され、近くの陸地に着地する。


「げほっ!!……さ、さんきゅ…」


「先程の君と違い、今の君は強くは無いんだ。無茶はするな」


「へ、へい……」


レオーネは颯爽と駆け抜けて、再びキュレウスへと接近する。


「くっそ……やっぱ役に立たねぇな俺…」


キュレウスは次第に落ち着くと再び空へと浮かび上がる。傷をだらけの巨体は、勝ちを確信させるには十分だった。


アレスとレオーネは俺の元へと駆け寄って、傷の確認をする。


「これ、もう一押しって感じじゃね?」


「そうだと良いけどね…まだ油断は出来ないよ」


「アレス、君はどうだった?」


「レオーネも気付いたようだね」


「え、え、何が?」


「斬った感じが……ちょっとね」


「え?どういう────」


「ギヤアアアアアアアアアアアアア!!!!」


キュレウスは絶叫を上げると体が発光する。


「な、なんだ!?」


「………ちっ…やはり召喚獣か」


発光が終えると、キュレウスの体は元取り白い胴体へと変化した。


「え!?脱皮!?」


「多分違うと思うけど…まぁ合ってるんじゃないかな」


「ガアアアアアアアアアア!!!」


「これどうすんの!?逃げる!?」


「そうしたいのは山々だけど……多分無理だね」


「巫山戯ている場合じゃない、術者を探すぞ」


「術者って……もしかしなくてもセイレーン?」


「だね。歌だけが人を伝って噂になったからね、姿を見た者は居ないんだ」


「絶望的じゃね!」


「セイレーンと言うからには、湖の何処かに居るのでは…」


「ギィガアアアアアアアアアア!!!」


「うわっ!またこっち来るぞ!」


キュレウスが俺達目掛けて突進を繰り出してくる。逃げようとしたが、アレスは動かずにレオーネが前に出る。


「次は私の番だ、下がっていろ」


レオーネは剣を回転させ、剣を逆手に持ち下に向けて高く持ち上げる。


「クラウディア流剣術、第一秘剣……炎柱」


地に剣を突き立てると、レオーネの正面広範囲に巨大な火柱が地面から噴出する。吹き出る火から高熱を浴び、思わず顔を隠す。


「あっつ!ちょっと!派手過ぎんですけど!」


やっぱレオーネもバケモンだわ、こいつ。


「ガアアアアアアアアアア!!!」


キュレウスは顔面を火に焼かれ、再び暴れ出す。


「ここは私が引き受ける!君達はセイレーンを探せ!」


「分かった。頼んだよ、レオーネ」


「…当然!」


「よっしゃ!俺も探すくらいは出来るだろ!」


俺はレオーネから全速力で離れ、セイレーン探しを始める。


「とは言ったものの…」


何処を探す?湖?森?もっと着眼点を広げて別の所?もっとよく考えろ…セイレーンが居る、それらしい所は…!




集中して探す箇所
安価下

セイレーンは死ぬと岩だったかな
岩になってもおかしくなさそうな湖の浅瀬あたりを


たしかセイレーンの物語を調べた事がある。概要は詳しくは思い出せないが、たしか最期は岩礁になるんだったか。
俺は湖の浅瀬となる場所を探す。

湖のほとんどは数十センチの段差になっているが、浅瀬も確かにある。視界が悪い中、暴れるキュレウスを他所に湖を見渡していると浅瀬を発見する。


「見つけた!浅瀬!」


おあつらえ向きに浅瀬があり、到着してすぐに調べるが──。


「これか?……いや、違うか」


浅瀬の岩礁を手当り次第に叩いたりしてみるが、特に反応は無い。


「所詮は伝承された物語って訳か、手掛かりだと思ったんだが……」


何か、大事な部分を見落としている気がする。


「岩礁になったのは死亡後…だよな」


ならもし…生きているとしたら?そもそもこの世界のセイレーンが出現する条件は──


「男!」


「えっ────おわっ!?」


レオーネの声に岩礁から顔を上げ、真横から見えた影に反応して咄嗟にしゃがみ、頭の上を轟音が駆け抜ける。どうやらキュレウスの尾が俺の真上を掠めたらしい。


「あっぶね!」


「流石にそっちまで面倒は見れない!気を付けて探してくれ!」


「了…解!」


砂を蹴り、浅瀬から離れる。俺は走りながら情報を整理し、確信を持ってその方向を見据える。


「そこに居るんだろ!セイレーン!」





何処を見た
安価下

空中(満月が重なっている箇所?)


空に浮かぶ月、そこにセイレーンが居る。はっきり姿は見えないが、薄らと空中で椅子に座っている女性のシルエットがある。


『~♪』


「アレス!!月だ!!」


遠くに居るアレスに聞こえるように大声で叫ぶ。了解の合図なのか、アレスの剣から光が放たれている。


「場所が分かればこっちのもんだ!やっちまえアレス!」


その直後アレスの所から真っ白な刃が無数に月へと向かって飛んでいく。


「ガアアアアアアアアアア!!!」


その刃は届く事は無く、レオーネに構っていたキュレウスはセイレーンを庇うように捻れて取り巻いていく。


「おしい!」


「男!あそこにセイレーンがいるのか!」


注意を惹いていたレオーネが駆け寄って来る。


「間違いない、キュレウスが庇ったのが良い証拠だ」


「なるほど。だが、どうしてあそこにセイレーンが居るとわかった?」


「俺が知る情報を整理したら、一番居そうなのはあそこかなって」


「情報?セイレーンの事を他に何か知っていたのか?」


「ちょっとね。ってそんな事は良いじゃん!ほら、早くぶっ倒しちまおう!」


「本当に君は……ふふふ、そうだな、そうしよう」


戸愚呂を巻くように浮かぶキュレウスを睨みつけていると、その胴体は光り輝き小さくなっていく。


「な!?小さくなっていくけど!?」


「狼狽えるな。ここからが正念場だぞ、男」


レオーネは剣を構え、俺も遅れて短剣を身構える。小さくなっていくキュレウスは次第にある物に形を成していく。
小さくなったそれをセイレーンが掴むと、薄らと見えていた身体の色が濃くなっていく。


「ハープだ!キュレウスがハープになった!」


「奴が、セイレーンか…!」


顕現したのはハープを弾く美しい女性。黄金の髪を全身に這わせ、頭から髪と同じ色の羽根を生やし、手首や手足からも小さな羽根が生えている。何より全裸な事と、下半身が魚じゃない事に俺は特に驚いた。


「予想とは違ったけど…すっげぇ美人」


「見蕩れて惚けるなよ、あれでも魔獣だ」


「わ、わかってるよ」


『~~♪』


歌声と共に、今度は弦から奏でられる音も乗ってくる。


「呑気に弾きやがって…余裕ってか」


「男さん!レオーネ!」


「アレス…無事のようだな」


「うん。ここからはセイレーンの特性に気を付けて、何が起きるか分からないから」


「特性……アレスの雷雨みたいなやつだよな」


「そうだね。恐らく音関係だと思うけど、いつ仕掛けて来るかが分からないね」


「おっかねぇなぁ……」


風呂敷を広げ過ぎて畳めなくなる気がしてきた
この話し終わったら一旦打ち切るかも

楽しみに読んでたから残念だけど>>1の判断を尊重します

マ?
楽しいからもしこれを畳んでも別の世界でもいいからまたやってほしいな


セイレーンは俺達に構う素振りすら見せず、ただひたすらに弾き続ける。


「なぁアレス…さっきの天衣は使わないのか?」


「残念だけど……術式を展開する魔翌力を蓄積しないといけないからね、しばらくは……」


「そっか。俺のせい…だよな、すまん」


「気にしないで。また溜めれば良いんだしね、男さんのせいじゃないよ」


「アレス……男だけど惚れちまいそうだ」


「そう言われると悪い気はしないね」


「はぁ…もうツッコまないからな…」


魔獣と対峙してるとは到底おもえない雰囲気。だが、軽口が叩けるのはまだ余裕があるという事だ。


「さて、どう攻めようかな」


「あんな所に居られちゃぁなぁ……」


「まずは試してみるか」


「試す?」


「射抜け」
「貫け」


2人はいきなり、ほぼ同時に魔法を放つ。アレスの手からは雷の槍、レオーネからは火の槍。セイレーン目掛けた魔法が近くまで行くと、あらぬ方向へと逸れてしまう。


「お前らさ…やるならやるって言ってくれよ…」


「ごめんごめん。でも…魔法障壁か、厄介だね」


「全く面倒だな、直接斬るしかないか」


「斬るったってなぁ…どうにか下に降ろさないと駄目じゃないか?」


「そうだね。セイレーンの攻撃手段も分からないし、挑発して遠距離攻撃されたら無事じゃ済まない」


「男、君はセイレーンに詳しいんだろ?何か知らないのか?」


「え?そうなの?男さん」


「いや詳しくは無いって。たまたま知ってる事があっただけなんだよ」


「そうだったのか。むむ…それでは打つ手がないな」


「真空刃は?魔法じゃないし、ここから撃ちまくるとか」


「アリだけど、それだと威力が相当堕ちてしまうよ」


「そうかぁ……じゃあ逃げる?何か俺達に興味無さそうだし」


「無理だ。セイレーンを倒さなくては退路は無いぞ」


「うん。もう僕達は、セイレーンの領域に閉じ込められてるんだ」


「領域…?」


「魔獣はね、敵対する獲物を自分の領域に閉じ込める事が出来るんだ。男さんには見えるかな?広範囲を覆う魔力結界が」


「ん~?」


全く見えない。


「あ、そうだ」


俺は魔眼を発動してみた。その効果はあり、ドーム状に薄い幕か張ってある。


「見えたわ、なるほどね。逃げる選択肢は無いって訳か」


「男さん……その目は?」


「私と始め対峙した時にも、その目になっていたな?」


「ああえっと……あははは…」


「…言いにくいみたいだね、なら僕は詮索しないよ。僕も目に関しては人のこと言えないしね」


「私も深くは聞かない。隠し事の一つや二つある方がら魅力があって良いものだ」


「え、まさかレオーネ…」


「斬るぞ」


「こっっわ、冗談じゃん…」


「あははは。まぁ、男さんが話せる時に話せば良いさ」


「ああ、ありがとう」


「本題に戻るぞ。セイレーンの気を引く方法だ」


「うーん……あいつさっきから歌って弾いてるだけだけど、領域はしっかり張ってるんだよなぁ…」


『~♪』


「うん、でも綺麗な歌声だよね」


「これから戦う相手を褒めるなよ、分かるけど」


「だよね!」


「君達は…はぁ…」






セイレーンの気を引く手段

安価下
安価下2

一緒に歌ったり踊ったり草笛を吹いてみたりする

容姿をほめる


「なら…女性を煽てるみたいに容姿を褒めてみない?」


「え?」


「何を言っているんだ君は、奴は魔獣だぞ」


「でも他に策も無いだろ、何でもやってみようぜ!」


「本気で言ってるのか…君は」


「突拍子も無い案だけど、魔獣は未知な事が多い。もしかしたら本当に気を引けるかもね」


「だろ~?そうと決まれば早速褒めちぎろうぜ!」


『~~♪』


「セイレーン!綺麗!美しいー!可愛いぞぉぉ!!」


「端麗なるセイレーンよ!貴女の麗しき姿容を、僕の目に留める事を差し許してほしい!」


『……』


「おい、セイレーンの手が止まったぞ!」


『~~♪』


「駄目か!ほら、レオーネが言わないから!セイレーンが機嫌を損ねた!」


「なっ!馬鹿を言うな!私はやらないからな!」


「でも何故手を止めたのかな、本当に効果があったとか?」


「ほら、やっぱ魔獣でも中身は女性って訳よ。レオーネは分かってねぇなぁ……」


「この…!」


「うおぉ!剣を向けるな!」


「まあまあ……うーん、容姿を褒めるのは駄目みたいだね」


「良い案だと思ったんだけどなぁ」


「私は良いとは言ってないぞ」


「……お、ならこれはどうだ?」


俺は近くの森から固めの木の葉を広い、先から軽めに巻いていく。


「それは何だい?男さん」


「巻き笛って言ってな──」


筒状になった片方を潰し、口に咥える。息を吐くと、低くて大きな音が鳴る。


「おお、凄いね!葉でそんな事が出来るんだ!」


「…そんなものをどうするんだ?」


「セイレーンの歌と演奏に同調しよう作戦」


「え?」


「なに…?」


「一緒に歌って踊って演奏して、セイレーンの気を引いてやろうぜ!」


「それ良いね!」
「何をまた………アレス!?」


「だろ~?」


「レオーネも良いと思わない?」


「思わない。やらないからな」


「巻き笛くらい吹いてくれよ~」


そう言うとレオーネは黙って自分の顔を指す。


「仮面の下は見せられない的な?」


「いや、レオーネの──むぐっ!?」


アレスの口をレオーネは無理矢理閉じる。


「見せられないんじゃない、見せたくないだけだ」


「じゃあ後ろ向いてて良いから協力してくれよ」


レオーネはアレスの口から手を離し、少し考える素振りをする。


「…僕からも頼むよ、レオーネ」


「…………はぁ…絶対に見るなよ」


仮面の下は、醜いのか傷だらけか。男か女かハッキリしないしイケメンか美人の可能性もある。いつか見てみたいな。


「OK。じゃあ頼む。アレスは踊れるか?」


「クレアと良く踊っていたよ。一人では踊った事はないけど、やってみる」


「よし。じゃあ俺は歌ってみる、DAMで90点以上取ったことあるし!」


「ダム…?」


「河川や渓流を堰き止める巨大な建造物の事だろう。点数の意味は分からないが」


「ごめん、気にしないで…」



役割を決めたら俺は発声練習を、アレスは軽くステップを踏み、レオーネは背を向けて巻き笛を鳴らす。
準備が整ってきたのでセイレーンの歌や音を無視して、アレスは踊り、レオーネは適当に鳴らし、俺はセイレーンの声に負けない声量でアニソンを歌う。


『…………』


数分やっていると、セイレーンの動きが止まった。俺達を見るその表情は不思議そうで、気を引くのには成功したようだ。
作戦は功を奏し、セイレーンが降りてくる。

ものの数歩で剣の間合いに入る距離、地面からほんの少し浮いた状態で俺達と一緒にセイレーンは歌い、奏で始めた。
俺はアレスに目線を送り、アレスも頷く。


「ラスティア流……」


アレスは踊り流れから背に差した大剣に手を伸ばし、抜剣の構えに移行する。レオーネも仮面を付けて既に巻き笛は捨てていた。


「…紫電一閃」


雷が落ちる音と共に紫色の電光がセイレーンを突き抜ける。その背後には大剣を振り抜いたアレスが居た。


「すっげ…」


『~~~…』


切り裂かれた筈のセイレーンは何かを呟き、悲しそうな顔をする。


「効いてない…のか?」


「アレスならばと思ったが…やはり魔獣を一振で倒すのは難しいか」


レオーネは俺の前に出て、構える。


『~~…~~~』


「…!マズい!何か来るよ!」


アレスはセイレーンから飛び退き、俺とレオーネは様子を窺って息を呑む。


セイレーンはハープを今までの心地の良い音色とは違い、身体の芯を刺激する様な音色を奏で始める。


「っ!!?」


頭を鈍器で殴られた様な痛みが走る。立っていることも出来ず、俺達は字面に膝をつく。


「頭が割れそうだ…!何だこれ…!」


「ぐっ…!これが…奴の特性か!」


頭痛は収まらず、継続する。このままでは気が気で無くなり、狂ってしまう。すぐそこに居るセイレーンがとても遠くに感じられ、焦りが生まれる。


「気を付けて皆…!───ぐあっ!!」


すぐ近くに居たアレスはセイレーンに蹴飛ばされて遠くへと吹き飛んで行った。


「アレス!……ぐぅっ!!……くそっ!動けね…!」


身体を動かそうとすると、ただでさえ激痛なのに更に上回る激痛で動きが止まってしまう。この中動いたら意識が切れるのは間違いない、気絶するという事は死を意味する。


『~~…』


「何言ってっか…!わかんねぇって……!!」


ついには地面に這いつくばってしまう。その時見えたセイレーンの、アレスに斬られた傷は既に癒えていた。


「うそ…だろ…!?」


「くっ!!……ここまでだと…言うのか!」


「馬鹿言うな!…まだ!……まだ…何か…!」


「身動きが…取れなくては…!どうしようもない……だろう!」


「そうだと…しても!!」


俺は這いつくばったままレヴァンテインの力を解放する。意味が無いと分かっていても、何もしないよりは良いからだ。


「訳も分からずこの世界に来て…!」


身体が軽くなっていく。


「その答えも知らないまま……さぁ!」


全身を震わせながら、次第に身体を起こす。


「男…!?」


『…………!』


「まだ、死ねねぇんだよ!!」


俺は、立ち上がった。右手にはリネル村で見た、漆黒の篭手が装着されている。


「男……やはり君は……伝説の…!」


「はぁ…はぁ……!」


『~~!』


セイレーンはハープを更に強く弾くが、俺には効かなかった。


「効かねぇよ…!」


俺は地を蹴り、飛び付くようにセイレーンのハープを掴む。


「まずは…こいつから!」


『~~~!!』


セイレーンは振りほどこうと抵抗するが、俺は篭手に力を込めるとハーフは粉々に砕け散る。


『~~!?』


「…まだ終わりじゃねぇぞ!」


俺は力いっぱい手を握ってセイレーンの横っ面を殴り、湖の中央までセイレーンを吹き飛ばす。


「はぁ…はぁ…!」


水面に浮かぶセイレーンは微動だにせず、脱力している様子だ。


「やった…のか?男。それにその腕の篭手は…」


ハープの音が消えたことによってレオーネは立ち上がれる様になっていた。顔を抑えて所を見ると、まだ頭痛がするのだろう。


「レオーネ……言っちゃ駄目な事言ったね」


「…は?」


激しく水面を叩く音がした。セイレーンは生きていて、空へと逃げるように飛び去っていく。


「ほらね」


「いや…意味が…」


「男さん!レオーネ!」


吹き飛ばされたアレスも立ち上がって、こちらへと駆け寄ってくる。


「大丈夫か?蹴られただろ」


「これが無かったら…危なかったかもね」


アレスはボロボロになった鎧を叩く。たったの一撃で鎧がこんなにも大破するのか、直で受けたら……想像したくもない。


「奴の武器は潰したが…どうする。もう降ろすのは無理だ」


「俺に任せて」


「男さん…?」


セイレーンは武器を破壊され、怯え、震え,恐怖に呑まれた事だろう。ならばこそ、俺のもうひとつの必殺技が光るのだ。
俺は飛び上がるセイレーンを見据えて、手を向ける。


「何を…?」


「…じゃあな、セイレーン」


ぐっ、と手を握ると、セイレーンの身体は闇に呑まれてしまう。


「なっ!?」


「今…何をした…?」


「俺の…必殺技、的な」


闇が消え去り、セイレーンは湖へと落下する。覆われていた領域も消え去り、絶命したのを確信した。


「……ふぅ…勝った……な」


安心から、ドッと疲れが押し寄せてくる。俺は膝から地面に倒れ込んでしまった。


「男さん!?」


「男!!」


アレスとレオーネが俺の名を呼ぶが、返事は出来そうにない。視界が閉じていき、次第に何も聞こえなくなった。







「……んん……あれ…寝てたのか……俺」


セイレーンに勝利した後、すっかり寝てしまっていたみたいだ。


「んん?…ここは……何処だ?」


いつの間にか、俺は知らない部屋のベットで寝ている。メルヴィス湖からここに来るまで寝てたって事か。
内装を見て思ったのは豪華絢爛という言葉が似合う室内に、俺は何となく思い当たる節があった。


「……クレアの…家?」


確証は無かったが、王族王家の部屋はこんななのだろうという何となくイメージがあったので、もしかしたらと思ったのだ。


「……ん?」


どこからか話し声がする。次第に声は大きくなり、声の主はドアを空けてきた。


「だから、別にそんなんじゃないって言ってるでしょ!」


「分かったよ。クレア怒ってる?」


「怒ってない!」


部屋に入ってきたのはアレスとクレアだった。


「あ、男さん!目が覚めたんだね!」


「お、おう…なんとかな」


「ようやくおきたのね、丸一日寝てたわよ」


「マジで?そんなに?」


「急に倒れて目を覚まさないから心配したよ。身体は大丈夫?」


「ああ、特に問題は無さそうだ」


俺は肩を回して見せ、それを見たアレスは安堵の息を漏らす。


「あれからどうなったんだ?戦争とか」


「勝ったよ。男さんが倒れた後すぐレオーネが手当てしてやれって言ってくれてね、決着はどうするのか聞いたら自分の負けでいいって」


「へぇ~…レオーネがそう言ったんだ。まぁでも…勝ったのか……魔獣も相手して…生きてるのが不思議だな」


「…大活躍だったみたいね、私からもお礼を言うわ。ありがとう、男」


「何かクレアに言われるとくすぐったいな」


「あはは!わかるわかる!」


「ちょっと!どういう意味よそれ!」


「ごめんごめん。クレア、少し外してもらえるかな?男さんと2人で話したい事があるんだ」


「私には聞かせられない話なの?」


「そうだね、内緒のお話」


「……ふん。好きにしなさい、私は外で待ってるわ」


クレアは踵を返し、部屋を退出する。二人きりになると、アレスは椅子を俺の居るベットまで持ってきて座った。


「で、話ってなんだ?」


「まず話しておく事があるんだ、良いかな?」


「ああ、良いけど…」


「ありがとう。実はね、ある御伽噺の事なんだけど」


「御伽噺…?」


「これは誰もが知ってる物語なんだけど、全部話すと長いから要約しちゃうね」


「あ、ああ…」


「カンタンに言うと、災厄が蔓延る世界に、異質なる者が世界を救うって話なんだ」


「……へぇ」


「その物語の主人公、異質なる者にはある特徴があったんだ」


「……異世界から来たとかか?」


読めてきた。今俺にこんな話をするって事は間違いない。


「…正解。でも、もうひとつある」


「もうひとつ…」


「……大精霊の力を借りて初めて可能となる御業。上位展開術式、神衣」


「……!」



「男さんの装備していたあの篭手……この世のあらゆる物質から出来た物じゃない……あれは…あの悍ましい程強大な霊力は……あの時の……」


「……」


「改めて聞くよ。男さんは何者?……そしてあの篭手は、もしかして神衣なのかな?」


「いや…あれは不完全だ。まだ俺には神衣は出来ない」


「…!やっぱり…男さんは……」


「悪い、俺の知ってる事を話すよ」


アレスは手を突き出して、俺の話を制止させる。


「いや、話さなくて良いよ。聞きたい事が聞けた、僕はそれで十分。男さんが異質なる者だとしても、男さんは男さんだからね」


「でも…」


「ひとつやふたつ、秘密がある方が魅力的だよ?」


「お前……ははは、そう言われちゃあ仕方ないな…」


「うん。それで、男さんはこれからどうするんだい?」


「……そうだな…」






今後の目的、方針
安価下

世界中を巡る


「まずは…世界を巡るよ。俺には知らないよね事が多すぎるからな」


「…そっか。うん、良いね。僕も男さんの旅路の無事を祈るよ」


「大袈裟だよ、ただの旅行みたいなもんだって──おんっ!?」


突然アレスが俺の手を握るので、変な声が出てしまった。


「せっかく男さんと出会えたけど、寂しくなるね。助けが居るならいつでもメリルに来てね、協力するよ」


この爽やかイケメンが…こうやってクレアも落としたのか?不覚にもドキッとしてしまった。


「あ、ありがとう……」


アレスは嬉しそうに微笑むと手を離す。


「あ、外に男さんの馬を用意してあるからね。支度ができたらいつでもどうぞ」


「そうか。色々とすまないな」


「これくらいお安い御用だよ。それじゃ、またいつか……何処かで」


「俺もお前達には世話になった。またいつか会おうぜ」


「うん。楽しみにしてるよ」





身体に異常無し、着替えを済ませて荷物を確認し、旅立つ準備をする。使用人から話を聞くと、ここはメリル町の近くにあるクレアの別荘らしい。

クレアの計らいで食事をさせてもらい、俺は外に停めてある馬の手綱を外す。


「良い天気だなぁ…」


馬を引きながら、空を見上げる。



「冒険にはもってこいの日だな」


俺は馬に跨り、果てしない旅へと向かう。




ここまで本当に色々あった。



死にかけた俺は、何故転生したのか



意味は、きっとある



でもそれは、俺自身でしか見つけられない



なら、探すしかないよな



この広大な世界を回り





その答えを、見つけるんだ。





…………………………

……………………

………………

…………

……







「君は何者なんだ?」





「俺は異世界から転生した者だ」








投げっぱなしで申し訳ない
ここまで読んでくれた肩、ありがとうございました
しばらくは二次創作の安価かSSをやりたいと思います

乙です。次回作楽しみに待ってます。

おつおつ
楽しかった
まちのむ

おつ

おつ
セイレーンがちょっと可哀想だった
闇に飲まれた先があの城だったとか
いつか続きが読んでみたい

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