【デレマス】白菊ほたる「ちょっと髪が伸びた私と、藍子さんとの昼下がり」 (27)

アイドルマスターシンデレラガールズの、白菊ほたると高森藍子の小話です。

地の文ありです。マイナーCP注意ですぞ、珠美殿!

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「ただいま戻りました……」

 昼の野外ロケも無事(少しの事故で)終わり、事務所に戻ってきた。
 昨日が雨だったこともあり、今日は一段と蒸し暑い。
 いつもの手袋を薄手の物に変えたり、白めのコーデで統一したりと対策は打ったが、それでも暑さは収まらなかった。

藍ほたすき

「うひゃぁ……」

 ドアを開けた瞬間、じっくり温められたぬるい風が、私の顔を吹き付けてきた。

 部屋を見渡す。
 ソファーに仰向けで倒れている菜々さん、扇風機に当たりながら雑誌を読んでいる藍子さん、ぶつぶつと独り言を喋りながらパソコンに向かうちひろさん。
 
 藍子さんが手招きをしているのに気付いた。
 折角なので隣に座ろう。


「あの、藍子さん、クーラーってもしかして」
「午前中に、壊れたそうで……」
「あぁ……」

 なるほど、確かに故障中の紙が。
 流石にこれは、私の運は原因じゃないだろう。
 というより、私のせいにされても困る。

「ちなみに、プロダクションのほとんどがダメになっていて、激しい運動は厳禁だとか」
「とんでもないですね……」

 試しに机にあった団扇で試しに仰いでみたが、湿地に入った気分になるだけだった。


 特に、首のあたりが気持ち悪い。
 風が当たらなくって、ベタベタする。
 最近、伸びてきたなぁ……

 そういえば……

「藍子さんは、暑くないですか? 髪、長くて」
「私ですか? 髪は縛ってるから、結構涼しいですよ」
「ああ、なるほど……」

 そうか、首が出ているから涼しいのか。

 昔、長かったときは、そういう事もしていたっけ。
 短くしてからはゴムの類は使っていないから、完全に忘れてしまっていた。

「ほたるちゃんの髪……」

 気付いたら、藍子さんが私の髪先を触っていた。
 細く冷たい指が私の頬に当たって、鼓動が早まる。

「あ、あの、どうかしましたか……?」


「最近、伸びてきました? 前より少し」
「ああ、最近切りに行けてなくて……」

 ありがたくも忙しく、ゆっくり切る時間が取れなかった。
 前髪は自分で調整できたが、後ろの髪はとうに肩の位置を超してしまっている。

「だめですよ、Pさんにお願いしてカットしておかなくちゃ」
「ごめんなさい…… 時間、取ってもらいます」
「私からも、お願いしておきますね」

 アイドルは人前に出る仕事だ。身だしなみには気を付けなくてはならない。
 反省、しなきゃ……


「そうだ、ほたるちゃん、ひとつ提案が……」
「提案?」
「髪の毛、弄ってみていいですか? 少しは涼しくなると思いますよ」

 藍子さんが、私の髪を……
 それは、ヘアアレンジを自分でしていなかった私には、嬉しい話だった。

「えっと、藍子さんがいいなら、ぜひ」
「やった♪ ちょっと待っててくださいね♪」

 そうして、彼女は道具を取りに、更衣室に小走りで向かった。

 ○○○ ○○○ ○○○

「~♪」

 鏡越しに、上機嫌そうな藍子さんの顔が見えた。
 色々試してくれるそうで、私も少し楽しみだ。

「ほたるちゃんは、どういうのが好み?」
「えっと……」

 藍子さんが読んでいた雑誌を開いてみたが、自分に似合いそうな髪型が分からない。

「悩んじゃいます……」
「じゃあ、似合いそうなのをやってみますね」
「はい、おねがいします」

 そうして、茶色い櫛と小さな手で髪が梳かれる。

 髪から藍子さんの手の動きが伝わってきて、なんだか気持ちよかった。

「はい、『おさげ』完成です!」
「おぉ……」

 いつも後ろは短めにしている所為で、しようとも思わなかった髪型。
 後ろの髪の毛が二つに分けられて、肩の上に丸い髪の房を垂らしている。
 まゆさんの髪みたい、かな?
 
 房に触ってみたり、横から見てみたり……
 嬉しくて、どうしてもにやけてしまう。

「どう? 気に入りました?」
「はい、かわいいです!」
「じゃあ、他にもやってみましょうか」

 また、藍子さんの手が髪を撫でた。

 それからは、とても楽しい時間だった。

 ヘアクリップでまとめてみたり、短いながらも編み込んでみたり、二人で乃々ちゃんの髪の毛を研究してみたり……
 そうして色々と試してみた結果。

「どう? 気に入ったのはありました?」
「えっと、その、ぜんぶ、好きで……」

 私は、選べなくなっていた。


「藍子さん! 藍子さんの作ってくれたの、みんなよくて、どうしましょう……!」
「うーん、ほたるちゃんはかわいいから、どれも似合いそうだけど」

 ……?

「か、かわ!?」

 鏡越しに、自分が紅潮するのが分かった。
 ヤバい、興奮して頭が沸騰している。
 
 ふと、鏡の奥で藍子さんが、笑っていることに気付いた。
 慌てて深呼吸をして、暴れまわる気持ちを抑える。


 
 危ない、あまりにテンションが上がりすぎて、若干挙動不審になっていた。
 これじゃあ、藍子さんにドン引きされてしまう……

 顔が熱いのを堪えながら、どうにか会話を続ける。

「……こういうとき、どう選べばいいんでしょう」
「そうですね…… 例えば、好きな女優さんとか、芸能人の髪型を真似てみる、とか?」
「好きな人、ですか?」


 好きな人、好きな、女優さん? 
 
 アイドルでもいいはず……

 誰だろう、憧れの人とか?

 この事務所だと、誰だろう。
 美人で、かわいくて、優しい……

「あっ」


 また五度くらい、顔の温度が急上昇した。
 自分に言い聞かせる。
 いや、大好きだけど、それは絶対そういう意味じゃなくて!

「違うんです! そっちの意味の好きじゃないですから!」
「う、うん? 決まりましたか?」

 焦りすぎて、つい口がすべってしまう。
 ああ、もう、千鶴ちゃんみたいだ。


「いや、その、違くって……」
「何でもいいですよ? この髪の量だと、ちょっと違っちゃうかもしれないけど……」

 何度も深い呼吸をして、考え直そうとしてみた。
 しかし、もうこの人しか浮かばなくない。

「……」

 何でもいいなら、頼んでみてもいい、よね……?

「あの、藍子さん」
「はい」
「藍子さんの髪型が、その、真似してみたい、です……」

 ○○○ ○○○ ○○○

「はい、完成です! ごめんね、お団子は出来そうにないから、ポニーテールだけど」
「いえ、嬉しいです。とっても……」
「うふふ、ちょっと照れ臭いですね」

 すごい、嬉しいな。
 私が、この髪型に出来るなんて……

「気に入りましたか? とっても似合ってますよ」
「はい! はい……!」

 今すぐ誰かに見せに行きたい。藍子さんとおそろいだよ、って……


「そういえば、ほたるちゃんって髪は伸ばしたりしないんですか? 長いのも似合いそうですよね」
「髪を伸ばす、ですか……」

「実は、以前は伸ばしていたんですよね」
「へえ、そうなんですか」

「はい、でも、体質もあって、怪我したら危ないから短くして。それ以来ずっと……」
「そっか…… ごめんね、変なこと聞いて」
「いえ、短いのも好きなので」

 だけど、そうか。
 伸ばせばこうやって、髪型を変えたりすることも出来るんだ。

 例えば、好きな人と同じように……


「……」

 伸ばせる日は、来るのかな。
 もし、来てくれるのなら……

「ねえ、藍子さん」
「はい、どうかしましたか?」
「その、将来、もし伸ばせるくらいに運が良くなったら」

 多分、今はまだ難しいけれど……


「今度は、お団子で藍子さんとおそろいにしたいです…… だめ、ですか?」

「……! なら、私に結わせてください! 絶対に似合いますよ!」
「やった……! おねがいします、約束ですよ……?」
「はい、約束です♪」

 そうして、指切りをした。
 しっかりと、約束をした。

 未来の楽しみが、また一つ。

○○○ ○○○ ○○○

「んにゃ」

 椅子に座って、二人でお話をしていたら、ペロさんが侵入してきた。
 私の足元で嫌味のように、もこもこの体を擦り付けている。

 暑いですよ…… 不毛ですよ、ペロさん……

「ほたる……藍子……おそろい……?」
「あ、雪美ちゃん。おはようございます」
「ぶにゃああ!」

 続いて、ペロさんの飼い主の雪美ちゃんも現れた。
 私を暖めにきた黒い毛玉は、抵抗空しく回収されてしまった。

 憐れ、ペロさん…… 強く生きて……


「雪美ちゃんも、結びますか?」
「する……みんなも……したいって……」
「みんな?」

 ドアの方に目を向けた。
 ……なるほど、レッスンが中止されて行き場を失ったアイドル達が、虚ろな瞳でこちらを覗いている。
 
 事務員さんにいたっては、水着を着てゾンビのように地を這っている。


「あはは…… 場所、変えましょうか」
「はい、そうですね」

「長い昼に、なりそうです」
「はい、とっても楽しい長い昼に」

 こうして、二人きりの時間は終わった。

 そして、アイドル達(ときどき事務員)の髪型アレンジ大会は、日が暮れるまで続けられるのであった。

お し ま い

以上、まだまだ発展可能な藍ほたでした。
短い文でしたが、読んでもらえたなら嬉しい……

HTML化依頼してきます。

おつおつ

ほたるのSS増えてきてうれしい

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