転生者「鋼の肉体」 (18)

※短編です
※このSSは、
タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part6P
タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1522054323/)
>>211に投稿されたタイトル『鋼の肉体』から着想を得ましたが、思ったより長くなったのでスレ立てしました
よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1524122067



女神さまの手違いにより、本来遭遇するはずではなかったトラック事故に巻き込まれて死亡した俺。

残念ながら、そのまま俺を生き返らせることは、女神さまにも不可能だったらしい。

その代わりに、女神さまは俺に、ゲームのようなレベルやステータス、スキルが存在する異世界への転生――厳密に言えば、転移か?をさせてくれることになった。

それも、あるチート能力のオマケ付きで。

能力の名は――
《継ぎ接ぎだらけの技巧士(スキル・パッチワーカー)》。

ゲームの設定画面のように目の前の視界に表示されるウィンドウで、「スキル」と呼ばれる特殊能力をセットすると、そのスキルをまるで熟練者のように扱えるようになる、というものだ。

転生したてで1レベルの俺が、一度にセットできるスキルはひとつだけだが、レベルが上がるごとに、セットできるスキルの数が増えていくらしい。

1度セットすると30分は別のスキルに変更できない、という制限はあるが、戦闘以外の面でも応用性が高く、成長すれば無敵の俺TUEEEE系主人公生活も夢じゃない、まさにチートというべき能力だ。


(……能力が使えるようになるのは転生(転移)完了直後からだけど、大サービスで、最初から選択・セット可能なスキル100個の詰め合わせも追加しといてあげたわ! ゴミスキルも多いけど、レアスキルも1つは確実に入ってるはずだから、有効に使ってね!)


至れり尽くせりの女神さまのその言葉とともに異世界に飛ばされた俺は――――


「ちっくしょおぉぉっ、なんなんだよこのクソゲー仕様はぁっ!!」


――――転生(転移)した瞬間、偶然その場に居合わせたゴブリンに襲われて、いきなり死にかけていた。


「うわぁっ、来るなっ、来るなっ、あっち行けぇっ!」


たかがゴブリン、とか侮るなかれ。

こちとら平和な日本のぬるま湯育ちのオタク高校生なのだ。

目を血走らせ牙を剥き出して、殺意満タンで錆びたナイフ片手に自分を殺しにかかってくる緑色の子鬼を前にして、冷静でいられる訳がない。

既に数ヶ所斬りつけられた身体のあちこちからは血が流れ、今まで経験したこともないような痛みをズキズキと訴えてくる。


傍に落ちていた木の枝をとっさに拾い上げることができたのは僥倖だったが、パニック気味に振り回すことしか出来ない。

ゴブリンは既にこちらの力量を見切ったのだろう、猫がネズミをいたぶるような、いやらしい笑みをニタニタと浮かべている。

(こ、このままじゃ死ぬ。殺される……!)

この状況を打開するには、チート能力に頼るしかない。ないのだが……

(……あんの、駄女神ぃっ! せめてウィンドウの大きさくらい、自由に変更できるようにしとけよぉっ!)

スキルの選択画面は『目の前の視界』に表示されるのだ。

視界を大幅に制限されるこの仕様は、戦闘中に使うにはあまりにもリスクが高い。

ウィンドウを開いている間に攻撃されたら、まともにかわしたり防いだりは不可能だろう。

チャンスは数秒。

俺は覚悟を決めると、木の枝を構え直し、目の前のゴブリンを睨みつける。

雰囲気が変わったのを察したのか、ゴブリンが警戒するように動きを止めた。

その一瞬の隙にウィンドウを開き、スキル一覧を呼び出す。

『現在時刻表示』『味覚強化+2』『敏捷力+1』『エルフ語会話』『敵意感知』「投げナイフ+1」『ツッコミ+5』『盆踊り』『裁縫+4』……

戦闘系・非戦闘系問わず様々なスキルがごちゃ混ぜに目の前に表示される。一応戦闘系のスキルもあるようだが、この状況を打破できる強力なスキルかどうかは微妙だ。

(字ぃちっちゃいし、読みづれえぇ! せめて戦闘系・非戦闘系のタグつけるなりソート機能つけるなりくらいはしとけよ駄女神!)

こちらの視線がきょときょとと宙をさまよっているのに気づいたのだろう。警戒するかのように俺から距離をとっていたゴブリンが、飛び跳ねるような動きで再び迫ってくるのを視界の隅で捉える。

(ヤバいヤバい! 何かないか、戦闘系の強そうなスキル!)

指を必死でわたわたとスライドさせて画面を次々に切り替えていくうちに、ひとつのスキル名が俺の目に止まった。


『鋼の肉体』


「――これだっ!」

決定ボタンを押すと同時にウィンドウが消え、ピンポーン、と頭の中で間の抜けたチャイムの音が鳴り響く。


【――スキル設定を確認。《金岡の肉体(かねおかのにくたい)》を有効化します】


その瞬間。

俺は『ツッコミ+5』を有効化したわけでもないのに全力で絶叫していた。


「鋼(はがね)じゃねえのかよ! てか、金岡(かねおか)って誰だあああ!!」


―――――――――――

スキル名:『金岡の肉体』
○○県在住の漁師、金岡権造(かねおか・ごんぞう)さん(46歳。薄毛が悩み)と同等の肉体能力を発揮できるようになる。

―――――――――――

◆   ◆   ◆   ◆



――結論から言うと。


俺はなんとか生き残った。


海の仕事で鍛え上げられた金岡さんの肉体は、かなりハイスペックなものだったらしい。

考えるまでもなく身体は自然に動き、飛びかかって来たゴブリンの攻撃を易々とかわしたと思ったら、振り回した木の枝でゴブリンの頭蓋骨を一撃で叩き砕いたのだ。

――喧嘩慣れした漁師の身体能力って、マジパネェ。

俺はその後、数日かけて命からがら森を脱出し、近くの町にたどり着いたが、金岡さんの身体能力が無かったら、間違いなくそれまでに死んでいただろう。

それからさらに何ヶ月か経って手に入れた『神託』のスキルを使って駄女神から聞き出したところ、金岡さんの身体能力は、この世界でのレベル10戦士に匹敵するものだったらしい。

転生したてで1レベルの俺が他のどんなスキルを使ったところで、あの場を生き伸びて森を脱出することはおそらく不可能だったそうだ。

つまり、与えられた100個の初期スキル候補の中で、『金岡の肉体』こそが唯一の当たりレアスキル、正真正銘の最適解だった、という訳だ。






――そして、あれから5年の月日が過ぎた。


S級冒険者として成長した俺は目覚めるとすぐに、朝の日課としてスキル一覧を呼び出し、『金岡の肉体』の説明欄を確認する。


―――――――――――

スキル名:『金岡の肉体』
○○県在住の漁師、金岡権造(かねおか・ごんぞう)さん(51歳。最近初孫が生まれた)と同等の肉体能力を発揮できるようになる。

―――――――――――


思わず口元がほころぶ。金岡さんもお元気でやってるようだ。


「あ―、なんかニヤニヤしてる! また他の女のことでも考えてたんでしょ!」

「にゃはは、全く、スケベなご主人さまにゃ!」

「……マスターの性欲の強さは異常」


同じベッドで傍らに寝そべる、ハーレ……パーティメンバーの美少女たちが口々に言い立てながら頬を膨らませる声に、我に返って苦笑する。


「違うよ。昔の……そう、昔の恩人の事を思い出してたんだ」


窓の外に目をやり、抜けるような青空を仰ぎ見る。



――金岡さん。俺が今、こうして仲間たちと楽しく生きていられるのは、あなたのお陰です。


――どうか、どうかいつまでも、お元気でいて下さい。



FIN.

乙。まさかスレたててまで書いてもらえるとは

※以上、完結です。
お目汚し失礼

>>6
タイトル投稿者さんかな?
こちらこそありがとうございました。

乙、前にもタイトル借りて長編SS書いてた人おったよな


普通になろうで長編として書けそう

いやまさかの発想の逆転 上手い

これは良いなろう系
面白かった

いい発想だ
おつ

低レベル帯でだけ通用するお助けスキルって無駄にバランスいいなw
謎の満足感と後味の良さがあっていいSSだった
乙です

乙。これは良質なスレ

能力名が無駄に凝ってて草生える
面白かった 乙です

好き

こういうの好き
おつおつ

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