善子「焼き鳥屋・宜候」 (31)
『開店前』
善子「曜はこの辺って言ってたわよね……あ、あった」
善子「『焼き鳥屋・宜候』……なんていうか、そのまんまね…」
善子「まあ、入ってみましょうか」
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善子「…知り合いの店ってなんて言って入ればいいのかしら」
善子「…ご、ごめんください?」ガララ
曜「あ!ようこそ善子ちゃん」
善子「久しぶりね、曜」
曜「来てくれてありがとう!どう?最近」
善子「まあ、ぼちぼちね」
曜「じゃーん!曜ちゃんは店の店長になりました!」
善子「ホントに開いたのね…ビックリだわ…」
曜「どう?どう?この店?」
善子「……いい店だと思うわ、なんだか懐かしい感じ」
曜「やったー!嬉しい!」
曜「…本音を言うと?」
善子「滅茶苦茶狭い」
曜「だよね~カウンター五席だもん」
善子「大丈夫?店として成立してるのこれ?」
曜「そこまで言う…?大丈夫大丈夫、ちゃんとやってるよ」
善子「客はどれくらい来てるの?」
曜「善子ちゃんが初めてのお客さんだよ」
善子「だめだ、この店潰れる」
曜「だって今日から開店なんだもん」
善子「あ、そうなの?」
曜「そうだよ!だからちゃんと日付指定して来てもらったんだ」
善子「なるほどね…」
曜「取り敢えず座ってよ、なんか焼くからさ」
善子「分かったわ……よいしょ…」ギシギシッ
曜「ごめんね、ちょっと椅子がボロくて」
善子「大丈夫、大丈夫……これはこれで木の本来の音を感じられて良いわ」
曜「変に褒めようとして訳分からなくなってるよね」
曜「……」ジュ-ジュ-
善子「……本当に焼き鳥焼くのね…」
曜「嘘だと思った?」
善子「いや…なんていうか突拍子もなさすぎて」
曜「まあ誰にも言ってなかったし…普通そうだよね」
善子「勉強とかしたの?」
曜「二年とちょっと焼き鳥屋さんでアルバイトやってた、その間に色々ね」
善子「ふーん……」
曜「他にもなんか聞きたいことある?」
善子「ねじり鉢巻が異様に似合ってる」
曜「ありがと」
善子「なんで急に焼き鳥?」
曜「…私、学生の頃航海士なるって言ってたじゃん」
善子「ええ、よく言ってたわね」
曜「うん、夢だった。小さな頃からの大切な思い出だから」
曜「でもね、色々あって無理だったんだ」
善子「……」
曜「女だから、とか色々あったけど…結局は気力の問題だったんだと思う」
曜「あはは…この話はやめよっか、お肉が美味しくなくなっちゃう」
善子「…ええ」
曜「まあ、なんやかんやあって…こうして曜ちゃんはスーパー店長になったのです!」
善子「ふふっ…なによそれ」
曜「はい、焼けたよ!まずはオーソドックスにももとねぎまとかわ、タレね」
善子「結構お肉大きいわね…頂きます」
善子「……」モグモグ
曜「どう…?」
善子「うん、普通においしい」
曜「普通て」
善子「いや、ごめんごめん…でも美味しいわよ」
曜「良かった…今まで味見はして来たけど人の感想を聞くのは初めてだから…嬉しい!」
善子「いや、本当に美味しいわよ肉厚だし…炭火のいい香りもするし」
曜「炭火で焼いたお肉って美味しいよね~…我慢出来なくなって来た…私も焼いて食べよ」
善子「ちょっと…それ在庫じゃないの?」
曜「いいのいいの!それよりお酒もあるよ?善子ちゃんもビール飲む?」
善子「あ…頂くわ」
曜「はいよ~~」
善子「………待って、善子ちゃん『も』って何」
曜「まあまあ」
善子「まあまあじゃないわよ」
善子「待って、店員が酒を飲むのはやめて」
曜「やめない!」プシュ
善子「ちょっと」
曜「……ごめん、本当は開店は明日からなんだ」
善子「なんでそんなしょうもない嘘…」
曜「いや…もし五人席埋まってたら善子ちゃんには外で焼き鳥食べて貰わないといけなくなるから…」
善子「何その地獄」
曜「あ、でも夏ならいいかもしれない!海近いし海見ながら焼き鳥とか!……テイクアウトもいいかも」
善子「話聞いてる?」
曜「まあまあ、ほらビール…後砂肝」
善子「ありがと」
曜「じゃあ…乾杯!」
善子「…乾杯」
曜「ゴクッ…ゴクッ…ぷはっ…!やっぱ焼き鳥と言えばビール、ビールと言えば焼き鳥だよね」
善子「ゴクッ……ふぅ…まあ、それはあるわね」
曜「善子ちゃんお酒は好き?」
善子「まあ、そこそこね…一人で飲むことはあまりないかも」
曜「へー…そうなんだ」
曜「どう?最近」
善子「どうって…それなりよ?別段大変な事はないけど忙しいって感じ」
曜「ふうん……」
善子「でも確かに、日々の慌しさに飲まれてると…自営業ってのも羨ましい気がして来たかも…」
曜「いや~……自営業も大変だよ?」
善子「……あなたまだ開店もしてないでしょ」
曜「あはは…バレたか」
善子「新店舗なのに割と……なんていうか…年季の入った感じね」
曜「古いとか言うな!」
善子「オブラートに包んだのに…」
曜「まあ、この辺の家は全部こんな感じだからね…ピカピカの方が却って浮いちゃうよ」
善子「なるほどね……」
曜「ちなみに千歌ちゃんは高一までオブラート知らなかったよ」
善子「え…何その無駄情報…渡されてどうしろって言うの…」
善子「じゃあ、そろそろ帰るわ」
曜「えー…もう?」
善子「……流石に店の在庫食べてそのままっていかないし、お金払うわよ」
曜「……いや、私もお酒飲んで接客しちゃったし」
曜「それに、まだ開店前だし」
善子「でも……」
曜「うーん、それじゃあ……実は一人だと少し手が足りなくて…手伝いして貰えないかな?」
善子「例えば…?」
曜「皿洗いとか…」
善子「ねえ、代金の代わりに皿洗いってそれ食い逃げした人がやらされるやつよね」
曜「まあね」
善子「まあねじゃないわよ」
曜「じゃあ、いつでも来てね~!バイバイ!」
善子「ええ、また」
善子「はあ、焼き鳥屋なんて……昔からは想像も出来ないわね…」
善子「しかし…よりによってこんな所に、ねえ…」
冷ややかな潮風が?を刺す、陽は丁度落ち星々が姿を現し始める頃に善子は帰路に着いた。
照れ臭そうに彼女が紹介していた店構えを思い起こす。煙の匂いの染み付いてない、なのに少し古めかしい作りの店。
その名は…「焼き鳥屋・宜候」
その店は少し寂れた、しかし、綺麗な海や山々に囲まれた海岸通りの町。太陽の温かさを一杯に感じられる、潮の香る町。
そんな内浦に店を構えていました。
『パトロン』
鞠莉「あ、善子からLINEね……何々…」
鞠莉「『曜が店を開いたそうです、あなたの家にも近いわよ』なにそれ初耳…」
鞠莉「日曜は定休日だから閉まってる、あと20日には来ないこと……」
鞠莉「…………な、ん、で、20日はダメなの…っと」
鞠莉「あ、返信来た…ええと『なんでもよ!』……」
鞠莉「…………」
鞠莉「20日に行こ、実家近いし」
鞠莉「こんにちはー!」
曜「いらっしゃいませ……って鞠莉ちゃん!」
鞠莉「曜久しぶり~!元気にしてた?」
曜「え、元気だけど……どうしたの?」
鞠莉「いや…そこの皿洗いから教えてもらってね、丁度近くに行く機会があったから来てみたのよ!」
善子「……誰が皿洗いよ!」
鞠莉「実際皿洗ってるじゃない、食い逃げでもしたの?」
善子「してない!」
鞠莉「取り敢えず座らせてもらうわ」
曜「はい、お冷とおしぼり……鞠莉ちゃんは最近どうしてた?」
鞠莉「ここ数年は海外を飛び回ってたけど…やっと落ち着いて日本に居られるようになった…って感じかな」
鞠莉「あ、ももとぼんじりとせせり、タレで」
曜「ヨーソロー!了解しました!」
鞠莉「あ!それ久しぶりに聞いた!やっぱ注文受けるたびに言うの?」
曜「ううん、今初めて言った」
鞠莉「ふふ…なにそれ…あ、ビールお願い」
曜「はい鞠莉ちゃん、ももぼんじりせせりだよ」
鞠莉「どうも」
曜「善子ちゃんももう終わっていいよ、こっち来て一緒に飲もうよ」
善子「待って、あなたまた飲むつもり?」
曜「いや…だってお客さんもう来ないし…」
鞠莉「……大丈夫なのこの店?お客来てる?」
善子「もう誰からも心配されてるじゃない……私が皿洗ってる間にも二、三人しか人来てないし…」
曜「実はね、お客さんが一番来るの午前中なんだ」
善子「なんでよ?」
曜「漁師さんが帰って来るから」
鞠莉「あぁ……なるほど」
曜「海に出た後は肉が食べたいみたい…あと近所のおばあちゃんとかだね、夕食に一品足したいとか」
曜「話が逸れちゃったけど気を取り直して…乾杯!」
鞠莉「かんぱーい!」
善子「…乾杯」
鞠莉「ゴクッ…ゴクッ…ふぅ…うん、入れ方がいいわね!」
曜「どうも!結構練習したんだ」
鞠莉「お肉もジューシーでいいわね、肉の脂が美味しい」
曜「善子ちゃんもなんか食べる?」
善子「……食べたらまた皿洗いさせられる気がする」
曜「大丈夫、まかないだよ」
善子「本当…?」
曜「本当本当、曜ちゃん嘘つかない」
善子「…………ももとレバー」
鞠莉「あ、かわとつくね頂戴」
曜「あいよ!」
鞠莉「なんでまた焼き鳥屋?」
曜「肉が焼きたかったから」
鞠莉「そんな衝動ある?」
曜「あはは……まあ色々あってね、話せば長くなるんだけど」
鞠莉「そう……あ、ビールもう一本もらえる?」
曜「はいはい~」
鞠莉「そういえば、善子も割と久しぶりよね」
善子「そうだっけ…?」
鞠莉「どう、最近?」
善子「どうって…まだ学生だから…それなりに忙しく過ごしてるわ」
鞠莉「あれ、そうだっけ?」
善子「じゃなかったら皿洗いになんか来れないわよ…」
曜「焼けたよ~!こっちが鞠莉ちゃんのでこっちが善子ちゃんのお皿」
鞠莉「来た~!ありがと!」
鞠莉「しっかし…時間って過ぎるものね…」
善子「何よ…急にオバさんみたいな事言って」
鞠莉「いや出会った頃からすると…まさかビール片手に焼き鳥一緒に齧る羽目になるなんてねえ……」
曜「場所はあんま変わってないけどね、前もこのあたり」
鞠莉「そういえば…なんでここに店構えたの?」
曜「うーん……なんでだろ?」
善子「質問で返してどうすんのよ」
曜「いや、物件を探してたら目に止まって…それで」
曜「………実はね、このお店をやろう、ってなるずっと前…ちょっと失敗しちゃって…塞ぎこんじゃってたんだ」
鞠莉「……」
曜「その後、やり直そうってなった時選んだのが此処だった」
曜「もう一回のスタートは不安だったけど……ここなら何となく…もう一度上手く行く気がしたんだ」
鞠莉「そう…色々あったのね…」
曜「……うん」
鞠莉「ま、私は嬉しいわ!実家に居ればいつでも行けるし!」
曜「…うん!いつでも来てね」
鞠莉「OK~!じゃあ取り敢えずねぎまとハツとかわ!タレで!」
曜「ヨーソロー!承りました!」
鞠莉「支払いは善子の皿洗いでお願い」
善子「…なんでよ!」
曜「あはは……」
鞠莉「二人でお店やってくなら私もやりたい……!」
善子「いや、あなた忙しいでしょ…まず私従業員じゃないし」
鞠莉「それは…ほら、パトロン的な」
曜「小原家がパトロン…いい…!」
善子「欲望に忠実なのやめなさいよ」
鞠莉「パトロン小原、皿洗い善子」
善子「私皿洗いじゃないから!」
鞠莉「パトロン小原ってドルトムント香川みたいじゃない?」
善子「まって、何の話?」
串に打たれた肉を焼く音が店に響く。炭火を収める機械はまだ汚れの無くピカピカの新品だ。店主を名乗るには些か若々しい彼女がいつに無く真剣に肉の様子を見つめている。その様子が少し、微笑ましく見えてきた。
鳥の脂を酒で流し込み、ほっと一息つく。こんな時間がたまらなく好きだ、人生で最も好きだ。酔いでぼんやりした頭でそう考える。
道すがらの電灯に明かりが灯り始めた。登る煙に香る脂の焼けた匂い。昔馴染みの三人が姦しく、賑やかに時を過ごしていく。
一旦おしまい
言い方が違ったかも
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つまんね
面白かったぞ!
ふぜいがあっていい感じ
期待してるで!
好き
続きもぜひ
こういうの大好き!
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