モバP「あべこべとか美醜逆転とか、いろいろ」 (65)

モバマスSSです。
あたまおかしいのでご注意ください。
更新不定期。

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 ◇

もしもひとつだけ。
ひとつだけ俺の人生に於ける大きな失敗を挙げるならば、それはきっと”扉”を見つけてしまったことかもしれない。

仕事終わりの帰り道。太陽は既に落ち、チカチカと頼りなく街頭は点滅している。
寂れた商店街から少し外れた路地裏から放たれた一瞬の輝き。

それは、ちょっとした好奇心だった。
導かれるように向かった先にあったのは扉だった。

敢えて言うならば全てが鏡で作られた”どこ○もドア”。
どこかへ繋がる訳でもなく、ただその扉は俺の姿をクッキリと映し出していた。
たいして人気のない中華料理店の室外機の側にそれは屹立していた。

「なんだこれ、そもそもノブ回るのかよこれ」

冗談で手を掛けたそれはなんの抵抗もなく回って少し関心した。

「……よく出来てんじゃん」

開いた扉を前に後ろに、軽く動かし、それを俺は通り抜け、後ろ手に扉を閉めた。
――通り抜けて、しまったのだ。

「扉の先は異世界でしたぁー。なんてこともないわけでして」

おどけて、振り返る。
そこに、既に扉はなかった。
影も形も。ただ月明かりだけが辺りを妖しく照らしていた。



「……あ、ありゃ?」

 ◇

傷つくことには慣れていた。
負けることには慣れていた。
笑われることには慣れていた。

手を前に突き出す。
肉付きの悪いほっそりとした腕を淡い肌色の皮膚。
足も同様だし、瞳はぱっちりとしている。
お世辞にも綺麗とはいえないそれを眺めて溜息をひとつ。

幸い、というべきか、私の心は歪まなかった。
何年も、いや、十数年間なのだろうか。

きっと、生まれてからずっと。
ただ、強靭な恋慕の、親愛の情だけが子供の頃から私を私たらしめていた。
胸を焦がす出処の分からない向ける先の分からない”それ”だけが。

その情が十数年の時を経て向ける先を見つける先を手に入れた。
不思議と笑みが溢れる。
――これは、きっと私がこれまで、これから手に入れるなかで最も強い幸運なのだろう。

そんなことを考えている時だった。

がこんっ、と乱暴に事務所の扉が開かれてスーツの男の人が転がり込むように入ってくる。
彼の顔色は青く、荒い息を吐いている。

「響子っ、響子は居るかぁッ!」

髪はぼさぼさ、普段は物好きにも普段には几帳面に剃っていた髭も僅かに伸びていた。
寝起きでスーツだけ纏ってきた、と言われても納得の装いで格好いい。
普段からそうならばいいのに。
まぁ、そうじゃくても好きなんですけど。
というか、もはや執着の域に達しているといってもいいかもしれない。

彼は事務所を見渡すように視線を向け、私を見つけたのか真っ直ぐこちらに駆けてくる。
ソファーに座る私と視線を合わせる。

彼……というか、プロデューサーさんは私を眺めて瞳に涙を浮かべていた。

「よかった、……よが……っだぁ!おまえは、ふつうで、本当に、よかったぁ!」
「ひゃっ!?」

背中にプロデューサーの熱を感じる。
気がつけば私は正面からプロデューサーに抱きしめられていた。

数年分、数十年分の情動が私の心臓の鼓動を加速させるのが分かる。
――なに、なんなんでしょうか。らっきー?なんかこう、朝からやったーっ!って感じででいいんですか!?
五十嵐響子、らっきぃでいですか!?
あぁっ、でもこんな骨ばった抱き心地の悪い体でいいの、いいのかなぁっ?

「響子!」
「は、はいっ!」
「お前いつも俺と同じ朝の天気予報番組見てるよな」
「えっ、そうですね」

プロデューサーの目はいつしかなにかに縋るような、祈るような光を湛えていた。
そして、プロデューサーはゆっくりと、私に慎重さすら感じさせるほど真剣な瞳をこちらに向けて、再び口を開いた。

「……今朝のお天気お姉さんは、トロールにしか見えなかった、よな」

――それは、祈るように、願うように。

「……教えてくれ、響子。今朝の、お天気お姉さんは……トロールだったよな。ぎっとりと肌に染みた脂とそれに貼り付いた傷んだ髪……なぁ、あれは……ウェザートロールとかそういう種類の怪物、なんだよな……?」
「あの女巨人の……持ってたフリップが……対比するとお子様ランチの旗サイズに見えるんだ……、お子様、ランチの……」

怯えるプロデューサーの震えが抱きつかれている私にも分かる。
彼の背中を優しく擦る。
そう、女は度胸なのだ。
頼れる女を演出しなければ、とかは思ってない。思ってないです。

「大丈夫、大丈夫」
「そう、そうだよな。……俺、おかしくないよな」
「そうですよ。あの番組のお天気お姉さんはですね……」

満を持して、私は囁くようにそれを伝える。

――トロールみたいにどっしりと脂を蓄えて笑顔がチャーミングなとっても綺麗なお姉さんですよ。



プロデューサーはなぜかその場に崩れ落ち、痙攣し始めた。

「あ、あれぇ……?プロデューサー?……プロデューサーっ!?」

一旦ここまで(冷静になってしまった顔)

………………………ハッ!? お、乙

期待

「大丈夫だ。安心して欲しい。俺は大丈夫だ……大丈夫だ……大丈夫だよ。そうだよ、俺が大丈夫にしなくちゃ……」

虚ろな瞳をしたプロデューサーはぼそぼそ、と呟いてます。

ど、どうしましょう。
多分、大丈夫じゃないような気がします。

私は、そっと彼の手を握ります。
濁った瞳が私を、捉える。

「セ、センエツながら私が付いてますよ。はいっ!私たち、まだお互い出会って一ヶ月ですけどっ、頑張りましょうっ!」

なにか間違ったことを言ってしまったのか、プロデューサーは突然真剣な目を私に向ける。

「……一ヶ月?」
「えっ、あ、はい」

ぱくぱくと、プロデューサーは口を開いて、閉じてを繰り返し、絞り出すように言葉を吐き出そうとする。

「……ブライダルショーの仕事花嫁の真似事をした」
「はい?」
「……クリスマスシーズンは忙しかったからな、シーズン終わってからちっちゃいケーキに阿呆みたいに蝋燭を刺して祝った」
「あのー?」
「CDを出した時はなんでだかオムライスに絵を描いたんだ」

ぽつ、ぽつとなにかの出来事を語りだすプロデューサー。
……もしかして、彼女さんの話かなぁ?
でも、CD?CD――?

だが、どうしてだか胸が痛むハズなのに、それより先にぽかぽかした柔らかな感情を感じる。
なに……?なんですか。これは。

「オムライスに描いたのは……なんだったか……」

少しだけ額に指を当てて、「あぁ、そうだ」と呟いてからプロデューサーは顔をあげる。

「確か、コアラだ」

…………ん?
あ゛ぁ?

「うーさぁーぎぃーでぇーすぅー!」

自然と喉元に言葉がせり上がってきたそれを、躊躇することなく吐き出す。

うさぎ。兎。ウサギ。うさ……。
……んぅ゛?うさぎって、なんで、……ありゃ?
自然、首を傾げる。

「なんで、私、うさぎって言ったんです?」

分からない、分からないけどどうしてだろうか。
濁流のような感情が胸の内を暴れまわるような、だけれど不快ではない。
むしろ元よりこうあったような――。

「あぁ、よかった」

そんなプロデューサーの安堵の声が耳に届いた。

「響子がわりかし五十嵐響子でよかった」

――いえ、普通に私は五十嵐響子だと思うんですけど。
そう口に出そうとして、やめた。

なにがあなたを苦しめているのか分からないけれど、それであなたが救われるならそんなこと、考えるまでもなくどうでもよかったですね。

「うん。あそこのお天気お姉さんは相も変わらず美人さんだったな。そうだよ。そうに違いない」

ソファーに座る私の腰掛け、緑茶を一口啜るプロデューサー。
その相貌は穏やかでまるでFXで有り金全部溶かした人のような、思わず目を惹かれるほど魅力的で、思わず溜息が漏れそうになった。

「今致命的にツッコまなきゃいけないところを逃した気がした」

プロデューサーは表情を引き締めてなぜかきょろきょろと辺りを見渡す。
私は訳も分からず首を傾げました。

「響子」
「はい」
「お天気トロ……お、お天気お姉さんは美人だな」
「はい」
「それで、だな」

プロデューサーが唾を飲み込むのが見えた。

「響子、お前は自分を不細工だと思うか?」

そして真っ直ぐに私を見つめる。
自然と自嘲の笑みが溢れる。



「はい」

醜いということはこの世界でいつも私の足を掴んで離さない呪いのようなものだ。
生きる上でどこまでも付き纏うもの。

プロデューサーの目が悲しげに細められる。
……あぁ。私はまたこの人を悲しませてしまった。

「そう、か」
「大丈夫ですよ」

プロデューサーに小さく微笑みかけるとプロデューサーは困ったように眉尻を下げた。
ニ分、三分と無言の時間が続く。

「ちなみに、なんだが」

それは意を決したような言葉だった。
重厚な、勇気を絞り出すような。

「響子の目から見て俺はどう見える?」

―――なんだ、そんなことですか。
そんなことは分かりきっている。

身長が高い訳でもなく、体型だって特筆する点はない。
顔だって特別醜い訳でもなければ整っている訳でもない。

だけれど、私は不思議なことに、生まれてきてからずっとあなたに恋しているから。
それがオカルトでもファンタジーでもどうでもよくて。

答えなんて決まりきっていた。

言え。私、言ってしまえ。
ここで言えてこそのデキる淑女。いけ、この流れならいけます。
いける――ハズ!

「私が今まで見てきたどんな人よりもステキですよ」

き、決まったァ!決まりましたっ!
私の容姿の余りある欠陥を補っての淑女台詞。になると信じてます。……信じていいですよね?

「そうかぁ」

プロデューサーは微笑を浮かべて、立ち上がる。
そしてゆっくりと窓際まで歩を進め、窓を開け放つ。

強い風が吹いた。
ばさばさ、と部屋の中に吹き込んできた風がデスクの上の書類を数枚攫う。

私の頬にどこからか飛んできた水滴が当たる感触。
そちらへ視線を向けるとプロデューサーが事務所ビルの窓枠に足を掛けた状態で涙を流していた。

「ごめん、ごめん……。向こうの響子。こんな全身”R-15G”みたなヤツと根気よく向き合っててくれたんだなぁ」

……なんということでしょう。
私のデキる女アピールにより、恩人にして、誰より愛する彼が一瞬で自死一歩手前に。

「ま、まって。待ってください……まって、んぅ、うぅぅぅ゛!」

私は慌てて駆け出し、奇怪な声を上げながら情けなく彼の足に両手両足で縋り付く。
胸が痛い。というか、物理的に痛い。
私の胸の中の何かがここで彼を死なせたらこの心臓破ってやるとばかりに暴れている気がします。なんでしょうこれ。本当に痛い。





そして、大切な人が居なくなってしまうかもしれない恐怖と謎の胸の痛みで私がもう殆ど泣いているような状態であることに気づいたプロデューサーはようやく正気に戻るのでした。

一旦ここまで。
おやすみ。

おつおつ
続きも期待してる

tsもきっとあるよね

期待

「ごっ、ごめん。本当にごめん。嘘、さっきやってたのは冗談だから!」

私に向けられる彼の瞳は忙しなく右往左往している。
冗談だって、許されないことがある。

あなたは知らないだろう。
私がどれだけあなたに執着しているのか。

私はなにを犠牲にしても、それだけは手に入れてみせます。

だからこそ、私は諭す。
まるで、ドラマの中で見たように。
まるで、小説の一シーンのように。

私の中の足りないものとマイナス振り切ったものを補うように。
格好良く、気丈に、冷静に、女らしく。
デキる女性の仮面を被って、私はあなたの価値を諭すのだ。

――……出来るだけ好感度上がりそうな感じで!



 ◇



「う゛ぅ。んんっ!んんんっ!」

――無理でした。ダメです。
言葉は結局出なくて、私は情けなく目に涙を溜めて只々あなたの胸元を叩く。

女々しくてもダメダメでも下心前回でも私は頑張りますから……。

「ごめん。冗談でももうしないから……。許してほしい」

正面から背中に手を回されるように抱きしめられる。

……嗚呼。
あったかい。やさしい。…………しゅきぃ。

アイドルがアイドルできないだろ、美醜逆転してるから

事務所としか言ってないからアイドル事務所じゃないのかもしれないですね

事務所中央に立てかけられたモニタの向こう側からは歓声が聞こえてくる。

少しでも気分転換になれば、と付けたそれの向こう側では年頃の少女たちがステージで舞い踊っている。
極彩色の衣装を纏い、地鳴りのようなステップを踏みながら観客を魅了する少女たち。

ガマガエルのような歌声に続くように、観客の歓声があがる。

「あれは……なんだ?」
「……へ?知りませんか?」
「し、知らない」

それを眺めながら、プロデューサーは肩を抱いて震えている。
この仕事をしているだけあって感受性豊かなのか、それとも彼女たちの才気を感じっているのか。

「確か最近になって流行りだした……えっと、なんでしたっけ」

――だとしたら、なぜ、彼は私を、私なんかを彼女たちと同じステージに引き上げようとしているのでしょう。

「メンバー全員の体重合わせて重さが4.8tになるプロジェクトで……んと、ごめんなさい。忘れちゃいました」

ステップに合わせて踏み鳴らしたステージの床板が一際大きく物理的な悲鳴を上げるのと当時にフィニッシュ。

「素敵な……素敵な……サバトだ……な」

プロデューサーはなぜか両の掌で瞼を覆い、涙を流し始めた。

悪夢すぎる

な、なんでっ!?
嗚呼、私だ。きっと私が至らないから。むしろ、至らないところしかないから。

――慰めなければ。私の全てを賭して。
私は縋るようにその瞼を覆う掌にそっと手を添えて言葉を紡ぐ。

例えそれで嘘をつくことになると、分かっていても。

「こんな私じゃ、あの場所に手を伸ばすのもおこがましいですけど、がんばって、あれに届くようにしますから」

プロデューサーは涙を流すどころか今度は嗚咽を漏らし始めた。
もはやギャン泣きでした。



……あれ?

エロ本とかはトロールの裸しか見れないってことか

プロデューサーがスーツの袖で自分の涙を拭う。
瞼は紅く腫れ、悲しげな表情も相まって痛々しいものすら感じる。

「響子」
「は、はいっ!」

涙で少しだけ濡れた瞳が私を真っ直ぐ射抜く。
あぁ、そんな目のあなたもステキ、ステキです!

「そのままでいいんだ」

真剣な言葉に思わず息が止まる。

「誰かになろうとしなくていい。響子が響子のままでいてくれればそれでいいんだよ」
「で、でも――」
「いいんだ!」

聞きたくないとばかりに私の言葉を遮られる。

「響子が響子のままで救われる人が少なくともここに一人いるから」

まるで、心臓を穿たれるような言葉でした。
――この人は私を私のままで許容してくれる。

意図しない涙が勝手に溢れては、落ちていきます。
私の貰い泣きなのか、プロデューサーもまた、瞳に涙を溜めて呟く。

「……マジでやめて……やめてね……?」

なぜだか、その呟きこそが今日聞いた言葉の中で一番重みのあるものだと感じた。

一旦ここまで。
考えるな。わたしはなにも考えていない。

おつ

まさかモバPはこの世界線で響子をアイドルにしようとしてるのか?

ドルヲタ(小奇麗でセンスある格好で整った顔立ち)


この世界に俺がいたらジャニーズなんて目じゃない程の
トップアイドルになれるわ

迷い込んだ世界で元の世界と似た人をPが好きになった場合、物凄いブス専かキチ〇イ扱いされるなコレ

ジャンクフードが美容食品になるな

加蓮…

――とてもではないが仕事どころではない。
そうとしか言いようのないプロデューサーの憔悴具合だった。

とはいっても、私に元から仕事と呼べるものなどなかったのだが。
そもそも、私と彼はまだ出会って一ヶ月。
更には、アイドルの卵未満、”みにくい白鳥の子”ですらない私に関心を持つ人などいないですし。
あぁ、でも侮蔑とか憐憫とかそういう意味でなら……ううん。

……そんなことを考えていても思った以上に平静な私がいます。

「あの、顔色、悪いですよ……?」

私は、掌をそっとプロデューサーの額に添える。

――これが。
これこそ、これが自然なボディータッチ。

私にはまっっったっくっ!関係ないが世の女性による男性へのセクハラ被害は後を立たない。嘆かわしいことです。
これも全く関係ないが、肉体の距離は心の距離なのです。
だけど、これは大丈夫。医療行為みたいなものだから。医療行為みたいなものだから!

その距離を縮めることを私が厭う理由などないのでした。

プロデューサーの額の熱を掌を通して感じる。
同時に彼の前髪の毛先が私に触れている。

――出来ることならばこのまま頭を撫で回してしまいたい。
そんな衝動を前歯を奥歯を噛み砕かんばかりに噛み締めて押さえつける。

例えば創作界隈には”ナデポ”という用語がある。
なんかこう、都合良く弱ってたり弱ってなかったりする男性キャラクターの頭を撫でた女性キャラクターが都合良く”ポッ”と惚れるのだ。惚れちゃうのだ。

つまり、つまりです。
基本的に私たち女性はこう、好みこそあれ男性の髪を撫でたくて仕方ない。
ぶっちゃけ撫でたい。
…………でも。もし私みたいなのが撫でて、……引かれないかなぁ?

他人になら、どれだけ蔑まれてもいい。
だけれど。だけれど……はぁ。意気地なし、なのかなぁ。この人に嫌われるのだけはこわい、なぁ。

「……悪いね。心配を掛けるよ」
「気にしないでください」

プロデューサーは弱々しく微笑んだ。

みじかい。
おやすみ。

おつー

男女の性的価値観も逆転してるのかな

撫でた側が惚れるのか(困惑)
おつ

きゅっと拳を小さく握りしめる。
酷く弱った異性に頼りになる態度で颯爽と振る舞う私。

これはキています。
私の積み重ねた男性経験が確信を持って囁く。

今まで男性にこんな淡い情を持たれたことがあっただろうか、――いや、ない。
瞳を閉じて思い返す。
これまでの私の軌跡を、辿る。



 ◇

――姉ちゃん、邪魔。
――父さん!姉ちゃんのと一緒に洗濯物洗わないでって言ったじゃんっ!
――そんなんだからさ、姉ちゃん学校で女々しいって言われるんだよ。
――今日友達連れて来るからさ、姉ちゃん部屋から出てこないでね。
――姉ちゃん、うっさい。あと、ウザい。

 ◇



――大体弟でした。
苦渋の日々を思い返し、そして唇を噛み締める。
……お姉ちゃんは彼氏が出来たらしつこいくらいキミに付き纏って自慢しますから覚えているように。

ともあれ、執着している異性からの新鮮な対応には自然と心が踊ります。
人間、弱い部分を曝け出すには信頼関係が必要です。必要なはず。たぶん。

つまり、つまりです。
彼と私は非常に近いところに居るはずなのです。こう、精神的に。精神的にっ!

この反応ならば、しれっと次の巻では主人公の女の子のハーレムメンバーに入ってるやつです。
少女漫画で見ました。

あぁっ、でもご安心くださいプロデューサー。
私、五十嵐響子はあなた一筋ですからっ!んふっ、んふっ、うへへへぇ。

「今日はもうお帰りになった方がいいですよ」
「……いや、大丈夫だよ」
「駄目ですっ!それでなにかあったらどうするんですかっ!」

私の強い言葉に困ったように、眉尻を下げる。
やがて、頑として譲らない私の態度に諦めたように肩を竦めた。

自信有りげに、頼りがいのあるような振る舞いで、私は自らの胸に左の掌を添える。

「ご安心ください。私、五十嵐響子が責任を持ってプロデューサーを自宅までお送りします」

はきはきと、断固たる意思を以って告げる。

「……送るって、えっ?」

困惑したように首を傾げるプロデューサーの姿が可愛らしくて少し心踊る。

責任ある大人の男性(ここが大事)がちょっとした隙に見せる愛らしい姿に心動かさらない女性が居るでしょうか。いや、居ないはずです。

「お世話になっているプロデューサーを無責任に返す訳にはいきません。ほら、私も女性ですから、近頃は物騒ですし」

ぽかん、としたプロデューサーの表情。

――心底不思議そうに。
どうしてそうなるのか分からないとばかりに。
少しだけ考えるように思案する仕草を見せて、プロデューサーは「あぁ、なるほど」とぽつりと呟いた。

「響子は”女の人”だもんな」

そんな言葉をプロデューサーはなぜか吟味するように告げる。

「はい」
「あっ、あーっ、でもほら、俺、車で来たから響子を家に送り届けられないし……なっ?」
「私はタクシーで帰りますから、いいんです」
「えっ、それって意味がなくないか」
「だから、プロデューサーは私にお世話されてください」
「いや、俺は別にどこか悪い訳じゃないし」

しどろもどろに弁解するようにプロデューサーはそう言う。

「……やっぱり、その……ご迷惑ですか?」
「あぁ、いや……参ったなぁ」

プロデューサーは人差し指で頬を掻く。
そして、根負けしたとばかりに小さくはにかんでから口を開く。

「……わかった。あと、ありがとう。響子が居てくれてよかったよ」
「お役に立てそうでよかったですっ!」



こうして私は限りなく自然に、合法的に、好感を持たれつつプロデューサーの住所を手に入れました。
やったっ、やったぁ!

一旦ここまで。
ヨゴレ系ヒロインすき。

キモチワルイモードの響子か…

やる夫スレでこういう設定の奴たくさんあるよ

何が言いたいんだ

――男性の部屋とは異世界のようなものである。

世界中の女子高生が願ってやまない異性の部屋へのチケット。
それを手に入れた今の私はあらゆる非モテ女子から石を投げられても仕方ないだろう。

しかも、年上成人男性のお部屋です。
そこらの男子高生との、その場の流れ、保護者監視下の下での馴れ合いではありません。

つまりは勝ち組。今の私は実質勝ち組なのです。

「どうぞ」

そして、私は今、プロデューサーに促されるままに、マンションの一室に足を踏み入れた。
家具や家電の大半がシンプルな白と黒のモノクロで大半が構成された部屋。

――味気がない。
こう、男性の部屋というのは桃色とか桜色とかピンクとかで構成されていて、ついでに”ハロー菌糸”のぬいぐるみとか”腹筋マウス”のステッカーで出来ているもののはずだ、――と。
素人ならそんな感想が出るかもしれません。しかし、私は違います。

――そう、このシンプルさが大人の男性になる、という過程を経た結果であることに違いありません。

「えっ?なんかあった?」

私はプロデューサーへと顔を向け、静かに頷いた。

「……………?」

只々不思議そうにプロデューサーは首を傾げていました。

時代が変わるのに合わせて、常識も変わります。
過去の常識が必ずしも現代の常識とは限らないのです。

フライパンを振るいながら、私は考えます。

料理の得意な女の子。これはアドバンテージ。現代社会におけるアドバンテージなのです。
出来ないよりは、全然出来たほうがいい、といいますか。
女の人の方が男の人より料理が上手いと男の人の立つ瀬がない、という意見もありますが、これは考えない方向で。

――だって、これくらいしか誇れること、ないんですもん。……うぐぐ。
……いえ、辛い現実は忘れるべきです。

ふと、ぺたり、ぺたりと足音が聞こえる。
そして、リビングの扉が開く音。

「……ふぅ。ありがとう。シャワーを浴びてずっと考えてたことが少しすっきりしたよ」

現れたのは薄手の部屋着を纏ったプロデューサー。
素足がフローリングを踏みしめ、髪は湿っており、頬は上気していて赤い。

そのうえ、普段は寝間着に使っているのか、大きめの水色のシャツの胸元がやや開いている。

……こう、その、むらむら……といいますか、若干黒い欲望が沸いてくるような姿でした。

「響子」
「は、はひっ!」

プロデューサーの真っ直ぐな瞳が私を捉えた。
真剣な、本気の瞳に見つめられて、思わず声が裏返る。……我ながら挙動不審で情けなくてちょっと悲しい。

「大事な話が、伝えたいことがある」

心臓が跳ねる。
聞いたことのない真剣な声音。

異性の部屋。大切な話。少しすっきりしたという、ずっと考えてたらしいこと。
ここまで条件が揃っている。
ごくり、と思わず生唾を飲み込む。
わかる。わかるわ。じゃない、わかります。

―――これは、告白だ。

見えないように小さくガッツポーズ。
お父さん、お母さん、あと、ついでに弟。お姉ちゃんは幸せになります――。


「ようやく伝える覚悟が決まったんだ。聞いて欲しい」

だが、これでよいのだろうか。
思わず、唇を噛む。
ソファーなどない部屋だ。プロデューサーはベッドの端に腰掛けている。
そして、ゆっくりと口を開いた。

「響子。驚くかもしれないけど俺は――」

そう。そうだ。私が女として生まれた以上、気持ちを伝える努力を怠ってはならない。なにより、私は私の気持ちに嘘を吐くつもりなど毛頭ありませんでした。

「――んむっ!?」

私はプロデューサーの唇を自らの唇で塞いだ。
目を白黒させるのはプロデューサー。唇が離れた後に「へっ?」とか「えっ?」とかひたすら状況を理解出来ないとばかりに困惑している。

大丈夫。大丈夫です。私は全部わかってますから。
意識せず熱い吐息が漏れる。
私という存在が熱を持っていくのがわかりました。

「えっ、なに!?なんでっ!?手が……動かな……。というか、目がこわっ――」

きゅっとプロデューサーの両の手首を掴んでベッドに押し倒した。

「は、ぁっ。わたしも、すき。すきです。ずっと、ずうっとだいすきでしたよ」

私も非力な方ですけれど、一応女の端くれです。流石にプロデューサーを少し抑えるくらいなんてことありません。
そんなことより、この体中を焼かんばかりの熱をぶつけたくて、しょうがない。
再び、私は唇を塞ぐ。今度はねぶるようにその存在を味わうかのように。

「んっ、むっ。ちがっ、響子!聞いてくれ!」
「はいっ。聞きます。聞いちゃいます。なんでも響子に言ってください」

なんだって聞きます。
だからぜんぶ、ぜんぶ、ぶつけて欲しい。

プロデューサーは吐き出すように、叫ぶようにトドメの言葉を放った。



「おれは、……俺にはっ、他の人と違って響子がかわいいし、優しいし、魅力的な女の子に見えるってことを打ち明けたくて――」








――あはっ♪
私には自分の理性の最後の糸が呆気なく溶けて消えていくのがわかりました。
きっとわかっていないんでしょう。私にとって、今のあなたこそがどれだけかわいらしく見えているのか。

でも、大丈夫。すぐに、わかりますから。

嗚呼、なんてしあわせな両思い。

 ◇



かつ、かつ、かつ。
アスファルトを踵が叩く音がどこかから聞こえる。

少女は辺りを見渡すように頭を揺らす。
しばらくして、目的のものを発見したのか、再び小気味良い足音を立てて駆けていく。

少女は一人の男の背後から背中に勢い良く抱きつく。
男はよたよたとよろけた後、目を細めて掌を差し出す。
それを見た少女は満面の笑みを浮かべてそれを握った。

「もてもて?」
「娘にモテてどうすんの」
「いーじゃん。いーじゃん。貰い手の予定もないんだから」

にんまりと笑む少女とは対照的に呆れたように息を吐く男。

「お前、俺が今度”鏡の扉”を見つけたら覚えとけよ。お前も死ぬ気で探せ。こっちの世界じゃ叶わん夢もある」
「たまにとーさん変なこと言うよね」
「そしたら向こう側でかーさんと一緒に死ぬほど歌ったり踊ったりさせてやるから」
「なにそれ、ちょっとこわい」
「見つかんなかったら死ぬまで俺が飼い殺してやる。ぜってー男にはやんねー」
「それはそれで、ちょっと倒錯的なものを感じるよとーさん」



 ◇



モバP「あべこべとか美醜逆転とか、いろいろ」 END

完結~。
やりたい放題感。
多分黒歴史。
お付き合い頂き感謝感謝。

おわっちゃうのか

終わったか

響子が可愛くてよかったおつ

もっと読みたかった
おつ

つまり最後は誰なんだぜ?

>>62
プロデューサーの娘ちゃん(元世界基準で美人)

二人で行動してるけど響子ちゃんどうなったの

>>53を見る限りこちらでも料理上手みたいだから普通にお家でご飯作って待ってるのでは

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