双葉杏「飴喰い」 (74)
嘘喰いとのクロス
嘘喰い側のキャラは登場しません
千枝「えーっと、CGプロ、CGプロ……」
千枝「名刺の住所だとこの辺のはずなんだけど……あ、ここかな」
千枝「緊張してきた……でもアイドルになるためっ!」
コンコン ガチャ
千枝「こ、こんにちはっ!佐々木千枝ですっ!」
シーン
千枝「…………あれ?」
千枝「こ……こんにちはー!」
千枝「…………誰もいないのかな、でも鍵は開いてるし……」
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杏「んー……杏の眠りを邪魔するものは誰だー」モゾ
千枝「わっ!?」
千枝「ご、ごめんね、私、佐々木千枝っていうの!」
千枝「あの、プロデューサーさんはいるかな……?」
杏「プロデューサーは今いないよ」
杏「もしかしてスカウトされたのって君?」
千枝「うん、そうなんだ!」
杏「へー、そういえば今日来るとか来ないとかプロデューサーが言ってたっけ……」
杏「ともかく今はプロデューサーいないからさ、適当に待っててよ」
杏「あ、ちなみに私は双葉杏、一応ここのアイドル」
千枝「じゃあ先輩だね、よろしくっ!」
ガチャ
マキノ「戻ったわ」
きらり「おっすおっす☆」
杏「おかえりー」
千枝「こ、こんにちは!」
マキノ「あら、例の新人さん?」
千枝「はじめまして、佐々木千枝っていいます!」
きらり「うきゃー☆かわいーっ!」
杏「こっちが八神マキノ、んでこっちが諸星きらり」
マキノ「よろしく」
きらり「おにゃーしゃー☆」
千枝「よろしくお願いします!」
杏「それと……」
P「ただいま…………おや」
杏「知ってると思うけどあの頼りなさそうなのがうちのプロデューサー」
P「あはは、厳しいなあ……」
千枝「そんなっ!とっても優しくて誠実で、素敵な人だと思います」
千枝「千枝、声をかけてくれたのがプロデューサーさんじゃなかったらアイドルになろうとは思いませんでしたから!」
P「ありがとう千枝ちゃん、これから一緒に頑張っていこうね」
千枝「はいっ!」
杏「ま、アイドルも仕事も少ない弱小プロダクションだけどねー」
きらり「杏ちゃん、そんなこと言ったら、めっ!」
マキノ「でも事実ね」
P「みんなでこれから頑張っていけばいいさ」
千枝「じゃあ千枝がいっぱい頑張ってプロダクションを大きくします!」
杏「頼もしいね、その調子で杏の分まで頑張ってくれていいよ」
きらり「もー!杏ちゃんったら……」
ガチャ
ちひろ「こんにちはー」
きらり「あ、ちひろさんだーっ☆」
ちひろ「今日も楽しそうですね。ドリンクはいかがですか?」
P「あ、一本いただけますか?」
ちひろ「はい、いつもありがとうございます」
千枝「あの、はじめまして!私、今日からアイドルになった佐々木千枝です!」
ちひろ「あら、かわいい新人さんですね。小学生かしら?」
千枝「はい!11歳です!」
ちひろ「私は千川ちひろです、よろしくね」
千枝「よろしくお願いします!」
千枝「……えっと、ちひろさんってアイドルなのにドリンク売ってるんですか?」
ちひろ「……うふふ、私はこちらのアイドルじゃないんですよ」
千枝「ええーっ!?こんなに綺麗なのに。じゃあ事務員さんですか?」
ちひろ「いいえ、社員でもありません」
千枝「え?じゃあ……」
マキノ「ちひろさんは定期的にうちにドリンクを売りに来てくれる外部の人よ」
ちひろ「私は千川製薬の販売員で、こちらのプロダクションはお得意様なのよ」
P「うちの社長が千川製薬の社長さんと知り合いらしいんだ、その縁でね」
千枝「そ、そうだったんですか……すいません、間違えてしまって」
ちひろ「いえいえ、かまいませんよ」ニコニコ
杏「別にいいんじゃない?ちひろさん、アイドルに間違われて満更でもなさそうだし」
ちひろ「ふふふ……」ニコニコ
千枝「あ、杏ちゃん……」
ちひろ「それにしても、またアイドルが増えて一段と賑やかになりましたね」
千枝「そういえば杏ちゃん、アイドルの人は今ここにいる人だけ?」
杏「まだあと何人かいるけど今日来るのはこれだけかな」
千枝「そっかあ……早く挨拶したいな」
ちひろ「敬語を使わないで普通に話すなんて、千枝ちゃん、杏ちゃんと仲良しなのね」
きらり「それ、きらりも思ってたにぃ☆うきゃー!」
千枝「え?」
マキノ「もしかして…………杏、あなた千枝に年齢を言ったのかしら?」
杏「言ってないよ」
千枝「え?え?」
マキノ「やっぱり……」
ちひろ「あら……」
きらり「うきゅ?」
P「あはは……」
千枝「えっと……?」
ちひろ「あのね千枝ちゃん、杏ちゃんはこう見えて17歳、高校生なの」
千枝「え……?」
千枝「ええーーーっ!?」
千枝「杏さんごめんなさい!千枝、とっても失礼なことをしてしまいました!」
杏「別に気にしてないよ、言葉遣いだって別にどっちでもいいし」
千枝「うう……同じくらいの身長だからてっきり同い年かと……」
ちひろ「勘違いするのも無理ないわね、私も最初に知ったときはビックリしましたし」
マキノ「誰もが通る道ね」
きらり「うぇへへ☆杏ちゃんかわいいからしょうがないにぃ!」
ちひろ「さて……私はそろそろ失礼させていただきますね」
P「おっと、もういい時間だ。皆はレッスンに行ってくれ」
P「千枝ちゃんは今日は見学しようか」
千枝「はい!」
杏「レッスンかー、気が乗らないなー」チラッ
P「はいはい、わかったよ……ほら、飴」
杏「しょうがないなあ、もらった分は働くよ」パク
P「よしよし……千枝ちゃん、ここではうまくやっていけそうかい?」
千枝「はい!みなさんとっても優しくて、楽しいです!……ふふっ」
数日後
トレーナー「……じゃ、いったん休憩にしましょうか」
杏「ようやくか、あー疲れた」
千枝「杏さん、今日は珍しく真面目にやってましたね」
杏「まあ今日は演技のレッスンだからね、歌やダンスよりは楽だし」
千枝「そういう理由なんですか……」
きらり「杏ちゃん頑張ってたから飴あげゆーっ!」
杏「うむ、くるしゅうない」パク
ガチャ
P「調子はどうかな」
千枝「あ、プロデューサーさん!」
千枝「千枝、演技が上手ってたくさん褒められました!」
P「そうなのかい?」
トレーナー「彼女、飲み込みが早くて……演技に向いてると思います」
マキノ「ええ、私も同感ね」
P「そうでしたか、それはちょうど良かった」
千枝「?」
P「実は千枝ちゃんにドラマの仕事が取れてね、といっても出番はちょっとだけなんだけど」
千枝「本当ですか!?」
杏「やるじゃん、プロデューサー」
P「やってみたいかい?」
千枝「はい!ぜひ!あ……でも、千枝にできるかな……」
P「大丈夫、千枝ちゃんならできるよ」
トレーナー「じゃあ千枝ちゃんのレッスン内容をそのお仕事に合わせましょうか」
P「そうしてください」
P「じゃあ千枝ちゃん、わからないことがあったらみんなに何でも聞くんだよ、もちろん僕にもね」
千枝「はい!プロデューサーさん、頼りにしてますね!」
千枝(頑張らなきゃ!)
