赤城(主計課兵站から強奪された食料を取り返して始めての食事。さもしい食生活とはこれでおさらばです)
赤城(などと考えている内に鳳翔さんの小料理屋まで来てしまいましたか)
赤城(ん~~、いい匂い。炊き立てご飯の香りがこう、顔面をガツンと殴ってきたのかと勘違いするほどの……)
赤城(これは……もう……加賀さんの本気の爆撃、いえ、それ以上の破壊力ですね。一航戦赤城、入る前から轟沈寸前。胃袋がお米の前に白旗を掲げています)
赤城(今日は、食べるぞぉ……!)
赤城「失礼します」ガラッ
長波「らっしゃ~い」
鳳翔「あら、いらっしゃい。お一人ですか?」
赤城「はい。いつもの席、いいですか?」
鳳翔「もちろんですよ」
赤城「では……」
赤城(あら?今日は補給が大量にあったというのに和定食膳だけですか……。もっと色々食べられると思ったのに、これは肩透かしを食らった気分ですね)
長波「和定食膳五人前、おまちぃ!」
アイオワ「ワァオ!これがワテーショックゼーンですねー!これが食前なんて信じられまセーン。メインディッシュとしても通じるわよ!それにとっても量が多いわ!」
長波「いや~、食前じゃなくて食膳でな……」
アイオワ「ワッツ?」
赤城(なるほど、私と同じ様に沢山食べる事を目的とした人たちが来た様ね。それを見越しての一品勝負という事ですか)
赤城(となれば相当に期待できますね)
鳳翔「どうぞ」コト
赤城「……あら?おにぎり……ですか?」
赤城(なぜおにぎりなのでしょう。他の方は頂いていない様ですし……。あ、これはもしかして……)
赤城(まず一口)パクッ、ゴクン
赤城(ああ、この薄い塩味、ほどよい固さのお米がとても良いのど越しを生む。しかもこれはただのおにぎりじゃありませんね)
赤城(少し固めに炊いたご飯で、柔らかめに炊いたご飯を包んで握る。そうすることで、のどごしと飲み込みやすさを両立させる。言うならばドリンク用おにぎり)
赤城(私がおにぎりは飲み物だと言っていたことを覚えていてくれたんですね、さすが鳳翔さんです)ゴクン
赤城(その人の好きな飲み物を言わずとも出してくれる。これは加賀さんでなくとも気分が高揚しますね……っと、おにぎりが切れてしまいました)
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赤城「あの……」
鳳翔「はい?……ああ、おにぎりのお代わりですね」
赤城「はい、お願いします」
鳳翔「…………」パタパタ…
赤城(言わなくても通じてくれる。いいですねぇ……)
鳳翔「どうぞ」
赤城「あ、三つもいいんですか?」
鳳翔「ふふっ、特別ですよ」
赤城「ありがとうございます」
赤城(さて、それでは私も頼みましょうか。何人前にしま……)パクリ
赤城「こ、これは……!」
赤城(ああ、あまりの美味しさに思わず声を出してしまいました)
赤城(おにぎりそのものには一切味が付いておらず、しかしその具は自己主張の激しい高菜ですか)
赤城(口の中で白米と高菜が混然一体となって醸し出すハーモニーは、強すぎず弱すぎず、何かに添える飲み物としての味ではなく、飲み物単体のおいしさを持っているおにぎりですね)
赤城(もしかして、これはそれぞれ味が違うのでしょうか。嬉しい誤算ですね)
赤城(二つ目は……昆布ですね。……あら?少し柔らかいような……。ああ、これはお出汁で使った昆布と鰹節を佃煮に使ったんですね)
赤城(出来立ての佃煮。出来立てだからこそのしょっぱさがまた堪まらないですね。噛んだと同時にじわっと染み出してくる昆布のうま味がうまく白米に絡んで……ん~~~)パタパタ
赤城(そうだ!これ、空技廠の皆さんへの差し入れにできるか聞いてみましょう)
赤城(ですが今は……最後のおにぎりを堪能するのが先です)ヒョイ
赤城(最後のおにぎりは……)パクッ
赤城(ん~~、すっぱ!梅干しですね。しかも昨今の酢漬けではなく、鳳翔さんがじっくりと手作りしていた塩漬けの梅干し)
赤城(だから味が濃いですね。ああ、唾液がどんどん出てきてしまいます)
赤城(このどうだと言わんばかりの酸っぱさ。梅干しはおにぎりの単純にして至高と究極の具であると、そういいたいんですね、鳳翔さん!)
鳳翔「…………?」
赤城(この梅干しならおひつ三杯は軽くいけます。間違いありません!)
赤城(……と、もう終わってしまいましたか。次は何でしょう…………って、私としたことが、注文も何もしていないじゃないですか!)
赤城(何という失態!私は慢心していたというの、赤城!ここが戦場ならば私は武器を構えず棒立ちをしていたに等しい!)
赤城(何て愚かなの!私は最初に出されたおにぎりに打ちのめされ、注文することを、食べる事を忘れてしまっていた!)
赤城(そうだ、だから鳳翔さんは今でも私の近くに居るんだわ)
赤城(くっ、私のミスのしりぬぐいを鳳翔さんにさせてしまうだなんて、一生の不覚。今度からは気を引き締めないと)
赤城(だから気を引き締める為にも、いつもより多く食べましょう!)
赤城「鳳翔さん!」
鳳翔「は、はい、なんでしょう」
赤城「和定食膳をこれだけお願いします」ピース
鳳翔「はい、和定食膳二人前ですね」
赤城「いいえ!二十人前でお願いします」
鳳翔「あっはい」ナガナミチャーン!
鳳翔「少し時間がかかると思いますから……ヨイショ」
赤城「どんぶり飯ですか?」
鳳翔「それに、鮭を二切れ乗せて……あられと刻みのりを振りかけて……」
赤城「お茶漬けですね!」
鳳翔「正解です。とくとくとく~……はい、出来ました。これを食べながら待っていてくださいね」
赤城「重ね重ねありがとうございます。あ、よろしければ……」
鳳翔「はい、わさびですね。ついでですから、刻み紫蘇、小葱にみょうがも出しておきましょうか。好きに食べて下さいね」
赤城「うわぁ……」キラキラ
赤城「いただきます!」
鳳翔「はい、召し上がれ」
赤城(鮭を崩して軽く混ぜて、と。よし)ずぞぞぞ
赤城(うん、鮭の塩味がいい塩梅ですね)もっちゃもっちゃ
赤城(基本の味が美味しければ、そこに何を付け足しても美味しい。これは真理です!)
赤城(…………ええ、よほどの物でなければ!)
赤城(まずはどれにしましょう。基本通りにわさび……いえ、わさびは胃酸の分泌を助けますから最後にすべきですね)
赤城(この順番は悩みますね……。味の強い物は後にすべき……いやいや、でも連続したらしたが刺激に慣れてしまいます)
赤城(となると理想は交互に、しかも方向性は重複しないように……)
赤城(まずは紫蘇、これに決まりです!)
赤城「…………」はむっ
赤城(この口の中を春一番が駆け抜けていくかのような爽やかな香り)
赤城(この香りは鮭の脂と混ざり合う事で魚特有の生臭さを消してくれます)
赤城(それによってより食べやすくなる。そう、紫蘇こそがこのお茶漬けの翼なのです!)ずずっ
赤城(次は、小葱……)
赤城(小葱こそ薬味の基本にして王道)もしゃもしゃ
赤城(先ほどの紫蘇とは真逆ですね)
赤城(悪い所を隠した紫蘇とは違い、小葱はお茶漬けの良い所を伸ばしてくれます)
赤城(お茶漬けが、ともすればメインの料理であると勘違いしてしまいそうになるほど重厚な味わいを持ち……)
赤城(お腹の中で、私がお茶漬けだぞ!と大声で叫んでいるかのようです)
赤城(そして今度は変化球であるみょうが)はもっ
赤城(うん、この独特な、晴れやかな香りは舌だけでなく鼻も楽しませてくれますね)
赤城(食べ終わった後に広がる清涼感)
赤城(一口、また一口と思わず食べてしまいますね)
赤城(そして最後は本命、わさび)
赤城(わさびなどの刺激物は、その刺激によって唾液を始めとした消化液の分泌を促すので合間合間に食べると食欲がより増すといいますから、ちょっと多めに盛って……)
赤城「ああっ」ツーン
赤城(うわぁ~~、これは効きますね)
赤城(鼻っ柱をガツンと殴られた様な感じです……)
赤城(適量で食べて旨味を堪能するのもいいですが、こういう刺激もまた乙なものですね)
赤城「…………」グー…
赤城(ええ、これで油断なく慢心なくメインディッシュである和定食膳に挑めます)
赤城(わさび様様ですね。食べる前より後の方がお腹が空いてきました)
赤城「…………」ずぞぞぞ…
赤城「……そろそろでしょうか」ごくん
長波「お待ちぃー!」ばぁーん
鳳翔「まだまだ来ますからね」アセアセ
和定食膳:秋刀魚の味噌煮(缶詰)、あさりの味噌汁、里芋の柚子味噌煮、梅干し、白米
鳳翔「あ、お味噌汁は一度に注ぐと冷めてしまうかもしれませんから飲みたければその都度呼んで下さいね」
赤城「そんな配慮まで……感激です」
鳳翔「ふふっ、赤城さんは本当に美味しそうに食べてくれますからね」
赤城「そ、そんな///」
鳳翔「作った者からすると、とっても嬉しい事なんですよ。だから遠慮何てせずに、ね」
赤城「はい、ありがとうございます!」
赤城(ああ、どれも美味しそうで迷ってしまいますが……)
赤城(ここはまず熱いうちにお味噌汁からいただきましょう)ずずずっ
赤城(これは……合わせ味噌ですか)
赤城(辛すぎず甘すぎず、うん、とてもいい配分ですね)
赤城(出汁も……昆布……もしや、先ほどのおにぎりの具はこの出汁昆布の再利用でしょうか)
赤城(う~ん、うまく再利用しましたね……。さすがは鳳翔さんです。一品作るついでに別の物も作りだしてしまうとは)
赤城(そして具のあさりは吹雪さんが一生懸命採っていたものですね)
赤城(ふふっ、ありがとうございます、吹雪さん。美味しく頂いていますよ)
赤城(次は秋刀魚の味噌煮ですか。これは……缶詰ですか?)
赤城(鳳翔さんには珍しく手抜きなのでしょ……む!)はむっ
赤城(この滴るほど染み出した脂。そして味噌の味を思う存分吸収したこの白身!)
赤城(長時間熟成させたからこそ出せるこの味わい……!)
赤城(そ、そう言えば聞いたことがあります。缶詰の一番おいしい時期は詰めてから一年後だと……)
赤城(この缶詰は……そう、去年私たちが懸命に集めた秋刀魚で作られた物なはず)
赤城(つまり、一番おいしい時期……)
赤城(くっ、少しでも手抜きと勘違いした自分が恥ずかしい)
赤城(鳳翔さんは今日というこの日にこの秋刀魚を出すために、一年という月日をかけたのです)
赤城(なんという……なんという下ごしらえなのでしょう)パクパク
赤城(これが……美味しくないはずがない!いや、美味しいなんて言葉で表せるはずがないではないですか!!)バクバク
赤城(箸が……箸が止まりません!)むしゃむしゃ
赤城(白米ともよく合いますね……と、もう無くなってしまいました……)
赤城「おかわ……」
鳳翔「はい、どうぞ」にこにこ
赤城(ああ……最高です……最高に、幸せです……)むきゅむきゅ
赤城(至福とはこのことを言うのでしょう)もっきゅもっきゅ
赤城(ああ……今はこの時間が終わってほしくありません)むぐむぐ
赤城(ただ、ただひたすら食べましょう……)
・
・
・
赤城(ふう……また別の味も欲しくなってきましたね)
赤城(箸休めに梅干しでも食べてみましょうか)
赤城(おや?梅干しの色が違いますね。もしや味が違うなんて……)
赤城(これは……はちみつ漬けではありませんか)
赤城(塩漬けの強い酸味とは違い、ほのかな酸味とほのかな甘み。箸休めとしてはぴったりですね)
赤城(ご飯のおかずとしての梅干しとしてであれば物足りないでしょう。しかしこれはおかずの添え物)
赤城(飽きが来ない様に舌を楽しませる為にはこの味が最適と言えるでしょう)
赤城(さすが鳳翔さん。すべてを計算し尽くしていますね)
赤城(と、いう事は……この里芋の味噌煮もみそ汁と味が被らない様に何か仕掛けをしているはず……)ぱくっ
赤城(ん~~!!ほら、ほらぁ!!柚子味噌ですよ!柚子味噌!!)
赤城(この香気。ほのかな酸味と苦味そして柚子と里芋の甘さの絶妙なバランス!)
赤城(秋刀魚の味噌煮が旨い(うまい)と表するのなら、こちらは甘い(うまい)ですね)
赤城(小さい里芋をこれほどの量剥くのは大変だったでしょうに……駆逐艦や妖精の皆さんも手伝ったのでしょうね……)
――磯風『この磯風に切れないものはない!エクス……カリバァァァ!』――
――穂群原のブラウニー『なんでさぁぁぁ!!』――
――浦風『磯風、暴れんとき!』――
赤城(ああ、その風景が目に浮かぶようです……)
赤城(ご飯、ご飯、ご飯……)
赤城(お腹いっぱい食べられるって、いいですねぇ……)
・
・
・
赤城(これが最後の一口ですか……)
赤城(おひつも空っぽの様ですし、このくらいにしておきましょうか)
赤城(あ~ん)ぱくり
赤城(ああ、この時間が終わってしまう……)もぎゅもぎゅ
赤城(できれば終わってほしくない……終わらせたくないですが……)
赤城(…………)ごくん…
赤城(終わって……しまった……)
赤城「ごちそう……さまでした……」
鳳翔「はい、お粗末様でした」ふぅ…
長波「鳳翔さん、倉庫空なんだけど……明日からどうすんのさ?」
鳳翔「あらあら……」
赤城(…………おいしかった…………)ぐすっ
赤城(駄目よ赤城、泣いては駄目)
赤城(美味しい物を食べたんだもの、最高の笑顔でいなければ……)
赤城(鳳翔さんの顔を真っすぐ見て……そして、笑わなきゃ……)
赤城(難しいけどがんばっ……)
鳳翔「はい、これ夕食券と間宮券です」
赤城「いただきます」シュタッ
鳳翔「えっと、さすがに120枚は用意していなかったので、とりあえず50枚ですけど……」
赤城「間宮はこれから行っても使えるでしょうか?」
鳳翔「ま、まだ食べるんですか?」
赤城「間宮羊羹は別腹ですから」
鳳翔「て、手加減してあげて下さいね」
赤城「分かりました」キラキラ
赤城「それでは」タタタタ…
鳳翔「はい、ありがとうございました」
長波「いや~スゲー食いっぷりだったね~……」
鳳翔「そうですね~。ですが……あら?」
赤城「…………」タタタタ
鳳翔「何か忘れ物ですか?」
赤城「はい、おにぎりとかあれば空技廠の方たちに差し入れでもと思ったのですが……」
鳳翔「あー……ごめんなさい。もうお米が切れちゃったので……」
赤城「そうですか。それは残念です」
赤城「あともうひとつ」
鳳翔「はい?」
赤城「また、来ます」
鳳翔「はい、お待ちしています!」
以上これで終わりにございます
最後まで読んでいただきありがとうございました
人によって好きなオカズは違いますが、私の好きなオカズはアカツキチャンです
いいですよね、駆逐艦
では皆様も良い駆逐ライフを~
おつ
良い飯描写だ
おつ
駆逐ライフ提督乙
R板で目一杯駆逐艦を食べてもいいのよ?
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