文香「事実は小説よりも奇なり」 (47)

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ふじともとか、茄子さんとか、みくにゃんとか出ます
寺生まれのPさんは今回も出ません

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1526173314

みく「ふにゃぁ……美味しかったにゃぁ……」

朋「ねー、本当にとろけるように甘くて……美味しいパフェだったわ……」

みく「うんうん!」

みく「テレビで見たときから気になってたから、今日食べれて本当によかったー」

みく「朋チャン! ついてきてくれてありがとにゃ!」

朋「どういたしまして」

朋「……ま、あたしも楽しめたしね、ふふっ!」

みく「にゃははっ!」

朋「さて、これからどうしよっか?」

朋「まだ帰るには早すぎるし……」

みく「どっか行きたいとこある?」

みく「みくの行きたい場所に一緒に来てくれたから、今度はみくがついてくよ?」

朋「あ、ほんと?」

朋「でも行きたいところねぇ……んー」

朋「……あ、本買いたいかも」

みく「本?」

朋「そろそろ新刊出るころだったと思うし」

みく「ふーん」

みく「……退屈そうにゃ」

朋「正直ね」

朋「みくちゃんは本って読まないの?」

みく「読まないにゃ」

みく「目が疲れるし……眠くなるし……」

朋「あー」

みく「あと、枕にしても硬いし……」

朋「そりゃあ本だしね」

朋「……あれ、でも雑誌読んでたことなかったっけ?」

みく「あれは写真がいっぱいだったからにゃー。文字そんなになかったし」

みく「いわゆる本! って感じのは無理」

朋「あー、大丈夫よ。あたしが買おうとしてるのもそういうのじゃないし」

朋「マンガよマンガ」

みく「あ、そうなんだ。じゃあ……」

みく「……ね、本屋に入っても本読めないよね?」

朋「んー……マンガだと読めないところが多いわね」

みく「じゃあ、やっぱ退屈にゃ」

朋「まあ、古本屋なら読めないこともないかもしれないけど……」

みく「古本屋……?」

朋「そうそう……ああ、ああいうのね」

みく「ふーん……」

みく「……じゃ、あそこに行こっ!」

みく「みくはマンガ読んで待ってるから、さっと買って、さっさと次の場所意行くにゃ!」

朋「ふふ、そうね」

朋「……でも、あそこに売ってるかな……?」

朋「よい……しょっと」

??「……」ペラッ

朋「あ……」

朋「……」ペコリ

??「……」ペラッ

朋(……店番の人かしら?)

朋(ずいぶん熱心に本を読んでるのね)

みく「朋チャン、目当ての本あった?」

朋「そんな早く見つからないわよ……ちょっと待って」

みく「はーい」

みく「……みくでも読めそうなのあるかなー?」

朋「……」

朋(……にしてもいわゆる古本屋って感じね)

朋(マンガも無いことにはないみたいだけど、ほとんど小説ばっかりみたいで……)

朋(……っとと、それより新刊新刊っと)

朋(聞いちゃった方が早いかな?)

朋「すいませーん」

??「……」

朋「あの、すいませーん」

??「……」ペラッ

朋「……すいませーん!」

??「……」ペラッ

朋「……すっごい集中力ね」

朋「……えーっと、ここの店の名前は……」

朋「……よし」

??「……」ペラッ

朋「すいませーん! 鷺沢書店の店員さーん!」

??「……」ピク

??「……」チラッ

朋「あ、やっとむいてくれた」

??「……あ」

??「失礼しました……別の方を呼んでいるのかと」

朋「聞こえていなかったわけじゃないのね」

??「はい……二度ほど、呼びましたよね……?」

朋「四回呼んだわ」

??「……」

??「……失礼しました」

朋「ずいぶん熱中してたのね」

??「そういう性分なものですから……」

??「……っと」

文香「申し送れました。私、鷺沢文香と申します」

朋「……あたしただの客よ?」

文香「?」

朋「いや……いちいち客相手にそんな自己紹介してるのかなって」

文香「……普段はしませんが……貴方は私に話しかけてくださったので」

文香「これも一期一会かと……思ったので」

朋「ふーん……」

朋「……あたしは藤居朋よ。よろしくね」

文香「よろしくお願いします……」

文香「それで、どういった御用でしょう?」

朋「あ、えっと。本を探してるの」

文香「本を……?」

朋「うん。最近新刊が出た漫画なんだけどね」

文香「……おそらくうちには無いかと」

朋「……まだタイトルも言ってないんだけど」

文香「ここ最近、新しい漫画は入荷されていませんから……」

文香「……申し訳ありません」

朋「いや、まあ無いなら仕方ないわ」

朋「ありがと、文香さん」

文香「いえ……」

文香「……代わりと言っては何なのですが」

文香「こちらの本はどうでしょう?」

朋「へ?」

文香「今の私のお勧めです」

文香「少々厚い本ではありますが、文体が読みやすいため、普段あまり小説を読まない方でも楽しめるかと」

朋「はぁ……」

朋「……どんな本なの?」

文香「冒険譚です」

文香「大地をかけ、海を渡り、空を飛び……世界の果てから果てまで、隅々を冒険する……とても心の躍る小説です」

朋「へぇ……ちょっと見せてもらっていい?」

文香「はい。どうぞ」スッ

朋「ありがと」

文香「……あっ、間違えました」

朋「へ?」

文香「ごめんなさい。その本ではなく、この本です」

朋「……えぇ」

文香「すいません」

朋「……まあ、いいけど」

文香「……お恥ずかしい」

朋「んー……」

朋「……じゃ、買ってこうかな?」

文香「……中を読まなくてもいいんですか?」

朋「人待たせてるから」

朋「それに、あらすじも面白そうだし……中身も面白いんでしょ?」

文香「はい……自信を持って勧められます」

朋「なら、読んでみるわ」

朋「いくら?」

文香「えっと――」

文香「――ありがとうございます」

朋「いえいえ」

文香「その本は続刊もありますので、面白ければぜひ……」

朋「そうね、そのときはまた来るわ」

朋「……さて、みくちゃんは……っと」

みく「……」

朋「あ、いた」

みく「……」ペラッ

みく「……」

朋「……それ面白い?」

みく「あ、朋チャン」

みく「結構面白いよ」

朋「そっか」

みく「絵がいっぱいだとやっぱ読みやすいにゃ」

みく「……」ペラッ

朋「……あたし買いたいものは買ったけど、みくちゃんはどうする?」

みく「あ、そうなんだ。じゃあいこっ!」

朋「買わなくていいの?」

みく「ただの暇つぶしだしにゃ」

みく「さ、買ったなら次にいこっ!」

朋「そうねっ!」

朋「……あ、結局目当ての漫画は買ってないから違う本屋よっていい?」

みく「えー……」

文香「……またのお越しをお待ちしています」

文香「……」

文香「……」

文香「……さて」

文香(先ほどの朋さんに間違えて渡した本に目を向けます)

文香(……題名は『歴史』表紙には大きな黒い手形が描かれた赤い本)

文香(一見すると……奇妙なデザインの本のように思えますが)

文香(……奇妙なのはデザインだけではありません)

文香(この本自体が奇妙な存在なのです)

文香「……」

文香(この本は他の本とは違って、決まった文字が書かれているわけではありません)

文香(触れた人の歴史が文章になるのです)

文香(……私を除いて)

文香「……」ペラッ

文香(それはおそらく、私がこの本の持ち主として認められたからでしょう)

文香(……この本に出会ったのは少し前の話です)

文香(蔵書の中に眠っているのを見つけたのが始まりでした)

文香(……見覚えが無かったので、ためしに中を開いてみましたがそのときはまだ中身は白紙のまま)

文香(叔父が何か知っているかと尋ねてみましたが、知らないとのこと

文香(しかし、そのタイミングで……叔父が触れたそのタイミングで、本には文字が浮かんだのです)

文香(私にしか見えない文字が)

文香(1ページ目には『歴史』とだけ書いており)

文香(ページをめくるとつらつらと文章が続いていました)

文香(……その内容は、叔父の歩んできた歴史でした)

文香(私の知らないころの話から私の知っているころの話まで)

文香(叔父の歴史がこの本に詰まっていたのです)

文香(……それに気がついて……私は、気分の高揚が抑えられませんでした)

文香(なにせ、面白かったのです。人の歴史というものが)

文香(人の書く物語とはぜんぜん違ったものなのです、人の歩む物語は)

文香(そこに物語的な要素は一切ありませんでした)

文香(伏線かと思ったものは回収されず、思わぬところで足をすくわれ……)

文香(まったく別物の面白さがあったのです)

文香(さらには、文体は一人称視点で書かれているため、何を思って行動してきたかがしっかりと書かれています)

文香(そのため、さながらその人となって歴史を追体験しているように思えるのです……)

文香(それもまた面白さの一つでありました)

文香(……人の歴史の面白さに魅了された私は、たくさんの人の歴史を読みました)

文香(書店に訪れる方にわざと間違えてこの本を渡し……すぐに回収し)

文香(お客様のいないときに、その歴史を読む)

文香(本に載る歴史はひとつだけなので、内容をノートに書き写しながら……)

文香(それは、もはや新しい趣味となっていました)

文香(……今となっては普通の本よりも楽しい……とすら思ってしまいます)

文香(だからこそ……止められない)

文香(馬鹿のように思われても毎回間違えて本を渡し、触れさせ)

文香(なんとかして相手の名前を引き出すのです)

文香(……この本唯一の難点は、歴史の持ち主の名前がわからないことですから)

文香(文中に載っている場合もありますが……載っていない場合もあります)

文香(ですから、あえて自ら自己紹介をするのです)

文香(名乗られたら……名乗り返してくれる方が大半ですから)

文香(苦しい言い訳を入れつつもこうすることで、名前も確認できます)

文香「……」ペラッ

文香(2ページ目を開きます……そこには見たことの無い新しい歴史が載っていました)

文香(それでは、読んでいきましょう)

文香(藤居朋の歴史を)

================================

『神様からの力を得た私はその能力を嬉々として使ってたわ』

『初めて未来があたるようになったんだもん! 本当にうれしくって、うれしくって!』

『いろいろな人が死ぬ未来をたくさん見てきたわ』

『……あたしが見なければ、その人たちは死ななかったのにね』

文香「……」

………………

…………

……

『……占いに恐怖心が無いわけじゃないわ』

『あたしの場合、絶対に叶っちゃうんだもん』

『……でも、それが歌鈴ちゃんを助けるためなら……って』

『恐怖心をもっと大きな勇気で押しつぶして、あたしは未来を占ったの』

文香「……」

………………

…………

……

『その時は……きっと、今までで一番誰かのことを思って歌ったと思う』

『あの畜生みたいな神を歌鈴ちゃんの中から追い出すために』

『歌鈴ちゃんを引き上げるために……歌鈴ちゃんのことだけを考えて』

文香「……」

………………

…………

……

『……周りの速度が速くなっていくのは不思議な感覚がしたわ』

『正確には、私が遅くなっていたんだけどね、そうとしか思えなかったの』

『耳に入る音が、目に入るものがめまぐるしく変わって……気持ち悪かった』

『すぐにみんなが助けてくれて助かったわ』

『……1日経ってたのにはびっくりしたけどね』

文香「……」

………………

…………

……

『神と神の戦いなんて始めてみたわ』

『本当は、ちひろさんが負けて消えてくれたら一番うれしかったんだけど……』

『あのままだときっとこずえちゃんがやられちゃってたかもしれないし』

『それに……よしのちゃんや歌鈴ちゃんの思いもあったから……占って』

『……きっと一番幸せな結末になって、よかったわ』

文香「……」

………………

…………

……

================================

『古本屋ねぇ……たぶんこんなところにはあたしの欲しい漫画おいてないと思うんだけどなぁ』

文香「……」パタン

文香「……ふぅ」

文香(読み終えました)

文香(本を閉じ……思わず天を仰ぎ見て……顔を抑えて……)

文香「面白かった……!」

文香(そう、口からこぼれました)

文香(……まさかこのような歴史をたどった人間がいるとは)

文香(事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものです)

文香「本当に……面白かった……!」

文香(異能力を手に入れ、それに囚われ……)

文香(それを助けられ……自分の力を操れるようになってからは、他人を助けるために使う)

文香(それだけでも要素は詰まっているのに、さらにはアイドルも営んでいるだなんて)

文香(……まるで物語の登場キャラのようでした)

文香(ですが、これが彼女の歩んできた道)

文香(この世界に存在する彼女が歩んだ歴史です)

文香「……」

文香(たとえば妖怪の存在、神の存在……信じたことが無いわけではありません)

文香(しかし、結局はきっと幻の存在なのだろうと思っていました)

文香(……幻ではなかったのです)

文香(彼女の歩んだ軌跡には確かに存在していたのです)

文香(……興奮が抑えられません)

文香(世界にはこんなにも奇妙なもので満ち溢れていたのか、と)

文香(胸の高鳴りが止まりません)

文香「はぁ……」

文香(思わずため息がこぼれてしまいます)

文香(もっと読んでいたかった……)

文香(もしもこれが本物の小説で、シリーズものだったなら)

文香(発売日にどんな用事も押しのけて買いにいくくらいには、面白かった……)

文香「……」

文香(……なんとかして、もう一度来てくれないでしょうか?)

文香(すぐに来てもたぶん新しいことは増えていないでしょうから、少し時間が経った後に……)

文香(彼女に適当に勧めたあの本を気に入ってくれたなら、もう一度来てくれるでしょうか……ちょうどいいタイミングで……)

文香(……いえ、タイミングを待つより……他の……)

文香(この歴史の登場人物が来てくれないでしょうか?)

文香(彼女たちの歴史もまた、面白いものになっていることでしょうし)

文香(……そういえば、彼女は誰かと一緒に来ていましたね)

文香(あれは……語尾から察するに、前川みくでしょうか?)

文香(パッと見た限りはただの人間に見えたのですが……不思議なものです)

文香(そして惜しかった)

文香(もしもこの本がもう一冊あれば、なんとしてでも彼女に触れさせ……前川みくの歴史も読めたというのに)

文香(もったいない……本当に)

文香(何とかして、もう一度訪れてくれないでしょうか?)

文香「……」

文香「……」

文香(私と彼女たちのつながりはこの本しかありません)

文香(連絡先さえ知らなければ、住所だって知らない)

文香(……いえ、彼女はアイドルで事務所に所属しているのですから、調べればわかるかもしれません)

文香(ですが、わかったところで……何ができるのでしょうか)

文香(本を触ってもらいに行くなんて間違いなく不審者ですし、そもそも触ってくれるとも思いません)

文香(……)

文香「……歴史を改変する、とか?」

文香(突拍子もない考えです)

文香(しかし、不思議なことは起こる……ということは彼女の歴史から学べました)

文香(ならば、もしかしたら……と)

文香(……手元には彼女の歴史があります)

文香(例えば、この歴史に文章を足したら……)

文香「……」

文香「……」

文香「……」カキカキ

『前川みくを鷺沢書店に連れてくる』

文香「……」

文香(……書いてしまいました)

文香(文体は思いっきり私のままですが……)

文香(……歴史の改変……というよりは未来の固定、ですね)

文香(この歴史の持ち主……藤居朋のような――)

文香「――!」

文香(……書き加えた文章が本ののどに吸い込まれて行きました)

文香(目をこすっても私が書き加えた文は存在しません)

文香(……これは、未来が固定されたという証なのでしょうか?)

文香(それとも、異物が排除されただけなのでしょうか?)

文香(その答えは今の私にはわかりません)

文香(ですが、これがもし未来の固定なら……)

文香「……」

文香「……ふふ」カキカキ

文香(……思わず笑みをこぼしながら)

文香(『前川みくに本を買わせる』と、追記したのでした)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


みく「うぇー……なんでまた本屋なの?」

朋「ごめんごめん、この前ここで買った本が面白くって」

朋「だから、続き買いたいなーって」

みく「だからって、なんでみくも行かなきゃ行けないのにゃ……」

朋「あはは……ほら、みくちゃんもなんか気になってた漫画あったじゃない?」

みく「まあ、気になってはいるけど……」

朋「でしょ?」

朋「だから、みくちゃんも一緒に本を買いましょ?」

みく「んー……」

朋「……っとついたわね」

朋「こんにちはー」

文香「あ……!」

文香「……こんにちは」

朋「お勧めしてくれた本面白くって、続き買いに来ちゃった」

文香「そうですか」

文香「……ただいま持ってきますね」

朋「ん、お願い」

文香「……」

みく「……とりあえずみくはこの前のマンガのところにいるにゃ」

朋「了解」

文香「お待たせしました」

朋「ん、ありがと」

朋「値段はこの前と同じよね」

文香「同じです」

朋「じゃ、はい」

文香「ありがとうございます……ちょうどですね」

文香「では、こちらを」

朋「うん、ありがと」

朋「……今回は本間違えなかったわね、ふふ」

文香「ええ……まあ」

朋「その本って面白いの?」

文香「……とても」

文香「ですが、こちらは私物で売り物ではないので……」

朋「あ、そうなんだ……」

文香「申し訳ありません」

朋「いや、別にいいわよ」

朋「……っと、そうだ」

朋「ちょっと待ってて?」

文香「……?」

朋「……あ、いた」

みく「……」ペラッ

朋「やっぱり気になるのね、その漫画」

みく「だって、面白いし……」

朋「じゃあ、買っちゃえばいいじゃない」

みく「うー……」

みく「……朋チャンはもう買い終わったんだよね」

朋「うん。だから買わないならもう行くわ」

みく「……」

みく「……わかった、買ってくる」

みく「続き気になるし」

朋「んー」

みく「はぁ……なんかいいように誘導された気がするにゃ」

朋「あはは、そんなつもりは無いけどね」

みく「これくださいにゃ」

文香「!」

みく「……何?」

文香「……いえ、なんでもありません」

文香「こちらの漫画ですね……ええと、値段は――」

みく「――ねぇ、何変な顔してるの?」

文香「へ……?」

みく「不気味に笑って……気持ち悪いにゃ」

文香「……すいません」

文香「先ほどまで読んでいた本を思い出し笑いしてしまいまして」

みく「ふーん」

文香「……それで、お会計は――」

文香「――ありがとうございました」

みく「どーも」スッ

みく「……って、この本じゃないんだけど」

文香「あ……ごめんなさい」

みく「別にいいけど……どうやったら漫画と小説を間違えるのにゃ」

文香「……すいません」

みく「……」

みく「……やっぱり気持ち悪い顔してるにゃ」

文香「……こちらでしたね」スッ

みく「どーも」

みく「朋チャン、お待たせっ!」

朋「あ、買ったのね」

朋「じゃ、行きましょ」

みく「うん!」

朋「それじゃ、またね。文香さん」

文香「ええ……またのお越しをお待ちしています」

文香「……」

文香「……ふふ」

文香「いけませんね……顔に出てしまって……ふふ」

文香(しかし、うれしさが抑えられなくって)

文香(……まさか、本当に前川みくの歴史を手に入れられるなんて)

文香(今日は確かに朋さんがみくさんを連れてきて、本を買うように誘導していました)

文香(私が書き加えた行動を正しく行っていました)

文香(……つまり、未来が固定できたということでしょう)

文香(本の新しい能力を知ることができました)

文香(これで人を操ることができるなら、誰の歴史でも読めるかもしれません)

文香「……ふふ」

文香(夢が広がります)

文香(次は誰の歴史を読もう……なんて、気が早いことも考えてしまいます)

文香(そう、気が早いのです)

文香(今、私の手には一度見てみたかった妖怪の歴史が載っているのですから)

文香(これを読んでから考えても遅くはないでしょう)

==============================

『好きなことを好きなだけする。それって本当に楽しいよね』

『今日はおなかいっぱいご飯を食べようと思って、いろんなものを取ってきたにゃ』

『仲間のみんなも喜んでくれたし。楽しかったにゃぁ』

『……にしても、あの黒さは羨ましいにゃあ』

『みくも白さは自慢だけど、あの子の漆黒色の毛並みもかっこいいにゃ』

文香「……」

………………

…………

……

『その日も好きなことをしようと思って……適当に人を食べようと思ってたにゃ』

『それが、まさかみくより強いやつだったなんてね』

『この日でみくの人生はめちゃめちゃに狂ったにゃ』

『もう本当最悪』

文香「……」

………………

…………

……

『ペット扱いされてたころは本当に全員ぶっ殺してやりたいと思ってたけど』

『でも悪いのはあんちくしょうだけだって気づいたんだよね』

『他のやつらはまあいいやつらだったしにゃ……だから助けてやろうって思ったの』

『人形にされるくらいでおびえたりなんてしないんだから』

文香「……」

………………

…………

……

『しっかし、あのイカれた茄子チャンがあんなにあわてるなんてにゃ』

『珍しい姿が見れて面白かったにゃ』

『……まあ、みくも結構不安だったけどね』

『なんだかんだみんなのことが大切になって来てるんだにゃ』

文香「……」

………………

…………

……

『アイドルは楽しいけど、雪は寒いし冷たいし……嫌い』

『なのに猛吹雪の中を歩くなんて……本当につらいにゃ』

『雪はPチャンのおかげでまったく当たらないけど……でも寒いのはそのままだし……』

『はぁ……本当につらいにゃ……でもこれも聖チャンのためだから……がんばる!』

文香「……」

………………

…………

……

==============================

『さっさと買って帰ろ、なんかこいつ気持ち悪いし』

文香「……」パタン

文香「ふぅ……」

文香(……こちらの歴史も面白いものでした)

文香(元々はエサとしてしか見てなかった人とつながった妖怪の話)

文香(つながって……暮らしていくにつれ……仲間を好きになっていく……心の変遷は面白いものでした)

文香(妖怪として生きていた頃は、何も考えずに生きていただけに……)

文香「……」

文香(……彼女たちに出会う前に生きていた時期も面白いものでした)

文香(人が虫を潰すように、彼女も簡単に人を殺し、食べるのです)

文香(まさか部位ごとに味の違いがあるなんて知りませんでしたから)

文香(新しい知識が増えました……使うことはないでしょうが)

文香「……ふふ」

文香(……ああ、また胸の高揚が止まりません)

文香(こんなのだから気持ち悪いと思われてしまうのに)

文香(人がいるときは、表に出さないようにしなきゃ……無感情に……)

文香「……ふぅ」

文香(落ち着きました)

文香(さて、次は誰を読みましょう)

文香(……この茄子という方は気になりますね)

文香(朋さんを読んだときも、みくさんを読んだときも、彼女はイカレているという評価でした)

文香(そのイカレている人間はどのようなことを考えて、どのような歴史をすごしてきたのでしょうか)

文香(……)

文香(読んでみましょうか)

文香「……」カキカキ

『鷹富士茄子を鷺沢書店に連れてくる』

『鷹富士茄子に何かを買わせる』

文香「……」

文香「……ふふ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


みく「ついたにゃ!」

茄子「ここですか? みくちゃんお勧めの書店は?」

みく「お勧め……っていうかここしか知らないだけだけどね」

みく「ついてきてくれてありがとにゃ、茄子チャン!」

茄子「いえいえ、私も買いたい本があるのでー♪」

みく「にゃははっ! それはよかった!」

茄子「……でもみくちゃんが本ですか……あんまりイメージはありませんねー」

みく「みくもそう思うよ」

みく「朋チャンに連れられてここに来なきゃ買うこともなかったろうしにゃ」

茄子「朋チャンに感謝ですね♪」

みく「や、たぶんこれ以上はみくマンガ買わないよ?」

茄子「あら」

みく「……っと、ついたにゃ」

茄子「わぁ、雰囲気ありますねー♪」

文香「……あ」

文香「……」ペコリ

みく「あいつが店員にゃ」

茄子「こんにちはー♪」

みく「えーっと、あのマンガの続きがあったのは……」キョロキョロ

茄子「ふふっ……っと、私も自分の探しものを見つけなきゃ」

茄子「んー……あっ、あったあった!」

茄子「よかった、よかった。すいませーん♪」

みく「はい、お金」

みく「今度は渡す本間違えないでよ?」

文香「はい……」

茄子「あっ、みくちゃんが買ってる途中でしたか」

みく「うん」

みく「茄子チャンも探してた本見つかった?」

茄子「はい♪」

文香「……あの」

みく「なに?」

文香「……ええと、おつりがこちらで」

みく「ん」

文香「本がこちら……ですね」

みく「そうにゃ」

文香「……ありがとうございました」

みく「……はい、じゃあ茄子チャンの番にゃ」

茄子「あ、はいっ」

茄子「これくださいなっ♪」

文香「あ、はい……」

文香「ええっと――」

文香「――おつりがこちらです」

茄子「はーい♪」

文香「それで、商品が――」スッ

みく「――それじゃないにゃ」

文香「」ビクッ

みく「……また間違えたの?」

文香「え……あ、はい……」

文香「すみません……」

茄子「いえいえー♪」

茄子「……その本って面白いんですか?」

文香「……?」

茄子「間違えて人に渡しちゃうくらいオススメの本なのかなって♪」

文香「あ……」

文香「……はい」

文香「とても、面白い本です……」

茄子「へぇ……ちょっと読んでみても?」

文香「……」

文香「……どうぞ」スッ

茄子「わぁ、ありがとうございますー♪」ペラッ

茄子「……あら、何も書かれていませんね?」

文香「えぇ……立派な装飾なのに……中身は空っぽ」

文香「……面白いと思いませんか?」

茄子「ふふっ、確かに面白いですね♪」

茄子「こんな立派なんですから、いっぱい書かれていそうなのに」

文香「でしょう……?」

茄子「日記帳とかに使ってみても面白そうですねー♪」

茄子「せっかくだから、これも買っていいですか?」

文香「いえ……それは私物なので売り物ではないのです」

茄子「あら、残念……」

文香「……申し訳ありません」

茄子「んー……『歴史』って本なんですね」

茄子「……みくちゃん、この後探してみましょうか♪」

みく「絶対嫌にゃ!」

茄子「えー……みくちゃんも気になりませんか?」

みく「興味ないから一人でやってにゃ」

茄子「えー」

文香「……ええと、こちらが商品ですね」

茄子「おっと、そうでした」

文香「いえ……またのお越しをお待ちしています」

茄子「はーい♪」

茄子「……さあ、本屋めぐりに行きますよ、みくちゃん!」

みく「だからいかないにゃ!」

文香「……」

文香「……ふぅ」

文香(危なかったですね)

文香(なんとしてでも彼女の歴史を読みたかったのに……失敗するところでした)

文香(……しかし、なんとか彼女に触らせることはできました)

文香(今後は……触らせる方法も考えないといけませんね)

文香(……この歴史に『誰々をこの本に触らせる』と書いてみましょうか?)

文香(きっと目の前では奇妙な光景が繰り広げられそうですが、まあ別にいいでしょう)

文香(結果的に歴史を読めればいいのですから)

文香(……次は試してみましょう)

文香(とりあえずは、鷹富士茄子の歴史を――)

文香「……」ペラッ

=============================

『何をしてもつまらない……結果はわかりきってるから』

『やりたいと思ってることは全部できて、傷つくことは何もできなくって』

『……何のために生きてるんだろう』

『周りの人の幸運を奪うために世界が用意した舞台装置なのかな、私って』

文香「……」

………………

…………

……

『自分の肌から流れる血をはじめてみました♪』

『想像していた以上に真っ赤な色をしたそれは足を滴っています』

『流れる血の感触も初めての体験でした、なんだかくすぐったくって気持ちいいです』

『それに、この痛みも……怪我の痛みって初めてで……気持ちいい……♪』

『……もっと怪我してみたいかも♪』

文香「……」

………………

…………

……

『まさか女の子に告白されるとは思いませんでした』

『それに、その女の子に包丁で刺されかけるなんて体験も初めてでした♪』

『今日は初めてがいっぱいで楽しい日ですね♪』

『一回刺されてみても面白いかもしれませんけど……刺されちゃうとこの楽しい時間も終わっちゃいますし、頑張ってよけますよー♪』

文香「……」

………………

…………

……

『猫とのおしゃべりって楽しいですねー♪』

『人とぜんぜん違う感性があってて、どんな話も新鮮で……』

『折角猫語がしゃべれるようになったんですし、今度は猫の動きもできるようになってみようかな』

『成功して軽やかに塀の上に立てても、失敗して怪我しちゃっても楽しいですし♪』

文香「……」

………………

…………

……

『あたり一面真っ暗ですねー』

『右を見ても左を見ても闇しかなくって、すぐそばにいるはずの芳乃ちゃんや朋ちゃんも見えません』

『目をつぶった時よりも暗い……真の闇って感じですね♪』

『これが解決しちゃったらこの闇にはもう入れなくなっちゃうのが本当に残念です。こんなに楽しいのに』

文香「……」

………………

…………

……

=============================

『この書店には何か面白いものはあるでしょうか?』

文香「……」パタン

文香「……ふぅ」

文香(……この歴史も面白いものでした)

文香(どのようなことも楽しいと思う……まるで、好奇心の塊のようでした)

文香(ネガティブなものでさえも楽しめるその姿をイカレていると思うのは当然かもしれませんね)

文香(……しかし、その彼女の姿も、助けられたことで生まれた姿……)

文香(彼女もまた大きな転機があったのですね……)

文香(……これまで読んだ3つの歴史はある共通のきっかけが原因で転機が生まれ、新しい人生を営んでいます)

文香(そのきっかけとなった……寺生まれのTさんという存在)

文香(彼の歴史も読んでみたい……のですが)

文香(それよりも……神の歴史を読んでみたい……と思ってしまいます)

文香(そう……彼女たちの歴史に出てくる嫌われ者の神様……千川ちひろの歴史を)

文香(神の生まれ……成り立ち……そういったものもすべて読めるのでしょうか?)

文香(そう思うと好奇心が抑えられません)

文香(……茄子さんほどではないといえ、今の私もまた好奇心の塊になっているのかもしれませんね)

文香「……ふふ」

『千川ちひろをつれてくる』

『千川ちひろに本を触らせる』

文香(……勢いのまま私はそう書き込みました)

文香(文字は吸い込まれるように消え……未来は固定されました)

文香(……神様の歴史がこの手の中に来るのはいつでしょう)

文香(ああ、楽しみです……ふふ)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


茄子「まさか、本当に来てくれるなんて思いませんでした」

ちひろ「呼ばれましたから」

ちひろ「……こんなにしょうもない用事だとは思いませんでしたけど」

茄子「新しい本を買いたいなって思ったんですけど、お金がなくなっちゃって♪」

茄子「ありがとうございますー♪」

ちひろ「……別にかまいませんけど」

ちひろ「別の日に買えばよかったんじゃないですか?」

茄子「今欲しいと思ったので♪」

ちひろ「……そうですか」

茄子「っと、つきましたね」

ちひろ「……本が欲しいだけなら私がその辺から取ってきてもいいんですけどね」

茄子「もう、そういうのはダメですよー」

ちひろ「わかってますよ」

茄子「っと、こんにちはー」

文香「あ……こんにちは」

ちひろ「……ちゃっちゃと済ましてくださいよ」

茄子「はーい♪」

茄子「見つけてきましたー♪」

茄子「これください♪」

文香「……はい」

茄子「……そうだ、ちひろさん。知ってますか?」

茄子「この方ってとっても面白い本を持っているんですよ」

ちひろ「はぁ」

茄子「見せてあげてもいいですか?」

文香「……ええ」

文香「こちらですね」

茄子「ありがとうございます」

茄子「どうぞ、ちひろさん」

ちひろ「……」ペラッ

ちひろ「……ああなるほど」

ちひろ「ふふ……これは確かに面白い本ですね」

茄子「でしょう?」

文香「……ところで……そろそろお会計してもいいでしょうか?」

茄子「あっ、ごめんなさい」

文香「……お買い上げありがとうございます」

茄子「ありがとうございますー♪」

茄子「……さ、ちひろさん。行きましょうか」

ちひろ「えぇ」

ちひろ「こちらの本。ありがとうございました」

文香「いえ……」

文香「またのお越しをお待ちしています」

茄子「ふぅ、ありがとうございました、ちひろさん♪」

茄子「おかげさまで、欲しかった本が買えました」

ちひろ「いえ」

ちひろ「……それより、少し頭を出してください」

茄子「?」

ちひろ「……」スッ

茄子「きゃっ……」

茄子「……あれ?」

ちひろ「どうしましたか?」

茄子「なんで私、ちひろさんと出かけているんでしょう?」

ちひろ「貴方に呼ばれたから来たんですよ?」

茄子「いえ、そうなんですけど……でも、どうして私はちひろさんを……?

ちひろ「さあ、どうしてでしょうね?」

ちひろ「それでは私はこれで」

茄子「あ、はい」

茄子「……?」

ちひろ「……さて」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


文香「……ふふ」

文香(ついに、神様の歴史を手に入れました)

文香(茄子さんの動きはだいぶ不自然ではありましたけど)

文香(まあ別にいいでしょう。目的は達成しましたから)

文香(……この次は誰の歴史を読みましょうか?)

文香(ついに神様の行動に介入できるようになったのです、望めば誰だって可能でしょう)

文香(夢がまた大きく広がりました)

文香「……いけない」

文香(まずは目の前の歴史に向き合わなきゃ)

文香(神様の歴史です……その量はさぞ膨大なものでしょう)

文香(しかし、それはおそらくまだ誰もしらない歴史……)

文香(どんな文献を読んでも、どれだけ調査をしても辿りつくことは無い、未踏の歴史に違いありません)

文香(ああ、楽しみです……本当に楽しみです)

文香「……」ペラッ

文香(……さあ、読みましょう)

文香(果たして神様が歩んできた歴史とはどんなものなのか)

文香(……意気揚々と私はページをめくりました)

==============================





『人を覗き見る悪い子にはお仕置きです♪』

文香「……えっ」





==============================

文香(おなじみ『歴史』と書かれた1ページ目をめくった先)

文香(目に飛び込んできたのはその1行だけでした)

文香「……?」

文香(一抹の不安を感じながら、ページをめくります

文香(……しかし他の言葉は一切出てきません)

ちひろ「……人の歴史を覗き見るなんて関心しませんね」

文香「……っ!?」

文香(背後から声がしました)

文香(それは先ほど聞いて……そして、出て行ったはずの人物の声)

文香「……」クルリ

文香(……おそるおそる振り返ると確かに先ほど消えたはずの人物がそこに経っていました)

文香「ひっ……」

ちひろ「まあ、私以外はどうでもいいんですけど……私をタダで見られるのは腹が立ちます」

ちひろ「せめて対価を払ってくれたら許可しないわけでもないんですけど」

文香「あ、あの……」

ちひろ「貴方は対価を払ってくれますか?」

文香(……得体も知れぬ悪寒が私の肌を走り続けます)

文香(これが、神との対峙ということなのでしょうか?)

文香「……い、いくら対価を払えばいいのでしょうか?」

ちひろ「さあ? それは貴方次第ですね」

文香「……」

文香(ちひろ……という神の性質は他の3人の歴史に書かれていました)

文香(対価に応じて願いを叶える……)

文香(少ない対価では、望まぬ形で願いを叶えられてしまう)

文香(では、今回の場合の対等な対価はどれくらいなのでしょうか……)

文香(……この神様はそれを教えてくれません)

ちひろ「さて、貴方はどのくらい対価を払ってくれますか?」

文香「……」

文香「……いえ」

文香「対価は払いません」

ちひろ「あら?」

文香「……好奇心が過ぎて出すぎたことをしてしまいました」

文香「その本には二度と触りません……」

ちひろ「……それで?」

文香「……すいません」

ちひろ「……」

文香(……おそらく、これが今の私にできる一番良い選択でしょう)

文香(たとえいくら対価を払ったところで、私の望まない方向に行くでしょうから)

ちひろ「……つまらないですね」

ちひろ「久々に、いくらか対価をもらえると思ったんですけど」

ちひろ「……貴方のような好奇心で動く獣のような方なら特に」

文香「……獣などではありません」

文香「書物が関連しなければ、私は行動的にはなれませんから」

ちひろ「はぁ、そうですか」

ちひろ「ではとりあえずこれは没収ですね」

文香「……」

文香(……仕方の無いことでしょう)

文香(新しく歴史を見ることが叶わないのは残念ではありますが……私の手元にはまだ――)

ちひろ「――それで、貴方の手元にある人の歴史のメモは……」

文香「!」

文香(……誰にも見せたこともなく、言ったこともないはずだったのですが)

文香(それを知られているのは……やはり神様だからなのでしょうか)

ちひろ「まあ私のことは載っていないので、許可しましょう」

文香「……ほっ」

文香(不幸中の幸い……だったかもしれません)

文香(こんな面白い経験が記憶上だけにあるなんて……いつか忘れてしまうかもしれませんから)

文香(それは……本当に嫌ですから)

ちひろ「……さて」

ちひろ「では、貴方へのお仕置きはどうしましょうか」

文香「……えっ」

文香「あの……私、もうしませんから……」

ちひろ「これからはそうでも、これまでは違うでしょう?」

ちひろ「貴方は神である私を1から10まで知ろうとしましたよね?」

ちひろ「神を理解しようとする……なんて人の身でおこがましいと思いませんか?」

文香「……」

ちひろ「せめて、対価を払ってくれたら少しは許してあげたんですけど」

文香「……」

文香(……選択を誤ったのでしょうか?)

文香(いえ、もし対価を払うことを選択していたらもっとひどい目になっていたかもしれないですし……)

文香(……理不尽ですね)

ちひろ「神様ですから♪」

文香「……っ」

文香(……心も読まれてしまうんですか)

ちひろ「……んー」

ちひろ「……あっ、良いことを思いつきました♪」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ちひろ「というわけで、新しいアシスタントです♪」

文香「……鷺沢、文香です」

みく「うわっ、ついに人さらって来たにゃ!」

朋「最低ね」

茄子「邪神ですねー」

ちひろ「んー……ひどい言われようですねー」

ちひろ「彼女は自ら選んでここに来たんですよ」

朋「そんな怯えてるのに?」

みく「どうせ脅して連れてきたんでしょ?」

茄子「悪神ですねー」

ちひろ「あら、ひどい」

文香「……」

ちひろ「まあ、確かにそんな感じではありますけど」

みく「ほら!」

ちひろ「でも、適当に選んで脅したわけじゃないですよ?」

ちひろ「彼女は私たちに害をなしていたから、そのお仕置きです」

茄子「害をなす……?」

朋「ただの本屋の店員でしょ、文香さんって」

ちひろ「あら、それだけじゃないですよ。ねぇ?」

文香「……」

文香「……一言、皆さんには謝っておきたいことがあります?」

文香「私は……皆さんを操り、歴史を読んでいました」

文香「……すいません」

朋「……?」

みく「どういうことにゃ?」

文香「あう……え、えっと……」

ちひろ「……この本に見覚えはありませんか?」

朋「あ! 文香さんが間違えて渡してきた本!」

茄子「中身が真っ白な本ですよね?」

ちひろ「えぇ、そうですね。持ち主以外にはそう見えます」

みく「……じゃあ、文香ちゃんにはどう見えてたのにゃ?」

ちひろ「触れた人間の歴史が見えてたんですよ」

朋「!」

ちひろ「知られたくない過去も含め、その人の人生を文章にして載せるんです」

ちひろ「その上で、その人生に文章を加えることで次の未来を固定できます」

ちひろ「朋ちゃんやみくちゃんのように♪」

みく「……みくたち、操られてたの?」

ちひろ「えぇ」

茄子「……あっ、もしかして私がちひろさんと一緒にあの本屋に行ったのって」

ちひろ「そういうことですね」

茄子「やっぱり……そうじゃなきゃちひろさんは呼ばないでしょうし……」

ちひろ「朋ちゃんとみくちゃんは、本に書かれた『誰かを連れ、本を買わせる』という命令を忠実にこなしていました」

ちひろ「茄子ちゃんの場合は『本を触らせる』でしたね」

ちひろ「……もしも彼女がもうちょっと悪人であったら、ひどい目にあっていたかもしれませんね」

ちひろ「貴方たちのわかったとおり、何の違和感も無く操られるのですから」

朋「……」

ちひろ「それともう一つ。文章を消して新しい文章に書き換えることで、過去の改変も行えます」

ちひろ「こちらに関しては使ってはいなかったようですが」

文香「……知りませんでしたから」

ちひろ「あら、では知っていたらあなたたちの過去が勝手に置き換わっていたかもしれないんですね」

文香「そんな……ことは……」

みく「……」

ちひろ「この本の効力としてはそんなものですね」

ちひろ「人の歴史に介入できる……代わりに生命力は奪われてしまいますが」

文香「そ、そうだったのですか……!?」

ちひろ「あら、気づいてなかったんですね?」

ちひろ「そうですね……続けていたら、1ヶ月も経たないうちに死んでいたとは思いますよ」

文香「……その生活する分には何の問題も出ていなかったので」

文香「あまり外にも出ませんし……」

ちひろ「そうですか」

ちひろ「……とまあ、彼女が害をなしていたというのはこういうことです」

ちひろ「人の死を呼び寄せていた朋ちゃんも」

ちひろ「幸福に囚われていた茄子ちゃんも」

ちひろ「人を食べるみくちゃんも」

ちひろ「全部全部彼女は読んだ、ということですね♪」

文香「……う」

朋「……」

文香「……あの、皆さんの歴史が……面白くて」

文香「私の知らなかった世界が広がっていくのが楽しくって」

文香「事実は小説よりも奇なりを地で行ってる皆さんを見るのが面白くって……つい」

文香「……すいません」

みく「ふーん……」

茄子「……まあ、別にいいんじゃないですか?」

文香「!」

茄子「全部事実ですし、それが知られたからって別に……ねぇ?」

朋「そうね、もう全部解決したことだもん」

茄子「それに、知らない間に私が丸裸にされてるんですよ」

茄子「面白くないですか?」

朋「いや、それはわからないわ」

文香「……」

みく「みくも別に気にしないよ、今だってたまに食べたいなーなんて思っちゃうし」

みく「お前とか結構美味しそうだよにゃ」ジュル

文香「……」ビクッ

朋「みくちゃん」

みく「にゃはは、冗談にゃ」

みく「文香ちゃんもみくの歴史を見たならわかるでしょ?」

文香「……人を食べたら、プロデューサーさんに殺されるから……」

みく「せーかい。だから本当に食べたりなんてしないよ」

みく「これは勝手に見られてちょっとムカついた仕返し」

茄子「気にしないんじゃないですか?」

みく「気にしないけどムカつくもんはムカつくにゃ」

文香「……」

みく「それに。お前がみくたちを操ったのって、誰かを書店に連れてくるだけなんでしょ?」

文香「……はい」

文香「誓って、それだけです……」

ちひろ「ええ、これは本当のことですね」

みく「じゃ、問題ないにゃ」

みく「あいつの言うとおり、みくたちの過去を勝手に変えていたら許せなかったけどにゃ」

みく「ねぇ?」

朋「……それはそうね」

茄子「今回はそんなことしてないみたいだから問題ないみたいですけどねー♪」

みく「うんうん」

みく「……そんな感じで、みくたちは誰も気にしてないよ」

