アイドルマスターシンデレラガールズの、白菊ほたると高森藍子の小話です。
地の文ありです。マイナーCP注意ですぞ、珠美殿!
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「ただいま戻りました……」
昼の野外ロケも無事(少しの事故で)終わり、事務所に戻ってきた。
昨日が雨だったこともあり、今日は一段と蒸し暑い。
いつもの手袋を薄手の物に変えたり、白めのコーデで統一したりと対策は打ったが、それでも暑さは収まらなかった。
藍ほたすき
「うひゃぁ……」
ドアを開けた瞬間、じっくり温められたぬるい風が、私の顔を吹き付けてきた。
部屋を見渡す。
ソファーに仰向けで倒れている菜々さん、扇風機に当たりながら雑誌を読んでいる藍子さん、ぶつぶつと独り言を喋りながらパソコンに向かうちひろさん。
藍子さんが手招きをしているのに気付いた。
折角なので隣に座ろう。
「あの、藍子さん、クーラーってもしかして」
「午前中に、壊れたそうで……」
「あぁ……」
なるほど、確かに故障中の紙が。
流石にこれは、私の運は原因じゃないだろう。
というより、私のせいにされても困る。
「ちなみに、プロダクションのほとんどがダメになっていて、激しい運動は厳禁だとか」
「とんでもないですね……」
試しに机にあった団扇で試しに仰いでみたが、湿地に入った気分になるだけだった。
特に、首のあたりが気持ち悪い。
風が当たらなくって、ベタベタする。
最近、伸びてきたなぁ……
そういえば……
「藍子さんは、暑くないですか? 髪、長くて」
「私ですか? 髪は縛ってるから、結構涼しいですよ」
「ああ、なるほど……」
そうか、首が出ているから涼しいのか。
昔、長かったときは、そういう事もしていたっけ。
短くしてからはゴムの類は使っていないから、完全に忘れてしまっていた。
「ほたるちゃんの髪……」
気付いたら、藍子さんが私の髪先を触っていた。
細く冷たい指が私の頬に当たって、鼓動が早まる。
「あ、あの、どうかしましたか……?」
「最近、伸びてきました? 前より少し」
「ああ、最近切りに行けてなくて……」
ありがたくも忙しく、ゆっくり切る時間が取れなかった。
前髪は自分で調整できたが、後ろの髪はとうに肩の位置を超してしまっている。
「だめですよ、Pさんにお願いしてカットしておかなくちゃ」
「ごめんなさい…… 時間、取ってもらいます」
「私からも、お願いしておきますね」
アイドルは人前に出る仕事だ。身だしなみには気を付けなくてはならない。
反省、しなきゃ……
「そうだ、ほたるちゃん、ひとつ提案が……」
「提案?」
「髪の毛、弄ってみていいですか? 少しは涼しくなると思いますよ」
藍子さんが、私の髪を……
それは、ヘアアレンジを自分でしていなかった私には、嬉しい話だった。
「えっと、藍子さんがいいなら、ぜひ」
「やった♪ ちょっと待っててくださいね♪」
そうして、彼女は道具を取りに、更衣室に小走りで向かった。
○○○ ○○○ ○○○
「~♪」
鏡越しに、上機嫌そうな藍子さんの顔が見えた。
色々試してくれるそうで、私も少し楽しみだ。
「ほたるちゃんは、どういうのが好み?」
「えっと……」
藍子さんが読んでいた雑誌を開いてみたが、自分に似合いそうな髪型が分からない。
「悩んじゃいます……」
「じゃあ、似合いそうなのをやってみますね」
「はい、おねがいします」
そうして、茶色い櫛と小さな手で髪が梳かれる。
髪から藍子さんの手の動きが伝わってきて、なんだか気持ちよかった。
「はい、『おさげ』完成です!」
「おぉ……」
いつも後ろは短めにしている所為で、しようとも思わなかった髪型。
後ろの髪の毛が二つに分けられて、肩の上に丸い髪の房を垂らしている。
まゆさんの髪みたい、かな?
房に触ってみたり、横から見てみたり……
嬉しくて、どうしてもにやけてしまう。
「どう? 気に入りました?」
「はい、かわいいです!」
「じゃあ、他にもやってみましょうか」
また、藍子さんの手が髪を撫でた。
それからは、とても楽しい時間だった。
ヘアクリップでまとめてみたり、短いながらも編み込んでみたり、二人で乃々ちゃんの髪の毛を研究してみたり……
そうして色々と試してみた結果。
「どう? 気に入ったのはありました?」
「えっと、その、ぜんぶ、好きで……」
私は、選べなくなっていた。
「藍子さん! 藍子さんの作ってくれたの、みんなよくて、どうしましょう……!」
「うーん、ほたるちゃんはかわいいから、どれも似合いそうだけど」
……?
「か、かわ!?」
鏡越しに、自分が紅潮するのが分かった。
ヤバい、興奮して頭が沸騰している。
ふと、鏡の奥で藍子さんが、笑っていることに気付いた。
慌てて深呼吸をして、暴れまわる気持ちを抑える。
危ない、あまりにテンションが上がりすぎて、若干挙動不審になっていた。
これじゃあ、藍子さんにドン引きされてしまう……
顔が熱いのを堪えながら、どうにか会話を続ける。
「……こういうとき、どう選べばいいんでしょう」
「そうですね…… 例えば、好きな女優さんとか、芸能人の髪型を真似てみる、とか?」
「好きな人、ですか?」
好きな人、好きな、女優さん?
アイドルでもいいはず……
この事務所だと、誰だろう。
美人で、かわいくて、優しい……
「あっ」
また五度くらい、顔の温度が急上昇した。
自分に言い聞かせる。
いや、大好きだけど、それは絶対そういう意味じゃなくて!
「違うんです! そっちの意味の好きじゃないですから!」
「う、うん? 決まりましたか?」
焦りすぎて、つい口がすべってしまう。
ああ、もう、千鶴ちゃんみたいだ。
「いや、その、違くって……」
「何でもいいですよ? この髪の量だと、ちょっと違っちゃうかもしれないけど……」
何度も深い呼吸をして、考え直そうとしてみた。
しかし、もうこの人しか浮かばなくない。
「……」
何でもいいなら、頼んでみてもいい、よね……?
「あの、藍子さん」
「はい」
「藍子さんの髪型が、その、真似してみたい、です……」
○○○ ○○○ ○○○
「はい、完成です! ごめんね、お団子は出来そうにないから、ポニーテールだけど」
「いえ、嬉しいです。とっても……」
「うふふ、ちょっと照れ臭いですね」
すごい、嬉しいな。
私が、この髪型に出来るなんて……
「気に入りましたか? とっても似合ってますよ」
「はい! はい……!」
今すぐ誰かに見せに行きたい。藍子さんとおそろいだよ、って……
「そういえば、ほたるちゃんって髪は伸ばしたりしないんですか? 長いのも似合いそうですよね」
「髪を伸ばす、ですか……」
「実は、以前は伸ばしていたんですよね」
「へえ、そうなんですか」
「はい、でも、体質もあって、怪我したら危ないから短くして。それ以来ずっと……」
「そっか…… ごめんね、変なこと聞いて」
「いえ、短いのも好きなので」
だけど、そうか。
伸ばせばこうやって、髪型を変えたりすることも出来るんだ。
例えば、好きな人と同じように……
「……」
伸ばせる日は、来るのかな。
もし、来てくれるのなら……
「ねえ、藍子さん」
「はい、どうかしましたか?」
「その、将来、もし伸ばせるくらいに運が良くなったら」
多分、今はまだ難しいけれど……
「今度は、お団子で藍子さんとおそろいにしたいです…… だめ、ですか?」
「……! なら、私に結わせてください! 絶対に似合いますよ!」
「やった……! おねがいします、約束ですよ……?」
「はい、約束です♪」
そうして、指切りをした。
しっかりと、約束をした。
未来の楽しみが、また一つ。
○○○ ○○○ ○○○
「んにゃ」
椅子に座って、二人でお話をしていたら、ペロさんが侵入してきた。
私の足元で嫌味のように、もこもこの体を擦り付けている。
暑いですよ…… 不毛ですよ、ペロさん……
「ほたる……藍子……おそろい……?」
「あ、雪美ちゃん。おはようございます」
「ぶにゃああ!」
続いて、ペロさんの飼い主の雪美ちゃんも現れた。
私を暖めにきた黒い毛玉は、抵抗空しく回収されてしまった。
憐れ、ペロさん…… 強く生きて……
「雪美ちゃんも、結びますか?」
「する……みんなも……したいって……」
「みんな?」
ドアの方に目を向けた。
……なるほど、レッスンが中止されて行き場を失ったアイドル達が、虚ろな瞳でこちらを覗いている。
事務員さんにいたっては、水着を着てゾンビのように地を這っている。
「あはは…… 場所、変えましょうか」
「はい、そうですね」
「長い昼に、なりそうです」
「はい、とっても楽しい長い昼に」
こうして、二人きりの時間は終わった。
そして、アイドル達(ときどき事務員)の髪型アレンジ大会は、日が暮れるまで続けられるのであった。
お し ま い
以上、まだまだ発展可能な藍ほたでした。
短い文でしたが、読んでもらえたなら嬉しい……
HTML化依頼してきます。
おつおつ
ほたるのSS増えてきてうれしい
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