モバP「前職、モデル」 (40)

アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。






きっと私は、あのとき道を外れてしまったんでしょうね





――事務所

PM11:00

        
P「やれやれ、これでひとまず区切りか……久しぶりに日付跨がずに帰れるなあ」

pipipi……pipipi……

P「ん……」



『とある街角 とある路地の奥 
 都会の暮らしに疲れた人々の心を 癒してくれる店がある
 癒されBar こいかぜ

 今夜もひっそり 営業しています』


『今宵はSpecial Day♪ ちょっと、酔っていきませんか?』



P「はは、明日がオフだと見透かしたかのような営業だな」

P「……帰る前に、ちょっと、寄って行くか」



(事務所からほど近いマンションの一室。そこは、アイドル高垣楓の居宅であると同時に、俺の行きつけのバーでもある)

P「最初の頃は、ここに来るのも緊張してたな」

(ホテルライクなエレベーターホールで彼女の部屋の番号を押すと、ほどなくして応答があった。が、妙な指示もあった)

『はーい、今開けますね』

P「ありがとうございます」

『それじゃ、家の方の鍵は、私が開けてから10秒数えて入ってきてください。必ず待ってから開けてくださいね。約束、ですよ?』

P「? 分かりました」


(謎の念押しに首を傾げつつも応え、自動ドアを抜け、1階に停まっていたエレベーターに乗り込む。彼女の部屋に着くまで、ものの1分。しかし、今の自分にはその僅かな時間すら待ち遠しい)


P「10秒、か。また何かお茶目なことを考えてるのかな」

(物思いに耽る間際、ほとんど重力を感じさせずにエレベーターが止まった。足音の響かない絨毯敷きの内廊下に踏み出し、自らの安アパートとの差異を毎度のことながら思い知らされる)

P「本当に、すごい人をプロデュースしてるもんだな……」

(呼び鈴を鳴らすと、待ちかまえていたように錠が外れる。反射的にドアへ手を伸ばしかけて止め、たった10秒を、ひとつひとつ数える)

P「さて……おじゃましまーす。やっぱり、奥に引っ込むための時間だったみたいだな」ガチャ



(整頓された、というか生活感の薄い玄関に入り、オートロックの音を背に靴を脱ぐ。ごく短い廊下を抜けると――穏やかな照明、控えめな音楽、適度な空調――家主の人柄の様な極上の空間が俺を出迎えた。そして、)


楓「いらっしゃいませ、プロデューサー。お仕事、お疲れ様です」ヒョコッ


(その部屋の主は、キッチンに下がった暖簾から顔だけを覗かせた)


P「ええ、楓さんこそ、お疲れ様です」

楓「とりあえずビール、でいいですか? 晩ご飯は?」

P「はい、お願いします ……ええと、お腹はぺこぺこです」

楓「くす……はい、分かりました。それじゃ、もう少し、待っててくださいね。キッチンで、きちんと準備して、お持ちしますから」

(そう言うと楓さんはにっこり笑い、再び暖簾の奥に消えてしまった)

P「……顔以外見えなかったけれど、ワザと、かな」

(楓さんの家での宅飲みを『癒されBar』なんて呼ぶようになってから結構経つ)

(事務所全体が顔も名前も売れてきて、なかなか外では落ちついて飲めなくなって。自然の成り行きの様に、家で飲むことが多くなった。『芸能人御用達』な店も勿論お互い知っているけれど、思い付きでは予約が取りづらかったりするし)

楓「~~~♪」カチャカチャ

(ジャズのボーカルの隙間から透き通る、楓さんの鼻歌。残業続きで乾いたスポンジの様になっていた心身に、清い水の様に染み渡る)

P「あっちも仕事明けで疲れてるだろうに……」

(彼女も暫く仕事続きだった筈だ。その貴重な時間をあてがってくれることに、感謝は勿論、多少の自惚れも禁じえない)


楓「お待たせしました、プロデューサー!」

P「お、来た来た。お邪魔してます、楓さ……ん?」


楓「いらっしゃいませ、楓'sダイナーへようこそ!」バァー-z__ン


(五重塔のごときバカバカしいサイズのハンバーガーとシュレッダーからひっくり返したような量のポテトの載った大皿を片手で支え、もう片手には瓶ビールとグラスを、そして器用にポーズまでとってそのウェイトレスは現れた)

P「楓'sダイナー……今日は癒されBar こいかぜはお休みですか?」

(音楽がいつの間にかロックに変わってる!)

楓「急きょ営業形態を変更しました」エヘーン

P「でも……その格好は用意してたってことですよね」

楓「女は、レディーが肝心ですから♪」


(そうのたまってウィンクかます彼女の服装は、まさに以前の仕事の通りのウェイトレス姿であった。ただし、それはビニール素材の、見るからに安っぽい出来栄えで、パッと見ただけで3か所、オリジナルとのデザインの相違があった。ちなみに頭のリボンはちゃんと付いていたが、足元はスリッパだった)


P「ド○キにありそうな感じですね」

楓「よく分かりましたね。この間、皆さんと飲んだ勢いで○ンキで買ったんですよ。『あの人気ダイナーのウェイトレスに!』ってPOPが付いてました」

(まさか本人が買いに来るとはメーカー側も思わなかっただろう、と名も知らぬ製作者に思いを馳せていると、目の前にそっとトレーが置かれ、五重塔が鎮座し、そしてその横にグラスが屹立する)

楓「はい、ビールです」トプトプ

P「あ、ありがとうござ……」

楓「…………」トプトプ

P「…………」

楓「……ダイナーでビールを、ちょうだいなー」ジー

P「……ぷふ、はは……、わかりました、分かりましたよ、可愛らしいウェイトレスさんにも1本」

楓「ありがとうございます♪」

(言うが早い、そそくさ自分の分を準備するウェイトレスであった)


P「それじゃ、いただきます」

楓「どうぞ、召し上がれ?」

P「で、その前に、乾杯」

楓「かんぱーい?」


(チン、小気味良い音を皮切りに同時にグラスを煽る。完璧な配分で供された泡を突き抜けよく冷えた金色の波が打ち寄せ、舌がキリッとした苦みに浸される。業務以外では久しぶりの酒精が、喉に詰まっていたわだかまりごと、腹の底に落ちて行く)


P「ごく、ごく……ふぅ」プハー

(ひとしきり喉を鳴らし、グラスを置く。大げさな物言いだが、久しぶりに深呼吸した気がした)

楓「んく……ん……ふぅ……あら、良い飲みっぷり、もう全部飲んでしまわれたんですか?」

P「あ、ホントだ……思ったよりもアルコールに飢えてたみたいだ。しばらく、付き合いばっかりだったからなあ」

楓「……おかわり、お持ちしましょうか?」

P「ええ、おねがいします」

楓「はい、喜んで」

(今のやり取りのどこか一瞬――サブリミナルのように――彼女は見たことのない表情になった気がした。が、それを確かめる間もなく、次の瞬間には、いつもの柔和な頬笑みがあった。その彼女に、空になったグラスを差し出した)



ごく、ごく……

P「ふぅ、それじゃそろそろ、ハンバーガーをいただくとするか……これはまさかお手製?」

楓「だったらよかったのですが……近所のカフェからテイクアウトしたんです。でも、かなり人気みたいですよ。夜遅くまで営業してるから、今日こそはって。あまり並ばなくて幸いでした」

P「そうだったんですね、俺のためにわざわざありがとうございます。しかし、どうやって食べればいいんだ? 楓さんの顔くらいあるぞ」

楓「私もそう思って聞いてみたら、そのバーガー、口を、ガバーっと開けて思いっきりかぶり付くか…ナイフとフォークで切り分けて食べるみたいですね。取ってきましょうか?」

P「いいえ……よしっ」ガバー

楓「!!」


がぷ、


P「フゴフゴ」

楓「まあ……みちるちゃんみたい!」クスクス


(思い切って食い千切ったつもりだったが、いくつかのバンズとパティとレタスの層を貫いたところであえなく犬歯が埋まってしまい、身動きが取れなくなってしまう)

楓「うふふ、がーんばれ、がーんばれっ」

(くすくす笑い混じりの応援を受け、気を取り直して顎に力を込める。この時点で、小綺麗に食べようという考えは放棄していた。たっぷりの肉汁とトマトの酸味が舌の先から付け根に沁みいるのを感じつつ、歯を沈めていく)

