白菊ほたる「光」 (40)

デレマスの白菊ほたるメインの総選挙支援SSです
地の文多めでそれなりに長いです
346プロ名義ですが全てがアニメの設定基準というわけではありません

白菊ほたる
https://i.imgur.com/ds8dNiZ.jpg
https://i.imgur.com/4FKCTA2.jpg

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1523369495



「ここが……」


しとしと降り続く雨の中、佇む私の目の前には、大きなお城のような建物が立っています。
346プロ……ここ数年で何人ものトップアイドルを排出し、今勢いにのっている芸能プロダクションです。


では何故私が、こんな陰鬱な少女には到底似合わないような雰囲気を醸し出すこの建物を訪れているのか。
それは、今日ここで行われる新人アイドルオーディションに参加するためです。


「こんにちは。お名前とご要件をお願いします」


「オーディションに参加させていただく、白菊ほたると言います」


待合室に移動していると、346プロに所属しているアイドル達のポスターやポップがあちこちにあり、嫌でも目に入ります。
どのアイドルも皆キラキラと輝いていて……昔の私なら憧れの眼差しを向けたであろうその輝きも、今の私には眩しすぎて思わず目を逸らしてしまいました。



---------

------

---


私はずっと運が悪い人間でした。
おみくじを引けば毎回のように凶を引き、電車の遅延やバスの故障も当たり前、レストランで私の注文した料理だけ来ない、楽しみにしていた行事のある日はいつも雨……。
そんな私が何故アイドルを目指しているのか……それは、テレビで見たアイドルがキッカケだったんです。

小さい頃にTVでみたアイドルはキラキラ輝いていて……私もああなりたい、自分みたいに不幸な子でもファンの人達を幸せにしたい……そう思ったから。
そうして親の反対を押し切ってまで上京し、決して大きくはないけど安心できるプロダクションに所属が決まって、新しい友達もできて……今考えると、あの時が1番幸せな時期だったかもしれません。


でも、そんな時間は長くは続きませんでした。
私が所属してすぐ、事務所に泥棒が入りました。
それから暫くして、今度は事務所でボヤ騒ぎがありました。


幸い大事には至りませんでしたが、私たちに


──心配しないで、大丈夫だよ。


と告げるプロデューサーさんの顔には、疲労が色濃く残っていたのをよく覚えています。



結局、それから間もなく事務所は倒産してしまったのですが、プロデューサーさんの計らいで私は別の事務所に移籍することができました。
前の事務所を倒産させたのは自分の不幸が原因だと薄々分かっていながら、まだ偶然かも知れない、そう自分に言い聞かせて……。


次の事務所のプロデューサーさんも、前の事務所のことがあったからか私を特に気にかけてくれたとても良い人でした。
でも、そんなプロデューサーさんはある日、事故で大怪我を負って入院してしまいました。
……私の送迎中にです。
病院にお見舞いに行った時、謝る私に


──何で白菊さんが謝るの?寧ろ白菊さんが無事で良かったよ。


そう告げるプロデューサーさんの顔を、私はまともに見ることが出来ませんでした。


その頃からでしょうか、私が事務所で腫れ物のように扱われはじめたのは。



結局、元々小さな事務所だったこともあって、プロデューサーさんの事故をキッカケに事務所は経営不振に。
そしてプロデューサーさんが戻ることなくそのまま倒産してしまいました。


その後も、何度も事務所の移籍と倒産に見舞われ、時には疫病神と言われたり、身の回りで起こる不幸は全部私のせいだと怒鳴られたりしながらも、私はこの世界にしがみついてきました。
でも、もうおしまいです。


もう私の噂は芸能プロダクションの人達なら誰もが知っているくらい広がってしまいました。
やっぱり、灰かぶりは灰かぶりのままで、綺麗なシンデレラになることはできないんだと……
私なんかが、アイドルを目指すべきではなかったんだとよく理解しました。


だから、最後に私なんかが合格できるとは到底思えない、この346プロのオーディションを受けて終わろう……そう思ってここに来たんです。



---

------

---------


「こちらで名前を呼ばれるまでしばらくお待ちください。」


「はい、ありがとうございます。」


待合室に入り、ふと周りを見渡すと他の受験者達が目に入りました。
緊張しつつも真剣な表情を浮かべている人、待ちきれないといった様子の笑顔を浮かべている人、不安げな表情を浮かべている人……色々な人が居ます。
でも、皆アイドルというものへの憧れや期待を抱いているのは同じ……そう見て取れます。


私はどうなんでしょうか
……きっと私も、最初の事務所でオーディションを受ける時にはあんな表情をしていたはずです。
でも今は……? 椅子から立ち上がり、窓ガラスに写る自分の表情を見ます。


そこには、アイドルとは到底思えない憂わしげな表情を浮かべた少女が佇んでいました。
ふと、アイドルになると決めた日から毎日欠かさずやってきた笑顔の練習を思い出し、そっと、指で口角を釣り上げ笑顔を作ります。


けれど、そこに写っていたのは誰が見ても下手な作り笑いと分かる、空虚で無機質な笑顔の少女だけ。
窓に流れる雨粒がまるで涙のように頬を伝って……そんな自分の表情をこれ以上見ていられず、私は黙って席に戻りました。



「白菊さん、どうぞ」


それからどれくらい経ったでしょうか。いつの間にか待合室には私1人だけ。
そんな状況にも名前を呼ばれてから気がつきました。


「失礼します」


そう言いながら面接室に入ると、そこには若く温和な雰囲気の男性が1人座っています。
今までの事務所でも最低2人は面接官がいたので346プロのような大企業で面接官が1人なんて……。
驚いていると、向こうもこちらの驚きを感じ取ったのか


「ああ、普段の面接は上の人も一緒にもっと大人数でやるんですけど、今回は少し訳ありで私だけなんですよ」


男性は少し笑いながらそう言うと私の着席を促し、面接が始まりました。



「アイドルを志したキッカケは」


「芸能界に憧れていまして……」


「何故数ある芸能プロダクションから当社を?」


「346プロは今1番勢いのある芸能プロダクションですから……」


元々、最初から合格する気なんかない、思い出作りのオーディション……
自分にそう言い聞かせながら、男性の質問にあくまでも当たり障りのない答えを返していきます。


そうしていく間に、男性の表情が最初の温和な笑顔から一転、眉間に皺を寄せ、険しく、どこか訝しげな表情に変わっていることに気づきました。
そしてふう…と1つため息を吐いたかと思うと、真っ直ぐこちらの目を見つめて


「白菊さん、あなたは本当にうちでアイドルになるつもりはありますか?」


私の心を見透かしたかのような質問に一瞬動揺しますが


「……はい、勿論です」


何事もなかったかのようにそう返します。



「そうですか……しかし、先程からの貴方の答えを聞く限り、とてもそうとは思えませんね」


「……そんなことはありません」


「いえ、間違いありません。はっきり言わせていただくと、白菊さん自身の意思を先ほどの答えからは全く感じられませんでした」


まるでアンドロイドのようでしたよ、男性はそう続けます。
そんな男性の言葉を聞きながら、私は自分の心拍が少しづつ早くなり、息苦しさを感じるようになってきたことに気付きます。


「それにこの履歴書、自分のアピールポイントどころか趣味も特技も空白ですよね?何故ですか?」


「…私には他人に誇れるようなことは無いので」


そう、今回346プロに送った履歴書は住所、氏名、年齢といった必要最低限のことしか書きませんでした。勿論過去の所属事務所も書いてません。
あくまで思い出作りのつもりだったし、当然私の噂も知っていると思っていたので、書類選考を突破した時には驚き、困惑したのをよく覚えています。



「ですが、普通オーディションを受ける場合、こういったところは無理にでも埋めるものですよね。現に今回面接した他の方々は、皆びっしりと埋めてあります」


「白菊さん、あなたは本当にこのオーディションに合格するつもりはありますか?」


男性は相変わらずこちらの目を真っ直ぐに見つめながらそう言いました。
もう誤魔化すのは無理かな……。


「……はい、仰る通り私は今回のオーディションに合格するつもりはありませんでした」


「単なる思い出作りで応募させていただいたんです。本日はお忙しい中ありがとうございました」


男性にそう告げると立ち上がり、扉の方に踵を返す。
……あの346プロで面接までやれた、思い出作りはもう十分でしょ?


自分にそう言い聞かせながら足早に歩き出します。



「……疫病神」


一瞬、時が止まったかのような感覚に襲われ足が止まります。


「今まで所属していた事務所では、疫病神と呼ばれることがあったそうですね」


聞き間違いじゃなかった、男性は思わず振り向いた私の目をはっきりと見つめてそう続ける。


「……やっぱり、ご存知だったんですね。私のこと」


「まあ、この業界に勤めていたらね……どう?折角だしもう少し話していかない?」


男性は一転、少し砕けた口調に変わるとそう言った。


「……良いんですか?不幸が移りますよ?」


普段なら自分から言わないような言葉が口をついて出たのに、思わず驚いてしまいますが
男性はそれは困るなあ、と苦笑しながらも、私を再び椅子に座るように促してきました。


少し迷いましたが、もうこれが最後なんだし……と思い、それに従います。



「じゃあ改めて……白菊さんはどうしてアイドルになろうと思ったの?」


ここからはオーディションとか抜きで答えてくれて良いよ、と前置きをしてから男性はそう質問してきました。


「……小さい頃にテレビで見たアイドルはキラキラ輝いていて、私はそれを見て笑顔に、幸せな気持ちになりました」


「だから、私もああなりたい……私みたいに不幸な人も笑顔にすることができればって思ったんです」


今考えると過ぎた望みでしたね、なんて自嘲気味に笑う。


「過去にはどんな不幸が?」


「そうですね……ステージでは毎回のように機材トラブルがありましたし、セットや備品が壊れることもよくありました。後は事務所に泥棒が入ったことも……」


「なるほど……白菊さんはそれも全部自分のせいだと思っていて、だからもうアイドルは諦めるつもりなの?」


「……はい」


そうだ、今までの事務所であった不幸は全部私の不幸体質が引き起こしたこと…それは間違いない。
それに、もう私にこの世界での居場所は無いんだから…。



「そうか……それにしてもそんなことがあってもここまでアイドルを続けてきたなんて、白菊さんは凄いね」


「……不幸なのは、生まれつきでしたから」


そう、私は生まれつき不幸だったんだから、これくらい……


「いや、そうじゃなくて……そこまで他人に迷惑をかけてきたのに、自分はアイドルを続けていたなんて凄いなって意味でね」


「……えっ?」


ドクン、と心臓の鼓動が一段と大きくなる。
今……この人は何て……?



「だって、これまで幾つも事務所を倒産させてきたってことは、それだけ多くの人達に迷惑をかけてきたってことであって」


「一緒に働いていた仲間達の夢を潰えさせたり、プロデューサーに怪我を負わせただけじゃなくて職を失わせたり」


「しかも、それが全部自分の不幸が原因だって分かっていたんでしょ?」


一体……何を言って……
男性は相変わらず私の目を見つめていて、私は何故か目を逸らすことができない。
頬に汗が流れ、呼吸が荒くなっていく。


「……だ、だから、私はもうアイドルは諦めようと……!」


確かに私は多くの人に迷惑をかけてきました。
それを理解したからもうアイドルは諦めようと思ったんです。



「うん、確かにそうかもしれない……でも、諦めるのが遅かったんじゃないかな」


「そんなこと……!」


私は、自分の不幸についてずっと考えてて、それで…!


「そんなことないって? でも君は、最初の事務所が倒産した段階で、それが自分の不幸が引き起こしたことだって分かってたんだよね?」


「その時に周りの人が自分のせいで苦しんでいたのを見ていた……ならその段階でアイドルを諦めることだって可能だったはずだよ。周りの人たちを不幸にしたくなかったのなら尚更さ」


「仮にその時は諦められなくても、行く先々の事務所で不幸なことがあったんだから早く諦めていれば少なくとも、君のせいで不幸になる人は減っていたのに」


「わ、私は……」


自分の不幸で他人を傷つけたくなくて……だから……!



「はっきり言わせてもらうと、君は自分の噂が芸能界に広まってどこも雇ってくれなくなった、だから仕方なくアイドルを諦めようとしているだけだ」


「それも、自分の不幸で他人を傷つけたくないから、と自分に言い聞かせてね」


「ち、ちがっ──!」


違う!私は……!


「違わないよ」


「だったら何で今日の面接に来たんだい?思い出作りなら書類を提出するだけで十分だと思ったから、必要事項以外明記しなかったんでしょ?」


「そ、それは…」



「君が面接を断っていたら、アイドルを夢見る他の子にチャンスが与えられたかもしれないのに」




やめて




「可哀想に、その子はオーディションに受かる気がない少女が枠を1つ無駄にしたせいでチャンスを掴むことができなかった」


「結局、君は周りの人達を不幸にしながらも自分はアイドルとして幸せになりたかったんだ」




やめて




「小さい頃に見たアイドルに憧れてアイドルを目指す、大いに結構。素晴らしいことだよ」


「でも、君が夢見た世界も君の不幸はかき消してくれなかった」




やめて




「お姫様に憧れた少女の物語は、哀れにも周りの人を不幸にしただけでおしまいだったんだね」


「いや、エゴに塗れた少女が多くのものを犠牲にしながらも、結局何も手にすることができなかった物語かな」



「やめてっ!」


椅子から立ち上がり、そう叫ぶ。


「もう……やめてください……」


気がつくと私の頬には涙が伝っていた。



……それから、私が泣き止むまで男性は何も言わずにただ私を見ているだけでした。
そして私が泣き止むと立ち上がり、私に近づいてきて。


「……ごめんね、言いすぎたよ」


と、頭を下げてきました。


「いえ……こちらこそ、取り乱してすいませんでした」


誰かの前で泣いたのなんていつ以来だろう……思い返すと、上京してから泣く時はいつも一人だったな……。


「その……あんな酷いことを言った後に虫が良いのは分かっているんだけど、少し僕の話を聞いてくれないかな」


私は黙って頷きます。


「ありがとう……じゃあ、どうして君は何回も事務所が倒産したにも関わらず、ここまでアイドルを続けられたか分かるかな?」


「それは……事務所の人達が色々と話を通してくださったからです」


「半分正解、かな。じゃあ、今日君が面接に招待されたのは何でだと思う?」


「……分かりません」


「正解はね、白菊ほたるという少女にアイドルとしての素質を感じたからだよ。それも並大抵の素質じゃない」


「えっ……?」


こんな私にアイドルとしての素質が……?
到底信じられない。



「信じられないって表情だね……でもね、いくら他の事務所にお願いされたからって、倒産の度に移籍ができるくらい芸能界は甘い世界じゃないよ?」


「しかもそれが不幸体質で数多のジンクスを持っているなら余計にだ」


確かに……疑問に思った時もあったけど……。


「つまり、君は不幸と引き換えにしてでもアイドルをさせたいと周りに思ってもらえる存在だったんだ。……勿論、行く先々の事務所の全員がそうだった訳ではないだろうけどね」


「そして、僕も君を不幸と引換にしてでもアイドルにさせたい一人だ」


「で、でも私のどこにそんな素質が……」


「そうだね……色々とあるけど、一番は13歳とは思えない儚げな雰囲気かな。見るものの保護欲を掻き立て、それでいてどことなく近寄りがたくアンニュイで、神聖な感じさえするような……」


「これはもしかしたら君が不幸体質で、世間一般の13歳とは大きく異なる人生を歩んできたからかもしれない……気を悪くしたらごめん」


「いえ……」


「アイドルになるための条件としては歌の上手さやダンス、ビジュアルなんかは勿論大切だ。でもそこから更に上を目指すにはそれだけじゃ足りない」


「そして、その足りないものは声質や天才的な勘みたいな生まれついたものであって、どれだけ努力しても基本的には手にすることができない……例外もあるけどね」


「君は、そんなトップアイドルを目指すために必要な素質を持っている……それを多くの人が感じたんだ。だから君はここまでアイドルをやってこれたんだよ」


正直な話、まだ信じられない……私にトップアイドルを目指す素質があるなんて……。
でも、もしそれが本当だとしたら……。



「それにもう1つ、僕が君にトップアイドルになれる素質を感じたものがある。……それはトップアイドルへの執着心だよ」


「執着心……」


「うん、これも少し言いにくいんだけど……君は自分の不幸で他人を傷つけたくないからアイドルを諦めようとしていた、これも君の偽りのない本心だっていうのは分かっている」


「で、でもさっきは……!」


さっきこの人は散々それは建前だと言っていたのに……。
今更何を……?


「ごめん、都合の良いことを言ってる自覚はあるんだ……実はこの面接の前、君のお母様に電話をしてね。少しお話を聞かせていただいたんだ」


「お母さんに……!?」


「うん、その時にね……」



──あの子は本当に優しい子で、自分の不幸で自分が傷つくことよりも、他人を傷つけてしまうことをなによりも怖がっているんです


──事務所を移籍する度にごめんなさい、でも今度は大丈夫だからって……私としても応援したい気持ちと、これ以上傷ついてほしくない気持ちがせめぎ合っているんですけどね……


