大石泉「高峯のあの事件簿・都心迷宮」 (134)

あらすじ

都心迷宮の奥で、彼女は待っている。

前話
イヴ・サンタクロース「高峯のあの事件簿・プレゼント/フォー/ユー」
イヴ・サンタクロース「高峯のあの事件簿・プレゼント/フォー/ユー」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1513078349/)

あくまでサスペンスドラマです。
設定はドラマ内のものです。

それでは、投下していきます。


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メインキャスト

探偵・高峯のあ
助手1・木場真奈美
助手2・佐久間まゆ

刑事一課和久井班
警部補・和久井留美
巡査部長・大和亜季
巡査・新田美波

科捜研
松山久美子
梅木音葉

少年課
巡査部長・相馬夏美
巡査・仙崎恵磨

交通安全課
巡査部長・片桐早苗
巡査・原田美世

生活安全課
巡査・斉藤洋子

大石泉
村松さくら
土屋亜子

小松伊吹
吉岡沙紀
真鍋いつき

古澤頼子



清路駅南西・下向き矢印のビル・屋上

下向き矢印のビル
3階建ての小さな雑居ビル。清路駅の南西、駅や新開発地域からも離れた雑居ビルと町工場の多い寂れた場所にある。半年ほど前に大きな下向きの矢印が北側面に書かれたが、放置されている。

小松伊吹「沙紀、アイツら追いかけてきてる?」

小松伊吹
ストリートダンサー。開発が進行中の乱雑とした今の清路市をスケートボードで滑り抜けるのが趣味。

吉岡沙紀「道にはいなし、おそらく屋上まで登ってきてるっすね」

吉岡沙紀
『ペインター』。彼女が指示を受けて作り上げた作品はこの街の至る所に存在している。

伊吹「準備するよ」

沙紀「了解っす」

伊吹「アイツら、誰なの?見たことない警察官だけど」

沙紀「見たことないっすか?」

伊吹「うん。よしよし、君は問題なさそうね」

沙紀「少年課のコンビっすよ。なっちゃんとエマ」

伊吹「少年課ぁ?そっか、沙紀は未成年だもんね」

沙紀「そこら辺の刑事より厄介な相手っすよ」

伊吹「ふーん……行けるわよ。沙紀、捕まっててよ」

沙紀「足音が聞こえてきたっすよ」

伊吹「タイミングは扉を開けたら」

沙紀「オッケーっす」

伊吹「よし……」

沙紀「3、2、1、開いたっす!」

仙崎恵磨「沙紀ともう一人、止まれっ!」

仙崎恵磨
少年課の巡査、夏美のバディ。ベリショの溌剌とした若手警察官。

伊吹「止まんないよっ、バイバイ!」

沙紀「しまった、一人しか来てないっす!下で待ち伏せされてるっすよ!」

伊吹「でも、降りるしかないから!行くよっ!」

恵磨「うわっ、スゲェ!そんなに高いビルじゃないけど一人背負ってスケボーで降りれるんだ!」

相馬夏美『恵磨ちゃん、矢印を降りてく二人を確認したわ』

相馬夏美
少年課の巡査部長。日課はランニング。英語も堪能らしい。

恵磨「了解!アタシも追いかけます!」



清路駅南西・雑居ビル、工場街

雑居ビル、工場街
かつてはビジネスの中心であったが、時代と共に寂れた区画。最近は新築のビルや工場も増えつつあるが、かつての賑わいには程遠い。

伊吹「沙紀、跳んで!」

沙紀「よっと!着地成功!」

伊吹「大丈夫みたいね!警察は!?」

沙紀「少年課のなっちゃん見っけ、コッチがひきつけるっす!」

伊吹「オッケー、またね!」

沙紀「他の警官にも気をつけるっすよ!」



清路駅南西・雑居ビル、工場街

夏美『早苗さん、美世ちゃん、よろしく!』

片桐早苗「任せておいて!」

原田美世「スケボーを追います!」

片桐早苗
交通安全課の巡査部長。パトカーでの警邏が普段のお仕事。

原田美世
交通安全課の巡査、早苗のバディ。パトカーの運転が普段のお仕事。

早苗「対象のスケートボードが前を通過、美世ちゃん発進!」

美世「はい!」

早苗「予定通り気づかれたわ!対象は坂道を下って加速中!」

美世「坂道が多い場所ですから、地理間があれば速度を落とさずに通過できますっ」

早苗「パトカーからこのまま逃げ切れるわけないから、ルートを変えるはずよ……」

美世「曲がりました!」

早苗「美世ちゃん、停車!対象はビルとビルの隙間に入って行ったわ!」

美世「停車しました。早苗さん!」

早苗「予定通り!スピードを落とした、いや落ちざるを得ないはずよ!」

美世「はい!回り込みます!」

早苗「夏美ちゃん、洋子ちゃん、情報よろしくっ!」



清路駅南西・雑居ビル、工場街

夏美「吉岡さん、止まりなさい!」

沙紀「うえっ!なっちゃん、足はやいっすね!」

夏美「なっちゃん呼びはやめなさい!」

沙紀「伊達に警察官じゃないっすね。距離が詰まってる」

夏美「吉岡沙紀、止まりなさい!」

沙紀「さすが、アタシ……直感的っす!」

夏美「行き止まりよ、大人しくとまりな……」

沙紀「行き止まりじゃ、ないっす、よ!」

夏美「へっ!?」

沙紀「なっちゃん、チャオ!」

夏美「この落書き、案内図なのね……恵磨ちゃん、逃げられたわ」

恵磨『振り切られたんですか!?』

夏美「違うわ。パルクールみたいな動きでガスボンベから町工場の2階の金属階段に移動、今頃ビルの上を移動してるんじゃないかしら」

恵磨『やるなっ、どうします?』

夏美「状況把握しましょうか。洋子ちゃん、見えてる?」



清路駅南西・某ビル屋上

斉藤洋子「はーい、生活安全課の斉藤です!吉岡さんは見えてますよ!」

斉藤洋子
生活安全課の巡査。普段は防犯教育などを担当しているが、夏美に協力に駆り出された。

恵磨『洋子、二人はどっちに向かってる?』

洋子「方向を変えました、やっぱり北側に逃げてる!」

恵磨『ヨッシャ、北に行く!』

洋子「身軽ですね、誰かパルクールかフリーランニングできないんですか?」

恵磨『できない!』

夏美『私も。留美さんとかなら出来そうだけど』

洋子「あはっ、あの人なら出来そう。あっ、吉岡さん地面に降りました!東方向に移動中です!」

夏美『了解。私はどうしたらいい?』

洋子「ちょっと待ってください……2ブロックだけ東方向、そのあと北方向でお願いします!」

夏美『わかったわ。動きがあったら、連絡してね!』

洋子「わかりました!」

早苗『洋子ちゃん、スケボーの位置わかる?』

洋子「ごめんなさい、ここからは見えないです!屋根とかに邪魔されてて!」

早苗『そろそろ、見えそうなはず……こっちで視認出来たわ!』

洋子「パトカーのどちら側ですか?」

早苗『進行方向左側!並走してる!』

洋子「こっちも少しだけ見えました!そんな細い道で追いかけてるんですね!」

早苗『うちの美世ちゃんを舐めてもらったら困るわ!上から連絡よろしく!』

洋子「はいっ。たまにはこういう緊迫感ある仕事もいいかも」

夏美『洋子ちゃん、二人はどっちに向かってる?』

洋子「聞こえてます。えっと……あれ?」

夏美『どうしたの?』

洋子「合流しようとしてる?」

夏美『大まかでいいわ!合流しそうな場所を教えて』

洋子「わかりました!地図で送ります!」



清路駅南西・雑居ビル、工場街

恵磨「夏美さんが言ってたサインって、これか!ということは、居た!」

夏美『吉岡さん、見つけた?』

恵磨「このペイント、沙紀が描いたやつだな。相変わらずオカシな所走ってる」

夏美『落書き通り走らないでいいわ。洋子ちゃんが送ってくれた合流地点まで最短ルートで、いいわね!?』

恵磨「最短ルートだと沙紀を追わないとだけど、地上ってことだよね!?」

夏美『当たり前でしょ』

恵磨「オッケー、仙崎恵磨、走るよっ!」



清路駅南西・雑居ビル、工場街

早苗「洋子ちゃんから送られてきた場所だけど、見て」

美世「ここ、って」

早苗「うん、この前大雨だった時に、水没車が出たとこよね?」

美世「はい、一緒に見に行きました」

早苗「つまり、窪地ね。スケボーはここに向かって加速していくと」

美世「追いながら止めるのは難しいかな」

早苗「一番下まで落ちたら登るしかないわ、減速するところを捕まえましょう」

美世「わかりました、それならこっち!」

早苗「あたしも賛成!恵磨ちゃんが西から、夏美ちゃんが南から、スケボーは東から」

美世「パトカーで一番速度が出せるのは北側の道しかありません!」

早苗「よーし、ナビするわ!先着出来る?」

美世「距離のロスがあるので互角です」

早苗「互角なら勝ったようなもんね!頼むわ!」

美世「頼まれました!」



清路駅南西・雑居ビル街の窪地

恵磨「とーうちゃく!!」

洋子『二人とも建物の影になっちゃってるんです。状況を教えてください!』

恵磨「あれ!?」

洋子『どうしました?』

恵磨「誰もいないんだけど?」

洋子「え?確かにそこに二人とも向かってたのに?」

恵磨「美世のパトカー、着いた!」

早苗「恵磨ちゃん、スケボーは!?」

恵磨「沙紀もスケボーの子もどこ行った!?」

早苗「まさか、元来た道をUターン?」

洋子『戻ったようには見えないですけど……』

夏美「二人は!」

早苗「この通り。どこにもいないわ」

夏美「……ふーん」

早苗「どうしたの?なんか見つけた?」

夏美「早苗さん、振り返って上方向」

早苗「振り返って、上?」

恵磨「沙紀の落書きだ。なんだろ、あれ?」

早苗「十字架に見えるわね」

恵磨「ひっくり返ってる?」

早苗「道順だとすると、夏美ちゃんが来たほうだけど」

夏美「すれ違わなかったわ」

恵磨「ん、それだと」

夏美「単純じゃない。下よ」

恵磨「下ぁ?」

早苗「うーん、このマンホールとか。恵磨ちゃん、ちょっと手伝って」

恵磨「はいっ!」

早苗「行くわよ、せーのっ!」

恵磨「おー、斜め穴だ」

早苗「ワンチャン、スケボーで降りて行けそうね」

恵磨「追いますか?」

夏美「辞めておきましょう」

早苗「むー、残念。美世ちゃん、降りて来て!」

恵磨「せっかくチャンスだったのに」

夏美「仕方がないわ。でも、わかったこともあるわよ」

早苗「わかったこと?」

夏美「この街にある落書きには意味があるものがあること」

恵磨「フム」

夏美「それと」

早苗「それと?」

夏美「秘密の場所は地下かもしれないことね」



後日

土曜日

高峯探偵事務所
高峯ビル3階にある探偵事務所。清路駅からはバスでのアクセスが良好。

高峯のあ「……ダメかしら」

木場真奈美「決定権は家主の、のあにある。だが、私は反対だ」

高峯のあ
探偵。移動の際には自身が所収する2台の外国車を、真奈美に運転させている。

木場真奈美
のあの助手その1。彼女曰く、運転技術は人よりは自信がある、とのこと。

のあ「でも、ライフスタイルに新しいソリューションを運んできてくれるわ」

真奈美「説得が下手なのはいい。だが、言葉まで借り物なのはどうかと思うぞ」

佐久間まゆ「ちょっと休憩しようかな……あらぁ、お話中ですかぁ?」

佐久間まゆ
のあの助手その2。彼女が通う星輪学園の最寄り駅は卯美田駅。

のあ「ええ」

まゆ「座っていいですかぁ?」

のあ「どうぞ」

まゆ「失礼しますねぇ」

真奈美「佐久間君、オルガンの調子はどうだい?」

まゆ「ちょっとずつ弾けるようになってきましたぁ」

のあ「成長というのは嬉しいものね」

まゆ「のあさん、後で教えてくださいねぇ」

のあ「小さい頃に自分の意思もなく、練習していたくらいでいいのなら」

まゆ「大丈夫ですよぉ。まゆもちっちゃい頃からやってたらなぁ」

真奈美「なに、いつだって取り戻せるさ」

のあ「真奈美くらい何でも出来ればね」

真奈美「私でも突然出来たりはしないよ。基礎があるから、練習を続けられる。そして、出来るようになるんだ」

まゆ「基礎?」

のあ「前も聞いたわ。まゆならお料理かもしれないわね」

まゆ「お料理、ですかぁ?」

真奈美「そうだな。間違ったり、上手く行ったりした経験が私の基礎だ」

のあ「要するに」

真奈美「何かをがんばれたら、これからもがんばれるさ」

まゆ「わかるような、わからないような……?」

のあ「まゆは大丈夫よ」

真奈美「そうだな」

まゆ「のあさんと真奈美さんがそう言ってくれるなら、信じます」

真奈美「ありがとう。オルガンのことは私も多少は知っている、遠慮なく聞いてくれ」

のあ「この助手は何でも出来るのね……」

まゆ「のあさんと真奈美さんは何を話してたんですかぁ?」

のあ「ペットを飼うかどうかを真奈美に相談したの」

まゆ「まぁ、素敵ですねぇ」

真奈美「だが、問題がある」

まゆ「ビルはのあさんのおうちだし、お世話も大丈夫ですよねぇ」

真奈美「のあはネコを飼いたいと言っているんだ」

のあ「……」

まゆ「ネコちゃん、いいと思いますよぉ」

真奈美「しかし、のあには踏み切れない理由があるようだ。だから、おススメしない」

まゆ「そうなんですかぁ……?」

のあ「……」

まゆ「のあさんは正しいと思ったらすぐに行動しますからぁ、理由があると思います」

真奈美「佐久間君、どうしたらいいかな?」

まゆ「のあさんが悩むならやめた方がいいですよぉ」

のあ「そう、いえ……でも」

真奈美「のあ」

のあ「何かしら」

真奈美「ネコちゃんの画像をSNSにアップしても、前川君の気は引けないぞ」

のあ「……!」

まゆ「のあさん……?」

のあ「別にリプライが貰いたいわけじゃないわ」

真奈美「ほら見ろ、馬脚を露したぞ」

まゆ「……のあさん?」

のあ「違うわ。いいね、でも構わない」

まゆ「変わってませんよぉ……」

のあ「別に認知されたいわけじゃないの。日々のアイドルをがんばるみくにゃんにネコちゃんの画像で癒されてもらいたいの。わかるでしょう」

まゆ「人はやましい気持ちがあると、言葉数が増えるらしいですよぉ……」

真奈美「のあも普通の人間だったな。と言うことで反対だ。それにだ、肝心なことを教えてやろう」

のあ「肝心なこととは、何かしら」

真奈美「前川君もネコは飼っていない。彼女の趣味はなんだ?」

のあ「はっ……猫カフェ巡り!」

真奈美「のあも猫カフェ巡りくらいで留めて置け」

のあ「そうね、野良ネコ迷いネコ探しは得意よ。探偵だもの」

真奈美「話を聞いてたか?」

のあ「失礼。猫カフェ巡りから脳内が先走り過ぎたわ」

まゆ「猫カフェいいですねぇ、一緒に行きましょう?」

のあ「ありがとう。今度調べておくわ」

真奈美「志保君あたりは知ってるかもしれないな」

のあ「確かにそうね、今度聞いてみましょう」

ピンポーン!

真奈美「お客様かな。見てくるよ」

まゆ「志保さんは動物好きでしたかぁ?」

のあ「キライではなさそうね。それ以上にカフェが好きよ」

真奈美「2人とも制服だが、佐久間君の友人か?」

のあ「インターホンの映像、見せて」

まゆ「お友達は呼んでいませんけれど……」

のあ「この辺りの公立中学の制服よ。まゆ、お茶の準備を。お茶菓子は彼女達が持ってるわ」

まゆ「わかりましたぁ」

のあ「真奈美、お招きして」

真奈美「わかった、依頼人か?」

のあ「そうでなければ、わざわざ制服でお茶菓子を持って探偵事務所になんて来ないわ」

10

高峯探偵事務所

のあ「探偵の高峯です」

真奈美「助手の木場だ」

のあ「お茶を出してくれたのも助手の佐久間よ。お名前をお聞きしてもいいかしら」

村松さくら「村松さくらですぅ」

土屋亜子「土屋亜子、です」

村松さくら
本日の依頼人。アコちゃんとイズミンとは昔からの友達らしい。

土屋亜子
本日の依頼人。お金を稼いで3人で楽しい老後を迎えるのが目標なんだとか。

のあ「そんなにかしこまらなくていいわ。お茶をどうぞ」

さくら「それじゃあ、いただきますぅ」

まゆ「いただいたお菓子を持ってきましたぁ。うなぎの粉末が入ってるお菓子みたいですよぉ」

のあ「ありがとう、まゆ。メモをお願いしていいかしら」

まゆ「はぁい。のあさんの机をお借りしますねぇ」

のあ「あなた達もお茶菓子をどうぞ」

亜子「アタシもお茶を……むっ!」

のあ「どうかしたかしら」

亜子「これ、高い味がするで……」

真奈美「もしかして、料金を気にしてるのか?」

のあ「安心して。中学生から巻き上げるほどお金に困ってないわ」

亜子「助手さん、ホンマか?」

真奈美「金銭面は信頼していい。君達が困っているなら、のあは助け舟を出す」

亜子「はー、安心したわー……いや、親友のために貯金は差し出す!」

のあ「差し出さなくていいわ。中学生の貯金なんてたかが知れてるもの」

亜子「ホンマに金持ちなんか……?」

さくら「ビルの名前も探偵さんの名前でしたぁ、もしかして?」

真奈美「そのもしかして、だ。遠慮なく仕事を依頼するといい」

のあ「依頼の話に入りましょう。親友がどうかしたの?」

さくら「え、言いましたかぁ?」

のあ「村松さんではなく、土屋さんが言っていたわ」

真奈美「親友のために貯金を差し出すと」

亜子「……実はな、アタシ達の親友の、いずみ、大石泉が」

さくら「どこにもいないんですぅ……」

11

高峯探偵事務所

のあ「行方不明ということ?」

さくら「はい、学校にも来てなくてぇ」

真奈美「まだ2学期がはじまって間もないが」

のあ「体調を崩しているだけかもしれない」

亜子「違う」

のあ「違う、とは」

亜子「学校に行くまではわからんかったんや、いずみがいなくなってることに」

まゆ「行くまでわからなかった……?」

のあ「例えば、連絡が取れているとか」

さくら「そうなんですぅ」

亜子「メールとかSNSだと返ってくる」

真奈美「ケータイ電話は」

さくら「出てくれないですぅ」

真奈美「文字限定というところか」

のあ「ふむ。大石さんの自宅には、行ったの?」

亜子「もちろんや。親も知り合いやし」

のあ「自宅にはいないのね」

さくら「はい、お部屋にもどこにもいなくて」

のあ「大石さんの家族構成は」

さくら「イズミンのですかぁ?」

のあ「ええ」

さくら「お父さんとお母さんと」

亜子「あと、弟が一人」

のあ「ご家族は何と言ってるのかしら」

亜子「それがな……」

さくら「はっきりと言ってくれなくてぇ……」

のあ「ふむ。警察には連絡をしたのかしら」

さくら「連絡しないで欲しい、ってぇ……」

亜子「そこまで直接じゃなかったけど、言ったようなもんやな」

まゆ「……」

真奈美「ご家族3人共その様子か?」

亜子「オトンとオカンはそうやな。弟の方はわかんない」

のあ「わからない?」

さくら「梅雨頃から病気で入院中なんですぅ。イズミン、よくお見舞いに行ってましたぁ」

亜子「アタシらが会いに行くのもおかしいから、行ってない」

真奈美「フム、大石泉に事故や病気が降りかかった可能性は」

のあ「ないでしょうね。友人に伝えない理由がない」

亜子「アタシらに言えなくても、アタシらの親には言えるはずやろ?」

のあ「後ろめたい話でなければ、伝えてない理由がない」

さくら「イズミン、わたしたちに会いたくないのかなぁ……」

亜子「さくら、そんなわけあらへん」

真奈美「のあ、どう考える」

のあ「何とでも考えられるわね。だから、聞くことにしましょう」

真奈美「誰に、だ?」

のあ「あなた達に」

さくら「わたしたち、ですかぁ?」

のあ「真実に直感で近づいているのは、あなた達よ」

亜子「勘な……」

のあ「何個か質問させてちょうだい。いいかしら」

さくら「わかりました」

のあ「大石泉は無事かしら」

さくら「もちろんですぅ」

のあ「メールの差出人が別人の可能性は」

亜子「ない」

真奈美「どうしてだ?」

亜子「似せただけだったら、あんなやり取りにはならへん」

さくら「絶対にイズミンですよぉ。絶対ですぅ」

亜子「思えば、アタシらに心配されたくないように隠してるのかも……」

のあ「信じましょう。電話に出ない理由は」

亜子「取り上げられてるとか、か?」

のあ「あなた達と連絡はどうやって取ってるのかしら」

真奈美「PCか?」

のあ「一時的に与えられているのかもしれないわね」

さくら「イズミン、パソコンが得意なんですよぉ」

亜子「いずみは成績もいいし、プログラミングが得意なんや。IQ150とかあるとかないとか」

のあ「大石泉は、どこにいると思うかしら」

亜子「皆目見当もつかん」

のあ「質問を変えましょう。どこにいないのかしら」

さくら「おうちと学校ですぅ」

のあ「あなた達が検討もつかないような所にいると」

亜子「うーん、そういうことやな」

のあ「大石泉のご両親に焦った様子は」

さくら「なかったと思いますぅ」

亜子「なんやろな、いずみがいないことは不安ではあると思うんやけど」

さくら「今はいないけど大丈夫、とか言ってましたぁ」

亜子「悪いこと、じゃないとか。考え過ぎか」

まゆ「……」

のあ「大石泉は家出をするようなタイプかしら」

さくら「違いますよぉ。真面目で優しいんですぅ」

亜子「胸元のボタンは、ちゃんと閉めて欲しいくらいやな」

のあ「家出するとしたら」

亜子「アタシかさくらの家やろ。本当に泊ったこともあるで」

真奈美「家族との仲は?」

亜子「普通の中学生くらいや」

のあ「普通、ってどんな感じかしら」

まゆ「ふつう……」

真奈美「つまり、そんなに仲良しというわけではないと」

亜子「そういうことやな」

真奈美「家出しても友人の家がせいぜい、といった所か」

のあ「フム。家出はなし」

真奈美「ご両親の態度から誘拐の可能性も薄いか?」

さくら「誘拐……」

のあ「薄いと思うわ」

真奈美「残る可能性はなんだ?」

のあ「最後の質問を。あなた達は何だと思う?」

さくら「……」

亜子「……」

のあ「ないかしら」

さくら「あの、おかしいことかもしれないですけどぉ……」

のあ「どうぞ」

さくら「お仕事に行ってるとかぁ……」

のあ「仕事、ね」

亜子「いずみにお金が必要な理由なんてないけど、アタシもさくらと同じことはちょこっと考えた」

のあ「ご家族はお金に困ってたのかしら」

さくら「全然ですぅ。イズミン、さくらよりお小遣いが多いんですよぉ」

亜子「さくらが無駄遣いするからやろ……とにかく、そんなことはない」

のあ「考慮に入れておくわ。お話してもらって、ありがとう」

亜子「どういたしまして。それで」

さくら「イズミン、探してくれますかぁ……?」

のあ「引き受けましょう」

さくら「やったぁ」

のあ「真奈美、契約書を用意して」

真奈美「わかった」

のあ「まゆ」

まゆ「メモは大丈夫ですよぉ」

のあ「お茶のお替りを」

まゆ「はぁい」

亜子「それで……ナンボなん?」

のあ「料金は後払い。調査時間で算出するけど、中学生が出せる金額しか出さないわ」

亜子「そういうシステムなんやな。探偵業って儲かるん?」

のあ「儲からないわよ。私の収入源は親が残してくれた財産を元手にした投資ね」

亜子「そうなんか。探偵事務所を経営するのはやめとくわ」

のあ「賢明な判断ね」

真奈美「のあ、契約書だ」

のあ「ありがとう。お茶とお話でもしながら、やりましょう」

12

高峯探偵事務所

のあ「フム……」

まゆ「うーん……のあさんは何かわかりましたかぁ?」

のあ「荒唐無稽な推理すら披露できそうもないわ」

真奈美「手掛かりもないもないな」

まゆ「家出するような子でもないみたい……」

のあ「大石泉、公立中学に通う中学3年生、仲の良い友人は先ほど来た村松さくらと土屋亜子」

まゆ「写真も一杯貰いましたよぉ、大人びてますねぇ。まゆももう少し大人っぽく……」

のあ「まゆはそのままがいいわ。大石泉には大石泉の個性があるのだから」

真奈美「おや」

のあ「真奈美、何か見つけたかしら?」

真奈美「ネットで調べてみたが、彼女かな」

のあ「年齢的にも一致、そうでしょうね」

まゆ「何を見つけたんですかぁ?」

真奈美「プログラミングのコンテストだ。入賞しているよ」

のあ「優秀だったのは間違いないようね」

真奈美「発想はどちらかというと堅いな。大賞には選ばれないわけだ」

のあ「しかし、大石泉がいない理由にはならない」

真奈美「さて、のあはこれからどう進める?」

のあ「親友を信じましょう」

まゆ「それなら……」

のあ「彼女達の仮説で進めていく、最初の一歩は」

まゆ「お仕事って話、ですよね……?」

のあ「そうね。でも、仕事とは限らないと考えている」

真奈美「というと?」

のあ「ご両親の話からすると、大石泉や家族が一方的に不利益を得ているとは思いにくい」

真奈美「見返りを得ている、と?」

のあ「そういうこと。それがどんな条件かはわからないけれど」

真奈美「家族を問いただすか?」

のあ「答えないでしょうね。私が犯人なら秘密は守らせるわ、それに」

まゆ「それに……?」

のあ「人質は犯人側にいるもの、なんだって出来るわ」

真奈美「怖いことを言うんだな」

のあ「彼女達の親友を危険な目にあわせるわけにはいかない」

真奈美「人助けをする方だとは思っていたが、いつにもまして気に掛けるな」

のあ「学生時代の友人は大切にするべきね、そうすべきだったわ」

真奈美「……そうか」

のあ「まゆも大切にするのよ、いいかしら」

まゆ「はい、のあさん」

のあ「真奈美、調査をお願い」

真奈美「任せておけ。調査内容は」

のあ「大石泉と家族について調べて来て。直接訪問しないこと、いいわね?」

真奈美「了解した。気になることがあったら、深堀りしてこよう」

のあ「お願いするわ」

真奈美「では、行ってくる」

まゆ「今から行くんですかぁ?」

真奈美「仕事は早急に、だ。佐久間君、夕食は任せた」

まゆ「わかりましたぁ。何時頃戻られますかぁ?」

真奈美「遅くはならない。のあ、車を借りるぞ」

のあ「ご自由に」

真奈美「行ってくる」

まゆ「行動するのに悩まないのはカッコイイですよねぇ」

のあ「そうね」

まゆ「のあさん、まゆにすることはありますかぁ?」

のあ「大丈夫よ、お休みはあなたのために使ってちょうだい」

まゆ「そうですかぁ……」

のあ「真奈美を借りるから、家事をお願い。いいかしら」

まゆ「はぁい、任せてください」

のあ「ねぇ、まゆ」

まゆ「なんですかぁ?」

のあ「家出や行方不明者に詳しい人と言えば?」

まゆ「ストリートチルドレンとか少年探偵団とか」

のあ「かつての名探偵は利用できたわね。でも、今はいないわ」

まゆ「それだと……」

のあ「プロに聞くのが一番でしょうね」

まゆ「プロですかぁ?」

のあ「夏美あたりに聞いてみましょう」

まゆ「少年課の?」

のあ「ええ。訪ねてみるしょうか」

まゆ「あの……のあさん」

のあ「何かしら?」

まゆ「ふつうの中学生3年生はご両親と仲が悪いんですかぁ……?」

のあ「私にはわからない。その時期に面倒を見てくれた叔母は優しすぎたわ」

まゆ「そうですよね……」

のあ「経験はないけれど、私は私の今までは嫌いじゃないの」

まゆ「どうしてですかぁ?」

のあ「真奈美もまゆもいるもの」

まゆ「……はい。まゆも、です」

のあ「明日にむけて調べ物と考え事をするわ。お夕飯になったら呼んでちょうだい」

まゆ「がんばってくださいね、のあさん」

13

翌日

高峯探偵事務所

のあ「わかったわ。今から行くからよろしく」

まゆ「のあさん、お出かけですかぁ?」

のあ「ええ。恵磨が警察署にいるみたいだから、訪ねてみるわ」

まゆ「わかりましたぁ、事故には気をつけてくださいねぇ」

のあ「ええ、真奈美は?」

まゆ「上の階にいると思います。そう言えば、昨日の調査はどうだったんですかぁ?」

のあ「成果は得られなかったわ。そうね、強いて言うならば」

真奈美「大石泉の弟についてかな」

まゆ「弟さん……?」

真奈美「難病のようだな。治療法は確立されていないそうだ」

のあ「真奈美、丁度いい所に。出れるかしら」

真奈美「大丈夫だが、どこにだ?」

のあ「警察署へ。恵磨の話を聞きに行くわ」

ピンポーン……

まゆ「はーい、ただいまぁ」

のあ「こういう時に限って、来客があるものね」

まゆ「雪乃さん、こんにちはぁ。中へどうぞ」

のあ「雪乃?」

相原雪乃「まゆちゃん、こんにちは」

相原雪乃
高峯ビル2階にある喫茶店St.Vのマスター。先月立てこもり事件に巻き込まれたが、心身共に健康。

のあ「雪乃、どうしたのかしら」

雪乃「のあさん、お忙しいところ申し訳ありませんわ。お話がありますの」

のあ「雪乃が急ぎで用事を持ってくるのも珍しいわね。聞かせてちょうだい」

雪乃「拘置所から喫茶店にお電話がありまして」

真奈美「拘置所?」

のあ「誰から」

雪乃「トナカイさんですわ、ブリッツェンと名乗っていた男性からです」

のあ「自主したとは聞いているけれど」

真奈美「目的がわからないな」

雪乃「その通りですわ。面談が許されているとかしか言っていなくて……」

のあ「雪乃に来いと言ってたわけではないのね?」

雪乃「ええ、事件を知る関係者でも良いと言っていましたわ」

まゆ「何か新しいことを話す、とか……?」

真奈美「それなら、どうして警察じゃないんだ?」

のあ「警察に話すことではないのか、それとも」

雪乃「私に伝えたいことがあるのでしょうか……思い当たるフシがありませんけれど」

のあ「雪乃は会いたいわけではないのね?」

雪乃「悪い人ではないと思いますわ。でも、お仕事を優先してまでお会いする人では」

のあ「わかったわ。雪乃の代理として会ってくるわ」

雪乃「お願いしてもよろしいでしょうか?」

のあ「問題ないわ。行き先が一つ増えるだけだもの」

真奈美「警察署と拘置所か。先に行くのは?」

のあ「拘置所。雪乃、面会を要求したトナカイについて教えてちょうだい」

14

清路拘置所・面会室

清路拘置所
清路駅から北西の街はずれ、清路刑務所に併設されている。自家用車もしくは本数の少ないバスでしか移動手段がない。

ブリッツェン「よう」

ブリッツェン
イヴ・サンタクロースの部下だった男性。イヴの死後に自主し、身柄を拘置されている。

のあ「こんにちは。相原雪乃の代理で来たわ」

ブリッツェン「そうかい。で、何モンだ?」

のあ「探偵よ。こっちは助手の木場」

真奈美「よろしく」

ブリッツェン「探偵か。バレンタインの姉ちゃんが連絡を取ってた相手だな」

のあ「その通りよ、ミスター。ブリッツェン」

ブリッツェン「ここに来てんだから、名前くらい知ってるだろ」

のあ「どうでもいいこと」

ブリッツェン「まぁ、いいか。トナカイとして話をするんだからな」

のあ「それで、雪乃に連絡した理由は」

ブリッツェン「情報を提供する。ただし、警察ではない奴にだ」

真奈美「警察に流さない理由は?」

ブリッツェン「内通者がいるから、だな」

のあ「内通者の存在は頭にはあるわ。でも、当の誰かはわからない」

ブリッツェン「それは俺も一緒だ」

真奈美「わからないのか」

ブリッツェン「俺はサンタの右腕だったが、知らされないことも多いんだ」

のあ「ふむ」

ブリッツェン「今思えば、サンタが守ってくれたのか。こうして無事生きてんだから」

真奈美「情報の秘匿には」

ブリッツェン「口を封じるのが一番だからな。知らないなら、殺しはリスクでしかない」

のあ「イヴ・サンタクロースも口封じに殺された、と」

ブリッツェン「そっちはどうだろうな」

のあ「別の理由があると?」

ブリッツェン「俺がわかることじゃない」

のあ「そう」

ブリッツェン「無駄話は終わりだ。情報を提供する」

のあ「どうぞ」

ブリッツェン「イヴ・サンタクロースは爆弾を提供していた」

真奈美「それは警察にも話していることだな?」

ブリッツェン「そう慌てるな。取りまとめ役を経由して、使う奴の手に届く」

のあ「取りまとめ役というのは」

ブリッツェン「俺にはわからない。犯罪組織、というほど大規模じゃないと予想してる」

真奈美「フム……」

ブリッツェン「それで、だが……」

のあ「……」

ブリッツェン「……イヴが最後に行った場所についてだ」

真奈美「……」

ブリッツェン「詳細な場所はわからないが、都心迷宮と呼ばれてるみたいだな」

のあ「都心迷宮?」

ブリッツェン「ああ。清路市のどこかにイヴは出かけて行った」

のあ「どこか、ね」

ブリッツェン「そして、どこかで殺害されて、遺棄された」

のあ「清路市は開発が進んでいるから、隠れ場所もあるのかもしれないわね」

ブリッツェン「逆に取り残された場所もある、そんな日の当たらない場所かもしれないぜ」

のあ「迷宮を利用してるなら何か情報があるはず。心当たりは」

ブリッツェン「地図に相当するものはあると思うんだが、知らされてない」

真奈美「しかし、都心迷宮か。大層な名前だな」

ブリッツェン「それに、もう一つ。気をつけるのは爆弾じゃない」

のあ「爆弾ではない?」

ブリッツェン「爆弾はほぼ残ってないはずだ。イヴもいないし、爆弾を製造出来る奴も死んでる」

真奈美「佐藤心のことみたいだな」

のあ「ならば、気をつけるのは何を」

ブリッツェン「発火装置だ」

のあ「宮本フレデリカも使ってたわね」

ブリッツェン「俺が伝えたいことは終わりだ」

のあ「質問を」

ブリッツェン「構わないぜ」

のあ「あなたは私達に何を期待しているのかしら」

ブリッツェン「それを聞くか?」

のあ「私は人の思いを汲み取る力が弱いの。言いなさい」

ブリッツェン「わかった、俺の希望は単純だ」

のあ「……」

ブリッツェン「イヴを殺した奴を恨んでる、復讐してくれ」

のあ「復讐は私の仕事ではないわ」

ブリッツェン「俺は希望を伝えた。後は任せる」

のあ「……わかったわ。期待しないでちょうだい」

ブリッツェン「呼び出して悪かったな」

のあ「あなたの要望は聞いたわ。私の要求にも答えてもらいましょう」

真奈美「のあ、何か目的があったのか?」

ブリッツェン「なにかあんのか?」

のあ「個人的好奇心から質問させてちょうだい」

ブリッツェン「なんだ、そんなことか。いいぜ」

のあ「どうして、自首したのかしら」

ブリッツェン「サンタクロースがいなくなったら、トナカイではいられない」

のあ「復讐なら自分で行うことも出来たはずよ」

ブリッツェン「そうすることは出来たな。結果はともかく」

のあ「実際は自首しているわ。なぜかしら」

ブリッツェン「……」

真奈美「答えにくい事情があるのか」

ブリッツェン「もうこんな身だ。事情なんてない」

のあ「事情がないのなら」

ブリッツェン「ハートだよ。俺はサンタクロースの言いつけを守ってるだけだ」

のあ「言いつけ、とは」

ブリッツェン「探偵さんは、慈善事業は大切だと思うか?」

のあ「具体的に」

ブリッツェン「親のいない子供にもクリスマスプレゼントは与えられるべきか」

のあ「そうね、出来ることなら幸せになって欲しわ。私もその1人だったもの」

ブリッツェン「……そうか」

のあ「今は支援する立場よ」

ブリッツェン「それなら、丁度良い。イヴの遺産を全て慈善事業にばらまいた」

真奈美「爆弾で得た資金を、か?」

ブリッツェン「かなりの金額を世界中に。もしも、フォローしてくれんならイヴも喜ぶだろうよ」

のあ「……」

ブリッツェン「それと一緒に言いつけられたことは、こんな状態になったらトナカイは辞めろってことだな」

真奈美「その言いつけを守って、これを選んだのか」

ブリッツェン「トナカイだからな。俺が元警官なのは知ってるか?」

のあ「聞いたわ」

ブリッツェン「私がいなくなったら、あなたは罪を犯していたことに耐えられませんよ、だとさ」

真奈美「……」

ブリッツェン「その通りだな……まぁ、その通りだったよ」

のあ「サンタクロースがあなたの罪を背負っていたのね」

ブリッツェン「ああ。だから、俺はここにいるのが一番いい」

のあ「他の仲間は」

ブリッツェン「知らない。どうしようが、勝手だ」

のあ「……」

ブリッツェン「これぐらいでいいか?」

のあ「最後に質問を」

ブリッツェン「なんだ?」

のあ「ハッキングは仲間内に精通してる人物がいたのかしら」

ブリッツェン「仲間内にはいない」

のあ「ショッピングモールのシステムを奪っていたけれど」

ブリッツェン「イヴが調達してきた。おそらくだが」

真奈美「取りまとめ役と取引があったのか?」

ブリッツェン「そう推測してる」

のあ「ありがとう。情報は活用させてもらうわ」

ブリッツェン「すまない、頼むぜ」

のあ「真奈美、行きましょうか」

真奈美「了解だ」

ブリッツェン「バレンタインの姉ちゃんには、迷惑をかけた。謝ってると伝えてくれ」

15

清路警察署・科捜研

真奈美「少年課の仙崎君と会うのに、どうして科捜研なんだ?」

のあ「さぁ?」

真奈美「仙崎君に会えばわかるか」

松山久美子「あら、のあさんに真奈美さん」

松山久美子
科捜研所属。常時白衣着用の美女。日曜日もこの通り科捜研にいる。

のあ「久美子、お疲れ様」

真奈美「休日出勤か?」

久美子「急ぎの仕事をほとんど終わらせて、休憩してたところ。二人は何かご用?」

真奈美「仙崎君に呼ばれてる」

のあ「久美子は、何か用事を頼まれていないかしら」

久美子「頼まれたわ。音葉ちゃんの所にいるわよ」

のあ「ありがとう」

真奈美「梅木君も仕事か?」

久美子「違うわよ?仕事じゃなくてもよくいるけれど」

真奈美「梅木君のことだから音響機器を借りてるだけだろうが……いいのか?」

のあ「私の心配することじゃないわ」

恵磨「おっ、二人とも来たか」

梅木音葉「お二人とも……お待ちしておりました」

梅木音葉
科捜研所属。久美子の後輩らしく常時白衣着用。音のスペシャリストであることを口実に解析室の音響を整備しつつある。

久美子「恵磨ちゃん、終わった?」

恵磨「久美子、バッチリ!データも貰ったし!」

音葉「参考になれば……嬉しいです」

恵磨「もちろん!音葉、ありがと!」

音葉「どういたしまして……」

のあ「何をやっていたのかしら」

恵磨「落書きの写真を取り込んで、意味を調べてもらった」

真奈美「落書きの意味?」

のあ「私にも見せてもらえるかしら」

音葉「もちろんです……モニターを見てください」

恵磨「落書きなんかに興味あんの?」

のあ「意味があるのならば」

音葉「こちらです……全部で50枚ほど」

真奈美「思っていた落書きのレベルじゃないぞ」

のあ「大きいわね。作品としての質も高い」

恵磨「そんなこと言うと、沙紀が喜ぶから辞めてよ」

のあ「沙紀、とはどなたかしら」

恵磨「吉岡沙紀、これ描いた張本人」

真奈美「知り合いなのか」

恵磨「たびたび補導されてたからね、それに」

のあ「情報源なのかしら」

恵磨「そうだった」

久美子「今は違うの?」

恵磨「付き合いが悪くてさぁ、その後に大掛かりな落書きは増やしてるから困ってる」

のあ「付き合いが悪くなったのは何時頃から」

恵磨「この前の秋の終わりくらいかな?多分そんなもん」

のあ「吉岡沙紀は家に帰ってるの?」

恵磨「あんまり帰ってみたい」

音葉「そこで……この落書きです」

恵磨「写真データを集めて、音葉に渡したんだ」

久美子「音葉ちゃん、何をしたの?」

恵磨「音葉に頼んで、地図の記号にしてもらった」

のあ「この落書き達は地図の記号ということかしら」

恵磨「この前、沙紀を捕まえに行った時に本人がそうやって使ってたからさ」

のあ「逃げられたの?」

恵磨「そう、逃走ルートだったんだよ!音葉ちゃん下向き矢印のビル出せる?」

音葉「わかりました……画像解析の結果も同時に表示します」

のあ「大きい矢印ね」

真奈美「さっきまでの物と違って、明確だな」

恵磨「次かな、袋小路に書いてあったヤツ」

音葉「はい……これは上だそうですが」

久美子「上に見える?」

音葉「私にはわかりません……」

真奈美「のあ、見えるか?」

のあ「そんな気はするわね」

恵磨「アタシはわかんないんだけど、なんで?」

のあ「わかりにくいけれど、徐々にグラデーションしてるわ」

久美子「それなら、ムリヤリ彩度上げてみたら?」

音葉「なるほど……どうぞ」

真奈美「なるほどな。確かに上に行きたくなる」

恵磨「一枚一枚アタシが見てもわかんないから、美術品に見識がありそうな久美子を訪ねてみたわけ」

真奈美「久美子君、詳しかったのか?」

久美子「いいえ、恵磨ちゃんの勘違いじゃない。忙しいし、音葉ちゃんに任せてみたけど」

音葉「私も……美術品には疎いので……」

久美子「主観でわからないなら画像解析、データ解析を持ち出してきたわけ」

恵磨「なんか良いパソコンとソフトが入った、ってウワサだけど使ってるんだ」

真奈美「ほう。どうやっているんだ?」

音葉「まず……恵磨さんから頂いた画像を取り込みました」

久美子「それに恵磨ちゃんの情報と合わせて」

音葉「矢印、上下左右、などの単純な情報を引き出そうと試みました……」

のあ「結果は」

音葉「矢印で表記してあります……」

久美子「精度はどれくらい?」

音葉「参考程度にしてください……赤い矢印は恵磨さんがくれた情報通りです」

真奈美「位置情報も入ってるのか」

恵磨「入れてもらった」

久美子「恵磨ちゃん、これは何に使うの?」

恵磨「それで、さっきの話」

のあ「帰ってないこと」

真奈美「落書きが地図の記号だとするならば」

久美子「どこに着くのか、気になるわよね」

のあ「恵磨、どこなの?」

音葉「名前が付いているそうですよ……」

真奈美「名前?」

恵磨「都心迷宮、そう呼んでる子が結構いる」

17

清路警察署・科捜研

のあ「都心迷宮ねぇ……」

恵磨「聞いたことある?」

のあ「ないわ」

真奈美「……」

恵磨「都心迷宮も子供がつけたなら、いいんだけどさ」

久美子「違うの?」

恵磨「子供達の隠れ家なだけじゃない」

音葉「どのような……意味でしょうか」

恵磨「悪い奴が関わってるってこと」

のあ「都心迷宮って何なのかしら」

恵磨「全部はわかんないけどさ、地下に広がってるとか」

真奈美「地下か」

久美子「潜る気なの?」

恵磨「いやいや、少年課にはそこまでは無理だって」

真奈美「仙崎君の目的は」

恵磨「家出少年少女を保護すること、犯罪者に近づけないこと」

のあ「その地図が役に立つの?」

恵磨「役に立たせる。沙紀はまぁ手のかかる妹みたいなもんだからさ」

久美子「助ける?」

恵磨「縁を切らせる」

のあ「この地図を描かせた誰か、と」

恵磨「そういうこと」

のあ「音葉、私にもデータを貰えるかしら。これに」

音葉「もちろんです……お預かりします」

のあ「お願い。恵磨はこのために休日出勤したのかしら」

恵磨「二人がいたから科捜研にも来ただけ」

久美子「仕事?」

恵磨「前に話聞いた子が補導されてきたから、ちょっと見に来た」

久美子「少年課も大変ね」

恵磨「そうでもないし、すぐに来てくれない大人なんか信頼されないから」

のあ「そう」

音葉「のあさん……お待たせしました」

のあ「ありがとう」

恵磨「そうだ、忘れてた」

