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【モバマス】 楓「日高屋には人生がある」
【モバマス】 楓「日高屋には人生がある」 - SSまとめ速報
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P(そいつが俺の前へ現れたのは、突然のことだった)
P(速水奏……。ビジュアル、歌唱力、キャラクター性、そしてカリスマ力。どれをとっても申し分ない、アイドルという言葉そのものなアイドル)
P(ゆくゆくはこの世界の象徴になるような、そんな可能性を秘めた存在)
P(一言で表すならば天才)
P(そんな彼女を、敏腕でも著名でも実力者でもないプロデューサーの俺が担当することになった)
P(初めて会ったあの日からいくつか時は流れたが、俺のもとへ転がり込んで来た理由が未だに掴めない)
P(風の噂ではうちの系列の別の事務所でひと悶着あり、移籍という形でここへ流れ着いたらしい)
P(そして、上からの命令で俺が担当することになったと)
P(どうして俺なのか……。仕事である以上、正当な理由もなしに拒否することはできない)
P(正直、俺は彼女という天才をアイドルとしてどのように運用するか、それを計り兼ねている)
P(やがて、鈍い俺はようやく気付いたのだ……)
P(これはもしや、いわゆる『左遷』というものなのかと)
P(17歳……。いたいけな少女が見えない制裁に気付くはずもない)
P(しかし、彼女の場合は違う……。聡明な彼女なら薄々気付いている)
P(生殺しにされて、彼女自身から『辞めたい』と言わせるまでが戦略だ)
P(しかし俺がいるこの事務所では、表立って彼女を排除させようという動きは見られない。なんなら、社長でさえ当初は歓喜の声を上げ上裸で逆立ちを始めるくらいだった)
P(系列事務所の中でも一番小さく、まだまだ駆け出しであるこの場所へ期待のニューカマーが現れたと)
P(だから、うちの事務所はそういった裏の意図に気付いていないのかもしれない。伝えられていないのかもしれない)
P(だったら、もしかすると左遷というよりただの『火消し』の可能性もある……)
P(プロダクション全体を巻き込むようなものではなく、個人間の問題があって、そのほとぼりが冷めるまでこの場所にいさせる)
P(それでもし彼女自身が『辞めたい』と言えば、天才を失うのは惜しいが『火種を抱え続けるよりかは……』と、その意思を尊重させる)
P(そんな意図があるのかもしれない)
P(ともかく、そんな彼女を担当している俺にとってはがんじがらめの状態だ)
P(なにより『無能なあいつらならこちらの意図に気付かないだろう』と、そうして彼女を押し付けて来たように思えて、無償に腹が立つのだ)
P「……」
ちひろ「プロデューサーさん? どうしました?」
P「あ、いや……。今日の業務を全てこなしたので、一息ついてました……」
ちひろ「お疲れ様です」
P「ありがとうございます。ちひろさんは……?」
ちひろ「私も、ちょうど終わったところです」
P「お疲れ様です」
ちひろ「いえいえ――あ、そうだ。楓さんが拗ねてましたよ?」
P「……え?」
ちひろ「最近日高屋に行ってくれないって」
P「いや、あれは……。あいつと行くとつい乗せられて豪遊しちゃうんで、あっという間に破綻しちゃうんですよ。だから、最低でも週に一度か月に数回と上限を決めました」
ちひろ「あはは……、なるほど。でも、たまには行ってあげてくださいね? あと、次回は私も誘っていただければありがたいです♪」
P「勘弁してください(0.5秒)」
ちひろ「えぇ!? なんですかそれひどーい(棒)」
P「あ、一服行ってきます」
ちひろ「もう、お先に帰っちゃいますよ?」
P「お疲れ様でーす!!」
ちひろ「もう……。お先に失礼しますっ!!(毎日のお約束ネタ)」
P「設備に不良なし。忘れ物なし。施錠も完了」
P「今日も一日お疲れ様ァッ!!(独り言)」
P「クソお世話になりましたァッ!!」バァン!!←ドア破壊
P「……」
P「さて、今日の夕食は何にしようかなぁ~」
P「日高屋……。いや、駄目だ」
P「あいつのせいで日高屋中毒に……」
P「ちょ、マテヨ……。最近『アレ』食ってなかったな」
P「食べなきゃ……(使命感)」
P「……」
奏「――プロデューサーさん」
P「アイオワァッ!?(戦艦)」バァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!
P「驚かすなよっ!? オラ死ぬかと思ったぞぉ!!(悟空)」
奏「ふふっ……! ごめんなさい……!」
P「笑いごとじゃないから(真顔)」
奏「……」
P「……」
P「というかこの寒空の下、ずっとここにいたのか……?」
奏「……」
P「俺を驚かすために……?」
奏「……ええ」
奏「ふふっ……、傑作だったわ……! あなたの驚く顔……!」
P(速水奏……。俺は彼女を掴みきれない)
P(17歳にしてはやけに大人じみて、こちらの手をスルリとかわしてみせる)
P(俺を、この世界を煙に巻いて、そうして現実と幻想の狭間で常に微笑をたたえているのだ)
P(この世界にいながら、この世界にいない……。彼女という概念だけが霧のように漂っている……。そんな存在)
P(いつか俺が朝を迎えた時、この世界から霧散しているのではないかと、そんな危機感すら覚える存在)
奏「プロデューサーさん、怒ってる?」
P(彼女の外見からは想像できない、子供じみた悪戯)
P(ここのところ、いつもこうだ)
P(いや、よくよく思い返してみれば、初めからこんな場面はあった)
P(それ以前の彼女がどんな人間だったかは知らない)
P(ただ、この彼女は本来の彼女ではない……。心なしかそんな気がしていた)
P「……」
奏「怒らせちゃった、かしら……?」
P「――これでも巻いてろ」
奏「え? これあなたのマフラー……」
P「ただでさえ制服で生足出して寒そうなのに、首元もスカスカじゃねぇか」
P「マフラーくらい巻いてこい。体調管理は基本中の基本だぞ」
奏「……タバコくさいわ」
P「じゃあ返せ」
奏「うそよ……。ありがと」
P「……」
奏「……」
P(そうして俺たちは歩き出す。彼女は俺の後ろをついて来る――何も言わずに)
P「――なあ」
奏「……?」
P「俺を驚かすために、こんな寒空の下ずっと待ってたのか?」
奏「……」
P「違う理由があるんだろ?」
奏「……」
P(いつもうまくかわしてみせる彼女。しかし、今回ばかりは必ず捕まえてみせる)
奏「……」
P(黙秘を貫く……。しかし、沈黙は時に肯定を意味する)
P「――ついてこい」
奏「……え?」
P「いい所に連れてってやる」
P(かたや制服の少女。かたやスーツ姿のサラリーマン。正直言ってこの発言を他人に聞かれたらとんでもねぇことになる)
P(しかし、こんな状態の彼女を捕まえるには『アイツの力』が必要だと思った――)
奏「私、アイドルを辞めようと思うの――」
P(俺が『いい所』に連れて行く間、彼女は全てを語った)
P(――この世界には、持つ者と持たざる者がいる)
P(自分が後者だと気付いた時、そいつはどうするか)
P(嘆き崩れる者、妥協して別の道を行く者、世界を呪う者、様々だ)
P(持つ者であった彼女は、持たざる者からの呪いを受けた)
P(よくある話――他のアイドルからの嫉妬、妬みを一身に受けたのだ)
P(そうして、彼女を担当していた以前のプロデューサー――そいつはプライドが高く、支配欲も高い出世頭な人間だったようだが)
P(彼女を陥れようとする者たちの工作活動にまんまと嵌められ、やがて『自分の手に負えないような人間はいらない』と、その活動に加担するようになったそうだ)
P(そうして彼女は無実の罪を着せられ、魔女裁判にかけられ、やがて俺たちの場所へ流れついたと)
P(ただ、向こうの社長だけは味方になってくれたらしく、『独自に調査をする間、移籍という体であの事務所へ行ってもらう』と約束して、俺たちの場所へ送り出したらしい)
P(普段は決して見せない、初めて見る弱気な彼女)
P(このような事実を知らず、頭を下げて営業に出る俺の姿を見て、心を痛めたらしい彼女は遂に真実を語ったということだ)
P(これ以上誰かに迷惑をかけたくないから――そんな心情が見て取れる)
P(洗いざらい語って、そして『辞めたい』とこぼした彼女)
P「――行くぞ」
奏「……」
P(俺はそれについて肯定も否定もせず、彼女をとある場所へ誘った)
[ゴーゴーカレー店内]
奏「ここは……」
P「カレー屋だ。来たことないか?」
奏「……ええ」
P「ゴーゴーカレーっていってな。石川県は金沢発のカレーチェーンだ」
P「海外にも出店してるんだぞ。凄いだろ」
奏「あなた、このお店の回し者……?」
P「さて、券売機の前にやって来ましたっ!!(無視)」
P「どれを選ぶっ!? 俺はチキンカツカレーだっ!!」
奏「……」
P「ロースカツカレーもいいんだけど、おじさんのお腹には重すぎるなっ!! HAHA☆」
奏「あなた、まだ20代じゃなかったかしら……」
P「アラサーは立派なおじさんだZO!!」
P「よし、チキンカツカレーのファーストクラス、君に決めた!!」
P「ちなみに、サイズは小さい順からソフト、ヘルシー、エコノミー、ビジネス、ファーストだ。ファーストが特盛ってわけだな。飛行機の座席みたいだろ? 目的地は黄土色の空だ!! テイクオフッ!!(激寒)」
奏「……」
P「……お前はどれにする?」
奏「プロデューサーさん……」
P「よし、お前も同じやつ食え」
P「――よし。この食券を持って、あそこの席に座ろう」
店員「チキンカツカレーノファーストデスネ。ショーショーオマチクダサイ」
P「お願いします」
P「見ろ。彼は一見留学生のように見えるが、カレーマスターだ。失礼のないように」
奏「プロデューサーさん……」
P「このBGM、やばくないか?」
♪ゴーゴーカレー ゴーゴーカレー、ゴーゴーカレー ゴーゴーカレー♪
P「最初は鬱陶しいと思ったが、もう電子ドラッグよ」
P「ゴーゴーカレーにはまっちまった奴は、腹が空いたら頭ん中にこれが流れるんだ」
P「そしたらもう『食べなきゃ』って使命感に駆られるんだよね。もう洗脳よ洗脳」
奏「……」
P「それから、あのスクリーンを見てくれ。繰り返されるコマーシャル。もう『いい加減にしろよ』と突っ込みたくなるが、終盤の外国人店員に対するインタビュー、これがもう癖になっちゃってさぁ」
P「いやぁすげぇな、頑張ってんなって、こっちまで元気にさせてくれるんだよね」
P「それからさ、あれを見てくれ。ゴーゴーカレーにはな、『メジャーカレーワールドチャンピオンクラス』ってメニューがあって、なんと総重量2.5kg!! 一日限定5食だが、チームプレイで食うことも可能だ。そして、完食した奴はああやって写真に撮られて掲示してもらえるんだぞ!」
奏「プロデューサーさん」
P「……」
奏「ねえ……。お願いだから答えて……」
P(俺たち以外誰もいないゴーゴーカレー。その店内に彼女の悲痛な声が響いた)
P(速水奏――彼女が俺に初めて見せた涙)
P(外国人の店員が不穏な空気を察して、出来上がったカレーを持ったまま静止している。困惑気味の表情がかわいい♂)
P(――などと言っている場合ではない)
P「……」
奏「私、どうしたらいいの……」
P(17歳とは思えない、大人びた雰囲気を纏った彼女)
P(しかし今ここにいる速水奏その人は、歳相応の女子だった)
P(彼女も一人の少女であったのだ。今になって、俺はようやく気付く……)
P(モラトリアムを抱え、進路に迷う、どこにでもいる一人の少女だったのだ)
P「まずは、カレーを食え」
店員「オマタセシマシター……」
P「……」
奏「……」
P「いただきます……」
P(俺の前に、チキンカツカレーが届けられる)
P(眩い銀皿……。片側ではなく、全体に黒色のルーがかけられ、その上にはカットされたチキンカツが並ぶ)
P(そして、俺から見て左端には千切りのキャベツが盛ってある)
P「美しい……。美しすぎる……」
P(言うなればそれは芸術品。この一皿は一種の美術品である。そう、全てが完成されている)
P(カレーと言ったらスプーンであるが、ゴーゴーカレーはフォークで頂くのが特徴的である。それもそのはず、キャベツとチキンカツを容易にすくうことができる。この配慮は最早『さすが』というしかないだろう)
P(ロースカツカレー、エビフライカレー、ウインナーカレー、そしてロースカツとチキンカツとウインナーとエビフライと卵が乗ったメジャーカレーなどがあるが、俺は長い旅路の果てに、このチキンカツに辿り着いた)
P(トッピングもできる……。しかし、俺はノートッピングのこれに落ち着いた)
P(ファーストクラスでトッピングをすると千円を超えるからトッピングしない……。そんな貧乏くさい理由もあるが……。しかし、俺は悟ったのだ。この一皿で全てが完結していると)
P(この一皿以外何も必要ないのだ)
P「……」スッ
奏「……?」
P(しかし、一つだけ付け加えるとするならば……)
P「――すみません。マヨネーズ借ります」
店員「アイヨッ」
P(これだ……!!)
P(俺は店内の冷蔵庫からマヨネーズを引っ張り出し、チキンカツカレーへぶちまける)
P「フンッ!!」
P(一見すると、完成された絵画に絵具をぶちまけるような愚行である……)
P「――できたっ!!」
P(しかし、俺にとっての芸術品はこれをもって完成へと達するのだ!)
奏「プロデューサーさん……。マヨネーズかけすぎじゃない……?」
P(常軌を逸した俺の奇行を目前にして、奏の涙はいつしか止まっていた)
P「俺はマヨラーじゃない……!! しかし、このカレーとマヨネーズのコンビは麻薬だっ!!」
P「お前もかけろ……!!」♂
奏「ちょっと……!! プロデューサーさん……!?」
P「ハハッ!! 奏(のチキンカツカレー)を犯すッ!!」
P(俺は今、完全なるカレー〇チガイと化した)
P(普段は悪戯されている人間だが、今回は俺が奏を困惑させている)
P「チョー気持ちいいッ!!(北島)」
P「よし、全ては整った……。改めて、いただきます……」
P(まずはカレーのみ。俺は楽しみを後にとっておく人間だ。チキンカツをどかし、マヨネーズとルーでくたくたになった物質へフォークを入れる)
P(それはまるで結婚式のケーキ入刀のような幸福感)
P(そして遂に、俺の口内へカレーが――)
P「……ッ!!」
P(これだ……!! これだよこれ……!!)
P(俺は、辛い物が苦手である)
P(しかし、このカレーに至っては例外だ)
P(辛い物好きで狂った〇チガイのような馬鹿舌を持つ人間にとっては辛くないんだろうが、俺にとってはこのルーでさえもなかなか辛い)
P(しかし、この辛さはスパイスとしてしっかりと機能している……!! ただ辛いだけではない!! 食欲を増進させ、発汗など気にせず次の一口を求めてしまう辛さ……!!)
P(そして、料理下手なクソみたいな彼女が作るジャバジャバルーじゃない……!! ドロドロの粘度が高い、うま味が凝縮されたルーなのだ!!)
P(例えるならば『二日目のカレー』。あの、寝かせることでうま味が詰まったカレー……!! それそのもの!!)
P(マヨネーズをぶちまけたことでマイルドになり、コクや深みが増すッ!!)
P「う゛ん゛め゛ぇ゛ッ!!(RED中村)」
奏「……」
P(ふと顔を上げると、奏がこちらを凝視していた)
P(〇チガイを前にしてドン引きしているのか、それとも圧倒されているのか……。そんな表情)
P「お前も食ってみろ」
奏「え、えぇ……」
P(奏は俺と同じように、チキンカツをどけてカレーをすくう)
P(お前も俺と同じタイプか……)
P「……愛してるぜ」ボソッ
奏「えっ?」
P(いかん。同志を見つけた喜びをつい口にしてしまった。ロリコンおじさんと思われてはいけない……。俺はそっちの気はない。なんなら年上好きだ。ちなみに人によっては60代までは――)
奏「――ッ!?」
P(などと自己弁護をしていたら、いつの間に奏はカレーを口へ運んでいた)
P「どうだ?」
奏「……おいしい」
奏「やばい、かも……」
P(いただきました、『星三つ!!』)
奏「私、あんまり辛いものが得意じゃないんだけど……。この辛さは、好きだわ……」
P「オイオイオイ……」
P(死ぬわアイツ――じゃなくて、お前は俺か!? お前は俺か!!)
P「おら、もっとマヨネーズかけるとうまいぞ」
奏「ちょっと……!! かけすぎよ……!!」
P(普段は大人ぶってる癖に、マヨネーズかけられて困惑してやんの)
P「KAWAII☆(ブロリー)」
奏「ちょっと……// プロデューサーさん……//」
店員「死ね(ネイティブ)」
P(奴が困惑している隙に、俺はとうとうチキンカツに手を伸ば――)
P(おっと、忘れちゃいけねぇよ。キャベージ!!)
P(マヨネーズでくたくたになったキャベツ!! 口内をリセットし、フレッシュな状態にしてくれる……!!)
P(そして、満を持してチキンカツだ!!)
P「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛ぃ゛~(MSO)」
P(一見、かさ増しのために薄切りにされていると思うが――違うんだなこれが!!)
P(この絶妙なサイズにカットされたチキンカツ……!! 口内で音を立てるサクサク音……!!)
P(このカットでのみ、このクランチーさ、クリスピーさを再現できる!!)
P(そう、食感と味を考慮して辿り着いた結論なのだッ!!)
P「うまい、うますぎる……!!(十万石饅頭)」
P「……む」
奏「……?」
P「奏、キャベツがないな」
奏「え、ええ……。もう全部食べてしまったわ」
P「……」
奏「……?」
P「 す み ま せ ん !! 」
店員「ハイ」
P「キャベツ、おかわりっ!!」
店員「カシコマ」
奏「え……? どういうこと……?」
P「聞いて驚くな……。ゴーゴーカレーは……」
P「キャベツのおかわりが可能だ――しかも無料」
P「食いたいなら何度でも食え!! 草食動物のようになっ!!」
店員「オマタセシマシタ」
P「そして、こうだ」マヨネーズ噴射
奏「あ……!!」
P「もう、これなしじゃいられない体になっちまったんだろ?」
奏「……」
奏「え、えぇ……//」
P「工事、完了です(達成感)」
P「さて、俺もキャベツをおかわりして……」
P「名残惜しいが――これで仕上げだ」
P(本能のままにカレーを平らげた。特盛であったが、今の気分は『カレーは飲み物』だ。それくらいスルっと入ってしまった)
P(最後のチキンカツで残ったルーをスワイプし、口の中へ……。名残惜しいが、これでフライトは終わり……)
P「腹減った……。カレー食いたい」
P(そう。食ったばかりなのに、俺はもうこのカレーを欲している)
P(これこそがゴーゴーカレーの神髄。魔力)
P「……ごちそうさまでした」
奏「ごちそうさまでした」
P「おっと、お前も全部平らげたな」
奏「ええ。美味しかったから……」
P「……」
奏「……」
奏「なんか、どうでもよくなってきたわ」
P「……?」
奏「あなたって、本当に面白い人ね……!」
奏「もうどうでもいい……」
奏「なんか、すっきりした……!」
P「――どうするんだ?」
奏「……」
奏「やめ――」
P「涙とともにカレーを食べた者でなければ、人生の味は分からない」
奏「……?」
P「なんてな」
P「人に説教できるような立場じゃねーけど」
P「人生とカレーは同じだ」
P「カレー一つをとっても派閥があり、それですら人間は争える」
P「例えば『ルーは全体ではなく片側のみだろ』とか、『シャバシャバなカレーは邪道だ』とか……」
P「そんな些細な好みの違いでも、人は争えるんだ」
P「つまりだな、この世界の全員から好かれるなんて無理だ」
奏「……!!」
P「話を聞く限り、もちろんお前に罪はない」
P「それでも、お前を嫌う人間はいる」
P「そういった奴は、お前が何をしようがしなかろうが、お前の足を引っ張ろうと手を伸ばす」
P「それはどんな理由だっていいんだ。例えば『息を吸っているのが気に入らない』って理由でもいい。とにかく、どんな事象もその材料になる」
P「だから、外野の声なんて気にするな」
奏「……」
P「気にするなっていうのも無理かもしれない。だけど、一つだけハッキリしていることがある」
奏「……?」
P「それらの嫉妬、妬み、批判には、等しく価値がない」
P「なぜなら、それらの言葉には責任がないから」
P「奴らはお前と同じ土俵にはいない」
P「責任がないから、外から言いたい放題できる」
P「そんな言葉は、雑音と同じ。自分にとって何の意味もなさない」
P「お前が心を痛め、涙を流す必要などない」
P「だからお前は、責任を持った言葉だけ信じればいい」
奏「責任……?」
P「ああ。それは目には見えないが、確かにあるはずだ」
奏「どういうこと……?」
P「大切なものは目に見えない。だけど、必ずお前も持っている」
P「俺はこのカレーが好きだが、ココイチのカレーの方が好きなやつもいる」
P「奏を嫌いな奴もいるが、応援している奴もいる」
奏「――ッ!!」
P「目には見えないかもしれない。けど、気付けばきっとそこにあるはずだ」
P「お前が何をされようと、何を奪われようとも、お前の価値は消えない」
P「お前という存在自体に価値がある」
奏「プロデューサー、さん……」
P「お前は、応援してくれている人間のために頑張ればいい」
P「そしてお前というポジションを確立できたら、お前の勝ちだ」
P「……このカレーのようにな」
P「目に見えるものだけを信じるな」
奏「……」
奏「プロデューサーさん」
P「……?」
奏「責任って、言ったよね……?」
P「ああ」
奏「プロデューサーさんの言葉には、それがあるの……?」
P「……」
P「ああ」
P「お前が俺の担当でいる限り、俺はお前と正面から向き合う」
P「もしお前が本当に限界で、『一緒に死んでくれ』と言ったら」
P「一緒に死んでやる」
奏「……!!」
P「信じてくれとは言わない」
P「だが、俺はこの言葉に責任を持つ」
奏「……うん」
P「だから、後はお前の自由だ」
奏「私は……」
P「――そうだ」
奏「……?」
P「今のお前にピッタリの仕事を取ってきたんだが」
P「……どうする?」
奏「え……?」
奏「……」
♪ゴーゴーカレー、ゴーゴーカレー ゴーゴーカレー、ゴーゴーカレー アアアアアアアアアア♪
P「ふう……。食った食った」
P(カレーを連想させる黄色い塗装、イメージキャラクターのインパクトのあるゴリラと看板)
P(ある日の仕事終わり、気付くとここへ足を運んでいた)
P(もはや無意識だ。俺はこのゴリラに洗脳されている)
P(こいつは西ローランドゴリラか東ローランドゴリラか、一体どっちだ……?)
P「……カレー食べたい」
P(ゴーゴーカレーにはテイクアウトもある。今度お昼に利用してみるか……。いや、事務所がカレー臭くなるしな……)
P「……」
P「帰るか」
P(週末、夜の繁華街。道行く集団はどことなく浮足立って、その表情も綻んでいる)
P(そんな人間とは裏腹に、空模様は雨。冬の訪れを告げるような冷たい雨)
P(通り過ぎていく人々は身を縮め、恋人たちは寄り添う……)
P「一服していくか……」
P(交差点前の一角にある屋外の喫煙スペース。臭い物には蓋といわんばかりにつめしこまれた喫煙者の群れ。その合間を縫ってスタンド式の灰皿の前に位置取る)
P「ふぅ……」
P「……」
♪僕らが手にしている 富は見えないよ♪
P「……?」
♪彼らは奪えないし 壊すこともない♪
P(雑居ビルに埋め込まれた巨大な街頭スクリーン……)
P(音楽情報サービスを提供している大手配信会社によるシングルCDの週間売り上げランキング)
P(それがアーティストのプロモーション映像とともに紹介されている)
♪世界はただ 妬むばっかり♪
P(とある少女の歌声が、底冷えする夜の街に響き渡る……)
P(静まり返る喫煙所。紫煙をくゆらせて皆一様に歌声の発生源を探り、その視線をスクリーンへ向けている)
♪もしも彼らが君の何かを盗んだとして♪
P(スクリーンをスライドする『アイドルが名曲をカバー』の文字)
♪それはくだらないものだよ 返してもらうまでもないはず なぜなら♪
P(降りしきる冷たい雨、立ち止まりスクリーンを見上げる群衆、喧騒にかき消されることなくどこまでも響き渡る少女の歌声……)
P(それは確かに――)
♪価値は生命(いのち)に従って付いている♪
P(誰かの内側に染み込んでいく恵の雨)
P(カレーで汗ばんだ額を、冷たい外気と雨と、そして少女の歌声が冷やしていく)
P(それはただ冷たいだけではなく、火照った体を癒すような、そんな心地よい冷気だった)
P(速水奏――ウィークリーランキング一位)
P(曲名の後に、その文字がスクリーンを流れていく……)
P(それを確認して、俺は喫煙所を後にした)
ちひろ「お疲れ様です、プロデューサーさん」
P「お疲れ様です」
ちひろ「――聞きましたよ」
P「……?」
ちひろ「なんでも、明日は『日高屋の日』みたいじゃないですか♪」
P「もしや、楓が何か言ってたとか……」
ちひろ「楓さんに誘われちゃったんですよぉ~♪」
P「――お二人で楽しんできて下さい」
ちひろ「なぁ~んでですかぁ~!? 一緒に行きましょうよ~」
P「断るッ!!(0.3秒)」
ちひろ「それも断るッ!!(0.1秒)」
P「……」
ちひろ「……」
ちひろ「そういえば――良かったですね、本当に」
P「……?」
ちひろ「奏ちゃん、この事務所に残ってくれるって……」
P「あぁ……。はい……」
P(奏が言っていた通り、前の事務所の社長から『調査が終わった』と彼女へ連絡が来たそうだ)
P(なんでも奏の無実が証明され、また、彼女を陥れた人間への処分も済み、彼女を迎え入れる準備が整ったらしい)
P(そして、うちの事務所の社長へも『奏をうちへ戻してほしい』との連絡があったそう)
P(なんとも理不尽極まりない要求だが、うちのような小さな事務所に対して、向こうは遥かに規模がデカい。同じ系列の事務所であるが、立場は向こうの方が上だ……)
P(一応『奏の意思を尊重する』ということであったが、表面上の言葉に過ぎないことは明白)
P(そんなわけで、俺を含め事務所の人間全員はその対応に困窮していた)
P(しかし……)
奏「――おはようございます」
ちひろ「あら奏ちゃん、おはよう」
奏「おはようございます、ちひろさん」
P(奏はこの場所に留まった)
P(交渉に訪れた向こうの社長に、奏がうちへ来た理由など全ての顛末を説明させたり、緊迫した応酬が色々あった。正直言って、俺やこちらの社長の首が飛ぶかと思った)
P(そしてそこへ、奏が『ここ以外ではアイドルはやらない』と乗り込んできて……)
P(マジでどうなるかと思ったが……)
P(結果、『彼女の意思を尊重する』として、向こうの社長は引き揚げた)
P(そうして奏の残留が決まったのだ)
P(報復とかに怯えている今日この頃ですが……。まあ、なんにせよ良かった……)
奏「プロデューサーさん、おはよう♪」
P「あ、おう……」
奏「どうしたの? 私に見惚れてた?」
P「ないです(即答)」
奏「もう、ほんと鈍感よね……」
P「……え?(難聴)」
奏「そういえば、明日は『日高屋の日』なんですってね」
P「えぇ……(困惑)。何で知ってるんですかね……」
奏「大人組だけずるいわ。私も連れて行って?」
P「子供は駄目です。それに私は行きません」
ちひろ「はっ?(威圧)」
P「行きますけどぉ、時間帯的に未成年は、ほら、ね……?」
奏「……」
奏「もう知らない……。私、移籍しちゃおうかな……」
P「勘弁ッ!!」ドゲザァアアアアアア!!
奏「冗談よ♪」
奏「……分かった」
P「……?」
奏「それじゃ、私たちも『カレーの日』作りましょ?」
P「カレーの日……?」
奏「ええ、ゴーゴーカレーに行くの。それで許してあげる」
P「それは、いつほど……?」
奏「そうね。それじゃ今夜行きましょう?」
P「いや、実は俺昨日食ったばかりでして……」
奏「ゴーゴーカレーゴーゴーカレー……(囁き)」←テーマソング
P「あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
P「♪元気をあ~げ~りゅううううううううううううう♪」
P「――行くか」
奏「ええ♪」
P「ふう……。食った食った(Déjà vu)」
奏「本当に良かったの? 奢ってもらって……」
P「それは気にすんな。まあ、色々とあったしな」
奏「……ええ。そうね」
P「今度、正式にお前が来た歓迎会でも開こうかなぁと思うんだが」
P「まあ、それの前祝いってことで」
奏「ふふ……。それ、私に言っちゃっていい情報なの?」
P「――あ」
奏「あなたって、お馬鹿さんね……!」
P「聞かなかったことにしてくれませんかね……?」
奏「ええ、そうしてあげる。可愛いお馬鹿さんのために♪」
P「クソ……。いつからこんな立場に……」
奏「でも、その代わりお願いがあるの」
P「……え?」
奏「目、瞑って……//」
P「目を、瞑る?」
奏「えぇ……」
P「なんだよ。こんな街中で『だるまさんが転んだ』でもやろうってのか?」
P「俺、あれにトラウマあるからやめてくれ。目を開けたら誰もいないっていう……」
奏「いいから瞑って」
P「はい」
P「……」
奏「……//」
奏「――ッ」
P「――ッ!?」
P「ちょ、おま……!!」
奏「カレーの味がする……//」
P「……!!」
奏「私、あなたにスカウトされたかった……!!」
奏「でも、時間は巻き戻せないから……。だから……!!」
奏「今、私をスカウトしてくれませんか……?」
P「……」
P「……奏」
奏「はい……」
P「俺のところで、アイドルやってみないか?」
奏「……」
奏「お願いします……//」
P(どこか掴めない彼女)
P(しかし、俺はようやく……。今、彼女を捕まえた)
奏「そ、それじゃあ私はこっちだから……// またね、プロデューサーさん//」
P「ああ、またな……」
P「……」
警官「あの、すみません」
P「――へ?」
警官「あなた、さっきの女の子とはどういったご関係で?」
P「いや、あの……」
警官「ちょっとそこの交番でお話を伺ってもよろしいですか?」
P「……」
P「\(^q^)/ウジュジュ」
終
ありがとうございました。
おつおつ
面白かった
ゴーゴーカレーはあのステンレスの皿が苦手です
スプーンで擦っちゃってキィィィィィってなるやつ
奏ぐらいでも捕まえられるなんて、由愛やこずえとやってるワシはどうなるんだ!
あ、乙でした
「理由もなく嫌いというのがこの世にはある。それを知るとこの世は生きやすくなる」
とある出版社の編集長の言葉だが、万人に好かれようとしてストレスになるよりは
嫌いなら仕方ないと割り切って切り替えた方がいいよね
日高屋の時みたいなアホな話かと思ったら根底はシリアスでビックリしたわ
でも面白かったで
楓さんおるのに弱小なのか
系列ではってことやろ
唐突な椎名林檎かまされてびっくりした
でもこのSSにぴったりね
アホなようでアホじゃないけどやっぱりアホな作品だったわ
おつ
気がついたら何度も読み返してる
乙
タイトルで日高屋と同じやつだろうなとおもったらやっぱり同じだった
ファーストクラス完食できる奏すごい
確かに
いっつもエコノミーだわ
カレーと言えば、チャボ・ゲレロな俺はおっさんだな
あんたシーバスアングラーかよ
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