ある研究者の手記【遊戯王】 (17)
○□年×△月○○日
今日、宇宙より飛来した謎の物体を調査すべく、我々は招集された。
「星遺物」と名付けられた七つのそれを調査する研究所に、私は責任者として着任した。
あれらが偶然飛来したのか、それとも我々以外の何物かの意思によって飛来したのか。
ただのデブリなのか、それとも我々の常識を覆すほどの何かを秘めているのか。
我々の目的は、調査によってそれらを明らかにすることだ。
願わくば、これが停滞した我々の技術や文化を発展させるための礎とならんことを。
○□年×□月○×日
数ヶ月に及ぶ研究の中で、あの星遺物と名付けられた物体には、我々の想像を超える革新的な技術と未知のエネルギーが眠っていることが明らかとなった。
あれらが何故我々の星に飛来したのかは不明だが、私はこれらが、星の神からの贈り物に違いないと確信している。
その技術とエネルギーを利用可能なものとするため、我々は試験機たる一体のロボットを製作した。
今はまだ不完全なものだが、これが近い将来、大いなる技術革命をもたらすことは想像に難くない。
私はこのロボットを、未来への希望を込め「明星の機械騎士」と名付けた。
夜明けをもたらす星のように、このロボットは我々の世界を明るく照らすだろう。
○□年×□月○△日
研究員のひとりが裏切った。
彼女により操られた明星の機械騎士により、我々の故郷は火の海に変わった。
彼女の目的は何なのか。
何を思い、何のために、このような凶行に及んだのか、皆目見当もつかない。
だがその目的が何であれ、その過程で、彼女が我々の世界を滅ぼすことは間違いない。
彼女の凶行を止めるため、我々は一刻も早く、何かしらの手を打たなければならない。
○□年×□月○□日
彼女を止めるため、我々はある手段に打って出た。
明星の機械騎士を基に作り上げた新たな体に、我々の魂を移すのだ。
この体ならば、星遺物のエネルギーを直接扱うことができ、暴走する明星の機械騎士を止めることができる。
私を含め七人の研究者が、この作戦に志願した。
ヒトとしての肉体を失うことに未練がないわけではないが、彼女の凶行を止めるためならば、そんなものに執着などしない。
我々はヒトを超えた「機界騎士」となり、この星の未来のために戦うのだ。
○□年×□月×○日
死闘の末、我々は明星の機械騎士の破壊、及び彼女の肉体を滅ぼすことに成功した。
どちらも辛い決断だったが、それをしないという選択肢は存在していなかった。
我々は二度とこのような凶行が起こらないよう、七つの星遺物を離れた場所に散り散りにすることにした。
生き残った研究者たちが、それぞれの星遺物の下で新たな文化体系を築き、同時にそれらを守護していくのだ。
私は星遺物のひとつである「星杯」を管理する者に、星遺物を起動するために必要な「星の鍵」を託した。
そして、その森の民に、我々機界騎士の存在と成し得た事を代々に語り継ぐよう言いつけた。
×○年△○月××日
あの忌まわしき事件から、永い時が過ぎた。
かつての研究者たちは、我々機界騎士を除いて、全員がその魂を安らかに眠らせた。
機界騎士となった我々七人は「星盾」と名付けられた星遺物の下で、散らばった星遺物を永遠に管理していくことを選択した。
それが事件の発生を許した、我々としての責任の取り方だった。
だが最近、妙な胸騒ぎがする。
今は平和だが、これは嵐の前の静けさとでも言うのだろうか。
×○年△○月×△日
「星鎧」と呼ばれる星遺物の元に、突如として謎の虫が大量に発生した。
機械仕掛けらしいそれらは、瞬く間に、星鎧を管理していた民を滅ぼした。
我々はそれを機怪蟲と名付け、対策すべきかどうかを議論した。
だがその隙に、それらは自分たちの領域を飛び出し、あの星杯と呼ばれる星遺物へと進行を開始した。
現在、星杯を管理する森の民と機怪蟲との間で、激しい戦闘が行われている。
徹底的な管理の元に保たれていた平和が、音を立てて崩れていくような、そんな悪い予感がしてならない。
×○年△×月×□日
恐れていたことが起きた。
今朝、あの星杯が起動したことを、我々全員が感知した。
何物かが偶然起動してしまったのか、それとも何らかの目的のために起動させたのか。
いずれにせよ、我々には早急な対処が求められている。
現状、我々が最も危惧していることは、彼女の復活だ。
もしもこれが、彼女によって引き起こされたのなら、我々は再び戦いの準備を整えなければならない。
×○年△△月△○日
今日、星杯に続き、星鎧までもが起動した。
星杯の力を得た謎の一行が、機怪蟲を滅ぼし、星鎧の力をも得たのだ。
調査により、一行は少年と青年、少女と森の竜、そして一匹の妖精によって構成されていることが明らかとなった。
少年は星遺物の力を操り、青年は卓越した戦闘技術を誇り、少女は星遺物を起動する星の鍵を持ち、竜は未知の力を秘めている。
しかし、私が最も危険視しているのは、彼らと共に行動するあの妖精だ。
今まで一切存在を匂わせなかったあれは、今回の一連の出来事に深く関わっている可能性が高い。
×○年△△月△×日
あの一行の次なる目標は、どうやら我々の管理する星盾のようだ。
我々はここで彼らを食い止め、一連の出来事の収束を図ることにした。
我々は彼らに奇襲を仕掛け、星の鍵を持つ少女を連れ去ることに成功した。
何よりもまずは、少女から星の鍵を預かり、これ以上の星遺物の起動を阻止することが重要だ。
しかし少女との対話を試みると、どうも我々と少女の間に、大いなる認識の相違があることが判明した。
少女は、我々が悪意によって、星の民を分断していると思っていたようだ。
×○年△△月△△日
作戦は失敗した。
少女を奪還しに来た一行との戦闘の中で、私は妖精から意識を離してしまった。
一瞬の隙の内に、あの妖精は少女を連れ去った。
そして次に姿を現した時には、少女は既に手遅れだった。
やはり、あの妖精が全ての元凶だったのだ。
あの妖精が彼女であることに、もっと早く確信を持つべきだった。
×○年△△月△□日
彼女は少女に取り付き、星遺物の圧倒的な力を容赦なく振るった。
我々七人も、その肉体とエネルギーを一つに束ね、全力で応戦した。
しかし、我々は虚しくも敗北した。
他の六人は、直前に私のみを分離させ、彼女の一撃から私を庇った。
仲間を喪った事実が、今は私の心に暗い影を落としている。
それでも、私はこれを乗り越え、彼らが遺した希望を現実のものとしなければならない。
×○年△△月□○日
私の勝利は絶望的であることを悟った。
そもそも、七人の力を合わせても勝つことのできない相手に、たったひとりの力で立ち向かおうとすること自体が愚かなのだ。
彼女は、かつての仲間であった六人の魂を、醜悪な怪物へと変貌させた。
眠ることの許されない魂は安らぎを求め、哀しき悲鳴をあげながら暴れている。
今はあの青年が戦っているが、それもいつまで持つかわからない。
私にできることは、それまでにこうして記録を残すことくらいだ。
×○年△△月□○日
さっきまでの私はどうかしていた。
たとえ絶望的でも、仲間から託された希望を捨てるなど、絶対にしてはならないのに。
私では、彼女に勝つことはできない。
だが、その可能性を持つ者はいる。
あの星遺物の力を操る少年だ。
星遺物の力に適応するという意味で、彼女にとても近い彼なら、或いは彼女を止めることができるかもしれない。
×○年△△月□○日
まもなく、私は少年と共に最後の戦いに出る。
私はきっと、為す術もなく敗北するだろう。
そのときが来たら、私は、この体に宿る全ての力を少年に託すつもりだ。
それこそが、この星のために私が取れる最善手なのだから。
この戦いの果てに、この星に再び平穏がもたらされるように。
そして願わくば、この先に訪れる運命に、少年が絶望してしまわないことを。
終わり
コナミは早く星遺物のストーリー公開して
不知火と魔翌妖のストーリーも気になる
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