【艦これ】伊勢「変わるもの、変わらないもの」 (27)






「かつて、戦艦『伊勢』は世界史上最大の海戦に参加するためにレイテ沖を航行した───」






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───── 1944年10月


日向「……」

伊勢「どうしたの日向? 怖い顔しちゃって」


日向「……今度の作戦、聞いたか?」

伊勢「私たち四航戦は機動部隊本隊だってね」

日向「機動部隊本隊か……聞こえは良いが、敵機動部隊を北方へ誘致し、第一遊撃部隊の湾突入を支援することが主目標だ」

日向「我々は勿論、軽空母勢はおろか旗艦の瑞鶴にすらろくな艦載機が無い」


伊勢「……」







日向「つまりは『囮』だ。レイテ湾突入、勇猛果敢で大いに結構。だがこれが作戦と呼べるのか……?」

伊勢「日向……」


日向「……すまない、少し頭に血が上ったようだ」


伊勢「……不安なのは私も同じだよ。でも、やるだけやらなきゃ」

伊勢「積める艦載機が無い分、飛行甲板に対空機銃や噴進砲を設置してもらった訳だしさ」

伊勢「秋月ちゃんたちみたいに……私たちが率先して空母の皆を護ってあげなきゃ! 今の私たちは航空戦艦どころか防空航空戦艦なんだから!」


日向「ぷっ……ふふふっ」

伊勢「あーっ! 人が真面目な話してるってのにー!」

日向「ゴホゴホッ、い、いや……言い難いにも程があるだろう。ぼーくーこーくーせんかんなんて……」フフフ







伊勢「……少しは気が晴れた?」

日向「……あぁ、お陰様で。それに、大した火力も艦載機も無い中矢面に立たされる空母たちの手前、腐っても戦艦の私たちが弱音を吐く訳にはいかなかったな」

伊勢「そうそう、弱音を吐いて良いのは私の前でだけだからね」

日向「何を言ってるんだまったく……それにしても、強いな、伊勢は」

伊勢「へへっ、そりゃそうだよ。だって───」



伊勢「妹を励ますのは姉の役目だもん」







この後、伊勢と日向はいわゆる「小沢艦隊」隷下の艦としてレイテ沖海戦に参戦。

弾幕射撃と効果的な回避運動が功を奏し、敵機を撃墜する一方、ただの1発たりとも直撃弾を受けることはありませんでした。







伊勢「取舵で回避っ! ……もう一度取舵っ!」







しかし、敵機動部隊を引き付ける囮という役割は果たされたとは言い難く、日本側は空母4隻、戦艦3隻、重巡6隻を含む多くの艦艇を失い大敗。

この空母4隻というのは「瑞鶴」・「瑞鳳」・「千歳」・「千代田」のことであり、全て小沢艦隊に属していた艦でした。







伊勢「瑞鳳が……」

伊勢「……」

伊勢「……っ!! 機関停止! 生存者を救助するよ!」







伊勢は敵機の空襲が続く中あろうことか停船し、沈没した瑞鳳の乗員の救助作業を実施。

実に98名を救助することに成功しています。







伊勢「えぇと、ガソリンに生ゴムに錫……と」

伊勢「戦艦から航空戦艦になって、今度は輸送艦に鞍替えかぁ。次は何になるのかな、私」







レイテでの大敗後、伊勢は撤退・物資輸送を兼ねた「北号作戦」に参加し、日向ともども「完部隊」を編成します。

制海権・制空権の無い中、伊勢の甲板上には可燃性の高いガソリン入りのドラム缶が所狭しと置かれていました。

1発でも被弾すれば致命傷間違い無しのこの状況下で、伊勢を含む完部隊は1隻も欠けること無く、日本への帰投に成功します。







伊勢「もう自分が動くための燃料も無い……」

伊勢「……! 空襲!? こんな時に……!」







日本に戻った伊勢を待っていたのは、燃料不足による「予備艦」、すなわち浮き砲台という役割でした。

広島県は呉の港にて停泊を続けますが、終戦まで1か月を切った1945年の7月、1,000機近い敵航空機による猛攻を受けます。


そして───







伊勢「……」


伊勢「……日向、無事?」


日向「……お世辞にも無事とは言えんな」

日向「大破着底、外洋なら沈んでいるところだ」


日向「伊勢はどうだ? 大丈夫か?」

伊勢「私も同じだよ。さすがに修理してもどうにもならないかな、これは……」







伊勢「……周りも酷いや」

伊勢「あっちは榛名、こっちは天城、青葉に利根」

伊勢「呉の街も……」







《堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ───》



伊勢「戦争、終わったってさ」

日向「そうか」


伊勢「私たちの負けだって」

日向「……そうか」







伊勢「夜空が綺麗だね」

日向「今までは空を見上げても気が気ではなかったからな」

伊勢「ふふ……確かにね」


伊勢「外洋で見た星空も圧巻だったけど、日本の空が一番綺麗に見えるよ」

日向「あぁ、まったくだ。こんな有り様だが日本に帰れたのは何よりだったな」







伊勢「……あ、流星!」

日向「何っ! ……って、流れ星か、紛らわしいな」


伊勢「何をお願いしたのさ、日向?」

日向「そんな暇は無かったさ……そう言う伊勢はどうなんだ?」

伊勢「へへへ……秘密~」


伊勢「それに日向、お願い事ならお伊勢さんの地元が由来の私を拝みなさい」ドヤ

日向「むぅ……どうも誤魔化されたような気がするが」

伊勢「ギクッ! な、何を言うのやら……」ハハハ

日向「……こうも露骨だと追及する気も失せる」ヤレヤレ

伊勢「何をーっ!」







伊勢(いやいや、小っ恥ずかしくて言えないよ)

伊勢(生まれ変わってもまたこうして日向と姉妹になれますように、なんてね)



……………
………








───── 2013年11月 広島県 呉港


いせ「……ひゅうがから通信?」


いせ「何? どうしたのひゅうが?」

ひゅうが《直接見送りには行けないからな、どうしてるかと思って》

いせ「向かう場所が場所だからねー。因縁めいたものは感じるよ、やっぱり」

ひゅうが《レイテ湾か……》

いせ「今度は湾内には何事も無く進入できるだろうけどね」







ひゅうが《そうだな。それにしても、現地は例の台風で相当に酷い状態らしい》

いせ「らしいね……だから、湾内に入ったその後が勝負だよ。『サンカイ作戦』の」

ひゅうが《さんかい……? どういう意味なんだ?》

いせ「『友達』。現地語で」

ひゅうが《成程な、トモダチ作戦か》

いせ「そうそう。1人でも多く助けて、海自の伝統ここにありってところを見せてくるよ!」


ひゅうが《……》

いせ「……? ひゅうが?」







ひゅうが《……弱音は吐かないんだな》

いせ「え?」


ひゅうが《妹を励ますのは姉の役目だと誰かが言っていたからな、気構えをしていたんだが》

いせ「……へー、良いこと言う人がいたもんだ」


いせ「でも、励ます必要は無いよ」

ひゅうが《ほう、やる気は既に充分という訳か》


いせ「……2年前の震災の時、私は就役したばかりでさ、何もできなかった」

いせ「ひゅうがはバリバリ働いてて、姉妹艦として誇らしくもあったけど……悔しくもあったんだ」

ひゅうが《……》

いせ「だからさ、その意味でもリベンジなんだよ! 今度のレイテはね」







ひゅうが《……あぁ、きっと果たせるさ。何せこの私の妹なんだから》


いせ「お墨付きいただき光栄です、ひゅうがお姉様」

ひゅうが《まったく……》

ひゅうが《それでは、くれぐれも気を付けてな。通信終わり》プツッ


いせ「ふふ……よっぽど姉になれたのが嬉しいんだね、ひゅうがの奴は」

いせ「さて、準備も整ったところで───」



いせ「ヘリコプター搭載護衛艦いせ、出港します!」








「かつて、戦艦『伊勢』は世界史上最大の海戦に参加するためにレイテ沖を航行した」









「しかし、同じ名前の護衛艦『いせ』は、救援・思いやり・連帯を被災者に届けに、平和の使者としてレイテに戻って来た」





────────── 終わり



以上になります。
伊勢改二おめでとう記念。

艦娘モチーフの史実系SSもかれこれ3本目になりました。
今回の話は結構有名なので、ご存知の方も多いかと思います。

それでは、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


以前書いたもの↓
・春風「その時、海は歴史を見つめておりました」:【艦これ】春風「その時、海は歴史を見つめておりました」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515601825/)
・加賀「こんな夢を見ました」:【艦これ】加賀「こんな夢を見ました」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1527046033/)

おつ、こんな感じの作品は大好きです

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