「って仰っていらしてね。ああ、この子は本当に優しい子なんだなと」


「それと同時に、他人を自分の不幸で傷つけることが1番怖い子が、それを受け入れてまでもトップアイドルを目指そうとしている姿勢に、言い方は悪いけど恐怖さえ感じたよ」


「恐怖……」


そうなんでしょうか……。
私のアイドルに対する思いは歪んでしまっているのかも……。



「いや、君を責めてる訳じゃないんだ。寧ろ他のアイドルにもある程度見習ってほしいくらいだよ」


「それはどういう……?」


「君もある程度は分かっているとは思うけど、この世界は弱肉強食の世界だ」


「仲間との協力も勿論大切だけど、それと同時にお互いが切磋琢磨しあうライバルだということも忘れてはいけない。今日のオーディションのように、少ない椅子を巡って仲間同士で争うことも当然ある」


「それは…分かっています」


現に、今日のオーディションでも私のせいで1人がこの場に来ることができませんでした……。
書類選考に合格した時、そういう立場の人のことを全く考えなかった訳じゃありません。
考え、迷いながらも私は自分の夢を諦めきれず、その人を舞台から蹴落とし、ここに足を運びました。



「……実はね、今日君がこのオーディションに来るかどうかは賭けだったんだ」


「賭け……?」


「このオーディションは、僕の次期担当アイドルを決めるオーディションでね。だから面接官も僕1人でやっていたんだ」


「だから君とこうやって話をできるチャンスだと思っていた……ただ、正直君の心が限界を迎えてしまってここに来ない可能性も考えたよ」


「でも、君はここに来た。自分を偽りながらね」


「だから後は偽りの君を、僕が剥ぎ取ってしまえば良かったんだ」


偽りの私……。
そうだったのかもしれません。


私は自分の本心を、アイドルへの思いを押し殺してここに来ました。
……結局、隠し通すことはできませんでしたけど。



「とは言うものの、あれは流石に言い過ぎだったよね……本当に申し訳ない」


「そんな……頭を上げてください」


「いや、年端もいかない女性のトラウマを掘り返すかのような真似をした挙句、泣かせるなんてアイドルのプロデューサー失格だよ」


「……確かに苦しかったです。でも、そのおかげで自分自身ともう一度向き合うことができましたから……ありがとうございます」


このお礼は本心からの言葉。
もし、あのままここを出て行ったら、私は後々酷く後悔したと思います。



「まさかお礼を言われるとは思わなかったよ。……でも僕は、これからまた君に残酷な決断をしてもらわなければならない」


「残酷な決断……」


「単刀直入に言おう、僕は今回のオーディションの合格者を君にしたいと思っている。……つまり、ぼくの担当アイドルになってもらいたい」


「……!」


私が……合格……?
346プロのアイドルに……?




「で、でも私は履歴書だって適当で、面接だってあんな……!」


「しっかりした君の履歴書は前の事務所から貰ってある。面接も……正直に言うと、このオーディションに君が来た時点で、僕は君を採用するつもりだった」


「それって……!」


「うん、君が来た時点で、言い方は悪いけど、このオーディションは出来レースみたいなものだったんだよ」


「そんな……」


「ただ、他の候補者達もそれぞれ光る物を持っていた。だから、君がこの話を断る場合は、彼女達の誰かから選ぶことになるだろう」


控え室で見た、アイドルへの期待や憧れで輝いてた他の候補者の人たちを思うと、胸が締め付けられる思いになります。



「……こんなプロデューサーと一緒に働くのは嫌かも知れないし、こんな奴の言うことは信じられないかもしれない」


「それは当たり前の感情だし、それでも構わない。でも僕じゃなくて、これまで君を信じて事務所に引き入れてくれた人たちのことは信じていてほしいんだ」


「それはきっと、これから君がアイドルを続けていく限り、力を与えてくれるものだと思うから」


今までの事務所での出来事が頭に思い浮かびます。
疫病神だと言われました。私を怖がる人がいました。除け者にされてきました。


でも、私に対して事務所の倒産を謝ってくれる人がいました。ずっと応援してるからと言ってくれる人がいました。
苦労しながら私が他の事務所に移籍できるようにしてくれた人がいました。