むしゃむしゃむしゃむしゃ、

P「んぐん……むぐん」

楓「まあ!」

(ようやく口を離したが、それでもバーガーには虫食いのような中途半端な歯型が付くばかりで、豪快さとは程遠い有様だった。俺はハムスターのごとく膨れた顔を掌で隠しつつ、謎の敗北感をも噛み締めていた)

楓「美味しかったですか?」

P「フゴフゴ…ごくん。ええ、とってもおいし…」

楓「あら…プロデューサー、ちょっとそのままで…」

P「?」

(控えめなマニキュアの指がまっすぐに俺の顔に伸びて、慎重に、鼻先をすくった。今まで握っていたビールの、微かな涼感)


P「ん…ああ、何か付いてましたか。すみません、慎重に食べたつもりだったけど…難しいな」

楓「やっぱりちょっと大き過ぎたかしら…せっかくだから一番大きのって思って、つい」

(ティッシュで指先をぬぐいつつ、自分の顔と同じくらいの大きさのバーガーを恐る恐る眺めている楓さん。それを、ビールで口内を洗い流しながら見ているうちに、ふと、いたずら心が湧いてきた)

P「ねえ、楓さん」

楓「はい、何でしょう、お客さま」

P「これ、楓さんも食べてみてくださいよ。どれぐらい大変なものか」

楓「え、ええ…? そんな、バーガーな…」

P(イマイチだな)

楓(イマイチね)

楓「…お客様のものを頂くのは気がひけるのですが、いいんですか?」

P「おねだりでビール頼んだウェイトレスが今更何言うんですか」

楓「それは…でも」

(いつになく戸惑っている楓さんをみて、今夜はまだまだ酔いが浅いんだろなと思った。楓さんがこれを頬張るには、相当な大口を開けないといけない。妙齢の女性にはかなり抵抗のあることだろう)


P「さあ」

(それに、俺はずっと彼女を凝視していて、勿論彼女もそのことに気づいている。自分が酒の肴にされているのだと分かっている。それがいかほどの羞恥か。たとえ「知らない仲」じゃないとしても)

楓「ううん……」

(しかし、半ば以上俺は確信していた。彼女は絶対に、嫌と言わない)

楓「……分かりました。それでは」

(色違いの相貌に迷いを浮かべたまま、了解の意思が告げられた。俺は、その様をみて舌の裏からじわりと湧き出てきた唾液を、ごくりとビールで流しこむ)

楓「あー、んむ、ん…」

(しかし彼女の小さな口は、下のバンズを僅かに削ったばかりで、その歯型はパティに届いてすらいなかった。俺は先達者面して笑う)

P「ははは、楓さん、それじゃパンしか食べてないですよ。もっとばくっといってみましょうよ。大丈夫、ここには俺しかいないですし、それに、その衣装も別に汚れたって構わないでしょう?」

楓「ん、む……は、はい」

(彼女なりに精一杯口を開けたのは分かっている。わかっている上でこんなことを言うのだから、我ながら心底意地が悪い)


楓「ん、あ、あ……はむっ」

(惑いを表すような小さな小さな口を懸命に開いて、楓さんは再び傲慢なほど大きなバーガーに挑み掛かる。その対比は笑ってしまうほどで、美女が醜悪な怪物の横っ面にキスをしたようにしかみえなかった。そしてその時、俺は気づいてしまった)

楓「あぁんむ、んむ、ふ……んひゅ、ん…」

P「!」

(バーガーに齧り付く直前、彼女の小さな舌が、僅かばかり下唇から突き出していたことに)

楓「んっ、んっ、んん、ほぁ…ぁむ」

(俺のを咥える時と、同じ癖を見せたことに)

P「……」

(俺は無言で携帯に手を掛け、わざとらしくレンズを彼女に向ける。これまたわざとらしい起動音に彼女は気付き、更なる羞恥が疾る)





P「……いいよ、いいよー」パシャッ

楓「…………」

P「いーよぉいーよぉ松本○代」パシャパシャッ

楓「……松○伊代」

P楓「マ○モトイヨ」

P楓「ブフォッ」










(と、下らない冗談が少しの間空気を弛緩させた。が、次の瞬間、何かが起こる。彼女の目が変わる)







楓「……あふぁ、はふぅ……む……んぅ」


(傍から見れば、その表情に変化はなかっただろう。だが確実に、彼女の雰囲気が変わったことを俺は感じ取った)

楓「んむ、もく、んんむ……ぅ」

(彼女は役者、あるいはモデルとして、この辱めを乗り越えることを決めたようだった。真夏の炎天下に毛皮を纏いて氷点下を演じる彼女からすれば、この程度の辛苦など、どうということはないのだろう。いわばスポーツ選手でいうところの、『ゾーンに入った』というところか。一瞬で、意図的に、そのスイッチが可能であるーー彼女の素質の高さに、改めて感じ入った)

楓「んっ、んくっ、ほふ…っ、ふぅ」

(ごくん、細い首が一度だけ大きくうねり、彼女は半壊したバーガーから口を離した)

P「……」

(端正な口元が、染み出した肉汁やケチャップ、マスタードで汚れている。ギトギトした脂が口角から滴り、形の良い顎をとろりと伝って、ある一筋は折れそうなほど細い首を辿り鎖骨から襟の内側に染みを作り、ある一筋はトマトの破片ごと一瞬宙を舞って薄い胸元に漂着し、皮膚病の様な斑をうった)

楓「……はぁ、んむ」

(そのまま、口を拭うこともせず、二口目にかぶりつく。彼女は俺の欲望を、天才的な直感で把握した。カメラを回している俺は、前衛もどきのサブカル映画を撮っている三流映画監督の愉悦を心ゆくまで堪能していた)

楓「もく、んむ、ん………」


楓「もく、んむ、ん………」

(彼女はもはや汚れること、汚すことなど一顧だにしない風だが、さっきの俺の失敗を見てか、高い鼻がバーガーに触れないようには気を付けている様子だった。だが、先天的に後天的に研ぎ澄まされた輪郭と造形が、無理やり押し込んだ異物で歪められている、それは十分無様で、ともするとグロテスクで、逆説的にある種の美しさだった。加えて、声とも呼べない鼻呼吸、開けることも閉じることもままならない目蓋、シーツを掻き毟る時にも見た指のこわばり、閉じたまま動きもしない両膝……)

P「楓さん」

(この辺りで、思考が白熱した)

楓「ん…っん?」

P(楓さんは俺の声に反応し、視線をこちらへ寄越そうとした。それよりも早く、俺は彼女の手首を掴み、唇からバーガーを引き剥がした)


楓「ふっ……んんっ?!」

(目が見開かれる。彼女の『ゾーン』を捻じ切ったことを感じる。映画監督が女優に欲情して画を台無しにするなどあってはならないことだが、今の俺には関係がなかった。彼女は何か言おうとし、未だ口内に咀嚼中のものが残っているのを思い出した様子で、手のひらで口を覆おうとし……その両の手首が、俺の片手に纏めて封じられていることに気づく。なぜ、と目で問われる)

P「そのままで」

(そのまま、の意味が伝わらなかったか。言葉で問うため、咀嚼を再開する彼女。もうそれほど口の中には残っていないと見えた。油で汚れているのを除けば、いつもと変わらぬ、花の様に小振りで可憐な唇)

楓「んく……んぐンッ?!」

(その閉じた花弁目掛けて、顔を近付ける。途中で意図を察したのか、彼女は反射的に顔を背けようとする。が、俺の方が早かった)

楓「んンっ! ンーっ!! ん……ぅ」

ち……ぅ、

楓「ちゅ、ん…」

P(固い……)

(感じたのは、固さだった。あとは少しの塩気。これまで幾度となくかわしてきた口付けの、そのどれとも違う緊張。当然だ。彼女はまだ口の中に残しているのだから)


(ちょうど、食べやすくなった肉団子を)



ちゅ、れろちゅっ、ちゅる……

楓「………ッ?!」

(今度こそ彼女は驚愕する。ノックの様な口付けが、『そのままで』という先程の言葉と結びつく。聡明な彼女は気付いてしまう。しかし彼女は縋る、ほんとうに『そう』なのか。常軌を逸した解に辿り着いた彼女は、一縷の望みでもって、睫毛とまつ毛の触れる距離で俺の目を見返す。宝石の様な双眸の中で混乱が錯綜している。その間に予測が外れたと分かることを期待して。だが何も……何も変わらずに、5秒が経ち、10秒が経ち、彼女は、悟る)

