ガヴリール「戻らぬ時間と叶わぬ恋」 (135)
「あのねガヴ……えっと、その……」
夕日のような顔をしてヴィーネが私に何かを言おうとしている
いや、何かというのはおかしいか
これから彼女の口から発せられるであろう言葉はなんとなく分かる
分からないほうがおかしいだろう
「その……ずっと、ずっと好きでした!付き合ってください!」
私の予想は当たっていた
予想は当たっていたのだけど、それが当たったところで何も変わらない
むしろ当たってしまったからこそになんて返すべきか悩むことになる
もちろん私はヴィーネが好きだ
しかし、その好きはヴィーネとは違うものだろう
だから私の返答は
「ごめん……」
これしか考えられなかった
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1509814246
―――――――――
これは私にとっての恋愛の物語
天使と悪魔、異なる種族間での恋愛だ
そして同時に私の後悔の物語でもある
………
きっかけはヴィーネからの告白なのだと思う
それが直接的な原因なのかは分からないが間接的にこの結末に影響を及ぼしたのは確かだ
あの時に私が自分の気持ちを理解しておればこのような結果にはならなかったのだろうか
もしくは遊び感覚で付き合っていれば……
たらればの話をしても仕方がないか
―――――――――
私の返答は拒否だった
異なった気持ちで付き合うのは相手に失礼だからそこははっきりと断った
「ごめん……もちろん私もヴィーネが好きだけど種類が違う」
「……そっか」
「だから、その……ごめん」
「もう……謝らないで。ガヴが悪いわけじゃないんだから」
「でも……」
「でももだってもないの。ごめんね変に気を遣わせちゃって。今日はもう帰ろっか」
「……そうだな」
断るにおいて私が一番懸念したことはこれからの関係性だ
この告白のせいで私たちの関係が崩れることだけは嫌だった
だから色々と言い訳の言葉を紡ぎ出そうとするのをヴィーネに止められた
顔だけじゃなく目も真っ赤にして泣きそうな顔で言うのだ
話を続けようとは思えなかった
「ほらガヴ起きなさい!」
だけどそこからの関係が変わることはなかった
次の日、ヴィーネは私を起こしに来たのだ
昨日の今日だ、来ないものだと思っていた
関係性の変化は望んではいなかったが流石に今日は気持ちを落ち着かせたかった
だからどちらかというと来ないでほしかった
しかしそれとは別に嬉しい気持ちもある
関係を変えたくないのは私だけではないのだ
ヴィーネも今まで通り私との関係続けたいのだと
今日の行動でそれが分かったのだから
それからは告白なんてなかったかのように私とヴィーネの関係は変化がなかった
私はものぐさであり続け、彼女は私のお世話を続けた
私が真面目になるか彼女が私を見捨てるまでこの関係は続くのだろう
私が真面目になるなんてことは天地がひっくり返ってもあり得ない
また彼女が私を見捨てることも同様にあり得ないのだ
高校を卒業しても大学へ行ってもこの関係は変わらない
私はそう思っていた
………
思い返せばこの時にはもう変化があったのだ
いつからだろう
彼女が私の部屋へ来る頻度が減り始めたのは
いつからだろう
彼女が私の部屋にいる時間が短くなったのは
もちろん今の私には分かる……いや知っているが正しいか
しかし、この時の私はそんなこと何一つ知らなかった
この時の自分の鈍感さを悲しく思う反面よろこびを感じてしまう
この時に気付いていれば何か変わっていたのかもしれない
だけど、この時気付いていれば私の今もないかもしれないのだ
―――――――――
しかしこの関係に綻びが出来始めるのは意外に早かった
高校を卒業し、大学に進学してから綻びが生まれたのだ
私はサターニャとヴィーネはラフィエルと同じ大学に進学することになった
異なる大学だがなんだかんだ近いところにある
だから私たちの仲が薄れることはなく
月に3,4回、つまり1週間に1回は4人で集まっていた
サターニャが企画をし、ラフィエルとヴィーネが大きくする
私はいつも嫌そうな顔をしながらもなんだかんだ皆出会うのを楽しみにしていた
この時にも流石に毎日来ることはなくなったが私とヴィーネの関係は続いたままだった
嫌がる私を無理やり連れだすのがヴィーネの役割で、そのついでに部屋の掃除などをやってくれていた
たまには授業がない日も来て、なんだかんだ高校時代から不変な関係を続けていたのだ
………
皆で集まることをサターニャが企画することに何故違和感がなかったのか
こういうイベントごとに一番乗り気なのは彼女だろうに
彼女はよく私の家に来ていたが、私は一度も彼女の家に行ったことがないのも
高校時代の関係から考えると不自然なはずだ
それをなぜ当然のように、不変であると私は思い続けていたのだろう……
ひとまずここまで
ぼちぼち進めていきます
そんなに長い作品にはならないと思います
これ系のSSってなんか普通に大学生になったり社会人として生きてったりしてるが
ガヴ達って高校生の間だけ人間界に来てるだけとちゃうの
訂正
>>10
この時の自分の鈍感さを悲しく思う反面よろこびを感じてしまう
この時に気付いていれば何か変わっていたのかもしれない
だけど、この時気付いていれば私の今もないかもしれないのだ
そう、私たちの関係が壊れるのは意外に早かったのだ
>>11
高校も無事卒業し私たちは大学に進学をした
私はサターニャとヴィーネはラフィエルと同じ大学に進学することになった
異なる大学だがなんだかんだ近いところにある
だから私たちの仲が薄れることはなく
月に3,4回、つまり1週間に1回は4人で集まっていた
サターニャが企画をし、ラフィエルとヴィーネが大きくする
私はいつも嫌そうな顔をしながらもなんだかんだ皆出会うのを楽しみにしていた
期待
少しだけ進めます
―――――――――
変化が起きたのは2年生の春だ
3年生へ進級前、ラフィエルがお酒を飲めるようになったこともあり
週に1回あるいつもの集まりで居酒屋に行ったのだ
どうにも私はお酒に弱いらしく最初にお酒を飲んでからの記憶がごっそりとない
意識が戻ったのはもうお開きにしようという時だった
それぞれが帰路に着くとき私はふと思い出した
私はヴィーネの家に行ったことがないと
意識が戻ったとはいえ酔いがきれいさっぱりと治まったわけではない
そんなふわついた頭で思い浮かんだのはヴィーネを驚かせようってことだった
だから私は彼女に気付かれないように彼女の後をつけていたのだ
………
これが彼女との関係が壊れる直接的な原因になった
彼女の家に行こうと考えてなければ、酔ってさえいなければ
少なくともこんな最悪なことにはならなかっただろう
この出来事が私たちの関係を変え、そして私たちのこれからにも変化を与える
本当に悔やんでも悔やみきれない
しかし……
今の私はその時を待ち望んでいるのだ
ドキドキする
訂正
>>21
それぞれが帰路に就くとき私はふと思い出した
私はヴィーネの家に行ったことがないと
意識が戻ったとはいえ酔いがきれいさっぱりと治まったわけではない
そんなふわついた頭で思い浮かんだのはヴィーネを驚かせようってことだった
だから私は彼女に気付かれないように彼女の後をつけていたのだ
進めます
―――――――――
その時のヴィーネを言葉で表すと上機嫌だろうか
鼻歌交じりに早足で歩いていた
今日の集まりもヴィーネにとって、もちろん私にとってもだが楽しいものだったのだろう
ヴィーネの鼻歌を聞きながら私は彼女の後をつけていく
それなりに近い距離なのにヴィーネは私に気付く様子がない
どうやらあいつも酔っているのだろう
ヴィーネの家は予想を超えて大きかった
高校時代の部屋とは比べ物にならない物件だ
一人暮らしにしては立派過ぎるのではないだろうか
しかし酔いが醒めきっていない私には然程違和感を抱くことはなかった
ヴィーネが郵便受けを覗き建物に入っていく
私も後に続こうと思ったのだが、扉が開かなかった
どうやらオートロックのようだ
諦めて帰っても良かったのだけど、折角ここまで来たのだから当初の目的を果たしたい
幸いなことにヴィーネが覗いていた郵便受けから部屋の番号も分かった
開かない扉は天使にとってはないものと同じである
運命の時が来た
ヴィーネの家の前に来たのだ
後はインターホンを押し私の存在を知らしめるだけだ
どんな反応をするのだろう
ヴィーネのことだから笑いながら家に上げてくれるだろう
インターホンを押す
ピンポーンと間抜けな音が響いた
………
ついにこの時が来た
私の人生を変えた瞬間だ
これから起こることを思うと心が痛む
何で冷静になれなかったと何で相手の言い分を聞かなかったのかと
しかし、今はどうでもいいことだ
今の私にあるのはこれからのことに対しての期待だ
これからは後悔を幸せで上書きするのだ
そのためにどうか犠牲になってくれ
―――――――――
「はい」
知っているようで知らない声が返答をする
これはヴィーネの声ではない
部屋を間違えたのか不安になってくる
「すいません。ここは月乃瀬さんのお宅でしょうか?」
「そうですが、どちら様でしょう?」
「えーと、月乃瀬さんの友人です」
「……そうですか。少々お待ちください」
どうやらヴィーネの家で会っていたようだ
しかしすると新しい疑問が生じてくる
今さっき対応した人物は誰なのだ?
親だろうか?
私のところにも度々ゼルエル姉さんが訪ねてくる
来るタイミングを間違えたのかもしれない……
そんなことを考えていると鍵を開ける音が響いた
扉が開かれる
私を出迎えてくれた人を見て私は固まることになる
それは酔いが醒めるほどの衝撃だった
小柄な体、絹のような美しい金色に輝く髪、真っ白な肌……
そう私なのだ
いや厳密には私ではない
小柄といえ私よりも身長は大きい
纏う雰囲気は駄天前の私に近いだろう
開かれた扉の先には私に似た誰かが居たのだ
なん……だと……
ハラハラしながら見てたがこの展開は予想外
進めます
―――――――――
私と似た人と同棲している……
いや確認したわけじゃないからもしかしたらただ遊びに来ただけなのかもしれない
しかし……しかしだ
高校時代私はヴィーネに告白されたのだ
好きですと言われたのだ
そんな奴が私と似た人と居るなんて聞くまでもないだろう
こいつらはそういう関係なのだ
ヴィーネは私に似た人で自分の欲を満たす人なのだ
「あれ?ガヴどうしたの?」
気が付けばヴィーネが私の前に居る
どうやら居間に案内されたようだ
「……」
「ガヴ?」
「ああ。なんとなく来てみた」
「そうなんだ……あれ?私、家教えたっけ?」
「ヴィーネをつけてみたんだ」
「ふふ、何してるのよ」
ヴィーネが笑っている
いつもだったら特に気にならないものだけど
今は……今の私には
とても気持ち悪いものに思えた
「ガヴ?聞いてる?」
「ああ……」
今この部屋には私とヴィーネの二人だけ
さっきのやつは気を利かせて席を外したのだろうか
「どうしたの?様子が変よ」
「……なぁ」
「うん?」
「さっきのあいつは誰?」
「さっきの?ああ!ルシさんか」
ヴィーネが嬉しそうに名前を呼ぶ
「あいつ私に似ていたよな」
「え?確かに似ているかしら」
似ているだろ……
私自身が似ていると感じるのだ
ヴィーネがそれを分かってないはずがないだろ
「仲が良いんだな」
「まあ、そうね……ねえ、ガヴ何が言いたいの?」
私の雰囲気から不審に思ったのかヴィーネが話を進めてくる
「ヴィーネはさ、あいつとそういう関係なのか?」
「そういうって?」
「付き合ってるのか?」
「つ、付き合ってるって……」
ヴィーネが顔を真っ赤にしながら焦っている
やっぱりそういうことなのだろう
あー……吐き気がする
気持ち悪い
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い
「お前、高校の時私に告白したよな」
「え?ええ」
「つまりそういうことか」
「そういうこと?」
「お前は私の代わりにあいつと居るんだな」
「は?何言って……」
「いやそうだろ。なんでよりによって私に似た人と居るの?」
「これがラフィエルやサターニャとそういう関係なんだったら分かるよ!」
「それがまさか私と似た人物ってお前……」
「ちょっと待って!」
「待てるかよ!あり得ないだろ!」
「私を手に入れることができないから似ている人で代用するって」
「お前気持ち悪いよ」
「気持ち悪いって……ちょっと話を聞いてよ!」
ヴィーネが目に涙を浮かべながら言う
いつもなら綺麗に見えた涙も今は汚れた泥にしか見えない
「聞くまでもないだろ。手に入らないものに似たもの見つけてさ」
「それで自分の欲を満たすってよくあることなんじゃないの」
「だから……聞いてよ……」
「あーそうか、私に家を教えなかったのもそういうことか」
「流石に私に紹介できないよなーあなたと似た人と付き合ってるのってか、はは」
「ごめんな。ヴィーネは気を付けてたのに私が勝手に来ちゃったんだもんな」
「安心しろよ。もう関わる気ないから」
「え?」
「お前みたいな気持ち悪い奴と一緒に居てたくない」
「じゃあ帰る。今まで色々とお世話になったな」
「待ってよ!」
「触るなよ汚らわしい」
私は泣き崩れるヴィーネを置いて行く
言い過ぎだってことは自覚している
頭に血が上っていたとはいえここまで言う気はなかった
なんでか止まることができなかった
それに気持ち悪く思うのは事実であり、そんな奴と関わりたくないとこの時は本当に思ったのだ
ベッドに倒れ込む
今日のことを思い出し心が荒む
早く寝よう……
明日お風呂に入ればいいや
体が布団に沈んでいく
心地よさが広がるとともに涙が流れてきた
拭いても拭いても涙が止まらない
涙とともに気持ちが昂っていく
「あ、あああああああああ」
何で涙が出るかは分からなかった
今回はここまで
もうすぐ半分かなぁ
ガヴリールがひどい
これは期待
どうなるのか
訂正
>>32
どうやらヴィーネの家で合っていたようだ
しかしすると新しい疑問が生じてくる
今さっき対応した人物は誰なのだ?
親だろうか?
私のところにも度々ゼルエル姉さんが訪ねてくる
来るタイミングを間違えたのかもしれない……
そんなことを考えていると鍵を開ける音が響いた
少しだけ進めます
……
思い通りに……いや記憶通りに事は進んだ
これから私は後悔にまみれながら生きていくことになるのだろう
私がこれまでの彼女と居たのなら「私」がこれからの彼女と共に生きよう
ありがとう
記憶通りに動いてくれて
ありがとう
まだ本当の気持ちに気付いていなくて
ありがとう……
そして、ごめんなさい
幸せを譲ることが出来なくて……
―――――――――
昨日は泣き疲れてしまったのかいつの間にか眠ってしまったようだ
目が腫れている
カーテンを閉め切っており外の光が入ってこない
今は何時だろうか……
携帯を見るとヴィーネから数回の電話と一通のメールが来ていた
あいつのやっていることは卑怯だ
私があいつのものにならないからといって私に似た人に手を出すなんて
そこまで私が欲しいのか……そんなに欲を満たしたいのか……!
ああ駄目だ、ヴィーネのことを考えると頭がぐちゃぐちゃする
中身を確認せずにメールを消す
電話もメールも拒否設定にした
ヴィーネのことを考えたくない……いやもうヴィーネとは関わりたくないのだ
私の生活に優しい悪魔はもういらないのだ……
今回はここまで
なかなか折り返しまで進めない……
つらい
まだ折り返しじゃないのか…
進めます
―――――――――
あれから一週間が経った
この一週間は家からも出ずひたすらゲームをやっていた
何もしていない時間があるとヴィーネの顔が浮かんでしまう
その度に虫唾が走るのだ
何も考えたくなかった……
ひたすら敵を倒す
何も考えず、ただただ敵を倒すだけを繰り返していた
私が大学に顔を出さないことでサターニャが度々連絡をよこしてきた
なんだかんだあいつは良い奴である
しかし、今の私には彼女の優しさを受け入れられるほどの余裕がなかったのだ
いつも通り電話越しに騒ぐ彼女の声にどうしようもない怒りが湧いてきた
私以外に友達が居ないのかと
お前には悩みなどないだろうと
馬鹿みたいに騒ぐなと
お前もあいつと同じ汚らわしい悪魔なのだと
口を開くと感情が零れそうになった
こんなのは八つ当たりでしかない
八つ当たりだと分かっているから、当分放っておいてくれと頼んだのだ
普段なら食い下がるであろうサターニャも電話越しとはいえ空気を読んだのかそれ以降追究をしてこなかった
今の私には怒りしかないのだ
その怒りを無くすため、ただただモニタに映る敵を倒すのだった
ずっとゲームをしていると突如インターホンが鳴り響いた
私は今誰にも会いたくないのだ
誰であろうと扉を開ける気などないのだ
だから私はひたすら敵を倒し続ける
再度インターホンが響く
私の手が止まることはない
今度は小さくノックの音が聞こえた
しつこく思いながらも手を止めることは……
「ねぇ、ガヴ……」
手が止まった
今私が最も会いたくない人物の声が聞こえてきたのだ
「ねえ、ガヴいるんでしょ?」
一週間ぶりに聞くあいつの声は私の怒りに油を注ぐ
どの面下げてここに来た
私はもうおまえには会いたくないのだ
「扉は開けなくていいから聞いてほしいの」
聞きたくない聞きたくない聞きたくない
身近にあったヘッドホンをモニタに繋ぎ耳をふさぐ
言い訳なんかは聞きたくない……
お前の声なんか聞きたくない……
もうこれ以上軽蔑させないでくれ!
それから何時間経っただろう……
締めっぱなしのカーテンで外の様子も分からない
まだヴィーネは居るのだろうか
玄関まで音を殺し進んでみる
覗き窓から外を見るとそこには誰も居なかった
扉を開けて確認してみる
やはりそこには誰も居なかった……
今回はここまで
なんか無駄に長くなってる気がする
乙
全然冗長でもないし好きに書いてくれ
いいね
最後どうなるか楽しみ
遅くなりました
再開します
―――――――――
私が不変だと信じ切っていたものは思っていたよりも脆く、私はあれ以降ヴィーネを見ていない
顔を出していなかった大学にもきちんと復帰した
というのも痺れを切らしたのかサターニャが家まで強引に連れ出しに来たのだ
私の生活からあの悪魔が消えたところで劇的に何か変化することもなくただただ時間は流れていく
一番大きく変わったことは週に1回あった集まりが大学生活の忙しさから月に1度になり、またそれも全員が揃うことが無くなった
三回生以降になると研究や就活で忙しくなるから仕方ないだろう
そのためかサターニャもラフィエルも私とヴィーネのことを知らなかった
しかし、ヴィーネのことは疑問に思っていたようだ
なにせ、あれ以降私が知る限りヴィーネは一度もその集まりに参加していないのだから……
ヴィーネと会わなくなり時間を置くことで、燃え続けていた怒りも今では小さくなっていた
だから疑問に思うことがある
なぜあんなに怒ってしまったのか
なぜ冷静になれなかったのか
静まった怒りは私の心にしこりを残していった
―――――――――
たまに思い付きで料理をすることがある
もちろん私のことだ、そう手の込んだものではなく簡単なカレーとかである
今はカレーの気分であり、どうしてもカレーを食べたくなったのだ
普段は冷凍食品やカップ麺ぐらいしか買うことのないスーパーにカレーの材料を買いに行く
オーソドックスにんじん、玉ねぎ、ジャガイモ、肉をかごに入れていく
ちなみに肉は豚肉だ
豚は牛より安い
あとはルーだけだ
カレールーのコーナーを覗いていると、
『ガヴは甘口でいいのよね?』
前にヴィーネと買い出しに行ったことを思い出した
私が食べたいものを言うとヴィーネはそれを作ってくれた
買いものに無理やり連れて行くのはどうかと思ったが……
まあ、ヴィーネは料理が上手だったからそれで満足するのなら安いものだ
しかし、もうヴィーネは居ない
私と似たやつと仲良くやっているのだろう
落ち着いたはずの怒りがまた燃え始める
ヴィーネが居なくたってカレーぐらい作れる
カレーなら満足できるものを作ることができる
無駄に意気込みながらいつものルーを手にするのだった
―――――――――
カレーを作るのは難しくない
ルーの箱にも書いてある通りに作ればよく、誰が作ってもそうそう味に差が出ることはない
実際、私もそう苦戦することなく完成させた
しかしどうだろう
いつも食べていたものと味が違う
作り方も間違ったことはしてない
それなのにいつもとは雲泥の差があるように感じるのだ
たかが市販のカレーなのに一人で作ることもできないのだろうか
こういう時は第三者の意見を聞くのがいい
サターニャは味音痴で役立たずとなればラフィエルしかいない
一緒にご飯でもどうかとラフィエルを誘ってみたのだった
「お邪魔します」
程なくしてラフィエルが来た
「あ、来た来た」
「ガヴちゃんが私をご飯に誘うなんて珍しいですね」
「別にそんなこともないだろ」
「そうですか?」
「うん。で、ラフィこのカレーを食べてみてくれ」
「美味しそうなカレーですね。いただきますね」
ラフィエルがカレーを口に運ぶ
何一つ変わったこともしていないのに様になっている
本当にこいつは見た目だけなら神々しく天使そのものだ
「どう?」
「どうと聞かれましても普通においしいですよ?」
「ホントに?」
「え、ええ」
「普通はもっと美味しくない?」
「市販のものですよね?こんなものだと思いますが……」
「私が覚えている味とは何か違うんだよ」
「覚えている味ですか?」
「うん。いつもはもっと美味しいはずなんだよ」
「んーそうですねーそれはガヴちゃんが作ったんですか?」
「いや……その、ヴィーネが作ったものだけど」
「ヴィーネさんがですか……」
何やらラフィエルが考え込む
材料も同じだし作り方も箱通りにやったのだ
それが何故こんなにも味に差が出るのだろう
考えられることは一つしかない
ヴィーネが何かアレンジしていたのだろう
私が知らないんだ
もうあのカレーを食べることはできないのだろう……
「そうですね。お台所お借りしてもよろしいでしょうか?」
「え、ああ良いけど……」
「少しお待ちくださいね」
ラフィエルが台所に入っていく
何か思いついたようだけど何をするのだろう
数分ぐらい作業をしてラフィエルがカレーを持って戻ってきた
「これでどうです?」
「えっ?」
「おそらく近い味にはなっていると思うのですが」
ラフィエルからお皿を受け取り食べてみる
……!
そうだ確かにこの味だ
いつもの味だ
「どうでしょう?」
「うん。いつもの味だと思う」
でも……なんで?
胸がムカムカする
「ふふ、それは良かったです」
おかしいだろ……
じわじわと私の心に広がってくる
「何で知ってるの?」
私が……今まで一緒に居た私が知らなかったのに
前まで私の心を渦巻いていた感情
「以前ヴィーネさんに教えていただいたんですよ」
なんでお前が知ってるんだよ!
そう、これは怒りだ……
―――――――――
それからのことはよく覚えていない
普通に話して何もなく帰ってもらったはずだ
気が付けばまた黙々と敵を倒していた
ラフィエルに文句を言うのも筋違いだ
考えてみれば友達同士なんだ
私の知らないところでのやり取りは当たり前にあっただろう
それなのに、それなのに
私の知らないヴィーネのことを、知っているラフィエルに何で怒りが湧いたのだろう……
今回はここまで
なかなか進まない……
ガヴちゃん荒れてんな
まだか
>>1です
最近時間が取れなく進められてはいませんが必ず終わらせますので……
毎日が休みだといいのに
待っております
ほ
―――――――――
カレーの一件があってそれなりに月日が流れた
諦めていた私の身長も少しは伸びた
身体的変化に少し変わったように精神的にもまた少し変わったところがある
普段はもうヴィーネに対する怒りはほぼほぼないに等しい
私にだって生活があり、いつまでもヴィーネに憤りを覚えたままなのもおかしいだろう
しかし治まった怒りは相変わらず私の心にしこりを残している
このしこりは私の知らないヴィーネの話を聞くと簡単に発火する
その炎は何とも言えない感情で私を焼いていくのだ
それは胸の中をチクチク刺すように痛み、モヤモヤと釈然としないものを与える
そしてムカムカと苛立ちを与えるのだ
これはあの時……ヴィーネの家に訪れたときにも抱いたものと同じで
だからこの感情は怒りなのだ
そう怒りなのだ……
―――――――――
私がすべてを知っているなんて自惚れでしかない
でも私とヴィーネの関係は互いのすべてを知っているものだと錯覚するには十分なものだった
だからこそ、だからこそだ
ヴィーネが私の知らないところで私に似た人と一緒に居ることが許せなかった
しかし時間を置くことで私は冷静になれた
冷静になれた今だからもう一度ヴィーネに会いたいとそう思うようになった
自分でも身勝手だと思う
しかし、高校時代からあの時までは私の生活には彼女が居たのだ
彼女に会えない生活はやはり寂しかった
もしかしたら私の勘違いだったのかもしれない
ただの友人だったのかもしれない
親戚だったのかもしれない
土下座だって何だってしよう
優しくても悪魔な彼女は許してくれないかもしれない
私が悪いのだ
許してくれなんて偉そうなことは言えない……
ただ私はもう一度彼女の顔を見たいのだ
―――――――――
以前彼女が暮らしていたマンションへ向かった
そんなに時間も経っていないからか建物に変化はない
相変わらず部外者が入ってこれないように扉は閉じられている
天使にとって開かない扉はないものと同じである……
しかし、しかしだ
今の私には以前のように易々と越えていけるほど心に余裕がない
ヴィーネには会いたい、たしかに会いたいのだが
やはりあんな態度を取ったのだ、敷居が高く感じてしまう
どうしたものか……
うろうろと建物の周りを歩く姿は不審者だ
グダグダ悩んだところで仕方がない……仕方ないのだが踏ん切りがつかないのだ
そう言えばヴィーネの部屋は何号室だっただろうか
あいつは馬鹿正直だ
このご時世なのに郵便受けに名前を貼っていた
それを見ればわかるだろうと軽い気持ちで郵便受けを探すのであった
……?
数年前の記憶とはだから間違っていることはある
しかし建物を間違えることはないだろう
建物を間違えていないのなら、あのバカ真面目なヴィーネのことだ、郵便受けから名前を外すなんてことも考えにくい
だから郵便受けに彼女の名前がないのはおかしい
それこそもうここに住んでいないのなら分かるのだが……
冷や汗が出た
そう、ヴィーネがもうここに居ないなんてことを考えてもいなかった
居ないなんてことはないはずだ
引越しをするにしたって自分に連絡が来るはずだ……来るはずなのだ……
もう彼女がここに居ない……
焦る気持ちを抱き、私は建物の中へ入るのだった
数年前の記憶とは言え何階に住んでたかぐらいは覚えている
彼女の部屋があったフロアを隈なく探してみたのだが、彼女の表札は見つからない
フロアを間違えたのかとすべてのフロアを探したがやはり彼女の表札は見つからなかった……
今まではもう関わる気がないとか言っていたが心のどこかでいつでも会えると考えていた
だって今まで私の横に居たヴィーネだ
会わないことはあっても会えないことなんてなかったのだ
拒否設定にしたアドレスや電話番号にも連絡を入れてみたがもう使われていなかった……
彼女を……ヴィーネを許せない気持ちは確かにあった
しかしそれも彼女に直接言われたわけではなく
私が勝手に騒いだだけだ
もしかしたら恋愛関係ではなかったのかもしれない
ただの友達だったのかもしれない
たらればの話をしたところで何も変わらないのだが……
どうして私は彼女の話を聞かなかったのだろう
いつでも会えると思っていたヴィーネに会うことができない
前までの様に会話なんかなくてもよかった
ただ、ただ一目だけでも彼女を見たかったのだ
この時私は初めてヴィーネを失ったという実感を得た
なんだかんだいつでも彼女に出会えると
そんな甘えた考えは間違っていた……
もう私の手の中に彼女はいないのだ
胸に残るしこりはもう燃え上がらない
喪失感を知ることでしこりが何か分かってきた
これは怒りではない
そう怒りではないのだ
怒りではなく燃え上がるもの
私の胸を苛むもの
答えは分かりきっている
だけど私はそれを隠すことにした
それを知ってしまうと、それに正しい名前を与えてしまうと
私はあの時の自分を許せない
私と似た誰かと居る彼女が気持ち悪いのだと
これを怒りだと捉えていないと
私はきっと後悔するのだから……
ぼちぼち再開していけたらと思ってます
プロットの段階だとこれまだ半分行ってないんですよね……
楽しみに待っています
続きが楽しみだ!
控えめにいって神だわ
訂正
>>111
だけど私はそれを隠すことにした
それを知ってしまうと、それに正しい名前を与えてしまうと
私はあの時の自分を許せない
私と似た誰かと居る彼女が気持ち悪いと感じたのは怒りからだと
そう、これを怒りだと捉えていないと
私はきっと後悔するのだから……
来たか
続きが楽しみだ
ゆっくり待ってます
―――――――――
大学も4年生になり、大きなイベントも後は卒業を控えるだけになった
あれからヴィーネには会うことはなかった
いや会えなかったのだ……
あの悪魔のことだ、きっとラフィやサターニャには……少なくとも同じ大学に通うラフィには引越し先を教えているはずで
あの二人にただヴィーネはどこに居るかを聞くだけでヴィーネに会うことは可能であったと思う
しかし、あいつは私に引越すことを言わなかったのだ……
あの真面目なヴィーネが私に言わなかったということはそういうことだろう
だから私は彼女に会うことが怖かった
あの優しさにあふれた目が敵意に染まるところなんて見たくなかったのだ
もう一度顔が見たいと望んでいたはずなのに……
いや今でも望んでいる
だけど、その顔に浮かぶ表情が怒りなら……侮蔑なら……
私はきっと立ち直ることはできないだろう
―――――――――
就職先は天界にあるそれなりに大きな仕事だ
だから地上に居られるのは卒業までの期間である
地上に降りて来たばかりの私なら部屋もきれいな状態であっただろう
しかし、駄天使……懐かしいな
私がヴィーネにしたことを考えると本当に堕天使が正しいのかもしれない
……そんなのはどうでもよくて
今の私は部屋の整理をきちんと行っていない
私の精神をそのまま部屋で再現したかの様な部屋である
それはとても醜く目をそらしたくなるもので……
しかし長く住んだこの部屋も卒業とともに引き払わなければならない
そのためには乗り気でなかろうと掃除はしなければならないのだ
部屋を掃除することで私の精神もきれいになるかもしれない
そんな期待を持って部屋の掃除を始めるのだった
掃除をしていると分かることがある
この部屋にあるものの大半は自分の生活ごみや日用品、嗜好品である
だけど、稀にこの部屋を訪れた人物のものがある
魔界通販と書かれた箱はサターニャが捨てて行ったものだろう
赤いリボンはラフィが忘れたものだろう
C言語と書かれた本はタプリスのものだろう
この部屋に来たことがある様々な人物の残り香がこの部屋にはあるのだ
その中に見覚えがあるエプロンがあった
私はそもそも料理をしないし、したところでエプロンは使わない
サターニャやタプリスはこの家で料理をしない、ラフィが台所に立ったのはカレーの時ぐらいだ
この家で一番台所に立っていた人物は……一番料理をしていたのは
あの優しい悪魔しかいないのだ
そのエプロンを抱きしめると懐かしい匂いがした
それは本当に懐かしく……きっともう嗅ぐことはないと思っていたその匂いに涙があふれてくる
「ヴィーネ……」
綺麗になった部屋に言葉が響く
部屋が綺麗になったところで私の心は晴れることはない
だけれど、もう感じることがないと思っていたヴィーネを感じることができた
ヴィーネを感じることで胸のしこりがなくなっていく
見ないようにしていた感情は
怒りだと思っていた感情は
ヴィーネを感じることで小さくなっていく
もう隠し通すことはできない
怒りだったならヴィーネを感じて燃えなければならないのだ
それなのにヴィーネを感じてしこりは小さくなっていく
答えは分かっていた
ただそれを見たくなかっただけなのだ
後悔しようにも自分をごまかすことができなくなった
ならば諦めて正しい名前を与えよう
この感情の名前は
そう「嫉妬」である
今なら分かる
分かるにしても遅すぎた
私の気持ちは高校の時から変わっていない
変わっていないのだ……
私は高校の時から
ヴィーネが好きだったんだ
遅すぎた気持ちを理解して
今の私には何ができるだろう
分かっている
何もできないのだ
理解したからこそ、ヴィーネに会うのが怖い
私の恋愛は始まったときには終わっていたのだ
涙はあふれ出て止まらない
濡れた叫びが部屋に響いているのだった
待っている人がいるのか知りませんが今回はここまで
だいぶ余裕も出てきたので3月中には終わらせたいです
これまだ折り返し行ってないんですよね……
あと長く間が開いたので文体が変わっていて違和感を覚えられたら申し訳ありません
乙
ずっと待ってた
まだ折り返しに行ってないのか(歓喜
待ってたし待ってるよ
さ、3月がもうすぐ…
今日で三月が……いやっ、来年も三月はくるか
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