数日後
監督「カット!OKでーす!」
スタッフ「いったん休憩入りまーす」
千枝「ふう……」
P「おつかれさま、千枝ちゃん」
千枝「千枝、うまくできてましたか……?」
P「うん、一発OKだったし言うことなしだよ」
千枝「本当ですか……!?やったぁ!」
P「ところでさ、悪いんだけど、今日はこのテレビ局でもう一本仕事があって」
P「もうすぐ始まるからそっちに顔を出さないといけないんだ」
P「なるべくすぐに戻ってくるけど、少しの間一人でお仕事できるかい?」
千枝「はい!大丈夫です」
P「うん、いい返事だ。それじゃ、頑張ってね」
千枝「行っちゃった……少し心細いけど、これくらい一人で出来るようにならないと……!」
千枝「台本読んでよう……」
??「ん……?あの子……ふふふ」
千枝「ここは……プロデューサーさんに教わったとおりに……」
??「こんにちは、お嬢ちゃん」
千枝「え?こ、こんにちはっ」
千枝(誰だろう……スタッフさんかな……?)
??「台本読んでるのかい?頑張り屋さんだねえ」
千枝「あ、ありがとうございます」
??「少しおじさんとお話しないかい?」
千枝「いいですよ……」
千枝(この人、なんかやな感じがする……あんまりお話したくないけど……)
??「初めて見たけど新人さんかな?」
千枝「は、はい」
??「お名前は?」
千枝「佐々木千枝っていいます」
??「千枝ちゃんかあ、かわいい名前だね……何ていうプロダクションだい?」
千枝「CGプロです」
??「CGプロ……CGプロ……ああ思い出した」
??「あの弱小……ゴホン、まだあまり大きくないプロダクションだね」
??「CGプロということは、君は役者さんじゃなくてアイドルかな?」
千枝「はい、一応……」
??「そっかそっか、アイドルかあ、いいねえ、うん」
千枝「?」
??「いやー、気に入った、僕は君のことが気に入ったよ」
千枝「え?」
??「おっと、自己紹介がまだだったね」
重役「僕はこの○○テレビの重役……つまり、結構偉い人なんだ」
千枝「重役、さん……?」
重役「僕は千枝ちゃんのことが気に入ったから、千枝ちゃんに特別なお仕事を紹介したいんだ」
千枝「特別なお仕事……?」
重役「ああ、とっても楽しくてやりがいがあるお仕事だよ」ニヤァ
千枝「」ビクッ
千枝「あの、千枝よくわからなくて、プロデューサーさんに言ってもらえますか……?」
重役「千枝ちゃん、これはとっても大事なお仕事だから、内緒にしててほしいんだ」
重役「もちろんプロデューサーさんにも、誰にも言っちゃダメだよ?」
千枝「あの、えっと、ごめんなさい……!」ダッ
重役「おっと」ガシ
千枝「ひっ……!」ビクッ
重役「逃げることはないじゃないか千枝ちゃん……」
千枝(助けて、プロデューサーさん……)
重役「千枝ちゃん、わかるだろ……?」
重役「僕は重役、偉い人なんだ……」
重役「僕が本気を出せば、君の小さなプロダクションを潰すのなんてわけないんだよ……」
千枝「!!」
重役「君が拒めばプロダクションのみんなに迷惑がかかる……」
重役「君のせいでお友達がアイドルをやれなくなるのは嫌だろう?」
千枝「あ……あ……」ガタガタ
千枝(千枝のせいで……みんなが……プロデューサーさんが……)
重役「千枝ちゃんはいい子だから分かるよね」
千枝「…………」
重役「今夜、この近くにある××ホテルの811号室に、君一人で来るんだ」
重役「それじゃ、今夜は一緒に楽しくお仕事しようね、千枝ちゃん」スッ
千枝「…………」
千枝「うぅ……どうしよう……」
杏「やっほー」
千枝「あ、杏さん!?」
千枝(今の、聞かれてないよね……!?)
杏「杏も今日ここの局で仕事だから、ついでに様子見に来たんだ」
千枝「じゃあ、プロデューサーさんが言ってたもう一本のお仕事って杏さんだったんですね……」
杏「そ」
千枝「…………」
杏「…………ところで、さっきのってさ」
千枝「!?」ビクッ
千枝「あのっ!もう休憩終わるので千枝行きますねっ!」ガタッ
杏「あっ…………ったくもう」
ピ ピ プルルルル
杏「あ、もしもしマキノ?休みなのに悪いんだけどさ……」
杏「うん、そう、『仕事』」
杏「○○テレビの重役について調べてほしいんだけど」
千枝「…………」
P「……監督さんに聞いたよ、休憩明けからNGが増えたって」
千枝「…………」
P「やっぱり緊張しちゃったかな、それとも疲れて調子を崩しちゃった……?」
千枝「…………」
P「まあ、今回が初仕事だし、誰だって失敗はするよ。監督さんだって怒ってなかったし」
千枝「…………」
P「……すぐに戻って来れなくてごめんね。やっぱり無理言ってずっと付き添うべきだったかな」
千枝「……プロデューサーさんは悪くないです」
P「……気を取り直して、次頑張ろ」
千枝(失敗したのに、プロデューサーさん優しい……)
千枝(そんなプロデューサーさんに、千枝のせいで迷惑が……)
千枝「…………」ジワァ
千枝「ごめ……なさい……ごめんなさい……」ポロポロ
千枝「ごめんなさいっ……千枝のせいで……プロデューサーさんに迷惑が……!」ポロポロ
P「だ、大丈夫大丈夫、これくらい大したことじゃないって」
千枝「千枝が……千枝なんか、アイドルにならなければ……」ポロポロ
P「それは絶対にないよ!僕は千枝ちゃんはアイドルに向いてると思う」
千枝「…………えへへ……ありがとうございます……」
千枝(あの人の言う『お仕事』がどういうものか、なんとなく分かる……)
千枝(お仕事したら、たぶんもうプロデューサーさんのそばにいるのが辛くなる……)
千枝(だから……言わなきゃ……!)