みく「だから、さっさとそいつを開放してやれにゃ」

ちひろ「んー……なるほど」

ちひろ「でも、私は許してないんですよね」

ちひろ「だから、帰しません♪」

みく「あいつやっぱ最低にゃ」

朋「知ってたことだけどね」

ちひろ「それに、彼女をアシスタントにさせる理由はそれだけじゃないですよ」

ちひろ「まだ二つ理由があります」

ちひろ「……ひとつは、皆さんのためです」

茄子「私たちの?」

ちひろ「はい」

ちひろ「皆さんは私が嫌いでしょう?」

みく「嫌いにゃ」

朋「嫌いね」

茄子「嫌いです」

文香「……」

ちひろ「でも、どうしても私が皆さんの下に行って手伝わないと行けなかったりするときがあるじゃないですか」

ちひろ「アイドルの皆さんと、プロデューサーが一人と、居候が一人と、アシスタントの私しかいないわけですから」

朋「……そうね」

ちひろ「ですから、もう一人アシスタントを増やすんですよ」

ちひろ「皆さんが好きになれるような、同じ『人』のアシスタントを」

みく「みくは妖怪にゃ」

ちひろ「同じようなもんでしょう?」

みく「うっさい、死ね」

ちひろ「ほら、私ってこんなに嫌われてますから」

ちひろ「嫌われてない誰かがそばにいたり、手伝ってくれた方が、皆さんのテンションも違うでしょう?」

朋「……それはそうね」

ちひろ「皆さんには楽しくアイドルをやって欲しいですから。これもそのためのものです♪」

茄子「それで、もうひとつの理由はなんですか?」

ちひろ「それは――」

文香「――私が皆さんのファンだからです」

朋「へ?」

文香「皆さんの歴史を読んで……こんなに面白い世界があるんだって感銘を受けて……」

文香「もっと傍で見てみたい……そう思ったのです」

みく「……言わされているわけじゃないの?」

文香「いえ……これは嘘偽り無い私の心ですです」

文香「占いを駆使して人を助ける朋さん、人と絆を深める妖怪のみくさん、好奇心の塊の茄子さん……」

文香「皆さんの歩んできた歴史は本当に面白かった……!」

文香「もちろん他の方々も……数奇な人生を送られているのでしょう……」

文香「……私も、そのような歴史を歩んでみたい……」

文香「皆さんの歴史を読んで……そう、思ったのです」

みく「ふーん」

文香「……神様からの提案はとても魅力のあるものでした」

文香「受けなければ、私は皆さんのことをテレビの中でしか見ることはないでしょう」

文香「……となれば、あの数奇な出来事を目にすることも二度とないはずです」

文香「何も変わらぬ書店で……何も変わらないまま日々を過ごすことになるはずです」

文香「ですから、貴方たちのそばで……アシスタントとして働くことで……」

文香「私は、小説よりも奇妙な事実を間近で見たいのです」

文香「……あんなに面白い世界が現実に存在することを知ってしまっては」

文香「もう本を読むだけでは満足できないのです」

ちひろ「やっぱり好奇心の獣じゃないですか」

文香「……そうかもしれませんね」

文香「その矛先は、書物の中の世界にのみ向いているかと思っていたのですが……」

文香「……どうも、現実離れした世界に向いていたようです」

朋「……まあ普通の人から見たら現実離れしてるわよね、ここって」

茄子「神も妖怪もいますからねー♪」

みく「みくにとっては普通に現実なんだけどにゃ」

朋「あー、妖怪から見たらそうね」

文香「あの本は、私に現実離れした世界を見せてくれました」

文香「しかしそれは没収されてしまい……別の方法で私が現実離れした世界に触れるためには……」

文香「……ということで、私は皆さんの下にいたいのです」

文香「皆さんの歩む人生の一ファンとして……そばで見ていたいのです」

ちひろ「……というわけです」

ちひろ「一つ目の理由は私の腹いせのため」

ちひろ「二つ目の理由は貴方たちのモチベーションのため」

ちひろ「三つ目の理由は彼女の願いのため」

ちひろ「誰にとっても有益に働くんです、彼女がアシスタントになることは

ちひろ「……断る理由はありますか?」

朋「……本人が望んでるなら、無いわね」

ちひろ「でしょう?」

ちひろ「というわけで、改めて。新しいアシスタントの文香ちゃんです♪」

文香「……鷺沢文香です。よろしくお願いします」

茄子「ふふっ、よろしくお願いしますねー♪」

朋「よろしくね」

みく「よろしくにゃ」

文香「……ふふ」

みく「うわっ、まーた気持ち悪い顔してるにゃ」

文香「……あ、すいません」

文香「今後のことを考えると……どうしても気分が高揚してしまって……ふふ」

みく「……あいつ茄子チャンの同類なんじゃないの?」

茄子「あら♪」

文香(……こうして、読むだけであった奇妙な世界へと、私は飛び込んだのでした)

文香(おそらく私の人生の最大の転機となることでしょう)

文香(今までとはまったく異なる歴史を歩み始めることになります)

文香(……寺生まれってすごい)

文香(そう思えるような出来事に会うのが……今から楽しみです)

文香(……ふふ)





おしまい

ふじとも、みくにゃん、茄子さんの心情とか、ちひろさんとか、好奇心全振りの文香さんとか書きたかったものを混ぜました。

そんな感じで番外編的な話でした。
最近寺生まれのPさんの出番が少ないので、次は出ます、たぶん。

誤字脱字、コレジャナイ感はすいません。読んでくださった方ありがとうございました。

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よかったらこちらもよろしくお願いします

おつおつ


チッヒが出た時点でオチは見えていたのはわかるわ

ちっひこええ


この文香さんにヘブンズ・ドアーのスタンド能力与えたら嬉々として使いまくりそうww

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