女店員「ミルクはお付け致しますか」青年「あなたのミルクが欲しい」女店員「まぁっ」 (24)


―カフェ―

女店員「いらっしゃいませ。ご注文は?」

青年「ブレンドコーヒー」

女店員「砂糖とミルクはお付け致しますか」

青年「ミルク?」

女店員「うちの店ではコーヒーフレッシュではなく、牛乳をお出し致します」

青年「だったら……あなたのミルクが欲しい」

女店員「まぁっ」


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女店員「お客様、からかわれては困ります」

青年「俺は本気でいってるんですよ」

女店員「ナンパ……ですか?」

青年「そう捉えてもらっても結構」

女店員「でしたら、まず自己紹介するのが筋じゃありませんこと?」

青年「その通りですね」

青年「じゃあ軽く自己紹介させていただきましょう」


青年「俺は○×大学に通う、大学三年生です」

女店員「すごい! ○×大学といったら、名門大学じゃないですか」

青年「有名なだけです。偏差値的には大したことありません」

女店員「まあ、ご謙遜を」

女店員「ところで学部は?」

青年「教育学部です」

女店員「すると、もしかして学校の先生を目指してらっしゃる?」

青年「ええ、中学校教師を目指してます」


女店員「ちなみになんの教科を?」

青年「国語です。昔から本を読むのが好きだったもので」

青年「大学受験の時も、国語にはずいぶん助けられました」

女店員「好きなジャンルは?」

青年「なんでも読みますよ。ミステリー、ホラー、SF、ファンタジー、時代小説、エッセイ……」

青年「バイト代の何割かは本代に消えていく有様です」


女店員「アルバイトは何を?」

青年「駅で働いています」

女店員「駅のアルバイトは大変だと聞きますが、どうですか?」

青年「色々と忙しいですし、変な客に絡まれることもありますよ」

青年「人身事故で電車が止まったのを、俺のせいみたいにいってくる人もいて……」

青年「だけど、駅という場所には思い入れがあるので、今も続いています」

女店員「もしかして鉄道ファン?」

青年「……まあ、そういうことにしておきましょう」


女店員「大学には実家から? それとも一人暮らし?」

青年「一人暮らしです。アパートを借りて、そこから……」

女店員「親元から離れて、というわけですね」

青年「というより、実は俺には両親がいないんです」

女店員「!」

青年「高校卒業まではある養護施設で暮らしていました」

女店員「そうだったんですか……」


青年「しかし、俺は自分を可哀想だとは思ってません」

青年「院長先生はとてもいい人で、俺にとっては日本のマザー・テレサとでもいうべき人でした」

青年「俺が教師を志したのも、あの人の影響があったでしょう」

青年「あの人がいなきゃ、俺はもっと荒んだ人生を送っていたかもしれません」

女店員「人生の恩人というわけですわね」

青年「ええ、もし先生になって初任給をもらったら、院長先生に何かプレゼントしたいと思ってます」

女店員「素晴らしい心がけですわ」


青年「しかし、こんな俺も中学時代は荒れてたんです」

女店員「まぁっ」

青年「自分の境遇にふてくされ、院長先生の優しさも偽善にしか感じられず」

青年「誰彼かまわず喧嘩を売ったり、学校のガラスを割ったりしてました」

女店員「番長的存在だったわけですね」

青年「そうですね。不良たちを従えてアウトローを気取ってました」

青年「多分、中学時代の同級生が今の俺を知ったら、みんな驚くと思いますよ」

青年「だけど、ある時院長先生に本気で叱られて、目を覚ましたわけです」


女店員「さっき本が好きだっておっしゃってましたが、それは更生してから?」

青年「いえ、本は小学校の頃から好きでした」

青年「親がいないことで、学校でいじめられて……」

青年「休み時間はいつもクラスの隅っこで学級文庫の本を読みあさってました」

青年「あまりいい思い出がない小学校時代ですが」

青年「おかげで読書の習慣がついたという意味では感謝しています」

女店員「院長先生と本が、あなたの支えになっていたわけですね」


青年「ただ、俺がまともになれたのは、決して院長先生や本だけのおかげじゃないんです」

女店員「え?」

青年「俺にはいつからか、ある目標ができていたんです」

女店員「目標?」

青年「それは……自分を捨てた父親と母親を捜し出すこと」

青年「会って何をするというのは、全く考えていませんでした」

青年「とにかく、一度会いたかったんです」

青年「荒んだ生活をしてたら人を捜す余裕もなくなる、ということで更生した部分もあるんです」


女店員「どうやって捜し出そうと?」

青年「俺はバイト代をはたいて、探偵さんを雇いました」

青年「依頼料は高額で、俺の貯金じゃとても払えない金額だったけど」

青年「俺の生い立ちを知った探偵さんがおまけしてくれたんです」

女店員「その探偵さんもいい人ですね」

青年「ええ、ありがたい話です」

青年「探偵さんは腕も優秀で、てきぱきと俺の父親と母親について調査してくれました」

女店員「どうだったんですか?」


青年「父親のことはすぐ分かりました」

女店員「まぁっ、よかったですね」

青年「正確には、死んでいることが分かったんです」

女店員「…………!」

青年「父親は絵に描いたようなチンピラで、薬物中毒でギャンブル狂いで」

青年「どこぞのワルとケンカしたあげく、ナイフで刺されて死んだそうです」

青年「犯人は今は刑務所の中。もちろん、復讐する気なんかありません。自業自得です」

女店員「そうだったんですか……」

青年「俺が中学時代荒れてたのも、父親の血がそうさせたのかもしれませんね」


女店員「母親は?」

青年「さすがの探偵さんでも、母親を捜すのは手こずったみたいです」

青年「名を変え、職を変え、あちこちを転々としてたようですから」

女店員「それで……?」

青年「見つけてくれました」

青年「しかも死んでいた父親と違い、今も生きていました」

女店員「よかったですね! で、お母さんはどこにいたの?」

青年「俺の目の前ですよ」

いつから女店員が女だと錯覚していた?


女店員「え……」

青年「俺の母親は……あなただ」

女店員「…………」

青年「あなたはさっき話したクズ父親にムリヤリ抱かれ、俺を身ごもってしまった」

青年「父親は当然、足手まといになるあなたなんかとっとと捨てて、行方をくらました」

青年「一人きりになり、途方に暮れたあなたは、とりあえず俺を生んだ」

青年「だが、女手一つで俺を育てる自信なんかないあなたは、手紙とわずかなお金を置いて」

青年「赤ん坊だった俺を駅のコインロッカーに捨てたんだ」

女店員「あ、あああ……」


青年「俺が駅でバイトしてる理由が分かりましたか?」

青年「もし、赤ん坊を捨てようとする母親を見かけたら絶対に止めてやる、と思ったからだ」

女店員「ご……」

女店員「ごめんなさい! ごめんなさいぃぃぃっ……!」

女店員「私じゃあなたを育て切れない、幸せにできないと思って……」

女店員「捨ててしまったのよぉぉぉぉぉっ……!」

青年「…………」


青年「探偵さんからあなたがこのカフェで働いてると聞いた時」

青年「俺はあなたをどう罵倒してやろうか、そればかり考えていた」

青年「俺に一吸いのミルクすら与えず俺を捨てたあなたを許せなかった」

青年「一発ぐらい引っぱたいてやろうかとも思った」

青年「トドメに、お前は母親じゃない、と吐き捨てて帰ろうと思っていた」

女店員「そうよ……そうすべきよ……」

青年「だけど、あなたにいざ会ったら、そんな気持ちはなくなってしまった」

青年「あなたにも事情はあったんだ……と思ってしまった」

青年「生きててくれてよかった……と思ってしまったんだ」


青年「だから俺は……あなたを許します」

女店員「ごめんね、ごめんねぇぇぇ……っ!」

青年「お母さん、俺のことを生んでくれてありがとう」

女店員「ううっ……ありがとぉ……! ううっ、うえっ、ううぅっ……!」

青年「もういい……もういいんだよ」


青年「……落ち着いた?」

女店員「……ええ」

青年「じゃあ、ブレンドコーヒーください。ミルクも付けて」

女店員「かしこまりました」



青年(21年間の人生で、はじめて母親からもらったミルクを入れたコーヒーは、とてもおいしかった)







~ おわり ~

イイハナシダナー

割とそこそこ感動したんだけど

スレタイからは想像できないほど綺麗にオチがついてて感動した

スレタイなるほどと思ってしまった

いい話だった

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