千枝「少しの間だったけど……みんなと、プロデューサーさんとアイドルがやれて楽しかったです」
P「えっ!?」
千枝「千枝、プロデューサーさんにスカウトしてもらえて幸せでした……」
千枝「本当に……ありがとうございました……」グスッ
千枝「それじゃ……」スッ
P「ち、千枝ちゃん……!」ガタッ
千枝「来ないでくださいっ!」
P「っ……」ビクッ
千枝「…………さようなら」タッ
千枝(これでいいんだ……)
夜
千枝「811号室……ここだ」
千枝「ノックしなきゃ……」
千枝(怖いよ……手が震える……)
千枝(杏さん……マキノさん……きらりさん……)
千枝(プロデューサーさん……)
千枝「千枝が……いかなきゃ……」
千枝「…………」ゴクッ
千枝「…………」スッ
??「…………」
重役「おい、準備は整ったか?」
黒服A「はい、ばっちりです」
黒服B「こっちもOKです」
重役「よし……ふふふ、あとは千枝ちゃんの到着を待つだけだな」
コンコン
重役「お、噂をすれば……」
ガチャ
杏「…………」
きらり「おっすおっす☆」
重役(なっ、何だこいつらは!?)
コンコン ガチャ
千枝「あの……」
マキノ「待っていたわ」
千枝「ま、マキノさん!?」
千枝「あの、杏さんにここに来るように言われて……」
マキノ「ええ、全て把握しているから大丈夫よ」
千枝「ええと、いったい……」
マキノ「さて、あなたには色々手伝ってほしいことがあるの」
重役「……お嬢ちゃんたち、部屋を間違えてないかい?」
杏「ここで合ってるよ。私はあんたに用があって来たんだから」
重役「……はて、君たちとは初対面だった気がするが」
杏「私は千枝の代理で来た双葉杏。あ、こっちのきらりはただの付き添いみたいなものだから気にしないで」
重役「代理……?」
杏「杏はお願いをしに来たんだ」
杏「千枝が困ってるし、プロダクションに迷惑がかかるからやめてほしいんだよね」
杏「だから金輪際うちのプロダクションには手を出さないって約束してほしいんだ」
重役「くくく……お願い、約束か」
重役「千枝ちゃんに相談されたのかな?子供らしい純粋な発想で微笑ましいねえ……」
重役「だが答えはNOだ」
杏「ま、そう言うと思ってたよ」
重役「僕はね杏ちゃん……千枝ちゃんに、フフッ、手を出したくてたまらないんだ」
重役「一目惚れだったんだよあれは……どうしても僕のものにしたくなったんだ……」
重役「それなのに諦めろなんて納得できると思うかい?」
杏「杏に聞かないでくれる?」
重役「せめて杏ちゃん、君が今夜千枝ちゃんの代わりにでもなってくれないと……」
杏「いいよ、それでも」
重役「……は?」
杏「あ、もちろん杏はあんたがこれからここで何をしようとしているか理解した上で言ってるから」
重役「……ぐひ、ひひ、本当かい?杏ちゃん」
杏「ただし、杏に勝ったらね」
重役「何?」
杏「杏と勝負しようよ。あんたが勝ったら杏のことを好きにしていいよ」
杏「そのかわり杏が勝ったらさっきの約束を守ってもらうよ」
重役「……その話、確かなんだろうな?」
杏「興味を持ってもらえたみたいだね」
杏「それじゃあお互い約束を破らないように証人となる人を呼ばせてもらうよ」
杏「きっと勝負を受けてもらえると思って既に呼んどいたからすぐに来るはず」
重役(証人……?)
コツ コツ コツ
??「賭郎、拾伍號立会人……」
コツ コツ コツ
ちひろ「千川ちひろでございます」
重役(何モンだこいつは……なんだか妙な話になってきたぞ)
重役(適当にガキの勝負のままごとに付き合ってやりゃいいと思っていたが……)
ちひろ「こんばんは杏ちゃんにきらりちゃん、立会人として会うのは久々ですね」
杏「そういえば黒スーツのちひろさんを見るのは久しぶりだね」
きらり「ばっちしキマってるにぃ☆」
ちひろ「そんなことよりドリンクはいかが?」
杏「商魂逞しいね、でも今はいいかな。ドリンク味の飴だったら買うんだけど」
きらり「そんなの買うの杏ちゃんだけだにぃ……」
重役「ちょっと待ってくれよ、君たちの知り合いか?それじゃグルってことじゃないか」
重役「大体何なんだ、カケロウだの、立会人だの……」
ちひろ「賭郎とは、勝負の場に立会人を派遣し、勝負の取り仕切りと賭けたものの取り立てを確実に行う組織でございます」
ちひろ「ご安心ください、賭郎の名にかけて公正中立に立会いを務めさせていただきます」
重役(ますます分からん……そんな組織聞いたこともないぞ)
重役(しかしこの女、何かただならぬ雰囲気を感じるのは確かだ……)
重役「言っとくがな、僕はまだ勝負を受けるとは言ってないぞ。だいいち勝負の方法だってわからないのに……」
杏「勝負は適当でいいよ、なんならトランプとかでもいいし」
重役(トランプ……!?)
重役「よしわかった、勝負を受けよう。僕の得意なポーカーで勝負だ!」
杏「ずいぶん変わり身が早いね」
重役「ふん、勝負方法は重要なんだから当たり前だろう」
杏「ポーカーでも何でもいいけど、だったらあの端に寄せてあるテーブルと椅子を出してもらわないと」
重役「分かっている。おいお前たち!」
黒服AB「はっ」
重役「テーブルを運べ!いいか?この位置だぞ」
重役「おっとその前に、このノートPCはテーブルにあると邪魔だからしまっておかないとな」パタン
ちひろ「テーブル、大きくて二人ではちょっと大変でしょうし、手伝いましょうか?」
重役「あんたはあやしいから手を出さないでくれ!……おい、動かしすぎだ!もっとこっちに寄せろ」
杏「細かいねえ」
重役「何でもいいだろう……今度は椅子だ、こことここに置け……ずれてるぞ!」
ちひろ「……さて、今回の勝負内容や細かいルールを対戦者同士の話し合いで決めていただきます」
ちひろ「……では、今回の勝負内容を確認させていただきます」
ちひろ「勝負方法はポーカー。シンプルな古典的ポーカーです」
ちひろ「プレイヤーそれぞれに5枚のカードを配り、一度だけカードの交換を行います」
ちひろ「その後ベットに移ります。各プレイヤーのチップは100枚」
ちひろ「ベットの最小単位はチップ5枚。1ゲームの最大ベットは50枚とさせていただきます」
ちひろ「なお各プレイヤーはゲーム開始時点でチップ5枚を既に賭けている状態でスタートします」
ちひろ「チップがゼロになったものが敗者となり、勝負終了です」
ちひろ「重役様が勝った場合、双葉様を文字通り自由に扱うことができます」
ちひろ「双葉様が勝った場合、重役様はCGプロダクションに対してあらゆる形で手出ししないことを約束していただきます」
ちひろ「なお、勝負中は以下の取り決めをさせていただきます」
ちひろ「1、暴力行為は禁止」
ちひろ「2、発覚しないイカサマに関して賭郎は一切関与しない」
ちひろ「……以上でよろしいですね?」
重役「問題ない」
杏「いいよ」
ちひろ「それではこれより、重役様と双葉様の勝負を始めさせていただきます!」
ちひろ「ディーラーは私が務めさせていただきます。カードは新品未開封のものを使用するのでご安心を」ピッ
ちひろ「ジョーカーを抜き、カードのシャッフルをいたします」
シャッ シャッ シャッ シャッ
パララララ
ちひろ「ベットを行う順番はいかがなさいますか?」
杏「何でもいいよ」
重役「私もどちらでもいいが……では先手はそちらに譲ろう」
ちひろ「かしこまりました。では以降のゲームでは交互に順番を入れ替えていきます」
ちひろ「カードを5枚づつ配ります……」シャッ シャッ
ちひろ「お待たせいたしました。では双葉様より第1ゲーム、スタートです」
杏「ちひろさん、3枚お願い」
重役「僕は2枚交換だ」
ちひろ「はい」シュッ シュッ
杏「レイズ、様子見で10枚かな」
重役「受けよう、コールだ」
ちひろ「では、カードオープン」
杏「ワンペア」
重役「ツーペアだ」
ちひろ「重役様、チップ10枚獲得です」
重役「ふふん、まずは僕の勝ちだな」
杏「次行こうか」
※このSSでは「レイズ○○枚」といったとき
レイズ後の合計枚数が○○枚になる、という意味だと思ってください
重役「ストレート」
杏「ツーペア」
杏「レイズ」
重役「……フォールドだ」
重役「レイズ、30枚」
杏「フォールド」
重役「ふふふ……残念、僕の手はブタだ」
杏「……」
重役「ハッハッハ、完全に僕のペースだ。言っただろう?ポーカーは得意だと」
重役「お嬢ちゃんが僕に挑むのはまだ早かったかな」
杏「さあ、どうだかね」
重役「ふん、ここまでやって来て勝負を挑むだけあって、ポーカーフェイスだけは一人前だな」
重役「だが相手が悪かったな。僕はこの芸能界でさまざまな人間を見てきた」
重役「誰かを蹴落とさなければ成り上がれない過酷な世界だ」
重役「相手の裏をかいて出し抜こうとする奴なんてごまんといる」
重役「僕はそんな競争を勝ち抜き大手テレビ局の重役まで実力でのし上がった男なのだよ」
重役「人の考えを読むのなんか容易いことさ。お嬢ちゃんみたいなチビッコに勝ち目はないね」
杏「いいから続けてよ」
重役「……その強がりがいつまでもつかな?」
重役(…………なァ~~んつって!うっそで~~~す!)
重役(人の考えなんか読めるわけねーだろマヌケめぇ~~!)
重役(俺にはお前の手が『見えて』いるんだよッ!)
重役(この部屋にはなぁ、至る所にカメラが仕掛けられているんだ!)
重役(そしてその映像は無線LANでリアルタイムに配信されていて)
重役(この俺の手元のスマホで自由に見れるんだよぉ~~っ!)
重役(テーブルと椅子をうまいこと配置して、お前の後方のカメラから手がバッチリ映るようにし……)
重役(そしてスマホはこうやって俺のひざの上に置いておけば……)
重役(テーブルがでかいから杏ちゃんからもこのババアからも死角だァッ!)
重役(元々は『お仕事』中の女の子を隠し撮りして色んな角度から眺めるためのものだったが……)
重役(お前がトランプと口走ったときピーンときたぜ!)
重役(このポーカーのように自分の手を隠し持つゲームなら俺はカメラを利用して勝てる!ってな!)
重役(ま、本来ノートPCで見るためのものだったからスマホの画面だとちょっと見づらいが……)
重役(カードの種類を確認するには十分!)
重役(おかげでここまで余裕で勝たせてもらったぜぇ~~!)
重役(お前が俺のものになるのも時間の問題だ……杏ちゃん!)
重役「1枚交換だ」
杏「杏は3枚」
ちひろ「はい」シュッ シュッ
重役(よし、いいカードだ)
杏「……」チラッ スッ
重役(ん?なぜ投げられたカードをチラッと確認するようにめくってから手に加えるんだ?)
重役「びびってカードを確認するのも怖くなったのかい?」
杏「いや……そろそろかも、って思ってね」
重役「ふはは、劣勢だから一発逆転の大物手が入りますように、ってことかい?敗者の思考だね、それは」
重役(奴の手は……ふむふむ、ツーペアか。まずまずの手だ)
杏「レイズ」
重役「コール」
重役(うんうん、勝負したくなるよなあ、悪くない手だもんな……だが!)
杏「ツーペア」
重役「残念だったなぁ……フラッシュだ!」
重役「くくく……あはははは!」
杏「…………」
重役「大物手は来なかったようだなぁ!これでお前は終わりだ!」
杏「なんで?」
重役「分かってないのか!?マヌケめッ!これで今お前のチップは50枚、俺は150枚!」
重役「50枚ってことは1ゲームの最大ベット枚数と同じだッ!」
重役「次からお前が勝負してきたら俺は50枚賭ける!果たして命がけの勝負が出来るかな?」
重役「そして……今までのゲームで分かっただろう?お前の考えが読める俺に負けはない!」
重役「言っておくが降りたって無駄だぞ……じわじわ追い詰められるだけだからな」
重役「分かったらさっさと降参……」
杏「じゃ、次のゲームいこうか」
重役「……チッ!」
重役「3枚交換だ」
杏「杏も3枚」
ちひろ「……」シュッ シュッ
重役(くくく……ツーペアじゃないか……)
重役(まぁたいてい勝てるだろう……)
重役(仮に向こうにいい手が入っていても、ガキなんざちょっとプレッシャーかけてやれば降りるだろ)
重役(さて、奴の手はっと……)
杏「……」チラッ パサッ
重役(む……?一瞬だけ見てまた伏せた?何を考えてやがる、おかげでカードを確認できなかった……)
重役(くそ、スマホの小さい画面だと見にくいな……ノートPCなら見えてただろうに)
杏「いやー、今日の杏はついてるね」
重役「……何?」
杏「ふう」パサッ
重役「なぜ残りの手札も伏せる?」
杏「気にしないでよ、すぐにすむから」
杏「ちょっと…………飴を食べるだけだから」
重役「……」
杏「飴っていいよねぇ……舐め終わるまでの短い間、夢を見せてくれる」ゴソ
杏「特にこの個包装をあける瞬間がたまらないね、いい飴ってのは見た目でも楽しませてくれるんだ」ピッ
杏「うん、いい色だ……さて、お味は……」パク
杏「んー、あまーい……」コロコロ
重役「……絶体絶命だというのにずいぶんとのん気なものだな」
杏「だって勝つのは杏だからね」
杏「じゃ、再開しようか」スッ
重役(奴がカードを手に取る!映像を見ておかねば)
ザー
重役(なっ、映像が途切れた!?こんな大事なときに……)
パッ
重役(なんだ、一瞬で直ったじゃないか……ふう、焦らせやがって……)
重役(ん?1秒足らずだが映像に遅延が発生しているな……)
重役(さっきの途切れといい何なんだ、やはりスマホで見ると重いのか?)
重役(まあいい……遅延だけならカードの確認に支障はない)
重役(さて自信満々の奴の手は……)
重役(なにっ!?)
重役(ブタだとぉ~~~~~っ!?)
重役(ふふふ……そうか)
重役(さっき言っていた、ついてるだの勝つのは自分だのというのは)
重役(つまるところ全てブラフ!強がってるに過ぎないというわけか)
重役(ははは、泣けるねえ……さて俺のベットだが)
重役(ブタってことは勝負してこない。今50枚賭けても得られるのは5枚だけ……)
重役(ならば適当にブラフに乗って賭け金だけ吊り上げさせるか)
重役「レイズ、10枚だ」
杏「あれ?50枚賭けてくれないの?」
重役「ふん、ならもっとレイズしてみたらどうだ?」
杏「わかったよ、じゃあレイズ、30枚」
重役(ずいぶん強気だな、ガキのくせに)
重役「レイズ、40枚だ」
重役(ま、このへんが限度だろう)
杏「レイズ……」
重役(何、まだ上げてくるか……)
杏「────150枚」
重役「はぁっ!?」
重役「いきなり何言ってんだッ!上限は50枚だし、そもそもお前にそんなチップはないだろうがッ!」
杏「分かってるってば、まあ聞いてよ、相談があるんだ」
杏「あんたの言ったとおり、杏はこのままだとすぐに終わっちゃう」
杏「まだ一度もまともに勝ててないのに、こんなのってあんまりだよ」
杏「だからさ、今回に限って上限を撤廃して、追加のチップを賭けさせて欲しいんだ」
杏「もちろんタダでとは言わないよ。杏が負けたらきらりのことも好きにしていい」
重役「!」
杏「杏の体を賭けてチップ100枚なんだから、きらりもチップ100枚にして欲しいな」
杏「そうすれば杏のベットは150枚、あんたの手持ちも150枚」
杏「杏にも勝つ可能性のある勝負が出来るでしょ?」
杏「お願いだからこのレイズを認めて勝負を受けてよ」
重役「……」
重役(こいつッ……とんだ食わせ者だッ……!)
重役(奴の狙いは最初からこれだったんだッ……!)
重役(ただのブラフじゃない……想定の外から来る悪魔じみたブラフ……!)
重役(こんなイカれた提案をされたら普通はビビッて降りちまう……)
重役(せっかくリードしているのに一か八かの勝負をする理由はないからな……)
重役(たとえブラフの可能性が頭をよぎったとしても、だ)
重役(つまり受けさせるためでなく降ろすための提案……!断ることこそ奴の目論見……!)
重役(相手は提案を断り今回のゲームからも降り、奴は賭け金40枚をせしめるという算段……)
重役(まんまとチップを吊り上げられていたのは俺のほうだったっ……!)
重役(ブタでここまでのハッタリをかます胆力とガキとは思えない強かさは褒めてやる……だが!)
重役(無駄ッ!無駄ッ!無駄ッ!俺には貴様の手が見えているんだァ~~ッ!!)
重役(なにもかもお見通しだッ!その手がブタだってこともッ!その精一杯の虚勢もォォォッ!)
重役(お前は俺が断るものだと思ってるんだろうが……俺は受けるぞッ!)
重役(お前のレイズに対する俺のコールだから、俺が受けたが最後ッ!お前はもう降りられんッ!)
重役(ヒヒヒ……杏ちゃん、俺が受けると言ったときの君の青ざめた顔、見るのが楽しみだ……)
重役「……」チラッ
重役(ククク……やはり何度確認しても奴の手はブタ、どうあがいても俺のツーペアに勝てん!)
重役(そして、クヒヒ……ただでさえ勝てる勝負にオマケまでついてきてしまった……)
重役(あのデカ女、俺の好みではないが色々使い道はある……今度の『接待』にでも使おうか)
ちひろ「対戦者同士で合意さえ得られれば問題ありませんが……」
ちひろ「重役様、いかがなされますか?」
重役「フッフッフ……わかった、その条件で勝負を受けよう……コールだ!」
杏「そうこなくっちゃ」
重役(そうこなくっちゃ、だとぉ?あくまで虚勢を張り続けるというのか)
重役(それとも……追い詰められすぎてとっくに精神がおかしくなっちまってるのか?)
ちひろ「諸星様もそれでよろしいですか?」
きらり「きらりは杏ちゃんが勝つって信じてるから構わないにぃ」
重役「おい立会人……お前、俺が勝ってからこの子らをかばうような真似するんじゃないぞ」
ちひろ「ご心配なく……あくまで私は中立ですので」
ちひろ「さて、お互い全てのチップを賭けておりますのでこのゲームの勝者が勝負の勝者です」
ちひろ「では、カードオープン……!」
重役「俺の手は……ツーペアだ!」
重役(はい勝ち確定~~~っ!長い茶番だったがようやく終わったッ!)
重役(ぐふ、ふふふ……今から杏ちゃんをどうかわいがるか楽しみだぜ……)
重役(まずは~、丸っこくてスベスベそうなお腹をナデナデスリスリしちゃおうかな~)
重役(それともぷにぷにの足をスリスリしちゃおうかな~ぐふふ)
杏「杏の手は────」
重役(ああ~スリスリしたいなぁ~スリスリ、スリスリ……)
杏「スリーカード」
重役(スリ……スリ……)
重役「……スリーカードォ~~~~ッ!!?」
重役「バカなッ……!おかしい……!そんなわけねーだろうがッ!」
杏「そう言われても、見ての通りだよ」
重役「さてはてめぇ、カードをすり替えやがったなッ!?」
杏「杏の小さい手ですり替えできるわけないじゃん」
ちひろ「すり替えだと言えるだけの根拠は何かおありですか?」
重役「だってコイツ……!」
重役(ハッ!だめだ、言えねぇ……映像で見ていたなんて……!)
重役(イカサマがバレちまう!)
重役「ぐっ……!」
ちひろ「……ただの言いがかりを聞くことはできません」
ちひろ「よってこの勝負……勝者は双葉杏様です!」
重役「ぐううっ……!」
重役(ありえない……奴がすり替えをやったとしか思えねぇ……!)
重役(だがわからねぇ……いったいどうやって……!)
重役(奴がカードを見せる直前まで確かに奴の手はブタだった……)
重役(それを俺はしっかりとこの目で見ていたんだ……スマホの映像を通して……!)チラッ
重役「なっ……!?」
重役(なァにィ~~~~っ!!?)
重役(映像の中の奴の手は…………『ブタのまま』だとォ~~~っ!!?)
重役(こいつ……こいつッ……!)
重役(『カード』じゃなく『映像』をすり替えてやがったッッッ!!!)
杏「どうやら気づいたみたいだね」
杏「もう勝負は終わったからイカサマの話をしていいわけだし種明かしぐらいはしてあげるよ」
重役「いったいどうやって映像を……そもそも最初からカメラのことを知っていたのか!?」
杏「その通り。杏の超優秀な協力者がやってくれたよ」
重役「協力者……!?」
杏「もうそろそろ来るころだよ」
ガチャ
マキノ「お疲れ様、杏」
杏?「…………」
重役「えっ?杏ちゃんがもう一人……?いや、違う……」
スルッ パサッ
千枝「…………」
重役「杏ちゃんの変装をした千枝ちゃん……!つまり……」
杏「そう、最後のほうであんたが見ていた映像に映っていたのは杏じゃなくて千枝。後ろ姿だとわからないでしょ?」
千枝「千枝、上手に出来てましたか?」
マキノ「ええ、千枝は演技がとても上手ね」
千枝「えへへ……千枝の身長が近いおかげで役に立ててよかったです!」
重役「まさか、事前に用意したんじゃなく……リアルタイムにニセ映像を撮って流していたってのか!?」
杏「そうじゃないと杏の交換しなかったほうの手持ちカードと映像が矛盾するかもしれないからね」
杏「そして撮っていたのは隣の部屋……同じテーブルを使って撮るためと、この部屋の無線LANにアクセスするため」
杏「最初から順に説明してあげるよ」
杏「まず、あんたがテレビ局で千枝に接触したのを杏は気づいていた」
千枝「やっぱり聞かれてたんですね……」
杏「あの時杏に相談してくれたらよかったんだけど、まあそれはいいや」
千枝「ご、ごめんなさい……」
杏「ともかくその場でマキノに連絡を取ってあんたのことを調べてもらったよ」
マキノ「すぐに調べがついたわ、あなたが同じような手口でアイドルや役者、それも小さな女の子に手を出していること」
マキノ「いつも部屋に無数のカメラを仕掛けて隠し撮りをしていること」
マキノ「さらに、脅して言いなりにした少女を『接待』に使い、その見返りで今の地位を得たこと」
千枝「ひどい……」
杏「そこでピンときて今回の筋書きをおおよそ思いついたよ」
杏「この部屋に入ろうとしていた千枝を呼び止めてマキノと合流してもらい、杏はあんたと交渉」
杏「案の定あんたは杏がトランプとこぼしたら食いついてきた」
重役「そこから貴様のペースだったのか……」
杏「その間にマキノには無線LANをハッキングしてもらった」
重役「パスがかかっていたはずだが……」
マキノ「ええ、かかっていたわ、私からすればかかっているうちに入らない粗末なパスがね」
重役「くっ……」
杏「で、全カメラの位置と映像を割り出したマキノに、この部屋と同じようにテーブルをセットしてもらい」
杏「あんたがどのカメラで杏の手を見ているかをチェックして、同じ位置にカメラをセット」
重役「ちょっと待て、なぜ私が見ているカメラが分かる?」
杏「そりゃ当然、あんたのスマホ画面が映ってるカメラもあるからだよ」
杏「この部屋カメラ多いから、あんたがどこに座ることになっても見れただろうね、当然あんたの手札も見えてたよ」
重役「なに!?」
杏「杏の片耳には小型イヤホンがついてて、それでマキノからあんたの手を教えてもらってたんだ」
杏「で、勝負序盤、杏は最初の何回かはわざと負けた」
杏「勝たせて油断させるため、それとチップ枚数を調整するため」
重役「調整……?」
杏「そう。杏はこのトリックを使って一発でケリをつけるつもりだった」
杏「だからわざとチップを減らして自然にあの一発勝負の提案に持っていけるようにした」
杏「いやぁ、キリよく丁度50枚のときに勝てる条件がそろったからラッキーだったよ」
杏「交換してスリーカードになって、あんたはツーペア。ここだと思ってニセ映像を仕込んだ」
重役「じゃああの映像の乱れは……」
杏「映像が途切れたのは別の映像に切り替えたから」
杏「遅延は正確には遅延じゃなく、映像を見て人間がそれを真似していたから」
杏「映像のおかげで連勝してすっかり気が緩んでいたあんたは映像を疑うことはなかった」
重役「……ちょっと待て、仕込むタイミングはお前が決めるんだろ!?」
重役「それをどうやって別室の協力者に伝え…………ハッ!」
重役「飴っ…………!」
杏「その通り」
杏「勝ちを確信しているあんたは間違いなく杏の提案に乗ってくると思ってたよ」
杏「ここから先はもう説明する必要ないね」
マキノ「カメラで相手の手が分かるのでしょう?」
マキノ「ここまでしなくとも、スマホをLANから締め出してあなただけカメラを使えばよかったのでは?」
杏「それじゃダメなんだ。こいつは接待で出世しようとするせこいヤツ、カメラでズルできてようやく勝負に乗る臆病者」
杏「カメラを利用できないとなると大きな賭けはしてこなくなる。そうなると確実に勝てるかは怪しい」
杏「それにもっと怖いのが、その状態で長期戦になると、向こうがこちらのカメラ利用に気づきかねないこと」
マキノ「そんなの気づくかしら?」
杏「可能性は低くないと思う。なにせ一度は自分が思いついたことだからね」
杏「それで黒服に自分の手が映るカメラをさえぎるように立たせられたらもうおしまい」
杏「こちらのアドバンテージはなくなり本当に勝負の行方は分からなくなる」
杏「カメラという撒き餌を与えて臆病者を勝負の場に引きずり込む必要があったんだ」
杏「そしてその一回で確実に仕留めたかった」
ちひろ「杏ちゃんのチップ枚数が50枚より多かったり少なかったりしたらどうするつもりだったんですか?」
ちひろ「例えば杏ちゃんが60枚だったら160対140になってしまいますよね」
杏「多ければ簡単、『お互い全部賭けよう』って言えばいいだけ」
杏「少なければ『そっちも全部賭けて欲しい』って条件をつける」
杏「あいつからすれば100%勝てる勝負だから全部賭けるリスクなんて関係ないし」
杏「むしろ変にごねて『きらりをつける』って条件を撤回されるほうが困る」
杏「でもまあ、50枚ぴったりのときが一番不自然さのない条件になるからそれに越したことはないね」
杏「……さて、これで言うことは全部言ったかな」
重役「……俺は完全にお前に踊らされていたのか」
杏「まあそういうことだね、あんたが偉そうなこと言いはじめた時は笑いを通り越して怒りがわいてきたよ」
杏「実力でのし上がった?人の考えが読める?…………あんた」
杏「嘘つきだね」
重役「ぐっ……きさま……キサマ……この俺をコケにしおって……!」
重役「お前たちッ!」
黒服AB「はい!」
重役「最初からこうしておけばよかったのだ!千枝ちゃん以外全員ぶっとばせ!」
黒服AB「はっ!」
杏「あーあ、結局これだよ」
黒服A「生意気なガキめ!まずお前からだ!」ダッ
重役「ふん!こいつらは武術の心得がある!抵抗しても無駄……」
シュバッ
きらり「にょわーっ!!」ボッ
ドゴシャア
黒服A「ぐえっ!」ドッ ドサ
重役「だ……ぞ……」
重役「え……?」
重役「い、今、大の男が向こうの壁まで叩きつけられて……」
きらり「杏ちゃん、だいじょぶ?」
杏「ありがと、きらり」
黒服B「覚悟しろ!美脚のねーちゃん!」ダッ
ちひろ「……」ビュオッ
グシャア
黒服B「けぺっ!」ドサ
ちひろ「……お褒めいただきありがとうございます」
ちひろ「折れた前歯は見物料ということで……」
きらり「すごーい!直立の姿勢から顎を蹴り上げたにぃ」
杏「ていうかタイトスカートでハイキックって」
杏(下着も緑なんだ)
千枝「す、すごい……」
重役「や……やめろ……俺が悪かった……助けて……!」
杏「分かったらもううちのプロダクションに関わらないでね、約束だよ」
重役「はいぃ……約束しますぅ……!」
マキノ「一件落着ね」
杏「じゃあ終わったし帰ろっか。千枝、送ってくよ」
千枝「あ、ありがとうございます……」
ちひろ「私も今夜はこれで失礼しますね」
きらり「ちひろさんばいばーいっ!」
千枝宅前
千枝「……なんだか、夢を見てるみたいです」
千枝「あの人に脅されて、怖くて、ショックで、悲しくて……」
千枝「でも杏さんが急に現れて、全部解決しちゃいました……」
千枝「なんだか現実感がないけど、これでもう安心なんですよね……」
杏「そうだよ、杏おねえさんのおかげだね、どやぁ」
千枝「……ふふ、本当にありがとうございます」
杏「これでアイドル辞めなくて済むね」
千枝「えっ!?どうしてそのことを……」
杏「プロデューサーがさ、千枝が辞めちゃう~って泣きついてきたんだよね」
杏「全く世話が焼けるプロデューサーだよ」
マキノ「普段のあなたの方がよっぽど世話が焼けると思うのだけど」
千枝「…………」
きらり「うきゅ?どしたの?」
千枝「あの人……うちには手を出さないのかもしれませんけど」
千枝「他の子にまた何かするんじゃないかなって思うと……」
千枝「あの人がもう二度とあんなことできないようにすることはできなかったんでしょうか……」
杏「んー、杏としてはとりあえずうちのプロダクションさえ守れればそれでいいんだよね」
杏「別に正義のヒーローをやりたいわけじゃないからね、そんなのキリないし」
千枝「そう……ですか……」
杏「大丈夫大丈夫、ああいう奴はいずれ自分の身を滅ぼすもんだよ、案外近いうちにね」
千枝「?」
杏「ふわぁ……今日はいっぱい働いたから眠くなっちゃったなぁ」
千枝「千枝も……安心したら眠くなって……」
杏「今日はお開きにしようか。それじゃ千枝、また明日、事務所でね」
千枝「……はい!事務所で!」
黒服「おはようございます!」
重役「ああ」
重役「くそ、昨日は散々な目に遭った……あとであのプロダクションは圧力かけて潰すとして」
重役「何が約束だ、馬鹿馬鹿しい……しょせん何の効力も強制力もない口約束ではないか!」
重役「おいお前たち!千枝ちゃんさらってきちゃえ」
黒服「はい!」ゾロゾロ
重役「ふん、あの暴力女どもがこの場にいなけりゃ関係な……」
ドカッ ウグッ
バキッ ギャア
重役「……ん?」
コツ コツ コツ
「約束を……」
コツ コツ コツ
「破りましたね……」
重役「お前ッ……!昨日の……!」
「粛清します」
ヒュオッ
千枝「おはようございますっ!」
P「千枝ちゃん!来てくれたんだね!」
千枝「はいっ!ふふふ」
P「よかった~……たった一度の失敗で辞めることないよ!また頑張ろう!」
千枝「へっ?あ、そっか……プロデューサーさんにはそう見えるんだ……」
P「?」
千枝(ってことは千枝……一回失敗したからってあんなに大げさに泣いて騒いで……)
千枝(辞める!って飛び出して行ったってことに……)
千枝「うう、恥ずかしいぃ……」
P「ち、千枝ちゃん?」
千枝「あの、昨日のは本当の千枝じゃありませんから!千枝はそんな簡単に投げ出すような子じゃないですから!」
P「? お、おう!その意気だ!」
プルルル
P「おっと、電話だ……はいもしもし」
杏「おはよう千枝」
千枝「杏さん!おはようございます!」
千枝「杏さんのおかげで今日またここに来ることができました!本当にありがとうございます!」
杏「もういいってば、それは」
千枝「そうだ、あとでこのことプロデューサーさんにお話したほうが……」
杏「あ、待った、ストップ。それはだめだよ」
杏「一応これプロデューサーに内緒でやってるからね」
千枝「え……?そうなんですか?」
杏「まあ、ほら、プロデューサーが知ったところで何をどうこうできるわけでもないし」
マキノ「大好きなプロデューサーに心配かけたくないのよね」
千枝「マキノさん!」
杏「ちょっと、変なこと言わないでよ」
きらり「杏ちゃんはね、Pちゃんにとって大切なこの場所を守るためにやってるんだにぃ☆」
千枝「きらりさん!」
杏「きらりまで!もー!」
マキノ「なぜ自分の気持ちを素直に言わないのかしら……度し難いな」
きらり「きらりは杏ちゃんの気持ち、ちゃーんとわかってるからね☆」
杏「うるさいなあ!杏はテレビ見る!」ピッ
TV『速報です。今日、○○テレビの重役氏が突然姿を消し、行方が分からなくなっています……』
杏「……あー」
千枝「あれ?昨日の人……」
マキノ「ちょっと杏」ヒソヒソ
杏「なに?」
マキノ「おそらく賭郎なんでしょうけど、なぜ今回は行方不明なのかしら?」
マキノ「いつもなら例外なく死亡と報道されているわ」
杏「きっと千枝に配慮したちひろさんの優しさだろうね」
マキノ「……どういうことかしら?」
杏「大企業の重役ならテレビで報道される可能性が高い、つまり千枝の目に入る可能性も高い」
杏「悪いやつとはいえ最近関わった人物が死んだとなれば千枝にとってショックが大きいだろうからね」
マキノ「なるほど……」
千枝「あの人、この事務所に来ませんよね……?」
杏「大丈夫だって、ちひろさんが守ってくれるから」
ガチャ
ちひろ「こんにちはー」
千枝「あ、ちひろさん!」
ちひろ「あら千枝ちゃん!元気そうでよかった」
杏「ひと仕事あったみたいだね、お疲れ様」
ちひろ「いえいえ、仕事ですから」
千枝「?」
ちひろ「そんなことより杏ちゃん……?」
杏「う、分かってるってば……今日は一本ね」
ちひろ「毎度あり♪」
マキノ「あなたがドリンクを買うなんて珍しいわね」
杏「昨日のホテルの部屋代、ちひろさんに立て替えてもらったからさ」
千枝「そうだったんですね……」
杏「おかげで杏、しばらくは飴を買えないよ」
マキノ「確かあのホテル、けっこう高級よね」
きらり「お部屋、すっごく広かったにぃ!」
千枝「…………あのっ!千枝もドリンク買います!」
千枝「千枝のためにやってくれたことなんですから千枝も協力したいです!」
ちひろ「……はい!もちろんいいですよ」
マキノ「フフ……じゃあ私も一本いただこうかしら」
きらり「うきゃー!きらりもきらりも!」
ちひろ「うふふ……プロデューサーさんはお仕事で忙しいみたいですし、これで失礼しますね」
千枝「はい!また!」
P「……あれ、ちひろさんもう帰っちゃった?」
杏「一足遅かったね」
P「ドリンク買いそこねたな……」
杏「!」
杏「プロデューサー、そんなプロデューサーのために杏が一本買っておいたよ!」
杏「今ならなんと飴一個と交換してあげる!」
P「本当か!?いやーありがとうな杏!はい飴!」
きらり「杏ちゃん……」
マキノ「転んでもタダでは起きないわね……」
千枝「あはは……」
杏「ん~うま、やっぱり飴はプロデューサーがくれるものに限るね」
おしまい
キャラ設定とかの妄想は色々広がってて続編を書きたいとは思ってるんですけど
肝心の勝負パートを考えるのがめちゃくちゃ難しいので書ける気がしません
勝負パートでなにかおかしな所とか説明不足があったらすいません
ちなみにちひろさんの拾伍號という設定には由来があって
15 → lS → $ → ちひろさん
という感じです
おっつおつ
ロイヤルストレートフラッシュしか引かないアイドルはどうしたらいいですかね・・・
茄子さんは運力でゴリ圧し
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