コナンSS 「ある狂者達の日記」 (44)
ある博士の日記
〇月1日
【今日は少年探偵団の子供たちと一緒にキャンプに行った。
ワシにこんな日常が訪れるとは思いもよらなかった。
研究に明け暮れこの歳まで独り身のワシじゃが、孫の様な小さな子供達に
囲まれ楽しい日々を過ごす事が出来るとは……。
新一や蘭君だけでも果報じゃと思っていたのに。ワシは何と恵まれた男じゃろう。
宝石の様な笑顔の歩美君、大人顔負けの知識の光彦君、元気いっぱいの元太君。
それに哀君……。沢山の宝物に囲まれてワシは幸せ者じゃ。
こんな日々がずっと続けば良いと思うのは、ちと欲張りすぎじゃろうか】
〇月7日
【今日は子供達と仮面ヤイバーショーを見に来た。
子供達は喜んでおったが新一にはやはりちと退屈な様子。
それをからかう哀君とすねる新一……。蘭君には失礼じゃがまるで夫婦漫才じゃ。
ショーが終わりに差し掛かるとまた殺人事件が起きてしまった。
例によって探偵役をやらされた。嫌いでは無いが、新一の語りに口を合わせるのは
なかなか大変じゃ。
しかし、毎度毎度出かける度に死体に出くわすのはやはり教育上よくない。
たまには事件の起きない所に行きたいのう……】
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〇月15日
【今日もまたキャンプに来た。何かキャンプに行く事を無限に繰り返して居る気がするが……。
まあ気のせいじゃろう。
子供達も変わらず喜んでおるようじゃし。
じゃが……。少し気になる事がある。
皆の様子がいつもと違うような……?
元太君がうな重好きなのは知っておったが、あまりに連呼しておる気がする。
歩美君が恋愛に関しては大人顔負けなのは分かっておるが、度を越した発言が増えたような。
新一や哀君も必要以上にひそひそ話をする様になった気がする。
それに、皆がどこか光彦君と距離を取っておるような……。
ワシの考えすぎじゃろうか……。
何か胸騒ぎがする……。】
〇月21日
【やはり最近何かおかしい。事件に遭遇する頻度が減ったが代わりに皆の様子がおかしくなっている。
元太君はまるで言語障害を起こしてしまったかの様にうな重という言葉以外殆どしゃべらない。
歩美君の新一への態度も恋する子供というより愛人に媚びる娼婦の様じゃ……。
光彦君は元太君への見下しが酷くなった気がする。喋りにもどこか可愛げのない……。慇懃無礼という言葉がぴったりじゃ。
哀君の新一への依存度も増しておるように思える。
新一もあんなにバーローバーローと人に連呼する人間ではなかったはずじゃが……。
それに対してワシ以外は違和感を抱いていないように思える。
どういう事じゃ……?
ワシが狂ってしまっているのか?】
〇月25日
【今日新一がとんでもない事を言って来た。「光彦に何か悪戯する発明を作ってくれ」と。
何のためにと言うと、理由は無い、光彦だからと言う。
悪戯ってどんな物かと聞くと、体が爆発したりすると楽しいと……。
何を馬鹿な事をいっておる!!人を殺すつもりか!!と叱ると、ハッとした表情で謝っておった……。
一体どうしたと言うのじゃ……?新一も何か目に見えぬ違和感に侵されて、おかしくなりかけていたのか……?
じゃが、一番おかしいのはワシかもしれない……。
何故なら新一にその話をされた時、叱る前に一瞬ワシは真剣に考えてしまったからじゃ……。
どうしたらその発明を出来るか……。
光彦君なら構わないか、と……】
〇月28日
【恐ろしい事が起き始めた……。少年探偵団がついに光彦君を虐め始めた……。
哀君までが露骨に光彦君への嫌悪感を現し始めた……。
ワシも最近特に理由もなく光彦君への嫌悪を感じておる……。
どういう事なんじゃ……。
それにもう一つ、ワシは自分が恐ろしい……。
光彦君への感情とは別に、ワシの中にどす黒い感情が芽生えておる……。
哀君や歩美君への劣情が抑えられん……。
何とか理性でこらえているが……。
ワシはそんな悍ましい人間じゃったのか……?
このままでは本当にとんでもない事をしでかしそうじゃ。
ああ、誰か助けてくれ……】
△月1日
【おお、神よ……。一体ワシに何をさせようとしておるのじゃ?
今日不意にとんでもない事を閃いてしまった。いや、頭の中に勝手に沸いてくると言うか……。
あらゆる物理法則を越え、非現実的な事象をも生み出す事の出来る装置。
【スイッチ】の作り方じゃ。
なぜスイッチにしなければならんのか、ワシにも分からない。しかし詳細な設計図の図面まで
頭の中に浮かんでしまう。
これがあれば可能じゃ。光彦君を……。歩美君や哀君を……。
いかん、正気が消えかけておる……。
だガ、作りタイ、スイッチ……】
△月3日
【スイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチ……。
頭に浮かぶのはスイッチのコとバカリ……。
スイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチ
スイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチ
スイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチ
スイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチ
スイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチ
スイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチ
スイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチ
スイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチスイッチ
△月5日
【 作ろう スイッチを 】
〇月8日
【出来た……。これが押しただけで奇跡を起こせる……。
スイッチの完成じゃ……!!
記念すべき第一号は【光彦君を不老不死にするスイッチ】じゃ。
これさえあればあとからどんなスイッチで光彦君を攻撃しても死ぬことは無い。
思う存分楽しむ事が出来る。
さあ、もっとたくさんスイッチを作って子供達を呼ぼう。
普通の光彦君への責めではもう新一達は満足していないようじゃし。
子供達の喜ぶ姿が目に浮かぶわい……】
>>9訂正
〇月8日→△月8日
△月10日
【今日遂に子供達を家に招いてスイッチのお披露目をした。
不老不死になるスイッチは事前に押しておいた上で、【光彦君が爆発四散するスイッチ】を押した。
子供たちは最初は驚いておったが、再生した光彦君を見て、その驚きざまと叫びに笑っておった。
その後、子供達にスイッチの説明をすると目をキラキラと輝かせて我先に押したいとワシに飛びついて来た。
新一や哀君までもが少年少女のようじゃ。ほほえましいのう。
光彦君は爆発の痛みや、スイッチの説明を聞いて青ざめておったが、まあ嬉しいじゃろう。
みんなからスイッチでずっと構ってもらえるのじゃからな。
後でワシに感謝するはずじゃ。
その後、子供達は思い思いのスイッチで楽しんでおった。
【光彦君が高度10000mから落下するスイッチ】
【光彦君がカエンタケを貪り食うスイッチ】
【光彦君がガチ〇モに襲われるスイッチ】などなど……。
ああ、子供達の笑いと光彦君の叫びがこだまする……。
なんと幸せな時間じゃ……。
これぞワシの求めていたものじゃ……。
ああ、それに喜ぶ歩美君や哀君を見ると、滾ってくる。
ワシの劣情が……。
新一もその手の話に乗り気であったし。
また新しいスイッチを作らねばのう】
?月?日
【ああ、もっとスイッチを……。作りたい……】
日記はここで途切れている……。
【ある博士の日記】 完
ある元少女の日記
×月1日
【あれからどの位経ったのだろう。私が発明した薬で起きたあの騒動から。
組織が滅んでもう10年程になるだろうか。私が彼と別れてからも。
全てが解決した後、彼は解毒剤で元の体に戻った。
そして彼女の元へ帰っていった。
本音を言えば、私は彼に伝えたい思いがあった。
でも、押し殺した。
それが最善と思ったから。
だから、彼と一つ約束をした。
あなたは絶対に幸せになってね、と
でなければ、想いを押し殺した事が無駄になってしまうから。
あれから彼は、元気でいるのだろうか。
ずっと会っていないけど、幸せにしているのだろうか。
それだけが今も気になっている】
×月3日
【何という偶然だろう。気まぐれに日記を書き始めた矢先に彼と街角で再開した。
昔と変わらない、彼がいた。
懐かしかった。彼の顔。彼の纏う空気。彼のニオイ。あの頃のままだった。
お互い最初は驚いてなかなかうまく話せなかったが、他愛のない話程度は出来た。
断るべきだったかもしれないが……。出来なかった。
こんな日記を書き始めた矢先に彼と出会って、柄にもなく気持ちが高ぶってしまった。
彼女の事を考えると、食事の約束なんてすべきでは無いのだろうが……。
一度くらいは……。良いでしょう?
工藤君とご飯を食べるくらいは……】
×月7日
【こんなに早く彼と食事に行けるとは思っていなかった。
社交辞令だとも思っていたのに。
あれからすぐ連絡をくれるなんて。
驚いたし嬉しかったが、あまりそれを見せたくないので着飾るのは止めておいた。
俺と会うのが嬉しいのか?なんて茶化されても癪だったから。
奥さんは大丈夫なのか尋ねると、「昔の知り合いに会うからって言ったらまあOKしてくれたよ」
と言っていた。
きちんと女性と会うのか説明はしたのだろうか?
その後、食事をしながら昔話に花を咲かせた。
縮んでいた頃の苦労や探偵団の子供達、組織の話、懐かしかった。
その後不意にお前は今どうしてる?結婚は?と聞かれたので少し胸が痛んだが、まだだと返した。
勿体ないな、いくらでも貰い手がいそうなのにと言われたので少し不機嫌気味に余計なお世話だと返した。
何年たっても鈍感なのは変わらない。
ホッとするようなイライラするような気分だった。
そのやり取りを経て聞いてみた。
今幸せなのかを。
最後に私とした約束は守られているのかを。
すると彼はこう答えた。
「んー、どう、かなあ……」と。
その真意を問おうとしたが、彼に探偵業の電話が入って行かなければならなくなってしまったので、後日また会う約束をした。
また会えると思うと嬉しくなってしまったが、幸せとはっきり答えられないのは何かあるの……?】
×月11日
【今日、再び彼と会えた。
無理に予定を作る必要は無い、と言ったけど会って話したかったと言われ少し……。嬉しかった。
また食事をした後、話をした。
前回の質問の答えはどういうことなのか、と。
彼曰く、彼女と結婚した後、どうにもすれ違う部分が多く出てきたらしい。
組織を潰した後、彼は高校・大学を経て探偵になり、彼女とも結婚し暫くは幸せな生活を送っていた。
だが、すこしずつ蟠りが出来てきたらしい。
コナン時代に中々会えなかった反動か、彼女は少し束縛が強くなったと言う。
自分が悪かったのは重々承知だが、少しそれを控えて欲しいと話したらしい。
そこから喧嘩になり、それを境に段々夫婦間の言葉も少なくなったと言う。
子供もいないし、決して仲が冷え切った訳では無いけれど……。幸せかは胸を張って言えないと。
ショックだった。
彼と彼女はうまくやっていけると思っていたのに。
だから入り込む余地は無いと身を引いたのに。
彼らがそんな事になっているなんて。
少し押し黙っていると、彼が「約束したのにな、ワリーな」と謝ってきた。
約束を覚えていたのは嬉しかった。
だが、やはりショックだ。
あなたの幸せだけを願って生きてきたのに。
それだけで生きる支えになったのに。
幸せじゃないなんて……。
話せて嬉しかったと去っていく彼の後姿を見て、説明できない感情が湧いて来た。
この気持ちをどうしたら良いのだろう】
×月15日
【あれからどんどん胸のざわめきが大きくなる。
出会わなければ良かったのに。
会ってしまってから……。
幸せじゃないと知ってしまってから……。
どんな想いであなたから離れたと思ってるの。
どれだけ苦しかったと思っているの。
なのに何故今あなたは幸せじゃないの。
恨むのは筋違いと分かっているのに。
気持ちが抑えられない。
こうも考えてしまう。
私なら、あなたを幸せに出来るのに、と】
×月18日
【工藤君、工藤君、工藤君……。
あれから毎日考えるのはあなたの事ばかり。
どうして思い出だけでいてくれなかったの。
思い出させたの。私があなたを好きだっていう気持ちを。
約束をあなたが守ってくれていたら、こんな気持ちにはならなかったのに
ねえ、答えてよ、工藤君……。
また会いたいわ、話したいわ……。
溢れる感情が抑えられないの。いけないと分かっているのに。
気持ちを抑えないと……。
また今夜も眠れない。あなたを想ってると……】
×月21日
【……そうだ。悩まなければ良いのね。
約束を守らなかった彼が悪いんだもの。
彼を幸せにしなかった彼女が悪いんだもの。
だったら、良いわよね。
あなた達に責任を取ってもらっても】
×月25日
【今日、私から彼を誘った。
また会えないかと。
彼は快くOKした。
脇が甘いのね、いつまでも。
食事の後、すぐに帰らずもう少しお酒に付き合ってと言うと、蘭が心配するからなあと彼は言った。
イライラしたが衝動を抑えてお願いした。
昔のよしみで、と。
それにこうも付け加えた
【満たされない部分があるから、私と会おうと思ったんでしょ?話くらいいくらでも聞くから】と。
その言葉に、そうだな……。話、付き合ってくれるか?灰原、と彼は言った。
勿論、と私は答えた。
そうやって私と何回も会う習慣をつける事が目的なのだから】
□月10日
【あれから何度も彼と会った。
最初は彼女に気を遣っていたけど、段々抵抗も無くなって来てるみたい。
食事だけでも不倫と感じる女性は多いのだから気を付けなくてはいけないのよ?工藤君?
まあ、もう手遅れなのだけれど。
そろそろ頃合いと見図り、今日はいつもよりお酒を多く飲ませた。私もたくさん飲んだ。
そして、泥酔する振りをして彼にもたれ掛かったり、抱き着いたりした。
彼は戸惑っていたが、顔を真っ赤にしてその内抵抗もしなくなった。
可愛いもの、女性には相変わらずウブね。
そして、気を見て彼のお酒に薬を入れた。
強力な媚薬。
そして更に泥酔した振りでスキンシップを図った。
その内お酒とは関係無く彼の心拍が高鳴っているのを感じた。
そのタイミングで帰ろうと言った。
タクシーに乗り込んで、私は彼の膝の上で寝たふりをした。
彼は、オメーの家どこだよ?と聞いてきたが私は酔ったふりをして答えなかった。
途方に暮れた感じの彼は近くにあったホテルに私を置いていこうと考えたのだろう、タクシーをビジネスホテルの前に止めた。
計画通りだった。
彼がチェックインを済ませ、部屋へ私を連れて行きカギを開けた瞬間……。
私は彼にキスをした。
軽いものではなく舌を絡めたキスを。
彼は驚いていたが私を突き放す事はしなかった。
そして、どうして……?と聞いた。
私はこう言った。
好きだから、と。
そして、こうも言った。
ここなら誰も見ていない。
好きにして良いわよ、と。
俺には蘭が……。という彼に私はダメ押しをした。
期待、してたんでしょ?じゃなきゃ何度も会ったりしない、と。
その言葉に彼は口をつぐんだ。
そしてもう一度私からキスをした。
そして、来て、と言った。
その後、彼に押し倒されてからの事はあまり覚えていない。
あまりにすごい快感と幸福感以外は。
あの日、私達は初めて1つになった。
私の狙い通りに……】
博士がかわいそうすぎる・・・
□月13日
【今晩も彼と会う約束をした。
あれだけあの日は狼狽えていたのに……。
10日の夜、酔った勢い……、と彼は思っている行為の後。
朝目覚めて彼はパニックになっていた。
そして謝ってきた。
私は彼に暫く何も言わなかった。
微笑みながら彼を見ていた。
ひとしきり話して落ち着いて項垂れる彼にこう言った。
気にしないで、一夜の過ちと思えば良いと。
彼はそう言う訳にはいかない、どう償えば良い、と聞いて来た。
だから、こう言った。
償う必要なんてない。あの時言った好きだという気持ちは本当だし、良かったと思っていると。
そう聞いて少しホッとした彼にもう一言伝えた。
だから、今後もまたしてくれればと。
彼は目を丸くしていた。
そう言う訳にはという彼に、こう言った。
昨日の事で私の気持ちには火が付いた。
もう抑えられないと。
会ってくれないのなら奥さんに話すと。
戸惑いを隠せない彼に、私は悪魔の囁きをした。
それに、昨日……。気持ち良かったでしょ?またしたくないの?と。
あの時の彼の、理性では違うと言おうとしているけど、本能がしたいと答えた姿。
とても興奮した。
顔を真っ赤にしながら頷く姿はとても可愛かった。
あの姿がまた見られると思うと身体が火照ってくる。
工藤君、今日も楽しみましょうね。
まだまだ約束を破った埋め合わせには遠いのだから】
□月24日
【あれから2週間ほど経ったけど、彼は私との付き合いを止めるどころか、どんどんのめり込んできた。
悪を憎み不正を許さない性格の彼が一線を越えてしまった反動か、彼女と上手くいっていなかった欲求不満か分からないけど。
日にちも空けず今ではほぼ毎晩会っている。
奥さんは良いの?と聞くと、仕事と言ってあるから大丈夫と言っていた。
そう言う嘘はすぐバレるのに。
まあ、そう言う風に仕向けているのは私だけど。
何せ、毎晩彼に好きな様に身体を預けているのだから。
仕込んだ薬のせいもあってまるでケダモノの様に私を求めてくる。
普段の彼とのギャップがまたたまらず私も興奮する。羽化登仙とはこの事ね。
もっともっと私にのめり込んで?工藤君?
彼女といて幸せになれないなら、私といて幸せになって?】
◆月10日
【今日も工藤君は私のマンションで朝を迎えて行った。
半ば同棲しているかの様。
もうすっかり彼は私の意のままになった。
この間は何かの記念日だったらしいけど、その日も私と一緒にいた。
そんな大事な日に良いの?と聞いたら、別の日でも良いさ、と言っていた。
私が言うのもなんだけど、最低ね。工藤君。
まあ、仕方ないわよね。
あなたを幸せに出来ない彼女がいけないんだもの。
その分の幸せを私が与えてあげているだけだから。
でも離婚させるにはまだ早い。
彼には不倫していると言う罪悪感を。
彼女には旦那が不倫しているかもしれないと言う惨めさを、もっと味わってもらわないと。
それが約束を破った罰よ。
もっと苦しみなさい。
禊が済んだら一緒になりましょうね、工藤君】
◎月10日
【今日、彼に提案をした。
奥さんと別れて、私と結婚してと。
彼は本気か?と聞いて来た。
本気だ、と答えた。
もうズルズル不倫をするのでは無く、あなたの本当の奥さんになりたいと言った。
それ位あなたを愛してる、と。
彼は迷わず分かった、と答えた。
俺も灰原を愛してる。
ケジメをつけて一緒になろうと言ってくれた。
まあ、その答えは当然よね。
毎日会いたい、もう離れたくないと言ってくるレベルまで私に依存していたし。
あの媚薬も常習性があるから私から離れて薬が摂取できなければ禁断症状が出るし。
薬が無くてもすっかり私の身体に夢中になってくれた様で嬉しいわ。
これで彼が私の旦那様になってくれれば、あなたはやっと幸せになれる。
約束を果たす事が出来るのね。
ああ、早く彼が離婚調停を終えるのが待ち遠しいわ】
◎月17日
【彼が私の元を久しぶりに訪ねてきた。
離婚の話し合いをするからと、暫く自宅に帰っていたから。
私は当然、離婚の話が纏まったと思っていた。
だが、彼は土下座してこう言った。
済まない、俺は離婚できない。蘭のもとに帰ると。
何を言っているの?
ふざけているの?
戸惑う私に彼はこう言った。
話し合いをして、不倫相手がいる事も伝えた。
だが、彼女は咎める事なく、私のせいだね、と言った。
そして、涙ながらに許して欲しい。
新一のせいじゃないと言ってきたと。
その涙を見て、正気に戻ったと。自分の過ちに気付いたと。
私は混乱していた。
今更何を言っているの?
薬の効果は?
それよりもこれだけ逢瀬を重ねてきてそんな理屈が通るとでも?
ならもう私を抱けないわよ、と言うと、彼は当然だ。どんな償いでもする。
慰謝料でも何でも。どうか許して欲しいと言った。
その場は茫然となってしまってとりあえず彼を帰らせた。
なぜ?どうしてこうなったの……?】
◎月18日
【許せない。
絶対に許せない。
彼が彼女を選んだことでは無く、彼がまた約束を破った事が。
許せない。
許せない。許せない。
彼に約束を破らせた彼女も許せない。
彼女が彼を幸せにしないから、私が彼を幸せにしようとしただけなのに。
また彼女が彼に約束を破らせた。
そうだ。
彼女がいけないんだ】
これはひどい
◎月21日
【今日、彼女を誘拐した。
彼の事でこっそり呼び出して、薬で眠らせて捕まえた。
簡単な作業だった。
人気の無い別荘地のコテージを借りてそこに連れて行った。
そこで罰を与える事にした。
椅子に縛り付けた辺りで目が覚めて色々喚いていたが聞く気も無いし。
私の顔を見て過去の面影を感じたのか、私が灰原哀か聞いて来たけど答えもしなかった。
うるさいのよ。
イルカの癖に勤めも果たさないで。
私は意地悪な鮫だから。
イルカに彼を任せたのに。
彼を幸せにも出来ないんだから。
その内泣き出して新一がどうとか、あなたを恨む気は無いとか言い始めた。
本当に癪に障ったわ。
諸悪の根源。
彼を不幸せにしている原因。
もう囀れなくして挙げる】
◎月22日
【今日から彼女に罰を与え始めた。
泣き疲れて声も出ないようだったが、罰を与え始めたら良い声を上げていたわ。
まず手を使えなくした。彼を抱きしめても幸せに出来ないなら必要無い。
足も使えなくした。彼を支えられないなら必要無い。
眼も使えなくした。彼を見る資格がないから。
耳も使えなくした。彼の声を聴く資格がないから。
舌も使えなくした。彼と話す資格がないから。
下半身の機能も使えなくした。
彼に快楽を与えても幸せに出来ないのだから。
でも命はまだ奪わない。
彼に見せなきゃいけないから。
もう彼女に気を遣う必要は無い。私が罰を与えたから。
そうすれば彼もきちんと踏ん切りをつけて私と一緒になってくれるでしょう。
彼は優しいから変に未練を持ってしまっていたのでしょうから。
もう心配ないわ。障害は取り除いたから。これであなたは幸せになれるわ】
◎月24日
【今日彼を呼び出した。
話があるからと。
彼女に罰を与えている時も連絡はあったようだけど、携帯を見ていなかったから。
彼からの着信が山の様だった。
そんなに私と話したかったのね。
嬉しいわ。
現れた彼は、酷く疲れた顔をしていた。
私を探して疲れていたのね。
彼は会うなりこう言った。
蘭が行方不明になった。お前は何か知っているのか?と。
私は彼を彼女の元に案内した。
変わり果てた彼女の元に。
彼は言葉を失っているようだった。
何故こんな事をした?と聞いて来た。
だから、答えた。
あなたが約束を破ったからだと。
でも、あなたは何も悪くない。彼女が全て悪いのよ。
だから私が代わりに罰を与えたの、と。
彼は茫然としていた。
が、暫くして彼女を開放するように言った。
まだ分かっていないようなので、私は彼女に止めを刺した。
彼の目の前で。
彼は崩れ落ち膝をついた。
無理もないわよね。自分の過ちを認めるのは辛いもの。
でも、これであなたは自由。解放されたわ。不幸せから。
これでやっとあなたと私は幸せになれる。
そう言った私の言葉に彼はこう答えた。
済まない、灰原。すべて俺のせいだと。
そして、徐に傍にあったナイフを掴み、こう言った。
罰を受けるよ、と。
お前は悪くない。咎は俺が負う、と。
そして、自分にナイフを突き立てた。
どうして?
どうしてなの?
これからあなたは幸せになれるはずだったのに
どうして
どうして?】
??月??日
【ここはどこ……?
いったいあれから何日経ったのかしら。
あれから……。
私は……。
人が来て、捕まって……。
何かずっと言われている気がするけど……。
わからない……。
もうどうでも良いわ……。
あなたがいないなら、もう】
??月??日
【今日私に話しかけてきた人が言っていた。
人1人の命を奪って、1人は重体。自分がしでかした事の重さを分かっているのか、と。
1人重体……?
彼は……、生きている?
生きているのね?
工藤君……!!
ああ、よかった。
待ってて、工藤君。
今会いに行くから。
待っててね。
わたし、すぐいくから】
??月??日
【ただいま】
・以上が、工藤蘭殺害事件の犯人、灰原哀と名乗っていた女性。
宮野志保の残した日記の内容である。
宮野志保は工藤蘭への犯行後、自分の前で自殺を図った工藤新一を治療し、救急車を呼び彼を助けようとした。
そして、駆け付けた救急隊員と、到着した警察官により保護・逮捕された。
工藤新一は重傷であったが、奇跡的に一命を取り留めた。
逮捕された宮野志保は死人の様に押し黙り、捜査員の呼びかけにも応えることは無かったが、捜査員が漏らした工藤新一の生存情報を
耳にして暫くした後、監視の目に一切触れることなく煙の様に姿を消した。
それと時をほぼ同じくして、工藤新一も病院から姿を消した。
この日記は、その行方不明になった工藤新一の病室から発見されたものである。
彼女がこれほどの凶行に至った理由は何なのか?
一体どの様に捜査員の目に触れる事無く脱走したのか?
工藤新一も失踪したのは何故なのか?
彼女が連れ去ったのか?
だとしたらどうやったのか?
だが、何よりも不可解なのはこの日記である。
この日記には、明らかに逮捕中に書いたと思われる文章がある。
だが、取り調べ中に彼女が何かを書いていたと言う記録も目撃証言もない。
そもそも日記を持ち込んだという記録すらない。
では脱走した後に書いたものなのか?
だが、インクの劣化具合や紙の傷み具合から、どう考えてもこの日記は逮捕されるより大分前に書かれている事が分かっている。
逮捕される以前から彼女が妄想的に書いていたものなのだろうか?
それとも何らかの超常的な力で書かれたものなのか?
そもそも何故彼女は日記を残していったのか?
その理由も、彼女や工藤新一の行方も、事件から数年経った今も分かっていない。
真相は全て、闇の中である……。
【工藤蘭殺害事件に関する調査レポートより】
ある元少女の日記、完……?
蘭縛る縄ってどんな強度なんだ
ある探偵の日記
◆月1日
【また今日も事件に巻きこまれた。相変わらずコナンの奴は現場をちょろつくし、蘭は小言がうるさいし嫌になるぜ。
また記憶の無ぇまま事件を解決してるし。
難事件を解決して名探偵だのなんだの言われるのは悪い気分じゃねぇが、事件を解決した記憶は数えるほどしかねぇ。
金は入ってくるし、記憶が飛んでること以外は良いことずくめだから、気にしねぇようにしていたが……。
いい加減病院にでも行った方が良いのか?
原因は一体何なんだ?そう言えば大体、コナンに呼び止められてその後記憶が……。
あのガキ、一度とっちめてやる必要がありそうだな】
◆月4日
【今日も殺人事件があった。現場に来た警部殿のあの嫌そうな顔。
最近確かに事件に巻き込まれまくっているが、だからって俺が事件を起こしてるわけじゃねぇ。
それなのに、死神だのお前の行く所死体の山だの……。いくら何でも酷くねぇか?
それでいて事件を解決したら掌返した様に流石だな毛利君だってよ。
ったく。昔世話になったからまあ我慢するが。
もう少しこっちの気持ちも考えてもらいてぇぜ】
◆月8日
【今日、蘭に起こされたらもう夕方だった。
いくら眠りの小五郎だからって寝すぎじゃないの?だってよ。
確かに寝すぎたのは事実だな。
昨日は珍しく酒も飲んでねぇし、23時には寝たってのに。
ちと疲れてたのか?
いや、柄にもなく酒も飲んでねえから身体がビックリしちまったか。
よし、今日は身体の為にガンガン飲むとするか。
リズムを元に戻さねぇとな】
◆月11日
【……おかしい。絶対おかしい。
形態を見たらTV局の人間から電話が来ていた。
掛けなおしたら、今日の撮影、お疲れさまでした。
今度、別番組の依頼が来たんですが、だと。
撮影?いつしたんだ?
全然記憶にねぇぞ……?
事件の記憶が飛んだのはあっても、日常生活の記憶が無くなるなんて無かったぞ?
ホントに俺ヤバいのかもしれねぇ……。
一度マジで検査入院でもした方が良さそうだな】
◆月15日
【ったく。蘭にまた飲み過ぎだとどやされた。
飲まずにいられるかってんだ。
最近、ちょくちょく日常でも記憶が無くなるし。
身に覚えのない事を後から指摘されるのが増えてやがる。
あれからも事件に巻き込まれたが、やはり解決した記憶はねぇし。
何だかいつも起きてるのか寝てんのか分からねぇ……。夢の中にいる気分だぜ。
飲まずにいられるかよ……。
自分のやっている事が現実かどうかも分からなくなってるなんてよ。
少なくとも飲んで酔っている間は自分の意志で酔っている実感が持ててる。
酔っぱらってる方が素面よりシャンとしてるなんてシャレにならねぇけどな……】
◆月21日
【今日意識を取り戻すと事務所が酷く荒れていた。
傍に青ざめた顔のコナンと蘭がいたので、何があったか聞いてみた。
……俺が暴れていたと。
記憶にねぇ。記憶にねぇぞ。
今日はまだ飲んでねぇのに……。
一体どうなってるんだ?
もうどうやら猶予はねぇみてぇだ。
蘭にタクシーを呼んでもらって、病院に行く事にした。
流石にここまで来たら記憶が飛ぶ原因を突き止めねえと】
◆月22日
【医者から検査の結果を聞かされた。
身体や脳に腫瘍やら血栓やら、障害が出そうな原因はねぇと言っていた。
だが、血液検査で微量だが正体不明の薬物らしき物が出たと言っていた。
薬物?何でそんなもんが俺から出るんだ?
医者にもその薬が何かは分からないらしい。
取り合えず他におかしい所は無いと言うので帰る事にしたが……。
俺は何かヤバい事に巻き込まれているのか?】
◇◆月2日
【もう本格的にヤバい……。
1日の内まともに自信を持って俺がやったと言える事がどんどん減ってやがる……。
最近周りも俺がおかしいのに気付いてきてるし、記憶が飛んでる時の言動も支離滅裂になって来てるらしい。
クソ、俺が一体何したってんだよ。
何が原因でこうなったんだ……?
記憶が飛び出した辺りから何だかコナンの奴が慌ててたりうるさかったりするが、やっぱりアイツが原因なのか?
いや、この記憶も定かじゃねぇ……。
クソ、また飲まずにいられねぇな……】
◇◆月4日
【今日から事務所内にカメラを置いた。
記憶がねぇ時の行動を記録するためだ。
こんな事までしなきゃいけねぇとはな……。
いっそ入院でもしてぇが、原因が分からないと門前払い喰らってばかりだし……。
もしおかしな行動をしてたら……。
クソ、見たくねぇなあ……】
保守
保守
保守
保守
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