楓「ん……ん、ふ……っ」

(楓さんの目に、陰が宿った)

P「……っ、ふぅ、フ…ッ」

(諦めた様に、まぶたは閉じられた。そして閉じていた唇が、弛緩し、)



楓「ん……あぇ」

にゅろ…………ぉ、


(甘美なる舌と、その皿に載ったおぞましいごちそうが、俺の口内に差し入れられた)


しゅじょ、しゅちょ、ちゃぷ、れりゅ……、

楓「ほぅあ、あふっ、はぁぉ、りゃれ、はぁ……」

(最初の一瞬だけ、2枚の舌が挿入されたような心地になり、すぐにくずれた。今まで事務所で、楽屋で、仕事先の旅館で、この部屋で俺の部屋で味わってきた楓さんのーーこの女の極上の舌の触感とは、それは雲泥の差、まさに雲と泥の差だった)

れちょ、みちゅ、なゅくっ、きゅっ、

楓「あ、…ん、んふっ、むゃ、あんっっあんっ」

(それはザラザラとしていながら同時にぬるりと水っぽく、生暖かった。味はほとんどしなかった。「つなぎ」である彼女の唾液が、あの濃厚な塩気を中和したのに相違なかった。においは分からない。ただ彼女自身からは、交わりの時と同じ、発情したにおいがする。舌で押してみると、含んだ涎がゆるゆると染み出して蜂蜜のように垂れた。音を立てて啜ると、彼女の身体がびくんと跳ねた)

しゃぐっ、じゅびっゅ、にゅっくっ、

楓「ふぁ、あっうんあっ、ん、んーっ、ん、んっん、んんんっ!」

(もはや必要ないと判断し、楓さんの手首を解放する。すぐにもたれかかってくる彼女の上体を支える。弛緩しきっているのか意外と重い。彼女の舌の上から、俺の舌で『それ』を刮ぎ取る。質感の落差に愕然とした)

楓「んちゅっ、っしゃん、んっ、つゅぱ、ぇろ、れろ……あ、あ……は……っ」

(まるで取り返そうとするかのように唇と舌を絡めてくる楓さんを引き剥がす。お預けを食らって切なげに息を漏らす彼女になお欲情を覚えつつ、とうとう口の中に入ってしまったこの軟体を、今一度咀嚼する。もはやなんの形も保てず、不揃いな素材と粒子でぺちゃぺちゃぐちゃぐちゃとペースト状に広がり、改めて掻き集める。その様を彼女は食い入るように見つめている。まるで、悲劇の終わりを見届けようとするかのように)

P「……ごくん」

(その期待に応えるため、聞こえよがしに音を立てて飲み下すと、)

楓「あ……、あぁ……っ!!」

(腕の中の女体が打ち震えた。その痙攣で俺はなぜか、美女が吸血鬼に襲われるシーンをおもいだした)



(そこからは、狂躁といって然るべきであった)

楓「ふぐっ、んむっら、ふっんっんぇぁぅむ、んーっ、んっ!」

(命ぜられるまでもなく、彼女はバーガーを貪り、ポテトを鷲掴みにする。カロリーなんて気にしていない。どうせ自分は食べないのだから。過食症患者宛らの勢いで顔を歪め髪をベタベタにして離乳食作りに勤しむ。俺はその間片手でビールあおり、もう片方は安物コスプレ衣装の隙間から高級下着に差し入れヒマを潰す。乳首はガチガチに勃ち、爪で弾くたびに細いカラダが腰から浮き上がって呼応する。下腹部を掌で押す、子宮はこの辺りだろうか。女陰はぐずぐずにほぐれていて指が汚れたため、本人の頬になすりつけ、また突っ込む。生肉を掻き分けるのは唐揚げの仕込みの要領だった。付け根まで三本の指を挿入する。痙攣。指先に飛沫がとぶ)

じゅちょ! ぐちゅっ、ぬちゅ、にちゃにちゅにちゃねちゃぬぷっ!

楓「ふぉぐっ、んふぁ、はぁおむっ、んっ、んーッ! んっイッ?!」

(もはや人間の言葉は忘れ、幾度となくえづき、一度や二度ではなく絶頂しながら、彼女はナイフとフォークがわりーーいや、フード・プロセッサとして、口に含んでは、唾液と攪拌させる。そして、蕩けきった目でこちらを見上げる)


ずぞっ、ぞじゅっ、じゅちゅるりゅっ、ひゅじゅるっ、

楓「んーっ、んんんンッ! ほぁんっ、んっ!! ほぁぉ、オッ、んん、ん、っ!!」

(すかさず口付けると、もう抵抗もなく口を開け、供物を捧げてくる。絶頂で止め処なく唾液が分泌されるせいか、それとも彼女が意図的にそうしているのかは分からないが、最初の一口よりもはるかに粘液質で、まるで溶かした内臓を啜っている気分だった。その邪心が一層不道徳さに真黒い火をつけているのは否めなかった。ここにいるのは怪物と生贄。しかし、このアンモラルな気紛れにこうも短時間で順応し、全霊を返してくる女もまた、怪物とは呼べないだろうか)

P「ごく、ごく……ぷはっ、は、ははは……そろそろ、お返し、しましょうか」

楓「あ、は、あ……お、かえ、し……んっ、あんっ、あ……っ」

(愛撫を続けながらバーガーを奪い取る。具も大部分が溢れ、もうほとんど形をなしていないそれは、その気になれば一息で食べられるほどになっていた。あえて一口ずつ、一口ずつ齧りとる。虫食いのように欠けてゆく残骸を、身を震わせながら彼女は凝視する。どうされればいいのかは当然知っている。そして最後の一欠片を放り込み、その時が来る。俺は目で合図し、彼女は口を開ける。あれだけやってそれなのに不思議なほど綺麗な真っ赤な舌が蛇のようにまろび出てくる)

どろ、れろ、どぷ、とぷ……ぅ、ずじゅっ、じゅぷ、ぷちゅぱ………ぁ、

楓「ほぉ、おぁ、んみゅっ、んあっうあぅ、んっ、あんっ、あっ、んっんっん……っ」

(涙目で俺のを受け容れる彼女に、罪悪感よりも嗜虐心が優先する。新品のガラス瓶に毒薬を流し込んでいる気分だった。ただのキスで唾液を飲ませるのとは次元の違う征服欲求が満たされゆくのを感じる。彼女はというと、嫌悪感よりも被虐心が揺さぶられたか、絶えず腰が浮き、突き刺したままの指先を中の肉がきゅうきゅう締め付けた。まるで体の内側から焼かれているかのように身を捩らせる)


P「ぷほ……、はあ、はあ、はあ。あ…………」

楓「んあっ、あっ、はっ、あはっ、はあっ、あっ、んっ、んっ、ん………」

(ようやく口を離し、荒い息を吐く。そしてなんの気は無しに見る。俺の腕の中で過呼吸気味に喘いでいた彼女が、それまで細切れに飲み下していた咀嚼物の、その最後のひとかたまりを、喉に通したところを)

…………ご、くん

(その音はありえないほど大きく聞こえた。空っぽの鍾乳洞に石を投げ込んで数限りない木霊を浴びるようだった。それは精を初めて飲ませた時以上の興奮だった。俺の中から吐き出された汚物が彼女の血肉に溶けて流れるという妄想が、かつてなく高まっていた征服欲に危険なほど拍車をかけた。そして目と目が合う。お互いの目から光は消えている。だがそれは決して熱量の喪失を意味しない。むしろ廃油を燃やしたように昏く生臭くドロドロした、どす黒い欲望同士が結びついてしまったことを意味する)

P「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」

楓「あ…………は、あ、あ…………」

(俺は決める。掛けてはいけないものを天秤にかけてしまったことを悟るがもう後には引けない。当然だった。この女を永遠に自分のものにすることに比べたら、金、名誉、出世、世間体その他諸々は、有象無象にすらなり得なかったーー消しきれないものは、せめて今だけは忘れるよう、水底に沈めた)







楓「……は、はっ、はあっ、あ…………」

(わたしはそのとき決めましたーーたとえあなたを不幸にしてでも わたしをあなたのものにすると)




ずりゅりゅるうっ、りじゅちゅずっ!!

楓「あ……あああっあああぅあああっ!!!! ンアああ!!! アァ!!」

(カウンターに手をつかせ、尻たぶを掴み、バックで犯す。コスプレ衣装はちょっと力を入れるとズタズタに避け、縫製の荒さを再確認した。かといってその十倍は値が張るであろう下着は紐をつまむと手首の返しだけでさらりと解け、俺は一秒だけ資本主義について考えた。笑いながらぐしょ濡れの下着を投げ捨てる。彼女の入り口は、俺が逸物をあてがった途端、鍵穴の様に呑み込んだ。処女を奪った時の細穴は今や専用のサイズに押し広げられていた。腰を送ると一突きで最奥へたどり着き、熟れすぎた果物のような子宮を一発で串刺しにした。そして一発で、女の神経を焼き切ったことを悟った。快楽が彼女の尾てい骨から背骨を伝わって脳天に直列回路で走り抜けたのが見えるくらいだった。顔が見えないから顎を引っ張ってこっちを向かせると、俺以外にはとても見せられないぐちゃぐちゃがこっちを向いたから、指をしゃぶらせて尚も突いた。それだけでまたイッた。俺も既に果てそうになったが、なんとか堪える。手を尻に戻し、抽送を再開する。長くは保たなくとも、一突きでも多く、この肉を堪能したい。射精すまでに一滴でも多く、白濁を精製して、限界まで溜めてから、一滴残らずこの壺にぶちまけたい)


ぐ……じゅぱつっ、ぐちゅるちゅっ、じゅこっ、じゅちゅっ、ぐじゅつゆっ、じゅ!!!

楓「アらめっ! りゃえっ、Pしゃとめ……イッっ、イッてぇ、いあっあっうああっ!!!!!!」

(抜いて、また射す。それを繰り返す。掴んだ尻の中心へ、正確にストロークする。男の腰の筋張った筋肉と女の臀部の柔肉が張り合う特有の音がする。その度に、中の肉がうねり、皮膚へ痙攣が伝播し、絶叫が撒き散らされる。普段の清冽さを知っていればこその、耳を塞ぎたくなるような本気の悲鳴。これ以上気をやれば帰ってこれなくなる、と)

楓「あっ、んあっ、あああっ!! あっ!! あああっ! アッ!!」

(ならば、二度と帰すまい。残念ながら彼女は、そういう男に捕まってしまっていた)

P「……っ、だ、射しますよ、楓さんの、ナカに、さっきから溜まってた分、全部!」

(亀頭の先端に弾丸が込められるのを感じる。あとはシャンパンのようにぶちまけるだけだ。最早言葉ですらない叫びを上げながら、彼女は振り返る。恐らくは、同じような続行不能の懇願だったのだろう。だがその顔は、愉悦で爛れきっていた。目にはハートが浮かんでいた。俺は勘違いしていた。彼女はもうとっくに、元には戻れないところに居た。俺がそこに押しやった。それは人生最高の達成感だった)

P「……ッ」

……ず、ん、

楓「い……ッ?!」

(その瞬間の刹那に、最後の距離を一センチを詰める。彼女のバケツに直でホースを突き刺す手応え)



……っぐ、ぐぼびゅくっ!

楓「ぇはぁ?!」

P「……あ、ああぁ、ああああーッ!!」

ぐびゅっ!! どびゅっ!! ぶびゅるつっ!! つびゅるるるるるっ!!!!!!

楓「っっぁあ。ああ。あ…………………ッ、~~っ、………ッ、~~~~~~~~っ!!!!!!」

(同時に全身が痙攣し、別々だった絶頂の波が同調する。タガの外れた白濁が他でもない高垣楓の内膜をみるみる汚して行く。もうそこに居たのは二匹の怪物だった。快楽に絶叫する怪物と、快楽で声すら失った怪物。それは人間が余暇でするセックスではなく、交尾、交配)

楓「…………っ、あ……………っ、ひ……ィ、…………ッッッ!!!!」

(交尾なら、孕むまでしなければ意味がない。その正しい間違った考えのもと、奥へ、膣奥へ、最奥へ精を放ち続ける。精巣から卵巣へ逃げ場のない一本道を通し、とめどなく注ぐ、そしてひしゃげた子宮から溢れないようしっかり蓋をする、が、腰から砕けた彼女の下半身がが崩れ落ち、あっさりとそれは抜けてしまった。それで少しだけ、我にかえる)

