インデックス「この向日葵を、あなたに」 (171)

※注意
この物語はとある魔術の禁書目録のSS、上条×インデックスです
内容はほのぼの+ちょいオカルトっぽくなる予定です。うん多分、なるといいですよね

ちなみに>>1は「インデックス嫌いのヘイト野郎」と罵られていますので、その分覚悟して読んで下さい

ともあれ最後までお付き合い頂ければ幸いです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375930011

――『プロローグ』

 空が青い。言葉にすれば単純だが、一体どれだけの人間が同じ感覚を共有しているだろうか。
 抜けるような青空と多くの場合表現されるものの、実際に雲一つ無い空を目にする機会は意外と少ない。
 様々な条件――例えば高気圧に広く覆われ雲が無かったり、緯度が低かったりと、実際に見られる条件は限られている。
 特に緯度が高い地域であれば、空を青く見せる空気の厚みが薄まるため、あまり期待は出来ない。
 逆に赤道線近くでもあったとしても、高温の元でわざわざ空を眺める物好きも少ないだろう。
 従ってある程度涼しく、尚かつ緯度に縛られない程度の国に住む者しか、空の青さは実感出来ないのだが。

青ピ「いぃぃぃぃっちばぁぁぁんっ!『恋愛の才○』歌いまぁぁぁぁぁすっ!」

土御門「待てやコラお前もう3曲目だぜい!いい加減マイク他へ回すにゃー!」

小萌「ちょ、ちょっと待つのですよー!二人ともっ、ケンカは良くないのです!」

青ピ「大丈夫っ!ボカぁ殴られるのも嫌いじゃないですからっ!」

土御門「需要と供給のバランスが取れてるって理屈だにゃー」

小萌「上条ちゃんはっ!?明らかにボケ2に対してツッコミ1はゲームバランスが崩壊しているのですよっ!?」

姫神「先生。上条君はバスの後で黄昏れてます」

青ピ「いやぁ何を仰いますか小萌先生!先生も立派なボケですやん、ねぇ!」

小萌「違うのです先生は出オチとか存在自体がボケだとか、ユキチ大好きーとか言わないのですよ!」

土御門「(それどっかのサラシ女の悪態だよな?)」

小萌「そんな事よりツッコミの応援を要請しま――って、上条、ちゃん?」

小萌「どうしたのですか?そんな、燃え尽きて白くなった赤ずきんちゃんみたいな顔して?」

上条「……ゼンゼイっ!」

小萌「最初から号泣っ!?」

姫神「テンション高いな。上条君」

青ピ「くっ!?流石カミやん!母性本能をくすぐる術に長けてますやんか!」

土御門「フラグ和牛商法と呼ばれるだけの事はあるぜよ!」

姫神「って具合に。ボケが処理し切れていない。うん」

小萌「だ、誰かっ!?クラスの中にツッコミのスキルを持ってる子は居ないのですかっ」

吹寄「はい――ちょっといいか?」

青ピ「おいおい待たんかい委員長さん、幾ら何でもペットボトル(凍結済み)はリアクションが――げふっ!?」 バスッ

土御門「しっかりするにゃー!?傷は!傷は浅いぜよ!」

青ピ「ボ、ボクの部屋のハードディスクは……」

土御門「分かってる!俺が、俺がしっか――うぉうっ!?」 バスッ

吹寄「黙らせました、先生。先生?」

小萌「上条ちゃん、良い子だから先生にお話してみるのですよー?ね?」

上条「だっで!だっでおかしいでしょう、これっ!!!」

小萌「なにがですか?」

上条「夏休みですよっ!どうして課外実習なんかしなきゃいけないんですかっ!?」

小萌「それはまぁカリキュラムとか単位とかの関係もありますし」

上条「だったらどうして俺達は学園都市からずっと夜行バスに乗って移動しているのっ!?水曜どうでしょ○並のハードスケジュールで!」

小萌「それはまぁ……予算の問題がありますし」

上条「つーかこないだ知り合いの常盤台の子に愚痴ろうとしたら、『あたしらはフィンランドに行くけどありきたりよねー』って素で!」

上条「『あんたはどこなのよ?べ、別に興味がある訳じゃないけどね!』って言われた俺の気持ちが分かりますか!」

土御門「テンプレ的なツンデレだにゃー」

青ビ「カミやんばっかりフラグ立てってからに!ボクぁそんな子に育てた憶えはないですよっ!」

姫神「ツンデレは根強い人気と。メモメモ」 カキカキ

小萌「常盤台の子達と比べるのは殺生なのですよー。あちらは学園都市のお得意様でもありますし」

上条「『あ、あぁ国内かな?ほら、俺達みたいな上級生になると一々はしゃいだりしないのさ』って言わざるを得なかった俺の気持ちが!」

青ピ「それ絶対バレてるパターンですやん」

姫神「その子はなんて?」

上条「『あ、うん!そうよねっ!ごめんね?うんっ』って椰子の実サイダー奢ってくれたんだぞ!御坂さんありがとう!」

吹寄「中学生に気を遣って貰っているのか?」

小萌「あ、はっきり言うのは良くな――」

上条「なんでっ!どうして俺達は国内の訳分からない田舎にバス一本で行かせられるんだっ!?」

土御門「仕方がないにゃー。学校の中でも問題児ばっかのクラスだし、『まぁ適当でいいんじゃね?』的な」

青ピ「つーかカミやん。田舎に泊って農業体験するのも楽しそうやん?」

吹寄「そうだぞ。折角農家の方々は我々を受けて入れてくれたんだ。感謝するべきだろう」

小萌「田舎と言いますけれど、都会で暮らしている私達には、決して体験出来ないような事を学習するのです」

小萌「ですからサクサクせず、上条ちゃんもきちんと実習をしなきゃなのです」

小萌「他にも……えっと、素敵な環境もありますしねっ」

小萌「学園都市では絶対にお目にかかれないような、自然を満喫出来るのですよ」

上条「そうじゃないっ!俺が恐れているのはそうじゃないんだっ!」

小萌「はて?それじゃ何を」

上条「――お前ら、荷物をどこに置いている?」

姫神「荷物?手荷物以外はバスの下の」

吹寄「トランクルームへ入れているだろうが。何を言い出す」

上条「……そうだな。バスの脇腹あたり――」

上条「丁度、この下だ」

??????『ぐるるるるるるるるるるる……』

全員「……」

上条「……聞こえるだろう!?奴の声がっ!恐らくこっそり乗り込んだであろう獣のうなり声が!」

??????『とぉぉぉぉぉぉぉぉまぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……ひどいんだよ……』

なぜ罵られるのかその理由kwsk

上条「土御門の妹さんに面倒看て貰っている筈の怨嗟の声が!」

土御門「あー……こっそり潜り込んでビックリさせるつもりが?」

姫神「有り得ないレベルの強行軍に。彼女の怒りゲージも振り切っていると」

ガリガリガリッ

小萌「え?えぇ?誰か、トランクルームに居るのですかっ!?」

上条「ダメだ先生っ!俺のACは10固定だっ!」

青ピ「忍者なら全裸でも下がるで?」

土御門「ダメだぜぃ。カミやんはホラ……打倒0だから。誰も倒してないから経験値0だ」

上条「関係ねぇよっ!?経験値ゼロでもいいじゃねぇか!イノセントマン○装備出来るんだからねっ!」

吹寄「貴様らハレンチな会話をしていないだろうな?」

土御門「ゲームの話ですたい」 キリッ

青ピ「やだなぁボク達がエッチな会話なんてする訳――げふっ!?」 ガスッ

吹寄「なんかセクハラを感じたからペナルティ1だ」

土御門「委員長は他人の嘘を見抜くスキルでも――ハッ!?」

吹寄「よーし金髪グラサン、覚悟はいいな?正直者には褒美をくれてやる」

土御門「ま、待つんだにゃー?話せば――がほっ!?」

姫神「南無阿弥陀仏。魔法少女は祈ってみた」

??????『それは悪人成仏を体現した、ディーバダッタを天佑させるマントラなんだよ。でも西洋系の魔術師は使わないかも?』

上条「お前以外と冷静なのな?ってかもしかして、勝手に着いていたのを誤魔化すために逆ギレしてるんじゃないの?」

土御門「でもないぜい。オリエント辺り地域の文化は、反教会系の魔術師の霊装に好んで使われる」

上条「お前も一瞬で立ち直ったな!」

土御門「バフォメットを崇めた薔薇騎士団も、アレはアレで停滞していた魔術結社に風穴を入れる動きだったとの推測もある」

??????「当時の結社は政治の表舞台にもちょくちょく出てたからね。だからローマ正教に潰されちゃったんだよ」

土御門「だが有力な騎士団兼魔術結社が廃れる事で、結果的にクルセイドは失敗した訳だ」

小萌「とーにーかーくっ!運転手さん、バスを止めてくださいっ!」

上条「待って!?せめて俺にフルフェイスを装備させる時間を――」

キキィッ、プシューッ、パタン

インデックス(??????)「……」 カッカッカッカ

インさん何してんだよwwwwww

青ピ「おんや?あん時のシスターちゃんやないですか」

土御門「昨日ぶりー。妹が心配してたぜい」

上条「テメっ土御門知ってやがったんじゃねぇか!?つーか居なくなったんだったら俺に知らせるのが先だろ!?」

土御門「いやいや。何かバスに爆弾でも仕掛けてないか調べる時、アレな荷物があったからいっかなー、って」

姫神「土御門君。いつもそんなことしてるの?」

青ピ「かっけぇ!ボクも中二みたいにしたかった!」

土御門「常識だぜい?」

上条「あぁもうボケばっかりでツッコミが足りてねぇなっ!殆どがスルーされてるし!」

インデックス「……ね、とうま。私、私ね?頑張ったんだよ?」

上条「……あのー、今回はね?俺悪くないんじゃないかなって、思うんだけど」

インデックス「分かっているんだよ。『ばす』が予想以上に辛かったのも、ご飯が食べられなかったのも」

インデックス「勝手に着いてきた私が悪いんだよね?とうまはそう思うんだよ?」

上条「待てよっ!?だったらどうして少しずつ口を開けて近寄ってくるの!?」

インデックス「ほら、『ぼけ』に対して『つっこみ』が足りないんだよ」

インデックス「だったら仕方がないんだよね、うんっ」

カブゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!

上条「不幸、だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 空の青さを満喫出来る立場にありながら、その権利を行使しない者も、また少なくなかった。
 これはそんな話。空の青さが見慣れた人間にとって、大して有り難くもないと言う。

『大切なものは目に見えない』

 ただそれだけの、話。


――『プロローグ』 -終-



――第一話 『九十九里(つくもさと)』

 日中地面を灼いていた暑い暑い太陽は地平へ隠れ姿を消す。少々サービス過剰ではないかと疑いたくなるぐらいの出番は、どこか朝礼で話す先生方と通じるものがある。
 夏至から二ヶ月経つとはいえ、まだまだ日は長い。クーラーに無縁の人間は一刻一秒でも早く退場を願うばかりだが。

青ピ「あーもうっ埃っぽい!掃除してねーやんこの部屋、つーかこの家!」

上条「いいから黙って掃除しやがれ!今晩ここに泊るんだからな!」

土御門「おっとすまないカミやん。俺ちぃとばかり急用が出来たぜい」

上条「ふーん?どんなん?」

土御門「……いいか?ここだけの話だ?」

土御門「実はこの村は人喰う鬼の伝説があったんだ」

土御門「それは『ワタ流し』と呼ばれる儀式が行われており、ヒグラシがカナカナでお持ち帰りなんだよ!」

上条「後半から話盛るの面倒になって雑になってんぞオイ、」

土御門「だから俺は結界を張りに行かないとにゃー」

上条「すまん委員長、土御門が気合い入れて欲しいって」

吹寄「任せろ」

土御門「待てよ!?せめてサト○ちゃんが出る下りまで言わせて欲しいにゃー!」

吹寄「あぁすまん。さっきのペットボトルは溶けてしまったので、拳でいいな?」

上条「ひぐら○って正しいのか?」

インデックス「カニバリズムは古来ゆかしき儀式魔術の一つだけど、とうまは物語と現実をごっちゃにしちゃいけないんだよ」

上条「超機動少女カナミンを信じかけた人間の言葉とは思えないな」

姫神「わたしからすれば君も充分にファンタジー世界の住人だけど」

インデックス「んー、あれは『悪魔の証明』と同じだね」

上条「『証拠がないのが証拠』か?」

インデックス「『黒いカラスを1000羽集めても、白いカラスが居ない証拠にはならない』んだよね」

インデックス「つまり『この国の過去全てを知ることが出来ない限り、否定は出来ない』かも」

上条「……否定は出来ないけど、だからって肯定もしちゃいけないの?」

インデックス「『可能性はゼロではない。だからあったに違いない』じゃ、証明する意義が無くなっちゃうんだよね」

青ピ「ボクの一族は織田信長を凌ぐ戦闘民族だったんや!家系図は無いけど、代々言い伝えられてんねんで!」

インデックス「って自称しても『無かった証拠』なんて出せないから言った者勝ちになっちゃうんだよ」

小萌「はいはい、お口より手を動かすのですよー」

姫神「すいません小萌先生」

上条「いやあの掃除はいいんですけど、これ体験学習ですよね?」

小萌「そうなのですよー。旅行のしおりにも書いたじゃないですか」

上条「俺達だけどうして公民館?他の連中は別の家に引き取られていったのに」

小萌「え、隔離ですよ?」

上条「やっぱり問題児扱い!?」

吹寄「むしろ私と姫神は巻き込まれた方なんだが?」

インデックス「なんかとうまがすいませんなんだよ」

吹寄「いえいえ仕事ですから」

上条「頭ごなしに事実が歪められている!俺はコイツら揉め事に巻き込まれただけだし、家じゃ俺が保護者だし!」

青ピ「まぁ別にどっちでもいいやん?」

土御門「他人からの認識が変わっても、現状維持は変わらないにゃー」

上条「平穏が!平穏が欲しいんですけどねっ」

姫神「そして私は個性が欲しい。ふぅ」

小萌「あー、もう全員で脱線しちゃだめなんですっ。いいからお掃除しましょうね」

全員「はーい」

 暫く片付けをし――当然のように二バカが殴られ、もう一人も巻き込まれる運びとなったが――近所から差し入れて貰った夕食を食べ、男女別に近くの家へお風呂を仮に行く。
 男部屋での会話は変わらず、だが。

青ピ「離せぇ!俺には、俺には理想郷へ行く必要があるんや!」

上条「落ち着け!委員長はマズイ!スコップ使うって言ってたから強打されれば死ぬ!」

土御門「……だかなカミやん。男には時として命よりも重いものがあるんだぜぃ」

青ピ「そうやでカミやん!ボクぁそのために戦いへ行こうって言うだけの話ですやんか!」

上条「バカなの?ねぇ前から思ってはいたんだけど、お前らバカなの?それとも死ぬの?」

青ピ「俺はな――時にはバカになるもんでっせ?」

上条「時に、じゃねーだろ。ほぼオールウェイズだろ」

青ピ「なんでそんな事いいますのんっ!?いいですやんかっ!当人乗り気なんでっせ!」

上条「お前はもう関西弁なのか京都弁かの区別がついてない」

土御門「っていうかアザゼルさ○入ってるにゃー」

青ピ「それじゃ俺はちょい行ってきます!じゃっ!」

上条「オイ一人称間違ってんてぞ!」

土御門「やれやれ、こりゃ俺もついてかないとダメだにゃー」

上条「デジカメは置いてけ?薄い本っぽい展開になるのは、幾ら俺でもレッドカード出すからな?」

土御門「いや、これは別件で使うんだぜぃ」

上条「別件て。あいつ主演のスナッフムービーでも撮るつもりかよ」

土御門「現行犯で捕まったらそうなるかもしれないにゃー。ま、そんな感じで」

上条「まぁフォローしてやれよ」

土御門「あ、俺は今晩戻らないから」

上条「お前っ外で何するつもりだよっ!?」

土御門「……夜の課外実習、だぜ?」 キリッ

 無駄に素敵な笑顔を残してグラサンは去っていく――夜なのに。
 部屋に一人取り残された上条は携帯電話を取り出すが、『圏外』の文字。電源を切って荷物へしまい込むと、コンコンと襖を叩く音がする。

インデックス「ねー、とうま入っていーい?」

>姫神「そして私は個性が欲しい。ふぅ」

個性より存在感の方が…

上条「おーいいぞ。ってお前フロ借りに行ったんじゃ?」

インデックス「『いいんちょう』が『気持ち悪い気を感じる』って言ってね?他の班の男子と交代して貰ったんだよ」

上条「……ナムアミダブツ」

インデックス「ニッポンでは仏教が大人気なのかも?」

上条「何か違うよな気がするけど……あぁそうそう。お前明日からどうするんだ?」

インデックス「どうって何々?何の話?美味しいのっ!?」

上条「それは二日目のバーベキューまでとっとけ。村の人が牛肉用意してくれるって言うから」

上条「そうじゃなくって課外実習の方だよ。折角だし参加してみろって」

インデックス「……怒って、ないの?」

上条「危ねーから次から止めろ、っては思うけど。ついて来たい気持ちは分かるけどなぁ」

インデックス「とうまっ」

上条「まぁ着いてきちまったもんはしょうがないし、楽しんだ方が得じゃね?小萌先生も許してくれたし」

インデックス「いいのっ、仲間ハズレにしないの?」

上条「問題ないけど……只、その、問題は別にあって、だな」

上条「どれもキツそうなんだ、これが」

インデックス「……何が?みんなお勉強しに来たんだよね?」

上条「えっとだな。小萌先生の作ってくれた資料によると明日――初日は体験学習、二日目はオリエンテーリングかバーベキューだな」

インデックス「バーベキュー!食べ放題って事なんだね!?」

上条「三日目の午前中が大掃除。んでもって帰ると。まぁ二日目と三日目はいいとは思うんだ」

インデックス「オリエンテーリングもちょっとやってみたいかも?コンパスと地図持ってお散歩するんだよね」

上条「メシ食った後の運動するのは良いと思うけど、問題は明日だなぁ。幾つかのカリキュラムを選んで参加するんだけど」

インデックス「『農家の芋掘り体験』?えっと『掘った芋はバーベキューで食べられる』んだって!」

インデックス「これ!私はこれに参加するんだよっ!

上条「広大な畑の中、炎天下で黙々と掘り起こす、らしい」

インデックス「……えっと?」

上条「ほら、仮に食べるとしたって一人の限界ってあるよな?ってか人の胃袋って容積が1.5リットルなんだよ」

インデックス「ん?おっきな牛乳パック一本分だよね?少なくないかな?」

上条「平均値だから、まぁインデックスさんはちょい広めですけども!……でまぁ、当然ジャガイモは腹にたまる」

上条「他の肉とか食べると考えても精々2、3個?いや美味しいんだけどね?」

インデックス「他の人の分も採ればいいんじゃないかな、うん。奉仕の心も大切なんだよ!」

上条「まぁそうなんだけど、『よしノルマ終りー。俺達の分は採ったから。じゃっ!』っては行かないだろ?」

インデックス「あー……この村、おじいちゃんとおばあちゃんばっかりだもんねー」

上条「だもんで全力で作業した挙げ句、二日目以降が死屍累々と」

インデックス「人助けだし……うんまぁ、他にはないのかな?」

上条「『休耕田の草刈り』」

インデックス「朝から?ずっと?」

上条「こっちにはジャガイモという名のご褒美すら、無い」

インデックス「……」

上条「……」

インデックス「もうちょっと軽めのはないのかな?出来れば女の子の体力でも務まるような?」

上条「『生糸紬ぎ』」

インデックス「きいとつむぎ?」

上条「蚕って知ってる?」

インデックス「シルクの原料だね。むー、バカにしないで欲しいかも!」

インデックス「シルクワームを遣った霊装とか、異類婚姻譚を利用した術式とかあるんだらね!」

上条「あー悪い悪い。そうじゃなくって、だな。その生糸ってどうやって採るか知ってるか?」

インデックス「蚕が成虫になる時、繭を張るんだって。ジョーシキじゃないかなっ」

インデックス「でも流石にそれは室内でしか出来ないし、面倒そうじゃないと思うけど?」

上条「……そっから実演するみたいでな、これが」

インデックス「つまり?」

上条「蚕を熱湯につけて殺して、取り出す所から始めんだってよ……」

インデックス「……」

上条「加えてここの郷土料理が『蚕のサナギの佃煮』で、実習中に試食させられるんだ」

インデックス「私はきちんと食べられるし興味もあるけど」

上条「うん、普通は辛い。ぶっちゃけ俺はノーサンキューだ」

上条「土御門曰く、昔は大切なタンパク源だったらしいから、無碍に扱うのは良くないんだけどな」

インデックス「んー……じゃ保留にして、他にはないの?」

上条「『水門管理』」

インデックス「水門?」

上条「田んぼに入る水の量を調整する、アレ」

インデックス「屋外だけど、それはそんなにしんどくないんじゃないかな?」

上条「……これは、土御門から聞いた話なんだけど――つーか、今までのは全部ヤツが先輩方から聞いた話なんだが」

ジジッ

インデックス「な、なんで今蛍光灯が不自然に点滅するのかなっ!?」

上条「……これは、何年か前の実習で本当にあった話です」

インデックス「いながわじゅん○?どうして声のテンボを変えるんだよっ!?」

上条「まぁ炎天下の中、外での作業とはいえ他と比べて楽かなー、ってその学園生は選んだんだわな」

上条「幾つかの水門や水田を見回って、水の量や流れがおかしくないか、ゴミが挟まってないかって仕事だったんだと」

インデックス「それだけ聞くと悪くないかも。水の近くだから涼しそうだし」

上条「あぁ学園生も同じ事を考えたんだ。都会の喧噪もないし、暑いけど蝉の声が鳴り響く以外は静かだし。でも暑いけど」

インデックス「あついって二回言う意味はあったのかな?」

上条「単純作業に慣れてくる段々と眠くなってきたんだって」

インデックス「……あれ、そのお話多分知ってるんだよ?」

上条「近くに生えていた木に寄りかかって少しウトウトして……直ぐ目を覚ます。すると」

上条「足に蜘蛛の糸が結ばれてる。その学園生は後の木に結び直して、水門の様子を見ようとしたら――」

上条「パキパキパキ、と糸を結びつけた木が水の中へ引き込まれていった!」

上条「そして沼の中から声が響く――」

インデックス「『賢い、賢い』?」

上条「なんだインデックス知ってたのか」

インデックス「それって『賢ヶ淵(かしこがふち)』って民話なんだよっ。というかとうまは騙されてるかも!」

上条「まぁそんなわけで『水門管理』は土御門が一人でやってくれるんだってさ」

インデックス「うん、もうそれ完全に騙されてるかも?しかもクラス全員が突っ込まなかったの?」

上条「委員長と姫神は『まぁいいんじゃないかな?邪魔だし』的な反応だったけど……」

インデックス「とうまのクラスの人がそう言う認識なら、私は別になにも言わないんだけど」

上条「あと残ってるのは……あれ?」

インデックス「また新しい罰ゲームが!?」

上条「いや、そうじゃなくって。この、これ」

インデックス「『花畑の水やり』?」

上条「書いてあったっけか?土御門から聞いてないな」

インデックス「って事は穴場かもしれないんだよ!」

上条「……だよな。そうかも知れないな!花畑つっても精々ヒマワリぐらいだしな!」

――1日目 朝

小萌「おっはよーございますなのですよーーーーーーーーっ!」

 静謐な公民館に幼女――ではないが――の声が響き渡る。

小萌「今日は楽しい課外実習の日なのですっ!ほらっ、太陽さんもあんなに元気で!」

上条「……いや、先生。元気って言うか、嫌がらせレベルの日差しなんですけど」

 都会よりは緑が多く、まだ辛うじて早朝と言えなくもない時間のため、涼しいと言えなくはない。
 けれど窓から差す日光は『べ、別にあんたのためじゃないんだからね!』的な、無駄に暑苦しいのも事実だった。
 これから厳しくなっていくであろう暑さにウンザリする。

小萌「と言うか男子の部屋には上条ちゃん一人なんですか?」

上条「え、インデックスが居なくなったとか!?」

小萌「いえいえシスターちゃんは私達の部屋だったのですよー。ではなく、もう二人は?」

上条「あぁ……俺が風呂から戻ってきたら、どっちとも居ませんでしたよ?つーか吹寄ー」

吹寄「何だ上条。さっさと朝食を手伝え」

上条「アイツらどこに埋めたの?」

小萌「朝一から物騒な単語が聞こえるのですよっ!?埋めるて!」

吹寄「青ノリは公民館の裏だ。金色は見てない」

上条「本当に埋めたのっ!?」

吹寄「熱心に男風呂を除いていてな。つい」

小萌「吹寄ちゃんはついで人間を埋めるのですかっ!?」

インデックス「ねーねーっ、とうまーとうまーっ!」

上条「ど、どうしたインデックス?」

インデックス「気をつけて!この村には魔術師が居るのかも!」

小萌「魔術師、ですか?」

上条「あぁいえお構いなく――ってどうした?ステイルでも尾行してたのか?」

インデックス「そうじゃないんだよっ。見て、あれっ」

上条「……あー……」

インデックス「『犬神』って知ってるかな?中国の蠱毒から派生した呪術の一つなんだけど」

インデックス「本来は犬を土の中へ埋め、極限まで餓えるのを待ってから首を飛ばし――」

インデックス「その恨みの力を利用するんだよ!」

上条「いや?あのなインデックスさん?」

インデックス「それをこの村では――人で代用するみたいかも!」

青ピ「……お、おぅふ……」

吹寄「あぁ忘れていたな」

上条「その程度の認識っ!?」

小萌「あのー吹寄ちゃん?これは流石に洒落じゃすまねぇぞって言うか、殺人未遂一歩手前っていうかですね」

青ピ「マ、マジで埋める事ないですやんかっ!?こっちはどう考えてもギャグなのに!」

青ピ「幾ら何でも手足縛ってから埋めたら出られませんやんかっ!?」

インデックス「まるで縛ってなかったら出られるみたいな言い方だねっ」

上条「あ、コラ見ちゃいけませんよ!」

 いつも通りの騒ぎではある。

――1日目 『ヒマワリ畑』

 天を仰げば抜けるような青空と必要以上に燦々とした太陽。
 地を見下ろせば親指程に育った太い幹から、子供の掌程度の葉をせり出している。
 下げた視線を元へ戻せば……そこにはまだ完熟していない大輪のヒマワリの花と視線が合う。

