志希「ありすちゃんが」文香「作詞でお悩み」桃華「ですの」 (11)

●まえがき

登場人物

橘ありす
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櫻井桃華
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鷺沢文香
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一ノ瀬志希
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※画像多め注意

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●01


ありす「うーん、むぅうう……文香さんといえば……」

桃華「あら、ありすさん。ごきげんよう」

ありす「うーん、むむむ……」

桃華「お勉強ですか? ノートを前に唸ったりして」

ありす「むむぅ……あ、桃華さん、そういうわけでは……」

桃華「ですよね。白紙のノートを広げたきり、ですもの」

ありす「はい……うーん、むむむ……」

桃華「…………」



志希「ありすちゃんが?」

文香「作詞でお悩みなのですか?」

桃華「はい。そうですの……」



桃華「先日、番組の企画で、私たちアイドルが自分の歌う曲を作詞してみよう、
   というコーナーがありましたの。それで、ありすさんは……」


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桃華「……この有様で、司会の方からさんざんいじられてしまい、
   以来それを気にしているようなのです。
   得意科目が国語なだけに、詩的センスがないと思われるのは心外なのでしょうね」

志希「確かに、論文『っぽい』文章と、詞『っぽい』文章は、明らかに違うけど……」



桃華「そこで、お二人に、ありすさんの力になっていただきたいと……。
   ありすさん、何を話しかけても上の空で、困っておりますの」

志希「いいの? あたし、論文なら散々書いたことがあるけど、
   作詞はしたことないよ?」

文香「私も、詞や詩は読む専門で、韻律学はもとより、
   自分で作詞した経験すらありませんが……」



桃華「志希さんは、こう見えてロマンチストなところと、語学力を頼りにしたく存じます」

志希「ねぇ、『こう見えて』は、余計じゃないかなぁ」

桃華「文香さんは、文学に対する造詣と、何より……」

文香「何より……?」

桃華「ありすさんは、文香さんをとても尊敬しておりますので、
   文香さんのお話ならちゃんと聞くのでは、と」



志希「おーい、ちょっとー? ま、面白そうだから付き合うよ!」

文香「それなら私も……志希さんだけでは、不安なので……」

志希「おーい、ふみふみちゃーん!?」

●02

ありす「それで、文香さんと志希さんが私の元に……」

文香「一人で詞について悩み続けていては、
   隴西の李徴のように、虎と成り果ててしまうかもしれません」

志希「よかったねありすちゃん! 文香センセイがお悩み相談に乗ってくれるってよ!」

桃華「あまり投げやりになさらず。わたくし、志希さんに期待しておりますのよ?」

志希「え? やった! 桃華お嬢様からご期待されちゃたとあっちゃあ、
   志希ちゃん、ドーパミンびんびんだよ!」



文香「さて、ありすさんのお悩みなのですが……
  『作詞をしてみたら、小論文みたいだ』とからかわれた、
  ということでよろしいですか?」

ありす「……ええ、まぁ。子供っぽい悩みでしょうか」

志希「それで、詞らしい詞をパパーッと一句ひねって見返してやりたいとか?」

ありす「そこまでは言ってませんよっ」



桃華「そういうことなら、例えばわたくしたちの歌の歌詞を真似してみればよろしいのでは?
   レッスンでも、最初はうまい方の真似から入ることですし」

ありす「真似、ですか。試しに、歌詞を手で書き写してみますか?」


「in fact」作詞:Maiko Fujita
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ありす「……自分で言い出しておいてなんですが、これって意味があるんでしょうか?」

文香「文章の解釈を深くするために、それを書き写すという手段はよく使われます。
   ですが、ただ書き写すだけでは手間がかかりますね……少し検討してみましょう」



文香「ありすさんは、今Aメロを書き出しましたね。
   この中で『詞らしい』あるいは『小論文らしくない』と思った部分はありますか?」

ありす「構成が……小論文らしくありませんね。テーマに対する論証がありません。
    小論文なら『本当の私を誰も知らない』というテーマのあとに、
    なぜそうなのか、事例や証明が続くはずです」

志希「うんうん。桃華ちゃんは?」

桃華「ありすさんが挙げた以外ですと、『本当の』とか『ざわめく』とか。
   語義のあいまいで感覚的な言葉が『小論文らしくない』と思いましたわ」



志希「今ね、ありすちゃんと桃華ちゃんがさりげなく使った『論証』とか『語義』とか、
   そのあたりにもイロイロとごまかしがあって――」

文香「――その話は、真面目に語ると本が何冊ぶんにもなるので、
   今は割愛しましょう。作詞の話ですよね?」

志希「……まぁ、文香ちゃんがそういうなら、いいけど」

●02-2

文香「詞の目的は、詞を聞いた人の心になんらかの変化を与えることです。
   そして詞は、散文詩と違い、字数も短く、また曲に合わせるため音節数にも制約がかかります」

志希「ありすちゃんの『in fact』は作曲もMaiko Fujitaさんで、
   もし主旋律を先に考えていたとしたら

   ――ほんとの わたしを だれもしらない

   の部分は、4・4・6 にしなきゃいけないもんね。
   『ない』の部分なんて母音2つなのを強引に詰めてる」

文香「そういった制約上、詞はどうしてもあいまいな言い回しになります。
   このあいまいさが、詞の要なのです」

ありす・桃華「あいまいさ?」



志希「例えば、今書きだしたAメロの部分までで、ありすちゃんと桃華ちゃんは、
   この歌詞で歌われている風景がどんな感じに思い浮かんだ?」

ありす「ええと……」

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ありす「……こんな感じですね」

桃華「わたくしは……」

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桃華「……という感じですわ」



志希「なぜ、加蓮ちゃんや周子ちゃんのスカウト前のコトを思い浮かべたの?
   歌詞からその二人がどうつながるの?」

ありす「それは、『本当の私を誰も知らない』というところは、
    本当がある、ということは偽りもある、ということで、
    偽りの仮面をかぶっていきている ってことを示していると思いました」

桃華「それで『ざわめく街でいつも一人だった』というところからは、
   街の雑踏で、さびしく物憂げに立ち尽くす女性の姿を思い浮かべましたの」



文香「お二人が、詞の内容のあいまいさから情景を推測したことこそ、詞の要なのです。
   詞とは推理ゲームのようなもので、伝えたいことをあえてあいまいな表現にします。
   それでいて、聞き手に推理して気づいてもらうことで、心を動かすのです」

志希「ツァイガルニク効果っていって、人間はナニか空白を感じると、
   それを埋めたくなって、それが埋められると安心するって習性があるんだって。

   詞のあいまいさは、意味の空白。
   それをあえて仕掛けるのは、論文ではマナー違反だから、あまりやらないことだね」

ありす「推理・安心させることによって心を動かすのが詞、ということでしょうか?」

桃華「確かに、最初から情景を厳密に事細かに説明されるより、
   あいまいな表現から推理して思い浮かべた情景のほうが、印象に残る気がしますね」

文香「その思い浮かべた情景が共感を誘うものであれば、
   ますます詞の印象は強まるでしょう。それが心に残る、詩的な表現の条件です」

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志希「あるよねぇ……本心なのに、言えないコト」

桃華「志希さんにも、そういうことがあるんですのね」

志希「志希さんに『も』ってどーゆー意味かな?」

●03

ありす「ちょっと待ってください……とても変な話かもしれませんが、
    そういった詩的なあいまいさとは、どう出すのでしょうか?」

桃華「あいまいさの出し方に、具体的な方法を求めるのですか……矛盾している気がします。
   でも、もしそれが分かれば、もうありすさんのお悩みは解決ですわね!」

文香「…………」

志希「…………♪」

桃華「あ、あら、どうかなさりましたの?」



志希「いや、あるにはあるんだけどね。そーゆー技術。
   修辞学(レトリック)って言ってさ」

文香「私は、作詞においてレトリックをことさらに学ぶ必要はないと思います。

   ありすさんの日本語力なら、すでに感覚的には『わかって』いて、
   さきほど挙げた『気づかせるあいまいさ』を意識するだけで、詞は書ける……と私は思います。

桃華「さきほどのツァイガルニク効果みたいじゃありませんか。
   そこまで言って『知らなくていい』と言われると、かえって気になりますの」



志希「あたしは、作詞家のセンセイが使ったレトリックの例を種類ごとに検討すれば、
   センセイを真似した作詞らしい詞が、帰納的に生み出せるようになる、と思うよ。
   とゆーか、ありすちゃん議論好きでしょ? ならレトリックは知っておいたほうがいいよ」

文香「いや、あの……種類ごとに、というのが、また曲者じゃありませんか……。

   私は、おすすめしません。
   レトリックの型はややこしく――ややこしいだけに、それを知ってしまうと、
   それの理解に苦労したぶんだけ、それをことさらにひけらかしたくなる欲求も大きくなります。
   それが、ありすさんの素直な気持ちを書き表す邪魔にならないか、心配です」

ありす(どちらの言い分も当たっている気がします……)

桃華「ならば、間をとって、わたくしだけ聞くというのは」

ありす「それこそありえません、ずるいですっ」



ありす「……決めました。文香さん、志希さん、わたしにレトリックを教えてください」

文香「それなら……せめて、私たちの歌詞の中から例を採って、
   レトリックを考えてみることにしましょう……」

●04 直喩

「Bright Blue」作詞:marhy
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志希「はいストップ。初っ端からレトリックがでてきたよ」

文香「レトリックの女王、比喩ですね」

ありす「比喩……というと、たとえ――『ように』の部分ですか?」

文香「はい。専門的に言えば直喩(シミリチュード)といいます。
   もののたとえのなかでは、最初に挙がる形式でしょう」



※他の用例
「Heart Voice」作詞:磯谷佳江
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木漏れ日が揺れてる『みたいな』

「TOKIMEKIエスカレート」作詞:BNSI(内田哲也)
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サイダー『みたいに』はじける恋モード



桃華「つまり、似ているものを『ように』『みたいな』など、
   似ていることを示す言葉でつないで、似ていることを示すのが直喩ですのね」

文香「そう……とは、限らないのです」



志希「直喩には、ほかにも、こんな例があるよ」

「Nocturne」作詞:AJURIKA
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(二人が 重ねた それぞれの時の流れは)まるで仕組まれた『ように』

「夕映えプレゼント」作詞:遠藤フビト
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夢『みたい』に綺麗で泣けちゃうな



志希「一般的に言って、『時の流れ』が『仕組まれる』ことはありえない。
   また、『夢』といったら『綺麗』じゃない悪夢も含む」

ありす「……厳密に言葉で説明しろと言われると困りますが、
    でも、歌詞の意味自体はなんとなくわかりますよ」

文香「そう、『なんとなくわか』るということは、直喩が成り立っているということです。
   『似ているもの』だけではなく、似ていないけれど『似せたいもの』でも直喩が使えます」




●05 隠喩

志希「じゃあ、Bright Blueに戻ろうか」

「Bright Blue」作詞:marhy
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志希「ここに『ように』以外にも隠れてる比喩、見つけられる?」

桃華「ええっ、あとは……『飛ばした』『ページを』『読み返す』『心と』『向き合う』
   ……しか、残っておりませんの」

文香「その『飛ばしたページ』『心と向き合う』が暗喩(メタファー)です」

志希「紙ヒコーキじゃないからページは飛ばないし、心も物理的には存在しないから向き合えないもんね」



※他の用例
「恋のhamburg♪」BNSI(柿埜嘉奈子)
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文香「ここの『Heart』や『Tiny Love』はいずれも概念上の存在で、
   物理的には存在しないため、詰め込んだり食べたりはできません。
   言うまでもなく、手作りハンバーグの暗喩です」

ありす「……でも、『ページを』『飛ばす』は日常的に言葉として使いませんか?」

志希「暗喩が陳腐化すると日常言語になる、と言う方が正しいの。

   逆に、陳腐じゃなくなりすぎると、突飛になる。
   例えば、こんな感じに」

「華蕾夢ミル狂詩曲」作詞:BNSI(東ノ獄彩)
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文香「このような暗喩の連続は、特に諷喩(アレゴリー)ということもあります」

志希「暗喩にはほかにも、換喩、提喩ってのがあるけど、
   直接言わなくても、暗示する――のは、ひっくるめて暗喩に入れていいよ。」

桃華「な、なんだかアタマが混乱してまいりましたわ……」


●06

文香「だから最初に申し上げたのです……
   例を採って分類しようと思えば、
   いくらでも……挙げられて、きりがないのです」


※主な例
・撞着語法――語義が矛盾している語どうしを順接でつなげる
「ØωØver!!」作詞:前川みく(高森奈津美)多田李衣菜(青木瑠璃子)
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――このハート熱いけど COOLに燃える


・訂正法――書き直しが可能な書き言葉(∋詞)において、あえて訂正の形跡を消さず残しておく
「あんきら! 狂想曲」作詞:ヒゲドライバー
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――ね、正反対っていうか対照的で


・列叙法――同じ品詞や音の言葉を列挙する
「ヴィーナスシンドローム」作詞:古屋真
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――愛しさとも 欲望とも 寂しさとも


・掛詞――いわゆるダジャレ
「Kawaii make MY day!」作詞:八城雄太
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――mellow mellow girls


・誇張法――表現を誇張する
「Love∞Destiny」作詞:磯谷佳江
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――You are my destiny, wanna be your everything


・暗示引用――有名な言葉をもじって入れる
「Can't Stop!!」作詞:磯谷佳江
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――嘘ついたら無期懲役


・中止法(黙説法)――あとに通常なら言葉が続くところを続けない
「こいかぜ」作詞:貝田由里子
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――苦しくて 見せかけの笑顔も作れないなんて


・オノマトペ――擬声語など
「秘密のトワレ」作詞:ササキトモコ
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――ChuChuChu...人体実験Chu♥


桃華「ま、まだ続くんですの?」

文香「はい。それこそ、レトリックの分類法は200から400はあって、
   定義・用語・分類も時代・学者によってまちまちです……」

●07

志希「しかもこんな感じで、表現のキリ方によっては、
   2種類も3種類も用法が同居するコトだってあるの」


・誇張法、対比、倒置法
「Love∞Destiny」作詞:磯谷佳江
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――おはようから おやすみまで あなただけに捧げるの 永遠に


・二重の隠喩
「薄荷 -ハッカ-」作詞:いつきおと
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――神様がくれた時間は零れる あとどれくらいかな


・三重の擬人法
「風色メロディ」作詞:トリ音
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――うまれたての風が 透明な指先で 木の葉に触れる


・隠喩が多すぎて正確に数えるのが困難
「Hotel Moonside」作詞:MC TC


文香「感覚的に『肌でわかっている』ことを、
   ことさら言葉で細かく分類しようとするから、こうなるのです。

   例えばタブレット端末の操作も、指を動かして見せて説明すれば簡単ですが、
   それを『タップとは――』『ピンチとは――』『スライドとは――』などと、
   言葉だけでいちいち厳密に定義を試みながら説明すると、とんだ大仕事に見えてしまいます。

   レトリックが廃れてしまうのも、むべなるかな、と言ったところでしょう」

志希「現代文の文法問題で、こんな修辞学の分類がでてきたら、
   それこそアタマがおかしくなっちゃうよねぇ」

文香「もっとも修辞学は、20世紀はじめごろまでの西欧では、リベラルアーツの一つとして、
   学問をしようと思えばみな学ばされていたものなのですが……」

桃華「そ、その時代に生まれなくて安心しましたわ」

●08

ありす「……おぼろげですが、文香さんのおっしゃってた、
   『レトリックをことさらに学ぶ必要はない』ということが腑に落ちました」

志希「ええっ、ありすちゃん、レトリックを勉強すれば、
   議論のときに『それは撞着語法です!』(びしっ)
   とか、論敵のレトリックをズバッと指摘して悦に入れるよ?」

ありす「なんで私がそんなことをしたがる前提なんですか!?
    元はと言えば、私は作詞で悩んでいて……」

志希「作詞で悩むのは勝手だけど、作詞なんかやんなくていい、って展開にはならないの?」

ありす「えっ」

志希「いや――例えば、あたしは作詞ぜんぜんやらないけど、ぜんぜん困ってないし」

ありす「それは――その――ええと――」



ありす「――も、もうだいじょうぶです! ご教示ありがとうございましたっ!」

桃華「え、もうよろしいのですか?」

文香「少しでもご参考になっていれば、幸いです……」

志希「……結局、なんでありすちゃんって作詞にこだわってたんだろうね?」



桃華(ありすさんが作詞にこだわっていた理由は、10月27日にわかりました)

桃華(なんとありすさんは、文香さんのお誕生日プレゼントとして、詞を作ろうとしていたのです)



ありす(文香さんへのプレゼント……悩みます。文香さんが欲しがるもの……
    お金で買えるものは、本や万年筆をはじめ、文香さんが自身で購入しています)

ありす(電子書籍向けタブレットをおすすめしようと思ったら、反応がかんばしくありませんでした)
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ありす(かといって手作りのもの……私は、手先が器用というわけではありません)

ありす(……特に、料理は評判がイマイチです)

ありす(そして手先が器用でない人でも作れる小物などは……他の人とかぶる恐れが高い)

ありす(そして、人望の厚い文香さんのことです。たくさんプレゼントをもらうでしょう。
    手元に残るものだと、受け取っていただいてもじゃまになる可能性が……)

ありす(では……どうすれば……?)



桃華「ということで、詞を贈ると決めて、あれこれ言葉をひねっていたようです」

志希「誕生日プレゼントに詞かぁ……発想が『クール・タチバナ』だね(隠喩)」

桃華「あら。志希さん。
   まるで、ありすさんが最終的に文香さんの助言を採って、
   自分の助言が容れられなかったことを根に持ってるような物言いですわね(直喩・反語)」

志希「うわーん、桃華ちゃんがレトリックであたしをいじめるー!」

桃華「はいはい。寂しいのなら、わたくしがまた話し相手になってさしあげますから……」



おしまい
鷺沢文香さん誕生日おめでとうございます。

●参考文献・サイト
佐藤信夫『レトリック感覚』『レトリック認識』
吹き出しのレトリック http://balloon-rhetoric.atwebpages.com/

おつ

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