P「………っ、はぁ、ふぅ、ふー、ふ………ぅ」

(もう限界か尋ねようとした。たとえそうだと答えども、返事がなくとも、自制することは正直難しかっただろうーーだが、その前に)

楓「……っ、と。あ、あ……も…………」

P「?」


楓「も……っ、とぉ」

P「!!!」

(あと少し右ならバーガーの乗っていた皿に顔から突っ込んでいたであろう位置で、脂ぎった髪の毛に埋もれたその隙間から。はみ出した舌をカウンターにのせ、色違いの片目が、媚びた視線を送ってきた。いくつもの賞を総なめにした美声が、獣欲の呻きと成り果てていた。こんな目に逢いながら、正気さえ失いかけながら、それでもなお雄を欲するーー俺は笑いを堪えられず、歓喜と嘲りと嗜虐を込めて、言う)


P「どうしようもない人ですね、あなたは」


その時の彼女の表情(かお)を、俺は生涯忘れることができないと思う。

やっと言ってくれた、そういう顔だった。

そしてまた、彼女に乱暴を働く。寝転がした身体を押し開き、さっき出した白濁の漏れる裂け目へ再びねじ入れる。仰け反る彼女の乳房を鷲掴みにし、腰を送り、気が遠くなるまで犯し続ける。種付の言葉そのままに、出したくなったらそのまま。


そのまま何時間も、夢と現の境をさまようが如く、時間の感覚もあやふやになるほど、目の前の女体に没頭した。

そして、夢と現が、いつしか暗転していた。








夢の壁の外側にあったのは、重い、という感覚でした。







そこからゆるゆると、お空から体に魂が降りてくるみたいに手足に感覚が戻ってきて、胴体に感覚が戻ってきて、最後に、かろうじて意識が戻りました。でもそれは、覚醒したとはとうてい言い難い、自信のない、自身のない、無理に起き上がろうとすればまた魂だけ抜け出てしまいそうな、あやふやな目覚めでした。

そしてなぜ、重いのか、気づきます。私とひとつになったまま、寝息を立てているひとが、私にのしかかっているのです。いつの間にお布団の上にいたのかは、よくわかりませんが。

それと認識した途端、もう、どうでもよくなりました。いっそ、目覚めなくても良かったかもしれません。目覚めさえしなければ、永遠にこのままでいられたのにと、やくたいもない事を考えてしまいます。


とても眠たくて、どうして起きてしまったのか不思議なくらいもうまた眠ってしまいそうなのに、あといっぽのところで、色々と考えてしまいます。人は死の間際に走馬灯が過ぎると言いますが、ともすると、私は、死にたがっているのかもしれません。そう、さっきは、死ぬかと思ったし、このまま死んでもいいと思った。あの時死んでしまえれば、私は一つの曇りもなく、最高の人生だったと言えたのでしょう。でも私は、起きてしまった。それがすこぶる、わたしをぶるーにします。ふふ。

そういえば私の体は、どうやら真上から組み敷かれて、そこで二人とも意識を失ったようでした。私の手も足も、木の幹にしがみつくようにあなたの身体に巻きついて、硬直してしまっていました。そんなことあるんだなあって、人ごとのように考えます。

ああ、もうひとつ、思い出しました。さっき、あなたは、私のこと、どうしようもないって。

それなのに、こんなに愛してくださるんですね、こんなにどうしようもない私を。

そうなんです。私は、どうしようもない女。だからこそ、どうにかしてほしいんです。叩いて、叱って、首輪をつけて重石をつけて。

なんでも言ってください。なんでもしますから。だから、なんでも言って。




そうだ。孕め、って、言われた気がします。お酒、我慢しないといけませんね。




きっと私は、あのとき道を外れてしまったんでしょうね

もうあの時が多すぎて、今ではどれだか分からないけれど

これでおしまいです
ありがとうございました

文章、達者だね。良かったです。

今回もよかった

もしかしてこの前の茄子ssの人かな?
いいssでした(恍惚)

おつ

モモンガおつ

いいぞモモンガぁ!

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