……私は、その人達に何を返すことができるんでしょうか。
何をするのが正解なんでしょうか。



「…うちの事務所でも今回、君をオーディションに参加させることに反対する人がいたんだ。だから雇うなんてもってのほかって人もいる」


「でもそういう人たちもぼくの上司が、我が社は不幸程度で倒産などしない、って一喝して全権限を僕に預けてくれたから心配する必要はないよ」


「勿論、ぼくも君をトップアイドルにする為に全力を尽くすと誓おう」


…確かに。346プロは今まで所属してきた事務所と比べると桁違いに大きな企業です。
そうそう倒産なんて心配はないでしょう。



「ぼくから言いたいことはこれで全部、後は君次第だ。……辛い選択だと思うけど、これは君自身が選ばなきゃいけない」


……私の選択。
この話を引き受ければ、私は晴れて346プロのアイドルになることができます。


でも、そうすると今日の他の受験者の皆は当然、不合格になります。
元々ここに居てはいけない人間だった私のせいで……。


だけど私がこの話を断れば、あの中の誰か1人は代わりに、この346プロのアイドルになることができる。
なら、私が諦めれば済むこと……。


そもそも、こういった葛藤は私がアイドルを続ける限り続くことです。
私が参加することでオーディションの枠が1つ減ったり、もし私が合格するなんてことがあれば他の人は私のせいで不幸になってしまうんですから。


それに、私を担当すると言っているこの人だって、私の不幸で大怪我……場合によっては命を落とすことだってあるかもしれない。
……そんなの、決して許されることじゃない。



「……私は、小さい頃から不幸体質でたくさんの人に迷惑をかけてきました」




ああ、でも




「それでも、トップアイドルになって、ファンの人を幸せにしたい……!」




そこまで分かっていながら私は




「だから、どうしてもトップアイドルになりたいんです!」




自分の夢を優先してしまうんだ




「たとえ、私自身がどんなに不幸でも!」




ごめんなさい




「……だからプロデューサーさん、これからよろしくお願いします」


「……ありがとう、こちらこそよろしくお願いします。白菊さん」



その後はプロデューサーさんが予め用意してくれていた資料もあり、トントン拍子で話が進みました。


「じゃあ明日には女子寮に入寮できるように話は通しておくけど……大丈夫?そこまで慌てなくても良いよ?」


「大丈夫です。そこまで荷物もありませんし……それに、早くここに慣れたいですから」


「分かった。……君はさっき、自分自身がどんなに不幸でもトップアイドルになりたいと言ったけど」


「ぼくは君が幸せなトップアイドルになれるよう全力を尽くすよ。じゃあ明日から改めてよろしくね」


プロデューサーさんはそう言うと私に手を伸ばし握手を求めてきました。
私が幸せに……なって良いんでしょうか。



私は自分自身がどんなに不幸でもトップアイドルを目指すと決めました。
でも、それでも、叶うのならば、許されるのならば、ほんの少しで良いから……幸せになりたい。


プロデューサーは、さっきまでと同じように、ずっと私の目を見つめています。
そして、私は差し出された手をそっと握り、よろしくお願いしますと返しました。



プロデューサーさんと別れて外に出ると、いつの間にか雨は止んでいました。
天気予報じゃ1日中雨予報だったんだけどな、そんなことを思いながら346プロの広大な敷地を歩いていきます。


正門を出て、後ろを振り返ると相変わらず私には到底似合わない大きな建物が目に入りました。
明日からここに私が所属するなんて、信じられません。


……ごめんなさい
今度は口に出して、誰に言うでもなく呟きます。
その謝罪がただの自己満足なことは分かっています。それでも、言わずにはいられませんでした。



結局、私は周りの人の不幸より自分の夢を選びました。
これからも私の周りでは、私の不幸で多くの人が傷つくことでしょう。


私は、そうやって私の不幸で傷ついた人達のためにも、トップアイドルになって多くの人を幸せにしたいと思います。
自分勝手で、それこそエゴに塗れた夢かもしれません。
でも、私は最後に手を差し伸べてくれたこの346プロで新しい私になって、後悔しないよう全力でトップアイドルを目指していくと、そう決めたから。



何気なく空を見上げると、曇り空の切れ間から眩しいくらいに太陽が顔を覗かせています。
思えば、いつも下ばかり見て歩いていたので、空を見るのは久しぶりです。


……私は、ずっと光を探していたのかもしれません。
私を救いあげてくれる、光を。



光を浴びて少しずつ、明るい私に……。いつか、もっと……。


こう思うことすら、私にとっては罪かもしれません。
それでも、そう願わずにはいられませんでした。

以上です

白菊ほたるにスポットライトの光を浴びせてあげたいと願ってやみません。
これを読んで白菊ほたるについて1人でも多くの方に知っていただき、票を投じていただけたら幸いです。(今年はデレステからも投票できますよ)

どうか白菊ほたるをよろしくお願いします。

その内続きとして346に所属するほたるの話も書けたらな、と思ったりもしています

HTML化依頼出してきますね

おつ!
今年は圏内いけるぞ

うん、よかったです
ボイス付くといいですね

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom