当ssはアイドルマスターシンデレラガールズ×ワールドトリガーのクロスssです
もしもデレマスのアイドル達がワールドトリガーの世界観にいてランク戦をしたら…というパラレルのお話です
ワールドトリガーのキャラクターは登場しませんが、トリガー等の設定は原作に出来る限り準拠しています
【デレマス バトルSS】A級特別エキシビジョンマッチ編【ワールドトリガー】
【デレマス バトルSS】A級特別エキシビジョンマッチ編【ワールドトリガー】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1507432889/)
相当昔のものですが、↑の続編となっています。読まなくても大丈夫ですが、読むと1.2倍くらいこのssが面白くなるかも。なお多少設定を変更しています
基本台本形式、戦闘中は地の文が入ります
デレマスアイドル達が繰り広げる激熱バトル少年漫画!みたいなのを目指して書いてます
上記の内容でも良い方はお読み下さい
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1586611116
【ROUND.1 対戦カード】
A級2位 片桐隊
A級3位 速水隊
A級4位 鷹富士隊
A級8位 新田隊
P「おい悪ガキ共。一体どうして呼び出されたか分かるか?」
千川ちひろ「……」ニコニコ
塩見周子(罪状:美城司令のとっておき抹茶プリンを勝手に食べた -30pt)「さー? よいこの速水隊が問題なんて起こすハズないし、なんだろねー」
宮本フレデリカ「もーっ、シューコちゃん! この前ミッシーのプリン食べちゃったでしょー? ミッシー怒ってたよー」プンプン
堀裕子「……」ソワソワ
P(ボーダー本部長)「お前もだよフレデリカぁ!」
フレデリカ(罪状:日曜日に美城司令のお宅へアポ無し突撃訪問 -50pt)「きゃん!? もー、ほんぶちょー怒っちゃヤ☆ いいじゃーん、ミッシーは友達だよ?」
P「友達って……あのなー、美城司令に怒られるのは俺なんだぞ!? こんにゃろめ」ギュムー
フレデリカ「ひぁ! むぉ、あにふぅの~(何するの~)」ホッペムニー
一ノ瀬志希(罪状:暇潰しに美城司令の面白コラ画像を作ってたらいつの間にかボーダー内で広まってた -100pt)「あ、本部長が女の子さわったー! やーんえっちー! へんたーい!」
フレデリカ「えっひー!」ムニー
P「く……奏! このフリーダム娘達をどうにかしてくれよ! お前隊長だろ!」
速水奏(罪状:監督不行届による隊長責任で一緒にお説教)「ムリよ」ウデクミ
P「諦めんなよ!? 頑張れ!」
城ヶ崎美嘉(罪状:なし。特に悪い事してないけど奏に道連れにされた)「ねぇ、アタシもう帰っていい?」タラー
裕子「……」オロオロ
P「おいユッコォ!!」
裕子「はひゃいっ!」ビクッ!
美嘉「ねぇP聞いてr」
P「さいきっくもいい加減にしろこのアホユッコがァ!!!」クワッ
裕子(罪状:美城司令の車に旋空孤月がさいきっく大暴発×2 -4000pt)「ご、ゴメンなさぁい!」(>Д<;)
ちひろ「ユッコちゃん? 後で私からもお話があります。二人きりで」ニコニコ…
裕子「ひっ」
(※修理代はボーダーの資金からちひろさんが捻出しました)
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──ランク戦観戦室──
市原仁奈「時子さまー! ランク戦、もうすぐ始まりやがるですよ! はやくはやくー!」
財前時子「慌てなくても開始時間まだ先よ。みっともなくはしゃぐのは止めなさい」トスッ
仁奈「はーい! えへへっ♪」トスッ
時子「……仁奈。自分が誰の膝の上に座っているか理解しているわよね?」ギロ
椎名法子「時子さんだよね~♪」
仁奈「ねー、でごぜーます♪」
時子「誰が許可したのかしら」
法子「そうだよ仁奈ちゃん! 座る時は座らせてってちゃんと言わなくちゃ!」
仁奈「はっ、そうでやがりました! 時子さま、座らせてくだせー!」
法子「うん、仁奈ちゃんいい子いい子♪」
時子「…………ハァ」
法子「あ、ため息つくと幸せが逃げちゃう! そんな時は……じゃんっ! 幸せ補給のドーナツでお口を塞いじゃおっ! 時子さん、はいあーん♪」ニコッ
時子「もう要らないわ。一日に何個食べさせるつもりよ」
法子「えー」
時子「要らない。しつこいわよ。私を醜い豚のようにするつもり?」ギロッ
法子「……そっかぁ。ごめんなさい」シュン
時子「……」
法子「……」シューン…
時子「チッ! ………………はむっ」
法子「!」パアァ
仁奈「あっ、仁奈にもくだせー!」
時子「……」プニッ ←自分の横腹をつまむ
時子「(……明日からランニングでもしようかしら)」ハァ…
キャイキャイ
二宮飛鳥「フフ、無邪気な彼女達に掛かれば時子さんも形無しだね」
荒木比奈「ッスねー。若い子は恐れ知らずで羨ましいッスよ」
高森藍子「比奈さんもお若いじゃないですか」
比奈「やー、アタシは精神の方が老け込んじゃってるんで……アハハ」
安部菜々「ノウッ! そんな考えではいけません! 10代の頃と違って20代なんてあっという間、気づけばアラサーなんですから! もっと気持ちから若くいないとダメですよ!」
前川みく「えっ? でも菜々チャン……」
菜々(17)「……ハッ!? いっいえ、勿論ナナハ17歳デスヨ!? この間ウサミンママにそう教えて貰ったのを思い出しまして! あは、あははは……」オロオロ
美嘉「あのs」
??「ヘーーーイ!!!」バリーン!!!
「「「きゃあぁぁっ!?」」」
P「うわあぁっ!? へ、ヘレンさん!? 突然いなくなって、どこ行ってたんですか! ってかなんでそこから突っ込んで来るんですか!?」
周子「確かあのガラス、そう簡単に割れないようなやつじゃなかったっけ」ヒソヒソ
志希「対トリオン兵用の特殊強化ガラスだよー」ケラケラ
周子「ひぇー。とんでもないなぁ」
ヘレン「自家用ヘリから身一つでダイブしただけよ? それに、貴方の執務机に置き手紙をしておいたじゃない」
P「『神になってくるわ ヘレン』って……これじゃ何の事だか分かりませんよ! これ見た時マジでビックリしましたからね!?」
ヘレン「フフ、書いてある通りよ? 先日のニュースで〇〇国が宗教戦争をしていると報じられていたものだから、ひとっ飛びしたわ! 戦争を止めたついでに新たな信仰対象として彼らの神になって、争っていた国民達を導いて来たわ」
P「えっ」
美嘉「(神になったってそういう事!?)」
奏「いくらトリガー使いはトリオン攻撃以外に対してはほぼ無敵とはいえ……一人で一国の内部戦争を止めたの?」タラー
P「いや、流石にたった1人では物理的に不可能だろうから、多分協力者が居たんだろう。おそらく現地調達の」
ヘレン「ん……? あらごめんなさい、ガラスを割ってしまったようね。これで修理しておいて貰えるかしら? お釣りは要らないわ」バサバサッ
裕子「(谷間から札束が!?)」
P「はぁ!? いや、こんなに貰わなくても足りますから!」
ちひろ「ありがとうごさいます。お預かりしておきますね」
P「ちょっ、ちひろさん」
ちひろ「言われなくてもお釣りはちゃんと返します」
ヘレン「フフッ。余剰分はPとちひろ、貴方達への迷惑料と、若い子達への投資といったところかしら。貴女達、好きに使って構わないわ! それじゃあ私、友人との約束があるから。またね、アディオス!」バッ!
周子「(あ、突っ込んで来た風穴から飛び降りた)」
<ドスーン! フギャー!? ヘーイ!
志希「嵐みたいだったねー」ホケー
美嘉「(あの悲鳴は……幸子ちゃん?)」
ちひろ「流石はヘレンさんですね」ニコニコ
周子「(あ、ちひろさん機嫌良くなった)」
P「……なぁフレ公」
フレデリカ「んー?」
P「ヘレンさんってなんか……でっかいよなぁ」シミジミ
フレデリカ「おっぱい?」
P「うん…………いや違うわ」
菜々「そ、そうだ! 今回のマッチングはどんな組み合わせなんですか!?」アセアセ
みく「えーっとねー、片桐隊、速水隊、鷹富士隊。そして新A級部隊の新田隊にゃ」
飛鳥「フッ、新風吹き込むA級ランク戦か。心躍るね」
みく「飛鳥チャンのチームは大体B級上位だから、元B級1位の新田隊とはよく戦ってたでしょ? どんなチームだった?」
飛鳥「そうだな……新田隊はオールラウンダー3スナイパー1のバランスの取れた隊だ。チームワークに優れていて、個々の実力も皆高く万能型。知っての通り隊長の美波さんは聡明な人で、どんな状況においても安定して強かった。名実ともに模範的と言えるチームだよ」
藍子「編成に関しては、今回戦う速水隊と似たタイプのチームですね」
飛鳥「あぁ、その通りだ。けど、少し前からエースの夕美さんが更に実力を伸ばし始めてね。それまでB級1位だった財前隊を前シーズンで抜き、その勢いのまま今シーズンでA級という訳さ。だから、ボクにとっても今の新田隊の強さは未知数だよ」
みく「へぇー……。比奈さんは? A級から見て、新田隊は早苗さんのチームにも通用しそうかにゃ?」
比奈「へっ? いや、そういう具体的な戦闘の事はトラッパーのアタシに聞くより……」チラッ
菜々「っ!? ……! ……っ!(ダメ! ナナに振っちゃダメですっ!)」ブンブン
みく「?」
比奈「あー……そうッスね、新田隊は──」
菜々「(いいんです。ナナはもう……)」
藍子「……?」チラ
──片桐隊作戦室──
三好紗南(片桐隊 オペレーター)「新顔の新田隊かぁ。その中ではエースの夕美ちゃんが要注意人物だけど、早苗さんの弟子の1人なんでしょ?」
片桐早苗(片桐隊隊長 アタッカー)「そうね。一対一ではよく戦ってるから、ある程度手の内は知ってるつもりよ。それに皆も、ログ見て予習はしてるでしょ?」
及川雫(片桐隊 スナイパー)「はい、バッチリですー♪」
佐藤心(片桐隊 アタッカー)「もち☆大体頭に入ってんぜ☆」
早苗「それより特に面倒なのはフレちゃんと茄子ちゃんよ! フレちゃんは普通に強い上に何しでかすか分かんないし……茄子ちゃんは放っとくだけで戦場はぐっちゃぐちゃ。あの子を長生きさせちゃった時の試合は、当初の作戦通りになんて行った試しがないわ」
紗南「最強スナの清良さんも、茄子さんとのコンボで放っとくと詰みかねないよ!」
心「ま、いつもゴリ押しで勝ってるけどな☆」
早苗「まぁね♪ 雫ちゃん、今日もブッ壊し担当お願いね! 茄子ちゃんを抑えて!」
雫「はい、任せてくださいー♪」
早苗「あと……おそらく速水隊は『志希ちゃんの方』で来ると思ってるわ」
雫「私もそう思いますー。今回はスナイパーが全部で5人も居ますから、敵の位置把握は大切ですもんねー」
紗南「そう? 確かに今回の試合は『カメレオン』持ちが二人居るから感知系のサイドエフェクトを持ってる志希ちゃんも割と刺さってるけど、A級ランク戦環境トップの一人の早苗さんにそこそこ強く圧力掛けられる奏ちゃんが出て来てもおかしくないと思うよ?」
早苗「そうね。でも志希ちゃん、お昼にあった時そわそわしててなんとなく機嫌良かったもの。多分今日は『そういう気分』よ」
雫「あー」
紗南「それ見れたのはラッキーだったね」
心「あの子は調子に波がある分、上振れの時はヤバいかんなー☆」
紗南「志希ちゃん、今回も何かギミック仕込んだトリガー構成で来てるんだろうね。それか誰かを露骨にメタってるとか、もしくは味方の誰かとシナジーがあるような構成とか。それにあのサイドエフェクト、ホント厄介!」
心「それ言っちゃあ、A級なんて厄介な子しかいないっしょ」
紗南「まぁねー、それに個人でヤバいのだったらB級にもちらほらいるし。下手なA級より強いのがね」
心「きらりちゃんとか有香ちゃんとかな☆」
紗南「ヘレンさんも相当ヤバいでしょ!」
心「……や、あの人はA級とかB級とかそういう枠に収まってないから」
紗南「……確かに。世界レベルだもんね」タラー
雫「奏ちゃんはともかく、志希ちゃんへの準備……ですか? どうすればいいんでしょうー?」
心「フレちゃんもだけど、あの子は別の意味で何してくるか分かんねーっての☆」
早苗「あの子はある意味ボーダー1の天才だもの。完全に予想するのは無理だけど、試合が始まっちゃえば志希ちゃんの動きである程度使用トリガーを予測する事は出来るわ」
紗南「えー? どうやってさ」
早苗「僅かな反射的反応や間合いの取り方を見て判断するのよ。例えばアタッカーに距離を詰められても距離を取ろうとしないならアタッカートリガーは入れてる、とかね。心ちゃんなら当然出来るでしょ?」
心「よゆっす☆」
早苗「ま、あの子は当たり前の様にフェイク使って来るけどね。その辺は読みと直感でカバーよ」
紗南「ねぇ早苗さん、頭のいい美波ちゃんならウチらに対して何かしらの策を講じて来ると思うんだけど、何してくるか見当はついてるの?」
早苗「そりゃアレよ、えー…………と、とりあえずいつも通りやってりゃ大丈夫よ! 困ったらゴリ押し! それでおっけー!」バーン!
紗南「あー、今適当に誤魔化したー」
雫「誤魔化しましたねー♪」
心「なー☆」
早苗「うっ……お、お姉さんをからかう悪い子はタイホよタイホ!」
「「きゃー♪」」
紗南「ごほんっ! で、軸になる基本の戦法だけど、今回の対戦相手には早苗さんが刺さってるから雫ちゃんで戦場荒らして早苗さんを通してくルートで行こっか。早苗さんが囲まれて乱戦になったらアイビスでドカンすればいいし、それが一番太い勝ち筋だと思うよ!」
早苗「そうね! それで行きましょ!」
紗南「えっと、これ結構皆のスペックの高さに頼った力任せの戦術だから調整役の心さんの負担ちょっと大きくなりそうだけど大丈夫?」
心「もち☆ てゆかはぁと戦闘中にあれこれ考えんのキライだし、二人の好きに使ってくれた方が動きやすくて楽だぞ☆」
紗南「おっけ! んじゃ展開によっては容赦なく生贄になってもらうからそのつもりで☆」
心「いや大切にしろよ☆ 女の子なんだぞ☆」
紗南「…………………あ、うん。ごめん」
心「そういう反応が一番傷つくんだぞ……」
早苗「ま、ゴチャゴチャ考えた所でダメな時はダメなのよ! やばくなったらいつも通りゴリ押しで行くわよー!!」
心「おー☆」
雫「シールド張ってハウンド撒いてれば大抵何とかなりますもんね~♪」
心「いやそれ雫ちゃんだけだから」
紗南「(……この人達、A級隊相手にもゴリ押し脳筋戦法でもホントに勝てちゃうからタチが悪いんだよねー)」
──速水隊作戦室──
奏「さて……今日は『志希ちゃんの方』よ。よろしくね」
志希「いえーす♪ 今回もイイ感じの志希ちゃんに仕上げて来ました~! じゃあ奏ちゃん、『オペレーター』お願いね♪」
奏「ええ、情報支援は任せて。あなた程のオペレーティングは出来ないけど、こなして見せるわ」
志希「にゃはは、あたしも純粋な戦闘力じゃ奏ちゃんには敵わないよ~。あたしはアレだよ、何してくるかわかんないってゆー情報アドバンテージと悪知恵を武器にして戦ってる様なものだからー」
フレデリカ「そぉ? シキちゃん普通に強いと思うけどなー」
周子「そう言えばさ、新田隊はA級デビュー戦だっけ? 楽しみだよね」
美嘉「新田隊も強くなりそうだよね! ふふっ、楽しみだなぁ」
奏「ま、そう簡単には勝たせてあげないけどね。皆、作戦は頭に入ってる?」
周子「ん、だいじょぶー。例の如く開幕茄子さん要注意ね」
フレデリカ「なんだっけ? ……あ、思い出したっ! フレちゃんがバリバリ点を取る!」
美嘉「マップは「都心A」かぁ。茄子さんや雫ちゃん対策に遮蔽物が多いトコ来ると思ってたから予想通りだね。どうする? 皆もメテオラ入れる?」
志希「あたしはパスで~。トリガーセットパンパンだし、そもそもサイドエフェクトあるからねー」
周子「あたしは入れよっかな。この前使って割としっくり来たから実戦でも練習したいし」
奏「分かった。周子のトリガーセットに追加しておくわね」ピピ
奏「志希ちゃんは……大丈夫よね?」
志希「うん、分かってる」
志希「早苗さんはあたしに任せて」
──鷹富士隊 作戦室──
クラリス(鷹富士隊 スナイパー)「皆さん、お紅茶を淹れて来ましたわ♪」
鷹富士茄子(鷹富士隊 ガンナー)「あっ、ありがとうございます♪ふー、ふー……あひゅっ! ふー、ふー……」
持田亜里沙(鷹富士隊 オペレーター)「あ、茄子ちゃんっ。慌てなくても大丈夫ですよ?(コクン)……あ、美味しい」
柳清良(鷹富士隊 スナイパー)「ふふっ、茄子ちゃんったら。トリオン体で飲めばいいじゃない」クスッ
茄子「カコちゃんじゃなくてカコ隊長ですよ~!もーっ」プンスカ
清良「ふふ、ごめんなさい。隊長さん」ニコッ
茄子「はい、よろしいっ♪ それにしても、分かってませんね~。その熱さも含めて、淹れたてを生身で頂くのがいいんじゃないですか」
クラリス「(コクン)……ふぅ。うふふ、なんだか嬉しそうですわね」
茄子「ふふっ、バレちゃいましたか♪ ほら、新田隊がA級に上がってきたじゃないですか?」
亜里沙「ええ、今回戦う相手でもある隊よねっ。それがどうかしたの?」
茄子「またライバルが増えるなぁって♪ ふふっ♪」
クラリス「あぁ……ふふ、そうですね」ニコ
清良「(彼女は生まれ持つ多彩な才能と『幸運』のサイドエフェクトのお陰で、覇道と呼ぶべき人生を歩んで来たそうです。しかし……)」
亜里沙「(余りにも目立つ彼女の『幸運』はその才能すら覆い隠し、周りから彼女自身は評価されず疎ましく思われ、或いは陰でラッキーアイテム扱いされていたと聞きました。でも……)」
クラリス「(勝負事においても遺憾なく力を発揮していた、その類稀なる才能と幸運を持ってしても敵わない相手が、このボーダーには居た。ですわね?)」
茄子「(その事実が、私にとっては凄く嬉しかったんです。木場隊、片桐隊、速水隊……私の幸運(ちから)が及ばない世界にいる人達。そんな人達に勝つ事で、運だけじゃない、『私』の力で勝ったんだって胸を張って言えるんですっ!)」
茄子「(幸運な癖に贅沢な事言うな!って思われるかもしれないから、チームの皆にしか言ってないけど……これでも私の大切な目標なんです!)」
茄子「よぉーし! 新田隊の皆さんに、A級の強さを見せてあげましょう!」
清良「うーん……でも、私達の得意なあの戦術は雫ちゃんが居る片桐隊にはあまり効きませんからね」
クラリス「ええ、ウチ(鷹富士隊)にとって最も苦手な隊と言えますわ」
茄子「マップも私達にとってはやなマップですしね」
亜里沙「そうですね。『幸運』が味方してくれたら、話は別でしょうけど♪」
茄子「ふふっ、そうですね♪ 私達の『チーム戦術』と、私の『幸運』のサイドエフェクト! それがあれば大丈夫ですっ♪」
茄子「……あ、そういえばこないだ京都で買ってきたおまんじゅう持って来てたんでした! 皆さんまだトリオン体に換装してませんよね? 食べます?」ガサゴソ
亜里沙「あっ、これテレビで紹介されてたやつですよね」
クラリス「!(前から食べたかった有名なお店の……!)」ピクッ
清良「あら、いいですね。はい、あーん♪」スッ
クラリス「えっ! あ、あの、自分で食べられますから……。その、渡して下さいませんか?」スッ
清良「だぁめ♪あーんしなきゃあげません♪」←ドS
クラリス「うぅ……」チラ
茄子「買ってきた人の権限を行使します!クラリスさんはあーんしないとあげません♪」←ソフトS
クラリス「そ、そんな事……私、これでも大人の女なのですから、どうか慈悲を……」←ソフトM
亜里沙「もう、二人していじわるして」クスクス←両方いける
清良「うーん、いらないなら私が食べちゃいましょうか」
クラリス「ッ!! く、下さい! あーんしますから、食べちゃダメです……あー……///」
清良「はい、いい子ですね」スッ
クラリス「はむ……」
茄子「美味しいですか?」
クラリス「あ、味なんて分かりません……恥ずかしい……///」カアァ…
清良「ふふ。でも、クラリスさんは羞恥心より食欲の食いしん坊さんですものね。こんな事、P本部長には内緒にしないといけませんね」クスクス
クラリス「今あの方の名前を出すのは反則です……うぅ///」マッカ
茄子「清良さん、相変わらずいじわるですね♪」
クラリス「本当です……あまりお戯れはおやめ下さいっ」プク
──新田隊 作戦室──
新田美波(新田隊隊長 オールラウンダー)「…………」ブツブツ
相葉夕美(新田隊 オールラウンダー)「美波ちゃん、緊張してるの?」
美波「あ、うん……少しだけ。えへへ、バレちゃったか」
大槻唯(新田隊 オールラウンダー)「そんなの分かるよ~、美波ちゃん一点ジーッと見つめながらブツブツ言ってるんだもん! 大丈夫? ゆいのキャンディあげよっか?」
十時愛梨「そういう時は甘い物が良いですよ~!私、メロンパイ焼いてきたんです! 良かったらどうぞ♪」
美波「えっと、ごめんね? トリオン体の時は甘い物はちょっと……」
夕美「私も遠慮したいかな……あはは」
唯「あ、そっかぁ」
愛梨「え~? どうしてですか?」
鷺沢文香(新田隊 スナイパー)「トリオン体は栄養の吸収効率が良く排泄が不要な程なので、より体に蓄積されやすいのです……。お二人はおそらく、そのトリオン体の機能のせいで太ってしまう事を懸念されているのでしょう……」
愛梨「えっ、そうだったんですかぁ? 知らなかったです~」
唯「愛梨ちゃんは全部おっぱいに行くもんね~?」
愛梨「ええ~っ? そんな事ありませんよぉ。最近脇腹が気になってきて……触ってみますか?」ペロン
唯「え~? こんなの誤差だよ誤差~」プニプニ
夕美「……愛梨ちゃん、それ大学の男の子にもやったりしてないよね?」
愛梨「それってなんですか?」
夕美「今みたいに体を見せたり触らせたりする事!」
愛梨「えーっとぉ……」プイッ
美波「(これはやってるわね……)」
文香「(天然とは恐ろしいものです……)」
愛梨「でも私、そんなつもりじゃ……女の子のお友達と同じように接してるだけで……」
夕美「愛梨ちゃんにそんなつもりはなくても、男の子にとっては違うんだから! そうやってガードが緩そうな子って思われたら、サークルの飲み会とかで──」
美波「こ、こほん! そうだ、復習なら皆でしようよ! その方がより意識のすり合わせが出来るし、気も紛れると思うな! どうかな?」アセアセ
文香「(大学では愛梨さんの友人の方々が常にガードしているそうなので、恐らく夕美さんが心配されているような事態にはならないかと……)」ヒソヒソ
夕美「! わ、分かった。心配してつい熱くなっちゃって。ごめんね愛梨ちゃん」
愛梨「いえいえ、私の為に言ってくれた事ですから♪ 私も気をつけますねっ」ニコ
美波「では、えー……まず、敵戦力について復習します!」キリッ!
新田隊「「「「はーい!(はい……!)」」」」
美波「まず、片桐隊。超弩級のトリオン量を持つスナイパーの雫ちゃんで場を荒らしたり整えたりして、個人総合2位の早苗さんが『カメレオン格闘術』で暴れて、そのどちらかを心さんがサポートするといった形ね」
夕美「特に早苗さんは要注意ね! あの人は絶対に近寄らせちゃだめっ! 男性顔負けの武術で一瞬で倒されちゃうからね!」
美波「そして速水隊。絶対的エースのフレちゃんに加えて、シューターにして驚異の13000ptを持つリアルタイム弾道引きバイパー使いの奏ちゃんor毎試合トリガーセットをごっそり入れ替えてくる変幻自在の志希ちゃんのダブルエースチーム!」
愛梨「フレちゃん+奏ちゃんのパターンとフレちゃん+志希ちゃんのパターンで、隊の戦い方がガラッと変わるのが強みですよね!」
美波「そして最後は鷹富士隊! ガンナーだけど、長射程の特性を持つ擲弾銃のメテオラ曲射で場を荒らして来る茄子さんに、スナイパー1位の清良さんが要注意ね!」
唯「てゆーかさ、A級ってほぼみーんな要注意じゃんね☆」
夕美「あはは……だよねぇ」
美波「だ、大丈夫! ウチだってA級なんだから、きっと私達皆要注意だよ! ねっ!」グッ
新田隊「……」
美波「……な、何とか言ってよぉ(士気を高めるつもりが、まさか外しちゃった……? は、恥ずかしい……)」プルプル
夕美「ふふっ♪」
唯「あはははっ♪ そーだよね! 考えてみたら、あのカイブツみたいに強い早苗さんとかがウチらの対策考えてるんだよ? これってなんかスゴくなーい!?」
夕美「こーらっ。怪物だなんて失礼でしょっ」
唯「たはは~」
愛梨「でもそう言われると、なんだか私達もすごい人みたいですねっ」
文香「あまり実感は湧きませんが……」
美波「……」
奏『新田隊の皆も…A級に上がったという事は、私達はもうライバルよ。当然だけど、当たった時は手加減しないから。遠慮なく勝たせて貰うわ』ニコ…
美波『勿論!美波だって負けませんっ!いつか速水隊も抜いて見せます!』
美波「……うぅん。私達は、この間までB級だった。けど、今は違うわ。憧れたあの人達と同じステージにいるの。格下なんて思う必要なんて無いわ! この前啖呵を切った速水隊にだって、きっと勝てる!」
唯「うん……うん!流石隊長、なんかノッて来たよー♪」
文香「夕美さん、エースとして頼りにしています」
夕美「こちらこそっ♪ 援護お願いね、文香ちゃん!」
文香「はい。任せて下さい」ニコ
美波「いい? 自分より強い相手を倒す方法なんていくらでもある。例えば数的有利を取ったり、他の隊を上手く利用したり──」
夕美「トリオン切れを狙ったり、マップを上手く使ったりするのも有効だよね!」
愛梨「運が良い時も案外勝てちゃったりしますよね~♪」
唯「ね~! 運も馬鹿に出来ないよねー。それ言ったらカコさんどうすんのって感じだけど。あは♪」
美波「そうね。戦いは色々な要素が複雑に組み合わさって出来てる。私達はそれをフルに利用して行くわ!」
美波「まずは合流! そして早苗さんとフレちゃんを早めに倒す! そうすれば後は何とかなるから!」
夕美「うんっ! 作戦通りに行けばいいね!」
唯「『アレ』のタイミング、上手く合うといいなー!」
美波「行くよー……新田隊ー!」
「「「おぉー!!」」」
文香「ぉ、おーっ……!」
各隊のトリガーセット紹介
(※at=アタッカー gu=ガンナー sh=シューター ar=オールラウンダー sn=スナイパー op=オペレーター)
【A級2位 片桐隊】
早苗at 佐藤at 雫sn 紗南op
【特色】雫:トリオンモンスター
白抜きハートに集中線のエンブレム
早苗 35890pt (スコーピオン(改))
スコーピオン(改) スコーピオン(改)
カメレオン FREE
シールド シールド
バックワーム グラスホッパー
スコーピオン(改):消費トリオンが増える代わりに強度up
雫 10573pt (アイビス(改))
バッグワーム アイビス(改)
メテオラ ライトニング(改)
ハウンド ハウンド
シールド シールド
アイビス(改):消費トリオンが増える代わりに威力up
ライトニング(改):消費トリオンが増える代わりに弾速up
佐藤心 11270pt(孤月)
アステロイド 孤月
スタアメーカー 旋空
シールド シールド
バックワーム
【A級3位 速水隊】
奏op(sh) 周子sn 美嘉ar フレデリカat 志希ar(op)
【特色】奏と志希がお互いにオペレーターと戦闘員をスイッチする事が可能??
セクシーな唇の中に鋭く光る牙のエンブレム
??速水奏 op 13284pt(バイパー)
(※今回はオペレーターの為、戦いません)?? ?
バイパー バイパー
?シールド シールド ?
テレポーター エスクード ?
バックワーム FREE
一ノ瀬志希 ar
(※トリガーセットが8枠すべてフリー(自由枠)で登録していて固定の武器トリガーが無い為、特例として志希のみポイントを所持している武器種全てを記述)
7180pt(スコーピオン)
6579pt(孤月)
4983pt(レイガスト)
6389pt(ハウンド)
5721pt(バイパー)
5813pt(メテオラ)
6668pt(イーグレット)
5703pt(ライトニング)
5397pt(アイビス)
サイドエフェクト:強化嗅覚
スコーピオン ハウンド
スパイダー バイパー
シールド シールド
バックワーム レッドバレット
※志希に固定のトリガーはないのでシーズン初めのランク戦登録時は毎回8枠FREEで申請していますが、それだと使用トリガーが分からないので便宜上志希のみ試合毎に使うトリガーセットを載せます
??塩見周子 10899pt(イーグレット)
??バッグワーム イーグレット ?
FREE テレポーター ?
シールド シールド ?
FREE エスクード
※今回は左下のFREE枠にメテオラをセット
??城ヶ崎美嘉 8619pt(アステロイド) ???
スコーピオン アステロイド(突撃銃) ?
テレポーター メテオラ(突撃銃)
?バッグワーム エスクード ?
シールド シールド ??
宮本フレデリカ 24764pt(孤月)
?グラスホッパー 弧月 ?
シールド シールド ?
テレポーター 旋空
?バックワーム FREE
【A級4位 鷹富士隊】
茄子gu 清良sn クラリスsn 亜里沙op
プリムラの花を撃ち抜く交差する2つの弾丸のエンブレム
鷹富士茄子 10888pt(メテオラ)
サイドエフェクト:幸運体質
メテオラ(擲弾銃) メテオラ(擲弾銃)
カメレオン アステロイド(突撃銃)
シールド シールド
バックワーム FREE
柳清良 22889pt(イーグレット)
バッグワーム イーグレット
シールド シールド
FREE FREE
FREE FREE
バックワーム イーグレット
FREE ライトニング
FREE アイビス
シールド シールド
新田隊 美波ar 夕美ar 唯ar 文香sn 愛梨op
波打つ海の上にMの字に並んだ5つの星のエンブレム
美波 8578pt(アステロイド)
アステロイド アステロイド
孤月 ハウンド
シールド シールド
バックワーム FREE
唯
スコーピオン スコーピオン
アステロイド(突撃銃) アステロイド(突撃銃)
シールド シールド
バックワーム FREE
夕美
アステロイド(拳銃)アステロイド(拳銃)
スコーピオン スコーピオン
シールド シールド
バックワーム FREE
文香
バックワーム イーグレット
FREE ライトニング
シールド シールド
エスクード エスクード
以上
橘ありす(二宮隊 オペレーター)「(今日は初めてのランク戦の実況……! 少し不安はあるけど、木場さん、和久井さんが解説を務めてくれるから私は安心して─)」
P「あ! おーいありすー」
ありす「! 呼びましたか、Pさん」ニコッ
P「ごめん! 実はさ、解説の留美さん……てか和久井隊がスカウト組の対応が長引いて今日は来れないらしいんだ」
ありす「えっ!? そんな……! じゃあ今日は誰が……」
P「うーんそうだなぁ……」
??「うおおぉぉぉぉぉ!!! 全・力・疾・走!!! C級ブースはこっちですよりあむちゃん!!!!!」ズダダダダ
??「ちょ……なんで走……ぜぇ……くっそやむ……げっほおぇ」
P「お、茜」ガシッ
日野茜(本田隊 アタッカー)「ややっ、P本部長!! おはようございます!!! 私、遅刻したりあむちゃんをC級ブースに送り届けている所です!!!」
夢見りあむ(C級 スカウト組)「Pサマたすけて……あつ森でオールしてたせいで寝坊したぼくが悪かったけどこんなのあんまりだよぅ……」
P「よし茜、こいつは俺が持ってくからお前はランク戦の解説を頼む」ポン
茜「解説ですか!! 分かりました、全力で解説しますっ!!!」
ありす「ちょ、Pさん!? 通りすがりの茜さんを捕まえて解説って、大丈夫なんですか!?」
P「……まぁ、困ったら真奈美さんが何とかしてくれるから。行くぞ夢見」スタスタ
りあむ「ひーん、夢見って呼ぶのやめて~!」ドタドタ
ありす「あ、ちょっとPさん!? ……もうっ!」
橘ありす「皆さんこんにちは。本日実況を勤めさせて頂きます、二宮隊の橘です。よろしくお願いします」
日野茜「よろしくお願いしますありすちゃん!!「橘です」そして解説はこのわたくし、日野茜ですっ!! 全力で務めさせて頂きます!!!」
木場真奈美(木場隊隊長 アタッカー)「同じく解説の木場真奈美だ。本日はよろしく頼む」
ありす「日野隊員、今回はどの隊に注目しますか?」
茜「そうですねぇ、今回はなんと言っても新A級、チャレンジャーの新田隊でしょうか! 現役の並み居るツワモノ達にどう対応するかが見ものですね!! くぅ~、チャレンジャー! いい響きですね!燃えますねぇー!!」
ありす「……ありがとうございます。木場隊長、今回の組み合わせについてはいかがでしょうか?」
真奈美「片桐隊と鷹富士隊が含まれる試合では、両隊の好む戦法上荒れた展開になる事が多い。マップ選択権が新田隊に在ることも含め、番狂わせの可能性は十分あるだろうな」
茜「人数が多い程運要素は強まりますからね! 今回は四つ巴ですから、大波乱間違いなしです!!! いやー楽しみですねぇ!!」
ありす「なるほど、先の読めない試合になりそうですね。新田隊のマップ選択にも注目しt」
茜「さぁさぁさぁっ!!! 間もなく転送開始ですよー!! A級ランク戦ROUND1!! チャレンジャー新田隊にご注目あれーーー!!!」
ありす「えっ!? ちょっと茜さん、それ私のセリフです!」ガーン!
真奈美「まだ始まらないから落ち着け」
橘ありす「皆さんこんにちは。本日実況を勤めさせて頂きます、二宮隊の橘です。よろしくお願いします」
日野茜「よろしくお願いしますありすちゃん!!「橘です」そして解説はこのわたくし、日野茜ですっ!! 全力で務めさせて頂きます!!!」
木場真奈美(木場隊隊長 アタッカー)「同じく解説の木場真奈美だ。本日はよろしく頼む」
ありす「日野隊員、今回はどの隊に注目しますか?」
茜「そうですねぇ、今回はなんと言っても新A級、チャレンジャーの新田隊でしょうか! 現役の並み居るツワモノ達にどう対応するかが見ものですね!! くぅ~、チャレンジャー! いい響きですね!燃えますねぇー!!」
ありす「……ありがとうございます。木場隊長、今回の組み合わせについてはいかがでしょうか?」
真奈美「片桐隊と鷹富士隊が含まれる試合では、両隊の好む戦法上荒れた展開になる事が多い。マップ選択権が新田隊に在ることも含め、番狂わせの可能性は十分あるだろうな」
茜「人数が多い程運要素は強まりますからね! 今回は四つ巴ですから、大波乱間違いなしです!!! いやー楽しみですねぇ!!」
ありす「なるほど、先の読めない試合になりそうですね。新田隊のマップ選択にも注目しt」
茜「さぁさぁさぁっ!!! 間もなく転送開始ですよー!! A級ランク戦ROUND1!! チャレンジャー新田隊にご注目あれーーー!!!」
ありす「えっ!? ちょっと茜さん、それ私のセリフです!」ガーン!
真奈美「まだ始まらないから落ち着け」
飛鳥「ありす……気の毒に」
比奈「失礼ッスけど、茜ちゃん、解説なんか出来るんスか? その、あー……彼女、どっちかというと理論派っていうよりは本の……感覚派じゃないッスか」コソッ
藍子「ふふ、大丈夫ですよ。茜ちゃんはお勉強は少し苦手ですけど、こと戦闘に関しては凄いんですから。あ、ちなみにラグビーの知識だってすごいんですよ? この前ウチの隊の皆でお茶した時───」ユルフワー
ありす「新田隊の戦闘マップ選択は『都心A』! 木場隊長、これは一体どういった狙いでしょうか? どちらかと言うとアタッカー有利なマップに見えますが」
真奈美「その通り、アタッカー有利だな。『都心A』はエリア全域に渡って多くの高層建築物が立ち並ぶ。その上車などの細かい遮蔽物もあり全体的にゴチャゴチャしているので、中・長距離の射線が少々通りづらい地形となっている」
真奈美「まぁ全域がそうという訳ではないし、都会なだけあって道幅は広いので主に狙撃を狙うならそこだろうが……おそらく及川隊員の砲撃、鷹富士隊長の曲射爆撃をある程度封じる狙いだろうな」
茜「もっと言うと鷹富士隊不利ですね! 全員射撃トリガーしか入れてませんし!」
ありす「今回の対戦相手の中に宮本隊員、片桐隊長といったボーダー三指に数えられるトップレベルのアタッカーがいる中でのこの選択には疑問を感じる所ですが、どうでしょう、日野隊員?」
茜「いえいえ、ひとえにそうとも言えませんよ! アタッカートリガーを採用しているのは、えーっと……何人でしたっけ」
真奈美「片桐隊が二人、速水隊が二人か三人(※)、鷹富士隊が0人、新田隊が三人だ」(※現時点で志希が戦闘員なのかオペレーターなのか&志希のトリガー構成が不明な為)
茜「ありがとうございます!! そういう事なのでアタッカーの数の有利は取れています! ですから、チーム全体の戦力で勝負するよりはよい判断だと私は思います!!」
飛鳥「(かしこい)」
真奈美「鷺沢隊員はスナイパーランキングに名を連ねる実力者だが、新田隊以外の隊には鷺沢隊員より格上のスナイパーが揃っているからな。それを考えると悪手とは言い切れないよ」
ありす「……」プク ←文香さんだって強いもんと主張したいが立場上我慢してる
真奈美「だからといって、鷺沢隊員を腐らせる様な作戦は論外だがな。数の有利と彼女程の実力者を活かさない手はない」ニコ
ありす「! と、当然です(フンス)……しかし、速水隊長は自ら弾道を引ける素晴らしいバイパー使いです。彼女なら細々した遮蔽物の隙間を縫って攻撃する事は容易なはずです。多くのガンナーが遮蔽物に遮られる中、それをものともしない速水隊長には大きなアドバンテージを明け渡す事になってしまうのでは?」
真奈美「そこは新田隊長の読みだろうな。今回はスナイパーが多く、更にスナイパー1位の柳隊員もいる事で索敵の優先度はいつにも増して高くなる。四つ巴の試合で人数が多く速水隊長の殲滅力も捨てがたいが、一ノ瀬隊員のサイドエフェクトによる索敵を速水隊は優先させるだろうと読んだのだろう」
茜「私は奏さんが出てくると思います! カメレオン状態だと、軌道が読みづらいバイパーは極めて厄介ですからね!!」
真奈美「何にせよ新田隊はこれがA級での初戦だ、データ取りの意味合いもあるのだろう。どんな作戦がどこまで通用するか、試行錯誤するのも悪くない。負けたら終わりの一発勝負ならまだしも、この先もランク戦はまだまだ続いていくんだからな」
ありす「木場隊長も、A級に上がりたての頃はそうやって経験を積んでいたのですか?」
真奈美「勿論だ。当時の高橋隊を始めとして、A級は怪物揃いだったからな。イメージトレーニング通りには中々いかなかったよ」
ありす「木場隊にもそんな時期が……こほん。日野隊員も同じようにデータを取ってイメージトレーニングを?」
茜「いえ! 理屈で考えても頭がパンクしてしまいますので! 難しい事は未央ちゃん達に任せて、私は本能の赴くままに突撃あるのみです!」
ありす「そ、そうですか。……ここで各隊員の仮想空間への転送が始まりました。間もなく戦闘が開始されます!」
『転送完了 対戦ステージ『都心A』 A級ランク戦ROUND.1 開始』
※「都心A」は当ssオリジナルのマップです
【前シーズンの最終順位・及び暫定ランキング】
A級
1位 木場隊
2位 片桐隊
3位 速水隊
4位 鷹富士隊
5位 向井隊
6位 和久井隊
7位 川島隊
8位 新田隊
1位 財前隊
2位 桐生隊
3位 相原隊
4位 神谷隊
5位 二宮隊
6位 輿水隊
7位 本田隊
8位 双葉隊
9位 丹波隊
10位 浅利隊
11位 前川隊
12位 綾瀬隊
13位 五十嵐隊
14位 ヘレン隊
15位 南条隊
16位 岡崎隊
17位 早坂隊
18位 的場隊
【個人ランキング】
個人(ソロ)総合ランキング
順位/ランカー名(使用武器)/取得ポイント
1位 木場真奈美(孤月) 37241
2位 片桐早苗(スコーピオン改) 35890
3位 宮本フレデリカ(孤月) 24764
4位 柳清良(イーグレット) 22889
5位 向井拓海(アステロイド) 21375
6位 高峰のあ(アイビス改) 16674
7位 諸星きらり(孤月改) 15802
8位 速水奏(バイパー) 13284
9位 中野有香(スコーピオン) 12663
アタッカーランキング
1位 木場真奈美(孤月) 37241
2位 片桐早苗(スコーピオン改) 35890
3位 宮本フレデリカ(孤月) 24764
4位 諸星きらり(孤月改) 15802
5位 中野有香(スコーピオン) 12663
6位 佐藤心(孤月) 11270
7位 浜口あやめ(スコーピオン) 11104
8位 財前時子(孤月改) 10688
9位 日野茜(スコーピオン) 10514
10位 ヘレン(スコーピオン) 10286
ガンナー・シューターランキング
1位 向井拓海(アステロイド) 21375
2位 速水奏(バイパー) 13284
3位 川島瑞希(バイパー) 11897
4位 鷹富士茄子(メテオラ) 10888
5位 相葉夕美(アステロイド) 9864
6位 二宮飛鳥(ハウンド) 8921
7位 木村夏樹(アステロイド) 8773
8位 姫川友紀(アステロイド) 8752
9位 大和亜希(アステロイド) 8650
10位 城ヶ崎美嘉(アステロイド) 8619
スナイパーランキング
1位 柳清良(イーグレット) 22889
2位 高峰のあ(イーグレット) 16672
3位 三船美優(アイビス) 12218
4位 塩見周子(イーグレット) 10894
5位 相原雪乃(イーグレット) 9997
6位 及川雫(アイビス) 9537
7位 大和亜希(イーグレット) 9465
8位 綾瀬穂乃香(ライトニング) 8812
9位 鷺沢文香(アイビス) 8535
10位 クラリス(イーグレット) 8424
おまけ
オペレーターランキング(非公式)
1位 八神マキノ
2位 千川ちひろ
3位 双葉杏
4位 三好紗南
5位 一ノ瀬志希
6位 高垣楓
7位 佐久間まゆ
8位 速水奏
9位 服部瞳子
10位 橘ありす
ブラックトリガー使い
遊佐こずえ ??? ???
【ボーダー隊員の人員構成】
・司令
美城
・本部長(戦闘部隊総隊長)
P
・本部長補佐
ちひろ
・外務・営業部長
ちひろ
・メディア対策室長
ちひろ
・本部開発室長
晶葉
・チーフエンジニア
泉
・A級(1位から順に)
木場隊 真奈美 のあ あい マキノ
片桐隊 早苗 心 雫 紗南
速水隊 奏 美嘉 周子 フレデリカ 志希
鷹富士隊 茄子 クラリス 清良 亜里沙
向井隊 拓海 夏樹 亜希 里奈 涼
和久井隊 留美 美優 雪美 瞳子
川島隊 瑞樹 比奈 春菜 紗理奈
新田隊 美波 夕美 文香 唯 愛梨
財前隊 時子 有香 法子 ゆかり
桐生隊 つかさ 翠 千秋 聖來
相原隊 雪乃 巴 琴果 桃華
神谷隊 奈緒 凛 加蓮 楓
二宮隊 飛鳥 蘭子 小梅 あの子(?) ありす
輿水隊 幸子 友紀 紗枝 まゆ
本田隊 未央 茜 裕子 藍子
双葉隊 杏 きらり 悠希
丹波隊 仁美 あやめ 珠美 葵
浅利隊 七海 ライラ ナターリア 歌鈴
前川隊 みく 李衣菜 アナスタシア 肇
綾瀬隊 穂乃香 柚 あずき 忍
五十嵐隊 響子 美穂 卯月 かな子 智絵里
ヘレン隊 ヘレン
南条隊 光 麗奈 千佳 柑奈
岡崎隊 泰葉 裕美 ほたる 千鶴
早坂隊 美玲 輝子 乃々 由愛
的場隊 梨沙 晴 みりあ 千枝
※基本的に一番左が隊長(隊名にもなっている)、一番右がオペレーター。
オペレーターが隊長の双葉隊、一人部隊のヘレン隊など一部例外あり。
※ある程度、キャラの個性をサイドエフェクトやチームの戦術などに反映させています。
転送直後。四隊の全隊員が、マップ内にそれぞれ一定距離を空けた位置にランダムに配置される。
それと同時に、新田隊以外の隊員及びスクリーンの映像を見ていた観客は驚き、あるいは感嘆の声を上げた。
茄子「うふふ、やりますね美波ちゃん♪」
華奢な細腕に見合わぬ大きな銃二丁を両手に携えた茄子が、楽しげにつぶやいた。
茄子「……さて、行きますか!」
早苗「なるほど……そう来るのね。皆、いい? 今から──」
目立つ転送位置から速やかにビルとビルの間の路地に身を滑り込ませた早苗が、片桐隊の隊員達を指示を飛ばす。
志希「くんくん……見つけた。今から言う位置のレーダーの点にタグ付けて。まずあたしのすぐ北のこれが──」
大型家電量販店の屋上で志希は静かに佇んでいた。サイドエフェクト「強化嗅覚」を駆使し索敵を行う彼女の頭に、白いものがふわりと乗った。
雪だ。
美波「合流地点はポイントC周辺にします! 合流まで無茶な交戦は避けること! 皆、A級デビュー戦絶対取るよっ!」
『『『『了解!』』』』
ランク戦のマップは「都心A」。現実世界であれば絶え間なく人が往来し、騒音の耐えない活気ある空間だったであろう。
しかし、ここは無音の仮想空間。それはまるで、雪によって時間が停止したかのような静けさ。
だが間もなく、その静寂は破られるだろう。
ありす「雪……!」
茜「ややっ、雪ですかっ!」キラキラ
ありす「更に新田隊、雪原迷彩とも言うべき白い隊服に身を包んでいます! おそらくバックワームも白色に設定されていると思われます!」
真奈美「天候設定『雪』か。大粒の雪が降り靴が埋もれる程度には積もっているが、『昼』な事もあり空は明るくそれほど視界が悪い訳じゃない。フフ、中々面白い事をするじゃないか」
ありす「日野隊員、これはどういった狙いでしょうか?」
茜「ん~、いいですねぇ! 今度本田隊(ウチ)がマップ選択権を貰った時は、天候設定を雪にしてもらいましょうか!」ワクワク
ありす「あの、日野隊員? 日野た……茜さんっ!!」
茜「へぁ? ……あっ、こほん! えー、恐らく『カメレオン』対策ですね!! 早苗さんのカメレオン+格闘術、茄子さんのカメレオン+幸運のサイドエフェクトの強力なコンボを、足跡で位置が丸見えな雪によって弱体化させる狙いでしょう!」
真奈美「カメレオンを起動している間は透明化出来るが、その代わりそれ以外のトリガーを同時に使えなくなる。当然シールドも使えず、攻撃に対して完全に無防備な状態になるから、雪で正確な位置が割れれば当然戦いにくくなるだろうな」
ありす「ですが、なぜ視界が悪くない程度の雪に留めたのでしょう? 大雪で視界を悪くすれば、鷹富士隊を始めとした他隊のスナイパー達を大きく機能低下させられたと思うのですが……」
真奈美「おそらくそれだと屋内戦にもつれ込み、アタッカーが有利になりすぎると踏んだのだろう。敢えてそうしなかったのは他隊の強力なスナイパー達に片桐隊長や宮本隊員といった強力なアタッカーへの抑止力となってもらう為だと思うよ」
ありす「あっ! 鷹富士隊長が仕掛けるようです!」
一面真っ白な高層ビルの屋上で、バックワームを纏った鷹富士茄子は片膝をついた状態で静止していた。
その視線は、トリオン体の標準機能であるレーダーに注がれている。バックワームを装備していない敵や味方の位置を平面マップ上に光点で示すものだ。もっとも、レーダーではその光点が誰かまでは分からない。
茄子が得意としている攻撃手段の一つに、「適当メテオラ」というものがある。といっても大層なものではなく、レーダーを見て「メテオラ」を勘で撃つだけのものだ。
トリオン弾は基本的に重力や空力の影響を受けず、放たれるとひたすら直進していく。だが、茄子の使う擲弾銃は狙撃トリガーにすら匹敵する長い射程と引き換えに、その性質を持たない。
つまり、数百メートル規模での「曲射」が可能なのだ。
レーダーを見ての適当撃ちなので、普通なら当然命中精度は低く、警戒しているフリー状態のA級隊員が相手ではまず当たらないだろう。
そう、「普通」なら。
茄子「」ガチャ!
茄子は銃を構えた。
適当撃ち。当たるか外れるかは「運」次第。といっても、当たる確率は限りなく低いだろう。
で、あるならば。「幸運」のサイドエフェクトを持った彼女ならばどうだろうか。
茄子『レーダー上の全光点を狙って5秒後に撃ちます! 炙り出されて浮いた子を狙撃して下さい!』
清良クラリス『『了解』』
戦闘用義体「トリオン体」の標準機能である内部通信機能により、声を発さずチーム内で会話する。
茄子「(……5……4……3……2──)」
パキ
茄子の背後から、小石を踏んだような音が微かに聞こえた。
茄子「!!」バッ
その音に茄子が振り向いた時には、「それ」は輪郭がブレる程に加速していた。
??「」ビュオッ!
高速で接近してくる何者かに対し、茄子は反射的に回避行動を取った。
直後、凄まじい速度で接近してきたブレードが茄子の頬を掠めた。
早苗「ハァイ♪」ギラッ
茄子「わわっ!」
茄子が辛うじて回避した後、気さくな声色に見合わぬ鋭い眼光と不敵な笑み、稲妻のような動きで彼女に迫りながら声をかけたのは片桐早苗。バックワームでレーダーから消えていた早苗が、茄子に奇襲を掛けたのだ。
茄子は回避した流れでバックワームを靡かせながらそのまま綺麗に側転すると、間髪入れず鉄柵を飛び越え、ビルの屋上から飛び降りた。アタッカーと見紛う程の身のこなしだ。
早苗「(んー、踏み込みの瞬間に『運悪く』雪の下に隠れてた小石かなんかを踏み砕いちゃったか。ま、茄子ちゃんだし仕方ないわね)」
早苗は鉄柵を飛び越える時間すら惜しいと言わんばかりにスコーピオンで鉄柵を一瞬で切り刻み、一瞬も減速する事なく、電光石火の如く猛追する。
茄子のいたビルは前述の通りかなりの高層。地上までは三十メートル程もある。
早苗「グラホ持ちのあたしの前で飛ぶなんて、ちょーっと迂闊じゃないかしら?」
茄子「そんな事ないですよー!」ガチャ
茄子は落下による空気抵抗で強くはためくバックワームを解除しつつ、空中で体を捻り早苗に銃口を向ける。
ドドドドドドォン!
早苗は茄子の放つメテオラ群をシールドで難なく防御した。だが、その感触に早苗は違和感を抱いた。
早苗「(弾の収束が甘い? ……そういう事ね)」
茄子は早苗を倒す事を狙って撃ったのではない。今しがた飛び降りた高層ビルを狙ったのだ。数発早苗に撃ったのはシールドを張らせて動きを止める狙いだろう。
茄子「(大体の位置がバレてて身動きの取れない空中じゃ透明化した所で格好の的……まだカメレオンは使えない! 地上に降りるまで時間を稼がないと……!)」
メテオラの当たりどころが良かったのか、ビルが砕けてできたガレキが爆散し、早苗と茄子を遮るように飛んできた。
早苗「時間稼ぎのつもりかしら?」
早苗「(『居る』ならここで撃たれるかしらね)」
ビギュン
ご名答。
早苗「ん、やっぱりね」サッ
転送運が良く、クラリスが茄子を援護できる位置にいたのだ。鷹富士隊は茄子のサイドエフェクトのお陰で、毎試合必ず「良い位置」に飛ばされる。早苗も当然それを警戒していた為、難なく躱す事に成功した。
早苗は、攻撃する瞬間が一番隙だらけになる事を理解していた。
ありす『鷹富士隊、今回も非常にいい位置に転送されていました! これも鷹富士隊長のサイドエフェクトの力なのでしょうか?』
真奈美『そう、鷹富士隊長を狙う時には常に自分が狙撃手の射程圏内にいる事を覚悟しておかなければならない』
──300m南西──
クラリス「外しましたか」バッ
ライトニングで早苗を牽制した直後、クラリスは潜伏していたビルのオフィスの窓を割って飛び降りた。
───────
紗南『あのビルだよ』
雫「はいー」ズド
ドゴオォォォォン!!
直後、クラリスが数秒前までいたビルの上半分が吹っ飛んだ。
undefined
早苗『雫ちゃん、片っ端から清良ちゃんが居そうな狙撃ポイント潰してって。紗南ちゃん支援頼むわね』
紗南雫『『了解!』』
数秒後、周囲のビルやショッピングモール、家電量販店、立体駐車場などの大型建造物がが次々と爆音を立てて崩落していく。
茄子『清良さん!』
その呼び掛けは、決して清良の身を案じてではない。スナイパー1位にそんなものは不要だった。
清良『』ダンッ! ダンッ! ダンッ!
清良は、イーグレットで三発の銃弾を放った。
そのたった三発は、試合を大きく動かした。
一方、観戦ルーム。
清良が一発目の弾を撃つと室内は大きな歓声が上がり、二発目を撃つと更に大きな歓声が、三発目が撃ち終わる頃には室内の半数ほどの人が立ち上がり、ある者は絶句し、またある者は驚きのあまり悲鳴すら上げていた。
みく「うえぇぇぇ!? 一発目とか外してたらどうするつもりだったにゃ!?」
比奈「絶対に当てる自信があったからでしょうねぇ」
藍子「す、凄いです……! 凄すぎて、私……」
菜々「ふふっ、清良ちゃんも相変わらずですねぇ」ニコニコ
飛鳥「…………」ポカーン
比奈「(飛鳥ちゃん、口開いてるっスよ)」ヒソヒソ
飛鳥「!」パクッ
比奈「あはは、気持ちは分かるッスよ」
飛鳥「……ッ。忘れてくれ」カァッ…
undefined
早苗『雫ちゃんナイスぅ♪』
雫『いえいえー♪』
早苗「これでしばらく援護は望めないわよ」
茄子「着地出来れば充分ですよー!」ブゥン…
早苗は空中で茄子に向き直るが、一瞬早く着地した茄子はそれと同時にカメレオンを起動し、透明化した。
早苗「(む、消えたかー。でも美波ちゃん達が雪にしてくれて助かっ……やるじゃない)」
早苗は透明化した茄子を雪の足跡を利用して見つけようと考えたが、茄子は透明化する前、早苗が空中で瓦礫や狙撃に対処していた一瞬の隙に地面に向かってメテオラを撒いていた。そのお陰で雪の積もった地面はまるでいくつも丸く型抜きされたクッキー生地のように、円状にアスファルトが露出していた。
茜『茄子さん流石です! 無駄な動きがありませんね!!!』
真奈美『瓦礫の崩れる音で足音も上手く消しているな』
早苗「(ここまでされちゃ、後は神頼みね。って──)」ヒュオッ!
早苗はスコーピオンを二つ繋げて伸ばす高等技術、「マンティス」を駆使し、レーダーをチラ見しつつ薙ぎ払うように広範囲を攻撃した。
カメレオンを使用している相手は、姿は見えないがレーダーにはハッキリと映る。つまり、レーダーを見ながら大まかな位置を「勘」で攻撃するしかない。
早苗「(茄子ちゃん相手にそれは無いわね)」
茄子「(おっとっと。よっと。ひょいっと)」
まさに「神業」、早苗の猛攻を紙一重で全て回避していた。
ありす『片桐隊長、超高速のマンティス! しかし鷹富士隊長には当たりません!!』
真奈美『直接斬りに行かないのは柳隊員が射程内にいる事を考え、射線の切れる所から攻撃をせざるを得ないからだろうな。他のスナイパーならそれでも斬りに行っているだろうが、柳隊員は格が違う。試合も序盤でまだ勝負に出る訳にはいかないんだろう』
茜『早苗さんも刺し違える覚悟なら倒せるでしょうが、茄子さんと自分(早苗さん)のトレードじゃ割に合わないと判断したのだと思います!!』
ありす『片桐隊長は及川隊員には撃たせないんでしょうか?』
真奈美『カメレオン状態の鷹富士隊長にはおそらく当たらない。ハウンドでは片桐隊長も巻き込むおそれがある。それに爆風やら何やらで運要素が強まってしまうのを懸念したんだろうな』
茜『茄子さんを倒す時には、なるべくそういった運要素を排除するのが定石ですからね!』
まず一発目。その弾は、なんと清良のいる建造物を粉砕せんと飛んでくる雫のアイビスの弾そのものを空中で撃ち抜いた。
その爆音はエリア全域に鳴り響き、その爆風は周囲の雪を一瞬で吹き飛ばした。それは幸運にも茄子の逃げた先の地面の雪であり、茄子の逃走を手助けする形となった。清良の元へと逃げた茄子の判断が功を奏したようだ。
次に二発目。これは雫へのカウンタースナイプ。
雫は大規模破壊が目的のアイビスによる狙撃(砲撃)を行う時はバックワームを使用しない。それだけ目立つ行動をすれば一瞬で位置が割れて反撃に遭うので、ブラックトリガー級のトリオン能力を活かして半球状のシールドで自身を覆い、僅かに開けた穴をシールド変形で動かしながら狙撃を行う。
清良はその穴を撃ち抜いた。
雫はこういった万が一に備えて穴の射線上に体を置く事はしないのでトリオン体は無事だが、それでも武器となる狙撃銃(アイビス)は完全に破壊され、その衝撃で体勢を崩してしまった。すぐさま次弾を放つのは不可能だろう。
清良がたまたまその穴を狙撃出来る位置にいたのも、ひとえに「運が良かった」。これに尽きる。
最後に三発目。早苗のマンティスを撃ち砕いた。
イーグレットを構えてから撃つまでの刹那、流石の清良も高速で動く刃を捉えるのは難しいと考えた。そこで、清良は刃が空振った後、反転する際の一瞬の停止時間を狙ったのだ。
これは最上位クラスの隊員しか知り得ない、あるいは知った所でどうしようもないとも言うべき小さな早苗の弱点だが、早苗は自身の体に当たるであろう攻撃には極めて敏感に反応するが、それ以外、つまり早苗の体を通過しない攻撃には反応が鈍い(基本的には誰もが当てはまるだろうが)。
並のスナイパーなら、早苗本体を狙った方が早い、もしくは現実的だと考えただろう。しかし、清良は臨戦態勢かつフリー状態の早苗にこの距離(200m)での狙撃は当たらないと判断し、武器狙いに切り替えた。
普通ならその判断で早苗そのものを諦めるだろうが、清良は「狙える」のだ。
結果、次弾を警戒した早苗は武器を破壊された上に清良に意識を大きく奪われ、茄子を取り逃がす事になった。
茄子「(なんとか早苗さん撒けたみたい。でもやっぱり狙撃ポイント潰されると困るし、うーん?……)」
茄子「(──雫ちゃんがやっかいですねぇ)」キィン
ありす『な、なんと! 柳隊長の神業の如き三連弾により、鷹富士隊長が片桐隊長を撒く事に成功しました!』
真奈美『これが鷹富士隊の強さだよ。戦場における運は彼女達に味方する。戦場で敵に運を味方に付けられる事、そしてこちらが運に見放される事、それがどれ程恐ろしい事か……。言うまでも無いだろう』
ありす『実力が拮抗している場合、勝敗を決するのは読み合い。言ってみればジャンケンに近いと聞きます。運は極めて重要な要素ですね』
茜『それに、スナイパーのアシストがあるとはいえあの距離まで近付かれた早苗さんから逃げ切るのはほんっっとーに凄い事ですよ!! 身のこなしに優れた上位アタッカーですら難しいと思います!』
ありす『そうなんですか? いくら早苗さ……片桐隊長とはいえ、スナイパーのアシストがあるなら絶望的に難しいとは思えないのですが……』
茜『一体一なら機動力のある双葉隊の悠貴ちゃんや私、機転が利くフレデリカさんや志希さんなどはいけるかも知れませんが、大抵は雫ちゃんがどこからでも射線お構い無しにどでかいのを撃ち込んで来るので崩された隙にやられてしまいます! 武術に長けた早苗さん相手じゃ組み付かれた時点でほぼやられますので!』
ありす『ひえぇ、日野隊員や乙倉隊員でも逃げられないんですか……となると、木場隊長も逃げられないんですか?』
真奈美『私は逃げないよ。近づかれる前に斬る』
ありす『か、かっこいい……!流石は総合1位です!!』キラキラ
真奈美『買い被りはよしてくれ、斬れずに寄られて倒される事も当然ある。私の場合立ち向かうのが分が悪い勝負ではないだけだよ』
ありす『……っ!』←充分かっこいいですという眼差し
真奈美『……それに、やはりと言ったところか。最初に鷹富士隊長が片桐隊長と接触した時は運が悪いと思ったが、結果的には鷹富士隊有利な状況になりつつある。見てみろ』
ありす『あっ! あれは……!』
夕美『雫ちゃん発見! 交戦していい?』
美波『OK! でも無理はしないでね!』
夕美『分かってる、合流優先っ!』
唯『夕美ちゃんファイトっ!』
志希『雫ちゃんと夕美ちゃんみっけ~。うまいことやりまーす』
周子『あーい』
フレデリカ『らーぶ?』
志希『ゆー!』
ふれしき『『いぇーい♪』』
周子『なんのこっちゃ』
美嘉『気が抜けるなぁ……』
奏『志希、具体的にはどうするつもり? 簡単にでいいから教えてちょうだい』
志希『ん? えっとねー───』
雫『あっ、夕美ちゃんに見つかっちゃいましたー。交戦は避けらなさそうですねー』
心『まじ? 思ったよか早いじゃん。一人でやれそ?』
雫『夕美ちゃんだけなら大丈夫ですー。けど恐らくあれだけ撃ったので足止めされてる内に次々来ると思いますー。そうなったなら多分やられちゃいますねー』
早苗『ごめん、あたしはちょっと遠いわ! 心ちゃんお願い!』
心『つっても夕美ちゃんから走って逃げるのは無理ぽいな! おっけすぐ行くぞ、あと1~2分待っとけ☆』
紗南『50秒ね。このルートなら目立つけど心さんなら多分行けるから表示しまーす』
雫『お願いしますー』
心『任しとけちくしょうめ☆』
余談だが、心にはこういう役回りが多い。
真奈美『まぁ、流石にあれだけ派手にやれば見つかるだろうな』
茜『志希さんはまだ夕美さんと雫さんのどちらにも気付かれていないようですね!』
夕美のハンドガンは、片方は「射程」と「弾速」、もう片方は「威力」と「弾速」に重きを置いた設定になっている。左右持ち替える事も可能。グリップ部分に夕美にしか分からないような微妙な感触の違いがあるのだが、見かけ上はどちらも全く同じな為、相手からすればどちらがどちらか分からない。
夕美「行くよっ!」
夕美は二丁のハンドガンを構え、雫のシールドの一点を狙い連発するが、雫のシールドはビクともしない。
夕美「(だったら……)」
続いて「射程」の方のハンドガンで牽制しつつ
「威力」の方で崩しを狙ったり、攻めのリズムをわざと単調にしておいて急に変調させるなど、様々なテクニックを織り交ぜてはみたものの、そのどれもが通じなかった。
シールドが硬すぎて並のトリオン量の隊員が相手なら通じる戦法も、雫には通じない。また雫のハウンドが作る弾幕が分厚過ぎて、そもそもハンドガンが活きる近めの射程距離に入れて貰えないのだ。
だが、夕美もあの早苗に師事する達人である。雫と対面してこれだけハウンドを撒かれながら数十秒も無傷でいられる隊員はそう多くない。
夕美「(美波ちゃんと対雫ちゃんの特訓してなかったら危なかった……!)」
夕美はマスタークラスのシューターでもある美波が雫並のトリオンになるよう訓練室の設定をし、この「都心A」でひたすらトリオンモンスター美波とのタイマンで実戦経験を体に叩き込んで来たのだ。
夕美「っふぅ! やっぱり正面からは無理かな」
雫「効きませんよー!」ギィン
雫はシールドを張ったままアイビスをオフにし、3メートル四方はあろうかという巨大なトリオンキューブを頭上に発生させ、それを縦×横×高さで4?、64分割にした。64分割とはいえ、その一つ一つが並のシューターの丸々一つ分かそれ以上の大きさだ。
夕美「(来た!)」
夕美は俊敏な動きでその場を離れ、ビルから飛び降りた。
真奈美『夕美のあの動き……』ボソ
茜『ややっ!? なんだか早苗さんに似ているような……!?』
雫「ハウンド!」
凄まじい威力と弾速のトリオン弾群が夕美に降り注ぐ。それらと同程度のトリオンが割り振られた射程距離もかなりのものだろう。
トリオン量が規格外な為、射撃トリガーを放つ際にチマチマとトリオン量の配分を考えずに大雑把に割り振っても問題ない所が雫の強みの1つでもある。
夕美は本能的に向かってくるハウンドと反対側に逃げようとする気持ちを抑え、最短かつ華麗な身のこなしで雫の居たビルの屋上の3階下のフロアのガラスを割り中へと侵入した。
雫のハウンドはシールド二枚のフルガードでも防げない。そう考えた夕美はビルでガードすると同時に、その凄まじい威力を利用して下のフロアにハウンドを誘導し破壊する事で屋上にいる雫の足場を崩した。
真奈美『相葉隊員は及川隊員のハウンドを利用して自分のいる階から上を崩落させ、落ちてくる及川隊員を狩る狙いのようだ』
茜『いくら雫ちゃんのシールドが硬いとはいえ、ゼロ距離でシールドを削られ続けるのはジリ貧です!! 雫ちゃんピンチですね!!』
雫「きゃあ! ……そう来ましたかー。でしたら私もっ」
雫は抱えていたアイビスをONにし、真下のビルごと夕美を狙う。
夕美「!!」
夕美は一瞬で反応し、すんでのところでビルから脱出する。
直後、何度響いたか分からない爆音が鳴り、ビルが崩壊しはじめた。
夕美「(雫ちゃんが落下中で体勢を崩してる今しか距離を詰められないっ! すぐ戻らなきゃ!)」
夕美は崩落したビルの対面のビルの壁を蹴り、地上へと加速した。
雫「うっ」ドサッ
それを確認した雫は数十メートル落下した後着地してすぐ起き上がり、瓦礫を払い除けるとバックワームを起動させてレーダーから姿を消し、夕美が脱出した方向の反対側に走り出した。
雫「(夕美ちゃん、前より対面した時の圧力が強くなってますねー。一旦心さんと合流して──)」
───雫の視界が傾いていく。気付けば、右に空が、左に地面があった。
志希「夕美ちゃんを撒いてもうすぐ心さんと合流出来る、最も油断しちゃうこのタイミング。逃す訳ないよね~」
否。奇襲を仕掛けた志希に首を落とされたのだ。
『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
ありす『一ノ瀬隊員の奇襲により及川隊員ベイルアウト! 速水隊先制点です!』
茜『おおおおおっ!!! やりますねぇ志希さん! 一瞬の隙を突く素晴らしいタイミングでした!』
真奈美『……? 志希の動き、何やら違和感が……』ボソッ
茜『むむ? どうかしましたか?』
──片桐隊 作戦室──
雫「わっ。え?……私、倒されちゃったんですかー?」ドサッ
紗南「おかえりー。うん、志希ちゃんが潜伏してたみたい。アレは仕方ないよ、志希ちゃんの潜み方と忍び寄り方上手すぎ」
心『めんご雫ちゃん間に合わなかった☆』テヘ
雫「いえ、一瞬油断しちゃいましたー……」シュン
早苗『はいはい切り替え! 心ちゃんはあたしに合流して!』
心『うぃっす☆』
その数秒後、雫が倒された地点に夕美が到着した。
夕美「(ベイルアウトの光! それにあれは志希ちゃんっ!雫ちゃんが倒されたんだっ! 一足遅かった……!)」グッ
志希「あ、夕美ちゃんだ~」フリフリ
夕美「(志希ちゃん……武器トリガーも持たずに棒立ち? いや、一応周囲の狙撃ポイントからの射線は切れる位置にいる……。って事は今回はシューター? いや、それにしては距離をとる素振りもないし何か変……うぅん、考えても仕方ないっ! 分からないなら先手必勝で……あれ?)」
不気味な振る舞いを見せる志希を警戒し思案を巡らせる夕美をよそに、志希は夕美に興味を無くしたかのように視線を外した。
志希「ごめんね夕美ちゃん、作戦上夕美ちゃんの相手してるヒマないんだ~。ってゆーかあんまり今の夕美ちゃんにキョーミないしね~。んじゃねー」
夕美「なっ……! 雫ちゃん取り逃して速水隊にリードされたんだから、こっちには戦う理由があるんだからねっ!」
志希「ふーん、じゃ好きにすれば~? あたしは早苗さんとか清良さんとか、そういう『強いヒト達』の相手しなきゃなんないし。それにエースって言っても、見たところA級上がりたてで緊張しちゃってる夕美ちゃんくらいなら────」
振り向いた志希は、つまらなそうな顔をして言い放った。
志希「────いつでも倒せるしね」
そう言って、志希はスコーピオンのブレードを両手に発生させ、走り去って行った。
夕美「なっ……!!?」
志希の言葉は、夕美の心を強く揺さぶった。
A級に上がり初めての試合。それは新田隊の誰しもが緊張と不安を抱いただろう。最も得点を取らなければならない「エース」であり、責任感の強い真面目な夕美なら尚更だ。
血が滲む程の鍛錬はした。だが、そんな事は誰もが当たり前のようにやっている事。何も特別な事ではない。
しかし、夕美には自信があった。早苗に師事し訓練を積む事で、自分が成長しているという確かな実感を持っていた。自分はそこそこ強い、A級でも通用すると。それはシューター・ガンナーランキング3位という数字にも表れている。
それに自分だけではない。新田隊のメンバーも成長している。A級上位の猛者達にも新田隊の皆が実力を発揮出来れば、少なくとも手も足も出ず一方的に負けるとは思っていなかった。
それは、仲間達も同じ想いだった。
美波『だ、大丈夫! ウチだってA級なんだから、きっと皆要注意だよ! ねっ!』
唯『あはははっ♪ そーだよね! 考えてみたら、あのカイブツみたいに強い早苗さんとかがウチらの対策考えてるんだよ? これってなんかスゴくなーい!?』
~~
美波『……うぅん。私達は、この間までB級だった。けど、今は違うわ。憧れたあの人達と同じステージにいるの。格下なんて思う必要なんて無いわ! この前啖呵を切った速水隊にだって、きっと勝てる!』
夕美には自信があった。
そのはずだった。
それなのに。
────志希は、自分を警戒すべきライバルとは認めていなかった。
夕美「(それに、志希ちゃんはここを離れる前にブレードを出してた。という事は志希ちゃんはシューターじゃない。それってつまり──)」
──舐められてた。
それが、負けず嫌いな夕美の心に火を付けた。
夕美「そんなの……やってみなくちゃ分かんないでしょっ!?」
悔しさ、不安、怒り、焦り、自尊心。それから自分をエースとして認めてくれた新田隊の強さを証明してやるという想いを胸に、夕美は志希を倒すべく全速力で走り出した。
書き溜め分ここまで。続きは明日以降に投稿します
ワールドトリガーのキャラクターは基本的に若くても精神的に老成していて、そこが魅力ではあるのですが、やはりデレマスのキャラクターを出す以上はそのキャラ等身大の性格でいて欲しいという思いがあり、あまり上方修正は掛けていません
あと、個人的にワートリの当馬や清良さんみたいな「バックワーム、イーグレット、シールド×2」みたいな「自分は小細工なしのイーグレット1本で飯食ってくから」みたいな渋いトリガー構成にカッコよさを感じます
今日のウワサ①おっぱいが大きい程トリオン量が多くなるらしい。
それでは、おやすみなさい
乙です!
続編待ってたしたー!
志希「くんくん。おー、夕美ちゃん怒ってるね~」ニヤ
それこそが志希の狙いだった。
志希はそんな気配を臭いで感じ肩越しに夕美を一瞥すると、すぐに前方に視線を戻した。
興味なさげに夕美に背中を向けた志希だがその実、いつでも反撃出来るように全神経を背後の夕美に集中させている。前方の景色は目で見えてはいるものの、集中する志希の脳は不要と判断しほぼ認識していなかった。
真奈美『……そういう事か。志希も中々にえげつない事をする』フフッ
ありす『木場隊長? あの……』アセアセ
真奈美『……ん! あぁ、済まない。いや、恥ずかしながら志希の……一ノ瀬隊員の考えている事についての考察に夢中になってしまっていたよ。解説の職務を放棄してしまって申し訳ない』
ありす『で、では、その考察の解説をお願い致します』
真奈美『承った。まず、向こうの音声はこちらには届かないので何を言ったかまでは分からないが、恐らく何らかの言動による挑発をしたと見て良いだろう』
ありす『ちょ、挑発ですか!?』
真奈美『そうだ。何も言ってないにしろ、戦闘態勢を取らず背を向けたあの挙動そのものが挑発行為に相当する。その狙いは────』
先程、志希は夕美に対して当然のように「いつでも倒せる」と言い放ったが、実際の戦闘力は夕美の方が上であり、正面きっての戦いになった時に自分が不利な事は志希も正しく理解している。
そこで、志希はトラップを仕掛けた。
一つは物理的なトラップ。夕美が雫と対峙している時、周囲に白く着色され雪の背景に溶け込んで見えにくくされたスパイダーが張り巡らされた空間をいくつも作り出した。格上の夕美にも勝ちうる空間だ。
次に、そこへ誘い込む為の心理トラップ。A級に上がりたてで不安もあろう「新田隊」。そしてそのエースであり、負けず嫌いで責任感の強い「夕美」。
雫を倒す事に成功した場合に何かしらの策でワイヤー地帯に夕美を誘い込む事は奏に伝えていたが、「挑発」という手段を選んだのは志希のアドリブだ。
夕美は、「雫を仕留め切れず横取りされた。これはエースとしての自分の落ち度だ」と認識している。つまり夕美と志希は直接戦闘行為を行っていないにも関わらず、夕美はこの時点で志希に先を行かれたという感覚を持ってしまった。
そんな相手。自分の獲物を目の前でかっさらって行った相手からの、挑発。
更に敢えて言葉を少なくする事で、あたかも「志希は思った事を言っただけ」のように見せかけた。志希の普段の自由な振る舞いもその印象を強めるのに拍車を掛けている。
一番効くタイミングで一番効く相手に、巧みな演技と言葉選びを駆使し的確に挑発という手段を通した。挑発で視野が狭まっている今の夕美ならば、ワイヤートラップに掛かる確率は普段より高くなるだろう。
当然、ワイヤーが失敗した際の二の矢も用意してある。志希が向かう先にはフレデリカがおり、そこに誘い込んで数の有利を取り反撃する算段だ。志希にとってはこれが本命の策である。
勿論、サイドエフェクトの「強化嗅覚」で夕美の向こうから雫を助け損ねた心が迫っている事も把握している。
もし心に追いつかれたとしても、位置関係から先に心と会敵するのは夕美であり、その場合は先程と同じようにフリーになった志希が両者が戦っている隙に周囲に罠を張るなり、潜伏して不意打ちを狙うなり、先にフレデリカと合流してから勝負に勝って消耗した方を挟撃するなりと、今以上に志希にとっての有利状況となる。
そしておまけにもう一つの心理トラップ。これは志希が常に展開しているもの。いわゆるパッシブスキル。
それは「不気味さ」。
まず、自分のトリガーセットは志希に知られているのに志希のトリガーセットは不明という情報ディスアドバンテージ。更に志希はその高い知能と柔軟な思考により、誰もが思いもよらない奇想天外な作戦で不意をついてくる。
これにより、志希はある意味で最強の戦術である「初見殺し」を見知った相手に何度でも仕掛ける事ができ、「自分の手の内は志希にバレているのに、志希は何をしてくるのか、どんな手で倒しに来るのか分からない」という心理的不安を相手に与える。
それが実は相手の過大評価だったとしても。
そしてその過大評価が、夕美より格下である筈の志希の「いつでも勝てる」という言葉に現実味を帯びさせるのだ。
当然、以上の事を志希は完全に把握している。
志希の恐ろしさは戦闘力ではない。その卓越した頭脳だ。
「考証」し、「実験」する。そして期待通りの「結果」が得られた時、志希はえも言われぬ快楽を感じる。
全ては志希の掌の上だ。
夕美「ふぅ……一旦落ち着かなきゃ」
しかし、夕美も曲がりなりにもA級のエース。いつまでも煽りに思考を支配される程愚かな女ではなかった。
夕美は悔しい、実力を証明したいと強く思いながらもこの状況を客観視し、現状を省みていた。
これで本当に大丈夫なのか? と。
────だがそれが、夕美を更なる思考の迷宮へと叩き落とす事になる。
夕美「ふぅーっ。早く落ち着かなきゃ……冷静にならなきゃ……!」
そう、夕美は「冷静にならなければ」と思っているだけ。それは決して、冷静な者の思考ではないのだ。
>>61
3年前のssの続きを待ってたなんて…
ありがとうございます、励みになります
(夕美視点)
──私よりずっと頭の良い志希ちゃんが、私にいつでも勝てるって言ってた。でも志希ちゃんは自分と相手の実力差が分からないような素人じゃない。
って事は、私は……ほんとに志希ちゃんに勝てない?
いや、過去に個人戦をした時は8:2くらいの割合で勝ててたもん。
でも、その時の志希ちゃんはミスばかりで、やりたい事が出来てない感じ……いや、違う。
~~
志希『んー、これは流石に当たんないか。ロマン砲って事で遊ぶ時のネタ枠として封印かなー。んじゃ次はアレ試してみよー♪』
~~
とか言ってたし、考えてる事が実戦で上手くいくかどうか試行錯誤してる感じだった。
でも過去のログを見た限りチームで行うランク戦で志希ちゃんがそんなミスをする事は一度もなかったから、志希ちゃんにとって個人戦は志希ちゃんが思いついた変わった戦法が実戦で相手に通じるかどうかを試す場……なんだと思う。
志希ちゃんのポイントが強さの割に低いのは使ってるトリガーが多くて点がバラけてるのもあるけど、個人ランク戦をそうやって使ってるからなのかも。
それに志希ちゃんはどんなトリガーでも上手に扱えるから、相手に合わせて毎試合トリガーセットをガラッと変えてくる。それにすっごく頭がいいから、色々作戦も考えてる。
何をしてくるのか分からない。さっきはスコーピオンを出してたけど、考えてみればシュータートリガーを入れてないとも限らない。そうやって私を騙す作戦なのかも。
志希ちゃんは私よりずっと頭がいいから、どんな切り口で攻撃してくるのか、どんな作戦を何通り考えてるのか分からない。
……分からない。
…………分からない。
────怖い。
もし今回のトリガーセットが、作戦が、私を倒せるものだったとしたら。私が思いもよらないような凄い作戦で、私を倒せると確信してるとしたら。
もしここで私がムキになって志希ちゃんに返り討ちにされたら。 新田隊で一番得点力のある私が点を取れずに倒されちゃったら、ただでさえ対戦相手が格上ばかりのこの試合は……。
でも、そんな事言ってたら何も出来ない。それにこの試合には志希ちゃん以外にもフレちゃんや早苗さん、心さん、清良さん……他にもとんでもない強敵はいっぱいいる。私達はそんな人達に勝ちに来たんだから、怖がってても仕方ない!
でも、そんな前掛りになっちゃってさっきの雫ちゃんみたいに志希ちゃんに不意を突かれたら……。
うぅ、考えがループしてきちゃったよぉ……。
けど、のんびり考えてる時間なんてないし……。
早く、答えを出さなきゃ……。
志希「(夕美ちゃんの匂いが少し遠ざかった……てことはスピードが少し緩まった。悩んでるね~。これは夕美ちゃんが心さんに捕まっちゃうルートかな?)」
当然、これも志希の予想の範囲内である。相手もバカではない。そこも計算に入れた上で作戦にハメる。
志希「(なら敢えてこっちはスピードを上げちゃおー。考える余裕なんて与えな~い♪)」
A級ランク戦の初試合、ただでさえ緊張と不安の中責任重大なエースの役割である真面目な夕美に突き刺さる煽り。冷静に戻ったように見えて、思考のキャパシティは間違いなく少なくなっている。それに、対戦相手が自分より遥かに頭が切れるという事実は想像以上に精神的不安を催す。
それに耐え切れず思考停止し、無策で突っ込んで来るならそれまで。ループする思考を止められずに動けなくなるならそれまで。
それらを気力で押し返して何らかの策を講じてもワイヤートラップが待ち受け、その先には総合3位のフレデリカ。
戦場で役立つのは戦闘力だけでは無い。それはあくまで手段の一つ。志希は使えるもの全てを利用し、容赦なく勝ちに来る。それこそが志希の強さだ。
真奈美『──という事だ』
比奈「うひぃ……志希ちゃん、相変わらず恐ろしい子ッスね……」プルプル
飛鳥「全くだ。彼女が敵だったらと思うと枕を高くして眠れないよ」
藍子「……」シュン
みく「藍子ちゃん? 下向いてどうしちゃったにゃ?」
藍子「……私、その、志希ちゃんの事は大切なお友達と思ってますけど、挑発とか煽りとか、そういった戦法は……その……よくないと思います……」ボソ
「「「……!」」」
藍子「だって、夕美ちゃん達新田隊の皆は一生懸命頑張ってA級になったんです。だから、私達も応援してて……なのに、その不安や緊張を逆手にとって、というのは味方に対してあまりにも、その……」
藍子「志希ちゃんはいつも違った戦法を使ってて凄いと思いますけど、でも今回のは……正々堂々と戦っても強いんですから、わざわざそんな事しなくてもって思ったんです」
菜々「……藍子ちゃん、言いたい事はとっても分かります。でも」
みく「みくもそう思うにゃ! みく達はライバルだけど敵じゃないもん! 同じボーダーの仲間だもん! だから──」
「何を甘えた事を言っているのかしら」
「「「「「!!」」」」」
みく「時子チャ……さん」
時子「チッ……藍子。貴女は対ネイバーを想定した訓練であるランク戦を、スポーツか何かと思っているのかしら。スポーツマンシップに則って、とでも言いたいの? 競技のような形式だから勘違いしてる子も多いようだけど……少しお仕置きが必要みたいね」
藍子「そ、そんな事! 私はPさんや、ネイバーから家族や友達を守りたいっていう未央ちゃん達のお手伝いがしたくて……でも私達は仲間なんですよ? わざわざ仲違いするような事しなくたって……! それこそネイバーとの戦闘になれば数隊合同で当たる事もあるんですから、別の隊同士の連携だって大切ですし……!」
時子「アァン? この私に口答えとはいい度胸ね。躾られたいのかしら? ……いい? 必要以上に馴れ合うのを仲間とは言わないわ。ランク戦は遊びじゃないのよ。同じ事を二度言わせないで」
藍子「……勿論そんなつもりはありません。私はただ、これが原因で仲が悪くなっちゃうのが悲しくて……。志希ちゃん、とってもいい子なのに……。C級の中には、志希ちゃんを誤解してる子もいて、だから……」シュン
時子「(……この私に対して思ったより食い下がるわね。普段から頭の足りないチームメイトに振り回されているし、その穏やかな物腰からして意志薄弱そうに見えたけど、意外と芯が通ってるようね)」
時子「ハァ……そもそも夕美の表情を見るにそれほど残酷な煽りでもないでしょう。本当の戦場に出た時、ネイバーから掛けられる言葉はもっと恐ろしいわよ。例えば、そうね」
藍子「……?」
時子「人型ネイバーとの交戦の最中、敵からこんな事を言われたら?『さっきから貴女達が探してるPと呼ばれてる男は貴女達の仲間よね? 姿が見えない? あぁ、そいつなら向こうで死んでるわよ』……とかね」
「「「「「ッ!!!」」」」」ゾクッ!
みく「Pチャン、が……」カタカタ…
菜々「……っ」サァーッ…
比奈「……菜々さん、顔青いっスよ、大丈夫でスか」サスサス
菜々「……! え、ええ! ナナは大丈夫ですよっ……!」ニコ…
比奈「(菜々さん……やっぱり『あの事』がまだ……)」
飛鳥「時子さん!! 言っていい事といけない事があるだろう!! あまり人の考えに口を挟むのは好きじゃないが、今のはボクも看過出来ない! 冗談では済まないぞ!」バンッ!
藍子「うぅっ……」プルプル…
比奈「……言いたい事は分かるっスけど、 心が成熟しきってない若い子の前で刺激の強い話は良くないっス。ここは『死』が冗談にならない場所なんスから」
時子「ほんの例えよ。それに、ネイバーが『言っていい事といけない事』を考えてくれると思っているの? 心優しい侵略者が居たものね」ウデクミ
時子「その言葉が事実であれハッタリであれ、心を乱さずに戦いを続けられるかしら。乱してしまうのなら、そんな事で仲間や人々を守れるのかしら。若くて未熟なら、『ボーダー隊員』が死から目を逸らしていいのかしら。私が言いたいのはそういう事よ」
比奈「……」
飛鳥「……それは」
時子「いいこと? 起こりうる全ての可能性に備えなさい。奴らは手段を選ばない。そしてそれはこちらも同じ事。なら、ランク戦でも同じでしょう。私達は『仲間に』勝つ為じゃない。『敵を』斃す為にやっているのよ」
藍子「……はい」シュン
時子「……ハァ。まぁ手段を選ぼうが選ぶまいが勝手だけど、そういう手段を取って来るネイバーに対して怯んでしまうような訓練をしていては救えるものも救えないわ。覚えておきなさい」クルッ
みく「……はいにゃ」
飛鳥「時子さん」
時子「何よ」
飛鳥「……ネイバーに襲われた友達のように……Pが死んだ所を想像して、取り乱してしまった。済ま……ごめんなさい」ペコリ
時子「……フン。あの豚はちょっとやそっとじゃやられない程度には躾けてあるわ。それにそもそもベイルアウトがあるでしょう。ほんの例えよ。それに藍子」
藍子「! はい」
時子「安心しなさい、志希はある程度気心の知れた相手にしかああいう戦法は取らないわ。それに試合の後は速水隊のメンバーがさりげなくフォローもしてる。だから今までも、変に関係が拗れた事は無いわ。もっとも志希本人は無意識で、人を選んでるつもりは無いようだけど」
藍子「そう、なんですか」ホッ
菜々「ふふっ、志希ちゃんはああ見えて寂しがり屋ですからね。友達は大切なんですよ」
時子「フン、そういう意味では志希も甘いわね。私は誰だろうと追い詰めるわよ。勝つ為にね。精神が未熟な小娘の為にわざわざフォローもしないわ」カツカツ…
比奈「……時子さん、人には人のペースってもんがあるんスよ。一足飛びに心が強くなる訳じゃない。この子達は元から強い子だからよかっただけっス。正論が全て正しいとは、アタシは思わないっス」
時子「……子供の成長を敵は待ってはくれないわ。この子達も一応戦力でしょう」カツカツ…
比奈「だからこそ、アタシら大人が強くあるんスよ」
時子「……フン、平行線ね」カツカツ…
比奈「そんな事ないっス、アタシ達は……」
比奈「………………」
みく「比奈チャン、あの……」
比奈「……志希ちゃんは、皆に備えて欲しいんスよ。『ネイバーはこういう事もやってくるよ』って。めちゃくちゃやってるから誤解されやすいけど、志希ちゃんはいい子っスからね。藍子ちゃんも知ってる通り」ニコ
藍子「はいっ♪」ニコッ
飛鳥「にしても恐ろしいな、A級ランク戦とは。志希程の才能の持ち主が、どんな手を使ってでも、という覚悟で全霊を賭して勝ちに来る。その貪欲さがなければ生き残れない……A級ランク戦とはまさしく暗黒郷(ディストピア)だな」
比奈「ま、相手の嫌がる手を打ち続けるのが勝負の鉄則っスからね。そういう意味では川島隊(ウチら)も中々やらしーっスよ?」ニヤ
菜々「ふふ、そうですね」ニコ
みく「あ、夕美チャンが動いたにゃ!」
飛鳥「……!? この動きは……」
少し遡り。夕美が思考の迷宮で右往左往していた時。
『……ちゃん。夕美ちゃん!』
夕美『…………あっ、えっ!? な、何? 美波ちゃん』
愛梨『夕美ちゃんっ。大丈夫ですか? ずっと静かだったので、少し気になっちゃって。勝手に繋いじゃいました』
夕美『あっ……』
美波の呼び掛けに意識が引き戻された夕美は、慌てて応答した。定期的に内部通信で情報のやり取りをしていた新田隊のメンバーの中で急に相槌すら打たなくなった夕美を心配した愛梨が、美波に夕美に話し掛けるように働きかけつつ、内部通信をメンバー全員に聞こえるようにしたのだ。
夕美『美波ちゃん、あのねっ──』
夕美は、志希に侮るような挑発を受けた事、それを見返そうと思っていた事、しかし志希が不穏な動きをしていて不安になった事、そのせいで自分がどうすればいいのか分からない事をできるだけ端的に伝えた。
答えはすぐに帰ってきた。
唯『だめだよ夕美ちゃん! 志希ちゃんの事ちゃんと信じて、ちゃんと疑わなきゃ!』
夕美『へぇっ? しんじて、うたがう?』
唯『えっとね~つまりぃ……ん~っ難しい! フィーリングで感じて☆』
夕美『えぇ~?』
直感的な唯の言葉に首を傾げる夕美に、美波が付け加えた。
美波『夕美ちゃん、志希ちゃんは意味なくそういう言い方をするような子? 違うよね。なら、どういう目的で言ったと思う?』
文香『志希さんの向かう先に美波さんと唯さんがいます……。それと、客観的に見ても志希さんの戦闘力が夕美さんのそれを凌駕しているとは考え難いかと……』
美波と文香の言葉を必死に噛み砕き、意図を読み取る。
唯『てゆーかさ! 別に志希ちゃんの考えなんて分かんなくてもよくない? どーせ考えても誰も分かんないんだし』
美波『そうよ。作戦をどうにかしようとするのは「受けの思考」。つまり、戦術の引き出しが極めて多い志希ちゃん相手に後手に回る事になるわ。それはダメ』
文香『相手の出方が分からないのであれば、何もさせなければ良いのです……。夕美さんの得意を押し付ける「攻めの思考」……。こちらの土俵に引きずり込むのが最善かと……』
美波『でも勘違いしないでね、志希ちゃんに戦って勝てって意味じゃないわ。そんなに絶望的な状態でもないって事! 最後に一つだけ、視野は広くね!』
夕美「……うんっ」
当然美波も文香も暇ではない。端的にまとめられた夕美の報告で夕美の置かれた状況を完全に把握などできはしない。だからこそ手短に必要な事だけを伝え、後は夕美が自分で答えを出すのを信じた。
唯『頼りにしてるよ、エースさん♪』
夕美『任せてっ!』
夕美の力強い返事を聞くと、新田隊の三人は内部通信を切った。
夕美「(皆……ありがとう)」
愛梨『(……よかった~)』
夕美「(……ありがとう、愛梨ちゃん)」
数年前。
愛梨は元々、高いトリオン能力を買われて戦闘員としてスカウトされていた。
「私が困っている人を助けられるなら」。そんな思いで、愛梨はスカウトを受けた。
適性検査では、シューターの適性が出た。愛梨のトリオン能力を十分に活かせるポジションだ。
しかし、愛梨が戦闘員として活躍するには重い枷となる問題があった。
人が撃てなかったのだ。
しかし、当時愛梨はそんな事は気にしていなかった。人は撃てずともトリオン兵は撃つ事が出来たし、なればこそ訓練にも真面目に取り組んだ。
成績こそ振るわなかったが、それでも愛梨は世のため人のためにと一生懸命に頑張った。
だが一部の心ないC級の隊員達は、押しに弱い愛梨に無理やり個人戦を申し込んでは「いいカモだ」と訓練や任務でコツコツ貯めたポイントを掻っ攫っていった。
愛梨のトリオン能力に対する嫉妬もあったのだろう。
優しい友人も当然いたが、訓練や任務がある為常に愛梨を守る事は出来ない。その者達は決まってその友人達がいない時を狙った。
ボーダーには、愛梨をガードしてくれる学校の友人はいなかった。
ある日、愛梨の心が挫けた。
美城司令に呼び出されていたPはその道すがら、廊下の隅っこで泣いている愛梨を見つけた。思わず駆け寄り、何があったのかと訊ねた。
愛梨は一部始終を話したが、心ないC級隊員達を悪し様に言ったりはしなかった。ただ、「自分が不甲斐ない、弱くてごめんなさい、撃てなくてごめんなさい」と繰り返した。
気付けなかったPは自責の念に駆られながら、堪らなくなって愛梨に訊ねた。
「ボーダーを辞めるか?」と。
記憶封印処理を上手く使えば、嫌な思い出も忘れられる。
優しい友人達の庇護の下に愛梨を逃がしてあげられる。
そう思っての発言だったが、愛梨は首を横に振った。
まだ私はここで何もしていない、こんなでも人の為に戦いたい、ボーダーの友人達を忘れたくない……と涙ながらにPに訴えた。
深くため息をついたPは、もう一呼吸おき、愛梨にオペレーターへの転向を勧めた。
「戦闘だけが戦う事じゃない」と。
愛梨は首を縦に振った。
まだ隊に所属していないオペレーターは、それまで本部所属という扱いになる。
そこでも、愛梨をよく思わない者はほんの一部だがいた。「自分は誇りを持ってやっている。オペレーターは落伍者の受け皿ではない」と。
しかし、もう愛梨は挫けなかった。
勉強し、努力し、少しずつだがオペレーターとして成長していった。
どれだけ頑張っても何も変わらないあの頃とは違う。愛梨は楽しさすら感じていた。
その頃には、愛梨を白い目で見るオペレーターはいなくなった。
数ヶ月後、愛梨がB級に上がった日の事。その日の内に、愛梨にC級時代の優しい友人達から隊結成の誘いが来た。
そうして出来たのが、新田隊だ。
曰く、「おめでとう、愛梨ちゃん」「愛梨ちゃんをイジメた子達のポイントはゆい達がぜ~んぶ貰ってきたよ!」「これからは私達が愛梨ちゃんを守るからねっ!」「この日を、待ち望んでいました……」らしい。
当時の心ないC級隊員からは、「どうせ同情で誘っただけ」だの「優秀な新田美波も目は節穴だったか」だの陰口を叩かれた。
因みに、愛梨がB級に上がった時も彼らはまだC級隊員だった。
事実愛梨は、オペレーターとして特別優れている訳ではなかった。また5人隊のオペレーターは優秀な者でも難しいもの。しかし、愛梨は食らいついた。
新田隊の誰もが、そんなものを気に留めたりはしなかった。
ただ、前を向いていた。
結果、新田隊はA級に昇格した。
愛梨がいなければ、辿り着く事はなかっただろう。
そんな強い結束で結ばれた新田隊。夕美は、それに報いたいと願った。
夕美「(ふぅっ。いったん頭をからっぽにして考えてみよう……志希ちゃんは意味なくあんな言い方をする子じゃない。ならどうして? 私はああ言われて悔しかった。てことは志希ちゃんはそれが目的で……)」
夕美「(なら、挑発して私を誘き寄せることが目的? でもそれにしては安易に背を向けたりして無防備過ぎるんじゃ……いや、志希ちゃんのサイドエフェクトの『強化嗅覚』で感知出来るからあれだけ余裕だったのかも)」
夕美「(で、その余裕を見せる事で更に私の負けず嫌いを煽ったんだ! 最初に手ぶらで立ってたのもそういう事! もー、志希ちゃんほんといい性格してるよねっ)」プクー
夕美「(だったらこれは……罠! 志希ちゃんの向かう先には、多分私が不利になるような何かがあるんだ!)」
夕美「(じゃあ私がしちゃいけない事はこのまま志希ちゃんを追う事。するべき事は……離脱と合流! 何してくるか分からない志希ちゃんには付き合わない! 私達の強みは連携! 私一人じゃ不安なら、数の力で対応するんだ! この戦いは私1人じゃない!)」
夕美「(つまり、志希ちゃんの仲間としての心を信じる事! そして賢い志希ちゃんはその知識や技術を使って何か企んでると疑う事、だよねっ、唯ちゃん!)」
夕美「(そして、当初の作戦は……)」
夕美『いったん身を隠してから迂回ルートを取って美波ちゃん達に合流します! 愛梨ちゃん支援お願いっ!』
志希程ではないが、夕美もそこそこ頭が切れるようだ。
『『『了解!』』』
愛梨『了解ですっ。そこから北西に向かえば文香ちゃんの射程内に入るので安全だと思いますっ! ルート表示しますね! 文香ちゃん、南東から夕美ちゃんが来ますので援護狙撃の準備お願いしますっ!』
夕美の出した答えはシンプルだが、概ね最善に近い。抜けがあるとすれば、未だに心を認識出来ていない点だろう。
何重にも施されたトラップも、夕美が志希を追わなければどれも成立しない。だが志希が夕美を追えば、返り討ちに遭う可能性は高い。
「仲間」を信じる心が、夕美を正解へと導いた。
心「(あっ、夕美ちゃんが横に逸れた。志希ちゃんは方向そのまま。どっちを追いかけよっかな~………)」
心「(ん? 待てよ? 志希ちゃんより強いはずの夕美ちゃんが志希ちゃんを追うのを諦めたって事は志希ちゃんがまたなんか『やってる』んじゃね?)」
心「(そして、志希ちゃんが向かう先にはちょっと方向ズレてるけど早苗さんがいる)」
心「(……よし)」
心は、狙いを志希の方に決めた。
もし心が夕美を追っていれば、夕美はその存在に気付かないまま奇襲を受けていただろう。
天は夕美に味方したようだ。
心「ってこんな所にスパイダーがばふっ!?」ズベシャ
志希「(ふーん、やるじゃん。流石、あたし達の『ライバル』だね。そう来なくっちゃ)」クスッ
夕美の臭いが遠ざかっていくのを感知した志希が、心の中で嬉しそうに呟いた。
志希は、とっくに夕美及び新田隊を認めている。
志希「あれ? 心さんの動きが止まった。何してんだろ」スンスン
今日はここまで。
このなんちゃって頭脳戦、ワールドトリガーよりどっちかと言うとハンターハンター寄りじゃね?と書きながら思ったり
二宮飛鳥のウワサ①教室に乱入して来た暴漢をトリガーオンして倒す妄想を授業中にしているらしい。
それでは、おやすみなさい
ありす『あっ、片桐隊長の所でも動きがありました!』
時は遡り。それは、早苗が茄子を取り逃してから数十秒後の事。
早苗「茄子ちゃんは逃がしちゃったわね……まぁいいわ、近場の倒しやすい子から倒していきましょ」
早苗「さて、誰から──ッ!」
ドンドンドンッ!
早苗がレーダーに目をやった直後、背後から直進するトリオン弾が早苗に放たれた。その音に反応した早苗は最小限の動きで躱しその弾の出処に向き直ったが、見えたのは風に流れる長い金髪が曲がり角に消えた所だった。
早苗「唯ちゃんね……っと!」
ヒュヒュンッ!
更に時間差で唯の方に振り返った早苗の後頭部に弾速の速い弾が数発撃ち込まれたが、早苗はそれを間一髪で回避した。
美波「(くっ、外した!)」ダッ
早苗「この早苗さんが二度も犯人を取り逃したりするもんですかっ! お姉さんに発砲しちゃう悪い子はタイホよタイホ! 神妙にお縄につけー!」ブゥン
早苗「(ある程度開けててスナイパーからの射線も切れてる。いい襲撃地点を選んだわね)」
美波「うぅ~……!」
全力で退避しながら「美波は逮捕されるような悪い子じゃありません!」と心の中で返す美波をよそに、早苗は新田隊を内心褒めながらカメレオンを起動して透明化し、そのまま美波を追跡する。
早苗「(なら、射線の関係上文香ちゃんもそう遠くない距離に居るかもね。あたしに仕掛けてきたくらいだし、慎重な美波ちゃんの事だもの)」
戦況分析を進める早苗に対して、美波は早苗の襲撃に備え孤月の柄を握り締めた。
美波「(カメレオンを起動している間は無防備……! 落ち着いてレーダーや足跡を見れば、寄られる前に倒せ……足跡が消えてる!?)」
唯「美波ちゃんちょい上!空中!」
美波「えっ!?」バッ
反射的に顔を上げる美波。しかし────
早苗「『えっ』じゃないでしょ」ガッ
次の瞬間、美波は独りでに宙を舞っていた。
早苗「すぐに」グイッ!
早苗「動く!!」ズダァン!
早苗が姿を消してから一瞬の出来事だった。
気付いた時には美波は受け身すら取れず雪の上に仰向けに倒れ、早苗が美波の右手首を右足で踏み、左手首を左手で押さえ、鳩尾には左膝をめり込ませて完全に美波を押さえ込み、美波の首にスコーピオンの刃を振り下ろす所だった。
早苗「!!」バッ
美波は己の敗北を覚悟したが、すんでのところで早苗は飛び退き────
早苗「」ギュン
美波「っ!!」ギィン!
──ながら、スコーピオンを伸ばして美波が居る場に残し、そのまま薙いで美波の首を刎ねようとするが、美波の集中シールドにギリギリで阻まれた。
数瞬後に美波の体の上を唯の放ったトリオン弾が通過した。ギリギリで助けられた美波はバネのように跳ね起き、構えて早苗から距離を取った。
早苗「(判断早いしタイミング完璧。シールド間に合わなかったわ。唯ちゃん上手いわね)」
唯「あっぶな~! 間に合わないかと思ったよ~」
愛梨『唯ちゃんナイスですっ!』
唯「えへへ~」
美波「……っ!」
安心する愛梨や唯とは裏腹に、美波は激しく戦慄していた。
美波「(……何も出来ずに、何も分からずに一瞬で倒される所だった。雪なんかで対策してつもりになってた。何もかもが甘かった……! これが早苗さん……!)」
早苗は姿を消す前、美波の視界の外になる高さの空中にグラスホッパーを複数設置していた。そしてカメレオンを起動・透明化し、跳躍。設置していたグラスホッパーを踏み美波の前に着地。
孤月を持っていた美波の右手を左手の甲で弾いて右手で美波の隊服の胸元を掴み、「片手で」背負い投げた。
美波が倒れたのを確認してカメレオンを解除し、スコーピオンで美波を刺そうとしたが唯により阻まれた……といった運びだ。
ありす『で、出ました! 片桐隊長の背負い投げ!』
茜『早苗さんが得意としている技ですね!! 身長が低い人にピッタリな技だと前に早苗さんから教えて貰いました!! 試しに私が未央ちゃんにやると何故か前方に数メートル投げ飛ばしちゃいましたけど!!』
真奈美『透明化した状態で接近戦を仕掛け、達人級の武術を用いて相手を無力化した後、カメレオンを解除して武器を出し倒す。これが片桐隊長の基本的な戦い方だ』
真奈美『カメレオンは透明になるという強力な効果があるが、反面他のトリガーと併用出来ないという難点がある。しかし片桐隊長は武術に精通しており、体そのものが武器のようなものだ。その上トリオン量も多い彼女にとって、カメレオンのデメリットなど無いに等しい』
茜『どんなに強くとも、敵の前で無防備に地面に転がされてしまってはどうしようもありませんからね!!』
ありす『なるほど……。いくら透明状態といえど武器もシールドもない状態で接近戦ができるのも、片桐隊長の格闘技経験から来る戦闘技術の賜物なんですね』
茜『ええ! しかし、格闘技の試合とトリガー使い同士の戦闘は違いますからね!!早苗さんは、武術で磨いた近接テクニックとボーダーに入隊してから磨いたトリオン体での戦闘のテクニックの両方を組み合わせて、独自の格闘術を編み出したらしいですよ!!』
ありす『……と、言いますと?』
茜『詳しい事はよく分かりません!! 真奈美さんお願いします!!』
真奈美『私も詳しい訳では無いが、そうだな……生身では出来ないアクション映画のような動きや技の掛け方でも、トリオン体の膂力なら出来るという事は多いだろう? また、格闘技の試合では気にしなくていい事もこちらでは警戒しなくてはならない。各種トリガー、多対多・一対多などの状況や地形、射撃・狙撃など色々な。それらに対応するノウハウを体系化し、『トリオン格闘術』としてまとめたのが片桐隊長という訳だ』
茜『早苗さんの一番弟子であり、空手の経験者である有香ちゃんはそのノウハウを受け継いでいると聞きます! もしかしたら夕美ちゃんも教わっているのかもしれません!!』
ありす『生身での戦闘技術をトリオン体の戦闘に応用した、という事ですか。確かに、それが可能ならカメレオンで透明化した武術の達人が襲いかかってくるというのは極めて厄介ですね』
真奈美『それもあるが……あの人はなんというか、喧嘩慣れしているんだ』
ありす『け、喧嘩慣れですか?』
真奈美『ふふっ、言い方が悪かったかな。言い換えるなら戦闘センスが抜けていると言うべきか。まぁ見ていれば分かるさ』
早苗と一定の距離を保つべく、美波はシュータートリガーのアステロイドを、唯はアサルトライフルからアステロイドを撃ち早苗を牽制していた。
早苗「(さて……どう攻めようかしらね)」ヒュヒュン
早苗が攻め方を考え始めた2秒後、心から内部通信が届いた。
心『そっちに志希ちゃん向かってる! バクワしてるから見えないけどはぁとからだいたい80~100メートルくらいのとこ! 奇襲警戒してて!』
早苗『了解ありがと!』
早苗「すぅー……ふっ!」ピシィ!
報告を聴きつつも思考を続けていた早苗は短く返すと、美波達に対して構えをとった。美波達と距離のある今この状況ではさほど意味は無いが、美波達への威圧も兼ねてのいわゆるルーティーンの一種だ。
美波「すーっ……ふーっ……(このままじゃ埒が明かない……何かしないと……!)」ドドドッ
唯「美波ちゃんリラックス!」タタタンッ
早苗「決めた! 美波ちゃんから倒そうかしら。次に唯ちゃんね」ブゥン…
早苗は、2人のうちより揺さぶりが効きそうな美波をターゲットにした。
美波唯「「!!」」
早苗が再び姿を消す。
唯『あれはあれだよ! じゃんけんで今からチョキ出すから~みたいなのとおんなじやつ!』
美波『分かってる!』
内部通信で唯が喚起したように、二人ともただの揺さぶりだと分かっている。マイペースな唯は気にせず聞き流す事が出来たが、美波は夕美と同じだった。軽い揺さぶりに緊張と不安が上乗せされ、どうしても動きが少し固くなる。
あんなにもあっさりと、さも当然の事のように勝利宣言をされてしまっては。
ありす『しかし、片桐隊長はあれだけカメレオンを連発して大丈夫なのでしょうか? バックワームも頻繁に付け外ししてますし……。カメレオンの弱点の1つに、トリオンの消費が比較的大きい点がありますが』
真奈美『彼女はトリオン量が向井隊長並に多い。片桐隊長は高速で飛び回りながらカメレオンとバックワームを高速で切り替えて相手の目を欺き、グラスホッパーで高い機動力を更に補強し攻める戦法を好む。これは「トリオンの多いアタッカー」でなければ成立しない』
茜『トリオン量の恩恵を受けにくいアタッカーですが、早苗さんのような戦い方ならそれも十二分に活かせます!!』
ありす『なるほど……。しかし、それならもっと直接的にトリオン量の恩恵を受けられるシュータートリガーのアステロイドかハウンドでも入れたらいいのに、と思ってしまうのですが……。片桐隊長はトリオンが多いんですから、限界の8枠パンパンにトリガーを入れてもデメリットはさほどないのでは……?』オズオズ…
真奈美『ふふ、そんな自信なさげな顔をするな。その考え方は基本的には正しいよ』ポフ
ありす『……! は、はいっ』
茜『シューターである拓海さんも同じ事を早苗さんに聞いているのを見ましたが、早苗さん曰く「余計なトリガーを入れるととっさの判断が鈍るのよ」だそうです。その意見には私もその場で同意しました!!』
ありす『それは、どういう……?』
真奈美『これはもしかするとアタッカーの我々にしか分からない感覚かも知れないが、アタッカーは至近距離で相手とやり合う分行動選択に費やせる時間がシューター・ガンナー・スナイパーに比べて非常に短い。だからこそ採れる選択肢は可能な限り絞りたい』
ありす『……? 思考時間が短かろうと、選択肢は多い方がいいと思うのですが』
茜『ありすちゃんは出された問題に1秒で答えろと言われた時、2択と3択どっちが「迷わずに」「素早く」答えられますか?』
ありす『……!』ハッ
真奈美『日野隊員、いい例えだ。アタッカー……近接戦闘は0コンマ1秒の世界。一瞬の迷いが命取りになる』
ありす『……』
真奈美『もちろん君の言う通り、片桐隊長が機械のように常に最善の選択をし、アステロイドを入れても迷いなく、今までと同じような無駄のない動きが出来るならそれに越した事はない。入れない理由がないだろう。しかし実際は違う。片桐隊長がいくら怪物染みた強さだろうが紛れもない人間であり、得意不得意がある。当然ミスもする』
茜『ですね! ぶっちゃけ早苗さんは射撃戦が得意ではありません! それに早苗さんがアステロイドで出来る事は、大体雫ちゃんがやっている事ですからね!!』
ありす『なるほど……』
真奈美『まぁ、トリオンの多い片桐隊長がシュータートリガーを使うのは間違いなく「強い手」だ。だが強いからこそ、それを選ばずにスコーピオンを選択した時に「今はアステロイドの方がよかったんじゃないか?」という思考が頭をよぎる。それにより──』
真奈美はここで少し溜めたかと思うと、少し眉根を寄せて声のトーンを一段低くした。
真奈美『──刃を振るう瞬間、相手に全て注がれるはずの集中に僅かな雑念が混じる。それが刃を鈍らせる。そして……』
茜『その僅かな差が勝負を分けるんです』
茜にしては珍しく、真面目で普通の声量だった。それは紛れもなく、戦う女の顔だった。
飛鳥「……ボクの認識が間違っていたよ。キミの所の茜はこと戦闘に関しては中々に造詣が深いようだ。キミのチームメイトへの無礼な認識を詫びよう」フフッ
藍子「ふふ、そうでしょう♪」ニコニコ
飛鳥「キミの隊と試合をした時は、いつも彼女は猪のように無策で突っ込んでくるだけだから……つい先入観がね」クス
藍子「……一応無策ではないんです。茜ちゃんも、ちゃんと頭では理解してくれているんですけど、その……本能には逆らえないみたいで……あはは」タラー
飛鳥「それは……なんというか、難儀なタチだな」タラー
藍子「本当に……」
飛鳥「では、同じ本田隊の裕子も地頭は悪くないが、根源的欲求たる戦闘本能という茜と同じ業(カルマ)を背負っていたのか。フフッ、どうやらボクの見えているセカイは思ったより、虚構が占める割合が多いようだ」
藍子「あ、いえ、あの、ユッコちゃんは……」
飛鳥「……?」
藍子「見たままの認識で、合ってます……」カァ…
飛鳥「……」
藍子「……」
飛鳥「……ごめん」
藍子「……いえ」
undefined
──司令室──
美城「──大体君は部下の管理がなっていなさすぎる。あの宮本と塩見など気まぐれに私の家に入り浸って冷蔵庫の中身を食い漁り、一ノ瀬に至っては私のベッドで昼寝する始末。ここが自宅だと言わんばかりに我が物顔でくつろいでいる有様だ」
P「ええっ!? あいつら……すみません、すみません……! 私も普段から言って聞かせているのですが、なにぶん聞く耳を持たず……」ペコペコ
裕子「(ああ、私のせいでPさんが美城司令にお説教を……! しかもこれは年配の方特有の段々と話が脱線していって長時間コースにやるパターンのやつ……! ここは私のサイキックでなんとかしなければ! ムムムーン!)」
美城「それは君が彼女達に甘いからだろう。表面上厳しく取り繕うことになんの意味がある。……いいか、何も辛く当たれと言っているのではない。上に立つ者なら最低限威厳を持てという事だ。こんな事では有事の際に君の指示に素直に従うとも限らない。人々を守る立場の我々がそれでいいと思うのか?」
P「全くもっておっしゃる通りで返す言葉もありません……本っ当に申し訳ありません……今後改善に努めますので……」フカブカ
裕子「!」ピキーン!
裕子「ふぇっくしゅん!(ビチャ) ムムッ、エスパーユッコのサイキックパワーがどこかで私の噂を感知しましたよ!! ムムムーン!」
美城「………………」ビチャア
裕子「あ」
P「あっ……」サアーッ…
美城「……ほう? ではそのサイキックパワーとやらで君が真っ二つに切り裂いた私の愛車を直して貰おうか。去年買い替えたばかりの私の愛車を。まだローンが残っている私の愛車を。ついでに私の顔面にくしゃみを掛けた理由もぜひお聞かせ願いたい」ゴゴゴゴゴ…
裕子「す、すみません! 今すぐ拭きますから! 私、常にハンカチを持ってるんです!」ゴシゴシ
美城「」メイク グチャグチャ
裕子「あ゙っ」
P「(ユッコの意外な女子力の高さが仇に……。い、胃が……すみませんもう無理です)」キリキリ
P「じゃ、じゃあ私は実働部隊のトップとして保有戦力の把握の為に新田隊のデビュー戦の観戦をしないといけませんのでこの辺で……」ソローリ…
美城「待ちたまえ」ガシッ
P「ひっ」ビクッ
美城「堀隊員は当然として……上司である君の管理責任だ。そして君の上司である私も上司として責任を取り……」
美城「部下の教育に努めるとしようか」ゴゴゴゴゴ
ヒイィィィィィィィ…!!! キャアァァァッ!!!
美波「ハウンド!」
美波は姿を消した早苗を炙り出す為に、トリオン誘導のハウンドをやや低速で広範囲に射出した。カメレオン対策の基本を押さえた戦法だ。
早苗「(甘いわね! こちとらそのくらいの対策、飽きる程見たってのよ)」ヴォン
それを見た早苗は姿を表すとハウンドをシールドで防いだ。そして右手を背後に隠し、左手にクナイのような形状のスコーピオンを五指の間に挟むように四つ生成した。
美波「!?」
美波は戸惑った。あの右手は何なのか? あのクナイ型のスコーピオンはこちらに投擲してくるのか? あれは早苗の体から切り離された変形しないスコーピオンなのか?
そして同時に焦っていた。早苗と対面して初めて分かる。彼女は作戦の決定、トリガー選択、そして動きそのもの──一つ一つの動作が淀みなく切れ目なく、かつ速すぎる。
対処が追いつかない。
早苗は自分と美波達の間にある雪面にクナイ型スコーピオンを等間隔で投擲した。
美波「な、何が起こったの……!?」
早苗は雪の中にグラスホッパーを埋める形で設置、その後スコーピオンをそれぞれに当ててグラスホッパーを起動しスコーピオンを反射させ、垂直に打ち上げた。
美波「(……!? 何を……?)」ズザッ
上を見上げ構える美波と唯。
しかし何も起こらない。
美波「──しまっ」
美波は一瞬後にブラフと気付いたが、もう既に早苗は次の行動に移っていた。
早苗「芸術は」キィン
早苗「爆発よっ!」ボォン!
雪の爆発。
唯「ひゃあぁ!?」
美波「きゃっ!?」
早苗は右足の爪先からスコーピオンを薄く広い板状に展開し積もる雪の下に滑り込ませ、その足元にグラスホッパーを発生させ起動、広範囲の雪を跳ね上げたのだ。
余った勢いは左足から錨のように地面に縫い付けたスコーピオンで相殺した。
向こうが見えないほど濃い雪のカーテンが早苗を覆い隠している間に、早苗は一瞬にして美波達の視界から消えた。
美波達は早苗を見失った。
美波「(あれ自体に威力はない。目くらまし? だとしたらどこかの遮蔽物の後ろに……)」
唯「アステロイド!」
思案を巡らせながら顔を腕で庇う美波の横で、唯が舞う雪を貫くアステロイドを四方八方に放った。
バゴッ キキン!
前方斜め左にある黒のワンボックスカーを唯のアステロイドが貫いた直後、金属音の様な乾いた音が響いた。
美波「(そんな、あの一瞬でもうあんな位置に!?)」
唯「(今シールドの音した! じゃあカメレオンは使ってない! それにバックワーム使っててレーダーには映らないから……)」
愛梨『ひだ』
唯「美波ちゃん!」
美波「ハウンド!」
愛梨『りから』
ほぼ同時に発された3人の声。
唯と同じ結論に至った美波は、トリオンを感知して追尾する誘導弾を放った。
愛梨『来てます!』
美波唯「「!!」」
美波の意図しない、左斜め後ろにいた唯の方に向かって。
愛梨がレーダーに映る光点を認識し、美波達が愛梨のアラートを聞き、それを2人の脳が認識した時にはもう遅い。
早苗の速さの前では、オペレーターの警戒喚起も意味を成さない。
早苗「(だから飽きる程見たっての。トリオン誘導でしょ)」
敵を追尾するトリガー、ハウンド。その追尾の仕方には2種類あり、使用者の視線の先に向かっていく視線誘導と近くのトリオン反応を感知し追尾するトリオン誘導がある。
透明化している相手に撃つのがどちらかは言うまでもない。
唯「わっ!?」
美波の前方に放たれたハウンドは、大きく弧を描きながら唯に吸い込まれていく。
美波「唯ちゃん!? 防いで!」
早苗は美波がハウンドを放つ前からそれを予測し、美波と自分で唯を挟む位置に移動。美波がハウンドを放ちそれが唯へと向かったのを確認するとバックワームを解除しカメレオンを起動、唯との距離を一気に詰める。
不意を突かれた唯は美波のハウンドを躱す事が出来ず、シールドで防いだ。当然その背後を取っている早苗にとっては隙だらけだ。
唯「きゃ!?」ブォン
早苗「(いっちょ上がり!)」
美波と同じように透明化されたまま綺麗に腰で投げられ、唯は地に伏した。透明化を解除しスコーピオンを構える早苗だったが、その背後を覚悟の決まった顔の美波が取っていた。その周囲には2?、8個のアステロイドがふわふわと周回している。
唯「ゆいごとやって!」ガッ!
早苗「!」グラッ
唯はそれを見て叫びつつ、倒れたままの状態で早苗の足を蹴った。
唯はこんな所で、こんな形で脱落するのは不本意だった。しかし、「早苗さんとゆいのトレードならおつりであと2,3人ゆいが買えるくらいだよね!」とも考えていた。
早苗「(それじゃ崩せないわ)」スッ…
しかし早苗はすぐに蹴られた足を浮かせ、膝下の力を抜いて唯の蹴りをいなし、踏み込み直す──
美波「アステロイド!!」ギュン!
──までの一瞬の隙を突き、美波はアステロイドを放った。
早苗「(あのアステロイド、相当威力と弾速にトリオンが割り振られてる! 分割数が少ないから!? ヤバい!)」
早苗はアステロイドが放たれた瞬間、美波のアステロイドの性質を見抜いた。
片足が浮いていてすぐに回避行動が取れない。かといって、背中を向けた状態で正確にかなりの威力・速度のアステロイド群全てを防ぐ大きさ・位置のシールドをこの一瞬で生成出来る自信はなく、万一防げたとしても正面の唯に対して無防備になる。
早苗「(これしかない……!)」
早苗は咄嗟に踏み込み直そうとする足の下に真横に飛ぶような角度で設置、それを踏んだ早苗はきりもみ状態で思いっ切り吹っ飛ばされた。
早苗「(危なかった……! けど美波ちゃんとあたしの直線上にいた唯ちゃんはここで──)」
唯「……っ」
唯も、早苗が離脱したのを見て無念のままに脱落する事を覚悟した──
フッ
唯「……きえた? ゆい生きてる?」
──が、アステロイドは唯の目の前で消失していた。唯は目を見開き、ぱちくりと瞬きをした。
美波「唯ちゃんすぐ立って!」
唯「う、うん!」バッ!
>>99
訂正
2?、8個のアステロイド ?
2の3乗、8個のアステロイド 〇
立方体のトリオンキューブを縦横高さで綺麗に8分割したと考えてもらえればOKです
茜『ややっ!!? あれはPさんの技では!?』
真奈美『新田隊長はアステロイドのトリオンを威力と弾速に大きく割り振り、射程に使うトリオンを極少にしながら調整する事で、「片桐隊長には当たるがその直線上にいる大槻隊員には当たらない、絶妙な射程距離のアステロイド」を撃った。日野隊員が言うようにP本部長が得意としている技だが、新田隊長が行った今のは少し違う』
真奈美『P本部長のは射程の分のトリオンを限界まで節約する事で、弾速と威力を出来る限り大きくして「接近戦専用のアステロイド」を展開しアタッカーとしての立ち回りを強くする事が目的だ。つまり「相手に当たればいい」』
真奈美『だが、今の新田隊長のは「相手に当てつつ味方に当てない」という超高度で精密なトリオンコントロールを要した。しかもあの土壇場でだ』
ありす『つ、つまり新田隊長は、あのP本部長よりもすごい事をした、という訳ですか?』キラキラ
真奈美『P本部長はそもそもの使い方や立ち回りが違うが、それもまた超人の域で新田隊長のそれとは別種の難しさだ。一概には言えないな』
ありす『そ、そうですか』
真奈美『しかし、あれだけ繊細なトリオンコントロールが出来るシューターはボーダーには川島隊長と速水隊長くらいしか居ないと思っていたが……いや、驚いたよ』
ありす『ですよね! 友紀さんは強いけど大雑把ですし! ……あ、こほん』
みく「そうなの? 飛鳥チャン、比奈チャン」
飛鳥「うーん……いや、違うんじゃないかな。川島さんはトリオン割り振りの精度に関しては上の下程度だと思う。トップレベルではあるが最上位レベルではない……あぁいや、済まない。比奈さんの隊長を悪く言ったつもりは無いんだ」
比奈「いえいえ。飛鳥ちゃんの言う通り、川島さんは違いまスよ。自分とこの隊長だから分かりまスけど、あの人は確かに一流のシューターですけど奏ちゃんほど微細なトリオンコントロールに秀でてはいないっス。木場さんも流石にシューター界隈の事は詳しくないみたいっスね」
みく「え、そうなの? でも川島さん、奏チャンの師匠なんでしょ?」
比奈「奏ちゃんなんてもう免許皆伝、とっくに暖簾分けしてるッスよ」
みく「じゃあ、奏チャンは師匠の川島さんを超えちゃったって事かにゃ?」
比奈「それもまた否ッスよ。2人の強みはそれぞれ別っス。ウチの隊長は『読み』の力が凄いんス。敵の動きを予測して先読みし、そこにバイパーを置いとくんスよ。どうやってるのかは分からないっスけど大体読みは当たってるっス」
みく「……A級って、人間やめてる人ばっかだよね」トオイメ
比奈「A級の中にもアタシみたいに凡人はいますし、B級の中にも怪物は沢山いるっスよ」
美波は孤月を手に走り出していた。唯も慌てて立ち上がり、美波に続く。
早苗「(ふふ、凄いじゃない)」
グラスホッパーで吹っ飛ばされている最中、早苗はその様子を目の端で捉え、素直に心の中で賞賛していた。
早苗「よっと」ババッ ズザザ
美波「ハウンド!」
唯「アステロイド!」
早苗は両手を地面に付けて体を跳ね上げ、バック転の要領で綺麗に受身を取ったものの、足元が安定しない中ブレーキをかけて体勢を崩したこのチャンスを見逃す訳にはいかない。美波は一気に畳み掛ける。
唯もそれに続き、突撃銃を二丁構えて渾身のアステロイドを放つ。
早苗「(またまたいいタイミングね。避けらんないわ)」
早苗はフルガードせず、敢えて一枚のシールドで防いだ。美波と唯はアタッカートリガーも持っているオールラウンダーなので、シールドを張ったまま動かずにいると二対一の状態で撃たれながら寄られてジリ貧になる。その状態で対処出来ると考える程油断出来る相手ではない。
そう考えた早苗は、シールド一枚で射撃をある程度受けたあと美波達と距離がある内にシールドを解除して距離を取り、一旦仕切り直そうとした。
ガキキキン! …パキ
早苗のシールドが美波達のトリオン弾を受け、ヒビが入る。それを確認した早苗が、美波達の張る弾幕の僅かな切れ目を見切りシールドを解除する──
早苗「ッ!」
と同時に遠方から狙撃されるが、なんとか回避し弾丸は首の根本の右、僧帽筋がある辺りを穿いた。
──250m西──
文香「……掠った程度ですか」
文香は、持ち前の忍耐力と一度本を読み始めると何をされようが動じない集中力を発揮し、ひたすら機を窺っていた。美波や唯が倒されそうな時もずっと耐え忍び、早苗を狙撃出来る絶好のチャンス、その一点のみを考え狙っていた。
今の狙撃は渾身の一発だった。
──それを、外した。
文香「(……狙撃位置を変えましょう)」
だが、文香はすぐに切り替えていた。文香は我慢強い子だ。
文香「(……次は、必ず)」メラメラ…!
それと同時に、意外と負けず嫌いな子でもあった。
早苗「3対1は流石にキツいわね……」
誰に言うともない早苗の呟きを、鼻の利く彼女は聞いていた。
ギィン!
志希「ざんね~ん、3対1対1でーす♪」
今日はここまで。
戦闘描写を分かりやすく書くのは難しいですね。逆に解説パートはどうしてもクドくなってしまいます
今日のウワサ②戦えるオペレーターは、志希と奏以外にもいるらしい。
それでは、おやすみなさい
志希の得意とするバックワームでの奇襲。両手にスコーピオンを持ち、早苗に斬りつけた。だが、当然と言うべきか早苗のスコーピオンに防がれ、鍔迫り合いのような形になる。
早苗「(やけにバカ正直に突っ込んで来るわね……)」
志希「」ニタァ スンスン
志希は不敵に笑いながら、何かの臭いをかいでいる。
早苗「(って、またどーせ何か企んでるんでしょうけど)」ギチチ
志希「ごー」ギギギ
早苗「何もさせないわよ」フッ
早苗は不意にスコーピオンを消し急に力を抜くと、志希の手首を掴んで転がるように後ろへと倒れ込んだ。志希は鍔迫り合っていた時の勢いのまま早苗の方へよろけた。
早苗「んッ!」ドッ!
そのまま巴投げをすると思いきや、跳ね起きをする前の姿勢のように両手を顔の横の地面に着け膝を胸元に引き付けて腰を浮かせ、そのままバネのように全身を伸ばして志希を蹴り上げた。
早苗は足の裏にスコーピオンを仕込もうとも考えたが、志希が蹴られるであろう腹にピンポイントで集中シールドを張っていたので諦め、シールドごと蹴り飛ばす。
志希「よん」ヒュヒュッ
志希は何かを投げるような動作をした。体から切り離したスコーピオンだ。
早苗「(カウントダウン? ……いや、いつもの心理トラップね。気にした時点で志希ちゃんの術中だわ)」
入隊前から、もっと言えば学生時代から百戦錬磨の早苗は弟子の夕美とは違い、志希の意味深なカウントダウンを思考の外に完全に追いやり、目の前の志希に全集中する。
ザク ザクッ
蹴り上げられて体勢を崩したせいか、志希がイタチの最後っ屁の如く投げたスコーピオンの刃はあらぬ方向に飛び、早苗の斜め後方の左右に刺さった。
早苗「終わりよ」パッ
志希「ありゃ」ズダンッ
早苗は蹴り上げた先にグラスホッパーを下向きに設置した。それに触れた志希は勢いよく真下に弾かれ、ぐしゃっと地面に叩きつけられた。早苗は志希が地面に叩きつけられる前から、着地するであろう位置に向かって刃を走らせていた。
その首を狙いスコーピオンを振り下ろす早苗。だが──
志希「さん」
それまで楽しげな表情だった志希の眼が突然肉食獣のような獰猛な光を放ち、ペロリと妖しげに舌なめずりをした。
志希「──『韋駄天』」
韋駄天は、あらかじめ設定した軌道で高速移動出来る、言わば人間バイパーのようなトリガーだ。
志希が突然弾丸のように高速移動し、早苗を全方位から攻撃しながら飛び回った。
ギンギギギギン!
早苗はトリガーを変えている暇はないと判断し、スコーピオンのみで志希の超連撃をしのぎ切った。だが──
早苗「ぐッ!」ミリリ…
早苗はワイヤーに四肢を拘束されていた。
なんと、志希は空中に蹴り上げられた時に苦し紛れのように投げたスコーピオンにスパイダーを括りつけており、その反対側は韋駄天の連撃に使ったスコーピオンに繋がっていた。
言わば、紐が長い刃型のヌンチャクのような形状だ。
最初に投げたスパイダー付きスコーピオンは地面に突き刺さりしっかりと固定されているので、後は志希が早苗の周りを計算された軌道で飛び回れば早苗は拘束されるといった寸法だ。
韋駄天からのスコーピオンの超連撃で倒せるならよし。失敗しても拘束出来ればよしの二段構えの作戦だ。
早苗「(それにこのスパイダー、雪に紛れるように白色に設定してある。きっと即興よね。抜け目ないわね)」
志希「にー」ヒュッ
早苗「まだよ!」ユル… ガキッ
今がチャンスとばかりに早苗の首に斬り掛かる志希だが、一瞬で拘束から脱出した早苗のスコーピオンに阻まれた。
早苗はワイヤーが体に触れ己が攻撃されながらスパイダーで拘束されていると悟った瞬間、早苗は全身に力を込めてトリオン体の筋肉に当たる部分を膨張させていた。
そして拘束後力を緩め、動くようになった手にスコーピオンを発生させ、全身を撫でるように刃を走らせ拘束を解いた。
警察官時代に学んだ縄抜けの術(すべ)は、ここでも活かされている。
早苗「今度こそ──」
志希「いち」バッ!
何を思ったか、志希はおもむろに後方に高くジャンプした。
まるで、何かに巻き込まれるのを避けるかのように。
その志希と入れ替わるように、何本ものトリオン弾が早苗に直進する。
早苗「(ここでアステロイド!? てことは美嘉ちゃん!? ヤバ……!)」
志希「……アステロイド♪」
その光の筋は、急に弾道を不規則に変え始めた。
早苗「……バイパーじゃない! んもう!」
志希「にゃは♪」ニヤ
早苗「(カウントダウンはこれの布石だったのね……!)」
志希の心理トラップだと断じて切り捨てたカウントダウンはバイパーが到着するまでの時間だった。そう理解した早苗は、ここまでの自分の動き、果てはここに至るまでの秒数までが志希の手のひらの上だった事に戦慄した。
カウントダウンが決まった所で何がある訳でもない。だが、純粋な戦闘力では圧倒的に勝っている志希に、自分の土俵である筈のアタッカーの間合いで全てを読み切られた。余裕綽々で遊び心を見せられた。この事実が早苗の思考を一瞬支配し、0コンマ数秒間早苗の動きを止めた。
早苗に安い挑発は効かない。それは今までに何十戦とやったランク戦で分かり切っている。
にも関わらず、志希は敢えて早苗の精神に揺さぶりを掛けた。「一流のアタッカー相手に、その間合いを維持しつつカウントダウンを成功させる」という超高難度かつ回りくどいやり方を通し、歴戦の猛者たる早苗を動揺させた。
──早苗もまた、志希の心理トラップからは逃れられなかった。
二段構えの作戦──ではなかった。あの韋駄天も拘束も、早苗をバイパーの終着点とした定位置から動かさないようにする為のもの。
志希は早苗に斬り掛かる前に、時間差で到着するようにバイパーを仕込んでいた。
早苗「くぉんのぉ……!(この子ったら何手先を読んでるのよ!)」
普段なら声に出して素直に賞賛していたのだが、この時ばかりはそんな余裕は無かった。
早苗は褒め半分苛立ち半分の心境でシールドを張る。ほぼ全方位から攻撃する弾道に設定しているので、早苗は半球状のシールドを張らざるを得なかった。
奏『完璧なタイミングね──』
リアルタイム弾道引きバイパー使いの奏も、内部通信で賞賛を送った。それもそのはず。
奏『──我ながら♪』
弾道を引き、タイミングを指示したのはオペレーターである奏だ。志希は視界に表示された弾道をなぞっただけ。
全トリガーを巧みに使いこなす志希は当然バイパーも人並み以上に扱えるが、流石の志希もリアルタイムで弾道を引く事は不可能だ。
だが、志希には相手に「あれ程なんでも出来るのなら、あるいは弾道引きも出来るのでは?」と思わせる「スゴ味」があるのだ。
志希「ぜろ」キィン
志希は既に「黒い」トリオンキューブを四角錐の形に3等分し、展開していた。
志希「『鉛弾(レッドバレット)』」ビギュン
鉛弾はシールドを透過する。
早苗「やられた──」ガキン!
3本のバイパーに乗せた鉛弾が、半球シールドを張っていた早苗の右上腕部と左側腹部に突き刺さり、錘を発生させた。残りの1本はなんとか紙一重で避けた。
カウントダウンは1で終わりと誰が言ったのか。早苗は志希を見誤っていた。
そう、志希の作戦は二段構えではない。四段構え──
「ぼんじゅーる♪」
でもなかった。
フレデリカ「ぼんじゅーる♪」
早苗の正面斜め上5メートルの空中に、フレデリカが突然現れた。目線の先数10メートル程度の距離の瞬間移動が可能なトリガー、テレポーターを使ったのだ。
志希「あー楽し♪ トリップしちゃいそー……♪」ゾクゾク
──そう、五段構え。これが「早苗とのワンセット」における志希の作戦の全容だ。
フレデリカ「『旋空弧月』」ヒュッ
孤月専用オプショントリガーの旋空による拡張斬撃が早苗の首に迫る。
早苗「(やば、重りの付いたこの体じゃフレちゃんには対応出来ない……殺られる──)」
「んぎぃ!」ヒュッ
ガキッ!
旋空同士がぶつかり合う。
心「ふぃー。うっし、間に合ったぜ姐さん☆」キラン
志希「(はぁとさん? あれ? なら夕美ちゃんは?)」
早苗「ちょっと何カッコ付けてんのよ! 5秒遅いっての!」
雫『私も助けて貰えませんでしたしねー』
紗南『しかもんぎぃ!って。全然スウィーティーじゃないじゃん』
心「いじわる~い仕掛け方のワイヤートラップに引っかかってたの!! なにさはぁとだって必死に頑張ってるもん!! 泣くぞ!?」ナミダメ
志希「あっそれあたしが仕掛けた~♪」
心「やっぱりお前か! 覚えとけコンニャロー☆」
事実、雫を助けるべく直線経路で屋根の上を全速力で走っていた為、致命傷は何とか回避したものの何度も周子に狙撃されている。
周子は何やら忙しそうな心を見て反撃はないと悟り、嬉々として心を撃ちまくっていた。お陰で心は四肢の欠損こそ無いが、所々輪郭が欠けてしまっていた。ツインテも片方無い。
前述の通り、心はこういう役回りが多い。
心「さてと! どーする姐御? 錘ついてるけど」
早苗「もちろん」ザシュッ プシュー!
早苗はおもむろに左手を振ったかと思うと、錘が右腕ごと落ち左の脇腹の錘も落とし、そこからトリオン漏出を示す煙が勢いよく噴出していた。早苗はすぐにスコーピオンを左脇腹から出して薄く延ばし、傷口を覆って漏出を防いだ。
早苗「こうするわよ」
心「わお。流石の即断即決っすね」
早苗「当たり前じゃない。あのフレちゃん相手じゃこんな重いの付けてるあたしなんてなんの役にも立ちゃしないわ」
早苗「さぁ」
早苗「短期決戦よ!」ドン!
早苗のトリオン体の頭の中に、システムアラートが響いた。
『警告:トリオン漏出甚大』
一旦ここまで
──観戦ルーム──
ありす『えー、状況を整理すると、新田隊長と大槻隊員が片桐隊長の体勢を崩した所に一ノ瀬隊員が奇襲、その知謀策謀により片桐隊長にレッドバレットの重りを付けて追い詰めた所を宮本隊員が更に奇襲、そこを佐藤隊員が止めた形になりますが……えー……』
シーン…
ありす『一瞬で色んな事が……。ええと……あまりの出来事に、観客席の皆さんも言葉を失い、静まり返っています。私も、その……』チラ
茜『……』プルプル
ありす『……茜さん?』
真奈美『』スッ ←耳を塞ぐ
茜『志希ちゃん!!! 素晴らしいです!!!!!』キーン!
ありす『うっ』グワングワン
茜『あの!! 早苗さんにっ!! 対してっ!! 先の先のそのまた先のもっと先を読むかのようなとてもすごい戦略モコモゴ』
真奈美『声が大きい』ギュムー
茜『ふみまへん!!』
ありす『……』カチッ ←茜のマイクを切る音
真奈美『……一ノ瀬隊員だが、彼女はこういう戦い方を好む。その場の思いつきで適当にいくつもの布石をばら撒き、使えると思った時に使う』
茜「あと、何か変わった作戦を使う時には必ず手堅い作戦を裏に控えて、失敗するリスクのケアをしている印象ですね!!」
真奈美『もちろんそんな事はA級部隊やB級上位部隊なら当たり前にやっている事だが、それは事前にチーム全員で時間をかけて話し合いを行って練り上げたり、自分のチームの得意なセットアップを想定しパターン化する』
真奈美『翻って志希はそれをその場のアドリブでたった一人で思いつき、より高い質の作戦を練り上げる』
ありす『ひえぇ……』
茜「志希ちゃんとそうですが、凄いのは速水隊の他のメンバーも志希ちゃんのアドリブ作戦に対応し、キッチリと連携を決めてくる所です! まさに阿吽の呼吸!! いやー、惚れ惚れします!!!」
真奈美『新田隊も、少し緊張気味だがあの片桐隊長を相手にしながらも動きは悪くないし、全員なんとか無傷だ。さて……』
真奈美『役者は揃った。ここから一気に試合が動くぞ』
フレデリカ達に向かって走りながら、早苗は紗南に内部通信で指示を飛ばす。今や敵とぶつかるまでの数秒も無駄には出来ない。
ここで、早苗はあるアイデアを思い付いた。
早苗『そうだ、紗南ちゃん、あたしがトリオン切れでベイルアウトするまでの秒数を視界に表示できる?』
紗南『ん、めっちゃ余裕』カタカタカタカタカタッタン!
『ベイルアウトまで残り 164 秒』ピピ
紗南の素早く正確な機器操作により、早苗の視界の端に残り時間が表示される。
早苗「(3分弱って意外と持つじゃない。あたしってやっぱりトリオン多いのね)」
早苗が己のトリオン量について無頓着なのは、純粋なアタッカーがトリオン量の恩恵を受けにくい為だ。射撃トリガーと違い、近接トリガーは使用者のトリオン量の多寡に関わらず一定の威力を持つ。
紗南『意外と長いとか思ってるかもしれないけど、当然トリガー使ったりカメレオン使う為に蓋代わりのスコピ解除なんかしたらガンガン減ってってマジですぐ死ぬからね! スコピ解除しないにしても半分くらいに見といた方がいいよ!』
早苗『えっ……わ、分かってるわよ!』
早苗が内部通信で素早く準備を済ませている間に、心は威力を限りなくゼロに近づけたアステロイドを早苗の背中に向けて撃った。
射撃トリガーに乗せて撃った相手にマーカーを付けるトリガー。スタアメーカーだ。
早苗「さ、やるわよ」
心「うっす!」
早苗「(……あら?)」
早苗「(美波ちゃんと唯ちゃんがいないわ)」
こっそりと夕美が合流しこの場に3人(文香はスナイパーの為遠方)が揃った美波達は、真正面から早苗&心と対峙するフレデリカ&志希を挟んで、片桐隊の反対側に付かず離れずの位置で半円状の陣形を組み、バックワームを起動して身を隠していた。
つまり真っ向から速水隊と対面する片桐隊と潜伏する新田隊で、速水隊の2人を挟んだ形になる。
地形的にも雫に破壊されていないポイントであり、射線が通りにくくスナイパーの横槍をあまり気にしなくていい場所で向かい合う速水隊と片桐隊。
新田隊にとっては、落ち着いて潜伏出来る状態だ。
美波「(今までは数の差でなんとかやれてたけど、志希ちゃんが早苗さんに奇襲して結果的に大ダメージを与えた所にフレちゃんが合流、早苗さんに心さんが合流して状況がガラリと変わった。私達が4人揃ったとは言っても三つ巴だし、速水隊の他の2人や鷹富士隊の姿が見えない以上慢心は出来ないわ)」
夕美「(なら、位置取りとその情報アドバンテージの差で勝負するっ! これならまだこの場にいない子達に奇襲される可能性は低いし、こっちが奇襲出来るチャンスもあるもんねっ!)」
文香「(強化嗅覚のサイドエフェクトを持つ志希さんには恐らく匂いで私達の位置が露見してしまっているでしょうが……早苗さんや心さんの相手をしながらこちらに襲撃しに来るのは難しいでしょう……)」
唯「(なら、早苗さん達とフレちゃん達が戦ってる隙を見て倒せそうな方から倒す! どうせ早苗さんは大ケガしてるから何もしなくてもしばらくしたらいなくなるし!)」
愛梨『えぇっと、効果的な襲撃ポイントと見つかっちゃった時の4人分の逃走ルートを絞り込んで……』
どんな有利な状況においても徹底的に負け筋を潰し、常に手堅く、しかし必要とあらば大胆に。これが新田隊の戦い方だ。
真奈美『なるほど。やるな美波』
ありす『これは……。片桐隊長が深手を負った事で速水隊が有利となるはずが、新田隊が宮本隊員と一ノ瀬隊員を片桐隊と自隊で挟む形で潜伏する事で、速水隊不利の状況に持ち込んだ、という認識で合っていますか?』
真奈美『あぁ、その通りだよ。新田隊からすれば、放っておけば勝手に落ちる強い敵に積極的に絡みに行く理由は無いからな。なら、現状最も厄介なのは次に強い宮本隊員だ』
真奈美『そして片桐隊には選択肢はない。片桐隊にとっても最も厄介なのはやはり宮本隊員であり、これを落としておかないと片桐隊長がベイルアウトした後に宮本隊員を倒せる者は居なくなる。つまり負けだ』
茜『隠れている新田隊を探す時間なんてありませんしね!!』
真奈美『そして現状は速水隊が不利だが、時間が経つにつれ……』
ありす『片桐隊が不利になる。そして、新田隊の有利は揺るがない』
茜「いつでも奇襲出来る状態ですからね!! 全員が射撃トリガー持ちなのも追い風です!!!」
真奈美『一番実力で劣っていたはずの新田隊が、いつしか戦況をコントロールし主導権を握っている。ここまでの展開を志希が奇襲を仕掛けたあの一瞬で読み、指示をしたのであれば……ふふ、新田隊長への評価を私の中で一段階上げねばならないな』
オォォ...! ザワザワ…
ありす「(あの真奈美さんにここまで言わせるなんて……! 美波さん、凄いです!)」キラキラ
少し巻戻り、早苗が新田隊の潜伏に気付く少し前。
志希『奏ちゃん』
奏『なぁに?』
志希『新田隊が隠れちゃったこの状況、ヤッバイよね~』ウズウズ
奏『そうね』
志希『そこでなんだけど~、志希ちゃんフレちゃんと2人で好き勝手していい? 奏ちゃんオペレーターで忙しいし~』
奏『ふふっ、今度はどんな面白実験をするのかしら?』
志希『やる事はシンプルだよ。まずはね~……』
奏は言うまでもなく速水隊の隊長だが、オペレーターとして4人の情報支援をしながら指揮を執るとなると相当の負担となる。
そこで、奏がオペレーターであり、かつ志希が「面白いコト」を思いついた場合に限り、現場で奏に代わり作戦立案・指揮を行う事になっている。
といっても平時、志希は基本的には指揮などせず自由にやっており、他のメンバーも事前に話し合って決めた作戦に沿って動いている。そして志希が何かを思いついた時に奏に提案し、通れば実行という形になる。
つまり、奏が戦場に立つ時はその的確な指揮により高いレベルで安定したチームになり、志希が戦場に立つ時には不安定で波があるがアドリブの作戦がハマればとんでもない爆発力を発揮するチームになる。
これもまた、速水隊が変幻自在のチームと言われる所以の1つなのである。
志希『……ってのが狙い。ほぼノーリスクでリターンおっきいよ』
奏『是非もないわ』
フレデリカ『採用だって! 我が社で頑張ってくれたまえ!』
志希『あはは~失踪しまーす』
早苗達が少しの間動かず準備を進めている間に、志希達も作戦を共有し終えたようだ。そもそも早苗が自傷したのを確認した時点で、志希達は早苗達にいくら作戦立案に時間を使われても利しかない。
こちらの方が戦術では勝っているという自信があるからだ。
志希「──ってコトで。おっけーフレちゃん?」
フレデリカ「オールオッケー! やっちゃうよー! 雪の日のフレちゃんはわくわくでパワーが1.2倍になるのだ~!」
志希「割と現実的~」
向こうから早苗と心がこちらへ猛然と走り出したのをフレデリカは見て、志希は嗅いで感知した。
早苗はカメレオンを使っていない。トリオンを温存するつもりらしい。
志希「……ん。来たね」クンクン
フレデリカ「んじゃ作戦どーり!」
フレ志希「「逃げろー!」」ダッ
早苗心「「ッ!?」」
猛然と迫る片桐隊の2人に対し、フレデリカと志希は隙のない構えを維持しつつ脱兎の如く逃げ出した。
早苗「(そう来たかぁ……! あーもう時間ないってのに面倒臭いわね!)」
フレデリカ「上に逃げるよ! ほい志希ちゃんもっ!」パッ
志希「んじゃ、消耗戦といこーか♪」パッ
フレデリカはグラスホッパーで志希と共に開けた場所から高層ビルの陰に隠れるように斜め上に飛び、スナイパーの射線を切りつつ早苗にグラスホッパーを使ってのトリオン消費を強要した。
早苗「もー! 逃がしちゃダメ! グラスホッパーの消費くらいたかがしれてるわ! 追うわよ!」
早苗は舌打ちすると、先程のフレデリカと同じように自分と心にグラスホッパーを使い、フレデリカ達を追うが──
ビヨン グルン!
早苗「!?」
心「おわぁ!? 早苗さん!?」
志希「あーあーグラスホッパーで加速なんてしちゃうから~」ニヤ
早苗はラリアットでも受けたかのように空中で足が先行し、そのまま回転しながら勢いよく落下した。
志希の仕掛けた、白く着色されたワイヤートラップを首に引っ掛けたのだ。
普段なら見切ったであろうスパイダーも、グラスホッパーで加速した状態でかつ雪で視界が若干悪く、更に時間がないという焦りから見切る事が出来なかった。
その上、フレデリカ達が逃げたのは風上。吹きつける雪の影響を最も受ける方向だ。
早苗「ッ!!」
が、潜伏している新田隊が体勢を崩した早苗を見逃す訳もなく。
夕美「ここっ!」ダンッ! ダンッ!
美波「今よっ!」ギュンッ!
唯「てぇーい!」タタタタタンッ!
3つの建物の陰から、アステロイド群が早苗に殺到する。
志希「バイパー」ギュパッ
志希も当然隙を狙い撃つ。
早苗「くっ!」
早苗は全方位からの射撃にたまらず2枚の半球シールドを張るが、流石に広く張ったシールドでは4人からの集中攻撃には耐えられず、
バリン! パキキ…
1枚が割れ、もう1枚にもヒビが入った。
美波「(普通ならとっくに割れてる。あの広さのシールドでもこんなに硬いの……!?)」
文香『割ります』ダンッ!
バキン!
早苗「ぐッ!」
遠方からの文香の研ぎ澄まされたアイビスでの一射が、シールドごと早苗を貫いた。
トリオン量の多い文香のアイビス。それまでの一斉射撃の一射一射とは一線を画す威力だ。
早苗「危な………!」シュウウウ
だが、新田隊の一斉射撃を受けた段階で文香の狙撃を予見していた早苗は致命傷となる胸への一撃をギリギリで回避し、左肩を貫かれた。
美波『今ので位置がバレたから移動して!』
夕美唯文香『『『了解!』』』
新田隊は深追いしなかった。あくまで有利状況の維持を徹底するようだ。
ありす『辛くも首の皮一枚繋がった! 片桐隊長、先程からずっとマスタークラス以上の隊員達から集中攻撃を受けているにも関わらず、物凄い生存能力です!』
真奈美『完全回避しようとするのは難しい。ならば致命傷だけを避ければいい。口で言うのは簡単だが、A級の猛者達を相手にそれを成すのは極めて困難だ』
茜「さすが早苗さんですね!! 私はよく対戦相手に全力タックルで突っ込んで早々に落ちているので、尊敬します!!!」
飛鳥「……ウチのチームメイト達が天からの授かり物に思えてきたよ」※蘭子、小梅、ありす
藍子「ほ、本田隊だって皆仲良しで良い子ですし……!」※未央、ユッコ、茜
藍子「ただちょっと作戦を聞いてくれなかったり……美城司令の車を両断しちゃうくらいで……始末書も……いっぱい……」ズーン…
飛鳥「えっ……あぁいや違うんだ、ほら、元気なのはいい事だよ。ボク達のように変にヒネた子供より、まっすぐなキミ達の方が一般市民の方々には好まれやすい面もあるじゃないか」オロオロ
数秒遡り、早苗が集中攻撃を受けている最中。
心「ん!」
早苗の少し後ろを飛んでいた心は早苗が引っかかった辺りに目を凝らし、仕掛けられたワイヤーを見切って左手で掴み、ぐるんと大車輪のように体を一回転させてそのまま前方に飛んだ。
心「旋空弧月!」ヒュン!
叫びと共に、旋空に追従させるようにアステロイドを放つ。
フレデリカ「よっと」
やはり総合3位。テレフォンパンチは通じない。
距離もあり、あっさりと躱された。
心「おっけおっけ」
だが、心もそんな事は百も承知。この旋空孤月は周りのスパイダーを切断しつつ、アステロイドでこの場で一番厄介なフレデリカを牽制して早苗にこれ以上追撃をさせない意図からだった。
心は早苗の元に着地した。
心「(早苗さんのトリオン漏出を狙っての時間稼ぎかー。普通に戦ってもむちゃくちゃ強いクセに徹底してんなー☆)」
と心は思ったが、志希やフレデリカにとってはそうではなかった。
早苗「ありがと!」ダッ
早苗は心に短く礼を言うと、ノータイムでフレデリカ達の方へと駆ける。
『ベイルアウトまで残り 95秒』
肩を穿たれ漏出が更に早まってしまった今は1秒すら惜しい。心もそれを理解し、追走する。
しかし志希は満身創痍の早苗に、更に追い討ちを掛ける。
志希「スゥーッ……」
志希は早苗から全力で逃げながら、大きく息を吸い込んだ。フレデリカはギラついた眼でその隣でいつでも斬りかかるぞと言わんばかりの攻め気味の体勢で孤月を構え、早苗を牽制している。
志希「美波ちゃんはあの建物の1階!! 夕美ちゃんはあのコンビニの中!! 唯ちゃんはあそこの路地裏だよ!!」
志希「(文香ちゃんは遠くて分かんな~い)」
志希は「潜伏している新田隊にも聞こえそうな程の」大声で、一息に叫んだ。
新田隊「「「「ッ!!?」」」」
心「そう来たか☆」
早苗「……!!」
この大胆な戦法に対するそれぞれの表情は、想像にかたくない。
志希「どうする? このままあたし達と鬼ごっこするか、あたしの言葉を『信じて』バラけてる新田隊の皆を1人ずつ倒してくか。どうするのが正解か、よ~く考えてね? 『時間はたぁっぷり使っていいから』」ニタァ
フレデリカ「わーおシキちゃん悪役みたいでカッコイー! あっ早苗さん、こっち来るならまた糸に引っ掛けられないように気を付けてね? フレちゃん早苗さんのカッコ悪い所もう見たくないなぁ♪」ニコニコ
早苗「」
早苗「」メキ
奏『……うわぁ』タラー
奏は画面越しに、戦略とはいえよく早苗さんをここまで煽れるわね、と志希とフレデリカを半分尊敬し半分呆れていた。
心「(うっわこれはキレるわ)」タラー
早苗「こんのぉ……! あの子達はホントに……!」プルプル…!
さて、ここで早苗視点でここまでの試合を事を振り返ってみよう。
鷹富士隊に出し抜かれて茄子を取り逃し、美波と唯と志希に集中狙いされ、志希にハメられて錘を付けられ、苦肉の策でトリオン体ごと切り落としタイムリミットを課せられたと思うとワイヤートラップに無様に転ばされ、そこをまた集中狙いされ、時間の無い中究極の2択を迫られた挙句ここぞとばかりに煽り散らされた。
早苗は一流の武術家であるが故にここまで冷静さを保っていたが、本来気の長いタチではなかった。
早苗「アンタ達ねぇ大人をナメんじゃないわよ!! 上ッ等じゃないやったろうじゃないの!!!」ガオォォォ!!
雫『あー……』
紗南『いや、むしろここまでよく我慢したよ。あたしならとっくに台パンしてるわ』
不憫な早苗に思わず同情したが、しかし紗南はオペレーターとして冷静に現状を早苗に伝えた。志希が喧伝したポイントへのタグ付けは既に済ませてある。
紗南『気持ちは分かるけど早苗さん、志希ちゃんとフレちゃんの言った事よーく考えてね。あたしらにとってはマジで究極の2択だよ』
早苗『全部分かってるわよ!! だからこそイラついてんの!! あの子達ったら憎たらしいほどうまいことこっちを追い詰めて来るんだから!! もうっ!!』プンスカ
紗南『よかった。思ったよりは冷静だね』
紗南はオペレーターとしてクールに早苗を宥めつつ、志希の仕掛けた択について思考を続けていた。
志希が大声で放った言葉は、挑発以上の大きな意味を持つ。
茜「ややっ!? 志希ちゃんの声がこちらへ聞こえて来ましたよ!!」
ありす『一ノ瀬隊員に関しては音声が聞き取れないとお二人が解説のしようがない場合があったので、内部通信でちひろさんに頼んで特別にあの戦闘域の音声をこちらに繋いで貰いました。多少の雑音はご了承下さい』
茜「おおっ!! やりますねぇありすちゃん!!」
真奈美『ふふ、二宮隊のオペレーターは戦闘中の情報支援以外でも仕事が出来るようだ。偉いぞ』
ありす『えっ……いえそんな、私なんて……えへへ』テレテレ
飛鳥「ふっ」ニマニマ
みく「飛鳥チャンニヤニヤして嬉しそうだにゃー」
藍子「分かります、チームメイトを褒められると嬉しいですよね」ニコ
飛鳥「えっ……あ、あぁ、そうだね」
比奈「(耳が真っ赤っスよ、飛鳥ちゃん)」クス
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真奈美『さて。さっきの一ノ瀬隊員の言葉だが、聞いての通り志希が強化嗅覚を使って感知した新田隊のそれぞれの位置を片桐隊に伝えた形だ。そして教えた位置が本当かどうかは、この解説席の後ろの各隊員の位置を示す大画面モニターを見れば分かる通りだ』
真奈美『そして音量は自動調節されている為分かりにくいが、息づかいと間の取り方、音割れの具合いから相当の大声だったと予測出来る。これが何を意味するか分かるか?』
茜「とっても気合いが入っていたのでしょう!! クールな志希ちゃんも早苗さんを相手にする時には気合いが必要という事ですね!! 私も解説として負けていませんよ!! マイクなんてなくてもモゴゴ」
ありす『うるさいです。……新田隊にも聞こえるように、という事ですね』
真奈美『その通り。片桐隊に新田隊の各隊員の位置を教えた事を大声で伝える事で、片桐隊には時間がない中での二択を強要し、新田隊にはコソコソさせずに無理矢理表へ叩き出させる。二隊同時にプレッシャーを掛けた』
茜「なるほど!! 流石志希ちゃんですね!!!」
ありす『片桐隊にとっては「逃げに徹する宮本隊員と一ノ瀬隊員を同時に相手取るか」と「胡散臭い一ノ瀬隊員の言葉を信じて新田隊を1人ずつ倒すか」の択、という訳ですね。しかもタイムリミットがある片桐隊長にとってはより効いてくるんじゃないですか?』
真奈美『そうだな。シールド技術がボーダー随一である宮本隊員は、守りに徹した場合相当立ち回りが硬い。そこに一ノ瀬隊員が加わっており、かつ時間制限がある今の状況でそこを攻めるのは精神的に相当キツいだろう』
真奈美『更に先程スパイダーのトラップがあるのを見せつけられて、この2人を攻めるのは二重苦三重苦の状態。それにあの一ノ瀬隊員の事だ、それを四重苦、五重苦にもしてくるような策を用意している事は今までの経験からも百も承知だろう』
真奈美『一方新田隊をやる方の択を選んだとしても、教えられた位置がどこまでが本当なのか分からない。万一全て本当だったとしても、自然と速水隊の2人と新田隊に挟まれる形になる』
真奈美『かといって悠長にしていると、位置をバラされて新田隊側も余裕がなくなった今4人に集結され、手堅い新田隊長の事だからトリオン切れを待たれる守りの戦法を取られるだろう。やるなら今すぐに行くしかない』
真奈美『また、新田隊があの場から逃げる可能性もある。一旦点を取るのを諦め、速水隊と削り合わせて片桐隊長がいなくなるまで待ち、消耗した所を攻めるという作戦も全然アリだからな』
真奈美『だが、片桐隊としては新田隊に逃げられると得点源が減る。そうすると片桐隊の勝利は更に遠のく』
ありす『ほ、本当に究極の2択なんですね……』
真奈美『「時間がない」という片桐隊長の弱みを最大限に利用している。これは相手の強さや己の練度に左右されないという点においても効果的な作戦だ』
茜『……私、今の早苗さんの立場じゃなくてよかったです……!』プルプル
真奈美『また、あの位置ばらし作戦を決行したタイミングも中々いやらしい。位置の真偽という不確定要素を含む以上、普通なら速水隊を攻める方を選び、新田隊が逃げない事に賭けるのが片桐隊長としては確実で太い択だったのだろうが、敢えて最初のタイミングでは仕掛けずに攻めさせ、トラップに上手く引っかけダメージを与え、結果片桐隊の攻撃は失敗した。つまり──』
ありす『つまり?』
真奈美『「──今速水隊を攻めるのは間違いではないのか?」という印象を片桐隊に与えた』
ありす『そこまで……』ゾクッ
茜「ち、知恵熱が出そうです……! IQが上がってしまうぅ……!」ガタガタブルブル
真奈美『ここまで長々と説明はしたが、一ノ瀬隊員にとっては多少時間を稼いで片桐隊長に精神的ダメージを与えられただけで十分なのだろう。一ノ瀬隊員の作戦は深く考察しようとすれば複雑怪奇だが、構造はシンプルだ。まぁ、だからこそ恐ろしいのだがな』
比奈「……なんか、ここまで来ると早苗さんが可哀想になってきたっス。や、真剣勝負だし仕方ないんスけどね」
菜々「ナナもです。はぁ、今日の飲み会は早苗さんの愚痴で長くなりそ……ハッ!」
早苗「悠長に考えてる暇なんてないわ。新田隊の位置が嘘だった時に2隊に挟まれたら一巻の終わりよ。目の前のおてんば娘達をやる。リスクは高いけど勝ちを狙うならそれが1番確実でしょ」
1秒すら惜しいと走り出す早苗に、紗南が慌てて声を掛ける。
紗南『待っ……走りながらでいいから聞いて! あの大声は新田隊に「片桐隊(ウチら)にやられるかも」ってプレッシャーを掛けて炙り出す意図もあったはずでしょ? なら本当の位置じゃないと成立しなくない?』
紗南『それに、新田隊が逃げる可能性もある。そうなったら早苗さんが落ちた後、ウチらどこから点取るの? それこそはぁとさんがフレちゃんにキルされて終わりじゃん』
早苗「……!」
早苗は確かに、と納得した。もし志希が嘘の位置を教えていたのであれば、新田隊は動く必要が無い。結果、新田隊への揺さぶりは無意味となる。
早苗は焦燥から自分の頭が鈍っている事を痛感した。
心『そう思わせといて実は裏の択でしたって可能性は? ウチらに新田隊追わせといて速水隊は早苗さんが落ちるまで退避する狙いかもじゃん? 紗南ちゃんの言う通りはぁとじゃフレちゃん倒せないよ。それに美波ちゃんの性格上ここで逃げはないっしょ』
紗南『そうしたところで新田隊の有利は動かないし、もしあたしらが速水隊を狙った場合に速水隊的にはディスアドでしかないじゃん? それにさっきまで速水隊が不利だったんだからそんな余裕は無いと思う。退避した先に新田隊が居て奇襲されるかもだし。リスクリターンの釣り合い考えたら、速水隊の行動は「新田隊の本当の位置を言う」がド安定だよ』
早苗「(確かに……。速水隊は変な作戦ばっかりやってる博打打ちの印象を持たれがちだけど、不利な状況ではちゃんとリスクの少ない安定感のある変な行動なのよね。案外博打は打たないのよ)」
早苗「(美波ちゃんの性格に関しては私も同意見ね。あの子インテリな優等生タイプに見えて案外ノリが体育会系なのよ。負けず嫌いだし、一度やられかけてるあたしやそのあたしを追い詰めた志希ちゃんを前にして逃げはないわね。それが美波ちゃんよ)」
雫『でも、じゃあどうして志希ちゃんは嘘を匂わせるような事をー……?』
紗南『択の内容を複雑化させる事で回答を遅らせて、時間を稼いでるんだよ。事実こうやって話が長引いて稼がれてるし』
心『えっ、ご、ごめんなさい』
心は時間が惜しいとばかりに早口で捲し立てる紗奈の語気に少しビビり、不用意な質問で時間を使ってしまった事を思わず素で詫びたが、紗南は特に気にしていない。
裏択の可能性の考慮は出て当然の疑問だと思ったし、その疑問を抱かせたまま2人を戦わせて集中を欠かせるよりはマシだと考えたからだ。
紗南は志希に片桐隊なら焦燥の中でもこれに気付けると信じられていた事に少し嬉しく思いつつ、そこまでが考慮の内だった志希に恐怖を感じた。
「作戦を立てるなら、相手の思考レベルも考慮に入れる」。これは昔、紗南がオペレーターとして1期先輩の志希に戦術指南を乞うた際に教えて貰った言葉だった。
紗南『あたしが出来るのはここまで。判断は任せたよ、隊長』
早苗「……」
残された時間は僅かばかり。早苗はこの試合最後の思考に入った。
早苗「(紗南ちゃんの指摘で新田隊の方の択が太くなったわね。どっちを選んだ方がより試合に勝てるか……大事なのは試合全体の流れ)」
早苗「(まずあたしが時間切れになった時の事を考えなきゃね。あたしが落ちた後、残りは心ちゃんだけ。そうなったら格上アタッカーのフレちゃんが相当ツラい。ならフレちゃんはあたしが倒しとかなきゃダメよね)」
早苗「(でも、それをあの速水隊が分かってないはずがない。だからフレちゃんを大事にしてくる戦法を絶対に取ってくる。なんならあたしが落ちるまで一旦フレちゃんを避難させてくる事だって全然有り得るわ)」
早苗「(それに、この場がこの試合の主戦場になってて心ちゃんはそのド真ん中に立ってる。スナイパーもまだいっぱい残ってるし、ウチはほぼ生存点は取れないわね)」
早苗「(ならあたしが生きてる間に何とかフレちゃんを倒しつつ点を稼いで、その後心ちゃんには隠れて貰って他の隊の邪魔をしつつ時間切れまで粘るのが1番太い勝ち筋かしらね)」
早苗「(……いや違う! 新田隊が逃げてなくてかつ位置が正しいと仮定すると新田隊は各個撃破される事を警戒して集合してるはず。なら、あたしが落ちた後心ちゃんが3人(+スナイパー1人)集まった状態の新田隊に勝てる? いや流石に無理ね。あの子達はエース以外の2人でも、あたしに押されつつも渡りあった実力を持ってる)」
早苗「(それなら……新田隊を狙うフリをして表に引っ張り出して、あたしらと速水隊と新田の乱戦状態を作る。それを利用してフレちゃんを倒す! これよ!)」
残り時間はとっくに1分を切っている。
早苗『──作戦は以上よ。その後の作戦はあたしが落ちてから伝えるから』
『『『了解!』』』
数秒で練り上げた作戦を素早く伝えた早苗。
早苗「(後は……あたしが勝負所で強いかどうかね)」
そして、早苗はフレデリカに目を遣る。
隙あらばこちらを喰わんとばかりに大きな碧眼が爛々と踊り、待ち構えている。
それを見た早苗の口は、ゆっくりと弧を描いた。
時間がないってのに、余計な時間を使わせてくれたわね。
でも、喰うのは私のほうよ!
と。
今日はここまで。
それでは、おやすみなさい
志希「(さて……。早苗さんは『どっち』を選んだのかにゃ~?)」
矢のように駆け出した早苗。何かのトリガーを使ってるようには見えないのに、その場の誰もが少しだけ普段より速く感じた。
フレデリカ「……?」ジッ…
フレデリカは早苗の速度に違和感を抱き、静かに早苗を観察し始めた。
志希『あれ悠貴ちゃんのマネだよー。足裏トゲトゲ』
フレデリカ『あ、そっかぁ』
すぐに仕掛けに気付いた志希は、違和感を抱かせたままフレデリカを戦わせないように種明かしをした。双葉隊の乙倉悠貴がよく使う、足の裏に棘のような短いスコーピオンを生やし、陸上のスパイクのようにして滑りにくくする工夫だ。
トリオン消費を最小限にしつつ少しでも急ぎたいという事だろう。
そしてその早苗が向かった先は──
心「旋空弧月☆」
──堪らず姿を現した新田隊の方だ。
フレデリカ「またシキちゃんの狙い通りだね~」
志希「美波ちゃんなら出て来るよねー。これで早苗さんのタイムリミットまでフレちゃんを守り切れそ~。そーだ、ヒマだからスパイダー張ってよっと」
フレデリカ「アタシはツカーズ・ハナレーズの位置でプレッシャー掛けてールネ!」
心はフレデリカと志希の煽りを意に介さず、その辺り数棟の建造物を何回も斬りつけて薙ぎ倒した。それらが轟音を上げて地面へと沈んでいく。
夕美「くっ!」ガラガラッ
唯「たぁっ!」タタタタンッ
美波「夕美ちゃん!」ギュンッ
心「(決断遅かったしやっぱ集合されてるか)」
瓦礫の雨に打たれながら転がり出る夕美を援護すべく、唯と美波もバックワームを解除して姿を現し、早苗に向かって牽制射撃をした。
夕美「やっ!」ダンダンッ
3人固まった位置から唯は左へ飛び出し、左足の裏から火花が出る勢いで急ブレーキし両手に持ったアサルトライフルからアステロイドを。美波はそのままの位置で右方向にハウンドを撃ち、夕美は正面から両手に構えたハンドガンでそれぞれ3方向から早苗を狙い、火力を集中させた。
早苗は傷口を塞ぐ為、常にスコーピオンを使用しているのでシールドは1枚しか張れない。その上早苗も心も遠距離攻撃を持たないので、反撃はないと踏んでの大胆な攻撃。
息ピッタリの、流れるような連携だ。
心「よっ」ガキキン!
しかし、早苗に追走する心が早苗の走路から左斜め前方向へ逸れて美波のハウンドを引き寄せシールドでガード、もう1枚の遠隔シールドで唯のアステロイドから早苗を守った……がやはり2つのアサルトライフルから放たれるアステロイド、火力が高く心のシールドが貫かれる。早苗はそれを自身のシールドでガードした。
美波「(シールド硬い……!)」
そして1番弾幕が薄い正面の夕美のアステロイドを紙一重で躱し、美波の前に出た夕美と5メートルの距離まで迫る。
その瞬間タイミングを合わせて左右に飛び出し、早苗の背後を取ろうとした美波と唯は、心の旋空と早苗のマンティスに牽制され失敗に終わる。
唯「んもぉはぁとちゃん邪魔しないでっ!」
美波「押し通ります!」
早苗「そっち頼んだわよ!」
心「この2人同時に相手とかキッツ☆」
ギュンッ
心「おっと」サッ
心をイーグレットの弾が掠める。3人ですよと言わんばかりに文香も加勢する。
心は夕美と交戦する早苗の方をチラ見すると、美波達から一度距離を取った。
数秒巻き戻り、早苗が夕美に迫り邪魔者が消え、一対一になった頃。
夕美「」スッ
早苗「!」サッ
夕美に右手の拳銃の銃口を向けられた早苗は反射的にその射線上から(夕美から見て右に)体を外したが、それはフェイント。避けた先に夕美の肘からスコーピオンが伸びる。
早苗「ん」ギィン!
しかし早苗はそれをスコーピオンの受け太刀で凌ぎ、右足の甲から脛に掛けて発生させたスコーピオンで足払いを掛ける。
早苗の足払いをジャンプで避けた夕美は早苗の額に視線を注ぎ、そこに右の銃口を向けた。
早苗は咄嗟に六角形のシールドを上半身を隠すように張ったが、
夕美「」スッ ダンッ!
それもまたフェイント。夕美は足元に左の銃口を向け、早苗の右足の甲をノールックで撃ち抜いた。
夕美「(やっぱり早苗さんの右手がない今は左からの攻撃が通りやすい! それに、この取り回しの良さがハンドガンの強さだよっ!)」ニヤ
早苗「やるじゃない!」
美波「上手いわ!」
しかし、早苗もただでは転ばない。
早苗「だっ!」ガッ
夕美「あっ!」
早苗は下に向けられた夕美の左手を、足先を撃ち抜かれつま先が無い右足で蹴り上げてハンドガンを弾きつつ夕美のバランスを崩すと、すぐさま左手でよろめいた夕美の首目掛けて斬りかかった──
夕美「!!(シールド間に合って……!)」
──ように見えた。しかし、実際には早苗は腕を振っただけでスコーピオンを手から出していなかった。
早苗にとっては絶好のチャンス。夕美にとっては絶体絶命のピンチ。早苗の攻撃速度から考えると首を守るシールドが間に合うかどうかの瀬戸際。
そんな場面で、早苗は敢えて攻撃しない事を選んだ。その狙いは……。
早苗「」ガシッ
夕美「!?」
斬りかかるように見せかけた勢いそのままの、
早苗「でりゃあ!」ブンッ!
「掴み」からの「投げ」。
投げられた先には速水隊の2人。
夕美「(私を美波ちゃん達と引き離すと同時に、フレちゃん達と挟まれないように私を足止め要員にするなんて……!)」
夕美は、再生成したハンドガンをしっかり握りしめて地面を見据え、着地に備える。
しかし────
夕美「っ!?」ガッ
着地の寸前、夕美は「何か」に足を取られ前のめりで倒れかけるが、スコーピオンを伸ばして杖のように使い、転倒を回避する。
フレデリカ「旋空」
夕美はフレデリカが孤月を振る動作を目の端に捉えた。
夕美「ッ!」
夕美は真上からのフレデリカの声に反応し、慌てて飛び退く。
その先にフレデリカがいた。
フレデリカ「うそ♪」
夕美「わっ!!?」
旋空。その言葉は夕美に回避行動を取らせ、その隙を狩る為の嘘だった。フレデリカは志希の張り巡らせたワイヤーと己のグラスホッパーを併用して底上げされた機動力で行動を先読みし、背後に回り込んだ。
文香「」ビギュン
フレデリカ「!」サッ
夕美「くっ!」ザシュ
間一髪、文香のライトニングによる神速の一射がフレデリカを掠め、美しいブロンドが僅かに散った。
フレデリカは上体を反らせながら狙撃を躱しつつ、その勢いのまま下から夕美を斬り上げた。
フレデリカの斬撃は狙撃を避けながらの攻撃の為正確性を欠き、夕美の左の前腕を切断するに留まった。
美波『そっちに早苗さんが向かってるわ! 気を付けて!』
夕美『……! 了解!』
志希「(文香ちゃん、さっきから地味にいい仕事するね~)」
繰り返すが、夕美が投げ飛ばされた先にいたのは総合3位のフレデリカと変幻自在の策略家、志希。
なんとか凌いだはいいものの、夕美の絶望的状況は依然変わりない。
少し遡り、夕美が早苗に投げ飛ばされた直後。
美波「いけない──」
唯「やばっ──」
心「させねーよ☆」
美波達が夕美の援護に行かなければとそちらに意識を向けた瞬間、その隙を突いて心の旋空弧月が襲いかかる。
美波「くっ!」バッ!
唯「わっ!?」サッ
美波は伏せて躱しすぐさま夕美の援護へ向かったが、唯は飛び上がって躱した。
その判断も悪くはなかった。
しかし、絶対強者の前では1つの甘い判断が命取りとなる。
飛び上がった先には「見えない」早苗がいた。
メキィ!
唯「あうっ!」ドシャア
全身を回転させながら弓のようにしならせ、それにより生まれた全ての力を余す所なく右足に伝えた早苗の蹴りが唯の首の真芯を捉え、そのまま右足の軌道は弧を描き唯を地面に叩き落とした。
もし相手がトリオン体でなく生身だったなら、間違いなく首の骨が折れていた程の強烈な一撃だ。
美波「唯ちゃん! させな──」
早苗「遅いわ」ヒュッ
ザシュッ
警戒していたフリー状態の唯が早苗に投げられた美波をカバー出来た先程とは違い、完全に不意を突かれた美波は唯を助ける事が出来なかった。
『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
早苗は、美波達が夕美に意識を向けた瞬間にカメレオンを発動していた。それを見た心は、「その目で」早苗の位置を確認しながら、そこに追い込むように旋空弧月を放った。
心は早苗に打ち込んだスタアメーカーにより、カメレオン状態でも早苗の位置が視覚的に分かる。それにより、お互い邪魔になりがちなカメレオン状態の味方との密な近接連携が可能なのだ。
しかし、美波達はもちろん事前の下調べで過去の片桐隊の戦闘ログを見ている。その連携方法を知らないはずはない。
それなのに綺麗に連携を決められてしまったのは、早苗の現在の状態に起因する。早苗は今トリオン体が激しく損傷しており、カメレオンでその傷口を塞ぎトリオン漏出を防いでいる。
そして、カメレオンは使用中、それ以外のトリガーを一切使用できない。よって、万が一透明化したとしてもトリオン漏出の煙がその位置を露わにするだろう。
これらの理由から美波達は早苗はカメレオンを積極的には使えないだろうと考え、無意識にカメレオンへの警戒度を下げてしまっていたのだ。
だが実際の所、早苗は武術に精通している為接近戦にさえしてしまえば煙やレーダーで大まかな位置がバレた所で闇雲な攻撃は喰らわず、打撃・投げ・拘束技のどれかは大概決まる。なので、トリオン漏出による位置バレは相手に近付きさえすれば大した問題ではなかった。
早苗にとって警戒すべきは距離を取っての面攻撃であり、レーダーを見て「この辺だろう」と当たりをつけた程度の近距離攻撃など恐るるに足らず。
体捌きが常人のそれとは格が違うのだ。
唯『う~、ごめんねみんな~』チュー
ベイルアウトした唯は新田隊の作戦室で、申し訳なさそうにパックの100%オレンジジュースを吸っていた。
早苗が唯からもぎ取った1点の代償は大きい。
『警告:トリオン漏出甚大 ベイルアウトまで 残り 29秒』
早苗は夕美からダメージを受け、カメレオンによりスコーピオンを強制解除されトリオン漏出が進行した事で残り時間が一気に減少した。
早苗「(さっさと決めないとマズいわね)」
点を取りいくらか精神的に余裕が生まれた早苗。だが────
清良『狙撃位置に着きました』
クラリス『こちらもですわ』
茄子『了解! 撃ちます!』
────休まる暇はない。
ドドドドドン!
茄子の爆撃が射線を切っていた建物を砕き、射線を通した。
崩れ落ちる瓦礫から出る砂埃を突き抜けて来たのは、狙い澄ました2本の光。
清良「」ギュン
クラリス「」ビギュン
心「よっ!」サッ
フレデリカ「わお」サッ
清良は早苗を、クラリスはフレデリカを狙撃。しかし、茄子が射線を通す為に建物を爆破し注目を集めた方角からの狙撃であった為、難なく躱される。
当然狙いは別にあった。強力な早苗とフレデリカに圧力を掛けると共に、しばらく身を隠していた為に点が取れていない鷹富士隊の得点源にしたい新田隊を守る動きだ。
清良・クラリス両名の正確な狙撃により、美波と夕美はそれぞれ肉薄されていた心とフレデリカから距離を取る事に成功した。
美波「(鷹富士隊に助けられた……?)」
夕美「(ここが正念場っ!)」
ありす『数分の間沈黙を保っていた鷹富士隊、ここで動いた! 漁夫の利を狙うつもりです!』
真奈美『片桐隊長と宮本隊員が敵に捕まるのを待っていたな。強者が接敵状態なのを期に横から丸ごと掻っ攫う気か』
茜「おおっ!!! 盛り上がって来ました!!!!!」
美波『早苗さん達を強引に突破して夕美ちゃんと合流します。文香ちゃん、夕美ちゃんの援護を続けながら私が早苗さん達を突破する瞬間だけこちらを援護出来る?』
文香『やります』
美波『ご……お願いっ』
唯がベイルアウトし、早苗と心という格上2人を同時に相手取るのは不可能。しかしこのまま夕美をフレデリカと志希2人の相手をさせるのも無謀。
今、夕美は応戦しつつフレデリカ達から挟まれないよう、建物などの遮蔽物や茄子の爆撃を上手く利用しつつ必死に立ち回っている。かなり苦しい状況で、いつ崩されてもおかしくない。
ならばと、美波は勝負に出た。
その援護を文香に出来るかと訊ねた時、文香からは自信に溢れる「出来ます」でも自信なさげな「やってみます」でもなく、「やります」と帰ってきた。
その短い一言から美波は文香の覚悟を感じ取り、口から出かかっていた謝罪の言葉を飲み込んだ。
美波「美波、行きます!」
心「ごめん作戦変更☆」
美波「えっ!?」
早苗は唯を倒し、清良の狙撃を躱してから2秒ほど美波を視線で牽制しながら清良達を警戒していたが、とうとう美波に背を向けた。
心も同様。いや、若干心が早苗の前に出ているだろうか。
向かう先は、フレデリカ・志希が夕美を追っている所だ。
美波は出鼻をくじかれた事に若干不満を抱きつつすぐさま追う。同時にフレデリカ達の相手で手一杯であろう夕美に注意を促す。
美波『そっちに早苗さん達が向かってるわ! 気を付けて!』
夕美『……! 了解!』
早苗『紗南ちゃん、残り時間をカメレオン状態基準に切り替えて』
紗南『! 了解』
それまでは、スコーピオンでトリオン漏出を抑え、かつ消費の激しいカメレオンを使っていない状態を基準としたカウントダウンだった。
紗南は早苗がここで勝負に出たと悟り、素早く表示を切り替える。
『ベイルアウトまで残り 15秒』
次の瞬間、早苗の姿が消えた。
「「「「「!!!」」」」」
早苗「(ここで決める)」
それにより、その場にいた片桐隊と文香以外の誰もがそちらに一瞬注意が逸れた。
夕美「(早苗さん!? そんな……!)」
フレデリカ「(なになに? 早苗さん来ちゃう?)」
志希「(ふむふむ)」
フレデリカと志希は夕美を攻めつつ、意識を半分程片桐隊に割いた。
心「旋空弧月☆」
心の放った旋空は、寸分違わずさっきまで夕美の首があった場所を通過した。
夕美「くっ!」
夕美は辛うじて避けたが、フレデリカ達に攻撃を受けていた所を狙われたせいで体勢を大きく崩された。
『ベイルアウトまで残り 12秒』
早苗「(集中)」
早苗の姿はまだ見えない。しかし、レーダーにはその位置がはっきりと映っている。フレデリカ達から見て心の後ろだ。
心「」サッ
「「「!!」」」
旋空を放った直後、心は右に一瞬目を遣りながらおもむろに夕美への道を開けるように左へ大きく動いた。それにより、早苗と夕美の間を遮るものがなくなった。
夕美「(来る!)」
夕美は早苗の襲来に身構えたが、
夕美「……?」
来ない。
ならどこに?
レーダーを見る。
一瞬見えた早苗を示す光点が消えた。
バックワームだ。
レーダーから目を離し、周囲を見渡す。
またいない。今度はカメレオン?
レーダーを見───
フレデリカ「ッ!!」
早苗「こっちよ」パパッ
奏『グラスホッパー……!』
姿を現したのはフレデリカの方だった。
心の挙動から早苗が夕美を狙うと思っていて、かつバックワームとカメレオンを高速で切り替える早苗に意識がレーダーと目視で右往左往していたフレデリカは、完全に意表を突かれた。
だが、「完全に意表を突かれた」だけならばフレデリカはすぐさま反応し早苗の攻撃すら捌いていただろう。
攻撃をせずとも、防御に徹していればあと数秒で早苗は落ちる。数秒間早苗の攻撃を近距離で凌ぐ程度、フレデリカにとっては容易い事だ。
しかし、この瞬間フレデリカにはほんの僅かな隙があった。
その布石はもっと前。志希が片桐隊に究極の2択を迫った時からだ。その時片桐隊は悩みに悩み、貴重な時間を考察に割いてまで考え抜き答えを出した。
その答えは、「新田隊」だった。
つまり、フレデリカは「片桐隊は新田隊狙いと決めた」という印象を植え付けられた。
片桐隊は新田隊とのコンタクトの後もしっかりと新田隊からポイントを取り、新田隊狙いの印象を強めた。
志希が択を押し付けてから今までの間、アドバンテージは常に速水隊にあった。
寸前の心の「夕美への直線上から退く」という行動も、時間のない早苗の状態とマッチしていて違和感はない。
ただ、これは片桐隊が苦し紛れに打った布石だ。
倒せたかもしれない夕美をわざわざこちらへ投げて寄越した点や、早苗が夕美を攻撃するつもりなら心は最初から邪魔になる位置にいる必要はなかった点など、散りばめられた僅かな違和感にフレデリカが気づけなかったのは事実。
片桐隊が選んだ択は最初から決まっている。「新田隊を引きずり出し、かつフレデリカを倒す」、この1点のみ。
しかし、フレデリカもアタッカーとしては達人の域。敵が来れば考える前に体が動く。そのレベルまで体を慣らしている。
マスタークラスの美波ですらギョッとしてしまうであろう奇襲も、フレデリカは「なんだアタシか~」くらいのものだ。
片桐隊の死力を尽くした布石を、「一瞬の隙」に押さえ込んだ。
並のアタッカーなら「隙」とも認識出来ないレベルの「隙」。
しかし、早苗はその僅かな隙をこじ開ける。
早苗は極限状態にありながらも攻撃のタイミングをしっかりと計り、ほぼ隙のないフレデリカへと完璧に攻撃を差し込んだ。
早苗は、追い込まれる程真価を発揮する。
背水の陣に己を追い込み、極限まで集中した早苗のこの一撃はこの試合で最も鋭く、最も雑念が排除された純粋な刃だった。
フレデリカ『ごめん☆』
フレデリカは己の負けを悟った。
しかし志希は違った。
志希「『韋駄天』」
志希は韋駄天の超高速移動でフレデリカと早苗の間に体を滑り込ませた。
早苗「」ヒュカッ
志希は、アンダーバストの辺りから胴体を横薙ぎにされた。
早苗「!」ハッ
極限まで集中していた早苗は、志希を斬った事実に数瞬後に気付いた。
『ベイルアウトまで残り 4秒』
早苗「まだ終わってないわ!」
志希「『メテオラ』」
ボボボボッ
志希はベイルアウトするまでの僅かな時間、韋駄天を使う前から己の背後に展開し隠してあったバイパーを、口ではメテオラと言いながら己の体を貫通させる直線経路で撃ち出してきた。
フレデリカ「旋空」ヒュ
更にその向こうでは、志希がもう助からないと悟ったフレデリカが志希ごと早苗を斬り裂くべく旋空弧月の構え。
早苗「バイパーでしょ!!」パッ
早苗はグラスホッパーで上へ逃げた。
志希「シールド張んなかったかー。よく反応出来たねー」
そう、志希は違ったのだ。
志希は片桐隊の違和感に気付いていた。片桐隊の真の狙いも。
しかし、フレデリカが志希の導き出した結論に至っていないという事には気付けなかった。
フレデリカも当然気付いているものと思っていた。
だから、志希はフレデリカにそれを伝えなかった。
今回の試合、志希の唯一のミスだ。
『トリオン器官損傷 ベイルアウト』
ここで志希が脱落。
早苗「」ブゥン
早苗はカメレオンを起動した。
残り時間は3秒。
早苗「(この1秒間カメレオンを使ってあたしの動きから狙いを読ませないようにする)」
早苗「(次の1秒で近付いて投げ・拘束・打撃のどれかをその状況を見て反射で決める。最後の1秒で──)」
早苗「(──仕留める)」
フレデリカはすぐに防御に入る。旋空弧月のモーションのせいで対応が遅れ、テレポーターでの回避は間に合わない。
残り2秒。
早苗「(さぁ、これがラストチャ──)」
ドンッ
────まさかの、透明化状態へのヘッドショット。
『戦闘体活動限界 ベイルアウト』
清良『早苗さんを仕留めました。攻勢に出ましょう』
茄子『はいっ!』
決めたのは、最強のスナイパー。
──片桐隊作戦室──
早苗「わっ」ドサッ
紗南「……あちゃー」
早苗「ちょっと紗南ちゃん! あと2秒って表示されてたのに時間切れになっちゃったじゃない! しっかりしてよね!」プンプン
紗南「いや、今のは清良さんのヘッドショットだよ」
早苗「……は? 嘘でしょ? だってあたしさっきカメレオン使って」
紗南「ごめん集中させて」
早苗「……うん。ごめんなさいね」
紗南「大丈夫。ありがとう。お疲れ様」
早苗「(フレちゃん、倒せなかったわね)」
早苗「(……悔しいわ)」
雫「早苗さん、牛乳飲みますかー? 私が搾ったものなんですけど、良かったらー」
早苗「……ありがと、いただくわ!」ニコッ
──速水隊作戦室──
志希「わふ」ドサッ
奏「お疲れ様。凄かったわ」
志希「おっつー♪ 早苗さん落ちた?」
奏「清良さんに横取りされたわ」
志希「うそー!? んーでも清良さんならそれくらいやるか。でもどうやって?スッゴイ気になる! ね、ログ見ていーい?」ウズウズ
奏「ダメよ。後にしなさい」
志希「むー。はぁーい」
奏「まだ貴女の仕事は終わってないわ。今度はここで頭脳労働よ」
志希「りょーかい♪ 隣座るね~」ギシ
ありす『な、なんと! 鷹富士隊の柳隊員、カメレオンで透明化していた片桐隊長を狙撃! ヘッドショットで仕留めてしまいました!』
茜「うえぇぇえぇぇぇ!!?!!?!?」
ありす『うるさいです』
真奈美『……』ポカーン
みく「しまいました! じゃないにゃ! なにあれ!? あんなの変態にゃ! 変態スナイパーにゃ!」
菜々「こぉら。みくちゃん、女の子が変態変態言うものじゃありませんっ」メッ
比奈「いやぁ、あれは紛れもない変態っスよ」
飛鳥「違いない」
藍子「あはは……」
ありす『あ、あの……お気持ちは分かりますが、解説をお願いします。木場隊長、柳隊員はどうやって狙撃を成功させたのですか?』
真奈美『あぁ、済まない……あのレベルのスナイパーの技術的な面や感覚に関しては理解の外なので説明出来ないな。……はぁ、彼女はとんだ解説殺しだよ』
ありす『木場隊長はカメレオン状態の片桐隊長に旋空弧月を当てている記録があります。その感覚を交えて、推測で構わないのでお願い出来ますか?』
真奈美『そうか、そうだな……。片桐隊長はカメレオンとグラスホッパーを時間差で起動する事で併用する手段をよく使う。なので何百回と戦っていれば、グラスホッパーを踏むタイミングや踏んだ後の動きを読んで動線を斬るイメージで旋空を放てば当たる事もある』
真奈美『……柳隊員はそれを使うと読んだ上で、あの状態の片桐隊長が上へ逃げる事を読み、更に日頃から片桐隊長が使うグラスホッパーの飛距離を普段からよく観察し知った上でその速度や最高到達点を読み切り、天才的な勘と技術で当てたとしか……』
ありす『偏差射撃の極地とも言える神業ですね……』
真奈美『片桐隊長は極限まで集中を高めていた。故に生半可な攻撃は反射で躱せただろう。あの一射は完全に意識の外からの攻撃だった。あれは私も躱せる気がしないよ』
真奈美『……浅い解説で済まない。私にはここが限界だ。悪いが気になる者は各々本人かスナイパー上位勢に訊いてくれ』
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ありす『い、一ノ瀬隊員が片桐隊長の宮本隊員狙いを読み切ったのは何故でしょう?』
真奈美『恐らく、宮本隊員を倒さないと片桐隊が試合に勝てないからだと思う。片桐隊長は自分が落ちた後の戦況を考え、残り時間の少ないあの状況では宮本隊員を狙うしかなかった。一ノ瀬隊員はそれを読んだ』
ありす『なるほど。片桐隊長が目の前の新田隊長を見逃してまで宮本隊員を倒しに言ったのもその為ですね』
真奈美『その通りだ。時間の無さもあるが、貪欲に1位を狙いに行った結果だろう。片桐隊はそういうチームだ』
ありす『もしあのまま片桐隊長が落ちていれば、得点は速水隊に入っていたんですか?』
真奈美『そうだな。通常自殺はペナルティだが、審議の結果戦略的と判断されればその限りではない。今回の場合はそのまま行けばレッドバレットを撃ち込み自傷の原因となった一ノ瀬隊員のポイントとして処理されるはずだった』
ありす『なるほど、ありがとうございます』
茜「しかし、志希ちゃんは落ちる最後の1秒まで仕事をしましたね!! 私も見習いたいです!!」
真奈美『ふふ、そうだな』
茜「ふーむ! 流石A級の試合、私も学ぶ事が多いですね!!」
茜「…………むむむ」ジー
ありす「……?」
今日はここまで。
もしかしたらこのss誰も読んでないのかも…
乙です!読んでますよー!
前回ののあさんの変態狙撃を越える変態狙撃とは流石スナイパー1位…
比奈「やー、あんなの上位勢でも頭捻るんじゃないっスかね」
菜々「そうですねぇ」
飛鳥「……ちなみに菜々さんはあの狙撃はどうやって決めたのだと思う?」
菜々「ナナは狙撃技術に関しては明るくないので分かりませんが、あの状況まで追い込まれた早苗さんは絶対に『研ぎ澄まされた最高の動き』をすると清良さんは知っていたんだと思います。いえ、『最高の動き』をするしか無かった。そうしなければフレちゃんは倒せません」
菜々「それは一切無駄のない動きです。何年もかけて最適化された、これ以上ない動き。つまり──」
菜々「──『一定の動き』」
菜々「そして、清良さんは早苗さんの『最高の動き』を知っています。清良さんは早苗さんが絶対にフレちゃんを倒せる鋭さの動きをすると同じボーダーの仲間として『信じていた』からこそ、清良さんは早苗さんに弾を当てる事が出来たんだと思います」
菜々「つまりランク戦でのライバルとして徹底的に調べ上げた『観察眼』と『努力』、スナイパー1位としての並外れた『技術』、仲間としての『信頼』。このいずれか1つが欠けても成し得なかったとナナは思ってます」
一同「「「……」」」ポカーン
比奈「アチャー……」
菜々「……ってア゛ッ!!? いや、これはですね!? えっとその私も古株ですし友人としてって言いますかお父さんがプロ野球観戦の時に野次る素人がやりがちなアレと言いますか」アタフタ
真奈美『……拙い解説の補足をありがとうございます、菜々さん。私もまだまだ至らぬ身、これからも精進します』ペコリ
ナナサンスゴーイ! ザワザワ…!
菜々「ヴッ……」ピクピク
比奈「……飛鳥ちゃんどこまで知ってるんスか?」ヒソヒソ
飛鳥「フフ、菜々さんの隠し事かい? この間夜遅くに基地内を歩いていたら、たまたまこっそり射撃訓練している所を見てしまってね。どこまでと言うのなら、『何を』隠してるかは知ってるが、『何故』隠してるかは知らないよ。とはいえ、ボクはただ菜々さんに話を振っただけだ。悪意はないよ」ヒソヒソ
比奈「はぁ……菜々さんの自爆グセは飛鳥ちゃんも知ってるでしょうが」
飛鳥「さて、なんの事やら」クス
ありす『い、一ノ瀬隊員が片桐隊長の宮本隊員狙いを読み切ったのは何故でしょう?』
真奈美『恐らく、宮本隊員を倒さないと片桐隊が試合に勝てないからだと思う。片桐隊長は自分が落ちた後の戦況を考え、残り時間の少ないあの状況では宮本隊員を狙うしかなかった。一ノ瀬隊員はそれを読んだ』
ありす『なるほど。片桐隊長が目の前の新田隊長を見逃してまで宮本隊員を倒しに言ったのもその為ですね』
真奈美『その通りだ。時間の無さもあるが、貪欲に1位を狙いに行った結果だろう。片桐隊はそういうチームだ』
ありす『もしあのまま片桐隊長が落ちていれば、得点は速水隊に入っていたんですか?』
真奈美『そうだな。通常自殺はペナルティだが、審議の結果戦略的と判断されればその限りではない。今回の場合はそのまま行けばレッドバレットを撃ち込み自傷の原因となった一ノ瀬隊員のポイントとして処理されるはずだった』
ありす『なるほど、ありがとうございます』
茜「しかし、志希ちゃんは落ちる最後の1秒まで仕事をしましたね!! 私も見習いたいです!!」
真奈美『ふふ、そうだな』
茜「ふーむ! 流石A級の試合、私も学ぶ事が多いですね!!」
茜「…………むむむ」ジー
ありす「……?」
清良『早苗さんを仕留めました。攻勢に出ましょう』
茄子『はいっ!』
亜里沙『まぁ! 清良さん流石です!』
鷹富士隊、エースの鼓舞に応えられない者が1人。
クラリス「きゃっ!」
クラリスは立体駐車場内部でアイビスを抱えながら車に背を預けていた。そこを車ごと美嘉のメテオラで吹き飛ばされ、勢いよく地面を転がった。
美嘉「ごめんねクラリスさん。ここで終わりだよ」
美嘉はジリジリとクラリスを追い詰めていた。
奏は鷹富士隊が姿を現した段階で、その近くに居た美嘉と周子をそちらに向かわせていた。フレデリカ達の邪魔をさせないよう、裏から鷹富士隊を潰す狙いだ。
なお、まだ周子は姿を見せず機を窺っている。
美嘉は攻撃をする毎に遮蔽物となる車を吹き飛ばし、クラリスを徐々に駐車場の角に追い詰める。
一手毎に確実にクラリスの負けが近付いていた。
クラリス「くっ……!」
亜里沙『クラリスさんが美嘉ちゃんに奇襲を受けています! 援護を!』
清良『すみません、こちらからは射線が通りません』
茄子『清良さんは引き続き向こうの戦場を、出来ればフレちゃんを狙って下さい!私はクラリスさんを援護します!』
清良『了解。茄子ちゃんはクラリスちゃんのいる立体駐車場の上を吹き飛ばして下さい。クラリスちゃんは周子ちゃんを釣る動きを。おそらく私達は周子ちゃんの射程圏内に入っています。位置をあぶり出しましょう』
クラリス『了解』
茄子『了解!』
車のフロントガラスに光が反射し、美嘉の目を眩ませる。
ズンッ
美嘉「!?」
次の瞬間、立体駐車場の屋上が大きく欠けた。
美嘉とクラリスがいる階は最上階。上がガラ空きになった。
降り注ぐ瓦礫の雨から両腕で体を守りながら、美嘉はクラリスを見遣る。
美嘉「っく……。早めにクラリスさん落とさないと──」
焦る美嘉の「真上」に、茄子の適当メテオラが落ちてくる。
美嘉「くっ!」
美嘉『茄子さんの爆撃が邪魔で仕留めきれない! 周子ちゃんどっちか撃てない? 射線通ったでしょ』
周子『撃てるけど今はなんか撃ちたくないな~。スナイパーの勘ってやつ?』
美嘉『……どういう事?』
周子『ん? ん~……。ごめん、あたし感覚派だから説明しろって言われるとよく分かんないや』
美嘉『……ん! オッケー、その分後で仕事してよね!』
周子の適当な説明に美嘉は腑に落ちない様子。だが、美嘉は周子の事をチームメイトとして心から信頼している。周子の言っている事は理解出来なかったが、周子なりの理由があるのだろうと自分を納得させた。
周子『ん』
奏『美嘉』
そこに、奏が助け舟を出した。
美嘉『!』
奏『鷹富士隊視点では周子以外のスナイパーが出尽くしてる点、フレデリカ達の戦闘に周子らしきスナイパーが介入しなかった点を踏まえると周子は鷹富士隊を狙ってると考えるはずよ。スナイパーをスナイパーで抑えるのは基本戦術の一つだもの』
志希『その上でわざわざ向こうから射線を通して来たって事は、クラリスさんを囮に周子ちゃんを釣り出したいのかも~。鷹富士隊的には美嘉ちゃんと周子ちゃんさえどうにかすればあっちの戦場を横から撃ち放題だし。でしょ、周子ちゃん?』
周子『あ、言われてみればそんな事考えてたかも』
美嘉『そっか、位置がバレてない有利を大事にして初撃で決めたいって事ね。オッケー、納得した。んじゃアタシは引き気味の立ち回りでいいんだね』
志希『そそ。ま、鷹富士隊もこのまま膠着状態だとポイント差で負けちゃうからどっかで動いて来ると思うよ~。そこをシューコちゃんお得意のカウンタースナイプでもいーし、なんなら死なない程度に適当に相手してればフレちゃんが点差広げて勝ってくれるよ』
周子『なるほど。あたしは鷹富士隊に適当に嫌がらせしても美波ちゃんや心さんに遠くからチクチク撃っても仕事した事になる、楽で美味しいポジションな訳ね』
奏『こっちは大忙しよ。羨ましいわ』
美嘉『こっちもだよ! 茄子さんのメテオラマジで外れないんだから』
周子『はいはいふぁいとー』
美嘉『もーっ!』
話が一区切り着いた所で、奏は周子に個人で通信を繋いだ。
奏『周子。あなた説明面倒だから省いたでしょ。あまり美嘉の信頼に甘えちゃダメよ』
周子『そこはほら、奏ちゃんや志希ちゃんへの信頼に甘える事でバランス取ってるからさ~』
奏『……あなたって人は。本当、悪い女誑しね』
クラリス「(茄子ちゃんのお陰で倒されはしないけど、美嘉さんの弾幕と立ち回りが硬くて脱出出来ない……!)」
美嘉「(じゃ、ちょっと揺さぶろうかな。今のお互いの状況は……)」
周子の意図を理解した美嘉は自分1人で出来る事がないかと思案し、実行に移した。
美嘉「今っ!」ジャキ
クラリス「(……? どこに銃口を向けて……っ!?)」
ドォン! ドォン!
美嘉の放った無分割メテオラがビルの真ん中辺りに直撃し、その上が崩落し始めた。
クラリス「まさか!?」
美嘉が壊したのは、とあるタワーマンションと茄子を結ぶ直線上に位置していたビルだ。
まるで「射線を通した」ような行動。
茄子「っ!」バッ
たまらず回避行動を取る茄子。
茄子「……!?」
しかし、タワーマンションに周子はいなかった。
美嘉「(爆撃が止んだ!)」ダッ!
すかさずクラリスへと疾走する美嘉。
クラリス「」ダンッ!
しかしクラリスも黙って美嘉に落とされる女ではない。走りながらのスコープを覗かない車越しの狙撃は正確に美嘉へと飛んで行ったが、美嘉のエスクードに阻まれる。
クラリスは美嘉が顔を出した瞬間撃ち抜けるよう構えたが、美嘉はエスクードから出てこなかった。
クラリス「(……? 動かな──)」
キラッ
クラリスが訝しんだ瞬間、左目の端で光を捉えた。
クラリス「横からっ!? 避け──」ドッ
クラリスは右に躱そうとしたが、先程まではなかったはずの壁に阻まれた。
クラリス「(エスクード!? いつの間に……!)」
美嘉「終わりだよ、クラリスさん」ガチャ!
クラリスは美嘉のアステロイドに貫かれ、蜂の巣にされた。
『トリオン体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
志希『ひゅー』
周子『やっるぅ♪』
奏『あら、引き気味に立ち回るんじゃなかったの?』クス
美嘉『倒されるリスクを抑えながら立ち回るのが「引き気味に」でしょ★ どっか危なっかしかった?』キメッ
奏『……ふふっ。いいえ、全く』
フレデリカ『わぁおカッコイー! さっすがカリスマギャル!』
余談ではあるが、速水隊の特徴として戦闘中の雑談が多い事が挙げられる。
一見無駄で不真面目なようだが、これにより戦闘行為中での並列処理能力・思考力が鍛えられると共に、常に熱くなり過ぎず余裕を持った立ち回りが可能になる。
またどんな状況でも冷静な精神状態をキープし、任務時においても迅速な報告・情報伝達が出来るのだ。
更にチーム内のコミュニケーションを増やす事で、チームワークの向上や戦術思考の相互理解にも繋がっている。それにより、ランク戦での流れるような連携が可能なのだ。
……というふうに、以前美城司令に「お前達は内部通信すらやかましいのか」と叱られた時に言い訳をしていた奏であった。
──鷹富士隊作戦室──
クラリス「きゃっ」ドサッ
亜里沙「クラリスちゃん、お疲れ様。冷蔵庫に肉まんあるけど食べる?」
クラリス「……いただきますわ」
茄子『あ、クラリスさん!私の分の肉まん残しといて下さいね! 清良さんの分は食べていいですから!』
清良『茄子ちゃん?』
クラリス「……♪」ワクワク
チーン!
クラリス「あひゅい! はふはふっ」
ありす『城ヶ崎隊員、エスクードに隠れて視線を切りクラリス隊員に近い位置の車の陰にテレポーターで瞬間移動、そのままクラリス隊員を撃破しました!』
茜「素晴らしいですね!!! 見事なカウンターです!! 車だらけの状況を上手く使って、相手の意識をズラしてのアステロイド!! 更に逃げ道を塞ぐエスクード!! いやー抜かりない!!お見事です!!!」
真奈美『あのビル破壊は良い手だ。「塩見隊員の位置が分からないが確実に近くにいる」という鷹富士隊が握る情報を最大限に利用してきたな。これが『塩見隊員の位置が分からない』ではダメだった
。流石城ヶ崎隊員、視野が広い』
ありす『塩見隊員の位置が分からないからこそ、鷹富士隊長はタワーマンションからの狙撃を警戒せざるを得なかった。潜伏状態の味方スナイパーまで利用するとは……驚きました』
茜「美嘉ちゃんは視野が広く機転も利いて、安全策も型破りな策もなんでもこなせる万能型ですね!! いるだけで速水隊というチームの安定感がぐっと増している感じがします!!!」
ありす『こほん! さて、ここでポイントを整理しましょう。モニターをご覧下さい』
片桐隊 2pt (一ノ瀬志希 大槻唯)
速水隊 2pt (及川雫 クラリス)
鷹富士隊 1pt (片桐早苗)
新田隊 0pt ()
─────────────────────
生存者
片桐隊 佐藤心
速水隊 宮本フレデリカ 塩見周子 城ヶ崎美嘉
鷹富士隊 鷹富士茄子 柳清良
新田隊 新田美波 相葉夕美 鷺沢文香
茜「片桐隊と速水隊が並んでますが、生存者の差で速水隊がかなり有利ですね!!」
真奈美『この試合、一ノ瀬隊員の活躍もあって序盤の流れが片桐隊にとって完全に向かい風だったからな。しかし、まだどの隊にも勝機はある。チームの地力と隊長達の采配が試される場面だ』
フレデリカ『ねーねーシューコちゃん、今アタシの方に射線通る?』
周子『電波塔の上の方にいるから割とどこでも通るよ~。1番高い建物だから全員の上取ってるし。建物内部とかには壁抜きしない限り無理だけど』
フレデリカ『りょーかい! じゃあもう少ししたら援護お願いするかも! 骨は拾ってね♪』
周子『いや死ぬ前に助け求めんかい。いつでもええよー』
フレデリカ『らびゅー♪ んっちゅ!』
志希『んルルルァビュー♪』
周子『巻舌』
フレデリカ『タン塩☆』
志希『たんしおみ~』
周子『うっさいあほ』
美嘉『緊張感っ!』
奏『ムダよ』
美嘉『……でも大丈夫? 周子ちゃんの位置バラしちゃって』
周子『まーいいんじゃない? あたし的には美嘉ちゃんがクラリスさん落とした時点でしばらく鷹富士隊には手を出すつもりなかったし。要所での美嘉ちゃんアシストの為の潜伏だったから』
フレデリカ『だいじょぶだいじょぶ♪ シューコちゃんが取る予定だったポイントは──』
『アタシが取るから♪』
考案した策を内部通信に乗せて飛ばしながら、フレデリカは新田隊や心と激闘を繰り広げていた。
フレデリカは志希の作ったスパイダー地帯を中心に立ち回り、様子を見つつ新田隊や心を上手くいなしていた。トリオンを温存しつつ、機を見て鋭く反撃する事でジリジリと敵のトリオンを削っていった。
しかし両者ともそれを黙って受け入れる程甘くはない。心や夕美がスパイダーを少しずつ切断し、段々とフレデリカが不利な状況に傾きつつあった。
新田隊も心も、お互いにフレデリカを倒してからお互いを相手した方が分がいいと判断したのだろう。フレデリカは集中的に攻撃されていた。
更に先程から手が空いた茄子がこちら側の戦場に爆撃を仕掛けて場は大荒れ、混乱状態に発展していた。
心「(フレちゃん以外から適当に点取って逃げ切りも考えたけど、点差的にも物理的にもフレちゃんから逃げ切るの無理ぽいよなー。新田隊まだ0点だし、最悪フレちゃん向こうに取られても痛くないからその後で新田隊やるか。てか1人まじキッツ☆)」
紗南『心さんごめん! 難しい事は言わないからスナイパーの狙撃は全部避けてそこにいる敵全員倒して!』
心『おい無茶言ってんぞ☆』
早苗『心ちゃんなら大丈夫よ! そうだ、もし後2点取ってくれたら今夜の飲み会はあたしのオゴりよ!』
心『やってやんよちくしょうめ☆』
紗南『あ、大人だけズルい!』
夕美「(倒し切れない……! 茄子さんのメテオラで場が荒れてる今がチャンスなのに!)」
美波「(もう少し……)」
皆が爆撃を凌ぐ為に防御寄りの立ち回りになる中、最初に動いたのはフレデリカだった。
フレデリカ『周子ちゃんお願い♪』
周子『はいよー』ダンッ ダンッ
夕美「! 周子ちゃん?」サッ
心「そこか☆」ガキン
やはり遠距離からの狙撃、10000pt越えの強者たる2人には反応されてしまう。
フレデリカ「あでゅー♪」ギュン
「「「!!」」」
当然そんな事は想定内。周子が敵の動きを止めた一瞬のスキを突き、その場から離脱した。
心「マジかよ! 真奈美ちゃんから逃げ切ったフレちゃんどーやって捕まえんのさ」
美波「(フレちゃんが逃げた方向は……鷹富士隊がいると思われる方向! さっき向こうで誰かがベイルアウトしたから戦闘があったと考えるべき。つまり美嘉ちゃんと合流が目的!? いけない!)」
美波は誰かがベイルアウトした地点にフレデリカが合流しようとしている事から、やられたのは清良かクラリスと推測。周子の位置は今確認出来たので、美嘉の位置も特定した。
美波「(美嘉ちゃんと合流されたらほぼ負けが確定しちゃう……!)」
心、美波、夕美、文香が一斉にフレデリカを狙い撃つ。
フレデリカ「準備おっけー♪」キィン フッ
疾走するフレデリカ。トリオン弾の群れが彼女に直撃する寸前、グラスホッパーを前方数十メートルの位置に設置してからテレポーターを起動し回避。
フレデリカ「」パッ
瞬間移動先ドンピシャの位置に設置していたグラスホッパーを踏み横飛び、直角に方向転換した。
心「お、勘当たった☆」
心だけはフレデリカの逃走経路を直感で読み切り、最短距離で追い詰めていた。
この試合がA級ランク戦の初戦である新田隊と、何度も戦いお互いをよく知る心との経験の差だ。
ドゴォ!
フレデリカ「きゃっ!?」
更に茄子のメテオラが運良くフレデリカの行く先数メートルに着弾、フレデリカは雪で地面が滑りやすくなった影響もあって大きく体勢を崩し、地面を転がった。
心「旋空ぅ」バッ
当然そんなチャンスを見逃す心ではない。軽く飛び上がり、旋空弧月の構えをとる。フレデリカは転がりながら孤月を地面に突き刺し、棒高跳びのようにして体勢を立て直した。
パッ
フレデリカ「(ありゃ、避けられない──)」
更に心が先程までいた位置からアステロイドがフレデリカに殺到する。
心「孤月☆」
更に心が先程までいた位置からアステロイドがフレデリカに殺到する。
心「孤月☆」
心は飛び上がる直前、背後に隠していた27分割のアステロイドを時間差で発射するよう設定していた。
飛び上がる事で視線を上に誘導し地上に置いてきたアステロイドをバレにくくさせ、もし気付かれても今度は2方向を警戒させる事で注意を散漫にさせる二段構えの戦術だ。
達人であるフレデリカは当然アステロイドに気付いた。だからこそ一瞬隙が出来た。
テレポーターは連続使用制限(インターバル)がある為、今は使えない。
躱せない。
心「隙ってのは窺うんじゃない、作るんだよ☆」ギラッ
獰猛な笑み。心もまた早苗の薫陶を受けた1人だ。
フレデリカ「やっ!」キィン
それに対し、フレデリカは両手でシールドを起動。
1枚はアステロイドを防ぐ為に自らの正面へ。シールドの面積を広げ、確実にダメージを抑える狙いだ。
そしてもう1枚は「長方形にして右側を手前に傾け」、心との直線上に設置。
心「(1枚シールドじゃ旋空は防げねーぞ☆)」ヒュッ
フレデリカ「きゃ!」ズカッ
心の思った通り旋空弧月はシールドを叩き割り、フレデリカの右腕を切り飛ばした。
──「右腕だけ」を。
心「……ズラされたかぁ」
アステロイドはノールックで撃ったせいか弾の収束が甘く、難なくシールドに防がれた。
フレデリカ「やーいへたっぴ~」パッ
心「うっせ、コレ(アステロイド)はスタアメーカー乗っける用と牽制用だっての! はぁとは孤月1本でメシ食ってくスタイルだぞ☆」キャピ
紗南『それはいいけど、魅せプ狙うなら練習しなよ』
早苗『あんたねー、これ若い子達に見られてんのよ? 記録にもしっかり残るし』
雫『ふふ、いいじゃないですかー。さっきのかっこよかったですよ? 「隙ってのは窺うんじゃない、作るんだよ☆」って。私も言ってみたいですー』ニコッ
心『……やめてぇ』カアァ
ここでテレポーターのインターバルが終了、フレデリカは心の有効射程から脱出した。
そう、長方形のシールドは最初から防ぐ事ではなく旋空弧月の軌道を僅かにずらす事が目的だった。
心はフレデリカがグラスホッパーで空中に回避する事を読み横薙ぎではなく縦に旋空弧月を放ったが、それも読んでいたフレデリカは何とか利き腕である左を守る事に尽力したのだ。
窮地を脱したフレデリカは、オフィスビルの入口のガラスと回転扉を斬り飛ばした。
夕美「くっ……!」
美波「夕美ちゃん、バックワームを」ビュウン
夕美「……うん」ビュウン
フレデリカには追いつけないと悟った美波は、次に備えてバックワームを起動した。
オフィスビルの内部に侵入したフレデリカはそのまま正面の3つあるエレベーターの真ん中の扉を切り刻み中の空間へと侵入、グラスホッパーで上層階へと上がる。
心もフレデリカの開けた穴に飛び込むが──
フレデリカ「下に参りまーす♪ 地中海行きだよー☆」ブチッ
心「げ、旋空間に合わ──」
ドガシャアァン!!
心「ぶへぇ」
フレデリカが空中で真ん中のエレベーターの「箱」を吊り下げているワイヤーを切断し落下させ、心を押し潰した。
心「死ぬかと思っ」
トリオン体である為当然無傷だが──
美波「今よ!」
夕美「うんっ!」
心「ちょ」
追い付いた美波と夕美の連携挟撃。
中途半端にフレデリカを追い詰めた事が仇となったようだ。
『トリオン供給器官破損 緊急脱出(ベイルアウト)』
──速水隊作戦室──
志希「観戦ルーム用の映像見てたけど、はぁとさん潰された時のポーズが轢かれたカエルみたいなガニ股だったよー! んでそのままベイルアウトしてった! きっと作戦室でもあのカッコだよ! ニャハハハハハ」
奏「コラ、笑わないの……」プルプル
フレデリカ『わお! 後で対戦ログ見返してみよ♪』
──観戦ルーム──
ありす『……日野隊員、一言お願いします』
茜「女の子なのにあんな恥ずかしいポーズを大勢に見られちゃうなんて可哀想だなと思いました!!!」
ありす『ありがとうございました』
──片桐隊作戦室──
心「」ドサッ ←ガニ股
心「……」スッ…
早苗「……今夜オゴるわ」ポン
心「あい……」グスン
フレデリカは適当な階でエレベーター空間から飛び出してオフィスフロアに入り窓ガラスを孤月で粉砕、そのまま一気に美波達の射程外へと脱出した。
美波達はフレデリカを見失った。
フレデリカ『シューコちゃん、さっきので分かった?』
周子『うん、見とくね』
周子との謎のやり取りの後、フレデリカはバックワームを起動しレーダー上から姿を消した。
──電波塔/展望台──
周子「」ダンッ ダンッ
少し遡り、周子が狙撃した直後。
清良「」ダンッ
電波塔の外壁と周子のいる展望台フロアの床をぶち抜く清良の鋭い壁2枚抜きスナイプが、まっすぐ周子へと飛んで行く。
ギィン!
周子「おーこわ」
それを予測していた周子は、二重コの字型に設置し自身をガードしていたエスクードで狙撃を防いだ。
それがなければ、今頃周子の胸には大穴が空いていただろう。
しかしスコープを覗き込んだ周子は、すぐ背後で鳴った死神の足音とも言える弾着音を聞いても眉一つ動かさなかった。
ギャァン!
先程と寸分違わぬ位置。初撃で電波塔に空けた穴を「通って」来た二撃目が全く同じ位置に再び直撃、1枚目のエスクードを破壊して2枚目に着弾した。
しかし周子は仕事を任された以上、集中は乱さない。
周子「よっ」ダンッ!
お返しとばかりに2枚目のエスクードの上から腕をぶら下げて、清良が空けた穴を周子も同様に通した超人的カウンタースナイプ。背を向けていた為清良の位置が目視出来ずとも、同じ穴を寸分違わず通せばその先にいる清良へと弾が向かうのは道理である。
しかし、清良はベイルアウトせず。当然見切り躱していた。
追加攻撃はない。狙撃位置を変えたのだろう。
周子「ふー、これでしばらくは安全だね。あっごめんフレちゃん、ちょい清良さんとイチャついてた」
負傷したフレデリカに援護出来なかった事を詫びて、しばらくたった後。
先程の内部通信が入った。
フレデリカ『シューコちゃん、今ので分かった?』
周子『うん、見とくね』
これで一段落。後はフレデリカを美嘉と合流させるだけ。
周子「はー、スナイパーは楽でいいね」
周子はマイペースだ。
美波『私達も向こうへ移動しましょう!』
夕美『了解!』
美波『愛梨ちゃん、射線が通りにくいルートを選定して!』
愛梨『はぁい』
文香『了か……きゃっ!?』
周囲に誰も居ないはずの文香の悲鳴。
美波『文香ちゃん!? 状況の報告を!』
さっきの謎のやり取り。フレデリカが周子に「見ていて」と頼んだのは──
文香『フレデリカさんがこちらに……! 私も移動しようとした所を見つかってっあっ、私の事は構わず、先に──』ザシュッ
──逃げるフレデリカを狙撃した文香の位置だ。
『伝達系切断 緊急脱出(ベイルアウト)』
鷺沢文香、呆気ない幕切れ。
心を譲った分はキッチリ取り返したと言わんばかりのフレデリカの強気の攻め。
寄られれば弱い、それがスナイパー。
美波「……っ!」グッ…
夕美「行こう! 美波ちゃん!」
美波「ええ!」
周子『フレちゃんないすー』
フレデリカ『おっ、よく分かったねシューコちゃん! フレちゃんこう見えてゴハン派なの!』
周子『はいはいライスね』
志希『あたしパン派だよー。サクッと片手で食べられるし~』
フレデリカ『わぁお、シキちゃんフレちゃんよりおフランス~♪』
志希『フランスパンは端っこ固ったいしあんま好きじゃなーい』
フレデリカ『分かる~☆』
周子『えー、焼きたては端っこもパリもちで美味しいよ?』
フレデリカ『あ、シューコちゃんパリ名物のパリもちを知ってるとはオメガ高い! あれおいしーよね♪』
志希『何それ? どんな奴?』
フレデリカ『知らなーい☆ ところでパリってどこの国の県庁所在地だっけ?』
美嘉『………………(頭痛)』
奏「(方針間違えたかしら……)」ハァ
ありす『あーっ! フレデリカさんが文香さんを撃破! 不意打ちなんてズルいです! 上手いですけど! ここで速水隊、トップに躍り出ました!』グヌヌ…
真奈美『流石だな。一旦城ヶ崎隊員の方向へ向かい、自分が逃げたと見せかける事で新田隊を動かし、鷺沢隊員を誘き出しつつ新田隊長と相葉隊員の思考を「宮本隊員を追いかける」という方向に誘導した』
茜「走っているスナイパーはアタッカーにとっては格好の的ですからね!」
ありす『……狡猾なあの人達の事ですから、潜伏していた塩見隊員に撃たせて離脱の手助けをして貰うと同時に、消去法で城ヶ崎隊員の位置を敢えて新田隊に教える事で速水隊合流の危険性をより強く意識させた、という狙いもありそうです』
真奈美『せっかく追い詰めた「強い宮本隊員」を逃がしてしまうという焦燥。己より戦闘力が高い者への対処は緊張を生み、余裕を失わせる。これを克服するのは難しい』
真奈美『そこに舞い降りた佐藤隊員撃破という一時の安堵。そこに虚を突く鷺沢隊員への回り込み。思考誘導が上手い』
茜「うーん……! 私なら直線経路で文香さんに全力で突撃していたと思います!! ユッコちゃんと一緒に!!!」
飛鳥「まず相対している美波さん達を倒す以外の選択肢が無いんじゃないかな」
みく「みくもそう思うにゃ」
藍子「もう、そんなはっきり言わなくたって……。それが茜ちゃんの本能なんですから仕方ないじゃないですかっ」プンプン
比奈「いや本能って」
菜々「アハハ……」
ありす『……しかし、宮本隊員はなぜわざわざ脱出を? 認めたくはありませんが、あの人の強さならあの状況でも何とか出来たと思うんですけど……』
真奈美『それについては、大まかに理由は2つあると私は考えている。まず1つは不確定要素の多さ。スナイパーである鷺沢隊員の存在、集中攻撃を受けていて多対一である、かつ三つ巴という混戦状態。更に鷹富士隊長の爆撃だ。「運要素」が強く絡むこの状況、何かの拍子に落とされてもおかしくはない』
ありす『なるほど。確かに、攻撃が当たれば倒せるのがトリガー使いの戦闘ですからね。戦闘に関しては素人の私でも、トリオン体に換装して起動した孤月が相手に当たりさえすれば、例え相手が総合1位の木場隊長であっても倒せてしまいますから』
真奈美『その通りだ。そして2つ目は「点取りエース」としての思考』
茜「……!!」ハッ
真奈美『宮本隊員は自らの生存が味方にとって戦略的・精神的余裕をもたらし、相手にとってはその逆となって襲いかかる事を理解している。現に佐藤隊員は相当立ち回りに余裕がなかっただろう? 片桐隊長が生きていれば、彼女は宮本隊員に対してあそこまで深く踏み込まなかった。それがエースとしての心構えだ』
茜「それが、エース……」
真奈美『そうだ。宮本隊員は奇抜な策を編み出す思考を持ちながら、時には慎重な安全策を選べるクレバーさも持ち合わせている。彼女を評価する際には戦闘能力に目が行きがちだが、こういった思考回路を有している事も無視出来ない。A級ランク戦において、「ただ強いだけ」の者はすぐ壁に直面するだろうな』
茜「むむむ……?!」
菜々「茜ちゃん、何やら考え込んでますね」
藍子「茜ちゃん……」
みく「……藍子チャン、気持ちは分かるけど」
藍子「知恵熱が出ないといいんですけど……」
みく「そこかい」
──新田隊作戦室──
文香「きゃっ」ドサッ
愛梨「文香ちゃん、おかえりなさ~い♪」
唯「おっつー☆ オレンジジュースのむ?」スッ
文香「はい、いただきます……」ニコ
唯「どうだった? 初めてのA級ランク戦!」
文香「チュー……ぷは。はい、とても緊張致しました……」
唯「あ、ゆいもゆいもー! 早苗さんチョー怖かったー!」
夕美『文香ちゃんお疲れ!』
美波『お疲れ文香ちゃん。唯ちゃんもだけど、十分な働きだったわ』
文香「そうですか……。しかし、こう言っては何ですが」
文香「落ちてしまったのが私で良かったです」ニコ…
その時、新田隊を除くマップにいる全員が一瞬空を見上げ、あるいはモニターに目を釘付けにされた。
茄子「わっ! これって……!」
清良「……屋内戦ですか」
亜里沙『これは……かなり苦しい展開ですね』
フレデリカ「わぁお♪ 美波ちゃんってば分かってる~♪」
周子「……うげー、外出たくないなー。出るけどさ」
美嘉「っく、前が見えない……!」
奏『……合流地点を変更するわ。いい? まずは
──』
猛吹雪だ。
美波「思ったより試合展開が早かった……。けどやるしかない! 行くよ、夕美ちゃん!」
夕美「うんっ!」
仮想空間に残る全員が、バックワームを起動した。
周子「さてと」
外は数メートル先も見えない程の猛吹雪。
周子「ここにいても役に立てないし、行きますか……っと!」
周子はメテオラで電波塔の外壁を破壊した。暴風が起こす轟音と共に、強い吹雪が中へと吹き込んでくる。
周子「よっと」ピョン
すぐ下すら見えない視界の中、周子は地上数百メートルの高さから紐無しバンジーを敢行した。
undefined
ありす『「天候変化」です! なんと新田隊長、天候設定を「雪」にしただけでなく、時間経過により豪雪吹き荒ぶ猛吹雪に変化するよう設定! これにより視界が悪化、生存するスナイパー達がほぼ機能停止してしまいました!!』
茜「おおおっ、吹雪ですか!! 向かい風の方向に全力ダッシュしたあの冬の日を思い出します!!! いやー、あれはいいトレーニングでした!!」
ありす『そして天候の変化とほぼ同時に、全員がバックワームを起動しました! 日野隊員、これはどういった狙いでしょうか?』
茜「これだけ視界が悪いと、敵を見つけるのがレーダー頼りになってしまいますからね! これではバックワームを着けたほぼ発見が出来ないような敵に一方的に攻撃されてしまうので、そうならない為だと思います!!」
真奈美『これは……珍しい手だな。しかし理にかなっている。いや、これは面白いな……』
ありす『前シーズン、前々シーズンの全試合を通しても、「天候変化」設定が使われた記録はありませんでした。木場隊長、この狙いはスナイパー封じでしょうか? しかしなぜ今……?』
真奈美『おそらく、試合の流れをシミュレーションし展開の推移を予測した結果だろう』
ありす『……というと? えっと、まずは対戦の序盤から流れについて解説をお願いします』
真奈美『承った。だが序盤の前に、まずマップ選択の所から解説していこうか』
ありす『そこからですか……? わ、分かりました』
真奈美『この「都心A」というマップはどういう特徴があるか覚えているか、日野隊員』
茜「アタッカー有利です!!」
真奈美『その通り。背の高い建造物や車などの遮蔽物が多く射線が通りにくい為、小回りが利くアタッカーが基本的に有利なマップだ』
真奈美『私も当初、少し疑問を抱いていた。作戦としてナシではないが、片桐隊長や宮本隊員といった強力なアタッカーがいる今回のマッチングでなぜこの選択なのか、と。しかし今納得が行ったよ』
ありす『ど、どういう事でしょうか?』
真奈美『片桐隊長と宮本隊員。ただでさえ強い彼女達が更に強くなるマップを選ぶ事で序盤から彼女達の警戒度を一気に引き上げ、ヘイトを集中させる狙いだったんだ』
ありす『確かに試合の最初からずっと特に派手に暴れた訳でもない片桐隊長にヘイトが集中し、ベイルアウトしてしまっていましたね。それでも2ポイント取ってますけど』
真奈美『それに加えて、常に全ての隊から警戒されている及川隊員と鷹富士隊長もいる。だが試合前時点での新田隊のA級上位チームから見ての印象は、「連携は一級品だが、個としては最近実力を伸ばして来た相葉隊員のみ一応警戒」程度だった』
みく「いやそれはおかしいにゃ。B級ランク戦で新田隊とやった時も美波チャンも唯チャンも文香チャンもすっごく強かったもん。みく達もよくタイマンで負かされてたにゃ」
飛鳥「夕美さん以外もしっかりマスタークラス(8000Pt↑)だからね。総合ランキング上位に名を連ねる猛者達にとっては物足りないのかもしれないが」
比奈「アハハ、別に美波ちゃん達を侮ってる訳じゃないっスよ。ポイントも7000もあればどこの隊に行ってもちゃんと戦力になる優秀な隊員っス。けどA級ランク戦ともなるとマスタークラスくらいはザラにいるんで、いちいち警戒してもキリがないってだけのハナシっスよ」
藍子「そ、それはそれでなんというか……。すごい話ですね」
undefined
ありす『新田隊はその厄介な隊員達の影に隠れて狙われる事を避けつつ、敢えて敵アタッカーを強化する事で他の隊も利用して2人の強力なアタッカーを倒そうとした、という事ですね』
真奈美『その通り。だが、私の考えが正しければ新田隊長はこうも考えただろう。「及川隊員や鷹富士隊長の処理が長引けば、いずれマップを平らにしてしまうのでは?」とな。そうすると射線が通りやすくなり、柳隊員、及川隊員、塩見隊員といった各隊の強力なスナイパーが台頭し勢力図が一変する。だからこその天候変化だ』
茜「おお、真奈美さんが試合の前に言っていた事ですね!!」
ありす『なるほど……! アタッカーが有利で不利なスナイパーは潜伏しがちな序盤はアタッカーをわざと有利にさせて他の隊と協力して囲い潰し、その後に地形を変えて強引にスナイパーの射線を通そうとする片桐隊と鷹富士隊を吹雪で封殺する狙いだったんですね!』
茜「マップで対策出来るのは1種類のポジション、という常識を覆す一手ですね!!!」
真奈美『それに吹雪を嫌って屋内に逃げたとしても、結局スナイパー不利アタッカー有利な事には変わりないからな』
ありす『……つまり新田隊の狙いは、序盤はマップの特性でアタッカーにヘイトを集中させて片桐隊長と宮本隊員を倒す。そしてもし後半マップが鷹富士隊長や及川隊員の手によって変えられたとしても、吹雪のお陰でスナイパーは怖くない……』
真奈美『それにこのマップは鷹富士隊不利だからな。序盤は潜伏すると読んだのだろう。なら後々鷹富士隊が出てきても怖くないように吹雪に設定するのは理にかなっている』
真奈美『更に新田隊は「他の厄介な者達程はヘイトを集めない」近・中距離両対応のオールラウンダーが3人もいる。雪原迷彩も相まって、序盤から終盤にかけてずっとバトルフィールドが新田隊に有利に働いてくれる訳だ。自分達の能力、そして敵から戦力的にどう見えているかをきちんと理解している』
真奈美『今の状況は新田隊にとって全く予測通りとまではいかないだろうが、勝ち目はまだ残っているし決して悪い状況でもない。想定の範囲内ではあるだろう』
ありす『美波さん、凄いです……!』キラキラキラ
真奈美『一見奇抜な作戦のように見えるが、これはマップ戦略の基本を極めた先、地続きにあるものだ。しっかり地に足がついたいい作戦だ──』
ありす『わぁ……!』
真奈美『──新田隊長の望んだ通りに片桐隊長と宮本隊員が倒された「理想の展開」ならな』
ありす『……!』ハッ
真奈美『宮本隊員が生きている時点で、作戦には大きな歪みが生まれているだろう。新田隊長も今頃そこをどうするか頭を捻っているはずだ。彼女をどう処理するかが勝敗の分水嶺だ』
現在のスコア 倒した相手
片桐隊 2pt (一ノ瀬志希 大槻唯)
速水隊 3pt (及川雫 クラリス 文香)
鷹富士隊 1pt (片桐早苗)
新田隊 1pt (佐藤心)
今日はここまで。
四つ巴の戦いを頭脳戦っぽくそれぞれを活躍させながら描くのがしんどすぎて途中心が折れそうでした
解説がクドいこのssをここまで読んで下さってありがとうございます、最後まで頑張ります
フレデリカ「さてと♪」
マップの状況が変わり生存する全隊員が忙しなく動く中、1番最初に足を止めたのは速水隊。
美嘉「次の戦闘で多分ラストかな」
周子「あーもう隊服の中までびしょ濡れだよー」
合流が完了した。
志希『メテオラ設置かんりょー。周子ちゃんおつー』
周子『あいよー』
奏『解析完了。「大型家電量販店」の見取り図を転送するわね』
美嘉『ありがと、奏ちゃん!』
志希は得意分野である罠設置ポイントの指示とそのタグ付け、奏はマップ解析。
オペレーター経験者が作戦室に揃った際には、こういった分担も可能なのだ。
志希『あーあ、志希ちゃん生きてたらスパイダーでアレコレできたのににゃー……』
フレデリカ『ごめんねシキちゃん、アタシを守ってくれたせいで……。後でお尻ペンペンしていいから……美嘉ちゃんの』
美嘉「ちょっと、なんでアタシのお尻なの!? させないから!」
奏『ふふっ、贅沢言っても仕方ないわよ。それじゃ──』
ここは地上5階に地下2階、計7階層の「大型家電量販店」の3階。
所狭しと敷き詰められた商品棚は、極めて射線を通しづらい構造となっている。
奏『──籠城戦と行きましょうか』
フレデレカ・美嘉・周子は、同時にバックワームを「数秒」OFFにした。
ありす『これは……! 速水隊、一瞬レーダー上に姿を表した後、すぐにまたバックワームを起動しました! これはやはり……?』
茜「『こっちに攻めて来い!』という誘いですね!!」
真奈美『速水隊が生き残った他2隊に2点差でリードしている事から、新田隊と鷹富士隊は攻めざるを得ない。罠だと分かっていてもな。こうなってくると鷹富士隊はかなり苦しいぞ』
茜「すぐにバックワームを起動したので、待ち伏せによる奇襲も考えられます!!」
ありす『それなら、鷹富士隊長が外からメテオラで建物を破壊すれば良いのでは?』
真奈美『そんな事をしてもバックワームを付けたまま別の建物に逃げられるだけだし、鷹富士隊長のトリオンも無限ではない。彼女のトリオン量は相当なものだが、試合開始から既に相当撃っているし余裕はないだろう』
ありす『あ、そっか……』
真奈美『速水隊からすれば、点数でリードしている今別にこのまま時間切れでもいいんだからな。いずれにしろ建物には入らなければならないという訳だ』
真奈美『いずれにしろ、決着は近い』
美波「(大丈夫、ここまでは想定済み。屋内戦になる事を見越してある程度の大きな建物の内部構造を頭に叩き込んでおいてよかったわ)」
美波「次で決める! 行くよ、夕美ちゃん!」
夕美「うんっ!」
勤勉な美波は、この日に向け周到に準備していた。出来る事は全てやった。想定出来る事は全てシミュレーション済み。覚えておいた方がいい事は全て頭に叩き込んだ。
夕美「」ヒュカッ
美波達は入口からではなく2階の外壁を切り刻んで穴を開け、ジャンプして侵入した。
1階は恐らく罠や待ち伏せが想定される。美波が予想したのは1階入口近くにフレデリカや美嘉を置いて、1階奥か2階からスナイパーが援護する形の陣形。
そう予想した美波はまず周子を倒す事を考え、頭に叩き込んだ地形から考えてスナイパーが隠れそうなポイントからの侵入を図った。後衛から倒すのは戦闘における定石の1つだ。
しかし、実戦では当然のように想定外の事態が起こる。
美波「……!?」
夕美「これって……!」
店内は、爆破テロでも起きたかのように損壊していた。
商品のレイアウトはグチャグチャ。天井にも床にも大穴が空いており、外壁には雪が吹き込む風穴すらあった。
そう、速水隊が強引に内部構造を変えたのだ。
美波「……っ」
唯『そんな、せっかく皆で頑張って覚えたのに~!』
美波『多少構造を変えられたって大元は覚えた通りよ。大丈夫』
夕美「進もう、隊長さんっ」
穏やかに笑いかける夕美。
美波「ええ」
美波も同じ心持ちのようだ。
覚悟は決まった。不安も緊張ももうない。してもしょうがない。
後は全力を尽くすだけだ。
奇襲を警戒し、液晶テレビコーナーを慎重に進む2人。敵はすぐに見つかった。
周子「うひゃあ! そっから来るの!? やばっ」
夕美「予想的中っ!」
追う美波達。しかし、地の利は向こうにある。
周子「エスクード!」
周子はエスクードを広く積み上げるように縦に2つ、横に6列展開し、自身の姿を隠しながら美波達の行く手を阻んで迂回を強制した。
美波「火力集中で一点突破よ! 私の正面!」
夕美「了解っ!」
美波夕美「「はぁっ!!」」ギィン!
周子「息ピッタリやん! もうっ」
美波の孤月、夕美のスコーピオンの見事な連携でエスクードを破る様子を見た周子は、全く時間稼ぎにならなかった事に嘆息しながら逃走する。
周子「んもー今のトリオンめっちゃ消費したのに。よっ」タンッ
周子が突然ジャンプしたかと思うと、そのまま天井に吸い込まれて消えた。
美波「(消えた!? ……いや、天井の穴に飛び込んだのね!)」
夕美「(下じゃなくて上!? じゃあフレちゃん達も上にいるんだ!)」
早速変えられた地形を利用され、歯噛みする美波。2人は周子の後に続くように穴に飛び込んだ。
3階。そこは既に戦場だった。
アサルトライフルを持った茄子と美嘉がお互いにシールドを張りながら撃ち合い、清良は上層階から壁抜きショットを連発して茄子に接近しようとするフレデリカを牽制していたが、さすがにそれだけでは抑えきれずジワジワと茄子に接近しつつあった。
周子「鷹富士隊!? ごめん新田隊引っ張って来ちゃった!」
周子の反応を見るに、鷹富士隊もつい今しがた建物に入り戦闘を始めたという所であろう。
恐らく自隊のみの特攻では速水隊に手も足も出ないと判断した茄子が、自分達が突入するのを見届けてから突入しようと判断したのだと美波は予測した。
美波は、速水隊に狙いをつける。
美波「(速水隊さえ落とせば、後は屋内に押し込まれた鷹富士隊を倒して勝てる!)」
美嘉「周子ちゃん一旦逃げて!」
ドォォン! ドンッドォォン!
言いながら、美嘉は清良が居そうな所に当たりをつけ天井に向けてメテオラを連発。
清良「くっ」ガラガラッ
清良が落下してきた。
清良「」ガチャッ
フレデリカ「!」バッ
清良がイーグレットを構えたのを見たフレデリカは、すぐに遮蔽物に身を隠した。
美波はそこにアステロイドを放ちフレデリカを牽制、フレデリカがシールドを張ったのを確認した夕美は逃げる周子との距離を一気に詰める。
美嘉「カバー入……くっ!」バッ
周子のカバーに入ろうとした美嘉だったが、茄子のアステロイドが周子と美嘉を分断するように放たれ、美嘉はそれをジャンプで飛び越えようとしたが──。
すかさず目標を浮いた美嘉に切り替えた夕美が美嘉にスコーピオンで地上から切り付ける。
美嘉「シールド!」ギィン!
夕美「無駄だよっ!」ドンドンドンッ!
そのシールドに向かって、威力と弾速重視のハンドガンで3連撃。
バリィン!
美嘉「ごめん周子ちゃんっ! フレちゃん後に頼んだよ!」パキキ…
周子「やーこっちこそ。後でなんか奢るわ」
フレデリカ「アタシパフェがいい!」
『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
シールドを破壊され、見事に近距離からのヘッドショットを決められてリタイア。
夕美はそのまま周子を追う。しかし、美嘉に数秒足止めされた為間に合わない。
周子「よっ。フレちゃん倒しても生存点はあげないよー!」ガシャアン!
周子は体を丸めながら窓ガラスに勢いよく体当たりし、建物から脱出した。
フレデリカは茄子を一旦諦め、美波達に肉薄する。
美波「(わざわざ2対1でやってくれるなら好都合!)」
夕美「(茄子さんと清良さんの位置からの射線も切れてる! ここで決めるっ!)」
美波はフレデリカにアステロイドを放ち牽制。テレポーターで躱されるが、それを読んで先回りしていた夕美がスコーピオンを叩き込む。
フレデリカ「っ、位置取り上手いね」ガキン!
孤月で受け太刀をとるが、既に孤月を構えた美波が背後を取っていた。
美波「終わりよ!」ヒュッ
『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
美波「……え?」
落ちたのは、美波だ。
周子「はーい、しゅーこちゃんだよー」
周子は脱出などしていなかった。
ガラスを割り建物から飛び出した後バックワームを起動、すぐ真下に建物からエスクードを生やして着地。あとは階段のようにエスクードを生やして登り、飛び出てきた穴から顔を出して美波を狙撃したのだ。
当然フレデリカはそれを知っていた。だから美波達を茄子達からの射線が切れる所に誘導し、わざと美波に背を向け隙を見せた。
周子への信頼がなせる連携だ。
フレデリカ「はい、じゃあ夕美ちゃん倒して終わりね♪」
夕美「(まだ終わりじゃない! ここで周子ちゃんを倒してから鷹富士隊を巻き込んで乱戦に持ち込むっ!)」
周子「エスクード」
周子は先程のようにエスクードを2枚重ねて壁を作るように生やした。
夕美はそれを最短ルートをとって躱すが──。
周子「残念」ダンッ
カッ
夕美「っ!?」
ドォン!
周子は夕美が最短ルートをとれば必ず通るであろう位置に仕掛けた置きメテオラが来るようにエスクードの生やす位置を調整。反転し、落ち着いてメテオラを撃ち抜いた。
爆炎の中から光線が飛び出す。
「──それくらい」
光線は周子の胸を貫いた。
周子「……あちゃー」
夕美「読めてる!!」
夕美は攻撃するように見せかけ、フルガードで突っ込んでいた。
今試合、ここまで散々速水隊の面々に手玉に取られてきた夕美。
彼女は戦いの中で成長した。
『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
ここで周子が脱落。
夕美「まだまだ! 私1人でも、絶対に勝って見せる!!!」
この戦いで試合が決まる。夕美は己を奮い立たせた。
フレデリカ「亡きシューコちゃんのカタキ!」
清良「」ドンッ
夕美に斬り掛かるフレデリカだったが、伏せた清良の地面スレスレの一撃に左足首から下を吹っ飛ばされた。
片足、つまり機動力を大きく削がれた。
フレデリカ「おっとっと」
たまらず一旦距離を取るフレデリカ。
茄子「そこです!」
そこに茄子のアステロイドが殺到する。
フレデリカ「んっ、片足だと、しんどいねっ」タンッ タンッ
フレデリカ「いくよ?」
それを片足でうまく跳ねながら躱したフレデリカは、大量のグラスホッパーを様々な角度・位置に出現させた。
グラスホッパーとテレポーターを入れているフレデリカは、他のアタッカーに比べて片足を失った時の弱体化の幅が小さい。
これらのトリガーは勿論フレデリカの使う戦術上の都合もあるが、最後まで役に立てるようにというエースとしての意識の高さから入れているという理由もある。
フレデリカより上の実力者である真奈美、早苗はそもそも片足を落とす事すら極めて難しいのだ。
夕美「……!」
フレデリカ「今から夕美ちゃんを倒すね。覚悟は出来た?」
夕美「私はフレちゃんを倒す覚悟しかしてない! それ以外要らないっ!!」
──これが最後だ。
夕美「せいっ!」ガンッ! ドシャアァ
片足飛びで迫ってくるフレデリカと自分の間に、夕美は電子機器が陳列されているキャスター付きの商品棚を蹴り倒して商品を散乱させて足場を悪くした。
フレデリカ「!」
夕美「(こうすればフレちゃんは──)」
フレデリカ「」パッ!
夕美「(床に散らばったものをグラスホッパーで避けてから──)」
フレデリカ「」フッ
夕美「(追撃されないようにテレポーターで消えて、その先には──)」
フレデリカ「」パッ!
夕美「(最初に仕掛けたグラスホッパーで──)」
夕美「私の背中を狙ってくる!!」ドンッ ドンッ!
フレデリカ「……!」
夕美は全てを読み切った。高速で動くフレデリカを目で追い常に視界に収め、完璧にアステロイドを合わせた。
フレデリカの表情に余裕はなかった。
フレデリカ「旋空弧月っ!!」
夕美のアステロイドがフレデリカの右の脇腹を抉る。
夕美が放ったアステロイドは2発。その両方がフレデリカの頭と胸を正確に狙っていた。
フレデリカは既に攻撃モーションに入っていた。回避や防御は間に合わない。夕美のカウンターは完璧だった。
しかし、フレデリカは咄嗟に調整しヘッドショットになるはずだったアステロイドごと斬った。
もう1発は体を捻り、脇腹に逸らせたのだ。
夕美「……すごいなぁ」
ここまで読み切ってもまだ届かないのか、と。
夕美は総合3位との差を体で感じた。
フレデリカ「夕美ちゃんもスゴかったよ♪ お疲れさま!」ニコッ
夕美「……うん、ありがとっ」ニコ
2人のエースは、互いの健闘を讃えあった。
『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
フレデリカ『夕美ちゃん強かったねー! 後で褒めてあげなきゃ! ね、シキちゃん?』
志希『にゃはは、そだねー♪』
フレデリカ「さてとっ」
茄子と清良の姿はない。
奏『このままでもフレデリカは落ちるから、不利なステージで戦うよりは生存点を狙いに行ったんでしょうね』
フレデリカ「じゃあかくれんぼだね! フレちゃん絶対見つけちゃうよー!」
フレデリカが待つだけで向こうから来てくれた先程までとは状況が違う。今のフレデリカは右腕と左足首を失い、右の脇腹に穴を空けられている。
このままではトリオン切れでベイルアウト、自身の1点はトリオン漏れの最大の原因である右腕切断をもたらした心の属する片桐隊に入り、生存点は鷹富士隊に譲る事になる。
速水隊は既に5点取っており、片桐隊も鷹富士隊も2点なのでそうなっても負ける事はないだろう。
しかし、速水隊にそれで妥協する者は居ない。
フレデリカ『シキちゃんどこに逃げたか分かる?』
志希『鷹富士隊がこの建物に入って来た時の穴じゃない? この吹雪なら外に逃げたら勝ちでしょ。さっきの今だからそう遠くには行ってないよ』
フレデリカ『わかった!』
フレデリカはバックワームを起動した後グラスホッパーを駆使し、片足がない事を感じさせない程のスピードで穴から飛び出した。
フレデリカはバックワームを起動した後グラスホッパーを駆使し、片足がない事を感じさせない程のスピードで穴から飛び出した。
轟音が鼓膜を叩き、暴風と豪雪が全身に叩き付ける。
フレデリカ『足跡はっけーん!』
志希の予測は的中した。
奏『この雪でも流石にこの短時間じゃ消えないようね。予想される逃走ルートを表示するわ』
そして、フレデリカが数十メートルほど走った所で。
フレデリカ「……見つけた!」
茄子「えっ!? はや……!」
この視界が悪く轟音で隣の者が発する声も聞こえないような吹雪の中、フレデリカの接近に気付ける訳もなく。
フレデリカ「旋空弧月!」
茄子は真っ二つにされた。
例えば、とても幸運だが力は平凡な男がプロのボクサーと戦うとしよう。
もしそこが肉食獣がうろつくアフリカのサバンナなら、ライオンがプロの格闘家のみを襲うだろう。
しかし、そこが誰の邪魔も入らないリングの上なら。何がどう転ぼうと幸運な男がプロのボクサーに勝つ事は無い。
「運要素」ではどうにもならない状況だからだ。
小さな隕石が降ってきてボクサーだけに当たり男は奇跡的に無傷……という可能性もゼロではないが、それはもはや超常の力に値する。
「サイドエフェクト」は超常の力ではない。あくまでも人間の持つ力の延長線上。
「幸運」が無敵の能力ではないのは、茄子にとって幸か不幸か。
茄子『……清良さんっ!』
『トリオン器官損傷 緊急脱出(ベイルアウト)』
清良「」ドンッ
フレデリカ「……わぉ」
最初から茄子は囮だった。逃げ切れるならよし、見つかっても少し前を清良が走り、茄子が捕まった所でカウンタースナイプを決めればいい。
どう転んでも鷹富士隊に生存点が入る作戦だったようだ。
清良の存在は、茄子の「幸運」とは別の所。
清良は茄子の人柄に惹かれ、鷹富士隊に入ったのだ。
『戦闘体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)』
長い試合が終わった。
ありす『ここで試合終了! 鷹富士隊の柳隊員が最後に生存していた為、2点の生存点が入ります!』
ありす『最終スコア2対5対4対3! 速水隊の勝利です!』
最終スコア 内訳
片桐隊 2pt (志希 唯)
速水隊 5pt (雫 クラリス 文香 美波 夕美)
鷹富士隊 4pt (早苗 周子)+生存点
新田隊 3pt (心 美嘉 周子)
茜「片桐隊、速水隊、鷹富士隊、新田隊の皆さんお疲れ様でした!!!」
真奈美『建物内に入ってからはやはり展開が早かったな』
ありす『では、試合の振り返りを。まずは日野隊員、お願いします』
茜「ややっ、私ですか!! そうですねぇ、志希さんが早苗さんを徹底的に抑え、フレデリカさんが暴れて順当に速水隊が勝ったという感想です!!」
ありす『ありがとうございました。では木場隊長、お願いします』
真奈美『私も概ね同意見だ。ではまず片桐隊から講評していこうか』
真奈美『片桐隊は新田隊の戦略と速水隊の戦術にやられた、といった印象だ。新田隊のマップ選択によるヘイト誘導、一ノ瀬隊員の策を跳ね返せなかったな。開幕及川隊員が落とされたのは不運としか言えないが、片桐隊が搦手に比較的弱い事は確かだ』
ありす『私の個人的な印象では、策略という面では速水隊、川島隊が頭一つ抜けている感じがします。今回の試合で新田隊が3番手に着けました。私の中では、ですけど』
真奈美『ハハ、確かに私の隊は策略という感じではないしな。新田隊については後で話そう。しかし、今回の片桐隊長の生存力は凄まじかった。私が片桐隊長の立場であれば、一ノ瀬隊員を倒すまでに1回か2回は倒されてそうだ。ウチののあの援護が無ければな』
茜「私なら5回は死んでますね!!!」
ありす『圧倒的強者たる片桐隊を最下位に引きずり下ろし番狂わせを起こしたのは、新田隊の戦略と速水隊の戦術という訳ですね』
真奈美『続いて速水隊。言うまでもないが、今試合のMVPは一ノ瀬隊員だ。格上チームの要の1つである及川隊員を暗殺、新田隊のエースを揺さぶり、今試合最強の片桐隊長に致命傷を負わせ、窮地に陥った際には新田隊を巻き込んで切り返し、自隊のエースである宮本隊員を守り、自らが落ちた後もスパイダーで味方を支援した。120点どころではない。普通なら3人でこなす量の仕事を1人でこなした、300点の働きだ』
ありす『……一ノ瀬隊員は、ゲームで例えるなら「自分のパラメータを好きに振り分け出来る万能キャラクター」のようだと思いました。多様な作戦を考案し、「それに合った自分を構築して」色んな所に特化させる事が出来る……。その戦術も含めて、戦闘力以外の強さというものを目の当たりにしました』
真奈美『鷹富士隊は新田隊にかなり抑え込まれたな。マップが都心Aでなければ鷹富士隊長はもっと得点しやすかっただろうし、後半の吹雪がなければ他の3隊がぶつかっている所を横から一方的に撃てていただろう。城ヶ崎隊員と塩見隊員をどうにかすればな』
ありす『普段はもっと場の支配権を握っていますからね。鷹富士隊長がメテオラを撒き散らしてヘイトを集めまくるのに幸運とカメレオンのコンボ+スナイパー2人の援護があるので極めて倒しにくく、かといって放置すれば一方的に撃たれるだけですから』
真奈美『基本戦術が強力な分、それを封じられた時の弱さが出たな。それでも柳隊員は異次元の狙撃を見せてくれたが。あのマップで4点も取るのは驚嘆に値するよ。序盤の判断は正しかった。潜伏していたからこその生存点だ』
真奈美『最後に新田隊。彼女達はA級ランク戦初参戦ながら、素晴らしい戦いを見せてくれた。新田隊ならば我々に大きく引けを取る事はないだろう。正直ここまでやるとは思わなかったよ』
真奈美『しかし、やはり初戦ともあって新田隊長と相葉隊員は少し動きが固かったな。相葉隊員は一ノ瀬隊員の挑発に揺さぶられて合流が遅れた。新田隊長は目立ったミスはなかったものの、予期せぬ事態に直面した時にまず思考から入る癖がある。その点に関しては大槻隊員の動きが良かった。鷺沢隊員も、スナイパー不利なマップながら上手く位置取りをして戦力として腐る事なく活躍したな。そこは良かったと思う』
ありす『さすが文香さんです』ムフー
真奈美『作戦は良かった。ただA級隊員との戦闘の経験不足が散見されたな。相葉隊員はA級隊員と個人戦をしている所をよく見るが、他の2人ももう少し個人戦をしてみるのはどうだろう』
真奈美『先程も述べた通り、戦略・戦術面に関しては我々と遜色ない。足りないのは決定力、つまり個人の強さだ。もしあの時に片桐隊長を、宮本隊員を倒し切れていたら。そんな場面がいくつかあったはずだ』
真奈美『……さて、これで振り返りは終わりだ。初参戦というだけあって、新田隊は少し長くなってしまったな』フフ
ありす『ありがとうございました。これにてA級ランク戦・ROUND1は終了となります隊員の皆さん、お疲れ様でした』
茜「あまり解説出来ずに申し訳ありません!! ありがとうございました!」
真奈美『あぁ、ちょっと待ってくれ。美波、もし今の試合を復習したいなら木場隊の作戦室に来るといい。勤勉な君の事だ、あれだけの講評では足りないだろう。それでは失礼する』
ありす「あ、あの、真奈美さん!」
真奈美「ん? どうしたありす」
ありす「……私、ちゃんと出来てましたか?」
真奈美「あぁ、解説の話の振り方も上手かったよ。ありがとう」ナデ
ありす「……! は、はい!」ニコッ
茜「ありすちゃん! すみません、真奈美さんのように上手く話が出来なくて……! せっかくPさんに指名していただいたのに」
ありす「……いいえ。茜さんの解説も良かったと思います。茜さんのアタッカーとしての造詣の深さには驚きました」ニコ
茜「……! でも、私はまだ……」
茜「……」
茜「……真奈美さん!」
真奈美「うん? どうした茜」
茜「美波さんとの復習、もしやるなら私も参加していいですか!!?」
真奈美「もちろんだ。一緒に行こう」ニコ
茜「ありがとうございますッ!!!!!」グアッ!!
ありす「うるさいです」
飛鳥「さて、帰るか。奏さんに修行をつけて貰う約束だったしね」
みく「さーて、みく達も帰るにゃ! 前川隊も、美波チャン達に負けないように特訓にゃー!」
藍子「私は未央ちゃんと始末書を片付けて来ます」
菜々「な、ナナも手伝いましょうか?」
イエ、ナナサンニ メイワクヲ カケルワケニハ… イエイエ イインデスヨ!
比奈「……」スタスタ
比奈「……時子さん」ピタッ
時子「何よ」
比奈「もしもの時は頼りにしてるっスよ?」
時子「……フン。さっさと行きなさい」
法子「あは♪ 時子さん嬉しそう!」
仁奈「えー? でも時子さま、にこにこしてねーでやがりますよ? 嬉しい時はにーっ! って笑うでごぜーますよ! こーやって!」ニーッ
時子「……チッ」
──新田隊作戦室──
美波「……ふぅ。負けちゃったわね。課題も山積みかぁ」
唯「なにいってんの、3位だよ3位!」
文香「あの片桐隊に勝利したと考えれば、重畳の至りと言えましょう……」
夕美「うんっ! 私達、A級の人達とそんなに大きく離されてる訳じゃない! それにまだまだ足りない所だらけって事は、伸びしろたっぷりだよねっ!」
愛梨「そうですよ~、皆さんすごかったです! 私興奮して暑くなっちゃいましたもん~」
美波「……そうよね。今回は少し緊張しちゃったけど、次は必ず速水隊に……」
奏「あら、私達に……何ですって?」
フレデリカ「はぁい♪ 皆お疲れさま~♪」
周子「おっつーん、皆強くなってたねー」
志希「ね、ねぇあたしそろそろラボに戻らなきゃ……干してた白衣取り込んでなかったからさー」ダラダラ
美嘉「はいはいバレバレの嘘つかなくていいから!」
美波「! 奏さん! 速水隊の皆も!」
奏「お疲れ様。ちょっとお話がしたくて」
夕美「あ、志希ちゃん!」
志希「ぎくー!」
夕美「ひどいよ、私が緊張してたからってあんな事! もーっ」ホッペムニー
志希「らってほのくらいおいふめなひゃひみらいひー」
周子「分からんて」
美波「あっ……えっと、私達今から木場隊の方に行こうと思ってて」
奏「勤勉な美波の事だもの、分かっているわ。ただ約束を取り付けに来ただけよ。どう? その後、新田隊と速水隊の皆で食事にでも行かない?」
美波「……! ええ、ぜひ!」ニコッ
undefined
──本部長室──
P「今戻りました。はぁ……やっと美城司令の正論攻撃から解放されたよ。ユッコの奴め……」
ちひろ「お帰りなさい。和久井隊がスカウトして来た新人の子達、今は訓練中みたいですよ」
P「へぇ、もうですか。そうだ、あの子達の入隊時ポイントを見せて貰えますか?」
ちひろ「はい、これですね」
P「ありがとうございます。どれどれ……お、あきらと千夜は優秀だな。それぞれFPSプレイヤーとお嬢様の護衛メイドか。入隊時ポイントもそれぞれ3000、2800とかなり高いな。りあむは乳がでかいからシューターでやってけるだろ」
ちひろ「ちとせちゃんは体が弱くて生身ではあまり動けない分、トリオン体ならめいっぱい動けるってはしゃいでましたよ」
P「久川姉妹も双子なのに全くタイプの違う戦い方をするし、それでいて既に連携はある程度取れている。あかり、この子は?」
ちひろ「なんか『山形りんごで一発当てる足掛かりにするんご』とかなんとか」
P「えぇ……」
ちひろ「あ、それとA級ランク戦と同時進行しているB級ランク戦の組み合わせも決まりましたよ! 的場隊のデビュー戦です!」
14位 ヘレン隊
17位 早坂隊
18位 的場隊 new!
P「うわぁ……初っぱなからヘレンさんか。かわいそうに」
ちひろ「まぁ、いずれ当たる壁ですからね」
P「……ん?」
ちひろ「どうされました?」
P「いや、ネイバーフッドの星間図にちょっと違和感が……。ほら、この星。いままでに無い程我々の世界に接近して来てるんです。トリオン信号等は受け取っていませんね……」
ちひろ「あら、それは変ですね。こちらから信号を送りましょうか」
P「……いや、変に刺激するのはやめておきましょう。たまたま星の軌道が近くを通っていて何も起きない可能性もある。俺達は基本的に同盟国以外には不干渉ですから。念の為出動可能人員を多めに取っておいて下さい。彼らの星が離れていくまでに1ヶ月ある。それまでは静観しましょう」
ちひろ「で、でも……!」
P「ウチには無敵の芳乃がいるじゃないですか。あの子のサイドエフェクト『完全空間把握』と『悪意感知』があれば我々の世界に侵入して来た瞬間あの子が感知して俺達に知らせてくれます。今も『上の方』で街をパトロールしてくれてますよ」
P「……まぁ、芳乃のサイドエフェクトもなくし物を探す事に使う位がちょうどいいんですけどね。出来ればあの子が本格的に動かなきゃいけないような事態は避けたいものです」
ちひろ「……」
P「いざとなったら俺も出ます。旧ボーダー時代の早苗さん達のワンオフトリガーも解禁しましょう。ですから今は情報を川島さん達幹部候補を含めた上層部に留めて、無用な混乱は抑えましょう」
ちひろ「……分かりました。今はランク戦ですね! 梨沙ちゃん達のデビュー戦、応援しましょ!」
P「はい」ニコ
──ボーダー/上空2000メートル──
先程のランク戦の仮想空間の悪天候とは打って変わって、日差しがほんのりと暖かい晴天の空。
はるか上空に浮かぶボーダー最強の少女は、バランスボールより一回りほど大きな光る玉にまるで座布団に座っているかのように静かに正座していた。その周りには同じような光る玉が7つ。少女を切れ目にして円形に並ぶその様子は、まさに雷神の太鼓のよう。
その光はさながら神の威光か。
依田芳乃(S級隊員)「ふむー、何やら禍々しき気を感じましてー。はて、これはー……」
少女は眼を閉じながら、何かを「視て」いた。
これで終わりです。ここまでお読み下さってありがとうございました
大規模侵攻編が始まりそうな締め方ですが、書くかは未定です
始まるとしたら他のどこかのアイマスシリーズとのクロスになると思います
それでは、おやすみなさい
乙ですー
最後まで手に汗握る熱い駆け引きでした!
大規模侵攻もB級戦も気になる!
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