音葉「何か……ありますか」

恵磨「違う違う、音葉は大丈夫。のあさんの方」

のあ「まだ私の用事は一言も話してないわ」

恵磨「なんか聞きたいことがあるって」

のあ「人を探してるの」

恵磨「アタシに聞くってことは、未成年?」

のあ「ええ。名前は大石泉、中学3年生よ」

恵磨「知らない名前だな。のあさん、詳しく聞かせて」

18

清路警察署・科捜研

のあ「わかってるのはこんな所ね」

真奈美「依頼人は彼女の同級生二人だ」

久美子「警察に連絡は?」

恵磨「その様子だとしてない」

のあ「連絡はしてないわ」

音葉「既に数週間は失踪しています……この期間ならば」

久美子「家出というよりは行方不明者よね」

恵磨「少年課にも話は来てない」

真奈美「仙崎君は何か情報を持ってないか?」

恵磨「その中学、今はもう荒れてないんだよね。もちろん、不良グループがゼロってわけではないけどさ」

のあ「情報源がいないってことかしら」

恵磨「情報源もいないし、トラブルもあんまりない。せいぜい校内で処理して終わりっしょ」

音葉「警察が出て行くようなことはないと……」

恵磨「交通指導くらいじゃない。つまり、アタシはあんまり知らない」

真奈美「ここでも有力な情報は無し、か」

のあ「そうとは限らない。恵磨はどう思うかしら」

恵磨「大石泉について?」

のあ「そうよ」

恵磨「率直に言った方がいいん?」

のあ「お願いするわ」

恵磨「アタシが一番高いと思っている可能性は、亡くなってること」

真奈美「……」

久美子「……本当に?」

恵磨「まず日数が長すぎ。家出常習犯じゃないんだから、この日数は厳しいよ」

のあ「なるほど。その場合に考えられるのは」

恵磨「事故に関わっていても見つかるはず」

音葉「中学生だから……でしょうか」

恵磨「そう。学生だと分かれば身元が判明してなくても、誰かが探しにくるんだ」

真奈美「だが、見つかっていない」

久美子「身元不明のそういう遺体があるとかいう話はないわね」

のあ「考えられる可能性は、誰にも見つからない場所で亡くなっているか」

恵磨「死体、というか死んだことを隠されているか」

真奈美「つまり、だ」

恵磨「休み明けで不在が確認されるなんて、虐待死のよくあるパターンだから」

久美子「ご両親が隠してる、ってこと?」

音葉「弟さんも……長期入院で不在ですから」

恵磨「疑うのはそこ。少年課的発想なのはわかってる」

のあ「でも、証拠もないわね」

恵磨「アタシと夏美さんで会いにいけば、どっちの可能性が高いかはわかるよ」

のあ「依頼人のためにも生きている可能性を探りたいわ」

真奈美「メッセージも返ってきている、親友がホンモノだと言っているんだ」

恵磨「うん、そっちがいいっ」

のあ「その場合の可能性は」

久美子「ホテルとかに泊まってるのは厳しいわよね、お金的にも」

恵磨「そうだね」

真奈美「お金がなくてもいい場所か?」

のあ「もしくは資金の援助を受けられるか」

恵磨「どちらにせよ、協力者がいるってこと」

音葉「例えば……どのような人でしょうか」

恵磨「マンションの1室を持ってたり」

のあ「物件のオーナーね」

恵磨「金銭的に裕福で隠し場所を用意できる、ホテルを借りられるとかさ」

のあ「フム」

恵磨「真奈美さん、簡単に調べたんでしょ?」

真奈美「ああ」

恵磨「そこで目撃情報の一見もないなら、外に出てない」

のあ「監禁……いや、軟禁ということかしら」

恵磨「食べないわけにはいかないでしょ」

真奈美「それでも、見つからないということは」

恵磨「お世話役がいる、ってこと。電話に出れないのは何でだと思う?」

のあ「監視されてるから」

恵磨「のあさん、もう一歩。電話以外で応答してる理由は」

のあ「そうか、チェックされてるから」

恵磨「そういうこと」

真奈美「連絡手段は今のご時世だ、インターネットさえあれば色々あるだろう」

音葉「いいえ……限定されています」

恵磨「音葉の言う通り、中学生が親から与えられたケータイのSNSしか使ってないでしょ」

久美子「防犯対策を逆手にとってるのね……本人のケータイとアカウントだし追跡すら厳しいわ」

のあ「何者かがチェックして、連絡している」

真奈美「理由は」

のあ「無事を知らせるためでしょうね」

恵磨「そういうことだから、お世話係がいる」

久美子「身の回りの世話だけじゃなくて」

のあ「犯罪側に精通」

音葉「複数か組織か……あるいは」

真奈美「一人かわからない、と」

音葉「恵磨さんの情報を集めますと……」

久美子「持ち家のオーナーか場所を持ってる」

真奈美「金銭的に余裕がある」

恵磨「お世話係がいる」

音葉「犯罪に精通している……」

真奈美「……」

恵磨「……」

久美子「……」

音葉「……」

のあ「どうして、こっちを見るのよ」

真奈美「該当するな」

久美子「真奈美さんっていうお世話係もいるものね」

のあ「合点がいったわ。あなた達、失礼ね」

真奈美「冗談はともかく」

恵磨「生きてるなら、ただの家出じゃない。気をつけて」

のあ「わかってるわ」

恵磨「少年課も手伝おうか?」

のあ「警察が動くのは厳しいでしょう」

恵磨「察してくれると助かるよ。何もないと警察らしいことも出来ないしさ」

のあ「私達で調べてみるわ。有力な情報をありがとう」

真奈美「そうするとしよう」

久美子「んー、仕事も終わったし帰ろうかな。恵磨ちゃんは?」

恵磨「アタシも上がり」

音葉「お暇でしたら……生演奏が聞けるバーでもいかがですか」

久美子「いいわね。音葉ちゃんなら良いピアニスト知ってそうだし」

恵磨「えー、静かなところはなぁ……そうだ、カラオケ行こうよ!」

久美子「私はいいけど、音葉ちゃんは?」

音葉「構いませんよ……」

恵磨「よっしゃ、決まり!」

久美子「音葉ちゃん、ピアノもそうだけど歌も凄いわよ」

恵磨「マジで!?楽しみになってきたっ!」

のあ「恵磨、盛り上がってるところ、申し訳ないのだけれど」

恵磨「ごめんごめん、何か聞きたいことあるの?」

のあ「都心迷宮に潜るわ。いいわね、真奈美」

真奈美「構わない」

恵磨「本気で言ってる?」

のあ「安全には配慮するわ」

真奈美「警察よりも身軽だ」

のあ「今なら調べられるわ」

恵磨「わかった。気をつけてよ、まぁ、のあさんだから心配してないけど」

のあ「お願いが三つ」

恵磨「なに?」

真奈美「一つは逃げられたという話を聞かせてくれ」

のあ「二つ目は吉岡沙紀の写真をちょうだい」

久美子「もう一つは?」

のあ「パルクールに精通してる人、知らないかしら」

19

夕方

高峯探偵事務所

のあ「ただいま」

まゆ「のあさん、お帰りなさぁい。真奈美さんは?」

のあ「買い物だそうよ、そのうち戻るわ」

太田優「のあさん、お帰りー」

海老原菜帆「お邪魔してます~」

太田優
高峯ビル1階美容室Z-ARTに勤める美容師。職場までは徒歩で通勤している。

海老原菜帆
高峯ビル2階喫茶St.Vでアルバイトをしている女子高生。通勤通学は自転車だが、ゆっくりらしい。

のあ「優と菜帆ね、いらっしゃい。何をしていたの」

優「お仕事終わりのお茶の時間だよぉ」

まゆ「菜帆さんに新しいお茶を頂いたんですよぉ」

菜帆「困りました~、のあさんの分がありません」

のあ「私は問題ないわ。もう夕食の時間も近いもの」

まゆ「あらぁ、もうこんな時間ですかぁ?」

優「ほんとだー、話過ぎちゃった?」

のあ「どんな話をしていたのかしら」

まゆ「実は、調査を」

のあ「あら、そうなの」

菜帆「こう見えて、私は情報通ですよ~」

優「美容室は中学生のお客さんもいるからぁ」

のあ「それで、何かわかったのかしら」

優「全然わかんない☆」

のあ「まぁ、わかっても困るわね。菜帆も同じかしら」

菜帆「すみません~」

のあ「わからなくて当然……そうね、二人は都心迷宮という言葉を知っているかしら」

優「都心?」

菜帆「迷宮?」

優「聞いたことはあるようなぁ、ないような?」

のあ「知らなそうね」

優「のあさん、それなに?都市伝説?」

のあ「そんなものね。清路駅の近くには迷宮があるそうよ」

優「地下鉄工事でてんやわんやもあったし、それが理由かなぁ?」

のあ「根も葉もない誹謗中傷をばら撒くには最適な状況だったものね」

まゆ「そうだったんですかぁ、あんまり清路駅は使わないから……」

のあ「菜帆は、知らないかしら。不良グループが使ってたりするそうだけど」

菜帆「う~ん、私そういうの苦手で」

まゆ「のあさん、まゆには聞いてくれないんですかぁ……?」

のあ「星輪学園は清路駅からも遠いし、そういうのとは無縁じゃない」

まゆ「確かにそうですねぇ」

菜帆「喫茶店でも聞いたことないですね~」

のあ「St.Vは若い人には少し敷居が高いもの」

優「のあさん、行方不明の女の子見つかりそう?」

のあ「手掛かりは少ない、でも必ず見つける」

優「のあさんが言うなら信じる♪」

まゆ「まゆも、信じます……」

優「遅くなっちゃった、アッキーの散歩の時間だから帰るねぇ」

菜帆「お夕飯だから、私も帰ります~」

まゆ「ありがとうございましたぁ、また遊びに来てくださいねぇ」

優「はーい♪ばいばーい☆」

菜帆「さようなら~」

のあ「今度はお茶をご馳走になるわ」

まゆ「……」

のあ「あの二人が知らないなら、ウワサにもならない程度なのね」

まゆ「今日の調査はお疲れ様でしたぁ」

のあ「ありがとう。だけど、成果を結ぶかどうかはわからない」

まゆ「都心迷宮、ってなんですかぁ?」

のあ「まゆには言っていなかったわね。トナカイと恵磨から同じ言葉を伝えられた」

まゆ「それが都心迷宮……?」

のあ「ええ。まだ、可能性の一つだけど明日から調査するわ」

まゆ「がんばってくださいねぇ」

のあ「まゆも授業は真面目に受けるのよ」

まゆ「まゆはちゃんと受けてますよぉ。今のクラス、好きですからぁ」

のあ「そう……それは良かった」

まゆ「そうだ、川島先生の話どうなりましたかぁ?」

のあ「合宿の引率についてかしら、真奈美のスケジュールと相談しているけれど受けられそうよ」

まゆ「ふふっ、嬉しい。皆、喜びますよぉ」

のあ「偶には電波の入らない山荘も悪くないわ」

まゆ「お夕飯の支度しますねぇ、リクエストはありますかぁ?」

のあ「まゆに任せるけれど、辛いものが一品あると私は喜ぶわ」

まゆ「うふふ、待っててくださいねぇ」

20

幕間

都心迷宮の奥

大石泉「……はぁ」

大石泉
さくらと亜子の親友。過剰に備えられたPCに囲まれている。

古澤頼子「こんばんは」

古澤頼子
後ろにある扉から出て来た。街ですれ違ったとしても、印象には残らないだろう。

泉「……」

頼子「夕食はいただきましたか?」

泉「勝手に食べてる……冷凍食品だけど」

頼子「お世話係はどうされましたか」

泉「最近来てない」

頼子「食事はどうなさっていますか」

泉「そこの冷凍庫と電磁レンジ」

頼子「大きな冷蔵庫に冷凍食品がたくさん、最近のものは美味しいでしょう?」

泉「確かに味はいいけど……」

頼子「彼女は引き時を間違えませんからね、信頼しましょう」

泉「あれ、誰なの」

頼子「あなたのお世話係です。あなたにとってはそれ以上ではありません」

泉「……」

頼子「食料の量からして、残り1週間未満というところでしょうか。お仕事はどうですか」

泉「出来そうな仕事しかないけど……」

頼子「お世話係から仕事はどう指示されていますか」

泉「この冊子を来なくなる前に置いてた」

頼子「見せてくださいますか」

泉「……いいけど、見たことないの?」

頼子「お仕事は任せていますから」

泉「お願いがあるの」

頼子「この仕事について、ですか」

泉「インターネットが接続できてない。電波も入らないし、ハッキングが出来ない」

頼子「構いません。そんなことは望んでいませんから」

泉「え?」

頼子「ケータイは戻されていますか」

泉「うん……でも、ここだと使えないし」

頼子「孤立状態なのですね。退屈ではありませんか」

泉「暇つぶしは幾らでもあるけど……」

頼子「何か不都合でも」

泉「学校が始まってる」

頼子「あなたの学力ならハンデとなるような日数ではありません」

泉「そんな理由じゃないって」

頼子「寂しいですか」

泉「そういうわけじゃないし……」

頼子「冊子をお返しします、どうぞ」

泉「契約は何時まで?弟は無事なの?」

頼子「質問は一度にたくさんするものではありませんよ」

泉「あなたが、親玉なの?」

頼子「質問が増えましたね。良いでしょう、お答えします」

泉「……」

頼子「最初の質問はお仕事について、ですか」

泉「このハードディスクに全て記録してある」

頼子「良いでしょう。お渡しください」

泉「……はい」

頼子「お受け取りしました。ショッピングモールの件は良い仕事でした」

泉「……」

頼子「あなたへの依頼はこれを以て完了とします」

泉「へ……?」

頼子「お疲れ様でした」

泉「仕事内容を確認しないの……?」

頼子「あなたはプログラミングな得意な秀才から、ハッカーまで飛躍しました。その過程を見れたことにお礼を言います、ありがとうございました」

泉「そんなこと……」

頼子「人は時に追い詰められるべきですね。そう思いませんか?」

泉「なら、ここから出して!」

頼子「質問は順番に。二つ目は弟さんについてですね」

泉「……わかった。弟は助かるの」

頼子「私は神様でも医者でもないので治療は出来ません」

泉「……騙したの」

頼子「誤解を招く表現でした。弟さんの病気は後数ヶ月で治療法の確立が報告されます。幸運なことに発見したのは日本の病院で日本人の医師です」

泉「本当に……?」

頼子「命を救えるのは医者だけです。報酬は今週末にもご両親にお支払いします、保険外治療でも十分な額でしょう」

泉「なら……」

頼子「後はあなた次第です、応援していますよ。大丈夫です、すぐに死に至る病ではありませんから間に合います」

泉「……それなら、こんな仕事することなかった」

頼子「お金の工面ならどうにでもなりますからね。だけれど」

泉「だけど……なんなの」

頼子「あなたが必死にもがき、あらがう姿を見るにはこの方法しかありませんでした」

泉「さっきから、それが目的だって言うの!?」

頼子「この事件に関していえば、そうです」

泉「そんなことのために、親に、さくらと亜子にも心配させて、私をここに閉じ込めたの!」

頼子「言っているじゃありませんか。その通りですよ」

泉「あなたって人は……」

頼子「3つ目の質問にお答えしましょうか。冷静に聞く方がよいと思いますが」

泉「……あなたが親玉なの」

頼子「そうかもしれませんね。呼ぶのであれば『キュレイター』、と。親玉という響きは好ましくありません」

泉「お世話係の人は部下なの?」

頼子「部下ではありませんが、協力者です。目的も異なりますし、強制的に従わせることも難しいのはあなたにも察しがつくかと思います」

泉「何時からこんなことを」

頼子「さぁ?覚えていません」

泉「……」

頼子「質問にはお答えしました」

泉「待って、あなたは誰なの?」

頼子「誰、ですか。難しい問題ですね」

泉「難しい……かな」

頼子「何を以て私を私と定義するのですか」

泉「そんな複雑なことは聞いてない。名前は」

頼子「名前ですか?そんなものに意味があるのですか?」

泉「泉、落ち着いて……何とか情報を引き出さないと」

頼子「もしかして、私を捕まえたいのですか」

泉「そう……そうだよ」

頼子「人間としての肉体がありますから、捕まえることも出来るかもしれませんね。そうだ、これを差し上げましょう」

泉「何これ……カギ?」

頼子「奥の部屋のカギです。出入りを許します」

泉「こんなものあっても……」

頼子「追加の質問がありましたね、出してとあなたは言いました」

泉「もう契約は終わったから、ここから出して」

頼子「ご自由にどうぞ」

泉「ご自由に、って」

頼子「ここ数日、あなたを監視などしていません。逃げることを試みることは出来たのですよ」

泉「だけど」

頼子「賢いですね。その通り、迷う可能性があります」

泉「そうだよ、ここに連れて来られたんだから」

頼子「契約にそれは含まれていません。それに」

泉「それに、なに?」

頼子「慌てふためくあなたは素晴らしいですよ」

泉「だから!その言い方はなんなの!?」

頼子「ここは都心迷宮の最奥です。あなたに選択肢は二つ」

泉「選択肢……」

頼子「どちらもリスクがあります。一つ目はここから自力で脱出すること、リスクは遭難」

泉「……」

頼子「二つ目は助けを待つこと、リスクは餓死」

泉「……」

頼子「答えがわかってもつまらないので、私を追うことは禁じます。行動は明日の朝からにしてください」

泉「禁じても、行くけれど」

頼子「その場合は、弟さんを救うお金が無くなるだけですよ。私の機嫌が悪かったら、医者は治療法ごとこの世からいなくなるかもしれません」

泉「……」

頼子「どちらにしますか。あなたを信じますか?あなたの友人を信じますか?」

泉「……考えてから決めるから、もうどっか行って」

頼子「お望みとあれば。それでは、失礼します」

泉「……さくら、亜子、信じてる。だから、気づいて」

幕間 了

21

翌朝

高峯探偵事務所

真奈美「連絡ありがとう。進展があったらこちらから伝える」

のあ「真奈美、土屋亜子から電話かしら」

真奈美「ああ。大石泉から連絡はないそうだ」

のあ「学校に行くのかしら」

真奈美「彼女達まで誰かの悩みの種になる必要はない」

のあ「そうね」

まゆ「のあさん、真奈美さん、学校に行ってきます」

真奈美「いってらっしゃい」

まゆ「今日は遅くなりそうですかぁ?」

のあ「遅くならないようにするわ」

真奈美「今日も夕ご飯は頼むよ」

まゆ「はぁい。いってきます」

のあ「気をつけて」

真奈美「さて、宝探しに行くか」

のあ「宝探し?」

真奈美「地図を目印に奥へ行くのがそう思えただけさ」

のあ「そう」

真奈美「そうだ、聞いていいか。寝る前に疑問に思ったのだが」

のあ「何かしら」

真奈美「何故、都心迷宮を調べるんだ?」

のあ「大石泉に近づくヒントがない以上、得た情報を信じるしかない」

真奈美「他には」

のあ「都心迷宮の利用者」

真奈美「なるほどな。仮説と合わせるなら」

のあ「大石泉が関係している可能性はある。それに」

真奈美「それに?」

のあ「恵磨が言っていた吉岡沙紀に話を聞きたい」

真奈美「東郷邸の事件に関わっている可能性があるから、かな」

のあ「誰かに繋がればいいけれど」

真奈美「捕まえてみてから考えよう」

のあ「そうね。真奈美、出かける準備を」

真奈美「了解だ、パルクールの先生に連絡はしておく」

のあ「お願い」

真奈美「のあも着替えてくるといい。汚れてもいい服装が良いだろう」

のあ「わかったわ」

22

清路駅南西・下向き矢印のビル付近

真奈美「のあ」

のあ「何かしら」

真奈美「のあにとってそのスーツは汚れていい服装なのか?」

のあ「探偵らしさを優先したわ」

真奈美「なるほどな」

のあ「それほど高級じゃないから安心して」

真奈美「のあの言う高級じゃないはあまり信用できないからなぁ」

のあ「真奈美の言う人並みも怪しいわよ」

真奈美「そうか?」

のあ「そうよ。今日の先生が来たわ」

真奈美「彼女だな、写真通りだ」

真鍋いつき「こんにちはっ!高峯さんと木場さんですか?」

真鍋いつき
お呼びしたパルクールの先生。普段はエクササイズの講師として活躍している。

のあ「探偵の高峯よ。こっちは助手の木場」

真奈美「よろしく」

いつき「こちらこそ!銀髪の美人さんですから、直ぐにわかりましたよっ!」

のあ「言っては何だけれど、警察のご厄介になったとは思えない人ね」

いつき「あはは……取調べまでされたのは本当でして」

真奈美「何をしたんだ?」

いつき「知ってると思いますけど、一時期パルクールにハマってて」

のあ「パルクールね、聞いているわ」

いつき「パルクールはフリーランニングとは違うんです」

のあ「どちらも街を走り抜けているイメージだったけれど」

いつも「もっと宗教的というかなんでしょうね、エアロビクスよりもヨガって感じなんですっ」

のあ「要するに熱中しすぎてたということね」

いつき「お恥ずかしながら、そうです」

真奈美「走ってる時に通報されたか?」

いつき「それくらいなら怒られるくらいで済むと思います」

のあ「家宅侵入とか」

いつき「泥棒とかはしてませんよ。裁判までは行ってませんけれど、器物損壊です」

真奈美「器物損壊?」

いつき「はい。具体的に言うと落書きです、私が塗ったわけじゃないんですけど」

真奈美「落書きか、今日案内してもらうが」

のあ「もしかして、吉岡沙紀に描かせたのはあなた?」

いつき「私はパルクールを教えただけ、と言いたい所なんですけど」

のあ「落書きが目的なことは知っていた」

いつき「はい、それで沙紀ちゃんが作ったコースで遊んでいたら捕まってしまって」

のあ「なるほど。ということは、ここにも来たことはあるの?」

いつき「ないです。あるのは旧市街地とか商店街の方ですね」

のあ「事情はわかったわ。恵磨が連絡先を知っていた意味も」

真奈美「吉岡沙紀の連絡先は知らないのか?」

いつき「その時の連絡先は知ってますけど、パルクールごと辞めてしまったので連絡が取れるかどうか」

のあ「吉岡沙紀はコースを作る目的とかゴールを言ってたかしら」

いつき「聞いてないというか、聞いちゃいけないというか」

真奈美「どういうことだ?」

いつき「報酬の条件にあったから」

のあ「フム。依頼者がいるのね」

真奈美「君や吉岡沙紀より上にだな」

いつき「秘密にしてくださいね?」

のあ「もちろん。今回のスタートはここから」

いつき「大きいビルの矢印ですね。どうやって降りたんだろう?」

のあ「スケートボードで真っ直ぐ降りたらしいわよ」

いつき「わー、無茶しますねっ!ハーフパイプだって4メートル全部真っ直ぐじゃないのに」

のあ「最初はこっちよ。行きましょう」

23

清路駅南西・雑居ビル街の窪地

いつき「逆向きの十字架、ゴールに到着ですっ!」

のあ「ここで取り逃がしたと言ってたわね」

いつき「コースはどうでした?」

のあ「私でも問題ない。真奈美なら尚更」

いつき「背の低い人には難しいかもしれませんが、運動が出来る女性なら問題ないレベルだと思います」

真奈美「同感だ」

いつき「私も背が高いほうですけど、お二人はもっと長身ですもんね」

のあ「吉岡沙紀も?」

いつき「背は同じぐらいだったかな。運動神経は良かったですよ」

のあ「フム……」

いつき「お二人は何かスポーツを?」

のあ「私は……」

いつき「あっ、待って!当ててみせるから!」

のあ「へぇ、やってみてちょうだい」

いつき「はい。探偵さんは柔道かな?」

のあ「正解よ。根拠は?」

いつき「動作です。基礎からきっちり厳格に仕込まれたんですね、怪我の心配がなさそうなので安心して見てられました!」

のあ「どちらかと言うと私が厳格なタチなの。真奈美は?」

いつき「助手さんは鍛えるのが好きみたい。特定のスポーツはないかな」

真奈美「強いて言えばそうなるな」

いつき「だから、助手さんはダンサーとか歌手とか?」

真奈美「おや、完全に正解だ。私は歌の先生もやっている」

いつき「やった。色んな人のトレーナーをやったので、詳しいんですよ!」

のあ「そのようね、あなたはどう思うかしら」

いつき「このコースについて、ですか?」

のあ「ええ。あなたの意見を教えて」

いつき「言った通り難易度はそこまでじゃないと思います、けれど」

のあ「それだけではないと」

いつき「追いかけてきた人を事あるごとに足止めしたり、悩ませたりさせますね」

真奈美「追っ手を振り切るための工夫があると」

いつき「はい。ゆっくり来たからわからないかもしれませんけれど」

のあ「走ると変わる?」

いつき「走ってみますか?」

のあ「辞めておきましょう」

いつき「相手がパルクールに精通していても、落書きが地図だとわからなかったら振り切られると思います」

真奈美「パルクールに精通していなければ、どうなる?」

のあ「真奈美、地図を」

真奈美「タブレットでいいか」

のあ「ええ。地図で見るとこの通り」

真奈美「壁が多いな」

のあ「よほど足に自信があっても、ここに先着するのは無理でしょうね」

いつき「よく考えてるけど、誰が何に使うんだろう?」

のあ「わからないわね。音葉の情報はそれなりに使えそうだけれど」

真奈美「合っていたか?」

のあ「恵磨が撮り損ねたのも幾つかあったけど、概ね正しかった」

真奈美「良いコンパスになりそうだ」

いつき「ゴールはここですけど、次はどこなんですか?」

のあ「下向きの十字架、下よ」

いつき「下?」

真奈美「このマンホールから下だ」

いつき「むー、大変そうですねっ!でも、がんばりますっ!」

のあ「そこまではさせられないわ。ありがとう、真鍋いつき」

いつき「あれ、せっかく気合を入れたのに」

真奈美「危険な目には合わせられない。いいかな」

いつき「わかりました。困ったら何度でも聞いてくださいねっ!」

のあ「ご協力感謝するわ。最後に確認していいかしら」

いつき「どうぞ」

のあ「あなたにも吉岡沙紀にも依頼者がいるのね?」

いつき「はい。依頼人は誰かわからないんですけど」

真奈美「顔を出さないか、用心深いようだな」

いつき「地下に何かあるんですか?」

のあ「悪のアジト、かもしれないわね」

24

清路駅南西・雑居ビル街地下

真奈美「思ったより清潔な所だな。明かりはないが」

のあ「ただの排水設備のようね」

真奈美「下水が流れないで、定期的に水が流れるから綺麗なのか」

のあ「そうでしょうね。真奈美、上の方を見て」

真奈美「水の痕があるな」

のあ「最近満水になったのね」

真奈美「もしかして、能力不足か?」

のあ「浸水がニュースになっていたから、そうでしょうね」

真奈美「再開発にはここが急務だな、のあ」

のあ「どうしたの?」

真奈美「ペイントだ、水には強いようだな」

のあ「ここが出口のようね」

真奈美「ああ。行くとしようか」

25

清路駅西・高架下

清路駅西・高架下
都市開発に伴い清路駅は高架となっている。駅西側の高架下は電車会社の所有地。

のあ「出てきたのは、高架下近くだったけれど」

真奈美「次の落書きは」

のあ「この高架下のうちのどれか」

真奈美「さて……」

のあ「どれかしらね」

真奈美「ここは仙崎君を信じるとしよう」

のあ「恵磨のデータにあるかしら」

真奈美「のあも探してくれると助かる。どうやって見つけようか」

のあ「恵磨と音葉は警察関係者なだけあるわ。安心なさい」

真奈美「本当か?」

のあ「画像に位置情報が入っている。音葉はこれを使っていたのね」

真奈美「ご丁寧に整理してあるな。この付近の画像はこれだ」

のあ「恵磨のコメントもあるわ」

真奈美「『沙紀の作品は多分これ、時期もそう』だとさ」

のあ「位置は目線より上ね」

真奈美「柱のどこかだろうが」

のあ「位置データがあるのだから、そこまでまずは歩くこと」

真奈美「そうだな。少しだけ西だ」

のあ「西ね……」

真奈美「あった。のあ、あそこだ」

のあ「どこかしら」

真奈美「もっと目線の先だ」

のあ「見えたわ」

真奈美「これに間違いなさそうだな」

のあ「どうやって描いたのかしらね」

真奈美「構図は単純だが、場所が問題だな」

のあ「協力者でもいたのかしらね」

真奈美「そうでなければ、あの高さには描けない」

のあ「さて、音葉の解析によると」

真奈美「よらなくてもこれは右向きの矢印だろう」

のあ「同じね。矢印の向かう方向は」

真奈美「旧市街だな」

のあ「そうなると、あれね」

真奈美「地下街があるな」

のあ「昔から古ぼけて心地の良い場所ではなかったけれど」

真奈美「地下道も多い、大小色々だが」

のあ「どうやら、地下がお好きなようね」

真奈美「そのようだ」

26

清路駅西・旧市街地・某地下道

旧市街地
清路駅西側はかつて流行を産み出す場所だった。商店街まで続く地下街と数多く整備された地下道が特徴。次第に廃れ、清路駅の高架工事と新開発地域により役目を完全に終えつつある。