 それはいい。街角の公園、マンションのベランダ、朽ちそうになっている民家の庭。
 そういう所に咲いていれば、退屈な日常生活を送る上での癒しになったのは間違いない。

少年「はいどもー。ってお二人だけですか?結構大変なんだけど、まぁいいですね」

少年「それじゃ今から手順を教えますんで、まぁそんな感じでパァッとやってほしいなーと」

上条「……なぁちょっといいかな?」

少年「あ、僕は男の娘じゃありませんよー?ノーマルですからフラグ立ちませんー」

上条「聞いてねえなっ!?ってほぼ初対面で言う台詞じゃねぇっ!?」

少年「いや昨日、夜ご飯もってった時に青髪の人が」

上条「あの野郎リアルで口説きやがってたのか!?」

少年「ちなみに一緒じゃないんですか?」

上条「知らないよ?公民館の近くで首から下を地面に埋められている知り合いなんていないものっ!」

インデックス「……とうま。今はそんなこと言ってる場合じゃないかも……」

上条「そうだよっ聞いてねえものっ!何でまた『大量』にヒマワリがあるんだよっ!?」

 一輪一輪は綺麗だ。五輪、十輪程度が集まっていれば夏の景色として映えるのであろう。
 けれどそれが。それが――数百本、下手をすれば数万本、見渡す限りの広大なヒマワリに囲まれてしまえば圧倒されるだろう。
 上条当麻は真新しいダイエ○ホークスの野球帽を被った少年に詰め寄る。

上条「多すぎんだろうがっ!つーかなんに使うんだよこれっ」

少年「油ですよ?」

上条「油?」

少年「はい。天然100%の植物性油です。菜の花じゃなく、この村ではヒマワリを使ってるだけです」

インデックス「……ロシア成教会ではね、独自の信仰が……げふっ」

上条「インデックスっ!?インデックスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

少年「えっと……カンペ?あー、はい、井戸はそっちですから。取り敢えず水飲ませて木陰に入れれば大丈夫ですよ」

少年「あーっと……『元々ロシア成教では根本に精霊信仰が根強かった』」

少年「『祖霊(トーテム)主体のネイティブアメリカンのような』……まぁ飛ばしてもいっか」

少年「『戒律の一つとして食用油の禁止があったんだけど、それ自体は既存の油を禁じる内容だった』」

少年「『だから新大陸から輸入されたヒマワリの種から取れる油は対象外。こうしてロシアはヒマワリの一大消費国となる』」

少年 チラッ

インデックス『あ、針を持ったオールバックの変態が見えるんだよ……』

上条『行くなインデックス!あとその人は多分生きている!社会的には死んでるけど!』

少年「……ちなみに休耕田やあぜ道にヒマワリを植えると、土中のカリウムを吸い上げるんだ」

少年「それを腐葉土にしてもいいし、そのまま埋めれば畑の中へカリウムを補填出来る仕組みになってます」

少年 チラッ

インデックス『あ、あれとうまがいるんだよ?私のずんだパフェはどこへ行ったのかな?』

上条『そんなマニアックなパフェは仙台周辺でしかやってないぞ、多分!』

少年「……えっと」

少年「パ、パラダイス・ガムっ!村の雑貨屋さんで好評発売中だよっ!」

少年「……」

少年「お、終わった?」

上条「あ、あぁ、何とか。でも大丈夫なのか?出来れば医者に診せたいんだけど」

少年「――はい。と言う訳でお兄さんには作業をして貰います」

上条「一人で水撒ける量じゃねぇだろうがよぉっ!?一日で終わるかっ」

少年「いや別に全部いっぺんに撒けとは言ってないよ?つか、今からそれを説明するんだけど」

少年「比較的乾燥に強い植物だから、そんなには気にしなくも。だから出来る範囲でどうぞ」

上条「そ、そっか。だよな?あー、びっくりした。てっきり二人で全部やらせられるもんだとばかり」

少年「でもお兄さん達が帰っちゃうと、その分僕や村のお年寄りがしなきゃいけないんですけど」

上条「……」

少年「無理な作業して一人一人歯が欠けるように減っていき、気がついたら限界集落まっしぐらなんですねー」

上条「……」

少年「……あぁ、山のお父さん、海のお母さん。僕はもうすぐそちらへ帰るかも知れません……」

上条「よーし任せろっ!一日で全部終わらせたるあああああああああああぁぁっ!」

インデックス「と、とーまが珍しくやる気になってる!?」

少年「あ、すいません。僕、戻らないといけないので。これお弁当と氷の入った水筒です」

インデックス「ありがとうなんだよー」

少年「あと、お昼になったらそこ、あぁその井戸の隣の蛇口捻って貰えます?」

インデックス「このハンドル?」

少年「ですね。大体30分ぐらいしたら元へ戻してください。あまりやりすぎると枯れちゃいますから」

インデックス「何のお話かな?」

少年「まぁすればわかりますよー。じゃ。よろしくでーす」

インデックス「うん。わかったんだよ」

インデックス「……蛇口?何でこんな所に?」

――三時間後

上条「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

インデックス「とーまー、もうお昼なんだよー?ご飯が逃げて行っちゃうんだよー」

上条「ダメだインデックス!このペースじゃとうてい終りっこないんだよっ!」

上条「村の将来は俺にかかって居るんだ!」

インデックス「な、何を言っているのか全然分からないんだけど、でも何か格好良いんだよ!」

上条「任せろ!……あ、先食べてていいから」

インデックス「うん……あ、そう言えば」

インデックス「蛇口ひねってって言われたんだよ」 ギュッギュッ

 インデックスが錆び付いた蛇口を二度、三度と回すと、
 さぁっと、ヒマワリ畑に水の花が咲き乱れる。

上条「……スプリンクラー……?」

インデックス「みたいなんだよ」

上条「……」

インデックス「ほ、ほらとうまは頑張ってくれたんだよね?だからきっとその思いは、神様に届いてると思――」

上条「ハメやがったなあのガキ!俺の苦労はどこ行ったあぁぁぁぁぁっ!?」

インデックス「あー、だからいっぺんにしなくてもいいんじゃないかって言ったんだね」

上条「俺はこの村へ移住すべきか、親父達をどう説得しようか考えてたのにっ!」

インデックス「……とうまって無駄に行動力あるよね?でもそれは色々な意味でアナザーエンドになるんだよ?」

上条「俺はヒマリさんのファンなんだよっ!?」

インデックス「ヒマワリじゃないんだ?もうそれ意味が分からないにも程があるかも?」

上条「……あー、ダメだ」 パタッ

インデックス「とーまっ!?とー――」



●上条当麻 vs ○太陽……決め手『熱中症』

「るー……るるー……ららーら」

 深い黒に押し潰されていた意識が徐々に覚醒していく。
 酷く重い何かに押し潰された心が、時には辛くて逃げ出してしまった時、優しい誰かに慰めて貰った記憶と共に。

 上条には残って居ない筈の――それでいて、おぼろげながらあったかも知れない思い出が再生されたのか。
 母さん、と口元まで出かかった言葉を呑み込み、彼女の歌を邪魔しないように暫く目を瞑っていようとしたが。

インデックス「――あ、とうま。起きたんだよ?」

 シスターさん膝枕されている事に気付いて、酷く恥ずかしくなる。

上条「あー、まぁ。うん……倒れてた?」

インデックス「とうまが病院送りになるのは珍しくないかも」

上条「……俺のステータスにバステ付け加えるの止めてくれるかな?何回言ったか忘れたけど」

 木陰の下からインデックスを見上げる構図は気恥ずかしくて。ありがとう、の言葉が出ず、反射的に悪態じみた文句を言ってしまう。
 けれど相手はもう、付き合いも気心も知れている訳で。

インデックス「……そうだね。とうまは忘れちゃっているかもしれないけど――」

インデックス「――私は、ずっと憶えているんだよ」

 木漏れ日から漏れた光が彼女の綺麗な銀髪を、より透明な美しさを引き出す。
 ふわり、と眩しい微笑みを見せられ、上条は顔が紅潮していくのを自覚した。

インデックス「とうま?どうして視線を逸らすのかな」

上条「……綺麗だな、って」

上条「あぁ、ヒマワリがな?」

インデックス「だよねー。うん。これがごはんになるんだから!」

上条「……錯覚でしたね、はい」

インデックス「何か今酷い事を言われぐるるるるっ」

上条「ヤダっ近くに獣がいるっ!?」

 言葉とは裏腹に上条の髪を撫でる手は優しく、身を任せたインデックスから離れる気配もない。

 ヒマワリが風にそよぎ、海原の波であれば。
 二人の揺蕩う日陰は小島のように。

 もしもここが誰も――二人しか居ない、閉ざされた孤島だったとしても。
 きっと、いや確実に変わらないであろう光景だった。

――1日目 19時

 苦行とも言える課外実習は終わり、明日からは楽しみにしていたレクリエーションが始まる。
 それ自体は喜ぶべき事だが、それだけではなく。

青ピ「いやー助かったわカミやん。もう少し救助が遅れてたら、ボクカッラカラになってましたし」

上条「……気のせいか前よりも元気そうに見えるんだが?」

青ピ「何を仰いますやら!ローアングルで女子を見られたからといって――」

上条「おっけ取り敢えず強く殴れば記憶は飛ぶよな?」

青ピ「ジョークですやんかっ!?実際にパンツ覗こうとしても、みんなジャージですし!」

青ピ「そもそも委員長さん達警戒しまくってるから、視界にすら入ってきませんわ!」

上条「納得。つーか見栄張るなよ」

青ピ「……この、首から上だけがこんがりと焼けたボクに、強がり以外残ってやしません!」

上条「あー、まぁいいけどさ。でも本気で大丈夫だったか?」

青ピ「んー、へいきへいきー。土御門が水持ってきてくれなかったらヤバかったけど」

上条「どうしてお前そこで掘り出して貰おうとしないっ!?」

青ピ「こう、委員長さんとフラグが立つかもしれませんし?」

上条「え、昨日今日とお前の好感度は最低値になってるよ?」

青ピ「ばっかやなぁカミやん。そんなんフラグに決まってますやんか」

上条「まぁ信じるのは勝手だけど、本当に撲殺されるからな?――あぁそういや」

上条「土御門って何やってんの?結局昨日は帰ってこなかったし、夕飯にも居なかったよな?」

青ピ「あ、そうなん?ボクのトコには割とこまめに水筒持ってきてくれたけど」

上条「何やってんだろなぁ、折角来たのに」

青ピ「いやでも明日になったら、何食わぬ顔して紛れてるパターンやね」

上条「あー、ありそう。まぁ心配はしてないけど」

青ピ「そんな事よりカミやんカミやんっ!コイバナしようぜ!」

上条「二人でかっ!?」

青ピ「えっとぉーボクはぁー」

青ピ「金髪高飛車ツインテ素直系幼馴染み僕っ娘男の娘不思議系クール甘え系後輩津強気の先輩娘系ちょいデレ天使っ娘悪魔っ娘獣っ娘ハーピーっ娘ケンタウロスっ娘ラミアっ娘ヤヴォールヤヴォールウルトラマ○っ娘妖精っ娘妹お姉ちゃん鈴品っ娘TSキョン娘!!!」

青ピ「まぁ最近凝ってるのはこのぐらいやね?」

上条「……男の娘の順位上がってねぇか?やぼーるって何?あとキョ○君は一般名詞じゃないから、伏せた方がいいよ?」

青ピ「嫌いじゃない。むしろ興奮する」

上条「変態だーーーーーーーーーーーっ!?」

青ピ「テンプレ的反応アリガトさん――んで、カミやんはどーよ?」

上条「俺?俺はまぁ、ぼちぼちかな」

青ピ「えー、うっそだーっ!何かいつも『不幸だ』つってのに、最近あんま言わなくなりましたやんか」

上条「……」

青ピ「『上条オホーツクに消ゆ?』って言われてた後ぐらいから?何か変わった感じがするんやけどなー。違うん?」

上条「いやぁ、そういう話じゃ無くってだな。こう、ずっと謝るべき相手に漸く謝れたって言うか」

上条「そういうんじゃないんだよ、うん!」

青ピ「そうでっかー?……ははぁ、それは違う!それは違いますよって!」

上条「お前もうどこの言葉で喋ってるか分からないぞ?」

青ピ「まぁ深く突っ込まないけど、嘘でもついたん?それとも約束を破ったのか知らないですけど」

青ピ「相手がどうでも良い相手だったら、別に気にしませんやんか?」

上条「それはっ……!」

青ピ「あぁイヤイヤ分かっとるよ?カミやんは結構――つーか誠実な人間だって事は、僕だって」

青ピ「それでも『ずっと気に病み続ける』なんて事、中々出来やしませんし」

青ピ「その罪悪感の分だけ、相手を大事に大事に思っとったとちゃいますか?」

上条「……お前」

青ピ「……惚れた?」

上条「近寄るな変態っ!?布団をくっつけようとするんじゃねぇっ!」

青ピ「いや別にカミやんをどうこうするつもりは……無いですやん?」

上条「疑問系だし信用出来ねぇ!」

青ピ「……まぁまぁ、あれですわ」

上条「……?」

青ピ「自分で大事に抱えとったつもりが――」

青ピ「実ぁ相手から抱えられてた、なんて関係もあっても良いと思いますわ」

上条「……そうか?」

青ピ「――てな訳でボカぁちょっと野暮用が!」

上条「何?お前もヒグラシがカナカナでお持ち帰りするの?」

青ピ「いや実はな、別の家で男女交えてお喋りするって企画がありまして」

上条「……まぁ、それならいいのか?」

青ピ「今夜は戻りませんよって!まいどっ」

上条「がんばれー。あんま迷惑かけるなよー」

 煩い人間ほど居なくなれば寂しい。
 一人になって上条はその言葉を噛み締めていた。
 網戸になった窓からは秋の虫の声。鈴虫やコオロギが盛んに鳴いている。
 確か、と最近読んだ雑誌を思いだしてみれば、外国人にとっては日本の虫の音は騒音でしかないのだそうだ。
 翻って自分はどうだろう?
 実家はそこそこ田舎の街。学園都市では虫を目にする機会すら無い。
 にも関わらず、ごく自然と秋の虫の声が受け入れられるのは、忘れているだけで憶えているのかも知れない。

 ……世界を救うため――いや、そんな綺麗事じゃない。あの時フィアンマには偉そうな事を散々言ったけれど。
 結局の所、上条当麻がロシアまで喧嘩を売りに――買いに、かも知れないが――行ったのは、只一人を解放するためだった。

 だがもし――とも考えてしまう。考えてはいけないかもしれないが。

 利用されたのがインデックスでなければ?例えば御坂や風斬、アニェーゼ辺りであれば?
 おそらくは……行った、のだろう。それは、曲げない。悪い奴が居ればぶん殴る。また悪い事をしようとするのであれば、何回でも。
 だが果たして『インデックスが酷い目に遭っていなければ、あそこまで切羽詰まって』いただろうか?
 天草式や神裂、キャーリサや学園都市等々、今思えば共に戦ってくれるであろう味方は大勢居たのに。
 どうして独りでフィアンマに臨んだのか……?

上条「……分かってるけど」

 それは罪悪感『ではない』。勿論正義感『ですらない』。上条はそう自分を分析する。
 あれは――そう、タダの口封じがしたかっただけだ。
 自分がインテックスを騙し続けている事を。それが誰かに知られぬように。

上条「……」

 では何故そうしたかったのか?隠したかったのか?
 それを突き詰めていけば、滑稽な答えに辿り着く。

上条「俺は……」

 いや止めよう、と上条は頭に浮かんだ答えを振り払った。全ては仮定、そして自分にしか分からない事だ。
 一々気に病んでいたとしても、何がどうなる訳でもない。

 謝罪すべき相手は、既にこの世には居ないのだから――。

リーリーリーリー、リリリリ……

 単調なリズムが止めどなく思考の螺旋に陥る前に、眠りへと誘ってくれる。
 いつもは側にいる筈の、もう居ない『彼』の代わりとなった自分を。支えてくれた彼女の気配が――?

 気配は、あった。それも、直ぐ横に。

上条「何やってんの――お前?」

インデックス「しー、なんだよ?小萌にバレたら、めっ、されちゃうんだから」

上条「いや俺もしたいぐらいの話なんだが。怖い夢でも見た?それともトイレ――いひゃいいひゃいいひゃい!」

インデックス「れでぃに向かって失礼なんだよ!」

上条「いやでもお前こないだの深夜映画、『TheThin○』見て無茶苦茶ビビってたじゃねーか」

インデックス「あ、あれはっちょっと驚いただけなんだよ!まさかクトゥルフ系の使い魔が存在するとは思わなかったし!」

上条「フィクションだからな?実物によく似たヌイクルミとか、絵を動かしてるだけだから」

インデックス「むー、とうまが一人で寝れないんじゃないか、って心配してきたのに!」

上条「あーはいはい。シスターさんは優しいですねー」

インデックス「……明らかに棒読みなんだけど」

上条「んな事ぁないって……なんだったら、一緒に寝るか?」

インデックス「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

上条「ばっ!?声大きいって!」

インデックス「だ、だってとうまと一緒になんて!」

上条「仕方がねぇだろうが!他の布団使ってたら、土御門達が帰ってきて、間違えて潜り込むかもしれねぇじゃねぇか」

インデックス「……う。それは嫌なんだよ」

上条「だろ?ほれ、来いって。とって食いやしないから?」

インデックス「で、でも」

上条「……やっぱ小萌先生へ頼みに行こうか?」

インデックス「それは……何か、何かなんだよっ」

上条「……どーしろっつーんですか」

インデックス「……とうまは、変なこと、しないよね?」

上条「……変な事って」

インデックス「まいかが言ってたんだよ!」

上条「しねぇよっ!つーか俺が紳士じゃなかったら、同じアパートで事故ってるわっ!」

インデックス「事故?アパートの中でも事故が起こるんだっ?」

上条「あぁそうだインデックス!当てちゃうと人生ゲームがコールドゲームになるぞ?」

インデックス「でも生まれてくる子に罪はないかも?」

上条「知ってんじゃん!?遠回しに帰れっつってる俺の努力を返してっ!」

インデックス「……もー、なんか眠いんだよ」 モゾモゾ

上条「……いやあの、信用してくれるのは嬉しいんだけど、さ?」

インデックス「なに?」

上条「俺もホラっ!健全な高校生としては色々苦労している訳で」

インデックス「……」

上条「だから、さ?もうちょっと距離をだね?」

インデックス「……あのね、とうま」

 インデックスの柔らかい指が、腕が上条の背中に回される。
 二人のくっついた部分が熱を帯びる。

上条「ちょ、お前!?」

インデックス「『私が何も知らない』なんて、どうして言い切れるのかな?」

 豆電球が切れ、月明かりしかない室内。
 文字通り息がかかる距離で、上条当麻は逃げられない。そしてインデックスも逃がすつもりは、ない。

インデックス「ここは多分、そういったのがないから言えるんだけど……もう、一年だよね?」

上条「あー、もうそんな経つっけか。いやぁ早いなぁ」

インデックス「もうっ誤魔化されないかも!……じゃなくって、私だって成長しているもん」

インデックス「記憶がリセットされてたから、確かに最初は子供っぽかったけど」

インデックス「段々と、人並みの知識はついてきたかも」

上条「……」

インデックス「……ねぇとうま。いい機会だから聞くけど」

インデックス「『私』は『とうまに守って貰っているだけの、弱い存在』の方が良いのかな?」

上条「それは」

インデックス「……私もとうまの側に居たいんだよ。それはっ、それだけがあれば他に何もっ!」

上条「インデックス……」

インデックス「だから、だからもし、記憶が無くなった方が良いんだったら!」

インデックス「何も知らない子供じゃないといけないんだったら!私記憶なんて――」

上条「インデックス!」

 血を吐くような告白。インデックスがどれだけ記憶で辛い思いをして来たのか、それにも関わらず。
 どれだけの想いがあれば否定出来るのか。いや否定しているのは自分だけではない。
 少女を守ろうと悪役を買って出た少年。姉代わりに接する少女。多くの同僚達、同胞達、必要悪の教会や魔術を知らぬ兵士達。

 教会を敵に回し、ロシアを敵に回し、世界の敵となった相手を打倒するため、多くの人間の命が費やされた。
 禁書目録という少女を助けるため、幻想殺しという少年を護るため。

 その多くは決して表には出ず、誰からも顧みられる事無く、歴史はおろか記憶に残る訳もなく潰える。
 膨大な労力を僅かにかいま見た立場の上条は、彼女の暴言を諫める――べきであった。

上条「インデックス……それは」

 だが、真っ正面から少女の瞳に覗き込まれ、身じろぎも出来ず、声も出せない。
 それもまた当然の話だ。禁書目録は世界がどうなってもいいと考えるように、幻想殺しも同じだからだ。

 ……正確ではない。優先順位の問題だろうか。
 二人にとっても世界は大切で、人は大事だ。それは絶対に。

 けれど、だが、しかし、そうであったとしても。

 ただ、ただ『目の前の相手が最優先』なだけ。
 それだけの、話だ。

上条「……なぁ聞いてくれインデックス?俺は、俺はな」

インデックス「……」

 上条当麻は考える。それは世界の事ではない。ましてやインデックスの発言が不謹慎だと怒るものでもない。
 このまま抱きしめてしまえば、どれだけ楽だろうか。震えるこの子を、また泣かせてしまったのだと、胸が軋む。

 ……だが、それをしてどうなる?どう変わる?
 受け入れたとしても、学園と魔術、両天秤を綱渡りする現実は変わらない。
 片方を選べば、必ずどちらかを捨てる日が来る。選ぶとはそういう事だ。

上条「……インデックス?もしかしてお前、寝ちまったのか?」

 だから上条当麻は嘘を吐く――腕の中のか細い鼓動が、激しくなっているのを気づかないフリをする。

インデックス「……すぅ、むにゃむにゃ……もう食べられないんだよ……」

上条「つったく。『お前はいつまで経っても変わらない』な」

 だからインデックスは嘘を吐く――自身を包む腕の感触が、明らかに強くなっているのを気づかないフリをする。

上条「……おやすみ、インデックス」

インデックス「……うん」

 近くにいるのに、想いが通じているのに。
 手を伸ばして触れているのに、勇気を出して求めているのに、二人の影とは裏腹に想いは重ならない。

 いつか必ず引き裂かれるのであれば、最初から無かった方が。
 そう二人は自身に言い聞かせる。約束された終焉の日まで。

 彼らは、嘘を吐き続ける。

――1’日目 朝

小萌「おっはよーございますなのですよーーーーーーーーっ!」

 静謐な公民館に幼女――ではないが――の声が響き渡る。

小萌「今日は楽しい課外実習の日なのですっ!ほらっ、太陽さんもあんなに元気で!」

上条「……いや、先生。元気って言うか、嫌がらせレベルの――」

インデックス「……おはよーなんだよ……」

小萌「シスターちゃんもおはようなのですっ。個人的にはどうしてこっちにいたのか問いただしたい所ですけどもっ」

上条「……あれ、先生?課外実習って昨日終わったじゃないですか?」

小萌「まったまたー上条ちゃんてば寝ぼけているのですよー、さっさとお顔を洗ってご飯の支度をしましょうね」

小萌「『今日は1日目』だから、張り切って実習をするのですよー」

上条・インデックス「――え?」

姫神「あ。おはよう上条君。インデックスさん」

上条「姫神っ、今日は何日なのか知ってるかっ?」

姫神「結論から言う。私も『二周目』を把握している人間」

インデックス「……じゃ、じゃあっこもえのジョークじゃなくて、本当に」

姫神「うん。この村では『二周目の一日目』が始まっている」


――第一話 『九十九里(つくもさと)』 -終-


※今週の投下は以上となります。お付き合い頂き有り難う御座いました

乙です

ループきたー


別にいいけど吹寄さんの口調どうなん?最近読んでないからアレだが

>>35
大体こんな感じだったような?三バカは「貴様」、それ以外は硬めの丁寧っぽい感じで

後、地の文の書き方、アドバイス頂けれは(こう書いた方が見やすい・読みやすい)幸いです
来週文はこんな感じで書くつもりですが

乙ー!!!
まさかのループ世界か、某エンドレス夏休みのように何万回も続くのかー?

乙!
面白そうだ期待



いいんちょうは、あおがみピアス

吹寄はキツめだけど普通に女口調だから間違いだな
なんか間違われやすいが



――第二話 『常のセカイ(じょうのせかい)』

――1’日目 『水門管理』

 水門からは煌々と水がしぶきを上げ流れている。
 上流から幾つもの水路を巡り、幾つもの水田へ別つ頃、小川と言っていい程に勢いは減じている。
 田のあぜ道から水面を覗けば今では珍しいメダカ、更にもっと寄って見ればタガメやゲンゴロウの姿も見える。
 透明度の高い水路を眺めて知らない筈の郷愁を覚える――の、だが。

上条「……」

インデックス「……うー……」

土御門「……にゃー……」

姫神「……ニャル○さん?」

 ひたすらに、暑い。

上条「……なぁ、土御門?」

土御門「にゃー?」

上条「ら、楽な仕事じゃなかったの?」

土御門「……俺も最初はそう思ったぜい。つーか昨日一日一人でやってたんだけどな」

土御門「水源やら水道、要は用水路って綺麗にしてあんだにゃー。具体的には木なんか一本もないぜぃ」

インデックス「ヒマワリの方は……一応、あったかも……」

土御門「災害とかで倒れっちまうと、撤去するの大変だろ?だから予め切り倒されてる事が多いぜよ……」

土御門「水害が多い所では、逆に植え込みを多くして地盤を固めたりもするみたいだぜぃ」

姫神「……そういえば。前住んでいた村ではそうだった。ような……」

上条「……つーか、ここだとぶっ倒れる。少し涼しそうな所――あぁ、あっちの水車小屋まで行こうぜ……」

インデックス「さんせー、なんだよ……」

土御門「だにゃー……つーかどうせ『二周目』なんだから、何も変わってない筈だしぃ」

姫神「……暑い」

――水車小屋の陰

上条「……ふうっ。日陰は涼しいなー」

姫神「学園都市と違って周りは緑に囲まれているから。日光は厳しい。けど風は気持ちいい」

土御門「だぜぃ」

インデックス「……?」

上条「どうした?水車小屋が珍しいのか?」

インデックス「んー?『おやくそく』だと復員兵が隠れてる筈なのに……」

上条「横溝正○っ!?」

土御門「ありそうな展開だにゃー」

姫神「真犯人は未亡人か後家さんで安定」

上条「言わないであげてっ!人類初の密室殺人事件の犯人は『逃げ出したオランウータン』だったみたいに、昔は色々と杜撰だったんだからっ!」

土御門「暗黒神話大系のボスの一柱が『船で轢かれてすごすご退散しました』だしにゃー」

姫神「他にもタップダンス踊って平気な人も居なかったっけ?」

インデックス「もー、あれは創作の話なんだよ。何だったらヴォイニッチ写本――ネクロミノコンの一節でも謳おうか?」

上条「お前以外発狂するから駄目っ!つーかほのぼのなのに大量虐殺を引き起こされるからっ!?」

インデックス「昔々あるホテルでエレ○ちゃんはロリコ○のジャパニーズマフィアに恋人にされたんだって」

上条「ヴォイニッチホテ○だね?日本の漫画で俺の部屋にあるやつだよな?」

姫神「面白い?」

土御門「どのコマとってもポストカードに使えるぐらい構図が最高。ただし話の内容は一部アレだにゃー」

上条「いやあの脱線しすぎてないかな?俺達割と差し迫った状況にある気がするんだけど?」

姫神「そう?私はこのままでもいいかと思ってる」

上条「……おいおい」

姫神「冗談」

土御門「まぁ、そろそろ真面目な話をしよう……ぜぃ」

上条「つーか土御門も朝から顔色悪いんだけど、大丈夫か?」

土御門「あーそれは後で説明するにゃー。それよか、朝の感じだとどうだった?」

姫神「女子は多分私一人。吹寄さんも小萌先生も気づいてないみたい」

インデックス「……私は?」

姫神「女子生徒と先生では。うん」

上条「こっちも俺と土御門以外は全滅」

土御門「普通はパニクるだろうし、それをしないって事は犯人か気付かないの二択だにゃー……ちなみに『右手』は?」

上条「あぁ。あいつにメシ渡す時触ってみたけど駄目」

インデックス ジーッ

土御門「どうした?」

上条「事故じゃんかっ!?俺は悪くねえよっ……多分?」

姫神「吹寄さんにも触ってみたら?って言ったら……いつものアレ」

土御門「……おっきかった?」

上条「そりゃもぅ――ってインデックスさんワタシはその制裁を一度受けて――」

ガフゥゥッ!!!

姫神「南無阿弥陀仏」

土御門「いやぁ空が青いぜぃ」

上条「お前ら見てないで助けなさいよっ!?いい加減ワンパターンだしね!」

姫神「ちなみに鉄拳制裁も受けている」

土御門「委員長はフラグ立ってるのか立ってないのか、分からないにゃー」

姫神「『立ってないですけど何か?』って言うフラグ。きっと」

インデックス「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

上条「噛む力が上昇しているだとっ!?」

土御門「――って具合に一日目の記憶を持ってるのは俺達だけだが、禁書目録?記憶が改竄された検討はついているか?」

インデックス「はぷっ……がるるるるるるるっ!」

上条「ナイスアシストっ!」

土御門「話し終わったらまた噛んでて良いから」

上条「死ね!俺の腕は二本しかないんだよっ」

インデックス「私は『記憶』にプロテクトがかかっているし、とうまは『右手』だよね」

インデックス「あいさは簡易版『歩く教会』かも」

土御門「俺は……説明は面倒だから後からまとめてな」

姫神「他の人の症状は『一日目の記憶を失う』事だよね」

土御門「紛らわしいから、『一周目・二周目』って言おうぜい」

上条「携帯や時計を見ると同じ日付のままなんだよな……」

姫神「記憶。記憶だけを巻き戻すって何か意味があるかな?」

上条「って言うと?」

姫神「もしも何か悪い事をしたいんだったら。全て消すとか。改竄するとか。あると思う」

姫神「けれどやっている事は『巻き戻した』だけ」

土御門「その『巻き戻す』ってのも実際の所は分からんぜよ」

土御門「持っている電子機器の類は一周目と同じ。でも俺達の肉体もそうとは限らない」

上条「違うんじゃないのか?昨日インデックスに噛まれた傷痕が、ほら」

インデックス「そーゆー使われ方をするのも心外なんだよ……」

土御門「けどなーカミやん。昨日一日、さらし首状態で放置された奴がいたよな?」

上条「助けてやれよ」

土御門「あいつの日焼け跡、完全に無くなってた――無かった事になってるみたいだぜぃ」

上条「そういや……何かおかしいなー、とは思ったんだけど」

姫神「つまり。『記憶を持ち越した人は肉体も持ち越し』。『記憶がリセットする人は肉体もリセットされる』?」

インデックス「そう考えると多分――この世界は『幻想』なんだよ。じゃないと説明つかないし」

上条「全員が夢見てるのか?村の人達も含めて?」

インデックス「私達もかかっているんだけど、効きが浅い、みたいなのかも」

上条「うーん……」

インデックス「とうまの場合、この夢の『核』に触れば幻想は解けると思うんだよ?」

上条「それも気になるけどさ。もっと『どうして?』って思わないか」

姫神「どういう意味?」

上条「ん、単純な話。『俺達をループさせてどうする』って。誰が、何の得するんだよ?」

土御門「まぁ恣意的なもの、カミやんや禁書目録とかの個人を狙って仕掛けたもんじゃないぜい」

姫神「その心は?」

土御門「もしも殺意や敵意があれば昨日の内に誰か死んでる」

上条「なんかヤだな」

土御門「だから俺は『幽世(かくりよ)』説を主張するぜぃ」

姫神「イーハトーヴォ?」

インデックス「ニライカナイとかが有名だよね。うーん、永遠に続くって言ったらそれしかないんだよ」

土御門「まぁ出て行った話もたまにあるし、其程悲観する必要はないと思うぜぃ」

上条「あのー……すいません?にらいかない?出来れば上条さんにも分かるように教えて頂きたいなー、なんて」

土御門「そうだな……『ニライカナイ』は乃田あす○さんの別名義だ」

上条「知らねぇよ!?誰それっつーか絶対関係無いし!」

土御門「やだなーカミやん。こないだ貸したスズノセブ○に端役で出てましたぜぃ?」

上条「ナンノコトダガワカラナイデスヨ?」

インデックス「何の話?ご本でも借りたのかな?」

姫神「男の子のハードディスクの中身を。詮索してはいけない」

土御門「あー……じゃカミやん。あの世とかこの世とかって言い方は知ってるよな?」

上条「あの世が死後の世界、この世が俺達の住んでいる世界だよな」

土御門「そのあの世を『幽世(かくりよ)』、この世を『現世(うつしよ)』って言い換えてみてくれ」

上条「……え?何?俺達あの世に来ちゃったの!?」

インデックス「説明が悪いかも。そうじゃなく『定義は色々とある』んだよ」

インデックス「第一私がもし死んじゃったら、日本の神様のお世話にはならない……と、思うんだよ」

上条「……ワケ分からん」

姫神「うん。『現世ではないどこか』と思った方が良いのかも。深く考えたら負け」

上条「そんなもんなの?」

土御門「昔っから神隠しとかあったけど、居なくなった人間が迷い込んでいたのがこの場所、つった方が早いか」

上条「あぁなんだ。だったら帰れるじゃねぇか」

土御門「(まぁ殆どは帰って来れないんだけどにゃー)」

インデックス「古くは『トコヨ』――常世とか常夜って漢字で現われているんだよ」 カキカキ

上条「常の、世界」

土御門「そうだ。その名の通り――『永遠に同じ季節、同じ時間を繰り返す世界』だぜぃ」

 古くは古神道の時代から語られてきた、所謂『浄土信仰』の一つ。
 曰く、海の彼方には常に花咲き乱れる世界があり、人が死ねばそこへ魂が還る。
 曰く、山の奥深くにはお隠れになった神が住み、人の悩みも苦しみも無い世界であると。

 常に平和な世界。だから『常世』。
 常に美麗な世界。だから『常世』。
 常に在り続ける世界。だから『常世』。

 後に合流した『浄土』の概念と相まって、人は理想郷を夢見る。

上条「……成程。その常世ってのと似てるって話なのか」

インデックス「『隠れ里』にも似てるけど、向こうは『繰り返す』って概念は薄いんだよ」

上条「んー……何かおかしいな」

土御門「なにがだ?」

上条「大規模な結界?みたいなのに俺達が入ったんだろ?」

インデックス「そうだね。『使徒十字』みたいな地域にかける術式だと思うんだよ」

上条「なんで今日の朝まで記憶が飛ばなかったのか……一昨日の昼過ぎ、ここに来た時点で効果が表われなきゃおかしいんじゃ?」

インデックス「それは多分、『この幽世が完全な幽世じゃないから』だと思うんだよ」

上条「違うの?」

インデックス「考えてみてほしいかも。例えば『とうまが永遠に夏の続く、歳を取らない常世』へ行ったとするんだよ」

上条「あんまり楽しそうじゃねぇよな、それ」

姫神「……」

インデックス「そこに暮らす人は『あー、ずっと幸せで楽しいなー』って思うんだよね」

インデックス「けど『記憶がリセットされていれば、永遠に続いていると認識できない』んだよ」

上条「……はい?」

土御門「カミやんは毎日大好物の鯖寿司を食べられる環境にいるとするにゃー」

上条「俺別に鯖寿司好きじゃないけど。嫌いでもないが」

姫神「食べ物にまで優柔不断がっ!?」

上条「“まで”ってなんだよ!?“まで”って!」

土御門「『あー、昨日の鯖寿司美味しかったなー。でも今日も明日も食べられるんだなー。幸せー』って思うだろ?」

土御門「でも『記憶がリセットされれば、永遠の幸せを認識出来ない』んだにゃー」

上条「禅問答みたいな話だが……まぁいいや」

インデックス「加えて食べ物に問題があるかも」

インデックス「昔から『幽世の食べ物を食べた物は二度と現世へ戻れない』ってルールがあるんだね」

インデックス「日本のイザナミ、オリンポスのペルセポネーとか」

姫神「え?だったら土御門君はもしかして」

土御門「あぁ。何かおかしいと思ってから、こっちの食べ物・飲み物を口にしてなかったぜぃ」

上条「お前っそれ危ないだろ!?」

土御門「最初は持ち込んだお菓子やジュースを拝借して凌いでいたんだが、流石にヤバいにゃー」

土御門「だから今朝、記憶のリセットが確認された時点で、こっちの食べ物を食べてるけどな」

上条「……」

土御門「まぁ仕方がないぜぃ。俺の記憶は手帳に書いてあるから、調査を続けるのに心配は要らないにゃー」

土御門「俺の記憶が無くなれば『幽世』で確定。そうじゃなければ」

インデックス「『隠れ里』の変異種だよね」

上条「なぁ土御門」

土御門「悪いがカミやん。安易なヒューマニズムが入る余地はない。綺麗事を言うぐらいだったら、俺の分まで頑張ってくれた方がいいぜぃ」

上条「……任せろ!」

土御門「んじゃ次に術者の特定だが――」

インデックス「ねーねーとうまー、お腹空いたかも」

上条「すまん土御門。インデックス腹減って機嫌悪い」

インデックス「私はそんなにお子様じゃないんだよ!」

土御門「あーうん、メシにしようぜい。つーか禁書目録、カミやんは『分かって』るから心配するな」

姫神「?」

土御門「午後から姫神はどうするんだにゃー?水門と睨めっこすんの?」

姫神「流石に午後は遠慮したい。室内の作業に変えてもらう」

姫神「インデックスさんは?ピン留めされたシスター服じゃ辛いんじゃ」

インデックス「クリップ が熱くて火傷しそうなんだよ……」

上条「小萌先生から服借りるとか?あー、でも俺と一緒じゃキツいか」

土御門「女子二人で頼みに行ったらいいぜぃ」

姫神「うん。そうしよう」

インデックス「でも、とうまが」

上条「俺達なら適当に手ぇ抜くから心配ないよ、な?」

インデックス「村の男の娘にフラグを立てるかも!」

上条「そっちの心配かよっ!?てか誰から教わったよその単語!」

土御門「大丈夫だぜぃ禁書目録」

上条「言ってやれ!土御門!」

土御門「スズノネセブ○の中じゃすみ○ちんルートがエラく気に入ったらしいにゃー」

上条「おっとそれ以上俺の性癖をバラすのはやめて貰おうかっ!」

――二周目午後 『水門管理』

 太陽は頂点を過ぎジリジリと降下してくる。物理的な距離は天頂にあろうが地平線に重なろうが変わらないのに、次第に近づいていく錯覚を覚えた。
 太陽光によって暖められた地面が熱を発し、地上が熱せられて空気が更に熱くなる。

 陽光が斜になれば大気の壁がやや厚くなり、地面が熱せられるのは収まるものの、地に足をつけて立つ者への恩恵はまだ、遠い。

 そんな酷暑の中、ほんの僅かに出来た日陰に座り、男二人で文字通り膝を抱えているのは切ない。

土御門「……なぁ、カミやん」

上条「おー?」

土御門「やっと二人きりに――って待て待て!振り上げた拳を降ろせ!」

上条「……脳が茹だってんだからしょーもないネタはやめてくれ」

土御門「禁書目録と引き離されてご立腹なのは分かるが、そんなにイライラしなくてもいいと思うぜい」

上条「お前なぁ。分かっててやったんか?」

土御門「だから拳を振り上げるなっ!別に意地悪してる訳じゃないっ!」

土御門「――いいか、上条当麻。これから言う事を頭に叩き込め」

上条「……分かった」

土御門「要先○は非処女だ。続編で期待しすぎると凹――」

上条「おっけ一発殴るな?」

土御門「って言う掴みのギャグは大成功だとして――明日以降どうしようも無くなったら、記憶が残っている人間集めて、『外』へ行け」

上条「外ってどこだよ。県道沿いに歩けばいいのか?」

土御門「それが一番安全だろうな」

上条「なんだよ、簡単に出られるんだったら朝から行けばよかったじゃんか」

土御門「あぁまぁ簡単に出られるんだよ――記憶を保った人間『だけ』なら」

上条「……え、って事はクラスの連中や小萌先生は」

土御門「高確率で、帰れない」

上条「待てよ!?そんな見殺しに何て出来る訳がねぇだろ!」

土御門「落ち着け。俺も言いたくて言ってる訳じゃない」

土御門「……いいか、カミやん?俺は全員救出って線で動いている。それは理解して欲しい。納得が行く行かないは別にしてだ」

上条「いやでもこの幽世は『夢』なんだろ?だったら何度繰り返そうが、昼寝ぐらいの時間で終わるんじゃ無いのか?」

土御門「『胡蝶の夢』か。そうだな、それは正しいかも知れない――だが」

土御門「正しくない『かも』知れない」

上条「どういう意味だ」

土御門「幽世の一日が現世の一日と同じだったら?」

土御門「ここが夢の世界であるなら、俺達の体はどうなっているんだ?」

土御門「もしもだ。俺達がバスの中、集団で昏倒していたとすれば、まぁまだ救いはある」

土御門「お節介な通行人あたりが警察と救急車を呼んでくれれば、即病院へ搬送」

土御門「学園都市まで話が届けば、楽に数年は持ち堪えられるし、ねーちん達が解決してくれる可能性は非常に高い」

上条「それは有り難いけど」

土御門「では『俺達が最悪のタイミングで幽世へ引っ張られていた』らどうだ?」

上条「運転中に、とか」

土御門「山道で曲がり角を曲がろうとしたら、そのまま崖下へ――とかな」

上条「俺達が死にかけてるって事かよ!?」

土御門「だーかーらーっ、あくまでも可能性だ。それにカミやん。不安にさせたくなかったから、さっきは言わなかったんだが」

土御門「なんで『俺達が引かれた』んだろうな?」

上条「偶然、じゃないってのか」

土御門「俺達が本来行くべきだったら百尺村(ひゃくしゃくむら)は、田舎ではあるがフツーにバス路線が通っている所だ」

土御門「なのにどうして俺達が通った時にタイミング良く『幽世』に引き込まれるんだ?」

上条「……」

土御門「昔から『神隠し』に合う人間ってのは決まってる。精神的に弱かったり、逆に感受性が強かったり」

土御門「……あと、死にかけた奴、とか」

上条「つまりアレか。臨死体験で遊んでる的な?そういうアニメ見たような」

土御門「あれは死後の世界じゃなかったっけ?ま、何にせよ、解決するのはさっさとした方が良い訳だぜぃ」

土御門「全員で死ぬか、何人か生き残るかって二択じゃなくてだな」

土御門「助けを呼びに行ったり、昏睡状態の俺達の体を確保してもらった方がありがたいからな」

上条「……納得行かない、けど」

土御門「まーそう言うなよ。そうだな……だったら、一つだけ約束してくれないか?」

土御門「こっちの一日があっちの一日と完全に同期していると仮定して、この季節、飲まず食わずで生きてられるのは精々四五日か」

上条「いや、もっと前にバテるだろ」

土御門「仮死状態であれば最低限の生命活動で済ませる――と、思いたいにゃー」

土御門「来た日、一周目と既に二日が経過してる」

土御門「だから五日目、『四周目が終わった時点で解決出来なければ、カミやん達は外へ向かって』欲しい」

上条「今日を入れてあと三日か……!それまでに解決したい所だが」

土御門「結界の核、術式の要となる『何か』は絶対にある。それがどんな物かは分からないが、カミやんが右手で触れば破壊出来る」

土御門「……筈だぜぃ?」

上条「頼りないなっ」

土御門「あー、そうそう。明日から記憶がリセットされるかも知れないけど、そん時には俺に手帳を見るように言って欲しいぜぃ」

上条「手帳……あぁ、さっきも言ってたな。分かったよ」

土御門「翌日用の着替えの中に入れとくから、自分で気づけるとは思うけど。一応な?」

上条「しっかし思ってた以上にシビアなんだなぁ、この世界は」

土御門「何?意外と気に入ってんのかにゃー?」

上条「まぁ、悪くないっつーかさ。基本、ここにいる限りは誰が傷つく訳でもねぇだろ?」

土御門「どうだろうな。記憶が延々リセットされながら、死ぬまで――下手すりゃ、死んでもループし続けるってのはゾッとしない話だぜぃ」

上条「……なぁ土御門」

土御門「生憎妹以外に興味ないぜよ!」

上条「お前ら兄妹どこまで行くの?カンパネラと一緒に終点まで止まらないの?」

土御門「義理だしぃそんなには問題にならないと思うぜぃ。じゃなくて、なに?」

上条「えっと……オフレコで頼む」

土御門「大丈夫だ。二周目の記憶は消える筈だからな」

上条「悪い……インデックスの事なんだが」

土御門「え、何々?のろけ的な話なの?ようやっと俺もカミやんから聞けるにゃー」

上条「茶化してんのはお前の方だと思うけど……記憶の事だよ」

土御門「安定してるって話だが。まさか!」

上条「あぁ違う違う!そうじゃない、特に何かあったって訳じゃないんだ!」

上条「そういう話じゃなくって、インデックスの記憶が消えないようになってから、もうすぐ一年なんだが」

土御門「あー……色々あったにゃー」

上条「――本当に、インデックスにとって記憶を失わない方が幸せなのかな、って」

――二周目 『機織り』

 木で出来た校舎。そこは嘗て小学校であった名残を見せていた。
 壁に張られていたポスターや生徒の作品の跡、そこだけが日焼けをせずに色濃く残る。
 室内には木の香り、チョークの臭い、耳を澄ませば遠くから子供達の喧噪が聞こえてきそうな気配もある。

 そう錯覚しそうな空間の中に彼女らは身を置いていた。

小萌「――はい。と言う訳でこの里の機織りの歴史は勉強出来ましたねー。何が質問がある人は居るのですよー?」

姫神「はい。先生」

小萌「どうぞ、姫神ちゃん」

姫神「私の聞いていた話と実習が大分違うのですが」

小萌「あー、それは仕方がないのですよー。去年までは……まぁ、色々とありましたし?」

小萌「なので今年からはっ!午前中が見学、午後からは座学に変わりました!」

姫神「あー。実は先生も苦手だったとか?」

小萌「そ、そそそそそそんな事ないのですー?」

姫神「キャラが立っている。羨ましい」

インデックス「(あいさ、あいさー)」

小萌「他に質問がなければ次へ移りますよー?」

姫神「(うん?)」

インデックス「(推測だけど、『実習がこの里に合わせてねじ曲げられてる』かも)

インデックス「(とうまのクラスの人がする筈だったのに、この里では出来ないから)」

姫神「(急遽変更されている?)」

インデックス「(そんな感じかも)」

姫神「(納得した)」

インデックス「(あいさも気になってたの?)」

姫神「(うん。前日まで『旅のしおり』を暗記するぐらい読んだんだけど)」

姫神「(『ヒマワリ畑の水やり』なんて実習書いてなかった)」

インデックス「(……そっか。それじゃ幽世の影響力は私達の持ち物にまで及ぶんだね)」

姫神「(夢のような世界か)」

インデックス「(あいさ?)」

姫神「(ううん。ちょっと考え事)」

小萌「――はい、と言う訳で座学はここまでなのですよー。以後は自由時間になりますから、他のお手伝いをしてくれると嬉しいのです」

小萌「あ、シスターちゃんは少し残って貰えますか?」

インデックス「私?」

小萌「心配しなくてもお勉強の話じゃないのです。えっと、これですねっ」

姫神「白いワンピースと麦わら帽子?」

小萌「えぇ、シスターちゃんがシスター服なのは頂けないですから、先生の方でご用意したのです」

インデックス「ありがとうなんだよっ!」

小萌「いえいえ。先生の服ですけど、あまり着ないと思うので」

姫神「あれ。先生」

小萌「何ですか、姫神ちゃん」

姫神「先生のサイズはインデックスさんよりも小さいんじゃ?」

ジジッ

小萌「村の方がシスターちゃんを見かねて、お孫さんのお洋服を下さったんですけど?」

インデックス「修正力が働いているんだね」

姫神「小萌先生は矛盾を感じていない?と言うか。だったらこれの出所はどこから?」

インデックス「サービスって事なのかも。私達はゲストだからねー」

姫神「サービス満点……ハッ!」

姫神「だったら私も正義の魔女っ子になれる!」

小萌「はい、姫神ちゃんも熱中症に気をつけて実習を続けてくださいね?」

姫神「ついに小萌先生からも流されるようになった!?」

インデックス「多分里の方から『無茶振りされてもね、うん』って言われてるんだよ?」

姫神「折角のチャンスだったのに」

インデックス「あいさは魔法使いになりたいんだよね?」

インデックス「だったらなればいいと思うんだよ。イギリス清教――は、ちょっとアレだけど」

インデックス「『必要悪の教会』――は、もっとアレなんだけど!」

姫神「……私は殆ど知らないけど。魔術師って基本アレな所でアレな人が多い。うん」

インデックス「……科学も人の事は言えないと思うんだよ……?」

姫神「でも錬金術士さんやステイルさんも私を助けてくれた。ピンキリじゃないかな」

インデックス「二人ともキリっていうか、どっちかって言えば『キワ』なんだよ」

姫神「あ。だったらあの人を師匠にすれば」

インデックス「女の子三人を弟子にしてたから、多分枠は残ってないと思うよ」

インデックス「いつの間にか居なくなっちゃったけども!」

姫神「……やはりツンデレを学ぶには年下に教えを請わねばならない……!」

インデックス「魔術の話は?ねぇ、魔法使いになりたいって話はどこへ行ったの?」

インデックス「あとイギリス清教の人は『つんでれ』じゃないんだよ、多分」

姫神「そんな事はないっ!!!」

姫神「あんなツンデレっ『ここはグリーンウッ○』のすかちゃ○ぐらいいないっ!!!」

インデックス「……あの、声張りすぎじゃないかな?それに蓮○君は別にツンデレじゃないと思うんだよ」

インデックス「『まんがきっさ』で読んだけど、あの本って基本的に男の人しか出てなかった気が……?」

姫神「ツンデレさえマスターすれば。私にも個性が……!」

インデックス「ま、まぁ……魔術は……帰ってから考えるんだよ?」

インデックス「きちんと勉強するんだったら、幾つか門戸は開いているし」

姫神「そう。だね。うん確かに」

姫神「それは――帰ってから。考えるべき事」

 廃校の一室から窓を通じて空を見上げる。今の二人には知りようもないが、浮かぶ入道雲は昨日と寸分違わない物だった。

 子供の頃、空の青さに驚き、奇妙な姿をした雲へ手を伸ばした事がある。
 当然のように届く訳が無く、手を伸ばすのを止めたのは一体何時の頃だろうか?

 それは雲が何千メートルも高い所にあるのを知った時か。
 それは雲がただの湿った空気の集まりであると知ったためか。

 それとも――手を伸ばすのを止めたからか?
 手の長さは有限で、空の高さも有限ではあるが。

 試さないウチに諦めるようになったのは。

――『水門管理』 午後

 二人だけの会話は誰に聞かせられる訳もなく。
 静かに流れる水面を眺め、口も止まらない。

土御門「なぁカミやん。その質問に答える前にだ」

土御門「俺さっき『不安にさせたくなかったから、言わなかった』つったよね?」

上条「あぁ。意外――でもないけど、考えてるな、って」

土御門「違う違う、その認識自体が間違いだぜぃ」

土御門「カミやん『を』気遣って言わなかったの『は』禁書目録の方だ」

上条「――え」

土御門「『上条当麻を気負わせないために、禁書目録が気を遣った』んだよ」

上条「嘘……いやでも!」

土御門「カミやんは恐らく『インデックスが土御門腹減ってるなーとか思って、急に食べ物の話を振った』程度の認識だろ?」

土御門「でもその時点でダメダメだにゃー。禁書目録は話を終わらせたくてあんな事を言い出したんだぜぃ」

土御門「だって俺はわざわざ姫神や禁書目録へ配慮する必然性が無い。するつもりもない」

土御門「禁書目録はその知識だけが特化されて知られているが、それを応用する知能だって充分以上に持っている」

土御門「だから俺と同じ結論に帰結するのは当然なんだにゃー」

上条「いやでもっインデックスが俺に隠し事なんて――」

土御門「……なぁカミやん。割と辛辣な事を言うけど。つっーか、『使徒十字』ん時の共犯者の台詞じゃねぇーんだけど」

土御門「今まで、『カミやんが禁書目録に知らせずに事件を解決した事』なんて、腐る程あるよね?」

土御門「だから、今回はそれが逆になったってだけじゃないの?」

上条「……」

土御門「そりゃまぁ?不可抗力とか、気がついたら巻き込まれていたとか、色々と事情はあるだろうし、俺も理解はするぜぃ?」

土御門「でも、カミやんがしてきたのってそういう事だろ」

上条「……俺は」

土御門「『どうしたらいいんですか』か?知らないぜぃ、つーか当人同士の問題に口突っ込んでも意味がないぜよ」

土御門「結局どこまで行っても、当事者同士がどうにかしないと」

上条「土御門」

土御門「何だ?ぶん殴りたいのか?」

上条「……それは、駄目なんだよ」

土御門「何が」

上条「俺はインデックスを理解しちゃいけないんだ!」

土御門「理解……だと?どうして理解がいけない?」

土御門「つーか多分いや確実にぃ?禁書目録を知っているのはカミやんしか――」

上条「あぁもう分かってんだよっ!んな事ぁ言われなくてもな!」

上条「俺が記憶を無くしてからっ!インデックスが記憶を無くさないで済むようになってから一年ずっと!」

上条「俺はインデックスと一緒に居たんだ!あいつの事は他の誰よりも理解しているさ!」

上条「インデックスがどんな時に笑うのかっ!何をしたら喜んでくれるのかっ!全部だ!」

上条「でも――でもっ!」

上条「俺が理解しちまったらそこで全部終わるだろうが!俺がインデックスの気持ちを知ってるなんて――」

上条「……そんな事、俺はっ!」

土御門「……成程。中々くっつかないと思っていたら、そういう事か。なんつーか、まぁ――」

土御門「――お前、バカだろ?」

上条「……バカで何が悪い。全部最初っから分かってたり、聞き分けの良いフリをしている連中よりはマシだろ」

土御門「だな、俺もそう思うぜぃ――でも、そうやってんのは誰だ?」

土御門「立場がどう、立ち位置がどう、つって相手に遠慮してる――『聞き分けの良いフリして』んのは?」

上条「……」

土御門「科学に魔術にグレムリン、どこも小康状態を続けているけど。もしもお前らがなんかあったって、だから何?」

土御門「どの陣営も重要視しているのは間違いないが、『時間の問題』だぜぃ?二人が居なくなっても、争いが無くなる訳じゃない」

土御門「『新しい口実で戦争が始まる』だけだ」

土御門「……あんま言いたくは無いんだにゃー、こーゆー話」

土御門「言われた当人は凹むだろうし、言った俺も後悔すんのが目に見えてるからにゃー」

土御門「しかも言った方は忘れてカミやんだけが覚えてるなんて、俺完全に悪者だぜぃ」

上条「……すまん」

土御門「でもまぁこういう時でもないと言えないから、言うぜ?」

土御門「お前も禁書目録も、しているのはタダの――『逃げ』だよ」

 ぱしゃん、と田んぼの方で水音がする。

土御門「……永遠に続く関係なんて、無い。永久に終わらないモノなんてないにゃー」

土御門「それこそカミやん自身が分かってるよな?散々その右手でぶっ殺してきたんだから」

 あぜ道から跳び込んだのはウシガエルか。水面に目だけ出したのはどこかユーモラスで。
 けれど感情の籠もらない何かに見透かされている気がして、上条は身震いをした。

――二周目 夜の廃校 『怪談』

青ピ「第一回っ!怪談たいかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃっ!」

青ピ「はいどうもっ大きにっ!まいどっ!アリーベェデルチ!やって参りました怪談大会っ!」

上条「オイ。別の子にも言ったけど、怖い話でそのテンションはありえないだろ」

インデックス「なんで最初からサヨナラ?」

姫神「『まいど』とかと同じ挨拶。でも日本でしか使われていないと推測」

青ピ「学園都市からはるばる離れて数百キロ!ボクらがフツーに暮らしている街とは正反対のぉぉっ、何とか小学校からお送りしますっ!」

インデックス「校門のプレートが外されていたから、仕方がないんだけど」

青ピ「世界で科学解明出来ない事ありますよぉねぇぇっ!不思議な体験しちゃったりしませんかー?」

吹寄「……あからさまに胡散臭いんだが」

青ピ「さぁてではトップバッターを務めてくれるのは――」

上条「待て待て。俺らメシ食った直後に連れてこられたんだぞ?せめてもう少し説明しろ」

青ピ「ですから怪談ゆうてますやんか?」

姫神「小萌先生には許可を取ってある。平気」

インデックス「あいさがやる気なんだよっ!」

姫神「……私のテンション的には。こういう暗く爛れたキャラが合っているかもしれない」

上条「やる気というよりは投げ遣りって感じもするけど……土御門は?」

青ピ「あーなんか用事があるって言ってましてん?」

吹寄「超白々しいんだけど」

青ピ「まーまー気にせんと!ほら、モタモタしてるとお風呂の時間に呼ばれるよって!」

上条「なんか仕込んでんだろ。でも俺、急に怖い話なんて振られても知らないぞ?」

青ピ「まぁ時間も時間ですし――お願いします!センセっ」

姫神「うん。私に任せる」

インデックス「お、おぉ!あいさがちょっとやる気になってるんだよ!」

姫神「最近は薄い本にすら呼ばれなくなった私の怨念を……!」

吹寄「出たくはないと思うわ、それ」

青ピ「まぁまぁいいですやんか。じゃ、ライト消しぃや。借りてきたローソクに火をつけて、と」

ボウッ

 暗い室内に炎――とは呼べないぐらいの火が点る。
 何となく全員で示し合わせたみたいに、一つだけのローソクを囲んで座った。

 ゆらゆらとどこからとも無く吹く風に煽られ、その酷く頼りない光もまた揺れる。

姫神「……これ去年の夏に私が体験した恐怖体験」

姫神「口に出すのも憚れて。人に話すのは初めて」

上条「……そんなにか?」

姫神「あれは――私が小萌先生と暮らしていた時の話」

姫神「ある暑い日。私は先生に頼まれたお買い物をしに街へ出ていた」

姫神「大覇星祭の少し前、エンデュミオンが完成した前後だったと思う」

吹寄「エンデュミオン?」

上条「宇宙エレベータだな、うんっ!実は前からあったんだけど!」

青ピ「どうしてカミやん必死なん?何か公式的に問題が?」

上条「いや別に大した事じゃ無いけどな!多分ウヤムヤの内に終わるからっ!」

姫神「9月にしては暑くて。私はどこかで休もうかとキョロキョロしていた」

姫神「すると遠くの方に人垣が出来ていた。なんだろうと」

姫神「近づいてみるととても綺麗な歌声が聞こえる。誰か路上でライブしているんだな。個性が濃くて良いなと」

インデックス「その感想もおかしいと思うんだよ?」

姫神「すると私の耳にその子の名前が聞こえた……!」

姫神「誰かが呟いたのか。自分での名乗ったのかは知らない」

姫神「けれどその名前は!私を恐怖に叩き込んだ――上条君!」

上条「……はい?」

姫神「その子の名前は?」

青ピ「知って――ハッ!?またフラグを立てよった!?」

上条「違うよ!違くないけど、そういうんじゃねぇっ!なぁインデックス!」

インデックス「……とうまなんて知らないんだよ」

上条「全部が全部不可抗力じゃねぇか!」

吹寄「あの、上条当麻?」

上条「何だよ今ちょっと――」

吹寄「姫神さんが放置されて凹んでいるから、な?」

姫神「……」

上条「あ」

青ピ「……まさに外道!」

インデックス「とうまは悪いんだよね、うんっ」

上条「お前らも共犯だからねっ!?無理矢理俺に責任を押しつけようとしているけども!」

上条「あー、いやそうじゃないんだ?別にイジメとかそういう事じゃなくってだね?」

姫神「……」

上条「アリサだろ?鳴護アリサ!」

姫神 ビクッ

上条「エンデュミオンでライブやってた子つったら、他にいないし」

姫神 ワナワナ

上条「それが一体どう関係あるって言うんだよ?」

姫神「秋沙」

上条「知ってる、けど」

姫神「私の名前は。あいさ」

上条「だからそれが――」

姫神「……只でさえキャラが薄いのに。名前まで被り気味って致命的」

上条「――何?」

上条「お前もしかして……他の子と名前被ったのが嫌だったの?」

姫神「これはない。幾ら何でも向こうは特別編のヒロイン。勝ち目は薄い……」

青ピ「あー……ほらっ!そんな事無いやんっ!ね、カミやんっ!」

上条「俺に同意を求められてもな」

吹寄「そ、そうよ姫神さん!なぁ上条当麻!」

上条「ちょっと待て!?お前ら俺に押しつけようとしてないか!?」

インデックス「ガンバレとーまっ!ファイトなんだよ!」

上条「全員敵かよぉぉぉぉぉぉっ!?せめてフォロー手伝ってくれてもいいじゃねぇか!」

姫神「……死のう」

上条「待て待て!ローソクで片手に何するつもりだ!」

姫神「私はこのローソクを手にジャックランタンとして生きるしか……」

姫神「陽の下を歩かずに『トリックオア姫神?』って聞いた方が。名前を覚えてもらえる筈」

インデックス「あの子は駄目な子であって、わざわざなるようなもんじゃないかも」

上条「……あのなぁ、姫神。顔を上げてくれないか?

姫神「上条。君」

上条「個性がないとか言うけどな、そんな事は無いぞ?」

姫神「……そうなの?」

上条「名前にしたって……あー……そうっ!天馬と書いてヘガサスと読んだり、そういうキラキラネームつけられるよりマシだろ?」

姫神「そうかも」

上条「名前なんて気にしなくて良いじゃねぇか!大体俺達は姫神を粗末に扱った覚えは――」

姫神「花火」

上条「無い。え、花火?」

姫神「病院に入院した時。一緒に見ようって約束」

上条「……あっ」

青ピ「あ、『そういえばそんな約束もしてたなー』って顔ですやんか」

吹寄「貴様、まさか忘れてたのか?」

インデックス「……とうま?」

上条「オイ馬鹿止めろ!まるで俺が全面的に悪いみたいな流れを作らないでっ!?」

青ピ「――はいっ!てなワケで『本当にあった上条当麻の酷い話』を話してくれた姫神さんへ拍手ー!いやー怖かったですねぇ!」

上条「こっから立て直すのは無理だよなぁ?後、大会の趣旨俺の糾弾大会になっちまってるし」

青ピ「では他に怖い話をお持ちの方はおりまっかー?」

吹寄「普通は持ちネタなんかないでしょ」

姫神「……また曖昧にされた」

青ピ「カミやんは?」

上条「特に覚えては……ないなぁ。インデックスはどうだ?」

インデックス「オバケのとかの話?6万冊ぐらいはあるかも」

上条「長すぎるっ!百物語じゃないレベルの悪い事起きそうですよねっ!」

青ピ「……くっくっく。いよいよオーラス、本命の登場やね!」

上条「サプライズしたかったのは分かるけど、もうちょっと企画詰めようぜ?せめて俺か土御門に話すとかさぁ」

吹寄「無駄だろう。色んな意味でバカだからな」

青ピ「これは――ボクの友達のメル友から聞いた話(実話)なんよ」

吹寄「実話じゃない怖い話って、妄想だよね」

姫神「ディスられまくってるのに続けるメンタルは見習うべき」

インデックス「でもちょっと涙目になってるんだよ」

上条「言ってやるなよ!気づかないのも優しさだからなっ」

青ピ「メル友が学生時代、あるトンネルの交通誘導員をやってた時の話や」

インデックス「曰く付きのトンネルなのかな?お化けが出るとか、事故があったとか」

青ピ「あー、いやいやそんなんは無かったそうや。国道、しかも昼間なら10分で30台ぐらい通る大きいトンネルやってん」

青ピ「長さは大体300メートルぐらい?中がカーブしとるから、端から端までは見通せんけど」

青ピ「その工事――片側の壁が老朽化したらしく、片側交互通行にしとったそうや」

青ピ「入り口二つに警備員置いて、それぞれが無線で連絡取ってたんやと」

青ピ「そして、あるお盆の夜」

青ピ「昼間と違って今は夜、加えてお盆だから殆ど車は通らない。精々一時間に三台ぐらい?」

青ピ「あっちいなー、帰りたいなーって思いながらボチボチやっとったんですわ」

青ピ「向こう側にいる相方から『ナンバーXXXX、セダンの黒』っちゅー無線が来て、そいつは暫く待つ」

青ピ「短いトンネルだから直ぐに出て来る筈なのに、少し長かったんですわ」

青ピ「一分ぐらい待って。どないしよっか?相方に言った方が良いんかな?考えてたら、黒いセダンが出てきましてん」

青ピ「遅いわ、なにやっとん?って思いながら、通過を確認したって相方ヘ連絡を入れとったら――」

青ピ「ききぃって、少しの前にセダンが駐まりましたん」

青ピ「あるぇ?事故かトラブルでもあったんか?と、セダンに近寄ります」

青ピ「後部座席に赤い服着た女、運転席に若いにーちゃん乗っててな。そいつは窓をコンコン叩きましてん」

青ピ「『どうしたん?気分でも悪いンでっかー?』」

上条「フレンドリー過ぎるだろ」

青ピ「関西なんてこんな感じやで?――したら、そのにーちゃん、偉い勢いで車から降りてきて、がーがー言いますんや」

青ピ「話を聞くに『トンネルの中に人が居た』そうで」

青ピ「でも今工事はやってません。しかも深夜の2時ぐらいで、人も通りません」

青ピ「相方に一応確認しても――そりゃ居ない言います」

青ピ「でもにーちゃんは『居る居る!』言うて興奮しとりますし。仕方がないんで、一回トンネル止めて、二人して見に行く事にしましてん」

青ピ「……まぁ深夜やったさかい、普通は無視するんやけど。まぁ暇でも潰したら、ぐらいの軽い気持ちで」

青ピ「二人で探した結果――まぁそりゃ居ませんわな」

青ピ「途中に横穴や空間がある訳も無いですし、こんな時間に人が入ったままになってる訳があらしませんし」

青ピ「『ね、ワシの言った通りですやん。きっと疲れてますねんで』って、そのにーちゃんを車まで送って行きます」

青ピ「でもにーちゃんは車のドアを開けながら、こう言いましてん」

青ピ「『俺、赤い服着た女を見たんだよ!』」

青ピ「――え?とそいつが振り返った時には、もう黒いセダンは走り出してましたわ」

青ピ「……そう、赤い服を着た女を後部座席に乗したままで!」

上条「……」

インデックス「……」

吹寄「……」

青ピ「あ、ごめんな?実話なんであまり面白くなかった?」

青ピ「あちゃー、なんか盛っとけば良かったわー。なんやスベったみたいだしー」

青ピ「じゃあじゃあっ、この後にUFOに誘拐されれば――」

上条「違うよっ!そうじゃねぇよっ!」

青ピ「どうしたましたん?」

上条「お前の話が怖くて引いてんだよ!普通ここは下らない話でオチをつけるんじゃなかったの!?」

青ピ「い、いやぁ最後ぐらいはマジに、ね?」 ガタッ

 フッ、とローソクの明かりが消える。

上条「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

青ピ「待ったカミやん!確かに机にぶつかったのはボクですけども!」

青ピ「べ、別にローソク消えたからって、LEDライトありますしそんなに怒らなくてもいいですやんか!」 カチッ

上条「そうじゃねぇよ!違うんだよ!お前百物語って知らねえのかっ!?」

青ピ「ボクは赫○ちゃんが好きやけどね?」

上条「ほうかご百物○な?ある意味間違ってないけど、タイトルの由来ぐらい思い出せ、なぁ?」

青ピ「小説の主人公呼び名が京極○で、作家のペンネームが京極夏○ってどうですのん?」

上条「売れたら勝ちなんだよ!本がハケたら何やったって良いに決まってるじゃねぇか!

 ……カッ、カッ、カッ、カッ。

 木造の校内に響く足音、段々近くなるのはお約束。

青ピ「お、土御門も来たみたいですやん。なんや遅かったなー」

上条「だから違うって!あれは多分土御門じゃないし!」

インデックス「あのー、とうま?」

吹寄「私達は窓から先に失礼するわ」

姫神「頑張って。色々な意味で」

上条「ちょっ!?収拾つけるのは俺かぁっ!?こういう時こそ土御門じゃねぇのか!」

上条「インデックス!インデックスは俺の味方だよなっ!?」

インデックス「えっと……」

インデックス「がんばっ、なんだよっ」

上条「あぁもう両手を胸の前でガッツポーズ決めるの可愛いなぁチクショウっ!」

青ピ「完全に終わってますやん」

 コン、コン。

青ピ「おぅ、土御門遅かったのぉ。なんやそんな赤いコートまで着て」

上条「やっぱムリ!やっぱムリ!やっぱムリ!」

青ピ「何がですのん?」

上条「見ろよ曇りガラスに映った影を!」

上条「俺の知ってる土御門は2Mオーバーの上背じゃなかった筈だ!」

青ピ「はっはっはーっ!カミやんったらオバケとかマジで信じてんのかいな?」

青ピ「あれやで?いつまでも子供の心を忘れんのは大切やけど――」

上条「あ、ごめん。ちょっと俺用事思い出した」 ガラッ

青ピ「おーいカミやん?カミ……何や、行ったもうたか」

 コン、コン。扉は未だ叩かれる。

青ピ「おー、帰ったでー」

ガラッ。

土御門(竹馬赤コート)「にゃーーはっはっはっは!カミやんビビリすぎだぜぃ」

青ピ「いやぁ……夜道でそれ見たら男だって逃げ出しますやん」

青ピ「に、しても珍しいやんか。土御門の方からドッキリ持ちかけるねんて」

土御門「まぁたまにはバカするのも一興ぜよ」

土御門「肩肘張って気張るのなんざ、四六時中してたら疲れるだですたい」

青ピ「あー、カミやんなー」

土御門「分かる、よなぁ」

青ピ「カミやんがロシアで発見される前ぐらい?めっちゃ不安定だった時に似てるやん?」

青ピ「詮索したかぁないですけど、こうやって励ますぐらいはしても良いと思いますし」

 ……カッ、カッ、カッ、カッ。

土御門「まー合ってるけどにゃー」

青ピ「折角ノンビリできるんだから、したらええのに――まぁ『零崎』としちゃ実に興味深いですけど」

土御門「……何?」

青ピ「なんや、自分ら面白そうな事してますやんか」

 カチャリ、と懐から使い古されたハサミを取り出す。
 刃先から握り手まで、赤錆と黒く変色した何が付着している凶器を。

青ピ「ボクも仲間に入れてぇな、なぁ?」

 錆だらけの外見に反して、ハサミは音もなく口を開け、鈍色がLEDライトに反射した。

土御門「お前はっ!?」

青ピ「決まってますやんか土御門。つーかお前でも『俺』の正体は見抜けへんかったんかい」

青ピ「あーぁ、こりゃ意外と早ぅ終わってしまうんかいな」

青ピ「さあ、『零崎』を始めよう――!」

土御門「……」

青ピ「……」

 ……カッ、カッ、カッ、カッ。

土御門「……それ、ラノベだよな?」

青ピ「あ、分かるー?良かったー、こないだカミやんにネタ振ったら『お前の名字ってそんななんだったのか?へー』って!」

青ピ「ヤですねー、親友の名前知らないなんて有り得ませんやんか、ねぇ?」

土御門「そ、そうですよね?」

青ピ「なんで敬語なの?どうして明後日の方方向を向いているの?」

青ピ「なぁ人と離す時は目ぇ見て喋んのが礼儀しちゃい――」

 ……カッ、カッ、カッ、カッ。

土御門「……」

青ピ「……さっきから気になってたんやけども」

青ピ「どっから聞こえる足音て、お前の仕込みとちゃうん?」

土御門「どうやって?携帯用音楽プレイヤー使ったって、あちこち移動しながら音楽は流せないだろ」

青ピ「ですよねぇ?つーかさ、つーかさ。そのコート、どっから見つけてきたん?」

土御門「……お前が用意したんじゃないの、これ」

青ピ「いやぁ幾らボクでも、明らかにオーバーサイズな女物コート旅先にまで持ち込むとかしませんし?」

青ピ「昼間下見に来た時、用具入れの中にハサミと一緒に置いてあったんや」

 ……カッ、カッ、カッ、カッ。

土御門「……近づいて、来てるにゃー」

青ピ「……せやね」

 ……カッ、カッ、カッ、カッ。

 二人の部屋の前で立ち止まり、そして。

 こん、こん。

 『ソレ』は戸を叩く。

土御門「――あ、もしかして『マヨイガ』の具現化する特性か……?」

青ピ「――よし!ここは俺が引き受ける!だから――」

青ピ「だからお前は先に進むんや!」

土御門「分かった!」

青ピ「待てよおぉっ!?そこは一回断る流れですやんっ!」

土御門「離せっ!アレは面倒臭いんだよっ!どーせ大した事にはならな――」

青ピ「ど、どうしたん土御門?そんな黙ってボクの後ろ見て?」

青ピ「い、いやですやん?なんかオバケでも見るよう――」

 二人が何を目にしたのか、どんな結末を迎えたのか、知る者はいない。

――月明かりの下

 昼間地を焦していた日輪は山の彼方へと消え、暫く観客を待たせてから地平から月輪が姿を覗かせる。
 陽光とは違い、優しく悲しげに照らす様を二人で何となく見上げていた。

インデックス「思ったんだけど、あれは『どっきり』だったかも?」

 彼女のやや青みがかった銀色の髪は、月明かりの下でも――いや、だからこそより一層綺麗に見える。
 どこからか調達してきた白いワンピースと、やや不釣り合いな麦わら帽子はよく似合っていた。

上条「それ、どうしたんだ?」

インデックス「いいでしょー?こもえに借りたんだよっ」

 スカートの端を持って二度、三度とその場で回る。少しだけ捲れたのが気になって、上条はあからさまに視線を逸らした。

上条「……いいんじゃないかな?よく似合っている」

 普段であれば軽口の一つや二つ、恥ずかしくて出て来ない台詞が口を突く。普段と違う環境で色々と浮かれているのか?それとも不用意になっているのか。
 それは、分からない。今まで我慢してきた事を発露するのは、決して『浮かれる』とは言わないのだから。

インデックス「わーいっ!とうまが珍しく素直なのかも!」

 けれど『そう』なのは一人だけでなく、だからこそ『危険』であるかも知れない。
 普段よりも――他人から見れば普段からなのだが――近くに寄り添うインデックスを意識しながら、上条は思想にふける。

 手を繋ぐのは簡単だろう。想いを通じ合わせるのだって、難しくはない――と、言うよりも先程から意識的にセーブしないと、とんでもない言葉を口にしそうだった。

 『それ』はきっと簡単なのだろう。
 『それ』もきっと単純なのだろう。

 自分の心に素直になればいい。ただ、それだけの話。
 一見自由に見えて制約の多い学園都市とは違い、この里であれば限りなく解放されると同時に外部には閉ざされている。
 僅かな人間だけが記憶を維持出来ないのであれば、むしろ好都合――と、心のどこかで囁く声もする。

 だが仮にそうしたとしても、『この世界はここだけでは終わらない』のも確かだ。
 騎士が悪い竜を倒し、お姫様を助け出して結ばれたましたメデタシメデタシ。物語であればそう括られる。

 しかし自分達の本来身を置く世界は、『常のセカイ』である幽世とは違う。

 同じ夏は二度とやってこない。季節を迎える人間も……まぁ多くても80前後が限度だ。
 幸福な時間は、永遠の猶予は存在しない。
 必ず、いつか必ず、時計の針が落ち死者は墓へと戻されるだろう。

インデックス「……どうしたの、とうま?私の顔に何かついてるんだよ?」

 上条は意識しない間にインデックスの髪へ手を伸ばしていたようだ。

上条「あぁいや、その。いい帽子だなって」

 照れ隠しに――おそらく気づかれているだろうが――彼女の被っていた麦わら帽子を拝借し、自身の頭に軽く乗せる。
 ツンツン頭の髪質が悪いのか、それとも彼女のためにあつらえてあつたのか、少し窮屈で。

 さぁっ、と風が流れ帽子が宙に舞う。慌てて捕まえようと、手を伸ばし……不意に捕らわれる。

 インデックスの長い髪が頬に触れ、光の欠片となって零れ落ちる。月光の元でしか見られない姿は、控えめに言っても幻想的で。
 光の雫がキラキラと、髪が乱れて慌てているのが新鮮で。
 ちょっとした出来心で取り上げたのに、不意を打たれたのはどちらの方か?

インデックス「あーっ、とうまーっ!もうっ、何するんだよっ!」

 帽子はふわりと滞空してから、木の葉のように左右に船を漕ぎ、とんと地面へ落ちた。
 珍しく――いつもは大抵『フリ』だが――怒ったインデックスの様子に、上条も正気となりごめんごめんと拾い上げる。

インデックス「なんでとうまはいつもいつも私に意地悪するんだよっ!」

 分かっている事だ。それは。

上条「そりゃアレですよ……何となく?」

インデックス「もーーーっ!とうまはホントにホントにとうまなんだからっ!

 分かっていた事だ。それも。

 月影の下で並ぶ二人を見るものはなく、咎めるであろうものも『常のセカイ』には存在しない。

 どちらからともなく伸ばした掌は、俗に言う恋人繋ぎでしっかりと結ばれている。

『これ、恋人同士がするんだよね?』

 そう、言ってはいけない。

『そりゃ当然だろ?俺達が繋ぐんだったら、それ以外にねーよ』

 そう、答えてはいけない。

 これは『無知』だ。『その行為を知らなければ、罰するに値しない』と言う『無知』。
 恋を知らず、愛を知らなければ――お互いにこのままで居られるという嘘。
 世界の誰よりも、どんな間柄よりも近い関係にありながら、二人は只の同居人であった。

 けれどそんな『嘘』も繋いだ手の前には説得力を持たない。

 伝わる温もりは。
 高鳴る鼓動は、
 離すまいと込められた力は。

 ――そうしないと側には居られないから。

 上条当麻は抱き寄せようとする衝動を堪える。
 インデックスは想いを打ち明ける願望を抑える。

 そう、二人が我慢するだけの――『いつもの日常』だ。

――3周目 朝

土御門「おっきろーーーっカミやんっ!朝だぜぃっ!希望の朝がキターーーーーーーーーーーっ!!!」

上条「ラジオ体操の歌じゃねぇんだから……おはよう。なんだ戻ってたのか?」

土御門「んぁ?帰った時にただいま言った記憶があるけど?」

上条「……あぁそうか。今日からリセットされるんだっけか」

土御門「なぁなぁカミやん、今日はどうすんの?ヒマワリ?それとも水門?」

上条「どっちも懲り懲りだが。そうじゃなくって。お前手帳読んだのかよ?」

土御門「手帳?なんの事だにゃー?」

上条「読めば分かる、っつーか、着替えの所に置いたから忘れないっつったのになぁ」

土御門「良く分からんけど、俺の着替えんトコには手帳なんて置いてなかったぜぃ?」

上条「はぁっ!?だったらお前他も探して見てくれよ!」

土御門「別に良いが……まさかカミやん!」

上条「そうだよ!思い出したくれたか!」

土御門「俺がこっそり手帳に挟んでいる妹の写真が欲しいのかっ!?」

上条「いらねーよっ!誰が欲しいかっ!」

土御門「いや結構モテるみたいで、兄貴としては心配だにゃー……」 ガサゴソ

上条「……あったか?」

土御門「……無い。無くしたっぽい!」

上条「ちょ――」

土御門「悪いカミやん!俺ちょっと探してくるぜぃっ!」

上条「待て待て待て待て!ネタじゃないっんだよ!これ――」

上条「……マジ?土御門脱落なの?」


――第二話 『常のセカイ(じょうのせかい)』 -終-


※今週の投下は以上です。お付き合い頂いて有り難う御座いました

強引な宣伝だよってミサカは(略

上条「安価でヤリまくろう」

上条「安価でヤリまくろう」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376407878/)

ああ、歌月十夜……
乙ー

乙です

乙!

乙です!!

終わり…?

乙!



――第三話 『閉じる円環、軋む螺旋、そして約束は零になる』

――三周目 朝

上条「――って事なんだけども」

姫神「土御門君が?信じられない」

インデックス「……」

上条「俺だって信じたくはないけどさ。朝起きたら手帳がなくなってたみたいだし」

姫神「『里』の影響力が私達の持ち物にまで及ぶ?」

インデックス「それは……違うと思うんだよ。もしそうならあいさも簡易版『歩く教会』がどうにかなってるかも」

上条「『魔術的なモノは改竄出来ない』?」

インデックス「かも知れないんだよ」

姫神「……私の『歩く教会』をつけていれば。改竄は防げる」

姫神「なら土御門君へ貸すのもアリかも」

インデックス「それはやめておいた方が良いんだよ」

インデックス「ここは『夢』だって仮説が立てられているけど、それは絶対じゃないし」

上条「現状悩んでてもしょうがないし。これからどうするかだな」

インデックス「魔術的な何かが絡んでいるんなら……オヤシロ?オテラ?とか探してみるのはどうかな?」

上条「順番を間違えてた気もするけど……よっし!それじゃまず土御門に説明してから――」

姫神「待って欲しい。土御門君への説明は私が行く」

インデックス「あいさが?」

姫神「知識は土御門君よりインデックスさんの方が豊富だし。調べるのに人手も要らない」

姫神「私が説得すればタイムロスが少なくて済む。うん」

上条「信じてくれるかなぁ?」

姫神「信じるかは別にしてもきちんと話せば協力してくれると思う」

上条「……だなぁ」

インデックス「よろしくなんだよっ」

姫神「おーけー。友達思いのキャラが……!」

上条「ねぇもしかしてそれが目的なの?打算半分?」

姫神「大丈夫。土御門君は責任持ってアンチェイ○してくるから」

上条「その話を聞くと逆に心配になるんだけど。取り敢えず半殺しにしてから説得するって意味?」

姫神「きっと土属性と石属性の筈」

上条「確かになっ!そうだけども!それっぽい名前だけど!」

インデックス「あいさ、あんまり冗談は良くないと思うんだよ」

上条「よーしっ!言ってやれ言ってやれインデックス!」

インデックス「土御門家はこの国の魔術的な守護者だから、きっと火・水・風・土の四大属性に決まってるんだよ!」

上条「言わなくていいよね?ボケにボケを被せても、プラスにはならないからな?」

姫神「でも『羽化』するとキツくなる仕様は頂けない」

上条「放っておいてあげればいいじゃんかっ!どうせ薄い本ではみんな『羽化』なんて無かった事になっているんだろうから!」

インデックス「というかシステム自体も誰得的な感じなんだよ」

上条「あぁもうツッコミが追いつかねえぇぇぇぇぇっ!?」

――三周目 課外実習 『里の鎮守』

 村の小道、人々が多く住む通りから一本外れた道を歩いていけば、緩い傾斜がついている事に気づく。
 民家の周りにある田畑から道の先へと視線を移せば、そこには杉で覆われた一画があった。
 先導する者に言われなければ分からなかったであろうが、逆にこんな目立つ場所がどうして分からなかったのか?

 境内へ足を踏み入れれば、ヒンヤリとした風が頬を撫でていく。
 ここでは、ジジジジ、と鳴く蝉の声すらも遠くに聞こえ、外の空気とは明らかに違う――そう、確信させる。

上条「この社か?」

インデックス「社っていうよりもお堂かも」

少年「如意輪(にょいりん)観音の観音堂ですねー。取り敢えず、手を合わせてください」

上条「二礼二拍一礼?」

インデックス「それは神式なんだよ。がらんがらん、ってした後に拝めば良いと思う」

少年「まぁどちらでもどうぞ。特に気にしないから」

上条「んじゃ、鐘を――あれ」 スカッスカッ

少年「……鈴の中の玉が行方不明で、はい」

インデックス「き、気持ちの問題なんだよっ。大切なのは信心なんだからっ」

上条「そうだよなっ!信仰する方が大切――」

少年「……過疎化でここしばらくお坊さんもいないんですけどねー?」

上条・インデックス「……」

上条「……じゃ、一緒に」

インデックス「……うん」

パン

上条・インデックス・少年「……」

少年「……ふんぐるいむぐるうなふ――」

インデックス「ここでネクロノミコ○っ!?」

上条「唐突に意味が分からねぇなっ!?」

少年「いやぁなんかアレだったんでつい。というか詳しいですねー?」

インデックス「えっと……家庭の事情かな?」

少年「どんな事情だよ、それ」

少年「つーかなんで僕?ひまわりの水やりに誰か来たらどうするんですか?」

上条「心配ねぇよスプリンクラーあるじゃねえかっ」

少年「あれ?」

インデックス「って話を聞いたんだよ!誰かから!」

少年「あー、はいはい。なるほど」

上条「それよりもだ。この里の神様の話を聞かせてくれないかな?自由研究で使いたい」

少年「えー?まぁいいけど。そうだねー……見ての通り、観音様を大事にしてるけど」

上条「由来とかは?出来ればこの村の民話も聞きたい」

インデックス「それはねー――」

少年「如意輪観音は観音の一柱。『如意』ってのは『意思の如く』、つまり『自由に扱える』って意味なんだ」

インデックス「――ふぇ?」

少年「『輪』は仏教では煩悩を破壊する『法輪(ほうりん)』、ゲームとかに出て来るチャクラムを表している」

少年「つまりは『煩悩を退治しちゃう観音様』って信仰されているみたい」

上条「あれ、インデックスさん?」

インデックス「ちょ、ちょっと待って欲しいかも!如意輪は如意珠輪を表してい――」

少年「いやぁそれあまり意味がないんじゃない?衆生に煩悩はあっても、如意輪は存在しないんだから」

少年「信仰がどーたら言うんだったら原義よりも、人々がどの部分に共感しているのか、って方が大事じゃないの?」

少年「知識ってのは実体験を元に書かれているけど、その知識が全てに於いて正しいって保障はないんだよねー」

インデックス「ぐぬぬぬぬっ……!」

上条「お前、詳しいなー?」

少年「うん。昔々おじさんに教えて貰ったから――後は民話だっけ?」

少年「そうねー……あぁ。この観音様は『水無(みずなし)観音』とも呼ばれてる」

少年「少し前に河川が決壊して里を呑み込みそうになった時、みんなでここへ逃げ込んだんだけど」

少年「どういう訳かこの高台に水は登ってこなかったんだ」

上条「へー。御利益あるんだな」

インデックス「……その手の話は『水無地蔵』って形で、あちこちに伝わっているから、きっと伝承だけなんだよっ」

少年「その際、田畑は全滅。もう来年からどうしようかって悲観に暮れてたんだけど」

少年「村の女の子が持ってた一輪のヒマワリ。それを植え直し、油を取ってどうにか村を立て直したんだ」

インデックス「……むー」

少年「以来、この村では観音様へヒマワリを捧げるって風習が出来た」

少年「ちなみに水門の更に上流には水をせき止めている大水門があるね」

少年「それを解放したら里は水に沈むから、勝手に開けないでね?」

上条「誰がするかっ!――って」

上条「(どうだインデックス?参考になりそうか?)」

インデックス「(抽象的過ぎて話にならないんだよ。もっと妖怪が出たとか、オバケが出たとかじゃないと)」

インデックス「……他には何かないのかな?家々で伝わる神様とか、特殊な『講』とか」

少年「そういうのは無い、と思う。正月は知らないけど、お盆は普通にやってるし」

インデックス「うーん……詰まっちゃったかも」

上条「クッソ!時間がないってのに!」

少年「どうしたの?一昨日から変わった行動をしているけど、なんかあったの?」

上条「あぁ。ここを出たいんだけど、どうすりゃいいのか分からねぇんだよ」

少年「記憶を保った人だけなら、里から出れば戻れると思うよ?」

上条「お前も土御門みたいな事言うんだな」

少年「土御門……?あぁグラサンの拝み屋っぽい人ね。雰囲気が木島さんに似ててビックリした」

インデックス「あ、あのー?とうま」

上条「なんだよインデックス?袖なんか引っ張っちゃって」

インデックス「おかしいよね?明らかに異常かもっ!」

少年「っていうか修道女さんが他の神域に入るのってどうなの?」

上条「……」

インデックス「……」

少年「ワンピースのサイズ大丈夫?青いお兄さんに聞いたから、合っているかは自信なかったんだけど」

上条「お前――誰だっ!?」

少年「春来る鬼、山童(ヤマワロ)、川童(カワワロ)、早座(サクラ)って言えば分かるのかな?」

インデックス「とーま!この子――」

少年「そう、僕がこの里の『神』だね」

――『神語りて』

 上条はインデックスを背後に庇うと右手を少年へ突きつける。
 軽く足を開きどんな攻撃が来ても対応出来るように。

 もう蝉の声は聞こえない。木々が風で擦れる音も、林で鳥が立てる音も消え。
 耳が痛くなる程に無音が場を支配する。

上条「……お前が、神か……!」

少年「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」

上条「志村け○じゃねぇよ!往年の名コントの話じゃねえし!」

少年「いやあの、ね?身構えられても困るんだけど。僕は何するつもりもないし」

インデックス「嘘だよっ!つちみかどの手帳を盗んだのかもっ!」

少年「……手帳?僕が?なんで?」

上条「なんで、ってそりゃ――ここへ閉じ込めるため、だろ?」

少年「閉じ込めてどうするの?食べるの?」

上条「聞いてんのは俺だっ!」

少年「いや食べないよ?人間だってお腹空いても人食べようとはしないじゃない?」

少年「そもそもソレを僕がするんだったらば、正体明かす必要が無くない?」

インデックス「そう……かも?」

上条「騙されるな!俺達が繰り返している事に気づいてなかったんだぞ!」

上条「だからここで言いくるめようと……」

上条「……おかしいよな?」

少年「あ、気づいた」

インデックス「どういうこと?」

上条「コイツが知ろうが知るまいが、正体を明かす必要がなかったのがまず一つ」

少年「だねぇ。知らぬ存ぜぬで通せば良かったんだから」

上条「次に知らなかったんなら、土御門の手帳を盗む必要がなかった、って事だ」

少年「ループに気づいてないんだから、取り上げる意味がない。けど」

少年「逆に別の意味があればその仮説は破綻するけどね?」

上条「お前信じて欲しくないの?欲しいの?どっち?」

少年「好きにすれば良いと思うよ。興味はないし」

上条「興味がない、ってお前。じゃあ俺達が出て行っても」

少年「気をつけて帰ってね?あ、出来ればまた来てくれると嬉しいかも」

少年「昨日、他の子が話してたんだけど、ホークスって無くなっちゃったんだって?」

 そう神は野球帽を指で弾く。

少年「出来れば長続きするような所――RNAベイスターズ?のが欲しいなー」

上条「……それ多分、最速で消える球団だと思うぞ……?」

インデックス「そーじゃなくって!」

インデックス「だったらあなたは何がしたくてこんな『幽世』を創ったんだよっ?」

インデックス「巻き込まれた人が死ぬとか生きるとか、そっちの話を教えてくれるといいかもっ!」

少年「あー……まぁ、座らない?立ってても仕様がないし」

上条「油断させる――ぐらいなら、もっと早くしてるよな」

少年「あとそのお兄さんのポーズ、右手首を左手で支えるのやめてくんない?」

上条「やっぱりなんか――」

少年「『俺の!俺の右手を止めてくれえぇっ!』って今にも言いそうで……ぷぷっ!」

インデックス「……ぷっ」

上条「よーし止めよう!今すぐ止めよう!あとインデックスさんは終わったらお話がありますっ!」

インデックス「関係無いんだよ!?」

少年「……ねぇ?イチャイチャするんだったら余所でやってくれない?僕、ヒマワリ畑に水やらなくちゃいけないんだけど」

上条「悪い……えっと、まずお前なんつったっけ?」

少年「名前はない。そーゆーもんだから」

上条「いやでもさっきなんか言ってただろ?それは違うのか」

インデックス「あれは『人間』とか『人類』って意味。種族名かな」

上条「でもなぁ」

少年「気にしなくていい。あ、いや気にして欲しい」

上条「どっちだよ」

少年「『僕に名前を与えるのを絶対に止めて』欲しいんだ。そう心に留めておいてくれ」

上条「……意味が、良く分からない」

インデックス「この子はね、幾つかの『属性』を持っているんだよ。それが固定しちゃうと、曖昧なままに済ませていたのに制約が科せられるんだ」

上条「……悪いんだけど」

インデックス「科学でも何とかの猫ってお話があったでしょ。あれと同じ」

上条「シュレディンガーの猫?箱の中を明けるまで状態が確定しないって話」

インデックス「むー……」

少年「突然ですがクイズです!回答者のお兄さんと修道女さんには、ある物を当てて貰いまショウっ!」

少年「ヒント一、赤い」

上条「『シャアザ○』?」

インデックス「とうまの赤い候補の一番ってそれなのっ!?」

少年「嫌いじゃないけど……ヒント二、丸い」

上条「『サザビ○の脱出ポッド』?」

インデックス「……あれ?赤かったかな……?」

少年「テレビしか入らないんだよね、ここ……ヒント三、食べ物です」

上条「『クェス=パラ○』?」

インデックス「食べるの!?」

少年「意味は分かるけど色々と不謹慎な気が……答えは、『リンゴ』でしたー」

少年「みたいな感じで、『僕の正体を確定させないで曖昧にし、特定の方向性に寄らない』ようにしているんだねー」

インデックス「……それって、あなたが考えたの?」

少年「少し前に来た人、折口と木島って人から教わった――と、思う」

少年「だから間違っても僕に名前を与えないで欲しい。掟に厳しい金屋子(かなやご)神や人を喰うヤマノケとかだと、そういう行動をとってしまうから」

上条「……分かった。それで、お前はなんなんだ?何がしたいんだよ?」

少年「折口っておじさんから聞いた話だから、僕は良く分からないけれど――『山の神の一種ではないか』って」

少年「そうだねー。『四季』ってどうやって起きてるか分かる?」

上条「太陽と地球の角度、あと偏西風や気圧の配置?」

少年「言葉の意味は分からないけど、お兄さん達はそうなんだね。きっと」

少年「でも『昔の人達は違った』んだ」

少年「山には神様が居て、春になれば里へ下りてきて雪が解け、夏には里で遊び暑くなり、秋には山へ帰り寒くなり、冬には山で寝て雪が積もる」

インデックス「精霊信仰に似ている、というか同じなのかな」

インデックス「『神様が四季に合わせて移動するのではなく、神様が移動する事で四季が起きる』って考え方だよ」

少年「その通り。だからこの幽世も僕が里へ降りてきたから創られた」

上条「待て待て。それおかしくないか?」

上条「里へ降りてくるってのはもう何回もしているんだよな?」

少年「自分でもよく憶えてないけどねー」

上条「お前その度に、こんな繰り返す傍迷惑な幽世創ってんの?」

インデックス「えっと『一々リセットさせていたら、この子が山へ帰れないんじゃ?』って事なのかな?」

少年「半分正確、半分外れ」

少年「僕は毎年、春になると――いいや、『僕が里へ降りる事で春を呼んで』いる」

少年「当然年によって多少のバラツキはあるものの、夏にはこの姿で里の人と遊んで、秋には栗ご飯とか食べて」

少年「柿を食べられる頃には山へと還っている。それは事実……や、まぁ憶えてないんだけど」

少年「でも、というか別に『僕は幽世を創った事が無かった』んだよ、そもそも」

上条「……はい?」

インデックス「じゃ、じゃあじゃあ!この幽世って!」

少年「『僕の意思で創った幽世じゃない』んだね」

少年「えっと……そうだなー、神様の役割ってなんだと思う?」

上条「人の願いを叶える事?」

少年「『欲望を肯定する事』って木島のおじさんは言ってたけどね。まぁ違いはないか」

少年「だから僕が降りてきている間、ある程度の願い事は叶っちゃうんだな」

上条「凄いっちゃ凄いけど」

少年「家内安全とか五穀豊穣とか?」

上条「……なんか規模が偉く小さくなった気が」

少年「昔は近代農業も無かったし、飢饉で人口半減とかザラに起きたからね。自分でも頑張った方だと思うけど」

少年「んでまぁ、多分去年?もしかしたら今年?可能性があるのは君達が来た夜?」

上条「曖昧にも程があるじゃねぇかよ!」

インデックス「まぁまぁ『オバケには試験も学校もない』の人だから、ね?」

少年「『ずっとこの夏が続けばいいのに』って願っちゃった人がいたんだな」

少年「僕――『達』が住んでいた百尺村から、九十九村っていう幽世へがーっと、みたいな?」

少年「住んでいる人を巻き込んで、ね」

上条「え、何?そいつのとばっちりじゃねぇかよ!つーかんなクソ迷惑な願いを叶えんな!」

少年「僕に言われてもさぁ。さっきも言ったけど方向性を曖昧にしているから、好き勝手出来る所もあるし」

少年「もし僕が金屋子神だったら、精々雨乞いか山中安全しか叶えられなかっただろうけど」

インデックス「だから幽世が勝手に発生しちゃったみたい、って事なのかな?」

少年「ねー?迷惑だよねー?」

上条「ウルセェよ元凶!全部お前だろうがよぉっ!」

少年「――って訳で。どうするのお兄さん達?」

上条「どうする、つったって。俺達は無事に外へ出られれば、それ以上は何も」

少年「さっきも言ったけど、幽世なんて出来たのは初めてだから、どうすればいいのか、どうなってしまうのか、全部推測なんだよね」

少年「正直現世がどうなっているのかも分からないし、このまま続ければどうなるかも知らない」

インデックス「……つまり、その『願った人』がいるんだよね?」

インデックス「その人の影響を絶てば解ける、かも」

少年「もしくは僕を殺す事かなー?あぁこの体は本体じゃないから、その時は間違えないでね」

上条「お前は……それでいいのかよ?」

少年「ちょいちょい言ってるけど、『記憶がない』って」

少年「さっきは別の言い方をしたけど、正確には『一年ごとに僕は死ぬ』って意味なんだ」

インデックス「……一年草なんだね」

少年「そうそう。だから今の僕が死んだとしても、次の春にはまた新しい僕が生まれるだけだし」

上条「お前は――それでいいのかよっ!?」

少年「『輪廻転生』って言うんでしょ、これ」

 少年――いや、少年の姿をした何かは野球帽を脱ぎ、その内側へ指を入れ、クルクルと回し出す。
 一回、二回。一度停まった世界が、その静寂が雑音に満たされていく。

少年「僕にこの概念を教えてくれた人は、『人間も不完全な転生を繰り返している』って言ってたよ。凄い大真面目な顔で」

少年「『だから死んでも子を残さば、生命のリレェが途切れはしまい』って」

少年「あぁでも、その隣に居たおじさんはこうも言っていたっけ」

少年「『だがセンセイは、紛いもののセンセイはいつか――』」

少年「『――妣が国(ははがくに)へ還りたがっているのですね』」

――三周目 昼

 折角なので持参した弁当を片手に、寺内の階段に座って食べる。
 緊張感が削がれる原因は、直ぐ隣にいると分かっているが。

上条「……いやー、疲れた。精神的に疲れたー」

インデックス「ま、まぁまぁいいんじゃないかな?予想していたのと大体同じだったみたいだしねっ」

上条「……普通さぁ、こう言うラスボスってのは最後の最後に出て来て」

上条「『――いつ、わかった――?』」

上条「とかって超勿体ぶって現われるんじゃないの?」

インデックス「話の流れで何となくー、ってのは、うん」

少年「いやでもね、一応僕も神様っぽい事してる訳だし」

少年「知りたいって願いへ応えるのは当然だと思いますけどー?」

上条「まぁ、嘘吐いたりテキトー吹き込まれるよりは良いけどな……嘘、じゃないんだよね?」

少年「さっきも言ったけど、って何回かこの台詞使ったけど。嘘を吐く意味がない」

少年「人が居なくなっても、世界が終わる訳じゃないでしょ?」

上条「ドライだなー」

少年「四季がある限り、人間が生きる限り、何かの形になって生まれ変わるだけだと思うけどな」

インデックス「日本は死生観は変わってるんだよ……」

少年「うん、多分里から出たら全部忘れると思うし、大丈夫」

上条「大丈夫の意味が分からねぇなっ!……と、ごちそうさま」

インデックス「とうま食べるの遅いんだよっ!」

少年「……いや、修道女さんがかなり早い方だと思うけど……?」

上条「とーにーかーくっ!この幽世の核となってんのは『誰かの想い』って事なんだよな?」

少年「多分」

上条「それをどうにかすれば幽世は解ける、と」

少年「もしくは僕を殺すかの二択だね」

上条「あんまそういう事言うなよ」

少年「仕様なんだってば。目の前で困ってる人がいれば助けたくなるだろ?」

インデックス「考えたんだけど、私達が来る前にはここは幽世になっていたんだよね」

インデックス「だったら村のおじいちゃん、おばあちゃん達を触れば帰れるんじゃないかな?」

上条「……そうだよ!ナイスだインデックス!」

インデックス「えへへーっ」

少年「あー、ゴメ。それは『分からない』んだ」

インデックス「憶えて、ないの?」

少年「そういう風に出来ているのか、それとも幽世の影響を受けているのか。原因は知らないけど、時間の感覚が曖昧になってる」

少年「お兄さん達が来た時に始まったのか、それとももっと前から始まっていたのかの確信はない。ただ」

上条「ただ?」

少年「幽世の特性として『ちょっとした願い事なんかは叶えてしまう』状態にある」

少年「だからもしも『幽世の継続を強く望む者がいれば、お兄さん達の行動を妨害する』かも」

インデックス「……つまり、つちみかどの手帳が無くなったのも」

少年「幽世がした、かも知れない」

上条「俺達が外へ出る妨害を」

少年「幽世がする、かも知れない」

上条「……最悪だな。確定情報が何もないじゃねぇか」

少年「がんばれー、手伝える事はするしー」

上条「お前っホンっっっっっトにっお気楽だな?」

――夕方 『肩叩きマラソン』

老婆「いやぁホントに勿体ないこって。これであたしゃ悔いが無く逝けますよってに。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

インデックス「もー、おばーちゃんそんな事言うんじゃないんだよ!病は気からって言ってだね」

上条「……」 トントントントントン

老婆「いやいや孫も最近寄り付かんと、本当にもう有り難い有り難い……」

インデックス「きっと忙しいんじゃないかな、うん」

老婆「お嬢ちゃんは良い子だねぇ。どうだい、ウチの子の嫁に?」

インデックス「え、ううん?ちょっとそれはえっと、うん、信仰上の問題とか色々あるって言うのかね?」

老婆「写真見るかい?去年生まれたばっかりの女の子だよー?」

インデックス「……ねぇとうま、歯が痒いんだけど、やっちゃっても良いんだよね?」

上条「歯をガチガチするの止めなさい。あとその人は素で勘違いしている人だから」

ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ……

老婆「おや、時間だねぇ。有り難うね、お兄ちゃん?」

上条「……いえいえ、それは別にいいんですけど」

老人「それじゃ次に俺がお願いできるかねぇ」

上条「つーかもう三周目だぞっ!?最初は『一回』つって公民館に集まって貰ったのに、どういう事だっ!?」

老人「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」

上条「そのボケこの村の流行りなの?神様の鉄板ギャグとして使っちゃったの?」

老人「……町に住んでる孫とは暫く会ってないし……」

老人「そうそう、お前さんぐらいの歳になったかのぉ……」

上条「……」

インデックス「……とうま?多分無理だと思うけど、一応やめた方が良いかも、って言っておくんだよ?」

上条「……かかってこいオラァァっ!俺が全員の孫になったらぁぁっ!?」

老人「有り難いのぉ」

少年「佐藤じーちゃんの孫って東京で小説書いてたんじゃなかったっけ?」

老婆「そぉですよぉおじいさん。あとみっ○文庫で戦隊モノ書いているじゃないですかぁ」

インデックス「何か響きがあれっぽい出版社なんだけど……?」

老婆「あぁシスターちゃん、ハッピーター○食べるかい?」

インデックス「え、いいのっ?」

老婆「封切ったのはいいんだけど、おばあちゃんが食べきる前に湿気っちゃうから」

老婆「だから手伝ってくれると助かるんだけどね」

インデックス「食べるーーーーっ!」

少年「……いいのかなぁ、こんなんで」

 三人で話し合った結果――『幻想殺し』の説明をする必要があったが――怪しまれず住人へ触れられるのは『肩叩き』ぐらいしか思いつかない。
 駄目で元々取り敢えずやってみる、と少年が全家庭へ声をかけて現在へ至る。

少年「いやあの、僕には関係無――く、は無いけど。興味はない話だけども」

少年「目的を見失って全力で肩叩き四周目に入るのって、バカなの?死ぬの?」

老人「おぉ、おぉ……!儂の孫はここにおったんか!」

上条「じい……ちゃん?アンタが俺のじいちゃんだったのかっ!?」

老婆「おー、よく食べるねぇ。あ、手が滑ってこっちも封切っちゃったよぉ」 チョキチョキ

インデックス「も、もうそろそろ限界かも……!」

少年「えっと……まぁ、幸せそうだしいいか」

 喧噪はまだまだ終わらない。喧噪が喧噪を呼び、何事かと様子を見に来たクラスメイトらも加わり、混沌は加速していく。
 上条に対抗してマッサージを始める者、孫の自慢話を聞かされる者、逆に孫に適齢期は居ないのかと聞き出す者。
 中には一升瓶を取り出し、小萌に勧める老人も居たとか居ないとか。
 どっかから紛れたグラサンが手酌で飲み始めたり……まぁ、色々と。

 限界集落となりつつある農村で暮らす者にとって、上条らが起こした騒ぎは奇蹟に等しい。
 こんなに楽しいのはいつ振りだろう。
 こんなに騒いだのはいつ以来だろう。

 歳も立場も関係無く、只々騒ぐ――。

――夜 公民館の外

 田舎の夜は涼しい。都会と違って地面が土であったり、木々に囲まれているため、熱を吐き続けるコンクリートとは違う。
 それぞれが適度に熱を吸収する上、山頂の冷ややかな空気が山背風となって吹き下ろしてくるため、住人達は冷房無しでも過ごせる。

 現に学園生達へ宛がわれた公民館――中ではまだ、混沌とした名状しがたい宴会が続けられているが――の外、上条当麻と吹寄制理の二人を取り巻く温度は優しい。

 ただまぁ、両方共にそれが実感出来ぬ程カチコチに緊張しているのであるが。

吹寄「……良かったわね、村の人達喜んでくれて。最初言い出した時にはビックリしたけど」

上条「俺もこんな展開になるとは思いもしなかったけどなー」

吹寄「でも普通、こういう『お世話になって有り難う御座いました』は、最終日に回すんじゃないの?」

上条「あー……そうだっけ?」

吹寄「貴様という奴は、全く。考えが足りないのよ」

 やや尖った言葉程とは裏腹に口調はキツくなく。少しだけ声が上ずっているのはどうしてだろう。

上条「でもお世話になってんだし、少しぐらいフライングしちまってもいいと思うんだよ」

上条「俺達は『ゲスト』だけど、ホスト側へ感謝するのは当然だし」

吹寄「それは同意するわ」

上条「まぁでもここって良い所だよなぁ。昼間はぶっ倒れそうになるぐらい暑いけど」

上条「三日通じて――じゃなかった。今日一日、調子が悪くなった奴とか出てないし」

吹寄「気づいてなかったの?ここは湿度が低いから汗をかきやすいのよ」

上条「どういう意味?」

吹寄「人は暑いと汗をかいて、気化熱で体を冷却するのは貴様でも知ってるわよね?」

上条「俺でもって所以外は全面同意だ」

吹寄「湿度が高いと折角かいた汗も蒸発しいなで、体温を下げられない。だから真夏よりも梅雨時の方が危ないの」

上条「温度は低くても体温が下がらないから、熱中症になりやすい?」

吹寄「そうよ。ここって湿度が低いから乾燥してるのね」

上条「そうなのか?用水路とか、近くに川も流れてるけど」

吹寄「……あのねぇ、貴様は本当に学園都市の人間なの?」

吹寄「ここには水分を吸収する土や緑が豊富にあるでしょーが。それと近くに水源があれば蒸発熱で周囲の温度も下がるし」

上条「……理解した。でもさ、学園都市でもその技術取り入れられないかな?」

吹寄「水の循環を利用した放熱システム?」

上条「自動的に打ち水したりするとか、人工的な水道網を張って熱を逃がす、みたいなの」

吹寄「悪くはない。イタリア辺りの都市では街中に運河を構築したり、日本でも江戸は水路が発達していたわね」

上条「アドリア海はもう嫌だっ!?ぶるあぁぁぁぁぁぁぁぁぁって音速○さんが迫ってくるよおぉっ!?」

吹寄「一体どんなトラウマがあるのよ……?」

吹寄「ただし日本の場合だと治水事業や防災面から難しいと言われてるわね」

上条「治水?」

吹寄「水は近代農業に使うし、それ以前に日本は災害の歴史だから」

吹寄「運河を引いたとしても、台風が来れば壊滅的な損害を受けるリスクを負ってまではね」

上条「……難しいよなぁ」

吹寄「思いつきでモノを言うのは誉められた事じゃないけど……まぁ何も考えないよりはマシだわ」

上条「大事なのは思考停止しないで、諦めない、か」

上条「だよなぁ。いつも俺はそうやって委員長に怒られてばっかりだけど」

吹寄「……なぁ上条当麻。一つだけ貴様に謝らなければいけない事があるの」

上条「なんだよ改まって?もしかして健康器具の話か?あれは俺達がきちんと言わなかったのが悪いんだし」

吹寄「そうじゃない。その……貴様の『不幸』を努力不足だのなんだの言って悪かった、ごめんなさいっ!」

上条「ちょっと待て!?頭を下げてまで謝られる覚えはねぇぞっ!」

吹寄「……土御門から、聞いたの。その」

上条「あー……昔の話だしなぁ、別に」

吹寄「無神経だった、というよりも不見識だったわ。だから――」

上条「何を抜き込まれたのか知らないけど、つーか何喋ってんだかあの野郎、っては思うけど」

上条「今もまぁ……不幸だとは思うけど……それでも」

上条「何だかんだ言って学園都市に来る切っ掛けになったのも、『不幸』なのは間違いないし」

上条「こっちに来てからは楽しい事も結構あったから。不幸って言う負債の何割かは、返して貰ってる感じだ」

吹寄「……そうか。それならいい」

上条「心配してくれるのは有り難いけど、実感もないしなー」

上条「つーか土御門、なんでンな話をしたんだろうな……?」

吹寄「私もどういう流れでその話になったのか分からないけど、少し強引な気がしたかも?」

吹寄「まぁ謝罪が出来たのだから良しと――じゃ、ないわっ」

上条「お、おう?」

吹寄「私を呼び出したのは何の用なの?何か大事な話?」

上条「あーそうそう忘れてた」

吹寄「忘れてた、って。てか、そうそうって」

上条「なーんか俺と委員長が話す時って、いつも説教ばっかだろ?だからつい」

吹寄「それは貴様の生活態度が悪いせいでしょう!……で?」

上条「で?」

吹寄「さっさと用事を言いなさい。また何か下らない頼み事か、意味不明のお願いなんでしょうけども」

上条「あぁまぁ確かに委員長に取っては下らない事かも知れない。けどな」

上条「俺にとっては大真面目な話なんだ。聞いて欲しい」

吹寄「上条当麻?どうしたんだ、改まって」

上条「前から思っていたんだけど、中々言い出せなくてな。気がついたら一年以上も経っちまってて、我ながら笑えるけど」

吹寄「……貴様、もしかして――!」

上条「……笑われるかも知れない。拒絶されるかも知れない。それに」

上条「今まで俺が吹寄にしょーもない事ばかりやってきたから、信じて貰えないかも知れない」

上条「でも、信用できないとしても――話だけで良いから聞いて欲しいんだ」

吹寄「それは違うわ上条当麻」

上条「うん?」

吹寄「まぁ確かに色々あったし、私も……色々あったけども!」

上条「何で語気が強いの?」

吹寄「何かあっても『はいはいラッキースケベ乙』で済ませられる身にもなってみなさい!」

上条「……すいません、マジすいません」

吹寄「ま、まぁ事故だというのは分かっているし、わざとでないも知っているから、許――しはしないが、置いておくわねっ」

吹寄「その、『分かってる』のも重要なのよ。分かる?」

上条「実績、みたいな事か?」

吹寄「……伊達に長い間クラスメイトだった訳じゃないわ。それなりに貴様がどういう人間かは知っているつもりだし」

吹寄「私の知っている上条当麻という男は、まぁこんな所で突拍子もない嘘は吐かない」

上条「委員長の中の俺ってどんな感じなの?」

吹寄「それは――秘密よ」

上条「どうせ三バカの一人だって感じだろうけど、信頼されてんのもそれはそれでむず痒い気がする」

吹寄「なんて言いつつ、結局信頼を裏切らない貴様には分からないでしょうけど」

上条「……まぁ、いいや。んじゃ言うけど、その」

吹寄「わ、わかってる念を押さなくてもっ!私は私なりに『フラグ能力無効化』とか言われて気にしてたんだからね!」

吹寄「何となく、だけど。その、姫神さんには悪いかな、と」

上条「姫神?姫神には関係無い。俺は委員長じゃない駄目なんだ!」

吹寄「……そう。じゃ私も覚悟を決めるわ」

上条「有り難う。それじゃ――言うな?」

吹寄「……えぇ」

上条「委員長、じゃない吹寄っ!」

吹寄「ひゃいっ!?」

上条「お前の手相見せてくれっ!」

吹寄「はいっ!……あれ?」

上条「頼むっ!この通りだから!」

吹寄「……すまないわね。ちょっと耳が遠くなったのかしら?」

吹寄「もう一回言ってくれない?」

上条「吹寄さんが、俺に、手相を、見せて下さ――あがっ!?」

吹寄「分かっていた……分かっていたっ!貴様が女の敵だという事にはねぇっ!」

上条「あ、あのー委員長さん?これは手相じゃなくてアイアンクローなんですけど」

上条「近すぎて何にも見えないなー、何て思ったり。つーか嫌なミシミシ音が!俺の頭の奥から聞こえてくるのっ!」

吹寄「安心しろ上条当麻。それは幻聴だ」

上条「分かったから強いっ!さっきから右手でタップしているのに、緩めてすらくれないし!」

吹寄「頭蓋骨は脳髄を守るものだし、鼓膜も位置的にはそれより内部にあるのだから、正確には外から聞こえている筈よ」

上条「幻聴じゃないじゃん!?ミシミシ言っているのは本当だし!」

吹寄「……分かっていた筈だ。この男が悪い意味でも良い意味でも期待を裏切らないという事はねっ!」

 ミシミシ――を、通り越してギシギシ言い始める。
 ある種の予定調和、というよりもお約束であったが。

上条「待って下さい!俺なんか悪い事しましたねぇぇぇぇっ!?」

吹寄「貴様の胸に聞いてやるぅぅぅぅぅぅっ!!!」

 ともあれ無事『相手に警戒感を抱かせず、右手で触れる』事には成功したようだが。

上条「それ以上はっ!それ以上は死んじゃ――イタイイタイイタイっ!?」

 その騒ぎは概ね、いつもと同じ。
 吹寄制理が漸く知った上条当麻の『不幸』を、夏の世の夢の如く忘れさえしなければ。

 真実を告げても砂の城よりも儚く砕け散ってしまうセカイ。
 これのどこが『永遠』か?

――三周目 夜 ヒマワリ畑

少年「……ふーんっ」

 月だけが見ている中、少年は帽子の鍔を逆向きして被る。
 一見少女のようにも見える彼は大きく伸びをし、ふうと息を吐いた。

 思い出すのは昼間の事、そして夕方の事。
 いつも付き合っている老人達が年甲斐もなくはしゃいで、ハラハラとさせられたけど。
 それはそれで充分に楽しかった。

 家族とは時として残酷である。
 共に暮らしている家族が嫌い合ったり、稀に会う親類が好き合ったり。

 近くに居れば粗が見え、離れていれば我慢も出来る。
 それが良い事だとは思わないが、ある種の本質であるのは確かであろう。

 だからこの環境は、『幽世』に閉ざされた世界は理想的なのかも知れない。

 里人達は学生達を『客』として丁寧に扱い。
 学生達は里人達を『講師』として敬い、その生活に口を出す事はない。
 客だからホストだから、と上っ面だけの、関係と言い切ってしまうのは辛辣か。

 お互いをお互いに遠慮し続ける『円環』は理想的だとも言えるだろう。

少年「……んー……?」

 この日々がずっと続いていけば――とは思わない。
 少年は世界を『円環』ではなく、『螺旋』で捉えている。

 生き物は死ぬ、生き物でなくたって死ぬ。
 命は次の命へと延々円環を続けていくのではなく、一つ一つの命達が螺旋を描く。

 それは進化というのかも知れない。それは文化と呼ばれたかも知れない。
 永遠に続く円環から飛び出した存在を愛しく想い、そして憎んでもいる。

 だがしかし結局の所、彼が今回の事件について何を思って居るのかと言えば。

少年「楽しければ、いーんじゃないかな?」

 自然を体現した典型的な地祇(くにつかみ)であり、これと言った全く拘りは持ち合わせていなかった。
 それどころか、楽しい時を過ごしたとしても、全て忘れてしまっては『次』へ繋がる訳が無く。
 今回の騒動で割を食っている一人、なの、だが。

土御門「話がある」

 音の一つも感じさせず、目の間に居てすら尚気配も薄い。
 派手な容姿、明るい口調、少年の嘗て見知った人物とは真逆であるが、『人としての乏しさ』には覚えがあった。

少年「木島、さん?」

土御門「『瀬条機関』の木島平八郎の名前を聞くとは思いもしなかったが」

少年「……なんだ。あなたはまだ『つけていない』んだね」

土御門「今後一切その予定はない――でだ。お前が山の神で合ってるよな?」

少年「あぁ、昼間覗いてたのはお兄さんだったの。もしかして手帳を盗まれた人?」

土御門「そうだな。そこは憶えているのか」

少年「お兄さんこそ忘れてたんじゃないの?もう一人の子から教わった?」

土御門「……まぁ誤解があるみたいだから、言っておく」

 薄い存在感は相変わらず、いつの間にか近づかれた少年は身じろぎもせず。

土御門「『俺の手帳を盗んだのは幽世じゃない』んだ」

少年「……それは、面白そうだ。でも隠してないって証拠は?」

土御門「悪魔の証明に付き合ってやる義理はないんだが、まぁアレだ」

土御門「『複数個に散らして隠していたメモ、その一つだけを盗む』なんて不自然だろう?」

少年「幽世が――というよりも魔術?的な方法だったら、全部かっさらう気がするけど……あぁ、そうか。なるほどなるほど」

少年「『手帳を盗んだ相手を見つけた』んだね。そっかぁ」

 少年の顔に邪気はない。
 だが無邪気だからといって、誰かを傷つけない訳でもなく。

 子供特有の残酷さ。ともすれば昆虫や小さな生き物を『それが可哀想だと認識しないまま』で殺めてしまう。
 また野生に於いては食うか食われるかの二択。自然では残酷と言う概念すら存在しない。

 だから彼は、少年の姿を取った『何か』は核心に迫るのに躊躇しない。

少年「つまりこのお兄ちゃんは――『幽世が在り続ければ、と願った人間が分かった』って所かな?」

 さも大した事が無いように、それでいて全ての根幹であり元凶となる問いへ対し、土御門は口元を歪めるだけ。
 それが笑ったと理解するのに数秒を要す、とても歪なものであったけれど。

土御門「そうだな、それを話すのは長くなりそうだし――」

土御門「――お前は、その前に死んでくれないか?」

 さぁっ、とヒマワリ畑に波紋が広がる。

――公民館 夜更け

上条「あたたた。委員長手加減しねえしな」

インデックス「……あれはとうまが悪いかも」

 鈍い頭痛を訴えても相方には一蹴される。上条自身も流石に何となくは理解しているが。

上条「……しかしこれで里の人と学園生全員分、『右手』で触ったんだけど」

インデックス「こもえは?忘れてないかな?」

上条「さっき酔い潰れてたのを運んだし、大丈夫だと思うぜ」

インデックス「あいさたちは?」

上条「それは最初にしといた」

インデックス「ねーねー、私はー?」

上条「……お前、いつもくっついてるだろ」

インデックス「むー。他の娘にはデレデレしてたんだよ!」

上条「俺がちょい前に握殺されそうになってるの見てたよね?他の娘も似たり寄ったりの反応で、全身アザだらけなんだけど?」

上条「……まぁ男同士なら多少触れても気にはならないけど、女の子は仕方がないと思うんだよな」

インデックス「ぐるるるるるるるっ……!」

上条「ヤダっ!?どこからか獣のうなり声がするしっ!」

上条「……ネタは良いから、来いよ」

インデックス「……うんっ」

 触る、というかいつの間にか髪を撫でさせる羽目になったようだ。
 勿論悪い気はしない、と上条は考える。
 壁を背に座っている上条へ、更にインデックスが保たれる格好。

 『親子みたいだよな』と言うのは、流石に噛まれるので自制した。

上条「あとちょっとで日付が変わる。そしたら漸く『二日目』になるのか」

インデックス「そうなるかも知れないし、幽世から弾き出されるかも知れないんだよ」

インデックス「『たいしょうげきたいせい』を取っておいた方が良いかも!」

上条「『耐衝撃耐性』……?……あぁはいはい。そういう事ね。おけおけ」

 銀の髪を梳く手を止めず、もう一方の手で細い腰を抱きしめる。
 嫌がるかな、とも思ったが、インデックスは回した腕へその両手を重ねる。

インデックス「大変だったかも」

上条「……全くだ。つーかどんな覚め方をするにしろ、課外実習は終わってないって事かよ」

インデックス「そもそも実習先にも着いてない可能性があるって事なんだし」

上条「まぁまぁ。今回は誰も殴らなくて済んだし、平和なもんだろ」

上条「それに夢の世界だって結構楽しかったよな、本当」

 その声はとても穏やかで――だからインデックスは見逃してしまっていたのだろう。

インデックス「とうまは私の事お気楽だって言うけど、とうまだって同じなんだよ」

上条「そりゃお前アレじゃないかな?一緒に暮らしている内に似てくる、みたいなの」

インデックス「そんなんじゃ誤魔化されないかもっ!」

上条「誤魔化してる訳じゃ……あ、そうそう聞こうと思ってたんだけど」

インデックス「あからさまな『わだいてんかん』なんだよっ!」

上条「この世界に暮らしてる人ら、俺ら以外の里の人達っているよな?要はじーちゃんばーちゃん達だけど」

上条「あの人らって現実に存在してるのか?」

インデックス「私達みたいに飲み込まれた人かも、って事?」

上条「そうそう。それとも幽世が作り出している人格とか?」

インデックス「可能性が一番高いのは、幽世の一部だって事かも。でもそれなりの知識を持っていたから、実在する人だって可能性は否定出来ないんだよ」

上条「そうすると俺達が里に着いた瞬間に呑まれていれば――」

インデックス「里の人達も一緒に、ってパターンだね」

インデックス「……まぁでも直ぐに分かると思うんだよ。ほら」

 23時58分、30秒、31秒、32秒……。

上条「だな。あ、そういやあの子が『幽世から出たら記憶が無くなる』みたいな事言ってなかったっけ?」

インデックス「普通はそうなるけど。私達は例外かも」

上条「……まぁ楽しかったのを忘れなくてもいいってなら、まぁ」

インデックス「ここの生活は気に入ってた?」

上条「それなりに。長く住んだら、不便だなー、帰りたいなーって思うんだろうけど」

上条「永遠にループするんだったら、毎日毎日が同じだって言うんなら。俺は」

インデックス「――あ、日付が変わるんだよ!」

上条「5、4、3、2……」

インデックス「1、0――あっ!」

ジジッ

 切り替わったその瞬間。液晶に一瞬ノイズが入り、本来表示されるべき日付が再び繰り返される。

インデックス「……ダメだったんだよ」

上条「おかしいだろ、これ」

上条「『誰かの想い』が核になってんだったら、そいつに触れば終わるんじゃねぇのかっ!?」

上条「……あぁクソ。あの子が本当の事を言っているかどうかも分からないんだったか……」

インデックス「……ねぇ、とうま?」

 上条の腕の中のインデックスがもぞりと動く。後から抱きしめていたのが、見つめ合う形となった。

インデックス「……大丈夫なんだよ、とうま」

 それは上条が知る――知ってはいけない彼女の姿。

 慈愛に満ち、全てを包み込み、どんな罪でも笑って許してしまえるような、そんな母性。
 10万3000冊の魔導書を識り統べる、堂々たる魔術師の姿。

上条「イ、インデックス……?」

 これは、違う。そう上条の心が軋みを上げる。
 自分が守っていた少女ではない。彼女はいつまでもどこまでも、庇護すべき存在でないといけない。

 そうじゃないと――側にはもう、いられないから。

上条「なぁ、インデックス。お前は何もしなくていいんだ、俺が護るから!」

 世界最悪にして最強の魔導書を集め、全ての魔術結社のみならず、科学サイドにとっても有益な存在。
 身につけた知識は、活用する頭脳は普通の少女では有り得ない。

上条「だ、から。だからっ!お前は戦わなくていいんだ!世界を敵に回したって、俺は!俺は――」

 異能の力を狩り、無力化させ、あまつさえ様々な勢力権力者の支持を集める少年。
 仮に彼が世界へ反旗を翻せば――勿論仮定の話だが――大国とも充分以上に渡り合える。

 そんな非凡。そんな異常。そんな脅威。

 二人が目を瞑ったフリをしたとしても、それは絶対に許される訳が無い。
 確実に二人を引き離そうとする日はやってくれる。

インデックス「……ううん、とうま。そうじゃない、そうじゃないんだよ」

インデックス「私はもう、護られるだけの存在じゃ嫌なんだよ!」

インデックス「世界のどこかで危機が起きてもっ!とうまをただ見送って、祈り続けるだけなんてっ!」

上条「……インデックス……」

 全てはもう手遅れだ。
 永遠を望み永劫を刻む世界の中、二人の関係は――『タダの同居人』という幻想は砕け散るだろう。

 ……分かっていた事だ。『幻想殺し』の少年が聖人の前へ立ちはだかった時には、もう。
 ……分かっていた事だ。『禁書目録』の少女が逃げるのを止めた時には、もう。

 それが、ただの友人やら知人へ対して向ける感情ではない。有り得ないにも程がある。
 生死を賭けた戦いであっても、笑いながら何一つ顧みず向かうのは。

 どれだけ上手く周囲を騙したとしても、どれだけ周囲が騙されたフリをしたとしても。
 自分の心に――嘘は、つけないのだから。

インデックス「……とうま、ねぇとうま。私はね、ずっとずっと前から」

インデックス「あなたが私を助けてくれた時から」

インデックス「私はあなたがすき、です」

 この想いは止める事は出来ない。そして――。

上条「……バカじゃねぇのか」

インデックス「とうま?」

上条「そんな訳ねぇだろ!有り得ないだろうが!」

 上条の口から拒絶の言葉とは裏腹に、彼は少女の体を強く抱きしめる。
 離さないように、誰にも渡さないように。

上条「ダメなんだよ!それはっ……違うんだ、きっと!」

上条「インデックス、俺は、俺はっ!」

インデックス「……うん。分かってるんだよ」

インデックス「私はあなたを――とうまの事だけをずっとずっと近きで見てきたから」

インデックス「私には全部、分かっているんだよ」

インデックス「だから――」

 少女にもう言葉は無い。少年もどうしようも無い。
 不器用に強く抱きしめる事だけが愛情と取り違え、そうするだけ。

 変わらない世界の中、変わりつつある関係に恐怖し――その何倍も心の中は葛藤に溢れている。

 世界を救い、時には悪魔のように恐れられる少年が。
 世界を助け、時には整序のように慕われる少女が。

 腕の中の温もりが、逃げていかないよう恐怖に打ち震え。
 言葉もなく、吐息も殺し、只々強く。
 想いが伝わってしまうように、強く。

 ――永遠を、望む――。



土御門「うぉーいっ!起っきれー、起きるんだにゃー」

上条「……つちみかど……?」

土御門「おー、おっはよー」

上条「……えっと……お前、手帳はどうしたんだ?」

土御門「手帳?何の話だにゃー」

上条「そっからまたやらなきゃなんないのかよ……」

土御門「さっさとメシ食って実習するぜぃ!」

土御門「俺はみんなの身代わりに水門管理を――」

上条「……水車小屋以外に日陰がないから、結構ハードらしいぜ?」

土御門「……誰情報?」

上条「にゃーにゃー言ってる奴」

土御門「カミやんはついに猫耳っ娘と話せるようにっ!?」

上条「そこは猫でいいじゃねぇか。つーか無理矢理擬人化させる必要性はないから……っと」

土御門「おっと。立ちくらみか?」

上条「……まぁ大した事じゃないって。あぁ、それよりインデックスを見てないか?」

土御門「禁書目録?」

上条「ちっと昨日あってな。出来れば謝っておきたいんだけど」

土御門「あーそりゃ大変だぜぃ。つっても携帯は圏外だし、手紙でも書くとか?」

上条「……うん?いや、直接話せばいいだろ?」

土御門「ってもバスが来るのは三日後だぜぃ?それまで焦らすよりか、今晩当り手紙書きゃいーんじゃないかにゃー?」

上条「……」

上条「……なぁ土御門。一つ教えてくれないか?」

上条「インデックスは今、どこに居るんだ?」

土御門「そりゃカミやん決まってるんだにゃー」

土御門「『禁書目録はイギリスに返還された』のは、もう一年も前の話だぜぃ」


――第三話 『閉じる円環、軋む螺旋、そして約束は零になる』 -終-


※今週分は終り。読んで下さった方に感謝を
最初の予定とは思いっきり外れてシリアスな恋愛ものへ進んでいますが、色々とすいません

来週は最終回、『この向日葵を、あなたに』です

おつ

乙です

乙でした!!!

乙!
続きが気になるな

乙乙
これはおもしろい!



――第四話 『この向日葵を、あなたに』

――幽世の狭間で

「この世界は『幻想』で出来ている――そう言ったら君は笑うかな?それとも泣く?」

「泣く、鳴く、無く、亡く。似ているよね」

「まぁ分かっていると思うけど、僕は人間じゃない――と、思う」

「良く分からない。『多分違うんじゃないかな?』的な意味だけど」

「まぁまぁ」

「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ」

「さて今何回『まぁ』って言ったでしょうか?」

「……空気読め?面白くない?」

「えっとなんだっけ?……あぁ、まぁ僕の話か」

「『童』って呼ばれている。座敷童とか、山童、河童とか言われている」

「要は『童子姿で人里を訪れる怪異』だね」

「……」

「どうして詳しいのかって?そりゃ教えられたからだよ」

「今から30年前、もっと前かも?この里に民話を調べに来ていたおじさんが言ってたよ」

「『山人。里へ来たりて春を呼び、里に留まりて夏を遊び、里を離れて秋を呼び、里は夢見て冬眠る』」

「僕が――『僕達が人のサイクルに混ざる事で、四季をもたらしている』と考えたんだ」

「本当なのかどうかは分からないよ。だって留まり続けた事はなかっ“た”から」

「もう、分かるよね?僕が帰れないで居る、ただそれだけの話」

「それが、この里の真実の基幹」

「でもってタチの悪い事に誰かがこう望んだ――『世界よ永遠たれ』と」

「いやもしかしたらもっとシンプルだったかも。『明日も今日と同じような日になりますように』とか?」

「兎に角、僕は人の思いに応えた。幽世を創ってしまった」

「永遠に繰り返す夏の日。それが無為に何度も何度もループするだけの話」

「だけど全員が呑み込まれた訳では無かった。全てを忘れてしまったのでは無かった」

「――それが『幸運』かどうかは分からないけれど」

「……」

「何人かの子供達だけが気づき、僕を見抜き、全員を助け出そうと……」

「出そうと……して、いるんだ。そうだ。確か、その筈だ」

「……でも、誰から?」

「彼らは一体誰と戦っているんだろう」

「彼らの仲を裂く異教の徒か。はたまた人外の存在か」

「『この幽世には敵など存在しない』のに、おかしな話だよねぇ?」

「この世界に居れば、少なくとも死ぬ瞬間まで楽しく暮らしていけるって言うのに」

「……うん?体は死ぬ?永遠には続かない?」

「……否定はしない、しないけど。じゃあじゃあ聞くけど」

「『そもそも永遠に続くモノなんて存在しない』し」

「『人間だって、人間じゃなくって必ず死を迎える』んだよね」

「だったら――」

「『死を迎えるその瞬間まで、永遠を信じて楽しく暮らしていれば良い』んじゃないかな、なんて」

「……そう、願ってしまったんだよ……」

「だから君は――」

 暗転。

――四周目 朝 公民館

上条「姫神っ!姫神は居るかっ!?」

吹寄「どうしたのよ上条当麻。朝の挨拶は『おはようございます』と教わらなかったの?」

上条「姫神――あぁ居たっインデックスを見なかったかっ!?」

吹寄「無視かっ」

姫神「上条君?朝からテンション高いけど」

上条「俺はどうだって良い!見たのか見なかったのかどっち!?」

姫神「見た。というか会ったけど」

上条「どこでっ!?何時っ!?どんな様子だったっ!?」

吹寄「待ちなさい。そう急き込んで話しても分からないでしょ?もっと落ち着いて――」

上条「――すまん吹寄っ!お説教は後で聞く!」 グィッ

姫神「上条君っ!?」

吹寄「おいっ……っと」

小萌「どうしたのですかー?おっきな声が聞こえたのですよー?」

吹寄「おはようございます、小萌先生。まぁ大した事は別に、というかいつも通りです」

小萌「なら良かったですけど。何せ今日は課外実習の日ですからねー」

――公民館の裏側

姫神「ちょっと待って欲しいっ。状況が飲み込めないし!」

上条「悪いっ!吹寄には聞かせられない話なんだっ」

姫神「……分かったけど。手」

上条「あ、あぁごめんっ!強く掴んじまった」

姫神「それは別に。それより話。インデックスさんの事?」

上条「そうだっ!出来る限り詳しく頼むっ!」

姫神「詳しくも何もない。二時間ぐらい前に『試したい事がある』って出て行った」

姫神「朝食までには戻るんじゃ?」

上条「……お前は、憶えているんだな?」

姫神「話が見えない。詳しく説明して欲しいのはこっち」

上条「いや、土御門が――」

姫神「……」

上条「――って話なんだけど。姫神はインデックスと今朝会ってるんだよな?」

姫神「うん。会ってるけど。でも」

上条「けど、何?」

姫神「『4周目の世界』ってどういう意味なの?」

上条「――っ!?姫神もかっ……!」

姫神「教えて欲しい。是非に」

上条「……いや。悪いけど、今は――」

姫神「……上条君。時間の有る無しは分からないけど。どれだけ切羽詰まった状態なのかも知らないよ。でも」

姫神「インデックスさんを心配しているのは。上条君だけじゃない」

上条「だけどっ!言ったってどうしようもな――」

姫神「……前からずっと思っていた。出来れば言わないで済まそうと願った」

 姫神は話半ばに立ち去ろうとする上条の肩を掴み、正面から目を見据える。

姫神「でもはっきり言う。多分このままじゃ誰も。誰一人として幸せになれないから」

姫神「上条君。あなたは――」

姫神「――現実から逃げているだけ」

 上条の息が詰まる。

姫神「あなたがしているのは『逃げ』。現実から目を背けて。戦っていない」

上条「……待てよ姫神。それは」

姫神「待たない。私は散々待った。筈」

上条「俺の!俺のどこが逃げてるって言うんだよっ!?」

上条「科学相手に!魔術相手に!その両方にだって喧嘩を売ってきたんだぞっ!?」

上条「死ぬ思いもしたさ!血反吐を吐くのも慣れちまった!でもだ!」

上条「けどそれが――」

姫神「……上条君――」

姫神「私は。私達はあなたに救われた。助けられたじゃなく救われた」

姫神「だから今度は私が救う番――それは。どんな事をしてでも」

 その声は静かに、深く、そして残酷に告げる。

姫神「あなたがしているのはイギリス清教と同じ」

上条「そんな筈あるワケかっ!?俺はインデックスの記憶を奪ったりするもんかっ!」

姫神「……うん。分かってる。それは。しない」

姫神「でもやっている事は同じだよね?」

姫神「『インデックスさんを危険から遠ざけ』て。『大事に大事に仕舞っておく』んだ?」

上条「……姫神、お前」

 反射的に殴りたくなる衝動を抑え、上条は少し距離を取る。

姫神「イギリスの人達はインデックスさんの記憶を奪った。それはとても酷い事だけれど――それはなぜ?」

上条「なぜ、って。そりゃインデックスを都合の良いように扱うためじゃねぇのか!?」

上条「機密保持だとか何とかってステイルや神裂は言って……」

姫神「『ない』よね?個人レベルの推測以外は。術をかけた本人からは聞いてないだろうし」

上条「……それ以外に考えられねぇだろうが!第一アイツらは『インデックスの記憶が破綻する』とか嘘吐いてたんだぞっ!?」

上条「そんな連中信じられる訳がない!」

姫神「……上条君。じゃあ聞くけど。『上条君がインデックスさんを巻き込まないように一人で戦いへ行く』のはなぜ?」

上条「話が唐突に切り替わったんだが……」

姫神「いいから。答えて」

上条「……友達や家族、普通誰だって危険な橋を渡らせたくはねぇだろ。当たり前だ」

姫神「それは私もそう思う。だから――イギリス清教の人達もそう思ったんじゃないかな?」

上条「はぁ?」

姫神「つまり『インデックスさんは機密保持じゃなく心が壊れるのを防ぐため』だった」

上条「……え?」

姫神「私は魔術をよく知らないけれど。中には酷いものやそれを平気で使う人達が居るのは知ってる」

姫神「上条君も知りたくもない話とか。知らなければ良かった話。あるんじゃないかな?」

上条「……まぁな。それは割と」

上条「だから俺も出来る限りインデックスには頼みたくなかったんだよ、正直言えば」

上条「普通の女の子としての生活を守りたかった、って言えばいいのかな」

姫神「うん。それは良い事だと思う……嫉妬しちゃうけど」

上条「はい?」

姫神「でももし『イギリス清教もインデックスさんの心を護りたいと思ったらどうする』かな?」

上条「知らねえよ、つーかインデックスの心を護るなんて真似。アイツらが考えてたかどうかも怪しいぜ」

上条「人の頭の中勝手に弄って記憶を消し――消す?」

姫神「……良かった。気づいてくれた」

上条「嘘……だ!そんな訳があるかよっ!?」

上条「『必要悪の教会はインデックスの心を壊さないため、記憶をリセットしていた』ってのかっ!?」

姫神「可能性としては。だけど」

姫神「そう考えると納得出来る事もある。インデックスさんの性格」

上条「……アイツは。いつも笑って」

姫神「そう。『もしもイギリスの人達がインデックスさんに首輪をつけたいのであれば』」

姫神「『魔術や宗教的熱狂・教育等々手段を選ばないで出来た』」

上条「……」

姫神「そもそも彼女の心なんかどうだって良いんだったら。逃がす必要すらない」

姫神「聖堂の一室にでも監禁していれば済んだ筈」

上条「……俺は」

姫神「うん?」

上条「俺は認めないからなっ!そんなアイツの人格を踏みにじるような真似はっ!」

上条「現実が辛いから、魔術師達のバカな真似をアイツに見せたくないからって!そんな身勝手な理由でだ!」

上条「インデックスの記憶を奪っていい理由にはならねぇだろうが!」

姫神「……でも仕方がないのかも知れない。それは」

上条「なんでだよっ!?インデックスだってきちん成長してるんだ!」

上条「現実の世界は……確かに、碌でもないけど!それでもっ!」

上条「受け入れて戦っているぐらいに!インデックスは強くなってる!」

上条「アイツはちゃんと成長しているんだよっ!!!」

姫神「……」

 上条の大声に姫神は動じる事はなく。
 それどころかいつもは無表情めいた顔を、歪ませ。

姫神「……そう。だね。インデックスさんは大人――じゃないかも知れないけど。少なくとも今は」

姫神「どれだけ辛い現実を見せられたって。それを受け止めて戦えるんだと思う」

上条「そうだぜ!『必要悪の教会』はアイツを信用してないんだよ!だから首輪の他にも負担のかかる霊装を用意してたんだし!」

姫神「……でもそれは。上条君もおんなじ」

上条「――え」

姫神「先に言っておく。殴りたければ殴っていい。それだけの事を私は言っている」

上条「姫、神……?」

姫神「インデックスさんを子供扱いして。護るべき対象として『だけ』見ているのは」

姫神「上条君も。同じ」

上条「……おい、それって」

姫神「たった今。私は聞いた――『インデックスさんは現実と渡り合うだけの力がある』って」

姫神「そしてその少し前――『大事だから危険から遠ざける』って」

姫神「結局。同じじゃないの?」

上条「違うっ!俺はインデックスのためを思って――」

姫神「違わない。あなたもイギリスの人達も。インデックスさんを信じていない。いや」

姫神「信じようとしていない。だけ」

上条「……」

姫神「……私は上条君とインデックスさんの間に。どんな絆があるのかは知らない」

姫神「あと個人的には。いつも大事にして貰えるインデックスさんがちょっと羨ましかったり。しないでもない。かも知れない」

姫神「でもきっと――『このまま続く訳が無い』のは」

上条「……」

姫神「上条君がインデックスさんをずっと護り続けている。それは良い事だと思う。けど」

姫神「そんな歪な関係。続く訳がない」

上条「……お前に」

姫神「『お前に何が分かるか?』的な話?だから今言った。知らないって」

姫神「けど友人として。親友としてインデックスさんの事は分かる。その人柄とか育ってきた環境とか何となく」

姫神「あんなに真っ直ぐで眩しくて良い子を育てた人――ローラ?さん?が悪い人とは思えない」

姫神「……そりゃ生まれ持ったものはあると思うけど。虐待とかされていたら。あぁはならなかったと思う」

上条「……」

姫神「全部私の推測だし。外れているかも知れない。だけど」

姫神「『一方的に護られ続ける程インデックスさんは弱くない』って事。忘れないであげて?」

 完敗、だった。

――四周目 昼 如意輪観音前の階段

 うだるような暑さの中、上条当麻は只々打ち引しかれていた。
 階段の腰掛けながら。頭と肩をガックリと落とした状態で。

 姫神の言い分にも何割か――というよりも、大半が的を射ていた。
 魔術サイド、科学サイドの暗部を垣間見てきた上条にとって、記憶の消去など比較的生温い処分であると分かってしまった。

 鎖をつけようとするのであれば、魔術的な洗脳のようなもの――というか洗脳そのものだが――も有り得るし、もっと穏便に宗教的熱狂を使えばいい。
 イギリス清教の言う事は絶対であり、信じて疑う事のない『教育』を施せば良いだけの話だ。

 それをせず、短期的な記憶のリセットに留めていたのは、まだ『まとも』な方だろう。認めたくはないが。
 直接インデックスから聞いた事はないものの、イギリスでキャーリサへ戦いを挑む直前、インデックスを囲んだ既知のシスター達は、頗る厚意的であった。
 加えて代々の彼女の『パートナー』達も例外ではない――中には身を滅ぼしてでも救おうとしていた。

 以上を踏まえて考えれば、インデックス自身の性格は極めて良好な環境で培われたものなんだろう。それでなければあぁも人々を引きつけはしないからだ。
 いつだかステイルも言っていたように、『あの態度は誰かのためを思っての事』だとか。

上条「……」

 ……生憎、今頃になってその言葉り意味が身に染みている。

 上条の思い――というか想いに気づいても、昨日のアレまではずっと黙っていてくれた。
 しかもあの場合、自分の方から言い出すべき……とか、益体の無い考えを打ち払う。

 確かにインデックスは成長している。精神は同世代の少年少女だけじゃなく、プロの魔術師と比べても強靱だろう。

 だが、しかし。

 上条当麻は本当に気づいて良いのか悩む。

 もしも彼女が『庇護の必要としない存在』であれば、彼女を護る役割など必要とされないのだから。
 イギリス清教が与えてくれたモラトリアムは終り、二人はそれぞれの世界へと帰っていく。それは、分かる。

 だから気づいてはいけない。自分の思いも。彼女の思いにも、
 だから答えてはいけない……の、だが。

上条「……昨日、告白されちまったんだよなぁ……」

 はっきりと正攻法で撃ち抜かれた。心は躍っている。嬉しさも嘗て無い程だが。
 それだけでは、済まない。分かっている事だ。

 ……忌み嫌うイギリス清教と同じ、と姫神から指摘され、腹が立った反面、『確かに』という思いもある。
 立場上、保護者として振る舞わなくてはならない以上、上条は絶対的な『庇護』する側にある。
 インデックスと一分一秒でも側にあるための方便――欺瞞だ。お互いにお互いへ嘘を吐き続けるという、何とも無為な話だが。

 それでも側に居るためには必要――だと思っていた。

上条「……はぁ」

 どれだけ考えても、遅い。もう全ては過去の話だ。
 昨日の夜の告白を無かった事には出来ない。したくもない。

青ピ「ちゃんらーーーーーーーーーーんっ!カっっっミやーーーーーーんっ!」

上条「……うーす」

青ピ「どうしたどうしたー?元気がないですやん?」

上条「……お前もう帰れよ」

青ピ「ヒドっ!?折角お弁当持ってきてんのにっ!」

 林道を抜けてくる姿は視界へ入っていたものの、気づかなかった。
 腹は減っていないが、妙なテンションは気分転換には有り難い。そう上条は思う事にした。

上条「悪いな。なんか」

青ピ「悪ない悪ない。ボクとカミやんの間ですやんか、なぁ?」

上条「そーですねー」

青ピ「おっ、いつもに増していい加減な返事やねっ!」

上条「……MP下がってんだよ。ドラク○的な意味でルー○使えないんだって」

青ピ「弁当食べれば体力回復!」

上条「HPな?体力は有り余って……もないか」

 今朝から何も食べてない。空腹よりもストレスで吐き気がするが、こう暑いと食べないと体が保たない。
 並んで食べ始める二人。

上条「お前も食べんの?」

青ピ「え、なんでてすのんっ?ブルーなカミやん放置しろっつー方が無理ですやん」

上条「ブルーて……や、まぁちょっと悩んでるんだけど」

青ピ「……大丈夫、カミやん。俺はわかってんねんで?」

上条「お前……」

青ピ「知ってるかい、カミやん。人間の体の約90%は妹で構成されてるんやで?」

上条「水分だよね?人体の一部が人体なの?妄想もそこまで行くと笑えないからな?」

青ピ「知っていかい、カミやん。実の兄妹だって子供は出来るんやで?」

上条「え、なに?黒○派の俺を慰めてるつもりなの?それとも土御○はセーフだってフォローしているつもり?」

青ピ「でも薄い本じゃ大人気ですやんか!!!」

上条「ごめん。もう熱中症にやられてんだな。小萌先生の所へ行こうぜ?」

上条「あと俺の見た感じだと、全体的な人気でも○猫に抜かれてないかな。あや○の後を走ってる気もするし?」

青ピ「平野○がヘキサゴンファミリ○として沈んだ今、ツンデレ枠は竹○に譲渡されて然るべきですやんか!」

上条「……声優さんの私生活は置いておこうぜ?出来れば聞きたくないぐらいだし」

青ピ「って訳でボクに悩みを相談してご覧?なぁ?」

上条「今までの会話で信頼を得られると思ってんのかよっ!?むしろ関わり合いになりたくはないし!」

青ピ「……いやぁマジな話」

上条「あぁ?」

青ピ「こんな時こそ馬鹿話するのとちゃいますか?」

上条「お前……」

青ピ「そりゃ現実は色々ありまっせ。良い事もありゃ、それ以外だってたっぷりと。でもまぁ」

青ピ「それだけじゃ潰れる、って事もあるんとちゃいますか?」

上条「……」

青ピ「カミやんが色々抱えとるんは、何となく察しとったけど。いつもいつも気ぃ張ってばかりだったら、ぶっ倒れまっせ」

青ピ「せめてこの体験学習の間ぐらい、肩肘張らずに過ごせばいいですやんか」

青ピ「カミやんが笑ってないと、あのシスターちゃんに心配かけますし?」

上条「……それは、違うよ」

青ピ「何がですのん?難しい顔して好きな相手に心配かけるよりは、笑った顔見せて安心させんのが良いと違います?」

上条「……あいつは。インデックスは」

上条「俺が無理して笑えば笑う程、傷つくんだよ」

 中身の減った弁当箱を押しつけ、ペットボトルをタオルで包む。

上条「どーにも待つだけってのは無理だ。信じる、信じない以前に――」

上条「――自分を許せそうにない」

 悩むのは幾らでも出来る。葛藤で苦しむのもそうだ。
 インデックスが独りで動いて上条が取り残される。それはいつもと逆の構図であるが。

上条「……俺が戻ったらいつもいつもいつも、盛大に噛みつきやがってたよなぁ」

上条「三沢塾じゃ黙って待ってた訳じゃなかったし。だから」

上条「俺が勝手に動いても良いって事だよな、うん」

 考えるのは探しながらでも出来る。今すべき事は別にあった。

――夕方

 毎日毎日変わらない猛暑。うだるような暑い風。積み上がった雲。それは決して不変ではない。
 子供の頃、永遠に夏休みが続けばいいのに――そう願う子は多いだろう。少々自堕落な生活をずっと続けたい、というだけの思いで。

 しかし世界が始まって以来、同じものは二つと存在しない。
 雲の形、夏の暑さ、何一つを取ってみても『同じ』ではない。
 『今日』と言う日は二度と来ないし、また日を経る度に残された日――死へ近づいているのも事実である。

 『赤児が泣くのは、この世界に生まれた不幸を悲しんでいるからだ』、とは誰の言葉だったたろうか?

 何にせよ全てが有限の現世であれば、同じ景色、同じ光景など二つは存在しない。一見似ているように見えたとしても、差異は必ず現われる。

 ――そう、『毎日毎日、同じ一日を繰り返してでもいない限り』は。

インデックス「Ave Maria, gratia plena,(アヴェ、マリア、恵みに満ちた方)」

 だが――だとするのであれば、おかしい。
 インデックスはこのセカイでただ一人、『このセカイがループしていない事』に気づいていた。

インデックス「Dominus tecum,(主はあなたとともにおられます)」

 気づいたのはほんの偶然。完全記憶能力を持っている彼女であっても、見過ごしてしまいそうな、些細な変化。

インデックス「benedicta tu in mulieribus,(あなたは女のうちで祝福され)」

 同じ、同じ場所で空を見上げてみれば、同じ形の雲が浮かんでいる――そう、二周目には思った。

インデックス「et benedictus fructus ventris tui Jesus.(ご胎内の御子イエスも祝福されています)」

 しかし三周目。ほんの少しだけ、とても小さな違和感を憶える。
 それは何故だろうか?昨日も全く同じなのに、どこかが違う

インデックス「Sancta Maria mater Dei,(神の母聖マリア)」

 最初は記憶が凝らん、または改竄されているのと思ったが。
 違和感の正体は偶然通りかかったカラスを見て確信するに至った。

インデックス「ora pro nobis peccatoribus,(わたしたち罪びとのために)」

 このセカイは決して繰り返しては居ない。ループしているように見えて、実はしてない。
 その証拠に――。

インデックス「nunc, et in hora mortis nostrae.(今も、死を迎える時も、お祈りください)」

 一周目よりも二周目、二周目よりも三周目、三周目よりも四周目では変化があった。
 空を流れる雲、用水路を流れる水、そして猛烈な暑さの全てが。

インデックス「Amen.(アーメン)」

 そう、『徐々に小さく、弱くなっている』。

 雲の形は縮み、流れる水は水量が減り、温度は次第に下がってきている。
 一見に永遠に続くかと思った幽世にも、確実に破綻の足音が聞こえてきていた。

 時間が経てば、崩壊のペースが続いたとすれば、保ってあと一週間。どれだけ長くとも10日は続かない。
 その前に夏は終り、秋と呼ぶべき季節になってしまう。

 それがどんな意味があるのか?どんな意味を秘めているのか?
 インデックスの下した結論は、シンプルであった。

インデックス(……終わらせ、ないと)

 幽世に捕らわれている人達も心配だが、それ以上に『幽世を創っている存在』が気にかかる。
 そもそもあの少年が核となっているのであれば、その術式は、幽世を維持するために支払われる魔力は、当然彼から供給されている筈だ。

 しかもあの場では流してしまったが、『本来山の神は童子姿ではない』。
 ミサキと呼ばれる従者であるなら、子供の姿を取る事は多い。

 だというのに何故、少年は子供の姿を取らなければいけなかったのか?

インデックス(……力が、もう残ってない……)

 子供の姿を取ったのではなく、子供にしかなれなかったのだろう。
 名も無き神が、極々少数の人間の達に信仰されるだけで力がある筈もない。

 現に――神を名乗る少年は、今朝から姿を眩ましてしまっていた。
 彼が住んでいた家を訪ねても、そして昨日会った学園生に聞いても、少年など知らないと話していた。

 急がなければ、一刻も早く幽世を消さなければ、少年は消える。
 人間達は助かるだろうが……代わりに神は死ぬ。いや、下手をすれば滅びるかもしない。

 少なくともこの国で生き、延々と人々を守り続けてきた神を、死なせる訳には行かない。
 だから――彼女は、この幽世を一刻でも早く壊すため、『その人物』と対峙する。

 満開のヒマワリ畑が夕暮れ色に染まり、少年が被っていた真新しい野球帽を手に――おそらくサイズが違うので被れないのだろうが――『彼』はインデックスを待っていた。
 インデックスはロザリオから手を離し、アベェ・マリアを唱え終えると、こう、告げる。

インデックス「永遠を望んでいたのは、あなた」

インデックス「同じがずっとずっと、どこまで続けばいい。そう考えていたんでしょ」

インデックス「……それは悪い事じゃないんだよ。私だって、心のどこかでは……」

インデックス「ううん。そう思っているかも知れない。あなたと同じかも」

 九十九里の敷地内を朝からずっと歩いてきても尚、インデックスの顔に陰りはない。
 それどころか、笑みさえ浮かんでいる――全ての罪を許す、慈愛に満ちた微笑みが。

インデックス「……このセカイはとても優しいんだよ。誰も悩まないし、おじいちゃんやおばあちゃんは良くしてくれるし」

インデックス「かったるい、とか、面倒だー、とか言いながらも学園都市の子達は真面目にやってるし」

インデックス「私は、あなたの生んだこの世界が好きで好きでしょうがないんだよ。うん」

 『彼』は応えない。正面からインデックスの目を見つめ、徐々に理解の色が広がる。
 きっと指摘されるまでは気づかなかったのだろう。

インデックス「でも、だよ?この世界は決して『永遠』じゃないんだよ」

インデックス「……ううん、違うよね、それは。このセカイだけじゃなくって」

インデックス「私達の本来居るべき世界であっても『永遠』なんて無いんだよ」

インデックス「生きてれば必ず終りが来るし、いつか来る審判の日まで待たなきゃいけないのかも」

インデックス「だから、だから!もう、このセカイは終りにしないと――」

インデックス「――ね、とうま」

 『彼』――上条当麻は識る。いや、識っていたのかも知れない。
 当然の帰結ではないか。幽世に居る全ての人間を『右手』で触ったとするのであれば、もう他に容疑者は居ないのだから。

――同時刻 九十九里の外れ

 どこからか借りた自転車を土御門は走らせていた。
 錆だらけの代物だが、無いよりはマシだ。

土御門「……ん?」

 擦れて読めない県道の標識の下、倒れている紅白の何か。
 自転車を止めてみれば……姫神愛沙だった。

姫神「へるぷ……へるぷみー……」

土御門「……何やってんの、お前」

姫神「水……」

土御門「あぁうん、やるけど」

 下手をすれば長距離走り続ける羽目になるので、大目に持ってきた水を渡す。ゴクゴクと一気飲みされた。

姫神「……ありがとう。朝からずっといたから。倒れるかと思った」

土御門「いや、たった今倒れていたように見えたんだけど……?」

姫神「今日は『四周目』だし。来ると思ってた」

土御門「あれ、姫神は一回忘れたんじゃなかったのか?」

姫神「私の演技力は以外と凄い」

土御門「いつも淡々と喋ってるから分からないだけだと思うぜい……」

姫神「土御門君も手帳はなくなったんじゃなかったの?」

土御門「あー、確かに一冊は無くなったんだ」

姫神「一冊だけ?」

土御門「あぁ。カミやんと禁書目録と姫神、三人にはそれぞれ別の場所を教えてたからな」

姫神「……」

土御門「無くなったのはカミやんに教えた場所――まぁ、自動的に犯人は分かっちまったぜよ」

姫神「そう」

土御門「後は残った手帳で幽世を解こうと色々試したんだがにゃー」

姫神「『四周目が終わる前にこの里から出ろ』?」

土御門「ってカミやん達には言ったんだけど。聞いて貰えなかったみたいだぜぃ、はは」

姫神「それは違う」

土御門「今から来るって?それは俺もそっちの方が嬉しいんだけどにゃー」

姫神「四周目が終わる前に。このセカイは終わる。だから外には行く必要がない」

土御門「根拠は?」

姫神「私は上条君とインデックスさんを信じてる。それ以外に何か必要かな?」

土御門「……いいや、確かに要らないな」

姫神「土御門君は信用出来ない?」

土御門「そう言われると……だが、カミやんは誘惑に嵌ろうとしたって」

姫神「誰だって間違えはする。当たり前」

土御門「それに俺は保険として、カミやん達が失敗した時に備えなきゃいけな――」

姫神「ねぇ土御門君」

土御門「うん?」

姫神「失恋しちゃった女の。愚痴を聞くよりも大事な事って無いよね?」

土御門「卑怯だぞっ、それは!」

姫神「私にも意地がある。二人のケリがつくまで。このセカイは終わらせない」

土御門「……ちなみに愚痴ってどんだけかかるの?一日とか言わないよな?」

姫神「……まぁ日付が変わる前には」

土御門「……厄介だにゃー」

姫神「てれってれー。姫神はれべるあっぷー」

土御門「レベルが上がったんじゃなく、素手バステ付加された気がするせぃ……」

――夜 ヒマワリ畑

上条「……そっか。俺か。俺が『ずっとここに居たい』って願ってたのかよ……」

上条「なんつーか、格好悪いな、ホント……はは」

インデックス「ホントだよっ!とうま本当は格好悪いんだからねっ!」

上条「……おい、そこはフォローしてくれるんじゃないのか」

インデックス「……格好悪くたって良いんだよ、情けなくたって。私は」

インデックス「私は、私だけは知っているんだよ。とうまがどれだけ無理をしているのかって」

上条「……っ!」

インデックス「……みんな勘違いしているんだよ。とうまは強い人間でも何でもない、ただの人だって」

インデックス「泣きたい時にはこっそり泣くし、辛い時には弱音だって吐くし」

インデックス「英雄とか言われてるけど、とうまは――」

インデックス「とうま、だし」

上条「……好き勝手良いやがって。だったらお前だって同じだよ、インデックス」

インデックス「私も?」

上条「あぁ。どっかのロン毛には聖母様みたいに信仰されたり、イギリス清教には切り札みたいな扱いを受けてるけど」

上条「蓋を開けりゃどうって事ない。食っちゃ寝が過ぎるタダの人だろ?」

インデックス「むー、その台詞には訂正を求めるかも!私が家事を手伝おうとしても、きかいが壊れちゃうんだから仕方がないんだよ!」

上条「ある意味奇跡的だとは思うが、まぁ……お前も、タダの女の子だって事だわな」

上条「俺にとっちゃ、ただの大事な女の子のって話だよ」

インデックス「タダのって酷くないかな?」

上条「え!?『大事な』ってトコはスルーなのかっ!?」

インデックス「ちゃんと言ってくれないと分からないかも知れないんだよ!もうっ!」

上条「いやでもホラ、その。色々とあるじゃねぇか、なぁ?」

上条「……再会がアレでグダグダになっちまった手前、その、いつか言わなくちゃとは思ってたんだけど」

インテックス「とうま?」

上条「俺、お前にずっと謝らなきゃならないと思ってた」

インデックス「あれ、それってもしかして」

上条「ごめんな、インデックス!俺は騙し続けてきたんだ!」

インデックス「あ、ロシアでの事。それはもう知ってるんだよ」

インデックス「わたしはとうまをずっと見てきたから、とうまの事だけを見てきたから」

インデックス「とうま、ううん、もうそれはどうだっていいんだよ」

インデックス「話してくれなかったのは、ちょっと悲しかったけど」

インデックス「とうまが無事に帰って来てくれたから、私はそれだけで――」

インデックス「もうそれだけで、充分なんだよ」

上条「でも――でも!今の『俺』は違うだろ?」

インデックス「違う、って何が?」

上条「お前を助けた『俺』は、今の『俺』じゃない。だから」

上条「『俺』には、お前の気持ちに応えるだけの資格がない、って」

インデックス「……違うね、それは」

上条「……そうか、やっぱりお前もそう思うか」

インデックス「ううん。そうじゃなくって、とうまが間違ってるって話なんだよ」

上条「……?」

インデックス「例えば……これ、もう良いかな?」

 近くにあったヒマワリ。葉は枯れ、実で一杯になった頭を下げている。
 インデックスは手を伸ばし――た、が、届かないので代わりに萎れた花弁から、ヒマワリの種を取ってやった。

上条「……」

インデックス「……何?その『成長してませんね、縦にも横にも』って顔は?」

上条「……気のせいじゃないですかね、はい」

インデックス「帰ったら酷いんだよ……?」

上条「大丈夫!全部忘れる――って言ってたから!」

インデックス「あの子が本当の事を言ってたのかすら、実は怪しいんだけど……まぁいいや」

インデックス「これ、何の種か分かるかな?」

上条「取ったの俺だし」

インデックス「いいからっ!」

上条「正式な名前は知らないけど、ヒマワリ、だよな」

インデックス「正解。じゃ、これを植えたら出て来るのは何の花かな?」

上条「そりゃお前ヒマワリじゃなかったら怖いが」

インデックス「そうだよね。今年咲いたヒマワリの花は枯れるだけだけど、来年もまたヒマワリは咲くんだよ」

インデックス「……ね、とうま」

上条「……なんだよ」

インデックス「もし、もしもだよ?私が何かが原因で記憶を失ったとしたら――」

インデックス「――それはとうまにとっての私は死んじゃったって事なのかな?」

上条「そんな事はねぇよ!お前は――記憶があろうとなかろうとお前に決まってる!」

インデックス「……うん。私も同じなんだよ」

インデックス「記憶を失ったとうまも、失う前のとうまと一緒」

インデックス「ヒマワリは、種を実らせれば枯れるけど」

インデックス「種を植えれば、何度だってヒマワリの花を咲かせるように」

上条「……インデックス」

上条「……そうか。そうだよな」

上条「記憶を失おうが、お前はお前、なんだもんな」

上条「……簡単な、事じゃないか」

インデックス「ほんっとにとうまはおかしいよね。そんな簡単な事、ずっと悩んで」

上条「ウルセェよ。俺にとっては大事なんだから」

インデックス「私にとっても大事、なんだよ」

上条「……な、インデックス。ここの記憶は無くなるんだよな?」

インデックス「かも、しれないね。あくまでもあの子の自己申告だから、分かんないかも」

上条「……まぁ、いいか。忘れたら、戻ってもう一回――いや、何度でも言えば」

インデックス「えっと、大事な話なのかな?」

上条「いや、割と普通の話だぞ」

インデックス「ちょっと期待してたかも」

上条「俺も好きだ、お前の事が」

インデックス「すっっっっっっっっっっっっごく大事な話なんだよ!?」

上条「茶化すなよ、俺だって恥ずかしいんだから!」

インデックス「明らかに普通の話じゃないかも!」

上条「いや、まぁなんだ。俺達にとっちゃ普通じゃねぇかな」

上条「……あまりに当たり前すぎて、言えなかったけど」

インデックス「それは……仕方がないんだよ。私だって、とうまにだって立場はあるから」

インデックス「だからあんな『おままごと』しか出来ないんであって」

上条「……でもさ。あの時間は必要だったと思う。準備期間って言うのか?」

上条「少なくとも俺は、出会った頃よりももっと、昨日よりも今日の方がずっと」

上条「お前の事が好きになってる」

インデックス「……期間で言ったら私の方が先輩なんだよ?」

上条「それを言われるのは辛いが……でも、この里へ来てから、色々見たし体験もした」

上条「確かに『永遠』は良いと思う。嘘を吐くだけでインデックスと居られるんだったら、それはそれでアリだとも思う――思った、か」

上条「でも、それはきっと俺が傲慢なだけなんだよな?」

上条「俺一人で戦って、インデックスには何も知らせない、ってのは必要悪の教会と同じか」

インデックス「……とうまが優しくしてくれるのは嬉しいよ。大事にしてくれると、ここが、きゅっ、てするんだよ。でも」

インデックス「それもどこか悲しくて。傷だらけになって帰ってくるとうまを見て、『私が居たらこんな風にはならなかったのに』って」

インデックス「……心の中が、壊れそうに締め付けられるんだよ」

上条「……うん、ごめんな。それは今日、お前に置いてかれた時に、ちょっとだけ分かったつもりだ」

インデックス「嘘だもん。また一人で戦いへ行っちゃうんでしょ?」

上条「……まぁTPOだけど――でも、さ。今度からは、違う」

上条「一緒に、戦おう」

インデックス「危ない所にもつれてってくれるの?」

上条「場所だけじゃない。俺達がずっと居られるようにだ」

上条「もしそれで、イギリス清教が嫌がって」

上条「俺達を引き離して、インデックスの記憶を消したとしても――」

上条「――俺は、何度だって。何回だってインデックスを見つけ出して――」

上条「――好きだ、って言うから」

インデックス「……うん。そうだね。それはそれで素敵かも」

上条「真面目に話してるのにその反応かよっ!?」

インデックス「だって私は何回でも、幾ら生まれ変わってもとうまと出会って恋に落ちるんだよ?」

インデックス「それは、とてもとても幸せな事なんだよ」

上条「……ありがとう、インデックス」

インデックス「どういたしまして……こっちも、ありがとうなんだよ」

上条「……あぁ」

ジジッ

上条「……何だ?空が急に暗く」

インデックス「とうま!あの子がもう限界に来てるのかもっ!」

 次第に夕暮れから宵闇に包まれ――は、しなかった。
 赤い空がひび割れた先にあったものは、『黒』。酷く虚ろな、空虚な穴。

少年の声「いやぁお疲れー」

 ヒマワリ畑が揺らぎ、派が擦れる音が少年の声を紡いでいた。

上条「お前は――もしかして!?」

少年の声「『――いつ、わかった――?』」

インデックス「……そんなネタはいいんだよ」

少年の声「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」

上条「そのボケも要らねぇ。つーか姿見えなくて心配したんだが、意外と余裕だな」

少年の声「でも、ないかな。キツい」

インデックス「幽世が崩れて来ているのかな?」

少年の声「間違いじゃないけど、その原因は僕だね」

少年の声「僕の存在が限界で――あぁ、後30分ぐらい?もしかしたら10分切ったかも?」

上条「どうしてそんなになるまで言ってくれなかったんだよ!?」

少年の声「目の前で長々いちゃつきやがって、出るタイミングを逃したって感じかな?」

上条「ごめんなさいねっ、ええそりゃっ!」

インデックス「そんな事よりもこれからどうなっちゃうの?」

少年の声「幽世の核だった僕が消えれば、おにーさん達は現世へ帰れる。それだけだよ?」

インデックス「……どうして?とうまが『元のセカイへ帰りたい』って思ったんだから、自然と無くなるんじゃなかったのっ!?」

上条「おい、インデックス。帰れるんだったらいいんじゃないのか?」

インデックス「私達は帰れるけど!このままだったらこの子も消えちゃうんだよ!」

上条「本当か!?」

少年の声「あー……まぁ色々あってねー。本当だったら後10日は保ったんだろうけど」

少年の声「まぁ最期の最期でおにーさん達が和解したのも見れたし、それはそれで仕方がないんじゃない?」

上条「答えになってねぇよ!お前が前に言ってた『全員が帰りたいと思えば帰れる』ってのは嘘だったのかよ!?」

少年の声「それは嘘じゃない。それ『は』嘘なんかじゃない」

インデックス「だったらとうまが――」

少年の声「……んー、なんて言うのかなー、何かの決心をしたおにーさん達に言うのも何なんだけど」

少年の声「『この場所から逃げ出したいって願望は、誰だって持ってる』んだよ」

上条「……俺だけじゃなくて、か?」

少年の声「ぶっちゃければ――『この幽世を創ったのは多くの人間の思い』だって事かな」

少年の声「学園の人、里に元から住んでいた人。両方なんだよねぇ」

インデックス「……この間は心当たりないって言ってたんだよ!」

少年の声「僕は基本的に願いを叶えるだけの存在だ。だから『真実を知りたくない』って願いであれば、叶えないといけない」

上条「……俺か、クソッ!」

少年の声「だけじゃない。修道女のおねーさんも『実はそう思っていた』んだね」

インデックス「じゃあ。今から他の人達を『幻想殺し』で触っていけば!」

少年の声「……無駄、としか言いようがない。彼らがそう思う以上、どうしようもないのさ」

少年の声「そもそもこの幽世自体、出来た時点で僕が力尽きて死ぬしか帰る術はなかった」

上条「そんな事はねぇだろ!現に俺やインデックスは思いを断ち切ったぞ!」

少年の声「……人間は、弱い」

少年の声「逃避願望を持たない人間が居なくならない限り、この幽世は解除されない」

少年の声「誰だって、どんな人だって逃げ出しなる時はあるよね?それは罪でも何でもないけど」

少年の声「実際に全てをかなぐり捨てて逃げるのは稀だけど、みんな心のどこかでそう願っているんだ」

少年の声「おとぎ話や神隠しだってそうだ。幽世に喰われた人間達が殆ど帰ってこない理由は、あまりにも居心地が良すぎて」

少年の声「……有名な浦島太郎だってそうだろう?彼は家族が居るにも関わらず、何年も何年も幽世に捕らわれていた」

インデックス「……そんなっ」

少年の声「まぁでも楽しかったよ。出来ればもっと遊びたかったけど、それは『次』の僕に任せるって事で」

上条「……待てよ。お前だけ一人犠牲にして俺達は助かるってのかよ!?」

上条「元々は俺達の好き勝手な願望が原因だろうが!」

少年の声「それは仕方がない。願いとか願望はそういうものだから」

インデックス「待ってほしいんだよ。あなたは『方向性の定まらない山の神』なんだよね」

インデックス「だったら『別の存在になる事で延命出来ない』かな?」

少年の声「んー……今から、そうだね例えばヤマンバ辺りに転じたとしても、幽世が消える訳じゃないし」

少年の声「かといって僕の力?魔力?だかは変化しないんだから、意味はないだろうね」

少年の声「そもそも『山』関係で碌な神様は居ないんだよねぇ」

少年の声「仮に僕が延命出来たとしても、その後文字通りのリアル鬼ごっこになったら嫌でしょ?……いや、それはそれで楽しそう、かも」

上条「お前今小声で何つった!?」

インデックス「……如意輪観音はどうかな?」

上条「この村のお寺にいる奴か?」

少年の声「縁はあるし不可能では無いけれど。いやだから別に鬼神――仏に転じた所で、ステータスは変わらないんだよ?」

インデックス「でも、その変化した力を使う事は出来るんだよね?」

少年の声「多分出来る、と思う」

インデックス「如意輪観音の権能は『欲望の破壊』。それを上手く使えれば」

上条「……そうか!『この村にずっと居たい』って願望を消せば!」

インデックス「幽世はその役割を終える、んだよ」

少年の声「なにソレ。第一話OP後10秒でウルトラマ○に変身即スペシウ○みたいな無茶振り」

上条「よしっガンバレ!ファイトだっ!」

少年の声「え、なにその無駄に暑くて投げ遣りな応援っ!?」

インデックス「で、でも私達も色々頑張ったんだし、あなたもいつまでフラフラしない方が良いのかもっ」

少年の声「実家に帰ったフリーターにかける言葉だよね?」

上条「おっとこんな所に『幻想殺し』が」

少年の声「あれあれ?これは遠回しに脅迫されているのかな?」

少年の声「ってかおかしくない?お別れのシーンだから、こうもうちょっとシリアスに行くんじゃないの?」

上条「最期の別れでも何でもねぇだろ」

インデックス「姿形が変わっても、あなたの本質は変わらないんだよ?」

少年の声「いやそれはさぁ、あくまでも人間の話であって。僕の場合は――」

上条「ヒマワリから声が聞こえるって事は、全部引っこ抜きゃいいのか?」

少年の声「一応の恩人にその仕打ちっ!?どう考えてもおかしいだろっ!」

少年の声「……つーか瀕死の相手に向かって鞭打ってるからね?比喩じゃなく」

上条「……これから、さ。俺達の帰る所は――行く所は、スゲェ酷い所なんだよ」

上条「でも、辛い事ばかりじゃなく。それよりか大分少ないけど、良い事だってある」

上条「そんな『セカイ』にお前が居て欲しい、ってのが俺の『願い』だ」

インデックス「私もお願いするんだよ」

少年の声「……はぁ、もう良いよ分かった降参」

少年の声「長々と生きてきたから、そろそろ木島さんの所にでも行こうと思ったんだけど」

少年の声「よくよく考えれば、僕は雌鳥じゃないんだよねぇ」

少年の声「適当なタイミングで僕の帽子を高く放り投げてくれ。それで全てが終わる……筈、だ」

上条「杜撰過ぎるだろー」

少年の声「時間がアレだし、そもそも人間的には一回殺されているから、残ってる帽子を如意輪に見立てないといけないんだよ」

インデックス「今すごーくスルーしちゃいけない単語が出たような……?」

少年の声「はーいそれじゃ一二の三でどーぞ。イーチッ!」

上条「にーーーっのぉっ!」

インデックス「さんっ!」

バキィィィンッ!!!

 クルクル回る野球帽は回転を止めぬまま舞い上がり、青い光がセカイを満たしていく。
 空に開いた虚ろは身じろぎするように溶けて消え、真夏の空色で染め上げられる。

 上条は右手で光を遮り、左手で――強く、離れぬようにインデックスの右手を握る。
 インデックスもまた、これからは違う意味合いを込めて、側に居ると誓う。

 全てが虚構。舞台はおろか、登場人物ですらも曖昧な、永遠のセカイ。
 それでも只、嘘でないもの――いや、嘘だらけのセカイで冒険した二人だからこそ、漸く『永遠』を手に入れた。

 ……尤も、それは最初から二人が既に手にしていたのではあるが。
 それと気づかず無くしてしまう者の方が多いのでもあるけれど。

 今はとても脆弱で。ほんの僅かな悪意を以てすれば、二人を別つのは難しい事ですら無い。
 けれど共に在り続けると望んだ以上、上条当麻とインデックスが『絆』と『覚悟』を決めた以上、二人が真実の意味で分かたれる日はもう、来ない。

 二人で見上げた空は、只蒼く碧く。
 その青さに手を伸ばさなくとも構わない。

 彼らが欲しいものはもう既に、その手でしっかりと握っているのだから。

 これはそんな話。空の青さが見慣れた人間にとって、大して有り難くもないと言う。

『大切なものは目に見えない』

 ただそれだけの、話。


――第四話 『この向日葵を、あなたに』 -終-



――『エピローグ』

――1日目 朝

上条「……」

青ピ「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!?」

土御門「おやおやカミやん。これはちょっと頂けないにゃー」

青ピ「何やってますのん自分っ!?カミやんの、不潔っ!」

上条「……ウルセェ……朝から何騒いでんだよ……」

土御門「いやまぁ俺は別に良いんだけどにゃー。隣見てみ?」

上条「……あぁ?」

土御門「どうしてカミやんの布団でぇ……禁書目録が一緒に寝てるんだにゃー?」

インデックス「すー……」

上条「……付き合ってんだよ、俺達」

土御門「え」

青ピ「なんとおおおおおおおおおおおおっぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

インデックス「うるさいんだよ、とうまぁ……」

上条「あぁ悪い。でもそろそろ起きろ」

インデックス「んー……」

土御門「……いやいやいやいやっ!初耳だぜぃ!つーかいつ?いつからっ!?」

インデックス「おはよーとうふあぁぁぁぁぁっ、むにゃむにゃ」

上条「顔洗ってこーい」

土御門「話を聞けよ、なぁっ!?」

上条「いつ、って昨日――だよな?」

インデックス「昨日って言うか、今日って言うか……あ、とうまは?」

上条「大丈夫。全部憶えてる。お前も?」

インデックス「……うん、とうまにいっぱい優しくして貰った事。絶対に忘れないんだよっ」

青ピ「……やさしく?いっぱいして貰った……だとおおっ!?」

上条「ちょっと待て!その言い方は誤解を招く!」

インデックス「え、でも最後は一緒にぎゅっとしたよね?」

青ピ「はーい有罪ー」

土御門「おめでとーカミやん。今日から君のあだ名は一方通○になりましたー」

上条「なんでその名前?少なくとも俺の知り合いはロ×じゃないし、別にインデックスさんは……」

インデックス「なーにとうま?」

土御門「……どう見たって中学×だぜぃ」

青ピ「戦わなあかんよ、現実と?」

上条「ウルセェよっ!そのちょっと『分かってるんだぜ?』的なニュアンス込めるの止めろよっ!」

上条「俺はインデックスが好きなだけであって、別にロ×って訳じゃない!」

青ピ「……皆さんそう仰るんですわ、えぇ。『たまたま好きになった子がロ×であって』と」

土御門「なぁカミやん、今はいい。今はいいかもしれねェが――女はなァ、いつか老いるンだよォ」

上条「お前ら人類として最低の事を言っているからね?それと土御門、何で途中からペ×疑惑の人の口調を真似たの?」

インデックス「……とうま、私とうまを信じて良いんだよね?」

上条「あぁもうホラッっ!お前らが余計な事言うから涙目になってんじゃねぇか!」

上条「当ったり前に決まってるだろ!第一俺の好みは年上の大人っぽい女性だ!今のインデックスとは真逆だし!」

インデックス「……へー?そうなんだ?」

上条「そうなんだよ!だから俺は決してお前の貧相な体見当てとか、そういう事はないんだ!」

青ピ「あーぁ、地雷踏み抜きましたやんか。ナムアミダブツ……」

土御門「……チャンスをピンチにし、ピンチを致命傷にする手法は素晴らしいにゃー」

上条「だから安心してほし、い……」

インデックス「……ぐるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ!!!」

上条「待って!?朝一で噛むのはっ!折角無事に帰ってこられたんだし!それだけはっ!?」

上条「だからっ!俺が言いたいのはお前の事がどれだ――」

インデックス「カブゥゥゥゥゥっ!!!」

上条「不幸、だあああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」

――体験学習 『ヒマワリ畑』

小萌「――はーい、と言う訳で今日は予定を変更してヒマワリ畑でお仕事をするのですよー?」

姫神「先生。私達が選べるんじゃないんですか?」

小萌「昨日の大雨でヒマワリ畑が流されてしまったので、急遽お手伝いをするのです」

小萌「あ、もしやりたい実習があるんだったら、二日目にやって貰っても――って、そこで皆さん視線を逸らすのですかーーーーっ!?」

吹寄「まぁまぁ先生。それで私達は何をすれば?」

小萌「まず折れちゃったヒマワリを畑から抜いて――」

インデックス「(ねぇねぇ、とうまとうま)」

上条「(あぁ多分、幽世の影響だろうな)」

小萌「――他の皆さんは、『種』を探して下さいねー」

土御門「種?」

小萌「はい。泥に浸かっちゃったのは、中が死んでしまっている可能性が高いので」

小萌「出来れば水に浮いたような、比較的綺麗なのを見つけて欲しいのですよ」

インデックス「(ね、とうまっ!)」

上条「(何?)」

インデックス「(これ、こもえの言ってた条件に当て嵌まるかもっ)」

上条「(ヒマワリの種……あぁ!昨日俺が取ったやつか!)」

上条「(つーか持って来れたのかよ、それ)」

インデックス「(ワンピースもとうまの荷物に入ってたんだよ?)」

上条「(それ俺が変態って誤解されるじゃねぇか!?あのガキ余計な事を!)」

インデックス「(こっそり、『拾いました』って渡した方が良いんだよね?)」

上条「(だなぁ。芽が出るかどうかは分からないけど)」

少年「一度全滅しかかったけど、その時も復活出来たし大丈夫じゃないかな?」

インデックス「またなんか適当なんだよ」

上条「他人事丸出しって言うか――今の!」

 二人が見渡しても探し人の姿はない。
 天高い青空と、夏の焼けた臭いが『彼』の存在を伝えていた。

 遠くから蝉の声がする。二人にとって、夏はまだ終りではない。
 例えそれが秋へと変わり、寒い冬が来ようとも。

 必ず夏はやってくる。そうすればヒマワリはまた咲き誇る。
 親が子へ、子が孫へと続ける命の円環。そう、それは。

 あの『セカイ』では見つからなかった、『永遠』がここにはある。

――XX年後 同じヒマワリ畑

少女「うっわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃっっ!」

少女「うわぁキレイなんだよっ!見て見てっ!」

女性「こーら。そんなにはしゃがないんだよ。転んたら、とうま――パパが泣いちゃうかも」

少女「うん、パパ泣き虫だもんねー」

女性「あはは、まぁうん。否定は出来ないかも」

少女「この花、知ってるかも!『ヒマワリ』って言うんだよね!」

少女「ママがパパにプロポーズしたときにあげたんだよね?ねっ?」

女性「そうだけど、パパから聞いたの?」

少女「ううん。ステイルのおじちゃん」

女性「……何喋ってるの、あの人は」

少女「顔に線が入って泣きながら言ってたんだよ!」

女性「あー……あははー、うん。そういう人だからね」

少女「ねーねーパパになんて言ったのー?ねーっ?」

女性「……えっとね。ヒマワリの花言葉には『あなただけ見ている』って意味があるんだよ」

少女「ママ、パパばっかり見てるもんねー」

女性「ひ、否定出来ないけど……だから、このお花をプレゼントして、『あなただけを一生見つめています』って意味を込めたんだし!」

少女「どんな風に?」

女性「えっとね、ここに私が立って。あなたの所に……あ、あと13cm後にパパが居て。うん、そこ」

女性「私は花を渡しながら、こう言ったんだよ――」

女性「――『この向日葵を、あなたに』」


――エピローグ -終-

――インデックス「この向日葵を、あなたに」 -完-


※最後までお付き合い下さった貴方へ心からの感謝を
地の文アリアリ、当初の予定と外れたシリアスになってしまいましたが、ご容赦下さい
>>1がインデックスさんのヘイトかアンチかは……まぁ、読んだ方が判断して下されば

では、またいつかお会い出来れば幸いで御座います

乙です

乙です


インデックスさんすでに死亡済みなんかなと思って読んでたけど
第3話ラストで1年前に返還された、姫神のとの会話でもキターと思ったのに
ハッピーエンド、エピローグでもなんか幸せそうだし

だが、それが良い

インデックス、打ち止め、滝壺とも薄命っぽいイメージはあるけど





>>159-160
ありがとうございます
>>161
鎌池先生が再開のシーンをギャグ一本で済ませたので、
「二人が好き合っていれば、ただの同居人の一線を越えられない→周囲の押しがあってくっつく」
IFのお話です。土御門の「返還済み」は大嘘(こっちのセカイは嘘ばっかだから元の世界へ帰ろうぜ)ですね

乙!
素敵な話だった

おつおつ

上条さんとインデックスの根本的な所がちゃんと描かれていて、
上イン好きを取っ払っても更新が楽しみなSSだった

最後の解決法の流れw

乙でした

メッチャ乙

超乙です!!!

このスレは以上で終了となります。読んで下さった全ての方に感謝を
雰囲気は全然変わりますが、新しいSSも書いているので宜しければご覧下さい

バードウェイ「ようこそ、『明け色の陽射し』へ」 ~断章のアルカナ~
バードウェイ「ようこそ、『明け色の陽射し』へ」 ~断章のアルカナ~ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378160982/)

新スレ乙です


近所にひまわり畑を発見してこのSS思い出したわ

乙でした!!!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom