――12月23日――
――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「だからっ、逃げないってば……!」
高森藍子「じ~」
加蓮「逃げないって……。だから隣じゃなくてあっち座ってよ。落ち着かないんだけど!」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1577176009
レンアイカフェテラスシリーズ第99話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「のんびり気分のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「違うことを試してみるカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「12月中ごろのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「寒い冬のカフェで」
※このお話は、
第40話『北条加蓮「藍子と」高森藍子「瑞雪の聖夜に」』
北条加蓮「藍子と」高森藍子「瑞雪の聖夜に」 - SSまとめ速報
(ttps://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482571837/)
第41話『北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で よんかいめ」』
北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で よんかいめ」 - SSまとめ速報
(ttps://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483090417/)
を読んで頂いてから進まれることを推奨します。
前回のあらすじ:加蓮は久しぶりに、昔お世話になっていた看護師に会うと決めたようです。
藍子「本当ですか?」ジー
加蓮「ちょ、近っ」
藍子「じ~」
加蓮「ああもう! 離れ、な、さい!」グイー
藍子「きゃ」
加蓮「もうっ……なんで今から疲れさせるのよ……。これからもっと疲れることが待ってるのにさぁ……」
藍子「……」
藍子「……じ~」
加蓮「離れろぉ!」グイー
藍子「きゃっ」
加蓮「なんなの、なんなのアンタ……! 何がしたいの……!」
藍子「何って……。加蓮ちゃんを近くで見るの、楽しいな、って♪」
加蓮「……はぁ。もう。分かったから、それは別の日にして?」
藍子「はぁい」
加蓮「ほら、あっち。向かい側。ほら、行きなさい」
藍子「ふぇ?」
加蓮「……」
藍子「……?」
加蓮「いや、"?"じゃなくてっ。分かったんでしょ? ならほら、あっちの席」
藍子「さっきのお話は、加蓮ちゃんを近くで見たらダメっていうお話です。だから隣に座るのは、また別のお話ですよね?」
加蓮「そーいうのいいから! あっちいけっ」
藍子「加蓮ちゃんが逃げ出さないか、見張っていないといけませんから」
加蓮「ここまで来たらもう逃げないわよ!」
藍子「モバP(以下「P」)さんからも言われてますっ」
加蓮「なんでよ。依頼とか会うこととか受けても受けなくてもいいって言ってくれたのPさんでしょ!」
藍子「加蓮ちゃん。受けるか受けないかを選ぶのと、受けた後で逃げるのとでは、お話が違いますよっ」
藍子「会うって約束したのに、その約束を破っちゃうのは、最初から会えないって言うことよりも悪いことですっ」
加蓮「ぐ……。また反論できないことを――」
藍子「と、Pさんが加蓮ちゃんに言うようにって♪」
加蓮「だから逃げないって……。PさんもPさんだよ、なんでそういうとこ信じてくれないの!」
藍子「信じていないって訳ではないと思います。でも、加蓮ちゃんが恐がり屋さんだってことは、私もPさんも知っていますから――」
加蓮「誰が恐がりだって??」グワッ
藍子「わあ……だ、だってそうじゃないですか! 加蓮ちゃんの、恐がりさんっ」
加蓮「アンタにだけは言われたくない!」
藍子「Pさんだって言ってましたもん!」
加蓮「Pさんにだって言われたくないわよ。すぐ私の心配ばっかりしてっ。そっちだって恐がりでしょうが!」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……とりあえず、ちょっと離れよっか」
藍子「は、はい。そうですよね」
加蓮「ふう……」
藍子「ほっ……」
加蓮「……えーと、あと5分くらい?」
藍子「加蓮ちゃん。約束の時間は13時ではなくて、13時5分ですよ」
加蓮「そ、そうだったよね。じゃああと10分」
藍子「それにしても、5分って約束をするなんてマメな方なんですね」
加蓮「そーいう人なの。そのくせ人のことにはそんなに口出ししてこなくてさー」
藍子「ふんふん」
加蓮「なんていうか、すごい自分に厳しい人なんだよね。……いやまぁ逃げようとしてた私を捕まえる時だって鬼の顔してたと思うけど」
藍子「あはは……。でも、優しい方なんですよね?」
加蓮「まぁね。患者の、特に子供のことをいっつも気に――」
加蓮「ってなんで藍子が知ってんの。ほとんど話したこともないでしょ」
藍子「ほら、前のクリスマスの時の。写真、私に預けてくれましたよね?」
加蓮「うん」
藍子「映っている顔を見て、あっ、この人は優しい人なんだっ、ってすぐに分かりました」
加蓮「写真で?」
藍子「はい。そうですね……加蓮ちゃんは、お話している相手の気持ちを読み取るのが得意ですよね」
藍子「それと同じで、私、写真に映る人の気持ちや人なりを思い浮かべるの、けっこう得意なんですよ」
藍子「あっ、でも……優しそうな方だったけれど、少し、厳しそうな方にも見えたかな……」
藍子「だ、大丈夫ですよね。怒られたり、しませんよね……?」
加蓮「私はともかく、藍子が怒られる理由って何もなくない……?」
藍子「加蓮ちゃんがそういうお話ばっかりするからっ」
加蓮「……あの看護師さんが鬼になるエピソードって、そんなに話したっけ」
藍子「前にも言ったと思いますけれど、加蓮ちゃんが色んなお話をするから、私、病院がまるで牢屋みたいに思えてきて……」
藍子「加蓮ちゃんではありませんけれど、私も最近、病院にはぜんぜん行っていないんです」
加蓮「まあ、あんなとこ行く必要がないなら行かなくていいでしょ」
藍子「確かに……? あっ、でも、例えばインフルエンザの予防注射とか、大事ですよね。インフルエンザになったらお散歩できませんし、学校にも、事務所にも行けなくなってしまいます」
加蓮「対策してればインフルなんてかからなくて済むわよ」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「っていうか、藍子ってインフルとかかかったことあるの? 風邪引いてるイメージもないけど」
藍子「インフルエンザは、ちいさい頃に1回だけ……。風邪は……そういえば?」
加蓮「じゃあいいでしょ、それで」
藍子「いいんでしょうか……?」
加蓮「……自分が元気であることに疑問を持つ子は初めて見たなぁ」
加蓮「あと3分――」
藍子「そろそろ、外で待っていますか?」
加蓮「……そうしよっか。あの人のことだから、たぶんぴったりに来ると思うけど……外の寒さにも慣れておかなきゃね」
藍子「もし、どうしても寒くなったら――」
加蓮「言っとくけど。どういう流れになっても、中には絶対入れさせないからね!」
藍子「くすっ。分かっていますよ。だから、」ガサゴソ
藍子「はい、加蓮ちゃん。カイロ、いっぱい用意してきましたっ」スッ
藍子「2つは、もう暖めておきましたから。これ、両ポケットに入れてください」
加蓮「さんきゅ」
藍子「それから……あっ、店員さん♪ はい、すっごくいいタイミングです!」
藍子「加蓮ちゃん、あたたかいお茶を紙コップに入れてもらいました。ぜんぶ飲めば、冬でも1時間はぽかぽかでいられるそうですよ♪」
加蓮「店員さんもさんきゅ。ちょっと行ってくるね」
藍子「私も行ってきますっ」
――カフェの外――
加蓮「……長椅子が置いてある」
藍子「店員さんに、腰掛けてお話できる椅子はありますか? って聞いたら、テラス席の物を貸してくれました」
加蓮「超準備万端じゃん。……っていうか、カフェにこんな椅子あったっけ?」
藍子「? 店内との出入り口のすぐ横に、いつも置いてありますよ」
藍子「ほら、ここ、ここ。文字パネルで、"おかえりなさい"って書いてますっ」
加蓮「ホントだー。かわいー♪ “り”の字の後に小さいツリーのパネルがあるね」
藍子「こんなところにも、クリスマスがありましたね♪」
加蓮「これ、もしかして手作りかな?」
藍子「もしかしたらそうかも……?」
藍子「ふんふん、カフェの椅子は手作り……っと」
加蓮「? ここのことコラムにでも書くの?」
藍子「ううん。最近、カフェの細かい工夫とか、装飾を見るのにはまっているんですっ」
加蓮「へー。面白そう」
藍子「加蓮ちゃんも一緒にやりませんか? ほら、加蓮ちゃん、手先が器用ですから。こういうのも、いっぱい見つけられそう♪」
加蓮「器用さと関係あるのかなそれ――」
「加蓮ちゃん」
加蓮「っ……」
藍子「……」
「久しぶり、加蓮ちゃん」
加蓮「……久しぶりだね、看護師さん」
……。
…………。
「ここが行きつけのカフェ……。加蓮ちゃんから、カフェの前で、って言われた時にはびっくりしちゃった」
加蓮「……ふふっ。昔の私からは想像もできない?」
「うーん……」
「そうなのね、ってくらいかな」
「でも、本当によかった。加蓮ちゃんが、そういう子になれて。……改めて言うことじゃないっか」
加蓮「……今さら何言ってんの。私は元気にやってるってこと、知ってるでしょ」
「……」
加蓮「……」
「……」
加蓮「……」
「……そういえば、今日もそっちの子……藍子ちゃん、だったかな? 今日も一緒なのね」
「藍子ちゃんも、お久しぶり」
藍子「あっ、……お久しぶりですっ」
「あぁ、急に言われても困っちゃうわよね。ほとんど話もしてないのに」
藍子「そんなこと――ええと……」
「?」
藍子「お……」
藍子「……お邪魔してます?」
「えっ?」
加蓮「は?」
藍子「あ、あははは……。その……やっぱり加蓮ちゃんと2人でお話したかったのかなぁって……」
藍子「もし私がお邪魔なら言ってくださいっ。カフェの中で待っていますから」
「あ、あー……そこはこだわらないけど……」
加蓮「変な子でしょー」
藍子「むっ」
「加蓮ちゃん。あなたを支えてくれた女の子でしょ。そういう言い方は、良くないんじゃないかな?」
加蓮「……まあね」
藍子「……?」
「どうして分かったのかって? そうね……。なんとなく?」
加蓮「……こーいう人なの。藍子も気をつけなよ? ちょっと隙を見せるだけでね、全部持っていかれるから」
「そんなことしないわよー。するのは、加蓮ちゃんにだけ」
加蓮「私にもすんなっ」
藍子「くすっ♪」
加蓮「で、さ。とりあえず……私に何の用だったの? 会いたい、って……」
「……」
加蓮「正直もう話すことなんてなくて、っていうか会うこともないって思ってたし……会いたいとも思ってなかった」
「でも、会うって言ってくれたのね」
加蓮「……その辺の話はこの子――藍子とした後だから、もういいよ」
加蓮「とにかく、今さら私に何の用事? なんか話したいことがあったんでしょ」
「そうね……。話したいこと、は色々あったけど」
「今、話したいことがあるのは加蓮ちゃんの方じゃない?」
加蓮「っ」
「どうして分かったのかって……なんとなく?」
藍子「加蓮ちゃんの考えていること、分かるんですね……」
「まあね。加蓮ちゃん、分かりにくい子だけれど……私も、一緒に長くいたから」
加蓮「…………」
「さあ、加蓮ちゃん。お先にどうぞ」
「あなた達が……加蓮ちゃんがお話を教えてくれるの、大好きだから。教えてほしいな?」
藍子「加蓮ちゃんのお話を?」
「ええ。患者さん……特に子供の患者さんは、気持ちをなかなか教えてくれないのよ」
「特に加蓮ちゃんはね。昔から、自分の気持ちを全部閉じ込めちゃって」
「教えて? って言っても、全然教えてくれないの。代わりに出てくるのは嘘の言葉ばっかり」
「アイドルのお話の時だけだったな、加蓮ちゃんから色々教えてくれたのは」
藍子「…………」ジトー
加蓮「な、何。昔の話だってば……っていうか昔話ばっかりするのやめてっ」
「はいはい、ごめんね? でもそれ、加蓮ちゃんが言うのかしら」
加蓮「え?」
「加蓮ちゃんのことだもの。昔話をいっぱいして、藍子ちゃんを困らせてたりしているんじゃないの?」
加蓮「~~~~っ!?」
藍子「そ、その通りです。そんなことまで……?」
「くすっ。なんとなく?」
加蓮「あ、あのさぁ! その……昔の話! すごく聞きたいって訳じゃないんだけど、……教えて!」
「はい。なぁに?」
加蓮「私っ……私、あなた以外の大人のこと、全然知らなくて」
加蓮「ただ、私に嘘しかつかなくて、私のことなんて見てもくれなくて、みんないなくなっちゃえ、みんな敵だ! って思ってて――」
加蓮「それは……私がそう考えてたってことは、知ってるでしょ?」
「えぇ、そうね」
加蓮「でもさ。藍子が、もしかしたら違うかもしれないって」
加蓮「……その……今回の依頼のこととか、前の私のお願いを引き受けてくれたりとか、ひょっとして、みんな……その、悪く、なく――」
加蓮「悪く……。病院の人――」
藍子「……加蓮ちゃんっ。おちついて。がんばって?」
加蓮「……うん」
加蓮「病院の人っ! 病院の人達は……私のこと、どう見てたの? どんな子だって思ってたの?」
「…………」
加蓮「藍子に言われたの。昔の私は今ほど賢くなくて、周りをちゃんと見ることもできなかったんじゃないか、って」
加蓮「だからもしかして、私が思い込んでただけかも、って」
加蓮「私も……そうかも、って思う。今なら……思えるの」
「…………」
加蓮「……病院は、暗くて冷たくて、聞こえてくる音も声もぜんぶ無機質で機械みたいで、私にとっては牢屋と同じような場所だった」
加蓮「アイドルになってから、世界には暖かいものがいっぱいあるんだなって気付いたけど……」
加蓮「ひょっとしたら、あの牢屋の中にも……あなたたちにも、私が見つけれてないだけで、もっと何かあったのかな、なんて……」
「…………」
加蓮「あのっ。けど、これっ、……藍子に! 藍子に言われて、もしかしたらそうかもー? って、ちょっと考えただけだから!」
加蓮「別にっ、ないならないでいいし! っていうかもし仮にあったとしても! 別にアンタも、病院の奴らのことも、病院もぜんぶ! 嫌いだからね。今でも大っ嫌い!」
加蓮「プレゼントを配るのだって、別に引き受けるって決めた訳じゃなくて!」
加蓮「えと、……そのっ!」
加蓮「あんただって! 私のこと、どう見てっ――」
「…………」
藍子「か、加蓮ちゃん。少し、落ち着きましょ? ほら、看護師さんも困っちゃってますっ」
加蓮「だって! っ、困ればいいのよこんな人。私なんてその何百倍もあれだったんだから!」
「くすっ」
加蓮「……は?」
藍子「えっ?」
「ありがとう、藍子ちゃん。でもいいの」
「そういう本音を聞くのが、嬉しいから」
加蓮「……。……言ってることぐちゃぐちゃで、ごめん」
「大丈夫。ちゃんと、分かるから」
「小さい頃のあなたが、なかなか教えてくれなかった気持ち」
「大きくなったあなたから聞けることも、先生、すごく嬉しいな」
加蓮「……」
「そうね……。どこから話しましょう?」
「病院の人達が、加蓮ちゃんのことをどう見ていたか、よね?」
「正直に……うん、言ってもよさそう」
「正直に言うなら、かなり扱いに困っていたわね」
加蓮「っ…………。あ、あははっ……予想通りの解答、ありがと……」
藍子「加蓮ちゃん――」
加蓮「大丈夫。……続けて」
「加蓮ちゃんをどうすればいいのか、どう話しかけたらいいのか。私も含めて、みんなずっと困っていたわ」
「病院に来たばかりの頃の加蓮ちゃん、他の子と比べても、本当に気持ちを表に出さない子だったから――」
藍子「病院に来たばかりの……?」
「ええ。アイドルに憧れる前から、加蓮ちゃんは病院にいたの」
「テレビで見たアイドルに憧れる、それよりもさらに前。加蓮ちゃんは、本当に何1つとして感情を見せない子だったの」
「……ううん、敵対心だけはあったかな。私たちのこと嫌いなんだな、っていうのは分かった」
藍子「アイドルに憧れる前の、加蓮ちゃん……」
加蓮「…………」
「これは、さすがに話してないのね」
加蓮「……話すことじゃないし」
「それもそっか」
「敵対心を持たれることは、不思議でも何でもなかった。私たち、そう思われ慣れてるものね。子供はみーんな、私たちを敵だと思っちゃう」
「ただ、そういう子だって……絶対に、他の何かを持っているの」
「好きなこととか、興味のあることとか」
「でも、入院したばかりの頃の加蓮ちゃんには、そういう物が全くなかったのよ」
「加蓮ちゃんにはどう接すればいいのか、ほとんどの人が分からなかった」
「……正直に言えば、私も。最初は、本当にどうしようもなかったわね」
「少し経って、加蓮ちゃんがアイドルを知ってからは――」
「加蓮ちゃん、いっぱいアイドルの話をしてくれたわよね。テレビの中の、きらめく姿のこと」
加蓮「え、そんなに話したの……?」
「覚えてない? 話が盛り上がって、検診の時間が少し過ぎてしまったこと、何回もあったのよ?」
藍子「……加蓮ちゃん。忘れているだけで、やっぱり楽しかった思い出だってあるんじゃないですか」
加蓮「うぐ……。ほ、ほら、その……嫌な思い出しか記憶に残ってなくて」
「ただ、……そうね。ごめんなさい」
「私は、加蓮ちゃんとお話するくらいのことはできたけど……他のみんなは、何もなかった頃の加蓮ちゃんのイメージが強すぎて」
「どう話しかければいいのか、どう接したらいいのか全く分かっていなかったの」
「加蓮ちゃんも、私以外にはアイドルの話、ほとんどしていなかったみたいだから……」
加蓮「…………」
「だけど、みんな気にはしてた」
「加蓮ちゃんが、どうすれば元気になってくれるか。どうすれば笑顔を見せてくれるか」
「同僚から頼まれたこともいっぱいあるわよ? お前にならまともに会話してくれるだろうから、って」
「例えどんな相手でも――」
「患者の笑顔を求めない人なんて、病院にはいないから」
加蓮「…………」
藍子「……、」
加蓮「アイドルに憧れる前のことは……ホントにほとんど覚えてない。ただ、何もなかったことだけは覚えてる……。何も見たくなくて、誰1人、私の味方なんていないって思い込んでて――」
加蓮「……そうなんだ。そんな私のことも、気にしてくれていたんだね」
「……ふふ、素直に信じるの?」
加蓮「……うん」
「そう。そっか……」
「……上手く接してくれなかった人達のこと、恨んでる?」
加蓮「……別に、恨んで……」
加蓮「……嫌いってだけで、恨んでるかって聞かれたら……」
加蓮「それは……どう、答えたらいいのかな。あははっ……ちょっと分かんないかも」
「……」
加蓮「……」
「……」
加蓮「……」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「……ん?」
藍子「それに、看護師さん」
「何かしら?」
藍子「今のお話って……今はどうなんでしょうか。あの……今のお話を聞いて、1つ思い出したことがあって」
藍子「加蓮ちゃん。加蓮ちゃんがプレゼントを渡してあげた相手に、加蓮ちゃんに似た子が――」
藍子「あっ。3人目の、加蓮ちゃんがお話した女の子じゃなくて。2人目の、趣味もほとんどないっていう子……」
加蓮「……! そうっ、あの子とかって今どうなの!?」
加蓮「あなたの話通りならあの子、昔の私と同じ扱われ方してるんじゃ……!」
「あら……」
「加蓮ちゃん、とても優しい子に育ってくれたのね」
加蓮「そういうのいいから!」
「ふふ。ごめんなさい」
「あの子はね……今も入院中。身体も浮き沈みで、一時退院もなかなかできない状態ね」
藍子「そんな……!」
加蓮「っ……」
「でも」
「話してくれることは増えたのよ」
加蓮「……え?」
「ここから先が、今日、私が話したかったこと。加蓮ちゃんに伝えておきたかったことなの」
加蓮「……」
藍子「……」
「退院して、アイドルになった加蓮ちゃんを見て、多くの人がびっくりした。医者も、看護師も」
「だって、加蓮ちゃんがアイドルに憧れてることすら、知らない人の方が多かったから」
「何も持っていないような、敵対心以外の感情を見せることのなかった女の子が」
「いつの間にか、こんなに煌めいていて……情熱的に歌っている、って」
加蓮「……」
「それから多くの人が申し訳ないって思ったり、後悔したり……。こんな強い気持ちを持っていた女の子を、ちゃんと見てあげなかったって」
「ちゃんと、夢を持っていたんだ……って。ほっとした人もいたっけ」
藍子「……」
「それでね。しばらくしてから加蓮ちゃん、サンタクロースになって病院の子供達にプレゼントを配りたいって言ってくれたでしょ?」
「知っていると思うけど、あのプレゼントね。子供達、みんな大喜びで……」
「だけど喜んだのは、子供だけじゃなかった。大人達もなの」
「加蓮ちゃんは大きく成長したけど、ここのことも忘れないでいてくれる。嫌な思い出しかないだろう場所だけど、無かったことにしないで――」
「それに、そこにいる子供達のことを想ってくれている。もしかしたら、病院に勤めている自分たち以上に――って」
加蓮「え、あ、……あはは、そ、そなの? そなんだー……」
藍子「加蓮ちゃん」ジトー
加蓮「うぐっ……」
「それで――……?」
加蓮「えーっとさ。そのー……」
藍子「加蓮ちゃん。正直に言っちゃいましょ?」
加蓮「分かってるわよっ。あ、あのね? 怒らないで聞いてほしいんだけど……」
加蓮「さっきも言ったけど、今回の話、まだ受けるか決めてない……っていうか、断ろうって思ってた」
「あら」
加蓮「ついでに言えば、あなたと会うのも断るつもりだった」
加蓮「後ろなんて振り返らないようにしようって決めかけてて……。忘れないでいてくれる、なんて言ってくれたけど、ついこの前まで、病院のこととか、昔の私のことなんて全部忘れようって思ってた。前だけ向いて生きていけばいいや、って……」
加蓮「だからもう、病院には行かないし、あなたとも会わないつもりだったの」
加蓮「でもね」
加蓮「藍子が、逃げるな、って。私のことを叱ってくれたんだっ」
加蓮「今の私なら、過去と向かい合えるからって」
加蓮「今の私の目で、昔の私の見ていた世界をもう1回だけ見て来なさい、って」
「……そっか」
加蓮「……私、子供達にプレゼントを配ってあげて……あなた達も、喜んだの?」
「ええ。それからは……みんな、今まで以上に一生懸命になるようになった」
「接し方の難しい患者や、入院している子供達にも、積極的に話すようになった」
「加蓮ちゃんには負けないぞー! なんて、燃えていた人もいたわね」
藍子「わあっ……!」
加蓮「な、何その対抗心……」アハハ
「私が子供の患者を押し付けられるってこともなくなっちゃった。今まで子供達と接していた時間で、事務作業をやらされたり。ふふ、嬉しいやら、寂しいやら」
加蓮「……大変だって前に言ってたんだから、いいことじゃない?」
「ふふ。そうかもね?」
「それで、そう。話は戻るけど……あの子ね。私達が変わっていくにつれて、あの子も。話してくれることが増えてきたの」
「窓から外を見たお話。綺麗なお花を見に行きたいお話」
「それから、あれが欲しい、これが欲しい、って言うことも増えてきて――」
「くす。違う意味で大変になっちゃったかもね。ワガママを言う子供が増えちゃってねぇ」
藍子「みなさんの笑顔が、増えたんですね……」
加蓮「あはは……。甘いとこ見せたらそうなるよ。子供だからって舐めてるでしょ」
「そんなことないけどなぁ……」
「子供達みんなが明るくなって、そうしたら保護者の方達も、少しずつ前向きになって……お礼を言われることも、増えてきたのよ」
「それでまた、私たちも嬉しくなって……良い循環が生まれた、って言うのかしら?」
「変えるきっかけをくれたのは、加蓮ちゃん。あなたなの」
加蓮「私が、きっかけ……」
「だから、ありがとう」
「子供達の笑顔を増やしてくれて、ありがとう。加蓮ちゃん」
加蓮「っ……」
加蓮「あはは……。何言ってんの……。私はただ、私がやりたいことをやっただけだから……」
加蓮「それに、アンタ達のことなんて知らないわよっ。子供達に、希望はあるんだよって教えたくて、笑顔になってほしかっただけで――」
加蓮「……私がしたことで、大人達のやり方が変わって、それで子供も笑顔になったって言うなら」
加蓮「あと、それとっ。私のこと、ちゃんと見てくれてたんだって分かったから!」
加蓮「だから、お礼を言うのは私の方……」
加蓮「お礼……」
加蓮「……や、やっぱヤダ。アンタ達にお礼なんて、死んでも言わない!」
藍子「あっ、こら、加蓮ちゃんっ。どうしてそこで意地を張るんですか!」
加蓮「藍子は知らないんだよ、コイツらの性格の悪さを! 知ったらお礼どころか顔を見るのも嫌になるくらいだから! ……うんっ。さっきの質問の返事! やっぱり、嫌いなものは嫌い!」
藍子「少なくともこの看護師さんはそんなことないって私でも分かりますっ。それに、いつまできらいきらいって言い続けてるんですか~っ」
加蓮「嫌いなんだから嫌いとしか言えないの!」
藍子「もぉ~~~~っ! もうっ、……もうっ!」
「あはは……」
藍子「ほら、加蓮ちゃんっ。じゃあ……今は他のみなさんには言えなくても、この方にだけはお礼を言いましょ?」
藍子「加蓮ちゃんが心配していた子どもたちを、看てくれている方なんですよ? 子どもたちが笑顔になれるように、頑張っている方なんですからっ」
「そ、そこまで言われる程じゃないけど……」
加蓮「……。…………あの……。ありがとう。子供達みんなのことも、お礼を言ってくれたことも。……すごく嬉しかった」
「どう致しまして」
加蓮「……」
「……」
藍子「……?」
加蓮「……っ」
「……」
加蓮「……あははっ」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「ううんっ……。看護師さんって、そんな優しい目をしてたんだ……」
「あら」
加蓮「私、あなたの……アンタ達の顔ばっかり見てた、んだと思う」
加蓮「気持ち悪い作り笑いを浮かべてる顔とか、嘘をついてるって分かるように頬を窪ませてるところとか。顔だけで判断してたから、大人共の目なんて見たことなかった」
加蓮「それだけ見て、コイツら自分のことしか考えてないんだ、私のことなんてちゃんと見てないんだ……って、勝手に判断してたのかも……」
加蓮「みんな……あなたみたいに、あたたかい目をしてたの?」
「そうね……どうかしら。それは、みんなに聞いてみないと」
加蓮「みんなに――」
藍子「加蓮ちゃん」
藍子「大丈夫。今のあなたなら……大丈夫」
藍子「ちゃんと受け止められますよね? 自分で見てみること、もうちょっとだけ、できますよね?」
加蓮「…………っ、明後日!」
加蓮「明後日――クリスマスは、大人じゃなくて子供に会いに行って、子供達の為にプレゼントを配るんだからね? 大人とか、どーでもいいし!」
加蓮「そのついでに、もし時間があったら……ちょっとくらいなら、話してあげてもいいけど。本当にそれだけなんだからね?」
藍子「あはは……」
「……ええ。それでいいの」
「子供達のために、お願いします。アイドルの、加蓮ちゃん」
加蓮「こちらこそよろしく。病院の看護師さん」
藍子「あのっ、看護師さん。どうして加蓮ちゃんに、プレゼントを配ってほしいって依頼をされたんですか?」
藍子「加蓮ちゃん、この依頼を受けるかどうかって悩んでいた時に、ずっと考えていたんですよ」
藍子「アイドルの、って書いていなかったら、また前みたいに夜にこっそりと……と、計画もしてましたっ」
加蓮「こらっ。余計なこと言うなっ」
「理由?」
「そうねー。理由……理由。……うーん。なんとなく?」
加蓮「はぁ?」
藍子「へっ?」
「クリスマスだから何かしたいと思って、プレゼントを配ろうって話になってから、誰かがぼそっと言ったの」
「また加蓮ちゃんが配ってくれないかなぁ、って」
「じゃあ加蓮ちゃんに頼んでみよう! ダメ元でいいから! って誰かが言って」
「せっかくだからイベントにしてみたら面白いかな、ってなって」
「でも、加蓮ちゃんはアイドルだから、事務所を通して依頼しないといけないのかな?」
「そう思ったから、依頼してみたの。それだけよ? アイドルの、って一言は……うーん……アイドルとして頑張っている加蓮ちゃんへの、礼儀みたいなもの?」
加蓮「あっそう……。何そのテキトーなの。悩んで損じゃん」
藍子「考え込みすぎちゃったから、大きな悩みごとになっちゃいましたね」
加蓮「藍子のこと言えないねー。私」
藍子「でも、謎がとけてよかったですっ」
「私としてもちょうどよかった。加蓮ちゃんに会う理由にもなったから」
「と言っても、昔話なんてするつもりはなくて、さっきの近況報告だけして帰るつもりだったけど……」
「何やら加蓮ちゃんが話したそうにしているからね? つい、色々話しちゃった」
加蓮「何それ、私のせい!?」
藍子「加蓮ちゃんがお話したいって顔は、ちいさい頃から変わっていないんですか?」
加蓮「藍子、何聞いて――っていうか話したい時の顔って何!? そんなに表情に出てんの私?」
藍子「はい。お話させてっ、って時の加蓮ちゃん、とっても分かりやすいですよ♪」
加蓮「はああああ!?」
「そうねー。ちょっとは変わったのかな?」
加蓮「アンタもアンタで真面目に答えようとすんな!」
「小さい頃の加蓮ちゃんより、ちょっぴり素直で、とっても可愛くなったわねー」
藍子「なるほど~……。あの、他にも加蓮ちゃんのことを教えてください! まずは――」
加蓮「藍子おおおおおおおおおおおおおおっ!!! おっ、終わり! 話は終わり! アンタが聞けって言ったこと聞いたし!」
藍子「加蓮ちゃんっ。加蓮ちゃんの聞きたいことは聞いたんですから、次は、私が聞きたいことを聞く番です!」
加蓮「なくていいわよそんなの!」
「加蓮ちゃんの仕草といえば、まず――」
加蓮「余計なことを! 喋るな! さっさとカフェに戻るわよ藍子。そしてアンタはここでさよなら! 中には入れてあげないって決めてるし!」グイグイ
藍子「待って加蓮ちゃん、もうちょっとだけっ」
加蓮「ぐんぬぬぬぬぬ……動かないんだけど。なんでそんなに力強いの!?」
「それから、あの時に――」
藍子「ふんふん……なるほど~」
加蓮「~~~~っ! そうだ。店員! 店員さーん! 助けてくださーい! 藍子が帰ってきてくれな……協力しろ! たまには私に協力しろーっ!」
<それからそれから
<お~、そうなんですねっ
――数十分後――
「じゃあ、またね。加蓮ちゃん。また2日後に」
「藍子ちゃんも。今度また、加蓮ちゃんについていっぱい話しましょ!」
藍子「はいっ。今日は、ありがとうございました!」
加蓮「ぜー、ぜー……っ。もう私の前に顔を見せるな……! 2度と会わないから……!」
藍子「加蓮ちゃん、加蓮ちゃん。2日後に、また会うことになると思いますよ?」
加蓮「徹底的に無視してやる……! 何かやり取りしないといけない時には藍子、アンタが全部やりなさいよ!」
藍子「しょうがないですね。あっ、じゃあその時、今日聞けなかった加蓮ちゃんのお話をまた聞いて――」
加蓮「やっぱ私がやる!」
藍子「は~い」
加蓮「あーもー……。もー……」
加蓮「はぁっ。……でも、とりあえず……。何か……。何か、乗り越えられた感じ」
藍子「加蓮ちゃん……。うんっ。お疲れさまです♪」
加蓮「ありがとね。……そっか。みんな私のこと、ちゃんと見てたんだ……」
藍子「加蓮ちゃんも、病院の方たちも……お互い、上手く接することができなかっただけなんですね」
加蓮「バカみたい。私もあいつらも……」
藍子「……ねえ、加蓮ちゃん」
加蓮「何?」
藍子「よかったんですか? プレゼントのお話、引き受けても――」
藍子「ほら、病院でアイドルとして……そうしたら、噂になっちゃうかもしれない、って」
加蓮「それは……うん。実はほんのちょっと悩んだの。でもさ」
加蓮「子供達と、それから……まぁ一応大人も。すごい喜んでくれたって話を聞いて」
加蓮「そしたらまた、笑ってほしいなって思っちゃった。もっと笑顔にできるのなら! ってねっ」
加蓮「ふふっ。誰かを笑顔にする為に、世の中と戦うアイドル。なんかかっこいいでしょ?」
加蓮「さーて、急いで準備しなきゃ。プレゼントは向こうで用意するって言うけど、やっぱメッセージカードくらいはつけてあげたいよね」
加蓮「あとはスケジュールに段取りの確認。衣装は今どこに置いてるんだっけ? Pさんに聞いてみなきゃね!」
加蓮「あ、そうそう。藍子も手伝ってよ? ほら、前の握手会の時は手伝ってあげたんだし?」
藍子「はいっ。私の方こそ、いっぱい手伝わせてください!」
加蓮「あははっ。ありがと……。さすがに寒いし1回カフェに戻ろっか。Pさんに連絡しなきゃ!」
<店員さーん。ただいまーっ
<ただいま戻りました♪ はいっ。今日はもう少しだけ、ここにいさせてください
……。
…………。
――12月25日の早朝 病院――
――SIDE Aiko
「みんな~! 今日は、加蓮ちゃんがプレゼントを届けに来たよ~!」
真っ赤でもこもこのサンタ服に身を包んだ加蓮ちゃんの一言によって、病院のクリスマスイベントは始まりました。
ロビーから右手側に少し進んだところにある、休憩室……なのかな?
私の膝下くらいまでの丸クッションをしきりにしたスペースには、何人かの子どもたちがいます。
前に来た時、入院していた子は3人でしたよね。それよりちょっと多いってことは、外から来た子も混じっているのかな?
私が座っているのは、部屋の隅です。加蓮ちゃんの左斜め後ろで、子どもたちの顔を見ることができる場所。……ちなみに私は普段着ですよ?
ここにいてほしいって、加蓮ちゃんに頼まれちゃいました。
何か困ったことがあった時に、加蓮ちゃんを手伝う役です。この前の握手会の時とは逆ですね。
「いい子にしていたみんなに、クリスマスプレゼント! そして……加蓮ちゃんからの、ひみつのメッセージカードも持ってきたの♪」
何人かの女の子が目をきらきらさせてるっ。あの中に、加蓮ちゃんがお話した子もいるのかも。
男の子は……う~ん。何人かが、あんまり盛り上がっていないみたいです。加蓮ちゃんのことを知らない子も、やっぱりいるのかな。
でも、"ぼくしらないもん"みたいな顔をして壁を見ている子が、ちら、ちら、って加蓮ちゃんを見ているので、興味はあるみたいっ。
「なかみはね~、ナイショ! 開けてからのお楽しみだよ」
看護師さん曰く、加蓮ちゃんはこの病院で人気のアイドルらしいです。ときどき通院する子どもも、テレビで加蓮ちゃんが出ると、よく興味を示しているそうですね。
それから、これも看護師さんに聞いたお話ですが、定期的に病院に来る子のいる家族へは、今日のことをお伝えしているみたいです。
……といっても、このイベントが決定したのは、12月23日。
あまりたくさんの方にはお知らせできなかったみたいで、スペースにいる子どもも、10人いるかいないかくらい。
もっと早く決められていたら、もっといっぱい子どもが集まれたのかもしれないけれど……。こればかりは、仕方ありませんよね。
「開けたら、お母さんや、お父さんにも見せてあげてねっ」
壁にはカラフルな折り紙が並び、てづくり感あふれるリースで「クリスマス会」と書いてあります。病院の方たちが用意してくれたみたい。
壁際にはいくつかの長椅子が並んでいて、保護者のみなさんが座って見守っています。みんな、優しそうな目をしてる……。
あっ。今、向こうから1人の女の子が、お母さんの手をぐいぐいって引っ張りながらこっちに来ました! あの子も、加蓮ちゃんのファンなのかな?
>>50 2行目~の地の文を少し修正させてください。申し訳ございません。
誤:看護師さん曰く、加蓮ちゃんはこの病院で人気のアイドルらしいです。
正:看護師さん曰く、加蓮ちゃんはこの病院に来る方たちから人気のアイドルらしいです。
「あー……えとー」
って、加蓮ちゃんが言葉に詰まらせちゃった……?
段取りや台本(と言っても、こういう風に進行しますってことしか書いていません)は何度も読んでいたから、進行は分かっているはずなのに。
助けた方がいいのかな……? 加蓮ちゃんの様子は。え~っと……ちらりちらりと、目を少し遠くに向けていますね。
あまり盛り上がっていない男の子を見てる? 気にしている、のかな?
少しだけ生まれた無言の間に、立ち上がってぴょんぴょんしていた女の子も不思議がって、大人しく座ろうとしちゃいました。
そのタイミングで、加蓮ちゃんがまた声を張り上げます。
「よ、よ~し。さっそく配っちゃうよ。まずは、あなたから!」
両膝を折って、目を合わせてあげて。加蓮ちゃんは、3つの袋を出してあげます。
ちいさい袋と、ちいさい袋と、ものすごく大きな袋。
えほんみたーい、と誰かが言います。すると保護者さんの方からかすかな苦笑が漏れました。
ちょうど数日前に読んであげて……なんて声が。ベストタイミング……なのかなっ?
こういう時、童話ならちいさい袋を選ぶのが正解ですよね。でも、ちいさい袋だって2つもあります。
それに、自分が選ぶ立場になると、やっぱり"これが正解"って決めるのは難しいみたいで……。
みかんのイラストシャツの女の子は、えっ、どうしよう……と不安そうにうつむいちゃいました。
ちいさい袋に手を伸ばそうとして、だけど時々、反対側の手が大きな袋に向きそうになっちゃいます。
「じ、じゃあ……これにする!」
たっぷりと悩んだ女の子は、勇気を出して真ん中の小さな袋を指差しました。途端に、加蓮ちゃんの唇がにやりと歪みます。
「それでいいのー? 本当にそれでいいのー?」
「えっ……」
……何してるんですか加蓮ちゃん。抗議の目を送ってみましたが、こっちのことなんて一切見てくれませんでした。
「ほら、もう1回考えてみて? みんなと相談しても、オッケーだよっ」
女の子は1歩だけ引いて、周りの子たちと相談を始めます。どれにする? これでいいのかな? って。
今まであまり興味がなさそうだった男の子が1人、その輪に加わりました。女の子のお兄ちゃんみたいですね。
すると他の男の子も、1人、また1人とやってきます。
一番遠くにいた男の子は、まだ興味なさそうに壁の方を……あっ。今、あわてて子どもたちの輪に駆け寄ってきました!
もしかして、加蓮ちゃんはこれを狙っていたのでしょうか。
そう思うのと同時に、加蓮ちゃんは一瞬だけこっちを見て、とっても楽しそうな表情を浮かべました。
ドヤ顔です。ものすっごいドヤ顔です。未央ちゃんとのイタズラ対決に勝った時のような笑顔です!
「じゃあね……これにする!」
子どもたちの作戦会議は終わり、女の子は目を揺らすことなく、びしっ、と真ん中の袋を選びました。
「オッケー! じゃあ、これはあなたへのプレゼント! 開けてみて?」
「うんっ。……わあっ! おもちゃだ!」
「おもちゃだよー♪ どう? ほしかった?」
「これ、このまえ、おいしゃさんがはなしてたの。すっごいたのしいの! やったー!」
「うんうんっ」
残った小さな袋をそっと後ろに下げ、加蓮ちゃんはまた次の子へと目を合わせてあげます。
さっきまで、輪にはいたけどあんまり喋ってなくて、ずっとうつむいていた女の子。
入院着……ってことは、入院している子なのかな……?
「次は、あなたの番。あなたは、どんなプレゼントがほしいかな?」
「……」
「さあ、教えてっ。私が、あなたのほしいもの、プレゼントしてあげる! だって今日は、クリスマスだもんねっ」
「……いっても、いいの?」
「言っちゃえ言っちゃえっ」
「じゃあ――」
少し悩んでから、女の子は「かみのけの」と答えました。
かみのけの――髪の毛の? ヘアピンとか?
加蓮ちゃんは頷き、後ろに用意している袋へ手を伸ばそうとして――その直前に、でもっ、と女の子が言います。
「や、やっぱりくつがほしい! かんごしさん、くつをえらんではいてもいいよ、って、いってた……!」
「靴がほしいの? うん、分かった! じゃあ――」
「あっ、や、やっぱり、ほん! ほんがほしい!」
「ほ、本が欲しいの? ……オッケー!」
「ま、待ってっ。えーっと、えーっと……!」
――もしかして、この子ってあの“2人目の女の子”でしょうか?
前に写真で見たことはありますけれど……すごく雰囲気が変わっていて、気づきませんでした。前よりも雰囲気が明るくなってるっ。
加蓮ちゃん、困ったように眉を八の字にしているけれど、でもとっても嬉しそう。
……あっ、今、右目に少しだけ涙を浮かべました。すぐに拭ったので、周りのみんなは気付いていないみたいです。
「きめた! わたしは、くつがほしいですっ」
「ふふっ。オッケー。……ね、他に欲しいものは、お母さんとお父さんに言うといいよ」
「……いいの? でも、そしたらおかあさんもおとうさんも、こまっちゃう……」
「困らせちゃえ!」
何堂々と言ってるんですかっ。いつも誰かを困らせてばっかりの加蓮ちゃん!
……ふふ、なんてっ。
そうですよね。ほしいものを言える、わがままを言うことができる。それも、きっと大切なことですから。
女の子は、何回か迷った後、うんっ、と大きく頷きました。それを見て、加蓮ちゃんも満足げに首を縦に振ります。
次の子はー、と加蓮ちゃんが選ぶ前に、わたしも! ぼくも! という声が響きます。短い手足をぱたぱたと、加蓮ちゃんの元へ大殺到。
わ、ちょ、待って! と焦り声。……そろそろ、私も手伝った方が良さそうっ。
「そんなに焦っちゃったら、サンタさん、困っちゃいますよ~。ほら、みなさん、こっちに並びましょうっ」
は~い! と声を合わせて、子どもたちは一列に並んでくれました。うんっ。素直でかわいいっ。
……違います加蓮ちゃん。素直ではない誰かさんと比べた訳ではないんです。みんなに見えないところで二の腕を摘まないでください。
プレゼントの手渡し会は、それからもとっても盛り上がりました。
途中、加蓮ちゃんが「やば、メッセージカード忘れて……!」と呟いて、私もすっかり忘れてしまっていたので、慌てて用意していたカードを渡していって。
楽しそうな声につられたのか、廊下から他の子たちも次々に集まってきたりして。やっぱり「かれんちゃんだ!」とか、「サンタさんだ!」って声も、いくつも聞こえてきて。
わいわいがやがや。なんだか、親戚のみなさんが家に集まった時みたいっ。
「よ~し、みんな受け取ったかな~?」
「「「は~い!」」」「うん!」「……う、うんっ」「おう!」「いえーい!」
「今日のプレゼントは、これでおしまい! みんな、メリークリスマース!!」
「「「「「「めりーくりすまーす!!」」」」」「……ま、まーすっ」
みんなで声を揃えたのは、始まってから1時間とちょっとが経った頃。
子どもたちは、まだ休憩スペースではしゃぎまわったり、座ったままじーっともらったプレゼントを眺めたり、お父さんやお母さんに見せにいったり、はたまた廊下の向こうへ走って行っちゃったりっ。
その中でも、加蓮ちゃんのサンタ服の膝のところや袖をくいくいと引っ張る子もいて、その度に加蓮ちゃんは、な~に? と笑顔を見せます。
楽しい時間は、もうちょっと続いていくようです。
その中で……ふと、加蓮ちゃんが誰ともお喋りしていない時間が生まれました。
「あははっ」
廊下側の丸クッションに座る加蓮ちゃん。両手を体の左右に投げ出し、笑顔でいっぱいの子どもたちを楽しげに眺めます。
私も行こうかな? 立ち上がろうとしたその時です。
ふと、加蓮ちゃんは廊下の方を振り向きました。
……その時に、私も初めて気付きました。廊下の少し離れたところからこちらを窺っている目が、いくつもあることに。
そのうちの1人、白衣の方が、おずおずと加蓮ちゃんの側にやってきます。
そのうちの1人、白衣の方が、おずおずと加蓮ちゃんの側にやってきます。
「~~~、」
「……~~」
「~~~~~」
「~~」
白衣の大人。
ってことは、お医者さんか看護師さん。
何かお話しているけれど、子どもたちの声もあって、聞こえない。
加蓮ちゃんは……目では、少しだけ睨んでいるようだけれど、顔はそんなに険しくないみたい。
何よりも、加蓮ちゃん、白衣の方の目をちゃんと見てる……。
「~~~」
「~~」
お話が終わったと思ったら、今度は別の方。
加蓮ちゃんはほんのちょっぴりの警戒心を隠すことなく、だけど一切逃げる様子は見せません。何よりもお話している間、じっと相手の目を見て……。
ときどき、嬉しそうに頬を綻ばして。お互いに、頭を下げて。安心した笑顔を浮かべます。
……。
……看護師さんの、言う通り。
みなさん、加蓮ちゃんのこと、すっごく気にしていて。きっと、子どもたちと一緒に、加蓮ちゃんのことを見ていて。
そしてこうしてアイドルとして戻ってきた加蓮ちゃんに、初めて目を合わせることのできた加蓮ちゃんに、安心したり、喜んだり、涙を見せたりもしています。
そんな大人たちの様子に、加蓮ちゃんも――
やっぱりどこかぶっきらぼうだったり不機嫌そうな様子を見せつつも、誰が見ても分かるくらいに笑っていました。
よかった。
ここにはちゃんと、あたたかいものがあって。
加蓮ちゃんが、それに気付くことができて。
本当に、よかった。
「……ようしっ」
さてっ。昔の私なら、少し遠くから加蓮ちゃんを見守っているだけでした。でも、今は違いますよ~っ。
改めて立ち上がって、子どもたちの邪魔にならないよう、はしっこをそ~っと通っていって。
不思議そうにこっちを見る目は……ううっ、私もサンタ服を着てくればよかったかも、なんて。
そ、それよりも今は加蓮ちゃん。加蓮ちゃんが何をお話しているか、聞いちゃいますっ。
「あははっ……。だから私がライバルってどういうことなのよ――ん、藍子」
「加蓮ちゃんっ。その……」
「……今ね、ほら、看護師さんが言ってた、私に負けるかーって燃えてる人。この人。話してたの」
「うんっ」
「おかしいよね。こんな人がいるなんて、ちょっと前までは考えてもなくて……。他にもね。子供が大好きで、昔は学校の先生になりたいって看護師もいてさっ。あーあと、最近ようやく子供が苦手っていうのを克服できた人とか……色んな人がいて。なんかもう、ありがとうありがとうって何回も言われちゃって!」
「うんっ、うんっ」
<かれんちゃーん!
「は~いっ。……ほら、今日の主役は子供なんだから。アンタ達なんて用は無いっ。あっちいけっ」
「あはは……もう。お話が終わるまで、私が相手しておきましょうか?」
「あーそれいいわね。じゃ藍子、こっちの大人の相手を、」
「そうじゃなくて~っ」
後ろから服の裾をくいくいと引っ張られ、加蓮ちゃんは一瞬にして優しいお姉さんの笑顔に戻りました。
な~に? とまたお話を始める様子に、子どもたち――そして加蓮ちゃんを見守っていた大人の皆さんは、やがて安心したように踵を返していきました。
――本当に本当に、よかった。
今日という日は加蓮ちゃんにとって、きっとかけがえのない日。
□ ■ □ ■ □
「あーっ!」
加蓮「ん? ……あっ!」
藍子「加蓮ちゃん?」
「かれんちゃんだ!」
加蓮「そーちゃん!」
「かれんちゃん、またプレゼントをもってきてくれたんだ!」
加蓮「そうだよー? なんたって、加蓮ちゃんはサンタさんだからねー?」
「ほっほっほー、だよね!」
加蓮「ほっほっほー♪」
「ほっほっほー!」
「かれんちゃん、だめだよ!」
加蓮「えっ。何が……?」
「かれんちゃんがサンタさんだってこと、みんなにはナイショじゃなかったの! なんで、かれんちゃんからおしえてあげてるの!?」
「わたし、ずっとナイショにしてたのに! となりのおばあちゃんにも、言わなかったんだよ!」
加蓮「あ、あー……」
「もーっ!」
加蓮(普通こういう子って約束とか信じられない筈なのに……やっぱり強いなぁ、そーちゃん)
藍子(約束って?)
加蓮(前にバレた時にさ、加蓮ちゃんがサンタクロースってことは内緒に、って……)
藍子(えっ。それなら、ほらっ。ごめんねって言わないと!)
加蓮(え、マジ?)
藍子(当然ですっ)
加蓮(えー……)
加蓮「え、えっとね。加蓮ちゃんがサンタさんっていうのは、本当はナイショなんだけど……」
「ナイショなんだけど?」
加蓮「き、今日だけは、言ってもオッケーな日なの!」
「そうなんだ! それって、クリスマスだから?」
加蓮「そうそうっ! クリスマスの日だけはね、加蓮ちゃんはサンタさんなんだよーって言ってもいいんだよ!」
「そうなんだー!」
藍子(……………………加蓮ちゃん)
加蓮(べ、別にいいでしょ。嘘はついてないし。こら、二の腕をつねるなっ)
加蓮「……? ん? 隣のおばあちゃん?」
「うん。となりのいえのおばあちゃんっ。あのね、いっつもみかんをたべてて、テレビ見てるの。かれんちゃんのことが、だいすきなんだって!」
加蓮「そ、そうなんだ。あははー嬉しいな……。えっと、その隣のおばあちゃんとはいつ会ったの?」
「んーとね、こないだ!」
加蓮「!」
「わたし、ちょっとだけげんきになって、そうしたら、ちょっとだけいえにかえってもいいよって言われたから、そのときにあったの!」
加蓮「そ、そっか。……そっかっ」
「?」
加蓮「……ねえ、そーちゃん。今でも、歌は歌ってる?」
「うんっ!」
加蓮「まだ、加蓮ちゃんになりたいって思ってくれてる?」
「もちろんっ! ……うたっていたら、わたし、すぐつかれちゃうけど、でも、えっと、うたっていたら、いつかわかるんだよね?」
加蓮「もちろんだよっ!!」
「わっ」
加蓮「……あ、えっと……あはは。ごめん。びっくりさせちゃった?」
「びっくりしたー! えっと、わたし、まだわかんないけど、いつかわかるんだよね?」
加蓮「うん!」
「ぜったいなんだよねっ?」
加蓮「絶対だから……!」
「ぜったいだからー! あはは!」
加蓮「うんっ……!」
藍子「……。……そっか……♪」
「ねえねえ、こっちのひとは? こっちのひとも、サンタさんなの?」
藍子「……あっ。ごめんなさい。もしかして、私?」
加蓮「こっち? ……あぁ、藍子?」
「あいこちゃん、っていうんだっ」
加蓮「そうだよ~。この子は、藍子ちゃんって言うの。知らない?」
「しらない!」
藍子「」グサッ
加蓮「そ、そっかー。しらないんだー」
「しらない!」
藍子「」グサッグサッ
藍子「わ、私もいちおうアイドルっ……!」
加蓮「あーあー……。ほら、藍子?」
藍子「あ、はい! えっと……藍子ですっ」
「そうです!」
藍子「そ、そうです? そうです、私は藍子です」
「??? そうです!」
藍子「???」
加蓮「……そーちゃんって呼んであげて?」
藍子「では……そーちゃんっ」
「はいっ!!」
藍子「ふふっ」
加蓮「はい、そーちゃん。今年いい子にしていたそーちゃんにも、プレゼントだよ!」
「わあっ! ありがとうっ、かれんちゃん!」
藍子(……プレゼント、残しておいてあげたんですか?)
加蓮(特別にね。もしかしたら、って思って。……他のみんなには内緒にしてあげてね?)
藍子(ふふっ。は~い)
「あっ、ちがった。ありがとう、サンタさん!」
「あれ? きょうは、かれんちゃんがサンタさんなんだよって、言ってもいい日?」
「じゃあ、ありがとう! かれんちゃん!」
加蓮「どういたしまして♪」
「ねえねえ。あいこちゃんも、サンタさんなの?」
藍子「えっ?」
「あれ? サンタさんじゃないの……? あいこちゃんは、プレゼント、くれないの?」
藍子「あ、えっと……」
加蓮「……そうだよー。今日はね、藍子ちゃんもサンタさんなの」
「そうなんだ!」
藍子「加蓮ちゃん!?」
加蓮「ねっ?」
藍子「え、あ、えっと……」
加蓮「ねっ??」
藍子「……」
藍子「……そ、そうなの。実は、私もサンタさんです――サンタさんなのっ!」
「わーい! サンタさんが、2人もきてくれたんだー!」
<サンタさんが2人もいるの!?
<かれんちゃんじゃないサンタさんもきてくれたんだ!
<どこどこ!?
<わ、わたし、もう1つ……う、ううんっ。あの、えと……!
藍子「わああぁ……」
加蓮「あーあ。どうしよっか。プレゼントも配りきっちゃったし」
藍子「そんなひとごとみたいに……! ど、どうしましょう。今から用意するのは――」
加蓮「それに藍子はいつもの服だし。いつもの服のサンタさんなんていないよねー?」
藍子「どうするんですか、加蓮ちゃん。このままじゃ、みんながっかりしちゃう……!」
加蓮「……どうしよっか?」
藍子「加蓮ちゃん!?」
「あらら。やっぱりこうなっちゃった」
加蓮「お」
藍子「あ、看護師さんっ。こんにちは」
「こんにちは。加蓮ちゃん、今日はありがとうね」
加蓮「……どう致しまして」
「さて。こんなこともあろうかと」
「はい。追加のプレゼント。これだけあれば十分足りるでしょ?」
「そして、予備のサンタ服。確か、藍子ちゃんは加蓮ちゃんと同じ身長なのよね?」
藍子「え、え、……え?」
加蓮「……あははっ。何? その周到さ」
「それが大人ってものなの。加蓮ちゃん。あなたにとって、大人は敵かもしれないけれど……同時に、加蓮ちゃんの味方でもあるのよ」
「困った時には、もっと使っちゃいなさい。昔、加蓮ちゃんに嘘をついた大人への仕返し、なんて?」
加蓮「そう言われたら……拒否できないなー♪」
藍子「加蓮ちゃん……」アハハ
「さ、クリスマス会の延長宣言は、加蓮ちゃん。あなたからお願い」
「みんな待ってるわよ?」
「「「「じー……」」」」
加蓮「……」
「「「「「「じー……」」」」」」
加蓮「……うんっ」
加蓮「みんな~っ! 今日は、特別な日だから! もう1回、プレゼントを配っちゃうよ~!」
「「「「「わあああああああーっ!!」」」」」「わ、わあーっ。……わ、わあーっ!」「いえーい!」
加蓮「でもね。ちょっとだけ、準備しないといけないの。いい子にして待っていられるのは、誰かな~?」
「はいっ!」「はーい!」「は、はい!」「おれも!」「わたし!」
加蓮「みんなで、待っていられるかな~?」
「「「「はーい!!」」」」「は、はいっ」
加蓮「ふふっ。……藍子。ごめんね? でも、……お願い!」
藍子「……そう言われたら――拒否できませんね♪ なんてっ」
加蓮「はいはい、そーいうのいいからさっさと着替えてくるっ」
藍子「ひゃ。お、押さないで~!」
藍子(それから看護師さんにつれられ、サンタ服に着替えた私は、加蓮ちゃんと一緒に子どもたちにプレゼントを配りました)
藍子(最初は戸惑いもありましたけれど、すぐに慣れてきて。なにより、プレゼントを渡す度にみんなが笑顔になってくれることが、とっても嬉しくて♪)
藍子(結局、クリスマス会が終わったのは、それから2時間くらいが経ってからでした、とさ♪)
――病院のロッカールーム――
加蓮「つかれた」
藍子「お疲れ様でした、加蓮ちゃん」
加蓮「1時間くらいで終わるって話だったのに。3時間くらいやってたよね、私達」
藍子「もうお昼も過ぎてしまいました。お腹がぺこぺこ……」
藍子「でも、みんなとっても楽しそうでしたね♪ 思い出すたびに、幸せな気持ちになります……♪」
加蓮「……藍子は元気だね……」
藍子「子どもたちを見ていると、つい? 私まで、元気をもらっちゃいましたっ」
加蓮「なんならアンタにもプレゼント渡してやろうかって途中思ったわよ……」
藍子「わ、私はもう16歳ですよ? 加蓮ちゃんと同い年です」
加蓮「最近色んな意味で違う気がしてばっかりだよ……」
加蓮「でも……楽しかったなぁ。やってよかったっ」
藍子「……はいっ♪」
藍子「そういえば加蓮ちゃん。そーちゃんとお話している時に、ときどき――」
加蓮「泣いてないけど? 藍子の前では2度と泣かないって決めたしっ」
藍子「ふふ。まだ何も言ってませんよ……?」
加蓮「うっさいっ」
加蓮「ホント、楽しかった……。こういうのならまたやりたいかも。今度はこっちから相談して――」
加蓮「……やっぱやめとこ。今回でラスト。もうしないっ」
藍子「もうやらないんですか?」
加蓮「だから言ってるでしょ? そーいうの武器にしたくないって。変に勘ぐって好き勝手に決めつける馬鹿が、この世界にはいっぱいいるんだから」
藍子「……もしいたとしてもその時は、違いますっ、って堂々と言ってしまいましょ? 加蓮ちゃんが言えば、きっとみなさん、素直に受け止めてくれますよ」
加蓮「そんなので大人しくなるなら苦労しないから……。まあ……その時はまた考えるね」
藍子「はい。その時はまた、一緒にやりましょうね?」
加蓮「着替え終わりっ。サンタモード、しゅーりょー!」
藍子「私も、サンタさんはおしまいです。でも、加蓮ちゃん。クリスマスは、まだ終わっていませんよ?」
加蓮「……ん?」
藍子「忘れちゃったんですか? 今日は、午前は病院でクリスマス会。終わってからは、私と加蓮ちゃんで、一緒にクリスマス探しですっ」
藍子「予定していたよりも、ずいぶん遅くなってしまいましたけれど……でも、まだまだ時間は大丈夫ですよね?」
加蓮「…………もう私へとへとなんだけど」
藍子「では、加蓮ちゃんの体力が回復するまで、おんぶしてあげますね」
加蓮「……マジで言ってる?」
藍子「もちろんっ」
加蓮「藍子だって疲れてるでしょ?」
藍子「私は、まだまだ歩けますよ~。あっ。でも、クリスマス探しは、どこかでお昼ご飯にしてからにしましょうっ」
加蓮「……」
藍子「……」
藍子「…………、」
加蓮「……お昼ご飯ついでにちょっとだけ休ませて。それからなら……ね?」
藍子「……! ……♪」
加蓮「ったく……強引なんだから。藍子が誘ったんだから、行き先とか全部藍子に任せるよ?」
藍子「いっぱい連れて行っちゃいますっ。さあっ――行きましょ? 加蓮ちゃん!」
加蓮「……ん。じゃ、まず食べるところからだねっ」
藍子「はい♪」
【おしまい】
次回第100話 高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「クリスマスのお散歩を」
明日、12月25日のお昼過ぎ~夕方頃に投下予定です。また読んで頂ければ嬉しいです。
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