のあ「やはり、地下道に導かれたわね」

真奈美「そうだな」

のあ「この道はどこに続いているのかしら」

真奈美「地下街まで行けるはずだ」

のあ「ということは、また北ね」

真奈美「とりあえず、北に進んでいるようだな」

のあ「久しぶりに来たけれど、辛気臭いわ」

真奈美「仕方がない」

のあ「壁の張替えとまではいかなくても、電灯ぐらい変えればいいのに」

真奈美「予算が付かないんだろう」

のあ「冷房も効いてないし」

真奈美「十分に涼しいだろう、諦めるがいい」

のあ「そうするわ」

真奈美「のあが出資すればいい」

のあ「流石に私がどうにか出来る範疇じゃないわね、政治の仕事よ」

真奈美「そうか。のあは政治家にツテはないのか」

のあ「こっちにはないわ」

真奈美「こっちじゃないなら、あるのか」

のあ「叔母は良い家に嫁いだから、奈良になれば」

真奈美「なるほどな」

のあ「叔母の助けを借りるのは忍びないわね」

真奈美「どうしてだ?」

のあ「危機感がなくて優しすぎるの、私には似ても似つかないわね」

真奈美「へぇ」

のあ「外見は似ていると言われるけれど」

真奈美「似てるのか!?」

のあ「……そんなにビックリすることかしら。父の妹なのだから、珍しいことではないわ」

真奈美「似てる人間がいるのもそうだが、性格は逆か……世界は驚きに満ちているな」

のあ「大仰な……」

真奈美「会ってみたいものだな」

のあ「機会があれば紹介するわ……良い機会だから聞いておいて、真奈美」

真奈美「なんだ?」

のあ「私に何かあったら、叔母に連絡してあげて」

真奈美「……縁起でもないこと言うんじゃない」

のあ「死んでまで誰かを困らせたくないもの。真奈美もしているでしょう?」

真奈美「まぁ、やってはいるが」

のあ「迷惑は生きてるうちにかけるものだもの。真奈美、頼むわ」

真奈美「そういうことなら、任せておけ」

のあ「迷惑を喜ぶこともないでしょうに」

真奈美「迷惑や困りごとを解決する仕事をしているくせに」

のあ「それもそうね」

真奈美「そして、そんな奴の私は助手だ」

のあ「それなら、困りごとに首を突っ込みに行くとしましょうか」

27

清路駅西・旧市街地・某地下道

藤本里奈「たくみんー、やっぱやめよーよ」

向井拓海「里奈、止めるんじゃねぇ。行かなくちゃいけない時なんだ」

藤本里奈
ツーブロックヘアが特徴的。どうやら気が乗らないようだ。それと、眠たげ。

向井拓海
関係者立ち入り禁止と書かれた扉の前に仁王立ちしている。地元では有名らしい。

のあ「こんにちは」

拓海「……なんだよ。サツか?」

里奈「ほーらー」

真奈美「警察じゃない」

のあ「名刺をあげるわ、こういうものよ」

拓海「あァ、探偵だァ……?」

里奈「たくみん、見せてちょ♡」

拓海「里奈、勝手に取るなって」

里奈「へー、本物の探偵っているんだ」

のあ「実在するわ」

里奈「そっちのお姉さんはー?」

真奈美「助手の木場だ」

拓海「探偵に助手って……ドラマみたいだな」

のあ「そこは立ち入り禁止よ」

拓海「わかってるよ、でもな」

里奈「そうだ!たくみん、この人達に探してもらおうよ!」

拓海「なに言ってんだよ、里奈」

のあ「探し物は得意よ」

里奈「ほら、これあげるぽよー」

のあ「何かしら、カワイイクマだけれど」

真奈美「これはチャオクマだ、人気だぞ」

里奈「おねーさん、イケてる系~。これでどうか」

拓海「そんなんで受けるかよ……」

のあ「協力しましょう」

拓海「受けるのかよ!」

のあ「考えてみなさい、勝手に入るのは」

真奈美「下手したら警察沙汰だぞ」

里奈「そうそうだから、辞めよーよ?」

拓海「ブッチは自分で見つけないといけねぇ、それが女のプライドだ」

のあ「ブッチ?」

里奈「たくみんが隠れて飼ってるネコちゃんぽよ」

拓海「里奈!」

のあ「迷いネコ探しね」

真奈美「得意分野だな」

のあ「ネコが好きなのね?」

拓海「……そうだけどよ」

のあ「これをあげるわ」

真奈美「なんでスーツからCDが出てくるんだ……」

拓海「はっ、アイドルのCDなんてちゃらちゃらしたもの」

のあ「聞きなさい。いいわね」

里奈「みくにゃんのCDじゃーん、たくみん貰っておきなよー」

のあ「……」

真奈美「逆らうと面倒なことになるぞ」

拓海「……そんな気がするぜ。貰っておく」

のあ「擦り切れるまで聞いてちょうだい」

真奈美「CDの時代にそれは難しいな」

のあ「それで、何があったのかしら」

拓海「ブッチがいなくなった」

のあ「どこかで飼っていたの?」

拓海「そこにある売店の廃墟だ」

里奈「まだコネコちゃんだからー」

真奈美「遠くには行ってないな」

のあ「どうして、その扉を行こうとしたのかしら」

拓海「鳴き声が聞こえた、ってよ」

真奈美「誰から聞いた?」

里奈「たくみんの友達?舎弟?」

のあ「真奈美、話を聞いておいて。ちょっと電話するから」

真奈美「了解だ。ブッチちゃんがいなくなったのは?」

拓海「一昨日の夜からだ」

里奈「昨日の夜もずっと探してたから、眠いぽよ……」

のあ「出たわ、少しお時間いいかしら」

真奈美「睡眠は大切だぞ」

里奈「たくみん、りなぽよはおねむねむ……」

真奈美「昨日は見つからなかったのか?」

拓海「ああ。付近は全部探した」

真奈美「それで、立ち入り禁止の場所に入ろうとしたのか」

拓海「悪いか?」

真奈美「無許可はいただけないな。ブッチちゃんの写真とかあるかい?」

里奈「あはっ、たくみん一杯もってるぽよ」

拓海「里奈!」

真奈美「何枚かデータをくれないか。連絡先はこれだ」

拓海「わかった。これとかどうだ?」

真奈美「可愛らしいな。生後どれくらいだ?」

里奈「うーん、2ヶ月くらい?」

拓海「だと思うぜ」

のあ「真奈美、データで貰っておいて」

真奈美「送ってくれないか」

拓海「送信、っと」

のあ「ところで、向井拓海」

拓海「あァ?なんで名前知ってんだよ」

のあ「聞いたから。学校はどうしたの?」

里奈「あれ?たくみん、今日は休校じゃないのー?」

拓海「ブッチを放っておいて、学校なんてタルいもん行けっか」

のあ「夏美に怒られるわよ」

拓海「てめぇ、サツの知り合いかよ」

のあ「来てもらいましょうか」

里奈「夏美って誰?怖い人?」

真奈美「努力家で美人だ。まぁ、怖い人かもしれないな」

拓海「……チッ。わかったよ」

のあ「素直でよろしい」

里奈「ブッチ、探してくれる?」

のあ「このチャオクマにかけて」

真奈美「君は学校に行きたまえ」

拓海「わかったよ、里奈はどうすんだ?」

里奈「バイトまでおやすみー……ふわぁ」

のあ「おやすみなさい」

拓海「ありがとな、付き合ってくれて」

里奈「どういたしましてー」

拓海「ブッチのこと頼んだぜ」

のあ「任せておきなさい。連絡するわ」

真奈美「言うことを聞いてくれたな。のあ、聞いていいか」

のあ「なにかしら」

真奈美「よく名前を当てられたな」

のあ「少年課が把握してそうだったのは私の勘だけれど、凄いのは夏美ね」

真奈美「夏美君はそんなに厳しいのか?彼女は明確にイヤな顔をしていたが」

のあ「そこら辺の少年少女に負けるような警察官でないのは確かね」

真奈美「まあな」

のあ「さて、ブッチを探しましょうか」

真奈美「のあの予想だとこの先にいるか?」

のあ「遠くまで行っていないでしょうね。それに」

真奈美「ああ、ここが私達の次だ。扉に小さくマークがついている」

のあ「真奈美、管理事務所に許可をとってちょうだい。正々堂々と入るとしましょうか」

真奈美「了解だ」

28

清路駅西・旧市街地・某地下道の管理通路

のあ「管理してない?」

真奈美「昔は売店の控室があったりしたそうだがな」

のあ「管理会社は何もしていないの?」

真奈美「掃除と点検はしている、頻度は少なくなっているが」

のあ「そもそも何を目的に作ったのかしら」

真奈美「わからないそうだ。事故の時にバイパスとして使う、とかいう都市伝説があるらしい」

のあ「カギが掛かっていない理由も聞いたかしら」

真奈美「電源のブレーカーがあるから、開けているそうだ。入られて困るものもない、と言っていた」

のあ「適当ねぇ」

真奈美「市から管理費報酬を削減されたそうだ。取り壊しも近いかな」

のあ「……真奈美の電話相手は話過ぎじゃないかしら」

真奈美「古き良きレディだったよ」

のあ「いずれにせよ、私達が追っているものには都合が良い」

真奈美「見つかることはないからな」

のあ「しかも、勝手に入れる」

真奈美「ブッチちゃんについては?」

のあ「向井拓海があそこで飼っていられるくらいだから、気づかれないし見て見ぬふりをされたのね」

真奈美「ここにいると思うか?」

のあ「ええ。子猫にあの古い鉄の扉を開けられると思うかしら」

真奈美「思わない」

のあ「まだ小さいからこそ、食事を探してる所で見つけられると思うわ」

真奈美「ここで、誰かが飼っていると?」

のあ「推測の一つよ。真奈美、控室はどこにあるのかしら」

真奈美「そこだ。少しだけ窪んだ形状になっていて、部屋になっているはずだ」

のあ「……真奈美」

真奈美「……想像していたのと違うな」

のあ「不良が寝床にしていると思ったけれど」

真奈美「なんだ、このご時世に錬金術師でも住んでいるのか?」

のあ「現代的な錬金術室ね、小さな培養装置もあるわよ」

真奈美「のあ……あそこに子猫がいる」

のあ「あら……幸せそうに寝てるわね」

真奈美「ここにいたか」

のあ「解決は早かったわね」

真奈美「は……!」

一ノ瀬志希「にゃふふ、かかったな!志希ちゃんのサンクチュアリに踏み入る侵略者め!」

一ノ瀬志希
探偵と助手はこの人物を見た瞬間に驚くより先に行動した。科捜研の久美子から見つけたら、とりあえず捕まえてと依頼を受けているからだ。

のあ「志希よ、逃がさないで!」

真奈美「任せろ!」

志希「はっや!」

真奈美「捕まえたぞ」

志希「や、ら、れ、た~」

29

清路駅西・旧市街地・一ノ瀬志希の研究室

志希「ねぇねぇ、まなみーん」

真奈美「どうした?」

志希「逃げないからさー、そんなに見張ってないで良いよ?」

真奈美「君の言葉はたいていが信じるに値するが」

のあ「逃げない、だけは信じるに値しないわ」

志希「のあにゃん、子猫ちゃん元気だったー?」

のあ「ええ。志希が世話をしていたのね」

志希「違うよ?志希ちゃんのラボにタダでいられるわけないでしょ~」

真奈美「まさか」

志希「決められた分量の水分と栄養素を経口摂取させて、反応を見てるんだ~」

真奈美「……そういうことにしておこう」

のあ「名前はブッチらしいけれど、あなたはなんと呼んでいたの?」

志希「子猫ちゃんかなー、君はブッチって言うんだ~」

真奈美「お休み中だな」

志希「さっきタンパク質を摂取させたばっかりだから?」

のあ「そうね。志希、ブッチはもとの場所に返してもらっていいかしら」

志希「んー……断る!」

のあ「理由を聞きましょうか」

志希「あたし、人の頼みは聞かないタイプだから」

真奈美「愛着が湧いたのか?」

のあ「あえて名前を付けずブッチという名前を受け入れたことと矛盾するわ。あなたには理由がある」

志希「にゃっはっは、さすがのあにゃん。頭は冴える一方だね~」

のあ「何かあったの」

志希「何にもないよ。安全で温度が調整されて、あたしが見ていられる所に移しただけ」

のあ「手渡すのに条件があるのね」

志希「そーいうこと。聞きたい?ねぇ、聞きたい?」

真奈美「君の要求を聞こうか」

志希「飼うなら飼う、飼わないなら飼わない。このままじゃ野良猫として生きていけないよ?」

のあ「わかった、向井拓海に判断を要求するわ」

真奈美「向井拓海が要求を受けない場合は」

のあ「志希、お願いできるかしら」

志希「動き回れるようになったらー、山に放しちゃうけどいい?」

のあ「構わないわ」

志希「はい、交渉成立~。またね~」

真奈美「残念だがまたね、とはいかない」

のあ「まさか日本の、しかもこんな近くにいるとは思わなかったわ」

志希「でしょー?まっ、帰って来たのは最近だけどー」

真奈美「最近なわりに部屋が整い過ぎてるな……」

のあ「科捜研に帰ってくる気になったのかしら」

志希「えー?っていうか、クビになってないの?」

のあ「休職扱いにしてるらしいわよ」

志希「志希ちゃん、縛られるのキライだしー」

のあ「後任者はいるから、無理にとは言わないわ」

志希「それは聞き逃せないな~、後任者ぁ~?」

のあ「ええ。久美子と仲良くやってるわよ」

真奈美「君は鼻だが、彼女は耳が利くタイプだ」

志希「ふーん……」

のあ「職務に困った様子はないわね」

真奈美「君がそういうなら仕方がない」

志希「んー……?」

のあ「久美子には無事だったと伝えておくわ」

真奈美「元気そうでよかったよ」

のあ「それで、私たちがここに来た理由なんだけど」

真奈美「子猫探し以外にも目的があるんだ」

のあ「ここを誰か通ったりしたかしら」

真奈美「扉の所にマークがあっただろう」

のあ「落書きのように見えるけれど」

真奈美「どうやら違うらしい」

志希「ストッープ!」

のあ「……」

志希「こらこらこら~!そうやって、矢継ぎ早にまくし立てて追い詰めない!」

のあ「さっき話は理解できたかしら」

志希「通る人はいる、マークは向こう側にもある、だから通ってるし、扉にセンサをつけて逃げてた!」

のあ「ありがとう。行きましょう、真奈美」

真奈美「了解だ」

志希「だからー、話を聞いてよ~」

のあ「何か言いたいことでもあるのかしら」

志希「科捜研の後任者、あたしより優秀なわけー?ギフテッド一ノ瀬より?」

のあ「天才肌ではあるわね」

真奈美「絶対音感らしいな。音楽の道でも成功したんじゃないか」

志希「ふぅーん、へぇ……」

のあ「音楽や楽譜と同じだからプログラミングも出来る、とか言ってたわね」

真奈美「楽譜は読めるがそう思ったことない、というか特殊過ぎだろう」

志希「むー……」

のあ「音葉も変わってるわね」

真奈美「のあには言われたくないだろうな」

志希「めらめら~、志希ちゃんめらめらだよ~」

のあ「志希、どうしたのかしら」

志希「きーめたっ!」

真奈美「何をだ?」

志希「科捜研に戻る!」

のあ「どうぞ」

真奈美「歓迎されるだろう」

志希「そもそも楽しそうだから、帰って来たし~。装置も良いもんねー」

のあ「楽しそう、ってどういうことかしら」

志希「爆発とかテロとか知らない?」

のあ「知ってるわ」

志希「犯罪の臭いを嗅ぎつけて、来てみたわけ。ふらふらしてたら、いいとこが見つかったからー」

真奈美「拠点にしてたのか」

のあ「犯罪と関わる気概はあるのね」

志希「なかったら、科捜研なんて入らないって。実際、どう?」

のあ「組織的な犯行も増えてる。何か大事件が起こる前に帰ってきてくれて、ありがたいわ」

志希「にゃはは、それじゃあ正義の科学者に戻っちゃおう」

のあ「私達の目的に戻っていいかしら」

志希「誰か通るってハナシ?」

のあ「真奈美、これまでのことを説明してあげて」

志希「ちょい待ち。コーヒー飲もうよ、あれで」

のあ「アルコールランプとビーカー、いいわね」

志希「気分は名刑事~」

30

清路駅西・旧市街地・一ノ瀬志希の研究室

志希「フムフム、行方不明ね」

のあ「名前は大石泉。見たことあるかしら」

志希「ない。というか、そんなに地下に潜ったわけじゃないしー」

真奈美「今の状態についてどう思う?」

志希「んー、のあにゃんと意見は同じかな。ただの誘拐じゃなくて、ギブアンドテイクになってる」

のあ「犯人と大石泉の両親がということね」

志希「ねぇねぇ、その子ハッカーとしては優秀なのかなー?」

のあ「ハッカー……という話は聞かないけれど」

真奈美「プログラミングが得意な中学生なだけだな、表向きは」

のあ「ハッカーというのは」

志希「なんかねー、軽いサイバー犯罪が起こってるんだってさ。ビルの入出記録が書きられたり」

真奈美「それを大石泉がやっていると?」

志希「わかんない。凄腕じゃないけど、知識があるハッカーはいると思うよー」

のあ「……可能性はあるわね」

志希「というか、それに的を絞ってここにいるんじゃないの~?」

真奈美「そうなのか?」

志希「そうだよねー、のあにゃん?」

のあ「志希、犯罪組織がある可能性は」

志希「組織じゃない、ノーヤクザ、ノーマフィア」

真奈美「組織じゃないか、個人か」

志希「組織じゃないけど、なんか色々起こしてそう。うーん、意思決定してるのは個人か数人?」

のあ「今回の誘拐や街の落書き、そして都心迷宮に関与している可能性は」

志希「のあにゃん、そのアイディア良い。それだとスムーズにつながるつながる」

真奈美「何が繋がるんだ?」

志希「爆弾と地下がまずつながるでしょ、ははーん、これが噂の後任者のレポートかぁ」

のあ「まさか科捜研のデータベースにアクセスしてるの?」

志希「正規のルートだよ?ID生きててよかった~」

真奈美「爆弾と地下はつながるのか?」

志希「爆弾魔の事件で」

のあ「佐藤心の実験場は地下だったわね」

志希「爆弾とテロリストはつながるよね~。ニュースで見たよ~」

真奈美「サンタクロースは爆弾を提供したテロリストだった」

志希「テロリストとハッカーはつながる?」

のあ「システムをハッキングしていたわ」

志希「ショッピングモールくらいならそんなスキルもいらないはずでしょ。ほら、つながった」

のあ「乱暴だけれど、地下と大石泉はつながるわ。それはわかってる」

志希「さっすが~。んで、地下は落書きと結びついて」

真奈美「落書きは黒幕までつながる」

志希「うんうん、妄想としては上出来?」

のあ「そうね。だから、ここを通る人物と次のサインが必要なの」

志希「オーケー、つながった。それで、何からしゃべる?」

のあ「人について。真奈美、吉岡沙紀の写真を」

真奈美「これだ。ここを通っていないか?」

志希「うん、何回か通ってる。背も高い男前女子だから覚えてるよー」

のあ「誰かと一緒だった?」

志希「スケートボードを持ってた人と一緒だった時があるかな。それ以外は一人」

のあ「フム。他に気になった人物は」

志希「ホームレスが一晩泊ってたり、学生が入ってくることはあるけど……思い出した」

真奈美「誰かいるのか」

志希「凄い派手な化粧の女が一回だけ通って行った、ビックリだよ~」

真奈美「心当たりがあるな」

のあ「ええ」

志希「でも、うーん言っていい?」

のあ「なんでも言ってちょうだい」

志希「その女ね、若いはず、たぶん」

真奈美「若い?」

志希「化粧で年齢を上に見せてる、何のためか知らないけど」

真奈美「……」

志希「もしかしたら、近くにいるかも?いたかも?」

のあ「心得ておくわ」

志希「いずれにせよ、その二人か三人はここがどういう場所か知ってる」

真奈美「知って出入りしてるんだな」

志希「ホームレスすら入ってこないんだよ~?」

のあ「入る必要がないもの。地下道にはスペースが幾らでもあるわ」

志希「そうそう」

のあ「何を置くわけでもなく」

真奈美「何があるわけでもない場所だ」

志希「本当にただの順路だと思うなー?」

のあ「ええ、その可能性が高いわ」

志希「さっきも言ったけど、向こうのドアに似たマークがついてたよ」

真奈美「次の行き先は決まったな」

のあ「志希、ありがとう。有益な時間だったわ」

志希「どういたしましてー。そうだ、サプライズもいいけど、久美子さんに連絡してもらっていーい?」

のあ「もちろんよ。ブッチの飼い主にも連絡はこちらでしておくわ」

真奈美「今日にでも迎えにくるだろう」

志希「そっかー、キミとの生活もこれで終わりかー」

のあ「受け渡しをお願いできるかしら」

志希「やっとく」

真奈美「科捜研にはいつ顔を出すつもりだ?」

志希「ブッチを渡してからにするー。明日かなー?」

のあ「志希、家はあるの?」

志希「家?そういえば、ないや」

真奈美「ないのか……」

のあ「家だけは探しておきなさい。復職を許してくれない可能性があるわ」

志希「科捜研に住んでたら怒られたし、探さないとか~」

のあ「心配事も色々とあるけれど、帰ってきてくれて頼もしいわ」

真奈美「同感だ」

志希「にゃははは、歓迎は悪くない」

真奈美「ちゃんと仕事に出るんだぞ?」

志希「だいじょうぶ、だいじょうぶだって~」

のあ「これからもよろしく。私達は調査に戻るわ」

31

清路駅北西・清路商店街・南入口

清路商店街
南北に伸びるアーケード商店街。一時期はシャッター通りと化したが、モノからコト消費に切り替えることで賑わいを取り戻しつつある。

のあ「結局、商店街まで出てきたわね」

真奈美「工場街のルートと比べれば、地面があるだけまともだな」

のあ「でも、逃げる隠れるための工夫はこなされているわね」

真奈美「そうだな。知らずに利用している者もいた」

のあ「夏美と恵磨に巡回の参考にしてもらいましょう」

真奈美「それがいいだろう」

のあ「あるいは」

真奈美「案があるのか?」

のあ「ネットで拡散しようかしらね。宝探しゲームとでも称して」

真奈美「利益、不利益が釣り合うかどうかだな」

のあ「そこは追々考えましょう。真奈美、次の地図は」

真奈美「残念ながら見当たらない」

のあ「落書きできそうな場所を探しましょう」

真奈美「路地裏か、ビルの裏か」

のあ「定番の場所があるでしょう」

真奈美「定番の場所……?」

のあ「店のシャッターよ」

真奈美「なるほど。だが、一昔前と違って営業中の店が多いぞ」

のあ「地道な仕事は得意でしょう?」

真奈美「違いない」

32

清路駅北西・清路商店街・アーケード上点検通路

のあ「次に示されたのは上」

真奈美「営業20年目、基本年中無休、そんな店のシャッターに描いてあったな」

のあ「真奈美、考えなさい」

真奈美「何をかな」

のあ「そこに描かれていた意味は」

真奈美「見られたくないから」

のあ「見られたくない、それは何か」

真奈美「隠れ家あたりかな」

のあ「アーケードの上で隠れ家になりそうな所と言えば」

真奈美「あそこかな。何のための小屋だろうか」

のあ「ここがゴールかしら」

真奈美「私はそうは思わないが、のあはどう思う?」

のあ「違うでしょうね、だから次を探す」

真奈美「のあ、絵とは限らないか?」

のあ「どういうことかしら」

真奈美「このパイプに色が塗ってある」

のあ「アーケードの反対側通路にはなし」

真奈美「何らかの意味がある」

のあ「このまま続くと」

真奈美「終点まで見に行こうか」

のあ「ええ」

真奈美「終点はここだな」

のあ「斜め下に走る排水管……フム」

真奈美「下は小さな公園だな」

のあ「真奈美」

真奈美「探偵、どうする?」

のあ「準備をお願いするわ、私の助手さん」

真奈美「了解だ」

33

清路駅北西・清路商店街・伊吹のオーディオルーム

伊吹のオーディオルーム
消滅してしまったお祭りの道具が埃をかぶっていた、アーケード上の倉庫を無断で改造したもの。この前閉店し、引っ越した商店街の電気屋さんが共犯。

伊吹「んー……これはハズレだったかー」

コンコン

伊吹「……沙紀かな?」

カチャン……

伊吹「違う……隠れないと」

のあ「……入口にスケートボード、間違いなさそうね」

伊吹「スーツに拳銃……刑事ってとこか」

のあ「映画好きのようね。再生されたまま。いるのは間違いないわね」

伊吹「……逃げよっと」

のあ「恋愛映画ばっかりね……」

伊吹「リモコンは……よし」

のあ「スケートボードをこんなに持ってるのね」

伊吹「音量最大、驚けっ!」

のあ「……!」

伊吹「よっし!ばいばい!」

のあ「……真奈美、無事に逃げられたわ。よろしく」

伊吹「あっ、きゃあああああああ!」

のあ「音量を下げて、と。悲鳴が聞こえたけれど、真奈美どうかしら?」

真奈美『無事に抱き留めた。暴れないでくれ、お転婆なお姫様?』

のあ「今から行くわ」

真奈美『了解した。どうした、顔が赤いぞ?』

のあ「……真奈美は何をしてるのかしら」

34

清路駅北西・清路商店街・喫茶店BVL

喫茶店BVL
濃く深みあるコーヒーが売りの喫茶店。志保によるとケーキはコーヒーと正反対でとろけるような甘さとのこと。

伊吹「むぅ……」

のあ「機嫌が悪そうね」

伊吹「当たり前でしょ。怪我するところだった」

のあ「簡単な障害物だけで、スケートボードのコースを塞げるのね」

真奈美「ちゃんと抱き留めたし、君は無傷だ」

伊吹「そういうことじゃなくてさ、はぁ……」

のあ「良かったわね」

伊吹「何がよ……?」

のあ「真奈美が長身で。あなたをお姫様抱っこ出来る女性は少ないでしょう」

伊吹「だからさぁ、もう!」

のあ「私、何か怒られるようなこと言ったかしら」

伊吹「ちょっと男の人だと思っちゃったし……」

のあ「何か?」

伊吹「なんでもない!」

のあ「わからないわ」

真奈美「乙女心は複雑ということだ」

伊吹「そ、れ、で、何か用なの?警察でしょ」

のあ「違うわ。私は探偵よ」

伊吹「探偵?拳銃は」

のあ「私物。あんな派手なもの警察が使わないわ」

真奈美「助手の木場だ。弾は入ってない、安心してくれ」

伊吹「じゃあ、探偵がアタシの秘密基地に押しかけてくる理由はなんなの?」

のあ「聞きたいことがあるの」

伊吹「やだ」

真奈美「それなら、交渉だ」

のあ「オーディオルームが欲しいなら質問に答えて。要らないなら答えなくてもいい」

真奈美「どうする?」

伊吹「わかった。秘密にしてくれる、ってこと?」

真奈美「ああ」

のあ「先ほどの悲鳴も取り繕わせてもらうわ」

伊吹「うーん……もう一つ」

のあ「何か」

伊吹「警察とかに突き出さない?」

のあ「それを望むならそうしましょう。ただ、警察に顔がわれてるから犯罪行為は慎みなさい」

伊吹「わかった。それでいいから」

のあ「ありがとう」

伊吹「それで、何が聞きたいの?」

のあ「名前を教えてくれるかしら」

伊吹「……小松伊吹」

のあ「漢字はこれでいいかしら」

伊吹「うん、あってる」

真奈美「小松伊吹か。どこかのスタジオに出入りしているか?」

伊吹「あれ、なんで知ってるの?」

のあ「職業は」

伊吹「ダンストレーナー……っていうフリーター」

真奈美「その関係だな。名前を見た記憶がある」

のあ「何歳かしら」

伊吹「19歳。茨城から出て来たけど、ダンスの仕事はあんまり」

のあ「そう。それで、割の良いバイトをしているのね」

真奈美「少し後ろめたい仕事だ」

伊吹「……まぁ、そんな気はしてる。警察に言わないでよ」

真奈美「わかってる」

のあ「何をしてるの?」

伊吹「メッセンジャー」

真奈美「配達か。具体的にはどんなことをしているんだ?」

伊吹「荷物や伝言を届けてる」

のあ「どうやって依頼を受けてるの?」

伊吹「色々。メールだったり、手紙だったり」

のあ「依頼人はどんな人かしら」

伊吹「わかんない。会ったことないから」

真奈美「会ったことがない?」

伊吹「直接は会ったことないんだよね」

のあ「報酬は」

伊吹「振込とか封筒がポストに入ってたりする」

のあ「なるほど。中身についての心当たりは」

伊吹「わかんないけど、やっぱりそうなの?」

のあ「そうとは、どういう意味かしら」

伊吹「犯罪とか関わってる、ってこと」

のあ「可能性があるけれど、それは承知の上でしょう」

伊吹「……まあね」

のあ「吉岡沙紀とはどんな関係なのかしら」

伊吹「仕事仲間、というか友達かな」

のあ「依頼主は同じ?」

伊吹「たぶん。証拠はないけどさ」

真奈美「吉岡沙紀の仕事は理解しているか」

伊吹「壁に絵を描くんでしょ。この前はダンボールに描いたとか言ってた」

のあ「地図であることは」

伊吹「知ってるし、使ってる」

のあ「そのダンボール、何に使われたか知ってるかしら」

伊吹「え?知らないけど」

真奈美「……」

のあ「立てこもり犯の死体が見つかった事件は知っているかしら」

伊吹「テレビで見たけど」

のあ「死体がそのダンボールの中にあったわ」

伊吹「……ホントに?嘘だよね?」

のあ「信じないのは勝手だけど」

伊吹「……」

真奈美「関わらないのが吉だ」

のあ「知り過ぎない今なら消しには来ないでしょう」

伊吹「……脅さないでよ。考えておく」

のあ「本題に入っていいかしら」

伊吹「本題ってなによ」

のあ「目的もなく秘密基地に入り込んだりしないわ。この写真を見て」

伊吹「中学生くらいかな、大人びてるけど」

のあ「知っているかしら」

伊吹「ううん、見たことない。家出してるの?」

のあ「都心迷宮には家出少女はいるのかしら」

伊吹「今時流行りじゃないからほとんどいないよ」

真奈美「いないことはないのか」

伊吹「ないけど、なんかネットワークが出来てるほどじゃない」

のあ「フム」

伊吹「今ならケータイとかで連絡取れるし、ネットカフェとかもあるしさ」

のあ「その通りね。彼女の名前は大石泉。行方を探しているわ」

伊吹「大石?」

のあ「聞き覚えはあるかしら」

伊吹「あれ?待って、思い出すから。えっと……」

真奈美「あるとしたら先月だ」

伊吹「先月か……なら、あそこか」

のあ「場所に心当りが」

伊吹「封筒を運んだ。そこの表札が」

真奈美「大石だったのか」


伊吹「多分……そんな印象に残るような仕事じゃなかったし」

のあ「日付は覚えてるかしら」

伊吹「ごめん、正確に覚えてない。8月15日くらいかな」

のあ「登校日よりは後ね」

真奈美「可能性はあるな」

のあ「封筒の中身は」

伊吹「見てない」

真奈美「中身に何か入っていそうだったか」

伊吹「重いのも大きいのも入ってなかった」

真奈美「中身は手紙か」

のあ「あったとしても小型のデバイスくらいね」

真奈美「だが、ヒントにはなった」

のあ「あなたの依頼主は地下を使っている」

伊吹「アタシにはわからな……あれ、確信してるんだ?」

のあ「違うなら、吉岡沙紀に依頼する理由がないでしょう」

伊吹「そっか」

のあ「情報ありがとう。私が知ったことは秘密にするわ」

伊吹「ほんと、助かる」

真奈美「だが、妙な仕事とは縁を切れ」

のあ「いいかしら」

伊吹「決めた。そうする、真面目にダンスの仕事探すから」

真奈美「良ければ協力しよう、どうだ?」

伊吹「え?」

のあ「真奈美はボイストレーナーなの」

真奈美「仕事の話を見つけたら連絡しよう」

伊吹「……」

のあ「余計なお世話だったかしら」

伊吹「え、ううん、でも、なんか信じられない」

のあ「幸運が来るのは偶然だけれど」

真奈美「掴むかどうかは本人の意思だ」

のあ「どうかしら」

伊吹「やる、このまま終わりたくないから」

真奈美「期待しないで待っていてくれ」

伊吹「うん」

のあ「私達は大石泉を探しに戻るわ」

真奈美「その前に聞かせて欲しい」

のあ「吉岡沙紀に連絡は取れるかしら」

伊吹「取れるけど、自分から直接的に仲間は売りたくない」

のあ「わかったわ。なら、地図の次はどこかしら」

伊吹「アタシが落ちた公園あるでしょ、あそこのベンチの下に矢印が描いてある。行き先は南」

真奈美「次もわかったな」

伊吹「でも、もう無駄かも」

のあ「無駄……?」

伊吹「沙紀のアトリエが途中であるはずだけど、それくらい」

のあ「どういうことかしら」

伊吹「行ってみればわかる。もしかしたら、アタシが道を見つけられないだけかもしれないけどね」

35

清路駅西・旧市街地・とある路地裏

真奈美「のあ、聞いていいか」

のあ「何かしら」

真奈美「小松伊吹が無駄と言っていたが、どういう意味なんだろうな」

のあ「行ってみればわかる、そうも言っていた」

真奈美「だから、進むのか」

のあ「それもあるけれど。ポイントはもう一つ」

真奈美「アトリエか」

のあ「吉岡沙紀のアトリエは見つけておきましょう」

真奈美「あわよくば本人も」

のあ「そうね、小松伊吹が口をすべらせてくれて助かったわ」

真奈美「しかし、次はどこだ?」

のあ「先ほどのオーディオルームから考えるに」

真奈美「別のヒントがあるのか?」

のあ「標がない可能性がある。アトリエを避けた地図になってるかもしれないわ」

真奈美「あそこのブロック塀に見えるサインは」

のあ「遠いわね。行き過ぎかしら」

真奈美「そうなると古い住宅が並ぶこの辺りなんだろうが」

のあ「どこかしらね。オーディオルームは上だったけれど」

真奈美「空き家も目立つが、無断で使っている可能性は」

のあ「可能性はあるけれど……真奈美」

真奈美「どうした、急にしゃがんで」

のあ「真奈美、これを見てちょうだい」

真奈美「石にペンキが付いてるな」

のあ「隠したかったようね」

真奈美「隠したいなら、近くにあるということか」

のあ「フム」

真奈美「どうした?」

のあ「お地蔵様」

真奈美「お地蔵様は確かにここにあるが」

のあ「後ろに鉄の扉、古ぼけているけれど動きそうね」

真奈美「おかしいな」

のあ「不自然。民家と民家の間にも隙間がある」

真奈美「入らせたくなかったのか」

のあ「真奈美、お地蔵様動かせるかしら」

真奈美「それは流石にバチアタリな気がするが……おや」

のあ「何か」

真奈美「動かせるようになってるな。固定用のフックが付いてる」

のあ「動かせるように、ね」

真奈美「最近も動かした形跡がある」

のあ「つまり、目的があって置いた」

真奈美「かつ、その気になれば動かせるように。動かすぞ」

のあ「どうぞ」

真奈美「軽いお地蔵様だ」

のあ「中は空洞かしら。あったわ」

真奈美「ペンキか。扉を開けるぞ」

のあ「お願い」

真奈美「開いた。カギはないようだな」

のあ「ペンキは躓いた時にこぼしたようね」

真奈美「ここがアトリエの入り口か」

のあ「行き止まりだけれど、塀の向こう側は?」

真奈美「確か公園になっているはずだ」

のあ「なるほど。地下に施工できなかったのね」

真奈美「何の話だ?」

のあ「入り口はこの木の板ね。開けるわ」

真奈美「風か。どこかにつながってる?」

のあ「換気が出来ているようね、安全そうで助かったわ」

真奈美「確かに地下だが、時代が古すぎるな」

のあ「防空壕のようね」

真奈美「秘密のアトリエとしてはロマンティックだな」

のあ「入ってみましょうか。真奈美、ライトを」

真奈美「了解だ」

36

清路駅西・旧市街地・防空壕

のあ「アトリエというよりは画材置き場ね」

真奈美「そうみたいだな……」

のあ「吸気口に排水口に加えて、空気は換気扇が回っている。一晩は明かせそうね」

真奈美「こっちだろうか……」

のあ「真奈美、何か探してるのかしら」

真奈美「あった。つけるぞ」

のあ「明かりがあったのね。電気かしら」

真奈美「電気だな。上の公園から電源を持ってきてるのだろう」

のあ「換気扇もかしら」

真奈美「そうだろうな。ここの住民がつけたのか行政がつけたのは知らないが」

のあ「机にベッドに」

真奈美「コンセントもあるな」

のあ「泊まることくらいはできそうね」

真奈美「十分だな」

のあ「この山は練習した作品かしら」

真奈美「彼女の本番は街だ。一回は無駄に出来ない」

のあ「無駄にしないために練習と……見つけた。真奈美、これを」

真奈美「布か」

のあ「見覚え、あるわね?」

真奈美「もちろん。阿紗橋にあったものだ」

のあ「成宮由愛が配置した通りの図柄」

真奈美「何枚かあるな」

のあ「色を作るために試行錯誤していた」

真奈美「拘りが強いな」

のあ「芸術家だもの。あれも一度切りだった」

真奈美「依頼に応える姿勢は良いが」

のあ「自分の正義に反してまですることではないわね」

真奈美「同感だ」

のあ「吉岡沙紀がここに居た形跡は」

真奈美「私の見立てだとここ数日来た形跡はない」

のあ「……フム」

真奈美「待ち伏せか?」

のあ「真奈美、机の棚とか収納出来る所を調べて」

真奈美「わかった。目的は?」

のあ「仕事の依頼がないかしら」

真奈美「手紙か封筒あたりか」

のあ「ええ」

真奈美「画材だらけだぞ」

のあ「本棚……あったわ。調べて」

真奈美「封筒だ、貸してくれ。未開封か……」

のあ「……」

真奈美「中は透けて見えるな、印刷された紙が一枚。おそらくコンビニ印刷だ」

のあ「『Painting, like passion, is a living voice, which, when I hear it, I must let speak, unfettered』」 (1)

真奈美「のあ?」

のあ「封筒が挟まれたページに描かれていたわ」

真奈美「ペイントは、情熱がそうであるように、生きている声だ。ペイントの声を聞いたなら、話させてあげよう、縛り付けることなく」

のあ「吉岡沙紀がモットーとしている言葉かしら」

真奈美「画家ではなく見る側へ向けた言葉の可能性もあるな」

のあ「そっちの方が正しそうね。ページを選ぶのは依頼主でしょう」

真奈美「未開封だから、依頼主が挟んだ可能性が高いな」

のあ「他に見つからないから、ここから持ち出しているのは明確」

真奈美「依頼主は芸術に詳しいのか?」

のあ「その可能性はあるわね。ペイントを人に置き換えれば、嗜好が見えてくるわ」

真奈美「人の真実の声を聞き、束縛することなくそれを解放させろ、あたりか」

のあ「少しは見えてきたわね」

真奈美「犯人を絵画や芸術に見立てて、そこに価値を見出してる」

のあ「気分の悪くなるような趣味ね」

真奈美「……ああ」

のあ「真奈美、封筒の中身は?」

真奈美「住所、東と小という漢字、昨日の日付と明後日の日付が書いてある」

のあ「東に行くような地図を描く依頼でしょうね」

真奈美「情報としては十分だな」

のあ「元通りの場所に返しておきましょう。真奈美、返してちょうだい」

真奈美「ああ。私達はこれからどうする?待つか?」

のあ「小松伊吹と同じでしょう」

真奈美「同じ?」

のあ「メッセンジャー以上のことは知らないと思うわ」

真奈美「なるほど」

のあ「夏美と恵磨に連絡してあげて。彼女達が適切に対処してくれるわ」

真奈美「了解だ」

のあ「私達は次へ。小松伊吹の言った意味を確かめに行くわ」

37

夕方

清路駅南西・下向き矢印のビル付近

のあ「……」

真奈美「のあ、戻ってたのか」

のあ「真奈美も戻ってきたのね」

真奈美「正確には戻らされた」

のあ「私も同じよ、別ルートでもこの通り」

真奈美「小松伊吹の言っていたことは確かめられたな」

のあ「ええ、落書きのルートは色々あるけれど」

真奈美「終点はここなんだ」

のあ「小松伊吹と吉岡沙紀はスタートとして使っていたけれど」

真奈美「スタートじゃない、逃げ道として使うなら」

のあ「どこからでも始められるべき」

真奈美「大きな周回コースだったわけだな」

のあ「吉岡沙紀のアトリエで指示された場所も」

真奈美「指示された場所と方角からして、ここに戻ってくるだろうな」

のあ「どこかでサインを見逃したのかしら」

真奈美「それなら、小松伊吹があんなこと言うか?」

のあ「嘘とは思えないわね」

真奈美「一番隠したいものが見つかっているんだ、その必要が感じられない」

のあ「フム……」

シッポシッポシッポヨ、アナタノ……

のあ「ごめん、電話よ。あら、まゆからね」

真奈美「もうこんな時間か」

のあ「大丈夫よ、一段落したところだから」

真奈美「さて、どうする?」

のあ「戻るわ。ええ、お夕飯はゆっくりでいいわ。ばいばい」

真奈美「今日は撤退か」

のあ「そうしましょう、家で休憩する時間も大切よ」

真奈美「そうだな、戻るとしよう」

のあ「収穫はあったけれど……」

真奈美「進む方向は間違ってない」

のあ「だけれど、道は途切れた」

真奈美「情報が抜け落ちているか」

のあ「思い違いをしているのか……」

真奈美「……」

のあ「……」

真奈美「路上で悩んでいても解決しない。車も近くにある、帰ろう」

のあ「そうするわ」

38

高峯探偵事務所

のあ「ただいま」

まゆ「のあさん、お帰りなさい」

のあ「お友達はまだいらっしゃるかしら」

まゆ「はい」

高森藍子「のあさん、こんばんは」

如月千早「お邪魔しています」

高森藍子
まゆのクラスメイト。まゆとは特に仲が良く、事務所にもよく訪れている。

如月千早
まゆのクラスメイト。得意なことは歌うこと。

のあ「いらっしゃい。お夕飯を食べていくかしら、まゆの手伝いをしてくれると喜ぶわ」

千早「お言葉だけで。これから予定があって」

のあ「お仕事かしら」

千早「レッスンです。佐久間さん、高森さん、また明日」

まゆ「千早さん、また明日……」

藍子「ばいばい♪」

のあ「高森さんは?」

藍子「お言葉に甘えようかな。のあさん、いいですか?」

のあ「ええ、ゆっくりしていってちょうだい」

真奈美「ただいま……ひとつ聞いていいか?」

まゆ「真奈美さん、お帰りなさい」

のあ「帰ってすぐに質問があるのかしら」

真奈美「さっき、如月千早とすれ違ったんだが」

のあ「それがどうかしたのかしら」

真奈美「如月千早だぞ?」

藍子「はい、千早ちゃんです」

真奈美「アイドルであることは知ってるよな?」

のあ「ええ。この前、テレビの歌番組に出ていたわ」

まゆ「がんばり屋さんですよぉ」

藍子「今日はレッスンまで時間があるので、一緒にお話してたんです」

のあ「だそうよ」

真奈美「つまり、私が気負い過ぎか。君らにとってはクラスメイトだものな」

のあ「ええ」

まゆ「藍子ちゃん、お夕飯の支度手伝ってくれますかぁ?」

藍子「はーい。のあさん、真奈美さん、ゆっくりしててくださいね」

真奈美「お言葉に甘えるとしよう」

のあ「ええ、大人はだらけていましょう」

39

高峯探偵事務所

まゆ「お味はいかがですかぁ?」

のあ「美味しいわ。珍しい味付けね」

まゆ「藍子ちゃんから教わったんですよ……ね?」

藍子「はい、おばあちゃんが教えてくれた高森家特製です」

真奈美「酢が利いた爽やかな味だな」

のあ「残暑の時期にはいいわね」

真奈美「疲れが取れそうだ」

まゆ「うふふ、いっぱいありますから食べてくださいねぇ」

のあ「ありがとう」

藍子「のあさん達は、今日はお仕事だったんですか?」

のあ「ええ。探偵のお仕事を、中身は秘密だから言えないけれど」

藍子「さっき、まゆちゃんにも断られちゃいました」

まゆ「まゆはのあさんの助手……ですから」

のあ「秘密もあるけれど、話せることもある」

真奈美「この写真かな」

藍子「まぁ、カワイイネコちゃんですね♪」

まゆ「小さくて……かわいい……」

のあ「真奈美、向井拓海から連絡は」

真奈美「ちゃんと引き取って育てるそうだ」

のあ「安心したわ」

藍子「迷いネコを探してたんですね」

のあ「そういう仕事が増えるといいわね。真奈美、探してきて」

まゆ「のあさん……遂に仕事をやる気に……」

真奈美「待つのが信条だと思っていたが、そういうなら幾らでも」

のあ「前言撤回するわ。遮二無二働くのはらしくない」

真奈美「なんだ、残念」

のあ「高森さん、困りごとはないかしら?」

藍子「困りごと……えっと」

のあ「すぐに出ないなら、問題ないものよ」

真奈美「そうだな」

のあ「何かあったら言ってちょうだい。助けになるわ」

藍子「はい、ありがとうございます」

のあ「そうね……いいかもしれないわ」

まゆ「のあさん、何か思いつきましたかぁ?」

のあ「高森さん、ひとつ教えて欲しいの」

藍子「私に答えられますか?」

のあ「答えられるわ、高森さん、都心迷宮という言葉を知っているかしら?」

藍子「としんめいきゅう?」

のあ「知らなそうね。ありがとう」

藍子「まゆちゃん、知ってますか?」

まゆ「ううん、わからない……」

のあ「例えばだけれど、難しい宿題に悩んでしまったら、どうするかしら」

藍子「そうだなぁ……お散歩に行ったり、誰かの意見を聞いたり?」

のあ「そうすると何かあるのかしら」

藍子「思い込んで悩んでるのを、ちょっと辞めてみるんです」

のあ「思い込み……」

藍子「……答えになりましたか?」

のあ「もちろんよ。ゆっくりしていってちょうだい」

真奈美「のあ、もういいのか?」

のあ「部屋に戻るわ」

真奈美「わかった」

藍子「怒らせちゃいましたか……?」

まゆ「そんなことないですよぉ」

真奈美「いつものことだ。お茶の時間には帰ってくるさ」

40

高峯探偵事務所

藍子「おじゃましました」

のあ「また、来てちょうだい」

藍子「もちろんです。まゆちゃん、またね」

まゆ「また明日……ばいばい」

のあ「真奈美、無事に送り届けてちょうだい」

真奈美「了解した。行くとしようか」

藍子「はい、お願いします」

のあ「……」

まゆ「のあさん……何か思いつきましたか?」

のあ「いいえ」

まゆ「そうですか……」

のあ「高森さんも言ってた通り、散歩とか話が足らないわね。それと休息も」

まゆ「疲れちゃいましたか……?」

のあ「私は大丈夫だけれど、大石泉はわからない」

まゆ「……はい」

のあ「何か……足りてないのかしら」

まゆ「足りない?」

のあ「情報か、何か」

まゆ「のあさん」

のあ「……どうしたの?」

まゆ「お風呂を入れますから、今日はお休みしましょう……ね?」

のあ「……そうするわ」

まゆ「はい……そうだ、少しお話しませんか。この前、本で読んだことを話したくて」

のあ「ええ……ありがとう、まゆ」

41

幕間

深夜

清路駅西・旧市街地・防空壕

沙紀「これで終わりか……ここも引き上げ時っすかね」

恵磨「そうなん?」

沙紀「わっ、エマ!?なんで、いるっすか?」

恵磨「ここが沙紀のアトリエか。道具が揃ってんのに、引き上げるの?」

沙紀「いつからっすか」

恵磨「なにが?」

沙紀「ここにいつから張ってたのか」

恵磨「そんなに前じゃないけど、暗いから眠気と戦うのが大変だった」

沙紀「……」

恵磨「沙紀がそれを見てる間に逃げ道も塞いでおいたし、どうする?」

沙紀「ちえっ、エマ割と真面目っすよね」

恵磨「不真面目だったことないんだけどなー、よく言われる」

沙紀「……」

恵磨「沙紀、誰から依頼受けてるか知らないけどさ、辞めなよ」

沙紀「じゃあ、エマが用意してくれるっすか?」

恵磨「……」

沙紀「警察の仕事じゃないとはアタシもわかってるっすよ、冗談っすよ、冗談」

恵磨「わかった。協力する」

沙紀「……別に本当にして欲しいわけじゃないっす」

恵磨「これでも公務員だからさ、なんとかなるっしょ。うん」

沙紀「信用ならないっすね、相変わらず」

恵磨「絶対は絶対な時以外は約束しないって、決めてるから。前に失敗したし」

沙紀「……そうっすか」

恵磨「沙紀の希望はわかったし、協力するよ」

沙紀「アタシの希望?」

恵磨「作品を作る意味と場所が欲しい」

沙紀「……」

恵磨「アタシは依頼主と縁を切れと言っただけなのに、回答がなんでそれになるのさ?」

沙紀「はぁ、慌ててるとボロが出るっすね……」

恵磨「引き上げ時なら、辞めれば」

沙紀「……さっきの約束守るっすか」

恵磨「努力する、やれそうより一段上で」

沙紀「秘密っすよ」

恵磨「わかった」

沙紀「これ、依頼書っす」

恵磨「依頼書?」

沙紀「本棚のあるページに仕事の封筒が挟まれてるっす。それが仕事の依頼」

恵磨「数字に、方角、日付……あの落書きのやつ?」

沙紀「そう、それで今日はこれも」

恵磨「おみくじ?」

沙紀「ただのメモっす。見てください」

恵磨「どれどれ……『依頼はこれで終わりです、お疲れ様でした』?」

沙紀「……」

恵磨「『報酬は先払いです。さようなら』、なにこれ?」

沙紀「クビってことっすね」

恵磨「報酬は先払いか。うーん……」

沙紀「辞め時かと思ってたところっす。渡りに船っすね」

恵磨「沙紀、この仕事だけやって」

沙紀「これをやって欲しいなんて、期待されてないっすよ?」

恵磨「沙紀が危ないかもしれないし……ん?期待されてない?」

沙紀「普段は完成したら後払いなのに、それに」

恵磨「それに?」

沙紀「アタシのアートは依頼主が核心めいて欲しがってたのは、あれだけっす」

恵磨「あの布?」

沙紀「わかるっすか?」

恵磨「話は聞いてる。阿紗橋の遺体のやつだ」

沙紀「そういうことっすよ。アタシはアートに意味と報酬があるから、従ってるだけっす。だけど、本質は知らない」

恵磨「本質ね……」

沙紀「あの落書きはただの記号っす。依頼主にとって必要な意味はそれしかない」

恵磨「どういうこと?」

沙紀「アタシの作品を見たいわけでもなければ、アートに込めたものもないっす」

恵磨「沙紀、よくわかんない。何が言いたいのさ?」

沙紀「アタシもアタシのアートも、依頼主に大した意味はないっすよ」

恵磨「ないなら、どうしてあんな数の依頼をする?」

沙紀「……考えられるのは、エマがさっき言った通りっす」

恵磨「なんか言ったっけ?」

沙紀「アタシがアタシの作品に求めているのは、アタシが誰かに認められたい、求められたいという意味っす」

恵磨「……」

沙紀「ツライっすね……依頼主は芸術じゃなくてアタシの本心に詳しかったってことっすよ」

恵磨「……そっか」

沙紀「手下にしておくために、依頼してたってことっす」

恵磨「……」

沙紀「切られちゃったっすけど」

恵磨「沙紀は依頼主については何も知らないんだな?」

沙紀「そうっすよ。アタシはただのアーティス……『ペインター』っすから」

恵磨「この仕事で終わりにしよう。このままだとロクなことにならない」

沙紀「もちろんっす」

恵磨「それに、アタシが作るよ」

沙紀「何を、っすか」

恵磨「沙紀の作品の意味。アタシは好きだよ」

沙紀「……」

恵磨「ただ、落書きはダメだけど」

沙紀「……ありがと、わかったっす」

恵磨「家、帰りなよ。わかった?」

沙紀「そうするっす。ここ、居心地悪いっすから」

恵磨「そうなん?」

沙紀「肩がこるんっすよ……なんでっすかね?」

恵磨「そりゃあ……防空壕だし……ねぇ?」

沙紀「取り壊せないのは祟りがあるから、らしいっす」

恵磨「わかってるじゃん……」

幕間 了

42

翌朝

高峯探偵事務所

のあ「正直に言うと、行き詰ってるわ」

まゆ「のあさん……お電話中でした」

のあ「そう言ってくれるとありがたいわ。また連絡するわ、そちらも何かあったらいつでも連絡をちょうだい」

まゆ「……」

のあ「まゆ、どうしたのかしら?」

まゆ「お電話は終わりですかぁ?」

のあ「ええ」

まゆ「今日も調査に?」

のあ「クライアントの期待には応えるわ」

まゆ「解決できそうですか……?」

のあ「目的地はわかっている。道順がわからないだけ」

まゆ「無理しないでくださいね、のあさん」

のあ「真奈美もいるわ、大丈夫よ、まゆ」

まゆ「はい」

のあ「何か用事かしら、まゆ」

まゆ「今日も帰りは遅くなりそうですかぁ?」

のあ「わからない、お夕飯は待ってなくてもいいわ」

まゆ「そうですか……」

のあ「一人でご飯を食べるのは寂しいかしら」

まゆ「……はい」

のあ「必ず戻るわ、お願いね」

まゆ「はい、のあさん」

真奈美「のあ、出発する準備は出来たか?」

のあ「ええ」

まゆ「今日はどちらに?」

のあ「まずは警察署。情報が必要だもの」

43

清路警察署・科捜研

真奈美「おはよう。お邪魔するよ」

志希「のあにゃーん、助けてよ~」

のあ「志希じゃない、ちゃんと帰ってたのね」

久美子「のあさん、真奈美さん、おはよう」

のあ「おはよう、久美子」

志希「むっ!すーはー、クンカクンカ……のあにゃん、シャンプー変えたな……良い良い、エクセレントだよ~」

久美子「この子、見つけてくれてありがとう。今日から来てもらってるわ」

真奈美「のあの髪に引っ付いてるのはともかくとして、無事に復帰できたようで何よりだ」

久美子「家ないらしいから、音葉ちゃんの家にいてもらうことにしたわ」

真奈美「それは良かった」

志希「良くないっ!」

のあ「良くないのかしら」

真奈美「音葉君のことだから、家もキレイだと思うが」

久美子「仲良くしてあげてね、志希ちゃん。年上だけど後輩なんだし」

音葉「……志希さん、お聞きしたいことが」

志希「わー、来たー」

音葉「お二人とも……おはようございます」

のあ「おはよう。志希と仲良くやれてるかしら」

音葉「先輩ですから……聞きたいことがたくさんあります」

のあ「志希、カワイイ後輩の指導をしてあげるといいわ」

志希「えー、志希ちゃんそういうタイプじゃないし~」

音葉「そう言わずに……のあさん、お預かりします」

のあ「どうぞ」

音葉「ありがとうございます……」

志希「久美子さんー、この後輩スキンシップが多いよー、背が高いから志希ちゃん逃げられないー」

久美子「そのため……ゴホン、音葉ちゃんがやりやすいようにしていいわ」

音葉「さぁ…行きましょうか」

志希「いいけどー、科捜研の仕事は嫌いじゃないしー」

のあ「抱きかかえられて連れていかれたわね……」

真奈美「仲良くやっているのか?」

久美子「音葉ちゃん、一人っ子だし、年上に囲まれて育ったから妹が欲しかったみたい」

真奈美「年下の先輩に聞きたくてしょうがないのか」

久美子「ご両親も不在がちだったから、ペットが飼いたくても飼えなかったとか」

のあ「先輩というよりはネコ扱いね……」

久美子「二人で協力してくれると私としては助かるわ。あんなこと言ってたけど、第一印象は悪くないみたいだし。二人とも天才肌だから」

のあ「音葉に話があったのに、呼び止めるのを忘れたわ」

久美子「落書きの話?のあさんから貰ったデータは、私の方でまとめておいたわ」

のあ「助かるわ」

久美子「地図を画面に出すわね」

真奈美「清路駅周辺の地図だな」

のあ「私の情報よりも増えてないかしら」

久美子「あれ、そっか。恵磨ちゃんから話聞いてないの?」

のあ「恵磨から?」

久美子「『ペインター』を捕まえたから、落書きした場所の情報を本人から聞き出したの」

真奈美「恵磨君のところにも行ってみる必要がありそうだな」

のあ「そうね。それで、次の道は見つかったかしら」

久美子「残念だけれど、私には見つからない。のあさんはどう?」

のあ「情報は増えたけれど、感想は昨日と同じ」

真奈美「ゴールがあるとは思えない」

のあ「循環する道、支流は色々とあるけれど」

久美子「私もそう思うわ、これに出口はない。循環する意匠は良い意味なことが多いのだけどね」

のあ「ありがとう。もう少しこっちで考えるわ」

久美子「わかった」

のあ「もう一つの話だけれど」

久美子「ハッカーの話?」

のあ「ええ。久美子と音葉の意見はどうかしら」

久美子「可能性としては無きにしも非ず、くらいしか言えないわね」

のあ「探している大石泉がそのハッカーという可能性は」

久美子「彼女の実力がわからないもの、言えることなんてないわ」

真奈美「まぁ、そうだな」

久美子「私でわかるのはこれぐらい。どうする?」

のあ「……」

真奈美「のあ、久美子君達に頼むことはあるか?」

のあ「ないわ、今の所は」

久美子「仕事に戻るわね。何かあったら、言って」

のあ「ええ。真奈美、恵磨の所に行きましょう」

真奈美「わかった」

のあ「久美子、やっぱり一つ頼んでいいかしら」

久美子「どうぞ、なに?」

のあ「その地図、印刷してくれるかしら」

44

清路警察署・少年課

のあ「なるほどね……」

夏美「恵磨ちゃんから聞いたのはそんな所だけど」

真奈美「最後の落書きはどうするつもりなんだ?」

夏美「知らなかったことにする」

のあ「理由は」

夏美「彼女、吉岡沙紀を守るため。恵磨ちゃんの提言通りに」

のあ「それでいいと思うわ」

真奈美「それにしても、重要な意味がない、とはな」

夏美「違うわ。重要なのは、ほとんど、ない」

のあ「つまり、どれかは重要だと」

夏美「そうじゃないと、位置と方向を事細かに指定する意味がないわよね?」

真奈美「論理展開が飛躍している。どうしてだ?」

夏美「全て意味がないなら、吉岡沙紀とパルクールの二人で自由にやらせればいいじゃない」

のあ「一部に意味があるということは」

夏美「そうそう、全部に意味を持たせないと描いた人物を騙せないじゃない」

真奈美「吉岡沙紀を騙すために、意味を持たせたのか」

のあ「そして、私達も悩んでいる」

真奈美「夏美君としては何か意見がないか?」

夏美「パルクールとか、隠れ家とかなら少年課の範囲内だけど、違うわよね?」

真奈美「それは表向きの意味だ」

夏美「子供達がわかることじゃないものね」

のあ「……真奈美」

真奈美「どうした?」

のあ「久美子がくれた地図、夏美に見せてくれるかしら」

真奈美「わかった。これだ」

夏美「だいぶ大きく印刷したのね」

真奈美「志希君がサービスしてくれた」

夏美「ふーん、こんなにあるのね」

のあ「夏美に聞きたいのだけれど」

夏美「うん」

のあ「ホームレスや家出少年が一晩を過ごすなら、どこかしら」

夏美「そんなの決まってるじゃない。清路駅南北の地下道、地下鉄に、新都心付近かしら」

真奈美「ん?」

夏美「あれ、全然違うわね。吉岡さんからは全部聞いたはずだけど」

のあ「地下にこだわっているのに」

真奈美「新都心側にはいかないんだな」

夏美「つまり、どういうこと?」

のあ「……」

真奈美「のあ?」

のあ「平面の地図ではいけなかった」

真奈美「どういうことだ?」

のあ「真奈美、音葉にお願いして方向に上下を追加して」

真奈美「わかった。のあはどうする?」

のあ「都市計画について調べるわ。科捜研まで行くから、待っててちょうだい」

真奈美「了解した」

夏美「ヒントはつかめた?」

のあ「ええ、ありがとう」

夏美「どういたしまして。忙しい所悪いけど、お礼代わりに一つ聞いていいかしら」

のあ「もちろん。ただし、大石泉のことがあるわ、手短に」

夏美「はい、か、いいえ、で良いわ」

のあ「ええ」

夏美「弓を使う殺し屋を知らないかしら」

のあ「殺し屋……?」

夏美「わかるかしら」

のあ「答えはいいえ」

夏美「大丈夫、早く行ってあげて」

のあ「今はこれで。大石泉を見つけてくるわ」

45

清路警察署・科捜研

音葉「これは……」

志希「にゃはは、これは一本取られた?」

久美子「なるほどね、最初から全員間違ってた」

真奈美「どうやら、そのようだ」

音葉「のあさん……いかがでしょうか」

のあ「答えは全員がわかってる通り」

志希「どんなループでも通る共通点で」

真奈美「吉岡沙紀と小松伊吹は使い方を間違えていた」

久美子「次の落書きに行く道しるべじゃなかった」

のあ「下向き矢印のビル、そこから地下に潜ればいい」

志希「でもさー、のあにゃん?」

のあ「疑問でもあるのかしら」

志希「地下道はあるけどー、どこにもつかないよ~?」

音葉「その通りですね……さすが志希さんです……」

志希「音葉ちゃん、無理に褒めなくてもいいからさぁ……」

のあ「どこかに着くわ」

久美子「どうして?」

のあ「都心迷宮はそもそも、清路駅周辺を指す言葉。地下工事のいざこざから生まれた、都市伝説よ」

志希「だから?」

のあ「どこかにつながるわ」

音葉「どこか……」

のあ「記録にない場所もあるでしょう」

久美子「思いっきり汚職とかその類じゃない、のあさん、知ってたの?」

のあ「さぁ。政治にはあまり関わりたくないもの」

志希「むふー、志希ちゃん興奮してきたよ~」

音葉「……」

志希「……音葉ちゃん、音もなく抱きかかえないで。ちゃんと仕事するから」

のあ「真奈美、探検は得意かしら」

真奈美「洞窟を、地図を描きながら潜ったことがある。スリリングだったな」

志希「なにそれ、楽しそう~」

のあ「洞窟探検は休みの日に相談してちょうだい」

久美子「さて、私達は仕事に戻りましょう。志希ちゃん、音葉ちゃん、良い?」

志希「はーい」

音葉「はい……」

久美子「のあさん、気をつけてね」

のあ「ええ。真奈美、行くわよ」

46

都心迷宮・下向き矢印のビルの地下

下向き矢印のビルの地下
下向き矢印のビルに地下階はない。この地下はビルとは別の構造物で、真っ暗で細長い通路に風だけが吹いている。

のあ「真奈美、あったわ」

真奈美「どこだ、ライトで照らしてくれ」

のあ「ここよ」

真奈美「シールか」

のあ「落書きより安上がりね」

真奈美「しかし、絵なのか?だとしても、抽象画の領域だな……」

のあ「そうみたい。でも、落書きと同じ」

真奈美「向かう方向がある」

のあ「おそらく道なりでしょうけれど、音葉にもらったものを使いましょう」

真奈美「答えは」

のあ「見た通りね。このまま奥へと進みましょう」

真奈美「了解だ」

47

都心迷宮・最初の分かれ道

真奈美「公式の資料だとここが行き止まりだ」

のあ「志希の懸念は解消されたわ」

真奈美「上に行く梯子もある。どこに出るんだろうな」

のあ「どこにも出れない可能性があるわね」

真奈美「もとよりその気はない。私達が行くの道は三つのどれか」

のあ「左か右か」

真奈美「あるいは、真っ直ぐにある階段のどれかだ」

のあ「サインはあるかしら」

真奈美「見当たらない」

のあ「それなら、階段を登りましょうか」

真奈美「足元に気をつけてくれ」

のあ「わかってるわ」

48

都心迷宮・固められた鉄の扉前

真奈美「何か音がしないか?」

のあ「音というよりは振動……あら」

真奈美「行き止まりだ。鉄の扉だが」

のあ「開かないわね、これは」

真奈美「塞がれているな、溶接か?」

のあ「しかも、反対側から。ここから出るのは無理でしょうね」

真奈美「公式の資料に間違いはないということか」

のあ「真奈美、この先に何があるかわかるかしら」

真奈美「すぐには出てこないな。のあはわかるのか?」

のあ「地下鉄」

真奈美「なるほど。確かに、位置関係もあってるな」

のあ「そうなると、何のためのものだったのかしら」

真奈美「避難路じゃないか」

のあ「避難路?」

真奈美「火事や事故の際に逃げ込めるようになっているんだろう」

のあ「あるいは、排水路かしら」

真奈美「いずれにせよ、緊急事態に使うのだろう」

のあ「それなら、ここを閉じた理由は」

真奈美「それこそ、政治的事情じゃないのか」

のあ「政治的、ね」

真奈美「わざわざ工事も終わってる避難路をないものとする理由なんてあるか?」

のあ「普通は考えられないけれど、工事そのものを隠したかった」

真奈美「工事費の圧縮が市民団体から求められていたが、契約を破棄するわけにもいかない」

のあ「書類とも祖語があってもいけない」

真奈美「だから、消した。工事費用は何かに上乗せして支払ったんだろうな」

のあ「誰も得しないわね」

真奈美「市民団体は満足感を得られただろうな」

のあ「事情を知って使っている人物も」

真奈美「そこまで調べてるのか、相手は」

のあ「それはわからないけれど、行き先は見つかった」

真奈美「サインはどこだ?」

のあ「天井。さっきの分かれ道を右よ」

49

都心迷宮・歯車の絵が飾られた広場

のあ「歯車……」

真奈美「のあ、向こうの道を見て来た」

のあ「どうかしら」

真奈美「ここまでのマッピングだ、参考にしてくれ」

のあ「フム……歯車の絵と関係は」

真奈美「思い当たらない」

のあ「道は複数ある、という意味は」

真奈美「それはあるかもしれないな」

のあ「地図であることを放棄した意味は」

真奈美「確かにこれまでとは違う」

のあ「迷路にするため、かしら」

真奈美「なるほどな。心得がなければ、既に迷っていてもおかしくない」

のあ「そうなると意味としては」

真奈美「侵入者を防ぐため」

のあ「いいえ。古来から逆の意味よ」

真奈美「牛の怪物を閉じ込めるため、か」

のあ「アリアドネの糸は大石泉には用意されなかったようね」

真奈美「ようやく、都心迷宮らしくなってきたな」

のあ「真奈美は余裕ね」

真奈美「人工的に放置された区画だ。限界がある」

のあ「加えて、使われている区画に近づきすぎてもいけない」

真奈美「そこで、考えた」

のあ「降りる」

真奈美「答えを先に言われたか。探偵の意見を聞こう」

のあ「真奈美がマッピングした部分以上にここから離れるとは思えないこと」

真奈美「それで」

のあ「昇るか降りるか。どちらかならば、降りるしかないわ」

真奈美「それは何故かな?」

のあ「何もなくても降りられる」

真奈美「地球は昇るのを妨げるが、降ろすことは助けてくれる」

のあ「人間はそれを制御できないけれど。それで、真奈美?」

真奈美「どうした?」

のあ「降りる場所を見つけてるでしょう、案内なさい」

真奈美「ご明察だ。推理じゃなく、調査から来た結論だよ」

のあ「どちらでもかまわない。行きましょう」

50

都心迷宮・梯子部屋

真奈美「外れたりはしなそうだな……よし、行こうか」

のあ「真奈美、質問していいかしら」

真奈美「どうした?」

のあ「歩きながらでいいわ。折りたたみの梯子で降りて来たけれど」

真奈美「そうだな。外れることはなさそうだから、帰りも問題ない」

のあ「梯子がないと戻れないわよね」

真奈美「ここからは戻れない。別ルートがあるのかもしれないが」

のあ「逃げようとしても逃げられない、と」

真奈美「誰かが梯子を上に戻した場合は、そうなるな」

のあ「上に道があることすら、わからないわね……」

真奈美「のあ、何か思い当たることでもあるのか」

のあ「逃げようとして、迷っていなければいいけれど」

真奈美「……」

のあ「真奈美、ケータイの電波入るかしら」

真奈美「全滅だな。無線らしきものもない」

のあ「助けも呼べない、と」

真奈美「だが、電気は通っている」

のあ「所々、照明がついてるわね」

真奈美「インターネット回線もあるかもしれないな」

のあ「……何のための場所なのかしら」

真奈美「部屋のようなものも見られるが」

のあ「地下鉄からは離れてるわよね」

真奈美「今思えば、歯車の絵は地下鉄駅の更に下だった」

のあ「単純に機械の意味だったのかしら」

真奈美「清路新都心駅から今は北東に進んでいる」

のあ「つまり」

真奈美「行政施設が集まってる区域の下だな」

のあ「シェルターかしら」

真奈美「いや、そんな大仰なものじゃない。計画が頓挫しただけだな」

のあ「計画?」

真奈美「ああ。この資料は見たか?」

のあ「流し見ただけ。教えてちょうだい」

真奈美「地下に歴史資料館、美術館、図書館、商業施設等の計画があったようだな」

のあ「工事だけやられている、と」

真奈美「元々基礎工事で深く掘るのは必要だったみたいだな。放置した理由は私にはわからない」

のあ「真奈美、ストップ」

真奈美「見つけたか」

のあ「向こう側、明かりが強いわ」

真奈美「誰かいるかもしれないな」

のあ「真奈美、警戒して」

真奈美「わかってる」

51

都心迷宮の奥

泉「思わず、隠れちゃったけど……」

のあ「PCに、冷蔵庫に、電子レンジに、ゲーム機……本も大量ね」

真奈美「電気も点いてる。誰かいそうだな」

泉「あいつらの味方かな……同じように背が高いし……」

のあ「冷蔵庫の食料、残り数日分と言ったところかしら」

真奈美「隠れてるか、閉じ込められているか」

泉「銃、持ってる……」

真奈美「ベッドもイスも一つだ」

のあ「古ぼけたイスはあるけれど」

真奈美「誰か一人の部屋だ」

泉「……」

のあ「大石泉、いるかしら。友人から依頼を受けて、探しに来たわ」

泉「……え?」

真奈美「いたな、銃はしまっていいか」

のあ「どうぞ。大石泉さん、出てきていいわ」

泉「……見つかった」

のあ「こんにちは。どうぞ、こちらへ」

泉「……」

のあ「座っていいわ。仕事席かしら」

泉「……そうだけど」

真奈美「写真の通りだな。髪が少し荒れているが」

のあ「美容師は紹介してあげるわ」

泉「えっと……」

のあ「敵か味方で言えば、味方よ」

泉「……誰の?あいつらじゃないの?」

のあ「あいつらが誰かは知らないけれど、あなたの味方のつもりよ」

泉「……質問していいかな」

のあ「どうぞ」

泉「さくらと亜子があなたに……」

のあ「……」

泉「さくらと亜子が、私を探してくれたの……?」

のあ「……」

真奈美「のあ、答えてやれ」

のあ「私は高峯のあ、探偵よ。村松さくらと土屋亜子の依頼を受けて、あなたを無事に帰らせることを約束したわ」

泉「……」

のあ「その約束を果たしていいかしら」

泉「あ……うん」

のあ「大石さん?」

泉「さくらと亜子が……見つけてくれた……」

のあ「……」

泉「信じてた、信じて、良かった……待ってて、良かったんだ……」

真奈美「……」

泉「何も話さないで、親友に何も話さないで、心配かけたのに……見つけてくれて……私、ごめん、って言わないと……」

真奈美「のあ、お茶の準備をしようか」

のあ「お願い。大石泉?」

泉「ぐすっ……なに」

のあ「落ち着いたら、話を聞かせてちょうだい」

泉「……ごめんなさい」

のあ「いいのよ。もう急ぐこともないのだから」

52

都心迷宮の奥

真奈美「緑茶で良かったか?」

泉「うん。ありがとう」

のあ「落ち着いたかしら」

泉「泣いちゃった、まだ二人に会ってもいないのに」

のあ「心細かったかしら」

泉「……二人には言わないでね」

のあ「別に良いと思うけれど」

泉「誰かに連れていかれたんじゃなくて、自分で選んだことにしたい」

真奈美「ここに来たのは君の意思が少なからず反映されている、のか?」

泉「元はといえば、私が願ったこと。それに、ここで追い詰められてた、なんて言ったら死にそうなくらい心配しそうだから」

のあ「追い詰められていた、とはどういうことかしら」

泉「仕事は終わってたの。仕事内容は……ハッキング」

のあ「仕事の話は後にしましょう。それで」

泉「私の支援が打ち切られた」

真奈美「詳しく教えてくれないか」

泉「まずインターネットが切られて、お世話係が来なくなった」

のあ「お世話係は何をしていたのかしら」

泉「生活に必要な物とか色々調達してくれた」

のあ「ここに連れて来たのは」

泉「わかんない……目隠しされてたし」

真奈美「食品も、か?」

泉「そう。でも、残りはあれだけ」

のあ「つまり」

泉「私は選択を迫られてた」

のあ「……」

泉「残るか、逃げるか。餓死するか、遭難して死ぬか」

真奈美「……それは不安だったろう」

泉「私は待つことを選んだ、二人なら見つけてくれるから」

のあ「その賭けには勝ったわね」

泉「でも、わかった」

のあ「なにかしら」

泉「不安だとお腹が空く。食料に限りがあることが不安で」

のあ「……その選択を迫られたのは何時かしら」

泉「一昨日の夜だった」

のあ「誰から」

泉「わからない、親玉みたいな人」

のあ「親玉……」

泉「私の仕事に関わる人のリーダーだと思う……多分」

真奈美「どんな人物なんだ」

泉「名前もよくわからないけど、メガネで長髪の女性だった」

真奈美「女性、か」

泉「30歳は絶対に行ってないと思う。もしかしたら、もっと若いかも」

のあ「仕事の依頼はその人物から、かしら」

泉「大元を辿ればそうだと思う。直接の依頼はお世話係から」

のあ「仕事のことについて、聞いていいかしら」

泉「ハッキング」

真奈美「前からやっていたのか?」

泉「そんなことしてない……出来るかも、とは思ってたけど」

のあ「ハッカーにさせたのは、この状況なのね」

泉「……それを言い訳にしていい、かな」

のあ「それで整理がつくならば」

真奈美「そうだな」

のあ「ショッピングモールのハッキングをしたのは、あなたかしら」

泉「そうだよ。一番大きい仕事だったと思う」

のあ「使ったのは」

泉「銀髪のサンタクロースって自称してた人、なん……だけど」

真奈美「どうした?」

泉「ここで、殺されて……」

真奈美「ここ、か。君は大丈夫か?」

泉「……大丈夫。そのサンタも私がショックを受けるのを望んでない」

のあ「遺体は発見されているわ。トナカイの一人も捕まってる」

泉「……」

のあ「辛いことを聞くけれど、殺害したのは」

泉「偶に来る殺し屋、弓矢で……その」

のあ「弓矢の殺し屋……」

真奈美「もしかして、未成年だったか」

泉「大人っぽかったから……でも、そうかも」

真奈美「夏美君の悩み事が増えるな」

のあ「自棄食いで昔の体形に戻らないといいけれど」

泉「私のせい、かな。あのサンタクロース、悪い人じゃなかった」

のあ「どうして、そう思うのかしら」

泉「助けてくれようとした。その……弟も含めて」

のあ「あなたのせいではないわ」

真奈美「善意を持っていたとはいえ、彼女は犯罪者だ」

のあ「弟について聞いていいかしら。それがあなたの動機なのね」

泉「……そう」

のあ「聞かせてもらっていいかしら」

泉「弟の病気を治療するのと引き換えに、私は仕事を受けた」

のあ「ご両親は」

泉「知ってる。私がここに来た後に知らされてるはず。でも……」

のあ「何か問題が」

泉「治療するのは嘘だった」

真奈美「嘘、か」

泉「治療法が公開されるという情報だけしか、持ってなかった」

のあ「その情報だけで、あなたを操ったのね」

泉「騙されちゃった」

真奈美「治療法があるというのは本当なのか」

泉「これから調べる。ここまでやったなら、普通のことなら出来る」

のあ「応援しているわ。二人は弟さんのことを知っているの」

泉「詳しくは言ってない……言わないとかな」

真奈美「どんな事情でもわかってくれるはずだ」

のあ「そういうものでしょう」

泉「親友だから、話すよ」

のあ「ええ。きっと力になってくれるでしょう」

泉「……うん」

のあ「結果的に、待つのは正解だったわ」

真奈美「おそらく、出れなかっただろうな」

泉「そうなんだ?」

真奈美「帰り道でわかる」

のあ「詳細は警察にでも話してちょうだい」

泉「……捕まるかな」

のあ「事情は配慮してくれるでしょう」

泉「そっか、正直に話すね」

のあ「私が聞きたいことはあなたを雇った側のこと」

真奈美「目的はなんだろうな」

泉「よくわからない。何に協力させられてるのかも」

のあ「ショッピングモールの件は」

泉「あれは本題だったのかな……?」

のあ「わからない」

泉「親玉のような人が言うには、だけど、いや、これも意味がわからないやつなんだけどね……」

のあ「言ってみなさい」

泉「私がハッカーになるのを見ていたかった、とか」

真奈美「……どういう意味だ?」

のあ「犯罪を見るのが目的、と。映画でも見ているつもりなのかしら」

泉「あんまり考えたくない、理解もしたくない」

真奈美「いずれにせよ、真っ当な人間な思考ではないな」

のあ「あなたが会った人物は全部で何人かしら」

泉「メガネの親玉に、お世話係、サンタクロース、弓矢の殺し屋、えっと、もう一人誰かいたんだけど……」

のあ「無理に思い出さなくていいわ。その人物につながる情報は何かあるかしら」

泉「ごめん、何もない。誰かが親玉の名前を呼んでたような気がするんだけど……思い出せなくて」

のあ「でも、妙ね」

真奈美「妙とは」

のあ「影も形も掴ませないのがこれまでだったけれど」

真奈美「確かにそうだな」

のあ「大石さんもこの通り無事で、私達に引き渡された」

泉「それって……」

のあ「現実にならなかった最悪の事態を想定するのは、無駄。心労にしかならない」

泉「……わかった。そうだ、親玉につながる手掛かりならあるよ」

のあ「何かしら」

泉「これ」

真奈美「カギか」

泉「奥の扉のカギ。親玉のコレクションルームみたい」

のあ「ちょっと覗いてくるわ。真奈美、大石さんと帰る支度をしておいて」

真奈美「わかった。大石君、帰り支度をしよう」

泉「わかった」

真奈美「食事は取れているか」

泉「実はあんまり。泣いて安心したらお腹すいた」

真奈美「少し、冷凍庫から拝借しようか。美味しそうだが、どうだったかな?」

泉「味は良いよ。お世話係が持って来たデリバリーはもっと美味しかった」

真奈美「ちょっと見繕おう。帰り支度は続けてくれ」

泉「わかった」

真奈美「PCの回収は後だな。ケータイはあるのか」

泉「そういえば返された。電波が繋がらないから使い物にならないけど」

真奈美「村松君と土屋君への連絡は」

泉「私が文面を作って、お世話係が外で送信してたみたい。私も心配させたくなかったから、それについては共犯かな」

真奈美「お風呂は」

泉「奥の方にユニットバスがあるよ。お湯もちゃんと出たけど、シャンプーが合わなくて」

真奈美「なんとか暮らしていけそうだな」

泉「ううん、暮らしていけない」

真奈美「そうかな?」

泉「友達がいない暮らしなんてイヤなんだ」

真奈美「フッ、その通りだな」

のあ「……」

真奈美「のあ、もう戻ってきたのか」

のあ「大石さん、ありがとう。真奈美は、これを見て」

真奈美「なんだ、日記帳か?」

のあ「スクラップブック、見覚えがあるはずよ」

真奈美「待て、乙倉悠貴が持っていたものだ」

のあ「何故ここにあるのか。それに、これが挟まれていたわ」

泉「……アイドルのプロマイド?眠り姫みたい」

真奈美「そう見えるだろうが……これは」

のあ「遺体の写真よ。このスクラップブックの持ち主が個人的に撮って印刷したもの」

泉「い、遺体?」

のあ「他のコレクションは美術品や写真だった」

真奈美「事件に関わるものがあったのか」

のあ「ええ。成宮由愛の絵も飾ってあったわ」

泉「ライブの半券もあったけど、それも?」

のあ「おそらく。松永涼のバンドがあったわ」

真奈美「つまり、だ」

のあ「乙倉悠貴は、無関係な第一発見者ではなかった」

真奈美「まさか、大石君を雇った側だったのか」

のあ「それに、このページを」

真奈美「西島櫂が犯人だ、と……亡くなる前に気づいていたのか」

のあ「でも、このスクラップブックは見つかっていない」

泉「何の話かわからないけど……」

のあ「あの人物なら合点がいくわ」

泉「親玉に心当たりがあるの?」

のあ「明らかに開示してる。気づいてもらいたがっている」

真奈美「その理由はわからないが。のあ、写真はあるか?」

のあ「希砂島で撮ったものがあるわ。大石さん、写真を見てちょうだい」

泉「……」

のあ「この写真の中に、あなたの雇い主はいるはずよ」

泉「……いた。この人が親玉」

のあ「名前は古澤頼子」

泉「思い出した、サンタクロースが呼んでた、古澤って。あと自分は何と呼ばれているか、言ってた」

のあ「何と」

泉「『キュレイター』って」

のあ「学芸員……そのままじゃない」

真奈美「西川保奈美の事件からずっと近くにいたのか」

のあ「……」

真奈美「のあ?」

のあ「その気ならば」

泉「その気って……なに」

のあ「相手になるわよ、古澤頼子」

53

夕方

高峯探偵事務所

まゆ「ただいま帰りましたぁ」

のあ「まゆ、お帰りなさい」

まゆ「のあさん、お帰りになってたんですねぇ」

のあ「ええ」

まゆ「大石泉さんは……?」

のあ「無事に送り届けて来たわ」

まゆ「まぁ……お体は大丈夫ですかぁ?」

のあ「ええ。村松さくらと土屋亜子に良い報告ができて良かったわ」

まゆ「はい……のあさん、お疲れ様でしたぁ」

のあ「ありがとう、まゆ」

まゆ「着替えたら、お夕飯の準備をしますねぇ」

のあ「慌てなくていいわ。まゆ、聞いていいかしら」

まゆ「お夕飯のリクエストですかぁ?」

のあ「最近、古澤頼子から連絡があったかしら」

まゆ「古澤さん、ですかぁ……ないですよぉ」

のあ「そう。成宮由愛とは連絡を取ってるかしら」

まゆ「最近はお電話してませんねぇ、今日してみようかな」

のあ「……そう」

まゆ「何か……ありましたか」

のあ「事件の背後に誰かがいる、という話はしたわね」

まゆ「……はい」

のあ「それが古澤頼子だった」

まゆ「……え?」

のあ「今は調べているところよ」

まゆ「古澤さんが……?」

のあ「もしも連絡があったら、教えてちょうだい」

まゆ「本当ですかぁ……普通の学芸員さんでしたよ」

のあ「私もそうだと思っていたわ」

まゆ「違うんですかぁ……?」

真奈美「のあ」

のあ「真奈美、何かわかったかしら」

真奈美「佐久間君、お帰り」

まゆ「ただいま、真奈美さん」

真奈美「古澤頼子についてだが」

まゆ「……」

真奈美「市立美術館は先月末で退職している」

のあ「先月末、タイミングが良すぎるわね」

真奈美「6月には退職を願い出ているようだな」

まゆ「希砂島でそんなこと言ってなかったのに……学芸員の仕事が充実してるって……」

のあ「退職理由は」

真奈美「家庭の事情だそうだ、要するにわからない」

のあ「計画通りだった、ということかしら」

真奈美「大石泉が登校して来ないことがわかるのが9月1日、予想通りだろう」

のあ「今はどこにいるのか、わかるのかしら」

真奈美「消息不明だ」

まゆ「行方不明……」

真奈美「職員は親しい友人を知らなかった。個人のケータイでは連絡が取れない」

のあ「消えた、と」

真奈美「学芸員になる前も簡単に問い合わせしてみた」

のあ「手掛かりは」

真奈美「こちらもないが、あることがわかった」

まゆ「あること……」

真奈美「本当に古澤頼子、なのか?」

のあ「言っている意味がわからない。説明してちょうだい」

真奈美「彼女の存在を確認できたのは、学芸員になる前の大学院時代だけだ」

のあ「それ以前は」

真奈美「書類上は卒業しているが」

まゆ「あの人が見つからない……」

真奈美「地味だが間違えはしない容貌だろう、背は高いが猫背だ」

のあ「誰かになりすましている、と」

真奈美「もしくは書類を偽造しているか」

のあ「そう……」

真奈美「どうする」

のあ「こちらが勘付くのも想定内、ならば」

真奈美「調べよう」

のあ「ええ。でも、今日は」

まゆ「今日は……?」

のあ「友情を守ったことを喜びましょう」

真奈美「そうだな」

のあ「何があっても、彼女達なら立ち向かっていけるわ」

まゆ「はい、お友達は大切ですよねぇ」

のあ「ええ」

真奈美「私達も立ち向かえるか」

のあ「きっと」

まゆ「皆で協力すれば……必ず」

のあ「真奈美、まゆ、偶には甘いものが食べたいわ。用意してくれるかしら」

まゆ「はぁい、のあさん」

エンディングテーマ

The brightNess

歌 高峯のあ、木場真奈美、佐久間まゆ

54

幕間

星輪学園・教会

水野翠「……」

クラリス「水野さん、お祈りですか」

水野翠
星輪学園高等部の3年生。最後のインターハイも周囲が望まれた結果ではなかった。

クラリス
星輪学園の住み込みシスター。倫理と宗教の担当教員でもある。

翠「祈りなど捧げていません」

クラリス「誰かの声を聞いているようでした。主の声でないのなら、どなたでしょうか」

翠「自分に決まっています」

クラリス「没我しているように見えましたが」

翠「バカらしい。人間が理性を捨てて、『素直に世界を見たら』、見える世界は完全に主観です。歪みに歪み切った世界が真実だなんて、虚偽が過ぎます」

クラリス「面白い見方をしていますね」

翠「没我ではなく、自分を極める行為なのです。没我したいなら、操り人形になればいいのです。世間とか理想で自分を消していけばいいのですから。わかりますか、シスタークラリス?」

クラリス「祈りではなく、自分の欲望を聞いていたのですね」

翠「ええ、その通りです」

クラリス「翠さん、考えを変えるなら今のうちですよ」

翠「今更、なんですか」

クラリス「自分の欲望をわかっていますか」

翠「わかっています。私は然るべき……」

クラリス「申し訳ありません。今はお話を聞いている時間がありません」

翠「来客ですか」

クラリス「はい。奥の懺悔室が空いています、ご利用ください」

翠「わかりました。お気遣い感謝します」

クラリス「罪を知り、赦すことが魂の救済です。私は限られた時間で一人でも救わないといけません」

翠「救われようなど思っていません」

クラリス「貴方は、まるで炎のようです」

翠「炎、でしょうか」

クラリス「周囲はおろか自身を燃やして、いつか消えてしまいますよ」

翠「ふふっ……それも悪くありません」

コンコン……

翠「来ました、失礼します」

クラリス「どうぞお入りください、扉はいつでも開かれていますよ」

幕間 了


製作 tv○sahi

次回予告

絶対にあの人は無実を証明してくれるから……大丈夫。

第8話
浅野風香『高峯のあの事件簿・佐久間まゆの殺人』

>>84

(1)
Barnett Newman, From “The New American Painting”, SWI 179

オマケ

撮影休憩中の一幕・嗅覚、聴力と来たら……

志希「志希ちゃん、思いついたんだけどー」

音葉「志希さん……どうしましたか」

久美子「アドリブでも思いついた?」

志希「志希ちゃんが嗅覚、音葉ちゃんが聴覚でしょ~」

久美子「私は?」

志希「良い匂いがする」

久美子「それは違わない?」

志希「だから、視力担当を入れよう!」

音葉「視力担当……ですか」

志希「触覚、味覚、平衡覚にシックスセンス担当も入れちゃおう!」

久美子「そこまで入れると別のドラマじゃないかしら」

音葉「フム……愛海さんに、葵さんに、穂乃香さん、朋さん辺りでしょうか……?」

久美子「触覚担当愛海ちゃんでいいの……?あと、ユッコちゃんがへそを曲げちゃいそう」

志希「わかりやすい視力担当は~?」

音葉「それなのですが……」

久美子「何故かわからないけど、視力が悪い子とメガネを勧めてくる子しか思い出せない」

志希「あ~……」

音葉「この前のドラマで衣装として身に着けてから……メガネの推薦が度々……」

志希「にゃはは、執事似合ってたよ~」

真奈美「……なあ、のあ」

のあ「真奈美……どうしたのかしら……」

真奈美「音葉君は志希君を平然と膝の上にのせているが、役作りなのか?」

のあ「真実は揺らぐもの……虚構と現実は不可分……」

真奈美「それにしても、喉を撫でる必要はないと思うがなぁ」

P達の視聴後

PaP「実際のところ、泉ちゃんはハッキング出来るのか?」

CoP「バカなこと言わないでよ、やらないから、だそうです」

CuP「やれるんですか……?」

CoP「やらないならやれないと同じです」

PaP「格言みたいなこと言うんだな。さくらちゃんと亜子ちゃんにも聞いたのか」

CoP「そんなことしませんよぉ、と言っていました」

CuP「普通そうですよね」

PaP「それにしても」

CoP「どうしました?」

PaP「女の子の声真似も上手いんだな。さくらちゃんの真似の方が似てた」

CoP「これでも役者の端くれだった時期もあるので」

CuP「否定しないあたり、強いなぁ。他にも誰か出来るんですか?」

CoP「そうですね……きらりちゃんの真似は自信がありますよ」

PaP「残念だが、聞きたくない。よしんば聞いても、評価はしない」

おしまい

あとがき

高峯のあの事件簿も後半突入した早々、次話からラストまでのロングスパート開始です。
後半戦は4年を経て、リメイクすることになるあの話から。

次回は、
浅野風香『高峯のあの事件簿・佐久間まゆの殺人』
です。

それでは。

登場キャラクターリストとシリーズもこの後に載せておきます。

主要キャラクターリスト(第7話時点)

高峯のあ
高峯探偵事務所を営む探偵。資産家、実業家の面も併せ持つ。特技は柔道。趣味は前川みく。
中学生の時に両親を失っており、人格形成に大きな影響を及ぼしている。
スパイシーなものが好きらしい。

木場真奈美
助手その1。生活面等々の他方面から探偵を支えている。
普段はボイストレーナーの仕事をしている。海外生活で身に着けた多彩なスキル持ち。
特に料理、運転、射撃は人並み以上らしい。

佐久間まゆ
助手その2。東郷邸の事件をきっかけに高峯家に居候することになった。
お料理と編み物が趣味の優しい女の子。
火事で両親を失って、親族の所を転々としていた。星輪学園の前に通っていた高校にはあまり馴染んでいなかったようだ。

前川みく
愛称はみくにゃん。とってもかわいいねこちゃんアイドル。
小柄ながらグラマーな体形、ジャズを得意にするなどカワイイねこちゃんなだけじゃないのよ。
12月には清路市でライブが決まっているの。今から準備しないといけないわ。

清路警察署

高橋礼子
清路警察署の署長。階級は警視正。中央でキャリアを積んでいたが、訳あって清路警察署の署長職についたようだ。

柊志乃
刑事一課長。階級は警部。留美とコンビを組み、多大な成果を上げていた。猛者揃いの刑事一課をまとめる女傑。

和久井留美
刑事一課和久井班班長。階級は警部補。趣味は仕事とトレーニング。柔道、空手、剣道、少林寺拳法の有段者。射撃も研鑽中。のあとは前川みくの件も含めて腐れ縁。

大和亜季
刑事一課和久井班。階級は巡査部長。自他共に認める肉体派。留美とトレーニングをしていることが多くなったらしい。

新田美波
刑事一課和久井班。階級は巡査。爽やかで真面目な女性警察官。署内では人気があるらしい。

相馬夏美
少年課の巡査部長。真面目、ストイック、正義感の強いという評価をされている。昔は豊かな体格をしていたようで、ダイエットに精通しているらしい。

仙崎恵磨
少年課の巡査。夏美のバディ。ベリショの溌剌とした若手女性警察官。人情にもろい所があるが、夏美とはバランスがとれているらしい。

片桐早苗
交通課の巡査部長。普段は美世とバディを組んで、パトカーで巡回している。志乃や留美とは飲み友達で、のあと知り合いになった時期も早い。

原田美世
交通課の巡査。パトカーの運転を担当している。将来の夢は交通機動隊らしい。

瀬名詩織
いわゆる白バイ隊員。美しいと評判の白バイ乗りだが、勝負を求めて頼子達と内通している。

斉藤洋子
生活安全課の巡査。普段は防犯教育などを担当している。朗らかな性格で老若男女問わず、特に子供から好かれるタイプらしい。

ヘレン
国際調査官。サンタクロースを追って来日した。本人は実績ある調査官だが、怪しく見られることもしばしば。

松山久美子
科捜研所属。常に白衣着用の美女。個性の強い後輩に囲まれて大変よ、と言っているがあなたもそのうちの一人である。突出したものはないけど一通りできるし、使命感がある、らしい。

一ノ瀬志希
科捜研所属。海外の大学を飛び級で卒業したギフテッド。突然辞職届を残して失踪したが、この度科捜研に復帰した。鼻が強いタイプ。

梅木音葉
科捜研所属。久美子とは所属前から知り合いだった。音楽と同じだからプログラミングも出来るとのこと。耳が強いタイプ。

高峯ビル

相原雪乃
高峯ビル2階、喫茶St.Vのマスター。お嬢様だが自立し、自分の夢だった喫茶店を営んでいる。立てこもり事件では、事件解決に貢献した。

安部菜々
喫茶St.Vのウェイトレス。メイド喫茶の店長に勧められ、St.Vに勤められるようになった。ウサミンメイドサービスは無料で可能、ただし繁忙期不可。

槙原志保
喫茶St.Vのウェイトレス。良く動きよく働く原動力はパフェ。今の規模ならフロアを一人で回すことができるらしい。

海老原菜帆
喫茶St.Vでアルバイトをしている女子高生。フロアやキッチンのお手伝いだけでなく、和風ラインナップ拡充にむけて情報収集や試食を担当しているとか。

太田優
高峯ビル1階、美容室Z-ARTに勤める美容師。お喋りでウワサ好き。最近はまゆと共闘して、のあの長髪保護プランに取り組んでいる。

星輪学園

高森藍子
まゆのクラスメイト。穏やかな性格な女の子。まゆと一番早く打ち解けたそうだ。

川島瑞樹
まゆのクラスの担任。お喋りが得意な花の28歳。口数の少ない副担任とあわせて、話す量は2人分らしい。

クラリス
星輪学園の住み込みシスター。倫理と宗教の担当教員でもある。生徒の悩みを日々聞き、力となることを目標としている。

キュレイターサイド

古澤頼子
『キュレイター』。間接的に事件を引き起こし、人の様子を観察している。現在、行方不明。

渋谷凛
西園寺琴歌を殺害した犯人。実家の花屋を両親と身代わりごと焼殺し、書類上は死亡している。

水野翠
殺し屋。弓矢と短刀が得物の暗殺者。星輪学園の3年生。言動は自罰的でヒステリックと、弓道部の主将を務めていた普段の姿とは異なる。

桐生つかさ
GP社の社長。表向きは学生レベルの事業をしているが、裏では人や物資の手配、真っ当でない仕事の仲介などを行っている。

井村雪菜
『化粧師』。希砂二島の事件を引き起こした張本人であり、死化粧や他人に化けてメッセンジャー行為などを行っている。海外でも活動しているらしい。

イヴ・サンタクロース
爆弾の製造・販売、時に実行を行うサンタクロース。トナカイと呼ばれるメンバーと共に犯罪行為を行っていた。都心迷宮で翠に殺害された。

佐藤心
爆弾魔。爆弾と発火装置を製造していて、彼女の作品は今もまだ存在している。犯行後に自殺。

吉岡沙紀
『ペインター』。西川保奈美の事件で見つかった色が塗られた布や、街中の落書きを担当していた。

シリーズリスト・公開前のものは全て仮題

高峯のあの事件簿

第1話・ユメの芸術
高峯のあ「高峯のあの事件簿・ユメの芸術」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472563544/)
第2話・毒花
相葉夕美「高峯のあの事件簿・毒花」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475582733/)
第3話・爆弾魔の本心
鷺沢文香「高峯のあの事件簿・爆弾魔の本心」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480507649/)
第4話・コイン、ロッカー
小室千奈美「高峯のあの事件簿・コイン、ロッカー」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484475237/)
第5話・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵
安斎都「高峯のあの事件簿・夏と孤島と洋館と殺人事件と探偵と探偵」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503557618/)
第6話・プレゼント/フォー/ユー
イヴ・サンタクロース「高峯のあの事件簿・プレゼント/フォー/ユー」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1513078349/)
第7話・都心迷宮
大石泉「高峯のあの事件簿・都心迷宮」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521022496/)
第8話・『佐久間まゆの殺人』
第9話・高峯のあの失踪
第10話・星とアネモネ
最終話・銀弾の射手(完)

更新情報は、ツイッター@AtarukaPで。

四年前という事実に震える乙

次はどうリメイクされるか楽しみ


今回も読みごたえがあって面白かったです

頼子の邪悪ぶりガクセになるSS

1ヶ月も気付かなかった……
次は例の話すなぁ、
前シリーズのときはうちの担当さん、元子役なのにのあさんに飲まれたりして設定活かせてもらえてなかったし
今度は目立つといいなあ

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