【モバマス】村上巴「炯々」 (42)

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 ホコリを被っていた小学校の卒業アルバムには、あまり思い出を詰めた覚えがない。〈旅立ち〉と金糸で刺繍された奢侈な装丁の表紙を開き、最初のページから順繰りにたどったが、なまじな懐古の念すらわたしの心中には立ち上ってこなかった。それはそうだ。なんせわたしがこの母校に在籍した期間は最後の一年だけに過ぎない。

 グラウンドの狭さも、サビが浮いた遊具の彩りも、盛況が伝わってきそうな数々のイベントを切り取った写真も、どこか他人事のように過ぎ去っていく。

 やがてたどりつく。唯一自分の記憶として自信を持てる〈六年二組〉のクラスページ。わたしが一年を過ごした場所。――彼女がいた場所。

 褪せたように見えてしまう古びた思い出の中に、ただ一枚のあなたの髪だけが鮮やかだった。

     *

 広島の空には鯉が生きられるらしい。黒、青、赤が三匹並んで長い尾ひれをゆらゆらさせて、まんまるの口で大きく風を吸って、澄んだ色の広い生け簀で気持ちよさそうに泳いでいた。

 わたしの故郷には、鯉を泳がせてあげられるだけの度量がなかった。灰色の背の高い建物があっちこっちで空を切り取っていたから。だれもそこへ鯉を放そうとはしなかったし、だからわたしにとっては初めて見る風景だった。

 もうじき学校は連休に入る。嬉しくて、複雑だった。学校へ進む足取りは決して軽やかじゃなかった。ランドセルになにが入っていただろう。妙に体が重いのは、体育のための着替えセットが詰めてあるからだろうか? お気に入りの白いスニーカーで道の石ころを蹴ると、追いやられたねずみみたいにジグザグに走って側溝に隠れた。学校が見えだし、背中がまた重くなった気がして、ついつい猫背になってしまう。本当のネコみたいに気ままに歩けるようになりたかった。

 今日のわたしは日直当番だった。当番はクラスで一番に来ていろんなことをしなくちゃいけない。教室で花瓶の水を替えて、黒板の日付を今日に変えて、水槽のグッピーにエサをあげて、学級日誌の準備と……あとはなんだっけ。指折りは四つでとまったけど、たしか仕事は五つあったはずだった。

 教室の横開きの扉を滑らせて、あっと思い出した。そもそも教室の鍵を開けないといけないんだった。だけど扉はなめらかに開いて、先に来ているだれかの存在を示していた。

 一番乗りじゃなかったうしろめたさと早起きが無駄になった無情とを半分ずつ抱えて中を覗いた。朝のホームルームまではまだ一時間近くもあるのに。

 窓際で、派手な髪色が見えた。背景に据えた空の青にまったくなじまない赤みがかったあざやかなショートカット。自分の席に浅く座って本を読んでいて、かろうじて見えた表紙にタイトルは〈詰め将棋中篇〉と書かれていた。

 村上さん、とわたしは呟いていた。声が聞こえたのか気配が肌に届いたのか、彼女は私のほうを見て「おはようさん」とだけ言ったら、また視線を落とした。

 わたしの席は彼女の真後ろだ。自分の椅子を引いて「おはよう」と返した。机には学級日誌が置かれていた。職員室でクラスの鍵と一緒に受け取るはずのそれは、村上さんが持ってきてくれたのだろう。

「早いんだね。いつも?」
「おう。まあな」
「わたしは今日、日直だから」
「そぉか。わざわざご苦労じゃな」


 教室の角棚にいまはルピナスが飾られている。白い円筒型の花瓶を持ち上げると手が濡れた。こぼしたわけじゃなくて、外側がすでに濡れていたのだ。黒板の隅っこを見て、グッピーと水草が元気にたゆたう水槽を見ると、直感が言葉のかたちになった。

「村上さん、もしかして……日直の仕事、やってくれたの?」

「ああ」村上さんは目を上げることもせずに応える。「日課みたいなもんじゃ。気にせんでええ」

「ありがとう」
「気にせんでええ言うとるじゃろぉが」

 村上巴さんは、わたしにとってもっとも近しいクラスメイトだった。

 彼女はずっとひとりだった。授業中に横や後ろを向いて内緒話をすることもなく、休み時間になるとだいたいは本を開いて、体育の時間に柔軟体操でペアを作ってと言われると相手を先生に求めた。

 そしてわたしもひとりだった。今年度からこちらへ転校してきたわたしは、はじめこそ都会からの異邦人という立場を盾に周りに人を集めた。だけど、話をするうちにメッキがはがれ、わかりやすく都会的な特質を持っていないという事実があらわになると、盾は盾として機能しなくなり、かつ内気な性格がわざわいして、友だちを作るタイミングをついにのがしてしまった。

 体育の時間に自分から声をかけることができなくて、ひとり困っていると先生が彼女と引き合わせてくれた。友達と言えるくらいに仲がよくなるわけじゃなかった。だけど、出席番号に並ぶ席が近かったこともあって、それ以来たまに話をすることがあった。

 ひとり同士だったわたしと彼女は、いくつかの意味でもっとも近しいクラスメイトだったのだ。そんな彼女のことが気になっていた。

「詰め将棋?」

 控えめに視線を村上さんの顔にやりながらわたしは言ってみた。

「おう」
「将棋とは違うの?」
「そうじゃな。将棋のルールを使うとる、言うたらパズルみたいなもんじゃ。決められた手数で相手の王を取れるかっちゅう……駒の動き方わかるか?」

 振り返り、彼女は本の最初までページをさかのぼると、向きを逆さにしてわたしへ向けた。簡単な図面が記されていた。九かける9に引かれたマス目の上で〈王〉と〈馬〉といくつかの〈銀〉の文字が向きをそろえず散らばっている。

「あんまり。歩とかぐらいならわかりそうなんだけど」
「教えたる」

 村上さんの説明は簡潔だった。わたしは三つの規則性を覚えて、しばらくのあいだ盤面とにらめっこしてみたけど、結局はできなかった。

「……センスがないのう」

 彼女は批評まで簡潔だった。ぐさっと刺さった言葉に痛がったふりして胸をさすると、「冗談じゃ」と笑いまじりに言われた。

「こいつは中級じゃけえの。できんでもしゃあない」

 本をくるりとかえして、村上さんは折り目をつけていた自分のページに戻った。

 村上さんが孤立している理由が、わたしにはわからなかった。

 目つきがとがっていて、同年代の中ではクールな感じがあって、口調がちょっと荒っぽいように思うけど、それだけだ。笑った顔はわたしよりずっと可愛らしいと思うし、喋っていれば冗談もよく言うし、荒っぽくても親切だ。そもそもよそ者で、なじむ時機を見失ってしまったわたしとは違っている。

 ドアが開いた。三番手に入ってきた女の子はわたしたちの方をちらっと見るだけして、遠い廊下側の自分の席にそそくさ座った。わたしは学級日誌の今日のページを開いて、担当者に自分の名前を書き込んだ。村上さんはもう自分の戦場に帰って軍略を練っていた。


 五限目の体育の時間、女子は体育館でドッジボールだった。村上さんはわたしとペアになって準備運動を終えると、先生のところへ歩いていった。ひとことふたことを交わしたら、そのまま体育館の隅まで移動して座り込んだ。

 どうしたのか先生に訊ねると、「村上は見学するんじゃと」と言った。いいんですかと質問を重ねたら、返事は「ま、ええじゃろ」とだけ。詳しい説明をくれる気はなさそうだった。

 その後の時間、騒ぎ声から外れて、村上さんはひとりでつまらなさそうにボールをひとつこねくり回していた。こういう特別扱いが、わたしの知っている春からこちらだけでもよくあった気がしていた。それは彼女をクラスからはぶくことが先生の公認を得ているようで、なんだかとても気持ちが悪かった。積極的に危害を加えようとしているわけではなくて、さらに言えばとても丁寧に扱っているようにさえ見えてはいたのだけど、それがなおさらにわたしのお腹の底に据わりの悪いものを溜めた。

 村上さんに気を取られていたら、相手からのボールがわたしの腰あたりにまともに当たって敵陣から歓声が沸いた。味方からの非難も失望も受けずにわたしは外野へ回る。

 村上さんは放課になると誰よりも早くに教室を出て行く。この日も、いつのまにか前の席はもう空っぽになっていて、窓の外を見下ろすと校庭の外周を通って校門へ歩いていく赤色があった。視線で追いかけたけど、赤色は門の陰にすぐ隠れてしまった。

 わたしは学級日誌を開いた。書き込んだ今日のできごとにおかしなところがないかを確認してから、前のページをめくって見比べる。ふと気になって、その前のページを開き、その前、さらに前とさかのぼっていく。

 ――日課みたいなもんじゃ。頭の中で村上さんの声が聞こえた。

 わたしは自分のページを開いて、だれも記入したことがない様子の備考欄に鉛筆を走らせた。

 廊下で職員室に帰り際の先生を捕まえた。学級日誌を渡すとその場で内容を検められる。授業内容を詳しく書き込んであることを褒められた。――休み時間を持て余したから、時間をたっぷり使って綿密に書いただけなんだけど。

「今週末からゴールデンウィークじゃなあ」

 先生は日誌の確認を続けたままわたしに言った。

「なんか予定あるんか?」
「いいえ、特には……先生は?」
「聞くな。たまった仕事の消化で終わる」

 遠い目が窓の外へやられた。

「東京からこっち来てはじめてのまとまった休みじゃろう。観光名所でも行きゃあええわ」
「うーん……どこかいいところ、ありますか?」
「オイスターロードじゃな」
「オイスターロード」
「うまい牡蠣をたらふく食える。しかも安い。片手に麦酒持っていけ」
「あの。わたし生徒ですけど」
「お前がうちの勧めを聞いたんじゃろう?」


 流し見に合わせて日誌をなぞっていた先生の指が、ぴたっと止まった。場所はページの下のほう。備考欄を読んだんだとすぐにわかる。

「村上と仲ようなったんか?」

 ちょっとびっくりしたみたいに訊ねられた。仲がいいとまでは到底言えなくて首を振ると、「……ほうか」と大きく開いたまぶたを戻し、「難しいわのう」と先生は続けた。

 訊ねるいい機会だと思った。会話の流れも場の雰囲気もふさわしかった。なのに質問はのどにつっかえたみたいになって、心臓がめちゃくちゃに跳ね回っているのを感じた。態勢がしっかり整っているのに、それでも突っ込んで聞くことをためらう自分がもどかしかった。

 次の日の朝、わたしは前日と同じ時間に家を出た。お母さんが不思議そうにしていたから友達と約束があると嘘をつく。

 今日になると空の鯉は増えていた。つがいになって卵を生んだとしてもかえるにはまだ早いだろうから、平日の昨日に放流したご苦労な家庭があるらしい。登校のあいだに三十匹は数えたけど、あとは面倒になってぼんやり眺めた。たくさんの鯉が泳いでもスペースにはまだまだ余裕があった。

 私の学校の靴箱は戸がついていない。クラスの分を一通り確認すると靴は一足だけ入っていた。わたしの一つ上の段。〈村上巴〉。本当に毎日こんなに早くに来てるんだ、と予想通りだったけど驚いた。

 教室に入ると、ルピナスはちゃんとまだ綺麗に咲いていて、窓際ではやっぱり村上さんが詰め将棋の本を読んでいるみたいだった。

「おはようさん」
「おはよう」

 どうして今日も早いのか、と訊かれるつもりでいた。そうしたら、ちょっと緊張はするけど、村上さんがいると思ったから、って言おうと思っていた。だけど村上さんは挨拶の後にはもう何にも言う気配がなかった。自分から口火を切る勇気は出なくて、予定が狂ってしまったわたしはしょんぼりした気持ちで席に座る。


 ランドセルから教材を机に移し替えていると、「銀と王と……馬か」と思いがけずつぶやきのような声が聞こえた。弾かれたみたいに顔を上げると体を半身にした村上さんが本を越してわたしを見ていた。

「覚えとるか?」
「……なにを?」
「動き方じゃ。昨日教えたろう」
「えっと。王は全方向ひとつずつ、銀は王と比べると横と真後ろがダメで、馬は――」
「ナナメにどこまでも動ける王。上等じゃな」

 村上さんはにっと笑って本の見開きをわたしに見せる。

「興味あるか? ……あるんなら教えるんじゃが」

 快哉で胸が膨れ上がった。勢いよくうなずくと、村上さんは手首を返してわたしに見やすいよう本の向きを変えた。

「基本は歩じゃ。こいつは前に一歩ずつしか進めん。香車は言うたら歩の強化版じゃな。前だけならずっと行ける」
「歩と香車は前だけ」
「金は銀と似とるが、斜め後ろには行けん。そんかわりに横と後ろに動ける」
「王から斜め後ろをとった感じ?」
「ああ、そうじゃな。で、こいつが桂馬。進み方は一マス飛んで斜め前じゃ」
「なんて?」
「一マス飛んで斜め前じゃ」


 将棋のルールは思っていたよりも難しくて、わたしは駒の動きもすぐに全部は覚えられなかった。村上さんは、わたしが覚えた範囲でできそうな詰め将棋のページを開いては考え方を教えてくれた。

 レクチャーは三番手にやって来る女の子が教室の扉を開けるまで続いた。ほかの子が来たからってべつにやめる必要はなかったのだけど、どちらからともなくふたりプレイの詰め将棋は終えられた。ドアが滑る音が聞こえた瞬間に村上さんは本をすっと引き上げたし、わたしにとっては、教室内に三人いる状況で二人だけで話し込むということに抵抗があった。

 それでも最後に確認しておきたいことがあって、わたしはこっそり質問を送る。

「村上さん、明日も早いの?」

 額面の裏側に真意を隠した。本当の質問は〈明日も教えてくれる?〉だ。迷惑だと思われていないかが心配だった。心配でもわたしはまっすぐに訊ねられない。

 村上さんは「今日とおんなじ時間に来るじゃろうな」と言った。算数の公式をそらんじるように抑揚もつけずに、なんてことない当たり前のことを言うみたいに。

「変える理由がないけぇ」

 その返事がどんなに嬉しかったか、ちゃんとわかってくれるひとはきっとあんまり多くはいないだろう。


 わたしは次の日も揚々とお母さんに嘘をついて早朝の学校を目指した。嘘が嘘じゃなくなるのも近い気がしていた。鯉を数えるのはやめてしまったけど、きっとたくさんいたんだろう。その日には飛車と桂馬の動き方と、成りの仕組みを覚えた。

 連休の訪れが、嬉しい半面に複雑だった。学校が休みになるのは嬉しい。だけどわたしの両親は共働きで忙しくて、まとまった休みだからとどこかへ連れて行ってはくれない。ついでに休みを一緒に過ごす友だちがいないから休日の間はひとりで暇をつぶすしかない。

 くわえて、いまは村上さんと会えなくなることも残念だった。わたしはその日の昼休みに図書館へ行って一冊の本を借りた。――〈やさしい将棋のはじめかた〉。われながらなんてわかりやすいんだろうとは思う。

 わたしの休日は穏やかに過ぎていった。普段よりもちょっとだけ多く出された課題はすぐに済ませ、残った時間は教本の理解に努めた。こうして読んでいると村上さんの教え方がいかにわかりやすかったかに驚いた。あるいは丁寧に形式張った説明がわたしには向かなかったのかもしれない。隙を見ては萎えそうになる心を無理やり奮い立たせた。そうして休みがあける頃には、わたしはすべての駒の動き方と初歩的な軍略を頭の中に収めてみせた。


 休みの終わりに思いを馳せたことは、思い返せばこのときが初めてで最後だった。そんな気持ちがぶくぶくと大きくなりすぎたのだろう、わたしは金メッキの週間が明けた最初の登校日にいつよりも早く家を出た。村上さんよりも先に着くかも、とランドセルを背で振り回し、事実それはそのとおりになった。

 わたしが校門をくぐると、車のエンジン音が後ろで響いた。振り向くと真っ黒な車が小刻みに車体を揺らしてうなりながら停まっていた。つやつやとした車体には濃い灰色か薄い黒色かの窓ガラスがはめてあり、その中が望めない。幼い心に運転が不安にならないのだろうかなどと心配した。その車から村上さんが出てきた。

 わたしと目が合った村上さんは、いつもの冷静な表情が崩れ、目はまん丸くなってしばたたいていた。

「おまえ。なんでこんな早いんじゃ」

「ちょっと早くに出ちゃったから」わたしは答えになっていないような返答をした。「村上さん、家の人に送ってもらってるの?」

 村上さんが真っ黒い影の中に顔を入れてなにかを言う素振りを見せると、ただちに車は発進した。走り出してすぐにエンジン音のテンポが変わり、タイヤがかくんと跳ねる。ミッション車だ、と思った。

「……そうじゃ。いらん世話じゃ言うとるんじゃがのう。周りも気にするけえ」

「いいなあ」と深く物事を考えずにわたしは言った。

 送迎にかかる労力だとか、それをいとわない愛情だとか、過保護への煩わしさとか、そういう小難しい感情は一切なく、ただ登校で楽をしているらしいという一事をもってしてわたしは「いいなあ」と言ったのだった。


 村上さんは拍子抜けしたように眉尻を下げて、次には笑った。

「なんじゃ、力抜けるのう」
「なにそれ?」
「なんでもええわもう。早う行こうで」

 わたしたちは並んで職員室へ行き、鍵と日誌を預かって、教室では分担して日直の仕事をやった。わたしはグッピーに餌をやってから黒板の日付を直し、村上さんが花瓶の水を変えていた。生けられた花は休みの間にフリージアに変わっている。

 腕を伸ばしきって黒板の日付を変えていると、「字ぃ下手じゃなあ」というつぶやきが後頭部にこつんと当たった。

 こちらに転校してきてからというもの、六年二組の黒板右上すみで日付を知らせているのはずっと達筆な漢数字だった。控えめに言ってわたしの角が丸まった文字は見劣りしている。

「どうやったら上手く書けるの?」
「修練の賜物じゃ」

 席に座ると、村上さんは半身を向けて「やるか?」と言った。わたしは力強くうなずいた。

 わたしは駒の動きをすべて覚えていた。そのことを伝えると村上さんは素直に称賛をくれた。そうして「そんじゃあひとりでやってみるか」と渡された〈詰め将棋中篇〉ですこんと挫折した。


「やっぱりセンスがないんかのう」

 村上さんはしみじみと言った。なまじっか根拠もない自信がかぼちゃみたいな強さで芽生えていたせいで、言葉は以前よりなお深くにしみじみと突き刺さる。耐えかねて机にへたると村上さんの顔が下から伺えた。長いまつげとくっきりした二重のまぶたが楽しそうにひしゃげていた。

 村上さんの手がおもむろに自身のランドセルに入っていって、出てきたときに握られていたのは既視感を覚える本だった。〈詰め将棋入門〉。似たデザインの中篇では表紙の挿絵でサルが将棋をしていたけど、入門ではニワトリが将棋盤と向かっていた。

「これはうちがだいーぶ昔やっとったやつじゃが」と前置き。「貸しちゃろうか」

「……センスなくてもできる?」
「なけりゃあ鍛えりゃええじゃろ」

 村上さんがあんまりこともなく言うので、わたしはつい顔の前で揺らされる本を掴んだ。

「……ねえこれ、対象年齢八歳以上って書いてる」
「おお、ちょうどええな」
「ちょうどいいとはなんだ!」

 怒ったふりを見せたつもりが、わたしは笑っていて、村上さんも同じように笑っていた。そのやり取りを無性にいとおしく思ったのを覚えている。


 五月の空は紺碧に輝き、日差しは柔らかく、時間が優しく過ぎていった。わたしと村上さんの早朝のひとときは完全な日課となった。靴箱が上下に並んでいるから、登校した時点でどちらが先に着いたのかがわかる。先手を取った方が職員室へ寄り、だいたいは村上さんが先だったけど、日直の仕事を肩代わりした。

「村上と仲ようなったんか」

 わたしが先着した珍しいある日、先生に訊ねられた。先生はパソコンに目をやりながら、わたしの方は向いていなかった。二度目になる質問にわたしが返事をする前に、先生が言葉を継ぐ。

「あれはええやつじゃろう」

 わたしはきょとんとした。というのも、先生が村上さんにいい印象を持っているとは思っていなかったからだ。先生は彼女の状況をほとんどほったらかしにしているように見えていた。先生と彼女との関係が気になったけど、目の前に突き出された学級日誌の見開きがわたしの口をふさいだ。

「それから、おまえもええやつみたいじゃのう」と先生は言った。日誌は少し前、わたしが担当した日を開いてあった。

「どうしてですか?」
「村上のことを告げ口したんはおまえだけじゃけえ」


 備考欄にはわたしの丸文字が、村上さんが日直の仕事を代わりにやってくれていたことを伝えている。村上さんはいまのクラスになってからずっとその仕事を担っていたようだった。わたしは知らなかったけど、ほかの子たちのあいだでは周知だったみたいで、我が二組では日直当番だからと早くに来る規則はもう効力を失っているのだ。わたしはそれが当然になっているのがちょっとだけ嫌だった。

「怒っとったぞ」
「え?」
「村上がな。余計なことしゃーがって、とか言うとったか。まあ照れ隠しじゃなァ、うちも頭ァ撫でくりまわしたったんに」
「……それは先生に怒ってたんじゃないですか?」

 そう言うと、先生は伸びやかに笑っていた。


 わたしと村上さんの関係は密やかなものだった。基本的にお話をするのは朝の二人きりのあいだだけ、それ以外の時間は顔を合わせることだってあまりなかった。村上さんがそう望んでいる気がしていて、わたしはその望みに適うのがやぶさかじゃなかった。朝だけに繋がり、なにかが紛れ込むことのない、ほとんど誰にも知られていないわたしたちのあいだがら。――それもなにか特別のようで素敵だった。

 わたしが借りた〈詰め将棋入門〉には六十六の問が収録されていた。わたしは一日におよそ三題のペースで入門書を消化していった。センスに欠けていたらしいとはいえ、対象年齢を三つ四つ上回るわたしの年齢はどうにか駒を適切に動かしてくれた。ページに振られたナンバリングが後半になるにつれ盤面は複雑になって、わたしが悩む素振りを見せると、そのたび村上さんがヒントをおり混ぜた茶々をとばしてくれた。そのうちに彼女の中篇は上級に変わっていた。

 紺碧の黒みがかりは日を重ねるごとに少しずつ強くなり、いつからか雲間にたくわえられた春の湿気が初夏の雨粒に変わり始めていた。しずくが溢れると季節は梅雨になった。雨模様の空は広島と東京でそう違いがないように見えた。

「明日は対戦しようよ。入門編、終わったし」
「ほぉ。まあええぞ。八歳児をひねるんは心苦しいがのう」
「同い年でしょ!」

 雨音に閉じ込められた教室でわたしたちは約束を交わした。


 ――そして、約束は果たされなかった。わたしたちの関係は密やかなものだった。だけどそれは完全に閉じた秘密ではなくて、覆いは自由に破れていた。わたしたちの朝を知っているひとはいくらかいたのだ。


 無垢な善意がわたしに届けられたのは、ちょうど約束をした日の昼休みだった。

 給食の当番にあたっていたわたしは配膳室までクラス分の食器を返しに行っていた。その帰り道、渡り廊下で呼び止められ、振り返ると同じく当番だったクラスメイトがひとり立っていた。わたしは〈おかず(大)〉の配膳係で、彼女は〈牛乳〉。

 わたしの胸は知らず弾んでいた。村上さんと親しくなっている自負はこのころもうわたしの手のひらにちゃんと乗っかっていたけど、だからといってほかの子と仲良くならなくていいとばかりに手元だけを見つめていたわけじゃなかった。

 くわえてそのクラスメイトは、いつも決まって、朝は三番目に来ていた女の子だった。彼女の登校をきっかけにわたしと村上さんはいつも話をやめていたのだ。この子とも一緒に過ごせたなら、それはきっとそのほうがいいに決まっている。「なに?」と、自分でおかしくなるくらい明るい声が出た。

 女の子は言いづらそうにしていた。前髪を直したり、つま先で床を叩いたりしながらおずおずと口を開く。予兆をいいように解釈して、わたしはいよいよ喜色を持て余しそうになった。

「……あの、最近ね。村上さんと仲良うしとるじゃろう。ほら、朝とか」
「うん。まあ」
「それな、やめたほうがええよ」

 ――耳を疑った。しかし視覚が聴覚を裏付けた。女の子のかわいそうなものを見る目に気づいた。


 たかぶりが一気に冷めていった。屋根を越して雨の冷たさだけがシャツの襟首から背筋に入り込んだ。少しのあいだ、目の焦点が合わなくなった。渡り廊下の近くでトタン屋根の小屋を打つ雨音が横たわっていた。あたりは湿度で満ちていたのに、舌が根元から枯れたみたいになって、うまく訊ねられた自信がない。たぶん、どうして、とか、なんでそんなこと言うの、とか、そんなようなことを絞り出したのだと思う。

「引っ越してきたけえ知らんのじゃろうけど――」

 ぼやけていた視界が、やがて同情を浮かべた顔色に収束していく。


 告げられた事実は、信じられなかったというよりは、信じたくなかった。調べればすぐにわかることだったから、信じざるを得なかった。

Rが来そうな気配ないけど
間違って立ててませんか?
立て続けに起こってるんで何か不具合では


 翌朝、わたしは久しぶりに平日を朝の七時まで眠っていた。よく噛んで朝ごはんを食べて、心持ちゆっくりと身支度を済ませた。背負ったランドセルが妙に重たかった。

 登校するとクラスの雑談が廊下まで漏れていた。ドアを引くとほんの一瞬だけ賑わいがしぼみ、また膨らんだ。それぞれの会話のあいだを縫って、わたし宛に「おはよう」が届いた。差出人はすぐそばの席に座る、昨日わたしに善意をくれたクラスメイト。わたしは挨拶を返してから自分の席に向かった。無言で本をめくっている村上さんの隣を通らなければいけない。わたしはその顔を見れなかった。

 椅子を引いて、座る瞬間に前の席の机の中が見えた。教材にまぎれる将棋盤の茶色いマス目。胸が一気に締まって、のどの近くまで鼓動を感じた。

「今日は遅かったんじゃな」

 彼女は振り向かずに言った。わたしは暴れる罪悪感を飲み下そうとした。

「うん。ごめんね」
「明日も遅うなるんか」

 均したようにまっすぐ平坦な声色だった。

 わたしは何も応えられなかった。――それなのに。

 村上さんは「そうか」となにもかもを察したように呟いただけで、わたしは自分勝手にひとり泣きそうになっていた。


 わたしと村上さんの席は窓際で前後だった。彼女が前で、わたしが後ろ。そのときを境に村上さんは後ろを向くことがなくなって、わたしから彼女の肩を叩くことはついにできなかった。それからまもなく小学生ならおおよそ誰もが待ち焦がれる小イベントがやってきて、わたしたちの距離を引き裂いた。

 くじ引きによる席替えの結果、わたしは窓際最後列を、村上さんは教室のど真ん中を割り振られた。わたしの隣になった女の子はやみくもに優しく、よくわたしに笑いかけてくれた。だけどわたしはたびたび遠くなった背中に目を引かれた。彼女はいつでもひとりで、場所を変えても変わることなく、堂々とそこにいた。

 村上さんがどうしてそうも泰然としていられるのかがわからなかった。教室の中で、ひとりぼっち。そのうえ周囲は明確に自分のことを拒んでいる。――親しくなろうとしたくせに、わが身大事で約束を破った裏切り者さえ同じ空間にいる。

 居心地のいいわけがないその箱庭で、それでも彼女は背筋を伸ばして生きていた。

 残った初等課程最後の期間は、わたしにとって非常に長く感じられた。それでも世界はきちんとした間隔を空けて夏と秋と冬とを順番に連れてきて、それぞれわたしの故郷とは違う風景を見せた。わたしはクラスメイトのつなぐ輪に少しずつ混ざっていった。村上さんはどの季節でも輪の空洞でひとりだった。

 そうして、春の兆しもまた、すぐ近くまで来ていた。


     *

 カレンダーが三月にめくられると、クラス中があきらかにそわそわしていた。だれもが卒業という一つの区切りを意識しなければいけない時期が来ていた。幼稚園や保育園からの旅立ちを覚えているひとというのは、たぶん珍しい部類になるだろう。だからわたしたちの多くにとってははじめてとなる明確な離別のときが近づいていた。

 予行練習や、卒業式のためと特別に組まれた音楽の時間のたびに、だれかしらが泣いていた。多くは女の子だったと思う。わたしははじめての離別を一年前に済ませていた。それでも感じ入るものは多少なりともあったから、きっとほかの子たちにとっては相当な哀愁があったのだろう。

 同窓会をしょう、とだれかが言い出した。立春を過ぎてひと月経つとは思えないぐらいに冷え込んだ日の昼休みに、これは男の子の声だった。

「おれらがみんな二十歳になって、酒飲めるようんなったら。地元の、どっか雰囲気ええ店に集まってよ。先生も呼んで、みんなで乾杯しようや!」

 その提案はほとんど満場の賛成をもって受け入れられ、その日のうちに〈同窓会企画委員〉が非公式に発足した。活動内容はごく単純で、クラスメイト全員の連絡先を八年先まで保持しておくこと。時機が来たら幹事として動くこと。


 どこかひとごとのように見えていたその一連の流れに、わたしは意図せず巻き込まれることになった。企画委員に任命されたのだ。わたしたちのクラスでは珍しく携帯電話を持っていたから、というのが主だった理由だった。これから先にそれぞれがどんな進路をたどるのかまだわからない以上、連絡先をまとめる窓口番号は変わらないほうが望ましい。正直断りたい気持ちは多分にあったけど、場の雰囲気に押し切られてしまった。企画委員はわたしのほかにもうひとりいて、そちらは男の子だった。

 放課後、黒板にはわたしと彼の電話番号がでかでかと書かれた。ノートの切れ端やメモ帳を破った一ページなどがわたしの机に集められ、そのどれもに名前と住所と数字の羅列が記されていた。ふたりして居残りして、書き間違えのないように自分のノートに慎重に控えた。その終わりぎわで彼がぐちをこぼした。

「ぶちめんどくせえわ……どいつもこいつも字ィきったねえんじゃ」

 その悪態通り、漢字と数字の入り交じる走り書きや強烈な癖字は読み取るのに時間がかかった。どれもこれもがそうだったから、わたしは写し終えて不要になる予定の紙片の山をもう一度ひっくり返した。不思議な目で彼がわたしを見ていたけど、そんなことはどうでもよかった。


 探したものは、どこにもなかった。――黒板を飾っているような達筆。それは予想通りでもあって、予想していた自分がいやになる。村上さん、と呟くと、彼が自分の作った目録に目を通した。

「ああ……そういや、ないのう。訊いたほうがええんかあ……?」
「わたしが」

 気づけば口が動いていた。なにかを考えていたわけではなかった。

「わたしが訊くから」

 何も知らない彼は当然に驚いた顔をしていて、だけどなにかを質問してくることはなかった。片眉を吊り上げたまま「ほうか。んなら任せるわ」とだけ言ってくれた。たとえ面倒事を任せたつもりであっただけなのだとしても、拒絶されないことが嬉しかった。

 猶予はすでになかった。卒業式はもうすぐそこに迫っていた。わたしは次の日の朝に早起きしてお母さんにいつかと同じ嘘をついた。結局、嘘は最後まで嘘のままだった。


 天気のいい日だったけど、早朝はどこもかもに霜が降りていた。寒風が晒してある膝と顔を撫で、吐いた息は白く染まり、返す吸気で入り込んだ冷気が内側からわたしを凍てつかせた。一歩々々が重たく、緊張からあまり眠れなかった頭も重く、わたしはただ歩いた。

 靴箱にはまだ一足の靴も入っていなかった。職員室に向かうと、先生が驚いた顔でわたしを迎えた。

「教室の鍵と、学級日誌。貸してください」
「……おう。ほれ」
「先生」
「おう」
「わたし、いいやつじゃありませんでした」

 先生はひとしきり頭をかき回し、わたしにかける言葉を探している様子だった。やがて顔をあげると、どうやら髪の隙間に探しものは見つからなかったらしく、困った顔で笑っていた。

「評価は保留じゃな。またいつかじゃ」

 教室は冷え切っていた。窓際のセルリアは根が落とされたことを忘れたようにここ一週間ほど咲き続け、いまだきれいだった。水槽のグッピーは一年を通して数を減らすことはなかった。黒板の〈三月九日〉は文句なしに上手に書かれていた。

 日直の仕事を終えたころには手の指はかじかんで痛みがしみていた。吐息であたため、自分の席から壁掛けの時計を見上げると、足音が聞こえた。


 その姿を認めると、鼓動の音が胸から一気にせり上がった。

 村上さんは感情をうかがえない無表情で、敷居をまたいだ入り口で立ち止まっていた。その視線はずっとわたしの目だけを見ていた。わたしがなにかを言い出すのを待ってくれていたのだと思う。無言のまま席について本を開かれたら、もうわたしからは話しかけることができないだろうから。それがわからないぐらい鈍くはないつもりだった。だからその優しさが痛くて仕方なくてうつむいた。

 時計の針が進む音とエアレーションの気泡の音が鮮明に聞こえた。この沈黙だけは、わたしが破らないといけなかった。


「……村上さん」
「なんじゃ」

 感情の断片をかき集めた。心臓の暴音に散ってしまったそのどれもが自責を記していた。

 ごめんなさい、としか言えなかった。とてもか細く、震える声で、うつむいたまま。自分にさえ聞き取りづらかった――その声を、それでも彼女は丁寧に拾い上げてくれた。

「……遅いわ。どあほう」

 村上さんは教卓の真ん前になっていた自分の席まですたすたと歩いて、机の中に手を突っ込んだ。

「いまからじゃあ、もう勝負つかんぞ」

 出てきたものを見て、耐えられなくなって、わたしは謝罪の言葉を繰り返しながら自分の席に崩れた。将棋盤のセットだった。後悔がじくじくと痛んだ。やりきれなかった。待ってくれていたのだと思うと。

 足音が近づいて、わたしのそばで止まった。前の席の椅子が引かれ、村上さんはなにも言わず、ただそこに座っていた。


 それから、少しだけ話をした。彼女の家柄のことや、先生のこと。もうすぐ卒業だということ。これからのこと。村上さんは「卒業したら東京に行く」と言った。あまり気乗りはしていない顔をしていた。

「いろいろ事情があってのう。中学も向こうじゃ」
「そうなんだ。……あっ」

 不意に忘れかけていたことを思い出して、わたしはランドセルからノートを取り出した。

「村上さん。電話番号――持ってたら、携帯の。教えてくれないかな。同窓会の連絡に使いたいの」
「ああ。そういやあなんか言うとったな」

 村上さんはノートを自分の向きに回して、鉛筆を手に取り、村上巴とまで達筆でさらさら書いた。だけどそこで手は止まって、わたしが首を傾けると「……やめじゃ」と言って鉛筆を転がした。

「え……どうしてっ」
「必要ないわ」

 きっぱりと言う、村上さんの顔は笑っていた。

「必要ない」


     *

 強い口調で打ち込まれた楔は、わたしの中からずっと消えなかった。

 擦り切れて端っこが朽ち始めているノートと卒業アルバムとを見比べ、わたしは両方を閉じた。一応の確認だった。当時何度も確認したし、もうひとりの企画委員もいまと昔で確かめていたけど、リストにもしもの漏れがあったら目も当てられない。

 あれからもう随分が経って、わたしは二十歳になった。自室の机には封筒がひとクラス分、四十通積み重ねてある。宛名書きは手でやるとなかなか面倒だったが、問題は特になく終わった。

 時計を確認してテレビを点けた。毎週楽しみにしている歴史モノのドラマの時間が近づいていて、点灯するとちょうどそのコマーシャルをやっていた。

 それはちょっと前に結構な話題を呼んだ。金曜ゴールデンという重要枠において、主題歌を歌う大役にはアイドルが起用され、そればかりかそのアイドルがドラマの主役をも担うという。

 金襴緞子の和服を着崩した赤髪の女性が、画面の向こう側で躍動している。その姿が似合いすぎていた。


「……必要なかったなあ、たしかに」

 机の上から一通の封筒をつまみ上げた。あの一瞬は、永遠の拒絶だと思った。だけど振り返って思い返してみれば、あの日の彼女は笑っていたのだ。形の良い眉ときりっとした目をひしゃげて、子どもみたいに。

 中学一年生の秋ごろ、わたしたちは村上さんに度肝を抜かれた。BGMの替わりに流していたテレビのバラエティ番組に、突如として彼女が現れたのだ。彼女は年齢に見合わないほどの威風堂々たるたたずまいで自分のために作られた演歌を一曲歌い上げ、そのあとの自己紹介で自身をアイドルだと称した。

 なにもかもが驚愕だった。わたしの通っていた中学校では七十五日を越えてその話題が持ちきりになったし、なんならご近所さんまでみんな口を揃えていた。――あの村上が。

 わたしはちょっとだけ心配したけど、それは不要なものだったのだろう。いまもこうして第一線で活躍を続けている彼女の姿がその証明だった。

 つまみ上げた封筒には住所が書き連ねてある。話題のアイドルが所属している事務所の住所と、末尾に〈村上巴様宛〉。

 投函すれば問題なく郵便が届けてくれるだろう。

 あとは参加してくれるかどうかだけど、

 ――その心配も、必要ない気がしていた。


     *

「巴ちゃーん。お手紙が届いてますよ」
「ちひろさん、ええ加減ちゃん付けやめえっちゅうに……お?」
「うん? どうかしました?」
「ああ、いや。なんでもないんじゃ……はは」

「――ヘタクソな字ぃしとる。変わっとらんのう」





おしまい。

やっぱ間違いか
最近多いよね

以上です。ありがとうございました。

あれっ、うわうわ、すみません、完全に間違えてました……!
申し訳ありません。

よい

おつおつ

こっちに立つ不具合があるっぽい

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