【バンドリ】月島まりな「私がハーレム主人公に!?【ガールズバンドパーティ!】 (24)

 事の発端は、四月下旬に差し掛かった夕暮れ時のことである。
 CiRCLEの楽器倉庫で、月島まりなはあるものを握りしめて息を荒げていた。

「ハァハァ……、ゴクリッ。こっちは香澄ちゃんのパンツで、こっちがこころちゃんのスクールソックスね……!」

 両手に持っているしろものを交互に見やり、喜びに打ちひしがれるまりな。興奮して手元が震えてしまう。
 これらは全て、スタジオで練習している彼女たちの鞄から盗んだ、思春期の結晶ーーもとい、青春(意味深)である。
 どうやって手に入れたのかと問われれば言わずもがな、受付で預かった持ち物から隙を見て拝借したものたちだ。

「おっ! 黒色の生地に、ピンク色の花柄をあしらっちゃってるわ。まぁまぁ。香澄ちゃんったら、意外と大胆な下着を持っていたのね。素敵じゃない?」

 いやらしい感想を独りでぶつぶつと言い、誰に質問してるのか分からない疑問を空にぶつけてにんまりとほほ笑む。
 瞬間、ポッピンパーティのリーダーである、溌剌な少女のパンティーを顔に押しつけてまりなは一気に深呼吸し始めた。

「すっ! はっ! あ、ぁぁぁあっ……あ↑ら↓まぁ~^→」

 香澄ちゃんの星の鼓動が鼻の奥深くまで、じんじんと伝わってくる。でも、どうやら今日はハズレみたい。これは未使用かもしれないわ。
 下半身の温もりを経験していない冷えた肌着に、まりなは心底残念に思った。洗剤の匂いがもどかしく感じて仕方がない。
 ただ、それも含めて変態淑女の鼻腔だけを満足させるには、十分な背徳感と芳香であることは間違いなかっただろう。

「お次は、そうね……。もっふもっふの、ふわ☆ギャラ♪サ~ンド~イ~ッチ!」

 残業が二時間に及び、無償で働かされている死にかけのまりなに、至福のギャラ(?)が与えられる。
 イベントストーリーの課題曲となっている歌に合わせて、二足の布を両頬に円を描くように押しつけ回した。
 お察しの通り、ハローハッピーワールドの純粋無垢なお嬢様の使用済み靴下である。

「オホホホホノホォ~~~^ッッッ!?」

 まりなはあまりの刺激に、反射的に背中をそってしまった。美しい弧を描いて、下手したらそのまま折れてしまいそうである。
 学校で一生懸命に活動していた、こころちゃんの若々しい脚のエキスが凝縮されているわ。甘酸っぱくてたまらない。

「も、もしかして、これをサンドイッチしたらどうなるのかしら? ハァハァ」

 さらに、意地汚いことに香澄のアンダーウェアをこころのソックスと一緒に絡みつかせて、

「お”っ……ぉ”お”!? の”っ”へ”ぇ”ぇ”ぇ”え”え”え”~~~~~~^!」

 ポピパとハロハピのコラボに、感想を言いたいが言語化するのが難しく、奇声を発してしまう。

「ハッピー☆ ラッキー☆ ポピパパ★ピポパァァァアアアッッッ!」

 ガキ臭いミルクのような匂いと、背伸びしたような汗の匂いが入り混じり、まりなの鼻をめちゃくちゃにする。
 これがなければ、社畜なんてやってられない。今日も彼女たちに感謝の気持ちを込めて、ありがとうの言葉を胸にとどめる。
 同時に、今日はどちらを持ち帰ろうか悩んでいたーーその時である。

 ーーまりなさん? あの、なにやってるんですか?

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いいですね

途端、まりなの変態的な動作が止まる。
どこか抜けたような少女の声が耳に入り、脳内を不安で満たし始めた。
クールな声質の持ち主は、ポピパで宇宙人の異名を持つ花園たえである。
練習スタジオでギターに不備があり、代わりに別のギターを借りにきたその直後ーー楽器倉庫でたえが視界に捉えたのは、理解に苦しむ光景だった。

「あれ、それって靴下と、下着……? えっ、どういうことですか」

女性ものの装身具を、両の手で大事そうに持つまりなを見て引き気味の表情を浮かべるたえ。
彼女からすれば、つい先日まで一緒にギターの練習に付き合ってもらっていた、初めての先輩である。
その年上が、こうして顔を紅潮させて、もみくちゃになっているそれを握っているのが不可解で仕方なかったのだろう。

「あっ、あ……。ち、ちが、違っ……、そうじゃ、なく! おたえ、ちゃ」

信頼を得ていた、ガールズバンドパーティの一員からの驚愕したような瞳に、まりなが罪悪感でパニックに陥る。
そんな彼女を見て、たえは艶のある黒髪の片方に伸びたもみあげを弄りながら、

「……違う? まりなさん、ここでナニをやってるんですか?」

「な、ななっ、なにも! ただ、ちょっと荷物の整理をね!?」

苦し紛れの言い訳である。
さすがにこれで納得する人間はいないだろう。
周囲は楽器だらけで窮屈だが、メンテナンスがきちんとされており、散らかってもいない。
その中で、パンツとソックスを持ち整理整頓だなんて、どう考えてもおかしい。
しかし、そんなことを考える余裕など、まりなにはなかった。ただ、その場しのぎの嘘を並べ立てただけ。
このような行為が明るみになれば、解雇は確実ーー下手すれば、お巡りさんのお世話にだってなりかねない。

「あ、あの、おたえちゃん? これは、その、本当になんでもないからね? だ、だから他の人たちには、えっと……」

首を傾げて、強い疑問の目を向けるたえの表情に焦りまくり、まりなはもはや効果のない弁解の余地を見いだした。
こんなところで、誤解されたまま帰らせてたまるか。人生が終わる。いや、誤解じゃないんだけど。非常にマズイわ。

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続きください

「……はぁ。私、何も見てませんから」

「えっ? お、おたえ、ちゃん?」

予想だにしない言葉に、思わず驚いた。助かったのかしら?
ほんの少しでも喜んでしまった自分が嫌になる。
一方で、たえはそそくさと、近くに置いてあった代わりのギターをこしらえた。

瞬間、侮蔑を含んだようないぶかしい表情で、まりなをちらりと見やる。
その悲しげな瞳は、いやらしい先学の胸をチクリと痛ませた。

「ま、待って? ちゃんとわけを話す、からっ」

わけを話す……?

それはつまり、女子高生のパンティーと使用済みくつしたでナニをしていたのかを暴露するということだ。
これはせっかく水に流そうとしている、後学の行為を無駄にすることになりかねない。
どこまでも空回りな受付嬢だ。はやくお巡りさんに教育されるべきだろう。

しかし、たえは変わらず気にしていないそぶりで、

「それじゃ、失礼しました。大丈夫です、本当に何も知りませんので」

そのまま出口へ向かい、お辞儀をしてから出て行ってしまった。

やってしまった。もう、おしまいだ。
そもそも、バレるのも時間の問題だったのかもしれない。
底意地の悪い合理化をして、なんとか焦燥し始める心を落ち着かせる。
途端、新卒で入社したこの職場で起きた数々の出来事が、走馬灯のように脳内で動き始めた。

オーナーから、何度も仕事ができなくて怒られたこと。
残業代の申請をしたら、先輩たちから止められたこと。
社畜ライフにスパイスを与えてくれる、花咲川や羽丘のいい子たち、彼女らとのたわむれ。

「あ、ああ……そんな、やだっ、やだやだっ」

すると子供のようにただをこねて、じだんだを踏むまりな。
せっかく可愛い子たちとの交流で、すさんだ心が癒されてきたというのに。
よほど悔やんでいるのか、手に持っていた香澄とこころの青春(意味深)をより強く握りしめる。

まさかの復活に草

「ああぁぁっ、あぁうあっ^もういいわ……今日は両方、持って帰ってやるんだから! ふんぐっ! ふごっ」

やけになったのか、どちらか一方を持ち帰る決まりを放棄しはじめる犯罪者予備軍。
罪悪感にさいなまされる、やりきれない気持ちを思春期スメルを嗅ぐことでごまかそうとしているようだ。
すがすがしいまでの、変態である。

「ふがっ、ふっしゅぅぅ。よし、あとは家に帰ってからのお楽しみ……はぁ、だめだわ。やっぱり気が晴れない」

今ごろたえは、ポピパのみんなやスタジオにいる子たちに、痴女の過ちを言い広めているのだろうか。
やはり、頭はよくないことを次々と妄想してしまう。
せっかく給料日前だったというのに、気が滅入る。
このまま、お金ももらえずに牢屋にぶち込まれるのかしらね。

あれこれ考えていても仕方ない。
まりなは帰り支度を整え、女子高生から拝借した戦利品をビニール袋に大切に包んでカバンの中へ。
職場のスタッフにお疲れさまと一言。足早に自宅へ向かうことにした。

 自宅に帰り、だるだるのパジャマ姿に着替えたまりなは、さらに気分が落ち込む事態をむかえた。
 仕事して疲れた体に流し込む、とっておきのアレがない。

「うっそ、もう……? あー、ほんと、今日はついてないわねー」

 どうも冷蔵庫のビールをきらしてしまったらしい。
 買いに行くか、面倒だけど最後のばんさんには必要だわ。
 みっともないがかまわない。どうせ捕まるから、見てくれを気にする必要はない。

 2X歳独身がすっぴんの寝間着で薄暗い夜道を歩くと、なんとも悲壮感が漂う。
 徒歩五分ほど先にあるコンビニでビール、おまけしてチューハイやウィスキーを購入。
 途中、見覚えのある人物に出くわしたまりなは、危うく酒とつまみが大量に入った袋を落としそうになった。

――こんばんわ、なんだか笑顔がなくなっちゃってるわね? くつしたをもっとあげれば、ハッピーになれるのかしら?

「こ、ここ、こころちゃんっ!? どうして、こんなところに?」

「うーん? たいしたことじゃないわ、ただ落ち込んでいる人を放っておけないのよ♪ だから、会いに来たの!」

違う、違う違う。そういうことじゃない。
なぜ私の自宅近くにいて、さも待っていたかのように自然と話しかけてきたのか。
まりなは思いついたように、注意深く周囲を見渡す。
例の黒服の人たちは、辺りにはいないようだ。

「安心して、黒い服の人はここにはいないから。それより、お家にあげてくれないかしら? おなかペコペコなのよ」

「えーっと、そうね。大人の家に女子高生が転がり込むなんて、まずいんじゃないかしら?」

「? 人の使い古した、むれむれのソックスを盗むより、まずいことがこの世にあるの?」

「……どうぞおあがりくださいこころ様」

やはり知っている。くつしたを盗み、クンカクンカしていたこともバレてるのか……?
おそらく、これはたえちゃんから聞いたようね。
まりなはふと、たえの気にしていないような無表情を思い出し、やけに苛立ちを覚える。

なによ、やっぱり暴露したんじゃないあの子。許しがたいことだわ――とツラの下で愚痴を言うまりな。
身勝手な怒りはどこまでもクズで見れたものではない。
それでも、こころは変わらずまりなを見据えてほほ笑んでいた。

楽しみ

 一方、たえはというと、自宅の部屋である人物について悩んでいた。
 つい先日まで、一緒にバンド練習をしていた先輩。その憧れの存在が異質な行為をしていたのだ。無理もない。

「はぁ……。まりなさん、どうしちゃったんだろう。さすがの私でも、驚いちゃった」

 人のことを言えた義理ではない、ポピパ随一の不思議っ子が自虐まじりにつぶやく。
 ペットの兎であるおっちゃんに、くたびれたように話しかけながら、

「私ね、ずっと一人で弾いてきたから。嬉しかったの。ポピパのみんなと演奏するのは、もちろん嬉しい。だけど……」

 手入れが行き届いている青いギターを撫でながら言葉を詰まらせる。
 そんなとき、ふと幼い頃に励まされたフレーズを思い出した。


 ――”月”まで届く勢いで、銀河を砕く旋律、響かせようよっ! 伝えたい大好きな想いを胸にさ♪


 たえの大好きな決めゼリフだ。
 五歳のとき、青いギターを持った高校生。自分と同じくらいの歳に活躍していたバンドマンのエールである。

 たえがギターを弾き始めてから半年後、下手くそと周りからののしられた際の応援だ。
 その人物が月島まりなであることを知ったのは、十年後のことである。

 

 その恩師がヘンタイだったなんて。できれば嘘であってほしい。
 兎のおっちゃんに語りかけていると、そっぽを向き始めて、ぴょんぴょん^と離れていってしまう。

「むーっ、いじわる。聞いてくれてもいいじゃん……はぁぁ」

 次いで、ベッドに倒れこみ深呼吸。うつぶせのまま、あの人のことを思い出してみる。
 いつも受付でニコニコとみんなをもてなしてくれる。誰にでも優しくて、頼りがいがあって。

 酒の飲みすぎで、ちょっとだらしないところもあって、無茶して。ストレスで若干、ハゲてて。
 ……くつしたと、パンティーを握りしめて。

「うぅっ。うぅ、うぅ、ううーっ!」

 顔をぶんぶんと左右に振り、嫌な記憶をかき消そうとするたえ。
 しかし、なかなか忘れさせてくれず、頭の中のもやもやは続く。

「まりなさんの変態! オーナーに怒られちゃえ!」

 まくらをぶん投げて、危うくおっちゃんにあたりそうになる。
 ハッとして、ごめんねと謝ってから、まくらを定位置に。

 普段の自分らしさが保てない。言いようのない苛立ち。一体、どうしてこんなにイライラするんだろう。
 四月にしては気温の高いむし暑さのせいか。あの先学にむしずが走ったのか。それとも――。


「こ、こころちゃん? 今、なんて言ったの?」

「あら、聞こえなかったの? あたしの足を舐めてと言ったのよ♪」

 まりなは耳を疑った。
 なぜ、どうして、Why。状況がまったく理解できない。
 腹が減ったとわがままを言ってきたお嬢様からの唐突な命令である。嬉しいが、応じてはならない。

「あー、ほら。そうめんができたから、これ食べてはやく帰りなさい。親御さんが心配して――」

「もう一度だけチャンスをあげるわね? あたしの足を舐めてちょうだい♪」

 窓から黒服からの銃弾を予想し、まりなはこころの要望を拒否する。が、それも叶いそうにない。
 語気を強めつつも、終止笑顔な女子高生は狂気的だ。ちゃぶ台に座り、突っ立っている年上に右足を向けくる。
 まりなはあまりに異様な光景に「ひっ」と声をもらしてしまい、

「そ、そそんなことしたら、私の命が持たないわよ。あなたの家族に殺されるわ……」

ただただおたえが可哀想である

彼女の暗黙の脅迫に冷や汗が背中を伝う。こころは依然として笑顔のままだ。
こんなのあんまりに思う。独身のまま、処女のまま死ぬのなんてごめんだ。

「ね、ねぇこころちゃん。そもそも、どうして足を舐める必要があるの? そ、それに……」

「ふふっ、くつしたのことかしら? 安心して、言っておくけどみんなに聞いたわけではないの♪」

テーブルの上にある来客用に出されたお茶をすいっと飲み、こころは口角を上げてみせる。
まりなは、ふと目が笑っていないことに気がついた。ぞくっとする。一体、なんのつもりなんだろう。

「じゃあ、誰に聞いたの? は、はやくお巡りさんに通報した方がいいんじゃない?」

掴めない動機に怖くなり、思わず自殺行為を助長してしまう。
弦巻家のごやっかいになるくらいなら、監獄で妄想し続けた方がマシなのだ。
一方、たえがバラしていないことに安堵して、これで安らかに獄中行きの切符を買えると踏んだのだが。

「……あたし、実は知ってたのよ。まりなが、みんなのパンティやヘアゴム、スカートを拝借しては、
クンカクンカしていたことをねっ。もちろん、その幸せに包まれたアヘ顔もばっちり撮ってあるわ♪」

心臓が跳ね上がった。相変わらずテーブルの上で、行儀悪く座り続けている彼女から一歩下がる。
めまいがしてきた。まだお酒は飲んでいない。買ってきた酒盛りのビニール袋は、まだふくらんだままだ。

待ってるよ

嫌なのに見たいわ

「……ねぇ、ほんと。私をどうするつもりなの?」

「ふふっ、そんなに怖い顔しないでちょうだい♪ 幸せが逃げていくわよ?」

そんなの元からない。
ミュージシャンとして活躍できず、落ちぶれた生活を送っている独身女には似つかわしくない希望の言葉だ。

ハッピー末期なスマイルガチ勢と噂される、こころの私物から淫らにありあまるパワーを受け取っていたまりなだが――それもおしまい。

「そうね、私が足を舐めて欲しいのは、まりなとの幸せの共有よ! どうして私の靴下をペロペロして、あんなに興奮できるのか不思議で仕方ないの!」

「そ、それは……その」

言葉が出てこない。だいの大人が、未成年の思春期スメルに魅了されているからなのか。
それとも、業務中の背徳感がクセになるほど犯罪行為を後押ししていたのか。
考えられるみっともない理由に頭がいっぱいになるまりなが、口をぱくぱくとさせる。

「だから、直接あたしの足を舐めたら、どうなるのか知りたいのよ! それに、舐められるとハッピーになるって、絵本にこの前描いてあったの!」

「ふぁっ?!」

突然、目を輝かせて両手をめいいっぱい広げて立ち上がるこころに驚き、まりなはよそって持ってきていたそうめんを慌ててこぼしてしまう。
ぽたぽたとしたたるめんつゆ。数秒、それは絵本じゃなくて薄い本では?とまりながいぶかしむ。
ただ、すぐに事の状況に気づき、とんでもないことをした失態に顔が青ざめる。

「あっ、ごごご、ごめんなさいっ。ちょっと待って、タオルを」

「――必要ないわ。ちょうどいいジャパニーズ・ソースをあしらったみたいっ! 足が冷たくて気持ちいいわ♪」

「……え? あ、あの、こころちゃん?」

「舐めなさい」

着ていた花咲川の制服をつかみ、こころはスカートをゆっくりとたくし上げる。
まりなの劣情を誘うように、パンティーが見えないギリギリのラインで止めて焦らして見せた。

素足にまとわりついたつゆが、妙にテカっていていやらしい。
まりなはなおも首を横に振る。

「選びなさい、まりな。たたみのシミを取るために持ってきたタオルが、すかさず赤色に染まるのか。それとも」

大笑いするのをこらえるように、耐えるように口を思い切り閉じてにんまりと笑みを浮かべる。
まりなは子供とは到底思えない、こころの妖艶さと不気味な色気に、思わず目を奪われた。

「あたしの一日中動いた、蒸れ蒸れのガキ臭いあしに、舌を這わせるのか……5秒以内にね?」

「えっ、ちょままっ」

「5!」

そんな無茶な。あまりにひどい選択だ。
どっちみち殺されるルートである。
まりなは「待って!」と両手でストップのジャスチャーをするが、目の前の笑顔はそれを聞き入れない。

「4!」

ダメだ、これは本気だ。道は二つに一つ。
拒否したら、なんらかの方法で私の体のどこかから血液が噴き出すと、暗に伝えてきた。
7年使い古した小汚いタオルが赤色になるのは別にどうでもいい。
しかし、弦巻家のご令嬢に舌をつけるとなると、これまた血を見ることになりかねないだろう。

「3!」

となると、ここで優先すべきなのは、いかにして死ぬか?ということに帰結する。
なにもせずに終わりを迎えるか、うら若くもクサそうな女子高生の足にむしゃぶりついて死ぬか。

「2!」

答えは決まっている。仕事の優先順位は下手くそなくせに、こういう変態ごとには決断力があることで定評がある――と自称するまりな。
わずかな死に際に頭の中でツッコミを入れる、自虐的な自分の態度にある意味狂気を感じながら、

「1!」

くすっと不覚にも笑ってしまい、一度だけすんっと呼吸をしてから、這いつくばる。
有無を言わず、まりなはこころのふくらはぎに顔を近づけた。

躊躇しない。我慢して閉じ込めていた汚い生つばをまとう、でろでろのベロをついにお嬢様のハリ肌へくっつけた。
瞬間、まりなは脳内で最後の別れの言葉をつむぐ。

――さようなら、お母さん、お父さん。こんな不出来な娘でごめんなさい。
おたえちゃんも、疑って悪かったわね。弦巻家がどんな方法で、私の休憩(?)の仕方を知ったのか、心残りではあるけれど(こころだけに)

これで、なにもかもおしまい。最後に、美少女の足を舐めれただけでも幸せですっ。

さようならまりなさん...

――死を覚悟した、その瞬間だった。

「……んっ、んんっ!? 思ったより、くすぐったいのねっ♪」

ふくらはぎに舌をはわせたまりなを見下しながら、口に手を当てて覚えのない感覚に身をよじらせるこころ。
即座に、まりなは自分の命の確認をした。
…………大丈夫だ、問題ない。

まりなは予想だにしなかった延命に、体の熱が蘇ってくるのを感じた。
それが果たして、身の安全を知ってのものなのか。
それとも、女子高生の脚を舐め回したことによる達成感――もとい、たぎり(意味深)なのか……、定かではない。

「ふふっ、もう少し、下の方を舐めるのよっ……、ほら、はやくっ」

とりとめた命に安堵しているもつかの間、まりなは顔に圧を感じ始めた。よく見なくても分かる、弦巻令嬢の足の裏だ。
指指の爪の間を通ってしたたる、めんつゆはいまだに健在。汚れを知らないお嬢様のつゆだくの白いおみ足が、そのまままりなの顔面に直撃した。

「ふんゴッ!? お”ぼぼ”ぉっ!?!? んのぼお”お”お”お”お”お”お”お”お”お”ぉ!?」


「まりな、喜びすぎよ♪ そんなに慌てなくても、あたしの足は逃げないわ!」

逃げるどころか、猛突進の真っ最中である。
まりなは呼吸困難一歩手前ですら、自分がたしかにムレムレソックスの下に隠されていた生モノに興奮していることを自覚するに至った。

手入れの行き届いている、艶やかな親指、ならびに小指までの美しいアーチ。
洗練されているこころの足先をわずかに視界にとらえつつ、つい出来心で舌先をチロチロとばたつかせてしまった。

「ふっ、ふふっ、ふふふふっ! ダメよっ、もっと丁寧に……んっ//!?」

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