黒井「雨か……」 (25)


ザァァァ…


黒井「ちっ、こんな日に降ってきおって……。どこか雨宿りできる場所は……」

黒井「……仕方ない、あのバス停で」タタタ



黒井「…………ふぅ。全く、天気予報などあてにならんものだな。スーツがびしょ濡れに……」

黒井「…………」

黒井「セバスチャンもいない、運転手もいない、社員も半数が辞めてしまった……」

黒井「……天下の961プロ、黒井崇男ともあろう者が落ちぶれたものだ」




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黒井(全てはあのIU(アイドル・アルティメイト)敗北、そしてプロジェクト・フェアリー解散からだ。あの時から、私の築き上げてきたものが次々と雪崩のように崩れていく)

黒井(私に見る目が無かったのか? 彼女たちはダイヤの原石ではなかったというのか……?)

黒井(……いや、まだだ。まだ終わらんぞ。私には新たな原石、ジュピターがいる。彼らの為にこうして私自らが走り回っているのだ、今度こそ絶対に無駄にはせん)

黒井(765プロめ、今はせいぜい笑っているがいい。ジュピターが本格的に始動した時こそ貴様らの最後なのだ……!)



「…………うわぁぁん! 冷たいぞーー!!」タタタ



黒井「…………うん?」



響「うぅ、冷たい……。びしょびしょになっちゃった……」



黒井「…………響ちゃん……」

響「く、黒井社長……!?」


ーーーーーー
ーーー


響「えっと、はじめまして! 自分、那覇響だぞ! あっ、じゃなくて……です!」

黒井「ようこそ961プロダクションへ。私が社長の黒井崇男だ。君には期待しているよ、響ちゃん」

響「うん! 自分を拾ってくれた親切な黒井社長のためにも、絶対に一人前のアイドルになってみせるぞ!」

黒井「ノンノン、一人前では意味が無いのだよ」

響「えっ?」

黒井「アイドル界の頂点。その高みを掴める実力を君は持っている」

黒井「響ちゃん。君はIUに優勝してトップアイドルとして君臨するのだ。それ以外の地位に存在価値などない。……やれるね?」

響「……トップアイドル……」

響「黒井社長がそれを求めるなら……自分、全力でやる!」

黒井「よろしい。では、君の今日からのスケジュールを説明しよう。まずレッスンだが……」


ーーー
ーーーーーー


響「えっと……その……」

響「久しぶり……だね」

黒井「まさかこんなところで会いたくない顔に会うことになるとはな……。どうやら今日は厄日らしい」

響「うぅ、出会い頭にヒドイよ……」

黒井「…………」

響「……黒井社長も雨宿り?」

黒井「見て分からないかね?」

響「わ、分かるけどさ。黒井社長っていつも車で移動してるイメージだったから。今日は車じゃないんだね」

黒井「君には関係ない」

響「そ、それはそうだけど……」

ザァァァ…



響「…………」

黒井「…………」

響「…………ふぁ……」

響「……………………ぬっひゃあ!」

黒井「!?」ビクッ

黒井「い、今のは何なのだね一体!?」ドキドキ

響「ん? 普通にくしゃみだけど」

黒井「そ、そうか。変わったくしゃみだな……」

響「うぅ、ちょっと寒くなってきたな……」ブルッ

黒井「…………」

黒井「………………ほら」スッ

響「え?」

黒井「拭きたまえ。安心しろ、新品同様の超高級セレブハンカチだ」

響「黒井社長……!」パァァ


ーーーーーー
ーーー


黒井「ここがトレーニングルームだ。君にはこれからここでレッスンをしてもらうことになる」

響「わぁ……見たことない機械がたくさん……」キョロキョロ

黒井「フッフッフ、驚いたかね? ここにあるのは最新の技術を集めて作られた機器、そして指導するのは専門の知識を持ったトレーナーたちだ」

黒井「まさにセレブである961プロのアイドルにピッタリの施設というわけなのだ」

響「セレブってすごいんだなー……」


ーーー
ーーーーーー


ザァァァ…

響「…………雨、止む気配がないなー」

黒井「もしかしたら今日いっぱいは止まないのかもしれんな。……忌々しい」

響「…………」

響「ねえ、黒井社長。あのさ……」

黒井「何かね?」

響「……ううん。やっぱりなんでもない。ハンカチ、洗って返すね」

黒井「必要ない。代わりなどいくらでもあるからな」

響「あ、うん……」

ーーーーーー
ーーー

響「はぁ、はぁ……!」キュッ キュッ

黒井「いいかい、響ちゃん。この世界には勝者と敗者の二通りの人間しかいない。トップに立てぬ者は全て敗者だ」

響「……くっ!」タタンッ

黒井「天下の黒井プロに敗者は必要ない。もし君がIUで無様な姿を晒したならば……」

黒井「その時は、君の代わりに新しいアイドルが舞台に立つことになるだろう」

響「……はぁ、はぁっ!」キュッ

黒井「君には確かに才能があるが、君の代わりはいくらでもいるのだ」

響「…………くそぉっ!」タンッ


ーーー
ーーーーーー


…ピピピ

響「……もしもし、貴音?」

響「……うん。……うん、そうなんだ」

響「ううん、それは平気だぞ。もう近くにいるから、あとちょっと待ってて。心配してくれてありがとね!」

響「それじゃ、またあとで!」

ピッ

黒井「…………」

黒井「そういえば765プロはこの近くだったか」

響「うん。このあと貴音と美希と食事に行く約束してるんだー」

黒井「……そうか」

黒井「…………」

黒井「貴音ちゃんや美希ちゃんは元気でやっているのかね?」

響「んー、元気っていうか……あの二人はホントマイペースだからなー。昔とそんなに変わらないかも」

響「あっ、でもね? 春香とか真とかやよいとか、765プロのみんながすっごく良くしてくれてさ!」

響「だから自分も貴音も美希も、961プロにいた頃よりも気を使わなくて済むっていうか…………」

響「…………あっ」

黒井「…………」

響「…………ご、ごめんなさい」

黒井「謝ることではないだろう? もう私と君たちは赤の他人なのだ」

響「うぅ……」


ーーーーーー
ーーー


黒井「響ちゃん、紹介しよう。君と共に961プロを背負って立つことになるアイドル候補生、星井美希ちゃんに四条貴音ちゃんだ」

美希「よろしくなの。……あふぅ」

貴音「宜しくお願い致します」ペコリ

響「我那覇響だぞ! よろしくね、二人とも!」

黒井「さて、君たちにはこれから共に活動してもらうことになるのだが……」

黒井「君たち三人は我が961プロのプロジェクト・フェアリーの一員であると同時に、それぞれが自分を脅かす敵だと思ってもらいたい」

響「えっ?」

黒井「馴れ合いは何も生まない。ただお互いの実力を腐らせるだけだ。分かったかね?」

美希「んー、よくわかんないけど、はいなの」

貴音「それが黒井殿のやり方ならば、従います」

響「…………」

響「…………分かったぞ」


ーーー
ーーーーーー


黒井「…………しかし、君もすっかり丸くなったものだな」

響「えっ?」

黒井「私が育てた響ちゃんはもっと王者の風格が感じられたはずなのだが……」

黒井「どうやら君も765プロに毒されてしまったようだな」

響「…………」

響「……自分をここまで育ててくれたこと、黒井社長には本当に感謝してる」

響「でも、765プロを悪く言わないでほしいんだ」

響「765プロのみんなは敵対心むき出しだった自分に『そんなの関係ない』って言ってくれて、あんなにみっともなく負けたのに優しく迎え入れてくれて……今は、自分にとって大切な場所だから」

黒井「……フン」


響「ねえ、黒井社長。今からでもやり方を変えられないかな?」

響「もっと、なんていうか……。出会った人を大切にするっていうかさ。ライバルでも仲良くしたりできないかな?」

黒井「くだらん。今さらそんな甘っちょろい考え方ができるか。私は簡単に方針を変えたりしない」

響「で、でも自分、黒井社長と仲直りしたくて!」

黒井「くどいぞ響ちゃん!」

響「っ……!」ビクッ

黒井「…………失礼、大人気なかったな」

黒井「だが君が私に何を言おうと無駄だ。私は私が信じた道をゆく」

黒井「それは765プロも同じだろう?」

響「…………」ジワッ

黒井「…………え?」

響「うわあぁぁぁん!! 黒井社長のバカぁぁ~!!」ポカポカ

黒井「ちょっ……ひ、響ちゃん!?」


ーーーーーー
ーーー


黒井「いいかい響ちゃん。765プロは三流で変態でおぞましい事務所だ。真っ先に潰さなければならない敵なのだ」

響「変態って、例えばどんな?」

黒井「ヤツらは、パスタを鼻から食べる」

響「は、鼻から!?」

黒井「あとうどんも鼻から食べる」

響「うどんも!?」

響「じゃ、じゃあ……ラーメンは? ラーメンは違うよね?」

黒井「…………残念だが、スープすらも鼻で飲むのだ」

響「そ、そんなっ……!」ガーン

黒井「フフフ、分かっただろう? 765プロの恐ろしさが」

響「恐ろしい……恐ろしすぎるぞ、765プロ……!」ワナワナ


ーーー
ーーーーーー


響「グスッ……ヒグッ……」

黒井「…………す、少しは落ち着いたかね?」

響「ううっ……」

響「……自分、さんぴん茶が飲みたいぞ……」グスッ

黒井「わ、分かった。少し待っていたまえ」タタタ

響「…………」




黒井「…………ほら、買ってきたぞ」スッ

響「うん、ありがと……」

プシュッ

響「ゴクゴク……」

響「…………ふぅ」


ーーーーーー
ーーー


響「……ま、待ってよ! もう一回チャンスをくれれば自分、次は絶対に優勝してみせるから!」

黒井「『もう一回』、『次は』か……。やれやれ、そんな言葉は君から聞きたくなかったな」

響「黒井社長っ!」

黒井「言ったはずだ。IUで優勝できなければクビだと。トップ以外は価値が無いのだよ!」

黒井「ここまで君に投資をしてきたが、それは全て無駄となったわけだ。……残念だよ、響ちゃん」

黒井「もう故郷に帰るといい。最後の慈悲だ、チケットは私が手配してあげよう」

スタスタ

響「ま、待って! 黒井社長っ!!」


ーーー
ーーーーーー


響「…………」

響「……ズズ」

響「………………えへへ」

黒井「何を笑っているのだ。さっきまで大泣きしていたくせに」

響「だってさっきの黒井社長、めちゃくちゃ慌てておかしかったんだもん」

黒井「くっ……さては騙したな!」

響「…………ごめんっ!!」ペコリ

黒井「フン、分かっていたさ。所詮は君も765プロ。すっかり染まってしまったのだと」

響「ごめん! ……ごめんなさい!」

黒井「いいから頭を上げたまえ。私はもう君とは無関係だ。無関係の人間に何をされようと怒るだけ馬鹿馬鹿しいからな」

響「違う! そうじゃなくて!」

響「負けちゃって、ごめんなさい! せっかく黒井社長にたくさん良くしてもらったのに、恩を仇で返してごめんなさいっ!」

響「…………黒井社長の夢、叶えてあげられなくて、ごめんなさい……!」

黒井「…………響ちゃん……」


ーーーーーー
ーーー


黒井「なぜ私がトップに拘るか、か。そうだな……」

黒井「トップというのはつまり頂。一番高みにあるものだ。そこはどんな場所だと思う?」

響「うーん……やっぱり見晴らしが良かったりするの?」

黒井「ただ景色が良いだけではない。そこには全てがある」

響「全て?」

黒井「ウィ。そこに至るまでの苦労が報われ、存在価値が永遠に刻まれる。自分が生まれてきた意味を、そこに立って初めて知ることになるのだよ」

響「ふーん……なんだか気持ち良さそうだね! 自分山登りってあんまりしたことないし、頂上からの景色って見てみたいぞ!」

黒井「…………いつか果たせなかった夢を、君たちが……」ボソッ

響「えっ、何か言った?」

黒井「いや、なんでもない。さあ、そろそろレッスンの時間だ」

響「よーしっ、トップアイドルになるために頑張るぞーっ!」


ーーー
ーーーーーー


響「……自分と黒井社長はもう同じ事務所じゃなくてライバルで、黒井社長は自分のことを敵としか見てないかもしれないけど」

響「そういう考え方、簡単には変えられないのかもしれないけどっ」

響「でも、それでも自分……勝手に黒井社長と仲良くするから!」

黒井「…………は?」

響「一方的でもいい。バカだって思われてもいい。それでも、自分はこれからも黒井社長と仲良くするって決めたぞ!」

響「だって……黒井社長は自分の恩人で、今でも大切な人だって思うから!」

黒井「…………」



チュン チュン


黒井「ん? ようやく雨が上がったか」

響「ホントだ、まぶしい……」

響「なんか、すっごく長い間雨が降ってた気がするぞ」

黒井「…………ああ、そうかもしれないな」





響「じゃあ、自分もう行くから」

黒井「ふぅ、ようやくお守りから解放されるのか」

響「あー、お守りとかヒドいなー。自分もうそんな歳じゃないんだからね!」

黒井「高木に会ったら伝えてくれ。『首を洗って待っていろ』とな」

響「えっと……よろしくって言ってたって伝えておくね」

黒井「……さあ、もう行きたまえ」

響「……うん」

スタスタ









…ピタッ

響「黒井社長ーー! やっぱりハンカチは洗って返すことにするから! それでさ、返しに行く時は貴音と美希も連れてくからよろしくーー!」

響「あと……」

響「今まで、本当にお世話になりましたっ!!」ペコリ

響「それじゃまたね!」

タタタ





黒井「…………やれやれ、うるさい太陽だ」





おしまい


おわり
パーフェクトサンのアフターのつもりです
響誕には間に合わなかった…

おつ
やっぱり黒ちゃんはツンデレ

煩わしい太陽だな
おつ

こういう立場は変われど恩は忘れずっていうのいいよね
おつでした

やっぱ黒ちゃんはツンデレが一番似合うな

黒ちゃんも黒ちゃんでフェアリーを心配してたりちゃん付けをしてるし
やっぱツンデレが似合うよね

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