幼馴染「……仕方ないな///」ソーッ
病床の女「やめろ。誰がアンタとキスしたいつったよ」ベチ
幼馴染「む? イケメンとキスしたいって言ったのお前だろう?」
病床の女「鏡見ろ、鏡。平凡を絵に描いたような顔しやがって」
幼馴染「そうだろうか。俺には木村拓哉か福山雅治似のイケメンに見えるんだが」ウーン
病床の女「ナルシストもそこまで突き抜ければ嫌味がないな」
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幼馴染「イケメンとキスしたいなら連れてこようか? 後輩に3股かけてるやつならいるが」
病床の女「暇だから言ってみただけだよ。だいたいそんなナンパヤロー、こっちから願い下げだ」
幼馴染「おいおい、日本一のコメディアンが隣にいるってのに暇ってこたないだろ」ハハハ
病床の女「どこが日本一のコメディアンだ。こないだのHRでスベリ散らかしやがって」
幼馴染「ああ、あれか。あのギャグはちょっと田舎の高校生には早すぎたな」
病床の女「あの後、周りの女子から『彼って昔からあんな感じなの……?』って質問攻めにあったんだからな。こっちまで恥ずかしかったっつの」
幼馴染「ほお、クラスの女子が俺に興味津々だな」
病床の女「……。アンタ学校は?」
幼馴染「サボったよ。幼馴染が死ぬかもしれないってのに、授業なんか受けてられんだろう」
病床の女「……。あたしならアンタが死にかけてても、友達とカラオケ行ってやるけどな」
幼馴染「ははは、照れるな照れるな。昔ジャングルジムから落ちて気絶した俺を、泣きながら家までおぶってくれたそうじゃないか」
病床の女「……」ドゴッ
幼馴染「うぐぅっ!」
病床の女「……あれはまだ小さかったから少しびっくりしただけだ」
幼馴染「い、いいパンチじゃないか……。これなら今日中には死ななそうだ……」
病床の女「……それにしても、神様も意地が悪いよな。こんな美少女をさっさと殺しちゃうなんてよ」
幼馴染「ははは、鏡見ろ、鏡」
病床の女「……」ドゴッ
幼馴染「うぐぅっ! さっき自分も同じこと言ったのに……」
病床の女「女の子には言っていい冗談と悪い冗談があんだよ」
幼馴染「き、気にするな……。お前は十分かわいい……」
病床の女「けっ! 今更何言っても信じられるかよ」
幼馴染「本当だ。なんてったって男子が極秘裏に作った『もう少しおっぱいがあって性格も良ければ告白していたかもしれないランキング』堂々の一位がお前なんだからな」
病床の女「何だその超上から目線のランキング。制作に携わった奴の名前、全員言え。あたしが死んだ後で呪い殺してやるから」
幼馴染「そんなことができるなら俺を呪い殺してくれ」
病床の女「はあ?」
幼馴染「お前がいなくなったらつまらんからな。一緒に行けるなら天国だろうが地獄だろうがつき合うぞ」
病床の女「……馬鹿じゃねーの。もしも死んだらあたしは天国でアンタは地獄行きだっての。……アンタは生きてるうちにせいぜい楽しんでな」グスッ
幼馴染「……泣いてるのか?」
病床の女「泣いてねーよバーカ! もうすぐ天国で面白おかしく過ごせるんだからな! 誰が泣くかアホ!」グスッ
幼馴染「そうか……。実を言うと俺は凄く泣きそうだ。冗談でも言ってないと堪えられないくらいにな」
病床の女「……。男が人前で泣くんじゃねーよ。みっともねーだろ」グスッ
幼馴染「そう言われると思って我慢していた。そろそろ限界だからトイレにでも行ってこよう」
病床の女「……だめだ、ずっとここに居ろ。冗談言ってりゃ堪えられんだろ? せっかく見舞いに来たんだから笑わせてみろよ」
幼馴染「……何があっても笑わない気だろ」
病床の女「そんなことねーよ。面白けりゃ笑うし、つまんなかったら笑わない。それだけだよ」
幼馴染「言ったな? 笑いすぎで死ぬなよ?」
病床の女「自分でハードル上げやがって……。爆死するぞお前」
幼馴染「死にゆく幼馴染に捧げる渾身モノマネ」
病床の女「モノマネかよ」
幼馴染「三遊亭小遊三。『……まぁ副会長と言っても、便所でお尻を拭く会長でございますから……えー、あんまり当てになった話じゃないんでございますが……』」
病床の女「……だれだよ、それ」
幼馴染「え……? ほら笑点の……水色の着物着た……」
病床の女「いや、笑点見たことねーし」
幼馴染「……今のは忘れてくれ」シュン
隣の爺さん「今、小遊三の落語が聞こえたんじゃが……。すまんがどの局でやってるのか教えてくれんかの?」シャッ
病床の女「あ、すみません。今のはこいつのモノマネで……」
隣の爺さん「モノマネ?」
幼馴染「降るほどに 肥溜め溢るる 秩父かな」
隣の爺さん「似とる!」ゲラゲラ
病床の女「えー……」
隣の爺さん「がはは! すごい! 滅茶苦茶似とる! 皆こっち来てみろ! すごいのが来たぞ!」ヒイヒイ
向の婆さん「誰が来たって?」
斜向の爺さん「昼飯か?」
幼馴染「こう見えてもあたし、地主なんです。……いぼ痔と切れ痔」
隣の爺さん「がっはっはっはっは!」ヒッヒッヒッヒ
向の婆さん「ひいひい! 似とる!」ヒーヒー
斜向の爺さん「ひー、おかしっ! 死ぬっ!」ゲラゲラ
病床の女「……もしかして分からんのはあたしだけなのか?」
看護師「ちょっと、隣の病室にまで笑い声が響いてま……ひーっ! 顔! 小遊三! 似過ぎ!」ヒイヒイ
病床の女(顔まで……ッ?!)
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幼馴染「おすそ分けいっぱい貰っちゃったな」モグモグ
病床の女「大人気だったな、アンタ」
幼馴染「結局お前は一回も笑わせられなかったがな」シュン
病床の女「だってアンタのレパートリー、全部知らねえもん」
幼馴染「……」シュン
病床の女「……」
幼馴染「……」
病床の女「……。あーもう! 落ち込んでんじゃねーよ! 何か喋れ!」
幼馴染「喋れって言われてもな」
病床の女「分かってんのか? あたしはもうじき死ぬんだぞ! 今のうちに話しておきたいこととかねーのかよ!」
幼馴染「……訊いておきたいことならあるが」
病床の女「おう、どうせ最後なんだから何でも答えてやるよ」
幼馴染「……お前、好きな人とかいるのか?」
病床の女「ふぁっ?! な、なんでいきなりそんなこと……」
幼馴染「どうなんだ?」
病床の女「い、いねーよ! あたしの周りにはろくな男がいなかったからな!」
幼馴染「そうか……。良かった」
病床の女「何も良くねーよ」
幼馴染「俺にはいる」
病床の女「……。誰だよ」
幼馴染「……そいつは照れ屋でな。その反動か、よく暴言を吐きまくるんだ」
病床の女「……。へー」
幼馴染「おまけに負けん気が強く、何度もそいつと喧嘩したが、俺は泣かされっぱなしだったよ」
病床の女「……もしかしてそれ、あたしのこと言ってないか?」
幼馴染「あ、あと実はそいつの足、かなり臭いんだ。昔顔を踏みつけられたときは死ぬかと思った」
病床の女「そ、そんな臭くねーだろ! 普通だ普通!」
幼馴染「……俺は好きな人の話をしてるんだが」
病床の女「……。続けろよ」
幼馴染「……で、そいつは今、好きな人がいないらしい。これ、結構ねらい目だと思うんだがどうだろう?」
病床の女「……。確かにねらい目だな。告っちまえよ。案外いい答えが聞けるかもしれねーぞ」グスッ
幼馴染「でもそいつは俺の事、別に好きでもなんでもないらしいからな……。キスしようとしたら拒まれたし……」
病床の女「……物事には順序があるだろ? キスするのはつき合ってからだろーが……」グスッ
幼馴染「……そうだな。悪かった」
病床の女「……」ポロポロ
幼馴染「……昔から好きだった。俺とつき合ってくれ」
病床の女「……遅えよ、馬鹿」ポロポロ
幼馴染「……」
病床の女「……こんなギリギリで告られちゃ、何もできねーだろーが」ポロポロ
幼馴染「……そうだな」
病床の女「……さっきは嘘を言っちまったけど、あたしも前から好きだったよ」ポロポロ
幼馴染「……なんせイケメンだからな」ポロポロ
病床の女「いや、イケメンではないけども……」ポロポロ
幼馴染「……照れるなよ」ポロポロ
病床の女「あークソッ! 家族に見守られながら笑って死ぬつもりだったのに、計画が狂っちまったじゃねーか……」ポロポロ
幼馴染「……」ポロポロ
病床の女「うう……まだ死にたくねえよ……」ポロポロ
幼馴染「……心配するな。俺も天国に行けるように努力するよ」ポロポロ
病床の女「……そこは『きっと奇跡は起こる』とか言えよ」ゲシッ
幼馴染「うぐッ! お、起こる起こる。奇跡は起こる」
病床の女「ったく、そういうところがお前はダメなんだよ」
幼馴染「善処するよ」
病床の女「……あと、そろそろ死ぬって分かってて告ったんだから、責任は果たせよな」
幼馴染「む? していいのか?!」
病床の女「いいわけあるか! つき合ってまだ5分も経っとらんだろーがこのスケベ!」
幼馴染「残念……」シュン
病床の女「簡単に他の女に乗り換えんじゃねえぞって話だ。残念だったな、アンタ一生童貞だぞ」
幼馴染「ははは、何言ってんのかさっぱり」
病床の女「この約束破ったら毎晩枕元に立ってやるからな」ギチギチ
幼馴染「痛たたた! 善処します!」
病床の女「善処じゃねえ! 誓え!」ギチギチ
幼馴染「誓います! 誓います!」
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女の姉「本当に……ありがとうございました……。あの子もきっと満足だったでしょう」シクシク
幼馴染「いえいえ、あたしゃ何も……」
女の兄「流石は一流の噺家さんだ……。本当に彼が憑依したのかと思いました」シクシク
幼馴染「……でも本当に良かったんでしょうか? あたしは盲目の彼女を騙してしまったわけですから……」
女の姉「あの子が昏睡状態になって50年以上も眠り続ける前に書いていた日記です。あの子はこの中でずっと彼とつき合いたいと呟いていました」
女の兄「しかしそんな彼も5年前に亡くなって……。私どもはもうあの子に苦しんでほしくなかったんです……」
幼馴染「目覚めたら高校生のときの記憶のまま……。そして死が目前に迫っている……。本当に可哀想な方でした」
女の姉「でも、なんであそこまであの子のことを知っていたんですか? まるで当時、本当にあの子と一緒にいたかのようでした」
幼馴染「へへへ……参ったなこりゃ。実はあたくしも本当に幼馴染の内の一人だったんですよ。あの方の眼中には無かったようですが」
女の兄「そうだったんですか……。本当に……ありがとうございました……小遊三さん……」シクシク
幼馴染「……いえ。……ではあたくしは笑点の収録があるのでこれで」
おしまい
乙
乙、まさかのご本人…だと…!?
顔も小遊三が伏線か。オチが上手かった
乙
福山雅治似も伏線か
乙
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