樋口円香「解釈違い」 (17)

※キャラ崩壊、地の分、解釈違い注意



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1588184700


――何かを間違えているような気がする。

こんな筈ではなかったという想いが樋口円香の胸にあった。
そもそもこの奇妙な状況に追い込まれてしまった原因を思い浮かべてみる。

ほんの半日ほど前まで樋口円香はどこにでもいる、ありふれた花の17歳の女子高生だった。
幼少の頃からの幼馴染たちに囲まれ、まあ平凡より上の高校で疎まれすぎず、華やぎすぎることもなく平穏無事に過ごしてきたのだった。
状況が変わったのは隣人の幼馴染、浅倉透が唐突にアイドルになったことだ。

浅倉透は芸能人になった。

そういわれて十人が聞けば八人は納得し残る二人はまだ成っていなかったのかと訝しがる。
それほど浅倉透には言葉では表わせない「何か」を纏っている女だった。

何でもアイドル成り立ての時にテレビ局を歩けば多くの芸能人業界人が自然と挨拶してきたそうだ。
立派な雰囲気詐欺である。

浅倉透がこの能力を如何なく発揮すればやがてテレビ局内を縦横無尽に顔パスで歩き回るだろう。
世間では透明感ある美少女だとか顔が良いだとかなんだの言われているが、
樋口円香にとっての浅倉透は幼馴染であり同級生であり隣人であり、どうしようもない阿呆であった。

いや阿呆という言葉では言い表せないかもしれない。何せそこそこの進学校で名がある高校内において

「よく浅倉さんここ合格できたねー」

と言われているのである。
無論悪意があっての話ではない。学力的な意味ではまあ、まだ何とかたまたま入試でいい点が取れちゃったから入れちゃったんだね、で済まされる感があるのだが、とにかく日々の言動が残念なのである。

朝、学校へ行くときの鞄の中に財布が入っていないのはお約束である。もちろんわざと忘れたわけではない。ただ彼女は鞄から出したものを鞄にしまうという行動を忘れてしまうだけなのである。不可抗力である。
当然そのままでは満足に買い物など出来るわけがない。それなのに家を出るときは親に

「朝ごはんいいや。途中でコンビニ寄るから」

とかいって家を出るのである。親はまあ何となくそうなのだろうと追及しない。
家族ですらその雰囲気詐欺に騙されているのである。

登校中にコンビニに寄ることなく、福丸小糸からおにぎりを分けてもらっているところに遭遇した時は頭痛がした。後輩にたかるな。

「あっ樋口も?」

「あ…ごめんね円香ちゃんのぶんは…」

違う違うそうじゃない。

樋口円香は日頃から浅倉透の幼馴染として同級生として隣人として生きている。このくらいのことでは動じない。

「どうせ昼ご飯も買ってないでしょ。ほら」

鞄からランチパックを取り出す。自分用とは別の浅倉透用である。
樋口円香の鞄の中には対浅倉透用の装備が常備されているのだ。用意周到な準備と日々計算しつくされた浅倉透の行動パターン分析の賜物である。その努力をもっと他の分野に生かすべきである。

「あっお昼用は昨日買ってあるから平気」

準備は徒労で終わった。というかお昼ご飯が倍になってしまった。

「わ…わたしお昼持ってくるの忘れちゃった…!」

福丸小糸は気遣いの出来る天使である。ここが往来でなければ思う存分わしゃわしゃしていただろう。

「ふふっ。小糸ちゃんはうっかりさんだね」

しばいたろかこの雰囲気詐欺

「あ~透先輩おはようございます~♥」

「うん、雛菜おはよう」

「あっ!雛菜ちゃんおはよう…!」

市川雛菜がやってきた。樋口円香が少し苦手な後輩だ。

「また透先輩と円香先輩いちゃいちゃしてるんですかぁ~?雛菜も混ぜてほしいなぁ~」

「別にいちゃついてないし」

「またまた~透先輩独り占めにしちゃだめですよ~」

「雛菜のネイル、今日は碧いんだね」

「やは~♥気付いてくれました~?これ先輩とおそろいなの~♥」

「ふふっ、似合ってるよ」

「今日は透先輩とデートなんてしあわせ~」

「放課後に遊びに行くだけでしょ」

「デートか。そういうのもいいね」

またこの天然すけこましは……

市川雛菜は自分のしあわせを第一に考える。
市川雛菜は浅倉透に対しての好意を隠さない。
その好意は親愛か愛情かは樋口円香にはわからない。
ただ……

「円香先輩と一緒は残念~」

何か解釈違いしているのだろうこのふわふわやっはーな後輩は。

樋口円香にとって浅倉透は愛情の対象ではない。
もちろん友人としての親愛の情はある。
樋口円香にとってのその感情は――

「そういえば財布忘れたから今日遊びに行けないわ」

……諦観に近い。

そんな阿呆でどうしようもない、行く末はヒモか詐欺師かと思っていた浅倉透がアイドルになると言い出したのだ。
急に見知らぬ男性とのツーショットが送られてきたときは眩暈がしたものだった。

「……ついに美人局に手を出したか」

この写真を証拠にこの見知らぬ男性は脅され脅迫され身ぐるみはがされるのではと不安で居ても立っても居られず家を飛び出して、芸能事務所とやらに突撃したのが半日前の出来事だった。
なるほど阿呆は樋口円香の方であったか。

無論、樋口円香は幼馴染の事となるとIQが三割減となるがそれくらいで衝動的に芸能事務所に突撃するような鉄砲ではない。
ちゃんと事前シミュレーションを入念に行い

「このことは透によく言って聞かせます」

「あの子は顔が良いからって調子に乗って無鉄砲なことをやってしまうだけです」

「だからこの写真は気にしないでください。決して民事裁判を起こすようなことはありません」

という体で話をつけようと考えていたのである。完全で瀟洒な幼馴染である。
なるほどやはり樋口円香は阿呆であった。

ところが、である。

「私の幼馴染がそちらに所属することになりまして(貴方が)騙されていないか確かめに来たんです」

「今後、(透が)何か(やらかすことが)あったらすぐ連絡しますので」

「では、そろそろ失礼します」

「は?ふざけないでください。近寄らないで」

「……そういうことでしたら(透がやらかしてもわたしが何とか出来るし)」

「樋口円香です。よろしくお願いします」

……今更ながら樋口円香は半日前の自分の阿呆さを呪うのであった。

「私がアイドルなんてありえない……」

そもそもあのプロデューサーとかいう男は何なのだ?
浅倉透のなんちゃって清涼飲料水っぷりに騙されていると思っていた哀れな男かと思えば本物のプロデューサーだったとは。
そんな男に向かって私のような小娘が散々えらそうな口をきいてしまった。
そんな失礼な人間軽蔑してしかるべきであろう。

――そうか

ではこれから私は徹底的に失礼な小娘になろう。
芸能界というものは上下関係にうるさいと聞く。
年端もいかない素人が失礼な口を聞けばあの男はさっさと私を追い出すだろう。いやそうに違いない!

透には迷惑をかけてしまうかもしれないがその時はその時だ。
まあ透はこのままだとろくな人生を歩まな……いやあの顔の良さで芸能界に放り込んでおけばきっと何とかなるしむしろそっちの方が良いだろう。

よし、そうしよう。
ならばあの男をプロデューサーとは絶対呼ばないでおこうか。

例えばそう――
ミスター・ドリーマーとか!

残念ながら樋口円香はBUMP OF CHICKENが好きな、今どきの女子高生からするとオールドタイプだった。

樋口円香はやはり阿呆であった。

おしまいっ!



こういうの好き


おもろいけどなぜバンプ?

おつおつ

バンプよりBzだよね。
赤チェック的に

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom