荒木比奈「今日までの記憶が全て」 (9)


いーじゃん!いーじゃん!初投稿じゃん!?

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荒木比奈「STOPした意識」
荒木比奈「STOPした意識」 - SSまとめ速報
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読まなくても大丈夫なようにはなっています


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1508424525

荒木比奈さん、ボイス実装おめでとうございます
https://imgur.com/a/fBICC


レッスンルームの扉を閉め、更衣室へ向かう。汗はそれほどかいていないけれど、やっぱあり慣れたジャージに着替えたい。

壁に掛けられた時計を見る…ボイスレッスンをしていたらすっかり遅くなってしまった。もうこんな時間だ。なるべく早めに帰らないと明日に響くかも。

あ、そうだ、明日と言えば。必要な資料があったんだ。ちゃんと持ってきたっけ?

少し気になってカバンを探る…けど、あるのは着替えた服と、来る前に買った漫画だけで必要な資料はどこを探してもなかった。

忘れちゃったみたいだ。

「取りに行かないとなぁ…」

この時間だと、もう事務所には誰もいないかも。誰もいない学校と同じようなもので、誰もいない事務所も中々怖いからあまり気が進まない。ホラー漫画は平気だけど、平気だからと言ってこういうことまで大丈夫だというわけでもない。

でも、取りに行かないといけないのは確かなことで…。

「…ふぅ」

一度落とした肩を持ち上げて、私は事務所へと向かった。


一人で事務所の廊下を歩く。スニーカーの床を踏む音が静かな暗闇の中に反響する。もう季節は冬に差し掛かっていて、下の方にたまった冷たい空気が私の足先を攻撃してくる。この感覚はあまり好きじゃ無い。早く目的地に辿り着こうと、少しだけ急ぎ足になった。

「ん…あれ?電気が…」

急ぎ足のまま角を曲がると、暗がりの中に消えているはずの明かりが目に入った。どうしてだろう、誰かが消し忘れて帰っちゃったのかな。だったら、資料をとるついでに消して帰ろうかな。

誰もいないはずだし、とノックも声をかけることもせずに部屋のドアを開ける。見回しても誰も見えないので、やっぱり消灯しわすれて帰ったんだろう。

そう思っていた矢先、聞き慣れた低音が私の耳に入った。なんだっけこの音、本当に常日頃きいているような…あ、もしかしてパソコンのファンの音?

でもどうして、誰もいないはずのこの部屋のパソコンのファンが稼働しているのだろう?スリープモードでもファンが稼働するような状態は、電気代の面で千尋さんが真っ先に解決するだろうし。というかこの消灯してない状況もちひろさんは許さないんじゃ…。

だとしたら、電気も、パソコンもつけっぱなしにしてみんな帰っちゃったようなこの状況はおかしいような…。

少し不審に思って、ファンの音がした方へ行ってみると、疑問の答えは出た。この部屋には誰もいなかったわけじゃなくて、最初から私が見てなかっただけなんだ。

「ぁ…」

そこには、パソコンも電気もつけたまま、机に突っ伏して居眠りしてる一人の姿が。

私のプロデューサーだ。きっと、残業途中で寝落ちしてしまったのだろう。


起こそうとして彼のそばに立つ…とつけっぱなしのデスクトップが目に飛び込んできた。そこには、おそらくこれからあるのだろう仕事の企画内容と、私のことが画面いっぱいに、所狭しと書いてあった。

少しだけ文面を読んでいく。…彼から見た私の魅力や欠点が文章を読むのは少し気恥ずかしかったが、それでも読まずにはいられなくって、そして、

「…えへへへぇ」

にやけずにはいられなかった。やっぱり彼は、私以上に私のことを見てくれるんだなぁって思えた。それがたまらなく嬉しかった。

「うぁん…ひな…ぼく…」

「っ!」

ニヤけた口元を手で隠そうとした時に、もぞりと彼の体が動いた。もしかして起きちゃった?どうしよう、顔がこんなになってる今だけは起きて欲しくない。

でもそんな心配は、ただの杞憂に終わった。彼はただ身をよじらせただけのようで、それからまた寝息を立て始めた。しばらくたって、まだ起きないことを確認してから、ホッと胸をなで下ろす。

よかった…

…でも、これって起こした方がいい気がする。だって見たところまだ書類は完成していないみたいだし、残業するにも寝たまま時間を無駄にするのはあまりよくないと思うし…

…起きないんだよね?


彼が起きないことを良いことに、私はあることを思いついた。いたずらにもならないような、ちょっとしたあること。

それを実行する前に、私は彼の書いた、私に関する文章をもう一度読み直す。そこに書かれていることは、これまでの私のことで。彼が今まで見てきてくれた私だ。

読む度に、嬉しい気持ちでいっぱいになるその文字を、一つ一つかみしめるようにして読む。

それから、彼の耳元に、私の口を近づけて、囁くように

「…ありがとうございまス」

とだけ、それだけを言った。

私を今まで見てくれた彼に、私は感謝の言葉を紡ぐ。寝ている彼にこの言葉が届いているかどうか分からないけど、でも、届いていると良いな。


さてと、そろそろ彼を起こさなくっちゃ。この文章の続きを書いてもらいたいし。ああでも、このまま起こすのはなんだか忍びないな。何か差し入れか何か買ってこようかな。うん、そうしよう。

私は彼を一瞥して、部屋を出た。廊下はやっぱり肌寒くて、足先がまた冷えそうになる。私はなるべく早足で、自販機まで向かった。早足の理由は、寒さだけじゃ無いと思う。

彼がいつも飲んでいる缶コーヒーと、私の好きなジュースを一つずつかって、さっきよりも急いで彼の元へと戻ろうとする。

そうして曲がり角を曲がったところで、今度は声が聞こえた。

「あああ!寝てた!うわ!終わってないのに!!」

…起きちゃったみたいだ。しょうがないや、彼が寝てたのを知らない振りした方が良いかも。さっきのことをボロだして言うのは恥ずかしいし。あの文章も、本来私は読まない方がよかったものだろうし。

私は、ジュースと缶コーヒーをカバンにしまって部屋のドアを開ける。彼の表情は、焦っていたものから不思議そうな顔へと変わった。

私はいつものように、彼に声をかける。

「あ、あれ?プロデューサーじゃないっスか、遅くまでお仕事お疲れ様っス!」

でも私は嘘を吐くのは少し下手なようで、つっかえながらの言葉になってしまった。

短いですがここまでです、ありがとうございました

10月19日、比奈先生にボイスがつきました
今日という日は元旦です、それも一月一日、紀元を書き換えてもいいくらい特別な日ではありませんか

まだ終わってないだろいい加減にしろ
おつ

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