【シャニマス】普通の私は憧れの先に憧れる (11)

アイドルマスターシャイニーカラーズの園田智代子のSS

初投稿ですよ。

内容的にはアイドルになる前の葛藤を自分なりに描いてみました。

 私はいわゆる普通だ。
 普通の学校にいる、普通の女子高生。友達からは名前からチョコ、って呼ばれていて、普通に過ごしてきた。
 何に挑戦するわけでもなく、ただひたすらに普通の日常を謳歌してきた。
 でも、何か変えたいなって思っちゃったんだ。
 だからアイドルのオーディションに参加してみた。その中で自分の普通を変えられるものがあるかもしれなかったから。

 でも、結果は振るわなかった。普通な私が刺激を求めた結果は残酷だった。自分の胸に深く突き刺さった現実、抜き取るには時間がかかった。

 友達にも慰めてもらった気がする。

 大丈夫、こんなものだって、頑張ったじゃん。

 なんだか見下されているような気がした。気のせいだと思う、少しだけ心が荒れて、そう思っているだけかもしれない。そう思うことにしたい。

 その気持ちと反比例するかのように悔しさが私の中でふつふつと湧き上がった。

 あるオーディションに向かった。

 283プロダクション……新設の芸能事務所、だったかな。
 新しいところだから人が足りなくて入れてくれるだろう、とか思ったけど甘くないだろうな。

 私はどこで輝けるだろうか。どこで私はーー。

「園田智代子さんーー」

 オーディション会場で若い20代ぐらいのスーツ姿の男性に名前を呼ばれた。いろいろ質問された。学校でのこととか自分のこととか、前のところと聞くことはほぼ変わってなかった。

「はい、私はーー」

 はっ、と私は気付いた。今まで笑ってたかな、と不意に思った。今まではどうだったかな? 

あれ、笑っていなかった気がする。

緊張でこわばったり、自信がなくてうつむき気味だった気がする。

そうだ、どうせ落ちるんなら笑おう。アイドルは笑顔が素敵だから、笑って今この瞬間だけでもアイドルになろう。

 笑って受け答えた。私の笑顔は目の前の彼にどう届いているだろうか。かわいく見えてるかな、私。

 オーディションが終わって、私はすぐ帰ろうとした。

 この瞬間だけでもアイドルらしい笑顔ができた気がする。小さなステージで面接官の彼だけに送る私だけの笑顔。

「あっ、待って」

 踵を返そうとした私を引き止める声。

私はゆっくりと振り返った。

なんだか怖かったから。

もしかして怒られるかな、だなんて思ってしまった。

「これ、俺の名刺」

「えっ」

 私に突き出された長方形のカード。そこには283プロダクション・プロデューサーという文字が書いてあった。

「こ、これは」

「名刺だよ。もし本気でアイドルやりたくなったら、事務所の住所書いてあるからここにおいで」

 私の手は震えていた。震える手を抑えながらなんとか受け取った。

「なんで私なんかに」

「うん? いいな、って思ったからだよ」

 その言葉を聞いて何だか泣きそうになった。私が肯定された、その事実が私の中で爆発した。

 でも、と私より30cmは背の高いプロデューサーさんは名刺を渡して手をそのまま私の頭の上に置いた。

思った以上に大きくて温かい手のひら。そこから伝わる熱はじわーっと私の体内で溶けていく。

「でも、何だかやりたくなさそうだったから、気持ちを整理してからまた来てほしいな」

 そうだ、私は本気でアイドルになりたいわけではなかった。

ただ私自身を、私の普通を肯定してほしかったからだ。

見破られて逆に嬉しくなった。ああ、私のこと分かってくれたんだなって。

 一瞬の輝き、ステージ、私の笑顔。その一瞬だけで私の全てが届いたんだ。

「じゃあ、待ってるからね」

 プロデューサーと名乗った男の人は私の元から離れていく。

家に帰ってすぐベッドに仰向けになって天井を眺めた。そして名刺を自分の目の前に掲げる。

 私は昔ピアノを習っていた。でも普通の私は、芽が出なかった。自分より上手い人なんか周りにたくさんいた。だから、諦めた。

 アイドルの世界だって同じ。周りに私よりすごい人はいっぱいいる。私より輝いている、私より歌が上手くてダンスもできる、私よりも可愛い子なんかたくさんいるんだ。私なんか見向きされない、私のどこがいいと思ったんだろう。

 だけど嫌だな。何もしないで諦めるなんて。私はそんなに簡単に諦めるんだっけ。自分がわからない。

 私は本当にアイドルになりたいのかな。

 ……なりたいんだろうな。

 輝くあの姿に密かに憧れていた。普通だからなれないとばかり思っていた。だからーー。

「やりたい、私、アイドル」

 私の今出た言葉は誰かに伝えようと意志を持って飛び出した。

それは、誰だろう。あの男の人なんだろうか。

 そして、私は涙が出た。スーッと目尻から指先でなぞるように温かい感触が伝わってくる。

 なんで、涙が出るんだろう。わからないや。

 その意味を、いつかちゃんと分かる時が来る。

 変な確信だけど、自信がある。

 普通な私が、特別に憧れて、特別へと昇華したい。

 できるかな、できる、できるよ!

 私は、普通だけど、憧れを、誰よりも、強く、強くーー。

「こんにちは!」

 283プロに来た。そして、あの男の人がいた。

 プロデューサー、さん。

「あの、私のこと、覚えてますか?」

 私の部屋で決意はしたものの、やっぱり勇気が出なくてここに来るまで一週間経っちゃった。

 私のこと、ちゃんと覚えてくれてるかな。

もしかしたら、私の後に私よりもすごい子が見つかって、私は用無しになっているのかも。私は若干伏し目がちで自分自身を皮肉るように、笑う。

「園田智代子さんーー」

 私のことを、覚えててくれた。信じられなくて、でもこの事実を信じたい私がいる。

「笑顔が素敵で、その笑顔が素朴だったから、覚えていたよ」

 すーっと息を吸った彼は、一拍おいて言う。

「俺の考えているアイドルユニットに、君を入れてプロデュースしたいって思っているんだけど、どうかな」

「私が、ですか」

「うん、そう。ずっと、君を入れようと思っていたよ。だから、まだ迷いがあるだろうけど」

「私は、普通なのに」

「普通、ねぇ」

 プロデューサーさんは、腰を少し下ろして私の目線に合わせてくれた。そして私の瞳を直視した。

「俺はアイドルのプロデューサーだよ。それを磨くのが俺の仕事。だから、心配だろうけど、心配しないでな」

 少し瞼が重そうで、眠そうだった。連日のお仕事に疲れが出ているようだ。でも、彼の瞳は愚直すぎて眩しい。嘘はついていないのがよく分かった。そしてその瞳に吸い込まれるように私は。

「ーーやります、やりたい、やらせてください! プロデューサーさん!」

 あの自分の部屋で起こったように、言葉が無意識に私の口から飛び出した。そしてその言葉は意志を持って、彼の耳へ鼓膜へと飛び込んでいく。

「ありがとう、絶対に後悔はさせない」

 その言葉が、その言葉が、その言葉がーー。

 私は、アイドルになる。

 そうだ、私はアイドルになるんだ。

 諦める前に諦めないで良かった、これからはその言葉を信じて、いきたいな。

短いですけど、Pと智代子の出会いを自分なりに改変してみました。

智代子は一歩踏み出せなくて、でも誰よりも輝きたいと密かに思ってるアイドルです。

シャニマスをやっていて、そんな彼女の背中を押したい。押してあげたい。そう思いました。

これからも智代子(放クラ)に関してのSSを投稿していけたらなと思います。

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